(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024142793
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】積層体およびそれからなる積層フィルム、当該フィルムを用いた包装体
(51)【国際特許分類】
B32B 27/30 20060101AFI20241003BHJP
B65D 65/40 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
B32B27/30 102
B65D65/40 D BRQ
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023055120
(22)【出願日】2023-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000707
【氏名又は名称】弁理士法人市澤・川田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】辻井 誠人
(72)【発明者】
【氏名】牟田 隆敏
【テーマコード(参考)】
3E086
4F100
【Fターム(参考)】
3E086AA01
3E086AB01
3E086AD01
3E086AD05
3E086AD06
3E086AD24
3E086BA04
3E086BA14
3E086BA15
3E086BB05
3E086BB90
3E086CA01
4F100AJ03A
4F100AK01B
4F100AK21A
4F100AK42B
4F100AL05A
4F100AT00B
4F100BA02
4F100DG10B
4F100EH462
4F100EH46A
4F100GB15
4F100GB23
4F100JA07A
4F100JD03A
4F100JK02
4F100JK07A
4F100JK08
4F100YY00A
(57)【要約】
【課題】酸素バリア性が良好であり、かつ、機械物性に優れながら、環境や省資源化などに対応した積層体を提供する。
【解決手段】積層体は、基材層(II)の少なくとも一方の面に、ヘミセルロース(A)とケン化度が90mol%以上のポリビニルアルコール系樹脂(B)とを含む層(I)を有することを特徴とし、前記基材層(II)が樹脂基材または紙基材であり、前記ヘミセルロース(A)がキシランであるのが好ましく、前記層(I)における、JIS K7126-2(2006)に準拠して測定した23℃×50%RHの1μmあたりの酸素透過度が、7.0cc/m2・day・atm以下であるのがより好ましい。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材層(II)の少なくとも一方の面に、ヘミセルロース(A)とケン化度が90mol%以上のポリビニルアルコール系樹脂(B)とを含む層(I)を有する積層体。
【請求項2】
前記ヘミセルロース(A)が前記層(I)中に10質量%以上90質量%以下を含む、請求項1に記載の積層体。
【請求項3】
前記基材層(II)が樹脂基材または紙基材である、請求項1に記載の積層体。
【請求項4】
前記層(I)における、JIS K7244-1(1998)に準拠して測定した周波数10Hzで100℃における貯蔵弾性率が0.20×109Pa以上である、請求項1に記載の積層体。
【請求項5】
前記ヘミセルロース(A)がキシランである、請求項1に記載の積層体。
【請求項6】
前記層(I)における、JIS K7126-2(2006)に準拠して測定した23℃×50%RHの1μmあたりの酸素透過度が、7.0cc/m2・day・atm以下である、請求項1に記載の積層体。
【請求項7】
前記ポリビニルアルコール系樹脂(B)の重合度が400以上である、請求項1に記載の積層体。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載の積層体からなる積層フィルム。
【請求項9】
前記積層フィルムが食品包装用である、請求項8に記載の積層フィルム。
【請求項10】
請求項8に記載の積層フィルムを使用した包装体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食品包装用などに好適な積層体およびそれからなる積層フィルム、当該フィルムを用いた包装体に関する。
【背景技術】
【0002】
食品等の包装用途において、酸化による製品の品質低下を防ぐために、酸素バリア性を有する材料が使用される。
従来、酸素バリア性を有する材料として、EVOH(エチレン-ビニルアルコール)及びPVOH(ポリビニルアルコール)が用いられている。しかし、これらの材料は石油由来であり、再生可能な材料への転換が求められている。
