(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024142908
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】液体吐出ヘッド、液体吐出ユニット及び液体を吐出する装置
(51)【国際特許分類】
B41J 2/14 20060101AFI20241003BHJP
B41J 2/01 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
B41J2/14 605
B41J2/14 603
B41J2/14 607
B41J2/01 303
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023055305
(22)【出願日】2023-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000006747
【氏名又は名称】株式会社リコー
(74)【代理人】
【識別番号】100090527
【弁理士】
【氏名又は名称】舘野 千惠子
(72)【発明者】
【氏名】八田 周子
(72)【発明者】
【氏名】秋山 幸太
【テーマコード(参考)】
2C056
2C057
【Fターム(参考)】
2C056EA04
2C056FA04
2C056FA10
2C056HA05
2C057AF07
2C057AG29
2C057AG31
2C057AG44
2C057AG68
2C057AG72
2C057AN01
2C057BA04
2C057BA14
(57)【要約】
【課題】固有振動周期Tcを短くでき、印刷速度を向上させた液体吐出ヘッドを提供する。
【解決手段】液体を吐出するノズルを有するノズル板1と、圧力室6、流体抵抗部7及び個別供給室8を有し、前記ノズル板と積層する流路部材2と、を備える。前記圧力室は、前記ノズルに連通し、前記個別供給室は、前記流体抵抗部を介して前記圧力室に連通し、前記流体抵抗部は、前記圧力室と前記個別供給室の間に形成された液体の流路であって、前記流路部材の面方向における流路の幅が狭くなっている部分であり、前記ノズル板と前記流路部材の積層方向を高さ方向としたとき、前記個別供給室の高さh1と前記流体抵抗部の高さh2は、
0.3≦h2/h1≦0.6
を満たす。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を吐出するノズルを有するノズル板と、
圧力室、流体抵抗部及び個別供給室を有し、前記ノズル板と積層する流路部材と、を備え、
前記圧力室は、前記ノズルに連通し、
前記個別供給室は、前記流体抵抗部を介して前記圧力室に連通し、
前記流体抵抗部は、前記圧力室と前記個別供給室の間に形成された液体の流路であって、前記流路部材の面方向における流路の幅が狭くなっている部分であり、
前記ノズル板と前記流路部材の積層方向を高さ方向としたとき、前記個別供給室の高さh1と前記流体抵抗部の高さh2は、
0.3≦h2/h1≦0.6
を満たす
ことを特徴とする液体吐出ヘッド。
【請求項2】
前記個別供給室の高さh1は、50μm以上200μm以下である
ことを特徴とする請求項1に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項3】
前記個別供給室の体積は、6nL以上20nL以下である
ことを特徴とする請求項1に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項4】
前記流路部材は、複数の流路板を積層してなり、
前記複数の流路板は、それぞれ1つ以上の開口部を有し、前記複数の流路板が積層されて前記開口部により前記圧力室と前記個別供給室が形成され、
前記複数の流路板のうちの1つは、前記流体抵抗部が形成されている
ことを特徴とする請求項1に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項5】
前記個別供給室を形成する前記開口部の大きさは、前記複数の流路板同士を比較したとき、前記ノズル板に近づくほど小さくなる
ことを特徴とする請求項4に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項6】
前記個別供給室を形成する前記開口部は、前記流路部材の面方向に対して長辺と短辺を有し、
前記開口部の長辺及び短辺は、前記複数の流路板同士を比較したとき、前記ノズル板に近づくほど小さくなる
ことを特徴とする請求項5に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項7】
前記積層方向に沿った断面であり、前記個別供給室から前記圧力室に向かう方向に沿った断面を第1断面とし、前記積層方向に沿った断面であり、前記個別供給室から前記圧力室に向かう方向と垂直な方向の断面を第2断面としたとき、
前記個別供給室は、前記第1断面及び前記第2断面において、前記複数の流路板の開口部によって形成される壁面が階段形状となる
ことを特徴とする請求項5に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項8】
前記圧力室を形成する前記開口部の大きさは、前記複数の流路板同士を比較したとき、前記ノズル板に近づくほど小さくなる
ことを特徴とする請求項4に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項9】
前記圧力室を形成する前記開口部は、前記流路部材の面方向に対して長辺と短辺を有し、
前記開口部の長辺及び短辺は、前記複数の流路板同士を比較したとき、前記ノズル板に近づくほど小さくなる
ことを特徴とする請求項8に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項10】
前記積層方向に沿った断面であり、前記個別供給室から前記圧力室に向かう方向に沿った断面を第1断面とし、前記積層方向に沿った断面であり、前記個別供給室から前記圧力室に向かう方向と垂直な方向の断面を第2断面としたとき、
前記圧力室は、前記第1断面及び前記第2断面において、前記複数の流路板の開口部によって形成される壁面が階段形状となる
ことを特徴とする請求項8に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項11】
前記ノズル板と反対側で前記流路部材に積層する振動板を有し、
前記個別供給室は、上面と下面が前記振動板と前記ノズル板とで形成され、前記振動板と前記ノズル板との間に他の部材が設けられていない領域を有する
