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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024142105
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】評価方法および操業方法
(51)【国際特許分類】
   C22B 15/00 20060101AFI20241003BHJP
【FI】
C22B15/00 102
【審査請求】有
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023054105
(22)【出願日】2023-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】502362758
【氏名又は名称】JX金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004370
【氏名又は名称】弁理士法人片山特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】本村 竜也
(72)【発明者】
【氏名】佐野 浩行
(72)【発明者】
【氏名】河内 俊彦
【テーマコード(参考)】
4K001
【Fターム(参考)】
4K001AA09
4K001BA03
4K001BA23
4K001DA03
4K001GA04
4K001GB01
4K001GB03
4K001GB11
4K001JA01
4K001KA02
4K001KA05
(57)【要約】
【課題】 金属銅の硫化の反応を評価することが可能な評価方法および操業方法を提供する。
【解決手段】 評価方法は、金属銅と硫黄ガスとを反応させることで前記金属銅を硫化する反応装置の内部の温度分布、前記硫黄ガスの分圧、および金属銅粒子の軌跡および流速を取得する工程と、前記温度分布および前記硫黄ガスの分圧に基づいて前記反応装置を複数の領域とし、前記複数の領域ごとの、前記金属銅の硫化の単位時間当たりの反応率を取得する工程と、前記金属銅粒子1個ごとの軌跡および流速に基づいて、該金属銅粒子が通過する領域ごとに前記金属銅粒子の反応率を算出し、前記金属銅粒子の反応率を積算することで、前記反応装置通過後の前記金属銅粒子ごとの最終反応率を算出する工程と、前記反応装置に装入する複数の前記金属銅粒子の最終反応率の結果から、前記反応装置全体における最終反応率を算出する工程と、を有することを特徴とする。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属銅と硫黄ガスとを反応させることで前記金属銅を硫化する反応装置の内部の温度分布、前記硫黄ガスの分圧、および金属銅粒子の軌跡および流速を取得する工程と、
前記温度分布および前記硫黄ガスの分圧に基づいて前記反応装置を複数の領域とし、前記複数の領域ごとの、前記金属銅の硫化の単位時間当たりの反応率を取得する工程と、
前記金属銅粒子1個ごとの軌跡および流速に基づいて、該金属銅粒子が通過する領域ごとに前記金属銅粒子の反応率を算出し、前記金属銅粒子の反応率を積算することで、前記反応装置通過後の前記金属銅粒子ごとの最終反応率を算出する工程と、
前記反応装置に装入する複数の前記金属銅粒子の最終反応率の結果から、前記反応装置全体における最終反応率を算出する工程と、を有することを特徴とする評価方法。
【請求項2】
前記複数の領域ごとの前記反応率を取得する工程は、前記複数の領域および前記金属銅の粒径ごとの前記単位時間当たりの反応率を取得する工程を含み、
前記金属銅粒子ごとの最終反応率を算出する工程は、前記金属銅粒子1個ごとの軌跡および流速に基づいて前記金属銅粒子が通過する領域ごとに反応率を算出する際に、前記金属銅粒子の粒径に応じて前記金属銅粒子の反応率を算出する工程と、前記金属銅粒子の反応率を積算することで前記金属銅粒子ごとの最終反応率を算出する工程と、を含むことを特徴とする請求項1に記載の評価方法。
【請求項3】
前記複数の領域ごとの前記反応率を取得する工程は、前記反応装置に装入する金属銅の粒度分布を取得する工程を含み、
前記金属銅粒子ごとの最終反応率を算出する工程は、前記反応装置に装入する金属銅粒子を代表する複数の代表粒子を決定する工程と、前記各代表粒子の軌跡および流速に基づいて前記各代表粒子が通過する領域ごとに反応率を算出する際に前記粒度分布の比率に応じて前記各代表粒子の反応率を算出する工程と、前記各代表粒子の反応率を積算することで、前記各代表粒子の反応装置通過後の最終反応率を算出する工程と、を含み、
