(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024142341
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】充放電試験システム
(51)【国際特許分類】
G01R 31/00 20060101AFI20241003BHJP
H01M 10/42 20060101ALI20241003BHJP
H01M 10/48 20060101ALI20241003BHJP
H02J 7/00 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
G01R31/00
H01M10/42 P
H01M10/48 P
H02J7/00 Q
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023054440
(22)【出願日】2023-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000151494
【氏名又は名称】株式会社東京精密
(74)【代理人】
【識別番号】110003535
【氏名又は名称】スプリング弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】横山 専平
【テーマコード(参考)】
2G036
5G503
5H030
【Fターム(参考)】
2G036AA12
2G036AA13
2G036BB08
5G503AA01
5G503BA02
5G503BB02
5G503CA01
5G503CA11
5G503CB11
5G503EA09
5G503GD02
5G503GD03
5G503GD04
5H030AA10
5H030AS08
5H030AS18
5H030FF22
5H030FF41
5H030FF42
5H030FF43
5H030FF44
5H030FF52
(57)【要約】
【課題】長期間試験及び異常時の詳細データを任意に出力することができ、電流・電圧・温度等に対しても詳細な評価ができる充放電試験システムの提供。
【解決手段】 二次電池15-1…15-nを接続して充放電試験を行う試験装置20-1と、前記試験装置20-1…20-mによる電池状態を示す信号から測定データDT1を作成し、解析して電池の特性を求める充放電試験システムにおいて、第1のサンプリング間隔f1で前記測定データを取得する前記試験装置と、前記測定データを記憶する大容量記憶装置と1(100)と、記憶された前記測定データに基づき、前記第1のサンプリング間隔のA倍(Aは2以上の整数を表す)となる第2のサンプリング間隔f2で前記測定データを抽出して、評価データDT2として出力する、評価データ出力手段と、を備えた充放電試験システム。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
二次電池を接続して充放電試験を行う試験装置と、前記試験装置により取得される前記二次電池の特性解析のための電池状態を示す測定データに基づき評価データを出力する充放電試験システムにおいて、
第1のサンプリング間隔で前記測定データを取得する前記試験装置と、
前記測定データを記憶する大容量記憶装置と、
記憶された前記測定データに基づき、前記第1のサンプリング間隔のA倍(Aは2以上の整数を表す)となる第2のサンプリング間隔で前記測定データを抽出して、評価データとして出力する、評価データ出力手段と、
を備えた充放電試験システム。
【請求項2】
前記試験装置は、交流電源と、交流/直流コンバータと、前記交流/直流コンバータにバス接続された複数の充放電装置と、前記充放電装置を制御して前記二次電池の充放電試験を行うコントローラとを有し、
前記コントローラを介して前記試験装置と接続され、前記二次電池に対する充放電パターンの設定指示を前記コントローラへ出力する制御装置と、
前記試験装置と接続された前記大容量記憶装置と、
を備えたことを特徴とする請求項1に記載の充放電試験システム。
【請求項3】
前記大容量記憶装置が、ネットワークを介して、前記試験装置と接続されたことを特徴とする、請求項2に記載の充放電試験システム。
【請求項4】
前記大容量記憶装置が、前記制御装置を介して、前記試験装置と接続されたことを特徴とする、請求項2に記載の充放電試験システム。
【請求項5】
前記評価データ出力手段は、ユーザからの要求、又は、予め定められた条件に基づき、前記Aの大きさを調整する、請求項1に記載の充放電試験システム。
【請求項6】
