(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024142342
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】栽培方法、および栽培システム
(51)【国際特許分類】
A01G 31/04 20060101AFI20241003BHJP
A01G 22/15 20180101ALI20241003BHJP
【FI】
A01G31/04 B
A01G22/15
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023054444
(22)【出願日】2023-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000006747
【氏名又は名称】株式会社リコー
(74)【代理人】
【識別番号】100098626
【弁理士】
【氏名又は名称】黒田 壽
(72)【発明者】
【氏名】青木 薫
【テーマコード(参考)】
2B022
2B314
【Fターム(参考)】
2B022AA01
2B022AA05
2B022AB11
2B314PB02
2B314PB41
2B314PB47
2B314PB61
2B314PD06
2B314PD07
2B314PD27
2B314PD37
(57)【要約】
【課題】栽培槽10による占有面積を有効活用して、葉菜類Sの生産性を向上させること。
【解決手段】半陰性の葉菜類Sを栽培する栽培システム500は、成長後期の葉菜類Scが設置され、上方が開放された栽培槽10を備えるとともに、栽培槽10の少なくとも一部の下方に、成長中期の葉菜類Sbが設置される栽培槽20、および成長前期の葉菜類Saが設置される栽培槽30を備える。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
栽培システムを用いて半陰性の葉菜類を栽培する栽培方法であって、
前記栽培システムは、
上方が開放された第1の区画を備えるとともに、
前記第1の区画の少なくとも一部の下方に、第2の区画および第3の区画を備え、
前記葉菜類を前記第3の区画に設置する第1の設置工程と、
前記第1の設置工程で設置された前記葉菜類を栽培する第1の栽培工程と、
前記第3の区画で栽培された前記葉菜類を前記第2の区画へ移動し、新たな前記葉菜類を前記第3の区画に設置する第2の設置工程と、
前記第2の設置工程で移動または設置された前記葉菜類を栽培する第2の栽培工程と、
前記第2の区画で栽培された前記葉菜類を前記第1の区画へ移動し、前記第3の区画で栽培された前記葉菜類を前記第2の区画へ移動し、新たな前記葉菜類を前記第3の区画に設置する第3の設置工程と、
前記第3の設置工程で移動または設置された前記葉菜類を栽培する第3の栽培工程と、
前記第1の区画で栽培された前記葉菜類を収穫するとともに、前記第2の区画で栽培された前記葉菜類を前記第1の区画へ移動し、前記第3の区画で栽培された前記葉菜類を前記第2の区画へ移動し、新たな前記葉菜類を前記第3の区画に設置する第4の設置工程と、
前記第4の設置工程で移動または設置された前記葉菜類を栽培する第4の栽培工程と、
を行うとともに、
前記第4の設置工程および前記第2の栽培工程を繰り返して行う栽培方法。
【請求項2】
前記第1の区画は、前記第2の区画よりも前記葉菜類を設置する面積が大きく、
前記第3の設置工程および前記第4の設置工程において、前記第2の区画で栽培された前記葉菜類を前記第1の区画へ移動するときに、前記葉菜類の株間隔を大きくする請求項1記載の栽培方法。
【請求項3】
前記第2の区画は、前記第3の区画より前記葉菜類を設置する面積が大きく、
第2の設置工程、前記第3の設置工程および前記第4の設置工程において、前記第3の区画で栽培された前記葉菜類を前記第2の区画へ移動するときに、前記葉菜類の株間隔を大きくする請求項1または2記載の栽培方法。
【請求項4】
前記第2の区画は、前記第3の区画よりも照射光の光合成有効光量子束密度が多くなるように配置されている請求項1記載の栽培方法。
【請求項5】
前記照射光は、斜め上方から照射され、
前記第2の区画は、前記照射光の照射方向の水平成分Dhに対向する方向において、前側が開放されており、
前記第3の区画は、前記照射光の照射方向の水平成分Dhに対向する方向において、前記第2の区画よりも後側に配置されている請求項4記載の栽培方法。
