(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024142350
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】路面標示組成物
(51)【国際特許分類】
E01F 9/518 20160101AFI20241003BHJP
E01F 9/524 20160101ALI20241003BHJP
E01F 9/576 20160101ALI20241003BHJP
【FI】
E01F9/518
E01F9/524
E01F9/576
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023054458
(22)【出願日】2023-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000183266
【氏名又は名称】住友大阪セメント株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000159021
【氏名又は名称】株式会社キクテック
(74)【代理人】
【識別番号】100076473
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100188765
【弁理士】
【氏名又は名称】赤座 泰輔
(74)【代理人】
【識別番号】100112900
【弁理士】
【氏名又は名称】江間 路子
(74)【代理人】
【識別番号】100163164
【弁理士】
【氏名又は名称】安藤 敏之
(72)【発明者】
【氏名】大泉 理紗
(72)【発明者】
【氏名】菊池 定人
(72)【発明者】
【氏名】小西 正芳
(72)【発明者】
【氏名】小堺 規行
(72)【発明者】
【氏名】岩垂 幸宏
(72)【発明者】
【氏名】松尾 明人
(72)【発明者】
【氏名】寺倉 嘉宏
【テーマコード(参考)】
2D064
【Fターム(参考)】
2D064AA05
2D064AA22
2D064BA06
2D064BA11
2D064EA01
2D064EB26
2D064JA01
(57)【要約】
【課題】枯渇性の資源に対する依存度を少なくすることができ、かつ、地球の温暖化を抑制に貢献することができる路面標示組成物を提供すること。
【解決手段】路面標示組成物は、結合材、体質材、顔料及びガラスビーズを含有し、溶融させて施工する路面標示組成物である。路面標示組成物は、体質材に、廃棄物から抽出されたカルシウムに二酸化炭素の固定化が図られた再生炭酸カルシウム、を含有し、枯渇性の資源に対する依存度を少なくすることができる、とともに、二酸化炭素の固定化によって、地球の温暖化の抑制に貢献することができる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
結合材、体質材、顔料及びガラスビーズを含有し、溶融させて施工する路面標示組成物であって、
該体質材が、廃棄物から抽出されたカルシウムに二酸化炭素の固定化が図られた再生炭酸カルシウム、を含有することを特徴とする路面標示組成物。
【請求項2】
前記再生炭酸カルシウムを10~75質量%含有することを特徴とする請求項1に記載の路面標示組成物。
【請求項3】
前記再生炭酸カルシウムは、下記数式(1)で表されるαが0~2.0であることを特徴とする請求項2に記載の路面標示組成物。
(数式1)
α=(d90-d10)/d50・・・(1)
(d10:累積10vol%径、d50:累積50vol%径、d90:累積90vol%径)
【請求項4】
前記再生炭酸カルシウムは、d50が1~100μmであることを特徴とする請求項3に記載の路面標示組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書の技術分野は、道路、滑走路、駐車(機)場などの路面に塗装して車両、機体および歩行者の進路や停止線などを明示する路面標示を形成する路面標示組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
