(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024142948
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】ボンド磁石用組成物、ボンド磁石、及び一体成形部品
(51)【国際特許分類】
H01F 1/08 20060101AFI20241003BHJP
H01F 1/055 20060101ALI20241003BHJP
H01F 1/059 20060101ALI20241003BHJP
B22F 1/00 20220101ALI20241003BHJP
B22F 1/05 20220101ALI20241003BHJP
C22C 1/10 20230101ALI20241003BHJP
B22F 1/10 20220101ALI20241003BHJP
B22F 3/00 20210101ALI20241003BHJP
B22F 1/12 20220101ALI20241003BHJP
C22C 33/02 20060101ALI20241003BHJP
C22C 47/14 20060101ALI20241003BHJP
C22C 38/00 20060101ALI20241003BHJP
C08L 77/02 20060101ALI20241003BHJP
C08L 77/00 20060101ALI20241003BHJP
C08K 3/28 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
H01F1/08 130
H01F1/055 180
H01F1/059 160
B22F1/00 Y
B22F1/05
C22C1/10 E
B22F1/10
B22F3/00 C
B22F1/12
C22C33/02 102
C22C47/14
C22C38/00 303D
C08L77/02
C08L77/00
C08K3/28
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023055371
(22)【出願日】2023-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】林野 優
(72)【発明者】
【氏名】松田 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】古西 洋人
【テーマコード(参考)】
4J002
4K018
4K020
5E040
【Fターム(参考)】
4J002CL012
4J002CL091
4J002DF016
4J002FD206
4J002GM00
4J002GQ00
4K018AA27
4K018AB07
4K018AC01
4K018BA18
4K018BC29
4K018BC32
4K018CA09
4K018KA46
4K018KA70
4K020AA04
4K020AC09
4K020BB08
5E040AA03
5E040AA19
5E040BB03
5E040CA01
5E040NN01
5E040NN04
5E040NN06
(57)【要約】 (修正有)
【課題】耐冷熱衝撃性に特に優れたボンド磁石を得ることが可能なボンド磁石用組成物、該ボンド磁石用組成物の成形体を備えたボンド磁石及び該ボンド磁石を備えた一体成形部品を提供する。
【解決手段】ボンド磁石用組成物は、サマリウム-鉄-窒素系磁石粉末及び熱可塑性樹脂バインダを含む。熱可塑性樹脂バインダは、ポリアミドエラストマー及びポリアミド樹脂を含み、ポリアミドエラストマー及びポリアミド樹脂の合計量に対するポリアミドエラストマー量の比率が50質量%以上80質量%以下であり、サマリウム-鉄-窒素系磁石粉末を構成する複数の粒子2のうち少なくとも一部の粒子は、ポリアミド樹脂を主成分とする樹脂層4により取り囲まれ、樹脂層4により取り囲まれる複数の粒子の間隙にポリアミドエラストマーを主成分とするマトリックス樹脂6が存在する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
サマリウム-鉄-窒素系磁石粉末及び熱可塑性樹脂バインダを含み、
