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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024142191
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】ナノ構造体分散液
(51)【国際特許分類】
   C01B 32/174 20170101AFI20241003BHJP
   C01B 32/159 20170101ALI20241003BHJP
   B82Y 30/00 20110101ALI20241003BHJP
【FI】
C01B32/174
C01B32/159
B82Y30/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023054246
(22)【出願日】2023-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100150360
【弁理士】
【氏名又は名称】寺嶋 勇太
(74)【代理人】
【識別番号】100174001
【弁理士】
【氏名又は名称】結城 仁美
(72)【発明者】
【氏名】百武 宗洋
【テーマコード(参考)】
4G146
【Fターム(参考)】
4G146AA12
4G146AB06
4G146AC03A
4G146AC03B
4G146AC04B
4G146AC09B
4G146AC30A
4G146AC30B
4G146AD20
4G146AD22
4G146BA12
4G146BC09
4G146CB10
4G146CB22
4G146CB26
4G146CB37
(57)【要約】
【課題】分散安定性に優れるナノ構造体分散液を提供する。
【解決手段】動的光散乱法に基づくZ平均粒子径が45.0nm以上70.0nm以下である繊維状ナノ構造体と、水を含む分散媒と、含有するナノ構造体分散液である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナノ構造体と分散媒とを含むナノ構造体分散液であって、
前記ナノ構造体が、官能基を有する繊維状炭素ナノ構造体を含み、さらに、動的光散乱法に基づくZ平均粒子径が45.0nm以上70.0nm以下であり、
前記分散媒が水を含む、
ナノ構造体分散液。
【請求項2】
前記ナノ構造体が、カーボンナノチューブを含む、請求項1に記載のナノ構造体分散液。
【請求項3】
前記カーボンナノチューブは、単層カーボンナノチューブを含む、請求項2に記載のナノ構造体分散液。
【請求項4】
前記カーボンナノチューブは、吸着等温線から得られるt-プロットが上に凸な形状を示す、請求項2又は3に記載のナノ構造体分散液。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナノ構造体分散液に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、機械的特性などの各種特性に優れる材料として、ナノカーボン、ナノファイバー及びナノワイヤーなどの様々なナノ構造体が注目されている。中でも、導電性、熱伝導性及び機械的特性に優れる材料として、ナノカーボン、特にはカーボンナノチューブ(以下、「CNT」と称することがある。)等の繊維状炭素ナノ構造体が注目されている。
【0003】
しかし、CNT等のナノ構造体は直径がナノメートルサイズの微細な構造体であるため、単体では取り扱い性や加工性が悪い。そこで、ナノ構造体は、複数のナノ構造体を例えば膜状に集合させてなる集合体としてから、或いは、樹脂、ゴム等の高分子材料又は金属と複合化してなる複合材料としてから、様々な用途に用いられている。そして、ナノ構造体の集合体の形成方法としては、分散媒中にナノ構造体を分散させてなるナノ構造体分散液から分散媒を除去する方法が提案されている。また、ナノ構造体を含む複合材料の形成方法としては、高分子材料などのマトリックス材料とナノ構造体分散液とを混合してなる複合材料用組成物から複合材料を析出又は沈殿させる方法が提案されている。
【0004】
ここで、ナノ構造体の集合体及び複合材料に優れた特性を発揮させる観点からは、集合体及び複合材料の形成に用いられるナノ構造体分散液として、分散媒中でナノ構造体が良好に分散している分散液が求められている。例えば特許文献1には、ナノ構造体分散液の貯蔵又は輸送に用いる密閉容器中にナノ構造体分散液を所定量以上充填することで、貯蔵中の環境変化や輸送中の振動の影響を低減し、ナノ構造体の分散性が低下するのを抑制することができるという知見が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2017/115707号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に開示された技術よれば、貯蔵又は輸送した場合であっても容器内のナノ構造体分散液に含まれているナノ構造体の分散性が低下するのを抑制することが可能なナノ構造体分散液入り容器を提供することができる。
【0007】