路面に塗装して車両などの進路や停止線などを明示する路面標示を形成する路面標示組成物として、特許文献1には、熱可塑性結合材、体質材、可塑剤及びガラスビーズを含有する路面標示組成物が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1に記載された路面標示組成物は、地球上に限られた量しか存在しない枯渇性の資源を多く使用し、将来的に使用することができなくなるおそれがあるという課題があった。また、路面標示組成物に限らず、地球環境は、大気中の二酸化炭素が増え、温暖化に歯止めがかからない状況にあるという課題もある。
【0005】
本明細書の技術は、上述の点に鑑みてなされたものであり、廃棄物から再生される原材料を使用し、枯渇性の資源に対する依存度を少なくすることができ、かつ、地球の温暖化を抑制に貢献することができる路面標示組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本明細書の実施形態に係る路面標示組成物は、結合材、体質材、顔料及びガラスビーズを含有し、溶融させて施工する路面標示組成物であって、
該体質材が、廃棄物から抽出されたカルシウムに二酸化炭素の固定化が図られた再生炭酸カルシウム、を含有することを特徴とする。
【0007】
本明細書の実施形態に係る路面標示組成物によれば、体質材が、廃棄物から抽出されたカルシウムに二酸化炭素の固定化が図られた再生炭酸カルシウム、を含有しているため、枯渇性の資源に対する依存度を少なくすることができる、とともに、再生炭酸カルシウムの二酸化炭素の固定化によって、地球の温暖化の抑制に貢献することができる。
【0008】
ここで、上記路面標示組成物において、前記再生炭酸カルシウムを10~75質量%含有するものとすることができる。
【0009】
別の実施形態として、路面標示組成物において、再生炭酸カルシウムを13~70質量%含有するものとすることができ、さらに別の実施形態として、再生炭酸カルシウムを15~65質量%含有するものとすることができる。これによれば、路面標示組成物から形成される路面標示に十分な塑性を与えることができる。
【0010】
また、上記路面標示組成物において、前記再生炭酸カルシウムは、下記数式(1)で表されるαが0~2.0であるものとすることができる。
(数式1)
α=(d90-d10)/d50・・・(1)
(d10:累積10vol%径、d50:累積50vol%径、d90:累積90vol%径)
これによれば、路面標示組成物は、再生炭酸カルシウムの粒度分布の幅が狭く、施工時の粘度が高く現れるため、増粘剤の添加量を抑えることができる。
【0011】
また、上記路面標示組成物において、前記再生炭酸カルシウムは、d50が1~100μmであるものとすることができる。
【0012】
これによれば、路面標示組成物は、体質材、顔料(d50:1μm以下)及びガラスビーズ(d50:100μm以上)の3つの異なる粒度分布を有する充填材を含有することによって、路面標示組成物から形成される路面標示を緻密なものとすることができる。
【発明の効果】
【0013】
本明細書の実施形態に係る路面標示組成物によれば、枯渇性の資源に対する依存度を少なくすることができるとともに、地球の温暖化の抑制に貢献することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本明細書の実施形態に係る路面標示組成物に使用される再生炭酸カルシウムの生産工程のイメージ図である。
【
図2】再生炭酸カルシウムの粒度分布グラフを示す図である。
【
図3】路面標示組成物の施工を示すモデル断面図(A)、その斜視図(B)である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本明細書の実施形態に係る路面標示組成物について説明する。なお、本発明の範囲は、実施形態で開示される範囲に限定されるものではない。実施形態の路面標示組成物は、路面標示用塗料( JIS K 5665:2018 )に規定される3種(1号、2号、3号)の、溶融させて施工する粉体状塗料である。なお、1号、2号、3号の違いは、塗料中におけるガラスビーズの含有量の違いである。
