(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024142109
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】熱伝導シートの製造方法
(51)【国際特許分類】
C08J 5/18 20060101AFI20241003BHJP
【FI】
C08J5/18 CER
C08J5/18 CEZ
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023054121
(22)【出願日】2023-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100150360
【弁理士】
【氏名又は名称】寺嶋 勇太
(74)【代理人】
【識別番号】100175477
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 林太郎
(72)【発明者】
【氏名】村上 康之
【テーマコード(参考)】
4F071
【Fターム(参考)】
4F071AA12
4F071AB03
4F071AH12
4F071BB04
4F071BB13
4F071BC01
4F071BC11
4F071BC12
(57)【要約】
【課題】強度および高温下における熱伝導性に優れる熱伝導シートの製造方法の提供。
【解決手段】樹脂Aおよび粒子状炭素材料Aを含む組成物を加圧してシート状に成形し、一次シートを得る一次シート成形工程と、前記一次シートを厚み方向に複数枚積層して、あるいは、前記一次シートを折畳または捲回して、積層体を得る積層体形成工程と、前記積層体を積層方向に対して45°以下の角度でスライスして、二次シートを得るスライス工程と、前記二次シートを焼成して焼成シートを得る予備焼成工程と、前記焼成シートに有機溶媒および樹脂Bを含む含侵液を含侵させて、含侵シートを得る含侵工程と、前記含侵シートを焼成して熱伝導シートを得る焼成工程と、を含む、熱伝導シートの製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂Aおよび粒子状炭素材料Aを含む組成物を加圧してシート状に成形し、一次シートを得る一次シート成形工程と、
前記一次シートを厚み方向に複数枚積層して、あるいは、前記一次シートを折畳または捲回して、積層体を得る積層体形成工程と、
前記積層体を積層方向に対して45°以下の角度でスライスして、二次シートを得るスライス工程と、
前記二次シートを焼成して焼成シートを得る予備焼成工程と、
前記焼成シートに有機溶媒および樹脂Bを含む含侵液を含侵させて、含侵シートを得る含侵工程と、
前記含侵シートを焼成して熱伝導シートを得る焼成工程と、
を含む、熱伝導シートの製造方法。
【請求項2】
焼成シートに有機溶媒および樹脂Bを含む含侵液を含侵させて、含侵シートを得る含侵工程と、
前記含侵シートを焼成して熱伝導シートを得る焼成工程と、
を含む熱伝導シートの製造方法であって、
前記焼成シートは粒子状炭素材料Aを含み、
前記粒子状炭素材料Aの長軸方向の前記焼成シート表面に対する角度が60°以上90°以下であり、
前記焼成シートに対して、以下の条件:
昇温速度:10℃/分
測定温度範囲:30℃から1000℃まで
大気雰囲気下
で熱重量分析測定を行って得られる熱重量曲線において、150℃から600℃までの重量減少率(%)が、前記熱重量分析測定を行う前の前記焼成シートの重量を100%として、3%以上20%以下である、熱伝導シートの製造方法。
【請求項3】
前記含侵工程および前記焼成工程を複数回繰り返す、請求項1または2に記載の熱伝導シートの製造方法。
【請求項4】
前記含侵液が粒子状炭素材料Bを更に含む、請求項1または2に記載の熱伝導シートの製造方法。
【請求項5】
前記含侵液中の前記樹脂Bおよび前記粒子状炭素材料Bの合計含有量が15質量%以下である、請求項4に記載の熱伝導シートの製造方法。
【請求項6】
前記樹脂Bが環状構造を有する、請求項1または2に記載の熱伝導シートの製造方法。
【請求項7】
前記有機溶媒が、ヘキサン、シクロヘキサン、トルエン、メチルエチルケトンおよび酢酸エチルからなる群から選択される少なくとも1つを含む、請求項1または2に記載の熱伝導シートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱伝導シートの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、パワー半導体(IGBTモジュールなど)や集積回路(IC)チップ等の電子部品は、高性能化に伴って発熱量が増大している。その結果、電子部品を用いた電子機器では、電子部品の温度上昇による機能障害対策を講じる必要が生じている。
【0003】
電子部品の温度上昇による機能障害対策としては、一般に、電子部品等の発熱体に対し、金属製のヒートシンク、放熱板、放熱フィン等の放熱体を取り付けることによって、放熱を促進させる方法が採られている。そして、放熱体を使用する際には、発熱体から放熱体へと熱を効率的に伝えるために、熱伝導性が高いシート状の部材、すなわち熱伝導シートを介して発熱体と放熱体とを密着させている。
【0004】
ここで、近年、太陽熱発電、地熱発電、半導体製造などの現場において、300℃を超える高温条件での使用に耐え得る熱伝導シートが求められている。そして、高温条件での使用に耐え得る熱伝導シートとして、樹脂の熱分解に起因して熱伝導シートの熱伝導性が低下することを抑制すべく、樹脂の含有量を低減した熱伝導シートが検討されている。
【0005】
例えば、特許文献1には、炭素材料を含む複合シートであって、樹脂を非含有又は含有しても含有割合が15体積%以下あり、炭素材料の長軸方向の複合シート表面に対する角度が60°以上90°以下であり、さらに、複合シートの熱伝導率が10W/mK以上である、複合シートが開示されている。そして、特許文献1によれば、当該複合シートは、加圧状態において千切れにくく、且つ、圧縮性に優れる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、本発明者の検討によれば、上記従来の熱伝導シートには、高温条件においても優れた熱伝導性を発揮する(即ち、高温下における熱伝導性に優れる)という点において、未だ改善の余地があることが明らかになった。また、上記従来の熱伝導シートには、強度を更に向上させることも求められていた。
【0008】
そこで、本発明は、強度および高温下における熱伝導性に優れる熱伝導シートの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題を解決することを目的として鋭意検討を行った。そして、本発明者は、粒子状炭素材料を含む焼成シートに対して有機溶媒および樹脂を含む含侵液を含侵させた後、さらに焼成することで、強度および高温下における熱伝導性に優れる熱伝導シートを作製可能であることを見出し、本発明を完成させた。
【0010】
即ち、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明によれば、下記〔1〕~〔7〕の熱伝導シートの製造方法が提供される。
〔1〕樹脂Aおよび粒子状炭素材料Aを含む組成物を加圧してシート状に成形し、一次シートを得る一次シート成形工程と、前記一次シートを厚み方向に複数枚積層して、あるいは、前記一次シートを折畳または捲回して、積層体を得る積層体形成工程と、前記積層体を積層方向に対して45°以下の角度でスライスして、二次シートを得るスライス工程と、前記二次シートを焼成して焼成シートを得る予備焼成工程と、前記焼成シートに有機溶媒および樹脂Bを含む含侵液を含侵させて、含侵シートを得る含侵工程と、前記含侵シートを焼成して熱伝導シートを得る焼成工程と、を含む、熱伝導シートの製造方法。
このように、所定の一次シート成形工程、積層体形成工程、スライス工程、予備焼成工程、含侵工程および焼成工程を含む熱伝導シートの製造方法によれば、強度および高温下における熱伝導性に優れる熱伝導シートを製造することができる。
なお、本発明において、「粒子状炭素材料」とは、アスペクト比が20以下の炭素材料を意味する。
【0011】
〔2〕焼成シートに有機溶媒および樹脂Bを含む含侵液を含侵させて、含侵シートを得る含侵工程と、前記含侵シートを焼成して熱伝導シートを得る焼成工程と、を含む熱伝導シートの製造方法であって、前記焼成シートは粒子状炭素材料Aを含み、前記粒子状炭素材料Aの長軸方向の前記焼成シート表面に対する角度が60°以上90°以下であり、前記焼成シートに対して、以下の条件:
昇温速度:10℃/分
