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特開2024-142384水蒸気電解装置および水蒸気電解方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024142384
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】水蒸気電解装置および水蒸気電解方法
(51)【国際特許分類】
   C25B 9/00 20210101AFI20241003BHJP
   C25B 1/042 20210101ALI20241003BHJP
   C25B 15/08 20060101ALI20241003BHJP
   C25B 9/60 20210101ALI20241003BHJP
   C25B 13/04 20210101ALI20241003BHJP
   C25B 13/07 20210101ALI20241003BHJP
   C25B 15/021 20210101ALI20241003BHJP
【FI】
C25B9/00 A
C25B1/042
C25B15/08 302
C25B9/60
C25B13/04 301
C25B13/07
C25B15/021
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023054506
(22)【出願日】2023-03-30
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、国際科学技術共同研究推進事業、「水素社会実現に向けたプロトン伝導性セラミックスを用いた先進・革新的金属サポートセルの開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】504145342
【氏名又は名称】国立大学法人九州大学
(71)【出願人】
【識別番号】509347398
【氏名又は名称】ディーエルアール-ドイチェス・ツェントルム・フュア・ルフト-ウント・ラウムファールト・エ-.ファオ.
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】松本 広重
(72)【発明者】
【氏名】佐多 教子
(72)【発明者】
【氏名】レミ コスタ
(72)【発明者】
【氏名】ティモ レーダー
(72)【発明者】
【氏名】ナタリー モネリー
(72)【発明者】
【氏名】岸本 治夫
(72)【発明者】
【氏名】バガリナオ デベロス カテリン
(72)【発明者】
【氏名】田中 洋平
【テーマコード(参考)】
4K021
【Fターム(参考)】
4K021AA01
4K021BA02
4K021BC01
4K021BC03
4K021BC05
4K021CA10
4K021CA12
4K021DB31
4K021DB36
4K021DB53
(57)【要約】
【課題】本発明は、エネルギー効率が高い水蒸気電解装置および水蒸気電解方法を提供することを課題とする。
【解決手段】本発明は、陽極の電極室、陰極の電極室およびこれらの電極室の間に配置されたイオン伝導体を備える水蒸気電解装置であって、水素発生量の2倍を超える水蒸気を、陽極の電極室および前記陰極の電極室から選択される少なくとも一方に供給し、投入した水蒸気のうち50%以下を電気分解する、水蒸気電解装置及び水蒸気電解方法に関する。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽極の電極室、陰極の電極室およびこれらの電極室の間に配置されたイオン伝導体を備える水蒸気電解装置であって、
水素発生量の2倍を超える水蒸気を、前記陽極の電極室および前記陰極の電極室から選択される少なくとも一方に供給し、投入した水蒸気のうち50%以下を電気分解する、水蒸気電解装置。
【請求項2】
水素発生量の2倍を超える水蒸気を、前記陽極の電極室および前記陰極の電極室の両方に供給し、投入した水蒸気のうち50%以下を電解する、請求項1に記載の水蒸気電解装置。
【請求項3】
水素発生量の10倍以上の水蒸気を、前記陽極の電極室および前記陰極の電極室から選択される少なくとも一方に供給する、請求項1に記載の水蒸気電解装置。
【請求項4】
前記陽極の電極室に水蒸気を供給する陽極側の水蒸気発生部、および、
前記陰極の電極室に水蒸気を供給する陰極側の水蒸気発生部、から選択される少なくとも一方を備える、請求項1に記載の水蒸気電解装置。
【請求項5】
陽極側の熱交換部および陰極側の熱交換部から選択される少なくとも一方を備え、
前記陽極側の熱交換部は、前記陽極の電極室に供給する水蒸気をガス-ガス熱交換により加熱し、
前記陰極側の熱交換部は、前記陰極の電極室に供給する水蒸気をガス-ガス熱交換により加熱する、請求項1に記載の水蒸気電解装置。
【請求項6】
前記陽極側の熱交換部は、前記陽極の電極室から排出される酸素および水蒸気から選択される少なくとも1種をガス-ガス熱交換により冷却し、
前記陰極側の熱交換部は、前記陰極の電極室から排出される水素および水蒸気から選択される少なくとも1種をガス-ガス熱交換により冷却する、請求項5に記載の水蒸気電解装置。
【請求項7】
陽極側の水蒸気過剰加熱部および陰極側の水蒸気過剰加熱部から選択される少なくとも一方を備え、
前記陽極側の水蒸気過剰加熱部は、前記陽極側の熱交換部で加熱された水蒸気をさらに加熱し、前記陽極の電極室に前記イオン伝導体の電気分解の作動温度よりも高い温度の水蒸気を供給し、
前記陰極側の水蒸気過剰加熱部は、前記陰極側の熱交換部で加熱された水蒸気をさらに加熱し、前記陰極の電極室に前記イオン伝導体の電気分解の作動温度よりも高い温度の水蒸気を供給する、請求項5に記載の水蒸気電解装置。
