(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024142844
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】ガス分析装置およびガス分析方法
(51)【国際特許分類】
G01N 21/39 20060101AFI20241003BHJP
【FI】
G01N21/39
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023055198
(22)【出願日】2023-03-30
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 集会名:秋田県立大学 学生パネル発表プログラム、開催日(発表日):令和5年2月22日
(71)【出願人】
【識別番号】306024148
【氏名又は名称】公立大学法人秋田県立大学
(71)【出願人】
【識別番号】504261077
【氏名又は名称】大学共同利用機関法人自然科学研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 満
(74)【代理人】
【識別番号】100132883
【弁理士】
【氏名又は名称】森川 泰司
(74)【代理人】
【識別番号】100181593
【弁理士】
【氏名又は名称】庄野 寿晃
(74)【代理人】
【識別番号】100165489
【弁理士】
【氏名又は名称】榊原 靖
(72)【発明者】
【氏名】合谷 賢治
(72)【発明者】
【氏名】加藤 翔
(72)【発明者】
【氏名】上原 日和
【テーマコード(参考)】
2G059
【Fターム(参考)】
2G059AA01
2G059BB01
2G059CC04
2G059CC05
2G059DD12
2G059EE01
2G059EE12
2G059GG01
2G059GG09
2G059HH01
2G059KK01
2G059MM04
2G059MM05
(57)【要約】
【課題】単純な構造で高感度な計測が可能なガス分析装置およびガス分析方法を提供する。
【解決手段】ガス分析装置1は、ガスGを導入するガスセル10と、ガスセル10にレーザ光を照射する照射部20と、ガスセル10を通過したレーザ光を検出する検出部30と、照射部20が照射したレーザ光の強度と、検出部30が検出したレーザ光の強度とに基づいて、ガスGに含まれる測定対象の成分の濃度を検出するガス検出部112と、を備える。照射部20は、レーザ光の波長を可変でき、且つ、測定対象の成分の吸収スペクトルよりもスペトル線幅が狭い単一波長のレーザ光を照射する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガスを導入するガスセルと、
前記ガスセルにレーザ光を照射する照射部と、
前記ガスセルを通過した前記レーザ光を検出する検出部と、
前記照射部が照射した前記レーザ光の強度と、前記検出部が検出した前記レーザ光の強度とに基づいて、前記ガスに含まれる測定対象の成分の濃度を計測するガス検出部と、
を備え、
前記照射部は、前記レーザ光の波長を可変でき、且つ、測定対象の前記成分の吸収スペクトルよりもスペトル線幅が狭い単一波長の前記レーザ光を照射する、
ことを特徴とするガス分析装置。
【請求項2】
前記照射部から照射される前記レーザ光の半値全幅Δλは、測定対象の前記成分の吸収スペクトルの半値全幅に対して、5分の1以下である、
ことを特徴とする請求項1に記載のガス分析装置。
【請求項3】
前記照射部は、測定対象の前記成分の想定される濃度に対して、透過光量が測定限界以下にならない波長の前記レーザ光を照射する、
ことを特徴とする請求項1または2に記載のガス分析装置。
【請求項4】
前記照射部により測定対象の前記成分のピーク波長の前記レーザ光が照射され、前記検出部で検出された前記レーザ光の強度が測定限界以下である場合、前記照射部は、前記ピーク波長から離れた波長の前記レーザ光を照射する、
ことを特徴とする請求項1または2に記載のガス分析装置。
【請求項5】
前記照射部は、測定対象の前記成分の吸収スペクトルを含む波長範囲において前記レーザ光をスキャンしながら照射し、
前記ガス検出部は、前記検出部により検出された前記レーザ光の強度を示すデータを取得し、測定対象の前記成分の透過スペクトルを得、該透過スペクトルに基づいて、透過率が基準透過率以下の波長範囲を計測し、予め記憶した、透過率が前記基準透過率以下の波長範囲と濃度との関係を示すデータを参照して、前記透過スペクトルから得られた透過率が前記基準透過率以下の波長範囲に対応する濃度を算出する、
ことを特徴とする請求項1または2に記載のガス分析装置。
【請求項6】
前記照射部は、量子カスケードレーザを含む、
ことを特徴とする請求項1または2に記載のガス分析装置。
【請求項7】
ガスを導入するガスセルと、
前記ガスセルにレーザ光を照射する照射部と、
前記ガスセルを通過した前記レーザ光を検出する検出部と、
を備え、
前記照射部は、前記レーザ光の波長を可変でき、且つ、測定対象の成分の吸収スペクトルよりもスペトル線幅が狭い単一波長の前記レーザ光を照射する、
ガス分析装置を用い、
前記照射部が照射した前記レーザ光の強度と、前記検出部が検出した前記レーザ光の強度とに基づいて、前記ガスに含まれる測定対象の前記成分の濃度を計測する、
