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  • 特開-ステンレス鋼帯の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024142901
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】ステンレス鋼帯の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B21B 3/02 20060101AFI20241003BHJP
   B21B 1/22 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
B21B3/02
B21B1/22 L
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023055294
(22)【出願日】2023-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】株式会社プロテリアル
(72)【発明者】
【氏名】町本 修
【テーマコード(参考)】
4E002
【Fターム(参考)】
4E002AD05
4E002BB09
4E002BC05
4E002BD10
4E002CA08
4E002CB03
(57)【要約】
【課題】 介在物を含有する薄いステンレス鋼帯においても、ヘゲ疵の発生を低減させることができる、ステンレス鋼帯の製造方法
【解決手段】 厚さ1mm以下の冷間圧延用帯材を準備し、圧下率50~80%の冷間圧延を行う第一冷間圧延工程と、前記中間冷間圧延材の冷間圧延面に酸洗を施し、酸洗処理材を得る酸洗工程と、前記酸洗処理材に圧下率50~90%の冷間圧延を行い、厚さ0.1mm以下のステンレス鋼帯を得る第二冷間圧延工程とを備える、ステンレス鋼帯の製造方法。


【選択図】図1

【特許請求の範囲】
【請求項1】
厚さ1mm以下の冷間圧延用帯材を準備し、圧下率50~80%の冷間圧延を行う第一冷間圧延工程と、
前記中間冷間圧延材の冷間圧延面に酸洗を施し、酸洗処理材を得る酸洗工程と、
前記酸洗処理材に圧下率50~90%の冷間圧延を行い、厚さ0.1mm以下のステンレス鋼帯を得る第二冷間圧延工程とを備える、ステンレス鋼帯の製造方法。
【請求項2】
前記酸洗工程は、前記中間冷間圧延材の減耗量が3~7μmとなるように酸洗する、請求項1に記載のステンレス鋼帯の製造方法。
【請求項3】
前記第二冷間圧延工程は、圧下率50%以上で圧延して中間冷延材を得る中間冷間圧延工程と、
前記中間冷延材を再結晶焼鈍して焼鈍材を得る再結晶焼鈍工程と、
前記焼鈍材を圧下率50%未満で圧延する仕上冷間圧延工程とを備え、
前記中間冷間圧延工程における総パス数をnとした際、中間冷間圧延の開始から少なくとも0.6nパスまでの圧延で使用する圧延ロールの粗さは、算術平均粗さRaで0.1μm以上であり、
前記仕上冷間圧延工程の最終パスで使用する圧延ロールの粗さは、算術平均粗さRaで0.1μm未満である、請求項1または2に記載のステンレス鋼帯の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ステンレス鋼帯の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
質量%でCrを10.5%以上含有するステンレスの鋼帯は、良好な機械特性および耐食性を有することから、スイッチ材、耐食バネ、インクジェットヘッド、HDD用サスペンションバネなど様々な分野に用いられている。このステンレス鋼は表面光沢、耐食性、密着性を向上させるために、可能な限り表面欠陥を除去して高品質な表面性状とすることが要求されている。
【0003】
