(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024142174
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】塩化ビニル樹脂フィルム用組成物及び塩化ビニル樹脂フィルム
(51)【国際特許分類】
C08L 27/06 20060101AFI20241003BHJP
C08K 3/105 20180101ALI20241003BHJP
C08K 5/09 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
C08L27/06
C08K3/105
C08K5/09
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023054220
(22)【出願日】2023-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100150360
【弁理士】
【氏名又は名称】寺嶋 勇太
(74)【代理人】
【識別番号】100175477
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 林太郎
(72)【発明者】
【氏名】芦田 真資
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002BD031
4J002DA106
4J002DA116
4J002DC006
4J002EF027
4J002EF057
4J002EF097
4J002EG017
4J002EG067
4J002FD037
4J002FD066
4J002HA09
(57)【要約】
【課題】異物の生成が抑制され、そして引張強度に優れる塩化ビニル樹脂フィルムを形成しうる塩化ビニル樹脂フィルム用組成物の提供。
【解決手段】塩化ビニル樹脂と、熱安定剤と、カルボン酸化合物と、溶剤とを含み、前記カルボン酸化合物は、式(I):R1-COOH・・・(I)(式(I)中、R1は炭素原子数が1以上10以下の炭化水素基である。)で表される化合物又はその塩であり、前記カルボン酸化合物の配合量が、前記塩化ビニル樹脂100質量部当たり0.18質量部以上2.00質量部以下である、塩化ビニル樹脂フィルム用組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩化ビニル樹脂と、熱安定剤と、カルボン酸化合物と、溶剤とを含み、
前記カルボン酸化合物は、下記式(I):
R1-COOH・・・(I)
(式(I)中、R1は炭素原子数が1以上10以下の炭化水素基である。)で表される化合物又はその塩であり、
前記カルボン酸化合物の配合量が、前記塩化ビニル樹脂100質量部当たり0.18質量部以上2.00質量部以下である、塩化ビニル樹脂フィルム用組成物。
【請求項2】
前記熱安定剤が、バリウム-亜鉛系複合熱安定剤を含む、請求項1に記載の塩化ビニル樹脂フィルム用組成物。
【請求項3】
前記熱安定剤の配合量が、前記塩化ビニル樹脂100質量部当たり0.5質量部以上10質量部以下である、請求項1に記載の塩化ビニル樹脂フィルム用組成物。
【請求項4】
前記カルボン酸化合物が、酢酸、カプリル酸、カプリン酸、4-tert-ブチル安息香酸、酢酸塩、カプリル酸塩、カプリン酸塩、及び4-tert-ブチル安息香酸塩からなる群から選択される少なくとも一つを含む、請求項1に記載の塩化ビニル樹脂フィルム用組成物。
【請求項5】
前記熱安定剤の配合量に対する前記カルボン酸化合物の配合量の質量比が、0.03以上0.50以下である、請求項1に記載の塩化ビニル樹脂フィルム用組成物。
【請求項6】
請求項1~5の何れかに記載の塩化ビニル樹脂フィルム用組成物を用いて形成される、塩化ビニル樹脂フィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塩化ビニル樹脂フィルム用組成物及び塩化ビニル樹脂フィルムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
