(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024142845
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】光ファイバの融着装置および光ファイバの融着方法
(51)【国際特許分類】
G02B 6/255 20060101AFI20241003BHJP
【FI】
G02B6/255
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023055199
(22)【出願日】2023-03-30
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 掲載アドレス:https://confit.atlas.jp/guide/event/lsj43/proceedings/list 学術講演会第43回年次大会、予稿集、2.8μmファイバーレーザーによるプラスチックファイバーの融着加工、掲載日:令和5年1月18日 掲載アドレス:https://confit.atlas.jp/guide/event/lsj43/proceedings/list 学術講演会第43回年次大会、予稿集、中赤外レーザーによるプラスチック光ファイバーの融着とその機械的特性、掲載日:令和5年1月18日 集会名:一般社団法人レーザー学会 学術講演会第43回年次大会、2.8μmファイバーレーザーによるプラスチックファイバーの融着加工、開催日(発表日):令和5年1月18日 集会名:一般社団法人レーザー学会 学術講演会第43回年次大会、中赤外レーザーによるプラスチック光ファイバーの融着とその機械的特性、開催日(発表日):令和5年1月19日
(71)【出願人】
【識別番号】306024148
【氏名又は名称】公立大学法人秋田県立大学
(71)【出願人】
【識別番号】504261077
【氏名又は名称】大学共同利用機関法人自然科学研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 満
(74)【代理人】
【識別番号】100132883
【弁理士】
【氏名又は名称】森川 泰司
(74)【代理人】
【識別番号】100181593
【弁理士】
【氏名又は名称】庄野 寿晃
(74)【代理人】
【識別番号】100165489
【弁理士】
【氏名又は名称】榊原 靖
(72)【発明者】
【氏名】合谷 賢治
(72)【発明者】
【氏名】笹沼 裕希
(72)【発明者】
【氏名】上原 日和
【テーマコード(参考)】
2H036
【Fターム(参考)】
2H036JA05
2H036MA12
2H036MA14
2H036MA15
2H036NA03
2H036NA08
2H036NA16
(57)【要約】
【課題】プラスチック光ファイバを容易に融着する光ファイバの融着装置および光ファイバの融着方法を提供する。
【解決手段】光ファイバの融着装置100は、第1の保持部10Aと、第2の保持部10Bと、レーザ照射部20と、を備える。第1の保持部10Aは、第1の光ファイバF1を保持する。第2の保持部10Bは、第1の光ファイバF1の先端部と第2の光ファイバF2の先端部とを向かい合せて、第2の光ファイバF2を保持する。レーザ照射部20は、第1の光ファイバF1の先端部と第2の光ファイバF2の先端部とに2.7μm以上3.0μm以下の波長を有するレーザ光を照射する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の光ファイバを保持する第1の保持部と、
前記第1の光ファイバの先端部と第2の光ファイバの先端部とを向かい合せて、前記第2の光ファイバを保持する第2の保持部と、
前記第1の光ファイバの先端部と前記第2の光ファイバの先端部とに2.7μm以上3.0μm以下の波長を有するレーザ光を照射するレーザ照射部と、
を備えることを特徴とする光ファイバの融着装置。
【請求項2】
前記第1の保持部または前記第2の保持部の少なくとも何れかは、前記第1の光ファイバおよび前記第2の光ファイバの延伸する方向に、前記第1の光ファイバまたは前記第2の光ファイバを移動可能に保持する、
ことを特徴とする請求項1に記載の光ファイバの融着装置。
【請求項3】
前記第1の光ファイバの先端部と前記第2の光ファイバの先端部とを観測する観測部を備える、