【請求項6】
前記第1の区画は、前記照射光の照射方向の水平成分Dhに対向する方向において、前記第2の区画よりも前側に配置される部分を含む請求項4記載の栽培方法。
【請求項7】
前記照射光は太陽光である請求項4~6の何れか記載の栽培方法。
【請求項8】
前記第1の区画、前記第2の区画、および前記第3の区画のそれぞれにおける前記葉菜類を設置する面積が、前記第1の区画>前記第2の区画>前記第3の区画の関係である請求項1記載の栽培方法。
【請求項9】
半陰性の葉菜類を栽培する栽培システムであって、
成長後期の前記葉菜類が設置され、上方が開放された第1の区画を備えるとともに、
前記第1の区画の少なくとも一部の下方に、成長中期の前記葉菜類が設置される第2の区画、および成長前期の前記葉菜類が設置される第3の区画を備えた栽培システム。
【請求項10】
半陰性の葉菜類を栽培する栽培システムであって、
前記葉菜類を設置する第1の設置トレーが配置され、上方が開放された第1の区画を備えるとともに、
前記第1の区画の少なくとも一部の下方に、前記葉菜類を設置する第2の設置トレーが配置された第2の区画、および前記葉菜類を設置する第3の設置トレーが配置された第3の区画を備え、
前記第2の設置トレーに設けられる複数の植え穴の相互間隔は、前記第3の設置トレーに設けられる複数の植え穴の相互間隔よりも大きい栽培システム。
【請求項11】
半陰性の葉菜類を栽培する栽培システムであって、
前記葉菜類が設置され、上方が開放された第1の区画を備えるとともに、
前記第1の区画の少なくとも一部の下方に、前記葉菜類が設置される第2の区画、および前記葉菜類が設置される第3の区画を備え、
前記第2の区画は、前記第3の区画よりも照射光の光合成有効光量子束密度が多くなるように配置されている栽培システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、栽培方法、および栽培システムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1では、上段に栽培用水耕槽を設け、下段に育苗槽を設けてなる栽培棚と、人工培地を保持する溝を1つ以上有する板状体で上記水耕槽と育苗槽内で共用される育成板とからなることを特徴とする簡易型植物栽培装置を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、栽培システムによる占有面積を有効活用して、葉菜類Sの生産性を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の請求項1は、栽培システムを用いて半陰性の葉菜類を栽培する栽培方法であって、栽培システムは、上方が開放された第1の区画を備えるとともに、第1の区画の少なくとも一部の下方に、第2の区画および第3の区画を備え、葉菜類を第3の区画に設置する第1の設置工程と、第1の設置工程で設置された葉菜類を栽培する第1の栽培工程と、第3の区画で栽培された葉菜類を第2の区画へ移動し、新たな葉菜類を第3の区画に設置する第2の設置工程と、第2の設置工程で移動または設置された葉菜類を栽培する第2の栽培工程と、第2の区画で栽培された葉菜類を第1の区画へ移動し、第3の区画で栽培された葉菜類を第2の区画へ移動し、新たな葉菜類を第3の区画に設置する第3の設置工程と、第3の設置工程で移動または設置された葉菜類を栽培する第3の栽培工程と、第1の区画で栽培された葉菜類を収穫するとともに、第2の区画で栽培された葉菜類を第1の区画へ移動し、第3の区画で栽培された葉菜類を第2の区画へ移動し、新たな葉菜類を第3の区画に設置する第4の設置工程と、第4の設置工程で移動または設置された葉菜類を栽培する第4の栽培工程と、を行うとともに、第4の設置工程および第2の栽培工程を繰り返して行う栽培方法である。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば栽培システムによる占有面積を有効活用して、葉菜類Sの生産性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】本発明の実施形態に係る栽培方法を適用する栽培システムの一例の概略図である。
【
図2】本実施形態に係る栽培システムに備えられた設置台の一例を示す平面図である。
【