前記反応装置全体における最終反応率を算出する工程は、前記反応装置に装入する複数の前記各代表粒子の最終反応率の結果から前記反応装置全体の最終反応率を求める工程であることを特徴とする請求項1に記載の評価方法。
【請求項4】
前記温度分布、前記硫黄ガスの分圧、および前記金属銅粒子の軌跡および流速を取得する工程は、シミュレーションにより前記温度分布、前記分圧、および前記軌跡および流速を取得する工程であることを特徴とする請求項1または2に記載の評価方法。
【請求項5】
前記複数の領域ごとの前記反応率を取得する工程は、試験により前記複数の領域ごとの反応率を取得する工程を含むことを特徴とする請求項1または2に記載の評価方法。
【請求項6】
前記反応装置全体における最終反応率を算出する工程は、前記反応装置に装入するすべての前記金属銅粒子の最終反応率の結果から、前記反応装置全体における最終反応率を算出する工程であることを特徴とする請求項1または2に記載の評価方法。
【請求項7】
前記反応装置は自溶炉の反応シャフトであり、
前記反応シャフトにおいて前記金属銅は硫化することでマット化し、
前記複数の領域ごとの反応率を取得する工程は、前記反応シャフトの前記複数の領域ごとの、前記金属銅が単位時間当たりにマット化する反応率を取得する工程であり、
前記金属銅粒子ごとの最終反応率を算出する工程は、前記金属銅粒子ごとのマット化率を算出する工程であり、
前記反応装置全体における最終反応率を算出する工程は、前記反応装置全体におけるマット化率を算出する工程である、請求項1または2に記載の評価方法。
【請求項8】
金属銅と硫黄ガスとを反応させることで前記金属銅を硫化する反応装置の内部の温度分布、前記硫黄ガスの分圧、および金属銅粒子の軌跡および流速を取得する工程と、
前記温度分布および前記硫黄ガスの分圧に基づいて前記反応装置を複数の領域とし、前記複数の領域ごとの、前記金属銅の硫化の単位時間当たりの反応率を取得する工程と、
前記金属銅粒子1個ごとの軌跡および流速に基づいて、該金属銅粒子が通過する領域ごとに反応率を算出して積算することで、前記反応装置通過後の前記金属銅粒子ごとの最終反応率を算出する工程と、
前記反応装置に装入する複数の前記金属銅粒子の最終反応率の結果から、前記反応装置全体における最終反応率を算出する工程と、
前記反応装置全体における最終反応率に基づいて、前記反応装置の操業条件を制御する工程と、を有することを特徴とする操業方法。
【請求項9】
前記操業条件を制御する工程は、前記反応装置における前記硫黄ガスの分圧を制御する工程を含むことを特徴とする請求項8に記載の操業方法。
【請求項10】
前記操業条件を制御する工程は、前記反応装置全体における最終反応率に基づいて、前記反応装置に投入する原料の粒径を制御する工程を含むことを特徴とする請求項8または9に記載の操業方法。
【請求項11】
前記反応装置は自溶炉の反応シャフトであり、
前記操業条件を制御する工程は、前記自溶炉の操業条件を制御する工程である請求項8または9に記載の操業方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、評価方法および操業方法に関する。
【背景技術】
【0002】
銅製錬自溶炉の反応シャフトでは、精鉱バーナから銅精鉱、リサイクル原料、溶剤などの出発原料とともに、反応ガスが投入される。原料が反応ガスによって酸化反応を起こすことで、反応シャフトの底部でマットおよびスラグが生成する。この反応シャフト内で出発原料についてどのような反応が生じているかを把握することが求められている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2011-075228号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、原料中におけるリサイクル原料の比率は増加傾向にある。銅はリサイクル原料中では主に金属銅として存在している。金属銅は反応シャフト内で硫化され、マットとなることが好ましい。しかし、反応シャフト内における金属銅の挙動は、熱力学的および反応速度論的に十分に解明されていない。このため、金属銅を効率的にマット化することは困難であった。
【0005】