ことを特徴とする請求項1または2に記載の光ファイバの融着装置。
【請求項4】
第1の光ファイバの先端部と第2の光ファイバの先端部とを向かい合わせて保持し、前記第1の光ファイバの先端部と前記第2の光ファイバの先端部とに2.7μm以上3.0μm以下の波長を有するレーザ光を照射する、
ことを特徴とする光ファイバの融着方法。
【請求項5】
前記第1の光ファイバの先端部と前記第2の光ファイバの先端部に、前記レーザ光を第1の光量で照射して予備加熱する予備加熱工程を備える、
ことを特徴とする請求項4に記載の光ファイバの融着方法。
【請求項6】
予備加熱された前記第1の光ファイバの先端部と前記第2の光ファイバの先端部に、前記第1の光量より大きい第2の光量で前記レーザ光を照射する融着工程を備える、
ことを特徴とする請求項5に記載の光ファイバの融着方法。
【請求項7】
前記融着工程において、前記第1の光ファイバの先端部に対して、前記第2の光ファイバの先端部を押し込む、
ことを特徴とする請求項6に記載の光ファイバの融着装方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ファイバの融着装置および光ファイバの融着方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光を伝送するために光ファイバが用いられている。光ファイバのうち、プラスチック光ファイバ(POF:Plastic Optical Fiber)は、優れた耐久性や比較的に安価であるという特徴を有する。優れた耐久性により様々な環境で使用することができるため、自動車内等の局所空間の情報伝達に利用可能である。また、石英ファイバと比較して安価であるため、既存の環境に導入し易く、有用な光伝送システムとして、IoT(Internet of Things)技術に貢献可能な技術として期待されている。POFが普及するためには、POFが断線した際に修繕する方法が求められている。
【0003】
特許文献1は、POFの接続部分と放電電極の部分とを箱で囲み、不燃性ガスを満たしてその中で放電し、その熱でPOFの先端部分を融解することで、POFを融着するプラスチック光ファイバ用融着装置を開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
引用文献1に開示されたプラスチック光ファイバ用融着装置は、不燃性ガスを満たす箱が必要であり、プラスチックの低い融点に対して細かい温度制御が容易でないという問題がある。このため、容易にPOFを融着することが求められている。
【0006】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、プラスチック光ファイバを容易に融着する光ファイバの融着装置および光ファイバの融着方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の目的を達成するため、本発明に係る光ファイバの融着装置の一態様は、
第1の光ファイバを保持する第1の保持部と、
前記第1の光ファイバの先端部と第2の光ファイバの先端部とを向かい合せて、前記第2の光ファイバを保持する第2の保持部と、
前記第1の光ファイバの先端部と前記第2の光ファイバの先端部とに2.7μm以上3.0μm以下の波長を有するレーザ光を照射するレーザ照射部と、
を備えることを特徴とする。
【0008】
本発明の目的を達成するため、本発明に係る光ファイバの融着方法の一態様は、
第1の光ファイバの先端部と第2の光ファイバの先端部とを向かい合わせて保持し、前記第1の光ファイバの先端部と前記第2の光ファイバの先端部とに2.7μm以上3.0μm以下の波長を有するレーザ光を照射する、
ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、プラスチック光ファイバを容易に融着する光ファイバの融着装置および光ファイバの融着方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】(A)は、実施の形態に係る光ファイバの融着装置を示す上面図であり、(B)は、実施の形態に係る光ファイバの融着装置を示す側面図である。
【
図2】実施の形態に係るレーザ照射部を示す断面図である。
【