前記評価データ出力手段は、ユーザからの要求、又は、予め定められた条件に基づき、前記測定データのうち、所定の時間分のデータについて、
前記第1のサンプリング間隔のB倍(Bは、1以上、前記A未満の整数を表す)となる第3のサンプリング間隔で、データを再抽出して、第2の評価データとして出力する、請求項1に記載の充放電試験システム。
【請求項7】
前記測定データに基づき、予め定められた基準との比較により異常特性パターンを判断し、異常傾向を予測、又は、警告する予測部を更に備える、請求項6に記載の充放電試験システム。
【請求項8】
前記予測部は、前記測定データの経時的な推移に対する異常の発生状況のラベル付けがなされた訓練データセットにより予め機械学習された学習済みモデルを含み、
前記試験装置により取得された前記測定データに基づき、前記学習済みモデルにより、前記異常傾向を予測する、請求項7に記載の充放電試験システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二次電池等の被充電体の充放電試験を行う充放電試験システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、世界的な環境規制の強化及びエネルギ費用削減の傾向に基づいて、電気自動車についての要求が増加している。そして、電気自動車(EV)や燃料電池車(FCV)は、走行中に二酸化炭素(CO2)をまったく出さないため、世界的な「脱炭素」の動きで需要が急増している。電気自動車とは、電動機の駆動力のみを用いて走行が可能な車であり、走行用の大出力モータに供給する電力源として、二次電池(バッテリ)を用いる電気自動車(EV)、燃料電池を用いる燃料電池車(FCV)が知られている。電気自動車(EV)技術を支える二次電池もキーデバイスとして大きく需要が拡大している一方で、電気自動車等を支えるトータルインフラとして、原料の採掘から、製造、及び、再利用等に至るまで、脱CO2、及び、省エネの要求が大きくなってきている。
【0003】
上記は、電池製造後の試験設備においても同様で、設備の拡大に合わせ、装置自体の更なるランニングコスト低下、省エネ化が求められている。車両電動化等のために使用される大容量の二次電池は、信頼性を確保するために、長期間にわたる試験を行い、結果として得られる膨大なデータから、その特性を見極める評価試験が行わる。
例えば、二次電池は、充電と放電とを頻繁に繰り返したり、負荷が急激に変動するなどの過酷な条件で使用されるため、製造時に充放電試験装置により充電試験や放電試験(充放電試験と称する)が行われ、品質が厳しく管理されている。
【0004】
特許文献1は、二次電池の充放電試験は長時間を要する試験であり、転送速度や取得頻度が制限されるので、二次電池の特性を計測し、LAN経由で充放電試験装置との送受信を行う低速計測モードと、計測結果をアナログ信号で制御装置内部のシステムバスを介して記憶部に保存する高速計測モードとを設けることが記載している。
【0005】
特許文献2は、設備の稼働率向上を確保するため、充放電体の内の充放電試験の対象となる試験充放電体に対応する充放電パターンを設定する設定部し、充放電パターンに基づいて、電力予測パターンを生成することを記載している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2016-121931号公報
【特許文献2】特開2023-10581号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記従来技術において、充放電試験システムによる出力データは、装置専用の制御パソコンの記憶装置であるHDD内に保存され、データ解析・診断に使用される。典型的には、所定の時間間隔(サンプリング間隔)でデータが取得され、HDD内に順次記録される。
【0008】
一般に、充放電試験装置の電池評価試験は長期間試験が多く、サンプリング間隔を短くすると、取得されるデータ量が膨大となりやすく、HDDの記憶域が圧迫されたり、データ解析が煩雑となりすぎるという問題があった。
そのため、サンプリング間隔を一定程度長く(粗く)、例えば、数秒~数十秒くらいにする場合があった。
【0009】
しかし、サンプリング間隔が粗いと、2つのサンプリング時間(時機)の間に起こった事象が記録されないという問題がある。例えば、サンプリングとサンプリングとの間に電池性能の評価上重要な信号が発生したとしても、その信号は記録されず(サンプリング時機でないため)見逃されてしまっていた。
また、何らかの異常により、装置が停止し、時間を遡ってその原因を調査しようとしても、サンプリング間隔が粗いと、異常(特異的な事象)の原因となる兆候を見つけることは難しかった。