ここで、上記特許文献1に開示された技術においては、ナノ構造体分散液中におけるナノ構造体の分散性に一層の向上の余地があった。そこで、本発明は、分散安定性に優れるナノ構造体分散液を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決することを目的として鋭意検討を行った。そして、本発明者は、動的光散乱法に基づくZ平均粒子径が45.0nm以上70.0nm以下である繊維状ナノ構造体と、水を含む分散媒と、含有するナノ構造体分散液が分散安定性に優れることを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
即ち、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、[1]本発明のナノ構造体分散液は、ナノ構造体と分散媒とを含むナノ構造体分散液であって、前記ナノ構造体が、官能基を有する繊維状炭素ナノ構造体を含み、さらに、動的光散乱法に基づくZ平均粒子径が45.0nm以上70.0nm以下であり、前記分散媒が水を含む、ことを特徴とする。このような所定のZ平均粒子径を満たすナノ構造体を含むナノ構造体分散液は、分散安定性に優れる。ここで、動的光散乱法に基づくZ平均粒子径は、本明細書の実施例に記載の方法に従って測定することができる。また、本明細書において、「繊維状」とは、アスペクト比が10以上であることを指す。
【0010】
[2]ここで、本発明のナノ構造体分散液において、前記ナノ構造体が、カーボンナノチューブを含むことが好ましい。
【0011】
[3]また、上記[2]のナノ構造体分散液において、前記カーボンナノチューブは、単層カーボンナノチューブを含むことが好ましい。
【0012】
[4]また、上記[2]又は[3]のナノ構造体分散液において、前記カーボンナノチューブは、吸着等温線から得られるt-プロットが上に凸な形状を示すことが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、分散安定性に優れるナノ構造体分散液を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。本発明のナノ構造体分散液は、必要に応じて精製等の処理を施したのちに、所望の用途に供することができる。
【0015】
(ナノ構造体分散液)
本発明のナノ構造体分散液は、ナノ構造体と分散媒とを含むナノ構造体分散液であって、ナノ構造体が、官能基を有する繊維状炭素ナノ構造体であり、さらに、動的光散乱法に基づくZ平均粒子径が45.0nm以上70.0nm以下であり、分散媒が水を含む、ことを特徴とする。このような所定のZ平均粒子径を満たすナノ構造体を含むナノ構造体分散液は、分散安定性に優れる。ここで、本発明のナノ構造体分散液は、所望の用途に供するに際し、必要に応じて、ナノ構造体分散液から金属等の不純物を除去する目的において、イオン交換工程が実施されることがある。このイオン交換工程においては、ナノ構造体分散液を強酸性イオン交換樹脂と接触させうる。かかるイオン交換工程では、強酸性イオン交換樹脂とナノ構造体分散液とを接触させることがある。イオン交換工程に供するナノ構造体分散液が、分散安定性に優れていれば、イオン交換工程におけるナノ構造体の凝集及びナノ構造体によるイオン交換樹脂の閉塞を効果的に抑制することができる。
【0016】
ナノ構造体分散液は、ナノ構造体と、分散媒とを含み、任意に、分散剤、分子添加剤及びイオン粒子などの添加剤を更に含有しうる。以下、ナノ構造体分散液が含有する各成分について順次説明する。
【0017】
<ナノ構造体>
ナノ構造体は、官能基を有する繊維状炭素ナノ構造体を含み、さらに、動的光散乱法に基づくZ平均粒子径が45.0nm以上70.0nm以下であることを必要とする。
【0018】
ナノ構造体としては、特に限定されることなく、フラーレン、グラフェン、繊維状炭素ナノ構造体などのナノカーボン;セルロースナノファイバーなどのナノファイバー;銀ナノワイヤーなどのナノワイヤー、窒化ホウ素ナノチューブが挙げられる。これらは1種類のみを単独で用いてもよいし、2種類以上を混合して用いてもよい。
【0019】
上述した中でも、ナノ構造体としては、ナノカーボンが好ましく、繊維状炭素ナノ構造体がより好ましい。ここで、繊維状炭素ナノ構造体としては、特に限定されることなく、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、カーボンナノホーン、気相成長炭素繊維などが挙げられる。これらは1種類のみを単独で用いてもよいし、2種類以上を混合して用いてもよい。中でも、繊維状炭素ナノ構造体としては、カーボンナノチューブを用いることがより好ましい。カーボンナノチューブは、導電性、熱伝導性及び機械的特性に優れているからである。
【0020】
ここで、ナノ構造体として好適に使用し得る、カーボンナノチューブは、カーボンナノチューブのみからなるものであってもよいし、カーボンナノチューブと、カーボンナノチューブ以外の繊維状炭素ナノ構造体との混合物であってもよい。
なお、カーボンナノチューブとしては、特に限定されることなく、単層カーボンナノチューブ及び/又は多層カーボンナノチューブを用いることができるが、カーボンナノチューブは、単層から5層までのカーボンナノチューブであることが好ましく、単層カーボンナノチューブであることがより好ましい。単層カーボンナノチューブは、多層カーボンナノチューブと比較し、導電性、熱伝導性及び機械的特性に優れているからである。
【0021】
また、繊維状炭素ナノ構造体としては、平均直径(Av)に対する、直径の標準偏差(σ)に3を乗じた値(3σ)の比(3σ/Av)が0.20超0.60未満の炭素ナノ構造体を用いることが好ましく、3σ/Avが0.25超の炭素ナノ構造体を用いることがより好ましく、3σ/Avが0.50超の炭素ナノ構造体を用いることが更に好ましい。3σ/Avが0.20超0.60未満の繊維状炭素ナノ構造体は、導電性、熱伝導性及び機械的特性に優れているからである。