【0003】
再生可能な酸素バリア性材料として、これまでに澱粉及びセルロース等の多糖類や、タンパク質等をベースとしたフィルムが検討されている。
例えば、特許文献1には、変性デンプンとポリビニルアルコールを含む樹脂組成物が記載されている。
また、特許文献2には、繊維幅が1000nm以下であり、かつリン酸基またはリン酸基由来の置換基を有するセルロース繊維を含む保護層を有するガスバリア性積層体が記載されている。
さらに、特許文献3には、ミクロフィブリル化セルロースおよびポリマーのコロイド状粒子を含む分散液コーティングが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2020-105305号公報
【特許文献2】特開2020-075514号公報
【特許文献3】特表2013-510222号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1~3の技術では、バイオ由来の材料を用いており環境に対応はしているものの酸素バリア性が充分ではないという問題が存在していた。
そこで、本発明は、上記問題を鑑みてなされたものであり、酸素バリア性が良好で、かつ、機械物性に優れながら、環境対応や省資源化などの課題を解決することができる、バイオマス由来の材料を用いた積層体およびそれからなる積層フィルム、当該フィルムを用いた包装体を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、以下の態様を有する。
【0007】
[1] 基材層(II)の少なくとも一方の面に、ヘミセルロース(A)とケン化度が90mol%以上のポリビニルアルコール系樹脂(B)とを含む層(I)を有する積層体。
【0008】
[2] 前記ヘミセルロース(A)が前記層(I)中に10質量%以上90質量%以下を含む、[1]に記載の積層体。
【0009】
[3] 前記基材層(II)が樹脂基材または紙基材である、[1]又は[2]に記載の積層体。
【0010】
[4] 前記層(I)における、JIS K7244-1(1998)に準拠して測定した周波数10Hzで100℃における貯蔵弾性率が0.20×109Pa以上である、[1]~[3]のいずれかに記載の積層体。
【0011】
[5] 前記ヘミセルロース(A)がキシランである、[1]~[4]のいずれかに記載の積層体。
【0012】
[6] 前記層(I)における、JIS K7126-2(2006)に準拠して測定した23℃×50%RHの1μmあたりの酸素透過度が、7.0cc/m2・day・atm以下である、[1]~[5]のいずれかに記載の積層体。
【0013】
[7] 前記ポリビニルアルコール系樹脂(B)の重合度が400以上である、[1]~[6]のいずれかに記載の積層体。
【0014】
[8] [1]~[7]のいずれかに記載の積層体からなる積層フィルム。
【0015】
[9] 前記積層フィルムが食品包装用である、[8]に記載の積層フィルム。
【0016】
[10] [8]又は[9]に記載の積層フィルムを使用した包装体。
【発明の効果】
【0017】
本発明は、ヘミセルロース(A)と特定のポリビニルアルコール系樹脂(B)とを含む層を少なくとも1層有する積層体とすることで、バイオマス材料を用いながら酸素バリア性と機械物性のバランスが良好な積層体および包装体を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の一実施形態を説明する。但し、本発明はこの実施形態に限定されるものではない。
【0019】
本発明の一実施形態の積層体(以下、本積層体ともいう。)は、基材層(II)の少なくとも一方の面に、ヘミセルロース(A)とケン化度が90mol%以上であるポリビニルアルコール系樹脂(B)とを含む層(I)を有するものである。
【0020】
<本積層体>
本積層体は、基材層(II)の少なくとも一方の面に、層(I)を備えたものであり、この他に、シール層などその他の層を備えてもよい。好ましい積層構成は後述する。
【0021】
<層(I)>
本積層体の層(I)は、ヘミセルロース(A)と、ケン化度が90mol%以上であるポリビニルアルコール系樹脂(B)と、を含むものである。
【0022】
(ヘミセルロース(A))
本積層体におけるヘミセルロース(A)とは、植物細胞の細胞壁を構成する多糖類のうち、セルロースとリグニン以外のものである。
ヘミセルロース(A)としては、具体的に、キシラン、アラビノキシラン、アラビナン、マンナン、ガラクタン、キシログルカン、グルコマンナン等を挙げることができる。中でも、分子量が比較的小さく粘度が低いことから、キシランが好ましい。
【0023】
