(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024142581
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】磁気マーカの検出方法、及び検出システム
(51)【国際特許分類】
G05D 1/43 20240101AFI20241003BHJP
【FI】
G05D1/02 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023054771
(22)【出願日】2023-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000116655
【氏名又は名称】愛知製鋼株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129654
【弁理士】
【氏名又は名称】大池 達也
(72)【発明者】
【氏名】沼野 貴之
(72)【発明者】
【氏名】浦川 一雄
(72)【発明者】
【氏名】大石 大
(72)【発明者】
【氏名】安藤 孝幸
(72)【発明者】
【氏名】山本 道治
【テーマコード(参考)】
5H301
【Fターム(参考)】
5H301AA02
5H301AA09
5H301BB05
5H301CC03
5H301CC06
5H301EE06
5H301EE12
5H301GG14
5H301GG17
(57)【要約】
【課題】走路の曲率に関わらず磁気マーカを確実性高く検出するための磁気マーカの検出方法を提供すること。
【解決手段】車両2が移動する床面に配置された磁気マーカ10の検出方法であって、車両2には、車幅方向に沿って複数の磁気センサCnが配列された磁気センサユニット3が設けられており、車幅方向に直交する車両の前後方向VLが車両の進行方向MDから角度的にずれたとき、磁気センサユニット3を仮想的に回転させる計算処理を実行することで、複数の磁気センサCnに相当する複数の仮想センサKnが、車両2の進行方向MDに対して直交する方向に沿って配列された仮想ユニット3Kを生成し、仮想ユニット3Kの複数の仮想センサKnによるセンサ信号を利用して磁気マーカ10を検出する。
【選択図】
図22
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両が移動する床面あるいは路面に配置された磁気マーカの検出方法であって、
車両には、車幅方向に沿って複数の磁気センサが配列された磁気センサユニットが設けられており、
前記車幅方向に直交する車両の前後方向が車両の進行方向から角度的にずれたとき、
前記磁気センサユニットを仮想的に回転させる計算処理を実行することで、前記複数の磁気センサに相当する複数の仮想センサが、車両の進行方向に対して直交する方向に沿って配列された仮想ユニットを生成し、
当該仮想ユニットの複数の仮想センサによるセンサ信号を利用して磁気マーカを検出する、磁気マーカの検出方法。
【請求項2】
請求項1において、前記計算処理は、前記複数の磁気センサによるセンサ信号の位相を調整することで前記仮想ユニットを生成する処理である、磁気マーカの検出方法。
【請求項3】
請求項2において、前記計算処理では、前記センサ信号あるいは当該センサ信号の加工信号の経時変化あるいは車両が移動した距離に応じた変化におけるピークの時点が一致するように、前記複数の磁気センサによるセンサ信号の位相を調整する、磁気マーカの検出方法。
【請求項4】
請求項3において、前記加工信号は、前記センサ信号に対し、時間的あるいは距離的な微分処理を1回または複数回に亘って施して得られる信号である、磁気マーカの検出方法。
【請求項5】
車両が移動する床面あるいは路面に配置された磁気マーカの検出システムであって、
一直線上に沿って複数の磁気センサが配列されていると共に、当該複数の磁気センサの配列方向が車幅方向に沿うように車両に組み付けられた磁気センサユニットと、
前記車幅方向に直交する車両の前後方向が車両の進行方向から角度的にずれたとき、前記磁気センサユニットを仮想的に回転させる計算処理を実行することで、前記複数の磁気センサに相当する複数の仮想センサが、車両の進行方向に対して直交する方向に沿って配列された仮想ユニットを生成する回路と、
当該仮想ユニットの複数の仮想センサによるセンサ信号を利用して磁気マーカを検出する回路と、を備える磁気マーカの検出システム。
【請求項6】
請求項5において、前記仮想ユニットを生成する回路が実行する前記計算処理は、前記複数の磁気センサによるセンサ信号の位相を調整することで前記仮想ユニットを生成する処理である、磁気マーカの検出システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両が移動する路面あるいは床面に配設された磁気マーカを利用する車両用のシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、工場や物流倉庫などにおいて、自動搬送車が広く活用されている。自動搬送車を自動走行させるためのシステムとして、経路に沿って間隔を空けて配置された磁気マーカを利用するシステムが提案されている(例えば特許文献1参照。)。このシステムでは、経路に沿って車両を走行させるための目標の軌跡が設定され、車両側には、目標の軌跡に対する制御点が設定される。車両は、目標の軌跡に対する制御点の横方向の偏差をゼロに近づけるように操舵される。
【0003】
