(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024142753
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】両面金属張積層板の製造方法
(51)【国際特許分類】
H05K 3/46 20060101AFI20241003BHJP
H05K 1/03 20060101ALI20241003BHJP
B29C 65/02 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
H05K3/46 K
H05K1/03 630H
H05K3/46 G
H05K3/46 T
H05K1/03 670A
B29C65/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023055063
(22)【出願日】2023-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000006644
【氏名又は名称】日鉄ケミカル&マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115118
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邊 和浩
(74)【代理人】
【識別番号】100095588
【弁理士】
【氏名又は名称】田治米 登
(74)【代理人】
【識別番号】100094422
【弁理士】
【氏名又は名称】田治米 惠子
(74)【代理人】
【識別番号】110000224
【氏名又は名称】弁理士法人田治米国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】安藤 智典
(72)【発明者】
【氏名】池田 知弥
【テーマコード(参考)】
4F211
5E316
【Fターム(参考)】
4F211AA16
4F211AA32
4F211AA40
4F211AD03
4F211AG01
4F211AG03
4F211AH36
4F211AR02
4F211AR06
4F211AR11
4F211AR12
4F211TA13
4F211TC01
4F211TD11
4F211TH21
4F211TN07
4F211TQ04
5E316AA06
5E316AA12
5E316AA38
5E316CC10
5E316CC14
5E316CC32
5E316CC34
5E316CC37
5E316CC38
5E316CC39
5E316DD03
5E316DD12
5E316EE01
5E316EE08
5E316EE13
5E316EE19
5E316GG08
5E316GG27
5E316GG28
5E316HH31
5E316HH40
(57)【要約】 (修正有)
【課題】高濃度の無機フィラーを含有するフッ素系樹脂層どうしの貼り合せ接合面の接着強度が十分に確保されている両面金属張積層板及びその製造方法を提供する。
【解決手段】表面に露出しているフッ素系樹脂層を有する絶縁樹脂層20A又は20B及び金属層10A又は10Bを備えている2枚の片面金属張積層板30A、30Bを、フッ素系樹脂層が対向するように配置して熱圧着を行う工程を含む両面金属張積層板の製造方法であって、2枚の片面金属張積層板のうち少なくとも一方のフッ素系樹脂層は成分(A)としてフッ素系樹脂の重量割合が50重量%以上である樹脂成分並びに成分(B)として無機フィラーを含有し、成分(A)と成分(B)の合計量に対して、成分(A)の重量割合が20~45重量%の範囲内であり、かつ、成分(B)の重量割合が55~80重量%の範囲内であり、かつ露出面Sの表面粗さ(Sq)が0.5μm以上5μm以下である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁樹脂層の両面に金属層が積層されている両面金属張積層板を製造する方法であって、次の工程1及び工程2;
工程1:
表面に露出しているフッ素系樹脂層を有する絶縁樹脂層と、前記絶縁樹脂層の前記フッ素系樹脂層とは反対側の面に積層されている金属層と、を備えている片面金属張積層板を準備する工程、及び、
工程2:
2枚の前記片面金属張積層板を、前記フッ素系樹脂層が対向するように配置して熱圧着を行う工程、
を含み、
2枚の前記片面金属張積層板のうち、少なくとも一方の前記フッ素系樹脂層が以下の条件(1)及び(2);
(1):成分(A)としてフッ素系樹脂の重量割合が50重量%以上である樹脂成分、並びに、成分(B)として無機フィラーを含有し、成分(A)と成分(B)の合計量に対して、成分(A)の重量割合が20~45重量%の範囲内であり、かつ、成分(B)の重量割合が55~80重量%の範囲内である、及び、
(2):露出面の表面粗さ(Sq)が0.5μm以上5μm以下である、
を満たすことを特徴とする両面金属張積層板の製造方法。
【請求項2】
成分(B)が、レーザー回折・散乱法によって測定される体積基準の粒度分布において、平均粒子径(D50)が0.1~20μmの範囲内である請求項1に記載の両面金属張積層板の製造方法。
【請求項3】
成分(B)が、球状非晶質シリカである請求項1に記載の両面金属張積層板の製造方法。
【請求項4】
成分(A)が、テトラフルオロエチレン―パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)である請求項1に記載の両面金属張積層板の製造方法。
【請求項5】
前記片面金属張積層板が、以下の工程a及びb;
a)フッ素系樹脂パウダー及び成分(B)の無機フィラーを含有する分散組成物を金属箔上に塗工して塗膜を形成する工程、及び、