ことを特徴とする請求項1に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項12】
液体を循環させない非循環型である
ことを特徴とする請求項1に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項13】
請求項1~12のいずれかに記載の液体吐出ヘッドを含む
ことを特徴とする液体吐出ユニット。
【請求項14】
前記液体吐出ヘッドに供給する液体を貯留するヘッドタンク、前記液体吐出ヘッドを搭載するキャリッジ、前記液体吐出ヘッドに液体を供給する供給機構、前記液体吐出ヘッドの維持回復を行う維持回復機構、前記液体吐出ヘッドを主走査方向に移動させる主走査移動機構の少なくともいずれか一つと前記液体吐出ヘッドとを一体化した
ことを特徴とする請求項13に記載の液体吐出ユニット。
【請求項15】
請求項1~12のいずれかに記載の液体吐出ヘッド、又は、請求項13若しくは14に記載の液体吐出ユニットを備えている
ことを特徴とする液体を吐出する装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体吐出ヘッド、液体吐出ユニット及び液体を吐出する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット式の画像形成装置に設けられる液体吐出ヘッドでは、ノズルから液体が吐出されて画像が形成される。このような液体吐出ヘッドでは、ノズルに通じる個別液室に共通液室から液体が供給され、個別液室内の液体は圧力が印加されて吐出される。
【0003】
従来、印刷速度を速くする目的で、また安定した吐出を行う目的で、固有振動周期Tcが短くする試みがなされている。従来技術では、固有振動周期Tcを短縮するために、コンプライアンスやノズルの形状を調整する技術が提案されている。
【0004】
特許文献1では、循環流路の壁面に窪みを作り、コンプライアンスを大きくした流路を持つ循環型ヘッドが開示されている。特許文献1は、ヘッドの流路体積が増加して固有振動周期Tcが長くなり、高周波駆動が阻害されるという問題を指摘している。特許文献1によれば、このような問題を解決でき、高周波駆動ができるとしている。
【0005】
特許文献2では、圧力室のノズル開口が臨む吐出端空部の幅を、弾性板の変位によって容積が変化する中央圧力発生空部の幅よりも狭くすることが開示されている。特許文献2によれば、固有振動周期を小さくでき、高周波吐出ができるとしている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
昨今の商用印刷分野では、より高い生産性が求められている。しかしながら、従来技術の液体吐出ヘッドにおける固有振動周期Tcでは十分な印刷速度を実現できず、求められる生産性を達成できていない。
【0007】
そこで本発明は、固有振動周期Tcを短くでき、印刷速度を向上させた液体吐出ヘッドを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明の液体吐出ヘッドは、液体を吐出するノズルを有するノズル板と、圧力室、流体抵抗部及び個別供給室を有し、前記ノズル板と積層する流路部材と、を備え、前記圧力室は、前記ノズルに連通し、前記個別供給室は、前記流体抵抗部を介して前記圧力室に連通し、前記流体抵抗部は、前記圧力室と前記個別供給室の間に形成された液体の流路であって、前記流路部材の面方向における流路の幅が狭くなっている部分であり、前記ノズル板と前記流路部材の積層方向を高さ方向としたとき、前記個別供給室の高さh1と前記流体抵抗部の高さh2は、
0.3≦h2/h1≦0.6
を満たすことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、固有振動周期Tcを短くでき、印刷速度を向上させた液体吐出ヘッドを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明に係る液体吐出ヘッドの一例を示す外観斜視概略図である。
【
図2】ノズル板の一例を示す平面概略図(a)及び(b)である。
【
図3】本発明に係る液体吐出ヘッドの一例を示す断面概略図である。
【
図4】本発明に係る液体吐出ヘッドの一例を示す断面概略図である。
【
図5】本発明に係る液体吐出ヘッドの一例を示す断面概略図(A)及びその拡大図(B)である。
【
図6A】h2/h1を変えて求めたときの固有振動周期Tcの一例(実施例1及び比較例1)である。
【
図6B】
図6Aの固有振動周期Tcを説明するための図である。
【
図7】実施例2を説明するための断面概略図(A)及び(B)並びに平面概略図(C)である。
【
図9】実施例3~6を説明するための断面概略図(A)~(D)である。
【
図10】液体を吐出する装置の一例における概略図である。
【
図11】液体を吐出する装置の他の例における概略図である。
【
図12】液体吐出ユニットの一例における概略図である。
【
図13】液体吐出ユニットの他の例における概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明に係る液体吐出ヘッド、液体吐出ユニット及び液体を吐出する装置について図面を参照しながら説明する。なお、本発明は以下に示す実施形態に限定されるものではなく、他の実施形態、追加、修正、削除など、当業者が想到することができる範囲内で変更することができ、いずれの態様においても本発明の作用・効果を奏する限り、本発明の範囲に含まれるものである。
【0012】
本発明の液体吐出ヘッドは、液体を吐出するノズルを有するノズル板と、圧力室、流体抵抗部及び個別供給室を有し、前記ノズル板と積層する流路部材と、を備え、前記圧力室は、前記ノズルに連通し、前記個別供給室は、前記流体抵抗部を介して前記圧力室に連通し、前記流体抵抗部は、前記圧力室と前記個別供給室の間に形成された液体の流路であって、前記流路部材の面方向における流路の幅が狭くなっている部分であり、前記ノズル板と前記流路部材の積層方向を高さ方向としたとき、前記個別供給室の高さh1と前記流体抵抗部の高さh2は、
0.3≦h2/h1≦0.6
を満たすことを特徴とする。
【0013】
本発明によれば、固有振動周期Tcを短くでき、印刷速度を向上させることができ、生産性を高くすることができる。また、従来技術では、ノズルの孔付近を狭くして固有振動周期Tcを短くしているものがある。この場合、ノズルの耐乾燥性が損なわれることがある。一方、本発明では、ノズルの孔付近を狭くすることなく固有振動周期Tcを短縮させることができるため、ノズルの耐乾燥性を保ちながら固有振動周期Tcを短くすることができ、ノズル抜けの発生を抑制することができる。
