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特開2024-142351炭酸カルシウムの生産方法及びリサイクルシステム
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  • 特開-炭酸カルシウムの生産方法及びリサイクルシステム 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024142351
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】炭酸カルシウムの生産方法及びリサイクルシステム
(51)【国際特許分類】
   E01F 9/506 20160101AFI20241003BHJP
【FI】
E01F9/506
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023054459
(22)【出願日】2023-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000183266
【氏名又は名称】住友大阪セメント株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000159021
【氏名又は名称】株式会社キクテック
(74)【代理人】
【識別番号】100076473
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100188765
【弁理士】
【氏名又は名称】赤座 泰輔
(74)【代理人】
【識別番号】100112900
【弁理士】
【氏名又は名称】江間 路子
(74)【代理人】
【識別番号】100163164
【弁理士】
【氏名又は名称】安藤 敏之
(72)【発明者】
【氏名】大泉 理紗
(72)【発明者】
【氏名】菊池 定人
(72)【発明者】
【氏名】小西 正芳
(72)【発明者】
【氏名】小堺 規行
(72)【発明者】
【氏名】岩垂 幸宏
(72)【発明者】
【氏名】松尾 明人
(72)【発明者】
【氏名】寺倉 嘉宏
【テーマコード(参考)】
2D064
【Fターム(参考)】
2D064AA05
2D064AA22
2D064JA01
(57)【要約】
【課題】路面標示組成物から生じる廃棄物から、炭酸カルシウムを生産することができ、路面標示組成物から生じる廃棄物を有効に利用することができる炭酸カルシウムの生産方法を提供すること。
【解決手段】炭酸カルシウムの生産方法は、路面標示組成物から生じる廃棄物(路面標示廃棄物)を含むカルシウム含有廃棄物から、カルシウム分を抽出して炭酸カルシウムを再生する生産方法である。再生された炭酸カルシウムは、路面標示組成物の原材料となり、再生された炭酸カルシウムを含有する路面標示組成物が製品として世の中に流通する。再生された炭酸カルシウムを含有する路面標示組成物は、製造時や施工時において、様々な廃棄物が生じ、施工後においても、抹消時の廃棄物が発生する。実施形態の炭酸カルシウムの生産方法は、これら廃棄物からカルシウム分を抽出して炭酸カルシウムを再生する再生サイクルを形成する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルシウム含有廃棄物からカルシウム分を抽出する抽出工程と、該カルシウム分に二酸化炭素を固定化する固定化工程と、該固定化工程で二酸化炭素が固定された該カルシウム分として再生された炭酸カルシウムを回収する回収工程と、を有する炭酸カルシウムの生産方法であって、
該カルシウム含有廃棄物が路面標示組成物から生じる路面標示廃棄物を含むことを特徴とする炭酸カルシウムの生産方法。
【請求項2】
前記路面標示組成物が前記再生された炭酸カルシウムを含有することを特徴とする請求項1に記載の炭酸カルシウムの生産方法。
【請求項3】
前記抽出工程は、酸性溶液によって前記カルシウム分が抽出され、
