(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024142583
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】ポリカーボネート樹脂およびその製造方法ならびにポリカーボネート樹脂成形体
(51)【国際特許分類】
C08G 64/04 20060101AFI20241003BHJP
【FI】
C08G64/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023054783
(22)【出願日】2023-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100197642
【弁理士】
【氏名又は名称】南瀬 透
(74)【代理人】
【識別番号】100099508
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 久
(74)【代理人】
【識別番号】100093285
【弁理士】
【氏名又は名称】久保山 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100182567
【弁理士】
【氏名又は名称】遠坂 啓太
(74)【代理人】
【識別番号】100219483
【弁理士】
【氏名又は名称】宇野 智也
(72)【発明者】
【氏名】富田 将平
(72)【発明者】
【氏名】住谷 直子
(72)【発明者】
【氏名】佐竹 賢一
【テーマコード(参考)】
4J029
【Fターム(参考)】
4J029AA09
4J029AB01
4J029AD01
4J029AD07
4J029AE01
4J029AE04
4J029BB12A
4J029BB12B
4J029BB13A
4J029BB13B
4J029BD09A
4J029BD09B
4J029BH04
4J029BH05
4J029BH09
4J029HC04A
4J029HC04C
4J029HC05A
4J029HC05B
4J029JA121
4J029JC712
4J029JC752
4J029JF051
4J029KD02
4J029KD07
4J029KE02
4J029KE05
(57)【要約】 (修正有)
【課題】光学特性に優れ、且つ、耐熱性と機械強度に優れたポリカーボネート樹脂およびポリカーボネート樹脂成形体を提供する。
【解決手段】例えば、カーボネートエステルと、ビス(4-ヒドロキシフェニル)ジフェニルシラン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)ジフェニルゲルマンなどのジヒドロキシ化合物とを溶融状態でエステル交換反応させて得られたポリカーボネート樹脂であって、クロロホルム中25℃で測定された極限粘度[η]が、0.30以上である、ポリカーボネート樹脂とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される構造単位(A)を含み、クロロホルム中25℃で測定された極限粘度[η]が、0.30以上であるポリカーボネート樹脂。
【化1】
(式(1)中、R
1~R
18はそれぞれ独立に、水素原子または炭素数1~15のアルキル基を表す。XはSiまたはGeを表す。)
【請求項2】
前記式(1)中、R9~R18が水素原子である、請求項1に記載のポリカーボネート樹脂。
【請求項3】
前記式(1)中、R1~R8がそれぞれ独立に水素原子またはメチル基である、請求項1または2に記載のポリカーボネート樹脂。
【請求項4】
前記式(1)中、R1~R8が水素原子である、請求項3に記載のポリカーボネート樹脂。
【請求項5】
前記式(1)中、XがSiである、請求項1または2に記載のポリカーボネート樹脂。
【請求項6】
前記構造単位(A)を20mol%以上含む、請求項1または2に記載のポリカーボネート樹脂。
【請求項7】
屈折率nDが、1.590以上である、請求項1または2に記載のポリカーボネート樹脂。
【請求項8】
ガラス転移温度が、145℃以上である、請求項1または2に記載のポリカーボネート樹脂。
【請求項9】
さらに、下記式(2)で表される構造単位(B)を含む、請求項1または2に記載のポリカーボネート樹脂。
【化2】
(式(2)において、R
20~R
21は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1~15のアルキル基または炭素数6~26のアリール基を表し、Yは、-CR
22R
23-(R
22、R
23は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1~15のアルキル基または炭素数6~26のアリール基を表す。)、炭素数3~15のシクロアルキリデン基または9,9-フルオレニリデン基を表す。)
【請求項10】
下記式(1a)で表されるジヒドロキシ化合物を用いて、請求項1または2に記載のポリカーボネート樹脂を製造する、ポリカーボネート樹脂の製造方法。
【化3】
(式(1a)中、R
1~R
18はそれぞれ独立に、水素原子または炭素数1~15のアルキル基を表す。XはSiまたはGeを表す。)
【請求項11】
請求項1または2に記載のポリカーボネート樹脂を含むポリカーボネート樹脂成形体。
【請求項12】
光学部材である、請求項11に記載のポリカーボネート樹脂成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学特性に優れ、且つ、耐熱性と機械強度に優れたポリカーボネート樹脂およびその製造方法ならびにポリカーボネート樹脂成形体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリカーボネート樹脂は、機械強度、電気特性、透明性等に優れ、エンジニアリングプラスチックとして、電気・電子機器分野、自動車分野等様々な分野において幅広く利用されている。例えば、透明性や寸法安定性、機械特性などが優れていることから、光学用成形材料として利用されている。
【0003】
近年、これらの用途分野においては、光学特性に優れ、且つ、耐熱性と機械強度に優れた材料が求められている。現在、最も一般的に用いられているポリカーボネート樹脂は、ビスフェノールAを原料とするポリカーボネート樹脂であるが、ビスフェノールAを原料とする従来のポリカーボネート樹脂では、これらの要求を満たすことが困難であった。様々な要求を満足させるために、ビスフェノールA以外のモノマーを原料とした種々のポリカーボネート樹脂も提案されている。
【0004】
光学特性に優れたポリカーボネート樹脂として、特許文献1には、9,9-ビスフェニルフルオレン骨格を有する繰り返し単位を主として含むポリカーボネート樹脂が開示されている。
【0005】
一方、非特許文献1~3には、相間移動条件で、種々の相間移動触媒を用いて、SiやGeを含む特定の構造を有するビスフェノールからポリマーを合成する方法が開示されている。非特許文献1、2では、ポリマー合成における相間移動触媒の違いなどが検討されている。また、非特許文献3では、SiやGeを含む特定の構造を有するビスフェノールから合成されるポリマーの熱的挙動が検討されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Journal of Macromolecular Science, Pure and Applied Chemistry, A37(9), 997-1008 (2000).