【0014】
図1は、本発明の液体吐出ヘッドの一例を示す外観斜視図である。
本例の液体吐出ヘッドは、例えばノズル板1、個別流路部材40、共通液室部材20を有し、保護等の目的でカバー29を有する。底面にノズル板1が設けられており、ノズル板1、個別流路部材40、共通液室部材20が積層されている。ノズル板1は、ノズル(ノズル孔などとも称する)を有しており、ノズルから液体を吐出する。吐出された液体を液滴などとも称する。
【0015】
ノズルが吐出する液体は、供給ポート71から供給される。供給ポート71から供給された液体は、共通液室部材20、個別流路部材40の順に流れ、ノズルから吐出される。
【0016】
図2は、
図1の液体吐出ヘッドを下から見た場合のノズル板1の平面概略図である。
ノズル板1には、ノズル1aが設けられている。ノズル板1は、例えば(a)に示すように、複数のノズル1aを配列させたノズル列を有していてもよい。またノズル板1は、(b)に示すように、2つのノズル列を有していてもよいし、その他にも複数のノズル列を有していてもよい。ノズル列を複数備える場合には、複数のノズル列を千鳥配列にしてもよい。図中、ノズル配列方向はY方向である。
【0017】
図3は、
図1の液体吐出ヘッドにおけるノズル配列方向と平行な方向の要部断面概略図である。図は、Y方向に沿った断面である。
【0018】
図示するように、ノズル板1、個別流路部材40が積層されており、本例では、ノズル板1と個別流路部材40が接合されている。個別流路部材40は、例えば、流路部材2と振動板3を有する。流路部材2は、ノズル4に連通する圧力室6を有する。圧力室6は、加圧液室などと称してもよい。
【0019】
ノズル4の上部には、ノズル4に通じる圧力室6が設けられている。圧力室6は、各ノズル4にそれぞれ設けられている。圧力室6の上部には、圧電アクチュエータ12が設けられている。圧電アクチュエータ12に電圧を印加すると、圧力室6の上面30が変形し、圧力室6に圧力が印加される。圧力室6に圧力が印加されると、圧力室6内の液体に圧力が印加され、ノズル4から液滴が吐出される。圧電アクチュエータ12が駆動することで、ノズル4から液滴が吐出される。
【0020】
振動板3は、ノズル板1と反対側で流路部材2に積層する。上面30は、振動板3の一部である。また、凸部30aと凸部30bは、振動板3の一部である。凸部30aは、圧力室6の上部に位置し、凸部30bは、隔壁の上部に位置する。凸部30aを支持部などと称してもよい。圧電アクチュエータ12のうち、圧力室6の上部に位置する部分を符号12Aで表し、隔壁の上部に位置する部分を符号12Bで表している。
【0021】
図4は、
図1の液体吐出ヘッドにおけるノズル配列方向と直行する方向の断面概略図である。
【0022】
本例では、ノズル板1、流路部材2、振動板3、共通液室部材20が積層している。積層方向は、Z方向である。流路部材2には、圧力室6、流体抵抗部7、個別供給室8が形成されている。圧力室6は、ノズル4に連通し、個別供給室8は、流体抵抗部7を介して圧力室6に連通する。液体は、共通液室10、振動板3の開口した箇所である液導入部9、個別供給室8、流体抵抗部7、圧力室6の順に流れる。個別供給室8は、個別インク供給室などと称してもよい。
【0023】
本例における流体抵抗部7は、図面の奥行方向の幅が、圧力室6の同方向の幅よりも小さくなっている(後述の
図7(C)の平面図等参照)。また、本例における流体抵抗部7は、圧力室6と個別供給室8の間に形成された液体の流路であって、流路部材2の面方向における流路の幅が狭くなっている部分である。ここでいう流路部材2の面方向における流路の幅は、個別供給室8から圧力室6に向かう方向と垂直な方向における流路の長さである。
【0024】
本例において、共通液室10内の液体は、個別供給室8に流れ、流路が絞られた流体抵抗部7を通り、圧力室6に流れる。このように、流体抵抗部7で液体の流路が狭く絞られることにより、コンプライアンスが抑えられ、固有振動周期Tcが短く抑えられる。
【0025】
図5は、本実施形態の一例(実施例1)を説明するための断面概略図である。
図5(A)は、
図4と同様の断面図であり、要部のみを図示している。
図5(B)は、
図5(A)の一部を拡大した図である。
【0026】
ノズル板1と流路部材2の積層方向を高さ方向とし、積層方向と高さ方向は、Z方向である。本実施形態では、個別供給室8の高さh1と流体抵抗部7の高さh2は、
0.3≦h2/h1≦0.6
を満たす。h2/h1が0.3以上0.6以下であることにより、液体が流体抵抗部7を流れることができるとともに、イナータンスを十分に小さくすることができ、固有振動周期Tcを小さくすることができる。これにより、印刷速度を速くすることができ、生産性を向上させることができる。
【0027】
流体抵抗部7は、圧力室6と個別供給室8の間に形成された液体の流路であって、前記流路部材の面方向における流路の幅が狭くなっている部分であり、流体抵抗部7の高さh2は、幅が狭くなっている部分の流路の高さである。ここでいう流路の幅は、個別供給室8から圧力室6へ向かう方向とは垂直の方向の長さ(Y方向の長さ)になる。
【0028】
h2/h1が0.3未満である場合、流体抵抗部7の高さh2が個別供給室8の高さh1に対して小さくなり、流体抵抗部7の効果が過剰になる。そのため、液体が流体抵抗部7を流れることができず、圧力室6への液体の供給不足が生じてしまう。
h2/h1が0.6より大きい場合、個別供給室8の高さh1が流体抵抗部7の高さh2に対して小さくなり、イナータンスが十分に小さくならない。流体抵抗部7が設けられていたとしても、固有振動周期Tcの短縮効果が得られず、固有振動周期Tcが小さくならない。そのため、印刷速度を速くすることができず、生産性を向上させることができない。
【0029】
イナータンスと固有振動周期Tcについて説明する。
固有振動周期Tcは、Tc=2π(MC)1/2で定義される。Mはイナータンス、Cはコンプライアンスである。これまでの知見では、液体吐出ヘッドにおける固有振動周期Tcは、流体抵抗部よりノズルに近い側のイナータンスM、コンプライアンスC(例えば圧力室のイナータンス、コンプライアンス)に影響されると考えられていた。そのため、従来では、ノズルに近い部分の構成について検討がなされていた。
【0030】
