(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024142567
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】非接触の振動による植物体からの追い出し、光による誘引、ならびに吸引による捕虫効果を用いたコナジラミ類の防除及びモニタリング方法
(51)【国際特許分類】
A01M 1/08 20060101AFI20241003BHJP
A01M 1/00 20060101ALI20241003BHJP
A01M 29/18 20110101ALI20241003BHJP
A01M 1/04 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
A01M1/08
A01M1/00 Q
A01M29/18
A01M1/04 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023054750
(22)【出願日】2023-03-30
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構生物系特定産業技術研究支援センター「イノベーション創出強化研究推進事業(うち、害虫防除と受粉促進のダブル効果!スマート農業に貢献する振動技術の開発)」、産業技術力強化法第17条の適用を受けるもの
(71)【出願人】
【識別番号】501203344
【氏名又は名称】国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構
(71)【出願人】
【識別番号】590002389
【氏名又は名称】静岡県
(71)【出願人】
【識別番号】517182918
【氏名又は名称】ピクシーダストテクノロジーズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】浦入 千宗
(72)【発明者】
【氏名】斉藤 千温
(72)【発明者】
【氏名】土井 誠
(72)【発明者】
【氏名】片山 晴喜
(72)【発明者】
【氏名】山根 俊
(72)【発明者】
【氏名】牧田 英一
(72)【発明者】
【氏名】星 貴之
【テーマコード(参考)】
2B121
【Fターム(参考)】
2B121AA16
2B121CC39
2B121DA15
2B121DA34
2B121DA41
2B121DA49
2B121DA59
2B121EA12
2B121FA20
(57)【要約】
【課題】地域を問わず利用可能な、農園芸作物を加害するコナジラミ類の防除に有効な新規技術の提供。
【解決手段】 以下の工程を含む、コナジラミ類害虫を防除する方法:
(1)コナジラミ類害虫を忌避させる追い出し手段により、コナジラミ類害虫の生息場所である作物からコナジラミ類害虫を作物から忌避させる工程;
(2)忌避した前記害虫を光照射により誘引する工程;及び
(3)誘引した前記害虫を、吸引手段により吸引して捕獲する工程。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程を含む、コナジラミ類害虫を防除する方法:
(1)コナジラミ類害虫を忌避させる追い出し手段により、コナジラミ類害虫の生息場所である作物からコナジラミ類害虫を忌避させる工程;
(2)忌避した前記害虫を光照射により誘引する工程;及び
(3)誘引した前記害虫を、吸引手段により吸引して捕獲する工程。
【請求項2】
以下の工程を含む、コナジラミ類害虫の発生をモニタリングする方法:
(1)コナジラミ類害虫を忌避させる追い出し手段により、コナジラミ類害虫の生息場所である作物から該コナジラミ類害虫を忌避させる工程;
(2)忌避した前記害虫を光照射により誘引する工程;
(3)誘引した前記害虫を、吸引手段により吸引して捕獲する工程;
(4′)工程(3)により捕獲されたコナジラミ類害虫の個体数をカウントする工程。
【請求項3】
コナジラミ類害虫がタバココナジラミ及びオンシツコナジラミからの1種又は2種である請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
追い出し手段に超音波が用いられ、該超音波が、変調振動数が1Hz~1023Hzである変調超音波、又は非変調超音波である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項5】
超音波が連続的に発生され、該連続的に発生される時間が0.1秒間以上である請求項4に記載の方法。
【請求項6】
作物がトマト、イチゴ、インゲン、メロン、キュウリ、ナス、ピーマン、又はキクである請求項1~5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
超音波が以下を充足する請求項4又は5に記載の方法:
超音波の周波数が20kHz~50kHzであり、
変調振動数が1Hz~1023Hzである変調超音波、又は非変調超音波である。
【請求項8】
光照射が、波長域300~600nmである、LEDからの光によりなされる、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項9】
光の波長が、日中は450~550nmであり、夜間は325~425nmである、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
作物の生育ステージに応じて、超音波を発生させる超音波発生装置の高さを調整する工程をさらに含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項11】
超音波が伝播する方向の鉛直方向に対する角度を変更する工程を含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項12】
以下を含む、請求項1又は2に記載の方法に用いるための装置:
(1′)追い出し部;
(2′)光照射部;及び
(3′)吸引部。
【請求項13】
自走のための手段をさらに含む、請求項11に記載の装置。
【請求項14】
追い出し部が超音波発生装置であり、該超音波発生装置により発生する超音波が伝播する方向の、鉛直方向に対する角度を変更するための手段をさらに備える、請求項11又は12に記載の装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は集束超音波を利用したコナジラミ類を防除する方法及びコナジラミ類の個体数をモニタリングする方法に関する。
【0002】
害虫を防除する方法には化学的防除、物理的防除及び耕種的防除等による方法が挙げられるところ、殺虫剤を用いる化学的防除が主流である。
【0003】
例えば、物理的な害虫防除の方法は、化学合成殺虫剤における普遍的な問題である薬剤抵抗性の問題や、人体、環境及び非標的生物に対する悪影響の問題を伴わないといった利点を有する。したがって、かかる方法は、薬剤に抵抗性を持つ害虫の出現や、環境・食品の安全・安心志向の高まりから、長年にわたり社会的に求められている、薬剤の代替となる環境調和型の害虫防除技術の開発に資するものである。
行動制御を利用した害虫防除の方法は、害虫防除の省力化にも資するものであり、農業就労人口の減少及び高齢化の問題の解消の一助となりえる。
【0004】
