(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024142534
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】耐油紙、耐油紙の加熱時における発煙の程度を低く抑える方法、耐油紙の加熱時における破裂強度の低下を抑える方法、および耐油紙を使用した加熱用の紙容器
(51)【国際特許分類】
D21H 19/20 20060101AFI20241003BHJP
D21H 27/00 20060101ALI20241003BHJP
B65D 65/40 20060101ALI20241003BHJP
B65D 81/34 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
D21H19/20 C
D21H27/00 Z
B65D65/40 D
B65D81/34 X
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023054694
(22)【出願日】2023-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000115108
【氏名又は名称】ユニ・チャーム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002882
【氏名又は名称】弁理士法人白浜国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】竹内 直人
【テーマコード(参考)】
3E013
3E086
4L055
【Fターム(参考)】
3E013BA05
3E013BA24
3E013BB06
3E013BC01
3E013BD11
3E013BE05
3E086AA21
3E086AB01
3E086AD06
3E086BA04
3E086BA14
3E086BA24
3E086BB41
3E086BB71
3E086BB74
3E086CA01
3E086DA08
4L055AG69
4L055AH24
4L055BE08
4L055BE20
4L055EA04
4L055EA07
4L055FA19
4L055GA05
4L055GA48
(57)【要約】
【課題】食品に焦げ目がつく程度に所要時間高温下で加熱された場合であっても、発煙を抑制することができるとともに、所要の強度を備えた耐油紙の提供。
【解決手段】耐油紙1は、第1面11と、その反対側に位置する第2面12と、少なくとも90質量%のパルプ繊維とを有し、第1及び第2面11,12のうちの少なくとも第1面11にフッ素系耐油剤を含み、250℃における発煙試験での発煙時間が少なくとも16分である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1面と、その反対側に位置する第2面と、少なくとも90質量%のパルプ繊維とを有し、前記第1及び第2面のうちの少なくとも第1面にフッ素系耐油剤を含む耐油紙であって、
下記250℃における発煙試験での発煙時間が少なくとも16分であることを特徴とする前記耐油紙。
〔発煙試験〕
250℃に設定してある電気オーブンに試験片(100mm×100mm)を入れ、上下のヒーターの中間の位置で水平に寝かせて加熱を開始する。その後、電気オーブンの覗き窓から試験片を観察し、発煙識別用標識を背景にして、試験片から煙が発生したことを認めることが出来るまでの時間を測定し、その時間を発煙時間とする。
【請求項2】
第1面と、その反対側に位置する第2面と、少なくとも90質量%のパルプ繊維とを有し、前記第1及び第2面のうちの少なくとも第1面にフッ素系耐油剤を含む耐油紙であって、
250℃で10分間加熱した後の前記耐油紙の破裂強度が0.3MPa以上であることを特徴とする前記耐油紙。
【請求項3】
250℃で20分間加熱した後の前記耐油紙の破裂強度が0.2MPa以上である請求項2に記載の耐油紙。
【請求項4】
前記耐油紙は、前記第1及び第2面のうちの少なくとも第1面に紫外線ランプによって紫外線UV-Aを下記照射条件で照射したものである請求項1~3のいずれか記載の耐油紙。