塩化ビニル樹脂フィルム(以下、「PVCフィルム」と称する場合がある。)は、引張強度等の機械的特性や加工性に優れ、種々の用途に用いられている。ここで塩化ビニル樹脂フィルムは、例えば、塩化ビニル樹脂などの成分を溶剤に溶解及び/又は分散させてなる塩化ビニル樹脂フィルム用組成物(以下、「PVCフィルム用組成物」と称する場合がある。)を、キャスト成形などにより成膜して作製される。
【0003】
そしてPVCフィルムの性能を向上させるべく、PVCフィルム用組成物の配合が従来検討されている。例えば、塩化ビニル樹脂は、高温条件下で塩化水素が連鎖的に脱離して分解するという性質がある。この分解の連鎖反応を止めるため、PVCフィルム用組成物に熱安定剤を加えることが行われている(例えば、特許文献1を参照。)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記従来のPVCフィルム用組成物を調製すると、当該組成物中に異物が生じることがあった。そして特に粗大な異物を含むPVCフィルム用組成物を用いてPVCフィルムを作製すると、外観上の欠陥が生じる問題があった。すなわち上記従来のPVCフィルム用組成物には、当該組成物から得られるPVCフィルムについて所期の引張強度を確保しつつ、異物が生成するのを抑制するという点において改善の余地があった。
【0006】
そこで、本発明は、異物の生成が抑制され、そして引張強度に優れる塩化ビニル樹脂フィルムを形成しうる塩化ビニル樹脂フィルム用組成物の提供を目的とする。
また、本発明は、外観上の欠陥が少なく、引張強度に優れる塩化ビニル樹脂フィルムの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決することを目的として鋭意検討を行った。そして、本発明者は、PVCフィルム用組成物の調製に際し、塩化ビニル樹脂、熱安定剤及び溶剤に加え、所定の構造を有するカルボン酸化合物を所定量配合すれば、異物の生成を抑制することができ、また当該PVCフィルム用組成物を用いれば、得られるPVCフィルムに優れた引張強度を発揮させうることを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
即ち、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明によれば、〔1〕~〔5〕の塩化ビニル樹脂フィルム用組成物、〔6〕の塩化ビニル樹脂フィルムが提供される。
【0009】
〔1〕塩化ビニル樹脂と、熱安定剤と、カルボン酸化合物と、溶剤とを含み、前記カルボン酸化合物は、下記式(I):
R1-COOH・・・(I)
(式(I)中、R1は炭素原子数が1以上10以下の炭化水素基である。)で表される化合物又はその塩であり、前記カルボン酸化合物の配合量が、前記塩化ビニル樹脂100質量部当たり0.18質量部以上2.00質量部以下である、塩化ビニル樹脂フィルム用組成物。
塩化ビニル樹脂と、熱安定剤と、上記式(I)の化合物又はその塩であるカルボン酸化合物と、溶剤とを含むPVCフィルム用組成物は、異物の生成が抑制され、また当該PVCフィルム用組成物を用いれば、優れた引張強度を有する塩化ビニル樹脂フィルムを作製することができる。
【0010】
〔2〕前記熱安定剤が、バリウム-亜鉛系複合熱安定剤を含む、上記〔1〕に記載の塩化ビニル樹脂フィルム用組成物。
熱安定剤としてバリウム-亜鉛系複合安定剤を含むPVCフィルム用組成物を用いれば、塩化ビニル樹脂の分解を十分に抑制しつつ、PVCフィルムの耐候性を向上させることができる。
【0011】
〔3〕前記熱安定剤の配合量が、前記塩化ビニル樹脂100質量部当たり0.5質量部以上10質量部以下である、上記〔1〕又は〔2〕に記載の塩化ビニル樹脂フィルム用組成物。
熱安定剤の配合量が上述した範囲内であるPVCフィルム用組成物を用いれば、塩化ビニル樹脂の分解を十分に抑制しつつ、PVCフィルムの引張強度を更に向上させることができる。
【0012】
〔4〕前記カルボン酸化合物が、酢酸、カプリル酸、カプリン酸、4-tert-ブチル安息香酸、酢酸塩、カプリル酸塩、カプリン酸塩、及び4-tert-ブチル安息香酸塩からなる群から選択される少なくとも一つを含む、上記〔1〕~〔3〕の何れかに記載の塩化ビニル樹脂フィルム用組成物。