農作物及び園芸作物(以下「農園芸作物」という)を加害する害虫による経済的な損失も少なくない。このような害虫にはタバココナジラミやオンシツコナジラミといったコナジラミ類害虫が包含されるところ、これらの害虫種の成虫及び幼虫は各種農園芸作物の葉に加害し、作物の生育を阻害し商品価値を著しく低下させる。そのため、このような害虫は農園芸作物栽培における防除の対象となるが生物多様性の維持と食の安全の観点から、環境保全型の防除技術を開発する必要にも迫られている。
ワタアブラムシ、モモアカアブラムシといったアブラムシ類害虫、及びチャバネアオカメムシといったカメムシ類害虫もコナジラミ類害虫と同様に農園芸作物栽培における防除の対象である。
【0005】
施設園芸においては薬剤抵抗性を発達させたコナジラミ類、ハダニ類やアザミウマ類、あるいはアブラムシ類及びカメムシ類といった防除が困難な微小害虫の問題もあり、殺虫剤抵抗性の発達しにくい防除方法の確立も求められている。
特許文献1には、超音波集束装置を用いた集束超音波を利用したコナジラミ類害虫、アブラムシ類害虫又はカメムシ類害虫を防除する方法にかかる技術が報告されている。
特許文献2には、物理・機械的作用により害虫を忌避・誘引する忌避・誘導部、誘引された害虫を検知し、そのデータを送信する誘引・捕集部、及び上記データを受信し、該受信データに基づいて害虫の捕集を制御する計測制御部から成ることを特徴とする害虫捕集・検出装置が開示されている。
【0006】
害虫を防除するための各種捕虫器も開発されていて、特許文献3には、コナジラミ類、アザミウマ類、アブラムシ類(有翅)、ハモグリバエ類の虫に対して走光性を生じさせる光を放射する光源、円筒部内に吸引する気流を発生させるファン、前記ファンの鉛直下方に配され、虫を捕獲するネット等からなる捕虫器が開示されている。具体的な製品として、例えばAgrobot社による昆虫吸引器、吸引式LED捕虫器であるスマートキャッチャーII(セイコーエコロジア社製)といった製品が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2020-115855号公報
【特許文献2】特開2006-280287号公報
【特許文献3】特開2020-89327号公報
【特許文献4】特開2015-43741号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Shimizu, H., Hoshi, T., Nakamura, K. and Park, J.K.(2015)Development of a Non-contact Ultrasonic Pollination Device. Environmental Control in Biology, 53-2, 85-88.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記のとおり、害虫を防除するための種々の試みがなされ機器も開発されているが、これらの既存技術はコナジラミ類害虫の防除における実用性が立証されたものではない。
そのため、地域を問わず利用可能な、農園芸作物を加害するコナジラミ類の防除に有効な新規技術が渇望されている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、これまで試されることさえなかったある主の媒体を用いることによってコナジラミ類害虫の行動を制御し、もってコナジラミ類害虫の防除ができる可能性があることを見出し、さらに研究を進めた結果本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち本発明は、少なくとも以下の発明に関する:
[1]以下の工程を含む、コナジラミ類害虫を防除する方法:
(1)コナジラミ類害虫を忌避させる追い出し手段により、コナジラミ類害虫の生息場所である作物から該コナジラミ類害虫を忌避させる工程;
(2)忌避した前記害虫を光照射により誘引する工程;及び
(3)誘引した前記害虫を、吸引手段により吸引して捕獲する工程。
[2]以下の工程を含む、コナジラミ類害虫の個体数をモニタリングする方法:
(1)コナジラミ類害虫を忌避させる追い出し手段により、コナジラミ類害虫の生息場所である作物から該コナジラミ類害虫を忌避させる工程;
(2)忌避した前記害虫を光照射により誘引する工程;
(3)誘引した前記害虫を、吸引手段により吸引して捕獲する工程;
(4′)工程(3)により捕獲されたコナジラミ類害虫の個体数をカウントする工程。
[3]
コナジラミ類害虫がタバココナジラミ及びオンシツコナジラミからの1種又は2種である上記方法。
[4]
追い出し手段に超音波が用いられ、該超音波が、変調振動数が1Hz~1023Hzの矩形波で振幅変調した超音波、又は非変調超音波である、上記方法。
[5]
超音波が連続的に発生され、該連続的に発生される時間が0.1秒間以上である[4]に記載の方法。
[6]
作物がトマト、イチゴ、インゲン、メロン、キュウリ、ナス、ピーマン、パプリカ、又はキク等である上記方法。
[7]
超音波が以下を充足する[4]又は[5]に記載の方法:
超音波の周波数が20kHz~50kHzであり、
変調振動数が1Hz~1023Hzである変調超音波、又は非変調超音波である。
[8]
光照射が、波長域300~600nmである、LEDからの光によりなされる、上記方法。
[9]
光の波長が、日中は450~600nmであり、夜間は325~425nmである、[8]に記載の方法。
[10]
作物の生育ステージに応じて、超音波を発生させる超音波発生装置の高さを調整する工程をさらに含む、上記方法。
[11]
超音波が伝播する方向の鉛直方向に対する角度を変更する工程を含む、上記方法。
[12]
以下を含む、上記方法に用いるための装置:
(1′)追い出し部;
(2′)光照射部;及び
(3′)吸引部。
[13]
自走のための手段をさらに含む、上記装置。
[14]
追い出し部が超音波発生装置であり、該超音波発生装置により発生する超音波が伝播する方向の、鉛直方向に対する角度を変更するための手段をさらに備える、上記装置。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、農園芸作物を加害するコナジラミ類害虫の防除に有効な方法として、上記(1)~(3)の工程(それぞれの工程を「忌避工程」、「誘引工程」及び「吸引工程」ということがある)
を具備する新規な方法が提供されるばかりでなく、これらの工程の相乗効果により、従来技術を上回るコナジラミ類に対する防除効果が奏される。
【0013】
本発明の防除方法は、コナジラミ類害虫が生息している作物の近傍に超音波を発生させて該コナジラミ類害虫の成虫を忌避させ、忌避したコナジラミ類の成虫を光照射により誘引してある光照射に用いた光源の近傍に誘引し、光源に誘引されたコナジラミ類害虫の成虫を吸引手段により吸引して捕獲することにより、前記作物に生息するコナジラミ類害虫の生息密度を減じ、もってコナジラミ類の防除を行うものである。
【0014】
忌避工程として、超音波等によりコナジラミ類害虫を忌避させる工程を、誘引工程及び吸引工程とともに含む方法は、これまで知られていない。
特許文献2には、物理・機械的作用により害虫を忌避・誘引する忌避・誘導部、誘引された害虫を検知し、そのデータを送信する誘引・捕集部、及び上記データを受信し、該受信データに基づいて害虫の捕集を制御する計測制御部から成ることを特徴とする害虫捕集・検出装置が開示されている。また、特許文献1には超音波集束装置を用いた集束超音波を利用したコナジラミ類害虫を防除する方法が開示されている。
