(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024142752
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】長尺状塗工フィルムの製造方法及び金属張積層板の製造方法
(51)【国際特許分類】
B05D 3/02 20060101AFI20241003BHJP
B05D 7/24 20060101ALI20241003BHJP
B05D 7/00 20060101ALI20241003BHJP
H05K 3/28 20060101ALI20241003BHJP
C09D 201/00 20060101ALI20241003BHJP
C09D 7/61 20180101ALI20241003BHJP
C09D 7/65 20180101ALI20241003BHJP
C09D 179/08 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
B05D3/02 Z
B05D7/24 303A
B05D7/00 A
H05K3/28 F
C09D201/00
C09D7/61
C09D7/65
C09D179/08 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023055062
(22)【出願日】2023-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000006644
【氏名又は名称】日鉄ケミカル&マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115118
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邊 和浩
(74)【代理人】
【識別番号】100095588
【弁理士】
【氏名又は名称】田治米 登
(74)【代理人】
【識別番号】100094422
【弁理士】
【氏名又は名称】田治米 惠子
(74)【代理人】
【識別番号】110000224
【氏名又は名称】弁理士法人田治米国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】池田 知弥
(72)【発明者】
【氏名】安藤 智典
【テーマコード(参考)】
4D075
4J038
5E314
【Fターム(参考)】
4D075AC02
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4J038CD122
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5E314AA24
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5E314GG24
(57)【要約】
【課題】 パウダーを含有する分散液を基材上にキャストして得られる塗布膜をロール・トゥ・ロール方式で乾燥、熱処理することによって長尺状塗工フィルムを製造するにあたり、乾燥後の塗布膜からの粉落ちや割れの発生を防止しながら、低誘電正接かつ低熱膨張性の樹脂層を有する樹脂層を有する長尺状塗工フィルムを製造する。
【解決手段】 (A)パウダー、(B)結着樹脂及び(C)溶媒を含む分散組成物を調製する工程1、分散組成物を基材に塗布することにより塗布膜を形成する工程2、塗布膜を前記基材上で乾燥させる工程3、並びに、乾燥後の塗布膜に対して熱処理を行い、塗布膜中の樹脂成分を溶融させて樹脂層となし、長尺状塗工フィルムを形成する工程4、を含み、乾燥後の塗布膜中における前記結着樹脂の含有量が、前記パウダーの全量100重量部に対して4~15重量部の範囲内となるように調整するとともに、少なくとも工程2から工程3までをロール・トゥ・ロール方式で搬送しながら実施する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
長尺状塗工フィルムの製造方法であって、下記の工程1~4;
工程1:(A)パウダー、(B)結着樹脂及び(C)溶媒を含む分散組成物を調製する工程、
工程2:前記分散組成物を基材に塗布することにより塗布膜を形成する工程
工程3:前記塗布膜を前記基材上で乾燥させる工程、並びに、
工程4:乾燥後の前記塗布膜に対して熱処理を行い、前記塗布膜中の樹脂成分を溶融させて樹脂層となし、長尺状塗工フィルムを形成する工程、
を含み、
前記乾燥後の塗布膜中における前記結着樹脂の含有量が、前記パウダーの全量100重量部に対して4~15重量部の範囲内となるように調整するとともに、少なくとも前記工程2から工程3までをロール・トゥ・ロール方式で搬送しながら実施することを特徴とする長尺状塗工フィルムの製造方法。
【請求項2】
前記乾燥後の塗布膜全体に対する前記パウダーの含有量が70~98重量%の範囲内である請求項1に記載の長尺状塗工フィルムの製造方法。
【請求項3】
前記パウダーとしてフッ素系樹脂パウダーおよび無機フィラーを含む請求項1に記載の長尺状塗工フィルムの製造方法。
【請求項4】
前記乾燥後の塗布膜中の前記結着樹脂の含有量が、前記フッ素系樹脂パウダーの全量100重量部に対して15重量部以上55重量部未満である請求項3に記載の長尺状塗工フィルムの製造方法。
【請求項5】
前記工程3では、前記フッ素系樹脂パウダーの融点よりも20℃以上低い温度で乾燥を行う請求項3に記載の長尺状塗工フィルムの製造方法。
【請求項6】
前記乾燥後の塗布膜中の前記無機フィラーの含有量が、前記パウダーと前記結着樹脂の合計100重量部に対して60重量部以上である請求項3に記載の長尺状塗工フィルムの製造方法。
【請求項7】
前記結着樹脂が、酸二無水物成分から誘導される酸二無水物残基及びジアミン成分から誘導されるジアミン残基を含有するポリイミドであり、
前記ポリイミドが、全ジアミン残基に対し、ダイマー酸の二つの末端カルボン酸基が1級アミノメチル基又はアミノ基に置換されてなるダイマージアミンに由来するジアミン残基を25~100モル%の範囲内で含有するものである請求項1に記載の長尺状塗工フィルムの製造方法。
【請求項8】
前記樹脂層の20GHzにおける誘電正接が0.002以下である請求項1に記載の長尺状塗工フィルムの製造方法。
【請求項9】
前記樹脂層の熱膨張係数(CTE)が10~60ppm/Kの範囲内である請求項1に記載の長尺状塗工フィルムの製造方法。
【請求項10】
前記ロール・トゥ・ロール方式による搬送では、6インチ(152.4mm)径以下のガイドロール上を抱き角が90度以上となるように搬送することを含む請求項1に記載の長尺状塗工フィルムの製造方法。
【請求項11】
前記ロール・トゥ・ロール方式による搬送では、6インチ(152.4mm)径以下のコアの巻取ロールで巻き取りを行うことを含む請求項1に記載の長尺状塗工フィルムの製造方法。