本発明は上記の課題に鑑みてなされたものであり、金属銅の硫化の反応を評価することが可能な評価方法および操業方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る評価方法は、金属銅と硫黄ガスとを反応させることで前記金属銅を硫化する反応装置の内部の温度分布、前記硫黄ガスの分圧、および金属銅粒子の軌跡および流速を取得する工程と、前記温度分布および前記硫黄ガスの分圧に基づいて前記反応装置を複数の領域とし、前記複数の領域ごとの、前記金属銅の硫化の単位時間当たりの反応率を取得する工程と、前記金属銅粒子1個ごとの軌跡および流速に基づいて、該金属銅粒子が通過する領域ごとに前記金属銅粒子の反応率を算出し、前記金属銅粒子の反応率を積算することで、前記反応装置通過後の前記金属銅粒子ごとの最終反応率を算出する工程と、前記反応装置に装入する複数の前記金属銅粒子の最終反応率の結果から、前記反応装置全体における最終反応率を算出する工程と、を有することを特徴とする。
【0007】
上記評価方法において、前記複数の領域ごとの前記反応率を取得する工程は、前記複数の領域および前記金属銅の粒径ごとの前記単位時間当たりの反応率を取得する工程を含み、前記金属銅粒子ごとの最終反応率を算出する工程は、前記金属銅粒子1個ごとの軌跡および流速に基づいて前記金属銅粒子が通過する領域ごとに反応率を算出する際に、前記金属銅粒子の粒径に応じて前記金属銅粒子の反応率を算出する工程と、前記金属銅粒子の反応率を積算することで前記金属銅粒子ごとの最終反応率を算出する工程と、を含んでもよい。
【0008】
上記評価方法において、前記複数の領域ごとの前記反応率を取得する工程は、前記反応装置に装入する金属銅の粒度分布を取得する工程を含み、前記金属銅粒子ごとの最終反応率を算出する工程は、前記反応装置に装入する金属銅粒子を代表する複数の代表粒子を決定する工程と、前記各代表粒子の軌跡および流速に基づいて前記各代表粒子が通過する領域ごとに反応率を算出する際に前記粒度分布の比率に応じて前記各代表粒子の反応率を算出する工程と、前記各代表粒子の反応率を積算することで、前記各代表粒子の反応装置通過後の最終反応率を算出する工程と、を含み、前記反応装置全体における最終反応率を算出する工程は、前記反応装置に装入する複数の前記各代表粒子の最終反応率の結果から前記反応装置全体の最終反応率を求める工程でもよい。
【0009】
上記評価方法において、前記温度分布、前記硫黄ガスの分圧、および前記金属銅粒子の軌跡および流速を取得する工程は、シミュレーションにより前記温度分布、前記分圧、および前記軌跡および流速を取得する工程でもよい。
【0010】
上記評価方法において、前記複数の領域ごとの前記反応率を取得する工程は、試験により前記複数の領域ごとの反応率を取得する工程を含んでもよい。
【0011】
上記評価方法において、前記反応装置全体における最終反応率を算出する工程は、前記反応装置に装入するすべての前記金属銅粒子の最終反応率の結果から、前記反応装置全体における最終反応率を算出する工程でもよい。
【0012】
上記評価方法において、前記反応装置は自溶炉の反応シャフトであり、前記反応シャフトにおいて前記金属銅は硫化することでマット化し、前記複数の領域ごとの反応率を取得する工程は、前記反応シャフトの前記複数の領域ごとの、前記金属銅が単位時間当たりにマット化する反応率を取得する工程であり、前記金属銅粒子ごとの最終反応率を算出する工程は、前記金属銅粒子ごとのマット化率を算出する工程であり、前記反応装置全体における最終反応率を算出する工程は、前記反応装置全体におけるマット化率を算出する工程でもよい。
【0013】
本発明に係る操業方法は、金属銅と硫黄ガスとを反応させることで前記金属銅を硫化する反応装置の内部の温度分布、前記硫黄ガスの分圧、および金属銅粒子の軌跡および流速を取得する工程と、前記温度分布および前記硫黄ガスの分圧に基づいて前記反応装置を複数の領域とし、前記複数の領域ごとの、前記金属銅の硫化の単位時間当たりの反応率を取得する工程と、前記金属銅粒子1個ごとの軌跡および流速に基づいて、該金属銅粒子が通過する領域ごとに反応率を算出して積算することで、前記反応装置通過後の前記金属銅粒子ごとの最終反応率を算出する工程と、前記反応装置に装入する複数の前記金属銅粒子の最終反応率の結果から、前記反応装置全体における最終反応率を算出する工程と、前記反応装置全体における最終反応率に基づいて、前記反応装置の操業条件を制御する工程と、を有することを特徴とする。
【0014】
上記操業方法において、前記操業条件を制御する工程は、前記反応装置における前記硫黄ガスの分圧を制御する工程を含んでもよい。