さらに、特許文献3に例示されるように、気流により害虫を吸引する手段を具備する捕虫器も知られている。
しかしながら、これらの従来技術は、いずれも超音波等により忌避させる忌避工程を、誘引工程及び吸引工程とともに含む方法を行うものではない。
【0015】
特許文献2に記載されている技術においては誘引には光や音が用いられ、超音波を用いるものではない。また、同文献に記載の技術は、害虫の捕獲(捕集)を、忌避・誘導部及び害虫の捕集も行う誘引装置により行うのであって、開放空間に誘引された害虫をさらに吸引して捕獲することにより、誘引された害虫を捕獲する効率を高めるものではない。
【0016】
また、本発明のモニタリング方法によれば、コナジラミ類害虫の発生を簡便にモニタリングすることができる。
さらに本発明の装置によれば、コナジラミ類害虫の防除又はコナジラミ類害虫の発生のモニタリングを、効率的に行うことができる。本発明の装置は、従来技術による装置とは異なり、栽培施設及び露地栽培圃場において立体的に栽培される作物(トマトなど)及び平面的に栽培される作物(イチゴなど)に使用することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1-1】本発明の方法に用いることができる害虫防除用超音波集束装置の概略図である。
【
図1-2】本発明の方法に用いることができる害虫防除用超音波集束装置における、トランスデューサアレイからの距離と超音波の集束点との関係を示す図である。
【
図1-3】本発明の装置の例を部分的に示す模式図である。
【
図1-4】本発明の装置の別の例を示す写真図である。
【
図2A】実施例2における春試験の試験結果(コナジラミの個体数動態)を示すグラフである。(A)トマトの複葉1枚あたりのコナジラミ成虫の個体数、(B)トマトの複葉1枚あたりのコナジラミ幼虫の個体数。閉じた丸は本発明の方法による処理区を、開いた四角は無処理区における個体数を表す。閉じた下向きの三角はコナジラミ成虫の放飼時点を示す。
【
図2B】実施例2における秋試験の試験結果を示すグラフである。記号の意味は
図2Aと同じである。
【
図3A】実施例3における試験結果を示すグラフである。
【
図3B】実施例3における、天敵との併用効果を示すグラフである。
【
図3C】実施例3における、個別要素(追出用の超音波集束装置、誘引用の LED、吸引機)に分けて試験した試験結果を示すグラフである。
【
図4A】実施例4における本発明の方法が奏する試験結果を示すグラフである。
【
図4B】実施例4における天敵単独区におけるコナジラミ類の密度の推移を示すグラフである。
【
図5A】本発明の装置において用いる、吸引部のLED照射装置の例を示す模式図である(実施例5)。
【
図5B】本発明の装置において、吸引部のLEDを点灯させた状態を示す写真図である(実施例5)。左の図は昼間の照度を示す、右の図は夜間の照度を示す。
【
図6】本発明の方法によるモニタリングの効果を示すグラフである(実施例6)。
【
図7A】実施例7における試験区の区割りを示す模式図である。
【
図7B】実施例7における、本発明の方法によるモニタリングの効果を示すグラフである。
【
図7C】実施例7における、本発明の方法によるモニタリングの効果を示すグラフ(相関図)である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
●1.コナジラミ類を防除する方法及びコナジラミ類の発生をモニタリングする方法
本発明のコナジラミ類害虫(「コナジラミ類」ということがある)を防除する方法は、以下の工程を含む方法である:
(1)コナジラミ類害虫を忌避させる追い出し手段により、コナジラミ類害虫の生息場所である作物から該コナジラミ類害虫を忌避させる工程(忌避工程);
(2)忌避した前記害虫を光照射により誘引する工程(誘引工程);及び
(3)誘引した前記害虫を、吸引手段により吸引して捕獲する工程(吸引工程)。
工程(1)~(3)により、前記生息場所に生息するコナジラミ類害虫の個体数が低減され、同害虫の防除を行うことができる。
上記本発明のコナジラミ類害虫を防除する方法を、以下において「本発明の防除方法」ということがある。
【0019】
本発明のコナジラミ類の発生をモニタリングする方法は、上記工程(4)に代えて、工程(4′)、すなわち、工程(3)により捕獲されたコナジラミ類害虫の個体数をカウントする工程、を含む方法である。
上記本発明のコナジラミ類の発生をモニタリングする方法を、以下において「本発明のモニタリング方法」ということがある。
【0020】
本発明の防除方法及び本発明のモニタリングする方法及び、以下において「本発明の方法」と総称することがある。
以下の説明は、他の記載がない限り、上記本発明の防除方法及び本発明のモニタリングする方法に共通して当てはまることである。
【0021】
本明細書において「超音波」とは、20 kHz~50 kHzの範囲の特定の周波数を有する音波を意味する。超音波における周期性については、ある一定の持続時間の超音波を繰り返す周期性が存在してよいし、周期性はなくてもよい。なお、超音波には、帯域に対応した僅かな周期性が存在してもよい。
本明細書において超音波の「集束」、あるいは超音波を「集束する」とは、圧電振動子等により発生した超音波の波の頂点をトランスデューサーアレイの制御等によってほぼ一個所に集中させることを意味する。
本明細書において「集束超音波」とは、上記のようにして集束された超音波を意味する。
【0022】
<(1)追い出し手段によりコナジラミ類害虫を忌避させる工程(忌避工程)>
本発明の方法には、超音波等の追い出し手段によりコナジラミ類害虫を作物から忌避させる工程(忌避工程)が含まれる。
本発明の方法に用いられる追い出し手段は、コナジラミ類害虫を、生息媒体である作物から忌避させる効果を有するものであれば限定されない。かかる追い出し手段として、超音波、振動、風圧、光、温風、冷風、空気圧、温度変化、匂い、又はそれらの組み合わせが例示され、これらのうち超音波は好ましい。
本発明の方法において用いられる超音波は、集束されて又は集束されずにコナジラミ類害虫の飛翔又は逃避を促進し作物から忌避させる超音波であり、該超音波によりコナジラミ類害虫のメス成虫及びオス成虫の飛翔行動又は逃避行動が促進される。
【0023】
本発明の方法における超音波の周波数はとくに限定されないところ、20 kHz~50 kHzが好ましく、30 kHz~50 kHzはより好ましく、30 kHz~45 kHzは一層より好ましい。
本発明の方法における超音波の変調振動数はとくに限定されないところ、変調なし又は1 Hz~1023 Hzが好ましく、変調なし又は1 Hz~500 Hzはより好ましく、変調なしは一層より好ましい。
本発明の方法における超音波のDuty比(超音波のON時間の比率)はとくに限定されないところ、40%~60%が好ましく、約50%はより好ましい。
本発明の方法における集束超音波による非接触作用力はとくに限定されないところ、10 mN~30 mNが好ましく、10 mN~20 mNが好ましく、12 mN~20 mNがより好ましい。
本発明の方法におけるパルスの強さは限定されないところ、120~170dBが好ましく、140~170dBはより好ましく、160~170dBがより一層好ましい。超音波のパルスの強さは超音波の振幅により規定され、超音波の発生に用いられる超音波発生手段(超音波発生装置)の駆動電圧、PWM、振動子の個数及び超音波の焦点距離により調整することができる。
