(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024142528
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】接点用金属材料、ならびにこれを用いた接点、スイッチおよびコネクタ
(51)【国際特許分類】
C25D 7/00 20060101AFI20241003BHJP
C25D 5/12 20060101ALI20241003BHJP
H01R 13/03 20060101ALI20241003BHJP
H01H 1/04 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
C25D7/00 H
C25D5/12
H01R13/03 D
H01H1/04 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023054687
(22)【出願日】2023-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】391045897
【氏名又は名称】古河AS株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114292
【弁理士】
【氏名又は名称】来間 清志
(74)【代理人】
【識別番号】100145713
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 竜太
(72)【発明者】
【氏名】鳥居 義胤
【テーマコード(参考)】
4K024
5G050
【Fターム(参考)】
4K024AA10
4K024AB01
4K024AB02
4K024BA09
4K024BB10
4K024CA01
4K024CA04
4K024CA06
4K024DA02
4K024DA03
4K024DA04
4K024GA03
5G050AA01
5G050AA13
5G050AA29
5G050BA06
5G050CA01
5G050EA09
(57)【要約】
【課題】優れた耐摩耗性を有する接点用金属材料、ならびにこれを用いた接点、スイッチおよびコネクタを提供する。
【解決手段】接点用金属材料は、導電性基材と、前記導電性基材の表面の少なくとも一部に設けられる銀を含む銀含有層とを備え、前記接点用金属材料の断面において、前記銀含有層の平均KAM値は0.20°以上2.00°以下であり、前記銀含有層の表面から前記銀含有層厚さ5分の1までの部分のマルテンス硬さHM1に対する前記銀含有層の表面側の前記銀含有層厚さ5分の1から前記銀含有層厚さ5分の4までの部分のマルテンス硬さHM2の比(HM2/HM1)は、1.00超2.50以下である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性基材と、
前記導電性基材の表面の少なくとも一部に設けられる銀を含む銀含有層と
を備える接点用金属材料であって、
前記接点用金属材料の断面において、前記銀含有層の平均KAM値は0.20°以上2.00°以下であり、
前記銀含有層の表面から前記銀含有層厚さ5分の1までの部分のマルテンス硬さHM1に対する前記銀含有層の表面側の前記銀含有層厚さ5分の1から前記銀含有層厚さ5分の4までの部分のマルテンス硬さHM2の比(HM2/HM1)は、1.00超2.50以下である、接点用金属材料。
【請求項2】
前記銀含有層の表面から前記銀含有層厚さ5分の1までの部分の厚さ方向の弾性率は、1.0GPa以上60.0GPa未満である、請求項1に記載の接点用金属材料。
【請求項3】
前記銀含有層の平均厚さは0.5μm以上5.0μm以下である、請求項1に記載の接点用金属材料。
【請求項4】
前記銀含有層は、銀を99.0質量%以上含有する、請求項1に記載の接点用金属材料。
【請求項5】
前記導電性基材と前記銀含有層との間に設けられ、銅、銅合金、ニッケルまたはニッケル合金からなる、1つ以上の中間層をさらに備える、請求項1に記載の接点用金属材料。
【請求項6】
前記中間層の平均厚さは0.01μm以上3.00μm以下である、請求項5に記載の接点用金属材料。
【請求項7】
前記導電性基材は、純銅および銅合金を含む銅系材料から構成される、請求項1に記載の接点用金属材料。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載の接点用金属材料を用いて作製された接点。
【請求項9】
請求項1~7のいずれか1項に記載の接点用金属材料を用いて作製されたスイッチ。
【請求項10】
請求項1~7のいずれか1項に記載の接点用金属材料を用いて作製されたコネクタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、接点用金属材料、ならびにこれを用いた接点、スイッチおよびコネクタに関する。
【背景技術】
【0002】
民生用および車載用に用いられる端子と電子機器との接続部品である接点やコネクタは、近年求められている省燃費化を達成するため、車両駆動方式の電動化が進行している。例えば、電池‐インバータ‐モータ間の電線の通電量が飛躍的に増加している。そのため、通電時の発熱が問題となっている。
【0003】
このような問題に対して、導電率の高い純銅、希薄銅合金、コルソン合金などの基材の表面にNiの下地めっきを施し、さらにその上にAgめっきまたはAg合金めっきを施した材料が使用されている。