【0015】
上記操業方法において、前記操業条件を制御する工程は、前記反応装置全体における最終反応率に基づいて、前記反応装置に投入する原料の粒径を制御する工程を含んでもよい。
【0016】
上記操業方法において、前記反応装置は自溶炉の反応シャフトであり、前記操業条件を制御する工程は、前記自溶炉の操業条件を制御する工程でもよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、金属銅の硫化の反応を評価することが可能な評価方法および操業方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1図1は、実施形態に係る銅製錬用の自溶炉の構成を概略的に示す図である。
図2図2は、精鉱バーナの詳細を例示する図である。
図3図3は実施形態における処理を例示するフローチャートである。
図4図4(a)および図4(b)は実施形態における処理を例示するフローチャートである。
図5図5はシミュレーションの結果を例示する図である。
図6図6はシミュレーションの結果を例示する図である。
図7図7はシミュレーションの結果を例示する図である。
図8図8はシミュレーションの結果を例示する図である。
図9図9はシミュレーションの結果を例示する図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
(実施形態)
図1は、実施形態に係る銅製錬用の自溶炉100の構成を概略的に示す図である。図1に示すように、自溶炉100は、精鉱と反応用ガスとが混合する反応シャフト1、セットラ2、アップテイク3を備える。反応シャフト1の天井部には、精鉱バーナ4が備わっている。精鉱バーナ4は、銅精鉱、溶剤、リサイクル原料等(以下、これらの固体原料を出発原料と称する)とともに、反応用主送風ガス、反応用補助ガス、および分散用ガス(反応にも寄与する)を反応シャフト1内に供給する。例えば、反応用主送風ガスおよび反応用補助ガスは、酸素富化空気であり、分散用ガスは、空気または酸素富化空気である。
【0020】
精鉱バーナ4から出発原料が反応シャフト1内に投入されると、下記反応式(1)などにより、硫化物を含む銅精鉱が酸化反応を起こし、反応シャフト1の底部でマット5およびスラグ6に分離する。なお、下記反応式(1)で、CuS・FeSがマット5の主成分に相当し、FeO・SiOがスラグ6の主成分に相当する。溶剤として、珪酸鉱が用いられている。
CuFeS+SiO+O→CuS・FeS+FeO・SiO+SO + 反応熱 (1)
マット5が例えば転炉などにおいて処理されることで、金属銅が生成される。
【0021】
図2は、精鉱バーナ4の詳細を例示する図であって、出発原料、反応用主送風ガス、反応用補助ガス、および分散用ガスを反応シャフト1側へ投入する投入部10を示した説明図である。
【0022】
精鉱バーナ4の投入部10は、ランス16を備え、ランス16内には分散用ガスの通る第1通路11、反応用補助ガスが通過する第4通路14が形成されている。第4通路14は、ランス16の中心部分に設けられており、第1通路11は、第4通路14の周囲に設けられている。また、投入部10は、ランス16の外側、より具体的にランス16の外周に設けられた原料流路としての第2通路12を備えている。投入部10は、さらに、第2通路12の外側、より具体的には第2通路12の外周に設けられ、反応用主送風ガスが通過する第3通路13を備えている。第3通路13は、第2通路12を囲むように設けられた管状部分によって形成されており、その上方に設けられた漏斗状のエアチャンバー17と通じている。第2通路12と、第3通路13は、円筒状の仕切り壁21により、仕切られた状態となっている。
【0023】
第1通路11は、分散用ガスを反応シャフト1内へ供給する。第2通路12は、精鉱を反応シャフト1内へ供給する。第3通路13は、反応用主送風ガスをエアチャンバー17から反応シャフト1内へ供給する。また、第4通路14は、反応用補助ガスを反応シャフト1内へ供給する。
【0024】
なお、ランス16の先端部(下端部)には、中空円錐台状の分散コーン15が形成されている。分散コーン15の側面下部151には第1通路11を通過した分散用ガスを反応シャフト1内へ吐出する複数の供給孔152が形成されている。供給孔152は、ガスの吐出方向が分散コーン15の底面円の法線方向となるように設けられている。
【0025】
