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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024142530
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】サイレージ調製用乳酸菌
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/20 20060101AFI20241003BHJP
   A23K 10/18 20160101ALI20241003BHJP
   A23K 10/12 20160101ALN20241003BHJP
【FI】
C12N1/20 A
A23K10/18
A23K10/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023054689
(22)【出願日】2023-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000231453
【氏名又は名称】日本食品化工株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】501203344
【氏名又は名称】国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【弁理士】
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100147267
【弁理士】
【氏名又は名称】大槻 真紀子
(74)【代理人】
【識別番号】100178847
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 映美
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 淳一
(72)【発明者】
【氏名】山根 健司
(72)【発明者】
【氏名】高木 宏基
(72)【発明者】
【氏名】遠野 雅徳
(72)【発明者】
【氏名】小林 寿美
(72)【発明者】
【氏名】神園 巴美
【テーマコード(参考)】
2B150
4B065
【Fターム(参考)】
2B150AA01
2B150AC06
2B150AD13
2B150AD14
2B150BB01
2B150CE05
2B150CE12
2B150CE20
2B150DE01
2B150DH35
4B065AA30X
4B065AC20
4B065CA60
(57)【要約】
【課題】より乳酸産生能が高く、サイレージ調製用として新規な乳酸菌、当該乳酸菌を含むサイレージ調製用添加剤、及び当該添加剤を使用したサイレージの製造方法等の提供。
【解決手段】ラクトバチルス・アミロボラスに属する高温発酵性乳酸菌からなり、前記高温発酵性乳酸菌は、MRS液体培地に初発菌数1.0×10CFU/mLで接種し、50℃で72時間、静置嫌気培養した時点における培地pHは4.60以下となる乳酸産生能を有している、サイレージ調製用乳酸菌、前記サイレージ調製用乳酸菌を含有する、サイレージ調製用添加剤、及び、前記サイレージ調製用添加剤をサイレージ原料に添加して、前記サイレージ原料を発酵させる、サイレージの製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラクトバチルス・アミロボラス(Lactobacillus amylovorus)に属する高温発酵性乳酸菌からなり、
前記高温発酵性乳酸菌は、MRS液体培地に初発菌数1.0×10CFU/mLで接種し、50℃で72時間、静置嫌気培養した時点における培地pHは4.60以下となる乳酸産生能を有している、サイレージ調製用乳酸菌。
【請求項2】
前記高温発酵性乳酸菌は、D-マンニトール資化性を有している、請求項1に記載のサイレージ調製用乳酸菌。
【請求項3】
前記高温発酵性乳酸菌は、MRS液体培地に初発菌数1.0×10CFU/mLで接種し、50℃で72時間、静置嫌気培養した時点における培地の595nm吸光度が0.500以上となる増殖能を有している、請求項1に記載のサイレージ調製用乳酸菌。
【請求項4】