【請求項8】
陽極側の濃縮部および陰極側の濃縮部から選択される少なくとも一方を備え、
前記陽極側の濃縮部は、前記陽極側の熱交換部で冷却された水素および酸素から選択される少なくとも1種を回収し、前記陽極側の熱交換部で冷却された水蒸気を液体の水として分離して前記陽極側の水蒸気発生部に返送し、
前記陰極側の濃縮部は、前記陰極側の熱交換部で冷却された水素および酸素から選択される少なくとも1種を回収し、前記陽極側の熱交換部で冷却された水蒸気を液体の水として分離して前記陽極側の水蒸気発生部に返送する、請求項4に記載の水蒸気電解装置。
【請求項9】
前記陽極側の水蒸気発生部および前記陰極側の水蒸気発生部では、地熱または太陽熱によるエネルギーが用いられる、請求項4に記載の水蒸気電解装置。
【請求項10】
前記陽極側の水蒸気過剰加熱部および前記陰極側の水蒸気過剰加熱部では、地熱または太陽熱によるエネルギーが用いられる、請求項7に記載の水蒸気電解装置。
【請求項11】
前記イオン伝導体がプロトン伝導体であり、
前記イオン伝導体の作動温度が300~650℃であり、
前記水蒸気が前記陰極の電極室に供給される、請求項1に記載の水蒸気電解装置。
【請求項12】
前記イオン伝導体が酸化物イオン伝導体であり、
前記イオン伝導体の作動温度が700℃以上であり、
前記水蒸気が前記陽極の電極室に供給される、請求項1に記載の水蒸気電解装置。
【請求項13】
陽極の電極室、陰極の電極室およびこれらの電極室の間に配置されたイオン伝導体を備える水蒸気電解装置を用いた水蒸気電解方法であって、
水素発生量の2倍を超える水蒸気を、前記陽極の電極室および前記陰極の電極室から選択される少なくとも一方に供給し、投入した水蒸気のうち50%以下を電気分解する、水蒸気電解方法。
【請求項14】
水素発生量の2倍を超える水蒸気を、前記陽極の電極室および前記陰極の電極室の両方に供給し、投入した水蒸気のうち50%以下を電解する、請求項13に記載の水蒸気電解方法。
【請求項15】
水素発生量の10倍以上の水蒸気を、前記陽極の電極室および前記陰極の電極室から選択される少なくとも一方に供給する、請求項13に記載の水蒸気電解方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水蒸気電解装置および水蒸気電解方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水素の製造法は、天然ガス等の化石燃料を一次エネルギーとして用いるものとそれ以外に大別される。日本では、水素の多くが天然ガスの水蒸気改質によって製造され、また、石油化学や製鉄におけるコークスの製造、食塩電解において水素が副生する。これらの方法による水素の製造には、二酸化炭素の発生が伴っている。今後、燃料電池自動車や火力発電の燃料として水素が利用され、そのエネルギーとしての利用が拡大するには、製造時に二酸化炭素の発生を伴わないことが重要な要素となる。太陽光、風力、バイオマス等の再生可能エネルギーを一次エネルギーとして利用することができれば二酸化炭素の発生を抑制できるため、再生可能エネルギーを利用することで水素を製造する技術の開発が求められている。
【0003】
水電解(電気分解)は、電気エネルギーを用いて水を水素と酸素に分解する方法であり、再生可能エネルギーを一次エネルギーとして用いることにより、二酸化炭素の発生をともなわない水素製造技術となる。作動温度や用いる電解質の種類によっていくつかの方法に分類される。アルカリ水電解は、電解質として主に濃KOH水溶液を用い、常圧、室温から90℃程度の温度で作動する。固体高分子形水電解は、電解質としてナフィオンなどに代表されるパーフルオロスルホン酸系のプロトン伝導性固体高分子膜を用い、60℃~120℃で作動する(非特許文献1)。一方、水蒸気電解は、固体電解質を用いて高温で作動する。例えば、特許文献1~4には、陽極と陰極の双方に水蒸気を供給することで水蒸気の電気分解を行う水蒸気電解装置や水蒸気電解方法が開示されている。
【0004】
具体的に、特許文献1には、固体酸化物を有する電解質と、水素極と、酸素極とを有する電気化学セルを用いて水蒸気を電気分解して水素を生成する水蒸気電解装置において、水素極および酸素極に水蒸気を含むガスが供給されるガス供給手段を有することを特徴とする水蒸気電解装置が開示されている。特許文献2には、固体酸化物電解質材料を素材とする電解質と、この電解質を挟んで設けられた水素極と酸素極とから成る電気化学セルを用いて、水蒸気を電気分解し、水素と酸素を生成する水蒸気電解方法において、水素極および酸素極に供給する供給ガスが、いずれも水蒸気を主な成分とし、水素極および酸素極を通過した排出ガスの一部をそれぞれの供給ガスの流れの上流側へ循環させるようにしたことを特徴とする水蒸気電解方法が開示されている。また、特許文献3には、固体酸化物を主として含有する電解質、水素極および酸素極からなる電気化学セルと、水蒸気を主な成分とするガスを該電気化学セルに供給する水蒸気供給部と、水蒸気の電気分解により水素極で生成した水素を排出する水素ガス排出部と、水蒸気の電気分解により酸素極で生成した酸素を排出する酸素ガス排出部と、を有する水蒸気電解装置であって、酸素極が、耐還元性材料を含有することを特徴とする水蒸気電解装置が開示されている。さらに、特許文献4には、水素極室と酸素極室および水素極室と酸素極室の間に設けられた酸素イオン導電性固体電解質層を備え水蒸気を電気分解して水素と酸素を生成する高温水蒸気電解セルと、高温水蒸気電解セルから排出された水素富化水蒸気を高温水蒸気電解セルの水素極室の入口側に供給する水素極インジェクターと、高温水蒸気電解セルから排出された酸素富化水蒸気を高温水蒸気電解セルの酸素極室の入口側に供給する酸素極インジェクターまたはブロワーとを備えていることを特徴とする高温水蒸気電解装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007-63619号公報