本発明の方法における作物と超音波発生手段との距離はとくに限定されないところ、10cm~50cmが好ましく、20cm~40cmがより一層好ましい。 本発明の方法における超音波を集束して照射する作物上の部位はとくに限定されないところ、作物の葉面上などの平面が好ましく、葉面上の該成虫の生息域付近がより好ましく、該成虫に直接、超音波が触れることが一層より好ましい。
【0024】
本発明の方法において、上記パラメータは適用期間中において任意のタイミングで変更してもよい。
本発明の方法における、特定のパルス長及びパルス間間隔により連続的に発生させる超音波(超音波バースト波)の持続時間は限定されず、例えば対象作物1株あたり1日あたり少なくとも約0.1秒間(約0.1秒以上)の持続時間により適用してよい。本発明の方法において、かかる持続時間として、約1秒間~約20秒間は好ましく、約5秒間~約20秒間はより好ましく、約10秒間~約20秒間は一層より好ましい。対象作物に、1日の間に、2回又は3回以上超音波を適用することは好ましい。
【0025】
本発明の方法において、超音波が適用される合計時間は、本発明の方法における所望の効果が奏される時間であれば限定されない。
【0026】
本発明の方法における超音波を発生するために用いられる手段又は装置としては、作物に接触しない位置に配置されて、コナジラミ類害虫の成虫の飛翔又は逃避による作物からの離脱を促進する集束超音波を発生するものであれば限定されない。かかる装置として、トランスデューサアレイを用いた装置は好ましい。
【0027】
トランスデューサアレイを用いた装置による超音波集束又は集束超音波について、以下の特性が知られている(非特許文献1):
・数100個の超音波振動子を用いることで、数10mN程度の力を発生させることができる。
・位相制御によって集束点(焦点)の位置を3次元空間の任意の位置に変更することができる。
・
図1-1に描かれたような正方形のトランスデューサアレイを用いたとき、焦点面に生じる超音波の音圧分布がほぼsinc関数に従う。これは、各超音波振動子から位相差をもつ球面波が放射されたと仮定したときに解析的に得られた結果である。
・正方形のトランスデューサアレイの一辺の長さをD、超音波の波長をλ、焦点距離をRとしたとき、集束点の径wは2λR/Dに等しい(
図1-2)。
・超音波振動子に供給される矩形波のパルス幅制御(PWM)によって、集束点における非接触作用力の強度を制御することができる。
【0028】
本発明の方法における集束超音波発生手段として用いられる装置として、特許文献4に開示されている装置に相当する装置はより好ましい。かかる装置は、植物体から離隔して配置される、複数の超音波振動子が配列されたトランスデューサアレイと、前記複数の超音波振動子にこれらの位置関係によって定まる分だけ互いに位相が異なる超音波を発生させることによって、前記複数の超音波振動子で発生した超音波を前記植物体の標的部位(コナジラミ類害虫が生息している葉)の位置に集束させると共に、標的部位がランダム位置に周期的に切り替わるように、前記トランスデューサアレイを制御する制御手段とを備えている装置である。
【0029】
上記好ましい装置を用いる場合、複数の超音波振動子が配列されたトランスデューサアレイ及びこれを制御する制御手段を用いた方法であって、前記トランスデューサアレイを、植物体から離隔して配置する第1ステップと、前記複数の超音波振動子にこれらの位置関係によって定まる分だけ互いに位相が異なる超音波を発生させることによって、前記複数の超音波振動子で発生した超音波を前記植物体の標的部位(コナジラミ類害虫が生息している葉)の位置に集束させると共に、標的部位がランダム位置に周期的に切り替わるように、前記制御手段を用いて前記トランスデューサアレイを制御する第2ステップとを備えている本発明の方法は、好ましい。
【0030】
本発明の方法における超音波を集束して照射する作物上又は果樹上の部位はとくに限定されないところ、作物の葉面上などの平面が好ましく、葉面上の該成虫の生息域付近がより好ましく、該成虫に直接、集束超音波が触れることが一層より好ましい。
本発明の方法における集束超音波を照射する焦点位置の変更は、とくに限定されないところ、水平方向の焦点位置をトランスデューサーアレイの制御などにより10cm×10cmの範囲で移動させることが好ましく、20cm×20cmの範囲で移動させることがより一層好ましい。垂直方向の焦点位置をトランスデューサーアレイの制御などにより20cm~30cmの範囲で移動させることが好ましく、20cm~40cmの範囲で移動させることがより一層好ましい。
集束超音波を照射する焦点位置は、本発明の方法の効果が奏される焦点位置であれば限定されないところ、作物に触れない範囲で作物に近いほうが好ましい。
【0031】
本発明の方法のうち、
・超音波が、変調振動数が1Hz~1023Hzである変調超音波、又は非変調超音波である方法、
・超音波の周波数が20kHz~50kHzであり、変調振動数が1Hz~1023Hzである変調超音波、又は非変調超音波である方法、及び
超音波が伝播する方向の鉛直方向に対する角度を変更する工程を含む方法、
は、コナジラミ類害虫の作物からの離脱を効率的に行えるため好ましい。
【0032】
・超音波を発生させる方向
本発明の方法において、超音波を作物に伝播させる角度は、固定されていなくてよく、鉛直方向及び/又は水平方向に対して変更されてよい。
また、超音波発生手段は、該手段の全体又は部分が、鉛直方向及び/又は水平方向に、移動するものであってよい。
本発明の方法のうち、超音波発生手段からの超音波が、作物が栽培されている圃場又は栽培施設の各作物に略均等に達して、該作物に生息しているコナジラミ類成虫のうち、該超音波に暴露される個体が多いほど好ましい。そのため、本発明の方法のうち、超音波発生手段又は装置として、その全体もしくは部分が、回転するか、又は鉛直方向及び/又は水平方向に移動するものを用いる方法は好ましい。
【0033】
本発明の方法のうち、台車等を介して自走する超音波発生手段を用いる方法はとくに好ましい。本発明の方法のうち、超音波発生手段又は装置が首振り機能を有し、超音波が伝播する方向の鉛直方向に対する角度が変更される方法もとくに好ましい。本発明の方法のうち、超音波が伝播する方向の水平方向や斜め方向に対する角度が変更される方法、及び超音波が伝播する方向が回転により変更されるといった、超音波が伝播する方向の角度が変更される方法も好ましい。
【0034】
・超音波を適用する位置
超音波が作物に適用される位置は、作物及び作物に生息するコナジラミ類成虫が、超音波に暴露される位置であれば限定されない。超音波は、例えば、作物の側方から適用されてよいし、作物の草丈が比較的低い場合には斜め上方を包含する上方から適用してよい。超音波は、作物の草丈が比較的高い場合には、作物の高さの中位又はより下方から適用してよい。
超音波発生手段は、作物の成長に応じて、設置される高さや作物からの水平方向の距離を変更して設置されてよい。
超音波はまた、適用対象である作物を挟んで、誘引工程において用いられる光照射のための光源とほぼ相対する位置から適用されてもよい。
【0035】
<(2)忌避した前記害虫を光照射により誘引する工程(誘引工程)>
【0036】
