(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024142126
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】光導波路及び光集積デバイス
(51)【国際特許分類】
G02B 6/125 20060101AFI20241003BHJP
G02B 6/122 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
G02B6/125
G02B6/122 311
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023054148
(22)【出願日】2023-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】大原 盛輝
【テーマコード(参考)】
2H147
【Fターム(参考)】
2H147BB02
2H147BD02
2H147BD19
2H147CA01
2H147CB01
2H147CC12
2H147CD02
2H147CD12
2H147EA13A
2H147EA13C
2H147EA16A
2H147EA16B
2H147FA17
2H147GA11
2H147GA17
2H147GA19
(57)【要約】
【課題】コア部を2本以上有する光導波路であって、コア部の少なくとも1本が直線領域及び曲線領域を含む場合に、光の伝搬損失が低減された光導波路の提供。
【解決手段】コア部とクラッド部を有する光導波路であって、前記光導波路は、前記コア部を2本以上有し、前記コア部はそれぞれ、光が伝搬される始端から終端まで分岐することなく連続した部位であり、前記コア部のうち少なくとも1本は、直線領域及び曲線領域を含み、かつ前記直線領域と前記曲線領域の継ぎ目、及び、前記曲線領域の変曲点、の少なくとも一方において軸ずれを有し、前記軸ずれは、前記光の伝搬方向に対して、平面視で垂直方向に生じている、光導波路。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コア部とクラッド部を有する光導波路であって、
前記光導波路は、前記コア部を2本以上有し、
前記コア部はそれぞれ、光が伝搬される始端から終端まで分岐することなく連続した部位であり、
前記コア部のうち少なくとも1本は、直線領域及び曲線領域を含み、かつ前記直線領域と前記曲線領域の継ぎ目、及び、前記曲線領域の変曲点、の少なくとも一方において軸ずれを有し、
前記軸ずれは、光の伝搬方向に対して、平面視で垂直方向に生じている、光導波路。
【請求項2】
前記曲線領域は、最小曲率が15mm以下の領域を含む、請求項1に記載の光導波路。
【請求項3】
前記軸ずれは、軸ずれ量の絶対値が0.2~1μmのものを含む、請求項1に記載の光導波路。
【請求項4】
前記コア部はそれぞれ、前記軸ずれの、軸ずれ量の総和の絶対値が1μm以下である、請求項1に記載の光導波路。
【請求項5】
前記コア部のうち少なくとも2本は、前記直線領域及び前記曲線領域を含み、かつ、前記直線領域と前記曲線領域の継ぎ目、及び、前記曲線領域の変曲点、の少なくとも一方において軸ずれを有し、
前記軸ずれは、光の伝搬方向に対して、平面視で垂直方向に生じている、請求項1に記載の光導波路。
【請求項6】
前記コア部は、隣に位置するコア部との距離であるピッチが、前記始端と前記終端とで相違し、
前記ピッチの相違は、前記コア部におけるピッチ変換領域により形成され、
前記ピッチ変換領域は、前記曲線領域を含み、
前記ピッチ変換領域におけるコア幅(Wp)は2~8μmである、請求項1に記載の光導波路。
【請求項7】
前記ピッチ変換領域におけるコア幅(Wp)に対するコア高さ(Hp)の比(Hp/Wp)が1.0以下である、請求項6に記載の光導波路。
【請求項8】
前記コア部は、光の伝搬方向に沿って、コア幅が異なる部位を有する、請求項1に記載の光導波路。
【請求項9】
前記コア部は、光が伝搬される前記始端と前記終端とでコア幅が異なる、請求項1に記載の光導波路。
【請求項10】
前記コア部のコア幅が最も狭い箇所aにおけるコア高さ(Ha)が1.3~4.5μmである、請求項1に記載の光導波路。
【請求項11】
前記コア部のコア幅が最も狭い箇所aにおけるコア幅(Wa)に対するコア高さ(Ha)の比(Ha/Wa)が1.25以下である、請求項1に記載の光導波路。
【請求項12】
前記コア部の、光が伝搬される前記始端及び前記終端の少なくとも一方を含む領域が、露出した結合部である、請求項1に記載の光導波路。
【請求項13】
前記光導波路は、前記コア部を4本以上有し、
すべての前記コア部の、光が伝搬される前記始端において、隣に位置するコア部との距離であるピッチの最大値と最小値の差が2μm以下である、請求項1に記載の光導波路。
【請求項14】
前記光導波路は、前記コア部を4本以上有し、
すべての前記コア部の、光が伝搬される前記終端において、隣に位置するコア部との距離であるピッチの最大値と最小値の差が2μm以下である、請求項1に記載の光導波路。
【請求項15】
前記コア部の、光が伝搬される前記始端及び前記終端の少なくとも一方において、隣に位置するコア部との距離であるピッチが8~500μmである、請求項1に記載の光導波路。
【請求項16】
請求項1~15のいずれか1項に記載の光導波路と、半導体基板と、が接続され、
シングルモード伝搬された光が、前記光導波路の前記コア部を介して、前記半導体基板に導入される、光集積デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は光導波路及び上記光導波路を用いた光集積デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