前記固定化工程は、前記二酸化炭素を吸収させたアルカリ溶液と、該カルシウム分が抽出された該酸性溶液と、を反応させて、該カルシウム分に該二酸化炭素を固定化する、ことを特徴とする請求項1又は2に記載の炭酸カルシウムの生産方法。
【請求項4】
請求項1に記載の炭酸カルシウムの生産方法で生産された前記再生された炭酸カルシウムが路面標示組成物に含有され、
該路面標示組成物が使用されることによって生じる路面標示廃棄物が前記カルシウム含有廃棄物に含まれ、
該カルシウム含有廃棄物から該再生された炭酸カルシウムが生産され、
該再生された炭酸カルシウムが該路面標示組成物に含有される、
ことを特徴とする炭酸カルシウムのリサイクルシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書の技術分野は、路面標示組成物から生じる廃棄物を含むカルシウム含有廃棄物から、炭酸カルシウムを生産する方法、及び、炭酸カルシウムをリサイクルするシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
路面に塗装して車両などの進路や停止線などを明示する路面標示を形成する路面標示組成物として、特許文献1には、熱可塑性結合材、体質材、可塑剤及びガラスビーズを含有する路面標示組成物が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007-326993号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1に記載された路面標示組成物は、製造時において、製品重量未満の製造端数の廃棄物、色調変更の際に生じる廃棄物、製品検査に伴う廃棄物などが生じ、施工時においては、施工箇所からはみ出した廃棄物、色調変更の際の廃棄物、テスト施工の際の廃棄物などが生じる。また、施工後においても、抹消時の廃棄物が発生する。これら廃棄物は、破棄され、有効に利用されていないという課題があった。
【0005】
本明細書の技術は、上述の点に鑑みてなされたものであり、路面標示組成物から生じる廃棄物から、炭酸カルシウムを生産することができ、路面標示組成物から生じる廃棄物を有効に利用することができる炭酸カルシウムの生産方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本明細書の実施形態に係る炭酸カルシウムの生産方法は、カルシウム含有廃棄物からカルシウム分を抽出する抽出工程と、該カルシウム分に二酸化炭素を固定化する固定化工程と、該固定化工程で二酸化炭素が固定された該カルシウム分として再生された炭酸カルシウムを回収する回収工程と、を有する炭酸カルシウムの生産方法であって、
該カルシウム含有廃棄物が路面標示組成物から生じる路面標示廃棄物を含むことを特徴とする。
【0007】
本明細書の実施形態に係る炭酸カルシウムの生産方法によれば、カルシウム分が抽出されるカルシウム含有廃棄物に、路面標示組成物から生じる廃棄物である路面標示廃棄物が含まれているため、路面標示廃棄物から、炭酸カルシウムを生産することができ、路面標示組成物から生じる廃棄物を有効に利用することができる。
【0008】
ここで、上記炭酸カルシウムの生産方法において、前記路面標示組成物が前記再生された炭酸カルシウムを含有するものとすることができる。
【0009】
これによれば、路面標示組成物に含有される再生された炭酸カルシウムが再度炭酸カルシウムに再生されるため、路面標示組成物のカルシウム分の再生サイクルを形成することができる。
【0010】
また、上記炭酸カルシウムの生産方法において、前記抽出工程は、酸性溶液によって前記カルシウム分が抽出され、
前記固定化工程は、前記二酸化炭素を吸収させたアルカリ溶液と、該カルシウム分が抽出された該酸性溶液と、を反応させて、該カルシウム分に該二酸化炭素を固定化するものとすることができる。
【0011】
これによれば、効率よく炭酸カルシウムを生産することができる。
【0012】