図4】本実施形態に係る栽培システムの説明図である。
【
図6】本実施形態に係る栽培システムにおける植え穴を示す平面図である。
【
図8】本実施形態に係る栽培サイクルの説明図である。
【
図9】本実施形態に係る栽培システムの変形例の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
図1は、本発明の実施形態に係る栽培方法を適用する栽培システムの一例としての水耕栽培システム500の概略図である。
図1に示すように、水耕栽培システム500は、上段に配置された栽培槽10と、栽培槽10の下段に配置された栽培槽20とを備えている。
【0009】
栽培槽10、20はサイフォン管40Hを介して接続された同容積の槽であり、それぞれ槽内下部に養液Lを貯留可能である。本実施形態では、養液Lとして、水を主成分として栄養分を含有させた液体を使用しているが、養液Lはこれに限られるものではなく、単なる水や水を主成分としない液体であってもよい。
【0010】
栽培槽10、20の上部には、それぞれ、養液Lによって生育する植物Sの設置台としての設置トレー200が配置されている。植物Sは葉Hと根Nを有する植物であり、本実施形態では、例えばレタスや小松菜などの葉野菜を想定している。
図1では、設置トレー200には植物Sが1つ設置されているが、実際には複数の植物Sが設置されている。
【0011】
図2は、
図1に示した栽培システムに備えられた設置台の一例を示す平面図である。
図2に示すように、設置トレー200には、植物Sごとに植物Sの設置場所としての植え穴210が規定されている。すなわち、設置トレー200は、複数の植物Sのそれぞれに対応する複数の植え穴210を有している。植物Sは、根Nを植え穴210に挿入することによって栽培槽10、20に設置される。本実施形態では、設置トレー200に植え穴210が8つ設けられる例を示したが、植え穴210の数はこれに限らず、植物Sの成長段階や種類、栽培槽10、20の大きさ等によって適宜変更することが可能である。
【0012】
栽培槽20の下段には、サイフォン管40Lを介して栽培槽20と接続された溜めタンク50が設けられており、溜めタンク50には養液Lが溜められている。溜めタンク50は循環配管60を介して栽培槽10と接続されており、循環配管60の途中には養液ポンプ70とバブル発生器80とが設けられている。養液ポンプ70を作動することによって、溜めタンク50中の養液Lを循環配管60を通じて栽培槽10に供給することが可能である。
【0013】
バブル発生器80は、気体タンク90から気体の供給を受けて養液L中にバブルを発生させるものであり、養液ポンプ70の下流側に設けられる。バブル発生方式には、キャビテーション方式や加圧溶解方式などを利用することが可能である。
【0014】
サイフォン管40Hは、側面視で逆J字状に湾曲した管であり、その両端部に取水口と排水口とを有している。取水口は栽培槽10の底面近傍に設定した下限水位LWL、例えば根Nの下端に位置しており、排水口は栽培槽20の内部に配置されている。サイフォン管40Hの頂部は、植物Sの葉Hと根Nとの境界部の高さに設定した上限水位HWLに位置している。
【0015】
サイフォン管40Lも、サイフォン管40Hと同様の配置態様となっている。 すなわち、サイフォン管40Lの取水口は栽培槽20の底面近傍に設定した下限水位LWLに位置し、排水口は溜めタンク50の内部に配置される。サイフォン管40Lの頂部は、植物Sの葉Hと根Nとの境界部の高さに設定した上限水位HWLに位置している。
【0016】
水耕栽培システム500では、養液ポンプ70を所定のタイミングでオン・オフ操作することによって、サイフォン管40H、40L内を養液Lで交互に満たし、サイフォン動作による排水を交互に生じさせ、栽培槽10、20内の養液Lの水位WLを交互に上下させる。各栽培槽10、20で水位WLが上限水位HWL、下限水位LWL間で上下すると、植物Sの根Nが養液Lに浸される状態と、養液Lから露出する状態とが繰り返される。本実施形態においては、植物Sの根Nが養液Lから露出する時間を、養液Lに浸される時間よりも長く設定する。
【0017】
上述の動作手順について、より具体的に説明する。