【請求項12】
前記長尺状塗工フィルムの長手方向の長さが2m以上である請求項1に記載の長尺状塗工フィルムの製造方法。
【請求項13】
金属箔と樹脂層とが積層された金属張積層板の製造方法であって、請求項1から12のいずれか1項における前記基材として金属箔を用いることを特徴とする金属張積層板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばフレキシブルプリント配線板(FPC;Flexible Printed Circuits)などの回路基板の材料として有用な長尺状塗工フィルムの製造方法及び金属張積層板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
Beyond 5Gでは、100GHz以上の高周波数帯を用いた通信が行われると予測されており、より高周波特性に優れるプリント配線板が必要となる。この用途におけるプリント配線板の誘電体として、低誘電正接であるポリテトラフルオロエチレン等のフッ素系樹脂を用いたものが広く検討されている。一方で、フッ素系樹脂は熱膨張率が大きく、基板の寸法安定性を損なう懸念がある。そのため、フッ素系樹脂に低誘電正接かつ低熱膨張である無機フィラーを含む構成で材料開発が進められている。
【0003】
フッ素系樹脂を誘電体とする金属張積層板の製法として、特許文献1では、キャスティング法が検討されている。すなわち、フッ素系樹脂パウダーの分散液を銅箔上に塗工・乾燥した後、フッ素系樹脂パウダーの融点以上の温度で加熱することで樹脂層を形成している。しかし、特許文献1の分散液には結着成分が含まれていないため、塗布膜の割れや剥がれが発生しやすく、ロール・トゥ・ロール方式により長尺な金属張積層板を製造することは困難であると考えられる。
【0004】
特許文献2では、フッ素系樹脂と無機フィラーを含む液状組成物に結着樹脂を添加することで、乾燥後の粉落ち性を改善している。一方で、無機フィラーを高濃度で含む分散液への応用は考慮されておらず、厚みが25μm以上となるような塗布膜の厚膜化についても具体的な開示が無い。また、特許文献2では、使用している結着樹脂の誘電特性の検討が不十分であるため、最終的なフィルムの誘電特性も良好でないと考えられる。さらに、特許文献2では、結着樹脂として脂肪族ポリイミドを使用した例が示されているが、結着樹脂量の適正化は行われておらず、フィルムの低熱膨張性についても考慮されていないため、ロール・トゥ・ロール方式による長尺な塗工フィルムの製造に適用することは想定されていない。
【0005】
特許文献3では、脂肪族ジアミンであるダイマージアミンを用いたポリイミドを含有する樹脂組成物にフッ素系樹脂パウダーを配合することによって、樹脂層の誘電特性を改善している。しかし、特許文献3では、樹脂層の誘電特性と低熱膨張性との両立について考慮されておらず、ポリイミドの量を適性化することはなされていない。例えば、具体的な開示である実施例では、フッ素系樹脂パウダーに対して重量部で3倍のポリイミドを使用しており、樹脂層の熱膨張率を十分に低下させることができていない。樹脂層の熱膨張率が高いと、樹脂層の厚膜化や、長尺な樹脂層をロール・トゥ・ロール方式で連続的に製造することが難しくなり、工業的規模でも生産には適していない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第7176533号公報
【特許文献2】国際公開WO2020/241607号
【特許文献3】特開2019-104843号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
フッ素系樹脂パウダーや無機フィラーなどのパウダーを含有する分散液を金属箔上に塗工して得られる塗布膜は、乾燥させると粉落ちや割れが発生しやすい。このような乾燥塗布膜からの粉落ちや割れは、パウダーが高濃度に配合されている場合に特に発生しやすくなる。その一方で、粉落ちや割れを防止するための結着成分の配合は、誘電特性の悪化や熱膨張率の増大につながるおそれがある。そのため、粉落ちや割れの防止と低誘電正接・低熱膨張性とが両立せず、特にロール・トゥ・ロール方式で長尺な塗工フィルムを製造する場合の課題となっていた。
【0008】
従って、本発明の目的は、パウダーを含有する分散液を基材上にキャストして得られる塗布膜をロール・トゥ・ロール方式で乾燥、熱処理することによって長尺状塗工フィルムを製造するにあたり、乾燥後の塗布膜からの粉落ちや割れの発生を防止しながら、低誘電正接かつ低熱膨張性の樹脂層を有する長尺状塗工フィルムを製造することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは鋭意検討を行った結果、パウダーの量に対する結着樹脂の配合量を調節することによって、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明の長尺状塗工フィルムの製造方法は、下記の工程1~4;
工程1:(A)パウダー、(B)結着樹脂及び(C)溶媒を含む分散組成物を調製する工程、
工程2:前記分散組成物を基材に塗布することにより塗布膜を形成する工程
工程3:前記塗布膜を前記基材上で乾燥させる工程、並びに、
工程4:乾燥後の前記塗布膜に対して熱処理を行い、前記塗布膜中の樹脂成分を溶融させて樹脂層となし、長尺状塗工フィルムを形成する工程、
を含んでいる。
そして、本発明の長尺状塗工フィルムの製造方法は、前記乾燥後の塗布膜中における前記結着樹脂の含有量が、前記パウダーの全量100重量部に対して4~15重量部の範囲内となるように調整するとともに、少なくとも前記工程2から工程3までをロール・トゥ・ロール方式で搬送しながら実施することを特徴とする。
【0011】
本発明の長尺状塗工フィルムの製造方法は、前記乾燥後の塗布膜全体に対する前記パウダーの含有量が70~98重量%の範囲内であってよい。
【0012】
本発明の長尺状塗工フィルムの製造方法は、前記パウダーとしてフッ素系樹脂パウダーおよび無機フィラーを含んでいてもよい。
【0013】
本発明の長尺状塗工フィルムの製造方法は、前記乾燥後の塗布膜中の前記結着樹脂の含有量が、前記フッ素系樹脂パウダーの全量100重量部に対して15重量部以上55重量部未満であってよい。
【0014】
本発明の長尺状塗工フィルムの製造方法において、前記工程3では、前記フッ素系樹脂パウダーの融点よりも20℃以上低い温度で乾燥を行ってもよい。
【0015】
本発明の長尺状塗工フィルムの製造方法は、前記乾燥後の塗布膜中の前記無機フィラーの含有量が、前記パウダーと前記結着樹脂の合計100重量部に対して60重量部以上であってよい。
【0016】