このシステムを構成する車両には、車幅方向に沿って複数の磁気センサが配列された磁気センサユニットが設けられている。磁気センサユニットは、磁気マーカを検出し、その磁気マーカに対する横方向の偏差を計測する。制御点の横方向の偏差は、磁気マーカに対する横方向の偏差に基づいて演算される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記従来のシステムでは、目標の軌跡の曲率が大きい急なカーブを車両が通過する際、磁気センサユニットが斜めの状態で磁気マーカを通過する状況が生じ、このような状況に起因して磁気マーカの検出が不安定になるおそれがある。
【0006】
本発明は、上記の従来の問題点に鑑みてなされたものであり、走路の曲率に関わらず磁気マーカを確実性高く検出するための磁気マーカの検出方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様は、車両が移動する床面あるいは路面に配置された磁気マーカの検出方法であって、
車両には、車幅方向に沿って複数の磁気センサが配列された磁気センサユニットが設けられており、
前記車幅方向に直交する車両の前後方向が車両の進行方向から角度的にずれたとき、
前記磁気センサユニットを仮想的に回転させる計算処理を実行することで、前記複数の磁気センサに相当する複数の仮想センサが、車両の進行方向に対して直交する方向に沿って配列された仮想ユニットを生成し、
当該仮想ユニットの複数の仮想センサによるセンサ信号を利用して磁気マーカを検出する、磁気マーカの検出方法にある。
【0008】
本発明の一態様は、車両が移動する床面あるいは路面に配置された磁気マーカの検出システムであって、
一直線上に沿って複数の磁気センサが配列されていると共に、当該複数の磁気センサの配列方向が車幅方向に沿うように車両に組み付けられた磁気センサユニットと、
前記車幅方向に直交する車両の前後方向が車両の進行方向から角度的にずれたとき、前記磁気センサユニットを仮想的に回転させる計算処理を実行することで、前記複数の磁気センサに相当する複数の仮想センサが、車両の進行方向に対して直交する方向に沿って配列された仮想ユニットを生成する回路と、
当該仮想ユニットの複数の仮想センサによるセンサ信号を利用して磁気マーカを検出する回路と、を備える磁気マーカの検出システムにある。
【発明の効果】
【0009】
本発明の技術的特徴のひとつは、車両の前後方向と車両の進行方向との間に角度的にずれが生じたときの処理にある。このような角度的なずれが生じると、複数の磁気センサの配列方向が進行方向に対して直交せず、斜交する状態となる。
【0010】
本発明の磁気マーカの検出方法及び検出システムでは、上記の角度的なずれが生じたとき、磁気センサユニットを仮想的に回転させる計算処理が実行され、仮想ユニットが生成される。この仮想ユニットは、複数の仮想センサが車両の進行方向に対して直交する方向に沿って配列された仮想的な磁気センサユニットである。そして、本発明の磁気マーカの検出方法及び検出システムでは、複数の仮想センサによるセンサ信号を利用して磁気マーカを検出するための処理が実行される。
【0011】
本発明の磁気マーカの検出方法及び検出システムによれば、車両の前後方向と車両の進行方向との角度的なずれの影響を抑制できる。この検出方法及び検出システムによれば、車両の前後方向と車両の進行方向との間に角度的なずれが生じた場合であっても、車両の前後方向と車両の進行方向とが一致している場合と同様、確実性高く磁気マーカを検出できる。車両の前後方向が車両の進行方向から角度的にずれる状況は、例えば、車両が急なカーブを走行している最中に生じる可能性がある。本発明の磁気マーカの検出方法及び検出システムによれば、車両が走行する経路の曲率によらず、確実性高く磁気マーカを検出できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図6】磁気マーカの真上を通過する磁気センサによるセンサ出力の経時変化(進行方向の変化、距離に応じた変化)を例示するグラフ。
【
図7】磁気マーカの真上を通過する磁気センサの縦差分値(時間差分、進行方向の差分)の経時変化を例示するグラフ。
【
図8】磁気センサC1~C15によるセンサ出力の分布の近似曲線を例示するグラフ。
【
図9】磁気センサC1~C15の横差分値(車幅方向の差分)の分布の近似曲線を例示するグラフ。
【
図10】車両(先頭車両)の前後方向VLが進行方向MDと一致している状況を例示する図。
【
図11】車両の前後方向VLが進行方向MDと一致する状況における磁気センサ毎の縦差分値の変化を示すグラフ。
【
図12】車両の前後方向VLが進行方向MDと一致する状況における各磁気センサの縦差分合計値の変化を示すグラフ。
【
図13】車両の前後方向VLが進行方向MDと一致しない走行状況の説明図。
【
図14】車両の前後方向VLが進行方向MDと一致しない状況下で、磁気センサユニットが磁気マーカを通過する様子の説明図。
【
図15】車両の前後方向VLが進行方向MDと一致しない状況における各磁気センサの縦差分値の変化を示すグラフその1。
【
図16】車両の前後方向VLが進行方向MDと一致しない状況における各磁気センサの縦差分合計値の変化を示すグラフその1。
【
図17】車両の前後方向VLが進行方向MDと一致しない状況における各磁気センサの縦差分値の変化を示すグラフその2。
【
図18】車両の前後方向VLが進行方向MDと一致しない状況における各磁気センサの縦差分合計値の変化を示すグラフその2。
【
図19】車両の前後方向VLが進行方向MDと一致しない状況において磁気センサユニットが計測する横偏差の説明図。
【
図20】各磁気センサの縦差分値の位相を調整する方法を説明する図。