シリコンチップ上にシリコンの光回路を集積化する技術であるシリコンフォトニクスが注目されている。シリコンフォトニクスについて、例えば特許文献1では、光集積回路に形成されたシリコン光導波路と光ファイバとの間で光信号を伝達する光導波路として、アディアバティック結合を利用したポリマー光導波路が開示されている。これにより、シリコン光導波路や光ファイバとの接続損失や、光の伝搬損失を低減できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
シリコンフォトニクスでは、チップ間又はボード間がファイバで接続されるが、シリコン光導波路とファイバとを繋ぐインターフェイスとして光導波路が適用され得る。光導波路において、光が伝搬されるコア部の一端はシリコン光導波路に、他端はファイバに、それぞれ接続される。この場合、シリコン光導波路に接続されるコア部の好適なコア幅と、ファイバに接続されるコア部の好適なコア幅は異なり得る。
【0005】
一方、光回路の高集積化等を目的として、上記光導波路において光が伝搬するコア部を複数設けることが検討されている。ここで、コア部の一端と他端において、上記のようにコア幅を異ならせる場合や、隣に位置するコア部との距離であるピッチを異ならせる場合には、コア部が複数存在する場合であっても、直線領域及び曲線領域を組み合わせた形状とすることで、対応可能となる。
【0006】
しかしながら、直線領域及び曲線領域を組み合わせて1本のコア部を形成すると、光の伝搬損失が大きいことが分かった。
【0007】
そこで本発明は、コア部を2本以上有する光導波路であって、コア部の少なくとも1本が直線領域及び曲線領域を含む場合に、光の伝搬損失が低減された光導波路の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者はさらに検討を進めたところ、光の伝搬損失は主として、コア部の直線領域と曲線領域の継ぎ目、及び、曲線領域の変曲点において発生することが分かった。そして、コア部における上記継ぎ目や変曲点において軸ずれをさせることで、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は以下の[1]~[16]に関する。
[1] コア部とクラッド部を有する光導波路であって、
前記光導波路は、前記コア部を2本以上有し、
前記コア部はそれぞれ、光が伝搬される始端から終端まで分岐することなく連続した部位であり、
前記コア部のうち少なくとも1本は、直線領域及び曲線領域を含み、かつ前記直線領域と前記曲線領域の継ぎ目、及び、前記曲線領域の変曲点、の少なくとも一方において軸ずれを有し、
前記軸ずれは、光の伝搬方向に対して、平面視で垂直方向に生じている、光導波路。
[2] 前記曲線領域は、最小曲率が15mm以下の領域を含む、前記[1]に記載の光導波路。
[3] 前記軸ずれは、軸ずれ量の絶対値が0.2~1μmのものを含む、前記[1]又は[2]に記載の光導波路。
[4] 前記コア部はそれぞれ、前記軸ずれの、軸ずれ量の総和の絶対値が1μm以下である、前記[1]~[3]のいずれか1に記載の光導波路。
[5] 前記コア部のうち少なくとも2本は、前記直線領域及び前記曲線領域を含み、かつ、前記直線領域と前記曲線領域の継ぎ目、及び、前記曲線領域の変曲点、の少なくとも一方において軸ずれを有し、
前記軸ずれは、光の伝搬方向に対して、平面視で垂直方向に生じている、前記[1]~[4]のいずれか1に記載の光導波路。
[6] 前記コア部は、隣に位置するコア部との距離であるピッチが、前記始端と前記終端とで相違し、
前記ピッチの相違は、前記コア部におけるピッチ変換領域により形成され、
前記ピッチ変換領域は、前記曲線領域を含み、
前記ピッチ変換領域におけるコア幅(Wp)は2~8μmである、前記[1]~[5]のいずれか1に記載の光導波路。
[7] 前記ピッチ変換領域におけるコア幅(Wp)に対するコア高さ(Hp)の比(Hp/Wp)が1.0以下である、前記[6]に記載の光導波路。
[8] 前記コア部は、光の伝搬方向に沿って、コア幅が異なる部位を有する、前記[1]~[7]のいずれか1に記載の光導波路。
[9] 前記コア部は、光が伝搬される前記始端と前記終端とでコア幅が異なる、前記[1]~[8]のいずれか1に記載の光導波路。
[10] 前記コア部のコア幅が最も狭い箇所aにおけるコア高さ(Ha)が1.3~4.5μmである、前記[1]~[9]のいずれか1に記載の光導波路。
[11] 前記コア部のコア幅が最も狭い箇所aにおけるコア幅(Wa)に対するコア高さ(Ha)の比(Ha/Wa)が1.25以下である、前記[1]~[10]のいずれか1に記載の光導波路。
[12] 前記コア部の、光が伝搬される前記始端及び前記終端の少なくとも一方を含む領域が、露出した結合部である、前記[1]~[10]のいずれか1に記載の光導波路。
[13] 前記光導波路は、前記コア部を4本以上有し、
すべての前記コア部の、光が伝搬される前記始端において、隣に位置するコア部との距離であるピッチの最大値と最小値の差が2μm以下である、前記[1]~[12]のいずれか1に記載の光導波路。
[14] 前記光導波路は、前記コア部を4本以上有し、
すべての前記コア部の、光が伝搬される前記終端において、隣に位置するコア部との距離であるピッチの最大値と最小値の差が2μm以下である、前記[1]~[13]のいずれか1に記載の光導波路。