自溶炉100に投入される原料として、銅精鉱およびリサイクル原料がある。銅精鉱の主成分は硫化物(例えばCuFeS)である。一方、リサイクル原料は金属銅(Cu単体)を多く含む。近年、原料中におけるリサイクル原料の割合が増加している。このため、多くの金属銅が自溶炉100に投入されることとなる。
【0026】
反応シャフト1内で銅精鉱が酸化反応することで、硫黄が発生する。金属銅は硫黄と反応し、硫化される。金属銅の一部は反応シャフト1内で硫化し、マット5となる(マット化)。残りの金属銅は、セットラ2においてマット化される。反応シャフト1内において、多量の金属銅をマット化することが好ましい。マット化を促進するためには、反応シャフト1内における金属銅のマット化の反応率を高めることが有効である。
【0027】
図3から図4(b)は実施形態における処理を例示するフローチャートであり、評価方法および操業方法の工程を含む。図3に示すように、反応シャフト1内において、金属銅がマット化する反応の反応率を評価する(ステップS10)。評価結果に基づいて、自溶炉100の操業条件を制御する(ステップS12)。操業条件を制御することで、反応率を高め、金属銅を効率的にマット化する。反応率とは、一定時間内で金属銅のうちマット化したものの割合を表す。
【0028】
図4(a)は反応率の評価の工程を示すフローチャートであり、図3のステップS10に対応する。図4(a)に示すように、シミュレーションを行い、反応シャフト1内における硫黄ガス(S)の分圧、酸素(O)の分圧、二酸化硫黄(SO)の分圧、温度分布、および粒子の軌跡を取得する(ステップS20)。シミュレーションされる温度分布が、操業中の反応シャフト1内の温度分布に合致するように、シミュレーションのパラメータを調整する。当該パラメータを用いて分圧および軌跡を計算する。後述のように、温度分布および硫黄ガスの分圧に基づいて、反応シャフト1を複数の領域に設定する。
【0029】
実験用の炉を用いて試験を行う(ステップS22)。試験から、反応シャフト1内の複数の領域ごとの単位時間当たりの反応率を取得する(ステップS24)。領域ごとの反応率と反応シャフト内に装入する金属銅粒子の軌跡および速度に基づいて、反応シャフト1の全体におけるマット化の反応率を取得する(ステップS26)。具体的には、金属銅粒子1個ごとの軌跡および流速に基づいて、通過した領域と各領域ごとの存在時間から金属銅粒子ごとに最終反応率を算出する。すべての金属銅粒子の最終反応率をもとに、反応シャフト1全体の反応率を算出することができる。
【0030】
図4(b)は操業条件の制御の工程を示すフローチャートであり、図3のステップS12に対応する。図4(b)に示すように、自溶炉100への投入前に、リサイクル原料の前処理を行う(ステップS30)。前処理により、例えばリサイクル原料を粉体とし、粉体の粒径を所望の大きさとする。自溶炉100の反応シャフト1における硫黄ガスの分圧を制御する(ステップS32)。例えば送風する酸素の濃度を下げることで、硫黄ガスの分圧を高めることができる。硫黄ガスの分圧を所望の値とする。操業条件を制御することで、反応率を高め、リサイクル原料のマット化を促進する。
【0031】
図5から図9はシミュレーションの結果を例示する図であり、自溶炉100の反応シャフト1の内部を示している。
【0032】
図5は硫黄ガスの分圧を表す。銅精鉱の温度が上昇することで、銅精鉱から硫黄が揮発し、硫黄ガスが発生する。反応シャフト1のうち、セットラ2から遠い側の分圧は、セットラ2に近い側の分圧より高い。
【0033】
図6は酸素の分圧を表す。酸素は、例えば初速120m/sで精鉱バーナ4から反応シャフト1の中に供給される。酸素は反応シャフト1の外周部において硫黄と反応し、消費される。精鉱バーナ4付近の分圧は高く、精鉱バーナ4から離れた位置での分圧は低い。図7は二酸化硫黄の分圧を表す。硫黄が酸化されることで、二酸化硫黄が発生する。
【0034】
図8は温度分布を表す。硫黄と酸素とが反応することで、温度が上昇する。精鉱バーナ4付近には未反応の酸素が多く存在するため、温度が低い。精鉱バーナ4から離れた位置では、温度が高くなる。特に反応シャフト1の中央部では、精鉱バーナ4から酸素が吹き込まれ、かつ銅精鉱の質量が多く硫黄も発生しやすい。したがって硫黄と酸素との反応が起こりやすく、温度が高くなる。図9は粒子の軌跡を表す。粒径ごとの軌跡が図示されている。粒子の比重は一定としている。シミュレーションに基づいて、領域の体積を取得する。
【0035】