測定温度範囲:30℃から1000℃まで
大気雰囲気下
で熱重量分析測定を行って得られる熱重量曲線において、150℃から600℃までの重量減少率(%)が、前記熱重量分析測定を行う前の前記焼成シートの重量を100%として、3%以上20%以下である、熱伝導シートの製造方法。
このように、所定の含侵工程および焼成工程を含み、粒子状炭素材料Aの長軸方向の焼成シート表面に対する角度(以下、単に「粒子状炭素材料Aの配向角度」と略記する場合がある。)が上述の範囲内であり、そして焼成シートに対して所定の条件で熱重量分析を行って得られる熱重量曲線において、150℃から600℃までの重量減少率(以下、単に「150℃から600℃までの重量減少率」と略記する場合がある。)が上述の範囲内である熱伝導シートの製造方法によれば、強度および高温下における熱伝導性に優れる熱伝導シートを製造することができる。
なお、本発明において、「粒子状炭素材料Aの配向角度」は、本明細書の実施例に記載の方法に従って測定することができる。
また、本発明において、焼成シートの「150℃から600℃までの重量減少率」は、本明細書の実施例に記載の方法を用いて算出することができる。
【0012】
〔3〕前記含侵工程および前記焼成工程を複数回繰り返す、上記〔1〕または〔2〕に記載の熱伝導シートの製造方法。
含侵工程および焼成工程を繰り返し行えば、得られる熱伝導シートの強度および高温下における熱伝導性を更に向上させることができる。
【0013】
〔4〕前記含侵液が粒子状炭素材料Bを更に含む、上記〔1〕~〔3〕の何れかに記載の熱伝導シートの製造方法。
粒子状炭素材料Bを更に含有する含侵液を用いれば、熱伝導シートの高温下における熱伝導性を更に向上させることができる。
【0014】
〔5〕前記含侵液中の前記樹脂Bおよび前記粒子状炭素材料Bの合計含有量が15質量%以下である、上記〔4〕に記載の熱伝導シートの製造方法。
樹脂Bおよび粒子状炭素材料Bの合計含有量が上述した範囲内である含侵液を用いれば、熱伝導シートの強度および高温下における熱伝導性を更に向上させることができる。
【0015】
〔6〕前記含侵液中の前記樹脂Bが環状構造を有する、上記〔1〕~〔5〕の何れかに記載の熱伝導シートの製造方法。
環状構造を有する樹脂を含有する含侵液を用いれば、熱伝導シートの強度および高温下における熱伝導性を更に向上させることができる。
【0016】
〔7〕前記有機溶媒が、ヘキサン、シクロヘキサン、トルエン、メチルエチルケトンおよび酢酸エチルからなる群から選択される少なくとも1つを含む、上記〔1〕~〔6〕の何れかに記載の熱伝導シートの製造方法。
ヘキサン、シクロヘキサン、トルエン、メチルエチルケトンおよび酢酸エチルからなる群から選択される少なくとも1つを含む含侵液を用いれば、熱伝導シートの強度および高温下における熱伝導性を更に向上させることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、強度および高温下における熱伝導性に優れる熱伝導シートを製造し得る、熱伝導シートの製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
本発明の熱伝導シートの製造方法は、例えば、粒子状炭素材料を含む熱伝導シートを製造する際に用いられる。そして、本発明の製造方法により製造した熱伝導シートは、例えば、発熱体に放熱体を取り付ける際に発熱体と放熱体との間に挟み込んで使用することができる。即ち、本発明の製造方法により製造した熱伝導シートは、放熱部材として機能し、ヒートシンク、放熱板、放熱フィン等の放熱体と共に放熱装置を構成することができる。
【0019】
そして、本発明の熱伝導シートの製造方法は、
(1)一次シート成形工程、積層体形成工程、スライス工程、予備焼成工程、含侵工程、および焼成工程を含む、熱伝導シートの製造方法、および、
(2)含侵工程および焼成工程を含み、焼成シートが粒子状炭素材料Aを含み、粒子状炭素材料Aの配向角度が所定範囲内であり、そして焼成シートの150℃から600℃までの重量減少率が所定範囲内である、熱伝導シートの製造方法
の2つの構成のいずれであってもよい。
以下、説明の便宜上、上記(1)の構成を有する熱伝導シートの製造方法を「熱伝導シートの製造方法1」と称し、上記(2)の構成を有する熱伝導シートの製造方法を「熱伝導シートの製造方法2」と称する。
【0020】
(熱伝導シートの製造方法1)
本発明の熱伝導シートの製造方法1は、(A)一次シート成形工程、(B)積層体形成工程、(C)スライス工程、(D)予備焼成工程、(E)含侵工程、および(F)焼成工程を少なくとも含む。なお、本発明の熱伝導シートの製造方法1は、任意で、上記(A)~(F)以外の工程を更に含んでいてもよい。
【0021】
そして、本発明の熱伝導シートの製造方法1は、上記(A)~(F)の工程を含むため、強度および高温下における熱伝導性に優れる熱伝導シートを効率的に製造することができる。かかる本発明の熱伝導シートの製造方法1により、上記の効果が得られる理由は定かではないが、以下の通りであると推察される。
【0022】
まず、本発明の熱伝導シートの製造方法1は、一次シート成形工程、積層体形成工程、スライス工程および予備焼成工程を含む。ここで、これらの工程を経ることで得られる焼成シートでは、粒子状炭素材料が焼成シートの厚み方向に良好に配向していると考えられる。そして、このような焼成シートから得られる熱伝導シートも、粒子状炭素材料が熱伝導シートの厚み方向に良好に配向しており、したがって高温下における熱伝導性に優れると考えられる。
また、本発明の熱伝導シートの製造方法1は、含侵工程および焼成工程を更に含む。含侵工程では、焼成シートに対して有機溶媒および樹脂Bを含む含侵液を含侵させることで、含侵シートを得る。ここで、含侵液は有機溶媒を含み、焼成シートに対して良好な含侵性を有するため、得られる含侵シートには、含侵液に由来する有機溶媒および樹脂Bが十分に含まれていると考えられる。そして、焼成工程において、このような有機溶媒および樹脂Bを含有する含侵シートを焼成すると、有機溶媒が蒸発するとともに、樹脂Bの少なくとも一部がタール成分(樹脂の燃焼残渣)に変わると考えられる。このような熱伝導シート中の樹脂由来のタール成分は、熱伝導シートの強度を向上させるとともに、それ自身が優れた熱伝導性を備えるため、熱伝導シートの高温下における熱伝導性を高める機能を有する。
したがって、本発明の熱伝導シートの製造方法1によれば、強度および高温下における熱伝導性に優れる熱伝導シートを効率的に製造することができる。
【0023】
<一次シート成形工程>
一次シート成形工程では、樹脂Aと、粒子状炭素材料Aとを含む組成物を加圧してシート状に成形し、一次シートを得る。
【0024】
<<組成物>>
一次シート成形工程で使用される組成物は、樹脂Aと、粒子状炭素材料Aとを含む。なお、組成物は、樹脂Aおよび粒子状炭素材料A以外の成分(その他の成分)を更に含んでいてもよい。
【0025】
[樹脂A]
樹脂Aとしては、特に限定されず、任意の樹脂を用いることができる。例えば、樹脂Aとしては、液状樹脂および固体樹脂のいずれも用いることができる。なお、樹脂Aは、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。例えば、樹脂Aとしては、液状樹脂と固体樹脂との双方を用いることができる。なお、樹脂Aとして液状樹脂と固体樹脂とを併用する場合、液状樹脂と固体樹脂との質量比は、本発明の所望の効果が得られる範囲内で調整することができる。
【0026】
そして、液状樹脂としては、常温常圧下で液体である限り、特に限定されることなく、例えば、常温常圧下で液体の熱可塑性樹脂を用いることができる。
なお、本発明において、「常温」とは23℃を指し、「常圧」とは、1atm(絶対圧)を指す。
【0027】
液状樹脂としては、例えば、フッ素樹脂、シリコーン樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、アクリロニトリル-ブタジエン共重合体(ニトリルゴム)、1,2-ポリブタジエンが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0028】
固体樹脂としては、常温常圧下で液体でない限り、特に限定されることなく、例えば、常温常圧下で固体の熱可塑性樹脂、常温常圧下で固体の熱硬化性樹脂等を用いることができる。
【0029】