b)得られた塗膜に対し、窒素雰囲気下、フッ素系樹脂の溶融時の貯蔵弾性率の変曲点温度よりも+10~+100℃の範囲内の温度にて熱処理を行うことによってフッ素系樹脂パウダーを溶融させて金属箔上にフッ素系樹脂層を形成する工程、
を含む方法で製造されたものである請求項1に記載の両面金属張積層板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、回路基板材料として有用な両面金属張積層板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の通信機器の高速化に伴い、5G通信、更には6G通信の開発が進んでおり、回路基板材料についても、高速通信規格に対応可能なミリ波レーダー用基板、アンテナ基板などに向けて材料の検討が行われている。そのような材料の中でフッ素系樹脂は、低い誘電正接を有し、信号の伝送損失の低減が期待できることから注目を浴びている。
【0003】
しかし、フッ素系樹脂は熱膨張係数(CTE)が大きいため、基板の寸法安定性を損なう懸念がある。特許文献1では、低誘電正接という特性を活かしながら回路基板用絶縁材料としての要求特性である低熱膨張化を図るため、塗工材料としての分散組成物に無機フィラーを配合している。
なお、特許文献2では、フッ素系樹脂を含有する絶縁樹脂層に接着層を積層するにあたり、絶縁樹脂層の表面粗さを0.5~3.0μmにすることが開示されている。また、特許文献3では、フッ素系樹脂を含有する絶縁樹脂層にフッ素系樹脂を含まないプリプレグを積層するにあたり、絶縁樹脂層の原子間顕微鏡観察による算術平均粗さRaを3.0μm以上にすることが開示されている。しかし、特許文献2、3は、いずれも、フッ素系樹脂を含有する絶縁樹脂層に無機フィラーを配合することは開示していない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第6891890号公報
【特許文献2】特許第6954293号公報
【特許文献3】国際公開WO2018/212285号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
フッ素系樹脂に無機フィラーを配合し、複合化して低熱膨張化を図るには、フッ素系樹脂の重量を超える量の無機フィラーを配合する必要がある。両面金属張積層板を作製する場合、低粗度の金属箔と多量の無機フィラーを含有するフッ素系樹脂層とをラミネート法で貼り合せると、金属箔とフッ素系樹脂層とのピール強度が低下する懸念がある。そのため、まず、金属箔上にフッ素系樹脂層を形成した片面金属張積層板を作製し、次に、一対の片面金属張積層板のフッ素系樹脂層どうしを貼り合わせる方法が有効であると考えられる。しかし、一対の片面金属張積層板のフッ素系樹脂層どうしを貼り合わせる場合には、貼り合せ接合面の接着強度を十分に担保する必要がある。
【0006】
従って、本発明の目的は、高濃度の無機フィラーを含有するフッ素系樹脂層を絶縁樹脂層の一部分または全部として有し、フッ素系樹脂層どうしの貼り合せ接合面の接着強度が十分に確保されている両面金属張積層板を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、検討を行った結果、一対の片面金属張積層板のフッ素系樹脂層どうしを貼り合わせて両面金属張積層板を作製する場合に、フッ素系樹脂層の露出面の表面粗さを制御することによって貼り合せ接合面の接着強度を十分に担保できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明の両面金属張積層板の製造方法は、絶縁樹脂層の両面に金属層が積層されている両面金属張積層板を製造する方法であって、次の工程1及び工程2;
工程1:
表面に露出しているフッ素系樹脂層を有する絶縁樹脂層と、前記絶縁樹脂層の前記フッ素系樹脂層とは反対側の面に積層されている金属層と、を備えている片面金属張積層板を準備する工程、及び、
工程2:
2枚の前記片面金属張積層板を、前記フッ素系樹脂層が対向するように配置して熱圧着を行う工程、
を含んでいる。
そして、本発明の両面金属張積層板の製造方法は、2枚の前記片面金属張積層板のうち、少なくとも一方の前記フッ素系樹脂層が以下の条件(1)及び(2);
(1):成分(A)としてフッ素系樹脂の重量割合が50重量%以上である樹脂成分、並びに、成分(B)として無機フィラーを含有し、成分(A)と成分(B)の合計量に対して、成分(A)の重量割合が20~45重量%の範囲内であり、かつ、成分(B)の重量割合が55~80重量%の範囲内である、及び、
(2):露出面の表面粗さ(Sq)が0.5μm以上5μm以下である、
を満たすことを特徴とする。
【0009】
本発明の両面金属張積層板の製造方法は、成分(B)が、レーザー回折・散乱法によって測定される体積基準の粒度分布において、平均粒子径(D50)が0.1~20μmの範囲内であってよい。
【0010】
本発明の両面金属張積層板の製造方法は、成分(B)が、球状非晶質シリカであってよい。
【0011】
本発明の両面金属張積層板の製造方法は、成分(A)が、テトラフルオロエチレン―パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)であってよい。
【0012】
本発明の両面金属張積層板の製造方法は、前記片面金属張積層板が、以下の工程a及びb;
a)フッ素系樹脂パウダー及び成分(B)の無機フィラーを含有する分散組成物を金属箔上に塗工して塗膜を形成する工程、及び、
b)得られた塗膜に対し、窒素雰囲気下、フッ素系樹脂の溶融時の貯蔵弾性率の変曲点温度よりも+10~+100℃の範囲内の温度にて熱処理を行うことによってフッ素系樹脂パウダーを溶融させて金属箔上にフッ素系樹脂層を形成する工程、