前記高温発酵性乳酸菌は、牧草に1×10CFU/g接種させ、脱気密閉した容器内で5週間発酵させた場合に、発酵後の前記牧草10gを100mLの蒸留水に懸濁させた懸濁液の乳酸濃度が1.5質量%以上となる乳酸産生能を有している、請求項1に記載のサイレージ調製用乳酸菌。
【請求項5】
前記高温発酵性乳酸菌は、牧草に1×10CFU/g接種させ、脱気密閉した容器内で5週間発酵させた場合に、発酵後の前記牧草10gを100mLの蒸留水に懸濁させた懸濁液の乳酸濃度が2.0質量%以上となる乳酸産生能を有している、請求項1に記載のサイレージ調製用乳酸菌。
【請求項6】
ラクトバチルス・アミロボラスNSK2020Y株(NITE P-03848)である、請求項1に記載のサイレージ調製用乳酸菌。
【請求項7】
ラクトバチルス・アミロボラスYK10株(NITE P-03849)である、請求項1に記載のサイレージ調製用乳酸菌。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか一項に記載のサイレージ調製用乳酸菌を含有する、サイレージ調製用添加剤。
【請求項9】
請求項8に記載のサイレージ調製用添加剤をサイレージ原料に添加して、前記サイレージ原料を発酵させる、サイレージの製造方法。
【請求項10】
請求項1~7のいずれか一項に記載のサイレージ調製用乳酸菌を含有する、サイレージ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、家畜飼料であるサイレージを調製(製造)するために用いられる添加剤、当該添加剤の有効成分となる乳酸菌、及び当該添加剤を使用してサイレージを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
サイレージとは、飼料作物や牧草を収穫後、サイロ内に嫌気的に貯蔵した家畜飼料のことである。貯蔵中に乳酸発酵を十分に促すことによって、家畜飼料の長期保存が可能となる。収穫作業が困難となる冬季などの時期でも、栄養価の維持された飼料を家畜に給与することができ、畜産農家における飼料の安定生産・供給体制の成立に貢献している。高品質なサイレージは、十分に乳酸発酵が進むことによって低pH条件となっており、飼料中の栄養価が維持され、有害微生物の繁殖も制御されている。
【0003】
サイレージの調製現場では、高水分や低糖分のサイレージ原料を扱う場合や、原料の倒伏や土砂混入などの悪条件での作業となる場合がある。この場合、サイレージ発酵過程において乳酸含量が低レベルとなり、サイレージのpHが十分に低下しない。すると、酪酸菌(Clostridum spp.)と呼ばれる有害微生物が増殖しやすい環境となり、酪酸発酵と呼ばれる現象が起こる。酪酸発酵の過程では、サイレージ中の重要な栄養成分である炭水化物や蛋白質が、酪酸・プロピオン酸・アンモニアに分解され、サイレージの栄養価及び家畜の嗜好性・採食量が低下する。このため、高pH条件に加えて、酪酸やプロピオン酸の含量が高いサイレージほど、低品質とされている。
【0004】
飼料作物や牧草には、自然に付着している乳酸菌が存在する。しかし、これらの乳酸菌の菌数レベルが低い場合や、乳酸発酵を促す能力に劣る種類の場合もある。このため、十分な乳酸発酵を促すためには、飼料作物や牧草に自然に付着している乳酸菌のみでは不十分である場合が多い。また、土砂などの異物混入時には、異物中の有害微生物の影響もあり、相対的に乳酸菌の菌数が低下する。これらの乳酸菌が十分に機能しない場合には、乳酸含量が低く、酪酸やプロピオン酸含量の高い劣質なサイレージとなり、その嗜好性・採食量は優れたものではない。そこで、サイレージ調製用乳酸菌や繊維分解酵素を発酵スターターとして活用し、サイレージの発酵品質を高める技術が広く認知されるようになってきた。例えば、特許文献1には、糖質資化性が良好であることに加えて低温増殖性と低温発酵性に優れているラクトバシラス・カルバタスの特定の菌株をサイレージ調製に用いることが開示されている。また、特許文献2には、低温増殖能に優れたラクトバチルス・ブクネリの特定の菌株をサイレージ調製に用いることが開示されている。さらに、特許文献3には、乳酸及び酢酸産生能が高く、抗酵母作用を有する一群のラクトバチルス・ディオリヴォランスを、サイレージ調製用乳酸菌として用いることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第6671611号公報