キシランとは、木、穀類、草および薬草などといった植物内に存在する、植物由来(バイオ由来)の高分子化合物であり、β(1,4)結合したキシロースの主鎖に、様々な側鎖が結合したヘテロ糖である。側鎖に結合する置換基の種類は特に限定されないが、グルクロン酸、ガラクトース、マンノース、グルコース、アラビノース、フコース等を挙げることができる。
【0024】
キシランは、ヘテロキシランおよびホモキシランに分類され、ホモキシランは、キシロース残基の骨格を持つとともに、グルクロン酸または4-0-メチルグルクロン酸の置換基を持つものである。ヘテロキシランは、キシロース残基の骨格を持つものである。
ヘテロキシランの利点は、ホモキシランに比べて高度に結晶化することであり、結晶構造によりガスの透過性および湿気の感受性の両方を減少させることができる。
【0025】
キシランの分子量は、層(I)の製膜性を良好にする観点から、100以上100000以下が好ましく、300以上50000以下がより好ましく、30000以上50000以下がさらに好ましい。
なお、キシランの分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)で測定することができる。
【0026】
前記ヘミセルロース(A)として、具体的には、商品名「キシランGX-1」(株式会社ピーエスバイオテック製:質量平均分子量45000のキシラン含有量(有効成分)85質量%)などを用いることができる。
前記ヘミセルロース(A)の含有量(有効成分)は、酸加水分解、蛍光ラベル化した後に、超高速液体クロマトグラフィー(UPLC)などで測定することができる。含有量(有効成分)が大きいものを使用すること好ましいが、必要とするヘミセルロース(A)を得ることができれば特に限定はされない。通常50質量%以上のものを使用することが好ましい。植物由来であることもあり、本発明の効果を損なわない範囲で、ヘミセルロース(A)以外の成分、例えば、脂質やたんぱく質などが含まれていても構わない。
【0027】
ヘミセルロース(A)は、層(I)中において、10質量%以上90質量%以下であることが好ましい。上記範囲内にあることで、酸素バリア性が大きく低下することなく、耐熱性、例えば高温環境下での寸法安定性の面でも良好となる。これは、ヘミセルロース(A)にあるヒドロキシ基により、水素結合によるパッキング構造を取りやすくなるため、酸素バリア性が向上する傾向があると考えられる。
このような観点から、上限は、より好ましくは85質量%以下、さらに好ましくは80質量%以下、特に好ましくは75質量%以下である。下限は、より好ましくは質量10質量%以上、さらに好ましくは20質量%以上、特に好ましくは30質量%以上である。
【0028】
(ポリビニルアルコール系樹脂(B))
本積層体のポリビニルアルコール系樹脂(B)は、ポリビニルアルコール樹脂、及び、ポリビニルアルコール樹脂を変性してなる変性ポリビニルアルコール樹脂を包含し、ケン化度が90mol%以上のものである。
【0029】
前記ポリビニルアルコール系樹脂(B)は、例えば、酢酸ビニルの重合体であるポリ酢酸ビニルのアセテート基をケン化することで得ることができる。また、ポリビニルアルコール系樹脂(B)は、一部変性されたものでもよく、例えば、ブテンジオール変性、シラノール変性、アセトアセチル変性などを挙げることができる。
【0030】
前記ポリビニルアルコール系樹脂(B)のケン化度は、90mol%以上である。
ケン化度とは、ポリビニルアルコールにおける水酸基とエステル基との合計に対する水酸基のモル分率であり、JIS K6726(1994)に準拠して測定できる。上記範囲にあることで、ポリビニルアルコールの結晶性が高くなりフィルム強度が向上し、酸素バリア性が向上する傾向がある。これは、水酸基数が増加し、水素結合によるパッキング構造を取りやすくなるためであると考えられる。
このような観点から、ケン化度の範囲は、より好ましくは92モル%以上、さらに好ましくは95モル%以上、特に好ましくは98モル%以上である。
【0031】
前記ポリビニルアルコール系樹脂(B)の重合度は400以上であることが好ましい。上記範囲にあることで、層(I)の強度が向上し、後述する貯蔵弾性率も好ましい範囲に調整しやすくなる。
このような観点から、重合度は、より好ましくは450以上、さらに好ましくは500以上、特に好ましくは600以上であり、最も好ましくは、1000以上である。
なお、重合度とは、ポリビニルアルコールにおける水酸基とエステル基の繰り返し単位を1単位とした時の単位数である。
【0032】
前記ポリビニルアルコール系樹脂(B)として、具体的には、商品名「ゴーセノールNH-17Q」(三菱ケミカル株式会社製:重合度1700、ケン化度99モル%のPVA)、商品名「ゴーセノールNL-05」(三菱ケミカル株式会社製:重合度500、ケン化度99モル%のPVA)などを用いることができる。