を含む方法で製造されたものであってよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明方法では、露出面の表面粗さ(Sq;二乗平均平方根高さ)が制御された一対の片面金属張積層板のフッ素系樹脂層どうしを貼り合わせて両面金属張積層板を作製するため、貼り合せ接合面の接着強度が十分に担保されている。そのため、本発明方法によって得られる両面金属張積層板は、貼り合せ接合面での剥離が発生しにくく、高い信頼性を有している。また、両面金属張積層板の材料として片面金属張積層板を使用することによって、金属箔と絶縁樹脂層との間の密着性も担保できる。しかも、両面金属張積層板は、フッ素系樹脂による優れた誘電特性と、無機フィラーの高濃度添加による低熱膨張性との両立が図られている。したがって、本発明方法によって得られる両面金属張積層板は、高速通信規格に対応可能な回路基板材料として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の第1の実施の形態の両面金属張積層板の製造方法の概略工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について、適宜図面を参照しながら説明を行う。
【0016】
[両面金属張積層板の製造]
本発明の一実施の形態に係る両面金属張積層板の製造方法は、絶縁樹脂層の両面に金属層が積層されている両面金属張積層板を製造する方法であって、次の工程1及び工程2を含んでいる。
【0017】
<工程1>
工程1は、片面金属張積層板を準備する工程である。まず、
図1(a)に示すように、金属層10Aと絶縁樹脂層20Aとが積層された片面金属張積層板30Aと、金属層10Bと絶縁樹脂層20Bとが積層された片面金属張積層板30Bをそれぞれ準備する。片面金属張積層板30A、30Bは、それぞれ、フッ素系樹脂層が表面に露出している露出面Sを有している。なお、片面金属張積層板30A、30Bは、表面に露出しているフッ素系樹脂層を有する限り、同一の構成であってもよく、異なる構成であってもよい。
【0018】
(絶縁樹脂層)
絶縁樹脂層20A,20Bは、単層又は複数層からなり、フッ素系樹脂層を有している。
図1では、絶縁樹脂層20A,20Bが、共に、フッ素系樹脂層のみからなる場合を示しているが、絶縁樹脂層20A,20Bは、フッ素系樹脂層以外の任意の樹脂層を備えていてもよい。
【0019】
フッ素系樹脂層は、以下の条件(1)及び条件(2)を満たしている。条件(1)及び条件(2)は、2枚の片面金属張積層板30A,30Bのフッ素系樹脂層うち、少なくとも一方が満たしていればよいが、2枚の片面金属張積層板30A,30Bのフッ素系樹脂層が共に条件(1)及び条件(2)を満たしていることが好ましい。
【0020】
条件(1):
成分(A)としてフッ素系樹脂の重量割合が50重量%以上である樹脂成分、並びに、成分(B)として無機フィラーを含有し、成分(A)と成分(B)の合計量に対して、成分(A)の重量割合が20~45重量%の範囲内であり、かつ、成分(B)の重量割合が55~80重量%の範囲内であること。
フッ素系樹脂は、フッ素原子を含むポリマーであり、その種類は特に限定されないが、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン―パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、エチレン-テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、エチレン-テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(EFEP)、ポリフッ化ビニル(PVF)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)等が挙げられる。これらは、2種以上を組み合わせて用いてもよく、また、フッ素系樹脂の一部に官能基を有するパーフルオロオレフィンに基づくモノマー単位を含んでいてもよい。官能基としては、カルボニル基含有基、ヒドロキシ基、エポキシ基、アミド基、アミノ基及びイソシアネート基が好ましい。これらのフッ素系樹脂の中でも、低い誘電正接を示すものとして、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン―パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)がより好ましい。
【0021】
成分(B)は、無機フィラーであり、その種類は特に限定されないが、フッ素系樹脂層の熱膨張係数(CTE)を低下させる観点から、例えば、二酸化ケイ素(シリカ)、酸化アルミニウム(アルミナ)、酸化マグネシウム(マグネシア)、酸化ベリリウム、酸化ニオブ、酸化チタン、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、フッ化アルミニウム、フッ化カルシウム、フッ化マグネシウム、ケイフッ化カリウム、タルク、ガラス、チタン酸バリウム等が好ましい。これらは、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中でも、熱膨張係数(CTE)が低いものとして、二酸化ケイ素(シリカ)、酸化アルミニウム、窒化ホウ素、フッ化アルミニウム、ガラス等がより好ましい。成分(B)がシリカである場合、結晶性シリカでも非晶質シリカでもよいが、フィルム化した状態で誘電特性を損なわずに熱膨張係数(CTE)を低減可能であり、特に厚み方向と面方向の熱膨張係数(CTE)の差を小さくできるという観点から、非晶質シリカが好ましく、球状の非晶質シリカが特に好ましい。
成分(B)の形状は、特に限定されないが、厚み方向と面方向の熱膨張係数(CTE)の差を小さくできることから、例えば、球状、破砕球状等が好ましい。また、成分(B)は中空状であってもよい。