【特許文献2】特許第6762535号公報
【特許文献3】特許第6807160号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
サイレージ発酵中のpHを低く抑え、得られるサイレージの品質をより改善させるために、乳酸産生能がさらに高い乳酸菌をサイレージ調製用に用いることが求められている。特に、牧草などのサイレージ原料は多種多様であり、その発酵の条件も様々であることから、サイレージ調製用としては、多種多様な乳酸菌が利用できることが好ましい。
【0007】
本発明は、より乳酸産生能が高く、サイレージ調製用として新規な乳酸菌、当該乳酸菌を含むサイレージ調製用添加剤、及び当該添加剤を使用したサイレージの製造方法等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、50℃という高温でも乳酸発酵が可能なラクトバチルス・アミロボラス(Lactobacillus amylovorus)は、乳酸産生能が高く、サイレージ調製用として好適であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
本発明に係るサイレージ調製用乳酸菌、サイレージ調製用添加剤、サイレージの製造方法、及び、サイレージは下記の通りである。
[1] ラクトバチルス・アミロボラス(Lactobacillus amylovorus)に属する高温発酵性乳酸菌からなり、
前記高温発酵性乳酸菌は、MRS液体培地に初発菌数1.0×10CFU/mLで接種し、50℃で72時間、静置嫌気培養した時点における培地pHは4.60以下となる乳酸産生能を有している、サイレージ調製用乳酸菌。
[2] 前記高温発酵性乳酸菌は、D-マンニトール資化性を有している、前記[1]のサイレージ調製用乳酸菌。
[3] 前記高温発酵性乳酸菌は、MRS液体培地に初発菌数1.0×10CFU/mLで接種し、50℃で72時間、静置嫌気培養した時点における培地の595nm吸光度が0.500以上となる増殖能を有している、前記[1]又は[2]のサイレージ調製用乳酸菌。
[4] 前記高温発酵性乳酸菌は、牧草に1×10CFU/g接種させ、脱気密閉した容器内で5週間発酵させた場合に、発酵後の前記牧草10gを100mLの蒸留水に懸濁させた懸濁液の乳酸濃度が1.5質量%以上となる乳酸産生能を有している、前記[1]~[3]のいずれかのサイレージ調製用乳酸菌。
[5] 前記高温発酵性乳酸菌は、牧草に1×10CFU/g接種させ、脱気密閉した容器内で5週間発酵させた場合に、発酵後の前記牧草10gを100mLの蒸留水に懸濁させた懸濁液の乳酸濃度が2.0質量%以上となる乳酸産生能を有している、前記[1]~[4]のいずれかのサイレージ調製用乳酸菌。
[6] ラクトバチルス・アミロボラスNSK2020Y株(NITE P-03848)である、前記[1]のサイレージ調製用乳酸菌。
[7] ラクトバチルス・アミロボラスYK10株(NITE P-03849)である、前記[1]のサイレージ調製用乳酸菌。
[8] 前記[1]~[7]のいずれかのサイレージ調製用乳酸菌を含有する、サイレージ調製用添加剤。
[9] 前記[8]のサイレージ調製用添加剤をサイレージ原料に添加して、前記サイレージ原料を発酵させる、サイレージの製造方法。
[10] 前記[1]~[7]のいずれかのサイレージ調製用乳酸菌を含有する、サイレージ。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係るサイレージ調製用乳酸菌は、50℃という高温環境下でも、増殖性が良好であり、乳酸産生能も高い。このため、当該乳酸菌及びこれを含むサイレージ調製用添加剤を用いることにより、サイレージ発酵中のpHが充分に低く抑えられ、良質なサイレージを製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明及び本願明細書において、「X~X(X及びXは、X<Xを満たす自然数)」は、「X以上X以下」の数値範囲を意味する。
【0012】
(サイレージ調製用乳酸菌)