図1に示すように、栽培槽10内の養液Lの水位WLが下限水位LWLに達すると、栽培槽10から栽培槽20へのサイフォン管40Hからの自動排水が停止する。一方、栽培槽20内の養液Lの水位WLが上限水位HWLに達すると、サイフォン管40L内には養液Lが満たされるので、サイフォン動作による自動排水を開始する。これにより、栽培槽20内の養液Lは、サイフォン管40Lを通じて溜めタンク50に排水される。
【0018】
ここで、サイフォン管40Hからの自動排水が停止した時点、またはそれ以後に、養液ポンプ70をオンにして作動させる。溜めタンク50から循環配管60を通じて栽培槽10に養液Lの供給を開始し、栽培槽10の水位WLが上昇する。養液Lには、バブル発生器80で発生させたバブル、すなわちマイクロバブルまたはウルトラファインバブルが混入している。一方、栽培槽20の水位WLは、サイフォン管40Lの自動排水により低下する。栽培槽20の水位WLが下限水位LWLに達すると、サイフォン動作が停止し、栽培槽20から溜めタンク50への自動排水が停止する。
【0019】
栽培槽10の水位WLが上限水位HWLに達すると、サイフォン管40H内には養液Lが満たされるので、サイフォン動作による自動排水を開始する。これにより、栽培槽10内の養液Lは、サイフォン管40Hを通じて栽培槽20に排水される。
【0020】
ここで、サイフォン管40Hによる自動排水を開始した時点、またはそれ以後に、養液ポンプ70をオフにして作動を停止させる。これにより、循環配管60から栽培槽10への養液Lの供給が停止する。
【0021】
以降、上記の手順で養液ポンプ70のオン・オフ操作を繰り返すことによって、栽培槽10、20内の養液Lの水位WLを上限水位HWL、下限水位LWL間で交互に上下させる。以上、サイフォン式の栽培方式の例を説明したが、本実施形態の栽培方式は、サイフォン式に限らず、一般的な栽培方式のならばどの方式でも良い。
【0022】
本実施形態の栽培方法は、例えば
図1に示す栽培システム500により実施され、半陰性の葉菜類全般に適用可能であり、特に小松菜、レタス、ほうれん草、春菊、パセリ類への適用が効果的である。
図1に示した栽培システム500は、外部と隔離され、温度と湿度が適切に管理された空間にて葉菜類を栽培する施設が用いられる。植物Sとしての苗は、例えば播種発芽して生じたものである。
【0023】
本実施形態において、栽培システム500に対する照射光は、太陽光が用いられるが、例えば発光ダイオードや、有機EL素子等からなる人工光源としてもよい。人工光源を用いる場合、照明光の強度や照明光の種類(光質)は、本実施形態の効果の範囲内で変動させても構わない。
【0024】
【0025】
比較例に係る栽培システム500は、台座510に上方が開放された栽培槽10A、10Bおよび10Cを備え、
図3(a)に示す成長前期の葉菜類Sa、
図3(b)に示す成長中期の葉菜類Sb、および
図3(c)に示す成長後期の葉菜類Scを同一の場所で太陽光SLにより栽培し、
図3(a)~
図3(c)のサイクルを繰り返す。
【0026】
図4は、本実施形態に係る栽培システムの説明図である。
【0027】
本実施形態の栽培システム500は、成長後期の葉菜類Scが設置されて上方が開放された栽培槽10A、10Bおよび10Cを備えるとともに、栽培槽10Bおよび10Cの下方に、成長中期の葉菜類Sbが設置される栽培槽20Aおよび20Bを備え、栽培槽20Bの下方に成長前期の葉菜類Saが設置される栽培槽30を備える。
【0028】
具体的には、栽培システム500は、図中左から右の順で、台座510の一段目に栽培槽10A、栽培槽20Aおよび栽培槽30を備え、台座510の二段目に栽培槽10B、および栽培槽20Bを備え、台座510の三段目に栽培槽10Cを備え、栽培槽20Aは栽培槽10Bの下方に位置し、栽培槽20Bは栽培槽10Cの下方に位置し、栽培槽30は栽培槽20Bの下方に位置する。
【0029】
栽培槽10A~10Cは第1の区画の一例であり、栽培槽20Aおよび20Bは第2の区画の一例であり、栽培槽30は第3の区画の一例である。
【0030】
図4に示すように、太陽光SLは、栽培システム500に対して斜め上方から照射されており、上方が開放された栽培槽10A、10Bおよび10Cは、日向に位置している。
【0031】
また、栽培槽20Aおよび20Bは、太陽光SLの照射方向Dの水平成分Dhに対向する方向において前側が開放されており、上方からは太陽光SLに照射されないが、前方から太陽光SLに照射されるため、半日陰に位置している。
【0032】