〔紫外線ランプの照射条件〕
(1)波長範囲:315~400μm
(2)紫外線強度:・・・120mW/cm2
(3)照射量:・・・120mW・sec/cm2
(4)照射時間・・・1秒
【請求項5】
前記耐油紙は、前記第1面の側に含まれる前記耐油剤の量が前記第2面の側に含まれる前記耐油剤の量よりも多い請求項1~4のいずれかに記載の耐油紙。
【請求項6】
前記第1面側の繊維密度が前記第2面側の繊維密度よりも高い請求項1~5のいずれかに記載の耐油紙。
【請求項7】
前記パルプ繊維は、針葉樹由来のパルプ繊維と広葉樹由来のパルプ繊維とを含み、前記針葉樹由来のパルプ繊維の含有率が前記広葉樹由来のパルプ繊維の含有率よりも高い請求項1~6のいずれかに記載の耐油紙。
【請求項8】
質量が250~400g/m2、厚さが0.2~0.5mmである請求項1~7のいずれかに記載の耐油紙。
【請求項9】
前記耐油紙は、前記第1面に紫外線UV‐A照射した場合と、前記第2面に紫外線UV‐A照射した場合との発煙時間の差が90秒以内である請求項1又は4に記載の耐油紙。
【請求項10】
耐油紙の加熱時における発煙の程度を低く抑える方法であって、
前記耐油紙の両面のうちの少なくとも一方の面がフッ素系耐油剤を含み、前記耐熱紙の少なくとも前記一方の面に紫外線ランプを介して紫外線を所要時間照射することを特徴とする方法。
【請求項11】
耐油紙の加熱時における破裂強度の低下を抑える方法であって、
前記耐油紙の両面のうちの少なくとも一方の面にフッ素系耐油剤をコーティングし、前記耐熱紙の少なくとも前記一方の面に紫外線ランプを介して紫外線を所要時間照射することを特徴とする方法。
【請求項12】
請求項1~11に記載の前記耐油紙を使用した加熱用の紙容器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐油紙、耐油紙の加熱時における発煙の程度を低く抑える方法、耐油紙の加熱時における破裂強度の低下を抑える方法、および耐油紙を使用した加熱用の紙容器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電気オーブンに使用される耐油紙は公知である。例えば、特許文献1には、紙基材と耐油層とを有し、耐油層が、ポリ乳酸系樹脂と、ポリビニルアルコール系樹脂及び/又は澱粉系化合物とを70:30~98:2の重量比で含む耐油紙が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2020-128616号公報(P2020-128616A)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示の耐油紙によれば、耐水性、耐油性に優れており、また、高温時の耐熱性も一定程度有することから、例えば、オーブントースターで加熱される冷凍食品の容器等に使用することができる。
【0005】
しかしながら、従来のこの種の耐油紙をオーブントースター用の食品を載せる紙容器として使用した場合、食品に焦げ目がつく程度にまで250℃近くまで高温下において5分以上加熱したときに、発煙するという問題があった。そのために、食品に焦げ目がつく程度に加熱することができなかった。また、加熱によって耐油紙の強度が低下し、紙容器の形状が不安定となることから、オーブン等から取り出し難かった。
【0006】
紙容器は、プラスチック製容器等と異なり、オーブントースターの高温ハードな使用に耐えるものがなく、冷凍食品の場合は、プラスチック容器に入れて電子レンジで温めて使用するものが多い。その場合、プラスチック容器の中で冷凍食品が温められるが、温めムラがあったり、焦げ目までをつけることができず美味しさに課題が残る。またプラスチック容器を使用することによる環境問題がある。そこで、温めた際の美味しさと環境問題に貢献できる紙容器が求められていた。
【0007】
本発明では、従来の耐油紙の改良であって、食品に焦げ目がつく程度に所要時間高温下で加熱された場合であっても、発煙を抑制することができるとともに、所要の強度を備えた耐油紙の提供等を課題にしている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するために、本願の第1発明は、第1面と、その反対側に位置する第2面と、少なくとも90質量%のパルプ繊維とを有し、前記第1及び第2面のうちの少なくとも第1面にフッ素系耐油剤を含む耐油紙に関する。