【0033】
前記ポリビニルアルコール系樹脂(B)は、層(I)中において、10質量%以上90質量%以下であることが好ましい。上記範囲内にあることで、酸素バリア性が充分となる。
このような観点から、下限は、より好ましくは15質量%以上、さらに好ましくは20質量%以上、特に好ましくは25質量%以上である。上限は、より好ましくは質量85%以下、さらに好ましくは80質量%以下、特に好ましくは75質量%以下である。
【0034】
(層(I)のその他成分)
層(I)中には、樹脂成分として、前記ヘミセルロース(A)および前記ポリビニルアルコール系樹脂(B)の他に、ポリオレフィン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリステル系樹脂、ポリスチレン系樹脂などの熱可塑性樹脂分を含んでいてもよく、2種類以上の樹脂成分を含んでよい。この中でもポリオレフィン系樹脂やポリアミド系樹脂が好ましい。
【0035】
ポリオレフィン系樹脂としては、例えば低密度ポリエチレン(LDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、中密度ポリエチレン(MDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチレン-アクリル酸共重合体(EAA)、エチレン-アクリル酸エチル共重合体(EEA)、エチレン-メタクリル酸共重合体(EMAA)、エチレン-メタクリル酸メチル共重合体(EMMA)、エチレン-アクリル酸メチル共重合体(EMA)、アイオノマー樹脂、酸変性ポリオレフィン系樹脂等を例示することができる。
その他の樹脂成分を含む場合は、層(I)中にその他の樹脂成分は少ないほど好ましいが、通常30質量%以下であることが好ましく、20質量%以下であることがより好ましく、10質量%以下であることがさらに好ましい。
【0036】
層(I)中には、本発明の効果を損なわない範囲で「樹脂成分以外のその他の成分」を配合することもできる。
当該「樹脂成分以外のその他の成分」としては、例えば帯電防止剤、熱安定剤、防曇剤、アンチブロッキング剤、滑剤、着色剤などを挙げることができる。但し、これらに限定するものではない。
【0037】
(層(I)の形成方法)
本積層体の層(I)は、基材層(II)の少なくとも一面側に備えればよく、特に限定するものではないが、前記ヘミセルロース(A)および前記ポリビニルアルコール系樹脂(B)を含む塗工液を、基材層(II)に塗布する方法(コーティング)により形成するのが好ましい。
【0038】
塗工液は、前記ヘミセルロース(A)および前記ポリビニルアルコール系樹脂(B)などを水などの溶媒に混合したものであり、層(I)のへミセルロース(A)とポリビニルアルコール系樹脂(B)の配合割合に合わせて、塗工液に配合することが好ましい。例えば、ヘミセルロース(A);ポリビニルアルコール系樹脂(B)の配合割合は、90:10~10:90になるように配合すればよい。
【0039】
コーティング方法としては、特に限定されないが、バーコーター法、コンマコート法、グラビアコート法、リバースコート法、ナイフコート法、ディップコート法、スプレーコート法、エアーナイフコート法、スピンコート法、ロールコート法、プリント法、ディップ法、スライドコート法、カーテンコート法、ダイコート法、キャスティング法、エクストルージョンコート法などを挙げることができる。
コーティング方法以外では、含水押出法、サンドイッチラミネート法、共押出などの押出ラミネート法などを挙げることができる。
【0040】
本積層体の層(I)の厚みは、特に限定されず、バリア性や基材層(II)などその他の層などを考慮して適宜設定すればよい。例えば、上限は、500μm以下であり、250μm以下であることが好ましい。また、下限も特に限定されないが、生産性などを考慮して、0.5μm以上であり、1μm以上であることが好ましい。
【0041】
(100℃の貯蔵弾性率)
本積層体の層(I)は、JIS K7244-1(1998)に準拠して測定した、測定周波数10Hzでの100℃における貯蔵弾性率が、0.20×109Pa以上であることが好ましい。この範囲内にあることで、高温環境下(100℃)において、フィルムにした場合の形状維持がしやすく耐熱性の観点で好ましい。
このような観点から、より好ましくは0.25×109Pa以上、さらに好ましくは0.30×109Pa以上、特に好ましくは0.40×109Pa以上である。上限は特に限定するものではないが、2.0×109Pa以下が好ましい。
【0042】