【0016】
本明細書において、路面標示組成物の配合量や配合比を表す際は、特に断らない限り、質量単位であり、揮発分を含む粉体状の塗料状態で表すものとする。また、配合単位を示す「%」は、特に断らない限り、「質量%」を意味するものとする。
【0017】
実施形態に係る路面標示組成物は、結合材、可塑剤、体質材、顔料及びガラスビーズなどの原材料を含有し、加熱させることによって、溶融させて適正粘度の流動性を持たせて路面に施工するものである。
【0018】
結合材とは、これら原材料を結合させるとともに、被塗装面である路面に密着させる樹脂である。路面標示組成物は、路面に施工され、路面標示として使用された際に、路面から剥がれにくいこと、つまり、高い密着性が要求され、また、車両のタイヤに幾度となく踏まれても摩耗しにくいこと、つまり、高い耐久性が要求される。このため、結合材には、密着性と耐久性に優れる石油由来の合成樹脂、又は、生物由来樹脂の、テルペン樹脂、ロジン樹脂、乳酸樹脂又はこれら誘導体が使用される。路面標示組成物は、結合材に、生物由来(バイオマス由来)樹脂の、テルペン樹脂、ロジン樹脂、乳酸樹脂又はこれら誘導体を使用することによって、石油に対する依存度を少なくすることができる。また、バイオマス由来の結合材の樹脂は、原材料の育成時に二酸化炭素を吸収しているため、地球の温暖化の抑制に貢献することができるものである。
【0019】
結合材として路面標示組成物に使用される石油由来の合成樹脂は、例えば、脂肪族系石油樹脂、ポリブテン等の石油系炭化水素系樹脂、クマロン・インデン樹脂等のクマロン系樹脂、フェノール・ホルムアルデヒド樹脂等のフェノール系樹脂、芳香族系炭化水素樹脂、不飽和炭化水素重合体、イソプレン系樹脂、水素添加炭化水素樹脂、炭化水素系粘着化樹脂等が使用可能である。これらは、市販品を使用することができる。
【0020】
結合材として路面標示組成物に使用される生物由来樹脂のテルペン樹脂とは、テルペン系単量体を含む原料を重合して得られるオリゴマー、ポリマーである。テルペンは、植物又は動物の体内で作られる生物由来の物質であり、主に、マツ科の樹液やミカン科の果実から採取することができる。テルペンは、一般的に、イソプレン(C5H8)の重合体であり、モノテルペン(C10H16)、セスキテルペン(C15H24)、ジテルペン(C20H32)などの基本骨格が存在する。これらを基本骨格とする単量体がテルペン系単量体であり、例えば、α-ピネン、β-ピネン、ジペンテン、リモネン、ミルセン、アロオシメン、オシメン、α-フェランドレイン、α-テルピネン、γ-テルピネン、テルピノーレン、1,8-シネオール、1,4-シネオール、α-テルピンネオール、β-テルピンネオール、γ-テルピンネオール、サビネン、パラメンタジエン類、カレン類等が存在する。また、テルペン誘導体には、テルペン系単量体と共重合可能な他の単量体、例えばベンゾフラン(C8H6O)等のクマロン系単量体;スチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン、ジビニルトルエン、2-フェニル-2-ブテン等のビニル芳香族化合物;フェノール、クレゾール、キシレノール、プロピルフェノール、ノリルフェノール、ハイドロキノン、レゾルシン、メトキシフェノール、ブロモフェノール、ビスフェノールA、ビスフェノールF等のフェノール系単量体を含有するものがある。これらは、市販品を使用することができる。
【0021】
生物由来樹脂のロジン樹脂とは、ロジン酸を含む原料を重合して得られるオリゴマー、ポリマーである。ロジン酸は、植物内で作られる生物由来の物質であり、主に、マツ科の樹液から採取することができる。ロジン酸として、例えば、アビエチン酸、ネオアビエチン酸、デヒドロアビエチン酸、パラストリン酸、ピマール酸、イソピマール酸、サンダラコピマール酸、レボピマール酸、デヒドロアビエチン酸などの基本骨格が存在する。ロジン酸は、変性、重合させることにより、ロジン樹脂とし、ロジン樹脂の種類としては、ロジンエステル、ロジン変性フェノール樹脂、ロジン変性マレイン酸樹脂、重合ロジン樹脂などを使用することができる。これらは、市販品を使用することができる。