前記熱可塑性樹脂バインダはポリアミドエラストマー及びポリアミド樹脂を含み、
前記熱可塑性樹脂バインダに含まれるポリアミドエラストマー及びポリアミド樹脂の合計量に対するポリアミドエラストマー量の比率が50質量%以上80質量%以下であり、
前記サマリウム-鉄-窒素系磁石粉末を構成する複数の粒子のうち少なくとも一部の粒子は、ポリアミド樹脂を主成分とする樹脂層により取り囲まれ、前記樹脂層により取り囲まれる複数の粒子の間隙にポリアミドエラストマーを主成分とするマトリックス樹脂が存在する、ボンド磁石用組成物。
【請求項2】
前記熱可塑性樹脂バインダに含まれるポリアミドエラストマーとポリアミド樹脂の合計量に対するポリアミドエラストマー量の比率が70質量%以上80質量%以下である、請求項1に記載のボンド磁石用組成物。
【請求項3】
前記サマリウム-鉄-窒素系磁石粉末の平均粒径が1.8μm以上3.3μm以下である、請求項1又は2に記載のボンド磁石用組成物。
【請求項4】
前記ボンド磁石用組成物に含まれるサマリウム-鉄-窒素系磁石粉末の含有割合が88.0質量%以上91.0質量%以下である、請求項1又は2に記載のボンド磁石用組成物。
【請求項5】
前記ポリアミドエラストマーは、引っ張り破断伸びが400%以上であり、且つ曲げ弾性率が100MPa以上である、請求項1又は2に記載のボンド磁石用組成物。
【請求項6】
前記ポリアミド樹脂はポリアミド12樹脂である、請求項1又は2に記載のボンド磁石用組成物。
【請求項7】
前記ポリアミド樹脂は、分子量分布測定での重量平均分子量Mwが4500以上7500以下である、請求項1又は2に記載のボンド磁石用組成物。
【請求項8】
炭素繊維をさらに含む、請求項1又は2に記載のボンド磁石用組成物。
【請求項9】
カルボン酸エステルをさらに含む、請求項1又は2に記載のボンド磁石用組成物。
【請求項10】
前記サマリウム-鉄-窒素系磁石粉末が、Sm2Fe17N3で表される組成を有する、請求項1又は2に記載のボンド磁石用組成物。
【請求項11】
請求項1又は2に記載のボンド磁石用組成物の成形体を備えた、ボンド磁石。
【請求項12】
請求項11に記載のボンド磁石と金属部品とを備えた、一体成形部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボンド磁石用組成物、ボンド磁石、及び一体成形部品に関する。
【背景技術】
【0002】
ボンド磁石は、磁石粉末及び有機樹脂等のバインダ成分を配合した組成物を、押出機等の混練機で加熱混練し、次いでペレット等の形状になるように加工した後、射出成形、圧縮成形、又は押出成形などの手法で加熱成形して製造される。
【0003】
このようなボンド磁石は、焼結磁石に比べて、寸法精度が高く且つ複雑形状のものを得やすいという利点がある。また品質及び性能の均一性が高く、歩留まりがよく、さらに機械加工性が良好である。特に、熱可塑性樹脂をバインダ樹脂として用いて射出成形により製造される磁石は、寸法精度が高く、後加工の必要がないため、磁石の製造コストを低減できるという利点がある。また希土類磁石粉末を含むボンド磁石は、磁気特性(残留磁束密度Br、保磁力iHc、及び最大エネルギー積(BH)max)に優れ、磁力が強い。そのため、小型化及び高特性化を図ることができ、小型モーターやセンサーなどの用途に有用である。
【0004】
ボンド磁石のバインダ成分として、ポリアミド樹脂やポリフェニレンサルファイド(PSS)樹脂等の熱可塑性樹脂バインダが広く用いられており、この中でも、機械的強度や耐候性等の面でポリアミド樹脂が特に好ましいとされている。一方で、ポリアミドエラストマーとポリアミド樹脂を含む樹脂組成物の使用も提案されている。
【0005】
例えば、特許文献1には、磁性粉末80~95重量%とバインダ樹脂20~5重量%からなるナイロン樹脂組成物であって、バインダ樹脂が、樹脂組成物80~95重量%及び可塑剤20~5重量%であり、樹脂組成物が、ポリアミド系エラストマー0~100重量%(0重量%を除く)及びポリアミド0~100重量%(100重量%を除く)であるナイロン樹脂組成物が開示されている(特許文献1の請求項1)。
【0006】
