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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024142143
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】液晶性樹脂の解重合方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 11/10 20060101AFI20241003BHJP
【FI】
C08J11/10 ZAB
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023054172
(22)【出願日】2023-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】390006323
【氏名又は名称】ポリプラスチックス株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】304023318
【氏名又は名称】国立大学法人静岡大学
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100111235
【弁理士】
【氏名又は名称】原 裕子
(74)【代理人】
【識別番号】100170575
【弁理士】
【氏名又は名称】森 太士
(72)【発明者】
【氏名】岡島 いづみ
(72)【発明者】
【氏名】森 健登
(72)【発明者】
【氏名】川口 邦明
(72)【発明者】
【氏名】阿久津 裕明
【テーマコード(参考)】
4F401
【Fターム(参考)】
4F401AA22
4F401AA24
4F401BA06
4F401CA10
4F401CA13
4F401CA14
4F401CA67
4F401CA68
4F401CA75
4F401CB01
4F401CB14
4F401EA12
4F401EA17
4F401EA21
4F401EA59
4F401FA01Z
(57)【要約】
【課題】芳香族ヒドロキシカルボン酸に由来する構造単位を構成成分として有する液晶性樹脂の当該構造単位に由来するモノマーを十分な回収率で回収することができる液晶性樹脂の解重合方法を提供する。
【解決手段】液晶性樹脂とメタノールと金属酸化物とを混合するステップAと、メタノールを超臨界状態とし、金属酸化物の存在下で、液晶性樹脂と前記メタノールとを反応させて、液晶性樹脂を解重合するステップBと、を含み、液晶性樹脂は、芳香族ヒドロキシカルボン酸に由来する構造単位を構成成分として有する芳香族ポリエステル又は芳香族ポリエステルアミドである、液晶性樹脂の解重合方法である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
液晶性樹脂とメタノールと金属酸化物とを混合するステップAと、
前記メタノールを超臨界状態とし、前記金属酸化物の存在下で、前記液晶性樹脂と前記メタノールとを反応させて、前記液晶性樹脂を解重合するステップBと、を含み、
前記液晶性樹脂は、芳香族ヒドロキシカルボン酸に由来する構造単位を構成成分として有する芳香族ポリエステル又は芳香族ポリエステルアミドである、液晶性樹脂の解重合方法。
【請求項2】
前記ステップBにおいて、反応温度を240~350℃とする、請求項1に記載の液晶性樹脂の解重合方法。
【請求項3】
前記金属酸化物が、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化亜鉛及び酸化マグネシウムからなる群より選択される1以上を含む、請求項1又は2に記載の液晶性樹脂の解重合方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶性樹脂の解重合方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶性樹脂は、優れた流動性、機械強度、耐熱性、耐薬品性、電気的性質等をバランス良く有するため、高機能エンジニアリングプラスチックスとして広く利用されている。その一方で、地球環境保護のための資源の有効利用という点から、エンジニアリングプラスチックスの有効なリサイクル化が求められている。