【0010】
一方で、サンプリング間隔を細かく(短く)すると、データ量が膨大となる問題がある。データ量が増えると、単に記憶域を圧迫するだけでなく、データ解析に(特異的な事象の抽出に)、時間が掛かるという問題もあった。
一般に、電池評価試験は、同一の、又は、異なる電池を並行して、同時に行われることが多い。この場合、1つの二次電池の試験データ量が増加すると、評価試験全体において扱われるデータ量も大きく増加していく。二次電池の充放電試験は、数か月間連続で行われることもあり、ここから得られる膨大なデータをユーザが解析するのは煩雑となり、評価結果を得るまでに時間を要するという問題があった。
【0011】
本発明の目的は、上記従来技術の課題を解決し、長期間試験が可能であり、過渡的・異常時の詳細データを試験後任意に出力することができると共に、試験中の電池の挙動(電流・電圧・温度等)の変化に対しても詳細な評価できる充放電試験システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成する本発明は、以下のとおりである。
【0013】
[1] 二次電池を接続して充放電試験を行う試験装置と、上記試験装置により取得される上記二次電池の特性解析のための電池状態を示す測定データに基づき評価データを出力する充放電試験システムにおいて、第1のサンプリング間隔で上記測定データを取得する上記試験装置と、上記測定データを記憶する大容量記憶装置と、記憶された上記測定データに基づき、上記第1のサンプリング間隔のA倍(Aは2以上の整数を表す)となる第2のサンプリング間隔で上記測定データを抽出して、評価データとして出力する、評価データ出力手段と、を備えた充放電試験システム。
[2] 上記試験装置は、交流電源と、交流/直流コンバータと、上記交流/直流コンバータにバス接続された複数の充放電装置と、上記充放電装置を制御して上記二次電池の充放電試験を行うコントローラとを有し、上記コントローラを介して上記試験装置と接続され、上記二次電池に対する充放電パターンの設定指示を上記コントローラへ出力する制御装置と、上記試験装置と接続された上記大容量記憶装置と、を備えたことを特徴とする[1]に記載の充放電試験システム。
[3] 上記大容量記憶装置が、ネットワークを介して、上記試験装置と接続されたことを特徴とする、[2]に記載の充放電試験システム。
[4] 上記大容量記憶装置が、上記制御装置を介して、上記試験装置と接続されたことを特徴とする、[2]に記載の充放電試験システム。
[5] 上記評価データ出力手段は、ユーザからの要求、又は、予め定められた条件に基づき、上記Aの大きさを調整する、[1]に記載の充放電試験システム。
[6] 上記評価データ出力手段は、ユーザからの要求、又は、予め定められた条件に基づき、上記測定データのうち、所定の時間分のデータについて、上記第1のサンプリング間隔のB倍(Bは、1以上、上記A未満の整数を表す)となる第3のサンプリング間隔で、データを再抽出して、第2の評価データとして出力する、[1]に記載の充放電試験システム。
[7] 上記測定データに基づき、予め定められた基準との比較により異常特性パターンを判断し、異常傾向を予測、又は、警告する予測部を更に備える、[6]に記載の充放電試験システム。
[8] 上記予測部は、上記測定データの経時的な推移に対する異常の発生状況のラベル付けがなされた訓練データセットにより予め機械学習された学習済みモデルを含み、上記試験装置により取得された上記測定データに基づき、上記学習済みモデルにより、上記異常傾向を予測する、[7]に記載の充放電試験システム。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、長期間試験が可能であり、過渡的・異常時の詳細データを試験後任意に出力することができると共に、試験中の電池の挙動(電流・電圧・温度等)の変化に対しても詳細な評価できる充放電試験システムが提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の一実施形態に係る主要部を示すブロック図。
【
図2】本発明の一実施形態に係る評価データを出力するまでの流れを示すブロック図。
【
図3】サンプリング間隔の違いによる評価データ、測定データの取得状態を示す説明図。
【
図4】本発明の一実施形態に係る測定データの取得状態を示す説明図。
【
図5】一実施形態に係る測定データ、評価データの例を示す時間対電池電圧及び電流のグラフ。
【
図6】一実施形態に係る異常時の第2の評価データの取得例を示す説明図。
【
図7】一実施形態に係る異常時の第2の評価データの取得例の詳細を示す説明図