また、成分(B)の無機フィラーは、低誘電化やフッ素系樹脂との密着の観点から、カップリング剤等により表面処理されていることが好ましい。表面処理に用いるカップリング剤としては、例えば、3-アミノプロピルエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルエトキシシラン、3-イソシアネートプロピルエトキシシラン、ヘキサメチルジシラザン等が挙げられる。
【0022】
成分(B)は、レーザー回折・散乱法によって測定される体積基準の粒度分布において、平均粒子径(D50)が0.1~20μmの範囲内であることが好ましく、3~15μmの範囲内であることがより好ましく、5~15μmの範囲内であることが最も好ましい。成分(B)の無機フィラーの平均粒子径(D50)が0.1~20μmの範囲内であることによって、フッ素系樹脂層中に、無機フィラーを均質かつ高濃度に含有させた場合においても、フッ素系樹脂層の露出面Sの表面粗さ(Sq)と熱膨張係数(CTE)の制御が容易になる。平均粒子径(D50)が上記範囲を外れると、フッ素系樹脂層の露出面Sの表面粗さ(Sq)を所望の範囲に制御することが困難になる。また、露出面Sの表面処理によっても露出面Sの表面粗さ(Sq)を所望の範囲に制御することが可能であるが、表面処理を施した場合においても、D50が0.1μm未満の場合には所望の範囲まで粗化することができず、D50が20μmを超えると所望の範囲まで粗さを低減することができない。
【0023】
成分(A)の樹脂成分におけるフッ素系樹脂の重量割合は50重量%以上であり、60~100重量%の範囲内であることが好ましい。フッ素系樹脂の重量割合が50重量%未満では、絶縁樹脂層20(20A,20B)の誘電正接を十分に下げることが困難になる。フッ素系樹脂の重量割合を50重量%以上とすることによって、絶縁樹脂層20(20A,20B)の誘電正接を十分に低くして、製造される両面金属張積層板の高周波信号の伝送特性を優れたものにすることができる。
また、成分(A)の重量割合は、成分(A)と成分(B)の合計量に対して、20~45重量%の範囲内であり、25~40重量%の範囲内が好ましい。また、成分(B)の重量割合は、成分(A)と成分(B)の合計量に対して、55~80重量%の範囲内であり、60~75重量%の範囲内が好ましい。成分(A)の重量割合が20重量%未満であると、低誘電正接化とフィルム化の両立が困難となり、成分(B)の重量割合が80重量%を超えると、脆化によってフィルム化が困難になるため、高周波信号伝送への適用が図りにくくなる。一方、成分(A)の重量割合が45重量%を超えるか、あるいは、成分(B)の重量割合が55重量%未満では、フィルム化したときの熱膨張係数(CTE)を十分に低くすることが困難になり、回路基板へ適用したときの寸法安定性を担保することが難しくなる。
【0024】
なお、フッ素系樹脂層の全重量に対する成分(A)の量は、20重量%以上であることが好ましく、25~40重量%の範囲内がより好ましい。フッ素系樹脂層における成分(A)の量が20重量%未満では、絶縁樹脂層20(20A,20B)の低誘電正接化や絶縁樹脂層20(20A,20B)間の密着が困難になり、40重量%を超えると、熱膨張係数(CTE)の制御が困難となる。
また、フッ素系樹脂層の全重量に対する成分(B)の量は、60重量%以上であることが好ましく、60~75重量%の範囲内がより好ましい。フッ素系樹脂層における成分(B)の量が60重量%未満では、絶縁樹脂層20(20A,20B)の低熱膨張化が困難になり、75重量%を超えると、脆化によってフィルム化が困難となる。
【0025】
成分(A)の樹脂成分として、フッ素系樹脂以外の樹脂としては、例えば、ポリイミド、ポリフェニレンエーテル、液晶ポリマー、シクロオレフィンポリマー、シクロオレフィンコポリマー、スチレンブタジエン共重合体、スチレンジビニルベンゼン共重合体等を挙げることができる。
【0026】
フッ素系樹脂層は、温度22~24℃、湿度45~55%の条件のもと24時間調湿後に、スプリットシリンダ共振器により測定される60GHzにおける誘電正接(Df)が好ましくは0.0025以下であり、より好ましくは0.0020以下、さらに好ましくは0.0015以下である。また、同条件で測定される比誘電率(Dk)が好ましくは4.0以下、より好ましくは3.5以下であることがよい。誘電正接(Df)及び比誘電率(Dk)が上記数値を超えると、回路基板に適用した際に、誘電損失の増大に繋がり、周波数がGHz帯域(例えば1~80GHz)の高周波信号の伝送経路上で電気信号のロスなどの不都合が生じやすくなる。
【0027】
また、フッ素系樹脂層の熱膨張係数(CTE)は、寸法安定性を確保するため、10~50ppm/Kの範囲内が好ましく、15~30ppm/Kの範囲内であることがより好ましい。
【0028】
フッ素系樹脂層の厚みは、特に限定されるものではないが、回路基板の絶縁樹脂層として用いる場合は、高周波信号伝送への適用を考慮して、好ましくは30~150μmの範囲内、より好ましくは75~150μmの範囲内がよい。
【0029】
条件(2):
フッ素系樹脂層の露出面Sの表面粗さ(Sq)が0.5μm以上5μm以下であること。
フッ素系樹脂層の露出面Sの表面粗さ(Sq)が0.5μm以上5μm以下であることによって、次の工程2において、貼り合わせる露出面Sの接着性が向上する。フッ素系樹脂層の露出面Sには、フッ素系樹脂層中に含まれている(B)成分の無機フィラーの粒子径制御や表面処理によって形成される微細な凹凸が存在している。本発明方法では、このような凹凸の大きさの指標となる表面粗さ(Sq)を一定の範囲内に制御している。このことによって、露出面Sの表面積を増大させ得るとともに、多数の無機フィラーが熱圧着の際の圧力によって露出面Sから内側(つまり、それぞれの金属層10A又は10Bへ向かう方向)へ押し込まれることにより、貼り合せ境界において双方のフッ素系樹脂層に含まれている樹脂の融合一体化が進行し易くなることで、熱圧着後に冷却固化すると、貼り合せ境界に存在している無機フィラーによりアンカー効果が生じ、強固な接着力が発現し易くなるものと推測される。