【0022】
生物由来樹脂の乳酸樹脂とは、L-乳酸及び/又はD-乳酸を主たる構成成分とし、エステル結合によって重合した樹脂である。乳酸樹脂は、乳酸以外に他の共重合成分を含有することができ、他の共重合成分として、エチレングリコール、ブロピレングリコール、ブタンジオール、ヘプタンジオール、ヘキサンジオール、オクタンジオール、ノナンジオール、デカンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、ネオペンチルグリコール、グリセリン、ペンタエリスリトール、ビスフェノールA、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールおよびポリテトラメチレングリコールなどのグリコール化合物、シュウ酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、ドデカンジオン酸、マロン酸、グルタル酸、シクロヘキサンジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ビス(p-カルボキシフェニル)メタン、アントラセンジカルボン酸、4,4’-ジフェニルエーテルジカルボン酸、5-ナトリウムスルホイソフタル酸、5-テトラブチルホスホニウムイソフタル酸などのジカルボン酸、グリコール酸、ヒドロキシプロピオン酸、ヒドロキシ酪酸、ヒドロキシ吉草酸、ヒドロキシカプロン酸、ヒドロキシ安息香酸などのヒドロキシカルボン酸、およびカプロラクトン、バレロラクトン、プロピオラクトン、ウンデカラクトン、1,5-オキセパン-2-オンなどのラクトン類などを使用することができる。これらは、市販品を使用することができる。
【0023】
路面標示組成物における結合材の含有率は、10~25質量%とすることができる。作業性に優れ、正常な塗膜(路面標示)を得ることができるためである。路面標示組成物における結合材の含有率が10質量%未満である場合には、塗膜の強度が不足するおそれがあるとともに、塗装温度(200℃)における粘度が高く、良好な作業性が得られないおそれがある。一方、含有率が25質量%を超える場合には、結合材が過剰な量となり、不経済となるおそれがあるとともに、路面標示組成物を路面に施工して形成された路面標示が、粘着性を有し、路面を走行する車両等のタイヤに密着して、路面標示が路面から剥がれるおそれがある。別の実施形態として、路面標示組成物における結合材の含有率は、12~23質量%とすることができ、さらに別の実施形態として、13~20質量%とすることができる。
【0024】
可塑剤とは、結合材に、柔軟性、たわみ性などの塑性を与える有機材料である。路面標示組成物の結合材に、柔軟性、たわみ性などの塑性が与えられることによって、路面標示組成物は、路面に施工され、路面標示として使用された際に、路面標示の割れや剥がれを抑制することができる。可塑剤は、結合材の樹脂の間に浸透して、樹脂の分子間力を弱め、樹脂鎖を動きやすくさせることによって、樹脂のガラス転移温度(Tg)を低下させ、結合材に、柔軟性、たわみ性などの塑性を与える。このため、可塑剤には、樹脂との相溶性が良いこと、揮発性が小さいことが要求される。
【0025】
石油由来の合成樹脂に使用する可塑剤可塑剤として、フタル酸系可塑剤、アジピン酸系可塑剤、リン酸系可塑剤、トリメリット酸系可塑剤、エポキシ系可塑剤、鉱物油可塑剤などを使用することができる。これらは市販品を使用することができる。
【0026】
生物由来樹脂の結合材に使用する可塑剤としては、生物由来(バイオマス由来)の植物油又は植物油誘導体を使用することができる。可塑剤に使用される植物油としては、大豆油、亜麻仁油、パーム油、トール油(パルプ製造の際の副産物の油)、荏胡麻油、オリーブ油、グレープ油、コーン油、ココナッツ油、胡麻油、米油、菜種油、向日葵油、紅花油、綿実油、落花生油などを使用することができる。これらの中でも、可塑性に優れる、大豆油、亜麻仁油、パーム油、トール油を使用することができる。路面標示組成物は、可塑剤に、生物由来(バイオマス由来の、植物油又は植物油誘導体を使用することによって、石油に対する依存度を少なくすることができる。また、バイオマス由来の可塑剤は、原材料の育成時に二酸化炭素を吸収しているため、地球の温暖化の抑制に貢献することができるものである。これら可塑剤としての植物油は、酸化しやすいため、これら植物油をエポキシ化やアルキド変性化させた植物油誘導体とし、酸化をし難くして、使用することができる。これら可塑剤としてのエポキシ化やアルキド変性化された植物油誘導体は、市販品を使用することができる。