[15] 前記コア部の、光が伝搬される前記始端及び前記終端の少なくとも一方において、隣に位置するコア部との距離であるピッチが8~500μmである、前記[1]~[14]のいずれか1に記載の光導波路。
[16] 前記[1]~[15]のいずれか1に記載の光導波路と、半導体基板と、が接続され、
シングルモード伝搬された光が、前記光導波路の前記コア部を介して、前記半導体基板に導入される、光集積デバイス。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る光導波路は、直線領域及び曲線領域を含むコア部を有する光導波路であっても、光の伝搬損失を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、本実施形態に係る光導波路10の一態様を示す模式平面図である。
【
図2】
図2は、本実施形態に係る光導波路10の一態様を示す模式平面図である。
【
図3】
図3は、本実施形態に係る光導波路10において、曲線領域C付近における2本のコア部を拡大した模式平面図である。
【
図4】
図4は、本実施形態に係る光導波路10において、曲線領域C付近における2本のコア部を拡大した模式平面図である。
【
図5】
図5は、ピッチ変換領域における光損失のシミュレーション解析に用いるコア部を平面視したモデルの説明図である。
【
図6】
図6は、
図5の説明図におけるコア部を含むピッチ変換領域における模式断面図である。
【
図7】
図7は、アディアバティック接続部での接続損失に関するシミュレーション解析に用いるモデルにおける、コア部の終端S近傍の模式縦断面図である。
【
図8】
図8は、アディアバティック接続部での接続損失に関するシミュレーション解析に用いるモデルにおける、コア部の終端S近傍の模式横断面図である。
【
図9】
図9は、シングルモード接続部における接続損失のシミュレーション解析に用いるコア部11cの始端Aを含む光導波路10cの評価モデルを示した模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、任意に変形して実施できる。また、数値範囲を示す「~」とは、その前後に記載された数値を下限値及び上限値として含む意味で使用される。
【0013】
《光導波路》
図1は、本実施形態に係る光導波路10の一態様を示す模式平面図である。本実施形態に係る光導波路10は、2本以上のコア部1と、クラッド部2とを有する。
上記コア部1を光が通ることで光が伝搬されるが、本実施形態におけるコア部1はそれぞれ、光が伝搬される始端Aから終端Sまで分岐することなく連続した部位である。
【0014】
コア部1のうち少なくとも1本は、直線領域L(始端A側の直線領域Laと終端S側の直線領域Ls)と曲線領域Cを含む。直線領域Lに曲線領域Cを組み合わせることにより、隣に位置するコア部1との距離であるピッチに関し、コア部1の始端AにおけるピッチPa’と終端SにおけるピッチPsとを異ならせたい場合に有用である。
【0015】
コア部1の始端AにおけるピッチPa’と終端SにおけるピッチPsとを異ならせる場合には、曲線領域Cの長さや曲率を調整すればよいことから、曲線領域Cはピッチ変換領域と称することもある。
【0016】
コア部1の曲線領域Cの曲率は、光導波路10における他のコア部1との位置関係によって異なる。例えば
図1では、外側に位置するコア部1ほど曲線領域Cの曲率は小さく、真ん中に近づくほどコア部1における曲線領域Cの曲率は大きく、直線に近くなる。
【0017】
コア部1の曲線領域Cの曲率は、光導波路10のサイズを小さくする観点からは小さい方が好ましい。一方、曲率が小さすぎると、曲げ損失が大きくなる。これに対し、本実施形態に係る光導波路10は、軸ずれを設けることで、曲率(曲げ半径)を小さくしても曲げ損失が大きくなるのを抑制できる。
【0018】
そこで、本実施形態におけるコア部1の曲線領域Cは、最小曲率が15mm以下の領域を含むことが好ましい。換言すれば、コア部1の曲線領域Cの最小曲率は15mm以下が好ましい。上記最小曲率は12mm以下がより好ましく、11mm以下がさらに好ましく、10mm以下が最も好ましい。一方、上記最小曲率の下限は、例えば2mm以上である。
なお、本明細書におけるコア部1の曲率(曲げ半径)とは、コア部のコア幅の中心部の曲率(曲げ半径)を意味する。
【0019】
上記のような直線領域Lと曲線領域Cを含むコア部1は、少なくとも1本存在すればよいが、2本以上が好ましく、4本以上がさらに好ましく、すべてのコア部が上記直線領域Lと曲線領域Cを含んでもよい。
【0020】
上記最小曲率は、光導波路10を構成する、2本以上存在するすべてのコア部1が満たす必要はなく、例えば、平面視で最も外側に位置するコア部1が満たせばよい。また、真ん中に位置するコア部の曲線領域Cにおける最小曲率は100mm以上や200mm以上であってもよい。また、真ん中に位置するコア部やその周辺のコア部等、曲線領域Cを有さず、直線領域Lのみからなるコア部が存在してもよい。
【0021】
また、
図1では、すべてのコア部1について、始端A側の直線領域Laも、終端S側の直線領域Lsも長さが等しく、曲線領域Cの存在する領域の長さも等しくなっている。しかし、本実施形態は上記態様に限定されない。
【0022】
例えば、
図2に示すように、外側に位置するコア部1ほど直線領域Lが短く、曲線領域Cの存在する領域が長くなり、また、真ん中に近づくほどコア部1における直線領域Lが長く、曲線領域Cの存在する領域が短くなってもよい。また、
図2において、曲線領域Cの曲率は、すべてのコア部1で同一でもよい。
【0023】
本実施形態における直線領域Lと曲線領域Cを含むコア部1は、直線領域Lと曲線領域Cの継ぎ目、及び、曲線領域Cの変曲点、の少なくとも一方において軸ずれを有する。上記軸ずれは、