シミュレーションの結果に基づいて、反応シャフト1を複数の領域に分割する。具体的には、温度分布および硫黄ガスの分圧に基づいて、複数の領域を定める。例えば、温度が1100℃以上1200℃未満、かつ分圧が0.04Pa以上0.05Pa未満の領域などである。試験を行い、領域ごとの単位時間当たりの反応率を求める(図4(b)のステップS22およびS24)。
【0036】
表1および表2に単位時間当たりの反応率の例を示す。表1は温度がT1の例である。表2は温度がT1とは異なるT2の例である。
【表1】
【表2】
【0037】
表1において、反応シャフト1は、硫黄ガスの分圧(S分圧)がX1以上(X1~)の領域R1、X2以上X1未満(X2~X1)の領域R2、X3以上X2未満(X3~X2)の領域R3、X4以上X3(X4~X3)未満の領域R4、X4未満(~X4)の領域R5とされる。
【0038】
領域R1において、粒径が50μm未満(~50μm)の金属銅の単位時間当たりの反応率はA11、粒径が50μm以上100μm未満(50μm~100μm)の金属銅の単位時間当たりの反応率はA12、粒径が100μm以上(100μm~)の金属銅の単位時間当たりの反応率はA13である。領域R1の体積はB1である。領域R2において、粒径が50μm未満の単位時間当たりの反応率はA21、粒径が50μm以上100μm未満の単位時間当たりの反応率はA22、粒径が100μm以上の単位時間当たりの反応率はA23である。領域R1の体積はB2である。上記と同様に、領域R3における単位時間当たりの反応率A31、A32およびA33、領域R3の体積B3、領域R4における単位時間当たりの反応率A41、A42およびA43、領域R4の体積B4、領域R5における単位時間当たりの反応率A51、A52およびA53、領域R5の体積B5が取得される。
【0039】
表2において、反応シャフト1は、硫黄ガスの分圧がX1以上の領域R6、X2以上X1未満の領域R7、X3以上X2未満の領域R8、X4以上X3未満の領域R9、X4未満の領域R10とされる。
【0040】
領域R6において、粒径が50μm未満の反応率はA61、粒径が50μm以上100μm未満の単位時間当たりの反応率はA62、粒径が100μm以上の単位時間当たりの反応率はA63である。領域R6の体積はB6である。領域R7において、粒径が50μm未満の単位時間当たりの反応率はA71、粒径が50μm以上100μm未満の単位時間当たりの反応率はA72、粒径が100μm以上の単位時間当たりの反応率はA73である。領域R7の体積はB7である。領域R8~R10における単位時間当たりの反応率A81~A103、体積B8~B10も取得される。
【0041】
次に、反応シャフト1に装入する金属銅粒子の軌跡と速度の結果に基づき、各金属銅粒子が通過する領域と、通過した領域に存在した時間を求める。例えば、粒径が50μm未満である金属銅粒子が、温度T1の領域R1に時間t1存在した後、次に温度T2の領域R6に時間t2存在して反応を終了したとする。この場合、次の計算方法により、この金属銅粒子が反応シャフトを通過した後の最終反応率Y1(%)を求めることができる。まず、領域R1における反応率Y1‘を計算する。
Y1‘=A11×t1
次に、領域R6における反応率Y1“を計算する。領域R6の計算では、粒子のうち未反応の部分に対して計算する必要があるため、以下の式で求める。
Y1“=(1-Y1‘)×A61×t2
以上の計算から、領域ごとの反応率が算出される。領域ごとの反応率を積算することで、1つの金属銅粒子の最終反応率を計算する。すなわち、最終反応率Y1(%)は以下となる。
Y1=Y1‘+Y1“
このようにして1つ1つの金属銅粒子に対して計算を行い、各金属銅粒子の最終反応率を求める。そして、全金属銅粒子の最終反応率をもとに反応シャフト1全体における反応率を算出することができる。
【0042】
表1から表2の例では、領域の個数は10であるが、10以下でもよいし、10以上でもよい。粒径の分類数は3であるが、3以下でもよいし、3以上でもよい。表1および表2では2つの温度を例としたが、2つ以上の温度に基づいて領域を定めてもよい。
【0043】
反応シャフト1に装入するすべての金属銅粒子に対して上記のような計算を行い、金属銅粒子ごとの最終反応率を算出することができる。最終反応率をすべての金属銅粒子について積算することで、反応シャフト1の全体における最終反応率を算出することができる。装入される金属銅粒子のすべてではなく、複数の金属銅粒子の最終反応を算出し、当該粒子について積算することで、反応シャフト1全体における最終反応率を算出してもよい。