本発明の長尺状塗工フィルムの製造方法は、前記結着樹脂が、酸二無水物成分から誘導される酸二無水物残基及びジアミン成分から誘導されるジアミン残基を含有するポリイミドであってよく、前記ポリイミドが、全ジアミン残基に対し、ダイマー酸の二つの末端カルボン酸基が1級アミノメチル基又はアミノ基に置換されてなるダイマージアミンに由来するジアミン残基を25~100モル%の範囲内で含有するものであってもよい。
【0017】
本発明の長尺状塗工フィルムの製造方法は、前記樹脂層の20GHzにおける誘電正接が0.002以下であってよい。
【0018】
本発明の長尺状塗工フィルムの製造方法は、前記樹脂層の熱膨張係数(CTE)が10~60ppm/Kの範囲内であってよい。
【0019】
本発明の長尺状塗工フィルムの製造方法において、前記ロール・トゥ・ロール方式による搬送では、6インチ(152.4mm)径以下のガイドロール上を抱き角が90度以上となるように搬送することを含んでいてもよい。
【0020】
本発明の長尺状塗工フィルムの製造方法において、前記ロール・トゥ・ロール方式による搬送では、6インチ(152.4mm)径以下のコアの巻取ロールで巻き取りを行うことを含んでいてもよい。
【0021】
本発明の長尺状塗工フィルムの製造方法は、前記長尺状塗工フィルムの長手方向の長さが2m以上であってよい。
【0022】
本発明の金属張積層板の製造方法は、金属箔と樹脂層とが積層された金属張積層板の製造方法であって、前記基材として金属箔を用いることを特徴とする。
【発明の効果】
【0023】
本発明方法によれば、工程1~4を実施するとともに、乾燥後の塗布膜中における結着樹脂の含有量が、パウダーの全量100重量部に対して4~15重量部の範囲内となるように調整することによって、乾燥後の塗布膜からの粉落ちや割れの発生を防止しつつ、低誘電正接かつ低熱膨張性の樹脂層を有する長尺状塗工フィルムを製造することができる。また、本発明方法では、少なくとも工程2から工程3までをロール・トゥ・ロール方式で搬送しながら実施するため、長尺状塗工フィルムを製造することが可能であり、回路基板材料として有用な長尺状塗工フィルムの工業的規模での生産に適している。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本発明の第1の実施の形態の長尺状塗工フィルムの製造方法の概略工程図である。
【
図2A】本発明の第2の実施の形態の長尺状塗工フィルムの製造方法の概略工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施の形態について、適宜図面を参照しながら説明を行う。本発明の一実施の形態に係る長尺状塗工フィルムの製造方法は、下記の工程1~4;
工程1:(A)パウダー、(B)結着樹脂及び(C)溶媒を含む分散組成物を調製する工程、
工程2:前記分散組成物を基材に塗布することにより塗布膜を形成する工程
工程3:前記塗布膜を前記基材上で乾燥させる工程、
工程4:乾燥後の塗布膜に対して熱処理を行い、塗布膜中の樹脂成分を溶融させて樹脂層となし、長尺状塗工フィルムを形成する工程、
を含んでいる。工程1~4によって得られる長尺状塗工フィルムは、長尺な基材と、該基材上に積層されている樹脂層とを有している。
【0026】
<工程1>
工程1は、(A)パウダー、(B)結着樹脂及び(C)溶媒を含む分散組成物を調製する工程である。分散組成物は、成分(C)の溶媒中に成分(A)及び成分(B)が分散している。
【0027】
成分(A):
成分(A)のパウダーとは、例えば、平均粒子径(D50)が0.05~100μmの範囲内、好ましくは0.5~50μmの範囲内、より好ましくは0.5~20μmの範囲内の粒子の集合体を意味する。なお、パウダーの平均粒子径(D50)は、例えばレーザー回折・散乱法によって粉粒の粒度分布を測定し、その粉粒の全体積を100%として累積カーブを求め、その累積カーブ上で累積体積が50%となる点の粒子径を測定することで求めることが可能である。
【0028】
成分(A)のパウダーは、少なくとも、フッ素系樹脂パウダー及び無機フィラーを含有することが好ましい。以下、パウダーが、フッ素系樹脂パウダー及び無機フィラーを含有する場合を例に挙げて各工程を説明する。
【0029】
フッ素系樹脂は、フッ素原子を含むポリマーであり、その種類は特に限定されないが、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン―パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、エチレン-テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、エチレン-テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(EFEP)、ポリフッ化ビニル(PVF)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)等が挙げられる。これらは、2種以上を組み合わせて用いてもよく、また、フッ素系樹脂の一部に官能基を有するパーフルオロオレフィンに基づくモノマー単位を含んでいてもよい。官能基としては、カルボニル基含有基、ヒドロキシ基、エポキシ基、アミド基、アミノ基及びイソシアネート基が好ましい。これらのフッ素系樹脂の中でも、低い誘電正接を示すものとして、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン―パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)がより好ましい。
【0030】
無機フィラーの種類は特に限定されないが、長尺状塗工フィルムにおける樹脂層の熱膨張係数(CTE)を低下させる観点から、例えば、二酸化ケイ素(シリカ)、酸化アルミニウム(アルミナ)、酸化マグネシウム(マグネシア)、酸化ベリリウム、酸化ニオブ、酸化チタン、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、フッ化アルミニウム、フッ化カルシウム、フッ化マグネシウム、ケイフッ化カリウム、タルク、ガラス、チタン酸バリウム等が好ましい。これらは、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中でも、熱膨張係数(CTE)が低いものとして、二酸化ケイ素(シリカ)、酸化アルミニウム、窒化ホウ素、ガラス等がより好ましい。無機フィラーの形状は、特に限定されないが、厚み方向と面方向の熱膨張係数(CTE)の差を低減する観点から、例えば、球状、破砕球状等が好ましく、中空状であってもよい。