本発明者らの鋭意検討により、液体吐出ヘッドにおける固有振動周期Tcは、流体抵抗部7よりも上流側の個別供給室8にも影響されることがわかった。個別供給室8においても、イナータンスMの成分を低減することで、固有振動周波数を高める効果があることがわかった。個別供給室8の構成を検討することで、固有振動周期Tcを短くできるという知見を得て本発明に至った。
【0031】
円柱流路に近似して考えた場合、イナータンスMは、
M=k×ρ×l/(π×r2)
と表すことができる。kは補正係数であり、ρは液体の密度、lは流路の長さ、rは流路の半径である。なお、分母は流路の断面積であるともいえる。
このような式も考慮し、個別供給室8の高さh1を大きくし、イナータンスMを小さくする。一方で、個別供給室8の高さh1を大きくしすぎると、流体抵抗部7の効果が過剰になってしまうため、上記のように、個別供給室8の高さh1と流体抵抗部7の高さh2の比を規定している。
【0032】
印刷波形では、固有振動周期Tcによるメニスカスの振動を利用した波形設計が行われている。このため、固有振動周期Tcが短くなると、印刷波形における波形長を短縮することができ、駆動周波数を上げることができる。このため、固有振動周期Tcを短くすることで、印刷速度を上げることができる。
【0033】
図6Aは、h2/h1を変更して固有振動周期Tcを求めた場合の例を示す図である。図中、aの点は実施例1をプロットしたものであり、bの点は比較例1をプロットしたものである。実施例1は、
図5に示す構成とし、h2/h1=0.5である。比較例1は、
図5に示す構成とし、h2/h1=1.0である。
図6A中、一番下の流路板の液室長Lとあるのは、
図5(A)に示すLに相当し、一番下の流路板の圧力室6側の液室長に相当する。実施例1と比較例1のそれぞれでLを変えて固有振動周期Tcを求めた。L1<L2<L3である。
【0034】
実施例1は、h2/h1=0.5であり、本発明の範囲内である。比較例1は、h2/h1=1.0であり、本発明の上限値を越えている。図示するように、実施例1のaの点に示す固有振動周期Tcは、L1~L3のすべてにおいて、比較例1のbの点に示す固有振動周期Tcよりも低くなっている。比較例1は、h2/h1が上限値である0.6よりも大きくなっており、イナータンスが十分に小さくならず、固有振動周期Tcが十分に小さくならない。
【0035】
実施例1及び比較例1において、固有振動周期Tcは以下のようにして求めた。
図6Bに示す波形のパルス幅が0.8μsの時に、滴速度が8.7m/sとなるように電圧を調整し、パルス幅を徐々に長くしながら滴速度を測定すると、滴速度が周期的に変化する。滴速度が最初にピークになった時のパルス幅と、二回目にピークになった時のパルス幅との差が固有振動周期Tcである。
【0036】
なお、h2/h1が小さくなるにつれて固有振動周期Tcは小さくなるが、ある時点で吐出不良になる。上述したように、h2/h1が0.3未満になると、流体抵抗部7の効果が過剰になり、圧力室6への液体の供給不足が生じ、吐出不良になる。h2/h1が0.3である場合、h2/h1が0.5である場合に比べて吐出性は若干の低下があるが、合格レベルであり、固有振動周期Tcをより短縮できる。
【0037】
個別供給室8の高さh1は、50μm以上200μm以下であることが好ましい。この範囲にすることで、イナータンスを低減でき、固有振動周期Tcを短くできるとともに、流体抵抗部7の流体抵抗の効果を確保しやすくなる。
【0038】
個別供給室8の体積は、6nL以上20nL以下であることが好ましい。この範囲にすることで、イナータンスを低減でき、固有振動周期Tcを短くできるとともに、流体抵抗部7の流体抵抗の効果を確保しやすくなる。
【0039】
図4及び
図5に示すように、流路部材2は、複数の流路板を積層してなることが好ましい。この場合、流体抵抗部7を形成しやすい。図示する例では、第1流路板2aと第2流路板2bを積層して流路部材2を構成している。複数の流路板は、例えば第1流路板、第2流路板などと称する。
【0040】
本実施形態の液体吐出ヘッドは、液体を循環させない非循環型の液体吐出ヘッドである。本発明では非循環型の液体吐出ヘッドにすることが好ましい。非循環型とは、液体を循環させない方式であり、例えば、圧力室6に供給された液体が共通液室に戻らない方式である。
【0041】
従来技術では、固有振動周期Tcを短くするためにノズルの孔付近を狭くするものがあり、この場合、ノズルの耐乾燥性が低下する。本実施形態では、ノズルの孔付近を狭くすることなく固有振動周期Tcを短縮させることができるため、ノズルの耐乾燥性を損なわない方法で固有振動周期Tcを短縮できている。循環型の場合、ノズルの耐乾燥性が向上するが、本実施形態では、循環型にせずともノズルの耐乾燥性を確保できる。そして、本実施形態のように非循環型にすることで、装置を小型化することができ、また、製造コストの増加を防止できる。
【0042】
次に、本実施形態の他の例である実施例2について説明する。
図7は、実施例2を説明するための図である。
図7(A)は、
図5(A)と同様の断面概略図である。
図7(B)は、
図7(A)のFF断面概略図であり、ノズル配列方向(Y方向)に沿った断面図である。
図7(B)では、隣接する2つの個別供給室8のみを図示している。
図7(C)は、
図7(A)の流路部材2における第1流路板2aの平面概略図である。
図7(C)のEE断面は、
図7(A)に相当し、
図7(C)のFF断面は、
図7(B)に相当する。
【0043】
なお、
図7(A)では、説明のために流体抵抗部7を破線で図示している。
図7(C)を考慮すると、本来、
図7(A)における流体抵抗部7の部分は、液体の流路になるため、部材が存在しない空間になる。しかし、
図7(A)で流体抵抗部7を図示しない場合、説明しにくくなるため、流体抵抗部7を図示している。同様の理由から
図4でもそのようにしている。
【0044】
図8は、流路部材2を構成する各部材の平面概略図である。流路部材2の分解平面概略図であるともいえる。本実施例2では、第1流路板2a、第2流路板2b及び第3流路板2cが積層して流路部材2を構成している。第1流路板2a、第2流路板2b及び第3流路板2cは、それぞれ1つ以上の開口部を有しており、これらの開口部は、圧力室6と個別供給室8を形成する。
【0045】
第1流路板2aは、1つの開口部を有しており、この開口部において、圧力室6となる部分を符号16aで表し、個別供給室8となる部分を符号18aで表している。また、第1流路板aは、流体抵抗部7となる部分を有している。
【0046】