【0004】
しかしながら、Agは凝着摩耗しやすい金属種であるため、摺動時に削れやすく、さらには摩耗によって接触抵抗が上昇してしまうという欠点がある。
【0005】
例えば、特許文献1には、シアン化銀カリウムまたはシアン化銀と、シアン化カリウムまたはシアン化ナトリウムと、ベンゾチアゾール類またはその誘導体とを含む水溶液からなる銀めっき液中において電気めっきを行うことによって、素材上に銀からなる表層を形成して銀めっき材を製造する方法が記載されている。この銀めっき材の製造方法では、銀めっき液中のフリーシアンの濃度をA(g/L)、銀めっき液中のベンゾチアゾール類またはその誘導体のベンゾチアゾール分の濃度をB(g/L)、銀めっき液の温度をC(℃)、電気めっきの電流密度をD(A/dm2)とすると、(BC/A)2/Dが10(℃2・dm2/A)以上になるように電気めっきを行う。しかしながら、特許文献1の製造方法で得られた銀めっき材では、耐摩耗性は不十分である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本開示の目的は、優れた耐摩耗性を有する接点用金属材料、ならびにこれを用いた接点、スイッチおよびコネクタを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
[1] 導電性基材と、前記導電性基材の表面の少なくとも一部に設けられる銀を含む銀含有層とを備える接点用金属材料であって、前記接点用金属材料の断面において、前記銀含有層の平均KAM値は0.20°以上2.00°以下であり、前記銀含有層の表面から前記銀含有層厚さ5分の1までの部分のマルテンス硬さHM1に対する前記銀含有層の表面側の前記銀含有層厚さ5分の1から前記銀含有層厚さ5分の4までの部分のマルテンス硬さHM2の比(HM2/HM1)は、1.00超2.50以下である、接点用金属材料。
[2] 前記銀含有層の表面から前記銀含有層厚さ5分の1までの部分の厚さ方向の弾性率は、1.0GPa以上60.0GPa未満である、上記[1]に記載の接点用金属材料。
[3] 前記銀含有層の平均厚さは0.5μm以上5.0μm以下である、上記[1]または[2]に記載の接点用金属材料。
[4] 前記銀含有層は、銀を99.0質量%以上含有する、上記[1]~[3]のいずれか1つに記載の接点用金属材料。
[5] 前記導電性基材と前記銀含有層との間に設けられ、銅、銅合金、ニッケルまたはニッケル合金からなる、1つ以上の中間層をさらに備える、上記[1]~[4]のいずれか1つに記載の接点用金属材料。
[6] 前記中間層の平均厚さは0.01μm以上3.00μm以下である、上記[5]に記載の接点用金属材料。
[7] 前記導電性基材は、純銅および銅合金を含む銅系材料から構成される、上記[1]~[6]のいずれか1つに記載の接点用金属材料。
[8] 上記[1]~[7]のいずれか1つに記載の接点用金属材料を用いて作製された接点。
[9] 上記[1]~[7]のいずれか1つに記載の接点用金属材料を用いて作製されたスイッチ。
[10] 上記[1]~[7]のいずれか1つに記載の接点用金属材料を用いて作製されたコネクタ。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、優れた耐摩耗性を有する接点用金属材料、ならびにこれを用いた接点、スイッチおよびコネクタを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、実施形態の接点用金属材料の一例を示す断面図である。
【
図2】
図2は、実施形態の接点用金属材料の他例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、実施形態に基づき詳細に説明する。
【0012】
本発明者らは、接点用金属材料の耐摩耗性を向上することについて鋭意研究を重ねた結果、以下のことを見出した。
【0013】
特許文献1の製造方法で得られた銀めっき材における銀めっき層の表面硬さを制御しても、特許文献1で規定している硬さが塑性変形領域における指標であることから、銀めっき層の耐摩耗性は不十分である。端子の接点部などにおける摺動摩耗現象は、塑性変形領域ではなく、弾性変形領域における現象が考慮される必要がある。また、特許文献1では、塑性変形領域の指標である硬さに着目しているが、弾性変形領域の指標は考慮していない。
【0014】
そのため、本発明者らは、弾性変形領域の指標であるマルテンス硬さおよび弾性率を勘案することによって、端子の接点部などにおける摺動摩耗現象が、接点用金属材料の表層である銀含有層の表面に与える影響を明らかにした。その結果、銀含有層における平均KAM値、マルテンス硬さおよび厚さ方向の弾性率の制御を行うことで、耐摩耗性が向上することを見出した。本開示は、かかる知見に基づいて完成させるに至った。
【0015】
実施形態の接点用金属材料は、導電性基材と、導電性基材の表面の少なくとも一部に設けられる銀を含む銀含有層とを備え、接点用金属材料の断面において、銀含有層の平均KAM値は0.20°以上2.00°以下であり、銀含有層の表面から銀含有層厚さ5分の1までの部分のマルテンス硬さHM1に対する銀含有層の表面側の銀含有層厚さ5分の1から銀含有層厚さ5分の4までの部分のマルテンス硬さHM2の比(HM2/HM1)は、1.00超2.50以下である。