【
図8】一実施形態に係る測定データの取得例を示す時間対電圧を示す図。
【
図9】本発明の他の実施形態に係る主要部を示すブロック図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して詳細に説明する。
図1は、本発明の実施形態に係る主要部を示すブロック図である。充放電試験システム10は充放電試験対象となる複数の二次電池15-1、15-2、15-3、…15-n(nは整数を表す)の充放電試験を並行して実行する。
【0017】
二次電池15-1、15-2、15-3、…15-nは、例えば、リチウムイオン電池、ニッケル水素電池、及び全固N体電池などの公知の各種二次電池であり、電気自動車の駆動モータ等に電力を供給する高圧バッテリ等を構成するセル電池であり、例えばセル電池をスタックし高電圧(100V以上、例えば200~400V)となり車載用パック電池となる。
【0018】
試験装置20-1~20-m(mは整数を表す)は、それぞれAC(交流)電源11、AC/DC(交流/直流)コンバータ12と、コントローラ13と、複数のET(Energy Testing System)装置(充放電装置)14-1、14-2、14-3、…14-nと、を備える。そして、試験装置20-1~20-mは、コントローラ13を介してネットワーク2に接続される。なお、nとmとが表す数は、同一でも、異なってもよい。
【0019】
制御装置3は、ネットワーク2に接続され、試験装置20-1~20-mに試験条件等を入力する。AC/DCコンバータ12は、複数のET装置14-1、14-2、14-3、…14-nのそれぞれとバス接続されている。
【0020】
コントローラ13は、複数のET装置14-1、14-2、14-3、…14-nを制御するプログラマブルロジックコントローラ(PLC)のような制御装置であり、データを一時的に保存するスタティックRAMあるいはSSDによるキャッシュメモリ、ネットワークコントローラ等を有している。二次電池15-1、15-2、15-3、…15-nは、それぞれET装置14-1、14-2、14-3、…14-nに接続されている。
【0021】
コントローラ13は、制御装置3からの入力指示に基づき、AC/DCコンバータ12及び各ET装置14-1、14-2、14-3、…14-nを制御して、二次電池15-1、15-2、15-3、…15-nの充放電試験を行う。
【0022】
制御装置3は、例えば、PC、PC以外の端末、携帯端末、又はタブレットである。制御装置3は、コントローラ13とネットワーク接続され、キーボード及びマウス等の操作部、ディスプレイ等の表示部を備える。
【0023】
制御装置3は、操作部にてET装置14-1、14-2、14-3、…14-nの二次電池15-1、15-2、15-3、…15-nに対する各充放電パターンの設定指示をコントローラへ出力する。これにより、コントローラ13は、ET装置14-1、14-2、14-3、…14-nに対して試験を行う二次電池15-1、15-2、15-3、…15-nの各充放電パターンの設定を行う。
【0024】
制御装置3は、操作部により二次電池15-1、15-2、15-3、…15-nの各充放電パターンを個別に行う設定操作の他に、試験装置20-1の各種操作に用いられ、その表示部は、各種情報の表示に用いられる。また、制御装置3は、ネットワーク2上に存在する機器情報や関連サービスの構成情報(IPアドレス、ポート接続情報、回線情報等)を管理する。
【0025】
二次電池15-1、15-2、15-3、…15-nは、恒温槽16内に設置され、温度計測部18を介してコントローラ13に接続されて温度管理が行われる。恒温槽16は、恒温槽制御部17を介してコントローラ13により温度制御される。ET装置14-1、14-2、14-3、…14-nは、コントローラ13により設定された二次電池15-1、15-2、15-3、…15-nの各充放電パターンに従って、恒温槽16内の二次電池15-1、15-2、15-3、…15-nに充放電(又は、充放電試験)を実行する。
【0026】
NASサーバ1は、ネットワーク2を介してファイルを保存・共有できるRAID機能を有するストレージであり、ファイル管理に特化した機能を持ち、数TB以上の大容量のHDD、あるいはSSDを搭載した大容量記憶装置である。
また、NASサーバ1は、バックアップやアクセス権限の管理、遠隔地からネットワーク2に接続して仮想ネットワークやリモートデスクトップとしてリモートアクセスがきる機能を有することが好ましい。なお、これらの機能は、制御装置3が備えてもよい。
【0027】