図3に示すように、光の伝搬方向に対して、平面視で垂直方向に生じる。上記垂直方向とは、曲線領域Cであれば、その曲線の接線に対して垂直な法線方向を意味する。
【0024】
直線領域Lと曲線領域Cを含むコア部1が2本以上存在する場合、そのうちの1本以上が、上記のような軸ずれを有すればよく、その他のコア部の態様は任意である。すなわち、その他のコア部は、直線領域Lのみからなっても、直線領域L及び曲線領域Cを有してもよい。また、軸ずれの有無も任意である。
したがって、直線領域Lと曲線領域Cを含むコア部1が2本以上存在する場合、上記のような軸ずれを有するコア部の本数も任意であり、例えば2本以上のコア部が軸ずれを有していてもよく、すべてのコア部が軸ずれを有していてもよい。
【0025】
上述したように、本実施形態における直線領域Lと曲線領域Cを含むコア部1のうち少なくとも1本は、直線領域Lと曲線領域Cの継ぎ目、及び、曲線領域Cの変曲点、の少なくとも一方において軸ずれを有する。
図4はその一態様であり、符号1で示すコア部の1本は直線領域L及び曲線領域Cを含み、かつ光の伝搬方向に対して、平面視で垂直方向に軸ずれを生じており、符号1’で示す他のコア部は直線領域L及び曲線領域Cを含むものの、軸ずれを有していない例である。
【0026】
図3は、本実施形態に係る光導波路10において、曲線領域C付近における2本のコア部1を拡大した模式平面図であるが、光の伝搬損失は、直線領域Lと曲線領域Cの継ぎ目、及び、曲線領域Cの変曲点において主として発生する。これに対して、上記直線領域Lと曲線領域Cの継ぎ目、及び、曲線領域Cの変曲点において軸ずれを生じさせることで、上記光の伝搬損失を好適に低減できるようになる。
【0027】
具体的には、
図3に示すように、コア部1の始端A側の直線領域Laと曲線領域Cとの継ぎ目X1に軸ずれを有する。また、曲線領域Cにおける変曲点X2、すなわち、曲線において上に凸の状態と下に凸の状態との変わり目の点にも軸ずれを有する。さらに、曲線領域Cとコア部1の終端S側の直線領域Lsとの継ぎ目X3にも軸ずれを有する。
【0028】
本実施形態におけるコア部1はそれぞれ、上記継ぎ目X1、変曲点X2及び継ぎ目X3のうち1以上に軸ずれを有すればよいが、それらすべてに軸ずれを有することが、光伝搬損失をより低減する観点から好ましい。
【0029】
本実施形態におけるコア部1の軸ずれは、軸ずれ量の絶対値が0.2~1μmのものを含むことが好ましい。ここで、光の伝搬損失をより低減させる観点から、上記軸ずれ量の絶対値は0.2μm以上のものを含むことが好ましく、0.3μm以上のものを含むことがより好ましく、0.4μm以上のものを含むことがさらに好ましい。また、隣に位置するコア部との、始端A及び終端Sにおける距離であるピッチを小さくする観点から、上記軸ずれ量の絶対値は1μm以下のものを含むことが好ましく、0.8μm以下のものを含むことがより好ましく、0.6μm以下のものを含むことがさらに好ましい。
【0030】
なお、上記コア部1が複数の軸ずれを有する場合には、そのうち1つ以上が上記軸ずれ量の絶対値の範囲を満たすことが好ましく、すべての軸ずれが上記範囲を満たすことがより好ましい。
【0031】
また、本実施形態に係る光導波路が、直線領域及び曲線領域を含み、かつ軸ずれを有するコア部を2本以上有する場合には、軸ずれを有するコア部の2本以上が上記軸ずれ量の絶対値の範囲を満たすことが好ましく、すべてのコア部が上記軸ずれ量の絶対値の範囲を満たすことがより好ましい。また、それらのすべての軸ずれが、上記範囲を満たすことがさらに好ましい。
【0032】
本実施形態におけるコア部1はそれぞれ、軸ずれの軸ずれ量の総和の絶対値は1μm以下が好ましい。ここで、軸ずれは、例えば
図3において、継ぎ目X1での軸ずれを負側への軸ずれとすると、変曲点X2での軸ずれが正側への軸ずれ、継ぎ目X3での軸ずれが負側への軸ずれとなる。そして、軸ずれ量の総和の絶対値とは、上記正負を加味した継ぎ目X1、変曲点X2及び継ぎ目X3での各軸ずれの総和の絶対値を意味する。
【0033】
上記軸ずれ量の総和の絶対値は始端Aまたは終端Sにおける隣に位置するコア部とのピッチ間隔を揃える観点から1μm以下が好ましく、0.7μm以下がより好ましく、0.4μm以下がさらに好ましく、0.2μm以下が最も好ましく、0μmでもよい。
【0034】
本実施形態におけるコア部1は、光の伝搬方向に沿ってコア幅が異なる部位を有していてもよい。例えば、光が伝搬される始端Aと終端Sとでコア幅が異なっていてもよい。これは、シリコンフォトニクスにおいて、始端Aが光ファイバに、終端SがSiチップ(シリコン光導波路)に接続されるなど、その態様に応じて、始端Aと終端Sとで求められる性能が異なり、好適なコア幅も異なるためである。
なお、本明細書におけるコア幅とは、コア部1における光の伝搬方向に垂直な断面における、光導波路10の厚み方向と垂直方向におけるコアの幅を意味する。
【0035】
コア部1の上記断面における形状が矩形状以外である場合には、上記断面における光導波路10の厚み方向と垂直方向におけるコアの幅の平均値をコア幅とする。
矩形状以外の形状としては、例えば、台形、円形、楕円形、多角形等が挙げられ、また、矩形、台形、多角形等の頂点が丸みを帯びたような形状でもよい。
【0036】
コア幅が始端Aと終端Sとで異なる場合、始端Aから終端Sの全体にかけて徐々にコア幅を変化させてもよく、始端Aから終端Sの一部の領域でコア幅を変化させてもよい。
始端Aから終端Sの一部の領域でコア幅を変化させる場合には、曲線領域での安定した光伝搬の観点から始端A側の直線領域Laでコア幅を変化させる領域を含むことがより好ましい。