第2流路板2b及び第3流路板2cは、それぞれ2つの開口部を有している。第2流路板2bは、開口部16bと開口部18bを有し、第3流路板2cは、開口部16cと開口部18cを有している。第1流路板2a、第2流路板2b及び第3流路板2cが積層されて流路部材2を構成したときに、例えば
図7(B)に示すように、開口部18a、18b、18cにより個別供給室8が形成される。なお、本例では、個別供給室8の上面が振動板3で形成され、個別供給室8の下面がノズル板1で形成される。
【0047】
また、第1流路板2a、第2流路板2b及び第3流路板2cが積層されて流路部材2を構成したときに、開口部16a、16b、16cにより圧力室6が形成される。本例では、圧力室6の上面が振動板3で形成され、圧力室6の下面がノズル板1で形成される。
【0048】
本例の構成を再度記載する。本例において、流路部材2は、複数の流路板を積層してなり、前記複数の流路板は、それぞれ1つ以上の開口部を有し、前記複数の流路板が積層されて前記開口部により圧力室6と個別供給室8が形成され、前記複数の流路板のうちの1つは、流体抵抗部7が形成されている。このような構成である場合、流路部材2を作製しやすくなる。
【0049】
なお、この構成は、
図4及び
図5に示す例にもあてはまる。
図4及び
図5に示す例は、流路部材2が第1流路板2aと第2流路板2bから構成される例としている。
【0050】
第1流路板2a等が有する開口部の大きさは、適宜選択することができる。本実施形態において、個別供給室8を形成する前記開口部の大きさは、前記複数の流路板同士を比較したとき、ノズル板1に近づくほど小さくなっていることが好ましい。このようにすることで、液体中に気泡が混入した場合にスムーズに気泡を排出することができる。本例はこの構成に該当している。
【0051】
図7及び
図8に示すように、個別供給室8を形成する開口部18a、18b、18cの大きさは、第1流路板2a、第2流路板2b、第3流路板2c同士を比較したとき、ノズル板1に近づくほど小さくなっている。すなわち、開口部18a、開口部18b、開口部18cの順に小さくなっていく。ここでいう開口部の大きさは、平面図における開口部の面積をいう。図中、開口部18a、開口部18b、開口部18cの面積をs1、s2、s3で表している。これらの大きさの関係は、s1>s2>s3である。なお、s1については、開口部18aと流体抵抗部7の部分との境界に破線を表示しており、この破線までの開口部18aの面積としている。
【0052】
更に本実施形態において、個別供給室8を形成する前記開口部は、流路部材2の面方向に対して長辺と短辺を有し、前記開口部の長辺及び短辺は、前記複数の流路板同士を比較したとき、ノズル板1に近づくほど小さくなることがより好ましい。このようにすることで、液体中に気泡が混入した場合に、よりスムーズに気泡を排出することができる。本例はこの構成に該当している。
【0053】
図8に示すように、個別供給室8を形成する開口部18a、開口部18b及び開口部18cは、流路部材2の面方向に対して長辺と短辺を有している。長辺の方向はX方向であり、短辺の方向はY方向である。第1流路板2aにおいては、開口部18aが流体抵抗部7の部分と連結しているが、このような形状でも長辺と短辺を有しているものとする。
【0054】
図示するように、開口部18a、開口部18b、開口部18cの長辺の長さをc1、c2、c3で表しており、短辺の長さをd1、d2、d3で表している。これらの大きさの関係は、c1>c2>c3であり、かつ、d1>d2>d3である。
【0055】
更に本実施形態において、個別供給室8の壁面が階段形状となっていることが好ましい。この階段形状は、図示するように、ノズル板1側にいくにつれて対向する壁面の距離が狭くなる形状であることが好ましい。この場合、液体中に気泡が混入した場合に、より確実に気泡を排出することができる。本例はこの構成に該当している。
【0056】
複数の流路板における開口部をノズル板1に近づくほど小さくすると規定する場合、開口部の位置がずれた場合も含まれることがある。そのため、階段形状の規定を入れることで、個別供給室8を所望の形状にすることができ、より確実に気泡を排出することができる。
【0057】
本例における階段形状について再度記載する。
本例において、前記積層方向に沿った断面であり、前記個別供給室から前記圧力室に向かう方向に沿った断面を第1断面とする。第1断面は、例えば
図7(A)に示す断面である。また本例において、前記積層方向に沿った断面であり、前記個別供給室から前記圧力室に向かう方向と垂直な方向の断面を第2断面とする。第2断面は、例えば
図7(B)に示す断面である。そして、本例の個別供給室8は、前記第1断面及び前記第2断面において、前記複数の流路板の開口部によって形成される壁面が階段形状となる。
【0058】
更に本実施形態において、個別供給室8は、振動板3とノズル板1との間に他の部材が設けられていない領域を有することが好ましい。このような領域は、図中の符号Emで表している。すなわち、個別供給室8は、上面と下面が振動板3とノズル板1とで形成され、振動板3とノズル板1との間に他の部材が設けられていない領域Emを有することが好ましい。このような領域Emを有することで、イナータンスを低減できる効果がより向上し、固有振動周期Tcを低減できる効果がより向上する。
【0059】
次に、実施例2における圧力室6について説明する。本実施形態において、圧力室6は個別供給室8と同様に階段形状になっていることがより好ましく、実施例2ではそのようにしている。
【0060】
図7(D)は、
図7(A)、(C)のGG断面概略図であり、ノズル配列方向(Y方向)に沿った断面図である。
図7(D)では、隣接する2つの圧力室6のみを図示している。
【0061】
本実施形態において、圧力室6を形成する前記開口部の大きさは、前記複数の流路板同士を比較したとき、ノズル板1に近づくほど小さくなっていることが好ましい。このようにすることで、液体中に気泡が混入した場合にスムーズに気泡を排出することができる。本例はこの構成に該当している。
【0062】
図7及び
図8に示すように、圧力室6を形成する開口部16a、16b、16cの大きさは、第1流路板2a、第2流路板2b、第3流路板2c同士を比較したとき、ノズル板1に近づくほど小さくなっている。すなわち、開口部16a、開口部16b、開口部16cの順に小さくなっていく。ここでいう開口部の大きさは、平面図における開口部の面積をいう。図中、開口部16a、開口部16b、開口部16cの面積をs4、s5、s6で表している。これらの大きさの関係は、s4>s5>s6である。なお、s4については、開口部16aと流体抵抗部7の部分との境界に破線を表示しており、この破線までの開口部16aの面積としている。