上述した何れかのカルボン酸化合物を含むPVCフィルム用組成物を用いれば、異物の生成を十分に抑制しつつ、PVCフィルムの引張強度を更に向上させることができる。
【0013】
〔5〕前記熱安定剤の配合量に対する前記カルボン酸化合物の配合量の質量比が、0.03以上0.50以下である、上記〔1〕~〔4〕の何れかに記載の塩化ビニル樹脂フィルム用組成物。
熱安定剤の配合量に対するカルボン酸化合物の配合量の質量比が上述した範囲内であるPVCフィルム用組成物を用いれば、異物の生成を十分に抑制しつつ、PVCフィルムの引張強度を更に向上させることができる。
【0014】
〔6〕上記〔1〕~〔5〕の何れかに記載の塩化ビニル樹脂フィルム用組成物を用いて形成される、塩化ビニル樹脂フィルム。
上述した何れかのPVCフィルム用組成物から形成されるPVCフィルムは、外観上の欠陥が少なく、そして引張強度に優れる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、異物の生成が抑制され、そして引張強度に優れる塩化ビニル樹脂フィルムを形成しうる塩化ビニル樹脂フィルム用組成物を提供することができる。
また、本発明によれば、外観上の欠陥が少なく、引張強度に優れる塩化ビニル樹脂フィルムを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0017】
(塩化ビニル樹脂フィルム用組成物)
本発明のPVCフィルム用組成物は、塩化ビニル樹脂と、熱安定剤と、カルボン酸化合物と、溶剤とを含み、任意にその他の添加剤を含む。
そして本発明のPVCフィルム用組成物は、所定の式(I)で表される化合物又はその塩であるカルボン酸化合物を、所定範囲内の配合量で含むため、異物の生成が抑制されている。また本発明のPVCフィルム用組成物は、外観上の欠陥が少なく且つ優れた引張強度を有する塩化ビニル樹脂フィルムを作製する材料として用いることができる。
なお、塩化ビニル樹脂フィルムの引張強度を高めることで、屋外環境で使用する際に当該フィルムが割れたり、立体物へ施工する際に当該フィルムが破断したりといった不具合を抑制できるという利点がある。
【0018】
<塩化ビニル樹脂>
塩化ビニル樹脂としては、塩化ビニル単量体単位(塩化ビニル単量体に由来する繰り返し単位)からなる単独重合体の他、塩化ビニル単量体単位を好ましくは50質量%以上、より好ましくは70質量%以上含有する塩化ビニル系共重合体が挙げられる。そして、塩化ビニル系共重合体を構成し得る、塩化ビニル単量体と共重合可能な単量体(共単量体)の具体例としては、例えば、国際公開第2016/098344号に記載のものを使用することができる。共単量体は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
なお塩化ビニル樹脂は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0019】
塩化ビニル樹脂は、特に限定されないが、塩化ビニル樹脂微粒子としてゾル状のPVCフィルム用組成物中で分散していることが好ましい。PVCフィルム用組成物中に含まれる塩化ビニル樹脂微粒子の平均粒径は、特に限定されないが、0.01μm以上10μm以下であることが好ましい。
なお本明細書において、PVCフィルム用組成物中に含まれる塩化ビニル樹脂の平均粒径は、JIS Z8825に準拠し、レーザー回折法により体積平均粒子径として測定することができる。
【0020】
また塩化ビニル樹脂は、特に限定されないが、乳化重合により製造されたものが好ましい。そして、塩化ビニル樹脂の平均重合度は、PVCフィルムの引張強度を更に向上させる観点から、500以上4,000以下であることが好ましい。
なお本明細書において「平均重合度」は、JIS K6720-2に準拠して測定することができる。
【0021】
<熱安定剤>
本発明のPVCフィルム用組成物が含む熱安定剤としては、特に限定されないが、例えば、鉛(Pb)、バリウム(Ba)、亜鉛(Zn)、カルシウム(Ca)、及びスズ(Sn)からなる群から選択される少なくとも1つの金属を含む熱安定剤を用いることができる。そして熱安定剤としては、塩化ビニル樹脂の分解を十分に抑制する観点から、鉛を含有する熱安定剤(鉛系熱安定剤)、バリウムと亜鉛を含有する熱安定剤(バリウム-亜鉛系複合熱安定剤)、カルシウムと亜鉛を含有する熱安定剤(カルシウム-亜鉛系複合熱安定剤)、スズを含有する熱安定剤(スズ系熱安定剤)が好ましい。そして、PVCフィルムの耐候性を向上させる観点から、バリウム-亜鉛系複合熱安定剤がより好ましい。