本発明の方法における誘引工程は、上記忌避工程により忌避行動が促進され、生息場所を忌避し作物から離脱したコナジラミ類害虫の成虫を、光照射手段による光の照射(光源の発光)により、作物から離隔された空間に誘引する工程である。誘引工程において、コナジラミ類害虫は、閉鎖された空間や容器に誘引される必要はなく、開放空間に誘引してよい。
【0037】
本発明の方法において、誘引工程において用いられる光照射のための光源は、作物から離脱したコナジラミ類害虫を誘引する作用を有する光源であれば限定されず、かかる光源として、LED光源、蛍光灯、白熱灯、及びナトリウム灯が例示される。本発明の方法における光源として、LED光源は好ましい。
【0038】
本発明の方法において、誘引工程において用いられる光照射のための光源からの光に含まれる光の波長は、作物から離脱したコナジラミ類害虫を誘引する作用を有する波長であれば限定されず、かかる波長として約300~約600nmが例示される。
本発明の方法における光の波長として、日中は、緑色の光に対応する波長に近い約450~約550nmは好ましく、約500~約550nmは好ましい。本発明の方法における光の波長として、夜間は、紫外線に対応する波長に近い約325~約425nmは好ましく、約350~約400nmはより好ましい。
本発明の方法において、日中と夜間における光の波長は相互に異なってよく、例えば日中は約450~約600nmとし、夜間は低波長域の約325~約425nmに調整することは好ましい。
【0039】
誘引工程における光照射に用いられる光の波長は、周囲環境の温度又は光の照度により変更してよい。
光照射のための光源の位置は、作物から離脱したコナジラミ類害虫が誘引される位置であれば限定されず、作物の近傍であってよい。
【0040】
本発明の方法において、誘引工程において用いられる光照射の照射時間は、作物から離脱したコナジラミ類害虫が誘引されえる時間であれば限定されない。
誘引工程において用いられる光照射を行うのは、忌避工程により作物から離脱したコナジラミ類が誘引されるタイミングであれば限定されない。かかるタイミングは、忌避工程が行われている最中であってよいし、ある時間の忌避工程が完了した後であってもよい。
誘引工程において用いられる光照射は、特定の時間にわたり連続しておこなってよいし、光源を点滅させたり停止させる時間帯があってよい。
【0041】
<(3)誘引した害虫を、吸引手段により吸引して捕獲する工程(吸引工程)>
本発明の方法における吸引工程は、上記誘引工程により誘引されたコナジラミ類害虫の成虫を、吸引手段により吸引し捕獲する工程である。
吸引工程において、吸引されたコナジラミ類害虫は、閉鎖された空間や容器に導入し、逃亡しないように捕獲してよい。
【0042】
吸引するため手段は、誘引工程により誘引されたコナジラミ類害虫を吸引し捕獲できる手段であれば限定されず、ブロワーバキューム、モーターによる吸引手段等が例示される。
吸引手段は外部に通じる吸引口を有するところ、吸引口付近における吸引する気流の風速は、接近したコナジラミ類成虫を吸引する風速であれば限定されない。かかる風速として、約0.5~約3m/sが例示され、約0.8~2m/sは好ましい。
【0043】
本発明の方法において、吸引工程において用いられる吸引手段の作動時間は、作物から離脱したコナジラミ類害虫及び/又はさらに誘引されたコナジラミ類害虫が吸引され捕獲される時間であれば、限定されない。
【0044】
<(4)追い出し手段、光照射手段及び吸引手段についてのその他の構成>
本発明の方法における追い出し発生手段、光照射手段及び吸引手段の位置関係は、前記各手段の所望の作用が発揮され、コナジラミ類成虫が捕獲される位置であれば限定されない。吸引手段は、追い出し手段及び/又は光照射手段の近傍に設置してよい。吸引手段の吸引口を作物のほうに向け、吸引手段を追い出し手段の近傍の、ほぼ同じ高さ、やや上方又は下方に、設置することは好ましい。
光照射手段を吸引手段に含み、両手段が一体化した構成であってもよい。
【0045】
前記各手段は、一つの装置に装填されていてよく、又はそれぞれ別個の装置に装填されていてもよい。
本発明の方法において、追い出し手段、光照射手段及び吸引手段を一体として、又は個別に、移動させて、2個体以上の作物全体に対して、前記各手段の作用を適用することは好ましく、圃場又は栽培施設において栽培されている作物の略すべてに、前記各手段の作用を適用することは好ましい。
本発明の方法において、一つの圃場又は栽培施設において、追い出し手段、光照射手段及び吸引手段の一つ又は二つ以上を、複数個を用いてもよい
【0046】
本発明の方法において、追い出し手段、光照射手段及び吸引手段は、作物の成長に応じて、設置される高さや作物からの水平方向の距離を変更して設置されてよい。
【0047】
<(5)本発明の方法が適用される対象>
本発明の方法が適用されるコナジラミ類害虫はとくに限定されず、タバココナジラミ及びオンシツコナジラミが例示される。
コナジラミ類害虫がタバココナジラミ及びオンシツコナジラミである本発明の方法は、好ましい。
本発明の方法が適用される作物は、本発明の効果が奏される作物であれば限定されず、トマト、イチゴ、インゲン、メロン、キュウリ、ナス、ピーマン、パプリカ及びキクが例示される。本発明の方法は、トマトに好ましく適用される。
またさらに本発明の方法によれば、上記作物の苗に付着したコナジラミ類害虫を該苗から離脱させることにより、これらの苗の定植時に本圃内にコナジラミ類害虫が持ち込まれることを抑制して、本圃内におけるコナジラミ類害虫の発生を予防する防除も可能である。
【0048】
本発明の防除方法において設置される超音波発生手段の種類は、所定の超音波を発生させることができるものであればとくに限定されない。また、設置される超音波発生手段の個数は、圃場や栽培施設の広さに応じて適宜決定してよい。また、水平に敷設したレールに沿って物体を移動させることができる搬送装置、台車、ワイヤーに吊るすこと等により超音波発生手段を固定して、圃場又は栽培施設内で移動させてもよい。
【0049】
●2.コナジラミ類を防除する方法
工程(1)~(3)により、前記生息場所である作物に生息するコナジラミ類害虫の個体数が低減されて(工程(4))、コナジラミ類害虫の防除が行われる。
本発明のコナジラミ類を防除する方法は、作物の栽培が開始された後に開始され、コナジラミ類が発生しやすい時期に行ってよい。
【0050】
本発明の防除方法における(3)吸引工程においては、、粘着板、又はサイクロン式もしくは慣性分離、ネット等による捕虫方法により、吸引したコナジラミ類成虫を捕捉してよい。
【0051】
本発明のコナジラミ類を防除する方法は、コナジラミ類の天敵及び天敵微生物による防除と併用してよい。かかる天敵として、捕食性カメムシ類、例えばタバコカスミカメ、カブリダニ類、テントウムシ類、寄生蜂類が例示され、天敵微生物として、バーティシリウム菌、ボーベリア菌等が例示される。
【0052】
●3.コナジラミ類の発生をモニタリングする方法
吸引工程(3)により吸引され捕獲されたコナジラミ類成虫の個体数をカウントすることにより、コナジラミ類害虫の発生をモニタリングすることができる。本発明において、モニタリングとは、コナジラミ類害虫の発生の程度を定量的に特定することを意味する。
【0053】
本発明のコナジラミ類害虫の発生をモニタリングする方法は、作物の栽培が開始された後に開始され、コナジラミ類が発生しやすい時期に行ってよい。コナジラミ類害虫が栽培施設内に生息してないことを確認してから作物の栽培を開始する場合には、作物の栽培が開始される前にモニタリングが開始されることになる。