【0016】
図1は、実施形態の接点用金属材料の一例を示す断面図である。
図1に示すように、接点用金属材料1は、導電性基材10と銀含有層20とを備える。
【0017】
接点用金属材料1を構成する導電性基材10は、金属から構成され、導電性を有し、圧延加工で得られる圧延材である。導電性基材10としては、純銅および銅合金を含む銅系材料、純鉄および鉄合金を含む鉄系材料、純アルミニウムおよびアルミニウム合金を含むアルミニウム系材料などが挙げられる。
【0018】
導電性基材10の圧延加工性および接点用金属材料1の高導電性などの観点から、導電性基材10は、純銅および銅合金を含む銅系材料から構成されることが好ましい。なかでも、純銅、Cu-Zn系、Cu-Sn-P系、Cu-Ni-Si系、Cu-Sn-Ni系、Cu-Cr-Mg系またはCu-Ni-Si-Zn-Sn-Mg系の銅合金であることが好ましい。
【0019】
導電性基材10の電気伝導率は、好ましくは20%IACS以上、より好ましくは30%IACS以上である。導電性基材10の電気伝導率が20%IACS以上であると、接点用金属材料1は良好な導電性を有する。
【0020】
導電性基材10の電気伝導率(IACS:International Annealed Copper Standard)は、四端子法を用いて、20℃±1℃に制御された恒温槽中で測定することにより求めることができる。
【0021】
導電性基材10の形状は、接点用金属材料1の用途に応じて適宜選択してもよいが、板状または条状であることが好ましい。
【0022】
接点用金属材料1を構成する銀含有層20は、導電性基材10の表面の少なくとも一部に設けられ、銀を含有する。接点用金属材料1の接触抵抗値を低く保つ観点から、導電性基材10の表面を覆う銀含有層20は、銀を99.0質量%以上含有することが好ましい。また、接点用金属材料1が優れた耐摩耗性を有する観点から、銀含有層20はめっきで形成される、すなわち銀含有層20はめっき皮膜であることが好ましい。
【0023】
また、
図1に示す接点用金属材料1の断面において、銀含有層20の平均KAM値は0.20°以上2.00°以下である。接点用金属材料1の断面とは、導電性基材10の圧延方向に平行な断面である。
【0024】
接点用金属材料1の断面における銀含有層20の平均KAM値が0.20°以上であると、銀含有層20中に残存する歪量を高く維持でき、銀含有層20の硬度が高くなるため、接点用金属材料1(銀含有層20)の耐摩耗性を向上できる。また、銀含有層20の平均KAM値が2.00°以下であると、銀含有層20中の歪量が過剰になることによる、曲げ加工性の低下を抑制できる。このような観点から、接点用金属材料1の断面における銀含有層20の平均KAM値について、下限値は、0.20°以上、好ましくは0.50°以上であり、上限値は、2.00°以下、好ましくは1.00°以下である。
【0025】
測定点iにおけるKAM(Kernel Average Misorientation)値は、ある測定点iと測定点iに隣接する測定点jとの方位差の平均値であり、銀含有層20内の歪量を反映した値である。KAM値は以下の式(1)で表すことができる。
【0026】
【0027】
αij:測定点iと測定点jの間の結晶方位差
n:測定点iに隣接する測定点jの数
【0028】
KAM値は、視野内全ての測定点について算出され、それらの平均値をその視野の代表値としており、歪の大きい箇所、結晶粒界の近傍で大きくなる傾向がある。
【0029】
KAM値は、高分解能走査型分析電子顕微鏡(日本電子株式会社製、JSM-7001FA)に付属するEBSD検出器(TSLソリューションズ製、OIM5.0 HIKARI)を用いて連続して測定した結晶方位データから解析ソフト(TSLソリューションズ製、OIM Analysis)を用いて算出した結晶方位解析データから得ることができる。測定対象は、導電性基材10の圧延方向に平行な接点用金属材料1の断面をクロスセクションポリッシャー(日本電子製)で鏡面仕上げされた表面における銀含有層20の表面であり、測定倍率は30000倍である。測定間隔50nm以下のステップで測定し、解析ソフトにより解析されたCI値が0.1以下である測定点を除外し(ノイズ除去)、隣接するピクセル間の方位差が5.00°以上である境界を結晶粒界とみなし、KAM値を得る。この測定を複数回(同一サンプルで異なる複数の測定領域)行い、その平均値を算出して、平均KAM値を得ることができる。
【0030】
また、本発明者らは、銀含有層20の表面から銀含有層厚さ5分の1までの部分のマルテンス硬さHM1に対する銀含有層20の表面側の銀含有層厚さ5分の1から銀含有層厚さ5分の4までの部分のマルテンス硬さHM2の比(HM2/HM1)が下記範囲内であると、接点用金属材料1の耐摩耗性を向上することに対して有効であることを見出した。接点用金属材料1の表面に設けられる銀含有層20が所定の比(HM2/HM1)を有すると、銀含有層20における導電性基材10側の部分において、結晶粒が微細であることから粒界内の歪量を多くできると共に、導電性基材10や後述する中間層30と銀含有層20との密着力の向上に寄与できるため、接点用金属材料1の耐摩耗性を高く保つことができる。
【0031】