なお熱安定剤は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0022】
PVCフィルム用組成物における熱安定剤の配合量は、塩化ビニル樹脂100質量部当たり、0.5質量部以上であることが好ましく、1質量部以上であることがより好ましく、1.5質量部以上であることが更に好ましく、2質量部以上であることがより一層好ましく、3質量部以上であることが特に好ましく、10質量部以下であることが好ましく、9質量部以下であることがより好ましく、7質量部以下であることが更に好ましく、6質量部以下であることがより一層好ましく、5質量部以下であることが特に好ましい。熱安定剤の配合量が塩化ビニル樹脂100質量部当たり0.5質量部以上であれば、塩化ビニル樹脂の分解を十分に抑制することができ、10質量部以下であれば、PVCフィルムの引張強度を更に向上させることができる。
【0023】
<カルボン酸化合物>
本発明のPVCフィルム用組成物が含むカルボン酸化合物は、下記式(I):
R1-COOH・・・(I)
で表される化合物又はその塩である。なお式(I)中、R1は炭素原子数が1以上10以下の炭化水素基である。本発明のPVCフィルム用組成物が、上記カルボン酸化合物を塩化ビニル樹脂100質量部当たり0.18質量部以上含むことで、異物の生成を抑制することができる。
【0024】
なお、上記カルボン酸化合物の使用によりPVCフィルム用組成物中での異物生成が抑制される理由は明らかではないが、以下の通りであると推察される。
まず本発明者の検討によれば、異物の生成には、熱安定剤、特に熱安定剤に由来する金属が何らかの影響を及ぼしていることが明らかとなったと。これに対し、PVCフィルム用組成物に上述したカルボン酸化合物を所定量以上配合すれば、熱安定剤に由来する金属とカルボン酸化合物とが塩を形成して溶剤に溶解する。このように熱安定剤由来の金属をカルボン酸化合物とともに溶剤に溶解させることで、熱安定剤に由来する金属により引き起こされる各種成分の凝集が抑制される。その結果、PVCフィルム用組成物中での粗大な異物の生成が抑制され、そしてPVCフィルムにおける外観上の欠陥発生を防ぐことができると考えられる。
【0025】
カルボン酸化合物を構成する式(I)の化合物において、R1は、上述した通り炭素原子数が1以上10以下の炭化水素基であることが必要である。R1を構成する炭化水素基の炭素原子数が10を超えて11以上であると、熱安定剤に由来する金属とカルボン酸化合物により形成される塩が溶剤に溶解し難くなるためと推察されるが、異物の生成を抑制することができない。
また、R1を構成する炭化水素基の炭素原子数は、PVCフィルムの引張強度を更に向上させる観点から、2以上であることが好ましく、4以上であることがより好ましく、6以上であることが更に好ましく、7以上であることがより一層好ましい。
【0026】
R1を構成する炭化水素基は、直鎖状、分岐鎖状、環状の何れであってもよく、それらのうち2つ以上の組み合わせであってもよい。なおR1を構成する炭化水素基が環状の構造を有する場合、当該環状の構造は、芳香族環であってもよいし、非芳香族環であってもよい。
【0027】
カルボン酸化合物は、式(I)で表される化合物であってもよく、当該化合物の塩(ナトリウム塩、亜鉛塩、バリウム塩、カルシウム塩など)であってもよい。そしてカルボン酸化合物は、式(I)で表される化合物と、その塩との混合物であってもよい。
【0028】
カルボン酸化合物としては、異物の生成を十分に抑制しつつ、PVCフィルムの引張強度を更に向上させる観点から、酢酸、カプリル酸、カプリン酸、4-tert-ブチル安息香酸、酢酸塩、カプリル酸塩、カプリン酸塩、及び4-tert-ブチル安息香酸塩が好ましく、カプリル酸、4-tert-ブチル安息香酸、カプリル酸塩及び4-tert-ブチル安息香酸塩がより好ましい。
なおカルボン酸化合物は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0029】