【
図21】位相調整後の各磁気センサの縦差分値の変化を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の実施の形態につき、以下の実施例を用いて具体的に説明する。
(実施例1)
本例は、磁気マーカ10が配列された走路100に沿って車両2を走行させるための制御システム11に関する例である。特に、この制御システム11は、磁気マーカ10の検出方法に技術的な特徴のひとつを有している。
【0014】
本例の磁気マーカ10の検出方法では、走路100の方向に対して直交する仮想ユニット3K(
図22を参照して後述する。)が想定される。仮想ユニット3Kによれば、走路100の方向と車両2の前後方向とが一致しない状況下においても、磁気マーカ10を確実性高く検出できる。本例の検出方法によれば、直線路100Sであるか曲線路100Cであるかに関わらず、磁気マーカ10を精度高く検出でき、磁気マーカ10に対する横方向(車幅方向)の偏差(磁気マーカ10に対する横偏差という。)を精度高く計測できる。この内容について、
図1~
図22を用いて説明する。
【0015】
車両2の走行環境は、例えば、工場や物流倉庫などの屋内環境や、工場などの敷地内の屋外環境など、である。走路100(
図1)は、例えば、幅約2mの一方通行のオーバル形状の周回走路である。走路100は、直線路100Sと、曲線路100Cと、を組み合わせて構成されている。本例の構成では、走路100の中央に沿うように磁気マーカ10が配列されている。隣り合う磁気マーカ10の間隔は、例えば2mなどの一定の間隔となっている。なお、磁気マーカ10の間隔が一定であることは必須の要件ではない。
【0016】
磁気マーカ10は、
図2のごとく、直径100mm、厚さ2mmのシート状をなす磁石である。磁気マーカ10は、走路100の表面をなす路面に貼り付け可能である。個片状の磁気マーカ10は、磁気テープと比べて床面等への貼付けが容易である。個片状の磁気マーカ10は、曲線状の貼付けが難しく皺などを生じ易い磁気テープと比べ、曲線路への敷設が容易である。さらに、磁気マーカ10は、貼り換えが容易であるので、ルート変更など走路100の形状変更への対応が容易である。
【0017】
磁気マーカ10をなす磁石は、例えば、フェライトラバーマグネットである。フェライトラバーマグネットは、磁性材料である酸化鉄の磁粉を基材である高分子材料中に分散させた永久磁石である。なお、シート状の磁気マーカ10に代えて、柱状の磁気マーカを採用しても良い。柱状の磁気マーカの場合、路面に穿設された孔に収容すると良い。
【0018】
次に、本例の制御システム11を構成する車両2について説明する。車両2は、
図3のごとく、駆動輪を備える先頭車両21と、この先頭車両21に牽引される四輪の台車22と、により構成されている。先頭車両21の寸法は、長さ2m、幅1mである。台車22の寸法も、長さ2m、幅1mである。
【0019】
先頭車両21は、操舵輪である左右一対の前輪211と、駆動輪である後輪212と、を有している。後輪212は、回転軸の軸方向が固定された固定輪である。先頭車両21の後部には、台車22を牽引するための牽引フック219が設けられている。台車22は、先頭車両21あるいは先行する台車22に連結するための連結バー220を有すると共に、後続する台車22を連結するための連結フック229を備えている。台車22は、左右一対の従動輪221を前部に、左右一対の固定輪222を後部に備えている。先頭車両21には、複数台の台車22を連結可能である。
【0020】
先頭車両21のシステム構成について
図4を参照して説明する。先頭車両21は、磁気検出を行う磁気センサユニット3、車両2の走行を制御する制御ユニット40、慣性航法を実現するためのIMU(Inertial Measurement Unit)42、後輪212を回転駆動するモータユニット44、車輪速ユニット442、操舵輪である前輪211を操舵する操舵ユニット46、地図データベース48、などを含んで構成されている。
【0021】
磁気センサユニット3(
図5)は、複数の磁気センサCn(nは1~15の整数)が一直線上に沿って配列された棒状のユニットである。磁気センサユニット3は、車幅方向に沿うように取り付けられる(
図3参照。)。本例の構成では、後輪軸212A(
図3)よりも後ろ側に当たる先頭車両21の最後尾に磁気センサユニット3が組み付けられている。なお、走路100(
図1)の床面を基準とした磁気センサユニット3の取り付け高さは100mmである。
【0022】
磁気センサユニット3(
図5)は、一直線上に配列された15個の磁気センサCnと、図示しないCPU等を内蔵した検出処理回路32と、を備えている。棒状の磁気センサユニット3では、その長手方向に沿って15個の磁気センサCnが5cm間隔で配列されている。車幅方向に沿って磁気センサユニット3が先頭車両21に取り付けられたとき、15個の磁気センサCnが車幅方向(横方向)に沿って一直線上に配列されることになる。本例では、車両2(先頭車両21)において、磁気センサC1が左側に位置し、磁気センサC15が右側に位置している。
【0023】
磁気センサCnは、公知のMI効果(Magnet Impedance Effect)を利用して磁気を検出するセンサである。MI効果は、アモルファスワイヤなどの感磁体のインピーダンスが外部磁界に応じて敏感に変化するという磁気的な効果である。磁気センサCnは、直線状のアモルファスワイヤの長手方向に磁気的な感度を有している。
【0024】
