(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024142829
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】ポリマー、電解質材料、電解質膜、触媒層付き電解質膜、膜電極接合体、固体高分子形燃料電池及び固体高分子形水電解装置
(51)【国際特許分類】
C08G 75/00 20060101AFI20241003BHJP
C08G 65/40 20060101ALI20241003BHJP
H01B 1/06 20060101ALI20241003BHJP
H01M 8/1025 20160101ALI20241003BHJP
H01M 8/1027 20160101ALI20241003BHJP
H01M 8/1032 20160101ALI20241003BHJP
H01M 8/10 20160101ALI20241003BHJP
C25B 9/00 20210101ALI20241003BHJP
C25B 9/23 20210101ALI20241003BHJP
C25B 13/04 20210101ALI20241003BHJP
【FI】
C08G75/00
C08G65/40
H01B1/06 A
H01M8/1025
H01M8/1027
H01M8/1032
H01M8/10 101
C25B9/00 A
C25B9/23
C25B13/04 301
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023055178
(22)【出願日】2023-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100211018
【弁理士】
【氏名又は名称】財部 俊正
(72)【発明者】
【氏名】岩嶋 俊輝
(72)【発明者】
【氏名】菅井 啓介
(72)【発明者】
【氏名】宮澤 篤史
(72)【発明者】
【氏名】姫野 友克
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 由惟
【テーマコード(参考)】
4J005
4J030
4K021
5G301
5H126
【Fターム(参考)】
4J005AA24
4J005BA00
4J005BB01
4J005BB02
4J030BA04
4J030BA09
4J030BA48
4J030BA49
4J030BB06
4J030BB14
4J030BC02
4J030BC08
4J030BC16
4J030BD22
4J030BF01
4J030BG06
4K021AA01
4K021DB31
4K021DB53
5G301CA30
5G301CD01
5G301CE01
5H126AA05
5H126BB06
5H126GG18
5H126JJ00
(57)【要約】 (修正有)
【課題】電解質として十分なプロトン伝導性を有するとともに、化学耐久性に優れるポリマーを提供すること。
【解決手段】下記式(1)で表される構造を有する、ポリマー。
[式(1)中、A
1は、式(a1)で表される構成単位を、A
2は、アリ-レン基が直鎖状に連結した構造単位を、L
1及びL
2は、独立して、単結合又は-SO
2-を示す。]
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される構造を有する、ポリマー。
【化1】
[式(1)中、
A
1は、下記式(a1)で表される構成単位を示し、
A
2は、下記式(a2)で表される構成単位を示し、
L
1及びL
2は、それぞれ独立して、単結合又は-SO
2-を示し、
nは、10~100の数を示し、
*は、結合手を示す。
複数のA
1は、互いに同一であり、
複数のA
2は、互いに同一であり、
複数のL
1は、互いに同一でも異なっていてもよく、
複数のL
2は、互いに同一でも異なっていてもよい。]
【化2】
[式(a1)中、
IExGは、イオン交換基を示し、
L
3は、単結合又は-SO
2-を示し、
xは、1~10の整数を示し、
*は、結合手を示す。
複数のIExGは、互いに同一でも異なっていてもよく、
複数のL
3は、互いに同一でも異なっていてもよい。]
【化3】
[式(a2)中、
Arは、イオン交換基を有しないアリーレン基を示し、
L
4は、単結合又は-SO
2-を示し、
yは、2~20の整数を示し、
*は、結合手を示す。
複数のArは、互いに同一でも異なっていてもよく、
複数のL
4は、互いに同一でも異なっていてもよい。]
【請求項2】
前記式(a1)で表される構成単位が、前記イオン交換基として、スルホン基、アルキルスルホン基及びスルホンイミド基からなる群より選択される少なくとも一種を含む、請求項1に記載のポリマー。
【請求項3】
前記式(a2)で表される構成単位が、前記アリーレン基として、フェニレン基、ナフチレン基及びフルオレン基からなる群より選択される少なくとも一種を含む、請求項1に記載のポリマー。
【請求項4】
数平均分子量が、20000~300000である、請求項1に記載のポリマー。
【請求項5】
スルフィド基を有する重合体の酸化物であって、
前記重合体が、下記式(b1)で表される化合物と下記式(b2)で表される化合物との重合体である、ポリマー。
【化4】
[式(b1)中、
IExGは、イオン交換基を示し、
L
5は、単結合、-S-又は-SO
2-を示し、
X
1b及びX
2bは、それぞれ独立して、ハロゲン原子を示し、
xは、1~10の整数を示す。
複数のIExGは、互いに同一でも異なっていてもよく、
複数のL
5は、互いに同一でも異なっていてもよい。]
【化5】
[式(b2)中、
Arは、イオン交換基を有しないアリーレン基を示し、
L
6は、単結合、-S-又は-SO
2-を示し、
Z
1b及びZ
2bは、それぞれ独立して、チオール基、ハロゲン原子、ボロン酸基、アルキルボラン基又はボロン酸エステル基を示し、
yは、2~20の整数を示す。
複数のArは、互いに同一でも異なっていてもよく、
複数のL
6は、互いに同一でも異なっていてもよい。]
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載のポリマーを含有する、電解質材料。
【請求項7】
請求項1~5のいずれか一項に記載のポリマーを含有する、電解質膜。
【請求項8】
請求項7に記載の電解質膜と、該電解質膜の一方面上又は両面上に配置された触媒層と、を備える、触媒層付き電解質膜。
【請求項9】
請求項7に記載の電解質膜と、該電解質膜の一方面上又は両面上に配置された電極層と、を備える、膜電極接合体。
【請求項10】
請求項9に記載の膜電極接合体を備える、固体高分子形燃料電池。
【請求項11】
請求項9に記載の膜電極接合体を備える、固体高分子形水電解装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリマー、電解質材料、電解質膜、触媒層付き電解質膜、膜電極接合体、固体高分子形燃料電池及び固体高分子形水電解装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境問題を背景にエネルギー効率の高い新エネルギー技術として燃料電池が脚光を浴びている。なかでも電解質にポリマー(高分子)材料を用いた固体高分子形燃料電池は、最大電流密度が高く、しかも低温で作動することから、自動車等の移動用動力源や携帯電子機器等の小容量電源に適しており、特に注目されている。
【0003】
固体高分子形燃料電池の電解質に使用されるポリマー(電解質ポリマー)としては、フッ素系ポリマーが知られている(例えば、特許文献1参照。)。フッ素系ポリマーは、高いプロトン伝導度及び優れた化学耐久性を有することから電解質用途で広く使用されているものの、コストが高く、環境負荷も大きいという問題がある。
【0004】