栽培槽30は、太陽光SLの照射方向Dの水平成分Dhに対向する方向において、栽培槽20よりも後側に配置されているため、上方および前方のどちらからも太陽光SLに照射されないため、日陰に位置している。
【0033】
すなわち、栽培槽10A~10Cは、栽培槽20Aおよび20Bよりも照射光の光合成有効光量子束密度が多くなるように配置されており、栽培槽20Aおよび20Bは、栽培槽30よりも照射光の光合成有効光量子束密度が多くなるように配置されている。
【0034】
本実施形態では、
図4に示した栽培システム500を用いて、成長前期の小さい葉菜類Saのときは日陰の栽培槽30で栽培を行い、葉の枚数が増えてきた成長中期の葉菜類Sbになったところで半日陰の栽培槽20Aおよび20Bに移動して栽培を行い、更に葉の枚数が増えて光飽和量が高い成長後期の葉菜類Scになったところで日向の栽培槽10A~10Cに移動して栽培を行い、収穫する。
【0035】
これにより、葉菜類Sの成長に応じて、太陽光SLの光合成有効光量子束密度を大きくして、葉菜類Sを効率的に成長させるとともに、栽培槽10A~10Cによる占有面積を有効活用して、葉菜類Sの生産性を向上させることができる。
【0036】
ここで、栽培システム500は、栽培槽10A~10Cが配置される方向と直交する方向に、複数台配置されても良い。
【0037】
そして、
図4に示した栽培システム500を、太陽光によるソーラーシェアリング、ビニルハウス、露地の栽培に適用することにより、限られた栽培施設で太陽光の有効活用範囲を拡大することができる。
【0038】
【0039】
まず、成長前期の葉菜類Saを栽培槽30に設置し(第1の設置工程S1)、第1の設置工程S1で設置された葉菜類Saを栽培する(第1の栽培工程S2)。
【0040】
次に、栽培槽30で栽培された成長中前期の葉菜類Sbaを栽培槽20Aおよび20Bへ移動するとともに、新たな成長前期の葉菜類Saを栽培槽30に設置し(第2の設置工程S3)、第2の設置工程S3で移動または設置された葉菜類Sを栽培する(第2の栽培工程S4)。
【0041】
続いて、栽培槽20Aおよび20Bで栽培された成長後中期の葉菜類Scbを栽培槽10A~10Cへ移動し、栽培槽30で栽培された成長中前期の葉菜類Sbaを栽培槽20Aおよび20Bへ移動し、新たな成長前期の葉菜類Saを栽培槽30に設置し(第3の設置工程S5)、第3の設置工程S5で移動または設置された葉菜類Sを栽培する(第3の栽培工程S6)。
【0042】
その後、栽培槽10A~10Cで栽培された葉菜類Sを収穫するとともに、栽培槽20Aおよび20Bで栽培された成長後中期の葉菜類Scbを栽培槽10A~10Cへ移動し、栽培槽30で栽培された成長中前期の葉菜類Sbaを栽培槽20へ移動し、新たな成長前期の葉菜類Saを栽培槽30に設置し(第4の設置工程S7)、第4の設置工程S7で移動または設置された葉菜類Sを栽培する(第4の栽培工程S8)。そして、第4の設置工程S7および第4の栽培工程S8を繰り返して行う。
【0043】
図6は、本実施形態に係る栽培システムにおける植え穴を示す平面図である。
【0044】
図6(a)は、栽培槽30に配置され、成長前期の葉菜類Saを設置する第3の設置トレー203を示し、第3の設置トレー203には、複数の植え穴213が相互に等間隔に形成されている。図の例では、複数の植え穴213は90個形成されている。
【0045】
図6(b)は、栽培槽20Aおよび20Bにそれぞれ配置され、成長中期の葉菜類Sbを設置する第2の設置トレー202Aおよび202Bを示し、第2の設置トレー202Aおよび202Bのそれぞれには、複数の植え穴212が相互に等間隔に形成されている。図の例では、複数の植え穴212は、第2の設置トレー202Aおよび202Bのそれぞれに45個形成されている。
【0046】
図6(c)は、栽培槽10A~10Cにそれぞれ配置され、成長後期の葉菜類Scを設置する第1の設置トレー201A~202Cを示し、第1の設置トレー201A~202Cのそれぞれには、複数の植え穴211が相互に等間隔に形成されている。図の例では、複数の植え穴211は、201A~202Cのそれぞれに30個形成されている。
【0047】
図6(a)~(c)において、栽培槽10、栽培槽20、および栽培槽30のそれぞれにおける葉菜類Sを設置する合計面積の比率は、3:2:1となっており、これにより、葉菜類Sの成長に応じて栽培面積を大きくして、葉菜類Sを効率的に成長させるとともに、栽培槽10の下方空間に空き空間を生じさせることなく、栽培槽20および栽培槽30を配置して有効活用することができる。