また、無機フィラーは、カップリング剤等により表面処理されていることが好ましい。表面処理に用いるカップリング剤としては、例えば3-アミノプロピルエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルエトキシシラン、3-イソシアネートプロピルエトキシシランまたはヘキサメチルジシラザン等が挙げられる。また、無機フィラーは、誘電正接悪化抑制の観点から比表面積が0.1~20m2/gの範囲内、好ましくは0.1~10m2/gの範囲内がよい。なお、比表面積はBET法によって測定することが可能である。
【0031】
成分(B):
成分(B)の結着樹脂は、結着作用及び応力緩和作用を有する成分である。結着樹脂を配合することによって、乾燥後の塗布膜からの粉落ちや割れの発生を防止できる。結着樹脂としては、フィルム化したときに、50℃での貯蔵弾性率が3.0GPa以下であり、180℃から260℃の温度領域での貯蔵弾性率の最大値が800MPa以下である樹脂が好ましい。ここで、「フィルム化したときに」とは、結着樹脂を単独でフィルム状態にすることを意味する。結着樹脂は、フィルム状態で50℃、及び、180℃から260℃の温度領域での貯蔵弾性率が十分に低いことから、優れた結着作用及び応力緩和作用を奏する。このような観点から、50℃での貯蔵弾性率が、より好ましくは1000MPa以下、さらに好ましくは500MPa以下であり、180℃から260℃の温度領域での貯蔵弾性率の最大値が、より好ましくは500MPa以下、さらに好ましくは100MPa以下である樹脂を用いることがよい。
【0032】
結着樹脂としては、例えばポリイミド、ポリアミド、エポキシ樹脂、フェノキシ樹脂、アクリル樹脂、ポリウレタン、スチレン樹脂、ポリエステル、フェノール樹脂、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンサルファイド、ポリエチレン、ポリプロピレン、シリコーン樹脂、ポリエーテルケトン、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール、スチレン-マレイミド共重合体、マレイミド-ビニル化合物共重合体、又は(メタ)アクリル共重合体、ベンゾオキサジン樹脂、ビスマレイミド樹脂及びシアネートエステル樹脂等の樹脂が挙げられ、これらの中から、上記貯蔵弾性率を満たすものを選択したり、あるいは、満たすように設計したりして使用することができる。これらの結着樹脂は2種以上を併用することができる。上記の結着樹脂の中でも、低弾性率と耐熱性の両方の性質を有しているという観点から、熱可塑性ポリイミド、シリコーン樹脂などが好ましく、更には低誘電正接化という観点から、原料として脂肪族ジアミンを使用するポリイミドがより好ましい。脂肪族ジアミンを使用するポリイミドの一例として、酸二無水物成分から誘導される酸二無水物残基及びジアミン成分から誘導されるジアミン残基を含有するポリイミドであって、全ジアミン残基に対し、ダイマー酸の二つの末端カルボン酸基が1級アミノメチル基又はアミノ基に置換されてなるダイマージアミンに由来するジアミン残基を25~100モル%の範囲内で含有するものが好ましい。なお、ダイマージアミンとしては、市販品を利用可能であり、例えばクローダジャパン社製のPRIAMINE1073(商品名)、同PRIAMINE1074(商品名)、同PRIAMINE1075(商品名)等が挙げられる。これらの市販品を用いる場合は、ダイマージアミン以外の成分を低減する目的で精製することが好ましく、例えばダイマージアミンを96重量%以上とすることが好ましい。精製方法としては、特に制限されないが、蒸留法や沈殿精製等の公知の方法が好適である。
【0033】
結着樹脂の重量平均分子量は、特に限定する意味ではないが、溶剤への溶解性の観点から、例えば10000~300000の範囲内が好ましく、10000~100000の範囲内であることがより好ましい。また、結着樹脂は、例えば酢酸エチル、メチルエチルケトン、N,N‐ジメチルアセトアミド等の極性有機溶媒に可溶であることが好ましい。
【0034】
成分(C):
成分(C)の溶媒としては有機溶媒が好ましく、その種類は特に限定されないが、25℃で液状である有機溶媒が好ましい。例えば、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)、N,N-ジエチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、2-ブタノン、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ヘキサメチルホスホルアミド、N-メチルカプロラクタム、硫酸ジメチル、シクロヘキサノン、ジオキサン、テトラヒドロフラン、ジグライム、トリグライム、クレゾール、メタノール、エタノール、イソプロパノール、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、γ-ブチロラクトン等が好ましい。これらの中でも、例えば、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)、N,N-ジエチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)等の高沸点溶媒がより好ましい。
【0035】
任意成分:
分散組成物は、さらに任意成分として、例えば、分散剤、オリゴマー、有機フィラー、硬化剤、可塑剤、エラストマー、カップリング剤、顔料、難燃剤等を含有することができる。ここで、分散剤としては、成分(A)のパウダーに対する分散作用を有するものであれば種類は特に限定されないが、フッ素系樹脂を分散する観点から、例えば、フッ素系界面活性剤が好ましい。フッ素系界面活性剤としては、例えば、分子内に二重結合を有するパーフルオロアルケニル構造のノニオン系のフッ素系界面活性剤がより好ましい。また、オリゴマーとしては、脂肪族もしくは半芳香族である炭化水素系オリゴマー、アクリル系オリゴマー、ウレタン系オリゴマー、イミド系オリゴマー、エステル系オリゴマー、アミド系オリゴマー等を例示できる。これらのオリゴマーは、低弾性率を示す有機溶媒可溶成分である、という点で共通する特徴を有し、50℃での貯蔵弾性率が1800MPa以下であることが好ましい。オリゴマーの分子量は、特に限定する意味ではないが、有機溶剤への溶解性や結着作用の観点から、例えば数平均分子量が1000~30000の範囲内が好ましく、1000~10000の範囲内であることがより好ましい。
【0036】
組成比:
分散組成物は、良好な分散性や良好な塗工性を得るために、成分(C)の溶媒を含む組成物全体に対して、固形分の量が50~80重量%の範囲内であることが好ましく、60~70重量%の範囲内であることがより好ましい。このような固形分濃度にすることによって、粘度の調整がしやすくなり、基材へキャストするときのハンドリング性が向上するとともに、基材上での流動性と展延性が良好となることから厚膜化が可能になる。なお、分散組成物中の固形分とは、溶媒を除いた成分の合計を意味する。