ここで、実施形態に係る炭酸カルシウムのリサイクルシステムは、上記の炭酸カルシウムの生産方法で生産された前記再生された炭酸カルシウムが路面標示組成物に含有され、
該路面標示組成物が使用されることによって生じる路面標示廃棄物が前記カルシウム含有廃棄物に含まれ、
該カルシウム含有廃棄物から該再生された炭酸カルシウムが生産され、
該再生された炭酸カルシウムが該路面標示組成物に含有される、ものとすることができる。
【0013】
これによれば、再生された炭酸カルシウムから路面標示組成物を生産し、路面標示組成物を使用することによって発生した路面標示廃棄物から炭酸カルシウムを生産し、この炭酸カルシウムから再び路面標示組成物を生産する、炭酸カルシウムの再生サイクルを形成することができる。
【発明の効果】
【0014】
本明細書の実施形態に係る路面標示組成物によれば、路面標示組成物から生じる廃棄物である路面標示廃棄物から、炭酸カルシウムを生産することができ、路面標示組成物から生じる廃棄物を有効に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本明細書の実施形態に係る路面標示組成物に使用される炭酸カルシウムのカルシウム分を再生する再生サイクルのイメージ図である。
図2】再生された炭酸カルシウムの粒度分布グラフを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本明細書の実施形態に係る炭酸カルシウムの生産方法について説明する。なお、本発明の範囲は、実施形態で開示される範囲に限定されるものではない。実施形態の炭酸カルシウムの生産方法は、路面標示組成物から生じる廃棄物(路面標示廃棄物)を含むカルシウム含有廃棄物から、カルシウム分を抽出して炭酸カルシウムを再生する生産方法である。再生された炭酸カルシウムは、路面標示組成物の原材料となり、再生された炭酸カルシウムを含有する路面標示組成物が製品として世の中に流通する。再生された炭酸カルシウムを含有する路面標示組成物は、製造時や施工時において、様々な廃棄物が生じ、施工後においても、抹消時の廃棄物が発生する。実施形態の炭酸カルシウムの生産方法は、これら廃棄物からカルシウム分を抽出して炭酸カルシウムを再生する再生サイクルを形成するものである。
【0017】
実施形態における路面標示組成物は、路面標示用塗料( JIS K 5665:2018 )に規定される路面標示用塗料である。路面標示組成物の配合量や配合比を表す際は、特に断らない限り、質量単位であり、揮発分を含む粉体状の塗料状態で表すものとする。また、配合単位を示す「%」は、特に断らない限り、「質量%」を意味するものとする。
【0018】
実施形態の炭酸カルシウムの生産方法は、カルシウム含有廃棄物からカルシウムを含む金属類を抽出する抽出工程と、金属類からカルシウム分を分離する分離工程と、抽出されたカルシウム分に二酸化炭素を固定化する固定化工程と、固定化工程で二酸化炭素が固定されたカルシウム分としての再生炭酸カルシウムを回収する回収工程と、を有する。カルシウム含有廃棄物には、路面標示廃棄物が含まれるものである。
【0019】
路面標示廃棄物とは、路面標示組成物から生じる廃棄物であり、製造時において発生する、製品重量未満の製造端数の廃棄物、色調変更の際に生じる廃棄物、製品検査に伴う廃棄物など、施工時において発生する、施工箇所からはみ出した廃棄物、色調変更の際の廃棄物、テスト施工の際の廃棄物など、施工後において発生する、抹消時の廃棄物などがある。これら路面標示廃棄物は、詳しくは後述するが、体質材としての炭酸カルシウムや、結合材としての合成樹脂などが含有されている。
【0020】
抽出工程は、路面標示廃棄物を含むカルシウム含有廃棄物に塩酸水を加えて塩酸溶液とし、路面標示廃棄物からカルシウムを含む金属類を抽出する工程である。塩酸によって、路面標示廃棄物から金属類が溶解/抽出される。抽出される金属類には、カルシウム、ケイ素、アルミニウム、マグネシウム及びその他金属が含まれる。
【0021】