【0009】
本願の第1発明は、下記250℃における発煙試験での発煙時間が少なくとも16分であることを特徴とする前記耐油紙である。
〔発煙試験〕
250℃に設定してある電気オーブンに試験片(100mm×100mm)を入れ、上下のヒーターの中間の位置で水平に寝かせて加熱を開始する。その後、電気オーブンの覗き窓から試験片を観察し、発煙識別用標識を背景にして、試験片から煙が発生したことを認めることが出来るまでの時間を測定し、その時間を発煙時間とする、ことを特徴とする。
【0010】
本願の第2発明は、第1面と、その反対側に位置する第2面と、少なくとも90質量%のパルプ繊維とを有し、前記第1及び第2面のうちの少なくとも第1面にフッ素系耐油剤を含む耐油紙に関する。
【0011】
本願の第2発明に係る耐油紙は、250℃で10分間加熱した後の前記耐油紙の破裂強度が0.3MPa以上であることを特徴とする。
【0012】
本願の第1及び第2発明は、下記の好ましい実施態様を含む。
(1)250℃で20分間加熱した後の前記耐油紙の破裂強度が0.2MPa以上である。
(2)前記耐油紙は、前記第1及び第2面のうちの少なくとも第1面に紫外線ランプによって紫外線UV-Aを下記照射条件で照射したものである耐油紙。
〔紫外線ランプの照射条件〕
(1)波長範囲:315~400μm
(2)紫外線強度:・・・120mW/cm2
(3)照射量:・・・120mW・sec/cm2
(4)照射時間・・・1秒
(3)前記耐油紙は、前記第1面の側に含まれる前記耐油剤の量が前記第2面の側に含まれる前記耐油剤の量よりも多い。
(4)前記第1面側の繊維密度が前記第2面側の繊維密度よりも高い。
(5)前記パルプ繊維は、針葉樹由来のパルプ繊維と広葉樹由来のパルプ繊維とを含み、前記針葉樹由来のパルプ繊維の含有率が前記広葉樹由来のパルプ繊維の含有率よりも高い。
(6)質量が250~400g/m2、厚さが0.2~0.5mmである。
(7)前記耐油紙は、前記第1面に紫外線UV‐A照射した場合と、前記第2面に紫外線UV‐A照射した場合との発煙時間の差が90秒以内である。
【0013】
本願の第3発明は、耐油紙の加熱時における発煙の程度を低く抑える方法に関する。
【0014】
本願の第3発明に係る方法は、前記耐油紙の両面のうちの少なくとも一方の面がフッ素系耐油剤を含み、前記耐熱紙の少なくとも前記一方の面に紫外線ランプを介して紫外線を所要時間照射することを特徴とする。
【0015】
本願の第4発明は、耐油紙の加熱時における破裂強度の低下を抑える方法に関する。
【0016】
本願の第4発明に係る方法は、前記耐油紙の両面のうちの少なくとも一方の面にフッ素系耐油剤をコーティングし、前記耐熱紙の少なくとも前記一方の面に紫外線ランプを介して紫外線を所要時間照射することを特徴とする。
【0017】
本願の第5発明は、耐油紙を用いた加熱用の紙容器である。
【発明の効果】
【0018】
この発明に係る耐油紙によれば、食品に焦げ目がつく程度に所要時間高温下で加熱された場合であっても、発煙を抑制することができるとともに、所要の破裂強度を有することから、加熱用の紙トレー容器に好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図面は、本発明の特定の実施の形態を示し、発明の不可欠な構成ばかりでなく、選択的及び好ましい実施の形態を含む。
【
図1】(a)本発明に係る耐油紙の斜視図。(b)本発明に係る耐油紙のI(a)-I(a)線に沿う断面図。
【
図3】(a)従来の耐油紙を使用した紙トレー容器を高温加熱してオーブントースターから取り出した様子を示す図。(b)本発明に係る耐油紙を使用した紙トレー容器を高温加熱してオーブントースターから取り出した様子を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
下記の実施の形態は、
図1及び