【非特許文献2】Journal of Inorganic and Organometallic Polymers, 13(1), 21-28 (2003).
【非特許文献3】International Journal of Polymeric Materials, 52(5), 373-386 (2003).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1の実施例では、重合成分として2,2’-[9H-フルオレン-9-イリデンビス(4,1-フェニレンオキシ)]-ビスエタノール〔9,9-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレン(略号:BPEF)〕などを用いたポリカーボネート樹脂を調製している。特許文献1に記載のポリカーボネート樹脂のガラス転移温度は、140~145℃程度である。しかし、高温環境下での製造や使用が想定される用途(例えば、車載用レンズなど)には適用できない場合がある。
【0009】
非特許文献1には、SiやGeを含む特定の構造を有するビスフェノール化合物を使用したポリマーの合成方法が開示され、非特許文献2には、ビスフェノールAとSiやGeを含む特定の構造を有するビスフェノール化合物との共重合ポリカーボネートの合成方法が開示されているが、得られたポリマーの極限粘度は比較的小さく、また耐熱性や光学特性についてはなんら言及されていない。
【0010】
非特許文献3では、SiやGeを含む特定の構造を有するビスフェノール化合物を使用した、ポリマーのガラス転移温度が開示されているが、耐熱性は十分とは言えず、また光学特性についてはなんら言及されていない。
【0011】
本発明は、上記課題を鑑みてなされたものであり、光学特性に優れ、且つ、耐熱性と機械強度に優れたポリカーボネート樹脂およびその製造方法ならびにポリカーボネート樹脂成形体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、下記の発明が上記目的に合致することを見出し、本発明に至った。すなわち、本発明は、以下の[1]~[12]に存する。
【0013】
[1] 下記式(1)で表される構造単位(A)を含み、クロロホルム中25℃で測定された極限粘度[η]が、0.30以上であるポリカーボネート樹脂。
【化1】
(式(1)中、R
1~R
18はそれぞれ独立に、水素原子または炭素数1~15のアルキル基を表す。XはSiまたはGeを表す。)
[2] 前記式(1)中、R
9~R
18が水素原子である、前記[1]に記載のポリカーボネート樹脂。
[3] 前記式(1)中、R
1~R
8がそれぞれ独立に水素原子またはメチル基である、前記[1]または[2]に記載のポリカーボネート樹脂。
[4] 前記式(1)中、R
1~R
8が水素原子である、前記[3]に記載のポリカーボネート樹脂。
[5] 前記式(1)中、XがSiである、前記[1]から[4]のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂。
[6] 前記構造単位(A)を20mol%以上含む、前記[1]から[5]のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂。
[7] 屈折率nDが、1.590以上である、前記[1]から[6]のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂。
[8] ガラス転移温度が、145℃以上である、前記[1]から[7]のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂。
[9] さらに、下記式(2)で表される構造単位(B)を含む、前記[1]から[8]のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂。
【化2】
(式(2)において、R
20~R
21は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1~15のアルキル基または炭素数6~26のアリール基を表し、Yは、-CR
22R
23-(R
22、R
23は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1~15のアルキル基または炭素数6~26のアリール基を表す。)、炭素数3~15のシクロアルキリデン基または9,9-フルオレニリデン基を表す。)
[10] 下記式(1a)で表されるジヒドロキシ化合物を用いて、前記[1]から[9]のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂を製造する、ポリカーボネート樹脂の製造方法。
【化3】
(式(1a)中、R
1~R
18はそれぞれ独立に、水素原子または炭素数1~15のアルキル基を表す。XはSiまたはGeを表す。)
[11] 前記[1]から[9]のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂を含むポリカーボネート樹脂成形体。
[12] 光学部材である、前記[11]に記載のポリカーボネート樹脂成形体。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、光学特性に優れ、且つ、耐熱性と機械強度に優れたポリカーボネート樹脂およびその製造方法ならびにポリカーボネート樹脂成形体が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施態様の一例(代表例)であり、本発明はその要旨を変更しない限り、以下の内容に限定されない。