図3】実施の形態に係る光ファイバの融着方法を示すフローチャートである。
【
図4】実施の形態に係る光ファイバの融着方法を説明する図である。
【
図5】実施の形態に係る光ファイバの融着方法を説明する図である。
【
図6】実施の形態に係る光ファイバの融着方法を説明する図である。
【
図7】実施例に係る光ファイバの融着状態を示す図である。
【
図8】実施例に係る光ファイバの融着状態を示す図である。
【
図9】実施例に係る光ファイバの融着状態を示す図である。
【
図10】実施例に係る光ファイバの片側押し込み量と透過率との関係を示す図である。
【
図11】実施例に係る光ファイバの片側押し込み量と引張強度および許容曲げ半径との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本実施の形態に係る光ファイバの融着装置および光ファイバの融着方法をについて図面を参照しながら説明する。
【0012】
本実施の形態に係る光ファイバの融着装置100は、
図1(A)および
図1(B)に示すように、第1の光ファイバF1と第2の光ファイバF2とを融着する装置であり、第1の光ファイバF1を保持する第1の保持部10Aと、第2の光ファイバF2を保持する第2の保持部10Bと、第1の光ファイバF1の先端部と第2の光ファイバF2の先端部とレーザ光を照射するレーザ照射部20と、第1の光ファイバの先端部と第2の光ファイバの先端部とを観測する観測部30A、30Bと、を備える。第1の光ファイバF1および第2の光ファイバF2は、プラスチック光ファイバ(POF:Plastic Optical Fiber)を含み、例えば、PMMA(Polymethyl Methacrylate)製の光ファイバである。
【0013】
理解を容易にするために、第1と第2の光ファイバF1、F2が延伸する方向をx方向、レーザ光の照射方向をz方向、x方向およびz方向に垂直な方向をy方向とする直交座標系を設定し、適宜参照する。
【0014】
第1の保持部10Aは、第1の光ファイバF1をx方向に延伸するように保持するものであり、第1の光ファイバF1をx方向、y方向およびz方向に移動可能な3軸ステージ11Aを備える。
【0015】
第2の保持部10Bは、第1の光ファイバの先端部と第2の光ファイバの先端部とを向かい合せ、第2の光ファイバF2をx方向に延伸するように保持するものであり、第2の光ファイバF2をx方向、y方向およびz方向に移動可能な3軸ステージ11Bを備える。
【0016】
レーザ照射部20は、2.7μm以上3.0μm以下の波長を有するレーザ光を照射するものである。2.7μm以上3.0μm以下の波長は、POFに吸収される波長範囲である。レーザ照射部20は、好ましくは、2.8μmの波長を有するレーザ光を照射する。具体的には、レーザ照射部30は、
図2に示すように、ファイバ形状を有するレーザ媒質21と、レーザ媒質21を挟み込むように配置される共振器22と、レーザ媒質21に励起光を供給する励起用光源23と、レーザ媒質21の端部を保護するエンドキャップ24A、24Bを備える中赤外ファイバレーザである。第1の光ファイバF1および第2の光ファイバF2がPMMA製の光ファイバである場合、レーザ照射部20は、PMMAにより吸収される波長域である2.8μmの波長を有するレーザ光を照射することが好ましい。
【0017】
レーザ媒質21は、励起用光源23から照射された励起光を吸収して誘導放出を起こすことで光を増幅する。レーザ媒質21は、例えば、Er:ZBLAN(ZrF4-BaF2-LaF3-AlF3-NaF)から構成され励起光を吸収して光を誘導放出するコア24と、コア25より屈折率の低いクラッド26と、を備えるEr:ZBLANファイバである。Er:ZBLANは、ZBLANにエルビウム(Er)をドープしたものであり、2.7μm~2.9μmのレーザ光を発振する。レーザ媒質21の母材は、ZBLANガラス以外に、HBLAN(HfF4-BaF2-YF3-AlF3-NaF)ガラス、ZBYA(ZrF4-BaF2-YF3-AlF3)ガラスを含むZrF4系ガラス、AlF3-BaF2-YF3-CaF2、AlF3-BaF2-YF3-ThF4、AlF3-BaF2-SrF2-CaF2-MgF2-YF3を含むAlF3系ガラス、InF3-ZnF2-BaF2-SrF2-LaF3、InF3-BaF2-YF3、InF3-ZnF2-SrF2-BaF2を含むInF3系ガラスなどのフッ化物ガラスであってもよく、これらの混合物であってもよい。Er:ZBLANファイバ、Er、Pr:ZBLANファイバなどファイバレーザに用いられるものであればよい。