図2に示す、主としてオーブン(オーブントースター、オーブンレンジ)等による加熱用に用いられる、耐油紙1に関し、発明の不可欠な構成ばかりではなく、選択的及び好ましい構成を含む。
【0021】
図1(a),(b)を参照すると、本発明に係る耐油紙1は、主としてパルプ繊維から作られた、紙基材10から構成されていて、厚さ方向と、表面(第1面)11及び裏面(第2面)12と、第1面11を形成する耐油剤が塗布(コーティング)された表層(耐油剤コーティング層)13と、第2面12を形成する耐油剤が内添された裏層(耐油剤内添層)14と、表裏層13,14間に位置する中間層(耐水層)15とを有する。
【0022】
耐油紙1は、
図2に示すとおり、オーブントースターで高温加熱される、フライドポテト、フライドチキン、コロッケ等の油で揚げた食品(冷凍食品)やグラタン、ピザ、さらには一般家庭で調理された炊飯米や焼魚、惣菜等の加工食品以外の食品を載せる加熱用の紙トレー容器(紙容器)20の材料として好適に使用することができる。
【0023】
紙基材10は、耐水処理が行われており全体として比較的に強い耐水性を有する。具体的には、紙基材10は、コップ吸水度で150~230g/m2・60minの耐水性を有する。紙基材10は、コップ吸水度が300g/m2・60min以上の一般的な印刷用紙に比べて吸水量が低く、食品から発生した水分や油分が反対側の面に浸透するのを抑制しうるといえる。このように、紙基材10は比較的に高い耐水性を有することから、中間層15は(強)耐水層ともいえる。なお、耐水性については、JIS P 8140(1976)紙および板紙の吸水度試験方法(コッブ法)に準じ、表面11の60分後の吸水量を測定した。
【0024】
表面11(表層13)に塗布され、かつ、裏面12(裏層14)に内添された耐油剤は、フッ素系耐油剤であって、例えば、アニオン性フッ素系樹脂又はカチオン性フッ素系樹脂を挙げることができる。アニオン性フッ素系耐油剤の市販品としては、旭硝子社製のアサヒガード(登録商標)AG-E080、AG-E090、ダイキン工業社製のユニダイン(登録商標)TG-8111、TG8731、Solvay社製のソルベラ(登録商標)PT5060、PT5045等が挙げられる。カチオン性フッ素系耐油剤の市販品としては、旭硝子社製のアサヒガード(登録商標)AG-E060、AG-E070、DuPont社製のCAPSTONE(登録商標)P620、P623等が挙げられる。
【0025】
表層13に塗布される耐油剤の量が、裏層14に内添される耐油剤の量よりも多いことから、裏層よりも表層13の方が高い耐油性を有するといえる。表層13に塗布される耐油剤の塗布量は3.0~15.0g/m2であって、カーテンコーター、スプレーコーター、ロールコーター等の公知の塗布方法で紙基材10に塗布しうる。
【0026】
本発明の耐油紙1に用いられる紙基材10としては、90%質量のパルプ繊維、填料、各種助剤等を含む紙料を抄紙したものであって、例えば、上質紙、中質紙、微塗工紙、塗工紙、片艶紙、晒又は未晒クラフト紙(酸性紙又は中性紙)、又は段ボール用、白ボ-ル用、チップボ-ル用などに用いられる板紙、白板紙などを用いることができる。
【0027】
紙基材10を構成するパルプ繊維の原材料としては、通常製紙用として使用されるあらゆるものが使用できる。例えば、広葉樹晒クラフトパルプ(LBKP)、針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP)、広葉樹晒サルファイトパルプ(LBSP)、針葉樹晒サルファイトパルプ(NBSP)等の化学パルプ、ストーングランドパルプ(GP)、加圧ストーングランドパルプ(PGW)、リファイナーグランドパルプ(RGP)、ケミグランドパルプ(CGP)、サーモメカニカルパルプ(TMP)、ケミサーモメカニカルパルプ(CTMP)等の未晒、半晒、あるいは晒パルプ、亜硫酸パルプ等が使用できる。
【0028】
パルプ繊維においては、紙基材10の強度と密度を高めるために、針葉樹由来のパルプ繊維の配合比率が広葉樹由来のパルプ繊維よりも高いことが好ましい。また、表層13の方が裏層よりも針葉樹由来のパルプ繊維の配合率が高くてもよい。
【0029】