【0063】
更に本実施形態において、圧力室6を形成する前記開口部は、流路部材2の面方向に対して長辺と短辺を有し、前記開口部の長辺及び短辺は、前記複数の流路板同士を比較したとき、ノズル板1に近づくほど小さくなることがより好ましい。このようにすることで、液体中に気泡が混入した場合に、よりスムーズに気泡を排出することができる。本例はこの構成に該当している。
【0064】
図8に示すように、圧力室6を形成する開口部16a、開口部16b及び開口部16cは、流路部材2の面方向に対して長辺と短辺を有している。長辺の方向はX方向であり、短辺の方向はY方向である。第1流路板2aにおいては、開口部16aが流体抵抗部7の部分と連結しているが、このような形状でも長辺と短辺を有しているものとする。
【0065】
図示するように、開口部16a、開口部16b、開口部16cの長辺の長さをc4、c5、c6で表しており、短辺の長さをd4、d5、d6で表している。これらの大きさの関係は、c4>c5>c6であり、かつ、d4>d5>d6である。
【0066】
更に本実施形態において、圧力室6の壁面が階段形状となっていることが好ましい。この階段形状は、図示するように、ノズル板1側にいくにつれて対向する壁面の距離が狭くなる形状であることが好ましい。この場合、液体中に気泡が混入した場合に、より確実に気泡を排出することができる。本例はこの構成に該当している。
【0067】
複数の流路板における開口部をノズル板1に近づくほど小さくすると規定する場合、開口部の位置がずれた場合も含まれることがある。そのため、階段形状の規定を入れることで、圧力室6を所望の形状にすることができ、より確実に気泡を排出することができる。
【0068】
本例における階段形状について再度記載する。
本例において、前記積層方向に沿った断面であり、前記個別供給室から前記圧力室に向かう方向に沿った断面を第1断面とする。第1断面は、例えば
図7(A)に示す断面である。また本例において、前記積層方向に沿った断面であり、前記個別供給室から前記圧力室に向かう方向と垂直な方向の断面を第2断面とする。第2断面は、例えば
図7(D)に示す断面である。そして、本例の圧力室6は、前記第1断面及び前記第2断面において、前記複数の流路板の開口部によって形成される壁面が階段形状となる。
【0069】
個別供給室8及び圧力室6がともに上記の階段形状を有していることがより好ましく、この場合、気泡排出性が更に向上する。なお、重なり合っていない開口部同士の関係は、特に制限されない。例えば、S6>S1であってもよいし、S4<S3であってもよい。
【0070】
次に、流路部材2の他の例について説明する。
図9は、流路部材2の他の例を説明するための要部断面概略図であり、
図5と同様の断面図である。
図9(A)~(D)をそれぞれ実施例3~6と称する。
【0071】
本実施形態では、実施例3(
図9(A))のように、流路部材2を構成する複数の流路板の厚みを適宜変更してもよい。例えば図示するように、第2流路板2bの厚みを厚くしてもよい。第1流路板2a、第2流路板2b等の厚みを適宜変更することで、h2/h1を調整できる。ここでいう厚みの方向は、個別供給室8の高さ方向であり、図のZ方向である。
【0072】
実施例4(
図9(B))では、第1流路板2aと第2流路板2bが有する開口部により個別供給室8が形成され、個別供給室8を形成する開口部の大きさは、ノズル板1に近づくほど小さくなっている。上記の実施例2では、第1流路板2a、第2流路板2b、第3流路板2cを用いた例としたが、実施例4では、第1流路板2aと第2流路板2bを用いた例としている。
図8も参考にして説明すると、本実施例4において、第2流路板2bの開口部18bは、第1流路板2aの開口部18aよりも小さくなっている。s1>s2である。
【0073】
また、実施例4は、実施例2と同様に、個別供給室8の壁面が階段形状になっており、更にノズル板1側にいくにつれて対向する壁面の距離が狭くなっている。
【0074】
本実施形態では、実施例2(
図7等)及び実施例5(
図9(C))のように、流路部材2が3つの部材、すなわち第1流路板2a、第2流路板2b、第3流路板2cにより構成されていてもよい。また、流路部材2は4つ以上の部材によって構成されていてもよい。
【0075】
本実施形態では、実施例6(
図9(D))のように、流体抵抗部7の位置を変更してもよい。その他の実施例のように、流体抵抗部7を有する部材を流路部材2中の一番上にしてもよいし、実施例6のように、流体抵抗部7を有する部材を流路部材2中の一番上にしなくてもよい。
【0076】
次に、本発明に係る液体を吐出する装置の一例について
図10及び
図11を参照して説明する。
図10は同装置の要部平面説明図、
図11は同装置の要部側面説明図である。
【0077】
この装置は、シリアル型装置であり、主走査移動機構493によって、キャリッジ403は主走査方向に往復移動する。主走査移動機構493は、ガイド部材401、主走査モータ405、タイミングベルト408等を含む。ガイド部材401は、左右の側板491A、491Bに架け渡されてキャリッジ403を移動可能に保持している。そして、主走査モータ405によって、駆動プーリ406と従動プーリ407間に架け渡したタイミングベルト408を介して、キャリッジ403は主走査方向に往復移動される。
【0078】
このキャリッジ403には、本発明に係る液体吐出ヘッド404及びヘッドタンク441を一体にした液体吐出ユニット440を搭載している。液体吐出ユニット440の液体吐出ヘッド404は、例えば、イエロー(Y)、シアン(C)、マゼンタ(M)、ブラック(K)の各色の液体を吐出する。また、液体吐出ヘッド404は、複数のノズル4からなるノズル列を主走査方向と直交する副走査方向に配置し、吐出方向を下方に向けて装着している。液体吐出ヘッド404は、例えば上述のヘッド101を用いることができる。
【0079】
液体吐出ヘッド404の外部に貯留されている液体を液体吐出ヘッド404に供給するための供給機構494により、ヘッドタンク441には、液体カートリッジ450に貯留されている液体が供給される。
【0080】
供給機構494は、液体カートリッジ450を装着する充填部であるカートリッジホルダ451、チューブ456、送液ポンプを含む送液ユニット452等で構成される。液体カートリッジ450はカートリッジホルダ451に着脱可能に装着される。ヘッドタンク441には、チューブ456を介して送液ユニット452によって、液体カートリッジ450から液体が送液される。
【0081】
