(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024142732
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】光素子
(51)【国際特許分類】
H01S 5/11 20210101AFI20241003BHJP
【FI】
H01S5/11
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023055031
(22)【出願日】2023-03-30
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 2023年2月27日に発行された2023年第70回応用物理学会春季学術講演会(2023年3月15日、東京都千代田区)の講演予稿集にて発表。
(71)【出願人】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 茂樹
(74)【代理人】
【識別番号】100153006
【弁理士】
【氏名又は名称】小池 勇三
(74)【代理人】
【識別番号】100064621
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 政樹
(74)【代理人】
【識別番号】100121669
【弁理士】
【氏名又は名称】本山 泰
(72)【発明者】
【氏名】滝口 雅人
(72)【発明者】
【氏名】納富 雅也
(72)【発明者】
【氏名】角倉 久史
(72)【発明者】
【氏名】新家 昭彦
(72)【発明者】
【氏名】ヘイト ピーター
【テーマコード(参考)】
5F173
【Fターム(参考)】
5F173AB90
5F173AF03
5F173AF20
5F173AH14
5F173AR23
5F173AR99
(57)【要約】
【課題】ナノワイヤを用いた新たな光素子を提供する。
【解決手段】この光素子は、化合物半導体から構成された主ナノワイヤ101と、主ナノワイヤ101と互いに平行な状態で、主ナノワイヤ101とともに1次元的に配列され、一端の側から離れるほど長くされた8本以上のSiナノワイヤ102を備える反射構造121a,121bを備え、反射構造121a、121bの一端から4本目以降の3本のSiナノワイヤ102aは、反射構造121a、121bの一端のSiナノワイヤ102より太くされている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
化合物半導体から構成された主ナノワイヤと、
前記主ナノワイヤと互いに平行な状態で、前記主ナノワイヤとともに1次元的に配列され、一端の側から離れるほど長くされた8本以上のSiナノワイヤを備える反射構造と
を備え、
前記反射構造の一端から4本目以降の3本目の前記Siナノワイヤは、前記反射構造の一端の前記Siナノワイヤより太くされている光素子。
【請求項2】
請求項1記載の光素子において、
前記反射構造を構成する前記Siナノワイヤが等間隔で配列されている状態に比較して、前記反射構造の一端の側に近いほど大きな値で、前記反射構造の一端の方向に前記Siナノワイヤの位置が変調されている光素子。
【請求項3】
請求項1または2記載の光素子において、
前記主ナノワイヤと前記Siナノワイヤとが互いに平行な状態で1次元的に配列される状態で、前記主ナノワイヤを挟んで前記主ナノワイヤに対して対称な状態で配置された2つの前記反射構造を備え、
前記主ナノワイヤを挟む2つの前記反射構造により共振器が構成されている光素子。
【請求項4】
請求項3記載の光素子において、
前記主ナノワイヤを中心に点対称に配置された複数の前記共振器を備える光素子。
【請求項5】
請求項1または2記載の光素子において、
前記主ナノワイヤは、円柱とされている光素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナノワイヤから構成された光素子に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体ナノワイヤ素子の研究が盛んにおこなわれている。半導体ナノワイヤとは、径が数10nm~数μmで長さが数μmの非常に小さな一次元構造(柱状構造体)のナノ材料である。ナノワイヤの適用例として、トランジスタなどの電子デバイスの研究がおこなわれてきたが、ナノワイヤを構成する半導体の材料によって、様々な波長帯で発光させることができるため、レーザ素子などの光素子への適用も有望と考えられている。これらナノワイヤは、条件次第でシリコン基板上にも直接成長できるため、将来の光電融合素子への応用が期待されている(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】M. Notomi et al., "Nanowire photonics toward wide wavelength range and subwavelength confinement [Invited]", Optical Materials Express, vol. 10, no. 10, pp. 2560-2596, 2020.
【非特許文献2】M. Takiguchi et al., "Thermal effect of InP/InAs nanowire lasers integrated on different optical platforms", OSA Continuum, vol. 4, no. 6, pp. 1838-1845, 2021.