【特許文献2】特開2007-31784号公報
【特許文献3】特開2008-260971号公報
【特許文献4】特開2009-1878号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】電気化学便覧,第6版,12.2水電解,p.433(2013,丸善)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
水電解を他の水素製造法と比較した場合に、再生可能エネルギーと組み合わせることで二酸化炭素の排出を抑制できることは先に述べたが、水素製造コストの点では他の方法に劣る。見積もりの方法により幅があるが、水素1Nm当たりの製造コストは天然ガスの水蒸気改質で製造した場合が60~76円、再生可能エネルギーを用いた水電解の場合が99~226円と見積もられ(H. Matsumoto, et al., Energy Technology Roadmaps of Japan: Future Energy Systems Based on Feasible Technologies Beyond 2030, p. 147, “Hydrogen Production”)、水電解による水素製造はコストが高い。その原因は電気代であり、上記の見積もりでは61~72%が電気代である。したがって、電解のエネルギー効率を向上させることができれば、水素製造コストを下げることができる。この点、水蒸気電解はまだ研究段階にあるが、エネルギー効率が高くできる可能性があるため、水蒸気電解を大規模水素製造へ適用することが期待されている。
【0008】
そこで本発明者らは、このような従来技術の課題を解決するために、エネルギー効率が高い水蒸気電解装置および水蒸気電解方法を提供することを目的として検討を進めた。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の具体的な態様の例を以下に示す。
【0010】
[1] 陽極の電極室、陰極の電極室およびこれらの電極室の間に配置されたイオン伝導体を備える水蒸気電解装置であって、
水素発生量の2倍を超える水蒸気を、陽極の電極室および陰極の電極室から選択される少なくとも一方に供給し、投入した水蒸気のうち50%以下を電気分解する、水蒸気電解装置。
[2] 水素発生量の2倍を超える水蒸気を、陽極の電極室および陰極の電極室の両方に供給し、投入した水蒸気のうち50%以下を電解する、[1]に記載の水蒸気電解装置。
[3] 水素発生量の10倍以上の水蒸気を、陽極の電極室および陰極の電極室から選択される少なくとも一方に供給する、[1]又は[2]に記載の水蒸気電解装置。
[4] 陽極の電極室に水蒸気を供給する陽極側の水蒸気発生部、および、
陰極の電極室に水蒸気を供給する陰極側の水蒸気発生部、から選択される少なくとも一方を備える、[1]~[3]のいずれかに記載の水蒸気電解装置。
[5] 陽極側の熱交換部および陰極側の熱交換部から選択される少なくとも一方を備え、
陽極側の熱交換部は、陽極の電極室に供給する水蒸気をガス-ガス熱交換により加熱し、
陰極側の熱交換部は、陰極の電極室に供給する水蒸気をガス-ガス熱交換により加熱する、[1]~[4]のいずれかに記載の水蒸気電解装置。
[6] 陽極側の熱交換部は、陽極の電極室から排出される酸素および水蒸気から選択される少なくとも1種をガス-ガス熱交換により冷却し、
陰極側の熱交換部は、陰極の電極室から排出される水素および水蒸気から選択される少なくとも1種をガス-ガス熱交換により冷却する、[5]に記載の水蒸気電解装置。
[7] 陽極側の水蒸気過剰加熱部および陰極側の水蒸気過剰加熱部から選択される少なくとも一方を備え、
陽極側の水蒸気過剰加熱部は、陽極側の熱交換部で加熱された水蒸気をさらに加熱し、陽極の電極室にイオン伝導体の電気分解の作動温度よりも高い温度の水蒸気を供給し、
陰極側の水蒸気過剰加熱部は、陰極側の熱交換部で加熱された水蒸気をさらに加熱し、陰極の電極室にイオン伝導体の電気分解の作動温度よりも高い温度の水蒸気を供給する、[5]又は[6]に記載の水蒸気電解装置。
[8] 陽極側の濃縮部および陰極側の濃縮部から選択される少なくとも一方を備え、
陽極側の濃縮部は、陽極側の熱交換部で冷却された水素および酸素から選択される少なくとも1種を回収し、陽極側の熱交換部で冷却された水蒸気を液体の水として分離して陽極側の水蒸気発生部に返送し、
陰極側の濃縮部は、陰極側の熱交換部で冷却された水素および酸素から選択される少なくとも1種を回収し、陽極側の熱交換部で冷却された水蒸気を液体の水として分離して陽極側の水蒸気発生部に返送する、[4]~[7]のいずれかに記載の水蒸気電解装置。
[9] 陽極側の水蒸気発生部および陰極側の水蒸気発生部では、地熱または太陽熱によるエネルギーが用いられる、[4]~[8]のいずれかに記載の水蒸気電解装置。
[10] 陽極側の水蒸気過剰加熱部および陰極側の水蒸気過剰加熱部では、地熱または太陽熱によるエネルギーが用いられる、[7]~[9]のいずれかに記載の水蒸気電解装置。
[11] イオン伝導体がプロトン伝導体であり、
イオン伝導体の作動温度が300~650℃であり、
水蒸気が陰極の電極室に供給される、[1]~[10]のいずれかに記載の水蒸気電解装置。
[12] イオン伝導体が酸化物イオン伝導体であり、
イオン伝導体の作動温度が700℃以上であり、