各磁気センサCnでは、直線状のアモルファスワイヤなどの感磁体(図示略)が1本ずつ組み込まれている。各磁気センサCnは、感磁体の軸方向に沿って作用する磁気成分の検出が可能である。磁気センサユニット3では、感磁体の軸方向が一致するように磁気センサC1~15が組み込まれている。磁気センサユニット3は、各磁気センサCnが鉛直方向の磁気成分を検出できるよう、先頭車両21に取り付けられる。
【0025】
磁気センサユニット3の検出処理回路32(
図5)は、磁気マーカ10を検出するためのマーカ検出処理を実行する演算回路である。検出処理回路32は、図示は省略するが、各種の演算を実行するCPU(central processing unit)、ROM(read only memory)やRAM(random access memory)などのメモリ素子等を利用して構成されている。RAMの記憶領域には、所定期間に亘る磁気センサC1~C15のセンサ出力を格納するための15チャンネルのデータバッファが設けられている。
【0026】
検出処理回路32は、各磁気センサCnが出力するセンサ信号(鉛直方向の磁気計測値、以下、センサ出力。)を3kHzの周波数で取得する毎に、マーカ検出処理を実行する。検出処理回路32は、マーカ検出処理の検出結果(マーカ検出結果)を制御ユニット40に入力する。マーカ検出結果には、磁気マーカ10が検出された旨や、上記の磁気マーカ10に対する横偏差、等の情報が含まれる。
【0027】
検出処理回路32は、磁気マーカ10を検出し、磁気マーカ10に対する横偏差を計測する機能を備えている。磁気マーカ10に対する横偏差は、磁気センサユニット3の中央に位置する磁気センサC8を基準として計測される。検出処理回路32は、上記のデータバッファから読み出した磁気センサC1~C15のセンサ出力に対してマーカ検出処理を適用する。
【0028】
検出処理回路32は、以下の各回路としての機能を備えている。なお、本例では、これらの回路を磁気センサユニット3に設けているが、これらの回路を外部の演算処理ユニットに設けても良い。
【0029】
(1)仮想ユニットを生成する回路:走路100の方向に対して直交する前記仮想ユニット3Kを計算処理上で生成する。この回路は、磁気センサC1~C15に対応する15チャンネルのセンサ出力について、各チャンネルの位相を調整することで仮想ユニット3Kを生成する。
(2)磁気マーカを検出する回路:仮想ユニット3Kを構成する仮想センサKn(nは1~15の整数)によるセンサ信号を利用して磁気マーカ10を検出する。なお、走路100の方向に対して磁気センサユニット3が直交する状況であれば、仮想ユニット3Kを生成することなく、磁気センサCnによるセンサ信号を利用して磁気マーカ10を検出することが可能である。
【0030】
制御ユニット40は、先頭車両21の走行を制御するユニットである。制御ユニット40は、操舵ユニット46やモータユニット44を介して前輪211の舵角や後輪212の回転角速度を制御する。制御ユニット40は、各種の演算を実行するCPU、ROMやRAMなどのメモリ素子、I/O(Input/Output)回路、等を含めて構成された電子回路(図示略)を備えている。
【0031】
制御ユニット40には、磁気センサユニット3、IMU42、操舵ユニット46、モータユニット44、地図データベース48、後輪212の回転に応じてパルスを出力する車輪速ユニット442が接続されている。制御ユニット40は、車輪速ユニット442が出力するパルスを利用して車速を特定する。
【0032】
地図データベース48は、走路100の形状を表すマップデータを記憶するデータベースである。マップデータには、走路100に配設された磁気マーカ10がひも付けられている。さらに、マップデータ上では、車両2側に予め設定された制御点を通過させるための目標の軌跡が設定されている。マップデータを参照すれば、走路100の進行方向における各位置において、目標の軌跡を特定可能である。
【0033】
なお、本例の構成では、磁気マーカ10に対する横偏差を計測するための磁気センサユニット3が先頭車両21の後端に配置されている一方、磁気センサユニット3よりも前方に制御点が設定される。本例の構成では、目標の軌跡に対する制御点の横方向のずれ量(横偏差)が制御の対象となる。
【0034】
制御ユニット40は、操舵ユニット46やモータユニット44に対し、制御目標値を入力する。操舵ユニット46に対する制御目標値は、前輪211の舵角の制御目標である指示舵角である。モータユニット44に対する制御目標値は、後輪212の回転角速度の制御目標である指示回転角速度である。
【0035】
制御ユニット40は、以下の各回路としての機能を備えている。
(1)位置推定回路:車両位置を推定する回路。
(2)横偏差特定回路:目標の軌跡に対する制御点の横方向の偏差(制御点の横偏差という。)に変換する回路。
(3)車両制御回路:車両2の走行を制御する回路。
【0036】
位置推定回路は、磁気マーカ10の検出結果(マーカ検出結果)あるいはIMU42が推定する相対位置等を利用して車両位置を推定する。位置推定回路は、磁気マーカ10が検出されると、その磁気マーカ10の敷設位置に基づき、磁気マーカ10に対する横偏差の分だけ位置をずらすことで車両位置を測位する。また、位置推定回路は、新たな磁気マーカ10が検出されるまでの間は、慣性航法により車両位置を推定する。位置推定回路は、直前の磁気マーカ10の検出時に測位された車両位置を基準として、IMU42が推定する相対位置の分だけずらした位置を、車両位置として推定する。
【0037】
横偏差特定回路は、磁気マーカ10に対する横偏差を、目標の軌跡に対する制御点の横偏差に変換する。磁気マーカ10に対する横偏差は、磁気センサユニット3が計測する磁気マーカ10に対する横ずれ量である。