紙基材10の質量は、好ましくは250g/m2以上、250~400g/m2であることが好ましい。紙基材10の質量を上記範囲内とすることにより、耐油層を形成する際に必要な強度を保持させることができる。紙基材10の質量が250g/m2以下の場合には、強度が低くなり、紙トレー容器20にしたときに形状を維持することができず、特に加熱後に形状が崩れるおそれがある。一方、紙基材10の質量は400g/m2を超えると、紙トレー容器20にしたときに、製造工程において折り目部分で基材の座屈が生じやすくなるため、紙基材10の割れを生じ、折り目の耐油性が低下し易くなる傾向となる。
【0030】
紙基材10の厚さ寸法は、0.2~0.5mmであることが好ましい。厚み計(PEACOCK DIAL THICKNESS GAUSE 径50mm・測定圧3g/cm2)によって測定した。
【0031】
紙基材10の密度は、0.6~1.5g/cm3とすることが好ましく、0.8~1.0g/cm3とすることがより好ましい。紙基材10の密度が、かかる範囲内にある場合には、所要の通気性を維持しつつ、紙トレー容器20として使用する際に容易に型崩れしない程度の強度を有し、高温加熱後の成型性が良好であるといえる。なお、高温加熱後の成型性が良好とは、耐油紙1を食品等の紙トレー容器に成型にしてオーブントースターで高温加熱(220~280℃)したとしても、紙トレー容器が変形し難くいことを意味する。
【0032】
本発明に係る耐油紙1を構成する紙基材10において、表層13、裏層14及び中間層15のそれぞれの繊維密度が異なっていてもよく、また、表面11側の繊維密度と裏面12側の繊維密度とが相違していてもよい。通常、カレンダー処理された紙には、両面の繊維密度に差が生じることがあるが、例えば、紙基材10において、表面11側の繊維密度が裏面12側の繊維密度よりも高くなる場合には、耐油剤がコーティングされた表層13の耐油性がより向上するとともに、耐油紙1全体のシート強度も高くなるといえる。
【0033】
紙基材10には、添加剤を含有させてもよい。添加剤としては、硫酸バンド、カチオン性高分子電解質等に代表される定着剤、クレー、タルク、炭酸カルシウム、焼成カオリン、酸化アルミニウム、水酸化アルミニウム、酸化チタン、デンプン等に代表される紙力増強剤、メラミン樹脂、尿素樹脂等に代表される湿潤紙力増強剤、その他、濾水剤、青み付けなどの色調調整用の染料、蛍光染料など各種助剤類を挙げることができる。なお、酸化チタンを紙基材10に含有させた場合には、食品の油分が紙基材10の内部に浸透した場合においても油分が浸みた部分による紙基材10の透明化や黒化を目立ち難くすることができる。
【0034】
通常、耐油紙を食品の紙トレー容器等の材料として使用した場合、オーブン(オーブントースター,オーブンレンジを含む)によって220~300℃の高温加熱されたとき、紙基材を構成するパルプの水分が蒸発して発煙して、オーブントースター内に煙が充満してしまい、焦げたような臭いが食品に付着するおそれがある。耐油紙のかかる発煙を抑えるために、製造工程において乾燥機にかけることも考えられるが、乾燥後長時間放置すると、パルプが再吸湿してしまい、使用時における抑煙効果を十分に発揮することができない。
【0035】
本願人は、鋭意研究を重ねた結果、耐油紙1の表裏面11,12のうちの少なくとも一方の面に紫外線を照射することによって、所要の抑煙効果を発揮することを知見した。これは、紫外線を耐油紙1に照射することで、パルプ中の分子を動かしてグルコースを飛ばして、セルロースとヘミセルロースを高分子化することで高温加熱時でも熱分解温度が上昇し抑煙効果を発揮したものと考えられる。
また、後記の測定結果に示すとおり、紫外線を耐油紙1に照射することによって、硬化強度が向上し、食品を載せた紙トレー容器20として耐油紙1を使用した場合において、オーブン等で加熱後に、紙トレー容器20をそのまま食事をする際の容器(食器)として使用することができる。
【0036】
ここで、「高温加熱時における抑煙効果」とは、オーブントースターにおいて食品に焦げ目がつく程度にまで高温加熱することを想定した、250℃の温度で16分間以上加熱された場合における抑煙効果を意味する。従来の耐油紙は、250℃の温度で10分程度加熱された時点で、発煙を開始することから、16分を超えても発煙しない場合には、抑煙効果に優れるといえる。