水蒸気が陽極の電極室に供給される、[1]~[10]のいずれかに記載の水蒸気電解装置。
[13] 陽極の電極室、陰極の電極室およびこれらの電極室の間に配置されたイオン伝導体を備える水蒸気電解装置を用いた水蒸気電解方法であって、
水素発生量の2倍を超える水蒸気を、陽極の電極室および陰極の電極室から選択される少なくとも一方に供給し、投入した水蒸気のうち50%以下を電気分解する、水蒸気電解方法。
[14] 水素発生量の2倍を超える水蒸気を、陽極の電極室および陰極の電極室の両方に供給し、投入した水蒸気のうち50%以下を電解する、[13]に記載の水蒸気電解方法。
[16] 水素発生量の10倍以上の水蒸気を、陽極の電極室および陰極の電極室から選択される少なくとも一方に供給する、[13]又は[14]に記載の水蒸気電解方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、エネルギー効率が高い水蒸気電解装置および水蒸気電解方法を提供ことができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】水蒸気が各電極室に供給される場合について説明する概略図である。
図2】水蒸気が各電極室に供給される場合について説明する概略図である。
図3】水電解(25℃)と水蒸気電解(600℃)のエネルギーの内訳を説明する図である。
図4】従来の水蒸気電解で使用される電気エネルギーの算出について説明する図である。
図5】本実施形態の水蒸気電解装置を用いた際の水蒸気電解で使用される電気エネルギーの算出について説明する図である。
図6】本実施形態の水蒸気電解装置を用いた際の水蒸気電解で使用される電気エネルギーの算出について説明する図である。
図7】本実施形態で用いられる水蒸気電解セルの構成を説明する概略図である。
図8】YSZ(イットリア安定化ジルコニア、酸化物イオン伝導体)およびBaCe0.90.13-δ(プロトン伝導体)の電気伝導度を説明するグラフである。
図9】本実施形態の水蒸気電解装置を用いた際の水蒸気電解で使用される電気エネルギーの算出について説明する図である。
図10】SrZr0.9-xCe0.13-α(x=0~0.9)の電気伝導度の等温線である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下において、本発明について詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、代表的な実施形態や具体例に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施形態に限定されるものではない。なお、本明細書において「~」を用いて表される数値範囲は「~」前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
【0014】
(水蒸気電解装置)
本実施形態は、陽極の電極室、陰極の電極室およびこれらの電極室の間に配置されたイオン伝導体を備える水蒸気電解装置であって、水素発生量の2倍を超える水蒸気を、陽極の電極室および陰極の電極室から選択される少なくとも一方に供給し、投入した水蒸気のうち50%以下を電気分解する水蒸気電解装置に関する。なお、本明細書では、陽極の電極室、陰極の電極室およびこれらの電極室の間に配置されたイオン伝導体を有する集合体を水蒸気電解セルとも言う。
【0015】
本実施形態において、水蒸気は、陽極の電極室もしくは陰極の電極室のいずれか一方に供給されてもよい。この場合、陽極の電極室もしくは陰極の電極室のいずれか一方に電解用の水蒸気(原料用水蒸気)を供給し、原料用水蒸気が供給される側の電極室に過剰量の水蒸気(希釈用水蒸気)を供給してもよい。もしくは、陽極の電極室もしくは陰極の電極室のいずれか一方に電解用の水蒸気(原料用水蒸気)を供給し、原料用水蒸気が供給されない側の電極室に過剰量の水蒸気(希釈用水蒸気)を供給してもよい。なお、本明細書において、原料用水蒸気とは、実際に電気分解がなされ、水素と酸素に分解される水蒸気であり、希釈用水蒸気とは、各電極室に供給されるが実際の電気分解に用いられない水蒸気をいう。
【0016】
上記のように、陽極の電極室もしくは陰極の電極室のいずれか一方に水蒸気を供給することとしてもよいが、本実施形態では、水素発生量の2倍を超える水蒸気を、陽極の電極室および陰極の電極室の両方に供給し、投入した水蒸気のうち50%以下を電解することが特に好ましい。
【0017】
例えば、イオン伝導体がプロトン伝導体であり、イオン伝導体の作動温度が300~650℃であり、水蒸気が陰極の電極室に供給される水蒸気電解装置においては、図1に示されるように、水蒸気の少なくとも一部(原料用水蒸気)は陰極の電極室に供給されるが残部の水蒸気(希釈用水蒸気)は陰極の電極室に供給されてもよく、陽極の電極室に供給されてもよく、陰極の電極室および陽極の電極室に供給されてもよい。また、イオン伝導体の作動温度が700℃以上であり、水蒸気が陽極の電極室に供給される水蒸気電解装置においては、図2に示されるように、水蒸気の少なくとも一部(原料用水蒸気)は陽極の電極室に供給されるが残部の水蒸気(希釈用水蒸気)は陽極の電極室に供給されてもよく、陰極の電極室に供給されてもよく、陰極の電極室および陽極の電極室に供給されてもよい。
【0018】
本実施形態では、供給された全水蒸気量のうち、50%以下が電気分解されることが好ましく、40%以下が電気分解されることがより好ましく、30%以下が電気分解されることがさらに好ましく、20%以下が電気分解されることが一層好ましく、10%以下が電気分解されることが特に好ましい。なお、供給された全水蒸気量のうち、1%程度が電気分解されるものであってもよい。このように、本実施形態では、電極室に過剰量の水蒸気を供給し、その水蒸気の一部を電気分解することで、水蒸気電解に用いる電気エネルギーを低減することができる。