リサイクル方法としては、例えば、ケミカルリサイクル方法、マテリアルリサイクル方法及びサーマルリサイクル方法などが知られている(特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1においては、全芳香族ポリエステルを加圧下脂肪族一価アルコール中150℃以上の温度で解重合反応させ、芳香族ジカルボン酸ジエステル並びに芳香族ジヒドロキシ化合物を回収するに際し、(1)全芳香族ポリエステル樹脂に加圧下脂肪族一価アルコール中150℃以上の温度で解重合反応させる第1工程、(2)第1工程で得られた反応混合物から芳香族ジカルボン酸ジエステルを晶析分離する第2工程、(3)第2工程で残留した母液から脂肪族一価アルコールを蒸留により溜去する第3工程、(4)第3工程で残留した高沸点の混合物に溶解度パラメーター(δs)が10.5以下の溶媒により晶析し、芳香族ジヒドロキシ化合物を分離する第4工程よりなる全芳香族ポリエステルのリサイクル方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003-147121号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載された全芳香族ポリエステルのリサイクル方法においては、対象とする全芳香族ポリエステルは、芳香族ジカルボン酸と芳香族ジヒドロキシ化合物とをモノマー由来とするものである。芳香族ヒドロキシカルボン酸に由来する構造単位を構成成分として有する芳香族ポリエステル又は芳香族ポリエステルアミドについては記載されていない。
【0006】
本発明は、上記従来の問題点に鑑みなされたものであり、その課題は、芳香族ヒドロキシカルボン酸に由来する構造単位を構成成分として有する液晶性樹脂の当該構造単位モノマーを十分な回収率で回収することができる液晶性樹脂の解重合方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、前記課題を解決するために鋭意検討した結果、液晶性樹脂に対する超臨界状態のメタノールの反応において、金属酸化物の存在下で良好な回収率で回収可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
前記課題を解決する本発明の一態様は以下の通りである。
(1)液晶性樹脂とメタノールと金属酸化物とを混合するステップAと、
前記メタノールを超臨界状態とし、金属酸化物の存在下で、前記液晶性樹脂と前記メタノールとを反応させて、前記液晶性樹脂を解重合するステップBと、を含み、
前記液晶性樹脂は、芳香族ヒドロキシカルボン酸に由来する構造単位を構成成分として有する芳香族ポリエステル又は芳香族ポリエステルアミドである、液晶性樹脂の解重合方法。
【0009】
(2)前記ステップBにおいて、反応温度を240~350℃とする、前記(1)に記載の液晶性樹脂の解重合方法。
【0010】
(3)前記金属酸化物が、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化亜鉛及び酸化マグネシウムからなる群より選択される1以上を含む、前記(1)又は(2)に記載の液晶性樹脂の解重合方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、芳香族ヒドロキシカルボン酸に由来する構造単位を構成成分として有する液晶性樹脂の当該構造単位モノマーを十分な回収率で回収することができる液晶性樹脂の解重合方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本実施形態の液晶性樹脂の解重合方法は、液晶性樹脂とメタノールと金属酸化物とを混合するステップAと、メタノールを超臨界状態とし、金属酸化物の存在下で、液晶性樹脂とメタノールとを反応させて、液晶性樹脂を解重合するステップBと、を含む。そして、液晶性樹脂は、芳香族ヒドロキシカルボン酸に由来する構造単位を構成成分として有する芳香族ポリエステル又は芳香族ポリエステルアミドである。
【0013】
本実施形態の液晶性樹脂の解重合方法においては、解重合の対象とする液晶性樹脂は、芳香族ヒドロキシカルボン酸に由来する構造単位を構成成分として有する芳香族ポリエステル又は芳香族ポリエステルアミドである。そして、ステップAにおいて、液晶性樹脂とメタノールと金属酸化物とを混合する。次いで、ステップBにおいて、メタノールを超臨界状態とし、金属酸化物の存在下で、液晶性樹脂とメタノールとを反応させて、液晶性樹脂を解重合する。そのようなステップA及びステップBによって、モノマー成分を十分な回収率で回収することができる。これは、金属酸化物の存在により、液晶性樹脂の解重合反応が促進されると推察される。
なお、本実施形態の解重合方法により回収されるのは、主として、芳香族ヒドロキシカルボン酸又はその誘導体のメチルエステルである。従って、回収されるものは、液晶性樹脂を構成するモノマーとは厳密には言えないが、別の化合物に分解されるのではなく、芳香族ヒドロキシカルボン酸の構造を保ったまま回収されることから、回収する成分について、便宜上、液晶性樹脂を構成するモノマーと呼ぶこととする。