なお、「繊維状炭素ナノ構造体の平均直径(Av)」及び「繊維状炭素ナノ構造体の直径の標準偏差(σ:標本標準偏差)」は、それぞれ、透過型電子顕微鏡を用いて無作為に選択した繊維状炭素ナノ構造体100本の直径(外径)を測定して求めることができる。そして、繊維状炭素ナノ構造体の平均直径(Av)及び標準偏差(σ)は、繊維状炭素ナノ構造体の製造方法や製造条件を変更することにより調整してもよいし、異なる製法で得られた繊維状炭素ナノ構造体を複数種類組み合わせることにより調整してもよい。
【0022】
そして、繊維状炭素ナノ構造体としては、前述のようにして測定した直径を横軸に、その頻度を縦軸に取ってプロットし、ガウシアンで近似した際に、正規分布を取るものが通常使用される。
【0023】
更に、繊維状炭素ナノ構造体は、ラマン分光法を用いて評価した際に、Radial Breathing Mode(RBM)のピークを有することが好ましい。なお、三層以上の多層カーボンナノチューブのみからなる繊維状炭素ナノ構造体のラマンスペクトルには、RBMが存在しない。
【0024】
また、繊維状炭素ナノ構造体は、ラマンスペクトルにおけるDバンドピーク強度に対するGバンドピーク強度の比(G/D比)が1以上20以下であることが好ましい。G/D比が1以上20以下の繊維状炭素ナノ構造体は、導電性、熱伝導性及び機械的特性に優れているからである。
【0025】
更に、繊維状炭素ナノ構造体の平均直径(Av)は、0.5nm以上であることが好ましく、1nm以上であることが更に好ましく、15nm以下であることが好ましく、10nm以下であることが更に好ましい。維状炭素ナノ構造体の平均直径(Av)が0.5nm以上であれば、繊維状炭素ナノ構造体の凝集を抑制し、分散液中での繊維状炭素ナノ構造体の分散性を高めることができるからである。また、平均直径(Av)が15nm以下の繊維状炭素ナノ構造体は、導電性、熱伝導性及び機械的特性に優れているからである。
【0026】
更に、繊維状炭素ナノ構造体のBET比表面積は、400m/g以上であることが好ましく、800m/g以上であることがより好ましく、2500m/g以下であることが好ましく、1200m/g以下であることがより好ましい。BET比表面積が400m/g以上の繊維状炭素ナノ構造体は、導電性、熱伝導性及び機械的特性に優れているからである。また、繊維状炭素ナノ構造体のBET比表面積が2500m/g以下であれば、分散液中における繊維状炭素ナノ構造体の分散性を一層高めることができるからである。
なお、本発明において、「BET比表面積」とは、BET法を用いて測定した窒素吸着比表面積を指す。
【0027】
更に、繊維状炭素ナノ構造体は、複数の微小孔を有することが好ましい。繊維状炭素ナノ構造体は、中でも、孔径が2nmよりも小さいマイクロ孔を有するのが好ましく、その存在量は、下記の方法で求めたマイクロ孔容積で、好ましくは0.40mL/g以上、より好ましくは0.43mL/g以上であり、上限としては、通常、0.65mL/g程度である。繊維状炭素ナノ構造体が上記のようなマイクロ孔を有することで、分散液中での繊維状炭素ナノ構造体の凝集が抑制され、分散液中における繊維状炭素ナノ構造体の分散性を一層高めることができる。なお、マイクロ孔容積は、例えば、繊維状炭素ナノ構造体の調製方法及び調製条件を適宜変更することで調整することができる。
ここで、「マイクロ孔容積(Vp)」は、繊維状炭素ナノ構造体の液体窒素温度(77K)での窒素吸着等温線を測定し、相対圧P/P0=0.19における窒素吸着量をVとして、式(I):Vp=(V/22414)×(M/ρ)より、算出することができる。なお、Pは吸着平衡時の測定圧力、P0は測定時の液体窒素の飽和蒸気圧であり、式(I)中、Mは吸着質(窒素)の分子量28.010、ρは吸着質(窒素)の77Kにおける密度0.808g/cmである。マイクロ孔容積は、例えば、「BELSORP(登録商標)-mini」(日本ベル(株)製)を使用して求めることができる。
【0028】
また、繊維状炭素ナノ構造体は、吸着等温線から得られるt-プロットが上に凸な形状を示すことが好ましい。中でも、開口処理が施されておらず、t-プロットが上に凸な形状を示すことがより好ましい。t-プロットが上に凸な形状を示す繊維状炭素ナノ構造体は、導電性、熱伝導性及び機械的特性に優れているからである。
なお、「t-プロット」は、窒素ガス吸着法により測定された繊維状炭素ナノ構造体の吸着等温線において、相対圧を窒素ガス吸着層の平均厚みt(nm)に変換することにより得ることができる。すなわち、窒素ガス吸着層の平均厚みtを相対圧P/P0に対してプロットした、既知の標準等温線から、相対圧に対応する窒素ガス吸着層の平均厚みtを求めて上記変換を行うことにより、繊維状炭素ナノ構造体のt-プロットが得られる(de Boerらによるt-プロット法)。
【0029】
ここで、表面に細孔を有する物質では、窒素ガス吸着層の成長は、次の(1)~(3)の過程に分類される。そして、下記の(1)~(3)の過程によって、t-プロットの傾きに変化が生じる。
(1)全表面への窒素分子の単分子吸着層形成過程
(2)多分子吸着層形成とそれに伴う細孔内での毛管凝縮充填過程
(3)細孔が窒素によって満たされた見かけ上の非多孔性表面への多分子吸着層形成過程