さらに、NASサーバ1は、クライアント端末となる端末4、5とネットワーク2を経由して通信することによって、コンピュータ資源及びインターネット上でファイルを保存・共有するサービスをサービスの形で提供するクラウドストレージとしても良い。この場合は、WEBブラウザ、あるいはアプリ経由でファイルのアップロード・ダウンロードを行う。
【0028】
NASサーバ1又は制御装置3に仮想ネットワークを構築した場合は、仮想ネットワーク内のデータベース管理システムへのデータの挿入、検索などの操作により記録済みの情報などをデータベース化し、端末4、5にてWebブラウザでHTMLや画像などのオブジェクトを閲覧、修正を可能とする各サービスを提供する。
【0029】
図2は、評価データを出力するまでの流れを示すブロック図である。始めに試験条件の入力は、制御装置3より行われる(矢印AR1)。試験条件には、試験全体の時間、測定データを取得する第1のサンプリング間隔(周期)等が含まれ得る。
第1のサンプリング間隔は、後述する第2、第3のサンプリング間隔と比較して最も短いものであり、基本的なサンプリング間隔となる。第1のサンプリング間隔は、特に限定されず、各部のハードウェア、ソフトウェア的な制限や、大容量記憶装置の容量に応じて適宜設定されればよい。なお、第1のサンプリング間隔は、予め定められた固定値としてもよく、この場合、試験条件には、第1のサンプリング間隔は含まれなくてよい。
【0030】
次に、試験装置20-1~20-mは、その内部にて、二次電池15-1、15-2、15-3、…15-nに対して充放電試験を行う(矢印AR2)。
次に、試験装置20-1~20-mは、二次電池15-1、15-2、15-3、…15-nから第1のサンプリング間隔で、電圧、温度等の電池状態を示す信号を得て、測定データDT1を取得する(矢印AR3)。
【0031】
次に、制御装置3は、第1のサンプリング間隔で取得された測定データDT1に基づき、第2のサンプリング間隔で測定データを抽出し、評価データDT2を作成する(矢印AR4)。
ここで、第2のサンプリング間隔は、第1のサンプリング間隔のA倍とされる(Aは2以上の整数を表す)。例えば、第1のサンプリング間隔が、100ミリ秒であれば、第2のサンプリング間隔は、その10倍の1000ミリ秒とされ得る。
【0032】
上記の処理によって、評価データDT2に含まれるデータ点数は、測定データDT1の1/A倍とされ、ユーザによる評価がより容易となる。そして、得られた評価データDT2は、出力される(矢印AR5)。
なお、第2のサンプリング間隔は、事前にユーザにより設定され、記憶されていてもよいし、予め定められていてもよい。
【0033】
評価データDT2は、サンプリング間隔(周期)が比較的、長く(粗く)設定されるため、経時的な測定値の変化を俯瞰するのにより適している。一方で、サンプリング時機と、サンプリング時機との間において起こった事象は反映されない。そのため、仮に異常が発生して試験が終了した場合等において、時間を遡ってその異常の兆候を調査しようとする場合等においては、より短いサンプリング間隔のデータによる評価が適している。
【0034】
図3は、サンプリング間隔の違いによる評価データ、測定データの取得状態を示す説明図である。
図3(A)は、第2のサンプリング間隔f2によって抽出された評価データDT2の説明図である。
横軸を時間Tとし、第2のサンプリング間隔f2により、時間t1、t2、t3の順でデータが抽出され、評価データDT2とされている。
第2のサンプリング間隔f2を十分大きくとると、評価データDT2によれば、試験時間の全体を通じた俯瞰的なデータの傾向について理解することができる。
【0035】
一方で、ある時間txにおいて、何らかの異常が発生した場合、異常発生時の測定値は、評価データDT2には含まれていない場合も起こり得る。時間t2の後に、異常発生(時間tx)して充放電試験システムが停止すると、時間t3のデータが評価データDT2には含まれないため、「時間t2の後、時間t3の前に、何らかの異常が発生して、試験が終了した」ということが理解される。
しかし、実際に異常が発生したのがいつなのか、そして、その兆候が発生した時間tyがいつなのか、という情報を評価データDT2から得ることは難しい。
すなわち、問題が発生せず正常に試験が終了するような場合は、評価データDT2で試験時間の全体が俯瞰できれば、二次電池の性能評価としては十分なデータが得られたと言える一方、異常が発生したような場合には、その原因究明のためには、評価データDT2のみでは、十分とは言えないことがある。
【0036】
図3(B)は、第1のサンプリング間隔f1により、測定された測定データDT1の説明図である。