【0044】
反応率の計算は例えば以下の方法で行ってもよい。シミュレーションを行う際に、複数の粒子を代表する代表粒子を定義する。反応シャフト1に装入するすべての粒子に対応するように、複数の代表粒子を決定し、それらの軌跡と速度をシミュレーションにより求める。また、反応シャフト1に装入する金属銅粒子の粒度分布を決定する。各代表粒子の軌跡と速度から、各代表粒子が通過する領域と、通過した領域に存在した時間を求める。代表粒子は、特に規則的な選択方法を用いずにランダムに決定することもできる。あるいは、粒度によって単位時間当たりの反応率や軌跡に偏りが生じることを抑制するため、反応装置に装入する金属銅粒子の粒度分布にできるだけ合わせるようにして決定することもできる。
【0045】
例えば、反応シャフト1に装入する金属銅粒子の粒度分布が、粒径50μm未満がα%、50μm以上100μm未満がβ%、100μm以上がγ%であったとする。代表粒子が、温度T1の領域R1を時間t1存在した後、次に温度T2の領域R6を時間t2存在して反応を終了したとする。この場合、次の計算により、この代表粒子の反応率Y2(%)を求めることができる。まず、領域R1における反応率Y2‘を計算する。
Y2‘={A11×(α/100)+A12×(β/100)+A13×(γ/100}×t1
次に、領域R6における反応率Y1“を計算する。領域R6の計算では、未反応の部分に対して計算する必要があるため、以下の式で求める。
Y2“=(1-Y2‘)×[{A61×(α/100)+A62×(β/100)+A63×(γ/100)}×t2]
以上の結果から、最終反応率Y2(%)は以下となる。
Y2=Y2‘+Y2“
【0046】
このようにして1つ1つの代表粒子に対して計算を行い、各金属銅粒子の最終反応率を求めた後、全金属銅粒子の最終反応率をもとに反応シャフト1全体の反応率を算出することができる。
【0047】
本実施形態によれば、反応シャフト1での反応率がわかるため、金属銅のうち反応シャフト1でマット化する量を推定することができる。反応シャフト1でマット化しなかった金属銅は、セットラ2でマット化する。反応シャフト1およびセットラ2で金属銅がマット化されるように自溶炉100を操業することで、金属銅のマット化の効率を高めることができる。
【0048】
例えば、酸素などのガスの反応シャフト1への吹込み量を調整し、反応シャフト1内での硫黄ガスの分圧を制御する。自溶炉100への投入前のリサイクル原料の前処理において、リサイクル原料を粉砕し、粉体とする。粉体の粒径を制御する。分圧および粒径を所望の大きさとすることで、マット化の反応率を高めることができる。自溶炉100の操業条件のうち、ガスの分圧および粒径以外の条件を制御してもよい。
【0049】
図5から図9に示すように、シミュレーションにより、温度分布、硫黄ガスの分圧、酸素ガスの分圧、二酸化硫黄の分圧、および粒子の軌跡を取得することができる。硫黄ガスと酸素ガスとが反応することで熱が発生する。硫黄ガスおよび酸素ガスの分圧から、温度分布を推定することができる。硫黄ガスの分圧が高く、かつ温度が高い位置では、金属銅が硫化しやすい。分圧および温度ガスの分布に基づいて、領域が定められる。
【0050】
領域ごとの反応率は、例えば試験により取得してもよいし、例えばfact sageなどのソフトウェアを用いて計算してもよい。シミュレーションは平衡状態での反応率の計算には適しているが、非平衡状態での反応率の計算は難しい。金属銅は反応シャフト1を数秒程度で通過すると考えられ、平衡状態にはなっていないと推測される。実験用の炉を用いて非平衡状態の粒子に対して試験を行うことで、精度の高い反応率を取得することができる。
【0051】
金属銅が硫黄ガスと反応し、硫化する反応装置に、上記の実施形態は適用することができる。自溶炉100の反応シャフト1は反応装置の一例である。マット化は金属銅の硫化の一例である。
【0052】
上述した実施形態は本発明の好適な実施の例である。但し、これに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変形実施可能である。
【符号の説明】
【0053】
1 反応シャフト
2 セットラ
3 アップテイク
4 精鉱バーナ
5 マット
6 スラグ
10 投入部
11 第1通路
12 第2通路
13 第3通路
14 第4通路
16 ランス
100 自溶炉
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9