本発明のモニタリングする方法におけるモニタリングの頻度は、モニタリングにより、コナジラミ類成虫の発生を把握できる頻度であれば限定されず、6回/週又は7回/週以上が例示され、9回/週以上の頻度は好ましく、12回/週以上の頻度はより好ましい。
本発明のモニタリング方法においては、黄色粘着板等の、コナジラミ類の成虫を移動不能に捕獲して捕獲された個体数のカウントを容易にするための手段を用いてよい。
本発明のモニタリング方法において、捕獲されたコナジラミ類成虫の個体数を自動的にカウントする自動カウント手段を備える方法は好ましい。
【0054】
●4.装置 本発明により、本発明の方法を実施するための装置も提供される。
本発明の装置は、以下の少なくとも一つを含む本発明の方法に用いるための装置である:
(1′)追い出し部;
(2′)光照射部(誘引部);及び
(3′)吸引部。
本発明のモニタリング方法を実施するために用いられる装置は、黄色粘着板等の、コナジラミ類の成虫を移動不能に捕獲して捕獲された個体数のカウントを容易にするための手段をさらに含んでよい。
【0055】
本発明の装置は、上記(1′)追い出し部、(2′)光照射部及び(3′)吸引部を個別に具備するシステムであってよく、又はこれらの手段の二つ又は三つ以上を一つの部材に備えてもよい。
本発明の装置のうち、上記(1′)追い出し部101、(2′)光照射部102(マグライト等)及び(3′)吸引部103を一つの部材の備える装置は好ましい(
図1-3)。該装置のうち、自動走行台車145のような自走のための手段をさらに含む装置はより好ましい(
図1-4)。
【0056】
追い出し部101が超音波発生部である場合、超音波発生部が発生させる超音波が伝播する方向の鉛直方向に対する角度を変更するための手段をさらに含む本発明の装置は、コナジラミ類害虫の作物からの離脱をより効率的に行えるため好ましい。
【0057】
本発明の装置において、追い出し部101が超音波発生装置である場合、超音波発生装置は、固定されていなくてよく、鉛直方向及び/又は水平方向に対して、超音波が伝播する角度が変更されるように全体又は部分が回転してよい。
また、前記超音波発生装置は、全体又は部分が、鉛直方向及び/又は水平方向に、移動するものであってよい。
【0058】
本発明の装置のうち、超音波発生装置からの超音波が、作物が栽培されている圃場又は栽培施設の各作物に略均等に達して、該作物に生息しているコナジラミ類成虫のうち、該超音波に暴露される個体が多いほど好ましい。そのため、本発明の装置のうち、超音波発生装置として、その全体もしくは部分が、回転するか、又は鉛直方向及び/又は水平方向に移動するものを備える装置は好ましい。
【0059】
本発明の装置のうち、追い出し部101が超音波発生装置であり、自走する超音波発生装置を用いる方法はとくに好ましい。本発明の装置のうち、超音波発生装置が首振り機能を有し、超音波が伝播する方向の鉛直方向に対する角度が変更される装置もとくに好ましい。
本発明の装置のうち、制御用パソコン141、追い出し部101、誘引部102及び吸引部103等の各部を駆動するためのバッテリー142、排気ダクト143、ボックス144、ならびに自動走行台車145(好ましくはバッテリーを搭載する)等を備えるものは好ましい(
図1-4)。自動化された装置・部材を含む本発明の装置は、ロボットに相当するものである。
【実施例0060】
本発明を、以下の実施例によりさらに詳細に説明する。これらの実施例は、いかなる意味においても本発明を限定するものではない。
[実施例1]タバココナジラミに対する効果(室内試験)
1.目的
トマトの難防除害虫であるタバココナジラミ(コナジラミ)を防除する目的で本発明の装置(超音波集束装置により非接触でトマト株を振動させコナジラミを株から追い出す、追い出されたコナジラミを光により吸引口へ誘引、誘引されたコナジラミを吸引し捕殺)」を試作した(
図1~4)。本試験では、コナジラミに対する本発明の装置の吸引捕殺効果を、「超音波集束による追出効果」、「緑色LED光による誘引効果」、「吸引効果」に分離して検討する。
2.方法
(1) 処理区
下表に示す4種類の処理について、6反復/処理区で試験を行った。
【表1-1】
(2) 試験日時および場所
2021年8月4日 17:10~18:40
静岡県農林技術研究所
(3) 本発明の装置の要素技術
追出:超音波集束装置 20cm角、40kHz、20,30,40cmランダム照射 ピクシーダストテクノロジーズ株式会社
誘引:緑色LED光 ピーク波長520nmのチューブ型ライトおよび懐中電灯型ライト
吸引:吸引部 吸引能力400W
(4) 試験方法
(4-1)本発明の装置は停止状態で試験を行った。
(4-2)9cmガラスシャーレにトマト(桃太郎ホープ)の小葉(長さ7cm程度)を葉裏を上に入れ、タバコココナジラミバイオタイプQ成虫(雌雄、羽化後日数不問)を30匹放飼した。
(4-3)2~4時間後、超音波集束装置から20cmの距離にコナジラミ成虫が寄生したトマト小葉151を、支柱152にクリップで吊るした。その際、集束装置側に葉裏側、小葉葉柄側を上向きとした(
図1A)。
(4-4)コナジラミ成虫数を葉表および葉裏に分けて目視で計数後、直ちに60秒間処理した。
(4-5)処理終了後10秒以内に、葉表および葉裏の残存コナジラミ成虫数を目視で計数するとともに、粘着版に捕殺されたコナジラミ成虫数を計数した。
3.結果
(1) 調査当日の浜松市の日の入り時刻は18:49で、薄暮の時間帯の試験となった。
(2) 対数値{Log(吸引捕殺成虫数+0.5)-Log(供試虫数+0.5)}を用いた二元配置の分散分析の結果、コナジラミ成虫の吸引捕殺率に対し誘引の有無に有意差が認められ(p=0.0066)、交互作用に有意差が認められた(P=0.0368)ため、吸引のみをコントロール群としたDunnett-Hsuによる多重検定を行ったところ、追出+誘引+吸引に有意差が認められた(p=0.0114 表1)。
【表1-2】
本発明の装置の各要素別(追出、誘引、吸引)にタバココナジラミ成虫の吸引捕殺効果を調査したところ、追出と誘引を組み合わせた時だけ、吸引のみと比較してより多くのコナジラミ成虫を吸引捕殺誘殺可能であることが明らかになった。
【0061】
[実施例2]タバココナジラミに対する効果(圃場試験-1)
室内試験において確認された本発明の方法の効果を、圃場において、本発明の装置を用いて、確認した。
1.方法
(1)供試虫
キャベツで累代飼育したタバココナジラミバイオタイプQを用いた。
(2)栽培概要
静岡農林技術研究所(静岡県磐田市)内に設置された単棟パイプハウス1棟を、虫の行き来のない4つのブロックに、防虫網で仕切って分割した。吸引処理を日中1週間に6回行う「吸引区」と吸引処理を行わない「無処理区」を各2区設定し、同処理区はそれぞれ対角に配置した。
試験は春と秋の2回行った。トマト品種は桃太郎ホープを用い、1ブロックあたり15株を土耕栽培した。コナジラミ成虫は概ね7日間隔で4回放飼した。春試験の虫数調査期間は2021年4月21日から7月8日、秋試験は9月14日から11月30日のそれぞれ11週間とした。
(3) 装置の概要
本発明の装置100(害虫吸引機、