本発明に係るサイレージ調製用乳酸菌は、ラクトバチルス・アミロボラスに属する高温発酵性乳酸菌からなる。ラクトバチルス・アミロボラスJCM1126T株は、乳酸を産生する乳酸菌として報告されているが、ラクトバチルス・アミロボラスに属する乳酸菌は、サイレージ調製用として今まで使用されてはいなかった。
【0013】
本発明及び本願明細書において、「高温発酵性乳酸菌」とは、ラクトバチルス属乳酸菌の一般的な至適生育温度である30~40℃よりも高温域で、発酵能と増殖能の高い乳酸菌を意味する。本発明においては、高温発酵性乳酸菌をサイレージ調製用乳酸菌として用いることにより、サイレージ発酵中のpHを十分に低く維持することができ、高品質なサイレージを製造することができる。
【0014】
乳酸菌では、発酵性能が高いほど、産生される乳酸量が多くなる結果、発酵物のpHが低下する。そこで、本発明及び本願明細書における乳酸菌の「高温発酵性能」は、50℃における発酵物のpHを指標にして決定される。具体的には、MRS(De Man, Rogosa and Sharpe)液体培地に初発菌数1.0×10CFU/mL(CFU:コロニー形成単位)で接種し、50℃で72時間、静置嫌気培養した時点における培地pHが4.60以下となる乳酸菌を、「高温発酵性乳酸菌」とする。
【0015】
以降において、「MRS液体培地に、初発菌数1.0×10CFU/mLで接種し、50℃で72時間静置嫌気培養する」培養条件を、「標準高温培養」という。MRS液体培地は、乳酸菌の培養に汎用されている培地である。静置嫌気培養は、蓋をしたチューブ等の容器を静置して培養することにより実施できる。
【0016】
本発明に係るサイレージ調製用乳酸菌であるラクトバチルス・アミロボラスに属する高温発酵性乳酸菌としては、標準高温培養終了時点の培地pHが4.60以下となるラクトバチルス・アミロボラスに属する菌であればよく、当該培地pHが3.50~4.60となるラクトバチルス・アミロボラスに属する菌が好ましく、当該培地pHが3.80~4.60となるラクトバチルス・アミロボラスに属する菌がより好ましく、当該培地pHが3.80~4.50となるラクトバチルス・アミロボラスに属する菌がさらに好ましく、当該培地pHが4.00~4.50となるラクトバチルス・アミロボラスに属する菌がよりさらに好ましい。
【0017】
本発明に係るサイレージ調製用乳酸菌であるラクトバチルス・アミロボラスに属する高温発酵性乳酸菌としては、高温環境下での増殖能も高いことが好ましい。本発明に係るサイレージ調製用乳酸菌としては、標準高温培養終了時点における培地の595nm吸光度が0.500以上、好ましくは0.500~1.200、より好ましくは0.600~1.200、さらに好ましくは0.800~1.200、よりさらに好ましくは0.800~1.100となる増殖能を有していることが好ましい。
【0018】
本発明に係るサイレージ調製用乳酸菌であるラクトバチルス・アミロボラスに属する高温発酵性乳酸菌は、50℃でも高い発酵性能を有しており、このため、外気温下のような温度制御がなされていない環境下でも、十分な乳酸を産生することができる。乳酸菌のサイレージ発酵時の乳酸産生能は、例えば、評価対象の乳酸菌を接種させた牧草を、脱気密閉した容器内で5週間発酵させた場合に、発酵後の当該牧草10gを100mLの蒸留水に懸濁させた懸濁液の乳酸濃度を指標にすることができる。当該懸濁液の乳酸濃度が高いほど、サイレージ発酵時の乳酸産生能が高いことを示す。本発明に係るサイレージ調製用乳酸菌としては、牧草に1×10CFU/g接種させ、脱気密閉した容器内で5週間発酵させた場合に、発酵後の当該牧草10gを100mLの蒸留水に懸濁させた懸濁液の乳酸濃度が好ましくは1.5質量%以上、より好ましくは2.0質量%以上となる乳酸産生能を有している。なお、当該懸濁液の乳酸濃度は、当該懸濁液を濾過し、得られた濾液に対してイオン交換樹脂を用いて処理した後、高速液体クロマトグラフ(HPLC)による有機酸分析により求めることができる。
【0019】