【0037】
既述のとおり、紙基材10の質量は、250g/m2以上である。耐熱性の観点からいえば、紙基材10の質量が比較的に小さい場合には、外部からの熱が伝わり易く耐熱性が低下するといえるが、紙基材10の質量が250g/m2以上であることによって、耐熱性に優れ、表面の高温加熱時において抑煙効果を発揮しうる。
【0038】
かかる耐油紙1を使用した紙トレー容器を成型する場合には、耐油紙1の表裏面11,12のうちの少なくとも一方の面に紫外線を照射した後に、紙トレー容器の成型加工を行ってもよいし、耐油紙1を紙トレー容器に成型加工した後に、紫外線を紙トレー容器の表裏面の少なくとも一方の面に照射してもよい。
【0039】
なお、耐油紙1が紫外線を照射されたものであるか否かは、外観において区別することができず、例えば、倍率300倍の電子顕微鏡で観察しても紫外線が照射されたものと照射されていないものとにおいて外観上の差異は見られなかった。ただし、紫外線が照射された後は照射された面が僅かに黄色に変色するので、黄色度の相違で判別することができる。なお、耐油紙1の黄色度は、色差計を用いて、JIS-Z8722に準拠して測定することができる。
【0040】
【0041】
表1は、本発明に係る耐油紙1の実施例1~3、比較例1~4におけるシートの構成と、UV照射前後における撥油度(キット法)の変化、オーブトースターによる加熱前後における破裂強度の変化、加熱後における煙評価を示したものである。表中の特性は以下の方法で測定した。
【0042】
<質量>
各耐油紙から100mm×100mmのサンプルを3枚切り出して、各サンプルの質量を測定器で測定し、その平均値から算出した単位面積当たりの質量(g/m2)を求めた。「乾燥前の質量」は、乾燥機によって乾燥させる前の状態における耐油紙の質量、「乾燥後の質量」は、耐油紙の水分率が1%前後になるまで乾燥機で乾燥させた後の耐油紙の質量、「照射後の質量」は、下記条件下においてUV照射した後の耐油紙の質量をそれぞれ求めた。
【0043】
<厚さ寸法>
各資材の厚さ寸法については、厚み計(PEACOCK DIAL THICKNESS GAUSE 径50mm・測定圧3g/cm2)によって測定した。
【0044】
<密度>
各耐油紙の質量を、その厚さ寸法で除することにより算出(g/cm3)した。
【0045】
<撥油度(キット法)>
「撥油度(キット法)UV照射前」は、UV照射する前の各耐油紙の撥油度、「撥油度(キット法)UV照射後」は、下記条件下においてUV照射した後の各耐油紙の撥油度である。撥油度は、TAPP UM-557法(キット法)によって測定した。一般的に、耐油紙として使用可能な撥油(キット耐油)度は5級以上であって、撥油度で9級以上であれば高い撥油性を有するといえる。
【0046】
<UV照射>
UV照射は、食品が載置される表面、その反対側の裏面、表裏の両面に紫外線ランプによって、紫外線UV‐Aを下記条件下で照射したものである。
〔紫外線ランプの照射条件〕
(1)波長範囲:315~400μm
(2)紫外線強度:120mW/cm2
(3)照射量:・・・120mW・sec/cm2
(4)照射時間・・・1秒
【0047】
<破裂強度>
「破裂強度/オーブン加熱前」は、オーブントースターで加熱するための各耐油紙の破裂強度、「破裂強度/オーブン加熱250℃*10分」は、オーブントースターで、250℃の高温で10分間加熱した後の耐油紙の破裂強度、「破裂強度/オーブン加熱250℃*20分」は、オーブントースターで、250℃の高温で20分間加熱した後の耐油紙の破裂強度である。
【0048】
破裂強度は、JIS-P8131(2009)紙及び板紙のミューレン高圧形試験機による破裂強さ試験方法に準拠して測定した。破裂指数は、JIS-P8131(2009)に規定されている。破裂指数は、上記JIS-P8131(2009)に準拠して測定されるメガパスカル(MPa)単位で表した耐油紙の破裂強度を上記質量で除した値である。
【0049】
<煙評価>
煙評価は、
図4(a),(b)に示すとおり、以下の手順による各耐油紙の発煙試験の結果に基づいて評価したものである。