【非特許文献3】M. D. Birowosuto1 et al., "Movable high-Q nanoresonators realized by semiconductor nanowires on a Si photonic crystal platform", Nature Materials, vol. 13, pp. 279-285, 2014.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
例えば、ナノワイヤを用いたレーザは、様々な波長帯で実証されている。特に、シリコンに対してレーザ光が透明である通信波長帯のレーザ光を発振するナノワイヤレーザは、シリコン光回路に集積して動作させることができるため、将来の光電融合チップに利用できる光源として有望な候補になっている。このように、ナノワイヤは様々な光素子への応用が期待され、ナノワイヤを用いた新たな光素子の開発が望まれている。
【0005】
本発明は、以上のような問題点を解消するためになされたものであり、ナノワイヤを用いた新たな光素子の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る光素子は、化合物半導体から構成された主ナノワイヤと、主ナノワイヤと互いに平行な状態で、主ナノワイヤとともに1次元的に配列され、一端の側から離れるほど長くされた8本以上のSiナノワイヤを備える反射構造とを備え、反射構造の一端から4本目以降の3本のSiナノワイヤは、反射構造の一端のSiナノワイヤより太くされている。
【発明の効果】
【0007】
以上説明したように、本発明によれば、化合物半導体から構成された主ナノワイヤと互いに平行な状態で、主ナノワイヤとともに1次元的に配列され、一端の側から離れるほど長くされた8本以上のSiナノワイヤを備え、反射構造の一端から4本目以降の3本のSiナノワイヤを一端のSiナノワイヤより太くしているので、主ナノワイヤを用いた新たな光素子が提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、本発明の実施の形態に係る光素子の構成を示す平面図である。
【
図2】
図2は、本発明の実施の形態に係る光素子の他の構成を示す平面図である。
【
図3A】
図3Aは、本発明の実施の形態に係る光素子を説明するためのシミュレーションで用いたモデルの構成を示す平面図である。
【
図3B】
図3Bは、本発明の実施の形態に係る光素子を説明するためのシミュレーションで用いたモデルの構成を示す断面図である。
【
図4】
図4は、本発明の実施の形態に係る光素子を説明するためのシミュレーションの結果を示す説明図である。
【
図5】
図5は、本発明の実施の形態に係る光素子を説明するためのシミュレーションの結果を示す説明図である。
【
図6】
図6は、本発明の実施の形態に係る光素子を説明するためのシミュレーションの結果の電場分布を示す特性図である。
【
図7】
図7は、本発明の実施の形態に係る光素子を説明するためのシミュレーションの結果を示す説明図である。
【
図8】
図8は、本発明の実施の形態に係る光素子を説明するためのシミュレーションの結果を示す説明図である。
【
図9】
図9は、本発明の実施の形態に係る光素子を説明するためのシミュレーションの結果を示す説明図である。
【
図10】
図10は、本発明の実施の形態に係る光素子を説明するためのシミュレーションの結果を示す説明図である。
【
図11】
図11は、本発明の実施の形態に係る光素子を説明するためのシミュレーションの結果を示す特性図である。
【
図12】
図12は、本発明の実施の形態に係る他の光素子の構成を示す斜視図である。
【
図13】
図13は、本発明の実施の形態に係る他の光素子を特性のシミュレーション結果を示す説明図である。
【
図14】
図14は、本発明の実施の形態に係る他の光素子の特性のシミュレーションの結果を示す説明図である。
【
図15】
図15は、本発明の実施の形態に係る他の光素子の構成を示す平面図である。
【
図16】
図16は、本発明の実施の形態に係る他の光素子の構成を示す平面図(a)および光素子の特性をシミュレーションした結果の電場分布を示す特性図(b)である。
【
図17】
図17は、本発明の実施の形態に係る他の光素子の構成を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態に係る光素子について
図1を参照して説明する。この光素子は、化合物半導体から構成された主ナノワイヤ101と、Siナノワイヤ102とを備える。主ナノワイヤ101は、例えば、InPやInGaAsPなどのIII-V族化合物半導体から構成することができる。主ナノワイヤ101は、円柱形状とすることができる。