常温常圧下で固体の熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリ(アクリル酸2-エチルヘキシル)、アクリル酸とアクリル酸2-エチルヘキシルとの共重合体、ポリメタクリル酸またはそのエステル、ポリアクリル酸またはそのエステルなどのアクリル樹脂;シリコーン樹脂;フッ素樹脂;ポリエチレン;ポリプロピレン;エチレン-プロピレン共重合体;ポリメチルペンテン;ポリ塩化ビニル;ポリ塩化ビニリデン;ポリ酢酸ビニル;エチレン-酢酸ビニル共重合体;ポリビニルアルコール;ポリアセタール;ポリエチレンテレフタレート;ポリブチレンテレフタレート;ポリエチレンナフタレート;ポリスチレン;ポリアクリロニトリル;スチレン-アクリロニトリル共重合体;アクリロニトリル-ブタジエン共重合体(ニトリルゴム);アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS樹脂);スチレン-ブタジエンランダム共重合体、スチレン-ブタジエンブロック共重合体またはその水素添加物、スチレン-イソプレンブロック共重合体またはその水素添加物などのスチレン系樹脂;ポリフェニレンエーテル;変性ポリフェニレンエーテル;脂肪族ポリアミド類;芳香族ポリアミド類;ポリアミドイミド;ポリカーボネート;ポリフェニレンスルフィド;ポリサルホン;ポリエーテルサルホン;ポリエーテルニトリル;ポリエーテルケトン;ポリケトン;ポリウレタン;液晶ポリマー;アイオノマー;などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
なお、本発明において、ゴムは、「樹脂」に含まれるものとする。
【0030】
常温常圧下で固体の熱硬化性樹脂としては、例えば、天然ゴム;ブタジエンゴム;イソプレンゴム;ニトリルゴム;水素化ニトリルゴム;クロロプレンゴム;エチレンプロピレンゴム;塩素化ポリエチレン;クロロスルホン化ポリエチレン;ブチルゴム;ハロゲン化ブチルゴム;ポリイソブチレンゴム;エポキシ樹脂;ポリイミド樹脂;ビスマレイミド樹脂;ベンゾシクロブテン樹脂;フェノール樹脂;不飽和ポリエステル;ジアリルフタレート樹脂;ポリイミドシリコーン樹脂;ポリウレタン;熱硬化型ポリフェニレンエーテル;熱硬化型変性ポリフェニレンエーテル;などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0031】
ここで、樹脂Aとしては、環状構造を有する樹脂を用いることが好ましい。樹脂Aとして環状構造を有する樹脂を用いれば、熱伝導シート中に残存する樹脂由来の成分(タール成分)の量が増加するためと推察されるが、得られる熱伝導シートの強度および高温下における熱伝導性を更に向上させることができる。
環状構造は、炭素、水素、窒素、酸素などの原子で構成されるものであれば特に限定されないが、炭化水素環(炭素と水素で構成される環)が好ましく、ベンゼン環が特に好ましい。
そして、環状構造を有する樹脂としては、例えば、ポリスチレン、スチレン-アクリロニトリル共重合体、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS樹脂)、スチレン-ブタジエンブロック共重合体またはその水素添加物、スチレン-イソプレンブロック共重合体またはその水素添加物などのスチレン系樹脂;ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂などのイミド樹脂;ビスフェノール型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂、環状エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂などのエポキシ樹脂;などが挙げられる。これらの中でも、ベンゼン環を有する樹脂が好ましく、スチレン系樹脂がより好ましく、スチレン-ブタジエンランダム共重合体がより好ましい。
【0032】
そして、スチレン系樹脂中のスチレン単位の含有割合は、スチレン系樹脂中の全繰り返し単位の量を100質量%とした場合に、10質量%以上であることが好ましく、15質量%以上であることがより好ましく、20質量%以上であることが更に好ましい。スチレン系樹脂中のスチレン単量体単位の含有割合が上記下限以上であれば、得られる熱伝導シートの強度および高温下における熱伝導性を更に向上させることができる。なお、スチレン系樹脂中のスチレン単量体単位の含有割合の上限は、特に限定されるものではないが、例えば、50質量%以下とすることができ、40質量%以下とすることができる。
なお、本発明において、「スチレン単位」とは、「単量体としてスチレンを用いて得た重合体中に含まれる、スチレン由来の繰り返し単位」を意味する。
【0033】
[粒子状炭素材料A]
ここで、粒子状炭素材料Aとしては、アスペクト比が20以下の炭素材料である限り、特に限定されることなく、例えば、人造黒鉛、鱗片状黒鉛、薄片化黒鉛、天然黒鉛、酸処理黒鉛、膨張性黒鉛、膨張化黒鉛などの黒鉛;カーボンブラック;などを用いることができる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
中でも、粒子状炭素材料Aとしては、膨張化黒鉛を用いることが好ましい。粒子状炭素材料Aとして膨張化黒鉛を使用すれば、熱伝導シートの高温下における熱伝導性を更に向上させることができる。
【0034】
粒子状炭素材料Aとして好適に使用し得る膨張化黒鉛は、例えば、鱗片状黒鉛などの黒鉛を硫酸などで化学処理して得た膨張性黒鉛を、熱処理して膨張させた後、微細化することにより得ることができる。そして、市販の膨張化黒鉛としては、例えば、伊藤黒鉛工業株式会社製のEC-1500、EC-1000、EC-500、EC-300、EC-100、EC-50、EC-10(いずれも商品名)等が挙げられる。
【0035】
―体積平均粒子径―
ここで、粒子状炭素材料Aの体積平均粒子径は、50μm以上であることが好ましく、100μm以上であることがより好ましく、150μm以上であることが更に好ましく、200μm以上であることが特に好ましく、500μm以下であることが好ましく、400μm以下であることがより好ましく、300μm以下であることが更に好ましい。粒子状炭素材料Aの体積平均粒子径が上記下限以上であれば、熱伝導シートの高温下における熱伝導性を更に向上させることができる。また、粒子状炭素材料Aの体積平均粒子径が上記上限以下であれば、熱伝導シートの強度を更に向上させることができる。
なお、本発明において、粒子状炭素材料の「体積平均粒子径」とは、レーザー回折法で測定された粒子径分布(体積基準)において小径側から計算した累積体積が50%となる粒子径(D50)を表し、本明細書の実施例に記載の方法に従って測定することができる。
【0036】
ここで、本発明において、粒子状炭素材料(粒子状炭素材料AおよびB)のアスペクト比(長径/短径)は、20以下であることが必要であり、10以下であることが好ましく、5以下であることがより好ましい。なお、アスペクト比は、通常1超である。また、本発明において、粒子状炭素材料の「アスペクト比」は、粒子状炭素材料をSEM(走査型電子顕微鏡)で観察し、任意の50個について、最大径(長径)と、最大径に直交する方向の粒子径(短径)とを測定し、長径と短径の比(長径/短径)の平均値を算出することにより求めることができる。
【0037】
[その他の成分]
一次シート成形工程で使用される組成物は、上述した樹脂Aおよび粒子状炭素材料A以外のその他の成分を更に含んでいてもよい。その他の成分としては、例えば、分散剤や繊維状炭素材料(例えば、カーボンナノチューブ、気相成長炭素繊維、有機繊維を炭化して得られる炭素繊維、および、それらの切断物)を用いることができる。分散剤としては、特に限定されることはなく、既知のものを用いることができる。なお、組成物中の分散剤の含有量は、本発明の所望の効果が得られる範囲内で調整することができる。
また、本発明において、「繊維状炭素材料」とは、アスペクト比が20超の炭素材料を意味する。
【0038】
[組成物の調製]
組成物は、特に限定されることはなく、上述した成分を混合し、その後任意に解砕することにより調製することができる。
なお、上述した成分の混合は、特に制限されることなく、ニーダー;ヘンシェルミキサー、ホバートミキサー、ハイスピードミキサー等のミキサー;二軸混練機;ロール;などの既知の混合装置を用いて行うことができる。また、混合は、酢酸エチル等の溶媒の存在下で行ってもよい。溶媒に予め樹脂Aを溶解または分散させて樹脂溶液または樹脂分散液として、粒子状炭素材料A、および任意で添加されるその他の成分と混合してもよい。また、混合時間は、例えば、5分以上60分以下とすることができる。そして、混合温度は、例えば、5℃以上160℃以下とすることができる。さらに、上述した成分の混合後に任意に行われる解砕は、特に制限されることなく、既知の解砕装置を用いて行うことができる。解砕の条件(解砕時間など)は、本発明の所望の効果が得られる範囲内で適宜調整すればよい。