この装置は、用紙410を搬送するための搬送機構495を備えている。搬送機構495は、搬送手段である搬送ベルト412、搬送ベルト412を駆動するための副走査モータ416を含む。
【0082】
搬送ベルト412は用紙410を吸着して液体吐出ヘッド404に対向する位置で搬送する。この搬送ベルト412は、無端状ベルトであり、搬送ローラ413と、テンションローラ414との間に掛け渡されている。吸着は静電吸着、あるいは、エアー吸引などで行うことができる。
【0083】
そして、搬送ベルト412は、副走査モータ416によってタイミングベルト417及びタイミングプーリ418を介して搬送ローラ413が回転駆動されることによって、副走査方向に周回移動する。
【0084】
さらに、キャリッジ403の主走査方向の一方側には搬送ベルト412の側方に液体吐出ヘッド404の維持回復を行う維持回復機構420が配置されている。
【0085】
維持回復機構420は、例えば液体吐出ヘッド404のノズル面(ノズル4が形成された面)をキャッピングするキャップ部材421、ノズル面を払拭するワイパ部材422などで構成されている。
【0086】
主走査移動機構493、供給機構494、維持回復機構420、搬送機構495は、側板491A,491B、背板491Cを含む筐体に取り付けられている。
【0087】
このように構成したこの装置においては、用紙410が搬送ベルト412上に給紙されて吸着され、搬送ベルト412の周回移動によって用紙410が副走査方向に搬送される。
【0088】
そこで、キャリッジ403を主走査方向に移動させながら画像信号に応じて液体吐出ヘッド404を駆動することにより、停止している用紙410に液体を吐出して画像を形成する。
【0089】
このように、この装置では、本発明に係る液体吐出ヘッドを備えているので、高画質画像を安定して形成することができる。
【0090】
次に、本発明に係る液体吐出ユニットの他の例について
図12を参照して説明する。
図12は同ユニットの要部平面説明図である。
【0091】
この液体吐出ユニットは、前記液体を吐出する装置を構成している部材のうち、側板491A、491B及び背板491Cで構成される筐体部分と、主走査移動機構493と、キャリッジ403と、液体吐出ヘッド404で構成されている。
【0092】
なお、この液体吐出ユニットの例えば側板491Bに、前述した維持回復機構420、及び供給機構494の少なくともいずれかを更に取り付けた液体吐出ユニットを構成することもできる。
【0093】
次に、本発明に係る液体吐出ユニットの更に他の例について
図13を参照して説明する。
図13は同ユニットの正面説明図である。
【0094】
この液体吐出ユニットは、流路部品444が取付けられた液体吐出ヘッド404と、流路部品444に接続されたチューブ456で構成されている。
【0095】
なお、流路部品444はカバー442の内部に配置されている。流路部品444に代えてヘッドタンク441を含むこともできる。また、流路部品444の上部には液体吐出ヘッド404と電気的接続を行うコネクタ443が設けられている。
【0096】
本願において、「液体を吐出する装置」は、液体吐出ヘッド又は液体吐出ユニットを備え、液体吐出ヘッドを駆動させて、液体を吐出させる装置である。液体を吐出する装置には、液体が付着可能なものに対して液体を吐出することが可能な装置だけでなく、液体を気中や液中に向けて吐出する装置も含まれる。
【0097】
この「液体を吐出する装置」は、液体が付着可能なものの給送、搬送、排紙に係わる手段、その他、前処理装置、後処理装置なども含むことができる。
【0098】
例えば、「液体を吐出する装置」として、インクを吐出させて用紙に画像を形成する装置である画像形成装置、立体造形物(三次元造形物)を造形するために、粉体を層状に形成した粉体層に造形液を吐出させる立体造形装置(三次元造形装置)がある。
【0099】
また、「液体を吐出する装置」は、吐出された液体によって文字、図形等の有意な画像が可視化されるものに限定されるものではない。例えば、それ自体意味を持たないパターン等を形成するもの、三次元像を造形するものも含まれる。
【0100】
上記「液体が付着可能なもの」とは、液体が少なくとも一時的に付着可能なものであって、付着して固着するもの、付着して浸透するものなどを意味する。具体例としては、用紙、記録紙、記録用紙、フィルム、布などの被記録媒体、電子基板、圧電素子などの電子部品、粉体層(粉末層)、臓器モデル、検査用セルなどの媒体であり、特に限定しない限り、液体が付着するすべてのものが含まれる。
【0101】
上記「液体が付着可能なもの」の材質は、紙、糸、繊維、布帛、皮革、金属、プラスチック、ガラス、木材、セラミックス、壁紙や床材などの建材、衣料用のテキスタイルなど液体が一時的でも付着可能であればよい。
【0102】
また、「液体」は、インク、処理液、DNA試料、レジスト、パターン材料、結着剤、造形液、又は、アミノ酸、たんぱく質、カルシウムを含む溶液及び分散液なども含まれる。
【0103】
また、「液体を吐出する装置」は、液体吐出ヘッドと液体が付着可能なものとが相対的に移動する装置があるが、これに限定するものではない。具体例としては、液体吐出ヘッドを移動させるシリアル型装置、液体吐出ヘッドを移動させないライン型装置などが含まれる。
【0104】
また、「液体を吐出する装置」としては他にも、用紙の表面を改質するなどの目的で用紙の表面に処理液を塗布するために処理液を用紙に吐出する処理液塗布装置、原材料を溶液中に分散した組成液をノズルを介して噴射させて原材料の微粒子を造粒する噴射造粒装置などがある。
【0105】
「液体吐出ユニット」とは、液体吐出ヘッドに機能部品、機構が一体化したものであり、液体の吐出に関連する部品の集合体である。例えば、「液体吐出ユニット」は、ヘッドタンク、キャリッジ、供給機構、維持回復機構、主走査移動機構の構成の少なくとも一つを液体吐出ヘッドと組み合わせたものなどが含まれる。
【0106】
ここで、一体化とは、例えば、液体吐出ヘッドと機能部品、機構が、締結、接着、係合などで互いに固定されているもの、一方が他方に対して移動可能に保持されているものを含む。また、液体吐出ヘッドと、機能部品、機構が互いに着脱可能に構成されていても良い。
【0107】
例えば、液体吐出ユニットとして、
図11で示した液体吐出ユニット440のように、液体吐出ヘッドとヘッドタンクが一体化されているものがある。また、チューブなどで互いに接続されて、液体吐出ヘッドとヘッドタンクが一体化されているものがある。ここで、これらの液体吐出ユニットのヘッドタンクと液体吐出ヘッドとの間にフィルタを含むユニットを追加することもできる。