PVCフィルム用組成物における上記所定のカルボン酸化合物の配合量は、塩化ビニル樹脂100質量部当たり、0.18質量部以上であることが必要であり、0.20質量部以上であることが好ましく、2.00質量部以下であることが必要であり、1.70質量部以下であることが好ましく、1.40質量部以下であることがより好ましく、1.10質量部以下であることが更に好ましく、0.80質量部以下であることがより一層好ましく、0.50質量部以下であることが特に好ましい。カルボン酸化合物の配合量が塩化ビニル樹脂100質量部当たり0.18質量部を下回ると、異物の生成を抑制することができない。一方、カルボン酸化合物の配合量が塩化ビニル樹脂100質量部当たり2.00質量部を上回ると、PVCフィルムの引張強度が低下する。
【0030】
また、PVCフィルム用組成物において、熱安定剤の配合量に対するカルボン酸化合物の配合量の質量比が、0.03以上であることが好ましく、0.04以上であることがより好ましく、0.50以下であることが好ましく、0.40以下であることがより好ましく、0.30以下であることが更に好ましく、0.25以下であることがより一層好ましく、0.20以下であることが特に好ましい。熱安定剤の配合量に対するカルボン酸化合物の配合量の質量比が0.03以上であれば、異物の生成を十分に抑制することができ、0.50以下であれば、PVCフィルムの引張強度を更に向上させることができる。
【0031】
<溶剤>
溶剤としては、PVCフィルム用組成物に用いられる既知の溶剤を用いることができる。例えば溶剤としては、一般的にゾル中で塩化ビニル樹脂の分散を良化させうる分散溶剤や、ゾルの粘度を調整しうる希釈溶剤をそれぞれ、又は組み合わせて用いることが好ましい。
分散溶剤としては、常温で塩化ビニル樹脂をわずかに膨潤して分散を助長し、高温加熱工程で溶融ゲル化を促進する溶剤が好ましい。分散溶剤の好適な具体例としては、ジイソブチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン類系溶剤、酢酸ブチルなどのエステル類系溶剤、グリコールエーテル類系溶剤などが挙げられる。
希釈溶剤としては、塩化ビニル樹脂が不溶であり、ゾル粘度を下げ、膨潤性を抑制する溶媒が好ましい。希釈溶剤の好適な具体例としては、パラフィン系炭化水素溶剤、ナフテン系炭化水素溶剤、芳香族炭化水素系溶剤、テルペン系炭化水素溶剤などが挙げられる。
そしてこれらの中でも、芳香族炭化水素系溶剤を用いることが好ましい。
なお溶剤は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0032】
PVCフィルム用組成物における溶剤の配合量は、異物の生成を十分に抑制しつつ、PVCフィルムを効率良く製造する観点から、塩化ビニル樹脂100質量部当たり、20質量部以上であることが好ましく、30質量部以上であることがより好ましく、200質量部以下であることが好ましく、150質量部以下であることがより好ましく、100質量部以下であることが更に好ましく、70質量部以下であることがより一層好ましい。
【0033】
<その他の添加剤>
本発明のPVCフィルム用組成物が任意に含有しうる、上述した塩化ビニル樹脂、熱安定剤、カルボン酸化合物及び溶剤以外の添加剤としては、特に限定されず、例えば特開2005-270775号公報に記載のものが挙げられる。なおその他の添加剤は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
そして本発明のPVCフィルム用組成物は、その他の添加剤として、可塑剤及び/又は紫外線吸収剤を含むことが好ましい。
【0034】
<<可塑剤>>
可塑剤としては、PVCフィルムに柔軟性を付与しうるものであれば特に限定されず既知のものを使用することができるが、PVCフィルムの引張強度を更に向上させる観点から、ポリエステル系可塑剤が好ましく、アジピン酸ポリエステル系可塑剤がより好ましい。
PVCフィルム用組成物における可塑剤の配合量は、PVCフィルムの引張強度を更に向上させる観点から、塩化ビニル樹脂100質量部当たり、10質量部以上であることが好ましく、20質量部以上であることがより好ましく、50質量部以下であることが好ましく、40質量部以下であることがより好ましい。