具体的には、銀含有層20の上記比(HM2/HM1)は1.00超2.50以下である。上記比(HM2/HM1)が1.00超であると、銀含有層20は、摺動中の接点部において、低抵抗を維持するために必要な接触面積を維持しながら、摺動性を高く保つことができるため、摩耗を抑制することができる。また、上記比(HM2/HM1)が2.50以下であると、銀含有層20中の歪量が過剰になることによる、曲げ加工性の低下を抑制できる。このような観点から、銀含有層20の上記比(HM2/HM1)について、下限値は、1.00超、好ましくは1.10以上であり、上限値は、2.50以下、好ましくは2.00以下である。
【0032】
銀含有層20のマルテンス硬さHM1およびマルテンス硬さHM2は、ISO14577-1およびJIS Z2255:2003に準拠し、超微小押し込み硬さ試験機(エリオニクス、ENT-2100)を用いて、試験面に圧子を当ててくぼみをつけた試験力と、押圧したくぼみの表面積から求めることができる。
【0033】
また、本発明者らは、銀含有層20の表面から銀含有層厚さ5分の1までの部分の厚さ方向の弾性率(以下、厚さ方向の弾性率を単に弾性率ともいう)が下記範囲内であると、接点用金属材料1の耐摩耗性を向上することに対してさらに有効であることを見出した。接点用金属材料1の表面に設けられる銀含有層20が所定の弾性率を有すると、銀含有層20は、摺動中の接点部において、低抵抗を維持するために必要な接触面積を維持しながら、摺動性をさらに高く保つことができるため、摩耗をさらに抑制することができる。
【0034】
具体的には、銀含有層20の表面から銀含有層厚さ5分の1までの部分の厚さ方向の弾性率は、1.0GPa以上であることが好ましく、3.0GPa以上であることがより好ましい。銀含有層20の表面側、すなわち接点用金属材料1の表面側において、銀含有層20の表面から銀含有層20の厚さの5分の1までの部分の弾性率が1.0GPa以上であると、銀含有層20中の歪量を高く維持でき、銀含有層20の硬度が高くなるため、接点用金属材料1の耐摩耗性を向上できる。また、銀含有層20の表面から銀含有層20の厚さの5分の1までの部分の弾性率は、60.0GPa未満であることが好ましく、10.0GPa以下であることがより好ましく、7.0GPa以下であることがさらに好ましい。上記弾性率が60.0GPa未満であると、銀含有層20中の歪量が過剰になることによる、曲げ加工性の低下を抑制できる。
【0035】
銀含有層20の表面から銀含有層厚さ5分の1までの部分の厚さ方向の弾性率EITは、ISO14577-1 2002-10-01 Part1の試験方法に準拠し、超微小押し込み硬さ試験機(エリオニクス、ENT-2100)を用いて、銀含有層20の表面から銀含有層20の厚さの5分の1に相当する押し込み深さにおける弾性率(押し込み弾性率)(GPa)を試験機で測定し、以下の式(2)および式(3)から算出できる。
【0036】
【0037】
【0038】
νs:試験片のポアソン比
νi:圧子のポアソン比
Er:押し込み接点による換算弾性率
Ei:圧子の弾性率
C:接触のコンプライアンス
Ap:投影接触面積
【0039】
また、銀含有層20は、Zn、Cu、Ni、Se、SbおよびCoからなる群より選択される1種以上の元素(以下、第2元素ともいう)を含んでもよい。銀含有層20中に第2元素を共存させることで、耐摩耗性を向上できる。特に、第2元素の添加による効率的な耐摩耗性向上の観点から、銀含有層20は、Zn、Cu、Ni、Se、SbおよびCoからなる群より選択される1種以上の元素を合計で0.1at%以上含むことが好ましい。また、接点用金属材料1の電気接続性向上および材料コスト抑制の観点から、銀含有層20は、Zn、Cu、Ni、Se、SbおよびCoからなる群より選択される1種以上の元素を合計で15.0at%未満含むことが好ましい。
【0040】
銀含有層20の平均厚さの下限値は、好ましくは0.5μm以上、より好ましくは2.0μm以上、さらに好ましくは3.0μm以上である。銀含有層20の平均厚さの上限値は、好ましくは5.0μm以下である。銀含有層20の平均厚さの下限値が0.5μm以上であると、優れた接点用金属材料1の耐摩耗性を長期間に亘って維持できる。銀含有層20の平均厚さの上限値が5.0μm以下であると、材料コストを抑制できる。
【0041】
図2は、実施形態の接点用金属材料の他例を示す断面図である。
図2に示す接点用金属材料2において、中間層30の構成が追加されること以外は、
図1に示す接点用金属材料1の構成と基本的に同じである。
【0042】
図2に示すように、接点用金属材料2は、導電性基材10と銀含有層20との間に設けられる1つ以上の中間層30をさらに備える。中間層30は、銅、銅合金、ニッケルまたはニッケル合金からなる。ここでは、接点用金属材料2が1つの中間層30を備える例を示しているが、中間層30の層数は複数でもよい。
【0043】
導電性基材10の表面と銀含有層20との間に中間層30が設けられると、導電性基材10を構成する元素の銀含有層20への熱拡散の抑制、および導電性基材10と銀含有層20との密着性を向上できる。このような観点から、銅合金としては、Cu-Sn系またはCu-Co系であることが好ましい。また、ニッケル合金としては、Ni-P系であることが好ましい。
【0044】