同じく、横軸を時間Tとし、第1のサンプリング間隔f1により、時間t1~tq(qは整数を表す)までの間、データが取得される。
測定データDT1によれば、異常発生時(時間tx)又は、その直近のデータが取得されている可能性が高く、また、時間を遡って調査すれば、その兆候が発生した時間tyを突き止めることもできる。
一方で、記憶装置50にすべてのデータが記憶されるため、従来の充放電試験システム(記憶装置が内蔵されている)では、データ容量が不十分となりやすかった。また、多くのデータが取得される為、全体を俯瞰したデータを得ようとすると、解析が煩雑となりやすい。
【0037】
また、所定の範囲、例えば、「時間t3周辺の測定データが得たい」とユーザが考えた場合にも、膨大なデータから、時間t3周辺の測定データを探さなければならないため、この操作も煩雑となりやすい。
【0038】
図4は、本発明の充放電試験システムの実施例における、測定データの取得状態を示す説明図である。試験装置20-1~20-mは、第1のサンプリング間隔に従い、測定データDT1を取得し、大容量記憶装置100に記憶する。大容量記憶装置100は、
図1に示した例ではNASサーバ1に相当する。
【0039】
評価データ出力手段を含む制御装置3は、大容量記憶装置100に記憶された測定データDT1に基づいて端末4、5からの要求(矢印C1)、又は、予め定められた条件に応じて第2のサンプリング間隔で測定データDT1からデータを抽出し、評価データDT2とする。
例えば、第2のサンプリング間隔が第1のサンプリング間隔の10倍であれば、データd-f10として、100倍であれば、データd-f100として、1000倍であれば、データd-f1000として、評価データDT2が出力される。
【0040】
評価データDT2は、すでに取得された測定データDT1をもとに抽出される構成であるため、1回の測定結果から、必要に応じて再度、出力され得る。例えば、当初、データd-f1000として、比較的粗い評価データDT2を出力させたところ、過渡的・異常時の詳細な評価データDT2が必要と判断された場合は、より細かい(狭い)第2のサンプリング間隔を指定して、例えば、データd-f100やデータd-f10等として、評価データDT2を出力させればよい。
すなわち、1回の評価データで全体特性や、電池異常・過渡的変化の詳細な評価データを試験後でも得ることができる。充放電試験は、長期間行われるため、1回の試験で様々なデータを取得できることは、重要な性能の1つとなり得る。
【0041】
図5は、測定データ、及び、評価データの例を示す時間対電池電圧及び電流のグラフである。
図5(A)は、第1のサンプリング間隔f1で得た測定データDT1をグラフ表示したものである。この結果からは、0~1000msの観測時間(試験時間)中の二次電池の電圧、電流の変化の詳細が理解される。
一方、
図5(B)は、第2のサンプリング間隔f2で得た評価データDT2をグラフ表示したものである。この結果からは、0~1000msの観測時間(試験時間)中の二次電池の電圧、電流には、全体として大きな変化がないことが理解される。もし、二次電池の電池状態(各測定データ)に異常がない場合、評価データDT2が取得されれば、二次電池の性能評価としては充分である場合が多い。
【0042】
図6は、第2の評価データの出力例についての説明図である。
図6(A)は、第1のサンプリング間隔f1で測定された測定データDT1の説明図、
図6(B)は、測定データDT1に基づき、第1のサンプリング間隔f1のA倍(Aは2以上の整数)となる第2のサンプリング間隔f2で抽出された評価データDT2の説明図である。
【0043】
測定データDT1と評価データDT2との関係についてはすでに説明したとおりである。制御装置3(評価データ出力手段がアプリケーションソフトウェア等として実装される)により、第1のサンプリング間隔f1のA倍の第2のサンプリング間隔f2によって、測定データDT1から、データが抽出され、時間t1、t2、t3の測定値を含む評価データDT2とされる。
【0044】
図6(C)は、異常が発生した時間tx、及び、その予兆となる信号が得られる時間tyの近傍の測定データDT1から、第3のサンプリング間隔f3にてデータを再抽出し、作成された第2の評価データの説明図である。
上記処理は、制御装置3(評価データ出力手段がアプリケーションソフトウェア等として実装される)により実施される。
【0045】
第2の評価データDT3-1は、異常が発生した時間tx近傍の時間分の測定データDT1から抽出されたデータである。第3のサンプリング間隔f3は、第1のサンプリング間隔f1以上であって、第2のサンプリング間隔f2より短く設定される。具体的には、第3のサンプリング間隔f3は、第1のサンプリング間隔f1のB倍となるよう調整される。ここで、Bは、1≦B<Aを満たす整数であるため、第3のサンプリング間隔f3は、第2のサンプリング間隔f2よりも短くなる。