また、特許文献2には、特定のジアミン化合物(A)と、ポリアミド形成性モノマー(B)と、ジカルボン酸化合物(C)と、を含む成分を重合して得られるポリエーテルアミドエラストマー(X)を50重量%以上含むポリアミド系エラストマー、および共存成分として、(a)熱可塑性樹脂、および(b)難燃剤もしくは磁性粉末の少なくとも一方を含有することを特徴とする樹脂組成物が開示されている(特許文献2の請求項1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開第2004-352792号公報
【特許文献2】国際公開第2008/123450号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ボンド磁石は、これを金属部品と組み合わせた一体成形部品として利用されることが多い。具体的には、接着剤を用いた接着やインサート成形等の手法でボンド磁石を金属部品と組み合わせて一体成形部品を作製し、この形で利用される。しかしながら、ボンド磁石と金属部品は線膨張係数が異なる。そのため、一体成形部品を冷熱衝撃試験に供すると、ボンド磁石に割れが発生する、あるいは接着剤が剥がれてボンド磁石と金属部品とが分離する、といった不具合が発生しやすい。そのため、ボンド磁石には、冷熱衝撃試験に対する耐久性(耐冷熱衝撃性)に優れることが望まれる。
【0009】
従来から、耐冷熱衝撃性向上を図るため、ボンド磁石、及びこのボンド磁石製造に用いられるボンド磁石用組成物の改良が行われてきた。しかしながら、従来のボンド磁石及びボンド磁石用組成物では、この要望に応える上で限界があった。
【0010】
本発明者らは、このような問題点に鑑みて鋭意検討を行った。その結果、サマリウム-鉄-窒素系磁石粉末及び熱可塑性樹脂バインダを含むボンド磁石用組成物において、ポリアミドエラストマーとポリアミド樹脂を熱可塑性樹脂バインダとして用いるとともに、磁石粉末、ポリアミドエラストマー、及びポリアミド樹脂の分布を制御し、特有の微細構造をボンド磁石用組成物に付与することで、耐冷熱衝撃性に特に優れたボンド磁石を得ることが可能になるとの知見を得た。
【0011】
本発明は、このような知見に基づき完成されたものであり、耐冷熱衝撃性に特に優れたボンド磁石を得ることが可能なボンド磁石用組成物の提供を課題とする。また、本発明は、前記ボンド磁石用組成物の成形体を備えたボンド磁石、及び前記ボンド磁石を備えた一体成形部品の提供をも課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、下記(1)~(12)の態様を包含する。なお、本明細書において「~」なる表現は、その両端の値を含む。すなわち、「X~Y」は「X以上Y以下」と同義である。
【0013】
(1)サマリウム-鉄-窒素系磁石粉末及び熱可塑性樹脂バインダを含み、
前記熱可塑性樹脂バインダはポリアミドエラストマー及びポリアミド樹脂を含み、
前記熱可塑性樹脂バインダに含まれるポリアミドエラストマー及びポリアミド樹脂の合計量に対するポリアミドエラストマー量の比率が50質量%以上80質量%以下であり、
前記サマリウム-鉄-窒素系磁石粉末を構成する複数の粒子のうち少なくとも一部の粒子は、ポリアミド樹脂を主成分とする樹脂層により取り囲まれ、前記樹脂層により取り囲まれる複数の粒子の間隙にポリアミドエラストマーを主成分とするマトリックス樹脂が存在する、ボンド磁石用組成物。
【0014】
(2)前記熱可塑性樹脂バインダに含まれるポリアミドエラストマーとポリアミド樹脂の合計量に対するポリアミドエラストマー量の比率が70質量%以上80質量%以下である、上記(1)のボンド磁石用組成物。
【0015】
(3)前記サマリウム-鉄-窒素系磁石粉末の平均粒径が1.8μm以上3.3μm以下である、上記(1)又は(2)のボンド磁石用組成物。
【0016】
(4)前記ボンド磁石用組成物に含まれるサマリウム-鉄-窒素系磁石粉末の含有割合が88.0質量%以上91.0質量%以下である、上記(1)~(3)のいずれかのボンド磁石用組成物。
【0017】
(5)前記ポリアミドエラストマーは、引っ張り破断伸びが400%以上であり、且つ曲げ弾性率が100MPa以上である、上記(1)~(4)のいずれかのボンド磁石用組成物。