【0037】
本発明方法においては、工程3を実施した後の乾燥塗布膜において、成分(A)及び(B)が以下の組成比となるように調整することが好ましい。乾燥塗布膜中の成分(A)及び(B)の組成比は、分散組成物から成分(C)の溶媒を除去した固形分の組成比とほぼ一致することから、分散組成物の調製段階で固形分の組成比を調整することによって、乾燥塗布膜中の組成を所望の比率に調整できる。
【0038】
乾燥塗布膜全体に対する成分(A)のパウダーの含有量は、好ましくは70~98重量%の範囲内であり、より好ましくは80~98重量%の範囲内であり、最も好ましくは85~95重量%の範囲内である。このように高濃度にパウダーを含有する乾燥塗布膜では、粉落ちや割れが発生しやすくなるため、本発明方法の効果がより大きく発揮される。
ここで、乾燥塗布膜中のフッ素系樹脂パウダーの重量割合は、樹脂層の誘電正接を下げ、高周波信号伝送への対応を図る観点から、乾燥塗布膜の全体重量100重量部に対し、15~40重量部の範囲内であることが好ましく、20~35重量部の範囲内であることがより好ましい。乾燥塗布膜の全体重量100重量部中のフッ素系樹脂パウダーの重量割合が15重量部未満では樹脂層の誘電正接を十分に低減することが困難となり、40重量部を超えると樹脂層の熱膨張係数(CTE)の制御が困難となる。
【0039】
また、乾燥塗布膜中の無機フィラーの重量割合は、樹脂層の熱膨張係数(CTE)を十分に下げ、回路基板へ適用したときの寸法安定性を担保する観点から、乾燥塗布膜の全体重量100重量部に対し、55~75重量部の範囲内であることが好ましく、60~70重量部の範囲内であることがより好ましい。
乾燥塗布膜の全体重量100重量部中の無機フィラーの重量割合が55重量部未満であると樹脂層の熱膨張係数(CTE)の制御が不十分となり、75重量部を超えると乾燥塗布膜からの粉落ちや割れの発生を防止することが困難となる。
さらに、乾燥塗布膜中の無機フィラーの含有量は、成分(A)のパウダーと成分(B)の結着樹脂の合計量100重量部に対して60重量部以上であることが好ましく、60~80重量部の範囲内であることがより好ましい。このように高濃度に無機フィラーを含有する乾燥塗布膜では、粉落ちが発生しやすくなるため、本発明方法の効果がより大きく発揮される。また、乾燥塗布膜中の無機フィラーの含有量が、成分(A)と成分(B)の合計量100重量部に対して60重量部未満であると、樹脂層の熱膨張係数(CTE)の制御が不十分となる。
【0040】
また、乾燥塗布膜中の成分(B)の結着樹脂の含有量は、乾燥塗布膜からの粉落ちや割れの発生を防止するとともに、樹脂層の厚みとして30μm以上の厚膜形成を可能にする観点から、成分(A)のパウダーの全量100重量部に対して4~15重量部の範囲内であり、5~12重量部の範囲内であることが好ましい。成分(A)の合計量100重量部に対して、成分(B)の結着樹脂が4重量部未満であると乾燥塗布膜からの粉落ちや割れの発生を防止する効果十分に得られず、フィルムの厚膜化も困難になり、15重量部を超える場合は樹脂層の低誘電正接化及び低熱膨張化が困難となる懸念がある。
乾燥塗布膜中の成分(B)の結着樹脂の含有量は、成分(A)中に含まれるフッ素系樹脂パウダーの全量100重量部に対して15重量部以上55重量部未満であることが好ましく、17~52重量部の範囲内であることがより好ましい。フッ素系樹脂パウダーの全量100重量部に対して結着樹脂の含有量が15重量部未満であると乾燥塗布膜からの粉落ちや割れが発生しやすくなり、55重量部を超えると樹脂層の低誘電正接化が困難となる懸念がある。
【0041】
粘度:
分散組成物の粘度は特に限定されないが、例えば、樹脂層の厚みとして30μm以上の厚膜塗工を目的とする場合は、500~50000cPの範囲内であることが好ましく、500~30000cPの範囲内がより好ましい。粘度が500cP未満では、分散組成物を基材上にキャストするときに、流動性が高くなりすぎるため、厚膜での塗膜形成が困難となる。特に、高周波伝送用途向けに、樹脂層の厚みとして30~150μmの範囲内となるような比較的厚い塗膜の形成が不可能となる。また、粘度が500cP未満では、固形分の沈降や凝集が生じることがある。一方、分散組成物の粘度が50000cPを超える場合は、粘性が高すぎてキャストによる塗膜形成が困難となる。
なお、分散組成物の粘度は、E型粘度計を用い、温度25℃で測定することができる。
【0042】
分散組成物の調製:
分散組成物は、成分(A)~(C)を混合することによって製造できる。各成分の混合は、成分(C)の溶媒中で行うことが好ましい。このとき、成分(B)は任意の有機溶媒に溶解させた状態で配合することが好ましい。
【0043】
<工程2>
工程2は、分散組成物を基材に塗布することにより塗布膜を形成する工程である。すなわち、任意の基材の上に、分散組成物を塗工することによって、基材上に塗布膜を形成する。塗布膜は、工程4の熱処理工程後の厚みが所望の大きさとなるように塗工される。分散組成物を基材上に塗布する方法としては特に制限されず、例えばコンマ、ダイ、ナイフ、リップ等のコーターにて塗布することが可能である。
【0044】
基材としては、特に限定されないが、耐熱性を有する素材として、例えば銅箔などの金属箔、接着層付き銅箔やポリイミドフィルムなどを用いることが好ましい。また、基材としては長尺なものが用いられる。ここで、「長尺」とは、例えば長手方向の長さが2m以上、好ましくは5m以上、より好ましくは10m以上であるものをいう。長手方向の長さの上限は、特に限定されないが、例えば1000m、あるいは2000mであってよい。また、別の観点から、「長尺」とは、短手方向の長さ(幅)に対して長手方向の長さが4倍以上であると定義することができる。本発明では、塗工フィルムについて「長尺」というときも、上記と同様の意味で用いる。
【0045】
本発明方法では、基材として金属箔を用いることによって、フッ素系樹脂層と金属層とを備えた長尺状の金属張積層板を製造できる。例えば、基材として金属箔を用いる場合、そのまま金属層の片面にフッ素系樹脂層を有する片面金属張積層板となる。また、基材として金属箔を用いるとともに、塗工フィルムの基材とは反対側の面に別の金属層を形成することによって、両面金属張積層板とすることも可能である。金属箔の材質としては、特に制限はないが、例えば、銅、ステンレス、鉄、ニッケル、ベリリウム、アルミニウム、亜鉛、インジウム、銀、金、スズ、ジルコニウム、タンタル、チタン、鉛、マグネシウム、マンガン及びこれらの合金等が挙げられる。この中でも、特に銅又は銅合金が好ましい。