分離工程は、抽出工程において塩酸溶液に抽出されたカルシウムを含む金属類から、カルシウムを分離する工程である。カルシウムの分離は、カルシウムを含む金属類が溶解した塩酸溶液のpHを調整することによって、カルシウム(カルシウムイオン)よりイオン化傾向の小さいその他金属類を沈降させることによって分離することができる。
【0022】
固定化工程は、抽出されたカルシウムに二酸化炭素を固定化する工程である。固定化工程は、カルシウムイオンが溶解/抽出された塩酸溶液に、炭酸カリウム及び/又は炭酸ナトリウムを含有するアルカリ溶液を混合することによって、カルシウムイオンに二酸化炭素を固定させて炭酸カルシウムとするものである。
【0023】
ここで、抽出工程で使用される塩酸水は、例えばバイポーラ膜電気透析法(BMED)により生成されるものを使用することができる。また、固定化工程で使用される炭酸カリウム及び/又は炭酸ナトリウムを含有するアルカリ溶液は、バイポーラ膜電気透析法により生成させるアルカリ溶液に二酸化炭素を接触させて生成されるものを使用することができる。アルカリ溶液に接触させる二酸化炭素は、例えば、火力発電設備などの燃焼排ガスやセメント製造設備での排ガスなどに含まれる二酸化炭素を使用することができる。また、大気中の二酸化炭素を直接吸収させて使用することも可能である。
【0024】
回収工程によって、再生された炭酸カルシウムを回収することによって、炭酸カルシウムを得ることができる。このようにして得られた炭酸カルシウムは、鉱山から採掘された天然の炭酸カルシウム(採掘炭酸カルシウム)と比して、粒度分布の幅が狭く、粒度分布が鋭いものである。再生された炭酸カルシウムの例として実施例において使用する再生炭酸カルシウムAの粒径を表1に記載するとともに、粒度分布グラフを図2に記載する。
【0025】
【表1】
【0026】
表1中、αは、α=(d90-d10)/d50 で表されるものである。d10は累積10vol%径、d50は累積50vol%径、d90は累積90vol%径である。αが2.0以下であることによって、粒度分布の幅が狭く、かつ、粒度分布が鋭いものとなる。
【0027】
再生された炭酸カルシウムは、結合材、可塑剤、体質材、顔料及びガラスビーズなどの原材料とともに、路面標示組成物に加工される。路面標示組成物は、路面標示用塗料( JIS K 5665:2018 )の3種の路面標示用塗料とすることができる。路面標示組成物は、加熱させることによって、溶融させて適正粘度の流動性を持たせて、路面に施工されることによって路面標示となる。
【0028】
結合材とは、これら原材料を結合させるとともに、被塗装面である路面に密着させる樹脂である。路面標示組成物は、路面に施工され、路面標示として使用された際に、路面から剥がれにくいこと、つまり、高い密着性が要求され、また、車両のタイヤに幾度となく踏まれても摩耗しにくいこと、つまり、高い耐久性が要求される。このため、結合材には、密着性と耐久性に優れる石油由来の合成樹脂が使用される。結合材として路面標示組成物に使用される石油由来の合成樹脂は、例えば、脂肪族系石油樹脂、ポリブテン等の石油系炭化水素系樹脂、クマロン・インデン樹脂等のクマロン系樹脂、フェノール・ホルムアルデヒド樹脂等のフェノール系樹脂、芳香族系炭化水素樹脂、不飽和炭化水素重合体、イソプレン系樹脂、水素添加炭化水素樹脂、炭化水素系粘着化樹脂等が使用可能である。これらは、市販品を使用することができる。
【0029】
路面標示組成物における結合材の含有率は、10~25質量%とすることができる。作業性に優れ、正常な塗膜(路面標示)を得ることができるためである。路面標示組成物における結合材の含有率が10質量%未満である場合には、塗膜の強度が不足するおそれがあるとともに、塗装温度(200℃)における粘度が高く、良好な作業性が得られないおそれがある。一方、含有率が25質量%を超える場合には、結合材が過剰な量となり、不経済となるおそれがあるとともに、路面標示組成物を路面に施工して形成された路面標示が、粘着性を有し、路面を走行する車両等のタイヤに密着して、路面標示が路面から剥がれるおそれがある。別の実施形態として、路面標示組成物における結合材の含有率は、12~23質量%とすることができ、さらに別の実施形態として、13~20質量%とすることができる。