【0035】
<<紫外線吸収剤>>
紫外線吸収剤としては、特に限定されず既知のものを使用することができるが、サリチル酸系紫外線吸収剤、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤が好ましく挙げられる。
PVCフィルム用組成物における可塑剤の配合量は、PVCフィルムに優れた紫外線吸収性能を付与しつつ、当該PVCフィルムの引張強度を更に向上させる観点から、塩化ビニル樹脂100質量部当たり、0.1質量部以上であることが好ましく、1質量部以上であることがより好ましく、10質量部以下であることが好ましく、5質量部以下であることがより好ましい。
【0036】
<塩化ビニル樹脂フィルム用組成物の調製>
PVCフィルム用組成物の調製方法は特に限定されず、上述した各成分をディスパーなどの既知の混合機を用いて混合することにより得ることができる。なお、各成分を混合した後、必要に応じて、ろ過、脱泡といった処理を行ってもよい。
【0037】
(塩化ビニル樹脂フィルム)
本発明のPVCフィルムは、上述した本発明のPVCフィルム用組成物を用いて形成される。そして、本発明のPVCフィルムは、上述した本発明のPVCフィルム用組成物から形成されているため、粗大な異物に由来する外観上の欠陥が少なく、そして優れた引張強度を有する。
【0038】
ここで、本発明のPVCフィルムは、例えば、上述した本発明のPVCフィルム用組成物の乾燥物であり、塩化ビニル樹脂と、熱安定剤と、カルボン酸化合物とを含み、任意にその他の添加剤を含む。なお、本発明のPVCフィルムに含まれている成分は、PVCフィルム用組成物に由来するものであるため、PVCフィルム中におけるそれらの好適な存在比は、溶剤を除いて、通常、上述したPVCフィルム用組成物中におけるものと同じである。
【0039】
なお、PVCフィルム用組成物からPVCフィルムを製造する方法は、溶剤を除去して成膜可能な方法であれば特に限定されないが、キャスト成形が好ましい。すなわち、本発明のPVCフィルムは、キャストフィルムであることが好ましい。
【0040】
キャスト成形によりPVCフィルムを製造する方法としては、特に限定されず、例えば、PVCフィルム用組成物を基材上に塗布し、乾燥することで、PVCフィルムを得ることができる。基材としては、特に限定されず、ポリエチレンテレフタレートフィルム(PETフィルム)などの既知の基材を用いることができる。また乾燥条件も、特に限定されないが、例えば、乾燥温度は100℃以上200℃以下とすることができ、乾燥時間は10秒以上10分以下とすることができる。
【0041】
なお、PVCフィルムの厚みはその用途等に応じて適宜設定すればよいが、例えば10μm以上300μm以下とすることができる。
【実施例0042】
以下、本発明について実施例に基づき具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
そして、PVCフィルム用組成物における異物の生成抑制、PVCフィルムの引張強度は、下記の方法で評価した。
【0043】
<異物の生成抑制>
実施例及び比較例で得られたPVCフィルム用組成物を、室温下で4日間静止して評価用サンプルとした。この評価用サンプルを、溝の最大深さ100μmのグラインドゲージを用いて、JIS K5600-2-5に準じて粒度を特定し、下記の基準で評価した。粒度が小さいほど、粗大な異物の生成を抑制できていることを示す。
A:粒度が30μm未満
B:粒度が30μm以上
<引張強度>
実施例及び比較例で得られたPVCフィルムから、100mm(MD方向)×20mm(TD方向)の試験片を切り出した。この試験片について、引張試験機(ミネベア社製、「NMB TECHNO GRAPH TG-1kN」)を用い、チャック間距離:50mm、試験速度:200mm/分の条件で引張試験を行い、試験片が破断した時の強度(kgf/mm2)を測定した。この引張試験を合計6回行い、6回の強度の平均値を引張強度とした。
【0044】
(実施例1)
<PVCフィルム用組成物の調製>