ステンレス鋼帯を製造する際に形成される表面欠陥の一つとして、ヘゲ疵と呼ばれる鋼帯の圧延方向に沿って伸長した疵が知られている。このヘゲ疵は上述したように表面性状を低下させる要因であることから、従来よりヘゲ疵を除去するために様々な検討がなされている。例えば特許文献1には、高能率かつ低コストにヘゲ疵を除去するため、熱間圧延後に脱スケール処理したステンレス鋼板の表面に存在しているヘゲ疵や粒界溝などの表面欠陥を、混酸水溶液を用いて酸洗除去する旨が記載されている。
【0004】
また特許文献2は、熱間割れにより形成されたヘゲ疵を低減させるために、オーステナイト系ステンレス鋼板用の鋼素材を、加熱炉から抽出後、熱間圧延し、ついで冷間圧延を施したのち、仕上焼鈍を施してオーステナイト系ステンレス鋼板を製造するに際し、上記鋼素材の加熱炉からの抽出温度を、該鋼素材中のSn含有量に応じて調整することを特徴とする表面性状の優れたオーステナイト系ステンレス鋼板の製造方法について記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000-144461号公報
【特許文献2】特開2003-147439号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ヘゲ疵の発生要因は上述した熱間割れの他にも、鋼帯表面に存在する介在物(析出物)が発生要因となる場合もある。特にステンレスは連続鋳造でスラブを製造した際、このような介在物起因のヘゲ疵が発生しやすい傾向にある。特許文献1に記載の技術はヘゲ疵の除去に有用な発明であるが、冷間圧延後の板厚が約1.8mmと、厚い板材を対象としている。薄板材になればなるほど、少しの疵でも強度低下を招く惧れがある。また特許文献2はSn含有量に応じて加熱温度を調整することで熱間割れを起因とするヘゲ疵を抑制する発明であるが、介在物起因のヘゲ疵を抑制する方法については開示されていない。また介在物起因のヘゲ疵を低減させる方法として、溶解工程における脱酸剤の添加や溶解方法を調整して介在物そのものを減らす方法も考えられるが、製造コスト増加が懸念される。
そこで本発明の目的は、介在物を含有する薄いステンレス鋼帯においても、ヘゲ疵の発生を低減させることができる、ステンレス鋼帯の製造方法に関する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は上述した課題に鑑みてなされたものである。
すなわち本発明は、厚さ1mm以下の冷間圧延用帯材を準備し、圧下率50~80%の冷間圧延を行う第一冷間圧延工程と、前記中間冷間圧延材の冷間圧延面に酸洗を施し、酸洗処理材を得る酸洗工程と、前記酸洗処理材に圧下率50~90%の冷間圧延を行い、厚さ0.1mm以下の鉄基合金帯材を得る第二冷間圧延工程とを備える、ステンレス鋼帯の製造方法である。
好ましくは、前記酸洗工程は、前記中間冷間圧延材の減耗量が3~7μmとなるように酸洗する。
好ましくは、前記第二冷間圧延工程は、圧下率50%以上で圧延して中間冷延材を得る中間冷間圧延工程と、前記中間冷延材を再結晶焼鈍して焼鈍材を得る再結晶焼鈍工程と、前記焼鈍材を圧下率50%未満で圧延する仕上冷間圧延工程とを備え、前記中間冷間圧延工程における総パス数をnとした際、中間冷間圧延の開始から少なくとも0.6nパスまでの圧延で使用する圧延ロールの粗さは、算術平均粗さRaで0.1μm以上である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、ヘゲ疵の発生を低減させることが可能なステンレス鋼帯を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】比較例の試料表面の拡大写真である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。ただし、本発明は、ここで取り挙げた実施形態に限定されるものではなく、その発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜組み合わせや改良が可能である。本発明はステンレス鋼帯を対象とする。このステンレス鋼帯とは、JIS-G-4305に規定されるフェライト系ステンレス、オーステナイト系ステンレス、マルテンサイト系ステンレス、オーステナイト・フェライト系ステンレス、析出硬化系ステンレスといったステンレスを対象とすることができるが、連続鋳造で製造されることが多く、その過程で圧延方向に連なった炭化物が形成されやすい傾向にあるフェライト系ステンレス、オーステナイト系ステンレスを対象とすることが好ましい。より好ましくはオーステナイト系ステンレスを対象とする。