〔発煙(性評価)試験〕
1)使用器具
・オーブントースター(加熱試験器:象印マホービン(株)ET-GN30)
・デジタルカメラ
・L型金具
・ストップウォッチ
2)発煙識別用標識
金属製のL型金具41を用意し、L型金具41の少なくとも片面に耐油紙の発煙の有無、程度を識別するための指定色(例えば、赤色)の線をマジックペンで引いて、発煙識別用標識42とする。このL型金具41をオーブントースター40におけるのぞき窓40aの正面の奥にセットする。
3)試験片
100×100mmの大きさの耐油紙の試験片101をオーブントースター40で50℃×1時間乾燥して発煙性評価試験に使用する。試験片101は、2枚用意する。また、UV照射されている面(表面11又は裏面12)を上にしてオーブントースター40のヒーター(加熱部)44,45と対向させて加熱する。
4)試験手順
(1)オーブントースター40は、250℃にセットし、10分間放置するというコンディショニング処理(予熱処理)を施してから使用する。
(2)のぞき窓40aを開き、2枚の試験片のうちの1枚について、上下のヒーター44,45の中間の位置で水平に寝かせる。UV照射されている試験片101の表面111を上にして、のぞき窓40aと発煙識別用標識42との間に置く。
(3)のぞき窓40aを閉じたのち、オーブントースターの加熱を続けながら、のぞき窓40aの外から試験片101と発煙識別用標識42とを観察し、試験片101からの発煙で標識の色(指定色)を識別することができなくなるまでの時間を計測する。その時の計測時間をもって、その試験片101における表面の発煙時間とし、2枚目の試験片101も同様の測定を行い、その平均値を表面111の発煙時間とした。
(4)かかる測定を、裏面112にのみUV照射をした場合、表裏面111,112にUV照射をした場合のそれぞれにおいて行った。
【0050】
<実施例1>
表面にフッ素系耐油剤をコーティングし、裏面にフッ素系耐油剤を内添した耐油紙を使用した。
【0051】
<実施例2>
表面と裏面との両面にフッ素系耐油剤をコーティングした耐油紙を使用した。
【0052】
<実施例3>
表面にフッ素系耐油剤をコーティングし、裏面はポリエチレン、ポリプロピレン等の合成樹脂から形成された被覆層によって被覆されている。
【0053】
<比較例1>
実施例1と同じ耐油紙であって、UV照射をしていないものを使用した。
【0054】
<比較例2>
実施例2と同じ耐油紙であって、UV照射をしていないものを使用した。
【0055】
<比較例3>
実施例3と同じ耐油紙であって、UV照射をしていないものを使用した。
【0056】
<比較例4>
表裏面の両面に耐油剤をコーティング、内添していない耐水紙を使用した。
【0057】
<測定結果>
表1に示すとおり、実施例1,2の耐油紙1と比較例1,2の耐油紙とは、撥油度が9級以上であって、比較的に高い撥油性を有する。また、比較例1の煙評価は780秒であったのに対し、実施例1において、表面のみにUV照射した場合の煙評価は1098秒、裏面のみにUV照射した場合の煙評価は1014秒、表裏の両面にUV照射した場合の煙評価は1100秒であって、UV照射後においては、いずれの場合においても、1000秒以上となり、比較例1,すなわち、UV照射しない場合に比べて、発煙するまでに200秒以上の違いがあった。
【0058】
また、比較例2の煙評価は417秒であったのに対し、実施例2において、表面のみにUV照射した場合の煙評価は480秒、裏面のみにUV照射した場合の煙評価は478秒、表裏の両面にUV照射した場合の煙評価は482秒であって、UV照射後においては、いずれの場合においても、470秒以上となり、比較例2,すなわちUV照射しない場合に比べて、発煙するまでに30秒以上の違いがあった。
【0059】
また、比較例3の煙評価は341秒であったのに対し、実施例3において、表面のみにUV照射した場合の煙評価は407秒、裏面(耐油剤なし)のみにUV照射した場合の煙評価は330秒、表裏の両面にUV照射した場合の煙評価は400秒であって、UV照射された表面及び両面はいずれも400秒以上となり、比較例2,すなわちUV照射しない場合に比べて、発煙するまでに60秒程度の違いがあった。