基材として金属箔を用いる場合の表面粗度は、特に限定されるものではないが、フッ素系樹脂層との密着性を担保と導体損失の低減を両立させる観点から、十点平均粗さ(Rzjis)が0.3μm~1.5μmの範囲内である粗化表面を有することが好ましい。また、金属箔の厚みは特に限定されるものではないが、好ましくは35μm以下であり、より好ましくは5~25μmの範囲内がよい。生産安定性及びハンドリング性の観点から金属箔の厚みの下限値は5μmとすることが好ましい。なお、金属箔として銅箔を用いる場合は、圧延銅箔でも電解銅箔でもよく、例えば厚みが5μm以下の薄銅箔とキャリア箔の間に離形層を形成したピーラブル銅箔でもよい。また、銅箔としては、市販されている銅箔を用いることができる。金属箔は、例えば、防錆処理や、接着力の向上を目的として、例えばサイディング、アルミニウムアルコラート、アルミニウムキレート、シランカップリング剤等による表面処理を施してもよい。
【0046】
塗布膜の厚みは、特に制限はないが、高周波伝送用途への適用を考慮する場合は、最終的な樹脂層の厚みとして、30~150μmの範囲内となるように塗布することが好ましく、75~150μmの範囲内となるように塗布することより好ましい。
【0047】
<工程3>
工程3は、塗布膜を基材上で乾燥させる工程である。塗布膜の乾燥方法は、特に制限されず、例えば加熱乾燥、熱風乾燥、減圧乾燥などを採用することができる。
【0048】
乾燥温度の上限は、成分(A)中に含まれるフッ素系樹脂パウダーが溶融しない温度が好ましく、フッ素系樹脂パウダーの融点よりも20℃以上低い温度で乾燥することが好ましい。乾燥温度の下限は特に制限されないが、例えば加熱乾燥の場合は80~200℃とすることが好ましい。加熱乾燥において、乾燥温度が80℃未満であると、成分(C)の溶媒の除去が不十分になり、ロールに巻き取った際の癒着などが問題となる。なお、工程3の終点は、塗布膜中の有機溶媒量が30重量%以下、好ましくは10重量%以下、より好ましくは5重量%以下まで低下したことを一つの目安とすることができる。
【0049】
<工程4>
工程4は、乾燥塗布膜に対して熱処理を行い、塗布膜中の樹脂成分を溶融させて樹脂層となし、長尺状塗工フィルムを形成する工程である。
本工程では、工程3で得た乾燥塗布膜を熱処理することにより基材上に樹脂層を形成する。
すなわち、塗布膜を基材とともに熱処理し、フッ素系樹脂パウダーを溶融させた後、冷却して固化させることによってフィルム化し、基材上にフッ素系樹脂層を形成する。フッ素系樹脂パウダーを溶融させるための熱処理温度としては、フッ素系樹脂の融点以上であればよく、上限は樹脂種に応じて適宜定めることができるが、例えば融点より10℃~80℃の範囲内で高い温度とすることが好ましい。なお、複数のフッ素系樹脂層を形成する場合は、分散組成物を塗布、乾燥する毎に熱処理してもよいし、分散組成物を塗布、乾燥する工程を複数回繰り返した後、一括して熱処理してもよい。
【0050】
本発明方法では、工程2から工程4までをロール・トゥ・ロール方式で搬送しながら実施することが好ましい。
図1は、本発明の第1の実施の形態の長尺状塗工フィルムの製造方法の説明図である。基材10は、長尺に形成されており、ロール・トゥ・ロール方式で搬送される構成となっている。つまり、長尺状の基材10が、巻出ロール201と巻取ロール202との間で搬送可能に構成されている。
基材10をロール・トゥ・ロール方式で搬送しながら、その片面側に、塗布装置210によって樹脂層30となる分散組成物20を塗布する。基材10上に塗布された分散組成物20の塗布膜は、乾燥処理部220において加熱乾燥されて乾燥塗布膜21となり、さらに、溶融熱処理部230で溶融熱処理されて樹脂層30となる。このように、本発明方法では、ロール・トゥ・ロール方式で搬送しながら乾燥処理及び溶融熱処理が行われた後、冷却固化され、基材10と樹脂層30とが積層された長尺状塗工フィルム100が巻取ロール202によって巻き取られ、回収される。なお、基材10として金属箔を用いる場合は、長尺な金属張積層板として巻き取られ、回収される。
【0051】
図2A及び
図2Bは、本発明の第2の実施の形態の長尺状塗工フィルムの製造方法の説明図である。
図2A及び
図2Bにおいて、
図1と同じ構成には同一の符号を付している。ロール・トゥ・ロール方式による搬送では、
図2Aに示すように、乾燥処理後、溶融熱処理までの間において、6インチ(152.4mm)径以下のコアを有する小径ロール203を用いて、一旦巻取を行うことができる。このように小径のコアを有する小径ロール203を用いて巻取りを行うる場合でも、乾燥塗布膜21からの粉落ちや割れの発生を防止できる。
次に、
図2Bに示すように、小径ロール203に巻取られた基材10と乾燥塗布膜21との積層体は、小径ロール203と巻取ロール202との間で搬送される。その間に、溶融熱処理部230で溶融熱処理されて樹脂層30となり、冷却固化され、基材10と樹脂層30とが積層された長尺状塗工フィルム100が巻取ロール202によって巻き取られ、回収される。このように、本発明方法では、乾燥処理と溶融熱処理とを、それぞれ、ロール・トゥ・ロール方式で搬送することによって非連続的に実施することもできる。少なくとも工程2から工程3までをロール・トゥ・ロール方式で行うことによって、工業的規模での生産に有利となる。
【0052】
また、
図2Aに示すように、ロール・トゥ・ロール方式による搬送では、乾燥処理後、溶融熱処理までの間において、6インチ(152.4mm)径以下のガイドロール301上を抱き角が90度以上となるように搬送することを含んでいてもよい。このように小径のガイドロール301を用いる場合でも、乾燥塗布膜21からの粉落ちや割れの発生を防止できる。
【0053】
以上のようにして製造される長尺状塗工フィルム100は、フッ素系樹脂による優れた誘電特性と、無機フィラーの高濃度添加による低熱膨張性との両立が図られており、厚膜化も可能である。したがって、本発明方法によって得られる長尺状塗工フィルム100は、高速通信規格に対応可能な回路基板材料として有用である。
また、長尺状塗工フィルム100は、基材10として金属箔を使用することによって、金属層とフッ素系樹脂層とを有する片面金属張積層板とすることができる。このようにして得られる2枚の片面金属張積層板どうしを貼り合わせることによって、両面金属張積層板を製造することも可能である。例えば、2つの前記片面金属張積層板の樹脂層30どうしを向かい合わせに配置して熱圧着を行うことによって、両面金属張積層板を製造することができる。熱圧着条件としては、例えばフッ素系樹脂の融点より10℃~80℃の範囲内で高い温度とすることが好ましい。圧力としては、例えば2~25MPaの範囲内とすることが好ましい。
【0054】
本発明方法によって得られる長尺状塗工フィルム100は、主にFPC、リジッド・フレックス回路基板などの回路基板材料として好ましく用いられる。すなわち、長尺状塗工フィルム100としての金属張積層板の片側または両側の金属層をエッチングするなどして配線回路加工することによって、片面回路基板又は両面回路基板などの回路基板を製造することができる。