ラクトバチルス・アミロボラスに属する乳酸菌のうち、高温発酵性菌は、D-マンニトール資化性を有しているものが多い。D-マンニトール資化性を有するラクトバチルス・アミロボラスに属する乳酸菌の高温発酵性能が優れている理由は明らかではないが、D-マンニトールは、牧草などのサイレージ原料に含まれており、ヘテロ乳酸菌の発酵代謝物として産生される。このため、D-マンニトール資化性を有するラクトバチルス・アミロボラスに属する乳酸菌では、サイレージ発酵により産生されたD-マンニトールをさらに発酵に資することができるため、乳酸菌の生育にあまり適していない高温環境下でも発酵がより促進されてより多くの乳酸が産生されると推察される。
【0020】
本発明に係るサイレージ調製用乳酸菌であるラクトバチルス・アミロボラスに属する高温発酵性乳酸菌としては、例えば、ラクトバチルス・アミロボラスNSK2020Y株やラクトバチルス・アミロボラスYK10株が好ましい。なお、本願発明の発明者らは、これらの乳酸菌について、独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センター(千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8 122号室)に寄託した。ラクトバチルス・アミロボラスNSK2020Y株の受託番号はNITE P-03848(寄託日:令和5年3月6日)であり、ラクトバチルス・アミロボラスYK10株の受託番号はNITE P-03849(寄託日:令和5年3月6日)である。
【0021】
本発明に係るサイレージ調製用乳酸菌であるラクトバチルス・アミロボラスに属する高温発酵性乳酸菌は、他のラクトバチルス・アミロボラスに属する乳酸菌と同様に、必要な炭素源と窒素源とミネラルを含有する培地で培養することができる。当該培地としては、MRS培地、M17培地、ロゴーサ培地等の、乳酸菌の培養に一般的に使用される各種培地やその改変培地を用いることができる。本発明において用いられる高温発酵性乳酸菌の培養には、液体培地を用いてもよく、寒天培地を用いてもよい。
【0022】
(サイレージ調製用添加剤)
本発明に係るサイレージ調製用添加剤は、前記の本発明に係るサイレージ調製用乳酸菌を含有し、サイレージ原料に添加されるものである。当該サイレージ調製用添加剤の形態としては、前記サイレージ調製用乳酸菌が生菌として含有されているものであれば、特に限定されるものではない。例えば、当該サイレージ調製用乳酸菌の凍結乾燥菌粉末を、そのまま粉末状の形態、賦形剤等と混ぜて錠剤等の固形にした形態、カプセルに充填した形態等にすることができる。また、前記サイレージ調製用乳酸菌を液体と混合させた懸濁液を、そのまま液体アンプルの形態、更にゲル化剤と混合してゲル状の形態等にすることもできる。長期保存安定性に優れている点から、本発明に係るサイレージ調製用添加剤としては、前記サイレージ調製用乳酸菌の凍結乾燥菌粉末を含有する形態のものが好ましい。
【0023】
本発明に係るサイレージ調製用添加剤は、直接サイレージ原料に添加してもよく、予め水等の液体に懸濁させた懸濁液をサイレージ原料に添加してもよい。本発明に係るサイレージ調製用添加剤は、本発明に係るサイレージ調製用乳酸菌を、サイレージ原料1gに対して10~10菌数レベル(10~10CFU/g)で添加することが好ましく、10~10菌数レベル(10~10CFU/g)で添加することがより好ましい。
【0024】
(サイレージ及びその製造方法)
本発明に係るサイレージの製造方法は、前記の本発明に係るサイレージ調製用添加剤をサイレージ原料に添加して、当該サイレージ原料を発酵させて、サイレージを製造する方法である。本発明に係るサイレージ調製用添加剤を使用することにより、外気温下のような温度制御がなされていない環境下でも、サイレージのpHを十分に低く抑えることができ、サイレージの品質を改善させることができる。当該方法により製造されたサイレージは、本発明に係るサイレージ調製用乳酸菌を含有しており、低pHで乳酸含量が多い良質のサイレージである。
【0025】
サイレージ原料としては、牧草や飼料作物(例えば、イネ、イタリアンライグラス、スーダングラス、オーチャード、アルファルファ、ソルゴー、コメ、トウモロコシ、ソルガム等)が挙げられる。牧草や飼料作物は、生草であってもよく、乾草であってもよい。また、牧草や飼料作物にさらに栄養源(穀類、フスマ、米ヌカ、豆類、油粕等)を混合した発酵完全混合飼料原料(発酵TMR飼料原料)も、本発明におけるサイレージ原料として用いることができる。発酵TMR飼料原料をサイレージ発酵させることにより、発酵TMR飼料が得られる。発酵TMR飼料原料としては、例えば、濃厚飼料、乾草、ビートパルプ、ビタミン・ミネラル製剤、作物副産物、食品副産物等を混合した原料が挙げられる。