中間層30の平均厚さの下限値は、好ましくは0.01μm以上、より好ましくは0.10μm以上、さらに好ましくは0.30μm以上である。中間層30の平均厚さの上限値は、好ましくは3.00μm以下、より好ましくは2.00μm以下、さらに好ましくは1.00μm以下である。中間層30の平均厚さの下限値が0.01μm以上であると、上記の熱拡散抑制および密着性をさらに向上できる。中間層30の平均厚さの上限値が3.00μm以下であると、曲げ加工性を向上できる。接点用金属材料を端子で使用する場合、R/t≧1の曲げ加工性が要求される(曲げ半径の割合:R/t)。
【0045】
また、上記の接点用金属材料1、2は、表層である銀含有層20の直下に、不図示の銅層をさらに備えてもよい。不図示の銅層は、純銅または銅合金から構成される。導電性基材10の厚さに比べて、不図示の銅層の厚さは大幅に小さい。接点用金属材料1、2が銀含有層20の直下に不図示の銅層をさらに備えると、密着性および曲げ加工性をさらに向上できる。
【0046】
上記のように、接点用金属材料1、2は、優れた耐摩耗性を有するため、接点用金属材料1、2は、接点、スイッチ、コネクタに好適に用いることができる。こうした接点は、接点用金属材料1、2を用いて作製された接点であり、スイッチは、接点用金属材料1、2を用いて作製されたスイッチであり、コネクタは、接点用金属材料1、2を用いて作製されたコネクタである。
【0047】
次に、接点用金属材料1、2の製造方法について説明する。
【0048】
まず、導電性基材の表面の少なくとも一部に、下記条件のめっき法によって銀含有層を形成する。こうして、接点用金属材料1を製造できる。
【0049】
また、導電性基材の表面の少なくとも一部に、めっき法などによって中間層を形成する。続いて、中間層の表面に、下記条件のめっき法によって銀含有層を形成する。こうして、接点用金属材料2を製造できる。
【0050】
銀含有層のめっき条件について、電流密度を10A/dm2未満、浴温(液温)を15℃以上25℃未満にする。このようなめっき条件にすることで、銀含有層の平均KAM値および比(HM2/HM1)をそれぞれ上記範囲内に制御でき、さらには上記弾性率についても上記範囲内に制御できる。
【0051】
以上説明した実施形態によれば、銀含有層における平均KAM値の制御および比(HM2/HM1)の制御を行うことによって、優れた耐摩耗性を有する接点用金属材料を得ることができる。
【0052】
以上、実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本開示の概念および特許請求の範囲に含まれるあらゆる態様を含み、本開示の範囲内で種々に改変することができる。
【実施例0053】
次に、実施例および比較例について説明するが、本開示はこれら実施例に限定されるものではない。
【0054】
(実施例1)
導電性基材(純銅)について、電解脱脂を行った後、酸洗浄を行った。また、銀含有層を形成するための電解めっき液として、50g/Lのシアン化銀、100g/Lのシアン化カリウムおよび12g/Lの三塩化アンチモンを含む水溶液を調製した。
【0055】
内径120mmの筒状のめっき電解槽に銀含有層を形成するための電解めっき液を3L入れ、導電性基材を電解めっき液に浸漬した後、浴温20℃、8A/dm2の電流密度で通電することで、銀含有層を導電性基材の表面に形成した。こうして、接点用金属材料を製造した。
【0056】
(実施例2~3)
浴温および電流密度を表1に示す値に変更した以外は実施例1と同様にして、接点用金属材料を製造した。
【0057】
(実施例4)
銀含有層を形成するための電解めっき液として、50g/Lのシアン化銀、100g/Lのシアン化カリウムおよび10g/Lの塩化亜鉛を含む水溶液を用い、電流密度を表1に示す値に変更した以外は実施例1と同様にして、接点用金属材料を製造した。
【0058】
(実施例5)
導電性基材(純銅)について、電解脱脂を行った後、酸洗浄を行った。また、中間層を形成するための電解めっき液として、500g/Lの硫酸ニッケル6水和物、30g/Lの塩化ニッケルおよび30g/Lの硫酸を含む水溶液を調整した。また、銀含有層を形成するための電解めっき液として、50g/Lのシアン化銀、100g/Lのシアン化カリウムおよび12g/Lの塩化銅2水和物を含む水溶液を調製した。
【0059】
内径120mmの筒状のめっき電解槽に中間層を形成するための電解めっき液を3L入れ、導電性基材を電解めっき液に浸漬した後、浴温55℃、15A/dm2の電流密度で通電することで、純ニッケルからなる中間層を導電性基材の表面に形成した。続いて、内径120mmの筒状のめっき電解槽に銀含有層を形成するための電解めっき液を3L入れ、中間層を備える導電性基材を電解めっき液に浸漬した後、浴温18℃、8A/dm2の電流密度で通電することで、銀含有層を中間層の表面に形成した。こうして、接点用金属材料を製造した。
【0060】
(実施例6)
導電性基材(純銅)について、電解脱脂を行った後、酸洗浄を行った。また、中間層を形成するための電解めっき液として、500g/Lの硫酸ニッケル6水和物、30g/Lの塩化ニッケルおよび30g/Lの硫酸を含む水溶液を調整した。また、銀含有層を形成するための電解めっき液として、50g/Lのシアン化銀、100g/Lのシアン化カリウムおよび12g/Lの三塩化アンチモンを含む水溶液を調製した。
【0061】
内径120mmの筒状のめっき電解槽に中間層を形成するための電解めっき液を3L入れ、導電性基材を電解めっき液に浸漬した後、浴温55℃、15A/dm2の電流密度で通電することで、純ニッケルからなる中間層を導電性基材の表面に形成した。続いて、内径120mmの筒状のめっき電解槽に銀含有層を形成するための電解めっき液を3L入れ、中間層を備える導電性基材を電解めっき液に浸漬した後、浴温18℃、7A/dm2の電流密度で通電することで、銀含有層を中間層の表面に形成した。こうして、接点用金属材料を製造した。