【0019】
電極室に供給された水蒸気に対する電気分解の割合は、電極室への水蒸気の導入速度と電解セルに印加する電流値から算出することができる。したがって、電極室への水蒸気の導入速度と電解セルに印加する電流値から導入した水蒸気に対する電気分解の割合をモニターしつつ、この割合が所望の割合となるように電解セルに印加する電流もしくは電圧を調整することにより、水蒸気のうち一部のみを電気分解することができ、所望の電解の割合が達成される。
【0020】
本実施形態では、陽極の電極室および陰極の電極室から選択される少なくとも一方に供給する水蒸気の量は、水素発生量の2倍を超えるものであることが好ましく、3倍以上であることがより好ましく、5倍以上であることがさらに好ましく、10倍以上であることが特に好ましい。なお、陽極の電極室および陰極の電極室から選択される少なくとも一方に供給する水蒸気の量は、50倍以上であってもよく、100倍以上であってもよい。また、陽極の電極室および陰極の電極室から選択される少なくとも一方に供給する水蒸気の量の上限値は特に限定されるものではないが、例えば、100000倍以下であることが好ましい。
【0021】
本実施形態は上記構成を有するため、水蒸気電解のエネルギー効率を高めることができる。以下では、水電解と水蒸気電解を比較しつつ、本実施形態で奏される効果を説明する。
【0022】
水の電気分解反応は(1)式で表される。
O→H+1/2O (1)
逆反応である水素の酸化が自発的に起きることからわかるように、水の分解は自発的には起きない。すなわち、ギブズ自由エネルギー変化が正の値であり、外部よりギブズ自由エネルギー変化以上のエネルギーを投入することにより進行しうる。
【0023】
ここで、水の電気分解時と水蒸気の電気分解時のエネルギーの内訳を図3に示す。左側は、25℃の水電解(液体)のエネルギーの内訳を表しており、水素と酸素に分解されるときのギブズ自由エネルギー変化は+237.1kJ/molである。これを2F(Fはファラデー定数、F=96485C/mol)で除した1.23Vが平衡電解電圧(水素、酸素すべて1bar)となる。実際に水電解を有意に進行させるには過電圧を加えることが必要である。水電解の場合には特に電流密度が小さい領域での過電圧の増大が大きく、電解電圧は一般的には1.6~2.0V程度である。一方、水蒸気電解の場合には、600℃における標準ギブズ自由エネルギー変化は+199.7kJ/molであり、平衡電解電圧は1.02V(水蒸気、水素、酸素すべて1bar)である。水蒸気電解の場合には作動温度が高いために過電圧が小さく、1.2~1.3V程度でも電解を進行させることができる。
【0024】
水・水蒸気電解に必要な電気エネルギーは電解電圧に比例する(1molの水素を作るためのエネルギーは電解電圧に2Fを乗じたもので表される)。水蒸気電解の場合には水電解よりも電解電圧が低く、水素の製造コストを下げられる可能性がある。一方、600℃における水分解時のエンタルピー変化は+245.0kJ/molであり、これを2Fで割った1.29Vは、熱的に中立な電圧である。すなわち、1.29Vで水蒸気電解を行った場合には、投入する電気エネルギー(=2F×1.29V)が生じる化学エネルギー(ΔH=245.0kJ/mol)に等しくなり、熱の出入りがなくなる。電解電圧が1.29Vを下回る場合には、投入電気エネルギーが生成する化学エネルギーを下回ることになり、温度を維持するためには外部から熱を投入することが必要である。したがって、作動温度を上回る温度の熱が入手できれば、水蒸気電解を吸熱的に進行させ、より少ない電気エネルギーで水素を製造することができる。
水蒸気電解の場合、上記の電解に要するエネルギーに加えて、水を水蒸気にするための潜熱を投入することが必要である。電圧に換算する(潜熱を2Fで除す)と0.21Vに相当する。水蒸気を作るための熱は低温でよく、そのような排熱が利用できれば、潜熱分を節約することが可能である。
【0025】
ここで、本発明においては、水素発生量の2倍を超える水蒸気を、陽極の電極室および陰極の電極室から選択される少なくとも一方に供給し、投入した水蒸気のうち50%以下を電気分解している。本発明では、過剰量の水蒸気(例えば、水素発生量の2倍を超える水蒸気)を陽極の電極室および陰極の電極室から選択される少なくとも一方に供給することで、電気分解によって生じる水素や酸素の濃度を薄めることができる。これにより、水蒸気電解に用いる電解電圧を下げることができ、用いる電気エネルギーをより低減することができる。
【0026】
水蒸気電解の電解電圧は以下の式(2)で表される:
【数1】
【0027】
Ve:電解電圧
ΔG:水のギブズ生成エネルギー
F:ファラデー定数(=96485C/mol)
R:気体定数(=8.314J/molK)
T:作動温度
p(H,c):カソードで発生する水素の分圧
p(O,a):アノードで発生する酸素の分圧
p(HO,a):アノードの水蒸気の分圧
η:過電圧
【0028】
式(2)の第1項は600℃で+1.02Vである。従来の水蒸気電解では、供給される水蒸気はそのほぼ全量が電気分解される。例えば、アノードに導入する水蒸気を90%利用した場合、p(O,a)=0.82、p(HO,a)=0.18、p(H,c)=1(大気圧作動を仮定、単位はbar)となり、第2項は+0.06Vで、第1項と合わせると1.02Vである。これに過電圧が加わり、たとえば1.3V程度で作動する(図4)。一方、水素発生量の10倍の水蒸気を両電極室に送った場合を考えると、p(O,a)=0.053、p(HO,a)=0.947、p(H,c)=0.091となり、式(2)において、第2項は-0.14Vであり、第1項と合わせると0.89Vとなる。すなわち、従来の1.02Vよりも電解電圧が13%小さくなる。前段落と同様の過電圧(0.22V)を仮定すると作動時の電解電圧は1.1Vとなり、従来の1.3Vよりも15%電気エネルギーを節約できることになる(図5)。