【0026】
本発明に係るサイレージ調製用添加剤をサイレージ原料に添加する方法としては、原料中に偏りなく、均一になるように行うことが好ましい。例えば、本発明に係るサイレージ調製用添加剤を水に懸濁して得られた懸濁液を、サイレージ原料に噴霧する方法、サイレージ原料に混合して撹拌する方法等で行うことができる。本発明に係るサイレージ調製用添加剤をサイレージ原料に添加する量は、サイレージ原料1gに対して本発明に係るサイレージ調製用乳酸菌が10~10菌数レベル(10~10CFU/g)となるように添加することが好ましい。また、本発明に係るサイレージ調製用添加剤をサイレージ原料に添加する時期としては、サイレージ発酵を開始する前が好ましいが、サイレージ発酵の途中の段階で添加を行ってもよい。
【0027】
本発明に係るサイレージ調製用添加剤を添加したサイレージ原料の発酵は、通常のサイレージ発酵と同様の条件で行うことができ、嫌気条件で、外気温において30日間以上で行うものである。具体的には、サイロを用いる通常の方法、ロールベールサイレージ法、フレコンバック法等で行うことができる。
【実施例0028】
次に実施例及び参考例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例等に限定されるものではない。
【0029】
また、以降において、特に記載のない限り、「%」は「質量%」を意味する。
【0030】
[実施例1]
ラクトバチラス・アミロボラスの9種の菌株について、サイレージ原料に添加して嫌気発酵させてサイレージを製造し、そのpHや乳酸濃度を調べた。
【0031】
9種の菌株としては、ラクトバチラス・アミロボラスの基準株であるラクトバチラス・アミロボラスJCM1126T(独立行政法人理化学研究所バイオリソースセンターより入手)と、日本国内より本願発明の発明者らにより単離された8株(NSK2020Y株、YK10株、A1株~A6株)を用いた。サイレージ原料としては、牧草のチモシー(品種:クンプウ)を用いた。国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構の那須塩原研究拠点の圃場で栽培中の牧草を刈り取り、理論細断長3~5cmで細断機にかけた後、試験開始日まで-80℃で保存した。
【0032】
牧草の細断物100gを用いた小規模サイレージ発酵試験法(パウチ法)を実施した。具体的なサイレージの調製として、各乳酸菌噴霧後の牧草を1パウチ袋(製品名「飛竜N-9」、旭化成パックス社製)あたり100g入れ、業務用卓上密封包装機(「SQ-202」、シャープ社製)を用いて脱気密閉したものを、室温で静置することにより、サイレージを製造した。対照として、乳酸菌を噴霧していない牧草についても同様にサイレージを製造した。試験区の反復は3とし、供試乳酸菌は、サイレージ原料1gあたりに1×10CFU個添加した。統計解析は、一元配置分散分析後にTukey法による多重比較検定を行った。
【0033】
発酵期間を5週間とし、発酵終了後、前記パウチ袋を開封し、各サイレージ10gを量り取り、滅菌済みの蒸留水を100mL加えた後、よく混合した。混合後、ホモジナイザ(「Pro・media SH-II M」、エルメックス社製)で5分間懸濁し、濾紙(定量濾紙No.5A、ADVANTEC社製)を用いて濾過した。この濾過液をサンプルとして、pH測定及び有機酸分析に用いた。なお、pH測定は、pHメーター(「SevenExcellence S400」、METTLER TOLEDO社製)を用いた。有機酸分析は、濾過液をイオン交換樹脂(「Amberlite IR120H+」、東京有機化学工業社製)を用いて処理し、0.45μmフィルター濾過に供した後、HPLCによる有機酸分析に供した。HPLCは、「HPLC有機酸分析システム」(日本分光社製)を使用して、下記の測定条件で測定した。
【0034】
(HPLC条件)
カラム:「Shodex Rspak KC-811」(8mm×300mm、昭和電工社製)
カラム温度:60℃
移動相:3mmol/L 過塩素酸水溶液