ことを特徴とするガス分析方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガス分析装置およびガス分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
試料ガスに光を照射し、照射された光のエネルギーの一部が試料ガスに吸収されることを利用して分析を行うガス分析装置が知られている。
【0003】
特許文献1は、一方の面に開口する凹部を有する板状のベースと、ベースの、凹部が開口する側に設けられた窓と、投光部および受光部を有する光学部と、ベースと窓との間に設けられ、厚みが制御可能な光路長制御部と、を備えるガス分析装置を開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に開示されたガス分析装置は、光路長を制御するための駆動部として光路長制御部を備える。この光路長制御部は、光を共振させることにより、高感度な計測を可能とするために、光路長を波長の整数倍で制御する必要があり、ベースと窓との間の距離をナノメートルオーダで調整する必要が生じる。このため、光路長制御部に機械的な駆動機構が必要となり、構造が複雑である。
【0006】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、単純な構造で高感度な計測が可能なガス分析装置およびガス分析方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の目的を達成するため、本発明に係るガス分析装置の一態様は、
ガスを導入するガスセルと、
前記ガスセルにレーザ光を照射する照射部と、
前記ガスセルを通過した前記レーザ光を検出する検出部と、
前記照射部が照射した前記レーザ光の強度と、前記検出部が検出した前記レーザ光の強度とに基づいて、前記ガスに含まれる測定対象の成分の濃度を計測するガス検出部と、
を備え、
前記照射部は、前記レーザ光の波長を可変でき、且つ、測定対象の前記成分の吸収スペクトルよりもスペトル線幅が狭い単一波長の前記レーザ光を照射する、
ことを特徴とする。
【0008】
本発明の目的を達成するため、本発明に係るガス分析方法の一態様は、
ガスを導入するガスセルと、
前記ガスセルにレーザ光を照射する照射部と、
前記ガスセルを通過した前記レーザ光を検出する検出部と、
を備え、
前記照射部は、前記レーザ光の波長を可変でき、且つ、測定対象の成分の吸収スペクトルよりもスペトル線幅が狭い単一波長の前記レーザ光を照射する、
ガス分析装置を用い、
前記照射部が照射した前記レーザ光の強度と、前記検出部が検出した前記レーザ光の強度とに基づいて、前記ガスに含まれる測定対象の前記成分の濃度を計測する、
ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、単純な構造で高感度な計測が可能なガス分析装置およびガス分析方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の第1の実施の形態に係るガス分析装置を示す図である。
【
図2】本発明の第1の実施の形態に係る照射部を示す図である。
【
図3】本発明の第1の実施の形態に係るレーザ光の半値全幅を説明する図である。
【
図4】本発明の第1の実施の形態に係るガス分析装置を示すブロック図である。
【
図5】本発明の第1の実施の形態に係る吸光度DBを示す図である。
【
図6】本発明の第1の実施の形態に係る基準濃度での吸収スペクトルを示す図である。
【
図7】本発明の第1の実施の形態に係るガス分析処理1を示すフローチャートである。
【
図8】本発明の第2の実施の形態に係るガス分析処理2を示すフローチャートである。
【
図9】本発明の第2の実施の形態に係る基準濃度での吸収スペクトルを示す図である。
【
図10】本発明の第3の実施の形態に係る波長範囲と濃度の関係を示す図である。
【
図11】本発明の第3の実施の形態に係るガス分析処理3を示すフローチャートである。
【
図12】本発明の第3の実施の形態に係る透過スペクトルを示す図である。
【
図13】実施例に係る吸収スペクトルを示す図である。
【
図14】実施例に係る透過スペクトルを示す図である。
【
図15】実施例に係る波長範囲と濃度の関係を示す図である。
【
図16】実施例に係る透過スペクトルの測定結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための形態に係るガス分析装置およびガス分析方法について図面を参照しながら説明する。
【0012】
(第1の実施の形態)
第1の実施の形態に係るガス分析装置1は、
図1に示すように、ガスGに含まれる測定対象の成分の濃度を計測するものであり、ガスGを導入するガスセル10と、ガスセル10にレーザ光を照射する照射部20と、ガスセル10を通過したレーザ光を検出する検出部30と、照射部20および検出部30を制御する制御装置100と、を備える。
【0013】