塩化ビニル樹脂(メキシケム社製、商品名「GEON178」、塩化ビニル樹脂微粒子、平均重合度:1800)100質量部、アジピン酸ポリエステル系可塑剤(大日精化工業社製、商品名「ファインサイザーNS-4070」)28質量部、バリウム-亜鉛系複合熱安定剤(勝田加工社製、商品名「SB-9301N」)4質量部、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤(シプロ化成社製、商品名「シーソルブ 102」)4質量部、カルボン酸化合物としてのカプリル酸0.40質量部、及び、芳香族炭化水素系溶剤(ゴードー社製、商品名「SS-100」、芳香族炭化水素系溶剤)45.3部を容器に計量し、ディスパーを用いて回転数2000rpmで10分間混合した。得られた混合液を150メッシュのポリエステルメッシュでろ過し、真空下で泡の立ち上がりがなくなるまで低速撹拌しながら脱泡して、ゾル状のPVCフィルム用組成物を得た。このPVCフィルム用組成物を用い、異物の生成抑制について評価を行った。結果を表1に示す。
<PVCフィルムの作製>
上述のようにして得られたPVCフィルム用組成物を室温下で12時間以上静置し、塗工液とした。この塗工液を、基材としてのPETフィルム(三菱ケミカル社製、商品名「T100E38」、厚み:38μm)の上に、フィルムアプリケーターを用いて塗工した。次いで基材上の塗工液を、乾燥炉にて140℃で30秒間、160℃で30秒間、190℃で30秒間の合計90秒間乾燥させ、基材上にPVCフィルム(厚み:30μm)を作製した。このPVCを基材フィルムから剥離し、引張強度を測定した。結果を表1に示す。
【0045】
(実施例2)
PVCフィルム用組成物の調製に際し、カルボン酸化合物としてのカプリル酸の量を0.40質量部から1.19質量部に変更した以外は、実施例1と同様にしてPVCフィルム用組成物及びPVCフィルムを準備し、各種評価を行った。結果を表1に示す。
【0046】
(実施例3~5)
PVCフィルム用組成物の調製に際し、カルボン酸化合物としてのカプリル酸0.40質量部に代えて、4-tert-ブチル安息香酸を0.49質量部(実施例3)、1.47質量部(実施例4)、0.20質量部(実施例5)用いた以外は、それぞれ実施例1と同様にしてPVCフィルム用組成物及びPVCフィルムを準備し、各種評価を行った。結果を表1に示す。
【0047】
(実施例6)
PVCフィルム用組成物の調製に際し、カルボン酸化合物としてのカプリル酸0.40質量部に代えて、酢酸を0.33質量部用いた以外は、実施例1と同様にしてPVCフィルム用組成物及びPVCフィルムを準備し、各種評価を行った。結果を表1に示す。
【0048】
(比較例1)
PVCフィルム用組成物の調製に際し、カルボン酸化合物としてのカプリル酸を使用しなかった以外は、実施例1と同様にしてPVCフィルム用組成物及びPVCフィルムを準備し、各種評価を行った。結果を表2に示す。
【0049】
(比較例2)
PVCフィルム用組成物の調製に際し、カルボン酸化合物としてのカプリル酸0.40質量部に代えて、ラウリン酸を1.10質量部用いた以外は、実施例1と同様にしてPVCフィルム用組成物を準備し、異物の生成抑制について評価を行った。結果を表2に示す。
【0050】
(比較例3)
PVCフィルム用組成物の調製に際し、カルボン酸化合物としてのカプリル酸の量を0.40質量部から、0.16質量部に変更した以外は、実施例1と同様にしてPVCフィルム用組成物を準備し、異物の生成抑制について評価を行った。結果を表2に示す。
【0051】
(比較例4)
PVCフィルム用組成物の調製に際し、カルボン酸化合物としてのカプリル酸の量を0.40質量部から2.50質量部に変更した以外は、実施例1と同様にしてPVCフィルム用組成物及びPVCフィルムを準備し、各種評価を行った。結果を表2に示す。
【0052】
なお以下に示す表1及び2中、「カルボン酸化合物/熱安定剤」は、熱安定剤の配合量に対するカルボン酸化合物の配合量の質量比を意味し、そして表1及び2の当該質量比は少数第三位を四捨五入した値である。
【0053】
【0054】
【0055】
表1~2より、塩化ビニル樹脂、熱安定剤及び溶剤に加え、所定の構造を有するカルボン酸化合物を所定量配合してなるPVCフィルム用組成物を用いれば、異物の生成を抑制しつつ、また優れた引張強度を有するPVCフィルムを作製できることが分かる。