【0016】
<ポリカーボネート樹脂>
本願発明は、下記式(1)で表される構造単位(A)を含み、クロロホルム中25℃で測定された極限粘度[η]が、0.30以上であるポリカーボネート樹脂(以下、「本発明のポリカーボネート樹脂」と記載する場合がある。)に関するものである。
【0017】
【0018】
式(1)中、R1~R18はそれぞれ独立に、水素原子または炭素数1~15のアルキル基を表す。Xは、SiまたはGeを表す。
【0019】
[構造単位(A)]
構造単位(A)は、上記式(1)で表される構造単位である。上記式(1)において、R1~R18は、それぞれ独立に、水素原子または炭素数1~15のアルキル基を表す。
【0020】
上記式(1)において、R1~R18で表されるアルキル基は、直鎖状であっても、分岐状であっても、環状であってもよい。また、アルキル基は、無置換でも、置換基を有してもよい。アルキル基の炭素数は、1~15であり、1~10が好ましく、1~5がより好ましい。なお、アルキル基の炭素数は、置換基を含めたアルキル基の炭素数を意味し、置換基を有する場合、置換基の炭素数とアルキル基の炭素数の合計である。
【0021】
R1~R18で表されるアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、n-ヘキシル基、シクロヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、n-ノニル基、n-デシル基、n-ウンデシル基、n-ドデシル基、n-トリデシル基、n-テトラデシル基、n-ペンタデシル基などの基や、置換基を有するこれらの基などが挙げられる。
【0022】
中でも、得られるポリカーボネート樹脂の屈折率向上のため、上記式(1)において、R9~R18は、水素原子であることが好ましい。
【0023】
また、得られるポリカーボネート樹脂の屈折率向上のため、上記式(1)において、R1~R8は、それぞれ独立に、水素原子またはメチル基であることが好ましく、全てが水素原子であることがより好ましい。
【0024】
上記式(1)において、Xは、SiまたはGeを表し、Siが好ましい。
【0025】
本発明のポリカーボネート樹脂は、構造単位(A)の単独重合体であっても、構造単位(A)と構造単位(A)以外の他の構造単位を含む共重合体であってもよい。また、他の構造単位は、単独の構造であっても、異なる2以上の構造を含んでもよい。
【0026】
構造単位(A)の含有量(本発明のポリカーボネート樹脂中の全構造単位に対する構造単位(A)の割合)は、ポリカーボネート樹脂の形態等に応じて決定すればよいが、20mol%以上が好ましく、30mol%以上がより好ましい。構造単位(A)が少なすぎると、光学特性が不十分となる場合がある。構造単位(A)の含有量の上限は特に限定されないが、通常、100mol%以下や、90mol%以下などである。
【0027】
なお、構造単位(A)は、単独の構造であってもよく、上記(1)で表される異なる2以上の構造を含んでもよい。構造単位(A)が、上記(1)で表される異なる2以上の構造を含む場合、構造単位(A)の含有量は、上記(1)で表される異なる2以上の構造単位の合計の含有量である。
【0028】
[他の構造単位]
上記の通り、本発明のポリカーボネート樹脂は、構造単位(A)以外の他の構造単位を含んでもよく、その構造は特に限定されない。他の構造単位は、カーボネート構造単位以外の構造であってもよいが、他の構造単位は、構造単位(A)の原料となるジヒドロキシ化合物以外の脂肪族および/または芳香族ジヒドロキシ化合物に由来するカーボネート構造単位が好ましい。例えば、他の構造単位としては、下記式(2)で表される構造単位(B)を挙げることができる。
【0029】
【0030】
上記式(2)において、R20~R21は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1~15のアルキル基または炭素数6~26のアリール基を表し、Yは、-CR22R23-(R22、R23は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1~15のアルキル基または炭素数6~26のアリール基を表す。)、炭素数3~15のシクロアルキリデン基または9,9-フルオレニリデン基を表す。
【0031】
なお、アルキル基、アリール基およびシクロアルキリデン基の炭素数は、置換基を含めたその基の炭素数を意味し、置換基を有する場合、置換基の炭素数とその基の炭素数の合計である。
【0032】
上記式(2)において、R20~R21で表されるアルキル基は、無置換であっても置換基を有してもよい。また、直鎖状であっても分岐状であっても環状であってもよい。アルキル基の炭素数は、1~15であり、1~10が好ましく、1~5がより好ましい。
【0033】
R20~R21で表されるアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、n-ヘキシル基、シクロヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、n-ノニル基、n-デシル基、n-ウンデシル基、n-ドデシル基、n-トリデシル基、n-テトラデシル基、n-ペンタデシル基などの基や、置換基を有するこれらの基などが挙げられる。
【0034】
上記式(2)において、R20、R21で表されるアリール基は、無置換であっても置換基を有してもよい。アリール基の炭素数は、6~26であり、6~20が好ましく、6~15がより好ましい。アリール基は、フェニル基、ナフチル基などの基や、置換基を有するこれらの基が挙げられ、好ましくは、置換または無置換のフェニル基である。
【0035】