【0039】
[組成物の成形]
そして、上述のようにして調製した組成物は、加圧してシート状に成形することができる。このように組成物を加圧成形したシート状のものを、一次シートとすることができる。なお、混合時に溶媒を用いている場合には、溶媒を除去してからシート状に成形することが好ましく、例えば、真空脱泡を用いて脱泡を行えば、脱泡時に溶媒の除去も同時に行うことができる。
【0040】
ここで、組成物は、圧力が負荷される成形方法であれば、特に制限されることなく、プレス成形、圧延成形または押し出し成形などの既知の成形方法を用いてシート状に成形することができる。中でも、組成物は、圧延成形(一次加工)によりシート状に成形することが好ましく、保護フィルムに挟んだ状態でロール間を通過させてシート状に成形することがより好ましい。なお、保護フィルムとしては、特に制限されることなく、サンドブラスト処理を施したポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム等を用いることができる。また、ロール温度は5℃以上150℃以下、ロール間隙は50μm以上2500μm以下、ロール線圧は1kg/cm以上3000kg/cm以下、ロール速度は0.1m/分以上20m/分以下とすることができる。
【0041】
そして、一次シート中の粒子状炭素材料Aの含有量は、樹脂A100質量部に対して、150質量部以上であることが好ましく、200質量部以上であることがより好ましく、250質量部以上であることが更に好ましく、600質量部以下であることが好ましく、550質量部以下であることがより好ましく、500質量部以下であることが更に好ましい。一次シート中の粒子状炭素材料Aの含有量が上記下限以上であれば、得られる熱伝導シートの強度および高温下における熱伝導性を更に向上させることができる。一方、一次シート中の粒子状炭素材料Aの含有量が上記上限以下であれば、得られる熱伝導シートの強度を更に向上させることができる。
【0042】
また、一次シートにおける粒子状炭素材料Aの体積分率は、一次シートの全体積を100体積%として、40体積%以上であることが好ましく、45体積%以上であることがより好ましく、50体積%以上であることが更に好ましく、55体積%以上であることが特に好ましく、75体積%以下であることが好ましく、70体積%以下であることがより好ましく、65体積%以下であることが更に好ましい。一次シートにおける粒子状炭素材料Aの体積分率が上記下限以上であれば、得られる熱伝導シートの強度および高温下における熱伝導性を更に向上させることができる。また、粒子状炭素材料Aの体積分率が上記上限以下であれば、得られる熱伝導シートの強度を更に向上させることができる。
【0043】
<積層体形成工程>
積層体形成工程では、上述した一次シート成形工程で得られた一次シートを厚み方向に複数枚積層して、あるいは、一次シートを折畳または捲回して、樹脂Aおよび粒子状炭素材料Aを含む一次シートが厚み方向に複数形成された積層体を得る。ここで、一次シートの折畳による積層体の形成は、特に制限されることなく、折畳機を用いて一次シートを一定幅で折り畳むことにより行うことができる。また、一次シートの捲回による積層体の形成は、特に制限されることなく、一次シートの短手方向または長手方向に平行な軸の回りに一次シートを捲き回すことにより行うことができる。また、一次シートの積層による積層体の形成は、特に制限されることなく、積層装置を用いて行うことができる。
【0044】
なお、積層体形成工程では、得られた積層体を、加熱しながら、積層方向に加圧(二次加圧)することが好ましい。積層体を加熱しながら積層方向に加圧する二次加圧を行うことにより、積層された一次シート相互間の融着を促進することができる。
【0045】
ここで、積層体を積層方向に加圧する際の圧力は、0.05MPa以上0.50MPa以下とすることができる。
また、積層体の加熱温度は、特に限定されないが、50℃以上170℃以下であることが好ましい。
さらに、積層体の加熱時間は、例えば、10秒間以上30分間以下とすることができる。
【0046】
なお、一次シートを積層、折畳または捲回して得られる積層体では、粒子状炭素材料Aが積層方向に略直交する方向に配向していると推察される。例えば、粒子状炭素材料Aの形状が鱗片形状である場合、当該鱗片形状が有する主面の長軸の方向は、積層方向に略直交していると推察される。
【0047】
<スライス工程>
スライス工程では、上述した積層体形成工程で得られた積層体を、積層方向に対して45°以下の角度でスライスして、積層体のスライス片よりなる二次シートを得る。ここで、積層体をスライスする方法としては、特に限定されることなく、例えば、マルチブレード法、レーザー加工法、ウォータージェット法、ナイフ加工法等が挙げられる。中でも、二次シートの厚みを均一にし易い点で、ナイフ加工法が好ましい。また、積層体をスライスする際の切断具としては、特に限定されることなく、スリットを有する平滑な盤面と、このスリット部より突出した刃部とを有するスライス部材(例えば、鋭利な刃を備えたカンナやスライサー)を用いることができる。
【0048】
なお、積層体をスライスする角度は、積層方向に対して45°以下であることが必要であり、積層方向に対して30°以下であることが好ましく、積層方向に対して15°以下であることがより好ましく、積層方向に対して略0°である(即ち、積層方向に沿う方向である)ことが特に好ましい。
そして、このようにして得られた二次シートでは、厚み方向に粒子状炭素材料Aが良好に配向している。
【0049】
<予備焼成工程>
予備焼成工程では、上述したスライス工程で得られた二次シートを焼成して、二次シートに含まれる樹脂Aを燃焼させて除去することにより、焼成シートを得る。
得られた焼成シートは、上述した二次シートから樹脂Aの一部または全部が除去されて得られるシートである。したがって、焼成シートでは、厚み方向に粒子状炭素材料Aが良好に配向している。例えば、粒子状炭素材料Aの形状が鱗片形状である場合、当該鱗片形状が有する主面の長軸の方向は、二次シートの厚み方向と略一致している。
【0050】
ここで、予備焼成工程における二次シートの焼成は、窒素雰囲気下で行うことが好ましい。予備焼成工程を窒素雰囲気下で行うと、焼成シート中の樹脂由来の成分(タール成分)の量が増加するためと推察されるが、得られる熱伝導シートの強度および高温下における熱伝導性を更に向上させることができる。また、予備焼成工程において二次シートを焼成する際の加熱温度(焼成温度)は、200℃以上であることが好ましく、250℃以上であることがより好ましく、300℃以上であることが更に好ましく、1500℃以下であることが好ましく、1200℃以下であることがより好ましく、1000℃以下であることが更に好ましく、800℃以下であることが特に好ましい。焼成温度が200℃以上であれば、得られる熱伝導シートの圧縮性を良好に確保することができる。一方、焼成温度が1500℃以下であれば、得られる熱伝導シートの強度を更に向上させることができる。
なお、本発明において、「窒素雰囲気」とは、窒素濃度が90体積%以上の雰囲気を意味する。
【0051】
なお、予備焼成工程において二次シートを焼成する際の加熱時間(焼成時間)は、焼成温度に応じて調整可能であるが、例えば、30分間以上72時間以下とすることができる。
【0052】
<<焼成シート>>
[厚み]
焼成シートの厚みは、100μm以上であることが好ましく、150μm以上であることがより好ましく、200μm以上であることが更に好ましく、500μm以下であることが好ましく、400μm以下であることがより好ましい。焼成シートの厚みが上記下限以上であれば、得られる熱伝導シートの強度および高温下における熱伝導性を更に向上させることができる。一方、焼成シートの厚みが上記上限以下であれば、得られる熱伝導シートの熱抵抗の値を適度に下げることができる。
なお、焼成シートの「厚み」は、本明細書の実施例に記載の方法に従って測定することができる。
【0053】
[密度]
焼成シートの密度は、1.2g/cm3以上であることが好ましく、1.25g/cm3以上であることがより好ましく、1.3g/cm3以上であることが更に好ましく、1.35g/cm3以上であることが特に好ましい。焼成シートの密度が上記下限以上であれば、得られる熱伝導シートの強度および高温下における熱伝導性を更に向上させることができる。また、焼成シートの密度の上限は、特に限定されないが、例えば、1.6g/cm3以下とすることができ、1.5g/cm3以下とすることができる。