【0011】
本実施形態の製造方法では、まずステンレスの冷間圧延用素材を準備する。この冷間圧延用素材は、熱間圧延材を熱間圧延後の熱延鋼帯に再結晶焼鈍・脱スケールのための酸洗を施された後、板厚を調整するために1回以上冷間圧延を施して作製することができる。
この冷間圧延用素材は、本発明の対象となる厚さ0.1mm以下のステンレス鋼帯を得やすくするために、厚さ1mm以下とすることが好ましい。一方で後述する酸洗工程によるヘゲ疵抑制効果を安定して得るために、冷間圧延用素材の板厚の下限は0.3mm以上とすることが好ましい。
【0012】
続いて準備した上記冷間圧延用素材に対して、圧下率50~80%の冷間圧延(第一冷間圧延工程)を実施する。後述する酸洗工程前にこの第一冷間圧延工程を実施することで、酸洗工程でヘゲキズの原因となる介在物を効率よく除去することが可能である。特に薄板材においては、準備材の段階で板材表面の介在物を除去したとしても、圧延工程を実施して板厚が減少すると、板材内部に存在する介在物が板材表面に露出し、ヘゲ疵の原因となる。そのため本実施形態の第一冷間圧延工程のように、可能な限り最終製品の板厚に近い状態で酸洗を行うことが重要である。好ましい圧下率の下限は、55%である。より好ましい圧下率の下限は70%である。
【0013】
本実施形態では、第一冷間圧延後の板材(第一冷間圧延材)を酸洗する(酸洗工程)。酸洗工程を導入することで、ヘゲ疵の原因となる板材表面の介在物を溶解により除去あるいは微小化により無害化させることが可能である。さらにこの酸洗工程では、酸洗後の中間冷延材の減耗量(溶解量)が3~7μmとなるように溶解させることが好ましい。酸洗による冷延材の減耗量を3μm以上とすることで、第一冷間圧延材の表層に存在する介在物を安定して除去することができる。また酸洗による冷延材の減耗量を7μm以下とすることで、深い酸ピットの発生を抑制し、後述する第二冷間圧延工程で酸ピットが除去できるように調整でき、表面性状をより高めることができる。なお酸洗装置については、一般的に鋼帯の酸洗に使用されている装置を使用すればよく、例えば、酸洗液が溜まった酸洗槽に鋼帯を通板して洗浄する形式のものや、ノズルにより鋼帯表面に酸洗液を噴射する形式のものを使用することができる。この酸洗工程は、複数回行うことも可能であるが、酸ピットの発生を抑制するためにも1回のみ行うことが好ましい。ここで第一冷間圧延材の減耗量とは、ハンドマイクロメータで酸洗処理前の板厚と酸洗処理後の板厚を測定することで確認できる。その他通板速度や浸漬時間といった酸洗条件は、上述した減耗量となるように、ステンレスの種類に合わせて適宜調整することができる。なお、本発明の酸洗工程は、第一冷間圧延材の「圧延面」に酸洗を実施する。これは機械研削後の研削面に酸洗を実施しないことを示し、すなわち本発明では第一冷間圧延工程と酸洗工程との間に、機械研削工程を実施しない。機械研削を行わない理由は、本発明で対象とする鋼帯の厚みが薄いため、機械研削の影響によりその後の圧延で幅反り等の形状不良が生じる傾向にあるためである。なお、後述する第二冷間圧延工程で圧下率を高くするため、酸洗前または酸洗後の鋼帯に対して再結晶焼鈍を施してもよい。
【0014】