【0030】
可塑剤とは、結合材に、柔軟性、たわみ性などの塑性を与える有機材料である。路面標示組成物の結合材に、柔軟性、たわみ性などの塑性が与えられることによって、路面標示組成物は、路面に施工され、路面標示として使用された際に、路面標示の割れや剥がれを抑制することができる。可塑剤は、結合材の樹脂の間に浸透して、樹脂の分子間力を弱め、樹脂鎖を動きやすくさせることによって、樹脂のガラス転移温度(Tg)を低下させ、結合材に、柔軟性、たわみ性などの塑性を与える。このため、可塑剤には、樹脂との相溶性が良いこと、揮発性が小さいことが要求される。可塑剤として、フタル酸系可塑剤、アジピン酸系可塑剤、リン酸系可塑剤、トリメリット酸系可塑剤、エポキシ系可塑剤、鉱物油可塑剤などを使用することができる。これらは市販品を使用することができる。
【0031】
路面標示組成物における可塑剤の含有率は、0.3~5質量%とすることができる。塗膜(路面標示)に、柔軟性、たわみ性などの塑性を与えることができるためである。路面標示組成物における可塑剤の含有率が0.3質量%未満である場合には、塗膜に十分な塑性を与えることができないおそれがある。一方、可塑剤の含有率が5質量%を超える場合には、可塑剤によって塗膜に汚れが付きやすくなり、耐汚染性が劣るおそれがあるあるとともに、路面標示組成物を路面に施工して形成された路面標示が、粘着性を有し、路面を走行する車両等のタイヤに密着して、路面標示が路面から剥がれるおそれがある。別の実施形態として、路面標示組成物における可塑剤の含有率は、0.5~3質量%とすることができ、さらに別の実施形態として、0.7~2.5質量%とすることができる。
【0032】
体質材とは、微細な粒子であり、路面標示組成物として高価な結合材の配合量を減少させるとともに、粒子の粒度分布の組み合わせにより、路面標示組成物の施工の際の作業性を改善するものである。また、体質材は、路面標示組成物が施工され路面標示として使用される際に、強度を付与するとともに、耐摩耗性を向上させるものである。体質材としては、炭酸カルシウム、珪砂、砕石粉、セルベン(衛生陶器粉砕物)、タルク、クレー、高炉スラグ、硫酸バリウムなどを使用することができる。
【0033】
炭酸カルシウムには、実施形態の炭酸カルシウムの生産方法で再生された炭酸カルシウムを使用することができる。再生された炭酸カルシウムは、火力発電設備などの燃焼排ガスやセメント製造設備での排ガスなどに含まれる二酸化炭素又は大気中の二酸化炭素が固定化されたものであるため、地球の温暖化の抑制に貢献することができる。また、再生された炭酸カルシウムは、鉱山で採掘される枯渇性の資源である炭酸カルシウムに変えて使用することができるため、枯渇性の資源に対する依存度を少なくすることができる。
【0034】
また、再生された炭酸カルシウムは、採掘された炭酸カルシウムと比して、白色度が高いため、路面標示組成物の識別性を高めることができるとともに、白色の路面標示組成物においては、顔料としての酸化チタンの配合量を抑えることができる。表2に、再生炭酸カルシウムAと採掘炭酸カルシウム(重質炭酸カルシウム)の白色度(色の表示方法-白色度( JIS Z 8715:1999 ))を記載する。
【0035】
【表2】
【0036】
体質材の粒子径は、d50(メディアン径)1~100μmとすることができる。路面標示組成物は、体質材、顔料(d50:1μm以下)及びガラスビーズ・粗粒炭酸カルシウム(d50:100μm以上)の3つの異なる粒度分布を有する充填材を含有することによって、路面標示組成物から形成される路面標示を緻密なものとすることができる。別の実施形態として、体質材の粒子径は、d50:5~50μmとすることができる。
【0037】