なお、焼成シートの「密度」は、本明細書の実施例に記載の方法に従って測定することができる。
【0054】
<含侵工程>
含侵工程では、上述した予備焼成工程で得られた焼成シートに含侵液を含侵させて、含侵シートを得る。得られた含侵シートは、上述した焼成シートに含侵液を含んでなるシートである。
【0055】
<<含侵液>>
含侵液は、樹脂Bおよび溶媒としての有機溶媒を少なくとも含み、任意に、粒子状炭素材料Bおよびその他の添加成分を更に含有する。
【0056】
[有機溶媒]
含侵液の溶媒としては、有機溶媒を含んでいれば特に限定されない。例えば、含侵液は、溶媒として有機溶媒のみを含んでいてもよいし、溶媒は有機溶媒と水の混合物であってもよい。なお、含侵液は、1種の有機溶媒を含んでいてもよく、2種以上の有機溶媒を含んでいてもよい。
【0057】
そして、含侵液に含まれる有機溶媒としては、焼成シートに対して含侵性を有するものであれば特に限定されない。中でも、得られる熱伝導シートの強度および高温下における熱伝導性を更に向上させる観点から、ヘキサン、シクロヘキサン、トルエン、メチルエチルケトン、酢酸エチルなどの環状構造を有する樹脂を良好に溶解する有機溶媒が好ましく、シクロヘキサンがより好ましい。
【0058】
ここで、焼成シートに対する含侵液の含侵性を高め、得られる熱伝導シートの強度および高温下における熱伝導性を更に向上させる観点から、含侵液中の溶媒に占める有機溶媒の割合は、溶媒の全量を100質量%として、70質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上であることが更に好ましく、95質量%以上であることがより一層好ましく、100質量%である(即ち、含侵液は溶媒として有機溶媒のみを含む)ことが特に好ましい。
【0059】
[樹脂B]
含侵液に含まれる樹脂Bとしては、例えば、「一次シート成形工程」の項で上述した樹脂Aと同様のものが挙げられる。中でも、環状構造を有する樹脂が好ましく、スチレン系樹脂がより好ましく、スチレン-ブタジエンランダム共重合体が更に好ましい。樹脂Bとして環状構造を有する樹脂を用いれば、熱伝導シート中に残存する樹脂由来の成分(タール成分)の量が増加するためと推察されるが、得られる熱伝導シートの強度および高温下における熱伝導性を更に向上させることができる。なお、樹脂Bは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0060】
なお、含侵液中の樹脂Bの含有量は、含侵液の全量を100質量%として、1質量%以上であることが好ましく、2.5質量%以上であることがより好ましく、5質量%以上であることが更に好ましく、7.5質量%以上であることが特に好ましく、15質量%以下であることが好ましく、14質量%以下であることがより好ましく、13質量%以下であることが更に好ましい。含侵液中の樹脂Bの含有量が1質量%以上であれば、焼成シートに含侵する樹脂Bの量が増加し、得られる熱伝導シートの強度および高温下における熱伝導性を更に向上させることができる。また、含侵液中の樹脂Bの含有量が15質量%以下であれば、含侵液の粘度が過度に高まるのを抑制し、焼成シートに対する含侵液の含侵性を良好に確保することができる。そのため、得られる熱伝導シートの強度および高温下における熱伝導性を更に向上させることができる。
【0061】
[粒子状炭素材料B]
ここで、含侵液は、得られる熱伝導シートの高温下における熱伝導性を更に向上させる観点から、粒子状炭素材料Bを更に含むことが好ましい。含侵液に含まれる粒子状炭素材料Bとしては、例えば、「一次シート成形工程」の項で上述した粒子状炭素材料Aと同様のものが挙げられる。中でも、黒鉛が好ましく、膨張化黒鉛、薄片化黒鉛、グラフェンがより好ましく、膨張化黒鉛が更に好ましい。なお、粒子状炭素材料Bは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0062】
―体積平均粒子径―
ここで、粒子状炭素材料Bは、体積平均粒子径が0.5μm以上であることが好ましく、1μm以上であることがより好ましく、2μm以上であることが更に好ましく、4μm以上であることが特に好ましく、10μm以下であることが好ましく、9μm以下であることがより好ましく、8μm以下であることが更に好ましい。粒子状炭素材料Bの体積平均粒子径が0.5μm以上であれば、焼成シートに存在している空隙の狭い隙間を効果的に埋めることが可能となり、得られる熱伝導シートの高温下における熱伝導性を更に向上させることができる。また、粒子状炭素材料Bの体積平均粒子径が10μm以下であれば、焼成シートに存在している空隙の狭い隙間に効率的に粒子状炭素材料Bが入り込むことで、粒子状炭素材料Bの焼成シートに対する含侵性が高まり、得られる熱伝導シートの高温下における熱伝導性を更に向上させることができる。
【0063】
そして、含侵液が粒子状炭素材料Bを含む場合、含侵液中の粒子状炭素材料Bの含有量は、含侵液の全量を100質量%として、1質量%以上であることが好ましく、2質量%以上であることがより好ましく、3質量%以上であることが更に好ましく、15質量%以下であることが好ましく、12.5質量%以下であることがより好ましく、10質量%以下であることが更に好ましい。含侵液中の粒子状炭素材料Bの含有量が1質量%以上であれば、焼成シートに含侵する粒子状炭素材料Bの量が増加し、得られる熱伝導シートの高温下における熱伝導性を更に向上させることができる。また、含侵液中の粒子状炭素材料Bの含有量が15質量%以下であれば、焼成シートに対する含侵液の含侵性を良好に確保し、得られる熱伝導シートの高温下における熱伝導性を更に向上させることができる。
【0064】
また、含侵液中の樹脂Bおよび粒子状炭素材料Bの合計含有量は、含侵液の全量を100質量%として、1質量%以上であることが好ましく、2.5質量%以上であることがより好ましく、5質量%以上であることが更に好ましく、15質量%以下であることが好ましく、14質量%以下であることがより好ましく、13質量%以下であることが更に好ましく、12質量%以下であることが特に好ましい。含侵液中の樹脂Bおよび粒子状炭素材料Bの合計含有量が1質量%以上であれば、焼成シートに含侵する樹脂Bおよび粒子状炭素材料Bの量が増加し、得られる熱伝導シートの強度および高温下における熱伝導性を更に向上させることができる。また、含侵液中の樹脂Bおよび粒子状炭素材料Bの合計含有量が15質量%以下であれば、含侵液の粘度が過度に高まるのを抑制し、焼成シートに対する含侵液の含侵性を良好に確保することができる。そのため、得られる熱伝導シートの強度および高温下における熱伝導性を更に向上させることができる。
【0065】
[添加成分]
含侵液が任意に含み得る添加成分(溶媒、樹脂Bおよび粒子状炭素材料B以外の成分)としては、例えば、「一次シート形成工程」の項で上述したその他の成分、界面活性剤(分散剤)などが挙げられる。そして、含侵液中の添加成分の含有量は、焼成シートに対する含侵液の含侵性を良好に確保して、得られる熱伝導シートの強度および高温下における熱伝導性を更に向上させる観点から、含侵液の全量を100質量%として、5質量%以下であることが好ましく、1質量%以下であることがより好ましく、0.1質量%以下であることが更に好ましく、0質量%である(即ち、含侵液が添加成分を含まない)ことが特に好ましい。なお、添加成分は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0066】
[含侵方法]
焼成シートに含侵液を含侵させる方法は、特に限定されない。例えば、容器中で焼成シートを含侵液に浸漬させた後、容器ごと真空引きを行うことで、焼成シートに含侵液を含侵させることができる。また、真空引きを行う際の条件も、特に限定されず、焼成シート表面から気泡が生じ、且つ溶媒が沸騰しない条件に適宜調整すればよい。
【0067】
<<焼成工程>>
焼成工程では、上述した含侵工程で得られた含侵シートを焼成して、含侵シートに含まれる溶媒および樹脂を燃焼させて除去することにより、熱伝導シートを得る。
得られた熱伝導シートは、上述した含侵シートから溶媒が除去されるとともに、樹脂の一部または全部が除去されて得られるシートである。なお、除去されなかった樹脂は、樹脂由来の成分(タール成分)として熱伝導シート中に残存すると推察される。
【0068】