【0060】
また、比較例4においては、UV照射をしていない場合の煙評価が650秒であり、表面のみ、裏面のみ、表裏面の両面にUV照射をした場合の煙評価が650~660秒であって、発煙するまでの時間にほとんど差は見られなかった。
【0061】
以上のとおり、UV照射をすることによって耐油紙は抑煙効果を発揮することから、耐油紙を食品を載せた紙トレー容器として使用した場合において、食品に焦げ目がつく程度に250℃で16分以上加熱した場合であっても、オーブントースター内での発煙が抑えられ、食品に焦げ目がつく様子を目視することができ、適切なタイミングで加熱された食品を取り出すことができる。
【0062】
破裂強度については、比較例1ではオーブントースターで加熱する前の破裂指数が1.45MPaであったのに対し、250℃で10分加熱した後の破裂指数が0.16MPa、250℃で20分加熱した後の破裂指数が0.1MPaであって、加熱後に引張強度が90%以上下落した。一方、実施例1では、オーブントースターで加熱する前の破裂指数が1.48~1.50MPaであったのに対し、250℃で10分加熱した後の破裂指数が0.33~0.35MPa、250℃で20分加熱した後の破裂指数が0.23~0.25MPaであって、加熱後に引張強度が80%以上下落した。
【0063】
なお、実施例2、3及び比較例2~4については、250℃で20分加熱したときに、熱による分解及び炭化によって初期形状を維持することができなかったことから、測定不能となった。
【0064】
通常、耐熱紙を紙トレー容器として使用する場合、加熱後の破裂強度が0.2MPa以下の場合には、
図3(a)に示すとおりに、調理者が紙トレー容器20の把持部21を把持してオーブンレンジから取り出すときに、紙トレー容器20が食品を含めた重さに耐えられずに破損してしまい、そのまま食事をする際の容器(食器)として使用することができない。
【0065】
上記のとおり、本発明に係る耐油紙1は、250℃で10分加熱した後の破裂指数が0.33~0.35MPa、250℃で20分加熱した後の破裂指数が0.23~0.25MPaであって、250℃で20分加熱した後であっても破裂指数が0.2MPa以上を有する。したがって、
図3(b)に示すように、250℃で20分加熱した後であっても、調理者が紙トレー容器20の把持部21を把持してオーブンレンジから取り出すときに、紙トレー容器20が自重によって変形することはなく、そのまま食事をする際の容器(食器)として使用することができる。
【0066】
再び、実施例1の測定結果を参照すると、破裂強度については、耐油剤をコーティングしている表面にのみUV照射した場合、耐油剤を内添している裏面にのみ照射した場合、表裏の両面にUV照射した場合の全てのパターンにおいて、ほぼ同じであった。また、煙評価についても、表面にのみUV照射した場合と表裏の両面にUV照射した場合とにおいて、ほぼ同じであった。
【0067】
また、実施例1~3の煙評価の測定結果から、表面11にのみUV照射した場合と裏面12にのみUV照射した場合とにおいて、破裂強度に大きな差はなかった。
【0068】
【0069】
表2は、実施例1の耐油紙と同じ構成からなる耐油紙において、その質量を変更したもので表裏面の両面にUV照射をした後の破裂強度の測定と煙評価とを行ったものであり、具体的には、実施例4の乾燥前質量は254.2g/m2、実施例5の乾燥前質量は314.2g/m2、実施例6の乾燥前質量は404.2g/m2、比較例5の乾燥前質量は214.2g/m2であった。
【0070】
表2に示すとおり、実施例4~6では煙評価が1000秒以上であって、250℃で20分加熱した後の破裂指数が0.2MPa以上であるのに対し、比較例5では、煙評価が712秒、250℃で20分加熱した後の破裂指数が0.1MPaであった。この結果から、UV照射された耐油紙が所要の破裂強度及び抑煙効果を発揮するためには、質量が250g/m2以上であることが好ましいといえる。
【符号の説明】
【0071】
1 耐油紙
10 紙基材
11 表面
12 裏面
40 オーブントースター
40a 覗き窓
42 発煙識別用標識
101 試験片