【0030】
そして、上に凸な形状を示すt-プロットは、窒素ガス吸着層の平均厚みtが小さい領域では、原点を通る直線上にプロットが位置するのに対し、tが大きくなると、プロットが当該直線から下にずれた位置となる。かかるt-プロットの形状を有する繊維状炭素ナノ構造体は、繊維状炭素ナノ構造体の全比表面積に対する内部比表面積の割合が大きく、繊維状炭素ナノ構造体を構成する炭素ナノ構造体に多数の開口が形成されていることを示している。
【0031】
なお、繊維状炭素ナノ構造体のt-プロットの屈曲点は、0.2≦t(nm)≦1.5を満たす範囲にあることが好ましく、0.45≦t(nm)≦1.5の範囲にあることがより好ましく、0.55≦t(nm)≦1.0の範囲にあることが更に好ましい。
なお、「屈曲点の位置」は、前述した(1)の過程の近似直線Aと、前述した(3)の過程の近似直線Bとの交点である。
【0032】
更に、繊維状炭素ナノ構造体は、t-プロットから得られる全比表面積S1に対する内部比表面積S2の比(S2/S1)が0.05以上0.30以下であるのが好ましい。
また、繊維状炭素ナノ構造体の全比表面積S1及び内部比表面積S2は、特に限定されないが、個別には、S1は、400m/g以上2500m/g以下であることが好ましく、800m/g以上1200m/g以下であることが更に好ましい。一方、S2は、30m/g以上540m/g以下であることが好ましい。
ここで、繊維状炭素ナノ構造体の全比表面積S1及び内部比表面積S2は、そのt-プロットから求めることができる。具体的には、まず、(1)の過程の近似直線の傾きから全比表面積S1を、(3)の過程の近似直線の傾きから外部比表面積S3を、それぞれ求めることができる。そして、全比表面積S1から外部比表面積S3を差し引くことにより、内部比表面積S2を算出することができる。
【0033】
因みに、繊維状炭素ナノ構造体の吸着等温線の測定、t-プロットの作成、及び、t-プロットの解析に基づく全比表面積S1と内部比表面積S2との算出は、例えば、市販の測定装置である「BELSORP(登録商標)-mini」(日本ベル(株)製)を用いて行うことができる。
【0034】
そして、官能基を有する繊維状炭素ナノ構造体は、例えば国際公開第2006/011655号に開示されたスーパーグロース法と称されうる方法により製造した繊維状炭素ナノ構造体を、酸処理することにより効率的に製造することができる。繊維状炭素ナノ構造体について説明した上記好適属性、特に、CNTの層数、3σ/Av、直径を横軸、頻度を縦軸に取って得たプロットをガウシアン近似した際のプロット形状、ラマンスペクトルのピーク位置及びG/D比、平均直径(Av)、BET比表面積、及びマイクロ孔容積は官能基を有する繊維状炭素ナノ構造体についても同様に当てはまる。なお、スーパーグロース法では、カーボンナノチューブ製造用の触媒層を表面に有する基材上に、原料化合物及びキャリアガスを供給して、化学的気相成長法(CVD法)によりCNTを合成する際に、系内に微量の酸化剤(触媒賦活物質)を存在させることで、触媒層の触媒活性を飛躍的に向上させている。以下では、スーパーグロース法により得られる上記繊維状炭素ナノ構造体としてのカーボンナノチューブを「SGCNT」と称することがある。
【0035】
なお、繊維状炭素ナノ構造体は、SGCNTのみから構成されていてもよいし、SGCNTと、非円筒形状の炭素ナノ構造体とから構成されていてもよい。具体的には、繊維状炭素ナノ構造体には、内壁同士が近接又は接着したテープ状部分を全長に亘って有する単層又は多層の扁平筒状の炭素ナノ構造体(「グラフェンナノテープ(GNT)」と称されることもある。)が含まれていてもよい。
【0036】
そして、官能基を有する繊維状炭素ナノ構造体の官能基は、水酸基、アルデヒド基、カルボニル基、及びカルボキシル基からなる群より選択されうる。これらの官能基を繊維状炭素ナノ構造体に導入するための方法としては特に限定されることなく、任意の方法を用いることができる。例えば、硝酸などの酸化性の酸によって繊維状炭素ナノ構造体を酸化し上記したような官能基を該繊維状炭素ナノ構造体に形成することができる。繊維状炭素ナノ構造体が官能基を有していれば、分散液中における分散性を高めることができる。尚、繊維状炭素ナノ構造体が官能基を有するか否かという点は、分散液を固液分離させた後、固形分をX線光電子分光法(XPS)にて、酸素元素量を定量分析することにより判定することができる。
【0037】
例えば硝酸による繊維状炭素ナノ構造体の酸化方法は、特に限定されないが、例えば、硝酸などの酸化性の酸と繊維状炭素ナノ構造体とを混合して混合物を得て、得られた混合物を1時間以上13時間以下にわたり、83℃以上120℃以下の温度条件で撹拌しながら反応させる方法が挙げられる。その後、任意で水等を添加して酸濃度を低下させてから、pH7.0付近になるようにpH調整しつつクロスフロー濾過などのろ過により不純物を除去する工程(精製工程)を実施することが好ましい。精製工程の際の温度は特に限定されないが、20℃以上35℃以下でありうる。
【0038】