図1-4)をバッテリーを搭載した自動走行式台車145の上に設置し、週6回走行させた。基本的な捕虫機構は、非接触で葉に振動を与える追い出し部101(超音波集束装置1台)、誘引部102(タバココナジラミ誘引用緑色LED懐中電灯1台)、吸引部103(緑色ロープ状LEDを巻き付けた吸引口、吸引された成虫を捕獲するボックス)を備え、さらに制御用パソコン141(超音波、写真用)、バッテリー142(吸引等の、台車の移動以外に使用)、排気ダクト143、ボックス144(内部に自動撮影装置及び粘着トラップを備える)で構成される。
超音波集束装置は春試験では約35度仰角に、秋試験では仰角32度、俯角32度に稼働するように設定し、奥行20、30又は40cmで超音波をランダムに照射した。
吸引は電動送風機により横向きに行われ、吸引口入口付近の風速は約1m/だった。吸引された昆虫はフレキシブルダクトを通ってボックス内に送られ、慣性分離によりボックス内に設置された青色粘着版2枚に捕殺された。排気は機体後方へ排出した。
(4)調査方法
ブロック1走行ごとに、青色粘着版2枚に吸引捕殺されたコナジラミ成虫数を目視で計数した。また、トマト株上の虫数調査は、定植直後から約7日間隔で計11回行い、各区全株の上中下位の各1複葉のコナジラミを成幼虫別に計数することにより行った。さらに、収穫適期果実数をブロックごとに計数し、春試験についてはA品率も求めた。「A品」とは、傷がなく大きさが揃って形がよいものを指す。
2.結果
(1)春試験(4-7月)
1)ハウス内気温
平均気温(±標準偏差)は24.9±6.6℃、最高最低気温は44.2℃、10.3℃だった。
2)タバココナジラミ密度
両区ともタバココナジラミ密度は徐々に上昇したが、無処理区における密度上昇は吸引区より早かった(
図2A、Fig.2)。試験終了時のコナジラミ密度は、吸引区4.62頭/複葉に対し無処理区6.10頭/複葉で、吸引区は無処理区の75.7%だった。吸引区の密度は、差が表れ始めた放飼開始5週後(5/26)から試験終了(7/8)まで、無処理区に対する平均密度指数で49.2に減少した。
3)本発明の装置に捕獲されたタバココナジラミ成虫数
1ブロック当たりの捕獲数はそれぞれ207頭と237頭だった。
(2) 秋試験(9-11月)
1)ハウス内気温
平均気温(±標準偏差)は21.1±8.3℃、最高最低気温は44.0℃、4.0℃だった。
2)タバココナジラミ密度
タバココナジラミ密度は両区ともに徐々に上昇した(
図2B)。試験終了時のコナジラミ密度は、吸引区24.4頭/複葉に対し無処理区27.0頭/複葉で、吸引区は無処理区の90.3%だった。吸引区の密度は、差が表れ始めた放飼開始5週後(10/20)から試験終了(11/30)まで、無処理区に対する平均密度指数で71.2に減少した。
3)害虫吸引台車に捕獲されたタバココナジラミ成虫数
1ブロック当たりの捕獲数はそれぞれ441頭と310頭だった。
4) 平均累積収穫果数と重量
虫数試験終了まで収穫果実はなく、12/24から2/4に着色した果実を収穫した。その結果、平均累積収穫果数および累積重量は、吸引区97.5個19.0kg、無処理区53.5個8.8kgで、吸引区の方が累積重量あたり約2.2倍多かった。
(3)統計処理
タバココナジラミ密度のGLMMによる解析結果をTable1(表2)に示す。処理の効果は有意にコナジラミ成幼虫数に影響し、吸引区で減少した。また、処理の効果は有意にトマト累積重量に影響し、吸引区で増加した(GLMM, P=2.88E-07)。
【表2】
3.考察
春試験と秋試験という異なる環境条件下でコナジラミ成虫は吸引捕殺され、また、トマト複葉あたりのコナジラミ密度は吸引区の方が無処理区より有意に低かった。以上より、本発明の方法及び本発明の装置が、圃場においてもコナジラミを有効に防除できることが明らかになった。
化学的防除による環境負荷増大や薬剤抵抗性害虫の発生、輸入農産物の残留農薬問題などによる消費者の減農薬志向により、農薬のみに頼らない総合防除の重要性が増している(浦上2004)。それに伴い、物理的防除法の研究・開発が求められていること(浦上2004)を考慮すると、本発明の方法及び本発明の装置は、物理的防除法の1つの柱になり得る。
【0062】
[実施例3]タバココナジラミに対する効果(圃場試験-2)
本発明の方法及び装置の効果を、圃場においてさらに確認した。天敵への影響及び天敵の併用の効果の確認も行った。
1.方法
追出用の超音波集束装置、誘引用の LED、吸引機を複合した害虫防除装置(本発明の装置)を用いて静岡県農林技術研究所内のトマト温室でコナジラミ類の防除効果試験(週 6 回、トマト 1 株あたり 10 秒(片面 5 秒処理×両面))を行った。
2.結果
本発明の方法を実施した区においては、無処理区と比較して増殖抑制効果がみられた(MANOVA 検定、5%水準で有意;
図3A)。
また、タバココナジラミの天敵であるタバコカスミカメとの併用効果についても試験したところ、本発明の装置単独区よりも天敵併用区で増殖抑制効果が高く、天敵単独区で最もタバココナジラミ防除効果が低かった(
図3B)。
さらに本複合機を個別要素(追出用の超音波集束装置、誘引用の LED、吸引機)に分けて試験したところ、「追出+誘引+吸引」の処理区で捕殺率が高かった(2WAY-ANOVA、誘引による効果および誘引×追出による効果について 5%水準で有意;
図3C)。
これらの結果から、本発明の方法及び本発明の装置のコナジラミ類害虫を有効に防除できることが一層明らかになった。また、本発明の方法においては、コナジラミ類の成虫を追出す工程(忌避工程)、誘引工程及び吸引工程が、相乗的に奏功することも明らかになった。
また、本発明の方法及び装置は天敵をほとんど捕虫せず、天敵との併用効果を有することが示された。
【0063】
[実施例4]タバココナジラミに対する効果(圃場試験-3)
本発明の方法及び装置の天敵への影響及び天敵の併用の効果についてのさらなる確認を行った。
(1) 栽培、放飼条件
試験面積 33m
2/区
定植本数 14株/区
試験時期 1作目:2021年4/21定植、7/8終了、2作目:2022年4/19定植、7/29終了
トマト品種 桃太郎ホープ(TYLCV耐病性)
害虫放飼 タバココナジラミ(Q)を1頭/株、定植日から1週間間隔で、
1作目4回、2作 目5回放飼
天敵放飼 0.5頭/株、タバコカスミカメを苗放飼、1週間後にトマト株元へ同数放飼
天敵温存植物 タバコカスミカメ初回放飼日に、栽培ベッド端へクレオメ1株/区を定植
(2) 本発明の装置(ロボット)の概要と稼働状況
定植翌日から週6回稼働、株あたり10秒稼働(株両側から5秒ずつ)
(3) 調査
毎週 生長点+3複葉(上中下位葉)の虫数を成幼虫別に計数
(4) 結果
併用区は本発明のロボット単独区および天敵単独区に比べコナジラミ数を抑制可能だった(
図4A)。なお、天敵であるタバコカスミカメは1匹も吸引されなかった。
天敵単独区はコナジラミ類害虫の生息密度が増加し、防除効果がみられないまま、根腐病発病の発生により試験を終了した(
図4B)。
本発明の方法及び装置は天敵をほとんど捕虫せず、天敵との併用効果を有することが確認された。
【0064】
[実施例5]タバココナジラミに対する効果(圃場試験)
本発明の方法及び装置における誘引手段に用いられる光源について、光の波長が効果に及ぼす影響についての確認を行った。
1.方法
静岡県農林技術研究所の2棟のトマト(品種:桃太郎ホープ)栽培ハウス内で、LED照射光を用いたタバココナジラミの誘引試験を夏と冬に実施した(夏試験:ガラスハウス、冬試験:ビニールハウス)。 ハウス内の気温は、夏試験では、150cm高、冬試験では140cm高をおんどとり(TR52i、T & D Corporation, Nagano)を用いて10分間隔で測定した。