(25℃の貯蔵弾性率)
本積層体の層(I)は、JIS K7244-1(1998)に準拠して測定した、測定周波数10Hzでの25℃における貯蔵弾性率が、1.0×109Pa以上であることが好ましい。この範囲内にあることで、常温環境下(25℃)において、フィルムにした場合のハンドリングがしやすく好ましい。
このような観点から、より好ましくは1.3×109Pa以上、さらに好ましくは1.5×109Pa以上、特に好ましくは1.6×109Pa以上である。上限は特に限定するものではないが、8.0×109Pa以下が好ましい。
【0043】
(150℃の貯蔵弾性率)
本積層体の層(I)は、JIS K7244-1(1998)に準拠して測定した、測定周波数10Hzでの150℃における貯蔵弾性率が、0.1×109Pa以上であることが好ましい。この範囲内にあることで、レトルト殺菌処理等(例えば100℃以上)を行う場合であっても、フィルムにした場合の形状維持がしやすく耐熱性の観点で好ましい。
このような観点から、より好ましくは0.15×109Pa以上、さらに好ましくは0.20×109Pa以上、特に好ましくは0.25×109Pa以上である。上限は特に限定するものではないが、2.0×109Pa以下が好ましい。
【0044】
(酸素透過度)
本積層体の層(I)は、JIS K7126-2(2006)に準拠して測定した、23℃×50%RHの厚み1μmあたりの酸素透過度が、7.0cc/m2・day・atm以下であることが好ましい。
この範囲内にあることで、酸素バリア性が実用上十分となる。
このような観点から、より好ましくは5.0cc/m2・day・atm以下、さらに好ましくは3.5cc/m2・day・atm以下、特に好ましくは3.0cc/m2・day・atm以下である。
下限は、特に限定するものではないが、低いほど良く、0.10cc/m2・day・atm以上が好ましい。
【0045】
(バイオマス度)
本積層体の層(I)のバイオマス度は、1%以上であることが好ましい。より好ましくは3%以上、さらに好ましくは15%以上、特に好ましくは30%以上であり、高いほど好ましい。高いほど環境負荷低減となり、環境対応性の高い包装体にすることができる。
【0046】
<基材層(II)>
本積層体の基材層(II)は、例えば、フィルム状、シート状、板状、チューブ状などにすることができ、樹脂基材または紙基材であることが好ましい。
【0047】
(樹脂基材)
前記樹脂基材としては、フィルム状、シート状、板状、チューブ状などの層状に成形し得る種々の合成樹脂材料から得られるものであれば、特に限定されない。また、前記樹脂基材は、1層からなるものでもよいが、2層以上積層したものでもよい。
【0048】
前記合成樹脂材料としては、成形加工性や、二次加工性などのハンドリングのし易さなどから、熱可塑性樹脂を用いることが好ましい。
当該熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂;ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンイソフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル系樹脂;ポリ乳酸;ポリウレタン;ポリ酢酸ビニル;ポリアクリロニトリル;ポリ塩化ビニル;ポリカーボネート系樹脂等を挙げることができる。
【0049】
前記樹脂基材は、前記熱可塑性樹脂から選択される1種又は2種以上からなる樹脂フィルムから形成するのが好ましい。当該樹脂フィルムは、化学的発泡、物理的発泡、延伸多孔化等の多孔化処理が行われた多孔質フィルム、一軸又は二軸延伸処理が行われた延伸フィルム等であってもよい。
【0050】
前記樹脂基材には、必要に応じて添加剤が加えられてもよく、例えば、耐候性を付与するための紫外線吸収剤、易滑性の付与および各工程での傷発生防止を主たる目的として、粒子を配合することも可能である。また必要に応じて従来公知の酸化防止剤、帯電防止剤、熱安定剤、潤滑剤、染料、顔料等を添加することができる。
また、前記樹脂基材は、層(I)が形成される面にコロナ処理、プラズマ処理、濡れ性を調整するためのコーティング処理等の表面処理を施してもよい。
【0051】
前記樹脂基材は、公知の方法、例えば、インフレーション法、押出法等を用いることにより、フィルム状、シート状、板状、チューブ状などの層状に成形し製造することができる。
【0052】
前記樹脂基材は、積層フィルムを用いることもでき、この場合は、各層を形成する熱可塑性樹脂組成物を用いて、上述した公知の方法の他、予め採取したフィルムを、ラミネート法等を用いて製造することができる。特に、フィルムの層数が多い場合でも製膜工程は変わらない点や厚み制御が比較的容易である点で、共押出法を用いることが好ましい。