【0018】
共振器22は、誘導放出された光を反射する反射鏡22Aと、レーザ光の一部を外部に取り出すことができる出力鏡22Bと、を備える。この例では、反射鏡22Aは、光ファイバに形成された回折格子を有する高反射のFBG(Fiber Bragg Grating)であり、レーザ媒質21から誘導放出された光を反射するものである。出力鏡22Bは、光ファイバに形成された回折格子を有する低反射のFBGであり、レーザ媒質21から誘導放出された波長の光の一部を透過し、残りを反射するものである。
【0019】
励起用光源23は、半導体レーザを備え、反射鏡22Aに対向するように配置されている。励起用光源23は、レーザ光を励起光として共振器22内に配置されたレーザ媒質21に照射する。励起用光源23から照射された励起光は、レンズ41により集光され、レーザ媒質21に供給される。例えば、レーザ媒質21にEr:ZBLANを用いた場合、976nmのレーザ光を照射する励起用光源23を用いる。レンズ41は、励起用光源23から照射された光Lをレーザ媒質21のコア24に集光するものである。レンズ42は、レーザ媒質21から照射された光Lをコリメートもしくは集光するものである。
【0020】
図1(A)および
図1(B)に示すように、観測部30A、30Bは、第1の光ファイバF1の先端部と第2の光ファイバF2の先端部とを観測するカメラまたは顕微鏡を備える。観測部30Aは、z方向に第1の光ファイバの先端部と第2の光ファイバの先端部とを観測する。観測部30Bは、y方向に第1の光ファイバの先端部と第2の光ファイバの先端部とを観測する。観測部30A、30Bを用いて観測しながら、第1の保持部10Aの3軸ステージ11Aと、第2の保持部10Bの3軸ステージ11Bと、を操作することで、第1の光ファイバの先端部と第2の光ファイバの先端部とをレーザ光の照射位置に位置合わせすることができる。
【0021】
つぎに、上記構成を有する光ファイバの融着装置100を用いて光ファイバを融着する光ファイバの融着方法について説明する。
【0022】
光ファイバの融着方法は、
図3に示すように、光ファイバ保持工程(ステップS101)と、予備加熱工程(ステップS102)と、融着工程(ステップS103)と、位置決め工程(ステップS104)と、を備える。
【0023】
光ファイバ保持工程(ステップS101)では、第1の保持部10Aによって、第1の光ファイバF1をx方向に延伸するように保持し、第2の保持部10Bによって、第2の光ファイバF2をx方向に延伸するように保持する。第1の保持部10Aの3軸ステージ11Aと、第2の保持部10Bの3軸ステージ11Bと、操作して、
図4に示すように、第1の光ファイバF1の先端部を第2の光ファイバF2の先端部に向かい合わせて、レーザ光の照射位置に位置合わせする。このとき、第1の光ファイバF1の先端部と第2の光ファイバF2の先端部との間に間隔を開けておく。
【0024】
つぎに、予備加熱工程(ステップS102)では、
図5に示すように、レーザ照射部20は、第1の光量で、2.7μm以上3.0μm以下の波長を有するレーザ光を、第1の光ファイバの先端部と第2の光ファイバの先端部とに照射する。これにより、第1の光ファイバF1の先端部と第2の光ファイバF2の先端部とが、予備加熱される。予備加熱することで第1と第2の光ファイバF1、F2ファイバの端面処理が可能であり、ファイバ破断後の前処理は不要である。
【0025】
つぎに、融着工程(ステップS103)では、
図6に示すように、レーザ照射部20は、第1の光量より大きい第2の光量で、2.7μm以上3.0μm以下の波長を有するレーザ光を、第1の光ファイバF1の先端部と第2の光ファイバF2の先端部とに照射する。第1の光ファイバF1の先端部と第2の光ファイバF2の先端部が溶け始めると、第1の光ファイバF1と第2の光ファイバF2とを互いに押し込む。具体的には、第1の光ファイバの先端部に対して、第2の光ファイバの先端部を0.1mm以上1.0mm以下の押し込み量で押し込むことが好ましい。これにより、第1の光ファイバF1の先端部と第2の光ファイバF2の先端部が融着される。