上記の精製工程では、ナノ構造体の製造時に不可避的に混入する金属不純物を除去することができる。ここで、金属不純物としては、ナノ構造体を製造する際に用いた金属触媒等が挙げられ、例えば、アルカリ金属、アルカリ土類金属、第3~13族、ランタノイド族の各族に属する金属元素、Si、Sb、As、Pb、Sn、Bi等の金属元素、及び、これらを含む金属化合物等が挙げられる。より具体的には、Al、Sb、As、Ba、Be、Bi、B、Cd、Ca、Cr、Co、Cu、Ga、Ge、Fe、Pb、Li、Mg、Mn、Mo、Ni、K、Na、Sr、Sn、Ti、W、V、Zn、Zr等の金属元素及びこれらを含む金属化合物が挙げられる。そして、官能基を有する繊維状炭素ナノ構造体における金属不純物の濃度は、分散液の分散安定性を一層高める観点から1×1018原子/cm未満であることが好ましく、15×1010原子/cm未満であることがより好ましい。
なお、金属不純物の濃度は、例えば、透過型電子顕微鏡(TEM)、走査型電子顕微鏡(SEM)、エネルギー分散型X線分析(EDAX)、気相分解装置及びICP質量分析(VPD、ICP/MS)等により測定することができるが、精度が高く測定でき得るため、通常は、ICP質量分析(ICP/MS)を用いて測定する。
【0039】
ナノ構造体の動的光散乱法に基づくZ平均粒子径は、45.0nm以上70.0nm以下である必要があり、45.1nm以上69.5nm以下であることが好ましく、45.2nm以上69.0nm以下であることがより好ましい。ナノ構造体の動的光散乱法に基づくZ平均粒子径が上記範囲内であれば、分散液中における凝集物の発生を効果的に抑制することができ、分散安定性に優れる。
【0040】
<分散媒>
ナノ構造体を分散させる分散媒としては、特に限定されることなく、水;メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノール、イソブタノール、t-ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、ヘプタノール、オクタノール、ノナノール、デカノール、アミルアルコール、メトキシプロパノール、プロピレングリコール、エチレングリコール等のアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類;酢酸エチル、酢酸ブチル、乳酸エチル、α-ヒドロキシカルボン酸のエステル、ベンジルベンゾエート(安息香酸ベンジル)等のエステル類;ジエチルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフラン、モノメチルエーテル等のエーテル類;N,N-ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン等のアミド系極性有機溶媒;トルエン、キシレン、クロロベンゼン、オルトジクロロベンゼン、パラジクロロベンゼン等の芳香族炭化水素類;サリチルアルデヒド、ジメチルスルホキシド、4-メチル-2-ペンタノン、N-メチルピロリドン、γ-ブチロラクトン、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド等が挙げられる。中でも、ナノ構造体の分散性に特に優れる観点から、水、ジメチルアセトアミドが好ましく、水がより好ましい。これらは1種類のみを単独で用いてもよいし、2種類以上を混合して用いてもよい。
【0041】
<添加剤>
ナノ構造体分散液に任意に配合され得る添加剤としては、特に限定されることなく、分散剤、分子添加剤、及びpH調整剤などが挙げられる。分散剤、及び分子添加剤としては、特に限定されることなく、国際公開第2017/115707号を挙げることができる。また、pH調整剤としては、特に限定されることなく、アンモニア水、及び硝酸アンモニウム水などが挙げられる。
なお、例えば、ナノ構造体分散液を用いて形成した電子デバイスの特性(特に、導電性など)を向上させる観点からは、ナノ構造体分散液中に含まれている添加剤の濃度は1質量%以下であることが好ましい。
【0042】
<ナノ構造体分散液のpH>
ナノ構造体分散液は、pHが5.5以上であることが好ましく、8.0以下であることが好ましく、7.5以下であることがより好ましい。ナノ構造体分散液のpHが5.5以上であれば、ナノ構造体の分散安定性を高めることができる。その結果、ナノ構造体分散液を用いて、電子デバイスを製造した場合に、得られる電子デバイスの品質を高めることができる。また、ナノ構造体分散液のpHが、その製造段階においても7.5以下であれば、例えば、ナノ構造体分散液を製造する過程にて用いたセラミックろ過膜等からの金属成分の溶出を抑制して、ナノ構造体分散液に含まれる不純物としての金属量を低減することができる。その結果、得られる電子デバイスの品質を高めることができる。
【0043】
<ナノ構造体分散液の調製方法>
ナノ構造体分散液は、ナノ構造体としての官能基を有する繊維状炭素ナノ構造体と、分散媒と、任意の添加剤とを含む混合物について分散処理して分散液を得る工程(分散工程)を経て調製することができる。さらに、分散工程を経て得られた分散液は、必要に応じて密閉容器に充填する(充填工程)。そして、密閉容器に充填された分散液は、必要に応じて分散処理に供する(容器入り分散液分散工程)。ここで、密閉容器に充填された分散液はその状態で所定期間にわたり保管されうる(保管工程)。上記の通り、充填工程、容器入り分散液分散工程、及び保管工程は任意工程である。中でも、充填工程、容器入り分散液分散工程、及び保管工程は、何れか一方のみ実施しても双方実施してもよい。容器入り分散液分散工程と保管工程との双方を実施する場合には、これらの実施順序も特に限定されず、(i)充填工程直後に容器入り分散液分散工程を実施してから保管工程を実施してもよいし、(ii)保管工程を実施してから容器入り分散液分散工程を実施してもよい。さらに、上記(i)の場合において、保管工程の後にさらに容器入り分散液分散工程を実施してもよい。