上記式(2)において、Yで表される「-CR22R23-」のR22、R23は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1~15アルキル基または炭素数6~26のアリール基を表す。R22、R23で表されるアルキル基は、式(2)のR20、R21で表されるアルキル基と同様である。また、R22、R23で表されるアリール基は、式(2)のR20、R21で表されるアリール基と同様である。
【0036】
上記式(2)において、Yで表されるシクロアルキリデン基は、分岐構造を有してもよく、無置換であっても置換基を有してもよい。シクロアルキリデン基の炭素数は、3~15であり、5~10が好ましい。Yで表されるシクロアルキリデン基としては、シクロペンチリデン基、シクロヘキシリデン基などが挙げられる。
【0037】
上記式(2)において、Yで表される9,9-フルオレニリデン基は、無置換であっても置換基を有してもよい。
【0038】
上記式(2)において、R20、R21はそれぞれ独立に、水素原子またはメチル基であることが好ましく、R20が水素原子であり、R21が水素原子またはメチル基であることがより好ましい。
【0039】
上記式(2)において、Yは、-CR22R23-であることが好ましく、2,2-プロピリデン基(-CR22R23-のR22およびR23がメチル基である場合)がより好ましい。
【0040】
(樹脂添加剤)
また、本発明のポリカーボネート樹脂は、所望の諸物性を著しく損なわない限り、必要に応じて、各種樹脂添加剤を含んでよく、樹脂添加剤は1種を含んでも、2種以上を含んでもよい。樹脂添加剤としては、例えば、熱安定剤、酸化防止剤、離型剤、耐光剤(HALS)、難燃剤、帯電防止剤、防曇剤、滑剤、アンチブロッキング剤、流動性改良剤、可塑剤、分散剤、抗菌剤、染料、顔料等が挙げられる。
【0041】
(極限粘度)
本発明のポリカーボネート樹脂は、クロロホルム中25℃で測定された極限粘度[η](以下、単に「極限粘度」と記載する。)が、0.30以上である。上記式(1)で表される構造単位(A)を含み、かつ、極限粘度が0.30以上であることで、光学特性、耐熱性および機械強度に優れたものとできる。極限粘度は、好ましくは、0.35以上であり、より好ましくは、0.40以上である。また、その上限は特に限定されないが、0.85以下が好ましく、0.70以下がより好ましい。なお、極限粘度の測定方法は、後述の実施例に記載の通りである。
【0042】
(屈折率)
本発明のポリカーボネート樹脂の屈折率(nD)は、1.590以上が好ましく、1.600以上がより好ましく、1.605以上がさらに好ましい。その上限は、特に限定はないが、1.700以下や、1.650以下などとすることができる。屈折率(nD)は、20℃で測定した波長589nmの屈折率であり、その測定方法は、後述の実施例に記載の通りである。
【0043】
(ガラス転移温度)
本発明のポリカーボネート樹脂のガラス転移温度(Tg)は、145~170℃が好ましく、145~165℃がより好ましい。ガラス転移温度が低すぎると、使用環境によっては耐熱性が不十分な場合がある。一方、ガラス転移温度が高すぎると、溶融温度が高くなり、成形時に樹脂の分解や着色しやすくなるため好ましくなり。よって、ガラス転移温度は、前記範囲内であることが好ましい。なお、ガラス転移温度の測定方法は、後述の実施例に記載の通りである。
【0044】
(ポリカーボネート樹脂の製造)
本発明のポリカーボネート樹脂の製造方法は、本発明のポリカーボネート樹脂を製造することができれば特に限定されず公知の重合法により製造することができる。その重合法は、特に限定されないが、例えば、溶融エステル交換法、界面重合法、ピリジン法、環状カーボネート化合物の開環重合法、プレポリマーの固相エステル交換法等が挙げられる。
【0045】
本発明のポリカーボネート樹脂は、通常、後述する式(1a)で表されるジヒドロキシ化合物を用いて製造することができる。中でも、極限粘度が0.30以上の樹脂を得やすいため、溶融エステル交換法は、本発明のポリカーボネート樹脂の好適な製造方法の一つである。
【0046】
以下、溶融エステル交換法について具体的に説明する。
【0047】
(溶融エステル交換法)
溶融エステル交換法では、例えば、カーボネートエステルとジヒドロキシ化合物とを溶融状態でエステル交換反応させて、ポリカーボネート樹脂を得る。すなわち、下記式(1a)で表されるジヒドロキシ化合物を含むジヒドロキシ化合物と、カーボネートエステルとを、溶融エステル交換法により反応させることで、本発明のポリカーボネート樹脂を製造することができる。
【0048】
(ジヒドロキシ化合物)
本発明のポリカーボネート樹脂は、ジヒドロキシ化合物として、下記式(1a)で表されるジヒドロキシ化合物を用いることによって製造することができる。
【0049】
【0050】
上記式(1a)で表されるジヒドロキシ化合物は、上記式(1)で表される構造単位(A)に対応するジヒドロキシ化合物であり、上記式(1a)中のR1~R18およびXは、上記式(1)と同義であり、好ましい態様も同様である。
【0051】
上記式(1a)で表されるジヒドロキシ化合物としては、具体的には、ビス(4-ヒドロキシフェニル)ジフェニルシラン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)ジフェニルゲルマンなどが挙げられる。
【0052】
また、構造単位(A)以外の他の構造単位を含む共重合体を得る場合は、上記式(1a)で表させるジヒドロキシ化合物に加えて、他の構造単位に対応するジヒドロキシ化合物を用いることで、共重合体を製造することができる。他の構造単位を導入するために用いられるジヒドロキシ化合物としては、下記式(2a)で表されるジヒドロキシ化合物などが挙げられる。