【0038】
車両制御回路は、制御点の横偏差に応じた前輪211の舵角制御や、速度を調節する車速制御、等の車両制御を実行する。車両制御回路は、制御点の横偏差をゼロに近づけるように前輪211を操舵すると共に、速度を調節する。制御システム11では、このようにして目標の軌跡に制御点を沿わせるように車両2が制御される。
【0039】
以上のように構成された制御システム11は、磁気マーカ10を検出するための磁気検出システム1に技術的特徴を有している。磁気検出システム1は、磁気センサユニット3および慣性航法のためのIMU42を含めて構成されている。磁気センサユニット3は、磁気マーカ10を磁気的に検出するためのセンサユニットである。IMU42は、車両2の前後方向や車両2の進行方向を計測可能な計測ユニットである。
【0040】
磁気センサユニット3の検出処理回路32は、IMU42による計測結果を取得して各種の演算処理を実行する。検出処理回路32は、IMU42による計測結果に基づき、車両2の前後方向と、車両2の進行方向と、の角度的なずれを特定可能である。なお、本例の構成は、車両2の進行方向が、走路100の方向に一致していることを前提とする構成である。本例の構成に代えて、例えば、マップデータを参照して走路100の方向を読み出し、車両2の前後方向と走路100の方向との角度的なずれを特定することも良い。
【0041】
以下、(a)磁気マーカの基本的な検出方法、(b)基本的な検出方法の課題、(c)本例の磁気マーカの検出方法、を順番に説明する。
【0042】
(a)磁気マーカの基本的な検出方法
上記の通り、磁気センサユニット3は、3kHzの周波数でマーカ検出処理を実行する。磁気センサCnは、鉛直方向に作用する磁気成分を計測可能である。例えば磁気センサCnと同じ仕様の一の磁気センサが磁気マーカ10の真上を通過する状況を想定する。当該一の磁気センサによる鉛直方向の磁気計測値であるセンサ出力は、例えば
図6に示すように、磁気マーカ10の手前から磁気マーカ10に近付くにつれて次第に大きくなって磁気マーカ10の真上でピークとなり、磁気マーカ10から遠ざかるにつれて再度、減少に転じる。
【0043】
磁気センサ10の検出に際して、当該一の磁気センサのセンサ出力(
図6)についての時間差分である縦差分値が有用である。当該一の磁気センサのセンサ出力に基づく縦差分値(以下、適宜、一の磁気センサの縦差分値という。)は、
図7のごとく磁気マーカ10の前後で正負が反転すると共に、磁気マーカ10の真上の位置でゼロを交差するように時間的に変化する。縦差分値の負から正への増加あるいは縦差分値の正から負への減少に応じて正負が反転するゼロクロスは、当該一の磁気センサが磁気マーカ10を通過したタイミングを示す重要な指標となる。
【0044】
ここで、センサ出力の時間的な変化は、車両2の走行距離に応じたセンサ出力の変化、あるいは進行方向におけるセンサ出力の変化、に相当する。本例の時間差分は、例えば、磁気センサユニット3が第1の地点に到達した時点でのセンサ出力と、第1の地点から数cmなど一定の距離を介在して離間する第2の地点に磁気センサユニット3が到達した時点でのセンサ出力と、の差分であること、を意味している。時間差分は、距離的な差分、進行方向における差分、と言い換えることができる。縦差分値は、センサ信号の加工信号の一例である。
【0045】
磁気マーカ10を未検出の時点では、15個の磁気センサCnのうちのいずれが磁気マーカ10の直近を通過するのか不明である。そこで、本例では、磁気センサC1~C15の縦差分値の総和である縦差分合計値の時間的な変化を求めている。磁気センサC1~C15の縦差分合計値は、
図7と同様、磁気マーカ10の前後で正負が反転すると共に、磁気マーカ10の真上の位置でゼロを交差するように時間的に変化する。
【0046】
車両2の走行中では、磁気センサC1~C15による縦差分合計値の時間的な変化(
図7と同様の変化を示す。)について、その正負が反転するゼロクロスZc1が生じたとき、磁気センサユニット3が磁気マーカ10の真上に位置すると判断できる。検出処理回路32は、縦差分合計値の時間的な変化からゼロクロスZc1を検出できたとき、磁気マーカ10を検出したと判断する。
【0047】
また例えば、磁気センサCnと同じ仕様の磁気センサについて、磁気マーカ10の真上を通過する車幅方向の直線に沿う移動を想定する。この場合、鉛直方向の磁気計測値である各磁気センサCnのセンサ出力は、磁気マーカ10に近付くにつれて次第に大きくなって磁気マーカ10の真上でピークとなり、磁気マーカ10から遠ざかるにつれて再度、減少に転じる。
【0048】
15個の磁気センサCnが車幅方向に配列された磁気センサユニット3の場合、
図8のごとく、各磁気センサCnのセンサ出力(鉛直方向の磁気計測値)は、磁気マーカ10の真上でピークとなる正規分布を呈する。なお、同図では、センサ出力の分布の近似曲線を示している。
【0049】
磁気マーカ10の車幅方向の位置を特定する際には、各磁気センサCnのセンサ出力の車幅方向の差分値(磁気センサの横差分値という。)が有用になる。横差分値は、車幅方向に隣り合う2つの磁気センサのセンサ出力の差分である。例えば、磁気センサC1の横差分値Cd1は、磁気センサC1のセンサ出力と、磁気センサC2のセンサ出力と、の差分である。以下、磁気センサCmのセンサ出力と、磁気センサCm+1のセンサ出力と、の差分を、磁気センサCm(mは1~14の整数)の横差分値Cdmと表示する。なお、横差分値は、センサ信号の加工信号の一例である。