以下、本実施形態の液晶性樹脂の解重合方法の各ステップについて詳述する。
【0014】
[ステップA]
ステップAにおいては、液晶性樹脂とメタノールと金属酸化物とを混合する。本実施形態において、解重合の対象となる液晶性樹脂は、上記の通り、芳香族ヒドロキシカルボン酸に由来する構造単位を構成成分として有する芳香族ポリエステル又は芳香族ポリエステルアミドである。全芳香族ポリエステルとしては、芳香族ヒドロキシカルボン酸に由来する構造単位を少なくとも含み、例えば、下記(1)及び(2)のものを挙げることができる。
(1)主として芳香族ヒドロキシカルボン酸およびその誘導体の1種又は2種以上からなるポリエステル。
(2)主として(a)芳香族ヒドロキシカルボン酸およびその誘導体の1種又は2種以上と、(b)芳香族ジカルボン酸、脂環族ジカルボン酸およびその誘導体の1種又は2種以上と、(c)芳香族ジオール、脂環族ジオール、脂肪族ジオールおよびその誘導体の少なくとも1種又は2種以上、とからなるポリエステル。
【0015】
芳香族ヒドロキシカルボン酸としては、例えば、p-ヒドロキシ安息香酸、6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸、m-ヒドロキシ安息香酸、6-ヒドロキシ-3-ナフトエ酸、6-ヒドロキシ-4-ナフトエ酸、4-ヒドロキシ-4’-カルボキシジフェニルエーテル、2,6-ジクロロ-p-ヒドロキシ安息香酸、2-クロロ-p-ヒドロキシ安息香酸、2,6-ジメチル-p-ヒドロキシ安息香酸、2,6-ジフルオロ-p-ヒドロキシ安息香酸、4-ヒドロキシ-4’-ビフェニルカルボン酸、バニリン酸等を挙げることができる。
本実施形態において、芳香族ヒドロキシカルボン酸に由来する構造単位としては、p-ヒドロキシ安息香酸、6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸に由来する構造単位が好ましい。特に、6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸は高価であることから、6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸メチルとして回収してリサイクルできれば有用である。
【0016】
芳香族ジカルボン酸としては、特に限定されず、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、4,4’-ジフェニルジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、及び下記一般式(I)で表される化合物等を挙げることができる。
【0017】
【化1】
(Y:-(CH-(n=1~4)及び-O(CHO-(n=1~4)より選ばれる基である。)
【0018】
脂環族ジカルボン酸としては、特に限定されず、例えば、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、1,3-シクロペンタンジカルボン酸等を挙げることができる。重合可能な誘導体としては、特に限定されず、例えば、上記化合物のアルキルエステル(炭素原子数1~4程度)、ハロゲン化物等を挙げることができる。
【0019】
芳香族ジオールとしては、特に限定されず、例えば、2,6-ジヒドロキシナフタレン、1,4-ジヒドロキシナフタレン、4,4’-ジヒドロキシビフェニル、ハイドロキノン、レゾルシン、下記一般式(II)で表される化合物、及び下記一般式(III)で表される化合物等を挙げることができる。
【0020】
【化2】
(X:アルキレン(C~C)、アルキリデン、-O-、-SO-、-SO-、-S-、及び-CO-より選ばれる基である。)
【0021】
【化3】
【0022】
脂環族ジオールとしては、特に限定されず、例えば、1,4-シクロヘキサンジメタノール、1,4-シクロヘキサンジオール等を挙げることができる。重合可能な誘導体としては、特に限定されず、上記化合物のアルキルエステル(炭素原子数1~4程度)、ハロゲン化物等を挙げることができる。
【0023】
一方、全芳香族ポリエステルアミドとしては、芳香族ヒドロキシカルボン酸に由来する構造単位を少なくとも含み、例えば、下記(1)及び(2)のものを挙げることができる。
(1)主として(a)芳香族ヒドロキシカルボン酸及びその誘導体の1種又は2種以上と、(c1)芳香族ヒドロキシアミン、芳香族ジアミン、及びそれらの誘導体の1種又は2種以上と、(c2)芳香族ジカルボン酸、脂環族ジカルボン酸、及びそれらの誘導体の1種又は2種以上、とからなるポリエステルアミド。