【0010】
また、この光素子は、主ナノワイヤ101と互いに平行な状態で、主ナノワイヤ101とともに1次元的に配列され、一端の側から離れるほど長くされた8本以上のSiナノワイヤ102を備える反射構造121a,121bを備える。この例では、主ナノワイヤ101を挟んで主ナノワイヤ101に対して対称な状態で、1次元的に配置された2つの反射構造121a,反射構造121bを備える。反射構造121aおよび反射構造121bは、1つの直線状に配置されるものとなる。また、反射構造121a,反射構造121bを構成する各々のSiナノワイヤ102,Siナノワイヤ102aは、主ナノワイヤ101と互いに平行とされている。主ナノワイヤ101を挟む2つの反射構造121a,121bにより共振器が構成されている。
【0011】
また、この光素子は、反射構造121a、121bの一端から4本目以降の3本のSiナノワイヤ102aは、反射構造121a、121bの一端のSiナノワイヤ102より太くされている。例えば、反射構造121aの一端から6本目、7本目、8本目のSiナノワイヤ102aは、一端のSiナノワイヤ102より太くすることができる。反射構造121bにおいても同様に、一端から6本目、7本目、8本目のSiナノワイヤ102aを、他のSiナノワイヤ102より太くすることができる。これは、言い換えると、中央の主ナノワイヤ101から、7本目、8本目、および9本目のSiナノワイヤ102aが、他のSiナノワイヤ102より太くされていることになる。
【0012】
さらに、反射構造121a,121bを構成するSiナノワイヤ102,Siナノワイヤ102aが等間隔で配列されている状態に比較して、反射構造121a,121bの一端の側に近いほど大きな値で、反射構造121a,121bの一端の方向にSiナノワイヤ102,Siナノワイヤ102aの位置を変調することができる。
【0013】
例えば、
図2に示すように、主ナノワイヤ101の一端側にp型領域101aを設け、主ナノワイヤ101の他端側にn型領域101bを設けることで、この光素子を発光素子とすることができる。p型領域101aに接続したp電極103aと、n型領域101bに接続したn電極103bにより、主ナノワイヤ101に電流を注入することで、主ナノワイヤ101のp型領域101aとn型領域101bとに挾まれた活性領域より発光させることができる。この活性領域を備える主ナノワイヤ101を2つの反射構造121a,反射構造121bによる共振器の中に配置することで、この光素子をレーザとすることができる。例えば、p型領域101a、n型領域101bはInPから構成し、活性領域はInP/InGaAsPによる多重量子井戸構造とすることができる。
【0014】
これまで開発されているナノワイヤレーザでは、室温で連続発振の実現には至っていない。既存のナノワイヤレーザは、端面反射によるファブリーペロー共振器を利用しているため、発振してもレーザ発振閾値が高く、パルスでしか動作しない(低温では連続発振の報告が数例ある)。これは、レーザ発振閾値が高いため、注入キャリアが多くなり、利得の飽和や、熱による利得のブロードニングが影響してしまうためである(非特許文献2)。
【0015】
上述した従来のナノワイヤレーザにおける問題に対し、実施の形態によれば、Siナノワイヤ102,Siナノワイヤ102aによる共振器構造を、主ナノワイヤ101の周りに配置したので、発振閾値を下げることが可能となり、室温で連続発振するレーザが実現できる。この点について詳細に説明する。
【0016】
まず、
図3Aに示すように、InP系の主ナノワイヤ101を中央に配置し、主ナノワイヤ101の周りに、複数のSiナノワイヤ102を配置した構造について検討する。Siナノワイヤ102は、一端(主ナノワイヤ101)の側から離れるほど長くされている。このようにすることで、同一の長さとした場合に比較して反射率を高めることができる。
【0017】
主ナノワイヤ101、複数のSiナノワイヤ102は、SiO
2層142上に配置されている。また、SiO
2層142は、Si基板141の上に形成されている(
図3B)。例えば、よく知られたSOI(Silicon on Insulator)基板を用い、表面シリコン層を電子線露光法などによる公知のリソグラフィ技術でパターニングすることで、Siナノワイヤ102が形成できる。また、Siナノワイヤ102を形成した後で、別途に作製してある主ナノワイヤ101を所定箇所に配置することで、上述した構成(構造)とすることができる。これらの構造は良く知られている1次元フォトニック結晶共振器の構造とすることができ、複数のSiナノワイヤ102は、格子定数aで決められる周期的な配置とすることができる。