【0026】
位置決め工程(ステップS104)では、観測部30A、30Bによって、第1の光ファイバF1の先端部と第2の光ファイバF2の先端部が軸ずれなく融着できているか確認する。軸ずれなく融着できている場合、レーザの照射を停止する。これにより、第1の光ファイバF1と第2の光ファイバF2の融着が完了する。第1の光ファイバF1の先端部と第2の光ファイバF2の先端部が軸ずれしている場合、第1の保持部10Aの3軸ステージ11Aと、第2の保持部10Bの3軸ステージ11Bと、操作することによって、位置を調整する。軸ずれが無くなると、レーザの照射を停止する。これにより、第1の光ファイバF1と第2の光ファイバF2の融着が完了する。
【0027】
以上のように、本実施の形態の光ファイバの融着装置100および光ファイバの融着方法によれば、第1の光ファイバF1の先端部と第2の光ファイバF2の先端部に2.7μm以上3.0μm以下の波長を有するレーザ光を照射することで、第1の光ファイバF1と第2の光ファイバF2とを容易に融着することができる。レーザ光を用いて融着することで、プラスチックの低い融点に対して細かい温度制御が容易である。また、レーザ光を用いることで、非接触且つ最小限の加熱領域で融着可能であり、融着時の汚損を低減でき、工程が簡便且つ消耗品が不要である。また、空気雰囲気でも融着が可能であり、不燃性ガスが不要である。また、後述する実施例で示すように、機械的特性は破断前と同等であり、実用性能を満たしている。
【0028】
(変形例)
上述の実施の形態では、レーザ照射部20が、ファイバレーザを備える例について説明したが、レーザ照射部20は、2.7μm以上3.0μm以下の波長を有するレーザ光を照射するものであればよく、Er:YAGレーザやEr:Y2O3レーザなどのエルビウムを活性元素とし、当該波長範囲で発振する各種バルク固体レーザ、マイクロチップレーザまたはディスクレーザなどの他の形式のレーザを備えてもよく、同じく当該波長範囲で発振し、Cr:ZnSeやCr:ZnSレーザなどの遷移金属を活性元素としたカルコゲン化物固体レーザを備えてもよい。また、レーザ照射部20は、量子カスケードレーザ(Quantum Cascade Laser)またはインターバンドカスケードレーザを備えてもよい。また、レーザ照射部20は、レーザ光を連続光発振してもよく、パルスレーザを照射してもよい。量子カスケードレーザ、またはインターバンドカスケードレーザなどの波長可変レーザ光源を用いると、対象の素材毎に最適な波長のレーザを照射することが可能である。
【0029】
上述の実施の形態では、第1と第2の保持部10A、10Bが3軸ステージ11A、11Bを備え例について説明したが、第1の保持部10Aまたは第2の保持部10Bの少なくとも何れかは、第1の光ファイバF1または第2の光ファイバF2をx方向に移動可能であればよい。例えば、第1の保持部10Aまたは第2の保持部10Bの何れか1つに第1の光ファイバF1または第2の光ファイバF2をx方向に移動する1軸ステージを備えてもよい。このようにすることで、光ファイバの融着装置100の構造をより単純にできる。
【0030】
上述の実施の形態では、光ファイバの融着方法が、予備加熱工程(ステップS102)と、融着工程(ステップS103)と、を備える例について説明したが、光ファイバの融着方法は、第1の光ファイバF1と第2の光ファイバF2とを融着できればよく、予備加熱工程(ステップS102)を実施せずに融着工程(ステップS103)を実施してもよい。このようにすることで、短い時間で第1の光ファイバF1と第2の光ファイバF2とを融着できる。
【実施例0031】
以下、光ファイバの融着装置および光ファイバの融着方法の効果を実施例により実証した。この実施例は、本開示の一実施態様を示すものであり、本開示は何らこれらに限定されるものではない。
【0032】
ここでは、直径0.5mmのPMMA製光ファイバである第1の光ファイバF1と第2の光ファイバF2を融着する例について説明する。PMMA製光ファイバは、80度~100℃で軟化変形し、融点165℃程度である。
【0033】
まず、
図1(A)および
図1(B)に示すように、第1の光ファイバF1と第2の光ファイバF2を保持し、第1の保持部10Aの3軸ステージ11Aと、第2の保持部10Bの3軸ステージ11Bと、操作して、第1の光ファイバF1の先端部を第2の光ファイバF2の先端部に向かい合わせて、レーザ光の照射位置に位置合わせした。このとき、第1の光ファイバF1の先端部と第2の光ファイバF2の先端部との間に間隔を開けておいた。