【0062】
(実施例7)
導電性基材(純銅)について、電解脱脂を行った後、酸洗浄を行った。また、中間層を形成するための電解めっき液として、180g/Lの硫酸銅および80g/Lの硫酸を含む水溶液を調整した。また、銀含有層を形成するための電解めっき液として、50g/Lのシアン化銀、100g/Lのシアン化カリウムおよび12g/Lの三塩化アンチモンを含む水溶液を調製した。
【0063】
内径120mmの筒状のめっき電解槽に中間層を形成するための電解めっき液を3L入れ、導電性基材を電解めっき液に浸漬した後、浴温40℃、5A/dm2の電流密度で通電することで、純銅からなる中間層を導電性基材の表面に形成した。続いて、内径120mmの筒状のめっき電解槽に銀含有層を形成するための電解めっき液を3L入れ、中間層を備える導電性基材を電解めっき液に浸漬した後、浴温18℃、6A/dm2の電流密度で通電することで、銀含有層を中間層の表面に形成した。こうして、接点用金属材料を製造した。
【0064】
(実施例8)
導電性基材(純銅)について、電解脱脂を行った後、酸洗浄を行った。また、中間層を形成するための電解めっき液として、500g/Lの硫酸ニッケル6水和物、30g/Lの塩化ニッケル6水和物、30g/Lのホウ酸および16g/Lの亜リン酸を含む水溶液を調整した。また、銀含有層を形成するための電解めっき液として、50g/Lのシアン化銀、100g/Lのシアン化カリウムおよび12g/Lの三塩化アンチモンを含む水溶液を調製した。
【0065】
内径120mmの筒状のめっき電解槽に中間層を形成するための電解めっき液を3L入れ、導電性基材を電解めっき液に浸漬した後、浴温55℃、10A/dm2の電流密度で通電することで、ニッケル合金からなる中間層を導電性基材の表面に形成した。続いて、内径120mmの筒状のめっき電解槽に銀含有層を形成するための電解めっき液を3L入れ、中間層を備える導電性基材を電解めっき液に浸漬した後、浴温18℃、8A/dm2の電流密度で通電することで、銀含有層を中間層の表面に形成した。こうして、接点用金属材料を製造した。
【0066】
(実施例9)
導電性基材(純銅)について、電解脱脂を行った後、酸洗浄を行った。また、中間層を形成するための電解めっき液として、500g/Lの硫酸ニッケル6水和物、30g/Lの塩化ニッケルおよび30g/Lの硫酸を含む水溶液を調整した。また、銀含有層を形成するための電解めっき液として、50g/Lのシアン化銀、100g/Lのシアン化カリウムおよび12g/Lの塩化ニッケルを含む水溶液を調製した。
【0067】
内径120mmの筒状のめっき電解槽に中間層を形成するための電解めっき液を3L入れ、導電性基材を電解めっき液に浸漬した後、浴温55℃、15A/dm2の電流密度で通電することで、純ニッケルからなる中間層を導電性基材の表面に形成した。続いて、内径120mmの筒状のめっき電解槽に銀含有層を形成するための電解めっき液を3L入れ、中間層を備える導電性基材を電解めっき液に浸漬した後、浴温20℃、7A/dm2の電流密度で通電することで、銀含有層を中間層の表面に形成した。こうして、接点用金属材料を製造した。
【0068】
(実施例10)
導電性基材(純銅)について、電解脱脂を行った後、酸洗浄を行った。また、中間層を形成するための電解めっき液として、500g/Lの硫酸ニッケル6水和物、30g/Lの塩化ニッケルおよび30g/Lの硫酸を含む水溶液を調整した。また、銀含有層を形成するための電解めっき液として、50g/Lのシアン化銀、100g/Lのシアン化カリウムおよび10g/Lの塩化コバルトを含む水溶液を調製した。
【0069】
内径120mmの筒状のめっき電解槽に中間層を形成するための電解めっき液を3L入れ、導電性基材を電解めっき液に浸漬した後、浴温55℃、15A/dm2の電流密度で通電することで、純ニッケルからなる中間層を導電性基材の表面に形成した。続いて、内径120mmの筒状のめっき電解槽に銀含有層を形成するための電解めっき液を3L入れ、中間層を備える導電性基材を電解めっき液に浸漬した後、浴温20℃、9A/dm2の電流密度で通電することで、銀含有層を中間層の表面に形成した。こうして、接点用金属材料を製造した。
【0070】
(実施例11)
導電性基材として銅合金からなる導電性基材(古河電工製、EFTEC-550T、80%IACS)を用いたこと以外は実施例1と同様にして、接点用金属材料を製造した。
【0071】
(実施例12)
導電性基材(古河電工製、EFTEC-550T、80%IACS)について、電解脱脂を行った後、酸洗浄を行った。また、中間層を形成するための電解めっき液として、500g/Lの硫酸ニッケル6水和物、30g/Lの塩化ニッケルおよび30g/Lの硫酸を含む水溶液を調整した。また、銀含有層を形成するための電解めっき液として、50g/Lのシアン化銀、100g/Lのシアン化カリウムおよび2.2mg/Lのセレノシアン酸カリウムを含む水溶液を調製した。
【0072】