ガスセル10は、ガスGを充満させる筒状のセル本体11と、照射部20からレーザ光が照射される第1の窓12と、ガスセル10を通過したレーザ光が透過する第2の窓13と、を備える。セル本体11には、ガスGを導入する導入口14と、ガスGが排出される排出口15と、を備える。セル本体11のレーザ光の照射方向における長さLは、特に限定されないが、例えば、50mm以上200mm以下である。第1の窓12および第2の窓13は、照射部20から照射されるレーザ光の波長域において、透明である。
【0014】
照射部20は、レーザ光の波長を可変でき、且つ、測定対象の成分の吸収スペクトルよりもスペクトル線幅が狭い単一波長のレーザ光を照射する。また、照射部20は、測定対象の成分の吸収スペクトルを含む波長範囲のレーザ光を照射できればよく、好ましくは、3μmから10μmの赤外線領域の波長を有するレーザ光を照射するものであり、量子カスケードレーザ(Quantum Cascade Laser)、またはインターバンドカスケードレーザを含む。照射部20は、外部共振型の量子カスケードレーザを備える場合、
図2に示すように、半導体レーザ21と、半導体レーザ21の第1の面に形成された全反射ミラー22と、半導体レーザ21の第1の面に向かい合う第2の面に形成された反射防止膜23と、出力波長を選択する回折格子24と、半導体レーザ21の出力光をコリメートするレンズ25と、を備える。回折格子24は、直線状の凹凸が一定の周期で平行に並んで構成されている格子状のパターンを有する。また、制御装置100の制御により、回折格子24は、レーザ光の照射方向に対して垂直な回転軸AXを中心にステッピングモータなどにより回転する。これにより、半導体レーザ21から照射されるレーザ光の照射方向と、回折格子24に垂直な方向と、の為す角度θが変化する。回折格子24が回転し、角度θが変化することによって、導波路に反射される光の波長が変わり、出力波長を変化させることができる。この例では、照射部20は、制御装置100の制御により、回折格子24が回転し、出力波長を変化させることが可能である。なお、照射部20は、レーザ光の波長を可変でき、且つ、測定対象の成分の吸収スペクトルよりもスペクトル線幅が狭い単一波長のレーザ光を照射するものであればよく、分布帰還型の量子カスケードレーザ、またはインターバンドカスケードレーザを備えてもよく、その他の形式のレーザ装置を備えてもよい。分布帰還型等の場合は、半導体レーザ21に注入する電流もしくは半導体レーザ21の温度を変化させることで波長をチューニングすることができる。また、
図3に示すように、照射部20から照射されるレーザ光の半値全幅Δλは、測定対象の成分の吸収スペクトルの半値全幅に対して、好ましくは、5分の1以下であり、より好ましくは10分の1以下である。また、レーザ光の半値全幅Δλは、好ましくは、0.2nm以下であり、より好ましくは、0.01nm以下である。また、照射部20から照射されるレーザ光の波長の変化量であるチューニングステップは、測定対象の成分の吸収スペクトルの半値全幅に対して、好ましくは、2分の1以下であり、より好ましくは10分の1以下である。
【0015】
図1に示すように、検出部30は、照射部20から照射された波長域のレーザ光の強度を検出するものである。また、検出部30は、検出したレーザ光の強度を示すデータを制御装置100に出力する。また、照射部20とガスセル10の間にレンズ41が配置され、検出部30とガスセル10の間にレンズ42が配置されている。
【0016】
制御装置100は、制御部110を備える。制御部110は、
図4に示すように、プログラムを実行するプロセッサ140と、プロセッサ140の作業領域として用いられる主記憶部150と、プロセッサ140の処理に用いられる種々のデータおよびプログラムを格納する補助記憶部160と、を有する。主記憶部150および補助記憶部160はいずれも、バス170を介してプロセッサ140に接続される。
【0017】
プロセッサ140は、MPU(Micro Processing Unit)を含む。プロセッサ140は、補助記憶部160に格納されたプログラムを実行することにより、ガス分析装置1の種々の機能を実現する。
【0018】
主記憶部150は、RAM(Random Access Memory)を含む。主記憶部150には、補助記憶部160からプログラムがロードされる。そして、主記憶部150は、プロセッサ140の作業領域として用いられる。
【0019】
補助記憶部160は、EEPROM(Electrically Erasable Programmable Read-Only Memory)に代表される不揮発性メモリを含む。補助記憶部160は、プログラムの他に、プロセッサ140の処理に用いられる種々のデータと、
図1に示す吸光度DB161と、を格納する。補助記憶部160は、プロセッサ140の指示に従って、プロセッサ140によって利用されるデータをプロセッサ140に供給し、プロセッサ140から供給されたデータを格納する。吸光度DB161は、
図5に示すように、様々な測定対象の成分について、それぞれ、測定対象の成分M、ピーク波長、測定波長、および
図6に示す基準濃度での吸収スペクトルを示すデータを記憶する。これらのデータは、基準濃度のサンプルを測定することにより取得したものであってもよい。また、吸光度DB161は、吸収スペクトルの代わりに、測定波長における基準濃度の吸光度を示すデータまたは測定波長における吸光度と濃度との関係を示すデータを記憶してもよい。成分Mは、分子であってもよく、原子であってもよい。成分Mは、赤外線領域に吸収ピークを有するものであればよく、たとえば、CH