【0048】
さらに、
図6(b)に示した複数の植え穴212は、
図6(a)に示した複数の植え穴213に対して、相互間隔が2倍になるように形成されている。
【0049】
すなわち、
図5に示した第2の設置工程S3、第3の設置工程S5および第4の設置工程S7では、栽培槽30で栽培された葉菜類Sを栽培槽20へ移動するときに、葉菜類Sの株間隔を大きくしており、これにより、葉菜類Sの成長に伴う密植状態を低減して葉菜類Sを効率的に成長させることができる。
【0050】
また、
図6(c)に示した複数の植え穴211は、
図6(b)に示した複数の植え穴212に対して、相互間隔が1.5倍になるように形成されている。
【0051】
すなわち、
図5に示した第3の設置工程S5および第4の設置工程S7では、栽培槽20で栽培された葉菜類Sを栽培槽10へ移動するときに、葉菜類Sの株間隔を大きくしており、これにより、上方が開放され照射光量が大きい栽培槽10において、密植状態を低減して葉菜類Sを効率的に成長させることができる。
【0052】
図7は、本実施形態に係る栽培品質の説明図であり、小松菜の栽培結果を示す。
【0053】
図7(a)は、実施例、比較例1および比較例2毎の栽培日数と重量(g)を示す比較表であり、
図7(b)は、実施例、比較例1および比較例2毎の栽培日数に対する重量(g)の推移を示すグラフである。
【0054】
実施例は、
図4に示した栽培システムを用いて、
図5および
図6に示した栽培方法により栽培した結果を示す。
【0055】
実施例は、育苗された苗を日陰の栽培槽30で前期の栽培を10日間行い、葉の枚数が増えてきた中期になったところで半日陰の栽培槽20に移動して栽培を10日間行い、更に葉の枚数が増えて光飽和量が高くなったところで日向の栽培槽10に移動して栽培を10日間行った。収穫時の重量は102.9g/株となった。
【0056】
比較例1は、
図3に示した栽培槽10のみを備えた栽培システムを用いて栽培した結果を示す。
【0057】
比較例1は、育苗された苗を日向の栽培槽10で前期の栽培から後期の栽培まで30日間の栽培を行った。収穫時の重量は107.3g/株となった。
【0058】
比較例2は、
図4に示した栽培システムのうち栽培槽10は用いずに、栽培槽20および栽培槽30のみを用いて栽培した結果を示す。
【0059】
比較例2は、育苗された苗を日陰の栽培槽30で前期の栽培を10日間行い、葉の枚数が増えてきた中期になったところで半日陰の栽培槽20に移動して栽培を20日間行った。収穫時の重量は72.9g/株となった。
【0060】
図7に示すように、実施例及び比較例1はほぼ同じ重量になったが、比較例2は後期の栽培を半日陰の栽培槽20で行ったため、収穫時の重量は少なくなった。
【0061】
なお、実施例、比較例1および比較例2の播種から育苗は、育苗室で同時に栽培した苗を使用し、日陰の栽培槽30、半日陰の栽培槽20および日向の栽培槽10のそれぞれにおける光合成有効光量子束密度(PPFD)の実測値は、200μmol/m2s以下、200~300μmol/m2s、300μmol/m2s以上であった。
【0062】
図7は、本実施形態に係る実施例および比較例1における日数毎の栽培サイクルの説明図である。
【0063】
日数が10日の段階では、比較例1の日向の栽培槽10および実施例の日陰の栽培槽30とも、1サイクル目の前期の栽培を行っている。
【0064】
日数が20日の段階では、比較例1および実施例の半日陰の栽培槽20では、1サイクル目の中期の栽培を行っている一方、実施例の日陰の栽培槽30では、2サイクル目の前期の栽培を行っている。
【0065】
日数が30日の段階では、比較例1および実施例の日向の栽培槽10では、1サイクル目の後期の栽培および収穫を行う一方、実施例の半日陰の栽培槽20では、2サイクル目の前期の栽培を行ない、実施例の日陰の栽培槽30では、3サイクル目の前期の栽培を行っている。
【0066】
そして、日数が120日の段階では、比較例1では4サイクル目の収穫を行うのに対して、実施例の日向の栽培槽10では10サイクル目の収穫を行っており、実施例の栽培サイクルは比較例1の2.5倍になっている。
【0067】
すなわち、