【0018】
この構造において、中央の主ナノワイヤ101からi番目のSiナノワイヤ102のワイヤ長wy(i)は、「wy(i)=wy(0)+i2(wy(imax)-wy(0))/imax
2」、と表すことができる。この式から分かるように、「2×wy(0)」が中央に配置する主ナノワイヤの長さを表している。また、この数式の示す包絡線の形はwy(imax)によって決まる。
【0019】
図4に、この構造の設計の模式図(a)、および電磁界シミュレーションから得られた電場分布(b)を示す。中央にある主ナノワイヤは断面形状が矩形であり、長さが2μmである。また、Siナノワイヤ102の断面形状を矩形とし、厚さ220nmとした。また、複数のSiナノワイヤ102を1次元フォトニック結晶とした場合の格子定数を297nmとした。この構成における共振器Q値は1524,で、主ナノワイヤへの閉じ込め係数は5.8%となっていることが確認された。
【0020】
上述した構造において、"inverse design"の最適化を用いて再設計した結果、
図5に示すように、中央の主ナノワイヤから7本目、8本目、および9本目のSiナノワイヤが、他のSiナノワイヤの幅より変調され、一端側(中央の主ナノワイヤ側)のSiナノワイヤより太くされたものとなる。なお、このシミュレーション結果では、中央の主ナノワイヤから5本目、6本目、12本目も、一端側のSiナノワイヤより太くなっている。
【0021】
また、Siナノワイヤの位置に関しても、中心の側ほど大きな値で中心方向に変調がされたものとなる。
【0022】
例えば、前述した格子定数aに対し、主ナノワイヤ101からこれ隣接する(1本目の)Siナノワイヤ102までの距離を0.824451aとし、2本目のSiナノワイヤ102までの距離を1.828672aとし、3本目のSiナノワイヤ102までの距離を2.862697aとし、4本目のSiナノワイヤ102までの距離を3.872499aとし、5本目のSiナノワイヤ102までの距離を4.915421aとし、6本目のSiナノワイヤ102までの距離を5.977584aとし、7本目のSiナノワイヤ102までの距離を7.015656aとし、8本目のSiナノワイヤ102までの距離を7.972366aとし、9本目のSiナノワイヤ102までの距離を8.989958aとし、10本目のSiナノワイヤ102までの距離を9.967066aとし、11本目のSiナノワイヤ102までの距離を10.97322aとし、12本目のSiナノワイヤ102までの距離を12aとし、13本目のSiナノワイヤ102までの距離を13aとすることができる。
【0023】
このような構造は、
図6の電磁界シミュレーションが示すように、より中央の主ナノワイヤ部分に高い光を強く閉じ込めることを可能にする。言い換えると、1次元的に配列したSiナノワイヤによる反射構造は、所定の箇所のSiナノワイヤを太くすることで、より高い反射機能が得られるものとなる。また、Siナノワイヤの位置を中心の側ほど大きな値で中心方向に変調することで、さらに高い反射機能が得られるものとなる。
【0024】
なお、
図6は、
図5の点線による四角の領域における電磁界シミュレーションの結果を示している。また、
図6の(a)は、平面における電磁界シミュレーションの結果を示し、
図6の(b)は、断面における電磁界シミュレーションの結果を示している。この構成における共振器Q値は134000で、主ナノワイヤへの閉じ込め係数は8.6%と大きく改善していることが確認された。
【0025】
また、上述したように、Siナノワイヤの幅や位置を変調することで光閉じ込めをより強くする構造において、太くしたSiナノワイヤが、配列方向に接触した状態であっても、共振器としての機能は失われず、光の閉じ込めが確認された。
【0026】
このような構造において、中央の主ナノワイヤは円柱状とすることができる。
図7に、中央の主ナノワイヤを円柱状とした場合の光素子の構造(a)について、電磁界シミュレーションの結果(b)を示す。
図7の(a)に示す点線による四角の領域における電磁界シミュレーションの結果を
図7の(b)に示す。このシミュレーションでは、断面方向の対称性が良いと性能が上がるため、中央の主ナノワイヤおよびSiナノワイヤの全体を、SiO
2層で埋め込んだ構造を採用している。シミュレーションの結果、共振器Q値は1088となり、主ナノワイヤへの閉じ込め係数は5.0%となった。
【0027】
上述した中央の主ナノワイヤを円柱状とした構造に対して、"inverse design"の最適化を用いて再設計したものを
図8に示す。これは前出の構造と同様、