4、CO
2、CO、H
2CO、H
2O
2、SO
2、NO
2、NO、N
2O、O
3、NH
3、C
6H
6などを含む。測定波長は、想定される測定対象の成分Mの濃度に対して、透過光量が測定限界以下にならない波長に設定される。想定される測定対象の成分Mの濃度が高いほど、測定波長は、ピーク波長より離れた波長に設定する。このようにすることで、吸収ピークの波長では、透過光量が測定限界以下になる場合であっても、照射部20が、吸収ピークの波長の近傍の測定波長のレーザ光を照射することで、透過光量を測定できるため、測定対象の成分Mの濃度が高い場合であっても測定することができる。また、想定される測定対象の成分Mの濃度が低い場合、照射部20は、測定対象の成分Mの吸収ピークの波長により近い測定波長のレーザ光を照射することで、高感度な計測が可能である。
【0020】
図4に示すように、入力部120は、検出部30で検出されたレーザ光の強度を示すデータを受け付け、入力されたデータをプロセッサ140へ出力する。また、入力部120は、マウス、タッチパネルまたはキーボードを含むユーザの操作により入力される入力装置、シリアルポート、USB(Universal Serial Bus)ポート、LAN(Local Area Network)ポートを含み、入力されたデータをプロセッサ140へ出力する。
【0021】
出力部130は、照射部20を制御する信号を照射部20に出力する。また、出力部130は、ディスプレイまたはプリンタを含む表示装置、他のコンピュータシステムにデータを出力可能な出力装置、若しくは、これらの組み合わせを含む。
【0022】
制御部110は、補助記憶部160に格納されたプログラムを実行することにより、
図1に示すように、照射制御部111と、ガス検出部112として機能する。
【0023】
照射制御部111は、ユーザにより入力部120からガスGに含まれる測定対象の成分を示すデータを受け付け、照射部20を制御してガスGに含まれる測定対象の成分の吸収ピークの波長の近傍の測定波長のレーザ光を照射する。成分は、赤外線領域に吸収ピークを有する分子を含み、たとえば、CH4、CO2、CO、H2CO、H2O2、SO2、NO2、NO、N2O、O3、NH3、C6H6などを含む。具体的には、照射制御部111は、吸光度DB161を参照して、ガスGに含まれる測定対象の成分に対応する測定波長を取得し、この測定波長のレーザ光を照射するように、照射部20を制御する。照射制御部111は、照射部20の回折格子24を回転させることで、照射部20に測定波長のレーザ光を照射させる。
【0024】
ガス検出部112は、照射部20が照射したレーザ光の強度と、検出部30が検出したレーザ光の強度とに基づいて、ガスGに含まれるに含まれる測定対象の成分の濃度を計測する。詳細には、吸光度DB161に記憶された基準濃度での吸収スペクトルを示すデータ示すデータを参照して、基準濃度における測定波長での吸光度と、検出部30により測定されたレーザ光の吸光度と、に基づいて、ガスに含まれる測定対象の成分の濃度を計測する。吸光度は、照射部20から照射されたレーザ光の強度と、検出部30により検出されたレーザ光の強度と、に基づいて算出される。例えば、成分Mの濃度C1は、測定されたレーザ光の吸光度A1を測定波長における基準濃度SC1の吸光度SA1で除した値に、基準濃度SC1を掛けることで得られる(C1=(A1/SA1)×SC1)。また、ガス検出部112は、出力部130を介して、ガスGに含まれる測定対象の成分の濃度C1を、ディスプレイなどの表示装置に表示する。
【0025】
つぎに、以上の構成を有するガス分析装置1が実行するガス分析処理を
図7に示すフローチャートを用いて説明する。
【0026】
ユーザによる処理を開始させる指示に応答し、ガス分析処理が開始されると、照射制御部111は、ユーザにより入力部120からガスGに含まれる測定対象の成分Mを示すデータを受け付け(ステップS101)、主記憶部150に記憶する。成分Mは、分子であってもよく、原子であってもよい。たとえば、成分Mは、CH4、CO2、CO、H2CO、H2O2、SO2、NO2、NO、N2O、O3、NH3、C6H6などを含む。
【0027】
つぎに、照射制御部111は、照射部20を制御してガスGに含まれる測定対象の成分Mに対応する測定波長のレーザ光を照射する(ステップS102)。具体的には、照射制御部111は、吸光度DB161を参照して、測定対象の成分Mに対応する測定波長を取得し、この測定波長のレーザ光を照射するように、照射部20を制御する。照射制御部111は、照射部20の回折格子24を回転させることで、測定波長のレーザ光を照射させる。例えば、
図5および
図6に示すように、測定対象の成分MとしてM10が選択された場合、照射制御部111は、照射部20を制御して成分M10の測定波長λ12のレーザ光を照射する。測定波長λ12は、予め、想定される測定対象の成分M10の濃度に対して、透過光量が測定限界以下にならない波長に設定されている。
【0028】