【0053】
前記樹脂基材の厚みは、特に限定されないが、5~600μmが好ましい。この範囲であると、取り扱い性を向上させることができる。
このような観点から、10~500μmがより好ましく、15~450μmがさらに好ましい。
【0054】
(紙基材)
前記紙基材としては、例えば、広葉樹漂白クラフトパルプ(LBKP)、針葉樹漂白クラフトパルプ(NBKP)、広葉樹未漂白クラフトパルプ(LUKP)、針葉樹未漂白パルプ(NUKP)、サルファイトパルプなどの化学パルプ、ストーングラインドパルプ、サーモメカニカルパルプなどの機械パルプ、脱墨パルプ、古紙パルプなどの木材繊維、ケナフ、竹、麻などから得られた非木材繊維などを用いることができ、適宜配合して用いることが可能である。これらの中でも、原紙中への異物混入が発生し難いこと、使用後の紙容器を古紙原料に供してリサイクル使用する際に経時変色が発生し難いこと、高い白色度を有するため印刷時の面感が良好となり、特に包装材料として使用した場合の使用価値が高くなることなどの理由から、木材繊維の化学パルプ、機械パルプを用いることが好ましく、中でも化学パルプを用いることがより好ましい。
【0055】
前記紙基材の製造(抄紙)方法は、特に限定されるものではなく、公知の長網フォーマー、オントップハイブリッドフォーマー、ギャップフォーマーマシン等を用いて、酸性抄紙、中性抄紙、アルカリ抄紙方式で抄紙して紙基材を製造することができる。また、紙基材は1層であってもよく、2層以上の多層で構成されていてもよい。
さらに、前記紙基材の表面を各種薬剤で処理することが可能である。使用される薬剤としては、酸化澱粉、ヒドロキシエチルエーテル化澱粉、酵素変性澱粉、ポリアクリルアミド、ポリビニルアルコール、表面サイズ剤、耐水化剤、保水剤、増粘剤、滑剤などを例示することができ、これらを1種あるいは2種以上を混合して用いることができる。さらに、これらの各種薬剤と顔料を併用してもよい。顔料としてはカオリン、クレー、エンジニアードカオリン、デラミネーテッドクレー、重質炭酸カルシウム、軽質炭酸カルシウム、マイカ、タルク、二酸化チタン、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、酸化亜鉛、珪酸、珪酸塩、コロイダルシリカ、サチンホワイトなどの無機顔料および密実型、中空型、またはコア-シェル型などの有機顔料などを1種または2種以上混合して使用することができる。
この様にして得られる紙基材としては、上質紙、中質紙、塗工紙、片艶紙、クラフト紙、片艶クラフト紙、晒クラフト紙、グラシン紙、板紙、白板紙、ライナーなどの各種公知のものが例示可能である。
【0056】
前記紙基材の坪量は、25g/m2以上400g/m2以下であることが好ましい。この範囲内であると、食品などの包装材、容器、カップなどの包装用途に好適に使用することができる。
このような観点から、30g/m2以上350g/m2以下であることがより好ましく、30g/m2以上300g/m2以下であることがさらに好ましい。
【0057】
(本積層体の積層構成)
本積層体は、層(I)と基材層(II)の2層構成でもよいが、その他の層を積層した3層以上の構成でもよい。その他の層としては、例えば、シール層を有することが好ましい。シール層を有する場合は、積層体の少なくとも表裏一面側に有することが好ましい。本積層体にシール層を有することで、その他のフィルムや積層体とヒートシールするなどして、包装体にすることができる。シール層以外のその他の層としては、ガスバリア層、接着層などを挙げることができる。
本積層体において、層数や層の順番、層(I)と基材層(II)以外のその他の層の種類や数に制限はなく、層(I)を複数層積層した構成であってもよい。
より具体的な積層構成としては、層(I)/層(II)の2層構成、層(I)/層(II)/層(I)、層(I)/層(II)/シール層、層(II)/層(I)/シール層などの3層構成、層(I)/層(II)/接着樹脂層/シール層、層(I)/層(II)/ガスバリア層/接着樹脂層/シール層、層(I)/層(II)/接着層/ガスバリア層/接着層/シール層、などの4層以上の構成を挙げることができる。
【0058】
<用途>
本積層体は、特に限定するものではないが、肉類、魚類、野菜類、果実類、デザート類などの食品の包装に用いる積層フィルムにするに適しており、この積層フィルムを用いて食品用の包装体にすることができる。特に、深絞り包装体、真空包装体、ガス置換包装体などに使用することができる。
本積層体は、酸素バリア性に優れており、この性能を活かして、酸化の恐れのある食品の保存期間延長のための包装体に適している。
【実施例0059】