【0029】
また、水素発生量の100倍の水蒸気を両電極室に送った場合を考えると、p(O,a)=0.0050、p(HO,a)=0.995、p(H,c)=0.0099となり、式(2)において、第2項は-0.27Vであり、第1項と合わせると0.75Vとなる。すなわち、従来の1.02Vよりも電解電圧が26%小さくなる。前段落と同様の過電圧(0.22V)を仮定すると作動時の電解電圧は0.97Vとなり、従来の1.3Vよりも25%電気エネルギーを節約できることになる(図6)。
【0030】
(陽極の電極室/陰極の電極室)
本実施形態の水蒸気電解装置は、水蒸気電解セルを有し、水蒸気電解セルでは、後述するイオン伝導体を挟む形で、陽極と陰極が設けられている。例えば、図7には、イオン伝導体がプロトン伝導体である場合と、酸化物イオン伝導体である場合の水蒸気電解セルの構成が示されている。図7に示されるように、イオン伝導体の両側にそれぞれ、陽極と陰極が配置されており、それぞれに、陽極の電極室と陰極の電極室が形成されている。
【0031】
図7(a)に示されるように、例えば、イオン伝導体がプロトン伝導体である場合、少なくとも陽極の電極室に水蒸気が供給され、水蒸気の電気分解で生じた水素は水蒸気と分離された形で、陰極側に発生する。また、水蒸気の電気分解で生じた酸素が陽極の電極室から回収されることになる。なお、この場合、水蒸気の少なくとも一部(原料用水蒸気)は陽極の電極室に供給されるが残部の水蒸気(希釈用水蒸気)は陽極の電極室に供給されてもよく、陰極の電極室に供給されてもよく、陽極の電極室および陰極の電極室に供給されてもよい。
【0032】
また、図7(b)に示されるように、例えば、イオン伝導体が酸化物イオン伝導体である場合、少なくとも陰極の電極室に水蒸気が供給され、水蒸気が電気化学的に水素と酸化物イオンに分かれる。そして、酸化物イオンが酸化されて陽極の電極室から酸素が発生する。なお、この場合、水蒸気の少なくとも一部(原料用水蒸気)は陰極の電極室に供給されるが残部の水蒸気(希釈用水蒸気)は陰極の電極室に供給されてもよく、陽極の電極室に供給されてもよく、陰極の電極室および陽極の電極室に供給されてもよい。
【0033】
本実施形態の水蒸気電解装置における水素極材料としては、例えば、Ni-YSZ(ニッケル-イットリア安定化ジルコニア)、Ni-SDC(ニッケル-セリア)、Ni-BZCY(ニッケルーバリウム・ジルコニウム・セリウム・イットリウム酸化物)、Ni-BZY(ニッケルーバリウム・ジルコニウム・イットリウム酸化物)等の材料が用いられる。
【0034】
本実施形態の水蒸気電解装置における酸素極材料としては、例えば、LSC(ランタンストロンチウムコバルタイト)、LSM(ランタンストロンチウムマンガナイト)、BLC(バリウムランタンコバルタイト)、SSC(サマリウムストロンチウムコバルタイト)、LSCF(ランタンストロンチウムコバルトフェライト)等の材料が用いられる。
【0035】
陽極の電極室および陰極の電極室には、それぞれ、水蒸気を供給するための供給口と、水蒸気の電気分解で生じた水素および/または酸素や、余剰の水蒸気を排出する排出口が設けられていることが好ましい。なお、排出口から回収された水蒸気は水として分離し、その水から水蒸気を再生成することで、再利用してもよい。
【0036】
水蒸気電解セルの形状は特に限定されるものではなく、平板型、円筒型、片端閉じ円
筒型、ハニカム型、プリーツ型、波型等とすることができる。また、本実施形態の水蒸気電解装置は、水蒸気電解セルを1つ有していればよいが、水蒸気電解セルを複数有していてもよい。
【0037】
(イオン伝導体)
実施形態の水蒸気電解装置においては、イオン伝導体は固体電解質であることが好ましく、固体酸化物であることがより好ましい。固体酸化物としては、例えば、ZrOに、Y、Sc、Nd、Sm、Gd、Yb等を固溶した安定化ジルコニア系の電解質、CeOに、Sm、Gd、Y等を固溶したセリア系の電解質、LaSrGaMgO等のLaGaOを母体に一部元素を置換したランタンガレード系の電解質、SrCeO、BaCeO、SrZrO、BaZrO、(Ba1ーxSr)(Zr1-yCe)O(0<x<1、0<y<1)やこれらを母体として一部の元素を置換した電解質等のプロトン伝導体、Biに、Y、Nd、WO、Gd等を固溶した酸化ビスマス系の電解質、LaZr、LaZr、SmZr、GdZr等のパイロクロア型酸化物系等が挙げられる。中でも、本実施形態では、イオン伝導体として酸化物イオン伝導体またはプロトン伝導体を用いることが好ましく、プロトン伝導体を用いることが特に好ましい。なお、酸化物イオン伝導体として安定化ジルコニア系の電解質等が挙げられる。
【0038】
<プロトン伝導体(プロトン伝導性電解質)>
一実施形態では、イオン伝導体としてプロトン伝導体(プロトン伝導性電解質)を用いることが好ましい。
【0039】