また、第2の評価データDT3-2は、異常の原因となる兆候を表す信号が得られた時間ty近傍の測定データDT1から、抽出されたものである。
【0046】
第2の評価データDT3-1、DT3-2は、再抽出される範囲が、所定の時間分(注目する範囲)に制限されるため、第3のサンプリング間隔f3を、より第1のサンプリング間隔f1に近づけても、評価すべきデータのデータ点数がより少なく抑えられ、解析がより容易となる。
再抽出される時間の範囲は、ユーザにより指定されてよい。また、第3のサンプリング間隔f3は、ユーザからの要求により定められてもよいし、予め定められていてもよい。
【0047】
ユーザは、二次電池15-1、15-2、15-3、…15-nの特性を第2のサンプリング間隔f2で評価していても、異常に気づいた時に、所定の時間範囲を指定して異常の直前の詳細な測定データを大容量記憶装置100から第2の評価データDT3-1、DT3-2のように得ることができる。
【0048】
上記構成によれば、ユーザは1回の評価データで異常電池のデータ分析ができる。また、ユーザは、異常時の数サイクル前の測定データを
図6(C)のように得ることができる。そして、ユーザは1回の評価データで異常前の測定データの傾向を探ることが可能となり、予測、警告の知見を得ることができる。
【0049】
図7は、異常時の第2の評価データの取得例の詳細を示す説明図である。
図7(A)は、二次電池15-1、15-2、15-3、…15-nの時間対電圧の変化を示す図である。X軸(時間T)上には、第1のサンプリング間隔f1、第2のサンプリング間隔f2が記載されている。
【0050】
ここで、電圧V1、及び、電圧V2は、第2のサンプリング間隔f2にて抽出されるデータである。すなわち、評価データDT2には、(時間T,電圧V)が(ta,V1)(tb,V2)の測定値が抽出されて含まれる。
異常値は、時間tx(電圧V3)で発生したため、評価データDT2には、表れない。この場合、第3のサンプリング間隔f3を、第2のサンプリング間隔f2よりも小さい適当な値とし、その対象範囲を時間ta~tbとして、第2の評価データを生成すれば、異常値を検出できる。具体的には、電圧変化ΔV/Δt等として、異常値を検出できる。なお、この電圧変化ΔV/Δtを、制御装置3で監視・保存することで、試験中に警告・注意を表示するようにしてもよい。
【0051】
図7(B)は、二次電池の時間対電圧が徐々に上昇して変化した場合を示している。大容量記憶装置100は、第1のサンプリング間隔f1で測定データDT1を記憶している。そのため、機械学習する機能を有する制御装置3は、変化する測定データDT1の傾向(測定データDT1の経時的な推移)と、異常の発生の有無(発生状況)によってラベル付けがなされた訓練データセットにより予め機械学習された学習済みモデルによって、測定初期td1のデータから、その後の期間td2の測定値の推移(異常傾向)を予測し、異常発生ab1の警告を生成できる。
なお、上記例では異常発生ab1を測定初期td1のデータから予測することとしているが、上記学習済みモデルによれば、任意の期間のデータから、異常警報の予測、及び、警報生成が可能である。
【0052】
制御装置3は、多チャンネルの試験装置20-1~20-mを管理しているので、同じ試験サイクルの中から異常特性パターンを統計的に比較、分析、解析して将来の特性、異常傾向を予測及び警告することもできる。また、制御装置3は、機械学習する機能により、診断根拠・定量的データを試験終了後に、出力することが可能となる。
【0053】
二次電池15-1、15-2、15-3、…15-nの電池状態として評価データによる測定項目は、電圧(V)、電流(A)、電力(W)、充電電流量(Ah)、放電電流量(Ah)、収支電流量(Ah)、充電電力量(Wh)、放電電力量(Wh)、収支電力量(Wh)、温度(℃)である。
また、二次電池15-1、15-2、15-3、…15-nの異常は、電圧(V)が上下限値から外れた場合、電流(A)が上限値を超えた場合、電力(W)が上限値を超えた場合、充電電流量(Ah)、放電電流量(Ah)、収支電流量(Ah)が上限値に達した場合、充電電力量(Wh)、放電電力量(Wh)、収支電力量(Wh)が上限値に達した場合、温度(℃)が上下限値から外れた場合等であり、それぞれ試験中及び試験後に異常として検知する。
【0054】
図8は、測定データの取得例を示す時間対電圧を示す図である。