【0037】
本実施形態におけるコア部1の、コア幅が最も狭い箇所aにおけるコア幅Waは1.3~4.5μmが好ましい。上記箇所aとは、例えば始端Aにおけるコア幅であり、この場合には、コア幅Wa’=コア幅Waとなる。
上記コア幅Waは、後述する比(Ha/Wa)を好適な範囲とする観点から、1.3μm以上が好ましく、1.5μm以上がより好ましく、1.8μm以上がさらに好ましく、2.0μm以上がよりさらに好ましく、また、4.5μm以下が好ましく、4.0μm以下がより好ましく、3.5μm以下がさらに好ましく、3.0μm以下がよりさらに好ましい。
【0038】
上記コア幅が最も狭い箇所aにおけるコア高さHaは1.3~4.5μmが好ましい。上記コア高さHaは、シングルモード光ファイバとの接続時の損失を低減する観点から1.3μm以上が好ましく、1.4μm以上がより好ましく、1.5μm以上がさらに好ましく、1.6μm以上がよりさらに好ましく、1.8μm以上が特に好ましい。また、コア部の膜剥がれを抑制する観点から、上記コア高さHaは4.5μm以下が好ましく、3.0μm以下がより好ましく、2.5μm以下がさらに好ましく、2.1μm以下がよりさらに好ましい。
なお、本明細書におけるコア高さとは、コア部1における光の伝搬方向に垂直な断面における、光導波路10の厚み方向でのコア部1の高さを意味する。
【0039】
上記コア幅が最も狭い箇所aにおけるコア幅(Wa)に対するコア高さ(Ha)の比(Ha/Wa)は1.25以下が好ましい。上記比(Ha/Wa)は、コア部の膜剥がれを抑制する観点から1.25以下が好ましく、1.15以下がより好ましく、1.05以下がさらに好ましく、0.95以下がよりさらに好ましい。また、偏波依存性損失を小さく抑える観点から、上記比(Ha/Wa)は0.4以上が好ましく、0.6以上がより好ましく、0.7以上がさらに好ましく、0.8以上が最も好ましい。
【0040】
本実施形態におけるコア部1の、終端Sにおけるコア幅Wsは3~8μmが好ましい。ここで、シリコン光導波路と接続する際の損失を低減する観点から、上記コア幅Wsは3μm以上が好ましく、3.5μm以上がより好ましく、4μm以上がさらに好ましい。また、同様の観点から、上記コア幅Wsは8μm以下が好ましく、7μm以下がより好ましく、6μm以下がさらに好ましい。
【0041】
本実施形態におけるコア部1は、隣に位置するコア部との距離であるピッチが、始端Aと終端Sとで相違する場合、上記ピッチの相違は、曲線領域Cを含むピッチ変換領域により実現される。
【0042】
上記コア部1のピッチ変換領域におけるコア幅(Wp)は2~8μmが好ましい。ここで、曲線領域Cにおける曲げ損失を低減する観点から、上記コア幅(Wp)は2μm以上が好ましく、2.5μm以上がより好ましく、3μm以上がさらに好ましく、3.5μm以上がよりさらに好ましく、4μm以上がことさらに好ましく、4.5μm以上が特に好ましい。また、伝搬する光のモードの乱れを抑制する観点から、上記コア幅(Wp)は8μm以下が好ましく、6μm以下がより好ましく、5.5μm以下がさらに好ましく、5μm以下が特に好ましい。
【0043】
ピッチ変換領域におけるコア幅(Wp)は一定であることが安定して光伝搬させる観点から好ましいが、ピッチ変換領域においてコア幅(Wp)が変化する態様を何ら排除するものではない。ピッチ変換領域においてコア幅(Wp)が変化する場合、ピッチ変換領域の少なくとも一部におけるコア幅(Wp)が上記範囲内にあることが好ましい。
【0044】
上記コア部1のピッチ変換領域におけるコア高さ(Hp)は1.3~4.5μmが好ましい。上記コア高さHpは、シングルモード光ファイバとの接続時の損失を低減する観点から1.3μm以上が好ましく、1.4μm以上がより好ましく、1.5μm以上がさらに好ましく、1.6μm以上がよりさらに好ましく、1.8μm以上が特に好ましい。また、コア部の膜剥がれを抑制する観点から、上記コア高さHpは4.5μm以下が好ましく、3.0μm以下がより好ましく、2.5μm以下がさらに好ましく、2.1μm以下がよりさらに好ましい。
なお、上記コア部1のコア高さは、光の伝搬方向に沿って基本的には一定である。そのため、上記コア高さHpとコア高さHaとは同様の範囲が好ましい。また、コア部1の終端S等のコア幅が最も広い領域のコア高さも、上記と同様の範囲が好ましい。
【0045】
上記コア部1のピッチ変換領域におけるコア幅(Wp)に対するコア高さ(Hp)の比(Hp/Wp)は、1.0以下が好ましい。ここで、軸ずれを含むコア部1の形成のしやすさの観点から、上記比(Hp/Wp)は0.9以下が好ましく、0.8以下がより好ましく、0.7以下がさらに好ましく、0.6以下が最も好ましい。また、偏波依存性損失を小さく抑える観点から、上記比(Hp/Wp)は0.2以上が好ましい。
【0046】
本実施形態に係る光導波路10は、並列したコア部1を2本以上有せばよいが、4本以上、6本以上、8本以上等でもよい。並列したコア部の本数の上限は特に限定されないが、例えば1024本以下である。
また、並列したコア部1は、3本や5本等の奇数でもよい。
【0047】
本実施形態に係る光導波路10は、コア部1を4本以上有する場合において、すべてのコア部1の、光が伝搬される始端Aにおいて、隣に位置するコア部1との距離であるピッチの最大値と最小値の差が2μm以下であってもよい。これにより始端Aにおける隣に位置するコア部とのピッチの間隔を等しく揃えることができる。
上記差は2μm以下が好ましく、1.5μm以下がより好ましく、1μm以下がさらに好ましく、0μm、すなわち、すべてのコア部1が始端Aにおいて等間隔に存在していてもよい。