このような理由から、フッ素を用いない電解質ポリマーの開発も進められている。例えば、特許文献2には、イオン性基を含有するセグメント(A1)とイオン性基を含有しないセグメント(A2)をそれぞれ1個以上含有するブロック共重合体からなる高分子電解質膜に関する発明が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11-204119号公報
【特許文献2】国際公開第2013-031675号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献2に開示されるようなブロック共重合により得られる非フッ素系ポリマーは、必ずしも十分なプロトン伝導性を有しておらず、化学耐久性も十分ではなかった。
【0007】
本発明の一側面は、電解質として十分なプロトン伝導性を有するとともに、化学耐久性に優れるポリマーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、いくつかの側面において、下記[1]~[11]を提供する。
【0009】
[1]
下記式(1)で表される構造を有する、ポリマー。
【化1】
[式(1)中、
A
1は、下記式(a1)で表される構成単位を示し、
A
2は、下記式(a2)で表される構成単位を示し、
L
1及びL
2は、それぞれ独立して、単結合又は-SO
2-を示し、
nは、10~100の数を示し、
*は、結合手を示す。
複数のA
1は、互いに同一であり、
複数のA
2は、互いに同一であり、
複数のL
1は、互いに同一でも異なっていてもよく、
複数のL
2は、互いに同一でも異なっていてもよい。]
【化2】
[式(a1)中、
IExGは、イオン交換基を示し、
L
3は、単結合又は-SO
2-を示し、
xは、1~10の整数を示し、
*は、結合手を示す。
複数のIExGは、互いに同一でも異なっていてもよく、
複数のL
3は、互いに同一でも異なっていてもよい。]
【化3】
[式(a2)中、
Arは、イオン交換基を有しないアリーレン基を示し、
L
4は、単結合又は-SO
2-を示し、
yは、2~20の整数を示し、
*は、結合手を示す。
複数のArは、互いに同一でも異なっていてもよく、
複数のL
4は、互いに同一でも異なっていてもよい。]
【0010】
[2]
前記式(a1)で表される構成単位が、前記イオン交換基として、スルホン基、アルキルスルホン基及びスルホンイミド基からなる群より選択される少なくとも一種を含む、[1]に記載のポリマー。
【0011】
[3]
前記式(a2)で表される構成単位が、前記アリーレン基として、フェニレン基、ナフチレン基及びフルオレン基からなる群より選択される少なくとも一種を含む、[1]又は[2]に記載のポリマー。
【0012】
[4]
数平均分子量が、20000~300000である、[1]~[3]のいずれかに記載のポリマー。
【0013】
[5]
スルフィド基を有する重合体の酸化物であって、
前記重合体が、下記式(b1)で表される化合物と下記式(b2)で表される化合物との重合体である、ポリマー。
【化4】
[式(b1)中、
IExGは、イオン交換基を示し、
L
5は、単結合、-S-又は-SO
2-を示し、
X
1b及びX
2bは、それぞれ独立して、ハロゲン原子を示し、
xは、1~10の整数を示す。
複数のIExGは、互いに同一でも異なっていてもよく、
複数のL
5は、互いに同一でも異なっていてもよい。]
【化5】
[式(b2)中、
Arは、イオン交換基を有しないアリーレン基を示し、
L
6は、単結合、-S-又は-SO
2-を示し、
Z
1b及びZ
2bは、それぞれ独立して、チオール基、ハロゲン原子、ボロン酸基、アルキルボラン基又はボロン酸エステル基を示し、
yは、2~20の整数を示す。
複数のArは、互いに同一でも異なっていてもよく、
複数のL
6は、互いに同一でも異なっていてもよい。]
【0014】
[6]
[1]~[5]のいずれかに記載のポリマーを含有する、電解質材料。
【0015】
[7]
[1]~[5]のいずれかに記載のポリマーを含有する、電解質膜。
【0016】
[8]
[7]に記載の電解質膜と、該電解質膜の一方面上又は両面上に配置された触媒層と、を備える、触媒層付き電解質膜。
【0017】
[9]
[7]に記載の電解質膜と、該電解質膜の一方面上又は両面上に配置された電極層と、を備える、膜電極接合体。
【0018】
[10]
[9]に記載の膜電極接合体を備える、固体高分子形燃料電池。
【0019】
[11]
[9]に記載の膜電極接合体を備える、固体高分子形水電解装置。
【発明の効果】
【0020】
本発明の一側面によれば、電解質として十分なプロトン伝導性を有するとともに、化学耐久性に優れるポリマーを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の例示的な実施形態について説明する。ただし、本発明は下記実施形態に何ら限定されるものではない。なお、本明細書中、「~」を用いて示された数値範囲は、「~」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を示す。また、具体的に明示する場合を除き、「~」の前後に記載される数値の単位は同じである。また、個別に記載した上限値及び下限値は任意に組み合わせ可能である。
【0022】
<ポリマー>
一実施形態のポリマー(以下、「ポリマー(P-1)」ともいう。)は、下記式(1)で表される構造を有する。
【0023】
【0024】
式(1)中、A1は、下記式(a1)で表される構成単位(以下、「構成単位A1」ともいう。)を示し、A2は、下記式(a2)で表される構成単位(以下、「構成単位A2」ともいう。)を示し、L1及びL2は、それぞれ独立して、単結合又は-SO2-を示し、nは、10~100の数を示し、*は、結合手を示す。複数のA1は、互いに同一であり、複数のA2は、互いに同一であり、複数のL1は、互いに同一でも異なっていてもよく、複数のL2は、互いに同一でも異なっていてもよい。
【0025】
【0026】
式(a1)中、IExGは、イオン交換基を示し、L3は、単結合又は-SO2-を示し、xは、1~10の整数を示し、*は、結合手を示す。複数のIExGは、互いに同一でも異なっていてもよく、複数のL3は、互いに同一でも異なっていてもよい。
【0027】
【0028】
式(a2)中、Arは、イオン交換基を有しないアリーレン基を示し、L4は、単結合又は-SO2-を示し、yは、2~20の整数を示し、*は、結合手を示す。複数のArは、互いに同一でも異なっていてもよく、複数のL4は、互いに同一でも異なっていてもよい。
【0029】
他の一実施形態のポリマー(以下、「ポリマー(P-2)」ともいう。)は、スルフィド基(-S-)を有する重合体の酸化物であり、該重合体が下記式(b1)で表される化合物(以下、「化合物(b1)」ともいう。)と下記式(b2)で表される化合物(以下、「化合物(b2)」ともいう。)との重合体である。
【0030】
【0031】
式(b1)中、A1bは、IExG及びxは、前記と同義であり、L5は、単結合、-S-又は-SO2-を示し、X1b及びX2bは、それぞれ独立して、ハロゲン原子を示す。ハロゲン原子としては、例えば、フッ素原子(F)、塩素原子(Cl)、臭素原子(Br)及びヨウ素原子(I)が挙げられる。複数のIExGは、互いに同一でも異なっていてもよく、複数のL5は、互いに同一でも異なっていてもよい。
【0032】
【0033】
式(b2)中、Ar及びyは、前記と同義であり、L6は、単結合、-S-又は-SO2-を示し、Z1b及びZ2bは、それぞれ独立して、チオール基、ハロゲン原子、ボロン酸基、アルキルボラン基又はボロン酸エステル基を示す。ハロゲン原子としては、例えば、フッ素原子(F)、塩素原子(Cl)、臭素原子(Br)及びヨウ素原子(I)が挙げられる。アルキルボラン基としては、例えば、ジエチルボラン基、ジシアミルボラン基、ジシクロヘキシルボラン基、9-ボラビシクロ[3.3.1]ノナン基等が挙げられる。ボロン酸エステル基としては、例えば、ボロン酸ピナコールエステル基、ボロン酸-1,3-プロパンジオールエステル、ボロン酸ビスシクロヘキシルジオールエステル基、ボロン酸ネオペンチルグリコールエステル基、ボロン酸カテコールエステル基等が挙げられる。複数のArは、互いに同一でも異なっていてもよく、複数のL6は、互いに同一でも異なっていてもよい。