図7および
図8の説明により、実施例の収穫量は比較例1の2倍以上になっていることがわかる。
【0068】
図9は、本実施形態に係る栽培システムの変形例の説明図である。
【0069】
図9では、栽培システム500は、長手方向が東西方向になるように設置されており、太陽光SLは、栽培システム500に対して東の斜め上方から照射されるとともに、西の斜め上方からも照射される。
【0070】
このため、
図9に示す変形例では、栽培システム500は、図中左から右の順で、台座510の一段目に栽培槽20A、栽培槽30および栽培槽20Bを備え、台座510の二段目に栽培槽10A、栽培槽10B、および栽培槽10Cを備え、栽培槽20Aは栽培槽10Aの下方に位置し、栽培槽30は栽培槽10Bの下方に位置し、栽培槽20Bは栽培槽10Cの下方に位置する。
【0071】
図4と同様に、上方が開放された栽培槽10A、10Bおよび10Cは、日向に位置している。
【0072】
また、栽培槽20Aおよび20Bは、それぞれ太陽光SLの照射方向D1およびD2の水平成分に対向する側が開放されており、上方からは太陽光SLに照射されないが、それぞれ側方から太陽光SLに照射されるため、半日陰に位置している。
【0073】
栽培槽30は、水平方向において、栽培槽20Aおよび20Bの間に配置されているため、上方および側方のどちらからも太陽光SLに照射されない。
【0074】
図9に示す変形例に係る栽培システム500も、
図4に示した栽培システム500と同様に、葉菜類Sの成長に応じて太陽光SLの光合成有効光量子束密度を大きくして、葉菜類Sを効率的に成長させるとともに、栽培槽10A~10Cによる占有面積を有効活用して、葉菜類Sの生産性を向上させることができる。
【0075】
さらに、
図9に示す変形例に係る栽培システム500は、
図4に示した栽培システム500に比べて、台座510の段数が少なく構成されるため、上下方向のレイアウトに制約がある場合には有効である。
【0076】
なお、太陽光SLを南側から採光できる場合、栽培槽30に対しても南側から太陽光SLが入射する場合がある。
【0077】
この場合、栽培槽30も半日陰となるが、栽培槽30の光合成有効光量子束密度は、栽培槽20Aおよび20Bよりは小さいため、
図4及び
図9と同様に、葉菜類Sの成長に応じて太陽光SLの光合成有効光量子束密度を大きくして、葉菜類Sを効率的に成長させるとともに、栽培槽10A~10Cによる占有面積を有効活用して、葉菜類Sの生産性を向上させることができる。
【0078】
●まとめ●
[第1態様]
以上説明したように、本発明の一実施形態に係る栽培システム500を用いて半陰性の葉菜類Sを栽培する栽培方法は、栽培システム500は、上方が開放された栽培槽10を備えるとともに、栽培槽10の少なくとも一部の下方に、栽培槽20および栽培槽30を備え、成長前期の葉菜類Saを栽培槽30に設置する第1の設置工程S1と、第1の設置工程S1で設置された葉菜類Saを栽培する第1の栽培工程S2と、栽培槽30で栽培された成長中期の葉菜類Sbを栽培槽20へ移動し、新たな成長前期の葉菜類Saを栽培槽30に設置する第2の設置工程S3と、第2の設置工程S3で移動または設置された葉菜類Sを栽培する第2の栽培工程S4と、栽培槽20で栽培された成長後期の葉菜類Scを栽培槽10へ移動し、栽培槽30で栽培された成長中期の葉菜類Sbを栽培槽20へ移動し、新たな成長前期の葉菜類Saを栽培槽30に設置する第3の設置工程S5と、第3の設置工程S5で移動または設置された葉菜類Sを栽培する第3の栽培工程S6と、栽培槽10で栽培された葉菜類Sを収穫するとともに、栽培槽20で栽培された成長後期の葉菜類Scを栽培槽10へ移動し、栽培槽30で栽培された成長中期の葉菜類Sbを栽培槽20へ移動し、成長前期の葉菜類Saを栽培槽30に設置する第4の設置工程S7と、第4の設置工程S7で移動または設置された葉菜類Sを栽培する第4の栽培工程S8と、を行うとともに、第4の設置工程S7および第4の栽培工程S8を繰り返して行う。
【0079】
ここで、栽培槽10、栽培槽20および栽培槽30は、第1の区画、第2の区画および第3の区画の一例である。
【0080】
これにより、栽培槽10による占有面積を有効活用して、葉菜類Sの生産性を向上させることができる。
【0081】
[第2態様]