【0027】
路面標示組成物における可塑剤の含有率は、0.3~5質量%とすることができる。塗膜(路面標示)に、柔軟性、たわみ性などの塑性を与えることができるためである。路面標示組成物における可塑剤の含有率が0.3質量%未満である場合には、塗膜に十分な塑性を与えることができないおそれがある。一方、可塑剤の含有率が5質量%を超える場合には、可塑剤によって塗膜に汚れが付きやすくなり、耐汚染性が劣るおそれがあるあるとともに、路面標示組成物を路面に施工して形成された路面標示が、粘着性を有し、路面を走行する車両等のタイヤに密着して、路面標示が路面から剥がれるおそれがある。別の実施形態として、路面標示組成物における可塑剤の含有率は、0.5~3質量%とすることができ、さらに別の実施形態として、0.7~2.5質量%とすることができる。
【0028】
体質材とは、微細な粒子であり、路面標示組成物として高価な結合材の配合量を減少させるとともに、粒子の粒度分布の組み合わせにより、路面標示組成物の施工の際の作業性を改善するものである。また、体質材は、路面標示組成物が施工され路面標示として使用される際に、強度を付与するとともに、耐摩耗性を向上させるものである。体質材としては、炭酸カルシウム、珪砂、砕石粉、セルベン(衛生陶器粉砕物)、タルク、クレー、高炉スラグ、硫酸バリウムなどを使用することができる。
【0029】
また、炭酸カルシウムとして、廃棄物から抽出されたカルシウムに二酸化炭素の固定化が図られた再生炭酸カルシウムを使用することができる。
【0030】
再生炭酸カルシウムとは、廃棄物としての焼却灰から酸性溶液によって抽出されたカルシウム分に、焼却灰の処理時に発生した二酸化炭素をアルカリ溶液に吸収させたのちに固定化(結合)させた炭酸カルシウムである。カルシウム分が抽出される焼却灰は、火力発電やバイオマス発電から発生する焼却灰、製鉄所から発生する高炉スラグ、ゴミ焼却場から発生する焼却灰などを使用することができ、焼却灰に、焼却灰の処理時に発生した二酸化炭素を固定化することができるため、地球の温暖化の抑制に貢献することができるものである。また、再生炭酸カルシウムは地球上の枯渇性の資源ではないため、これを含有する路面標示組成物は、枯渇性の資源に対する依存度を少なくすることができる。
【0031】
再生炭酸カルシウムは、鉱山から採掘される従来の採掘炭酸カルシウムと比して、粒度分布の幅が狭く、粒度分布が鋭いものである。再生炭酸カルシウムの粒径を表1に記載するとともに、粒度分布グラフを
図2に記載する。
【0032】
【0033】
表1中、αは、α=(d90-d10)/d50 で表されるものである。d10は累積10vol%径、d50は累積50vol%径、d90は累積90vol%径である。
【0034】
粒度分布の幅が狭く、粒度分布が鋭いものであるため、再生炭酸カルシウムは、粒子の大きさが揃っているものである。粒子の大きさが揃った再生炭酸カルシウムを含有する路面標示組成物は、流動性が劣るため、施工時の粘度が高く現れ、添加剤としての増粘剤の添加量を抑えることができる。
【0035】
また、再生炭酸カルシウムは、採掘炭酸カルシウムと比して、白色度が高いため、路面標示組成物の識別性を高めることができるとともに、白色の路面標示組成物においては、顔料としての酸化チタンの配合量を抑えることができる。表2に、再生炭酸カルシウムと採掘炭酸カルシウム(重質炭酸カルシウム)の白色度(色の表示方法-白色度( JIS Z 8715:1999 ))を記載する。
【0036】
【0037】