【0053】
【0054】
上記式(2a)で表されるジヒドロキシ化合物は、上記式(2)で表される構造単位(B)に対応するジヒドロキシ化合物であり、上記式(2a)中のR20、R21およびYは、上記式(2)と同義であり、好ましい態様も同様である。
【0055】
上記式(2a)で表されるジヒドロキシ化合物としては、具体的には、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)プロパン、1,1-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)シクロヘキサン、9,9-ビス(4-ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)フルオレンなどが挙げられる。
【0056】
(カーボネートエステル)
カーボネートエステルに特に限定はないが、ジアリールカーボネート類や、ジアルキルカーボネート類、ジヒドロキシ化合物のビスカーボネート体、ジヒドロキシ化合物のモノカーボネート体、環状カーボネート等のジヒドロキシ化合物のカーボネート体等が挙げられ、下記式(3)で表される化合物が好ましい。
【0057】
【0058】
上記式(3)中、R30およびR31は、それぞれ独立に、炭素数1~15のアルキル基、炭素数6~26のアリール基を示す。
【0059】
上記式(3)において、R30およびR31で表されるアルキル基は、直鎖状であっても、分岐状であっても、環状であってもよい。また、アルキル基は、無置換でも、置換基を有してもよい。アルキル基の炭素数(置換基を有する場合は置換基を含めた炭素数)は、1~15であり、1~10が好ましく、1~5がより好ましい。
【0060】
上記式(3)において、R30およびR31で表されるアリール基は、無置換であっても置換基を有してもよい。アリール基の炭素数(置換基を有する場合は置換基を含めた炭素数)は、6~26であり、6~20が好ましく、6~15がより好ましい。
【0061】
中でも、ジヒドロキシ化合物との反応性の観点より、カーボネートエステルは、下記式(4)で表される、置換基を有してもよいジアリールカーボネートであることがより好ましい。
【0062】
【0063】
上記式(4)中、R32およびR33は、それぞれ独立に、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、炭素数1~15の直鎖アルキル基、炭素数3~20の分岐アルキル基、炭素数4~15のシクロアルキル基、炭素数6~20のアリール基、カルボン酸基、炭素数2~20のアルコキシカルボニル基または炭素数1~20のアシルオキシ基を表す。pおよびqは、それぞれ独立に0~5の整数を表し、それぞれ独立に0~3の整数が好ましく、0~2の整数がより好ましい。
【0064】
上記式(3)や上記式(4)で表されるカーボネートエステルとしては、具体的には、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジ-t-ブチルカーボネート、ジフェニルカーボネート、ビス(4-メチルフェニル)カーボネート、ビス(4-クロロフェニル)カーボネート、ビス(4-フルオロフェニル)カーボネート、ビス(2-クロロフェニル)カーボネート、ビス(2,4-ジフルオロフェニル)カーボネート、ビス(4-ニトロフェニル)カーボネート、ビス(2-ニトロフェニル)カーボネート、ビス(メチルサリチルフェニル)カーボネート、ジトリルカーボネート等が挙げられるが、中でもジフェニルカーボネートが好ましい。これらのカーボネートエステルは、単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0065】
ジヒドロキシ化合物とカーボネートエステルとの比率は所望のポリカーボネート樹脂が得られる限り任意であるが、カーボネートエステルは、ジヒドロキシ化合物と重合させる際に、ジヒドロキシ化合物に対して過剰に用いることが好ましい。カーボネートエステルは、ジヒドロキシ化合物1molに対して、1.00~1.30molであることが好ましく、1.02~1.20molであることがより好ましい。このmol比が小さすぎると、得られるポリカーボネート樹脂の末端OH基が多くなり、樹脂の熱安定性が悪化する傾向となる。一方、このmol比が大きすぎると、エステル交換の反応速度が低下し、所望の極限粘度を有するポリカーボネート樹脂の生産が困難となる場合や、樹脂中のカーボネートエステルの残存量が多くなり、成形加工時や成形品としたときの臭気の原因となる場合がある。
【0066】
また、カーボネートエステルに加えて、ジカルボン酸またはジカルボン酸エステルを使用してもよい。この場合、カーボネートエステルの50mol%以下が、ジカルボン酸またはジカルボン酸エステルで置換されるように用いることが好ましく、カーボネートエステルの30mol%以下が、ジカルボン酸またはジカルボン酸エステルで置換されるように用いることがより好ましい。代表的なジカルボン酸またはジカルボン酸エステルとしては、テレフタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸ジフェニル、イソフタル酸ジフェニル等が挙げられる。このようなジカルボン酸またはジカルボン酸エステルで置換した場合には、ポリエステルカーボネートが得られる。
【0067】