路面標示組成物における体質材の含有率は、35~75質量%とすることができる。路面標示組成物から形成される路面標示に十分な塑性を与えることができると共に、再生炭酸カルシウムの白色度が高いため、路面標示組成物の識別性を高めることができる。路面標示組成物における体質材の含有率が35質量%未満である場合には、相対的に結合材が過剰な量となり、不経済となるおそれがある。一方、含有率が75質量%を超えると、結合材が過少となり、路面標示組成物から形成される路面標示に、柔軟性、たわみ性などの塑性を与えることができないおそれがある。別の実施形態として、路面標示組成物における体質材の含有率は、40~70質量%とすることができ、さらに別の実施形態として、45~65質量%とすることができる。
【0038】
顔料とは、特定の波長の光を反射する材料であり、路面標示組成物から形成される路面標示に色彩を与えるとともに隠ぺい性を付与する原材料である。路面標示組成物に使用する顔料は、付与する色彩に応じた汎用の顔料を使用することができる。顔料の例として、白;酸化チタン、亜鉛華、黒;カーボンブラック、赤;ベンガラ、キナクリドン、青;コバルトブルー、フタロシアニンブルー、黄;ニッケルチタンイエロー、モノアゾイエロー、などを使用することができる。
【0039】
路面標示組成物における顔料の含有率は、0.5~15質量%とすることができる。路面標示組成物から形成される塗膜(路面標示)に、十分な着色力と隠ぺい力を与えることができるためである。路面標示組成物における顔料の含有率が0.5質量%未満である場合には、着色力と隠ぺい力が十分とならないおそれがあるばかりか、塗膜の耐候性が劣るおそれがある。一方、顔料の含有率が15質量%を超えると、着色力と隠ぺい力に大差はなく、不経済となるおそれがある。別の実施形態として、路面標示組成物における顔料の含有率は、1~10質量%とすることができ、さらに別の実施形態として、1.5~5質量%とすることができる。
【0040】
ガラスビーズとは、光透過性のあるガラスからなるビーズであり、路面標示組成物から形成される路面標示に含有されることにより、車両の前照灯の再帰反射効果が得られ、車両からの視認性を向上させることができるものである。ガラスビーズは、路面標示塗料用ガラスビーズ( JIS R 3301:2014 )に規定されるガラスビーズやこれと同等のガラスビーズを使用することができる。
【0041】
路面標示組成物におけるガラスビーズの含有率は、10~50質量%とすることができる。車両の前照灯の再帰反射効果が得られ、車両からの視認性を向上させることができるためである。路面標示組成物におけるガラスビーズの含有率が10質量%未満である場合には、再帰反射効果が十分に得られないおそれがある。一方、50質量%を超えると、結合材が過少となり、塗膜に、柔軟性、たわみ性などの塑性を与えることができないおそれがあるとともに、塗装された路面標示が摩耗した際に、表出したガラスビーズによって、車両のタイヤが滑りやすくなるおそれがある。別の実施形態として、路面標示組成物におけるガラスビーズの含有率は、15~45質量%とすることができる。なお、路面標示用塗料( JIS K 5665:2018 )の3種では、路面標示組成物におけるガラスビーズの含有率は、1号では15~18質量%、2号では20~23質量%、3号では25質量%以上と規定されている。
【0042】
路面標示組成物には、その他添加剤として、適宜、増粘剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、流動性付与材などを配合することができる。
【0043】
増粘剤とは、施工中の路面標示組成物の、充填材の沈降を防止する、流動性を良好にする目的のために添加する添加剤である。増粘剤としては、ベントナイト系、メチルセルロース系、ヒドロキシエチルセルロース系などの内の1種又は2種以上を使用することができる。これらは、原材料の形態で粉状である。
【0044】