体質材の粒子径は、d50(メディアン径)1~100μmとすることができる。路面標示組成物は、体質材、顔料(d50:1μm以下)及びガラスビーズ・粗粒炭酸カルシウム(d50:100μm以上)の3つの異なる粒度分布を有する充填材を含有することによって、路面標示組成物から形成される路面標示を緻密なものとすることができる。別の実施形態として、体質材の粒子径は、d50:5~50μmとすることができる。
【0038】
路面標示組成物における体質材の含有率は、35~75質量%とすることができる。路面標示組成物から形成される路面標示に十分な塑性を与えることができると共に、再生炭酸カルシウムの白色度が高いため、路面標示組成物の識別性を高めることができる。路面標示組成物における体質材の含有率が35質量%未満である場合には、相対的に結合材が過剰な量となり、不経済となるおそれがある。一方、含有率が75質量%を超えると、結合材が過少となり、路面標示組成物から形成される路面標示に、柔軟性、たわみ性などの塑性を与えることができないおそれがある。別の実施形態として、路面標示組成物における体質材の含有率は、40~70質量%とすることができ、さらに別の実施形態として、45~65質量%とすることができる。
【0039】
顔料とは、特定の波長の光を反射する材料であり、路面標示組成物から形成される路面標示に色彩を与えるとともに隠ぺい性を付与する原材料である。路面標示組成物に使用する顔料は、付与する色彩に応じた汎用の顔料を使用することができる。顔料の例として、白;酸化チタン、亜鉛華、黒;カーボンブラック、赤;ベンガラ、キナクリドン、青;コバルトブルー、フタロシアニンブルー、黄;ニッケルチタンイエロー、モノアゾイエロー、などを使用することができる。
【0040】
路面標示組成物における顔料の含有率は、0.5~15質量%とすることができる。路面標示組成物から形成される塗膜(路面標示)に、十分な着色力と隠ぺい力を与えることができるためである。路面標示組成物における顔料の含有率が0.5質量%未満である場合には、着色力と隠ぺい力が十分とならないおそれがあるばかりか、塗膜の耐候性が劣るおそれがある。一方、顔料の含有率が15質量%を超えると、着色力と隠ぺい力に大差はなく、不経済となるおそれがある。別の実施形態として、路面標示組成物における顔料の含有率は、1~10質量%とすることができ、さらに別の実施形態として、1.5~5質量%とすることができる。
【0041】
ガラスビーズとは、光透過性のあるガラスからなるビーズであり、路面標示組成物から形成される路面標示に含有されることにより、車両の前照灯の再帰反射効果が得られ、車両からの視認性を向上させることができるものである。ガラスビーズは、路面標示塗料用ガラスビーズ( JIS R 3301:2014 )に規定されるガラスビーズやこれと同等のガラスビーズを使用することができる。
【0042】
路面標示組成物におけるガラスビーズの含有率は、10~50質量%とすることができる。車両の前照灯の再帰反射効果が得られ、車両からの視認性を向上させることができるためである。路面標示組成物におけるガラスビーズの含有率が10質量%未満である場合には、再帰反射効果が十分に得られないおそれがある。一方、50質量%を超えると、結合材が過少となり、塗膜に、柔軟性、たわみ性などの塑性を与えることができないおそれがあるとともに、塗装された路面標示が摩耗した際に、表出したガラスビーズによって、車両のタイヤが滑りやすくなるおそれがある。別の実施形態として、路面標示組成物におけるガラスビーズの含有率は、15~45質量%とすることができる。なお、路面標示用塗料( JIS K 5665:2018 )の3種では、路面標示組成物におけるガラスビーズの含有率は、1号では15~18質量%、2号では20~23質量%、3号では25質量%以上と規定されている。
【0043】
路面標示組成物には、その他添加剤として、適宜、増粘剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、流動性付与材などを配合することができる。
【0044】