【0050】
磁気センサCmの横差分値Cdmの分布の近似曲線(
図9)は、磁気マーカ10を挟んだ両側で正負が反転すると共に、磁気マーカ10の真上の位置でゼロを交差するように変化する。15個の磁気センサCnが車幅方向に配列された磁気センサユニット3の場合、同図のごとく、磁気マーカ10を介してどちらの側にあるかによって磁気センサCmの横差分値Cdmの正負が異なってくる。
【0051】
各磁気センサCdmの横差分値の分布を例示する
図9の近似曲線では、横差分値の正負が反転するゼロクロスZc2が、磁気マーカ10の真上に現れる。同図の分布中のゼロクロスZc2の位置は、磁気マーカ10の横方向(車幅方向)の位置を表している。磁気マーカ10の車幅方向の位置は、例えば、ゼロクロスZc2を挟んで隣り合う2つの磁気センサCnの中間の位置として特定可能である。横差分値Cdm(mは1~14の整数。)の分布の近似曲線(
図9)からゼロクロスZc2を検出することで、磁気マーカ10に対する横偏差を精度高く計測できる。
【0052】
検出処理回路32は、上記の横差分値Cdmを利用して磁気マーカ10に対する横偏差を計測する。横偏差は、上記のごとく、磁気センサユニット3の中央に位置する磁気センサC8を基準として計測される。例えば
図9の場合、磁気マーカ10に対応するゼロクロスZc2の位置がC9とC10との中間辺りのC9.5に相当する位置となっている。上記のように磁気センサC9とC10の間隔は5cmであるから、磁気マーカ10に対する横偏差は(9.5-8)×5cm=7.5cmとなる。同図の例は、走路100の中で車両2(先頭車両21)が左寄りとなった場合の例である。なお、磁気マーカ10に対する横偏差の正負は、磁気マーカ10に対して車両2が左に寄った場合を正、右に寄った場合を負としている。
【0053】
(b)基本的な検出方法の課題
例えば、直線路100Sであれば、車両2の進行方向MDと車両2の前後方向VLとが一致し(
図10)、磁気センサユニット3が進行方向MDに対して直交する姿勢となる。上記のごとく、本例では、車両2は走路100に沿って走行しており、車両2の進行方向MDが走路100の方向(走路方向。符号100Aにて図示。)に一致することが前提となっている。
図10の場合であれば、走路方向100Aにおける磁気マーカ10の位置100R(
図10中の破線で示す位置。)を、磁気センサユニット3の各磁気センサCnが同時に通過することになる。
【0054】
磁気マーカ10を通過する際、磁気センサユニット3の各磁気センサCnの縦差分値は、
図11のように変化する。なお、15個の磁気センサC1~C15の縦差分合計値の変化カーブを全て図示すると理解が困難になるおそれがある。そこで、同図では、両端の磁気センサC1、C15、中央の磁気センサC8、中間的な位置の磁気センサC4、C12の縦差分値の変化カーブを選択的に示している。
【0055】
図11から明らかなように、各磁気センサCnの縦差分値の変化カーブは振幅が様々である一方、ゼロクロスのタイミングが一致している。それ故、磁気センサC1~C15の縦差分合計値の時間的な変化は、
図12で例示するようになる。同図の変化では、変化カーブの傾きが大きい明確なゼロクロスが現れている。この場合には、ゼロクロスを精度高く検出でき、これにより、磁気マーカ10の通過時点を精度高く特定できる。
【0056】
さらに、
図10の場合であれば、磁気センサユニット3の長手方向、すなわち磁気センサCnの配列方向が、走路100の幅方向(横方向)である位置100Rの方向(
図10中の破線の方向。)に一致している。そのため、
図9を参照して説明した磁気マーカ10に対する横偏差が、走路100の幅方向の偏差を精度高く表すものとなる。
【0057】
一方、
図13に例示するような曲線路100Cの途中に位置する磁気マーカ10を車両2が通過するとき、車両2の進行方向MDと車両2の前後方向VLとの間に角度的なずれが生じる。この場合、
図14のごとく、磁気センサユニット3が、走路100の幅方向(
図13及び
図14中の位置100Rに沿う方向。)に対して斜めの姿勢で磁気マーカ10を通過することになる。なお、
図14では、鉛直方向に沿って車両2の進行方向(
図10中のMD)を図示すると共に、走路方向100Aにおける磁気マーカ10の位置100Rを破線で示している。位置100Rは、走路方向100Aに直交する幅方向に沿っている。
【0058】
図14のごとく、車両2の進行方向MDに対して磁気センサユニット3が直交せず、斜交する場合、磁気マーカ10に最接近するタイミング、すなわち
図14中の位置100Rを通過するタイミングが、磁気センサ毎に異なってくる。同図のように、曲線路100Cのカーブ内側に位置する磁気センサほど、位置100Rを通過するタイミング(磁気マーカ10に最接近するタイミング)が早くなる。
図13のような左カーブの曲線路100Cの場合、磁気センサC1がカーブ内側となり、磁気センサC15がカーブの外側となる。
【0059】
この場合、各磁気センサによる縦差分値の変化カーブの位相が、
図15に例示するようにずれてくる。なお、同図では、
図11と同様、両端の磁気センサC1、C15、中央の磁気センサC8、中間的な位置の磁気センサC4、C12の縦差分値の変化カーブを選択的に図示している。同図の通り、曲線路100Cの場合、各磁気センサの縦差分値の変化カーブの位相ずれに起因し、ゼロクロスのタイミングが異なっている。磁気センサC1~C15の縦差分合計値の時間的な変化(進行方向の変化、走行距離に応じた変化)は、