【0034】
化合物(b1)及び化合物(b2)は、それぞれ、下記式(b1-1)及び式(b2-1)により表すこともできる。
【0035】
【0036】
【0037】
式(b1-1)中のA1bは下記式(b1-2)で表される構成単位を示し、式(b2-1)中のA2bは下記式(b2-2)で表される構成単位を示す。なお、式(b1-2)及び式(b2-2)中の*は結合手を示す。
【0038】
【0039】
【0040】
ポリマー(P-1)及びポリマー(P-2)(以下、場合により「ポリマー(P)」と総称する。)は、いわゆる電解質ポリマーであり、電解質として十分なプロトン伝導性を有する。そのため、ポリマー(P)により形成される膜(ポリマー電解質膜)は、十分に高いプロトン伝導度を示す。ポリマー(P)が十分に高いプロトン伝導性を有する理由は、明らかではないが、互いに同一の複数の親水性の構成単位(例えば式(1)のA1、又は、式(b1)中のA1b由来の構成単位)と互いに同一の複数の疎水性の構成単位(例えば式(1)中のA2、又は、式(b2)中のA2b由来の構成単位)とが精密に配列しているため、イオン交換基が等間隔で並んでおり、該イオン交換基が高次構造で自己集積化してミクロ相分離構造を誘起していると推察され、これによってポリマー内に良好なプロトン伝導パスが形成されていると推察される。また、親水性の構成単位中に2つ以上のイオン交換基が密集して存在していることも相分離性の向上及びプロトン伝導性の向上に寄与していると推察される。上記効果は特に高湿環境下(例えば、80%RH以上の湿度下)で顕著である。
【0041】
ポリマー(P)は、化学耐久性に優れるという性質も有する。この理由は、明らかではないが、ベンゼン環の間を連結する基(例えば式(1)中のL1及びL2、式(a1)中のL3、式(a2)中のL4)の全て又は大部分が単結合又は-SO2-で構成されており、連結基の開裂が生じ難いためと推察される。
【0042】
ポリマー(P)は、膜としたときのガスバリア性にも優れる傾向がある。この理由は、以下のように推察される。ポリマー(P)は主鎖がベンゼン環を含むアリーレン基で構成されるため、水素及び酸素の溶解度が低く、かつ、セグメント運動が制限されて膜中の気体拡散も抑制されるため、膜としたときのガスバリア性に優れると考えられる。
【0043】
(ポリマー(P-1))
式(1)で表されるように、ポリマー(P-1)は、構成単位A1と構成単位A2とが、連結基(L1又はL2)を介して連続する繰り返し構造(式(1))中の[ ]内の構造)を有する。該構造の繰り返し数(n)は、10~100であり、15以上又は20以上であってもよく、80以下又は50以下であってもよい。繰り返し数(n)が15以上であるとガスバリア性に優れる傾向があり、繰り返し数(n)が50以下であると溶媒への溶解度と製膜性に優れる傾向がある。
【0044】
[構成単位A1]
構成単位A1は、イオン交換基(IExG)を有する芳香環が連結基(L3)を介して連続する構造を有する。
【0045】
イオン交換基は、イオン性基とも呼ばれ、イオン(例えばカチオン)を放出することによって他のイオンとのイオン交換が可能な性質を有している。イオン交換基としては、例えば、スルホン基、アルキルスルホン基、パーフルオロアルキルスルホン基、スルホンイミド基、ホスホン酸基、リン酸基、カルボキシ基等が挙げられる。なお、これらのイオン交換基には、塩となっているものも含まれる。例えば、「スルホン基」は、-SO3M1/q(Mは、H、又は、Li、Na、K、Rb、Cs、Mg、Ca、Sr、Ba、Ti、Al、Fe、Pt、Rh、Ru、Ir、Pd等の金属を示し、qはMの価数(例えば1~4の整数)を示す)で表される。Mで表される金属は、イオン(カチオン)として存在し、-SO3
-と塩を形成している。
【0046】
アルキルスルホン基は、例えば-R1SO3M1/qで表される。R1はアルカンジイル基であり、その炭素数は好ましくは1~12である。R1の具体例としては、メチレン基、ブタン-1,4-ジイル基、ヘキサン-1,6-ジイル基等が挙げられる。M及びqは前記と同義である。
【0047】
スルホンイミド基は、例えば-SO2NM1/qSO2R2で表される。R2はアルキル基であり、その炭素数は好ましくは1~6である。R2の具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基等が挙げられる。M及びqは前記と同義である。
【0048】
構成単位A1は、より優れたプロトン伝導性が得られる観点から、イオン交換基として、スルホン基、アルキルスルホン基及びスルホンイミド基からなる群より選択される少なくとも一種の基を含むことが好ましく、スルホン基を含むことがより好ましい。同様の観点から、構成単位A1中に複数存在するイオン交換基のうちの過半数が上記好ましい態様のものであることがさらに好ましく、構成単位A1中に複数存在するイオン交換基の全てが上記好ましい態様のものであることが特に好ましい。
【0049】
構成単位A1は、より優れたプロトン伝導性が得られる観点から、連結基(L3)として、-SO2-を含むことが好ましい。同様の観点から、構成単位A1中に複数存在する連結基(L3)のうちの過半数が上記好ましい態様のものであることがさらに好ましい。
【0050】
連結基(L3)の結合位置は特に限定されないが、イオン交換基に対してオルト位又はメタ位に位置することが好ましく、オルト位に位置することがより好ましい。すなわち、構成単位A1は、イオン交換基を有する1,4-フェニレン基を含むことが好ましい。なかでも、イオン交換基に対してオルト位に位置する連結基(L3)が-SO2-である場合、イオン交換基の脱離が抑制されやすくなり、さらに優れた化学耐久性が得られる傾向がある。
【0051】
構成単位A1における式(a1)中の[ ]内の構造の繰り返し数(x)は、より優れたプロトン伝導性が得られ、かつ、耐熱水性に優れる観点から、好ましくは2~8であり、より好ましくは3~5である。
【0052】
構成単位A1は、より優れたプロトン伝導性が得られる観点から、下記式(a1-1)で表される構造(以下、「構造(a1-1)」という。)、及び、下記式(a1-2)で表される構造(以下、「構造(a1-2)」という。)からなる群より選択される少なくとも一種の構造を含むことが好ましい。
【0053】
【0054】
【0055】
式(a1-1)及び式(a1-2)中のIExG及び*は、前記と同義である。複数のIExGは、互いに同一でも異なっていてもよい。式(a1-1)中のx1は、2~10の整数を示し、式(a1-2)中のx2は2~5の整数を示す。ただし、構成単位A1が構造(a1-1)と構造(a1-2)の両方を含む場合、x1と2x2の合計は2~10である。x1は、好ましくは2~5であり、より好ましくは2~3である。x2は、好ましくは2~3であり、より好ましくは2である。
【0056】
構成単位A1は、構造(a1-1)のみからなっていてもよく、構造(a1-1)と構造(a1-1)以外の構造とを含んでいてもよい。後者の場合、構造(a1-1)と構造(a1-1)以外の構造とは、連結基(L3)で連結されていてよい。同様に、構成単位A1は、構造(a1-2)のみからなっていてもよく、構造(a1-2)と構造(a1-2)以外の構造とを含んでいてもよい。後者の場合、構造(a1-2)と構造(a1-2)以外の構造とは、連結基(L3)で連結されていてよい。
【0057】
構成単位A1の具体例としては、下記式(A1-1)~式(A1-4)で表される構成単位が挙げられる。
【0058】
【0059】