増粘剤とは、施工中の路面標示組成物の、充填材の沈降を防止する、流動性を良好にする目的のために添加する添加剤である。増粘剤としては、ベントナイト系、メチルセルロース系、ヒドロキシエチルセルロース系などの内の1種又は2種以上を使用することができる。これらは、原材料の形態で粉状である。
【0045】
路面標示組成物における増粘剤の含有率は、0.1~2質量%とすることができる。施工中の路面標示組成物の、充填材の沈降を防止することができ、流動性を良好にするできるためである。路面標示組成物における増粘剤の含有率が0.1質量%未満である場合には、充填材の沈降を防止すること、流動性を良好にすることができないおそれがある。一方、2質量%を超えると、施工中の路面標示組成物の粘度が高くなり、作業性が劣るおそれがある。別の実施形態として、増粘剤の含有率は、0.2~1.5質量%とすることができ、さらに別の実施形態として、0.3~1.0質量%とすることができる。
【0046】
実施形態の路面標示組成物は、これら原材料を含有率に合わせた配合量で混合させることによって、路面標示組成物とすることができる。混合機は、パドルミキサ、ナウターミキサ、リボン混合機、円錐スクリュ型混合機、ヘンシェル型混合機などの汎用の混合機を使用することができる。
【0047】
次に、路面標示組成物の塗装方法について説明する。路面標示組成物の塗装に使用する溶融塗装機(スリッタ)は、汎用の溶融塗装機であれば使用することができ、例えば、
図3に示す溶融塗装機29を使用することができる。
【0048】
図3に示す溶融塗装機29は、塗料供給口35を備え、該塗料供給口35は元側水平部と先側水平部との間が傾斜部で連結され、水平移動する水平シャッター37を備えている。水平シャッター37は、前進して先側水平部をアプリケータ33に当接させることにより(二点鎖線位置)、塗料供給口35を閉じるようになっている。塗料充填容器31には、塗料を保温溶融可能な加熱手段(例えば、ガスバーナ、電熱ヒータなど)が付設されている。
【0049】
塗料の加熱温度(保温設定温度)は、塗布中の塗料の固化を防ぐため、塗料が溶融する温度より高めの温度(例えば、軟化点が110℃の塗料に対して、180~ 220℃の温度)の範囲で適宜設定する。溶融塗装機29は、アプリケータ33と路面Rとの間に隙間(スリット)sを有した状態で使用する。このときの隙間sは、設定膜厚(通常、1~3mm)と同一とする。こうして、路面Rに路面標示が形成される。
【実施例0050】
(第1実施形態)
第1実施形態の路面標示組成物は、組成の異なる路面標示組成物について、拡散反射率が80%以上となるように、顔料と炭酸カルシウムの配合量を調整し、塗料粘度が50dPasとなるように増粘剤の添加量を調整した。拡散反射率と塗料粘度の測定方法を以下に記載する。
【0051】
拡散反射率(%)
拡散反射率は、路面標示組成物について、JIS K 5665:2018(路面標示用塗料)8.15 拡散反射率に準拠して測定した。
【0052】
塗料粘度(200℃)(dPas)
塗料粘度は、路面標示組成物を230℃で溶融させて調製した組成物試料を、230℃以上に保温した専用容器(深さ:120mm、直径:80mm)に8分目程度まで入れ、粘度計(ビスコテスタ「VT-04F」リオン株式会社製)のローターを浸して、かき混ぜながら200℃まで自然放冷させ、200℃で測定した。
【0053】
第1実施形態に使用した原材料の詳細を以下に記載する。
【0054】
生物由来樹脂…テルペン樹脂
脂肪族系石油樹脂…C5系石油樹脂
可塑剤A…エポキシ化大豆油
可塑剤B…フタル酸系可塑剤
顔料…アナターゼ型酸化チタン
再生炭酸カルシウムA…d10:9.47μm、d50:13.40μm、d90:20.02μm
採掘炭酸カルシウム…重質炭酸カルシウム(d50:5.0μm)
ガラスビーズ…路面標示塗料用ガラスビーズ( JIS R 3301:2014 準拠品 )
増粘剤…ベントナイト系増粘剤
その他添加剤…酸化防止剤、紫外線吸収剤など。
【0055】
第1実施形態の試験例の路面標示組成物を表3に記載する。試験例2、試験例4及び試験例6が実施例であり、試験例1、試験例3及び試験例5が比較例である。
【0056】
【0057】
(試験例1)