以下、本発明の一実施例を説明する。但し、本発明はこの実施例に限定されるものではない。
【0060】
以下の原材料を用いて、下記に示す実施例、比較例および参考例の積層体を作製した。
【0061】
<ヘミセルロース(A)>
・ヘミセルロース:株式会社ピーエスバイオテック製キシランGX-1、(キシラン(質量平均分子量45000)85質量%)※その他成分15質量%含む
【0062】
<ポリビニルアルコール系樹脂(B)>
・PVA1:三菱ケミカル株式会社製ゴーセノールNH-17Q、重合度1700、ケン化度99モル%
・PVA2:三菱ケミカル株式会社製ゴーセノールNL-05、重合度500,ケン化度99モル%
・PVA3:三菱ケミカル株式会社製ゴーセノールGH-17R、重合度2100、ケン化度88モル%
【0063】
<エチレンビニルアルコール系樹脂(b)>
・EVOH:三菱ケミカル株式会社製ソアノールDC3203RB、エチレン-ビニルアルコール系樹脂、エチレン含有量32モル%
【0064】
<基材>
・PET基材(A):二軸延伸ポリエステルフィルム(厚み:38μm、酸素透過度34cc/m2・day・atm)
・PET基材(B):二軸延伸ポリエステルフィルム(厚み:24μm、酸素透過度50cc/m2・day・atm)
【0065】
<積層体の作製>
[実施例1]
PET基材(A)の表面を濡れ指数56以上になるように、コロナ放電処理を行い、コロナ処理面を塗工面とした。
へミセルロース(キシラン含有量85質量%):PVA1=85:15の質量比で、固形分濃度が10%となるように水に溶解した塗工液を用意した。
PET基材(A)に塗工液をバーコーター#30で塗布し、70℃で乾燥を10分行い、積層体を得た。
【0066】
[実施例2]
ヘミセルロース(キシラン含有量85質量%):PVA1=70:30の質量比で、固形分濃度が10%となるように水に溶解した塗工液を用意したこと以外は、実施例1と同様な方法で、積層体を得た。
【0067】
[実施例3]
ヘミセルロース(キシラン含有量85質量%):PVA1=50:50の質量比で、固形分濃度が10%となるように水に溶解した塗工液を用意したこと以外は、実施例1と同様な方法で、積層体を得た。
【0068】
[実施例4]
ヘミセルロース(キシラン含有量85質量%):PVA1=30:70の質量比で、固形分濃度が10%となるように水に溶解した塗工液を用意したこと以外は、実施例1と同様な方法で、積層体を得た。
【0069】
[実施例5]
ヘミセルロース(キシラン含有量85質量%):PVA1=15:85の質量比で、固形分濃度が10%となるように水に溶解した塗工液を用意したこと以外は、実施例1と同様な方法で、積層体を得た。
【0070】
[実施例6]
PET基材(A)の代わりに、PET基材(B)、PVA1の代わりにPVA2を使用したこと以外は実施例1と同様な方法で、積層体を得た。
【0071】
[実施例7]
ヘミセルロース(キシラン含有量85質量%):PVA2=70:30の質量比で、固形分濃度が10%となるように水に溶解した塗工液を用意したこと以外は、実施例6と同様な方法で、積層体を得た。
【0072】
[実施例8]
ヘミセルロース(キシラン含有量85質量%):PVA2=60:40の質量比で、固形分濃度が10%となるように水に溶解した塗工液を用意したこと以外は、実施例6と同様な方法で、積層体を得た。
【0073】
[実施例9]
ヘミセルロース(キシラン含有量85質量%):PVA2=50:50の質量比で、固形分濃度が10%となるように水に溶解した塗工液を用意したこと以外は、実施例6と同様な方法で、積層体を得た。
【0074】
[比較例1~3]
へミセルロースを配合せず、ポリビニルアルコールとして、比較例1はPVA1、比較例2はPVA2、比較例3はPVA3を用い、ポリビニルアルコールの固形分濃度が10%となるように水に溶解した塗工液を用意したこと以外は、実施例1と同様な方法で、積層体を得た。
【0075】
[比較例4]
PVA1のかわりにPVA3を使用したこと以外は実施例1と同様な方法で、積層体を得た。
【0076】
[比較例5]
ヘミセルロース(キシラン含有量85質量%):PVA3=70:30の質量比で、固形分濃度が10%となるように水に溶解した塗工液を用意したこと以外は、比較例4と同様な方法で、積層体を得た。
【0077】
[比較例6]
ヘミセルロース(キシラン含有量85質量%):PVA3=60:40の質量比で、固形分濃度が10%となるように水に溶解した塗工液を用意したこと以外は、比較例4と同様な方法で、積層体を得た。
【0078】
[比較例7]
ヘミセルロース(キシラン含有量85質量%):PVA3=50:50の質量比で、固形分濃度が10%となるように水に溶解した塗工液を用意したこと以外は、比較例4と同様な方法で、積層体を得た。