図9に示すSiナノワイヤの幅に関して変調されており、一部に太くしたSiナノワイヤがある。また、Siナノワイヤの位置に関しても、中心方向に変調がされている。このような構造は、より中央の主ナノワイヤ部分に高い光を強く閉じ込めることを可能にする。この構成における共振器Q値は56100で、主ナノワイヤへの閉じ込め係数は10.2%と大きな改善が確認された。
【0028】
また、
図8,
図9に示す結果は、反射構造を構成するSiナノワイヤの本数を11本としているが、この構成においても、十分な反射が得られている。上述したシミュレーションの結果を参照すると、反射構造を構成するSiナノワイヤの本数は、9本あればよいことになる。
【0029】
次に、中央の円柱主ナノワイヤの長さ依存性について調べた。
図10において、"length error"は、基準となる主ナノワイヤの長さ(ここでは2μm)からのずれを示めす。この値が負の主ナノワイヤは基準より短く、正の主ナノワイヤは基準より長いことを表している。調査した結果を
図11に示す。
図11に示すように、主ナノワイヤの長さが基準値よりも長くても、共振器として十分動作することが可能となることである。従って、
図2を用いて説明したように、主ナノワイヤ101の一端側にp型領域101aを設け、主ナノワイヤ101の他端側にn型領域101bを設けて主ナノワイヤ101のワイヤ長を長くした素子構造を可能とする。
【0030】
まとめると、
図3,
図4を用いて説明した基本的な反射構造に対し、"inverse design"などの最適化を用いて再設計して最適化することで、太くするSiナノワイヤの位置、太さ、Siナノワイヤの位置の変調を決定することで、反射構造の反射率(複数の反射構造を用いた閉じ込め係数)、少なくとも2つの反射構造を用いた共振器のQ値などを、より向上させることができる。また、このようにして閉じ込め係数、共振器Q値の向上を図ることで、ナノワイヤを用いたレーザで、室温における連続発振が実現できる。
【0031】
次に、本発明の実施の形態に係る他の光素子について、
図12,
図13を参照して説明する。この光素子は、主ナノワイヤ101を中心に点対称に配置された複数の共振器を備える。この例では、反射構造121aおよび反射構造121bからなる共振器に加えて、反射構造121cおよび反射構造121dからなる共振器を備える。2つの反射構造121c,反射構造121dも、主ナノワイヤ101を挟んで主ナノワイヤ101に対して対称な状態で、1次元的に配置されている。また、反射構造121c,反射構造121dを構成する各々のSiナノワイヤ102は、主ナノワイヤ101と互いに平行とされている。
【0032】
この構成において、主ナノワイヤ101、およびSiナノワイヤ102は、各主ナノワイヤの延在方向が、基板201の表面に対して垂直とされている。また、1つの直線状に配置される反射構造121a,反射構造121bの配列と、1つの直線状に配置される反射構造121c,反射構造121dの配列との平面視のなす角度は、90°とされている。言い換えると、各々が1つの直線状に配置される2つの共振器の平面視のなす角度は、90°とされている。また、各Siナノワイヤのワイヤ長は等しいものとしている。なお、図では省略しているが、各々の反射構造の一端から6本目、7本目、8本目のSiナノワイヤは、一端のSiナノワイヤ102より太くされている。
【0033】
この構成における共振器Q値は10388,閉じ込め係数は10.3%となり高い値を実現できている。また、各共振器(反射構造)の終端部に入力導波路や出力導波路を光学的に接続(結合)するために、終端部に行くほどSiナノワイヤの系を細くしたテーパ構造とすることができる。また、この構造では、各Siナノワイヤのワイヤ長は等しくなるが、この場合においても、強い反射率が得られ、中央の主ナノワイヤ101に対する強い光閉じ込めが得られる。
【0034】
また、
図14に示すように、さらに、反射構造121eおよび反射構造121fからなる共振器、反射構造121gおよび反射構造121hからなる共振器を加えることができる。この構成では、主ナノワイヤ101を中心に点対称に配置された4つ(複数)の共振器を備えるものとなる。各々が1つの直線状に配置される4つの共振器は、平面視で45°ずつずれて配置されている。この構成における共振器Q値は56000,閉じ込め係数は15.5%となり、同様に共振器の特性が良いことが確認できる。このように、共振器の列を任意の角度で増やす構造は、Q値を高める効果があり、任意の角度で複数の共振器の列を配置することができる。なお、
図14に示す例においても、各共振器(反射構造)の終端部に入力導波路104、出力導波路105を光学的に接続(結合)するために、