【0044】
分散工程では、官能基を有する繊維状炭素ナノ構造体と、分散媒と、任意の添加剤とを含む混合物について分散処理して分散液を得る。この際の分散方法としては、特に限定さ採用することが好ましい。この際の分散温度は例えば、分散性を向上する観点から、5℃以上35℃以下でありうる。また、分散時間は、分散性及び分散安定性を向上する観点から、0.5時間以上4時間以下が好ましい。分散時間を上記範囲内とすることで、ナノ構造体の動的光散乱法に基づくZ平均粒子径を適切に制御することができる。
【0045】
充填工程では、分散工程を経て得られた分散液を必要に応じて密閉容器に充填する。密閉容器としては、少なくとも、分散液と接触する内面部分が樹脂により形成されている容器を用いることが好ましい。かかる樹脂は、高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、ポリスチレン、ポリプロピレン、及びフッ素系樹脂から選択される少なくとも一種を含むことが好ましい。中でも、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、フッ素化エチレンプロピレン(FEP)、パーフルオロアルコキシアルカン(PFA)、エチレンテトラフルオロエチレン(ETFE)、クロロトリフルオロエチレン(CTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)等のフッ素系樹脂がより好ましく、中でも、ETFE及びPVDFが特に好ましい。少なくとも内面部分が上記樹脂のうちの少なくとも一種よりなる密閉容器に分散液を収容することで、官能基を有する繊維状炭素ナノ構造体の凝集を効果的に抑制することができ、その結果分散液の分散安定性を一層高めることができる。なお、本明細書において、「高密度ポリエチレン」とは、密度が942kg/m以上のポリエチレンを意味し、「低密度ポリエチレン」とは、密度が910kg/m以上930kg/m未満のポリエチレンを意味する。また、密閉容器の「少なくとも内面部分が所定の樹脂のうちの少なくとも一種よりなる」とは、密閉容器全体が所定の樹脂からなる場合はもちろんのこと、密閉容器の内面が上記所定の樹脂によりライニングされてなる場合を含む。この場合密閉容器本体(例えば外装)を構成する素材は特に限定されることなく、ガラス又は金属であってもよい。なお、密閉容器の形状は特に限定されないが、ナノ構造体分散液を充填した後に密閉することが可能な例えば注入口を有する任意の密閉容器でありうる。具体的には、密閉容器としては、例えば、蓋付きのボトルが挙げられる。
【0046】
上述した各種の樹脂が密閉容器の構成材料として好適な理由はガス透過性が低いことにあると考えられる。密閉容器構成材料である樹脂のガス透過性が低ければ、密閉容器内へのガスの侵入を効果的に抑制することができ、その結果、密閉容器内に侵入した例えばCOなどと繊維状炭素ナノ構造体表面の官能基とか反応し凝集が促進されることを効果的に抑制することができる。また、密閉容器構成材料である樹脂のガス透過性が低ければ、密閉容器内から容器外へガスが漏洩することを抑制して、この側面からも、繊維状炭素ナノ構造体表面の官能基が脱離することを抑制して、分散安定性を高めることができる。なお、密閉容器内外のガスの流通を抑制するという観点からは、密閉容器をガスバリア袋に封入して保存することも有効である。かかるガスバリア袋の材料としては特に限定されないが、密閉容器の分散液と接触する内面部分を構成する樹脂として上記列挙したものが挙げられる。
【0047】
ここで、密閉容器に対してナノ構造体分散液を充填するにあたり、分散液入り容器の充填率が90.0体積%以上となるようにすることが好ましく、94.0体積%以上となるようにすることがより好ましく、98.0体積%未満となるようにすることが好ましく、97.0体積%以下となるようにすることがより好ましい。分散液入り容器の充填率が上記下限値以上であれば、容器内のナノ構造体分散液に含まれているナノ構造体の分散性が低下するのを効果的に抑制することができる。一方、充填率が上記上限値以下であれば、ナノ構造体分散液の使用時に容器内からナノ構造体分散液がこぼれ出る可能性や容器が破裂することを効果的に抑制することができる。なお、密閉容器へのナノ構造体分散液の充填は、窒素ガス雰囲気もしくはアルゴンガス雰囲気(すなわち、不活性ガス雰囲気)、又はクラス10以上のクリーン環境下で行うことが好ましい。
【0048】
容器入り分散液分散工程では、密閉容器に充填された分散液は、必要に応じて分散処理に供する。かかる分散処理に分散方法としては、超音波処理を採用することができる。超音波処理条件は、出力2.0アンペア以上、5.0アンペア以下、5℃以上35℃以下、0.5時間以上2時間以下とすることができる。分散時間が長いほど、ナノ構造体の動的光散乱法に基づくZ平均粒子径を小さくすることができ、分散時間が短いほど、ナノ構造体の動的光散乱法に基づくZ平均粒子径を大きくすることができる。よって、分散時間を適切に制御することで、ナノ構造体の動的光散乱法に基づくZ平均粒子径を適切に制御することができる。
【0049】
保管工程では、密閉容器に充填された分散液をその状態で静置して、所定期間にわたり保管する。この際、密閉容器を保管庫内に収容することが好ましい。保管庫における保管温度は、分散安定性の観点からは25℃以下であることが好ましく、凍結を回避する観点から0℃超であることが好ましい。保管温度が25℃以下であれば、分散液におけるブラウン運動を抑制することができるためであると推察されるが、ナノ構造体同士の凝集を効果的に抑制することができる。