つぎに、ガス検出部112は、検出部30により検出されたレーザ光の強度を示すデータを取得しレーザ光の吸光度を測定する(ステップS103)。検出部30は、照射部20から照射され、ガスGが充満したガスセル10を通過したレーザ光の強度を検出する。吸光度は、照射部20から照射されたレーザ光の強度と、検出部30により検出されたレーザ光の強度と、に基づいて算出される。
【0029】
つぎに、ガス検出部112は、吸光度DB161に記憶された、基準濃度での吸収スペクトルを示すデータ示すデータを参照して、基準濃度における測定波長での吸光度と、測定されたレーザ光の吸光度と、に基づいて、ガスに含まれる測定対象の成分Mの濃度を計測する(ステップS104)。例えば、成分Mの濃度C1は、測定されたレーザ光の吸光度A1を測定波長における基準濃度SCの吸光度SA1で除した値に、基準濃度SC1を掛けることで得られる(C1=(A1/SA1)×SC1)。
【0030】
つぎに、ガス検出部112は、ガスGに含まれる測定対象の成分の濃度C1を示すデータを出力する(ステップS105)。詳細には、ガス検出部112は、出力部130を介して、ガスGに含まれる測定対象の成分Mの濃度C1を、ディスプレイなどの表示装置に表示する。
【0031】
つぎに、ガス検出部112は、終了の指示を受け付けたか否かを判定する(ステップS106)。終了の指示を受け付けていないと判定すると(ステップS106;No)、ステップS102に戻り、ステップS102からステップS106を繰り返す。
【0032】
終了の指示を受け付けたと判定すると(ステップS107;Yes)、ガス分析処理を終了する。
【0033】
以上のように、本実施の形態のガス分析装置1およびガス分析方法によれば、レーザ光の波長を可変でき、且つ、測定対象の成分Mの吸収スペクトルよりもスペトル線幅が狭いレーザ光を照射することで、単純な構造で高感度な計測が可能である。また、レーザ光の波長を可変できるため、様々な成分の濃度を測定可能である。また、吸収ピークの波長では、透過光量が測定限界以下になる場合であっても、照射部20が、ガスGに含まれる測定対象の成分Mの吸収ピークの波長の近傍の測定波長のレーザ光を照射することで、透過光量を測定できるため、測定対象の成分Mの濃度が高い場合であっても測定することができる。また、想定される測定対象の成分Mの濃度が低い場合、照射部20は、測定対象の成分Mの吸収ピークの波長により近い測定波長のレーザ光を照射することで、高感度な計測が可能である。また、セル本体11のレーザ光の照射方向における長さLを変化させることは不要であり、機械的に長さLを変化させる駆動部を必要としないという利点がある。
【0034】
(第2の実施の形態)
第1の実施の形態に係るガス分析装置1では、吸光度DB161を参照して、ガスGに含まれる測定対象の成分に対応する測定波長を取得し、この測定波長のレーザ光を照射することで、測定対象の成分の濃度を測定する例について説明した。これに対して、第2の実施の形態では、測定対象の成分の吸収ピークの波長のレーザ光を照射し、上限吸光度以上である場合は、吸収ピークの波長近傍の波長のレーザ光を照射することで、測定対象の成分を計測する。
【0035】
第2の実施形態に係るガス分析装置1は、照射制御部111とガス検出部112とが以下のような構成を有する以外、第1の実施形態に係るガス分析装置1と同じである。
【0036】
照射制御部111は、ユーザにより入力部120からガスGに含まれる測定対象の成分を示すデータを受け付け、照射部20を制御してガスGに含まれる測定対象の成分の吸収ピーク波長またはピーク波長の近傍の測定波長のレーザ光を照射する。
【0037】
ガス検出部112は、照射部20が照射したレーザ光の強度と、検出部30が検出したレーザ光の強度とに基づいて、ガスGに含まれるに含まれる測定対象の成分の濃度を計測する。詳細には、吸光度DB161に記憶された基準濃度での吸収スペクトルを示すデータ示すデータを参照して、基準濃度におけるピーク波長または測定波長での吸光度と、検出部30により測定されたレーザ光の吸光度と、に基づいて、ガスに含まれる測定対象の成分の濃度を計測する。また、ガス検出部112は、出力部130を介して、ガスGに含まれる測定対象の成分の濃度C2を、ディスプレイなどの表示装置に表示する。
【0038】
つぎに、以上の構成を有するガス分析装置1が実行するガス分析処理を
図8に示すフローチャートを用いて説明する。
【0039】
ユーザによる処理を開始させる指示に応答し、ガス分析処理が開始されると、照射制御部111は、ユーザにより入力部120からガスGに含まれる測定対象の成分Mを示すデータを受け付け(ステップS201)、主記憶部150に記憶する。
【0040】
つぎに、照射制御部111は、照射部20を制御してガスGに含まれる測定対象の成分Mに対応するピーク波長のレーザ光を照射する(ステップS202)。具体的には、照射制御部111は、吸光度DB161を参照して、測定対象の成分Mに対応するピーク波長を取得し、このピーク波長のレーザ光を照射するように、照射部20を制御する。例えば、
図5および
図6に示すように、測定対象の成分MとしてM10が選択された場合、照射制御部111は、照射部20を制御して成分M10の吸収ピークの波長λ11のレーザ光を照射する。
【0041】