溶融エステル交換法によりポリカーボネート樹脂を製造する際には、通常、エステル交換触媒が使用される。すなわち、エステル交換触媒の存在下で、カーボネートエステルとジヒドロキシ化合物とを反応させ、ポリカーボネート樹脂を得る。エステル交換触媒は、特に限定されず、従来から公知のものを使用できる。例えば、アルカリ金属化合物および/またはアルカリ土類金属化合物を用いることが好ましい。また、補助的に、例えば塩基性ホウ素化合物、塩基性リン化合物、塩基性アンモニウム化合物、アミン系化合物等の塩基性化合物を併用してもよい。エステル交換触媒は、1種を用いてもよく、2種以上を用いてもよい。
【0068】
溶融エステル交換法において、反応温度は、特に限定されないが、通常100~300℃である。また、反応時の圧力は、特に限定されないが、通常2mmHg以下の減圧条件である。本発明のポリカーボネート樹脂は、アルカリ触媒存在下では、顕著に熱履歴や酸化の影響を受け、色相の悪化に繋がるおそれがあるため、反応温度は300℃以下とし、また、過度の減圧により、機器からの酸素の漏れ込みを防ぐため、0.05mmHg程度までを下限とした減圧条件を選択することが好ましい。具体的操作としては、前記の条件で、副生成物を除去しながら、溶融重縮合反応を行えばよい。
【0069】
反応形式は、バッチ式、連続式の何れの方法でも行うことができる。バッチ式で行う場合、反応基質(反応原料)、触媒、添加剤等を混合する順序は、所望のポリカーボネート樹脂が得られる限り任意であり、適切な順序を任意に設定すればよい。
【0070】
溶融エステル交換法においては、必要に応じて、触媒失活剤を用いてもよい。触媒失活剤としてはエステル交換触媒を中和する化合物を任意に用いることができる。その例を挙げると、イオウ含有酸性化合物およびその誘導体、リン含有酸性化合物およびその誘導体等が挙げられる。触媒失活剤は、1種を用いてもよく、2種以上を用いてもよい。
【0071】
触媒失活剤の使用量は、特に限定されないが、前記のエステル交換触媒に対して、通常0.5当量以上、好ましくは1当量以上、より好ましくは3当量以上であり、また、通常50当量以下、好ましくは10当量以下、より好ましくは8当量以下である。
【0072】
<ポリカーボネート樹脂組成物>
本発明のポリカーボネート樹脂は、単独で用いてもよいが、2種以上の本発明のポリカーボネート樹脂を混合したり、本発明のポリカーボネート樹脂と本発明のポリカーボネート樹脂以外の他の樹脂とを混合したりして、ポリカーボネート樹脂組成物として用いてもよい。
【0073】
他の樹脂としては、例えば、本発明のポリカーボネート樹脂以外のポリカーボネート樹脂;ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート樹脂等の熱可塑性ポリエステル樹脂;ポリスチレン樹脂、高衝撃ポリスチレン樹脂(HIPS)、アクリロニトリル-スチレン共重合体(AS樹脂)、アクリロニトリル-スチレン-アクリルゴム共重合体(ASA樹脂)、アクリロニトリル-エチレンプロピレン系ゴム-スチレン共重合体(AES樹脂)等のスチレン系樹脂;ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂等のポリオレフィン樹脂;ポリアミド樹脂;ポリイミド樹脂;ポリエーテルイミド樹脂;ポリウレタン樹脂;ポリフェニレンエーテル樹脂;ポリフェニレンサルファイド樹脂;ポリスルホン樹脂;ポリメタクリレート樹脂等が挙げられる。
【0074】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、2種以上の本発明のポリカーボネート樹脂を含む組成物または本発明のポリカーボネート樹脂と他の樹脂とを含む組成物である。また、本発明のポリカーボネート樹脂と他の樹脂とを含む場合、本発明のポリカーボネート樹脂を1種含むものであっても、2種以上含むものであってもよい。他の樹脂についても、1種含むものであっても、2種以上含むものであってもよい。これらは、任意の組み合わせや割合で用いることができる。
【0075】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物中の本発明のポリカーボネート樹脂の含有量は、特に限定されないが、本発明のポリカーボネート樹脂中の構造単位(A)の割合に応じてその比率を調整することが好ましい。本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、組成物中の本発明のポリカーボネート樹脂の構造単位(A)の含有量が、20mol%以上となるようにすることが好ましい。
【0076】
また、本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、所望の諸物性を著しく損なわない限り、必要に応じて、各種樹脂添加剤を1種以上含んでよい。樹脂添加剤としては、例えば、熱安定剤、酸化防止剤、離型剤、耐光剤(HALS)、難燃剤、帯電防止剤、防曇剤、滑剤、アンチブロッキング剤、流動性改良剤、可塑剤、分散剤、抗菌剤、染料、顔料等が挙げられる。
【0077】
(ポリカーボネート樹脂組成物の製造)
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、公知の方法により製造することができる。組成物の製造方法は特に限定されないが、ドライブレンド、溶融混合、溶液混合などの方法を用いることができる。
【0078】
<ポリカーボネート樹脂成形体>
また、本発明は、本発明のポリカーボネート樹脂を含むポリカーボネート樹脂成形体(以下、「本発明の成形体」と記載する場合がある。)に関するものである。本発明の成形体は、本発明のポリカーボネート樹脂や本発明のポリカーボネート樹脂組成物を成形することで得ることができる。成形法は、特に限定されず、射出成形や押出成形など公知の方法を使用できる。形状に応じて成形法を選択して、レンズ等の各種部材の形状に成形した射出成形品や、シートやフィルム等の形状に成形した押出成形品など任意の形状の成形体とすることができる。