従来、水蒸気電解に最も典型的に使用されてきた電解質は、酸化物イオン伝導体のYSZである。その電気伝導度を典型的なプロトン伝導体であるBaCe0.90.13-δの電気伝導度とともに図8に示す。図8に示されるように900℃において、両者の電気伝導度はほぼ同程度であるが、600℃においては一桁に近い差が生じていることがわかる。これは、酸化物イオン伝導に比べてプロトン伝導の方が活性化エネルギーが小さいため、温度による電気伝導度の低下が小さいことによる。したがって、水蒸気電解を600℃程度の中温で作動させようとする場合には、電気伝導度の面でプロトン伝導体の選択が有利となる。600℃程度の作動温度を選択することにより電解装置を構成する材料の耐熱性の観点から、装置コストの低減につながる。また、上述したとおり運転温度を上回る温度の熱の利用を考える場合にも作動温度の低減が必要となるためイオン伝導体としてプロトン伝導体を選択することが好ましい。
【0040】
プロトン伝導体は、プロトン伝導性酸化物であることが好ましい。プロトン伝導性酸化物はプロトン(水素イオン、H)を伝導種とするイオン伝導性固体である(T. Takahshi, H. Iwahara, Revue de Chimie minerale, 17, 243-253 (1980)およびH. Iwahara, T. Esaka, H. Uchida, N. Maeda, Solid State Ionics, 3-4, 359-363 (1981))。600℃~900℃程度の高温において金属酸化物が格子中に水素を含有し、そのイオンであるプロトン(水素イオン、H)により電気伝導性を生じる。典型的な化学組成はSrCe0.95Yb0.053-δやBaZr0.90.13-δなどである。多くはペロブスカイト型構造の酸化物(ABO)である。Aサイトが2価のアルカリ土類金属、Bサイトが4価のCeかZrを含んだものが典型的である。構成カチオンの一部をより原子価の低いカチオンで置換することにより、電気的中性条件から酸素空孔を生じる。この酸素空孔に雰囲気中の水分子が入ることによって、以下のような欠陥平衡に従ってプロトンを生じる。
【数2】
【0041】
式(3)中、V** 、O× およびH はそれぞれ、酸素空孔、格子酸素およびプロトンをKroger-Vinkの表記法で表したものである。格子中でプロトンは格子酸素に水素結合した状態で存在し、格子酸素間をホッピング機構で移動することでプロトン伝導を生じる。
【0042】
伝導種であるプロトンは酸素空孔に雰囲気中の水分子が入ることによって生じるので、プロトン伝導体が作動するためには、反応ガス中に水蒸気が含まれていることが好ましい。
【0043】
(水蒸気発生部)
本実施形態の水蒸気電解装置は、陽極の電極室に水蒸気を供給する陽極側の水蒸気発生部および陰極の電極室に水蒸気を供給する陰極側の水蒸気発生部から選択される少なくとも一方を備えていてもよい。本実施形態において、水蒸気発生部は1つのみ設けられてもよく、2つ設けられていてもよい。なお、水蒸気電解装置が上述した水蒸気電解セルを複数備える場合、水蒸気発生部が3つ以上設けられていてもよい。
【0044】
一実施形態において、陽極側の水蒸気発生部および陰極側の水蒸気発生部は、それぞれボイラーであってもよい。そして、このボイラーにおいて、液体の水から水蒸気が発生する。なお、ボイラーでは、液体の水および所定の熱を外部から供給されて水蒸気を発生させる水蒸気の供給機構であることが好ましい。
【0045】
一実施形態では、陽極側の水蒸気発生部および陰極側の水蒸気発生部が、地熱または太陽熱によるエネルギーを利用して得られる水蒸気の供給機構であることが好ましい。すなわち、陽極側の水蒸気発生部および陰極側の水蒸気発生部で使用される熱エネルギーには、地熱または太陽熱によるエネルギーが用いられてもよい。例えば、図9では、地熱または太陽熱によるエネルギーは太矢印にて示されている。図9に示されているように、陽極側の水蒸気発生部および/または陰極側の水蒸気発生部に地熱または太陽熱によるエネルギーを供給することで、地熱または太陽熱によって水蒸気を発生させることができる。このように、本実施形態では、水蒸気電解に用いる水蒸気を生成するための熱エネルギーを、地熱または太陽熱によるエネルギーに置き換えることができ、化石燃料由来の熱エネルギーの使用量を減らすことができる。
【0046】
(熱交換部)
本実施形態の水蒸気電解装置は、陽極側の熱交換部および陰極側の熱交換部から選択される少なくとも一方を備えていてもよい。陽極側の熱交換部は、陽極の電極室に供給する水蒸気をガス-ガス熱交換により加熱し、陰極側の熱交換部は、陰極の電極室に供給する水蒸気をガス-ガス熱交換により加熱する。本実施形態において、熱交換部は1つのみ設けられてもよく、2つ設けられていてもよい。なお、水蒸気電解装置が上述した水蒸気電解セルを複数備える場合、熱交換部が3つ以上設けられていてもよい。
【0047】
熱交換部は、水蒸気を加熱する機構に加えて、水蒸気を冷却する機構を備えていてもよい。具体的に、陽極側の熱交換部は、陽極の電極室から排出される酸素および水蒸気から選択される少なくとも1種をガス-ガス熱交換により冷却する機構を備えていてもよく、また、陰極側の熱交換部は、陰極の電極室から排出される酸素および水蒸気から選択される少なくとも1種をガス-ガス熱交換により冷却する機構を備えていてもよい。
【0048】
(水蒸気過剰加熱部)
本実施形態の水蒸気電解装置は、陽極側の水蒸気過剰加熱部および陰極側の水蒸気過剰加熱部から選択される少なくとも一方を備えていてもよい。陽極側の水蒸気過剰加熱部は、陽極側の熱交換部で加熱された水蒸気をさらに加熱し、陽極の電極室にイオン伝導体の電気分解の作動温度よりも高い温度の水蒸気を供給し、陰極側の水蒸気過剰加熱部は、陰極側の熱交換部で加熱された水蒸気をさらに加熱し、陰極の電極室にイオン伝導体の電気分解の作動温度よりも高い温度の水蒸気を供給する。これにより、水蒸気電解セルでは。イオン伝導体の作動温度を維持しながら電気分解を吸熱反応で行うことが可能となり、電気エネルギーをより効果的に低減することができる。本実施形態において、水蒸気過剰加熱部は1つのみ設けられてもよく、2つ設けられていてもよい。なお、水蒸気電解装置が上述した水蒸気電解セルを複数備える場合、水蒸気過剰加熱部が3つ以上設けられていてもよい。