【0048】
本実施形態に係る光導波路10は、コア部1を4本以上有する場合において、すべてのコア部1の、光が伝搬される終端Sにおいて、隣に位置するコア部1との距離であるピッチの最大値と最小値の差が2μm以下であってもよい。これにより終端Sにおける隣に位置するコア部とのピッチの間隔を等しく揃えることができる。
上記差は2μm以下が好ましく、1.5μm以下がより好ましく、1μm以下がさらに好ましく、0μm、すなわち、すべてのコア部1が終端Sにおいて等間隔に存在していてもよい。
【0049】
本実施形態に係る光導波路10は、コア部1の、光が伝搬される始端A及び終端Sの少なくとも一方において、隣に位置するコア部1との距離であるピッチが8~500μmであることが好ましい。ここで、クロストークを抑制する観点から、上記ピッチは8μm以上が好ましく、15μm以上がより好ましく、25μm以上がさらに好ましい。また、高密度に光配線する観点から、上記ピッチは500μm以下が好ましく、130μm以下がより好ましく、80μm以下がさらに好ましく、60μm以下が最も好ましい。
【0050】
シリコンフォトニクスにおいて、例えば、上記コア部の始端Aから光ファイバからシングルモード光が伝搬される場合、上記始端Aにおけるピッチは50~500μmが好ましい。ここで、上記ピッチは50μm以上が好ましく、80μm以上がより好ましく、125μm以上がさらに好ましく、また、500μm以下が好ましく、250μm以下がより好ましく、130μm以下がさらに好ましい。
【0051】
シリコンフォトニクスにおいて、例えば、上記コア部の終端SがSiチップ(シリコン光導波路)に結合する結合部である場合、上記終端Sにおけるピッチは8~100μmが好ましい。ここで、上記ピッチは8μm以上が好ましく、12μm以上がより好ましく、20μm以上がさらに好ましく、30μm以上がさらに好ましい。また、上記終端Sにおけるピッチは100μm以下が好ましく、80μm以下がより好ましく、60μm以下がさらに好ましく、40μm以下が最も好ましい。
【0052】
本実施形態に係る光導波路10は、コア部1の始端A及び終端Sの少なくとも一方を含む領域が、露出した結合部であってもよい。コア部1が露出するとは、光導波路10の最表面にコア部1が位置しており、かかる領域のクラッド部2はアンダークラッドのみ存在し、オーバークラッドを有さないことを意味する。
シリコンフォトニクスにおいて、上記コア部1の一部の領域が露出した結合部は、例えばシリコン光導波路とのアディアバティック結合部として用いられる。
【0053】
上記結合部の、光導波路10の光伝搬方向における長さは100~10000μmが好ましい。ここで、シリコン光導波路との接続部位として使用するための十分な長さを確保する観点から、上記長さは100μm以上が好ましく、300μm以上がより好ましく、500μm以上がさらに好ましく、1000μm以上が特に好ましい。一方で、シリコン光導波路とエポキシ樹脂等の接着剤を使って接続する際に、接着剤の吸収による接続損失を抑制する観点から、上記長さは10000μm以下が好ましく、5000μm以下がより好ましく、3000μm以下がさらに好ましい。
【0054】
本実施形態におけるコア部1は、その内部に屈折率分布を有していてもよい。この場合、コアの中心に対し遠位側に向けて屈折率が低くなる屈折率分布を有していてもよい。また、オーバークラッド部側の屈折率が高くてアンダークラッド部側の屈折率が低くなる屈折率分布を有していてもよいし、オーバークラッド部側の屈折率が低くてアンダークラッド部側の屈折率が高くなる屈折率分布を有していてもよい。
なお、本明細書における屈折率とは、室温で測定される値である。
【0055】
なお、コア部1は光が通る領域を意味するが、コア部1が屈折率分布を有する場合は、コア部における屈折率の最大値Nmaxと、クラッド部の屈折率Nとを用いて、(Nmax-N)で表される屈折率差をΔnとした際に、屈折率が{N+(Δn/2)}で表される値以上となる領域をコア部とする。
【0056】
本実施形態におけるクラッド部2はコア部1よりも屈折率が低ければよい。クラッド部2は、単一の屈折率を有するものであってもよく、コア部1に対し近位側と遠位側とで屈折率が異なる部位を有していてもよい。この場合、コア部1に対し遠位側に向けて屈折率が低くなる構成であってもよく、コア部1に対し遠位側に向けて屈折率が高くなる構成であってもよい。
【0057】
本実施形態に係る光導波路10において、コア部1とクラッド部2との比屈折率差は、シングルモード光ファイバとの接続時の損失を低減する観点、及び、曲線領域Cにおける曲げ損失を抑制する観点から、0.006~0.017が好ましく、0.007以上がより好ましく、0.008以上がさらに好ましく、また、0.015以下がより好ましく、0.012以下がさらに好ましく、0.011以下がよりさらに好ましい。
【0058】
上記比屈折率差は、下記式により求められる。
比屈折率差=(コア部の屈折率-クラッド部の屈折率)/クラッド部の屈折率
【0059】
なお、上述したように、コア部1が内部に屈折率分布を有する場合や、クラッド部2がコア部1に対し近位側と遠位側とで屈折率が異なる部位を有する場合は、コア部1とクラッド部2との比屈折率差は、コア部1の屈折率についてはその平均値を、クラッド部2の屈折率についてはコア部1近傍の屈折率を、それぞれ用いて求める。
【0060】
本実施形態に係る光導波路10は、例えば光集積デバイスに搭載できる。光集積デバイスの一態様として、光導波路10と半導体基板とが接続され、シングルモード伝搬された光が、上記光導波路10のコア部1を介して、上記半導体基板に導入される。上記半導体基板は、例えばシリコン半導体基板が好ましい。