本実施形態では酸洗工程を終えた鋼帯に対して、圧下率50~90%の冷間圧延を行う(第二冷間圧延工程)。前述した酸洗工程を行うことにより、鋼帯表層に残存する介在物を除去することができるが、介在物が脱落してできた疵や酸ピットは残存している。特に本実施形態で用いているようなステンレスをはじめとする炭素を含有している鋼帯は、炭化物と母相との溶解差により炭化物が脱落し、酸ピットが発生しやすい傾向にある。本実施形態では圧下率50%以上の圧下率で第二冷間圧延を行うことにより、上述した疵や酸ピット等の表面欠陥を強圧下による塑性変形で除去することが可能である。圧下率が90%未満の場合、塑性変形による疵の除去が鋼帯の極表層のみにしか働かないため、表面欠陥が完全に除去できず残存するといった問題が考えられる。好ましい圧下率の下限は、55%であり、好ましい圧下率の上限は、85%である。なお仕上冷間圧延の圧下率は、総圧下率を示す。そのため、1パスで本規定の圧下率を達成してもよく、複数回の圧延を施して本規定の圧下率を達成してもよい。特に本発明のような薄板の場合は、加工硬化の影響が著しいため、10パス以上の圧延を施すことが好ましく、圧延途中で1回以上の再結晶焼鈍を施してもよい。
【0015】
本実施形態の第二冷間圧延工程では、圧下率50%以上で圧延して中間冷延材を得る中間冷間圧延工程と、前記中間冷延材を再結晶焼鈍して焼鈍材を得る再結晶焼鈍工程と、前記焼鈍材を圧下率50%未満で圧延する仕上冷間圧延工程とを備えることが好ましい。また前記中間冷間圧延工程における総パス数をnとした際、中間冷間圧延の開始から少なくとも0.6nパスまでの圧延で使用する圧延ロールの粗さ(ロールの円周方向と直交する方向にて測定した表面粗さ)は、算術平均粗さRaで0.1μm以上とすることが好ましい。これにより表面欠陥の除去能力をより向上させることができ、特に、圧延加工により圧延ピットを除去しやすくなることから、表面性状の向上に有効である。より好ましい0.6nパスまでの圧延で使用する圧延ロールの粗さはRaで0.2μm以上である。また本実施形態においては、中間冷間圧延の全パスにおいてRa0.1μm以上の圧延ロールを使用してもよく、算術平均粗さRaで0.1μm未満の粗さを有する圧延ロールによる圧延を、少なくとも1パス組み合わせてもよい。なお上述したパス数「0.6n」については、小数点以下は四捨五入して整数値とする。例えばnが6パスである場合、0.6n=3.6となるので、中間冷間圧延開始から4パスまで、算術平均粗さRaが0.1μm以上の圧延ロールを使用すればよい。
【0016】
本実施形態における再結晶焼鈍後の仕上冷間圧延は、最終パスで使用する圧延ロールの粗さは、算術平均粗さRaで0.1μm未満である表面粗さを有するロールで圧延することが好ましい。これにより圧延後の鋼帯表面性状をより高品質なものにすることができる。本実施形態においては、仕上冷間圧延の全パスにおいてRa0.1μm未満の圧延ロールを使用してもよく、算術平均粗さRaで0.1μm以上の粗さを有する圧延ロールによる圧延を、少なくとも1パス組み合わせてもよい。仕上冷間圧延において上述した算術平均粗さRaで0.1μm以上の粗さを有する圧延ロールを用いる場合は、仕上冷間圧延の開始パスから適用することが好ましい。これにより、再結晶焼鈍により鋼帯上に発生したスケールにより平滑ロール表面が荒れることを抑制し、ロール寿命を向上させる効果を得やすくなる。
【実施例0017】
以下の実施例で本発明を更に詳しく説明する。
まずJIS-G-4305に規定されるSUS304の組成を有する、帯状の中間冷延用素材(厚さ0.5mm)を準備した。続いて表1に記載の製造方法を実施し、厚さ0.04mmの本発明例および比較例の鋼帯を得た。なお本発明の中間冷間圧延ロール粗さRaは、中間冷間圧延の開始から0.6nパスまでの圧延で使用する圧延ロールの粗さである。なお試料No.1の仕上冷間圧延における「開始」とは、仕上冷間圧延の開始パスを示し、「最終」とは、仕上冷間圧延の最終パスを示す。
この鋼帯から試料を採取し、350mm×500mmの範囲におけるヘゲ疵有無を目視で観察した。結果、本発明例は比較例よりもヘゲ疵の発生が抑えられていることを確認した。例としてNo.11の試料で確認されたヘゲ疵の例を、図1に示す。以上より、本発明の鋼帯は高品質な表面性状が要求される用途に適すると考えられる。
【0018】
【表1】

図1