(2)主として(a)芳香族ヒドロキシカルボン酸及びその誘導体の1種又は2種以上と、(b)芳香族ジカルボン酸、脂環族ジカルボン酸、及びそれらの誘導体の1種又は2種以上と、(c1)芳香族ヒドロキシアミン、芳香族ジアミン、及びそれらの誘導体の1種又は2種以上と、(c2)芳香族ジオール、脂環族ジオール、及びそれらの誘導体の1種又は2種以上、とからなるポリエステルアミド等。
【0024】
芳香族ジカルボン酸、脂環族ジカルボン酸、芳香族ジオール、及び脂環族ジオールについては、上述の全芳香族ポリエステルにおいて説明した内容がそのまま当てはまる。
【0025】
芳香族ヒドロキシアミンとしては、特に限定されず、例えば、p-アミノフェノール、(m-アミノフェノール)等を挙げることができる。脂環族ヒドロキシアミンとしては、特に限定されず、例えば、(4-ヒドロキシシクロヘキサンカルボン酸、3-ヒドロキシシクロペンタンカルボン酸)等を挙げることができる。重合可能な誘導体としては、特に限定されず、上記化合物のアルキルエステル(炭素原子数1~4程度)、ハロゲン化物等を挙げることができる。
【0026】
芳香族ジアミンとしては、p-フェニレンジアミン等を挙げることができる。脂環族ジアミンとしては、特に限定されず、例えば、1,4-シクロヘキサンジアミン、1,3-シクロペンタンジアミン等を挙げることができる。重合可能な誘導体としては、特に限定されず、上記化合物のアルキルエステル(炭素原子数1~4程度)、ハロゲン化物等を挙げることができる。
【0027】
本実施形態の液晶性樹脂の解重合方法においては、以上のような液晶性樹脂を、主として、芳香族ヒドロキシカルボン酸のメチルエステルに解重合する。
【0028】
また、液晶性樹脂は公知の各種の添加物が配合されていてもよい。添加物の例を示せば、各種の安定剤、滑剤、核剤、界面活性剤、着色剤、高分子改良剤、異種ポリマー、及び、無機、有機、などの繊維状、粉粒状、板状の充填剤などが挙げられ、これらの1種又は2種以上を配合することができる。
【0029】
ステップAにおいて、メタノールと混合する、解重合の対象となる液晶性樹脂としては、使用済みの液晶性樹脂製品、未使用の液晶性樹脂ペレット、液晶性樹脂ペレット及び液晶性樹脂製品の製造過程で発生する樹脂廃棄物等が挙げられる。そして、そのような液晶性樹脂は、メタノールとの混合に際し、必要に応じて切断又は粉砕することが好ましい。
【0030】
ステップAにおいて、液晶性樹脂とメタノールとを混合するに際し、液晶性樹脂に対するメタノールの質量比が0.1~50となるように混合することが好ましい。当該質量比が0.1未満では、モノマーの回収率を高めることができない場合があり、また50超としてもそれ以上の効果が見込めず余剰量となる。当該質量比は、0.5~10がより好ましく、1~5がさらに好ましい。
【0031】
一方、金属酸化物としては、アルカリ土類金属(マグネシウムを含む)、アルミニウム、亜鉛、スズ、又は遷移金属の酸化物が挙げられ、例えば、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化バリウム、酸化アルミニウム、酸化亜鉛、酸化スズ、酸化チタン、酸化バナジウム、酸化マンガン、酸化鉄、酸化ニッケル、酸化銅、酸化ジルコニウム、酸化モリブデン、酸化銀、等が挙げられる。中でも、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化亜鉛及び酸化マグネシウムからなる群より選択される1以上が好ましい。特に、酸化チタン、酸化亜鉛が好ましい。
【0032】
金属酸化物の使用量は、回収率を高める観点から液晶性樹脂100質量部に対して、0.1~100質量部とすることが好ましく、1~50質量部とすることがより好ましい。
【0033】
ステップAにおける、液晶性樹脂とメタノールと金属酸化物との混合に当たり、その混合方法は何ら限定されない。例えば、混合用の容器内に液晶性樹脂を充填した後にメタノールと金属酸化物とを加え混合する方法、混合用の容器内にメタノールを充填した後に液晶性樹脂と金属酸化物とを加え混合する方法、混合用の容器内に金属酸化物を投入した後に液晶性樹脂とメタノールとを加え混合する方法、連続的に配管内で合流させて後に容器内で混合する方法等が挙げられる。また、上記の各成分の混合において、混合温度、混合時間は特に限定されない。
【0034】
以上のステップAの終了後、すなわち液晶性樹脂とメタノールと金属酸化物とを混合後、ステップBに移行する。ステップAとステップBとは連続的に実行してもよいし、ステップAの終了後、ステップBを開始するまでの間に任意の時間があってもよい。また、ステップAにおいて用いる混合用の容器と、ステップBにおいて用いる反応用の容器とは同じとしてもよいし、異ならせてもよい。ただし、ステップAを終えた後、そのままの状態でステップBに移行できる観点から、ステップA及びステップBにおいて用いる容器は同じとすることが好ましい。