式(A1-1)~式(A1-4)中のIExG及び*、並びに、式(A1-3)~式(A1-4)中のL3は、前記と同義である。複数のIExGは、互いに同一でも異なっていてもよく、複数のL3は、互いに同一でも異なっていてもよい。
【0060】
ポリマー(P-1)における構成単位A1は、より優れたプロトン伝導性が得られ、かつ、化学耐久性により優れる観点から、式(A1-1)~式(A1-4)で表される構成単位のいずれかであることが好ましく、式(A1-2)で表される構成単位であることがより好ましい。
【0061】
[構成単位A2]
構成単位A2は、イオン交換基を有しないアリーレン基(Ar)が連結基(L4)を介して連続する構造を有する。
【0062】
アリーレン基は2価の芳香族炭化水素基であり、芳香族炭化水素から水素原子2個を除いた構造を有する。アリーレン基が有する芳香環の数は、溶媒への溶解度と製膜性の観点から、好ましくは1~4個であり、より好ましくは1~2個であり、さらに好ましくは1個である。アリーレン基は、イオン交換基以外の置換基を有していてもよいが、置換基を有しないことが好ましい。
【0063】
アリーレン基の具体例としては、フェニレン基、ナフチレン基、フルオレン基、アントラシレン基、フェナントリレン基、トリフェニレン基、ピレニレン基、テトラセニレン基等が挙げられる。
【0064】
構成単位A2は、溶媒への溶解度と製膜性の観点から、アリーレン基として、フェニレン基、ナフチレン基及びフルオレン基からなる群より選択される少なくとも一種を含むことが好ましく、フェニレン基を含むことがより好ましく、1,4-フェニレン基を含むことがさらに好ましい。同様の観点から、構成単位A2中に複数存在するアリーレン基のうちの過半数が上記好ましい態様のものであることがさらに好ましく、構成単位A2中に複数存在するアリーレン基の全てが、それぞれ独立して、フェニレン基、ナフチレン基又はフルオレン基であることが特に好ましい。
【0065】
構成単位A2は、溶媒への溶解度と製膜性に優れ、かつ、製膜時の機械強度に優れる観点から、連結基(L4)として、-SO2-を含むことが好ましい。同様の観点から、構成単位A2中に複数存在する連結基(L4)のうちの過半数が上記好ましい態様のものであることがさらに好ましく、構成単位A2中に複数存在する連結基(L4)の全てが上記好ましい態様のものであってもよい。
【0066】
構成単位A2における式(a2)中の[ ]内の構造の繰り返し数(y)は、より優れたプロトン伝導性が得られ、かつ、耐熱水性に優れる観点から、好ましくは4~12であり、より好ましくは5~10である。
【0067】
構成単位A2における式(a2)中の[ ]内の構造の繰り返し数(y)は、より優れたプロトン伝導性と耐熱水性が両立できる観点から、式(a1)中の[ ]内の構造の繰り返し数(x)より2~7個多い数(x+(2~7))であることが好ましい。
【0068】
構成単位A2は、溶媒への溶解度と製膜性に優れ、かつ、製膜時の機械強度に優れる観点から、下記式(a2-1)で表される構造を含むことが好ましい。
【0069】
【0070】
式(a2-1)中のAr及び*は、前記と同義である。複数のArは、互いに同一でも異なっていてもよい。
【0071】
構成単位A2の具体例としては、下記式(A2)で表される構成単位が挙げられる。
【0072】
【0073】
式(A2)中のAr、L4及び*は、前記と同義であり、Qは、式(a2-1)で表される構造の基を示し、y1及びy2は、それぞれ独立して2~4の整数を示す。y1及びy2は、好ましくは2~3である。複数のArは、互いに同一でも異なっていてもよく、複数のL4は、互いに同一でも異なっていてもよい。
【0074】
[連結基]
ポリマー(P-1)は、より優れたプロトン伝導性とより優れた化学耐久性が得られる観点から、構成単位A1と構成単位A2との間の連結基(L1又はL2)として、-SO2-を含むことが好ましい。同様の観点から、ポリマー(P-1)中に複数存在する構成単位A1と構成単位A2との間の連結基(L1及びL2)のうちの過半数が上記好ましい態様のものであることがさらに好ましく、ポリマー(P-1)中に複数存在する構成単位A1と構成単位A2との間の連結基(L1及びL2)の全てが上記好ましい態様のものであることが特に好ましい。
【0075】
ポリマー(P-1)は、式(1)で表される構造と、該構造に結合する末端構造とで構成されてよい。ポリマー(P-1)は、例えば、下記式(1-1)~式(1-3)で表される化合物であってよい。
【0076】
【0077】
式(1-1)~(1-3)中のA1、A2、L1、L2及びnは、前記と同義である。ただし、式(1-1)及び式(1-2)においてZ2に結合するL2は単結合である。Z1及びZ2は、それぞれ独立して、チオール基、ハロゲン原子、ボロン酸基、アルキルボラン基又はボロン酸エステル基を示す。ハロゲン原子、アルキルボラン基及びボロン酸エステル基の例は、上述した、Z1b及びZ2bで表されるハロゲン原子、アルキルボラン基及びボロン酸エステル基の例と同じである。
【0078】
ポリマー(P-1)全体に占める式(1)で表される構造の割合は、より優れたプロトン伝導性が得られる観点から、80質量%以上であることが好ましい。同様の観点から、ポリマー(P-1)全体に占める式(1)で表される構造の割合は、85質量%以上又は90質量%以上であってもよい。ポリマー(P-1)全体に占める式(1)で表される構造の割合は、約100質量%(97質量%以上100質量%未満)であってもよい。
【0079】
ポリマー(P-1)は、フッ素原子を含んでいてもよいが、ポリマー(P-1)中のフッ素含有量は、5質量%以下であることが好ましく、ポリマー(P-1)がフッ素原子を含まない(フッ素含有量が検出限界以下である)ことが好ましい。
【0080】
ポリマー(P-1)の数平均分子量は、プロトン伝導度により優れる観点及び製膜時の機械強度に優れる観点では、20000以上、25000以上又は30000以上であってよく、溶媒への溶解度と製膜性に優れる観点では、300000以下、200000以下又は150000以下であってよい。これらの観点から、ポリマー(P-1)の数平均分子量は、20000~300000、25000~200000又は30000~150000であってよい。数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定される、標準ポリエチレングリコール/酸化物(PEG/PEO)換算値である。
【0081】
ポリマー(P-1)は、上記化合物(b1)と上記化合物(b2)との重合体を酸化することにより得ることができる。すなわち、ポリマー(P-1)とポリマー(P-2)は同一であり得る。
【0082】
(ポリマー(P-2))
ポリマー(P-2)は、スルフィド基を有する重合体(以下、「ポリマー(P-2’)」ともいう。)の酸化物である。
【0083】
ポリマー(P-2)は、例えば、式(1)で表される構造を有する(ただし、スルホニル基(-SO2-)を少なくとも一つ有する。)。ポリマー(P-2)は、好ましくは、下記式(2)で表される構造を有する。
【0084】
【0085】
式(2)中のA1、A2、n及び*は、前記と同義であり、その好ましい態様は、ポリマー(P-1)の場合と同じである。複数のA1は、互いに同一であり、複数のA2は、互いに同一である。
【0086】
ポリマー(P-2’)は、化合物(b1)と化合物(b2)との重合体であり、例えば、下記式(2’)で表される構造を有する。
【0087】
【0088】