【0018】
(6)前記ポリアミド樹脂はポリアミド12樹脂である、上記(1)~(5)のいずれかのボンド磁石用組成物。
【0019】
(7)前記ポリアミド樹脂は、分子量分布測定での重量平均分子量Mwが4500以上7500以下である、上記(1)~(6)のいずれかのボンド磁石用組成物。
【0020】
(8)炭素繊維をさらに含む、上記(1)~(7)のいずれかのボンド磁石用組成物。
【0021】
(9)カルボン酸エステルをさらに含む、上記(1)~(8)のいずれかのボンド磁石用組成物。
【0022】
(10)前記サマリウム-鉄-窒素系磁石粉末が、Sm2Fe17N3で表される組成を有する、上記(1)~(9)のいずれかのボンド磁石用組成物。
【0023】
(11)上記(1)~(10)のいずれかのボンド磁石用組成物の成形体を備えた、ボンド磁石。
【0024】
(12)上記(11)のボンド磁石と金属部品とを備えた、一体成形部品。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、耐冷熱衝撃性に特に優れたボンド磁石を得ることが可能なボンド磁石用組成物が提供される。また、本発明によれば、前記ボンド磁石用組成物の成形体を備えたボンド磁石、及び前記ボンド磁石を備えた一体成形部品が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明の具体的実施形態(以下、「本実施形態」という)について説明する。なお、本発明は以下の実施形態に限定されるものでなく、本発明の要旨を変更しない範囲において、種々の変更が可能である。
【0028】
<<1.ボンド磁石用組成物
本実施形態のボンド磁石用組成物は、サマリウム-鉄-窒素系磁石粉末及び熱可塑性樹脂バインダを含む。また、熱可塑性樹脂バインダはポリアミドエラストマー及びポリアミド樹脂を含み、熱可塑性樹脂バインダに含まれるポリアミドエラストマー及びポリアミド樹脂の合計量に対するポリアミドエラストマー量の比率が50質量%以上80質量%以下である。さらに、サマリウム-鉄-窒素系磁石粉末を構成する複数の粒子のうち少なくとも一部の粒子は、ポリアミド樹脂を主成分とする樹脂層により取り囲まれ、前記樹脂層により取り囲まれる複数の粒子の間隙にポリアミドエラストマーを主成分とするマトリックス樹脂が存在する。
【0029】
ボンド磁石用組成物(以下、単に「組成物」と呼ぶ場合がある)は、ボンド磁石の前駆体である。すなわち、射出成形又は押出成形などの手法で組成物を加熱下で成形してボンド磁石を作製する。ボンド磁石は異方性であってよく、あるいは等方性であってもよい。成形時の組成物に磁場を印加すれば異方性磁石を作製でき、磁場を印加しなければ等方性磁石を得ることができる。
【0030】
[1]磁石粉末
本実施形態のボンド磁石用組成物は、サマリウム-鉄-窒素(Sm-Fe-N;SFN)系磁石粉末(以下、単に「磁石粉末」と総称する場合がある)を含む。磁石粉末は、ボンド磁石において磁気特性発現の主体となる粉末である。Sm-Fe-N系磁石粉末は、希土類遷移金属系磁石粉末の一種であり、高性能かつ安価な磁石粉末として知られている。Sm-Fe-N系磁石粉末は、Sm2Fe17Nxで表される基本組成を有しており、x=3のとき、つまりSm2Fe17N3組成のときに飽和磁化が最大となる。そのため、得られるボンド磁石の磁束密度を高くすることが可能である。したがって、Sm-Fe-N系磁石粉末は、Sm2Fe17N3で表される組成を有することが好ましい。なお、粉末とは、複数の粒子の集合体であり、全体として流動性を示すものを指す。全体として流動性を示す複数の粒子が粉末を構成するということもできる。
【0031】
Sm-Fe-N系磁石粉末の平均粒径は限定されない。しかしながら、平均粒径は1.8μm以上3.3μm以下が好ましい。平均粒径を1.8μm以上に大きくすることで、組成物の流動性及び成形性低下が抑えられるとともに、磁石粉末の酸化及びそれに伴う発火の危険性を減らすことができる。またSm-Fe-N系磁石粉末はニュークリエーション型の保磁力発生機構を有する。平均粒径を3.3μm以下に小さくすることで、保磁力向上を図ることができる。