反応液:BTB水溶液(0.2mmol/L ブロモチモールブルー-8mmol/L リン酸水素二ナトリウム-2mmol/L 水酸化ナトリウム)
送液速度:1.2mL/分
検出波長:450nm
【0035】
【表1】
【0036】
各サイレージのpH及び乳酸濃度の測定結果を表1に示す。表1に示すように、ラクトバチラス・アミロボラスを添加して発酵させた試験区1~9のサイレージはいずれも、乳酸菌無添加の対照区のサイレージよりも、pHが低く、乳酸濃度も高かった。特に、NSK2020Y株やYK10株を添加した試験区2及び3のサイレージは、ラクトバチラス・アミロボラスの基準株を添加した試験区1のサイレージよりもpHが低く、乳酸濃度も高かった。これらの結果から、NSK2020Y株及びYK10株をサイレージ調製用乳酸菌として使用することにより、低pHであり、乳酸濃度が高く、極めて高品質のサイレージ調製が可能であった。
【0037】
[実施例2]
ラクトバチラス・アミロボラスの10種の菌株について、高温発酵性能を調べた。
【0038】
ラクトバチラス・アミロボラスの10種の菌株としては、実施例1で使用したJCM1126T、NSK2020Y株、YK10株、A1株、A2株、A4~A6株に加えて、DSM16698株及びDSM107288株(いずれも、ドイツ細胞バンクより入手)を用いた。
【0039】
各乳酸菌は、前培養として、まず、MRS寒天培地に播き、37℃で3日間嫌気培養した後、形成されたコロニーを、12mL容チューブに入れた5mLのMRS液体培地に植菌し、当該チューブの蓋を閉めた状態で、37℃で24時間、静置嫌気培養した。
【0040】
前培養した乳酸菌培養液を、2mLのMRS液体培地に、初発菌数1.0×10CFU/mLとなるように添加して、37℃、45℃、又は50℃で72時間、容器に蓋をした状態で静置嫌気培養した。培養後の培養液の濁度(OD595nmの吸光度)とpHを測定した。試験区の反復は3とし、統計解析は、一元配置分散分析後にTukey法による多重比較検定を行った。
【0041】
【表2】
【0042】
37℃、45℃、及び50℃で72時間培養後の培地のpH及び濁度(OD595)の測定結果を表2に示す。この結果、実施例1で最も乳酸産生量が多く低pHのサイレージが調製できたNSK2020Y株及びYK10株の培地では(試験区2及び3)、50℃培養後の培地のpHが4.60以下と非常に低く、高温発酵性に優れていることが確認された。当該乳酸菌はホモ乳酸醗酵を行うため、pHの低下は乳酸産生量と比例する。つまり、NSK2020Y株及びYK10株は、乳酸産生量も多いことが容易に想定できた。また、試験区2及び3の培地のOD595は0.500以上であり、NSK2020Y株及びYK10株は50℃での増殖性も優れていることがわかった。一方で、37℃と45℃で培養した場合には、NSK2020Y株及びYK10株の培養培地は、JCM1126Tと同程度にまでpHは低下していたが、濁度はJCM1126Tの培養培地よりも小さく、45℃以下の通常の培養温度では、NSK2020Y株及びYK10株の増殖性は、JCM1126Tと同程度又はそれ以下であった。
【0043】
また、JCM1126T、NSK2020Y株、及びYK10株について、各種炭水化物に対する資化性を調べた。資化性を調べる試験は、市販の炭水化物代謝検査キット(「アピ50 CH」、シスメックス・ビオメリュー社製)を用いて行った。結果を表3及び4に示す。表3及び4中、「+」は陽性(資化性)、「-」は陰性(非資化性)を示す。
【0044】
【表3】
【0045】
【表4】
【0046】
表3及び4に示すように、JCM1126T株はD-マンニトールを資化できないのに対して、NSK2020Y株及びYK10株は、D-マンニトールを資化することができた。その他の炭水化物に対する資化性は、3株ともほぼ同様であった。また、A1株、A2株、A4~A6株のD-マンニトール資化性を調べたところ、全ての株でD-マンニトールを資化できなかった。これらの結果から、NSK2020Y株及びYK10株は、D-マンニトール資化性であることが、50℃における発酵性や増殖性がJCM1126T株よりも良好であり、これらを用いることによって乳酸含有量が高く低pHのサイレージが製造できる要因であろうと推察された。
【受託番号】
【0047】
NITE P-03848
NITE P-03849