【0079】
本発明の成形体は、本発明のポリカーボネート樹脂を含めばその含有形態は特に限定されない。本発明の成形体は、本発明のポリカーボネート樹脂を単独または2種以上含むものであっても、本発明のポリカーボネート樹脂と他のポリカーボネート樹脂とを含むものであってもよい。
【0080】
本発明の成形体は、電気・電子機器や自動車の部品など各種用途の部材に使用することができる。特に、本発明の成形体は、光学特性や耐熱性、機械強度に優れるため、光学部材や、高温環境下での使用が想定される用途の部材として好適である。具体的には、車載カメラ用レンズ、スマートフォンカメラ用レンズ、アクションカメラ用レンズ等とすることができる。
【実施例0081】
以下、実施例に基づき本発明をさらに具体的に説明する。なお、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0082】
以下の実施例および比較例で得られたポリカーボネート樹脂の物性は、下記の方法により評価した。
【0083】
[1]極限粘度([η])
ポリカーボネート樹脂をクロロホルムに溶解し(濃度3.0g/L)、ウベローデ粘度管(森友理化工業社製)を用いて、25℃における固有粘度(極限粘度)[η](単位dL/g)を求めた。
【0084】
[2]ガラス転移温度(Tg)
示差走査熱量計(SII製DSC6220)を用いて、ポリカーボネート樹脂の試料約10mgを20℃/minの昇温速度で加熱して熱量を測定し、ISO 3146に準拠して、低温側のベースラインを高温側に延長した直線と、ガラス転移の階段状変化部分の曲線の勾配が最大となるような点で引いた接線との交点の温度である、補外ガラス転移開始温度を求めた。該補外ガラス転移開始温度をガラス転移温度(Tg)とした。
【0085】
[3]屈折率(nD)
100℃で2時間、真空乾燥をした樹脂試料約4gを、幅8cm、長さ8cm、厚さ0.5mmのスペーサーを用いて、熱プレスにて熱プレス温度200~250℃で、予熱1~3分、圧力20MPaの条件で1分間加圧後、スペーサーごと取り出し室温で冷却し、厚み100~300μmのフィルムを作製した。このフィルムから、長さ40mm、幅8mmの長方形の試験片を切り出して測定試料とした。多波長アッベ屈折率計(株式会社アタゴ製DRM4/1550)で、波長589nm(D線)の干渉フィルターを用いて、屈折率nDを測定した。測定は、界面液としてモノブロモナフタレンを用い、20℃で行った。
【0086】
[合成例1]
[合成例;ビス(4-ベンジルオキシフェニル)-ジフェニルシラン(2)の合成]
【0087】
【0088】
1-ベンジルオキシ-4-ブロモベンゼン(1)(50g、190.02mmol)のテトラヒドロフラン(200mL)溶液を窒素雰囲気下で攪拌しながら-78℃に冷却し、n-ブチルリチウム(2.5Mヘキサン溶液、83.61mL)を加え、-78℃で1時間攪拌させた。次に、ジクロロ(ジフェニル)シラン(19.25g、76.01mmol)のテトラヒドロフラン(100mL)溶液を加え、得られた混合物を窒素雰囲気下で25℃で16時間撹拌した。反応進行状況をTLC(石油エーテル:酢酸エチル=20:1)でモニターしたところ、1-ベンジルオキシ-4-ブロモベンゼンのスポットはほとんど残っておらず、他のいくつかのスポットが形成されていた。次に反応混合物を0℃の脱塩水2Lでクエンチし、酢酸エチル2Lを加えて抽出した後、有機層を分離後、得られた有機層を脱塩水2Lで2回、飽和塩化ナトリウム水溶液200mLで順次洗浄し、得られた有機層に無水硫酸ナトリウムを加えて乾燥させた。次に硫酸ナトリウムを濾過により取り除き、得られた濾液を減圧濃縮して粗生成物を得た。この粗生成物に酢酸エチル100mLとn-ヘプタン500mLを加え、25℃で16時間攪拌後、析出した結晶を濾別して、50℃で減圧乾燥させ、ビス(4-ベンジルオキシフェニル)-ジフェニル-シラン(2)(35.8g、収率83.26%、HPLC純度97%)の白色固体を得た。
【0089】
プロトン核磁気共鳴(以下、「1H NMR」と略記する場合がある。)スペクトルは、所望生成物に合致していた。
【0090】
1H NMR(400MHz,CDCl3) δ=7.59(d,J=6.5Hz、4H),7.52(d,J=8.1Hz,4H),7.49-7.32(m,16H),7.03(d,J=8.3Hz,4H),5.11(s,4H)
【0091】
[合成例;ビス(4-ヒドロキシフェニル)ジフェニルシラン(3)の合成]
【0092】
【0093】
水素化ナトリウム(10.5g、262.42mmol、純度60%)と酢酸パラジウム(II)(1.18g、5.25mmol)のN,N-ジメチルアセトアミド(150mL)溶液を、窒素雰囲気下25℃で5分間撹拌した後、この溶液に、ビス(4-ベンジルオキシフェニル)-ジフェニル-シラン(28.8g、52.48mmol)のN,N-ジメチルアセトアミド(200mL)溶液を添加した。次にこの反応液を50℃で16時間攪拌した。反応進行状況をTLC(石油エーテル:酢酸エチル=3:1)でモニターしたところ、ビス(4-ベンジルオキシフェニル)-ジフェニル-シラン(2)が完全に消費され、2つの新しいスポットが形成された。次に、反応混合物を脱塩水2Lでクエンチし、4M HCl水溶液を加えpH=4~6に調整し、次いで酢酸エチル3Lで2回抽出した。得られた有機層を脱塩水2Lで3回および、飽和塩化ナトリウム水溶液500mLで1回洗浄後、得られた有機層に無水硫酸ナトリウムを加えて乾燥させた。次に硫酸ナトリウムを濾過により取り除き、得られた濾液を減圧濃縮して粗生成物を得た。この粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒n-ヘキサン:酢酸エチル=80:20)で精製後、得られた溶液を減圧濃縮して粗生成物を得た。この粗生成物にn-ヘプタン450mLと酢酸エチル90mLを加え、25℃で16時間攪拌後、析出した結晶を濾別し、50℃で減圧乾燥させ、ビス(4-ヒドロキシフェニル)ジフェニルシラン(3)(17.54g、収率90.69%、HPLC純度99%)をオフホワイトの固体として得た。