式(2’)中のA1bで表される構成単位は、上記式(c1)に記載のとおりであり、L3に代えてL5を有する点を除き、その詳細(好ましい態様も含む)は構成単位A1と同じである。式(2’)中のA2bで表される構成単位は、上記式(c2)に記載のとおりであり、L4に代えてL6を有する点を除き、その詳細(好ましい態様も含む)は構成単位A2と同じである。式(2’)中のL1x及びL2xは、それぞれ独立して、単結合又は-S-を示す。式(2’)中のn及び*は、前記と同義であり、その好ましい態様は、ポリマー(P-1)の場合と同じである。複数のA1bは、互いに同一であり、複数のA2bは、互いに同一であり、複数のL1xは、互いに同一でも異なっていてもよく、複数のL2xは、互いに同一でも異なっていてもよい。ただし、A1b及びA2bが-S-を含まない場合、複数のL1x及び複数のL2xの少なくとも一つは-S-である。
【0089】
ポリマー(P-2’)の酸化方法は、特に限定されず、スルフィド基(-S-)を酸化させてスルホニル基(-SO2-)を得るための公知の方法であってよい。このような方法としては、例えば、ポリマー(P-2’)を、酢酸と、硫酸と、過酸化水素とを含む混合液中に浸漬させる方法が挙げられる。混合液中の酢酸の濃度は、例えば、50~90質量%であってよい。混合液中の硫酸の濃度は、例えば、5~25質量%であってよい。混合液中の過酸化水素の濃度は、例えば、1~15質量%であってよい。浸漬時間は、例えば、1~100時間であってよい。上記方法では、浸漬後に加熱を行ってもよい。加熱温度は、例えば、30~120℃であってよく、加熱時間は、例えば、0.1~24時間であってよい。これらの方法によれば、ポリマー(P-2’)における構成単位A1bと構成単位A2bとの間のスルフィド基(-S-)、及び、構成単位A1b及び構成単位A2bに連結基(L5、L6)として含まれ得るスルフィド基(-S-)の全て又は大部分が-SO2-に酸化され、ポリマー(P-2)が得られる。酸化の程度は、含浸時間、加熱温度、加熱時間等により調整可能である。
【0090】
ポリマー(P-2’)を得るための化合物(b1)としては、X1b及び/又はX2bが異なる複数種の化合物を使用することができる。同様に、化合物(b2)としては、Z1b及び/又はZ2bが異なる複数種の化合物を使用することができる。
【0091】
化合物(b1)と化合物(b2)との反応(重合)は、例えば、溶媒中、塩基存在下で芳香族求核置換反応により行うことができる。
【0092】
反応に用いる溶媒としては、化合物(b1)、化合物(b2)、及びポリマー(P-2’)にとって良溶媒であり、重合時にポリマー(P-2’)の高分子量化が可能なものが好適である。例えば、N-メチル-ピロリドン、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、ジフェニルスルホン、スルホラン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、テトラメチル尿素等が好ましく用いられる。これらの溶媒は単独でも2種以上の混合物として使用されてもよい。
【0093】
塩基は化合物(b2)の求核性を向上させるために用いられる。塩基としては化合物(b2)を脱プロトン化することができるものであれば、特に限定されるものではない。例えば、アルカリ金属(リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム)の水酸化物及び炭酸塩、アルカリ土類金属(マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム)の水酸化物及び炭酸塩、アミン類等の有機塩基などを用いることができる。
【0094】
反応温度は25℃~350℃の範囲であってよい。反応温度は、反応速度に優れる観点から60℃以上が好ましく、100℃以上がより好ましい。反応温度は、ポリマーの分解を抑制する観点から、300℃以下が好ましく、250℃以下がより好ましい。
【0095】
化合物(b1)と化合物(b2)とは、例えば、溶媒中、触媒存在下でクロスカップリング反応することにより反応(重合)させることもできる。反応に用いることができる溶媒の例は上記芳香族求核置換反応に用いることができる溶媒の例と同じである。
【0096】
触媒としてはクロスカップリング反応を進行できるものであれば特に制限はなく、従来公知のものを用いることができる。例えば、ハロゲン同士のカップリング反応であれば、銅触媒、ニッケル触媒、パラジウム触媒等を用いることができる。例えば、ハロゲンと、ボロン酸基、アルキルボラン基又はボロン酸エステル基とのカップリング反応であれば、鈴木宮浦カップリング反応に用いられる従来公知の触媒(パラジウム触媒、ニッケル触媒等)を用いることができる。
【0097】
銅触媒としては、例えば、2-チオフェンカルボン酸銅(I)、テトラキス(アセトニトリル)銅(I)ヘキサフルオロフォスファート等が挙げられる。
【0098】
ニッケル触媒としては、例えば、ビス(1,5-シクロオクタジエン)ニッケル(0)、ジブロモビス(トリフェニルホスフィン)ニッケル(II)、[1,1’-ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセン]ジクロロニッケル(II)等が挙げられる。
【0099】
パラジウム触媒としては、例えば、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)、酢酸パラジウム(II)、ビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(II)ジクロリド、[1,1’-ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセン]ジクロロパラジウム(II)、等が挙げられる。
【0100】
反応温度は0℃~350℃の範囲であってよい。反応温度は、反応速度に優れる観点から、30℃以上が好ましく、60℃以上がより好ましい。反応温度は、ポリマーの分解を抑制する観点から、300℃以下が好ましく、250℃以下がより好ましい。
【0101】
上記芳香族求核置換反応及びクロスカップリング反応では、ポリマー(P-2’)を高分子量化させるために、反応系中から水を除くことが好ましい。脱水の方法は特に限定されるものではないが、例えば、共沸溶媒を反応系中に共存させて共沸脱水させる方法、水の沸点以上に加熱して反応系外に連続的に除去する方法、モレキュラーシーブ等の吸水剤を共存させる方法などが使用できる。共沸溶媒は、水を除去することができるものであれば特に限定されるものではなく、例えば、ベンゼン、トルエン、シクロヘキサン、キシレン等が挙げられる。
【0102】
上記芳香族求核置換反応及びクロスカップリング反応は、不活性雰囲気下(窒素雰囲気下、アルゴン雰囲気下等)で実施することが好ましい。重合反応終了後は、反応液からポリマーを回収し、精製することで所望のポリマーを得ることができる。反応液からポリマーを回収する方法としては、例えば、ポリマーの溶解度が低い溶媒に反応液を加え、ポリマーを固体として析出させて回収する方法、反応液から蒸発によって溶媒を除去し、ポリマーを固体として回収する方法等が挙げられる。ポリマーを精製する方法としては、例えば、ポリマーの溶解度が低く、副生する無機塩や残留したモノマー由来の化合物の溶解度が高い溶媒中で洗浄する方法、ソックスレー抽出器を用いた洗浄方法等が挙げられる。ポリマーの回収、精製の方法はこれらの方法に限定されるものではない。
【0103】
ポリマー(P-2’)を中間体としてポリマー(P-2)を合成する上記方法では、親水性の構成単位(例えば構成単位A1)と疎水性の構成単位(例えば構成単位A2)とが交互に配列した構造(繰り返し構造)をポリマー全体にわたって形成することができる。そのため、上記方法によれば、式(2)における繰り返し数nを容易に10以上とすることができる。
【0104】
<電解質材料及び電解質膜>
一実施形態の電解質材料は、電解質を含有する材料であり、電解質として上記ポリマー(P)を含有する。一実施形態の電解質膜は、電解質を含有する膜であり、電解質として上記ポリマー(P)を含有する。上記電解質材料は、上記電解質膜の形成に用いられる。すなわち、上記電解質膜は、上記電解質材料からなっていてよい。
【0105】