【0108】
また、液体吐出ユニットとして、液体吐出ヘッドとキャリッジが一体化されているものがある。
【0109】
また、液体吐出ユニットとして、液体吐出ヘッドを走査移動機構の一部を構成するガイド部材に移動可能に保持させて、液体吐出ヘッドと走査移動機構が一体化されているものがある。また、
図12で示したように、液体吐出ユニットとして、液体吐出ヘッドとキャリッジと主走査移動機構が一体化されているものがある。
【0110】
また、液体吐出ユニットとして、液体吐出ヘッドが取り付けられたキャリッジに、維持回復機構の一部であるキャップ部材を固定させて、液体吐出ヘッドとキャリッジと維持回復機構が一体化されているものがある。
【0111】
また、液体吐出ユニットとして、
図13で示したように、ヘッドタンク若しくは流路部品が取付けられた液体吐出ヘッドにチューブが接続されて、液体吐出ヘッドと供給機構が一体化されているものがある。
【0112】
主走査移動機構は、ガイド部材単体も含むものとする。また、供給機構は、チューブ単体、装填部単体も含むものする。
【0113】
また、「液体吐出ヘッド」は、使用する圧力発生手段が限定されるものではない。例えば、上記実施形態で説明したような圧電アクチュエータ(積層型圧電素子を使用するものでもよい。)以外にも、発熱抵抗体などの電気熱変換素子を用いるサーマルアクチュエータ、振動板と対向電極からなる静電アクチュエータなどを使用するものでもよい。
【0114】
また、本願の用語における、画像形成、記録、印字、印写、印刷、造形等はいずれも同義語とする。
【0115】
本発明の態様は、例えば、以下のとおりである。
<1>
液体を吐出するノズルを有するノズル板と、
圧力室、流体抵抗部及び個別供給室を有し、前記ノズル板と積層する流路部材と、を備え、
前記圧力室は、前記ノズルに連通し、
前記個別供給室は、前記流体抵抗部を介して前記圧力室に連通し、
前記流体抵抗部は、前記圧力室と前記個別供給室の間に形成された液体の流路であって、前記流路部材の面方向における流路の幅が狭くなっている部分であり、
前記ノズル板と前記流路部材の積層方向を高さ方向としたとき、前記個別供給室の高さh1と前記流体抵抗部の高さh2は、
0.3≦h2/h1≦0.6
を満たす
ことを特徴とする液体吐出ヘッド。
<2>
前記個別供給室の高さh1は、50μm以上200μm以下である
ことを特徴とする<1>に記載の液体吐出ヘッド。
<3>
前記個別供給室の体積は、6nL以上20nL以下である
ことを特徴とする<1>又は<2>に記載の液体吐出ヘッド。
<4>
前記流路部材は、複数の流路板を積層してなり、
前記複数の流路板は、それぞれ1つ以上の開口部を有し、前記複数の流路板が積層されて前記開口部により前記圧力室と前記個別供給室が形成され、
前記複数の流路板のうちの1つは、前記流体抵抗部が形成されている
ことを特徴とする<1>に記載の液体吐出ヘッド。
<5>
前記個別供給室を形成する前記開口部の大きさは、前記複数の流路板同士を比較したとき、前記ノズル板に近づくほど小さくなる
ことを特徴とする<4>に記載の液体吐出ヘッド。
<6>
前記個別供給室を形成する前記開口部は、前記流路部材の面方向に対して長辺と短辺を有し、
前記開口部の長辺及び短辺は、前記複数の流路板同士を比較したとき、前記ノズル板に近づくほど小さくなる
ことを特徴とする<5>に記載の液体吐出ヘッド。
<7>
前記積層方向に沿った断面であり、前記個別供給室から前記圧力室に向かう方向に沿った断面を第1断面とし、前記積層方向に沿った断面であり、前記個別供給室から前記圧力室に向かう方向と垂直な方向の断面を第2断面としたとき、
前記個別供給室は、前記第1断面及び前記第2断面において、前記複数の流路板の開口部によって形成される壁面が階段形状となる
ことを特徴とする<5>又は<6>に記載の液体吐出ヘッド。
<8>
前記圧力室を形成する前記開口部の大きさは、前記複数の流路板同士を比較したとき、前記ノズル板に近づくほど小さくなる
ことを特徴とする<4>から<7>のいずれかに記載の液体吐出ヘッド。
<9>
前記圧力室を形成する前記開口部は、前記流路部材の面方向に対して長辺と短辺を有し、
前記開口部の長辺及び短辺は、前記複数の流路板同士を比較したとき、前記ノズル板に近づくほど小さくなる
ことを特徴とする<8>に記載の液体吐出ヘッド。
<10>
前記積層方向に沿った断面であり、前記個別供給室から前記圧力室に向かう方向に沿った断面を第1断面とし、前記積層方向に沿った断面であり、前記個別供給室から前記圧力室に向かう方向と垂直な方向の断面を第2断面としたとき、
前記圧力室は、前記第1断面及び前記第2断面において、前記複数の流路板の開口部によって形成される壁面が階段形状となる
ことを特徴とする<8>又は<9>に記載の液体吐出ヘッド。
<11>
前記ノズル板と反対側で前記流路部材に積層する振動板を有し、
前記個別供給室は、上面と下面が前記振動板と前記ノズル板とで形成され、前記振動板と前記ノズル板との間に他の部材が設けられていない領域を有する
ことを特徴とする<1>から<10>のいずれかに記載の液体吐出ヘッド。
<12>
液体を循環させない非循環型である
ことを特徴とする<1>から<11>のいずれかに記載の液体吐出ヘッド。
<13>
<1>から<12>のいずれかに記載の液体吐出ヘッドを含む
ことを特徴とする液体吐出ユニット。
<14>
前記液体吐出ヘッドに供給する液体を貯留するヘッドタンク、前記液体吐出ヘッドを搭載するキャリッジ、前記液体吐出ヘッドに液体を供給する供給機構、前記液体吐出ヘッドの維持回復を行う維持回復機構、前記液体吐出ヘッドを主走査方向に移動させる主走査移動機構の少なくともいずれか一つと前記液体吐出ヘッドとを一体化した
ことを特徴とする<13>に記載の液体吐出ユニット。
<15>
<1>から<12>のいずれかに記載の液体吐出ヘッド、又は、<13>若しくは<14>に記載の液体吐出ユニットを備えている
ことを特徴とする液体を吐出する装置。
【符号の説明】
【0116】
1 ノズル板
1a ノズル
2 流路部材
2a、2b、2c 第1流路板、第2流路板、第3流路板
3 振動板
6 圧力室
7 流体抵抗部
8 個別供給室
9 液導入部
10 共通液室
12 圧電アクチュエータ
16a、16b、16c 開口部(圧力室側)
18a、18b、18c 開口部(個別供給室側)
20 共通液室部材
29 カバー
40 個別流路部材
71 供給ポート
【先行技術文献】
【特許文献】
【0117】
【特許文献1】特開2017-209821号公報
【特許文献2】特開2004-195719号公報