【0030】
フッ素系樹脂層の露出面Sの表面粗さ(Sq)を上記範囲内に制御する方法としては、例えば、無機フィラーの粒子径を一定以上の大きさとすることや、無機フィラーの粒子径分布を制御することで隣接する無機フィラー間に空隙を形成し表面の凹凸を制御する方法、粗化ロール加工による研磨加工やフッ素系樹脂層の融点以上でのエンボス加工、コロナ処理、プラズマ処理などの表面処理、塗工時の分散組成物(スラリー)の粘度や風圧制御により塗膜乾燥初期の流動を促す等の方法が好ましい。これらの手法の2つ以上を組み合わせて露出面Sの表面粗さ(Sq)を制御することも可能である。
【0031】
なお、絶縁樹脂層20A,20Bは、露出面Sを有するフッ素系樹脂層と金属層10A,10Bとの間に、任意の樹脂層を有していてもよい。そのような樹脂層としては、例えば、ポリイミド、ポリテトラフルオロエチレン系ポリマー等を挙げることができる。
【0032】
(金属層)
金属層10A,10Bの材質としては、特に制限はないが、例えば、銅、ステンレス、鉄、ニッケル、ベリリウム、アルミニウム、亜鉛、インジウム、銀、金、スズ、ジルコニウム、タンタル、チタン、鉛、マグネシウム、マンガン及びこれらの合金等が挙げられる。この中でも、特に銅又は銅合金が好ましい。
【0033】
金属層10A,10Bの厚みは特に限定されるものではないが、例えば銅箔等の金属箔を用いる場合、好ましくは35μm以下であり、より好ましくは5~25μmの範囲内がよい。生産安定性及びハンドリング性の観点から金属箔の厚みの下限値は5μmとすることが好ましい。
金属箔として銅箔を用いる場合は、圧延銅箔でも電解銅箔でもよく、例えば厚みが5μm以下の銅箔とキャリア箔の間に離形層を形成したピーラブル銅箔でもよい。また、銅箔としては、市販されている銅箔を用いることができる。
【0034】
<工程2>
工程2は、工程1で得られた2枚の片面金属張積層板30A,30Bを貼り合せる工程である。
図1(b)に示すように、一対の片面金属張積層板30A,30Bの絶縁樹脂層20A,20Bが互いに対向するように配置して熱圧着を行い、絶縁樹脂層20A,20Bどうしを貼り合わせる。
【0035】
熱圧着の温度としては、例えばフッ素系樹脂の溶融時の貯蔵弾性率の変曲点温度よりも+10℃~+100℃の範囲内の温度とすることが好ましく、+20℃~+80℃の範囲内の温度とすることがより好ましい。熱圧着温度がフッ素系樹脂の貯蔵弾性率の変曲点温度+10℃よりも低い温度であると、フッ素系樹脂の溶融が不十分となり、貼り合せ面の接着性が得られない。一方、熱圧着温度がフッ素系樹脂の貯蔵弾性率の変曲点温度+100℃よりも高い温度であると、流動性が高くなりすぎて樹脂の流れ出しが生じたり、フッ素系樹脂が熱劣化することがある。なお、表面粗さ(Sq)を制御することで、熱圧着の温度がフッ素系樹脂の溶融時の貯蔵弾性率の変曲点温度近傍(例えば、変曲点温度+10℃程度)であっても、無機フィラーの凹凸によるアンカー効果や表面積増加による初期接触点の増加効果により、貼り合わせ接合面の接着性が得られやすくなる。
【0036】
熱圧着の圧力としては、例えば2MPa~30MPaの範囲内とすることが好ましい。圧力が2MPaよりも低いと、フッ素系樹脂どうしの貼り合せ面の接着性が得られない。一方、圧力が30MPaよりも高いと、フッ素系樹脂が流動して端部に流れ出すことがある。なお、表面粗さ(Sq)を制御することで、熱圧着の圧力が2MPa程度の低い圧力でも、無機フィラーの凹凸によるアンカー効果や表面積増加による初期接触点の増加効果により、貼り合わせ接合面の接着性が得られやすくなる。
【0037】
以上のようにして、
図1(c)に示すように、金属層10A/絶縁樹脂層20(ただし、2層のフッ素系樹脂層を貼り合わせた層)/金属層10Bがこの順に積層された層構成を有する両面金属張積層板100を製造することができる。なお、両面金属張積層板100は、フッ素系樹脂層以外の任意の樹脂層を有していてもよい。両面金属張積層板100は、金属層10A,10Bと絶縁樹脂層20との密着性に優れているだけでなく、熱圧着によるフッ素系樹脂層どうしの貼り合せ接合面が強固に接着しており、金属箔と絶縁樹脂層20との間及び貼り合せ接合面での剥離が発生しにくく、高い信頼性を有している。しかも、両面金属張積層板100の絶縁樹脂層20は、フッ素系樹脂による優れた誘電特性と、無機フィラーの高濃度添加による低熱膨張性との両立が図られている。したがって、本発明方法によって得られる両面金属張積層板100は、高速通信規格に対応可能な回路基板材料として有用である。
【0038】
<片面金属張積層板の製造>
次に、本発明方法に使用する片面金属張積層板30A,30Bの製造方法について説明する。片面金属張積層板30A,30Bを製造する方法は特に限定されないが、以下に述べる塗膜形成工程及び溶融熱処理工程を含む方法を例示できる。ここでは、金属層10A又は10Bに、絶縁樹脂層20A又は20Bとしてのフッ素系樹脂層が積層されている片面金属張積層板30A,30Bを作製する場合を例に挙げる。
【0039】
(工程a;塗膜形成工程)
本工程では、フッ素系樹脂パウダーと成分(B)とが有機溶媒中に分散した分散組成物を金属層10A,10Bとなる金属箔に塗布して塗膜を形成する。すなわち、金属箔の上に、溶融熱処理工程後に所望の厚みとなるように、分散組成物を塗工し、乾燥させることによって塗膜を形成する。分散組成物を金属箔上に塗布する方法としては特に制限されず、例えばコンマ、ダイ、ナイフ、リップ等のコーターにて塗布することが可能である。
【0040】