試験例1は、従来の路面標示組成物である。結合材は脂肪族系石油樹脂としてのC5系石油樹脂を使用し、炭酸カルシウムは採掘炭酸カルシウムを使用している。
【0058】
(試験例2)
試験例2は、従来の路面標示組成物の試験例1の採掘炭酸カルシウムを再生炭酸カルシウムに置き換えたものである。試験例1と比較して、試験例2は、再生炭酸カルシウムの揃った粒子径により施工時の粘度が高く現れ、増粘剤を約3割減少させることができ、再生炭酸カルシウムの高い白色度により、拡散反射率を2.5~3.5%改善することができた。また、試験例2は、枯渇性の資源である採掘炭酸カルシウムに対する依存度を少なくすることができるとともに、二酸化炭素の固定化が図られた再生炭酸カルシウムを使用しているため、地球の温暖化の抑制に貢献しているものである。
【0059】
(試験例3、4)
試験例3、4は、試験例1、2から、脂肪族系石油樹脂を生物由来(バイオマス由来)樹脂のテルペン樹脂に、可塑剤を石油由来のフタル酸系から生物由来(バイオマス由来)のエポキシ化大豆油に、それぞれ置き換えたものである。試験例4は、試験例2の効果に加え、石油に対する依存度を少なくすることができ、かつ、バイオマス由来のテルペン樹脂とエポキシ化大豆油が原材料の育成時に二酸化炭素を吸収し、再生炭酸カルシウムが二酸化炭素の固定化が図られているため、地球の温暖化の抑制に一層貢献しているものである。
【0060】
(試験例5、6)
試験例5、6は、試験例1、2から、結合材を脂肪族系石油樹脂と生物由来樹脂の混合物に、可塑剤をフタル酸系から生物由来のエポキシ化大豆油に、それぞれ置き換えたものである。試験例6は、試験例4同様に、拡散反射率の改善が得られた。
【0061】
(第2実施形態)
第2実施形態の路面標示組成物は、体質材の再生炭酸カルシウムAと採掘炭酸カルシウムの配合比率を変更した路面標示組成物について、路面標示用塗料( JIS K 5665:2018 )に規定される試験を行った。なお、第2実施形態では、第1実施形態とは異なり、拡散反射率と塗料粘度の調整は行っていない。また、使用した原材料は、第1実施形態で使用したものと同じである。
【0062】
第2実施形態の路面標示組成物の試験例を表4に記載する。試験例8~10が実施例であり、試験例7が比較例である。
【0063】
【0064】
(試験例7~10)
試験例7~10は、体質材の炭酸カルシウムについて、再生炭酸カルシウムAと採掘炭酸カルシウムの比率を変更したものであり、路面標示用塗料( JIS K 5665:2018 )の規格を満たすものであった。試験例8及び9は、試験例7及び10と比較して、塗料の粘度の低下がみられ、施工時の作業性が向上していることが確認できた。再生炭酸カルシウムAと採掘炭酸カルシウムを併用したことによるものと考えられる。
【0065】
なお、実施形態の路面標示組成物は、その構成を以下のような形態に変更しても実施することができる。
【0066】
実施形態の路面標示組成物では、体質材に、再生炭酸カルシウムA(d50:13.40μm)と必要により重質炭酸カルシウム(d50:5.0μm)を用いたが、施工時の作業性の向上及び流動性の改善のため、微粉末炭酸カルシウム(d50:1.2~2.1μm(より好ましくは1.5~2.1μm))を用いることができる。具体的には、試験例8又は9の重質炭酸カルシウムを微粉末炭酸カルシウムに置き換えることによって、施工時の作業性の向上及び流動性が改善された路面標示組成物を得ることができる。
【0067】
実施形態の路面標示組成物では、結合材、可塑剤、体質材、顔料及びガラスビーズを含有するものとしたが、路面標示組成物は、結合材、可塑剤、体質材及び顔料を含有し、ガラスビーズを含有しないものとすることができる。これによれば、路面標示組成物は、溶融の際に、必要量のガラスビーズが添加されることにより、路面標示組成物におけるガラスビーズの含有率を自由に設定することができる。
【0068】
実施形態の路面標示組成物は、路面に塗装して車両などの進路や停止線などを明示する路面標示を形成する路面標示組成物としたが、もちろん、視線誘導などを目的とした、カラー路面標示を形成する路面標示組成物とすることもできるものである。