【0032】
なお、平均粒径は、磁石粉末を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察して求められる。磁石粉末は、ボンド磁石用組成物やボンド磁石をヘキサフルオロイソプロパノール等の溶媒で処理して樹脂を溶解除去し、さらに磁気分離によって強化剤を除去して求めればよい。あるいはボンド磁石用組成物製造に用いる磁石粉末をそのままSEM観察に供してもよい。より具体的には、後述する実施例での手法に準じて行えばよい。
【0033】
ボンド磁石用組成物におけるSm-Fe-N系磁石粉末の含有割合は限定されない。しかしながら、含有割合は88.0質量%以上91.0質量%以下が好ましい。含有割合を88.0質量%以上に高めることで、得られるボンド磁石の磁気特性、特に磁束密度がより一層高くなる。また樹脂割合が減るため、ボンド磁石の線膨張係数が小さくなる。そのため、ボンド磁石を一体成形部品に適用した際に、金属部品との線膨張係数の差が抑えられ、その結果、耐冷熱衝撃性がより一層向上する。一方で含有量を91.0質量%以下に抑えることで、ボンド磁石の流動性を高めることが可能となる。ボンド磁石の成形性が向上し、ボンド磁石を成形できない、あるいは成形体(ボンド磁石)にウェルド等の外観不良が発生するといった問題の発生を抑えることができる。Sm-Fe-N系磁石粉末の含有量は88.0質量%以上90.0質量%以下がより好ましい。
【0034】
Sm-Fe-N系磁石粉末の製造方法として、溶解法及び還元拡散法などの手法が知られている。溶解法では、鉄(Fe)及びサマリウム(Sm)を含む金属粉末を原料に用い、この原料を、高周波炉又はアーク炉などの炉を用いて1500℃以上の温度で加熱溶解する。次いで得られた生成物を粉砕し、さらに組成均一化を図るため熱処理してSm-Fe母合金を作製する。その後、得られた母合金を窒化して磁石粉末を作製する。
【0035】
これに対して、還元拡散法では、酸化サマリウム(Sm2O3)、鉄原料(Fe、Fe2O3等)、及び還元剤(Ca等)の混合物を加熱して母合金を得、得られた母合金を窒化して磁石粉末を作製する。Sm-Fe-N系磁石粉末は、ニュークリエーション型の保磁力発生機構を有する。高い保磁力を得るためには微細化されることが望ましい。そのため、窒化された母合金を微粉砕したり、あるいは微細な原料を用いたりする手法で、微細なSm-Fe-N系磁石粉末を準備することが望ましい。
【0036】
好ましくは、Sm-Fe-N系磁石粉末として、還元拡散法で製造されたものを用いる。安価な酸化物原料(Sm2O3等)を用いる還元拡散法には、原料コストを抑える特徴がある。また、溶解法に比べて不純物量の少ない磁石粉末を得ることができる。これに対して溶解法は工程が極めて煩雑である。また各工程間で生成物が大気中に一旦曝されてしまうため、酸化により生成物表面に不純物が生成する恐れがある。生成物表面が酸化されると、窒化が均一に進行せず、得られる磁石粉末の特性、特に飽和磁化、保磁力、及び/又は角形性といった磁気特性が低下し、最終的に得られるボンド磁石の最大エネルギー積が低下する恐れがある。
【0037】
還元拡散法では、まずサマリウム原料(Sm2O3)、鉄原料(Fe等)、及び還元剤(Ca等)を還元処理して、Sm-Fe合金を含む還元生成物を得る。次に、この還元生成物に湿式処理を施して、還元生成物中に含まれる還元剤由来の副生物(CaO、Ca(OH)2等)を除去する。その後、得られたSm-Fe合金を、アンモニア及び水素含有混合気流中で窒化する。得られた窒化物を粉砕及び乾燥することで、Sm-Fe-N系磁石粉末を得ることができる。
【0038】
Sm-Fe-N系磁石粉末がSm2Fe17N3系合金から構成される場合には、粗粉を粉砕しておくことが望ましい。すなわち、平均粒径20μmを超える磁石合金粗粉は磁気特性が低いので、これを有機溶媒中で粉砕することが望ましい。粉砕の際、又は粉砕後に、燐酸などの表面処理剤を加えた溶液中に磁石粉末を投入及び撹拌して、複合燐酸塩被膜などの被膜を磁石粉末表面に設けてもよい。粉砕には、磁石粉末粉砕に適用できる公知の粉砕装置を用いればよい。このうち媒体撹拌ミルやビーズミルなどの湿式粉砕装置が、均一な粉末組成及び粒子径を得やすいため、特に好適である。また粉砕溶媒として、イソプロピルアルコール、エタノール、トルエン、メタノール、ヘキサン等の有機溶媒が好ましい。粉砕後に所定の目開きのフィルターを用いて、ろ過及び乾燥すればよい。