ここで、焼成工程における含侵シートの焼成は、窒素雰囲気下で行うことが好ましい。焼成工程を窒素雰囲気下で行うと、熱伝導シート中の樹脂由来の成分(タール成分)の量が増加するためと推察されるが、得られる熱伝導シートの強度および高温下における熱伝導性を更に向上させることができる。また、焼成工程において含侵シートを焼成する際の加熱温度(焼成温度)は、200℃以上であることが好ましく、250℃以上であることがより好ましく、300℃以上であることが更に好ましく、1500℃以下であることが好ましく、1200℃以下であることがより好ましく、1000℃以下であることが更に好ましく、800℃以下であることが特に好ましい。焼成工程における焼成温度が200℃以上であれば、得られる熱伝導シートの圧縮性を十分に確保することができる。一方、焼成工程における焼成温度が1500℃以下であれば、得られる熱伝導シートの強度を更に向上させることができる。
【0069】
なお、焼成工程において焼成シートを焼成する際の加熱時間(焼成時間)は、焼成温度に応じて調整可能であるが、例えば、30分間以上72時間以下とすることができる。
【0070】
また、含侵工程および焼成工程は、得られる熱伝導シートの強度および高温下における熱伝導性を更に向上させる観点から、複数回繰り返して行うことが好ましい。即ち、1回目の焼成工程の後に、再度含侵工程および焼成工程を行うことが好ましい。なお、含侵工程および焼成工程を行う回数は、熱伝導シートの生産効率の観点から、3回以下とすることが好ましい。
【0071】
(熱伝導シートの製造方法2)
本発明の熱伝導シートの製造方法2は、粒子状炭素材料Aを含む焼成シートに有機溶媒および樹脂Bを含有する含侵液を含侵させて、含侵シートを得る含侵工程と、含侵シートを焼成して熱伝導シートを得る焼成工程とを含む。なお、本発明の熱伝導シートの製造方法2は、任意で、含侵工程および焼成工程以外の工程を更に含んでいてもよい。
【0072】
ここで、本発明の熱伝導シートの製造方法2は、粒子状炭素材料Aの配向角度が60°以上90°以下であり、焼成シートの150℃から600℃までの重量減少率が3%以上20%以下であることを特徴とする。
【0073】
そして、本発明の熱伝導シートの製造方法2は、所定の性状を有する焼成シートを用いるとともに、所定の含侵工程および焼成工程を含むため、強度および高温下における熱伝導性に優れる熱伝導シートを効率的に製造することができる。かかる本発明の熱伝導シートの製造方法2により、上記の効果が得られる理由は定かではないが、以下の通りであると推察される。
【0074】
まず、本発明の熱伝導シートの製造方法2は、所定の性状を有する焼成シートを用いるとともに、含侵工程および焼成工程を含む。ここで、焼成シートは粒子状炭素材料Aを含み、当該粒子状炭素材料Aは、焼成シート表面に対して60°以上90°以下の角度で配向されている。そして、このような焼成シートから得られる熱伝導シートも、粒子状炭素材料Aが熱伝導シートの厚み方向に60°以上90°以下の角度で配向しており、したがって高温下における熱伝導性に優れると考えられる。
次いで、本発明者の検討によれば、焼成シートに対して所定の条件で熱重量分析を行って得られる熱重量曲線において、150℃から600℃までの重量減少率が3%以上20%以下であることで、得られる熱伝導シートは強度および高温下における熱伝導性が向上することが明らかとなった。本発明者の推察では、焼成シートにおいて、大気雰囲気下における150℃から600℃までの範囲において熱分解される成分は、例えば焼成シートを本発明の熱伝導シートの製造方法1における一次シート形成工程、積層体形成工程、スライス工程および予備焼成工程を経て製造した場合では、焼成シートの前駆体である一次シートおよび二次シートを成形するために用いた樹脂(樹脂A)が、予備焼成工程における二次シートの焼成時に焼成されて生じたタール成分(樹脂の燃焼残渣)であると考えられる。このような熱伝導シート中の樹脂由来のタール成分は、熱伝導シートの強度を向上させるとともに、それ自身が優れた熱伝導性を備えるため、熱伝導シートの高温下における熱伝導性を高める機能を有する。そして、焼成シートに対して所定の条件で熱重量分析測定を行うと、この樹脂由来のタール成分が150℃から600℃にかけて蒸発、分解等により消滅(熱分解)すると考えられる。換言すると、焼成シートに対して、所定の条件で熱重量分析を行って得られる熱重量曲線において、150℃から600℃までの重量減少は、焼成シート中の樹脂由来のタール成分が消滅(熱分解)することに起因すると考えられる。したがって、上記の「150℃から600℃までの重量減少率」は、焼成シートの重量100%に占める、樹脂由来のタール成分の重量の割合(重量%)に相当するといえる。
そして、焼成シートの150℃から600℃までの重量減少率が3%以上であることにより、焼成シーが十分な量のタール成分を含むといえるので、焼成シートから得られる熱伝導シートは強度および高温下における熱伝導性に優れる。加えて、焼成シートの150℃から600℃までの重量減少率が20%以下であることで、焼成シート中の粒子状炭素材料の量が過度に減少するほど過剰な量のタール成分を含むわけではないといえる。更に、本発明の熱伝導シートの製造方法2は、含侵工程および焼成工程を含む。「熱伝導シートの製造方法1」の項で上述した通り、含侵工程および焼成工程を経ることで、得られる熱伝導シート中のタール成分の量を増加させることができる。
したがって、本発明の熱伝導シートの製造方法2によれば、強度および高温下における熱伝導性に優れる熱伝導シートを効率的に製造することができる。
【0075】
<含侵工程>
含侵工程では、焼成シートに含侵液を含侵させて、含侵シートを得る。得られた含侵シートは、上述した焼成シートに含侵液を含んでなるシートである。
【0076】
<<焼成シート>>
含侵工程で用いる焼成シートは、粒子状炭素材料Aを含み、任意に、粒子状炭素材料A以外の成分(その他の成分)を更に含有する。
【0077】
[粒子状炭素材料A]
粒子状炭素材料Aとしては、例えば、「熱伝導シートの製造方法1」の項で上述したものを用いることができる。そして、粒子状炭素材料Aの好適例、属性等も「熱伝導シートの製造方法1」の項で上述した通りである。なお、粒子状炭素材料Aは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0078】
―配向角度―
粒子状炭素材料Aの長軸方向の焼成シート表面に対する角度(粒子状炭素材料Aの配向角度)は、60°以上90°以下である必要があり、粒子状炭素材料Aの配向角度は、65°以上であることが好ましく、70°以上であることがより好ましい。粒子状炭素材料Aの配向角度が上述の範囲外であると、得られる熱伝導シートの熱抵抗が上昇し、熱伝導性が低下する。そして、粒子状炭素材料Aの配向角度が上述の範囲であれば、得られる熱伝導シートの高温下における熱伝導性を更に向上させるとともに、高圧下における熱抵抗を低減させることができる。
【0079】
[その他の成分]
焼成シートは、上述した粒子状炭素材料A以外の成分(その他の成分)を更に含有していてもよい。その他の成分としては、「熱伝導シートの製造方法1」の項で上述したものが挙げられる。なお、その他の成分は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0080】
[150℃から600℃までの重量減少率]
ここで、焼成シートは、所定の条件で熱重量分析測定を行って得られる熱重量曲線において、150℃から600℃までの重量減少率が、熱重量分析測定を行う前の焼成シートの重量を100%として、3%以上20%以下であることが必要であり、150℃から600℃までの重量減少率は、6%以上であることが好ましく、9%以上であることがより好ましく、13%以上であることが更に好ましく、19%以下であることが好ましい。焼成シートの150℃から600℃までの重量減少率が3%未満であると、焼成シート中のタール成分の量が減少するためと推察されるが、得られる熱伝導シートの強度および高温下における熱伝導性が低下する。また、焼成シートの150℃から600℃までの重量減少率が20%超であると、焼成シート中に占める粒子状炭素材料Aの割合が減少するためと考えられるが、得られる熱伝導シートの強度および高温下における熱伝導性が低下する。
なお、焼成シートの150℃から600℃までの重量減少率は、焼成シートの作製に用いる樹脂の種類や量、焼成シートを得る際の焼成条件(例えば、焼成温度および時間)などを変更することにより調整することができる。具体的には、焼成シートの作製に用いる樹脂の量を増加させること、および/または、樹脂として環状構造を有する樹脂を用いることで、焼成シートの150℃から600℃までの重量減少率を増加させることができる。また、焼成シートを得る際の焼成温度を低下させることでも、焼成シートの150℃から600℃までの重量減少率を増加させることができる。
【0081】
なお、焼成シートの厚みおよび密度は、「熱伝導シートの製造方法1」の項で上述した通りである。