照射光源として7種類のLEDパネル(Table3(表3)、
図5A)と1台の無照射のLEDパネル(以下,無照射)の合計8台を使用してタバココナジラミの誘引試験を実施した。
【表3】
照射光源は、外側が黒色であり内側が白色の略立方体形状の筒163(20×20×20cm)の内側に表3に示したいずれかのLEDパネル(165×165×35mm、受光面の大きさは152×152mm)を設置し、上面を石英すりガラス162(20×20cm)で覆い、その中央部に透明の粘着シート161を、粘着面を上にして設置した。
LEDパネルのピーク波長の光強度は7×10
16photons/cm
2・secであった。
拡散板を通した照射光によるB. tabaci誘殺数を調査した(Fig.1(
図5B))。トマト圃場では,この拡散板を組み合わせた 8台のパネルを約75 cm間隔で畝と平行に,同じ高さ(地上高約 30 cm)で、夏試験では畝から約50cm、冬試験では約30cm離れた位置に1列に並べ、照射面が真上になるようにした。拡散板の上に透明粘着シートを粘着面を上にして置き、B. tabaciを誘殺した。試験の前に、各パネルのピーク時のフォトン数が等しくなるように、分光器を使用して調整した。 拡散板から1cm離れた位置に、パネルと受光部が一直線になるよう受光部を固定し、透明粘着シートを拡散板の上に置いた状態でピーク波長のフォトン数を7× 10
16photons/cm
2 ・secに調整した。
試験は、昼間(9時~15時)と夜間(21~翌3時)にそれぞれ6時間連続照射した後に透明粘着シートに誘殺されたB. tabaci個体数を調査した。なお、冬試験では、夜間照射を、室内気温が13℃を下回ると加温するよう設定した「夜間加温」と、夜間加温しない「夜間無加温」に分けて行った。夏試験は2020年8月12~9月4日に、冬試験は、2022年2月7~3月3日に行った。試験期間中パネルの並び順を無作為に変えて4回実施した。
統計計算には JMP10.0.2を使用した.B. tabaciのトラップへの誘殺数は、対数変換 (log10(x+0.5))後に統計解析した。 LED照射光による各試験のトラップへの誘殺数は、波長を要因、実施回を変量効果とする一元配置分散分析を行い、有意な差が見られた場合はTukeyのHSD検定を実施した。
2.結果
夏試験(昼間照射および夜間照射)
試験期間中のハウス内気温をTable2(表4)に示した。拡散板を通したLED照射光へ誘引され、粘着版に捕獲されたB. tabaci数をTable3(表5)に示した。
昼間照射では、捕獲数は525 nm(緑色)で最も多く(p<0.05, Tukey HSD検定)、次いで570nm(黄色)、500nm(青緑色)の順に続いた。夜間照射では、捕獲数は375 nm(UVA)で最も多く(p<0.05, Tukey HSD検定)、次いで570nm(黄色)、660nm(赤色)だった。昼間照射では、夜間照射で最も多く捕獲された375nm(UVA)にB. tabaciはほぼ捕獲されず、反対に夜間照射では、昼間照射で最も多く捕獲された525nm(緑色)で捕獲された数は少なかった(Table2(表4))。
【表4】
【表5】
【0065】
冬試験(昼間照射、夜間加温照射、夜間無加温照射)
試験期間中のハウス内気温を第1表(表6)に示した。拡散板を通したLED照射光へのB. tabaciの誘殺数をTable5(表7)に示した。 昼間照射では525 nm(緑)のみ誘殺された(p<0.05, Tukey HSD Test)。夜間照射では、加温の有無に関係なくほとんど捕獲されなかった(p<0.05, Tukey HSD Test)。
【表6】
【表7】
【0066】
3.考察
本実験は、上記冬試験における条件のように外気温が比較的低い温室条件下においても、B. tabaciの成虫が、日中に525nmの緑色LED光に誘引されやすく、本発明の方法による防除が可能であることが明らかになった。また、上記夏試験における条件のように気温が十分高い時期においては、日中の525nmの緑色LED光のみならず、夜間における375nmのUV光にも、B. tabaciの成虫は誘引されやすく、本発明の方法による防除効果は一層高いことが明らかになった。
結論として、日中の緑色LED光、および比較的気温の高い時期における夜間のUVLED光照射は、ハウスに侵入したB. tabaci成虫に対する防除の、より有効な選択肢となりえるといえる。
【0067】
[実施例6]モニタリング-1
本発明のモニタリングの方法の効果を、本発明の装置を用いて圃場において確認した。
実施例2に記載の静岡県農林技術研究所でのトマト春作および秋作試験(いずれも2反復の栽培区を設定)において、本発明の装置をタバココナジラミ放飼後から毎週(週6回稼働、1回あたり10秒/l株)稼働させた。
その結果、春作、秋作試験ともに両栽培区でタバココナジラミを発生初期から回収(すなわち検出)できた(
図6)。本発明のモニタリングの方法により、コナジラミ類害虫の発生の程度を特定することができることが明らかになった。
【0068】
[実施例7]モニタリング-2(従来技術に対する性能の評価)
本発明のモニタリングの方法及び装置の効果について、圃場におけるさらなる確認を、行った。モニタリングの精度は、従来技術による結果に照らして評価した。
1.方法
供試虫:タバココナジラミ(バイオタイプQ)
供試植物:トマト(品種:桃太郎ホープ)
コナジラミ類成虫(タバココナジラミ)に対する本発明の低密度時におけるモニタリング性能を調べた。温室内に4つの網室を設け、各部屋に15cm径ポリポットに定植したトマト10株を導入した。試験区の配置は
図7Aに示すとおりとした。各区に週1回、タバココナジラミ成虫を同数ずつ放飼した。4つの試験区の設計は3つの本発明の装置を用いた処理区(稼働回数により6回/週、9回/週、12回/週の3区を設定)及び対照区(黄色粘着板を1枚設置)とした。本発明の装置による1回あたりの処理方法は1株あたり10秒間の処理とし、トマト畝の片面のみとした。処理はすべて日中(9:00~18:00)に行った。処理後に回収されたコナジラミ類を計数した。週1回、全トマト株において上位・中位・下位から任意の3枚の葉に定着しているタバココナジラミ成虫数および幼虫数をカウントした。8月~11月にかけて約1か月間の試験を4回繰り返し、8、9、10月の試験ではタバココナジラミ成虫の放飼密度を10匹/部屋/週とし、11月の試験では50匹/部屋/週とした。
対照区として、黄色粘着板を用い、本発明の装置を用いずにモニタリングする区を設けた。
2.結果
8、9、10月の試験結果をまとめると、6回/週、9回/週および12回/週の処理では検出率(全稼働週数(11週)に対する検出が認められた週数)がそれぞれ45%、36%および55%となった(
図7B)。
8、9、10、11月の試験結果について葉3枚の見取り調査結果との相関をそれぞれ求めたところ、9回/週区および12回/週区において相関関係が確認できた(p<0.05)。12回/週区での回収数は対照区での誘殺数と比較して差がなかったことから(p>0.05)、12回/週の処理によるモニタリングの精度は、従来からモニタリングに用いられている黄色粘着板を用いる手法と同等であることが明らかになった(
図7C)。
本発明によれば、地域を問わず利用可能な、農園芸作物を加害するコナジラミ類の防除に有効な新規技術が提供される。したがって本発明は、害虫防除産業及び関連産業の発展に寄与するところ大である。