電解質材料及び電解質膜は、ポリマー(P)を含有することから、プロトン伝導度に優れるとともに、化学耐久性に優れる。
【0106】
電解質材料及び電解質膜はまた、水に浸漬した状態(wet状態)でミクロ相分離構造を有し得る。具体的には、電解質膜を水に浸漬した状態で小角X線散乱(SAXS)測定を行ったとき、得られるピーク面間隔は4.0nm以上であり得る。
【0107】
電解質材料及び電解質膜はまた、真空乾燥状態(dry状態)でミクロ相分離構造を有し得る。具体的には、電解質膜を真空乾燥させた状態で小角X線散乱(SAXS)測定を行ったとき、得られるピーク面間隔は2.5nm以上であり得る。
【0108】
電解質材料及び電解質膜は、ポリマー(P)のみ(例えばポリマー(P-1)のみ又はポリマー(P-2)のみ)からなっていてよく、ポリマー(P)とポリマー(P)以外の成分(添加剤等)とを含有していてもよい。すなわち、電解質材料は組成物であってもよい。電解質材料及び電解質膜中のポリマー(P)の含有量は、90~100質量%であってよく、94~100質量%又は97~100質量%であってもよい。上記含有量は、電解質材料又は電解質膜の固形分全量を基準とする含有量である。
【0109】
電解質材料及び電解質膜に含まれ得るポリマー(P)以外の成分としては、水、シリカ等の保水性無機物質、酸化セリウム、酸化マンガン等のラジカル消去剤などが挙げられる。
【0110】
電解質膜の厚さは、特に限定されず、燃料電池のサイズ等に応じて変更可能である。電解質膜の厚さは、膜の機械強度を高めつつ、膜抵抗を低減する観点から、例えば1~200μmであってよく、1~100μm又は1~50μmであってもよい。
【0111】
電解質膜の製造方法は、特に制限はなく、電解質ポリマーを製膜する方法として公知の方法により製造することができる。電解質膜の製造方法としては、例えば、溶液キャスト法、分散液キャスト法、溶融プレス法、溶融押し出し法等が挙げられる。
【0112】
溶液キャスト法では、例えば、電解質材料としてポリマー(P)を含有する溶液を用い、該溶液を基材上に流延塗布した後、溶媒を除去し、次いで基材から膜を剥離することにより、電解質膜を得ることができる。
【0113】
溶液キャスト法で使用する溶媒としては、ポリマー(P)を溶解可能な溶媒であれば特に限定されず、例えば、N-メチル-ピロリドン、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、ジフェニルスルホン、スルホラン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、テトラメチル尿素等を使用できる。これらは一種を単独で用いてよく、複数種を組み合わせて用いることもできる。
【0114】
分散液キャスト法では、例えば、電解質材料としてポリマー(P)を含有する分散液を用い、該分散液を基材上に流延塗布した後、分散媒を除去し、次いで基材から膜を剥離することにより、電解質膜を得ることができる。
【0115】
分散液キャスト法で使用する分散媒としては、ポリマー(P)を分散可能な分散媒であれば特に限定されず、例えば、水、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル等のエーテル類、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール等のアルコール類、アセトン、シクロヘキサノン等のケトン類、アセトニトリル、ニトロメタン、トルエン、キシレン、クロロベンゼン、クロロホルムなどを使用できる。これらは一種を単独で用いてよく、複数種を組み合わせて用いることもできる。
【0116】
電解質材料及び電解質膜は、固体高分子形燃料電池用、及び、固体高分子形水電解装置用に好適に用いられる。電解質材料及び電解質膜は、レドックスフロー電池、電気化学式水素ポンプ、クロルアルカリ電解装置、固体酸触媒、膜式湿度制御装置、ガス分離膜等にも用いることができる。
【0117】
電解質膜は、微多孔膜、不織布、メッシュ等と貼り合わせて用いることもできる。すなわち、本発明の他の一実施形態は、電解質膜と、他の膜(微多孔膜、不織布、メッシュ等)とを備える積層体である。
【0118】
<触媒層付き電解質膜>
一実施形態の触媒層付き電解質膜は、上記実施形態の電解質膜と、該電解質膜の一方面上又は両面上に配置された触媒層と、を備える。
【0119】
触媒層は、例えば、固体高分子形燃料電池、固体高分子形水電解装置等のアノード触媒又はカソード触媒で構成される層である。以下では、アノード触媒で構成される層をアノード触媒層といい、カソード触媒で構成される層をカソード触媒層という。
【0120】
触媒層の構成は特に限定されず、固体高分子形燃料電池や固体高分子形水電解装置の触媒層(アノード触媒層、カソード触媒層)として、従来公知の構成であり得る。触媒層は、例えば、アノード触媒又はカソード触媒と導電材とを含む導電性組成物で形成されていてよい。触媒層はアイオノマを含んでもよい。
【0121】
固体高分子形燃料電池におけるアノード触媒としては、水素等の燃料の酸化反応を促進することができる金属触媒、固体高分子形水電解装置におけるアノード触媒としては、酸素発生反応を促進することができる金属触媒を用いることができ、例えば、白金、金、銀、パラジウム、イリジウム、ロジウム、ルテニウム、鉄、コバルト、ニッケル、クロム、タングステン、マンガン及びバナジウム、並びにそれらの2種以上の合金等を用いることができる。これらは一種を単独で用いてよく、二種以上を混合して用いてもよい。
【0122】
固体高分子形燃料電池におけるカソード触媒としては、酸素の還元反応を促進することができる金属触媒、固体高分子形水電解装置におけるカソード触媒としては、水素発生反応を促進することができる金属触媒を用いることができ、例えば、白金、金、銀、パラジウム、イリジウム、ロジウム、ルテニウム、鉄、コバルト、ニッケル、クロム、タングステン、マンガン及びバナジウム、並びに、それらの2種以上の合金等を用いることができる。これらは一種を単独で用いてよく、二種以上を混合して用いてもよい。
【0123】
導電材としては、例えば、ファーネスブラック、ケッチェンブラック、チャンネルブラック及びアセチレンブラック等のカーボンブラック類、活性炭、黒鉛などを用いることができる。これらは一種を単独で用いてよく、二種以上を混合して用いてもよい。
【0124】
アイオノマとしては、従来公知の材料を用いることができ、例えば、パーフルオロ系電解質を含むアイオノマを用いることができる。また、アイオノマとして上記ポリマー(P)を用いることもできる。アイオノマとしては、酸素透過性が高い材料を用いることが好ましい。触媒層中のアイオノマの添加量に特に制限はないが、酸素拡散が阻害されにくい範囲で添加量を調整することが好ましい。
【0125】
触媒層には、添加剤として、フッ素化カーボン等の撥水剤や、含フッ素樹脂、スルホン基を有する炭化水素系樹脂等の結着剤などがさらに含有されていてもよい。
【0126】
電解質膜の両面にアノード触媒層とカソード触媒層とをそれぞれ備える積層体(例えば「アノード触媒層/電解質膜/カソード触媒層」の層構成のもの)は、CCM(Catalyst Coated Membrane)とも呼ばれ、固体高分子形燃料電池及び固体高分子形水電解装置に好適に用いられる。
【0127】
上記実施形態では、電解質膜に代えて、上述した他の膜(微多孔膜、不織布、メッシュ等)を備える積層体を用いることもできる。
【0128】
<膜電極接合体>
一実施形態の膜電極接合体は、上記実施形態の電解質膜と、該電解質膜の一方面上又は両面上に配置された電極層と、を備える。
【0129】
電極層は、例えば、上記実施形態の触媒層付き電解質膜における触媒層(アノード触媒層又はカソード触媒層)を備える。以下では、アノード触媒層を備える電極層をアノード層といい、カソード触媒層を備える電極層をカソード層という。
【0130】