図16で例示するようになる。同図の変化では、変化カーブの正負の山のピークが小さくなってブロードになっており、ゼロクロスの傾きが小さくなっている。ゼロクロスの傾きが小さくなれば、ゼロクロスの検出精度が低下するおそれがある。
【0060】
図15は、磁気センサユニット3が斜めである一方、磁気マーカ10に対する磁気センサユニット3の横偏差がゼロに近い状況のときの例である。つまり、磁気センサユニット3の中央に位置する磁気センサC8が磁気マーカ10の真上を通過するときの例である。この場合、各磁気センサC1~C15の縦差分値のうち、磁気センサC8の縦差分値の振幅が最大となり中心的になる。そして、磁気センサユニット3の中央に位置する磁気センサC8を中心として左右両側に等距離、離れた2つの磁気センサの縦差分値の変化カーブは、ほぼ等しい波形となる。
【0061】
図15の場合、例えば、磁気センサユニット3の両端に位置する磁気センサC1及びC15の縦差分値のゼロクロスの中間に、磁気センサC8の縦差分値のゼロクロスが位置する、という磁気センサC8を中心とした対称性が生じ得る。このような対称性により、磁気センサC1~C15の縦差分合計値を求める際、磁気センサC8の縦差分値の位相に対する他の磁気センサの縦差分値の位相ずれが相殺され得る。これにより、磁気センサC1~C15の縦差分合計値のゼロクロスは、磁気センサC8の縦差分値のゼロクロスのタイミングに一致し、
図16のごとく、磁気センサC8が磁気マーカ10を通過するタイミングで現れる。
【0062】
一方、磁気センサユニット3が斜めであって、さらに、磁気マーカ10に対する磁気センサユニット3の横偏差が生じている場合、上記のような対称性の基準となる磁気センサが、磁気センサC8ではなく、ほかの磁気センサとなる。例えば、磁気センサC4が磁気マーカ10の真上を通過する場合、
図17に例示するように、磁気センサC4の縦差分値が最大振幅となる。同図の場合では、磁気センサC4を中心とした対称性が生じ得る。磁気センサC4を中心として、磁気センサC3と磁気センサC5、磁気センサC2と磁気センサC6、磁気センサC1と磁気センサC7、がそれぞれ対称をなす。一方、磁気センサC8~C15については、磁気センサC4を中心として対称をなす磁気センサが存在していない。
【0063】
このように対称性の中心をなす磁気センサが中央の磁気センサC8から偏在するような場合、磁気センサC1~C15の縦差分合計値を求める際、磁気センサC4の縦差分値の位相を基準とした他の磁気センサの縦差分値の位相ずれが十分に相殺されなくなる。この場合には、磁気センサC1~C15の縦差分合計値のゼロクロスを中心とした対称性が損なわれ、ゼロクロスの前後の正負の波形がアンバランスになる。また、磁気センサC1~C15の縦差分合計値のゼロクロスが、磁気センサC4の縦差分値のゼロクロスに一致せず、
図18のごとく、磁気センサC4が磁気マーカ10を通過するタイミングから時間的にずれてしまうことになる。当然ながらこのような場合、縦差分合計値のゼロクロスに基づいて、磁気センサユニット3が磁気マーカ10を通過するタイミングの特定が難しくなる。
【0064】
さらに、曲線路100Cでは、磁気マーカ10に対する横偏差の計測についても精度的な問題が生じる。上述した通り、磁気マーカ10に対する横偏差は、各磁気センサCnの横差分値の近似曲線のゼロクロス(
図9中のZc2)の位置に基づいて計測できる。曲線路100Cを走行中では(
図19参照。)、上記の通り、走路100の幅方向(位置100Rに沿う方向。)に対して磁気センサユニット3が斜めの姿勢で磁気マーカ10を通過する。磁気センサユニット3が計測する磁気マーカ10に対する横偏差Aは、磁気センサユニット3の長手方向に沿う距離である。この横偏差Aは、実際の横偏差Bを底辺とする三角形の斜辺に相当している。この横偏差Aは、走路100の幅方向の実際の横偏差Bよりも大きくなっている。このように、曲線路100Cでは、磁気マーカ10に対する横偏差の計測精度が損なわれる可能性が高い。
【0065】
(c)本例の磁気マーカの検出方法
本例の磁気マーカ10の検出方法は、曲線路100Cにおける上記の課題を解決する方法である。この検出方法の内容を、
図20~
図22を参照して説明する。
図20は、曲線路100Cを走行中の各磁気センサの縦差分値(車両2の前後方向の磁気計測値(センサ出力)の時間差分)の変化カーブを示している。同図は、前出の
図15の各磁気センサの変化カーブを、個別のグラフに分けて示す図である。
図20中の上段から順番に、磁気センサC1の縦差分値、磁気センサC4の縦差分値、磁気センサC8の縦差分値、磁気センサC12の縦差分値、磁気センサC15の縦差分値、のグラフである。
【0066】
磁気センサユニット3の検出処理回路32は、各磁気センサの縦差分値の位相調整を実施することで、上記の仮想ユニットを生成する。本例では、この位相調整に際して、各磁気センサの縦差分値の変化カーブのうち、ゼロクロスよりも時間的に先行するピーク値(
図20中の黒丸印)に着目している。検出処理回路32は、曲線路100Cのカーブ外側に位置し位相が最も遅い磁気センサC15の変化カーブのピーク値のタイミング(
図20中の黒三角で示す時点)に対して、他の磁気センサC1~C14の変化カーブのピーク値のタイミングが一致するように位相を調整する(
図21参照。)。
【0067】
上記のごとく、本例では、縦差分値のピーク値のタイミングを一致させることで、各磁気センサの縦差分値の位相を調整している。これに代えて、IMU42による計測結果に基づいて車両2の前後方向と進行方向との角度的なずれを特定し、角度的なずれを利用して各磁気センサの縦差分値の位相を調整することも良い。マップデータを参照して走路100の方向を読み出して上記の角度的なずれを特定し、位相調整を実施することも良い。走路100を表すマップデータに、各磁気センサの縦差分値の位相の調整量をひも付けておき、マップデータから読み出した調整量に従って位相調整を実施しても良い。