路面標示組成物における増粘剤の含有率は、0.1~2質量%とすることができる。施工中の路面標示組成物の、充填材の沈降を防止することができ、流動性を良好にするできるためである。路面標示組成物における増粘剤の含有率が0.1質量%未満である場合には、充填材の沈降を防止すること、流動性を良好にすることができないおそれがある。一方、2質量%を超えると、施工中の路面標示組成物の粘度が高くなり、作業性が劣るおそれがある。別の実施形態として、増粘剤の含有率は、0.2~1.5質量%とすることができ、さらに別の実施形態として、0.3~1.0質量%とすることができる。
【0045】
路面標示組成物は、これら原材料を含有率に合わせた配合量で混合させることによって、製造することができる。混合機は、パドルミキサ、ナウターミキサ、リボン混合機、円錐スクリュ型混合機、ヘンシェル型混合機などの汎用の混合機を使用することができる。路面標示組成物の製造の際には、製品重量未満の製造端数の廃棄物、色調変更の際に生じる廃棄物、製品検査に伴う廃棄物などが発生する。これら廃棄物は、実施形態の炭酸カルシウムの生産方法のカルシウム含有廃棄物として使用され、炭酸カルシウムを再生する再生サイクルを形成することができる。
【0046】
路面標示組成物は、180~ 220℃に加熱され、汎用の溶融塗装機を用いて路面に塗装されることにより、路面標示を形成することができる。路面標示組成物は、施工の際に、施工箇所からはみ出した廃棄物、色調変更の際の廃棄物、テスト施工の際の廃棄物などが発生する。また、路面標示施工後においては、抹消時に剥がされた廃棄物が生じる。これら廃棄物も、実施形態の炭酸カルシウムの生産方法のカルシウム含有廃棄物として使用され、炭酸カルシウムを再生する再生サイクルを形成することができる。
【実施例0047】
(炭酸カルシウムの生産)
実施例では、カルシウム含有廃棄物として、路面に施工され抹消時に剥がされた路面標示廃棄物を用いた。炭酸カルシウムは、抽出工程で路面標示廃棄物に塩酸水を加えてカルシウムを含む溶液を作成し、pHを調整することでカルシウム以外の金属類を除去し、炭酸ナトリウム溶液と混合させることで再生された炭酸カルシウム(再生炭酸カルシウムA)を得た。
【0048】
(路面標示組成物の生産)
再生された炭酸カルシウムを含有する路面標示組成物の配合を表3に記載する。
【0049】
【表3】
【0050】
実施例の路面標示組成物に使用した原材料の詳細を以下に記載する。
【0051】
脂肪族系石油樹脂…C5系石油樹脂
顔料…アナターゼ型酸化チタン
再生炭酸カルシウムA…d10:8.91μm、d50:12.26μm、d90:17.87μm
採掘炭酸カルシウム…重質炭酸カルシウム(d50:2.0μm)
ガラスビーズ…路面標示塗料用ガラスビーズ( JIS R 3301:2014 準拠品)
その他添加剤…可塑剤、増粘剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤など。
【0052】
実施例1及び2の路面標示組成物は、路面標示用塗料( JIS K 5665:2018 )の3種1号の規格を満たし、かつ、路面標示組成物から再生された炭酸カルシウムを含有し、路面標示組成物から生じたカルシウム含有廃棄物が有効に利用されたものであった。
【0053】
(路面標示組成物のカルシウム分の再生サイクル)
再生された炭酸カルシウムを含有する実施例1及び2の路面標示組成物は、製造時や施工時において、様々な廃棄物が発生し、施工後においても、抹消時の廃棄物が発生した。これら路面標示組成物から生じた路面標示廃棄物は、実施例の炭酸カルシウムの生産によって炭酸カルシウムを生産し、路面標示組成物を生産して使用し、路面標示組成物から発生した路面標示廃棄物から再び炭酸カルシウムを生産することによって、炭酸カルシウムを再生する再生サイクルを形成することができた。また、再生された炭酸カルシウムを含有しない比較例の路面標示組成物も、使用されることによって様々な廃棄物が発生し、これら廃棄物は、実施例の炭酸カルシウムの生産によって炭酸カルシウムを生産し、路面標示組成物を生産して使用し、路面標示組成物から発生した路面標示廃棄物から再び炭酸カルシウムを生産することによって、炭酸カルシウムを再生する再生サイクルを形成することができる。
図1
図2