【0082】
[焼成シートの作製方法]
焼成シートは、特に限定されるものでないが、例えば、「熱伝導シートの製造方法1」の項で上述した一次シート成形工程、積層体形成工程、スライス工程および予備焼成工程を経ることにより作製することができる。そして、各工程における各種条件等も「熱伝導シートの製造方法1」の項で上述した通りである。
【0083】
<<含侵液>>
含侵液としては、「熱伝導シートの製造方法1」の項で上述したものを用いることができる。
【0084】
<<含侵方法>>
含侵方法としては、例えば、「熱伝導シートの製造方法1」で上述した方法を用いることができる。
【0085】
<焼成工程>
焼成工程では、上述した含侵工程で得られた含侵シートを焼成して、含侵シートに含まれる溶媒および樹脂を燃焼させて除去することにより、熱伝導シートを得る。
得られた熱伝導シートは、上述した含侵シートから溶媒が除去されるとともに、樹脂の一部または全部が除去されて得られるシートである。なお、除去されなかった樹脂は、樹脂由来の成分(タール成分)として熱伝導シート中に残存すると推察される。また、焼成工程における焼成条件等は「熱伝導シートの製造方法1」の項で上述した通りである。
【実施例0086】
以下、本発明について実施例に基づき具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、以下の説明において、量を表す「%」および「部」は、特に断らない限り、質量基準である。
そして、粒子状炭素材料の体積平均粒子径、一次シートにおける粒子状炭素材料Aの体積分率、焼成シートの150℃から600℃までの重量減少率、厚みおよび密度、焼成シート中の粒子状炭素材料Aの配向角度、ならびに、熱伝導シートの強度および高温下における熱伝導性は、以下の方法で測定または評価した。
【0087】
<粒子状炭素材料の体積平均粒子径>
粒子状炭素材料の体積平均粒子径は、レーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置(堀場製作所製、型式「LA960」)を用いて測定した。具体的には、得られた粒子径を横軸とし、体積換算した粒子の頻度を縦軸とした粒度分布曲線を作成した。当該粒度分布曲線において、小径側から計算した累積体積が50%となる粒子径(D50)を求め、粒子状炭素材料の体積平均粒子径の値とした。
<一次シートにおける粒子状炭素材料Aの体積分率>
一次シートにおける粒子状炭素材料Aの体積分率は、一次シート中に含まれる粒子状炭素材料Aの質量を密度で除して粒子状炭素材料Aが占める体積を求めた上で、当該粒子状炭素材料Aが一次シート100体積%中に占める割合(体積%)として算出した。
<粒子状炭素材料Aの配向角度>
焼成シート中の粒子状炭素材料Aの配向角度は、焼成シートを正八角形に切断した断面を走査型電子顕微鏡(SEM、日立ハイテクノロジーズ製「SU-3500」)にて当該シートの上端から下端までが収まる倍率で観察した。なお、このときの倍率は700倍であった。この断面における粒子状炭素材料Aの長軸に50本線を引き、焼成シートの表面に対する長軸の角度の平均を算出した。なお、角度が90°超であった場合には補角を採用した。これを8面に対して実施し、8面の中で最も値の大きなものを焼成シート中の粒子状炭素材料Aの配向角度とした。
<150℃から600℃までの重量減少率>
焼成シートの150℃から600℃までの重量減少率は、熱重量測定装置(日立ハイテクサイエンス社製、製品名「TA7000」)を用いて測定した。具体的には、大気雰囲気の測定環境下にて、昇温速度:10℃/分、測定温度範囲:30~1000℃の条件下にて、焼成シートの重量(W(g))を測定した。得られたデータを基に、測定開始後の経過時間を横軸(X座標軸)、焼成シートの重量(W(g))を縦軸(Y座標軸)にプロットしたグラフ(熱重量曲線)を作成した。そして、焼成シートの150℃から600℃までの重量減少率(TG(%))を、下記の式(1)から算出した。
TG(%)={(W150-W600)/W0}×100 ・・・(1)
〔式(1)中、W0は熱重量分析測定を行う前の焼成シートの重量(g)であり、W150は150℃における焼成シートの重量(g)であり、W600は600℃における焼成シートの重量(g)である。〕
<焼成シートの厚み>
膜厚計(ミツトヨ製、製品名「デジマチックインジケーター ID-C112XBS」)を用いて、製造例で作製した焼成シートの略中心点および四隅(四角)の計五点における厚みを測定し、測定した厚みの平均値(μm)を焼成シートの厚みとした。
<焼成シートの密度>
製造例で作製した焼成シートの質量、面積および厚みを測定し、質量を体積(=面積×厚み)で割ることにより、焼成シートの密度(g/cm3)を算出した。
<高温下における熱伝導性>
厚み方向の熱拡散率α(m2/s)、定圧比熱Cp(J/g・K)、および比重ρ(g/m3)を、それぞれ、以下の方法で測定した。
[厚み方向の熱拡散率α]
窒素ガスをフローしながら熱拡散・熱伝導率測定装置(株式会社ベテル製、製品名「サーモウェーブアナライザTA35」)を使用して測定を行い、窒素雰囲気下での300℃における厚み方向の熱拡散率を測定した。
[定圧比熱Cp]
示差走査熱量計(Rigaku製、製品名「DSC8230」)を使用し、10℃/分の昇温条件下、25℃における比熱を測定した。
[比重ρ(密度)]
熱伝導シートの質量、面積および厚みを測定し、質量を体積(=面積×厚み)で割ることにより、熱伝導シートの密度(g/cm3)を算出した。
そして、各測定値を、下記式(2):
λ=α×Cp×ρ・・・(2)
に代入し、300℃における熱伝導シートの厚み方向の熱伝導率λ(W/m・K)を求めた。そして、下記の基準に従って評価した。300℃における熱伝導シートの厚み方向の熱伝導率λが大きいほど、熱伝導シートは高温下における熱伝導性に優れる。
A:熱伝導シートの厚み方向の熱伝導率λが140W/m・K以上
B:熱伝導シートの厚み方向の熱伝導率λが130W/m・K以上140W/m・K未満
C:熱伝導シートの厚み方向の熱伝導率λが120W/m・K以上130W/m・K未満
D:熱伝導シートの厚み方向の熱伝導率λが120W/m・K未満
<強度>
実施例および比較例で作製した熱伝導シートを1cm×5cmのサイズに切断した試験片を作製した。また、6cm×6cm×2cmの台座を準備した。そして、試験片の中心から右半分を台座上に載せ、左半分を台座から外にはみ出すよう設置した。さらに、試験片の右半分に6cm×6cm×2mmのアルミ板を載せた。そして、25℃の温度条件下、試験片の台座からはみ出した部分に対して、100mg、200mg、および300mgの重りを順番に交代で乗せていき、下記の基準に従って、熱伝導シートの強度を評価した。
A:300mgの重りで試験片が折れなかった。
B:200mgの重りでは試験片が折れず、300mgの重りで試験片が折れた。
C:100mgの重りでは試験片が折れず、200mgの重りで試験片が折れた。
D:100mgの重りで試験片が折れた。
【0088】
以下の製造例1~3に従って、焼成シート1~3を作製した。焼成シート1~3の性状、作製条件などを表1に示す。
【0089】
(製造例1)
<焼成シート1の作製>
[組成物の調製]
樹脂Aとして、常温常圧下で固体のスチレン-ブタジエンランダム共重合体(日本ゼオン株式会社製、商品名「Nipol(登録商標) 1502」、比重:0.94g/cm3)100部と、粒子状炭素材料Aとしての膨張化黒鉛(伊藤黒鉛工業株式会社製、商品名「EC-50」、体積平均粒子径:250μm、アスペクト比=1.5)450部とを加圧ニーダー(日本スピンドル社製)を用いて、温度150℃にて20分間撹拌混合した。次に、得られた混合物を解砕機(大阪ケミカル社製、商品名「ワンダークラッシュミルD3V-10」)に投入して、10秒間解砕することにより、組成物を得た。
[一次シート成形工程]
次いで、得られた組成物500gを、第一ロールおよび第二ロールを用いて、第一ロールと第二ロールとの間隔2mm、ロール温度25℃、シート搬出速度(第一ロールの外周速度)2m/分、第一ロールに対する第二ロールの外周速度比(第二ロール/第一ロール):1.15/1の条件にて圧延加工(一次加圧)してシート状にした。シートの搬送方向を同一にして、圧延加工を繰り返した。合計で圧延加工を10回行い、厚み2mmの一次シートを得た。得られた一次シートにおける粒子状炭素材料Aの体積分率を測定した。結果を表1に示す。
[積層体形成工程]
続いて、得られた一次シートを縦150mm×横150mm×厚み0.8mmに裁断し、一次シートの厚み方向に188枚積層し、更に、温度120℃、圧力0.1MPaで3分間、積層方向にプレス(二次加圧)することにより、高さ約150mmの積層体を得た。