内径120mmの筒状のめっき電解槽に中間層を形成するための電解めっき液を3L入れ、導電性基材を電解めっき液に浸漬した後、浴温55℃、15A/dm2の電流密度で通電することで、純ニッケルからなる中間層を導電性基材の表面に形成した。続いて、内径120mmの筒状のめっき電解槽に銀含有層を形成するための電解めっき液を3L入れ、中間層を備える導電性基材を電解めっき液に浸漬した後、浴温20℃、8A/dm2の電流密度で通電することで、銀含有層を中間層の表面に形成した。こうして、接点用金属材料を製造した。
【0073】
(実施例13)
導電性基材(古河電工製、EFTEC-550T、80%IACS)について、電解脱脂を行った後、酸洗浄を行った。また、中間層を形成するための電解めっき液として、500g/Lの硫酸ニッケル6水和物、30g/Lの塩化ニッケルおよび30g/Lの硫酸を含む水溶液を調整した。また、銀含有層を形成するための電解めっき液として、50g/Lのシアン化銀、100g/Lのシアン化カリウムおよび12g/Lの三塩化アンチモンを含む水溶液を調製した。
【0074】
内径120mmの筒状のめっき電解槽に中間層を形成するための電解めっき液を3L入れ、導電性基材を電解めっき液に浸漬した後、浴温55℃、15A/dm2の電流密度で通電することで、純ニッケルからなる中間層を導電性基材の表面に形成した。続いて、内径120mmの筒状のめっき電解槽に銀含有層を形成するための電解めっき液を3L入れ、中間層を備える導電性基材を電解めっき液に浸漬した後、浴温20℃、8A/dm2の電流密度で通電することで、銀含有層を中間層の表面に形成した。こうして、接点用金属材料を製造した。
【0075】
(比較例1~4)
浴温および電流密度を表1に示す値に変更した以外は実施例1と同様にして、接点用金属材料を製造した。
【0076】
(比較例5)
導電性基材(純銅)について、電解脱脂を行った後、酸洗浄を行った。また、中間層を形成するための電解めっき液として、500g/Lの硫酸ニッケル6水和物、30g/Lの塩化ニッケルおよび30g/Lの硫酸を含む水溶液を調整した。また、銀含有層を形成するための電解めっき液として、50g/Lのシアン化銀、100g/Lのシアン化カリウムおよび2.2mg/Lのセレノシアン酸カリウムを含む水溶液を調製した。
【0077】
内径120mmの筒状のめっき電解槽に中間層を形成するための電解めっき液を3L入れ、導電性基材を電解めっき液に浸漬した後、浴温55℃、15A/dm2の電流密度で通電することで、純ニッケルからなる中間層を導電性基材の表面に形成した。続いて、内径120mmの筒状のめっき電解槽に銀含有層を形成するための電解めっき液を3L入れ、中間層を備える導電性基材を電解めっき液に浸漬した後、浴温25℃、10A/dm2の電流密度で通電することで、銀含有層を中間層の表面に形成した。こうして、接点用金属材料を製造した。
【0078】
(比較例6)
導電性基材(純銅)について、電解脱脂を行った後、酸洗浄を行った。また、中間層を形成するための電解めっき液として、500g/Lの硫酸ニッケル6水和物、30g/Lの塩化ニッケルおよび30g/Lの硫酸を含む水溶液を調整した。また、銀含有層を形成するための電解めっき液として、50g/Lのシアン化銀、100g/Lのシアン化カリウムおよび12g/Lの三塩化アンチモンを含む水溶液を調製した。
【0079】
内径120mmの筒状のめっき電解槽に中間層を形成するための電解めっき液を3L入れ、導電性基材を電解めっき液に浸漬した後、浴温55℃、15A/dm2の電流密度で通電することで、純ニッケルからなる中間層を導電性基材の表面に形成した。続いて、内径120mmの筒状のめっき電解槽に銀含有層を形成するための電解めっき液を3L入れ、中間層を備える導電性基材を電解めっき液に浸漬した後、浴温30℃、8A/dm2の電流密度で通電することで、銀含有層を中間層の表面に形成した。こうして、接点用金属材料を製造した。
【0080】
(比較例7)
導電性基材として銅合金からなる導電性基材(古河電工製、EFTEC-550T、80%IACS)を用い、浴温および電流密度を表1に示す値に変更した以外は実施例1と同様にして、接点用金属材料を製造した。
【0081】
(比較例8)
導電性基材(古河電工製、EFTEC-550T、80%IACS)について、電解脱脂を行った後、酸洗浄を行った。また、中間層を形成するための電解めっき液として、500g/Lの硫酸ニッケル6水和物、30g/Lの塩化ニッケルおよび30g/Lの硫酸を含む水溶液を調整した。また、銀含有層を形成するための電解めっき液として、50g/Lのシアン化銀、100g/Lのシアン化カリウムおよび2.2mg/Lのセレノシアン酸カリウムを含む水溶液を調製した。
【0082】
内径120mmの筒状のめっき電解槽に中間層を形成するための電解めっき液を3L入れ、導電性基材を電解めっき液に浸漬した後、浴温55℃、15A/dm2の電流密度で通電することで、純ニッケルからなる中間層を導電性基材の表面に形成した。続いて、内径120mmの筒状のめっき電解槽に銀含有層を形成するための電解めっき液を3L入れ、中間層を備える導電性基材を電解めっき液に浸漬した後、浴温25℃、20A/dm2の電流密度で通電することで、銀含有層を中間層の表面に形成した。こうして、接点用金属材料を製造した。
【0083】
[測定および評価]
上記実施例および比較例で得られた接点用金属材料について、下記の測定および評価を行った。結果を表1~2に示す。
【0084】
[1] 各層の平均厚さ