【0055】
また、工程4の後で、必要に応じて樹脂層30を基材10から剥離することによって、長尺なフッ素系樹脂フィルムを得ることができる。得られるフッ素系樹脂フィルムは、フッ素系樹脂、無機フィラー及び結着樹脂を含有する。フッ素系樹脂フィルムは、実質的に有機溶媒を含まない固形のフィルム状であり、分散組成物中のフッ素系樹脂パウダーが無定形となってフッ素系樹脂(マトリックス樹脂の主成分)となっている。なお、フッ素系樹脂フィルムのマトリックス樹脂は、フッ素系樹脂とともに結着樹脂を含有する。
【0056】
フッ素系樹脂フィルム(樹脂層30)は、温度22~24℃、湿度45~55%の条件のもと24時間調湿後に、スプリットポスト誘電体共振器又はスプリットシリンダ共振器により測定される20~80GHz以下における誘電正接(Df)が好ましくは0.002以下であり、より好ましくは0.0015以下であり、さらに好ましくは0.0012未満である。また、同条件で測定される比誘電率(Dk)が好ましくは4.0以下、より好ましくは3.5以下であることがよい。誘電正接(Df)及び比誘電率(Dk)が上記数値を超えると、回路基板に適用した際に、誘電損失の増大に繋がり、周波数がGHz帯域(例えば1~80GHz)の高周波信号の伝送経路上で電気信号のロスなどの不都合が生じやすくなる。
【0057】
また、フッ素系樹脂フィルム(樹脂層30)の熱膨張係数(CTE)は、寸法安定性を確保するとともに、ロール・トゥ・ロール搬送での製造を可能にするため、10~60ppm/Kの範囲内が好ましく、15~30ppm/Kの範囲内であることがより好ましい。
【0058】
フッ素系樹脂フィルム(樹脂層30)の厚みは、特に限定されるものではないが、回路基板の絶縁樹脂層として用いる場合は、高周波信号伝送への適用を考慮して、好ましくは30~150μmの範囲内、より好ましくは75~150μmの範囲内がよい。なお、フッ素系樹脂フィルムには、任意の樹脂層が積層されていてもよい。
【実施例0059】
以下に実施例を示し、本発明の特徴をより具体的に説明する。ただし、本発明の範囲は、実施例に限定されない。なお、以下の実施例において、特にことわりのない限り各種測定、評価は下記によるものである。
【0060】
[シリカフィラー及びフッ素系樹脂パウダーの粒度測定]
レーザー回折式粒度分布測定装置(Мalvern社製、商品名;Mastersizer 3000)を用いて、水を分散媒とし粒子屈折率1.54の条件で、レーザー回折・散乱法による粒子径の測定を行った。
【0061】
[粘度の測定]
E型粘度計(ブルックフィールド社製、商品名;DV-II+Pro)を用いて、25℃における粘度を測定した。
【0062】
[ポリイミドの重量平均分子量(Mw)の測定]
重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフ(東ソー株式会社製、HLC-8220GPCを使用)により測定した。標準物質としてポリスチレンを用い、展開溶媒にテトラヒドロフランを用いた。
【0063】
[熱膨張係数(CTE)の測定]
3mm×20mmのサイズにカットしたフッ素系樹脂フィルムを、サーモメカニカルアナライザー(日立ハイテクテクノロジー社(旧セイコーインスツルメンツ社製)、商品名;TMA/SS6100)にセットした。この際、装置治具間の距離(測定有効長さ)は15mmとした。次に5.0gの荷重を加えながら一定の昇温速度で30℃から260℃まで昇温させ、更にその温度で10分保持した後、5℃/分の速度で冷却し、200℃から100℃までの平均熱膨張係数(熱膨張係数)を求めた。
【0064】
[誘電正接の測定]
ベクトルネットワークアナライザ(Agilent社製、商品名;E8363C)及びスプリットポスト誘電体共振器(SPDR共振器)を用いて、周波数20GHzにおけるフィルムの誘電正接(Df)を測定した。
また、上記と同様にスプリットシリンダ共振器(SCR共振器)を用いて60GHzにおけるフィルムの誘電正接(Df)を測定した。
なお、調湿時のDfは、測定に使用したフィルムを温度;22~24℃、湿度;45~55%の条件下で、24時間放置した後に測定したものである。
【0065】
[ピール強度の測定]
両面銅張積層板の一方の面の銅箔を10mm間隔でフッ素系樹脂の塗工方向に幅1mmに回路加工した後、幅;8cm×長さ;4cmに切断した。この際、もう一方の面の銅箔は回路加工等せずに全面に残した。ピール強度は、テンシロンテスター(東洋精機製作所社製、商品名;ストログラフVE-1D)を用いて、切断した測定サンプルの銅箔を全面に残した面を両面テープによりアルミ板に固定し、回路加工された銅箔を180°方向に50mm/分の速度で剥離していき、フッ素系樹脂層から10mm剥離したときの中央値強度を求め、ピール強度とした。
【0066】
[貯蔵弾性率の測定]
フィルムを5mm×70mmのサイズにカットし、動的粘弾性測定装置(DMA:TAインスツルメント社製、商品名;RSA G2)を用いて、30℃から400℃まで昇温速度4℃/分、周波数10Hzで測定を行った。測定より得られた50℃の貯蔵弾性率及び180℃~260℃の間の貯蔵弾性率の最大値を求めた。
【0067】
[乾燥後塗布膜の粉落ち性の評価]
銅箔(1)の表面に乾燥後塗布膜の厚みが60~70μmとなるようにバーコーターを用いて分散組成物を塗布し、熱風オーブンを用いて120℃で4分間乾燥することで銅箔と乾燥後塗布膜の積層体を得た。乾燥後塗布膜の表面に接着強度が0.12kN/m、0.23kN/m、0.37kN/m、0.59kN/m、0.74kN/mの粘着テープを貼り付けて引き剥がし、塗布膜の剝離の有無を確認した。接着強度0.23kN/mの粘着テープで貼り付け部のほとんどが剥離したものを×、接着強度0.23kN/mの粘着テープで剥離が生じなかったものを△、接着強度0.37kN/m以上の粘着テープで剝離が生じなかったものを〇とした。なお、使用したテープの種類は以下の通りである。
接着強度0.12kN/m:Scotch(登録商標)シーリング・マスキングテープ;79H;3M社製
接着強度0.23kN/m:3M(商標)超高分子量ポリエチレンテープ;5360T;3M社製
接着強度0.37kN/m:3M(商標)超高分子量ポリエチレンテープ;5425;3M社製
接着強度0.59kN/m:3M(商標)超高分子量ポリエチレンテープ;3965;3M社製
接着強度0.74kN/m:3M(商標)超高分子量ポリエチレンテープ;5430;3M社製
【0068】
合成例及び分散組成物作製例に用いた化合物を以下に示す。
フッ素系樹脂パウダー(1):Fluon+(Fluonは登録商標) EA-2000PW 10:AGC製フッ素系樹脂パウダー、平均粒子径(D50);2~3μm、融点;300℃