図15に示すように、終端部に行くほどSiナノワイヤの系を細くしたテーパ構造122を備える構成とすることができる。
【0035】
また、
図16の(a)に示すように、入力導波路104、出力導波路105は、反射構造121a,反射構造121bによる共振器の中心軸からずれた位置に配置することができる。この構造は、
図16の(b)に示す電場分布のシミュレーション結果に示すように、中心に導波路を接続するより効率的に光を共振器に送ることが期待できる。
【0036】
次に、本発明の実施の形態に係る他の光素子について、
図17を参照して説明する。この光素子は、化合物半導体から構成された主ナノワイヤ101と、Siナノワイヤ102とを備える。主ナノワイヤ101は、例えば、InPやInGaAsPなどのIII-V族化合物半導体から構成することができる。主ナノワイヤ101は、円柱形状とすることができる。
【0037】
また、この光素子は、主ナノワイヤ101と互いに平行な状態で、主ナノワイヤ101とともに1次元的に配列された4本以上のSiナノワイヤ102を備える反射構造121を備える。反射構造121の一端には、入力導波路104が光学的に結合されている。ここで、この光素子では、反射構造121の主ナノワイヤ101の側の一端から、6本目、7本目、および8本目のSiナノワイヤ102aを、反射構造121の一端のSiナノワイヤ102より太くし、7本目のSiナノワイヤ102aの位置に主ナノワイヤ101を配置している。
【0038】
また、主ナノワイヤ101の一端側にp型領域101aを設け、主ナノワイヤ101の他端側にn型領域101bを設けることで、この光素子を受光素子とすることができる。p型領域101aに接続したp電極103aと、n型領域101bに接続したn電極103bにより、主ナノワイヤ101に所定の電圧を印加することで、主ナノワイヤ101のp型領域101aとn型領域101bとに挾まれた受光領域で光を受光して光電変換させることができる。反射構造121の特徴となる他のSiナノワイヤ102より太いSiナノワイヤ102aの部分は、光を強く反射するミラーの働きがある。このため、Siナノワイヤ102aの近傍に配置した主ナノワイヤ101の受光領域には、入力導波路104の側より入力した光に加え、上述したことにより反射した光も入射する。
【0039】
以上に説明したように、本発明によれば、化合物半導体から構成された主ナノワイヤと互いに平行な状態で、主ナノワイヤとともに1次元的に配列され、一端の側から離れるほど長くされた8本以上のSiナノワイヤを備え、反射構造の一端から4本目以降の3本のSiナノワイヤを一端のSiナノワイヤより太くしているので、主ナノワイヤを用いた新たな光素子が提供できるようになる。
【0040】
上記の実施形態の一部または全部は、以下の付記のようにも記載されるが、以下には限られない。
【0041】
[付記1]
化合物半導体から構成された主ナノワイヤと、前記主ナノワイヤと互いに平行な状態で、前記主ナノワイヤとともに1次元的に配列され、一端の側から離れるほど長くされた8本以上のSiナノワイヤを備える反射構造とを備え、前記反射構造の一端から4本目以降の3本目の前記Siナノワイヤは、前記反射構造の一端の前記Siナノワイヤより太くされている光素子。
【0042】
[付記2]
付記1記載の光素子において、前記反射構造を構成する前記Siナノワイヤが等間隔で配列されている状態に比較して、前記反射構造の一端の側に近いほど大きな値で、前記反射構造の一端の方向に前記Siナノワイヤの位置が変調されている光素子。
【0043】
[付記3]
付記1または2記載の光素子において、前記主ナノワイヤと前記Siナノワイヤとが互いに平行な状態で1次元的に配列される状態で、前記主ナノワイヤを挟んで前記主ナノワイヤに対して対称な状態で配置された2つの前記反射構造を備え、前記主ナノワイヤを挟む2つの前記反射構造により共振器が構成されている光素子。
【0044】
[付記4]
付記3記載の光素子において、前記主ナノワイヤを中心に点対称に配置された複数の前記共振器を備える光素子。
【0045】
[付記5]
付記1~4のいずれか1項に記載の光素子において、前記主ナノワイヤは、円柱とされている光素子。
【0046】
なお、本発明は以上に説明した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想内で、当分野において通常の知識を有する者により、多くの変形および組み合わせが実施可能であることは明白である。
【符号の説明】
【0047】
101…主ナノワイヤ、102…Siナノワイヤ、102a…Siナノワイヤ、121a,121b…反射構造。