電極層の構成は特に限定されず、固体高分子形燃料電池や固体高分子形水電解装置の電極層(アノード層、カソード層)として、従来公知の構成であり得る。電極層は、例えば、上記触媒層(アノード触媒層又はカソード触媒層)と、ガス拡散基材と、で構成されていてよい。触媒層自体がガス拡散性を有する場合は、電極層が触媒層のみで構成されていてもよい。ガス拡散基材としては、例えば、多孔質膜を使用することができる。ガス拡散基材としては、ガス拡散性に加えて、撥水性及び導電性を有するもの(例えば、カーボン不織布、カーボンペーパー等の炭素繊維基材、チタン繊維焼結体)を用いることもできる。
【0131】
電解質膜の両面に電極層としてアノード層及びカソード層をそれぞれ備える積層体(例えば、「ガス拡散基材/アノード触媒層/電解質膜/カソード触媒層/ガス拡散基材」の層構成のもの)は、MEA(Membrane Electrode Assembly)とも呼ばれ、固体高分子形燃料電池及び固体高分子形水電解装置に好適に用いられる。
【0132】
上記実施形態では、電解質膜に代えて、上述した他の膜(微多孔膜、不織布、メッシュ等)を備える積層体を用いることもできる。
【0133】
<固体高分子形燃料電池>
一実施形態の固体高分子形燃料電池は、上記実施形態の膜電極接合体を備える。
【0134】
固体高分子形燃料電池の構成は特に限定されず、上記実施形態の膜電極接合体を用いる点を除き、従来公知の構成であり得る。固体高分子形燃料電池は、例えば、膜電極接合体を2つ以上備えていてもよい。2つ以上の膜電極接合体は、セパレータを介してスタック(積層)されていてよい。セパレータとしては、固体高分子形燃料電池用のセパレータとして従来公知のものを使用することができる。
【0135】
<固体高分子形水電解装置>
一実施形態の固体高分子形水電解装置は、上記実施形態の膜電極接合体を備える。
【0136】
固体高分子形水電解装置の構成は特に限定されず、上記実施形態の膜電極接合体を用いる点を除き、従来公知の構成であり得る。固体高分子形水電解装置は、例えば、膜電極接合体の外側に給電体をさらに備えるものであってよい。また、膜電極接合体を2つ以上備えていてもよい。
【実施例0137】
以下、本発明の内容を実施例及び比較例を用いてより詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0138】
<合成例1>
(親水性モノマー(M1)の合成)
滴下ロート、還流冷却管、メカニカルスターラーを備えた10Lフラスコを窒素置換し、4,4’-ビス[(4-クロロフェニル)スルホニル]-1,1’-ビフェニル101g、脱水テトラヒドロフラン4Lを仕込み、撹拌を開始した。メタノール-ドライアイスバスで-70℃まで冷却し、2.6mol/Lのノルマルブチルリチウム-ヘキサン溶液320mLを滴下して加えた。バスで冷却したまま1時間撹拌した。亜硫酸ガス40mLを窒素ガスでフラスコ内に導入した。30分間バスで冷却したまま撹拌した。その後、バスを外して内温0℃まで昇温した。析出した固体を吸引ろ過で濾別し、テトラヒドロフラン200mLでかけ洗いした。回収した固体を純水に2Lに溶解し、35%過酸化水素水260mLを加えて、18時間撹拌した。吸引ろ過で固体を除き、回収した濾液に塩化ナトリウム600gを加えた。析出した白色固体を吸引ろ過で回収し、水/イソプロピルアルコールから再結晶することで精製した。得られた固体を減圧乾燥し、下記式(M1)で表される親水性モノマーを得た。収率は65%であった。
【0139】
【0140】
<合成例2>
(疎水性モノマー(M2)の合成)
撹拌子、ディーンスターク管、還流冷却器、塩化カルシウム管を備えた200mLフラスコに、4,4’-ビス[(4-クロロフェニル)スルホニル]-1,1’-ビフェニル4.0g、[1,1’-ビフェニル]-4,4’-ジオール14.8g、炭酸カリウム13.2gを仕込み、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)50mL、トルエン50mLを加えた。撹拌しながらオイルバスで160℃に昇温し、4時間加熱撹拌を続けた。ディーンスターク管からトルエンを抜き出し、オイルバスで180℃まで昇温した。昇温後、8時間加熱撹拌を続けた。反応液を室温まで放冷した後、10%塩酸200mLに反応液を注ぎ、析出した白色固体を濾別した。濾別固体をエタノール300mLで洗浄し、乾燥した。乾燥固体をNMP/エタノールから再結晶することで精製した。得られた固体を減圧乾燥し、下記式(M2)で表される疎水性モノマー(M2)を得た。収率は50%であった。
【0141】
【0142】
<合成例3>
(疎水性モノマー(M3)の合成)
撹拌子、冷却管を備えた500mLフラスコを窒素置換した。このフラスコに、4,4’-チオビスベンゼンチオール41g、4,4’-ビス[(4-クロロフェニル)スルホニル]-1,1’-ビフェニル14g、DMAc80mL、炭酸カリウム4gを加えた。撹拌しながらオイルバスで100℃に昇温し、6時間加熱撹拌を続けた。反応液を放冷後、1M塩酸100mLを加え、析出した固体を吸引ろ過で回収した。回収した固体をジクロロメタンに溶解し、ジクロロメタンを展開溶媒としてシリカカラムクロマトグラフィーで精製した。目的物が含まれるフラクションを回収し、エバポレーターで溶媒を留去した。得られた固体をジクロロメタンから再結晶することで精製した。得られた固体を減圧乾燥し、下記式(M3)で表される疎水性モノマー(M3)を得た。収率は40%であった。
【0143】
【0144】
<実施例1>
(ポリマー(P1)の合成)
窒素導入管、かき混ぜ機、ディーンスターク管を備えた100mL三口フラスコに、合成例3で得た疎水性モノマー(M3)2.711g、合成例1で得た親水性モノマー(M1)2.664g、炭酸カリウム1.352gを添加し、窒素置換を行った。その後、DMSO25mL、シクロヘキサン25mLを添加した。130℃に加熱して還流脱水を4時間した後、シクロヘキサンをディーンスターク管から抜き出した。140℃に加熱し、260時間重合を行った。反応液を室温まで放冷後、500mLのイソプロピルアルコール(IPA)から再沈殿精製を行い、吸引ろ過で固体を回収した。回収した固体を水で洗浄し、減圧乾燥することにより下記式(P1)で表される構造を有するポリマー(P1)を得た。収率は88%であった。なお、式(P1)中のnは後述する数平均分子量から算出した。後述の式(P2)~式(P3)中のnも同様である。
【0145】
【化26】
[式(P1)において、MはNa、K又はHを示し、nは正の数(約20)を示す。]
【0146】
(分子量測定)
下記条件でポリマー(P1)の数平均分子量を測定した。数平均分子量は33000であった。
[測定条件]
数平均分子量をGPCにより測定した。ポリマー(P1)を濃度1mg/mLで溶離液(臭化リチウムを10mmol/L含有するN,N-ジメチルホルムアミド溶媒)に溶解し試料溶液とした。装置として東ソー社製のHLC-8320GPCを用いた。カラムには東ソー社製のTSKgel SuperAWM-H(内径6.0mm、長さ15cm)を2本用いた。検出器には示差屈折計検出器を用いた。流速は0.6mL/min、温度は40℃で測定した。標準ポリエチレングリコール/酸化物(PEG/PEO)換算により数平均分子量を求めた。
【0147】
(ポリマー(P2)の合成及び電解質膜の作製)
得られたポリマー(P1)をDMSOに溶解し、ポリマー(P1)を10質量%含む溶液を得た。得られた溶液をガラス基板上に流延塗布し、60℃で12時間乾燥して膜(膜厚37μm)を得た。得られた膜を、酢酸80mL、硫酸8mL、過酸化水素7mLからなる混合液に浸漬し、30℃で48時間撹拌した。その後、105℃で10分間加熱撹拌した。得られた膜を純水中に浸漬して十分に洗浄し、減圧乾燥することにより下記式(P2)で表される構造を有するポリマー(P2)からなる膜(膜厚37μm)を得た。上記と同様にして測定したポリマー(P2)の数平均分子量は、37000であった。酸化反応前後のポリマー膜の赤外吸収スペクトルを測定したところ、1570cm-1及び1470cm-1の吸収ピークが酸化後に完全に消失し、1330cm-1の吸収ピーク強度が増大した。1570cm-1及び1470cm-1の吸収ピークは-S-結合のついたベンゼン環の環伸縮振動に由来し、1330cm-1の吸収ピークは-SO2-結合の伸縮振動に由来するため、酸化反応によって全ての-S-結合が-SO2-結合に酸化されたことが確認された。