つぎに、ガス検出部112は、検出部30により検出されたレーザ光の強度を示すデータを取得しレーザ光の吸光度を測定する(ステップS203)。検出部30は、照射部20から照射され、ガスGが充満したガスセル10を通過したレーザ光の強度を検出する。吸光度は、照射部20から照射されたレーザ光の強度と、検出部30により検出されたレーザ光の強度と、に基づいて算出される。
【0042】
つぎに、ガス検出部112は、レーザ光の吸光度が上限吸光度未満であるか否かを判定する(ステップS204)。上限吸光度は、予め、透過光量が容易に測定できる上限値に設定される。例えば、上限吸光度は、吸光度80%に設定する。レーザ光の吸光度が上限吸光度以上であると判定されると(ステップS204;No)、レーザ光の測定波長をピーク波長から離れた波長に設定する(ステップS205)。例えば、測定波長として、
図6に示すλ12に設定する。
【0043】
つぎに、照射制御部111は、照射部20を制御して、設定された測定波長のレーザ光を照射する(ステップS206)。つぎに、ステップS203に戻って、ガス検出部112は、検出部30により検出されたレーザ光の強度を示すデータを取得しレーザ光の吸光度を測定する。
【0044】
つぎに、ガス検出部112は、レーザ光の吸光度が上限吸光度未満であるか否かを判定する(ステップS204)。レーザ光の吸光度が上限吸光度以上であると再度判定されると(ステップS204;No)、レーザ光の測定波長をピーク波長からさらに離れた波長λ13に設定し、ステップS203~ステップS206を繰り返す。また、波長λ13でもレーザ光の吸光度が上限吸光度以上である場合、上限吸光度未満になるまで、測定波長をピーク波長から徐々に離れた波長に設定し、ステップS203~ステップS206を繰り返す。
【0045】
レーザ光の吸光度が上限吸光度未満であると判定されると(ステップS204;Yes)、ガス検出部112は、吸光度DB161に記憶された、基準濃度での吸収スペクトルを示すデータ示すデータを参照して、基準濃度におけるピーク波長または測定波長での吸光度と、測定されたレーザ光の吸光度と、に基づいて、ガスに含まれる測定対象の成分Mの濃度を計測する(ステップS207)。例えば、成分Mの濃度C2は、測定されたレーザ光の吸光度A2を基準濃度SC2におけるピーク波長または測定波長での吸光度SA2で除した値に、基準濃度SC2を掛けることで得られる(C2=(A2/SA2)×SC2)。
【0046】
つぎに、ガス検出部112は、ガスGに含まれる測定対象の成分の濃度C2を示すデータを出力する(ステップS208)。詳細には、ガス検出部112は、出力部130を介して、ガスGに含まれる測定対象の成分Mの濃度C2を、ディスプレイなどの表示装置に表示する。
【0047】
つぎに、ガス検出部112は、終了の指示を受け付けたか否かを判定する(ステップS209)。終了の指示を受け付けていないと判定すると(ステップS209;No)、ステップS202に戻り、ステップS202からステップS209を繰り返す。終了の指示を受け付けたと判定すると(ステップS209;Yes)、ガス分析処理を終了する。
【0048】
以上のように、第2の実施の形態のガス分析装置1およびガス分析方法によれば、レーザ光の吸光度が上限吸光度以上である場合、上限吸光度未満になるまで、測定波長をピーク波長から徐々に離れた波長に設定することができる。これにより、想定される測定対象の成分Mの濃度が不明であった場合であっても、照射部20が、ガスGに含まれる測定対象の成分Mの吸収ピークの波長から徐々に離れた測定波長のレーザ光を照射することで、透過光量を測定できるため、測定対象の成分Mの濃度が高い場合であっても低い場合であっても計測することが可能である。
【0049】
(第3の実施の形態)
第1および2の実施の形態に係るガス分析装置1では、吸収ピークの波長または吸収ピーク波長近傍の波長のレーザ光を照射することで、測定対象の成分の濃度を測定する例について説明した。これに対して、第3の実施の形態では、測定対象の成分の吸収ピーク全体の波長のスペクトルを測定して、透過率が基準透過率以下の波長範囲を計測し、この波長範囲に基づいて、測定対象の成分を計測する。
【0050】
第3の実施形態に係るガス分析装置1は、照射制御部111とガス検出部112とが以下のような構成を有する以外、第1および第2の実施形態に係るガス分析装置1と同じである。
【0051】
照射制御部111は、ユーザにより入力部120からガスGに含まれる測定対象の成分を示すデータを受け付け、照射部20を制御してガスGに含まれる測定対象の成分の吸収ピーク全体の波長において、レーザ光をスキャンしながら照射する。例えば、
図9に示すように、成分M10の吸収ピーク全体を下限波長λ14から上限波長λ15まで波長を、好ましくは、半値全幅Δλと同等であるかそれ以下の変化量で変化させながらレーザ光を照射する。なお、成分Mによりレーザ光が吸収される下限波長λ14から上限波長λ15までを成分Mの吸収スペクトルとする。下限波長λ14および上限波長λ15は、予め、吸収スペクトル全体が含まれるように設定され、吸光度DB161に記憶されている。
【0052】