シリカフィラー(1):SC70-2:日鉄ケミカル&マテリアル製非晶質シリカフィラー、平均粒子径(D50);11.7μm、比表面積1.1m2/gに対して、シリカ重量の0.12重量%のヘキサメチルジシラザン処理を行ったもの
分散剤(1):フタージェント710FL:ネオス製ノニオン系フッ素含有分散剤(分散剤成分;50重量%、酢酸エチル;50重量%)
NMP:N-メチル-2-ピロリドン
DMAc:N,N‐ジメチルアセトアミド
キシレン
BTDA:3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物
BAFL:9,9-ビス(4-アミノフェニル)フルオレン
DDA:炭素数36の脂肪族ジアミン(クローダジャパン株式会社製、商品名;PRIAMINE1074、アミン価;205mgKOH/g、環状構造及び鎖状構造のダイマージアミンの混合物、ダイマー成分の含有量;95重量%以上)
銅箔(1):CF-T9DA-SV-12:福田金属箔粉工業社製
【0069】
(合成例1)
<可溶性ポリイミドワニス(1)の調製>
窒素導入管、攪拌機、熱電対、ディーンスタークトラップ、冷却管を付した500mLの4ッ口フラスコに、38.45gのBTDA(0.119モル)、31.50gのDDA(0.059モル)、20.47gのBAFL(0.059モル)、127gのNMP及び84gのキシレンを装入し、40℃で30分間混合して、ポリアミド酸溶液を調製した。このポリアミド酸溶液を180℃に昇温し、4時間加熱、攪拌し、留出する水及びキシレンを系外に除去した。その後、100℃まで冷却し、51gのキシレンを加え撹拌し、更に30℃まで冷却することでイミド化を完結した可溶性ポリイミドワニス(1)(固形分;31.0重量%、重量平均分子量;70,086)を調製した。可溶性ポリイミドワニス(1)を基材に塗布し、乾燥した後、剥離して得られたポリイミドフィルムの貯蔵弾性率を測定したところ、50℃での貯蔵弾性率が2.0GPaであり、180℃から260℃の温度領域での貯蔵弾性率の最大値が3.0MPaであった。
【0070】
(塊状組成物1の作製例)
フッ素系樹脂パウダー(1)100.0g、分散剤(1)9.9g、DMAc51.0gを310mlポリプロピレン容器に投入し、自公転攪拌機(写真化学(株)SK-350G)にて、公転1060rpm、自転1060rpmの条件で4分間撹拌した。上記の作業を2回繰り返し321.8gのスラリー状の組成物を得た。得られたスラリー状の組成物321.8gとシリカフィラー(1)548.0gを株式会社井上製作所のPLM-2(2Lプラネタリーミキサー)の容器内に加え、20rpmで15分間撹拌した。DMAc9.8gをPLM-2の容器内に追加して、30rpmで15分間撹拌した。DMAc10.0gをPLM-2の容器内に追加して、30rpmで15分間撹拌した。この作業の後、混練物が塊状となった。DMAc20.8gを10.4gずつ2回に分けてPLM-2の容器内に追加し、それぞれ30rpmで30分間、合計1時間攪拌して固練りを行った。固練り作業中は15分間隔で攪拌を停止して、攪拌翼に付着した混練物のかき取りを実施し、塊状組成物1を910.4g得た。この作業を合計5回繰り返し、最終的に塊状組成物1を4,552.0g得た。
【0071】
(分散組成物1の作製例)
塊状組成物1を149.4g、DMAcを24.2g、キシレンを9.4g秤量して、310mlポリプロピレン容器に投入し、自公転攪拌機(写真化学(株)SK-350G)にて、公転1060rpm、自転1060rpmの条件で4分間撹拌した。さらに23.3gの可溶性ポリイミドワニス1を容器内に投入して同様の条件で4分間攪拌し、100rpmで測定時の粘度が683cPの分散組成物1を206.3g得た。この作業を30回行うことで、最終的に分散組成物1を6,189.0g得た。分散組成物1における各成分の相対的比率を表1に示した。
【0072】
(分散組成物2~8の作製例)
表1及び表2に記載のとおり、各成分を310mlのポリプロピレン容器内に加えて、自公転攪拌機(写真化学(株)SK-350G)にて、公転1060rpm、自転1060rpmの条件で6分間撹拌し、分散組成物2~8を調製した。本作業を繰り返し、ロール・トゥ・ロール塗布作業用に、分散組成物をそれぞれ3,000gずつ作製した。
【0073】
【0074】
【0075】
[実施例1]
ロール・トゥ・ロール方式で搬送しながら、銅箔(1)の表面にナイフコーターを用いて分散組成物1を塗布した後、熱風乾燥炉(雰囲気温度:120℃)に通して4分間保持し、塗布膜を乾燥した。その後、基材に120Nの張力をかけながら直径が80mm~160mmのガイドロールに最大抱き角度90度以上で基材を搬送し、6インチ(152.4mm)コアのロールに塗布部を40m巻取った。さらにロール・トゥ・ロール方式で遠赤外線炉(温度:360℃、ガス:酸素ガス濃度100ppm未満の窒素ガス)に通して、銅箔(1)の表面に厚さ65μmの樹脂層を形成し、片面銅張積層板1を得た。このとき、樹脂層に割れや剥離は確認されなかった。片面銅張積層板1を2枚準備し、樹脂面同士を重ね合わせたものをバッチプレス機に投入後、真空下で360℃まで加熱し、360℃に到達後、5分間、20MPaの圧力でプレスを実施して、誘電体の厚みが100μmの両面銅張積層板1を得た。乾燥後の塗布膜の粉落ち性の評価を表3に示す。
【0076】
[実施例2~4]
分散組成物を2~4に変更した以外は実施例1と同様にして、片面銅張積層板2~4、両面銅張積層板2~4を作製した。乾燥後の塗布膜の粉落ち性の評価を表3に示す。
【0077】
塩化第二鉄水溶液を用いて両面銅張積層板1~4の銅箔をエッチング除去して、フッ素系樹脂フィルム1~4を得た。得られたフッ素系樹脂フィルム1~4の誘電正接、CTE、ピール強度を評価した。結果を表3に示す。
【0078】
[比較例1~4]
分散組成物を5~8に変更した以外は実施例1と同様にして、ロール・トゥ・ロール方式で分散組成物の塗布、熱風乾燥、基材の搬送および巻取りを実施した。乾燥後塗布膜の状態を確認したところ剥離が生じていたため、片面銅張積層板の作製を途中で中止し、両面金属張積層板の作製、フッ素系樹脂フィルムの作製、誘電正接、CTE、ピール強度の評価は実施できなかった。乾燥後の塗布膜の粉落ち性の評価を表4に示す。
【0079】
【0080】
【0081】
以上、本発明の実施の形態を例示の目的で詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に制約されることはなく、種々の変形が可能である。
10…基材、20…分散組成物、21…乾燥塗布膜、30…樹脂層、100…長尺状塗工フィルム、201…巻出ロール、202…巻取ロール、203…小径ロール、210…塗布装置、220…乾燥処理部、230…溶融熱処理部、301…ガイドロール