【0050】
保管期間は、特に限定されないが、長期の保管によりナノ構造体の動的光散乱法に基づくZ平均粒子径が大きくなる虞があるので、Z平均粒子径が70nm以下となる期間であることが好ましく、具体的には370日以下であることが好ましい。
【0051】
また、保管工程にて密閉容器を補完する雰囲気の圧力(以下、「保管圧力」とも称する。)は、ゲージ圧で、0kPa以上100kPa以下であることが好ましい。保管圧力が0kPa以上であれば、ナノ構造体分散液自体のpHが低下することを抑制することができる。これは、保管圧力がゲージ圧で0kPa以上である、換言すると減圧条件でないことで、ナノ構造体分散液中に含有される、ナノ構造体の官能基に由来する化合物、及び任意の添加剤に由来する化合物が気化することを抑制できるためであると推察される。ナノ構造体分散液自体のpHが低下することを抑制することができる結果、ナノ構造体が凝集することを抑制することができ、ひいては、ナノ構造体分散液を用いて電子デバイスを製造した場合にその均一性を高めることができる。また、保管圧力が100kPa以下であれば、ナノ構造体分散液が加圧により増粘することを抑制することができる。その結果、ナノ構造体分散液を用いて電子デバイスを製造する際に、例えば塗工工程を実施する場合に、塗り斑ができることを効果的に抑制することができる。また、保管圧力が100kPa以下であれば、保管圧力を高めるためにガスバリア袋を使用した場合にはその破れを抑制することができる。
【0052】
なお、上述した本発明のナノ構造体分散液は、密閉容器から取り出して、(1)分散媒を除去することによりナノ構造体の集合体の製造に用いられ、或いは、(2)マトリクス材料を混合して複合材料用組成物として、任意の方途に従って複合材料の製造に用いられることができる。この際、分散媒の除去、或いはマトリクス材料との混合に先立って、必要に応じて、ナノ構造体分散液から金属等の不純物を除去する目的において、イオン交換工程が実施されることがある。上述した通り、本発明のナノ構造体分散液は分散安定性に優れるため、イオン交換工程におけるナノ構造体の凝集及びナノ構造体によるイオン交換樹脂の閉塞を効果的に抑制することができる。
【実施例0053】
以下、本発明について実施例に基づき具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
なお、実施例及び比較例において使用したカーボンナノチューブは、以下の方法で合成した。また、実施例及び比較例において各種の評価は、以下の方法を使用して行った。
【0054】
(カーボンナノチューブの合成)
国際公開第2006/011655号の記載に従い、スーパーグロース法によりCNT(SGCNT-1)を調製した。なお、SGCNT-1の調製時には、基材表面への触媒層の形成をウェットプロセスにより行い、アセチレンを主成分とする原料ガスを用いた。
得られたSGCNT-1は、BET比表面積が1050m/g(未開口)、マイクロ孔容積が0.44mL/gであり、ラマン分光光度計での測定において、単層CNTに特長的な100~300cm-1の低波数領域にラジアルブリージングモード(RBM)のスペクトルが観察された。また、透過型電子顕微鏡を用い、無作為に100本のSGCNT-1の直径及び長さを測定した結果、平均直径(Av)が3.3nm、直径の標準偏差(σ)に3を乗じた値(3σ)が1.9nm、それらの比(3σ/Av)が0.58、平均長さが500μmであった。また、全自動比表面積測定装置((株)マウンテック製、製品名「Macsorb(登録商標)HM model-1210」)を用いてSGCNT-1の吸着等温線を測定し、得られた吸着等温線において相対圧を窒素ガス吸着層の平均厚みt(nm)に変換することにより、t-プロットを作成したところ、t-プロットは上に凸の形状を示した。
【0055】
(Z平均粒子径)
カーボンナノチューブ分散液(固形分濃度0.3%)0.085gを超純水15gでポリプロピレン製容器にて希釈した後、ボルテックスミキサー(アズワン社製、製品名:ボルテックスミキサー GHW-3000)にて、5秒間攪拌させた。その後、動的光散乱(DLS)(Malvern Panalytical社製、製品名:ゼータサイザーナノZS)にて、下記の手順に従って測定し、Z平均粒子径を得た。
(1)測定前前処理
カーボンナノチューブ分散液(固形分濃度0.3%)0.085gを超純水15gでPP製容器にて希釈した後、ボルテックスミキサー(アズワン社製、製品名:ボルテックスミキサー GHW-3000)にて、5秒間攪拌させた。
(2)測定
上記で得られたカーボンナノチューブ分散液を、ポリスチレンセル(Malvern Panalytical社製、製品名:12mm角ポリスチレンセル DTS0012)に添加し、試料条件(屈折率:1.12、吸収率:39.2、分散媒:水、測定温度:25.0℃、平衡時間:240秒)及び測定条件(測定角度:173°後方散乱)の条件にてDLS測定を実施し、Z平均粒子径を測定した。
【0056】
(分散安定性)
カーボンナノチューブ分散液1(固形分濃度0.3%)0.165gを0.1mol/L硝酸9.835gを用いてポリプロピレン製容器内にて希釈した後、ボルテックスミキサー(アズワン社製、製品名:ボルテックスミキサー GHW-3000)にて、5秒間攪拌させた。室温環境下で5時間静置させた後、容器内の分散液中の凝集物有無を目視にて確認した。目視にて凝集物を確認した結果を、下記の基準に従って評価した。