【0079】
[比較例8]
ヘミセルロース(キシラン含有量85質量%)のみを用いて固形分濃度が10%となるように水に溶解した塗工液を用意したこと以外は、実施例1と同様な方法で、積層体を得た。
【0080】
[参考例]
EVOHからなる厚さ30μmのフィルムを用い、そのフィルム単体を参考例とした。
【0081】
(物性測定)
上記実施例1~9、比較例1~8および参考例の積層体を用いて下記の物性を測定し、以下に示す基準で評価した。その結果を下記表1又は2に示す。なお、未測定の場合は表中に「-」を記入した。
なお、層(I)の物性を評価するにあたり、塗工液を、固形分濃度が5%にした以外は上記各実施例等と同様に用意し、プラスチックトレイに当該塗工液を流し込み、23℃×50%RHで3日間乾燥させ、層(I)を作製し、この物性を測定した。また、積層体の厚み(乾燥後)はマイクロメータを用いて実測し、基材の厚みを差引することにより層(I)の厚みを算出した。
【0082】
<酸素透過度>
積層体の酸素透過度は、JIS K7126-2(2006)(透過法)に基づき、酸素透過度測定装置 OX-TRAN 2/22(MOCON社製)を用い、温度23℃、相対湿度50%で測定し、以下の基準で評価した。
また、層(I)の1μm当たりの酸素透過度は、下式で算出した。なお、基材層(II)の酸素透過度はあらかじめ測定しておいた。
層(I)の1μm当たりの酸素透過度=[層(I)の厚み]/([1/積層体の酸素透過度]-[1/基材層(II)の酸素透過度])
【0083】
(層(I)の1μm当たりの酸素透過度)
○:7.0cc/m2・day/atm以下
×:7.0cc/m2・day/atmを超える
【0084】
<引張破断時応力・引張破断伸度(層(I))>
層(I)の引張破断時応力及び引張破断伸度は、JIS K7127(1999)に準拠して測定した。サンプルは幅15mm、長さ60mmに任意に切り出し、チャック間距離を25mm、引張速度は200mm/minで試験を行ない、以下の基準で評価した。なお、比較例8は試験中に破断し、測定することができなかった。
◎:引張破断時応力が20MPa以上かつ引張破断伸度が100%以上
○:引張破断時応力が20MPa以上かつ引張破断伸度が3%以上100%未満
×:引張破断時応力が20MPa未満または引張破断伸度が3%未満
【0085】
<貯蔵弾性率(層(I))>
層(I)の貯蔵弾性率は、JIS K7244-1(1998)に準拠して、動的粘弾性測定装置を用い、引張法にて貯蔵弾性率を測定した。昇温速度5℃/分、周波数10Hzで、各温度(25℃、100℃、150℃)における貯蔵弾性率E’を測定した。各サンプルのサンプル幅は4.7mmで切り出し、チャック間距離を25mm、引張速度は200mm/minで試験を行なった。
(25℃)
○:貯蔵弾性率が1.0×109MPa以上8.0×109MPa以下
×:貯蔵弾性率が1.0×109MPa未満または8.0×109MPaを超える
(100℃)
○:貯蔵弾性率が0.2×109MPa以上2.0×109MPa以下
×:貯蔵弾性率が0.2×109MPa未満または2.0×109MPaを超える
(150℃)
○:貯蔵弾性率が0.1×109MPa以上2.0×109MPa以下
×:貯蔵弾性率が0.1×109MPa未満または2.0×109MPaを超える
【0086】
<バイオマス度(層(I))>
層(I)のバイオマス度は、「バイオマス度」(%)=「バイオマス資源を原料とする樹脂のバイオマス度」(%)×「バイオマス資源を原料とする樹脂の質量割合」から算出した。
【0087】
<ヘーズ(層(I))>
層(I)のヘーズは、JIS K7136(2000)に記載の光線透過率測定方法に準拠して、ヘイズメーター(日本電色工業社製、NDH-5000)を用いて測定した。
【0088】
【0089】
【0090】
(結果)
各実施例は、層(I)にヘミセルロース(A)を含まない比較例1~3と比較するとバイオマス度が高いながらも、酸素バリア性(酸素透過度)が良好で、かつ、実用上問題のない機械物性(貯蔵弾性率、破断時応力および破断伸度)を有するものである。
また、層(I)にケン化度が90mol%未満のポリビニルアルコール系樹脂(B)を含む比較例4~8と比較すると、酸素バリア性(酸素透過度)および機械物性(貯蔵弾性率、破断時応力および破断伸度)が優れたものになることが確認された。
さらに、参考例(EVOH)と比較しても、同等の酸素バリア性(酸素透過度)および機械物性(破断時応力および破断伸度)を有するものであることが確認された。
本積層体は、酸素バリア性が良好であり、かつ、機械物性に優れながら、環境対応や省資源化などの課題を解決することができるものであり、食品用のフィルムや包装体として好適なものである。