【0068】
図21に例示する各磁気センサの縦差分値の変化カーブは、直線路100Sを走行中の各磁気センサの縦差分値の変化カーブ(
図11)とほぼ同様である。
図21に基づけば、各磁気センサの縦差分合計値のゼロクロスを精度高く検出できる。
【0069】
なお、
図21のように各磁気センサの縦差分値の位相を調整することは、例えば
図22の仮想ユニット3Kを計算処理上で生成することに相当している。この仮想ユニット3Kは、車両2の進行方向MDと直交するよう、磁気センサユニット3を計算処理上にて回転させた仮想的な磁気センサユニットである。なお、車両2の進行方向MDは、走路方向100Aの接線方向に一致する方向である。
【0070】
磁気マーカ10に対する横偏差を計測する際には、仮想ユニット3K(
図22参照。)を構成する仮想的な磁気センサである複数の仮想センサKn(nは1~15の整数。)のセンサ出力を読み出すと良い。仮想センサKnのセンサ出力は、対応する磁気センサCnが位置100Rを通過した時点のセンサ出力(鉛直方向の磁気計測値)である。さらに、車幅方向に隣り合う仮想センサKm及び仮想センサKm+1(mは1~14の整数。)の2つのセンサ出力の差分(横差分値Kdm)を求めると良い。横差分値Kdm(mは1~14の整数。)の分布の近似曲線は、前出の
図9の近似曲線と似通ったものとなる。横差分値Kdmの分布の近似曲線からゼロクロスを検出すれば、磁気マーカ10に対する横偏差を精度高く計測できる。
【0071】
以上のように構成された本例の磁気検出システム1は、磁気センサC1~C15に対応する15チャンネルのセンサ出力の位相を調整可能である。曲線路100Cを通過中に磁気センサユニット3が磁気マーカ10に対して斜めに進入した場合には、15チャンネルのセンサ出力の位相調整により、磁気マーカ10に正対して進入する仮想ユニット3Kが生成される。仮想ユニット3Kによれば、直線路100Sであるか曲線路100Cであるかによらず、精度高く磁気マーカ10を検出でき、磁気マーカ10に対する横偏差を精度高く計測可能である。
【0072】
本例では、
図22の仮想ユニット3Kを計算処理上にて生成するに当たって、各磁気センサC1~C15のセンサ信号に基づく加工信号(縦差分値)の位相を調整している。位相を調整する対象は、センサ信号の時間に応じた変化、あるいは走行距離に応じた変化である。したがって、位相は、時間的な位相、あるいは走行距離に応じた距離的な位相と表現できる。
【0073】
本例では、各磁気センサCnが鉛直方向に作用する磁気成分を計測する磁気センサユニット3を例示している。磁気センサユニット3の各磁気センサCnが計測する磁気成分の作用方向は1方向には限らない。例えば、2方向であっても良く、3方向であっても良い。2方向あるいは3方向は、互いに直交する方向であっても良い。
【0074】
本例では、車両2の鉛直方向の磁気計測値(センサ信号)の時間差分である縦差分値(加工信号)の変化カーブの位相を調整している。時間的な差分は、時間的な微分処理(差分処理)である。時間的な差分に代えて、距離的な差分、あるいは進行方向の差分と表現しても良い。センサ信号に対して複数回に亘る微分処理(差分処理)を施して加工信号を生成することも良い。
【0075】
本例では、各磁気センサの縦差分値の変化カーブのうちのゼロクロスよりも時間的に先行するピーク値(
図20中の黒丸印)の時間的なタイミングを一致させる、という位相調整を実施している。これに代えて、各磁気センサの縦差分値の変化カーブのうちのゼロクロスの時間的なタイミングを一致させる、という位相調整を実施することも良い。本例のように、ゼロクロスよりも時間的に先行するピーク値(
図20中の黒丸印)を利用して位相調整を実施すれば、カーブの外周側の磁気センサ(
図20であれば磁気センサC15)の縦差分値のゼロクロスが出現する前に、早期に位相調整を完了できる。
【0076】
本例では、工場や物流倉庫などの屋内環境、工場などの敷地内の屋外環境などに設けられた走路100を例示すると共に、部品や製品を搬送する車両を例示している。これに代えて、一般の道路を走行する一般の車両であっても良い。磁気マーカ10を利用して自動操舵される車両であっても良く、ドライバーが運転する車両であっても良い。ドライバーが運転する車両の場合、磁気マーカ10を利用する車線逸脱警報やレーンキープアシストなどの運転支援を実行することも良い。
【0077】
以上、実施例のごとく本発明の具体例を詳細に説明したが、これらの具体例は、特許請求の範囲に包含される技術の一例を開示しているにすぎない。言うまでもなく、具体例の構成や数値等によって、特許請求の範囲が限定的に解釈されるべきではない。特許請求の範囲は、公知技術や当業者の知識等を利用して前記具体例を多様に変形、変更あるいは適宜組み合わせた技術を包含している。
【符号の説明】
【0078】
1 磁気検出システム
10 磁気マーカ
100 走路
100A 走路方向
100C 曲線路
100S 直線路
11 制御システム
2 車両
21 先頭車両
211 前輪(操舵輪)
212 後輪(駆動輪)
22 台車
3 磁気センサユニット
3K 仮想ユニット
32 検出処理回路
40 制御ユニット
42 IMU
44 モータユニット
46 操舵ユニット
48 地図データベース
Cn 磁気センサ
Kn 仮想センサ
MD 車両の進行方向
VL 車両の前後方向