A:分散液中の凝集物の有無を確認したが、視認できる凝集物や粒子はなかった。
B:分散液中の凝集物の有無を確認した結果、視認できる粒子が存在していた。
【0057】
(実施例1)
ナノ構造体としての、上記に従って得られたSGCNT-1(80g)を、10.4Mの硝酸12L中にで2時間攪拌し、その後超純水を用い9.1Mの硝酸濃度に希釈後、120℃で12.5時間還流して精製をした。その後、超純水により1.7Mの硝酸濃度に希釈後、0.01μmのセラミック膜を用い、pHが6.5になるまでクロスフローろ過を行った。セラミック膜を通過した液体を透過液として廃棄し、フィルターの孔を通過しない液体を保持液として回収した。その後、保持液にアンモニア水及び硝酸アンモニウム水を添加することによって、保持液のpHを7.9、硝酸イオン濃度が100ppmになるよう調整した。その後、超音波照射機(東京超音波技研社製、製品名:PUC-1415)で3.5アンペアで温度12.3℃の条件下で2時間超音波処理を行った。これにより、カーボンナノチューブ分散液1を得た。
容積4L(実容量は4.20L)のポリエチレン製密閉容器(アイセロ社製、製品名:クリーンバリアボトルSGL(G)PR、高密度ポリエチレン製)にカーボンナノチューブ分散液1(4.00L)をクラス100のクリーンブース内で充填した。これにより、カーボンナノチューブ分散液2を得た。密閉容器におけるCNT分散液の充填率は95.2体積%であった。
上記に従って得られたカーボンナノチューブ分散液1に対し、上記に従ってDLS測定を行った。その結果、Z平均粒子径は、54.2nmであった。
更に、上記に従って得られたカーボンナノチューブ分散液2に対し、上記に従って分散安定性評価を行った。その結果、分散液中の凝集物の有無を確認したが、視認できる凝集物や粒子はなかった(分散安定性評価:A)。
【0058】
(実施例2)
実施例1と同様にして得られたカーボンナノチューブ分散液2(すなわち、密閉容器に充填された状態のCNT分散液)を、25℃に設定した保管庫である恒温恒湿槽(ESPEC社製、製品名:SH-241)中に、載置した。載置した日を起点日として、305日の保管期間の後に、密閉容器に充填された状態のCNT分散液であるCNT分散液2を取り出し、DLS測定を行った。その結果、Z平均粒子径は68.9nmであった。分散安定性評価においては、分散液中の凝集物の有無を確認したが、視認できる凝集物や粒子はなかった(分散安定性評価:A)。
【0059】
(実施例3)
実施例1と同様にして得られたカーボンナノチューブ分散液1をガラス製スクリューバイアル瓶に100g充填し、超音波照射機(日本エマソン社製、製品名:ブランソニック 卓上型超音波洗浄機5510)にセットし、3.5アンペアで温度13.7℃の条件下で超音波を8.8分照射した。得られたCNT分散液に対し、DLS測定を行った。その結果、Z平均粒子径は52.2nmであった。分散安定性評価においては、分散液中の凝集物の有無を確認したが、視認できる凝集物や粒子はなかった(分散安定性評価:A)。
【0060】
(実施例4)
超音波照射時間を21分とした以外は、実施例3と同様の操作を行った。得られたCNT分散液に対し、DLS測定を行った。その結果、Z平均粒子径は49.0nmであった。分散安定性評価においては、分散液中の凝集物の有無を確認したが、視認できる凝集物や粒子はなかった(分散安定性評価:A)。
【0061】
(実施例5)
超音波照射時間を63.4分とした以外は、実施例3と同様の操作を行った。得られたCNT分散液に対し、DLS測定を行った。その結果、Z平均粒子径は45.4nmであった。分散安定性評価においては、分散液中の凝集物の有無を確認したが、視認できる凝集物や粒子はなかった(分散安定性評価:A)。
【0062】
(比較例1)
実施例1と同様にして得られたカーボンナノチューブ分散液2(すなわち、密閉容器に充填された状態のCNT分散液)を、25℃に設定した保管庫である恒温恒湿槽(ESPEC社製、製品名:SH-241)中に、載置した。載置した日を起点日として、452日の保管期間の後に、密閉容器に充填された状態のCNT分散液であるCNT分散液2を取り出し、DLS測定を行った。その結果、Z平均粒子径は72.2nmであった。分散安定性評価においては、分散液中の凝集物の有無を確認した結果、視認できる粒子が多数存在していた(分散安定性評価:B)。
【0063】
(比較例2)
超音波照射時間を70分とした以外は、実施例3と同様の操作を行った。得られたCNT分散液に対し、DLS測定を行った。その結果、Z平均粒子径は44.4nmであった。分散安定性評価においては、分散液中の凝集物の有無を確認した結果、視認できる粒子が多数存在していた(分散安定性評価:B)。
【0064】
(比較例3)
超音波照射時間を84分とした以外は、実施例3と同様の操作を行った。得られたCNT分散液に対し、DLS測定を行った。その結果、Z平均粒子径は41.1nmであった。分散安定性評価においては、分散液中の凝集物の有無を確認した結果、視認できる粒子が多数存在していた(分散安定性評価:B)。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明によれば、分散安定性に優れるナノ構造体分散液を提供することができる。