【0094】
1H NMRスペクトルは、所望生成物に合致していた。
【0095】
1H NMR(400MHz,DMSO-d6)δ=9.70(s,2H),7.51-7.32(m,10H),7.26(d,J=8.4Hz,4H),6.83(d,J=8.4,4H)
【0096】
[実施例1]
反応器攪拌機、反応器加熱装置、反応器圧力調整装置を付帯した内容量150mlのガラス製反応器に、上記合成例1で得られたビス(4-ヒドロキシフェニル)-ジフェニルシラン(3)(以下、「BPPSi」と略すことがある。)5.18g(約0.014mol)、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン(BPA)(三菱ケミカル社製)4.82g(約0.021mol)、ジフェニルカーボネート(DPC)7.72g(約0.036mol)および触媒として炭酸セシウム0.4質量%水溶液を、炭酸セシウムが全ジヒドロキシ化合物1mol当たり15μmolとなるように添加して原料混合物を調製した。
【0097】
次に、ガラス製反応器内を約50Pa(0.38Torr)に減圧し、続いて、窒素で大気圧に復圧する操作を3回繰り返し、反応器の内部を窒素置換した。窒素置換後、反応器外部温度を220℃にし、反応器の内温を徐々に昇温させ、混合物を溶解させた。その後、100rpmで撹拌機を回転させた。そして、反応器の内部で行われるジヒドロキシ化合物とDPCのオリゴマー化反応により副生するフェノールを留去しながら、40分間かけて反応器内の圧力を絶対圧で101.3kPa(760Torr)から13.3kPa(100Torr)まで減圧した。
【0098】
続いて、反応器内の圧力を13.3kPaに保持し、フェノールをさらに留去させながら、80分間、エステル交換反応を行った。その後、反応器外部温度を250℃に昇温、40分間かけて反応器内圧力を絶対圧で13.3kPa(100Torr)から399Pa(3Torr)まで減圧し、留出するフェノールを系外に除去した。さらに、反応器外部温度を285℃に昇温、反応器内の絶対圧を30Pa(約0.2Torr)まで減圧し、重縮合反応を行った。反応器の攪拌機が予め定めた所定の攪拌動力となったときに、重縮合反応を終了した。
【0099】
次いで、反応器内を、窒素により絶対圧で101.3kPaに復圧の上、ゲージ圧で0.2MPaまで昇圧し、反応器からポリカーボネート樹脂を抜き出した。
【0100】
このようにして得られたポリカーボネート樹脂に対して、上記の手順で各評価を実施した。結果を表1に示す。
【0101】
[実施例2]
予め定めていた攪拌動力を、実施例1よりも高めに設定した以外は、実施例1に記載の手法で実施した。
このようにして得られたポリカーボネート樹脂に対して、上記の手順で各評価を実施した。結果を表1に示す。
【0102】
[実施例3]
BPPSi10.01g(約0.0271mol)と、DPC5.96g(約0.028mol)および触媒として炭酸セシウム0.4質量%水溶液を、炭酸セシウムが全ジヒドロキシ化合物1mol当たり20μmolとなるように添加して原料混合物を調製した以外は、実施例1に記載の手法で実施した。
このようにして得られたポリカーボネート樹脂に対して、上記の手順で各評価を実施した。結果を表1に示す。
【0103】
[実施例4]
予め定めていた攪拌動力を、実施例3よりも高めに設定した以外は、実施例3に記載の手法で実施した。
このようにして得られたポリカーボネート樹脂に対して、上記の手順で各評価を実施した。結果を表1に示す。
【0104】
[比較例1]
BPPSi4.94g(約0.013mol)と、BPA3.06g(約0.013mol)と、DPC5.89g(約0.028mol)および触媒として炭酸セシウム0.4質量%水溶液を、炭酸セシウムが全ジヒドロキシ化合物1mol当たり15μmolとなるように添加して原料混合物を調製し、予め定めていた攪拌動力を、実施例1よりも低めに設定した以外は、実施例1に記載の手法で実施した。
このようにして得られたポリカーボネート樹脂に対して、上記の手順で各評価を実施した。結果を表2に示す。
【0105】
[比較例2]
予め定めていた攪拌動力を、実施例3よりも低めに設定した以外は、実施例3に記載の手法で実施した。
このようにして得られたポリカーボネート樹脂に対して、上記の手順で各評価を実施した。結果を表2に示す。
【0106】
[比較例3]
BPA10.00g(約0.044mol)と、DPC9.95g(約0.046mol)および触媒として炭酸セシウム0.4質量%水溶液を、炭酸セシウムが全ジヒドロキシ化合物1mol当たり0.5μmolとなるように添加して原料混合物を調製した以外は、実施例1に記載の手法で実施した。
このようにして得られたポリカーボネート樹脂に対して、上記の手順で各評価を実施した。結果を表2に示す。
【0107】
表1、表2に、実施例1~4、比較例1~3の構造単位(A)の含有量、極限粘度([η])、ガラス転移温度(Tg)および屈折率(nD)の結果を示す。なお、表2の屈折率における「測定不可」とは、フィルムにした際の強度が著しく弱く、屈折率の測定が不可であったことを意味する。
【0108】
【0109】