図8の各線図は、複数の試験装置20-1、20-2、20-3、20-mにそれぞれで試験されている二次電池15-1、15-2、15-3、…15-nで測定データの一つである電圧を比較することを示している。この比較機能は、試験動作中に他CHとなる複数の試験装置20-1、20-2、20-3、20-mによる測定データを比較し、差分ΔVがいずれかで発生した場合に異常・警告として通知するものである。異常・警告の判定根拠は、この通知と共に明示することが可能となり、詳細な評価データ、第2評価データとして出力することが可能となる。
なお、二次電池15-1、15-2、15-3、…15-n間のデータの比較は、異なる試験装置20-1、20-2、20-3、20-m間においても可能であるし、試験装置20-1、20-2、20-3、20-mの二次電池15-1、15-2、15-3、…15-n間でも可能である。多くの(同一の又は異なる試験装置間の)二次電池15-1、15-2、15-3、…15-nの比較を行うことで、より正確な判定が行える場合がある。
【0055】
図9は、他の実施形態に係る主要部を示すブロック図である。
図1は、試験装置20-1~20-mに設けられたコントローラ13とネットワーク2を介して制御装置3を接続していたが、
図9は、試験装置20-1~20-mに設けられ各コントローラ13と制御装置3とをバス接続し、制御装置3をネットワーク2に接続した点が異なり、他は
図1と同様である。ネットワークコントローラ等は制御装置3に設けられ、サービスの構成情報(IPアドレス、ポート接続情報、回線情報など)を管理も行う。
【0056】
充放電試験システムは、コンピュータシステムであり、
(1)
図2で説明した評価データDT2を出力する機能、
(2)
図4で説明した大容量記憶装置100で記憶された測定データDT1から、ユーザの要求に応じた、又は、予め指定された第2のサンプリング間隔f2でデータを抽出して評価データDT2として出力する機能、
図5のように、所定の時間の範囲における測定データDT1、評価データDT2をそれぞれ表示する機能、
(3)
図6で説明した異常時の詳細なデータの取得のために、第2の評価データDT3-1、DT3-2を出力する機能、
(4)
図7で説明した二次電池15-1、15-2、15-3、…15-nの測定データの変化量によって、異常特性パターンを判断し、将来の特性、異常傾向を予測及び警告する機能、
(5)
図8で説明した複数の試験装置20-1、20-2、20-3、20-mにそれぞれで試験されている二次電池15-1、15-2、15-3、…15-nで測定データの一つである電圧を比較して異常・警告の判定根拠を明示する機能、
上記のそれぞれをどのようなハードウェア構成によって実現するかは柔軟に変更可能である。また、本発明は、上記の実施形態で説明した各機能を実装したコンピュータプログラムをコンピュータに供給し、当該コンピュータが有する1つ以上のプロセッサがプログラムを読み出して実行することによっても実現可能である。
【0057】
例えば、
図1の説明は、
図4の大容量記憶装置100をネットワーク2を介して試験装置20-1、20-2、20-3、20-mに接続されたNASサーバ1としたが、大容量記憶装置100をコントローラ13、又は、制御装置3に設けても良い。また、大容量記憶装置100は、RAID機能を有するストレージに限ることなく、NVMe接続のM.2SSD、インターネット上で利用可能なクラウドストレージとしてもよい。
【0058】
また、上記の各機能(1)から(5)等を実現するコンピュータプログラムであるアプリケーションソフトウェア、あるいはライブラリは、制御装置3に実装して端末4、5で利用できることが好ましいが、その一部あるいは全部をコントローラ13又はNASサーバ1で提供することでもよい。この場合、NASサーバ1は、クラウドストレージとして各機能をクラウドサービスとして提供してもよい。
【0059】
さらに、
図7で説明した機械学習する機能は、ネットワーク2を介して制御装置3より高速処理が可能なサーバコンピュータへ測定データを送信し、異常特性パターンを統計的に比較、分析、解析した結果を受信するクラウドサービスとして構成してもよい。
【符号の説明】
【0060】
1 NASサーバ、2 ネットワーク、3 制御装置、4 端末、5 端末、10 充放電試験システム、11 (交流)電源、12 AC/DCコンバータ、12 (交流/直流)コンバータ、13 コントローラ、14-1~14-n ET装置、15-1~15-n 二次電池、16 恒温槽、17 恒温槽制御部、18 温度計測部、20-1~20-m 試験装置、50 記憶装置、100 大容量記憶装置