また、本実施形態に係る光導波路10は上記に限らず、プラガブルデバイスにも搭載できる。
【0061】
《製造方法》
本実施形態に係る光導波路10の製造方法は特に限定されず、各種方法を採用できる。具体的には、複製(スタンパ)法、直接露光法、反応性イオンエッチング(RIE)とフォトリソグラフィプロセスを組み合わせる方法、射出成形をもとにした方法、フォトブリーチング法、直接描画法、自己形成法、イオン交換法、レーザー照射法、スパッタ法等が挙げられる。
【0062】
本実施形態に係る光導波路10の製造方法の一態様について説明する。
まず、スピンコート法により、基板上にクラッド部2の構成材料である硬化性組成物(A)を含有する塗布液を塗布する。続いて、該硬化性組成物(A)を硬化させてクラッド部2を形成する。
【0063】
次に、スピンコート法により、上記クラッド部2の上にコア部1の構成材料、例え硬化性組成物(B)を含有する塗布液を塗布する。続いて、フォトリソグラフィプロセスにより、該硬化性組成物(B)をパターニングし、クラッド部2の上にコア部1を形成する。このとき、コア部1において、軸ずれを有する箇所には、所望する軸ずれした形状となるようにフォトマスクを用いて露光を行った後、現像することによってコア部1を形成すればよい。また、コア部1を形成した後、必要に応じてポストベークを行ってもよい。
【0064】
コア部1の上に、さらにオーバークラッドとなるクラッド部2を形成したい場合には、上記コア部1の上にオーバークラッドの構成材料となる硬化性組成物(C)を含有する塗布液を塗布する。硬化性組成物(C)は硬化性組成物(B)と同じ材料であってもよいし、異なる材料でもよい。
続いて、該硬化性組成物(C)を硬化させてオーバークラッドとなるクラッド部2を形成する。この際、フォトリソグラフィプロセスにより、オーバークラッドが存在せず、コア部1および該コア部1の周辺のアンダークラッドとなるクラッド部2が露出した結合部を形成できる。
【実施例0065】
以下、具体的な実施例を基に、本発明を説明する。なお、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
なお、例1~例52まで試験を行ったが、いずれも光伝搬のシミュレーションによる試験例である。そこで、すべての例について、直線領域と曲線領域の継ぎ目、及び、曲線領域の変曲点、の少なくとも一方において軸ずれを有する場合と、軸ずれを有さない場合についての検討を行った。そのため例1~例52の評価では、いずれも軸ずれを有する実施例の結果と、軸ずれを有さない比較例の結果の双方を示している。
【0066】
《例1~例52》
例1~例52では、シミュレーション・エンジンである双方向BPM法による光ファイバ・導波路設計・解析ソフトウェアBeamPROP(Synopsys社製)を使用し、TEモードとTMモードの光伝搬のシミュレーションを有限差分ビーム伝搬法で行った。
【0067】
《評価方法》
〈ピッチ変換領域における光損失:軸ずれの有無による〉
光導波路にピッチ変換領域における損失のシミュレーション解析を行った。
評価モデルには、光導波路のピッチ変換領域を疑似的に模擬するため、
図4のコア部を平面視した説明図に示すように、水平方向に一定の曲率半径(曲げ半径R)で湾曲する部位と、上記と曲率の絶対値が同じで、曲率が負で湾曲する部位とを繋げて、S字構造の曲線領域Cを有するコア部1を用いた。そして、上記コア部1について、直線領域Laと曲線領域Cとの継ぎ目をX1とし、曲線領域Cにおいて曲げ半径がR(mm)で曲率が正から負へとなる変曲点をX2とし、曲線領域Cから直線領域Lsとの継ぎ目をX3とし、上記継ぎ目X1、変曲点X2、継ぎ目X3における軸ずれ量をそれぞれ設定した。
ここで、曲線領域Cはピッチ変換領域と称される領域となるが、ピッチ変換領域の存在により生じた始端Aと終端Sとにおけるコア部1の、コア幅と平行な方向におけるコア幅の中心間の変位量をピッチ変換距離α(μm)とする。
【0068】
図6は、
図5の説明図におけるコア部を含むピッチ変換領域における模式断面図である。
図6に示すように、光導波路10aは、コア部のピッチ変換領域を模擬する疑似ピッチ変換領域として、水平方向に一定の曲げ半径R(mm)で湾曲するコア部11が、クラッド部のうちアンダークラッド部21aとオーバークラッド部22aとで被覆されたコア湾曲部を有する。
ピッチ変換領域におけるコア幅はWp(μm)、コア高さはHp(μm)とし、コア幅Wp、コア高さHpは共に、一定で変化しないこととした。
【0069】
各実施例の評価モデルにおける構造は以下のとおりである。
・コア部11a:ピッチ変換領域(曲線領域C)
コア幅Wp (下記表に記載の通り)
コア高さHp(下記表に記載の通り)
屈折率 (下記表に記載の通り)
ピッチ変換距離α (下記表に記載の通り)
曲げ半径R (下記表に記載の通り)
【0070】
・クラッド部:アンダークラッド部21a
クラッド幅 60μm
クラッド高さ 30μm
屈折率 (下記表に記載の通り)
【0071】
・クラッド部:オーバークラッド部22a
クラッド幅 60μm
クラッド高さ 30μm
屈折率 (アンダークラッドの屈折率と同じ)
【0072】
・軸ずれ量
継ぎ目X1 (下記表に記載の通り)
変曲点X2 (下記表に記載の通り)
継ぎ目X3 (下記表に記載の通り)
【0073】
シミュレーション解析により、上記軸ずれを有する場合と軸ずれを有さない場合の、光損失の結果を下記表に示す。
【0074】
【0075】
【0076】