また、分散組成物を塗工するときの風圧を70Pa~140Paに調整することによって、フッ素系樹脂層の露出面Sの表面粗さ(Sq)を制御できる。具体的には、塗膜乾燥初期段階の風圧を上げることで塗膜表面の流動を促進して表面粗化を促進できる一方で、風圧を下げることで表面粗化を抑制することができる。
【0041】
塗膜形成工程で用いるフッ素系樹脂パウダーは、例えば、平均粒子径(D50)が0.05~100μmの範囲内、好ましくは0.5~50μmの範囲内、より好ましくは0.5~10μmの範囲内であることが好ましい。なお、フッ素系樹脂パウダーの平均粒子径(D50)は、例えばレーザー回折・散乱法によって粉粒の粒度分布を測定し、その粉粒の全体積を100%として累積カーブを求め、その累積カーブ上で累積体積が50%となる点の粒子径として求めることが可能である。
【0042】
分散組成物中のフッ素系樹脂パウダー、成分(B)の無機フィラーなどの重量比率は、条件(1)を満たすように調整される。
【0043】
分散組成物に用いる有機溶媒の種類は特に限定されないが、25℃で液状である有機溶媒が好ましく、例えば、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)、N,N-ジエチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、2-ブタノン、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ヘキサメチルホスホルアミド、N-メチルカプロラクタム、硫酸ジメチル、シクロヘキサノン、ジオキサン、テトラヒドロフラン、ジグライム、トリグライム、クレゾール、メタノール、エタノール、イソプロパノール、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、γ-ブチロラクトン等が好ましい。これらの中でも、例えば、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)、N,N-ジエチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)等の高沸点溶媒がより好ましい。有機溶媒の量は、分散組成物の粘度を所望の値に調整できれば制限はないが、良好な分散性や良好な塗工性を得るために、組成物全体に対して、好ましくは25~50重量%の範囲内、より好ましくは30~40重量%の範囲内となるように調節して配合することがよい。
なお、分散組成物は、例えば、分散剤、結着樹脂、有機フィラー、硬化剤、可塑剤、エラストマー、カップリング剤、顔料、難燃剤等の任意成分を含有することができる。
【0044】
分散組成物の粘度は特に限定されないが、例えば30μm以上の厚膜塗工を目的とする場合は、500~50000cPの範囲内であることが好ましく、500~30000cPの範囲内がより好ましい。また、塗工乾燥工程で表面粗さ(Sq)を制御する観点では、500~10000cPの範囲内であることが好ましい。粘度が500cP未満では、分散組成物を金属箔上にキャストするときに、流動性が高くなりすぎるため、厚膜での塗膜形成が困難となる。特に、高周波伝送用途向けに30~150μmの範囲内の比較的厚い塗膜の形成が不可能となる。また、粘度が500cP未満では、固形分の沈降や凝集が生じることがある。一方、分散組成物の粘度が50000cPを超える場合は、粘性が高すぎてキャストによる塗膜形成が困難となる。なお、分散組成物の粘度は、E型粘度計を用い、温度25℃で測定することができる。
【0045】
(工程b;溶融熱処理工程)
本工程では、塗膜形成工程で得た塗膜を熱処理することによりフッ素系樹脂層を形成する。
すなわち、塗膜を金属箔とともに熱処理し、膜中に残存している溶媒を除去するとともに、成分(A)となるフッ素系樹脂パウダーを溶融させてフィルム化し、金属箔上にフッ素系樹脂層を形成する。フッ素系樹脂パウダーを溶融させるための熱処理温度としては、フッ素系樹脂の溶融時の貯蔵弾性率の変曲点温度以上であればよく、貯蔵弾性率の変曲点温度よりも+10℃~+100℃の範囲内の温度域とすることが好ましい。また、溶融熱処理工程は、金属箔の酸化を防止するため、不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましく、窒素雰囲気下で行うことがより好ましい。
【0046】
金属箔上に複数のフッ素系樹脂層を形成する場合は、分散組成物を塗布、乾燥する毎に溶融熱処理を行ってもよいし、分散組成物を塗布、乾燥する工程を複数回繰り返した後、一括して溶融熱処理を行ってもよい。
【0047】
溶融熱処理の後、冷却固化させることによって絶縁樹脂層20A又は20Bとしてのフッ素系樹脂層と金属層10A又は10Bとを備えた片面金属張積層板30A,30Bを製造できる。得られた片面金属張積層板30A,30Bのフッ素系樹脂層の露出面Sに対して、例えば、研磨加工やフッ素系樹脂層の融点以上でのエンボス加工、コロナ処理、プラズマ処理などの表面処理を行う工程を設けてもよい。表面処理によって、フッ素系樹脂層の露出面Sの表面粗さを制御できる。
【0048】
以上のようにして得られる片面金属張積層板30A,30Bは、キャスト法によって分散組成物を金属箔上に直接塗工した後、熱処理を行って絶縁樹脂層20A,20Bとしてのフッ素系樹脂層を形成しているため、金属層10A,10Bとフッ素系樹脂層との接着性に優れており、両面金属張積層板100を製造するための材料として好ましく用いることができる。
【0049】
[回路基板の製造]
以上、詳述したように、本発明方法によって得られる両面金属張積層板100は、主にフレキシブル回路基板(FPC)、リジッド・フレックス回路基板などの回路基板材料として好ましく用いられる。すなわち、両面金属張積層板100の金属層10A及び/又は金属層10Bをエッチングするなどして配線回路加工することによって、片面回路基板又は両面回路基板などの回路基板を製造することができる。