【0049】
具体的に、陽極側の水蒸気過剰加熱部および陰極側の水蒸気過剰加熱部では、水蒸気を300℃以上に加熱することが好ましく、400℃以上に加熱することがより好ましく、500℃以上に加熱することがさらに好ましい。なお、水蒸気の加熱温度の上限は特に限定されるものではないが、2000℃程度が限度である。
【0050】
図9に示されるように、陽極側の水蒸気過剰加熱部および陰極側の水蒸気過剰加熱部における熱エネルギーには、地熱または太陽熱によるエネルギーが用いられてもよい(点線矢印)。図9に示されているように、陽極側の水蒸気過剰加熱部および/または陰極側の水蒸気過剰加熱部に地熱または太陽熱によるエネルギーを供給することで、地熱または太陽熱によって水蒸気を過剰に加熱してもよい。このように、本実施形態では、水蒸気電解に用いる水蒸気を過剰加熱するための熱エネルギーを、地熱または太陽熱によるエネルギーに置き換えることができ、化石燃料由来の熱エネルギーの使用量を減らすことができる。
【0051】
(濃縮部)
本実施形態の水蒸気電解装置は、陽極側の濃縮部および陰極側の濃縮部から選択される少なくとも一方を備えていてもよい。陽極側の濃縮部は、陽極側の熱交換部で冷却された水素および酸素から選択される少なくとも1種を回収し、陽極側の熱交換部で冷却された水蒸気を液体の水として分離して陽極側の水蒸気発生部に返送し、陰極側の濃縮部は、陰極側の熱交換部で冷却された水素および酸素から選択される少なくとも1種を回収し、陽極側の熱交換部で冷却された水蒸気を液体の水として分離して陽極側の水蒸気発生部に返送する。このように、水蒸気の電気分解後に回収された水蒸気は濃縮部において液体の水とした後に、再度水蒸気とすることで、再利用することができる。なお、濃縮部において回収された水蒸気の一部は放散されてもよく、濃縮部で得られた水の一部は放流されてもよい。
【0052】
(水蒸気電解方法)
本実施形態は、上述した水蒸気電解装置を用いた水蒸気電解方法であって、水素発生量の2倍を超える水蒸気を、陽極の電極室および陰極の電極室から選択される少なくとも一方に供給し、投入した水蒸気のうち50%以下を電気分解する、水蒸気電解方法に関するものでもある。この場合、水素発生量の2倍を超える水蒸気を、陽極の電極室および陰極の電極室の両方に供給し、投入した水蒸気のうち50%以下を電解することがより好ましい。
【0053】
本実施形態の水蒸気電解方法では、供給された全水蒸気量のうち、50%以下が電気分解されることが好ましく、40%以下が電気分解されることがより好ましく、30%以下が電気分解されることがさらに好ましく、20%以下が電気分解されることが一層好ましく、10%以下が電気分解されることが特に好ましい。なお、供給された全水蒸気量のうち、1%程度が電気分解されるものであってもよい。
【0054】
本実施形態の水蒸気電解方法では、陽極の電極室および陰極の電極室から選択される少なくとも一方に供給する水蒸気の量は、水素発生量の2倍を超えるものであることが好ましく、3倍以上であることがより好ましく、5倍以上であることがさらに好ましく、10倍以上であることが特に好ましい。なお、陽極の電極室および陰極の電極室から選択される少なくとも一方に供給する水蒸気の量は、50倍以上であってもよく、100倍以上であってもよい。また、陽極の電極室および陰極の電極室から選択される少なくとも一方に供給する水蒸気の量の上限値は特に限定されるものではないが、例えば、100000倍以下であることが好ましい。
【0055】
本実施形態の水蒸気電解方法では、陽極側の電極室および/または陰極側の電極室に供給する水蒸気を加熱する工程をさらに含んでもよい。さらに、本実施形態の水蒸気電解方法では、陽極側の電極室および/または陰極側の電極室に供給する水蒸気を過剰加熱する工程をさらに含んでもよい。水蒸気を過剰加熱する工程では、水蒸気を300℃以上に加熱することが好ましく、400℃以上に加熱することがより好ましく、500℃以上に加熱することがさらに好ましい。なお、水蒸気の加熱温度の上限は特に限定されるものではないが、2000℃程度が限度である。
【0056】
本実施形態の水蒸気電解方法では、水から水蒸気を生成する工程や、水蒸気を加熱する工程、水蒸気を過剰加熱する工程において地熱または太陽熱によるエネルギーを用いてもよい。本実施形態の水蒸気電解方法では地熱または太陽熱によるエネルギーを用いることで、化石燃料由来の熱エネルギーの使用量を減らすことができる。
【0057】
本実施形態の水蒸気電解方法は、陽極側の電極室および/または陰極側の電極室から排出される水素、酸素および水蒸気から選択される少なくとも1種をガス-ガス熱交換により冷却し、液体の水を回収する工程をさらに有していてもよい。そして、得られた液体の水を再利用し、再び水蒸気として電気分解に用いることができる。このように、本実施形態の水蒸気電解方法では、水蒸気は装置内を循環し繰返し利用されてもよい。
【0058】
(用途)
水蒸気電解は水電解の手法の中では最も低い電解電圧が望める方法であり、上述した実施形態を適宜採用することで600℃以下での作動温度を想定することが可能である。0.5A/cm程度の電流密度において、1.4~1.3V程度の電解電圧が達成されれば、有力な水素製造法となる。
図1
図2
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図8
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図10