【0077】
【0078】
【0079】
【0080】
〈アディアバティック接続部からシングルモード接続部までの光損失〉
始端Aをシングルモード光の光ファイバとのシングルモード接続部とし、そこから直線領域La、ピッチ変換領域である曲線領域C、及び直線領域Lsを有し、終端Sをシリコン光導波路とのアディアバティック接続部とするコア部1を有する光導波路10について、上記シングルモード接続部での接続損失、光導波路におけるピッチ変換領域での光損失、及びアディアバティック接続部における接続損失をシミュレーションにより求めた。
上記ピッチ変換領域は、例9の構成と同様の構成とした。
【0081】
(1.アディアバティック接続部の接続損失)
光導波路とシリコン光導波路とのアディアバティック接続部における接続損失のシミュレーション解析は、以下の評価モデルで行った。
図7及び
図8は、アディアバティック接続部での接続損失に関するシミュレーション解析に用いる評価モデルにおける、コア部の終端S近傍の模式縦断面図及び模式横断面図である。
【0082】
図7には、光導波路10bの終端Sとなるアディアバティック接続部が示されている。そのため、アディアバティック接続部における光導波路10bは、コア部11bとクラッド部であるアンダークラッド部21bはコア部を全面に覆われない領域が示されている。そして、
図8に示すように、光導波路10bの光導波部は、コア部11bがアンダークラッド部21bと接し、オーバークラッド部では覆われていない剥き出しとなる領域と、コア部11bがアンダークラッド部21bとオーバークラッド部22bとに覆われている領域とを有する。
【0083】
アディアバティック接続部におけるシリコン光導波路30は、
図7に示すようにコア部31と、クラッド部32とで構成されている。
上記光導波路10bとシリコン光導波路30とは、
図8に示すように、光導波路10bのコア部11bと、シリコン光導波路30のコア部31とが対向した状態で配置され、接着剤40により接合されている。シリコン光導波路30の接着剤40側の表面にはバリア層50が形成されている。
【0084】
評価モデルにおける構造は以下のとおりである。
・光導波路10b
・・コア部11b(終端S側)
コア幅Ws 5.0μm
コア高さHs 2.1μm
屈折率 1.53
アディアバティック結合部60の長さ 1750μm
・・クラッド部:アンダークラッド部21b
厚さ 15μm
長さ 3050μm
屈折率 1.518
・・クラッド部:オーバークラッド部22b
厚さ 15μm
長さ 1000μm
屈折率 1.518
【0085】
・シリコン光導波路30
・・コア部31
幅 アディアバティック結合部60の反対側の端から、アディアバティック結合部60の端にかけて0.35μmから0.07μmに2次関数で狭くなる構成
高さ 0.16μm
屈折率 3.45
アディアバティック結合部60の長さ 1750μm
・・クラッド部32
厚さ 15μm
屈折率 1.45
クラッド部32のみが存在する領域61の長さ 250μm
【0086】
・接着剤40
樹脂厚(光導波路10bのコア部11bと、シリコン光導波路30のコア部31のそれぞれが向かい合う側の面の距離) 0.5μm
屈折率 1.51
シリコン光導波路30と光導波路10bの光導波部との間の領域62の長さ 50μm
【0087】
・バリア層50
厚さ 0.03μm
屈折率 1.989
【0088】
(2.ピッチ変換領域での光損失)
評価モデルにおけるピッチ変換領域は、例9の構成と同様の構成とした。すなわち、継ぎ目X1における軸ずれ量は-0.2μm、変曲点X2における軸ずれ量は0.4μm、かつ、継ぎ目X3における軸ずれ量は-0.2μmの構造とした。
【0089】
(3.シングルモード接続部の接続損失)
光導波路とシングルモード光の光ファイバとのシングルモード接続部、すなわちシングルモード光ファイバとの正対(バット)接続部における接続損失のシミュレーション解析は、以下の評価モデルで行った。
【0090】
図9は、シングルモード接続部における接続損失のシミュレーション解析に用いるコア部11cの始端Aを含む光導波路10cの評価モデルを示した模式断面図である。
図9に示すように、光導波路10cは、コア部11cがクラッド部であるアンダークラッド部21cとオーバークラッド部22cとで被覆された、直線領域Laに相当する箇所の光導波である。
【0091】
評価モデルにおける構造は以下のとおりである。
・光導波路10c
・・コア部11c(始端A側)
コア幅Wa 2.1μm
コア高さHa 2.1μm
屈折率 1.53
長さ 3000μm
・・クラッド部:アンダークラッド部21c
厚さ 15μm
長さ 3000μm
屈折率 1.518
・・クラッド部:オーバークラッド部22c
厚さ 15μm
長さ 3000μm
屈折率 1.518
【0092】
・シングルモード光ファイバ
コア径 8.2μm
コア屈折率 1.4698
クラッド屈折率 1.4656
【0093】
以上のアディアバティック接続部の接続損失、ピッチ変換領域での光損失及びシングルモード接続部の接続損失のシミュレーション解析の結果、アディアバティック接続部の接続損失はTEモードが0.27dBであり、TMモードが0.56dBであった。ピッチ変換領域の光損失はTEモードが0.04dBであり、TMモードが0.04dBであった。シングルモード接続部の接続損失はTEモードが0.44dBであり、TMモードが0.44dBであった。すなわち、これらの合計である、アディアバティック接続部からシングルモード接続部までの光損失がTEモードが0.75dBであり、TMモードが1.04dBである光導波路が得られる。