銀含有層および中間層の平均厚さを蛍光X線膜厚計(株式会社日立ハイテクサイエンス製、STF9400)によって測定した。同一サンプルで異なる5箇所の測定を行い、その平均値を算出して、各層の平均厚さを得た。
【0085】
[2] 銀含有層の平均KAM値
銀含有層のKAM値は、高分解能走査型分析電子顕微鏡(日本電子株式会社製、JSM-7001FA)に付属するEBSD検出器(TSLソリューションズ製、OIM5.0 HIKARI)を用いて連続して測定した結晶方位データから解析ソフト(TSLソリューションズ製、OIM Analysis)を用いて算出した結晶方位解析データから得た。
【0086】
クロスセクションポリッシャー(日本電子製)を用いて、測定対象として、導電性基材の圧延方向に平行な接点用金属材料の断面を鏡面仕上げされた表面における銀含有層表面を得た。測定倍率は、30000倍とした。測定間隔50nm以下のステップで測定し、解析ソフトにより解析されたCI値が0.1以下である測定点を除外し、隣接するピクセル間の方位差が5.00°以上である境界を結晶粒界とみなし、KAM値を得た。この測定を5回(同一サンプルで異なる5箇所の測定領域)行い、その平均値を算出して、銀含有層の平均KAM値を得た。
【0087】
[3] 銀含有層のマルテンス硬さHM1およびマルテンス硬さHM2の比(HM2/HM1)
銀含有層のマルテンス硬さHM1(N/mm2)およびマルテンス硬さHM2(N/mm2)は、ISO14577-1およびJIS Z2255:2003に準拠し、超微小押し込み硬さ試験機(エリオニクス、ENT-2100)を用いて、試験面に圧子を当ててくぼみをつけた試験力と、押圧したくぼみの表面積から求めた。これらの値から、比(HM2/HM1)を算出した。
【0088】
[4] 銀含有層の厚さ方向の弾性率
銀含有層の表面から銀含有層厚さ5分の1までの部分の厚さ方向の弾性率EITは、ISO14577-1 2002-10-01 Part1の試験方法に準拠し、超微小押し込み硬さ試験機(エリオニクス、ENT-2100)を用いて、銀含有層の表面から銀含有層の厚さの5分の1に相当する押し込み深さにおける弾性率を試験機で測定し、上記式(2)および式(3)から算出した。
【0089】
[5] 耐摩耗性
接点用金属材料の銀含有層側の表面に対して、摩擦摩耗試験機トライボギア(表面性測定機TYPE:14FW、新東科学株式会社製)を用いて、接触荷重4N、摺動距離50mm、摺動速度100mm/minで50回往復摺動を行った。レーザー粗さ計により、銀含有層の厚さに対する基準面(往復摺動していない面)からの深さの比を測定した。耐摩耗性について、以下のランク付けをした。
【0090】
◎:銀含有層の厚さに対する基準面からの深さの比が1/10未満
○:銀含有層の厚さに対する基準面からの深さの比が1/10以上1/5未満
×:銀含有層の厚さに対する基準面からの深さの比が1/5以上
【0091】
[6] 接触抵抗値
接点用金属材料の銀含有層側の表面に対して、電気接点シミュレータ(株式会社山崎精機研究所製)を用いて、通電電流値20mA、荷重1Nで、接触抵抗値を10回測定し、得られた測定値を平均した値を接点用金属材料の接触抵抗値とした。接触抵抗値について、以下のランク付けをした。
【0092】
◎:接触抵抗値が0.5mΩ未満
○:接触抵抗値が0.5mΩ以上1.0mΩ未満
×:接触抵抗値が1.0mΩ以上
【0093】
[7] 導電率
JIS H 0505の試験方法に準拠し、試験機を用いて、接点用金属材料の導電率γ(%)を測定した。導電率の算出には、以下の式(4)(重量法)を用いた。導電率について、以下のランク付けをした。
【0094】
◎:導電率が50%以上
○:導電率が20%以上50%未満
×:導電率が20%未満
【0095】
【0096】
Rt:t℃における試験片の電気抵抗(Ω)
m:試験片の全質量(g)
l1:電気抵抗測定間の長さ(m)
l2:試験片の全長(m)
t:測定時の温度(℃)
α20:20℃における定質量温度係数
C:定数であり、次式から算出できる。C=A×s(A:0.017241、s:比重)
【0097】
[8] 曲げ加工性
日本伸銅協会技術標準JCBA-T307:2007の試験方法に準拠し、試験片の長手方向が圧延方向と平行になるように、接点用金属材料から幅10mm×長さ30mmの試験片を5つ(n=5)採取し、各試験片について、曲げ角度が90度、R/t=1で曲げ試験を行い、割れの有無を判定した。
【0098】
○:5つの試験片について、割れ無し
×:1つ以上の試験片について、割れ有り
【0099】
[9] 耐熱性
大気雰囲気下において、接点用金属材料を150℃で1000時間加熱した。加熱後、接点用金属材料の銀含有層側の表面に対して、電気接点シミュレータ(株式会社山崎精機研究所製)を用いて、通電電流値20mA、荷重1Nで、接触抵抗値を10回測定し、得られた測定値を平均した値を接点用金属材料の接触抵抗値とした。耐熱性について、以下のランク付けをした。
【0100】
◎:加熱後の接触抵抗値が1.0mΩ未満
○:加熱後の接触抵抗値が1.0mΩ以上5.0mΩ未満
×:加熱後の接触抵抗値が5.0mΩ以上
【0101】
【0102】
【0103】
表1~2に示すように、実施例では、銀含有層の平均KAM値および比(HM2/HM1)が所定範囲内であったため、接点用金属材料の耐摩耗性は優れていた。一方、比較例では、銀含有層の平均KAM値および比(HM2/HM1)の少なくとも一方が所定範囲外であったため、接点用金属材料の耐摩耗性は劣っていた。