ガス検出部112は、検出部30により検出された、下限波長λ14から上限波長λ15までの波長のレーザ光の強度を示すデータをそれぞれ取得し、レーザ光の吸光度を測定し、透過スペクトルを得る。また、ガス検出部112は、測定された透過スペクトルのうち、透過率が基準透過率以下の波数範囲Δν1を計測する。ここでは、波数範囲Δν1を計測する例について説明するが、波数範囲Δν1に代えて、波長範囲または周波数範囲を計測しても同様の結果が得られる。基準透過率は、任意に決定でき、例えば、0.1%に設定する。つぎに、ガス検出部112は、透過率が基準透過率以下の波数範囲Δν1に基づいて、測定対象の成分の濃度を計測する。詳細には、吸光度DB161に記憶された、
図10に示す、透過率が基準透過率以下の波数範囲Δνと濃度との関係を示すデータを参照して、波数範囲Δν1に対応する濃度を算出する。つぎに、ガス検出部112は、ガスGに含まれる測定対象の成分の濃度をディスプレイなどの表示装置に表示する。
【0053】
つぎに、以上の構成を有するガス分析装置1が実行するガス分析処理を
図11に示すフローチャートを用いて説明する。
【0054】
ユーザによる処理を開始させる指示に応答し、ガス分析処理が開始されると、照射制御部111は、ユーザにより入力部120からガスGに含まれる測定対象の成分Mを示すデータを受け付け(ステップS301)、主記憶部150に記憶する。
【0055】
つぎに、照射制御部111は、照射部20を制御してガスGに含まれる測定対象の成分Mに対応する下限波長λ14を設定する(ステップS302)。
【0056】
つぎに、照射制御部111は、設定した下限波長λ14のレーザ光を照射する(ステップS303)。つぎに、ガス検出部112は、検出部30により検出されたレーザ光の強度を示すデータを取得しレーザ光の透過率を測定し(ステップS304)、主記憶部150に記憶する。
【0057】
つぎに、ガス検出部112は、設定されたレーザ光の波長が上限波長λ15未満であるか否かを判定する(ステップS305)。レーザ光の波長が上限波長λ15未満であると判定されると(ステップS305;Yes)、波長を1ステップ長く設定し(ステップS306)、照射制御部111は、設定した波長のレーザ光を照射する(ステップS303)。1ステップは、好ましくは、1ステップで変化させるレーザ光の波長の変化量は、半値全幅Δλと同等であるかそれ以下であり、例えば、0.1nmである。この後、ガス検出部112は、検出部30により検出されたレーザ光の強度を示すデータを取得しレーザ光の吸光度を測定する(ステップS304)。上限波長λ15になるまで、波長を1ステップ長く設定しながら、ステップS303~ステップS306を繰り返す。これにより、
図12に示す透過スペクトルが得られる。
【0058】
設定されたレーザ光の波長が上限波長λ15以上であると判定されると(ステップS305;No)、ガス検出部112は、透過率が基準透過率以下の波数範囲Δν1を計測する(ステップS307)。基準透過率は、任意に決定でき、例えば、0.1%に設定する。
【0059】
つぎに、ガス検出部112は、透過率が基準透過率以下の波数範囲Δν1に基づいて、測定対象の成分の濃度を計測する(ステップS308)。詳細には、吸光度DB161に記憶された、
図10に示す、透過率が基準透過率以下の波数範囲Δνと濃度との関係を示すデータを参照して、波数範囲Δν1に対応する濃度C3を算出する。
【0060】
つぎに、ガス検出部112は、ガスGに含まれる測定対象の成分の濃度C3を示すデータを出力する(ステップS309)。詳細には、ガス検出部112は、出力部130を介して、ガスGに含まれる測定対象の成分Mの濃度C3を、ディスプレイなどの表示装置に表示する。
【0061】
つぎに、ガス検出部112は、終了の指示を受け付けたか否かを判定する(ステップS310)。終了の指示を受け付けていないと判定すると(ステップS310;No)、ステップS302に戻り、ステップS302からステップS310を繰り返す。終了の指示を受け付けたと判定すると(ステップS310;Yes)、ガス分析処理を終了する。
【0062】
以上のように、第3の実施の形態のガス分析装置1およびガス分析方法によれば、ガスGに含まれる測定対象の成分の濃度が高く、成分の吸収ピークの波長でのレーザ光の透過率が基準透過率以下になる場合であっても、透過率が基準透過率以下の波数範囲Δν1を測定し、この波数範囲Δνに基づいて、成分の濃度を検出することが可能である。従って、測定対象の成分Mの濃度が高い場合であっても計測することが可能である。
【0063】
上述の実施の形態では、ガス分析装置1の制御部110は、1つのプロセッサ140を備える構成を示したが、複数のプロセッサ140が連携して上述の機能を実行してもよい。また制御部110は複数の主記憶部150および補助記憶部160を備えてもよい。
【0064】
ガス分析装置1は、専用のシステムによらず、通常のコンピュータシステムを用いて実現可能である。たとえば、上述の動作を実行するためのコンピュータプログラムを、コンピュータが読み取り可能な記録媒体(フレキシブルディスク、CD-ROM(Compact Disc Read-Only Memory)、DVD-ROM(Digital Versatile Disc Read-Only Memory)など)に格納して配布し、上記コンピュータプログラムをコンピュータにインストールすることにより、上述の処理を実行するガス分析装置1を構成してもよい。また、通信ネットワーク上のサーバ装置が有する記憶装置に上記コンピュータプログラムを格納しておき、通常のコンピュータシステムがダウンロードすることでガス分析装置1を構成してもよい。