【0148】
【化27】
[式(P2)において、MはNa、K又はHを示し、nは正の数(約20)を示す。]
【0149】
得られた膜を1Mの塩酸に24時間浸漬して金属イオン(Na+又はK+)をプロトン(H+)に置換した後に、純水中に浸漬して十分に洗浄し、減圧乾燥することで、実施例1のポリマー電解質膜(プロトン置換されたポリマー(P2)からなる電解質膜)を得た。
【0150】
(評価)
[プロトン伝導度評価]
得られたポリマー電解質膜のプロトン伝導度を下記の方法で測定した。
テフロン(登録商標)製の測定セル(Scribner社製、BT-115)を用い、作製した電解質膜を4本の白金線に接触させてセル内に設置した。相対湿度70%で2時間保持した後、相対湿度20%から湿度を上昇させ、設定湿度に保持した状態で、4端子法によるDC抵抗測定を行った。得られた抵抗値とポリマー電解質膜の膜厚と端子間距離とから電解質膜の面方向のプロトン伝導度を算出した。本実施例のポリマー電解質膜のプロトン伝導度は、172mS/cm(80℃相対湿度100%)であった。
【0151】
[化学耐久性評価]
得られたポリマー電解質膜の化学耐久性をフェントン試験で評価した。フェントン試験は下記の条件で実施した。
縦1cm×横3cmのポリマー電解質膜を用意し、フェントン試験前の質量及びプロトン伝導度を測定した。プロトン伝導度の測定は上記と同様にして行った。該ポリマー電解質膜を50mLのフェントン溶液(2ppmの硫酸鉄(II)を含む3%過酸化水素水溶液)中に入れて、80℃で1時間浸漬し、フェントン試験を実施した。フェントン試験後のポリマー電解質膜を乾燥し、質量及びプロトン伝導度を測定した。フェントン試験前後の値から、質量及びプロトン伝導度の維持率を算出した。本実施例のポリマー電解質膜の質量維持率及びプロトン伝導度維持率はともに100%であった。
【0152】
[ガス透過性試験]
得られたポリマー電解質膜のガス透過性を、等圧法によるガス透過度試験方法(JIS K 7126-2)にしたがって評価した。
具体的には、まず、ポリマー電解質膜を、透過セルの二つのチャンバ間に密封シールするような状態で装着した。ポリマー電解質膜の一方面側に測定ガスである水素を、他方面側にキャリアガスとしてArガスを供給した。相対湿度は各供給ガスの加湿器温度とセル温度で調整した。ポリマー電解質膜を透過した測定ガスを、キャリアガスとともにガスクロマトグラフに供給することで、検出データと流量からガス透過度を測定し、得られたガス透過度とポリマー電解質膜の膜厚から、ガス透過率(cm3・mm/(cm2・s・kPa)を算出した。本実施例のポリマー電解質膜の水素ガス透過率は、0.11×10-7cm3・mm/(cm2・s・kPa)(80℃相対湿度60%)であった。
【0153】
[小角X線散乱(SAXS)測定]
以下の条件に従って、dry状態(真空引き下)及びwet状態(水浸漬下)で、ポリマー電解質膜の小角X線散乱(SAXS)測定を実施した。
装置名:ブルカー・ジャパン製 NanoSTAR
電圧・電流:45kV・120mA
X線波長:Cu Kα線
カメラ長:104.3cm
露光時間:60分(dry状態)、180分(wet状態)
【0154】
得られた小角散乱プロファイルについて、ピークトップ位置qmaxより、面間隔d(=2π/qmax)を算出した。dry状態での面間隔dは3.9nmであり、wet状態での面間隔dは5.2nmであった。このことから、本実施例のポリマー電解質膜がdry状態及びwet状態でミクロ相分離構造を有することが確認された。
【0155】
<比較例1>
(ポリマー(P3)の合成)
窒素導入管、かき混ぜ機、ディーンスターク管を備えた100mL三口フラスコに、合成例2で得た疎水性モノマー(M2)0.983g、合成例1で得た親水性モノマー(M1)1.181g、炭酸カリウム0.507gを添加し、窒素置換を行った。その後、ジメチルスルホキシド(DMSO)10mL、シクロヘキサン10mLを添加した。130℃に加熱して還流脱水を4時間した後、シクロヘキサンをディーンスターク管から抜き出した。130℃に加熱したまま150時間重合を行った。反応液を室温まで放冷後、300mLのイソプロピルアルコール(IPA)から再沈殿精製を行い、吸引ろ過で固体を回収した。回収した固体を水で洗浄し、減圧乾燥することにより下記式(P3)で表される構造を有するポリマー(P3)を得た。収率は97%であった。実施例1と同様にして測定したポリマー(P3)の数平均分子量は、30000であった。
【化28】
[式(P3)において、MはNa、K又はHを示し、nは正の数(約20)を示す。]
【0156】
(電解質膜の作製)
得られたポリマー(P3)をDMSOに溶解し、ポリマー(P3)を10質量%含む溶液を得た。得られた溶液をガラス基板上に流延塗布し、60℃で12時間乾燥して膜(膜厚49μm)を得た。得られた膜を1Mの塩酸に24時間浸漬して金属イオン(Na+又はK+)をプロトン(H+)に置換した後に、純水中に浸漬して十分に洗浄し、減圧乾燥することで、比較例1のポリマー電解質膜(プロトン置換されたポリマー(P3)からなる電解質膜)を得た。
【0157】
(評価)
本比較例のポリマー電解質膜について実施例1と同様の手法で各種評価(プロトン伝導度評価、化学耐久性評価、水素ガス透過性試験、及び、SAXS測定)を行った。プロトン伝導度は、231mS/cm(80℃相対湿度100%)であった。フェントン試験では、試験中にポリマー電解質膜が完全に溶解し、膜形状を保持できなかったため、質量維持率及びプロトン伝導度維持率はともに0%となった。水素ガス透過率は、0.15×10-7cm3・mm/(cm2・s・kPa)(80℃相対湿度60%)であった。SAXS測定によるdry状態及びwet状態での面間隔dはそれぞれ3.6nm及び5.5nmであった。
【0158】
<比較例2>
(電解質膜の作製)
ポリマー(P3)に代えて実施例1で得られたポリマー(P1)を用いたこと以外は、比較例1と同様の手法により、比較例2のポリマー電解質膜(プロトン置換されたポリマー(P1)からなる電解質膜)を得た。電解質膜の膜厚は37μmとした。
【0159】
(評価)
本比較例のポリマー電解質膜について実施例1と同様の手法で各種評価(プロトン伝導度評価、化学耐久性評価、水素ガス透過性試験、及び、SAXS測定)を行った。プロトン伝導度は、185mS/cm(80℃相対湿度100%)であった。フェントン試験では、試験中にポリマー電解質膜が完全に溶解し、膜形状を保持できなかったため、質量維持率及びプロトン伝導度維持率はともに0%となった。水素ガス透過率は、0.14×10-7cm3・mm/(cm2・s・kPa)(80℃相対湿度60%)であった。SAXS測定によるdry状態及びwet状態での面間隔dはそれぞれ3.9nm及び5.4nmであった。
【0160】
<比較例3>
比較例3では、評価サンプルとして市販のNafionTM NR211を用い、実施例1と同様の手法で各種評価(プロトン伝導度評価、化学耐久性評価、水素ガス透過性試験、及び、SAXS測定)を行った。プロトン伝導度は、130mS/cm(80℃相対湿度100%)であった。フェントン試験での質量維持率及びプロトン伝導度維持率は100%であった。水素ガス透過率は、1.03×10-7cm3・mm/(cm2・s・kPa)(80℃相対湿度60%)であった。SAXS測定によるdry状態及びwet状態での面間隔dはそれぞれ3.3nm及び5.3nmであった。
【0161】