【0035】
[ステップB]
ステップBにおいては、メタノールを超臨界状態とし、金属酸化物の存在下で、液晶性樹脂とメタノールとを反応させて、液晶性樹脂を解重合する。
【0036】
ここで、メタノールは、温度:239℃以上、かつ、圧力:8.1MPa以上とすることで超臨界状態となる。従って、ステップBにおいては、反応温度:239℃以上、かつ、圧力:8.1MPa以上に設定してメタノールを超臨界状態とする。ステップBにおける反応温度は、240~350℃が好ましく、260~350℃がより好ましく、280~350℃がより好ましい。また、温度を高くするほど反応速度が向上するため、短時間でモノマーを回収するには、温度を高くすることが好ましい。なお、メタノールが超臨界状態となれば圧力は特に限定はなく、8.1MPa以上で適宜設定することができるが、8.5~20MPaとすることが好ましい。
【0037】
ステップBにおいて、メタノールが超臨界状態となるように反応温度及び圧力を設定するため、高温高圧に対する耐久性を有する反応容器が用いられ、反応容器の形状や容積は任意である。また、温度を上記範囲内とする加熱源としては、温度を制御できるものが好ましく、液状で使用する熱媒、ソルトバス、流動床サンドバス、メタルバス、ヒーター、オーブン、マイクロ波加熱などが挙げられる。
【0038】
本実施形態の液晶性樹脂の解重合方法においては、液晶性樹脂と超臨界状態のメタノールとの反応時間は、1~300分とすることが好ましく、2~120分とすることがより好ましく、5~60分とすることがさらに好ましい。そして、解重合の対象となる液晶性のモノマー成分である芳香族ヒドロキシカルボン酸のメチルエステルが高い回収率で回収される。
【0039】
ステップBにおける反応は攪拌下で行ってもよいし、攪拌せずに行ってもよい。
【0040】
本実施形態に液晶性樹脂の解重合方法において、液晶性樹脂の解重合は、バッチ式としてもよいし、連続式としてもよい。
【0041】
さらには、本実施形態の液晶性樹脂の解重合方法においては、解重合を促進させるため、金属酸化物以外の他のアルカリ性添加剤を併用し解重合を実施することも可能である。他のアルカリ性添加剤の例としては、アルカリ金属及びアルカリ土類金属の水酸化物、炭酸塩、炭酸水素塩、及び、カルボン酸塩などの化合物、アミン類等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。
【実施例0042】
以下に、実施例により本実施形態をさらに具体的に説明するが、本実施形態は以下の実施例に限定されるものではない。
【0043】
[実施例1~4、比較例1]
解重合の対象となる液晶性樹脂として、p-ヒドロキシ安息香酸由来の構造単位73モル%と、6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸由来の構造単位27モル%とを含む液晶性樹脂(芳香族ポリエステル)0.2gを準備し、以下の操作を行った。
各実施例・比較例において、表1に示す割合で液晶性樹脂とメタノールとを混合し、SUS316製のチューブ型反応容器(容積:8.8cm)内に注入した。また、表1に記載の金属酸化物0.06gを投入した。次いで、チューブ型反応容器を撹拌機及び温度計を付したソルトバス(KNO、NaNO)中に投入して、表1に示す温度で加熱し、表1に示す反応時間経過後、急冷して反応を停止した。反応停止後、分解物をメタノールで回収し、吸引ろ過を行い、ろ液と残渣に分離した。続いて、分解物のろ液について液体クロマトグラフィー分析によりp-ヒドロキシ安息香酸メチル及び6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸メチルの量を測定し各モノマー回収率を計算した。また、分解物のろ過残渣を乾燥後、質量測定を行い、液晶性樹脂の分解率を算出した。各モノマー回収率、液晶性樹脂の分解率の算出は、以下の計算式に基づく。
【0044】
【数1】
【0045】
【数2】
【0046】
【数3】
【0047】
【表1】
【0048】
表1より、実施例1~4においては、いずれも、p-ヒドロキシ安息香酸メチルの収率も、6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸メチルの回収率も、比較例1よりも高いことが分かる。特に、酸化チタンを用いた実施例1、酸化亜鉛を用いた実施例3が回収率が高い。
以上より、本実施形態の液晶性樹脂の解重合方法によれば、芳香族ヒドロキシカルボン酸を、メチルエステルの状態で十分な回収率で回収可能であることが分かる。