【0065】
また、ガス分析装置1の機能を、OSとアプリケーションプログラムの分担、またはOSとアプリケーションプログラムとの協働により実現する場合などには、アプリケーションプログラム部分のみを記録媒体または記憶装置に格納してもよい。
【0066】
また、搬送波にコンピュータプログラムを重畳し、通信ネットワークを介して配信することも可能である。たとえば、通信ネットワーク上の掲示板(BBS:Bulletin Board System)に上記コンピュータプログラムを掲示し、通信ネットワークを介して上記コンピュータプログラムを配信してもよい。そして、このコンピュータプログラムを起動し、OSの制御下で、他のアプリケーションプログラムと同様に実行することにより、上述の処理を実行してもよい。
【実施例0067】
以下、ガスGに含まれる測定対象の成分を代表して、メタンを用いて、ガス分析装置1の効果を実証した。この実施例は、本開示の一実施態様を示すものであり、本開示は何らこれらに限定されるものではない。
【0068】
メタンの吸収ピークの波長付近の吸光度および透過率を
図13に示す。横軸は、1cmあたりの波数であり、波長の逆数である。右の縦軸は透過率であり、左の縦軸は吸光度である。なお、メタンガスの吸収線のうち、3.22μm付近の半値全幅は0.57nm、3.23μm付近の半値全幅は0.51nm、3.24μm付近の半値全幅は0.55nmである。
【0069】
本実施例で用いた照射部20は、3.222μmから3.236μmの波長範囲を有する半値全幅0.1nm以下の測定波長λ100のレーザ光を照射した。
【0070】
メタンの濃度が100ppmと1ppcであるサンプルでは、吸収スペクトル全体が測定されているが、メタンの濃度が5ppcであるサンプルでは、吸収ピークの波長では、透過光量が測定限界以下になっていることがわかった。測定波長λ100を用いて測定すると、メタンの濃度が5ppcであるサンプルでも、透過光量を測定可能であることがわかった。測定波長λ100での透過光量を測定することで、メタンの濃度が高くても濃度を測定することができることがわかった。
【0071】
従って、レーザ光の波長を可変でき、且つ、測定対象の成分の吸収スペクトルよりもスペトル線幅が狭いレーザ光を照射することで、単純な構造で高感度な計測が可能であることがわかった。また、吸収ピークの波長では、透過光量が測定限界以下になる場合であっても、ガスに含まれる測定対象の成分の吸収ピークの波長の近傍の測定波長のレーザ光を照射することで、透過光量を測定できるため、測定対象の成分Mの濃度が高い場合であっても測定することができた。また、光路長の変化が不要であり、機械的に光路長を変化させる駆動部を必要としないという利点があることがわかった。
【0072】
つぎに、ガスGに含まれる測定対象の成分を代表して、メタンを用いて、ガス分析装置1の他の効果を実証した。
【0073】
シミュレーションによって得られた、それぞれの濃度のメタンの吸収ピークの波長付近の透過率を
図14に示す。横軸は、1cmあたりの波数であり、波長の逆数であり、縦軸は透過率である。
【0074】
10000ppmでは、スペクトル全体で透過率は基準透過率Tth超であり、吸収ピークで透過率を測定して、濃度を計測することが可能である。しかしながら、40000ppm~400000ppmの吸収ピークでは、透過率は基準透過率Tth以下であり、吸収ピークで透過率を測定して、濃度を計測することは困難である。ここでは、基準透過率Tthは、0.1%とした。
【0075】
そこで、透過率が基準透過率Tth以下の波数範囲Δνを測定し、この波数範囲Δνに基づいて、ガスGに含まれる成分の濃度を検出することが考えられる。波数範囲Δνと濃度は、
図15に示すような関係を有する。予め、波数範囲Δνと濃度の関係を特定することで、透過率が基準透過率Tth以下の波数範囲Δνを測定することで、ガスGに含まれる成分の濃度を検出することができることがわかった。また、濃度毎の波数範囲Δνの予測値を表1に示す。また、
図16に示すように、1%、4%および5%の透過率を測定し、4%および5%の基準透過率Tth以下の波数範囲Δνを実測した。この実施例では、照射部20は、波長変化量60pmで、半値全幅0.1nm以下のレーザ光を照射した。波数範囲Δνの実測値を表1に示す。
【0076】
【0077】
濃度が4%と5%の場合、波数範囲Δνの予測値は、実測値と近似していた。このため、透過率が基準透過率Tth以下の波数範囲Δνを測定することで、濃度を計測することが可能であることがわかった。従って、測定対象の成分Mの濃度が高い場合であっても、透過率が基準透過率以下の波数範囲Δνを測定し、この波数範囲Δνに基づいて、成分の濃度を計測することが可能であることがわかった。
【0078】
本発明は、本発明の広義の精神と範囲を逸脱することなく、様々な実施の形態及び変形が可能とされるものである。また、上述した実施の形態は、この発明を説明するためのものであり、本発明の範囲を限定するものではない。すなわち、本発明の範囲は、実施の形態ではなく、特許請求の範囲によって示される。そして、特許請求の範囲内及びそれと同等の発明の意義の範囲内で施される様々な変形が、この発明の範囲内とみなされる。