第1態様において、栽培槽10は、栽培槽20よりも葉菜類Sを設置する面積が大きく、第3の設置工程S5および第4の設置工程S7において、栽培槽20で栽培された葉菜類Sを栽培槽10へ移動するときに、葉菜類Sの株間隔を大きくする。
【0082】
これにより、上方が開放され照射光量が大きい栽培槽10において、密植状態を低減して葉菜類Sを効率的に成長させることができる。
【0083】
[第3態様]
第1態様または第2態様において、栽培槽20は、栽培槽30より葉菜類Sを設置する面積が大きく、第2の設置工程S3、第3の設置工程S5および第4の設置工程S7において、栽培槽30で栽培された葉菜類Sを栽培槽20へ移動するときに、葉菜類Sの株間隔を大きくする態様2記載の栽培方法。
【0084】
これにより、葉菜類Sの成長に伴う密植状態を低減して葉菜類Sを効率的に成長させることができる。
【0085】
[第4態様]
第1態様~第3態様の何れかにおいて、栽培槽20は、栽培槽30よりも照射光の光合成有効光量子束密度が多くなるように配置されている。
【0086】
これにより、葉菜類Sの成長に応じて、照射光の光合成有効光量子束密度を大きくして、葉菜類Sを効率的に成長させることができる。
【0087】
[第5態様]
第4態様において、照射光は、斜め上方から照射され、栽培槽20は、照射光の照射方向Dの水平成分Dhに対向する方向において、前側が開放されており、栽培槽30は、照射光の照射方向Dの水平成分Dhに対向する方向において、栽培槽20よりも後側に配置されている。
【0088】
これにより、栽培槽20における照射光の光合成有効光量子束密度を、栽培槽30における照射光の光合成有効光量子束密度より大きくすることができる。
【0089】
[第6態様]
第4態様または第5態様において、栽培槽10は、照射光の照射方向の水平成分Dhに対向する方向において、栽培槽20Aよりも前側に配置される部分の一例として栽培槽10Aを含む。
【0090】
[第7態様]
第4態様~第6態様の何れかにおいて、照射光は太陽光である。
【0091】
[第8態様]
第1態様~第7態様の何れかにおいて、栽培槽10、栽培槽20、および栽培槽30のそれぞれにおける葉菜類Sを設置する面積が、第1の区画>第2の区画>第3の区画の関係であり、好ましくは面積の比率が、3:2:1である。
【0092】
これにより、葉菜類Sの成長に応じて栽培面積を大きくして、葉菜類Sを効率的に成長させるとともに、栽培槽10の下方空間に空き空間を生じさせることなく、栽培槽20および栽培槽30を配置して有効活用することができる。
【0093】
[第9態様]
本発明の一実施形態に係る半陰性の葉菜類Sを栽培する栽培システム500は、成長後期の葉菜類Scが設置され、上方が開放された栽培槽10を備えるとともに、栽培槽10の少なくとも一部の下方に、成長中期の葉菜類Sbが設置される栽培槽20、および成長前期の葉菜類Saが設置される栽培槽30を備える。
【0094】
[第10態様]
本発明の一実施形態に係る半陰性の葉菜類Sを栽培する栽培システム500は、葉菜類Scを設置する第1の設置トレー201が配置され、上方が開放された栽培槽10を備えるとともに、栽培槽10の少なくとも一部の下方に、葉菜類Sbを設置する第2の設置トレー202が配置された栽培槽20、および葉菜類Saを設置する第3の設置トレー203が配置された栽培槽30を備え、第2の設置トレー202に設けられる複数の植え穴212の相互間隔は、第3の設置トレー203に設けられる複数の植え穴213の相互間隔よりも大きい。
【0095】
[第11態様]
本発明の一実施形態に係る半陰性の葉菜類Sを栽培する栽培システム500は、葉菜類Sが設置され、上方が開放された栽培槽10を備えるとともに、栽培槽10の少なくとも一部の下方に、葉菜類Sが設置される栽培槽20、および葉菜類Sが設置される栽培槽30を備え、栽培槽20は、栽培槽30よりも照射光の光合成有効光量子束密度が多くなるように配置されている。
【符号の説明】
【0096】
10、20、30 栽培槽(第1の区画、第2の区画、第3の区画の一例)
40H、40L サイフォン管
50 溜めタンク
60 循環配管
70 養液ポンプ
80 バブル発生器
90 気体タンク
SL 太陽光
D、D1、D2 照射方向
200~203 設置台、設置トレー
210~213 設置場所、植え穴
500 栽培システム、水耕栽培システム
H 葉
L 養液
N 根
S、Sa、Sb、Sc 照射対象物、植物、野菜