【0034】
つぎに、2.8μmの波長を有するレーザ光を、第1の光量で、第1の光ファイバF1の先端部と第2の光ファイバF2の先端部とに照射し、
図7に示すように、予備加熱した。第1の光量は、出力100mW以下、スポットサイズは、15μmであった。予備加熱することで第1と第2の光ファイバF1、F2ファイバの端面処理が可能であり、ファイバ破断後の前処理は不要である。
【0035】
つぎに、第1の光量より大きい第2の光量である、2.8μmの波長を有するレーザ光を、第1の光ファイバF1の先端部と第2の光ファイバF2の先端部とに照射した。第2の光量は、出力120mWであった。
図8に示すように、第1の光ファイバF1の先端部と第2の光ファイバF2の先端部とが、溶け始めると、
図9に示すように、片側押し込み量0.5mmずつ、第1の光ファイバF1と第2の光ファイバF2とを互いに押し付けた。これにより、第1の光ファイバF1の先端部と第2の光ファイバF2の先端部が融着された。
【0036】
つぎに、第1の光ファイバF1の先端部と第2の光ファイバF2の先端部が軸ずれなく融着できているか観察し、軸ずれなく融着できている場合、レーザの照射を停止した。これにより、第1の光ファイバF1と第2の光ファイバF2の融着が完了した。第1の光ファイバF1の先端部と第2の光ファイバF2の先端部が軸ずれしている場合、第1の保持部10Aの3軸ステージ11Aと、第2の保持部10Bの3軸ステージ11Bと、操作することによって、位置を調整した。軸ずれが無くなると、レーザの照射を停止した。これにより、第1の光ファイバF1と第2の光ファイバF2の融着が完了した。
【0037】
つぎに、融着した第1の光ファイバF1と第2の光ファイバF2の透過率の測定を行った。片側押し込み量0.5mmずつ押し込んで融着した第1の光ファイバF1と第2の光ファイバF2の透過率の測定結果を表2に示す。平均の透過率が58.0%であり、実用的に使用できるレベルであった。
【0038】
【0039】
つぎに、片側押し込み量0.5mmずつ押し込んで融着した第1の光ファイバF1と第2の光ファイバF2の引張強度を、フォースゲージを用いて測定した測定結果を表1に示す。何れのサンプルでも引張強度13.5Nであった。これは、測定に用いている元の第1の光ファイバF1と第2の光ファイバF2とが伸びてしまう限界と同じであり、融着前後で同等の引張強度があることが分かった。
【0040】
【0041】
つぎに、片側押し込み量Δx(mm)毎の透過率の関係を測定した。測定結果を
図10に示す。片側押し込み量Δxにより透過率が変化していることから、片側押し込み量Δx(mm)の調節により透過率を改善する可能性があることがわかった。
【0042】
つぎに、片側押し込み量Δx(mm)毎の引張強度(N)と許容曲げ半径(mm)の関係を測定した。測定結果を
図11に示す。片側押し込み量Δxにより引張強度と許容曲げ半径が変化していることから、片側押し込み量Δxの調節により引張強度と許容曲げ半径を改善する可能性があることがわかった。
【0043】
以上のように、直径0.5mmのPMMA製の光ファイバである第1の光ファイバF1と第2の光ファイバF2に2.8μmの波長を有するレーザ光を照射することで、溶着することができることがわかった。透過率、引張強度および許容曲げ半径などは、実用的に用いることが可能な結果が得られた。また、透過率、引張強度および許容曲げ半径などについては、片側押し込み量Δx以外にレーザの出力や照射時間など他のパラメータを調整することでさらに改善することが考えられる。また、PMMA製の光ファイバ以外のプラスチック製の光ファイバでも同様に融着することができると考えられる。
【0044】
本発明は、本発明の広義の精神と範囲を逸脱することなく、様々な実施の形態及び変形が可能とされるものである。また、上述した実施の形態は、この発明を説明するためのものであり、本発明の範囲を限定するものではない。すなわち、本発明の範囲は、実施の形態ではなく、特許請求の範囲によって示される。そして、特許請求の範囲内及びそれと同等の発明の意義の範囲内で施される様々な変形が、この発明の範囲内とみなされる。