【実施例0050】
以下に実施例を示し、本発明の特徴をより具体的に説明する。ただし、本発明の範囲は、実施例に限定されない。なお、以下の実施例において、特にことわりのない限り各種測定、評価は下記によるものである。
【0051】
[非晶質シリカフィラー及びフッ素系樹脂パウダーの粒度測定]
レーザー回折式粒度分布測定装置(Мalvern社製、商品名;Mastersizer 3000)を用いて、水を分散媒とし粒子屈折率1.54の条件で、レーザー回折・散乱法による粒子径の測定を行った。
【0052】
[銅箔の表面粗度の測定]
銅箔の表面粗度は、AFM(ブルカー・エイエックスエス社製、商品名;Dimension Icon型SPM)、プローブ(ブルカー・エイエックスエス社製、商品名;TESPA(NCHV)、先端曲率半径10nm、ばね定数42N/m)を用いて、タッピングモードで、銅箔表面の80μm×80μmの範囲で測定し、十点平均粗さ(Rzjis)を求めた。なお、十点平均粗さ(Rzjis)はJIS B 0601-2001に基づくものである。
【0053】
[粘度の測定]
E型粘度計(ブルックフィールド社製、商品名;DV-II+Pro、ロータの種類:スピンドル・ローター)を用いて、25℃における粘度を100rpmの回転速度で測定した。
【0054】
[フッ素系樹脂層の露出面Sの表面粗さ(Sq;二乗平均平方根高さ)の評価]
作製した片面銅張積層板のフッ素系樹脂層の露出面Sの任意の箇所について、形状解析レーザー顕微鏡(商品名;VK-X160、株式会社キーエンス製)を用いて、対物レンズ:100倍、レーザー波長:658nm、測定サイズ:1024μm×768μmの条件での形状測定を行い、全焦点画像を得た後、解析条件としてISO25178を選択し、S―フィルター;0.5μm、L―フィルター;0.1mm、面傾き補正を自動の条件で表面粗さ(Sq)の測定を実施した。この際、任意の箇所3点の測定を行い、3点の平均値を表面粗さ(Sq)とした。
【0055】
[フッ素系樹脂の溶融時の貯蔵弾性率の変曲点温度の測定]
片面銅張積層板のフッ素系樹脂層の露出面Sに銅箔(電解銅箔、厚さ;12μm、樹脂層側の十点平均粗さ(Rzjis);0.6μm)を積層後、バッチプレス機に投入し、真空下で360℃まで加熱し、360℃に到達後、5分間、8MPaの圧力でプレスを実施することで、誘電体の厚みが50μmの両面銅張積層板を得た。得られた両面銅張積層板について、塩化第二鉄水溶液を用いて銅箔をエッチング除去して、フッ素系樹脂フィルムを得た後、5mm×70mmのサイズにカットし、動的粘弾性測定装置(DMA:TAインスツルメント社製、商品名;RSA G2)を用いて、30℃から400℃まで昇温速度4℃/分、周波数10Hzで測定を行った。測定により得られた貯蔵弾性率変曲前後に接線を引いた際の接点より溶融時の貯蔵弾性率の変曲点温度を求めた。
【0056】
[貼り合わせ接合面の接着性評価]
10cm角の片面銅張積層板の1辺の端部から幅1cmの範囲のみ圧力を加えずに残りの部位に対してプレスを行い、プレス後に未加圧部分から剥離した。剥離面が、銅箔面もしくはフッ素系樹脂層内での凝集破壊であったものは○(良好)、銅箔面もしくはフッ素系樹脂層内での凝集破壊と貼り合せ接合面での界面剥離が混在しているものを△(可)、貼り合わせ接合面での界面剥離もしくは未接着のものを×(不可)とした。
【0057】
[熱膨張係数(CTE)の測定]
3mm×20mmのサイズにカットした両面銅張積層板より得られたフッ素系樹脂フィルムを、サーモメカニカルアナライザー(日立ハイテクテクノロジー社(旧セイコーインスツルメンツ社製)、商品名;TMA/SS7100)にセットした。この際、装置治具間の距離(測定有効長さ)は15mmとした。次に、5.0gの荷重を加えながら一定の昇温速度で30℃から260℃まで昇温させ、更にその温度で10分保持した後、5℃/分の速度で冷却し、200℃から100℃までの平均熱膨張係数(熱膨張係数)を求めた。
【0058】
[誘電特性の測定]
スプリットシリンダ共振器(SCR共振器)を用いて60GHzにおける両面銅張積層板より得られたフッ素系樹脂フィルムの比誘電率(Dk)ならびに誘電正接(Df)を測定した。
なお、測定に使用したフィルムを温度;22~24℃、湿度;45~55%の条件下で、24時間放置した後に測定したものである。
【0059】
合成例及び分散組成物作製例に用いた化合物を以下に示す。
<シリカフィラー>
下記の表1に記載するシリカフィラー(1)~シリカフィラー(5)を使用した。
なお、表面処理量は、シリカフィラー重量に対する重量割合を示している。
【0060】
【0061】
<フッ素系樹脂パウダー(1)>
Fluon+(Fluonは登録商標) EA-2000PW 10:AGC製フッ素系樹脂パウダー、平均粒子径;2~3μm、融点;300℃
<分散剤(1)>
フタージェント710FL:ネオス製ノニオン系フッ素含有分散剤(分散剤成分;50重量%、酢酸エチル;50重量%)
<DMAc>
N,N‐ジメチルアセトアミド
【0062】
(分散組成物作製例1)
プライミクス株式会社(旧社名:特殊機化工業株式会社)のT.K.HIVIS MIX(型式2P-03)の容器内に、フッ素系樹脂パウダー(1)を70.4g、シリカフィラー(1)を169.6g、分散剤(1)を12g(分散剤成分6g)、及びDMAcを14.7g加え、室温において20rpmで5分間撹拌した。その後装置を停止し、撹拌翼及び容器側壁の混練物のかき取りを実施した。前記の撹拌と装置停止後の撹拌翼及び容器側壁の混練物のかき取りを3回実施した。
【0063】