[スライス工程]
その後、二次加圧された積層体の積層側面を0.3MPaの圧力で押し付けながら、木工用スライサー(株式会社丸仲鐵工所製、商品名「超仕上げかんな盤スーパーメカS」)を用いて、積層方向に対して0°の角度で(換言すれば、積層された一次シートの主面の法線方向に)スライスすることにより、縦150mm×横150mm×厚み0.30mmの二次シートを得た。
[予備焼成工程]
その後、得られた二次シートを窒素雰囲気下にて400℃で4時間焼成し、焼成シート1(厚み300μm)得た。
得られた焼成シート1について、150℃から600℃までの重量減少率、粒子状炭素材料Aの配向角度、厚みおよび密度を測定した。結果を表1に示す。
【0090】
(製造例2)
<焼成シート2の作製>
膨張化黒鉛の使用量を450部から290部に変更したこと以外は、製造例1と同様にして、焼成シート2(厚み300μm)を作製した。そして、焼成シート2について、製造例1と同様にして各種測定を行った。結果を表1に示す。
【0091】
(製造例3)
<焼成シート3の作製>
膨張化黒鉛の使用量を450部から170部に変更したこと以外は、製造例1と同様にして、焼成シート3(厚み300μm)を作製した。そして、焼成シート3について、製造例1と同様にして各種測定を行った。結果を表1に示す。
【0092】
以下の調製例1~5に従って、含侵液1~5を作製した。含侵液1~5の組成を表2に示す。
【0093】
(調製例1)
<含侵液1の調製>
有機溶媒としてのシクロヘキサン90部に、樹脂Bとしての常温常圧下で固体のスチレン-ブタジエンランダム共重合体(日本ゼオン株式会社製、商品名「Nipol 1502」)10部を溶解させたものを含侵液1とした。
【0094】
(調製例2)
<含侵液2の調製>
有機溶媒としてのシクロヘキサン90部に、樹脂Bとしての常温常圧下で固体のスチレン-ブタジエンランダム共重合体(日本ゼオン株式会社製、商品名「Nipol 1502」)1部と、粒子状炭素材料Bとしての膨張化黒鉛(伊藤黒鉛工業株式会社製、商品名「EC-1500」、体積平均粒子径:7μm、アスペクト比=1.5)9部を溶解または分散させたものを含侵液2とした。
【0095】
(調製例3)
<含侵液3の調製>
有機溶媒としてのシクロヘキサン90部に、樹脂Bとしての常温常圧下で固体のスチレン-ブタジエンランダム共重合体(日本ゼオン株式会社製、商品名「Nipol 1502」)5部と、粒子状炭素材料Bとしての膨張化黒鉛(伊藤黒鉛工業株式会社製、商品名「EC-1500」、体積平均粒子径:7μm、アスペクト比=1.5)5部を溶解または分散させたものを含侵液3とした。
【0096】
(調製例4)
<含侵液4の調製>
有機溶媒としてのシクロヘキサン85部に、樹脂Bとしての常温常圧下で固体のスチレン-ブタジエンランダム共重合体(日本ゼオン株式会社製、商品名「Nipol 1502」)15部を溶解させたものを含侵液4とした。
【0097】
(調製例5)
<含侵液5の調製>
樹脂Bとしてのスチレン-ブタジエン系ラテックス(日本ゼオン株式会社製、商品名「Nipol 2507H」)を固形分濃度が10%になるように水で希釈したものを含侵液5とした。
【0098】
(実施例1)
<熱伝導シートの製造>
[含侵工程]
1200mlの含侵液1をビーカーに入れ、そこに焼成シート1を浸漬した。次に、ビーカーごと真空引きを行い、焼成シート1に含侵液1を1分間含侵させて、含侵シートを得た。なお、真空条件は、焼成シート表面から気泡が生じ、且つ、シクロヘキサンが沸騰しない条件に適宜調整した。
[焼成工程]
得られた含侵シートを100℃のオーブンで乾燥させた後、窒素雰囲気下にて400℃で6時間焼成し、熱伝導シートを得た。この熱伝導シートの強度および高温下における熱伝導性を評価した。結果を表3に示す。
【0099】
(実施例2)
実施例1で製造した熱伝導シートに対して含侵工程および焼成工程を再度行ったこと以外は、実施例1と同様にして、熱伝導シートを製造した。そして、実施例1と同様にして評価を行った。結果を表3に示す。
【0100】
(実施例3)
焼成工程における焼成温度を400℃から1000℃に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、熱伝導シートを製造した。そして、実施例1と同様にして評価を行った。結果を表3に示す。
【0101】
(実施例4)
含侵液1に代えて含侵液2を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、熱伝導シートを製造した。そして、実施例1と同様にして評価を行った。結果を表3に示す。
【0102】
(実施例5)
含侵液1に代えて含侵液3を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、熱伝導シートを製造した。そして、実施例1と同様にして評価を行った。結果を表3に示す。
【0103】
(実施例6)
焼成シート1に代えて焼成シート2を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、熱伝導シートを製造した。そして、実施例1と同様にして評価を行った。結果を表3に示す。
【0104】
(実施例7)
焼成シート1に代えて焼成シート2を用いるとともに、含侵液1に代えて含侵液2を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、熱伝導シートを製造した。そして、実施例1と同様にして評価を行った。結果を表4に示す。
【0105】
(実施例8)
焼成シート1に代えて焼成シート2を用いるとともに、含侵液1に代えて含侵液3を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、熱伝導シートを製造した。そして、実施例1と同様にして評価を行った。結果を表4に示す。
【0106】
(実施例9)
含侵液1に代えて含侵液4を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、熱伝導シートを製造した。そして、実施例1と同様にして評価を行った。結果を表4に示す。
【0107】
(実施例10)
焼成シート1に代えて焼成シート3を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、熱伝導シートを製造した。そして、実施例1と同様にして評価を行った。結果を表4に示す。
【0108】
(比較例1)
含侵工程および焼成工程を実施せず、焼成シート1を熱伝導シートとした。そして、実施例1と同様にして評価を行った。結果を表4に示す。
【0109】
(比較例2)
含侵液1に代えて含侵液5を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、熱伝導シートを製造した。そして、実施例1と同様にして評価を行った。結果を表4に示す。
【0110】
(比較例3)
含侵工程および焼成工程を実施せず、焼成シート2を熱伝導シートとした。そして、実施例1と同様にして評価を行った。結果を表4に示す。
【0111】
なお、以下に示す表1~4中、
「SBR」は、スチレン-ブタジエンランダム共重合体(常温常圧下で固体)を示し、
「SBRL」は、スチレン-ブタジエン系ラテックスを示し、
「粒子状炭素材料Aの配向角度」は、粒子状炭素材料Aの長軸方向の焼成シート表面に対する角度を示し、
「重量減少率」は、焼成シートに対して、所定の条件で熱重量分析測定を行って得られる熱重量曲線において、150℃から600℃までの重量減少率を示す。
【0112】
【0113】
【0114】
【0115】
【0116】
表1~4より、所定の工程(一次シート成形工程、積層体形成工程、スライス工程、予備焼成工程、含侵工程および焼成工程)を含む熱伝導シートの製造方法1を用いた実施例1~10では、強度および高温下における熱伝導性に優れる熱伝導シートを製造できていることが分かる。
また、所定の工程(含侵工程および焼成工程)を含み、且つ、粒子状炭素材料Aの配向角度および焼成シートの150℃から600℃までの重量減少率がそれぞれ所定範囲内である熱伝導シートの製造方法2を用いた実施例1~9では、強度および高温下における熱伝導性に優れる熱伝導シートを製造できていることが分かる。
一方、所定の含侵工程および焼成工程を含まない熱伝導シートの製造方法を用いた比較例1および3、ならびに、含侵工程において有機溶媒を含まない含侵液を用いた比較例2では、強度および高温下における熱伝導性に優れる熱伝導シートを製造できていないことが分かる。