次に、フッ素系樹脂パウダー(1)とシリカフィラー(1)の全量に対する割合を微調整するため、DMAcを混練物に少量加え、30rpmで5分間撹拌し、混錬物の状態確認を行った。この作業を混練物に粉状部分がない塊状になるまで繰り返し実施した。本検討では、フッ素系樹脂パウダー(1)とシリカフィラー(1)の合計の質量割合が、これらにDMAcを加えた量に対して85質量%(すなわち〔[フッ素系樹脂パウダー(1)]+[シリカフィラー(1)]〕/〔[フッ素系樹脂パウダー(1)]+[シリカフィラー(1)]+[DMAc]〕=85質量%〕)となった際に塊状となり、混錬物の塊内部にも粉状部分は観察されなかった。前記塊状になった状態から30rpmでの固練りを開始し、15分間隔で停止し、撹拌翼及び容器側壁の混練物のかき取りを実施した。この作業を計4回、合計60分間の固練りを行い、分散組成物(樹脂組成物)1-1を得た。分散組成物1-1は、流動性がなく粘度の測定ができないため、「固体」と判断した。
【0064】
その後、分散組成物1-1について、フッ素系樹脂パウダー(1)とシリカフィラー(1)の合計割合がDMAcを加えた量に対して67.5重量%となるようにDMAcで段階的な希釈及び撹拌を行い、100rpmで測定時の粘度(25℃)が1020cP(1020mPa・S)の分散組成物(樹脂組成物)1-2を得た。
【0065】
(分散組成物作製例2~分散組成物作製例5)
シリカフィラーの種類をシリカフィラー(2)~シリカフィラー(5)に変更した以外は分散組成物作製例1と同様な方法を用いて、分散組成物2-1~分散組成物5-1、並びに分散組成物2-2~分散組成物5-2を作製した。すなわち、シリカフィラー(1)をシリカフィラー(2)に変更した以外は分散組成物1-1と同様にして得たものが分散組成物2-1であり、これを分散組成物1-2と同様に希釈及び攪拌して得たものが分散組成物2-2である。また、シリカフィラー(1)をシリカフィラー(3)に変更した以外は分散組成物1-1と同様にして得たものが分散組成物3-1であり、これを分散組成物1-2と同様に希釈及び攪拌して得たものが分散組成物3-2である。以下同様に、シリカフィラー(1)をシリカフィラー(4)~シリカフィラー(5)に変更して、分散組成物4-1~分散組成物5-1、分散組成物4-2~分散組成物5-2をそれぞれ得た。なお、分散組成物2-1~分散組成物5-1はいずれも流動性がなく粘度の測定ができないため、「固体」と判断した。また、分散組成物2-2~分散組成物5-2の100rpmで測定時の粘度(25℃)は下記の表2に示す通りである。
【0066】
【0067】
<実施例1>
銅箔(電解銅箔、厚さ;12μm、樹脂層側の十点平均粗さ(Rzjis);0.6μm)の上に、分散組成物1-2を塗工後、乾燥炉に通紙したポリイミドフィルム上に分散組成物1-2を塗工した銅箔を貼り付け、大気雰囲気下の80Paの風圧の乾燥炉中を用いて90℃で1分、120℃で3分の乾燥処理を行った後、塗工した分散組成物1-2による塗膜を有する銅箔をポリイミドフィルム上から剥離した。次に、窒素雰囲気下(酸素濃度0.1体積%以下)の熱風オーブンを用いて40℃から240℃までを10℃/分、240℃から360℃までを5℃/分で昇温し、360℃で5分間の保持を行った後、40℃まで冷却する窒素熱処理を行うことで、銅箔の片面に分散組成物1-2によるフッ素系樹脂層を備えた片面銅張積層板(フッ素樹脂金属張積層板)1を得た。上記のようにして得た片面銅張積層板1を2枚準備し、それぞれのフッ素系樹脂層の樹脂面同士を重ね合わせたものをバッチプレス機に投入後、真空下で320℃まで加熱し、320℃に到達後、5分間、2MPaの圧力でプレスを実施することで、2つのフッ素系樹脂層を熱圧着してなる誘電体の厚みが100μmの両面銅張積層板1を得た。得られた両面銅張積層板1について貼り合わせ接合面の接着性評価を行った結果、銅箔近傍における樹脂層内での凝集破壊であり、貼り合わせ接合面の接着は〇(良好)であった。また、熱圧着に使用した片面銅張積層板1のフッ素系樹脂層の露出面Sの表面粗さ(Sq)は2.50μmであった。
【0068】
続いて、塩化第二鉄水溶液を用いて両面銅張積層板1の銅箔をエッチング除去して、フッ素系樹脂フィルム1-1を調製した。フッ素系樹脂フィルム1-1のCTEは25.6ppm/K、比誘電率(Dk)=2.9、誘電正接(Df)=0.0010であった。
【0069】
<実施例2~実施例5及び比較例1>
分散剤組成物の種類、熱圧着条件を変更した以外は実施例1と同様な方法を用いて、片面銅張積層板2~5及び両面銅張積層板1-2、両面銅張積層板2~4、並びにフッ素系樹脂フィルム1-2及びフッ素系樹脂フィルム2~4を作製した。作製条件及び評価特性を表3~表4にまとめて示す。
【0070】
【0071】
【0072】
<比較例2>
片面銅張積層板1のフッ素系樹脂層の露出面Sに銅箔(電解銅箔、厚さ;12μm、樹脂層側の十点平均粗さ(Rzjis);0.6μm)を積層後、バッチプレス機に投入し、真空下で360℃まで加熱し、360℃に到達後、5分間、8MPaの圧力でプレスを実施することで、誘電体の厚みが50μmの両面銅張積層板1’を得た。
【0073】
続いて、塩化第二鉄水溶液を用いて両面銅張積層板1’の熱圧着面の銅箔をエッチング除去して、片面銅張積層板1’を調製した。
【0074】
上記のようにして得た片面銅張積層板1’を2枚準備し、それぞれのフッ素系樹脂層の樹脂面同士を重ね合わせたものをバッチプレス機に投入後、真空下で320℃まで加熱し、320℃に到達後、5分間、2MPaの圧力でプレスを実施したが、貼り合わせ接合面は接着しなかった。なお、熱圧着に使用した片面銅張積層板1’のフッ素系樹脂層の露出面Sの表面粗さ(Sq)は0.15μmであった。
【0075】
以上、本発明の実施の形態を例示の目的で詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に制約されることはなく、種々の変形が可能である。