【0039】
Sm-Fe-N系磁石粉末は、カップリング剤で表面処理したものであってもよい。カップリング剤として、シラン系カップリング剤、チタン系カップリング剤、アルミニウム系カップリング剤等が挙げられ、特にシラン系カップリング剤で表面処理することが好ましい。
【0040】
[2]熱可塑性樹脂バインダ
本実施形態のボンド磁石用組成物は熱可塑性樹脂バインダを含む。また熱可塑性樹脂バインダはポリアミドエラストマー及びポリアミド樹脂を含む。熱可塑性バインダは、混練時や成形時に加熱されると可塑化して組成物に流動性を付与する。また成形後に冷却されると固化する。そのため、磁石粉末を結合してボンド磁石の保形性を維持する働きがある。
【0041】
ボンド磁石用組成物に含まれる熱可塑性樹脂バインダの含有割合は限定されない。しかしながら、含有割合は7.0質量%以上11.0質量%以下が好ましい。含有割合を7.0質量以上に高めることで、ボンド磁石用組成物の流動性を高めることが可能となる。一方で、含有割合を11.0質量%以下に抑えることで、得られるボンド磁石の線膨張係数が小さくなるため、耐冷熱衝撃性がより一層向する。
【0042】
(A)ポリアミドエラストマー
ポリアミドエラストマーとして、ポリアミドセグメントとポリエーテルセグメントとを有するものを用いることができる。またポリアミドエラストマーは、引っ張り破断伸びが400%以上であり、且つ曲げ弾性率が100MPa以上であるものが好ましい。このような引っ張り破断伸び及び曲げ弾性率を有するポリアミドエラストマーを用いることで、ボンド磁石用組成物の流動性が向上するとともに、耐冷熱衝撃性がより一層向上する。なお、引っ張り破断伸びはISO527で定められた方法により測定する。また曲げ弾性率はISO178で定められた方法により測定する。
【0043】
(B)ポリアミド樹脂
ポリアミド樹脂として、ポリアミド12樹脂を始めとして、ポリアミド11樹脂やポリアミド6樹脂等の種々の樹脂を用いることができる。この中でも、ポリアミド樹脂がポリアミド12樹脂であることが好ましい。ポリアミド12樹脂を用いることで、ボンド磁石用組成物の流動性が良好になり成形性が特に高くなる。また、ポリアミド12樹脂を用いることで、得られるボンド磁石の強度がより一層高くなる。
【0044】
ポリアミド樹脂は、分子量分布測定での重量平均分子量Mwが4500以上7500以下であるものが好ましい。Mwを4500以上に高めることで、得られるボンド磁石の機械的強度がより一層高くなる。一方でMwを7500以下に抑えることで、ボンド磁石用組成物の流動性が向上する。Mwは5000以上6000以下がより好ましい。なお、重量平均分子量Mwは、分子量分布測定により実施例に準じた条件で求める。
【0045】
本実施形態のボンド磁石用組成物において、Sm-Fe-N系磁石粉末を構成する複数の粒子(Sm-Fe-N系粒子)のうち少なくとも一部の粒子は、ポリアミド樹脂を主成分とする樹脂層により取り囲まれる。また、樹脂層により取り囲まれる複数の粒子(被覆粒子)の間隙にポリアミドエラストマーを主成分とするマトリックス樹脂が存在する。すなわち、ポリアミド樹脂を主成分とする樹脂層がSm-Fe-N系粒子を取り囲み、その周囲を、ポリアミドエラストマーを主成分とするマトリックス樹脂が取り囲んでいる。あるいは、マトリックス樹脂が海部を構成し、被覆粒子が島部を構成する海島構造を組成物が有すると言うこともできる。
【0046】
このような特有の微細構造をボンド磁石用組成物に付与することで、得られるボンド磁石の耐冷熱衝撃性が顕著に向上する。限定解釈される訳ではないが、そのメカニズムとして以下の点が考えられる。すなわち、ポリアミドエラストマーは、ヤング率が小さく、破壊ひずみが大きい。そのため粘弾性的な性質を有している。粘弾性的性質を有するポリアミドエラストマーの中にSm-Fe-N系粒子を分散配置することで、応力が緩和されて、耐冷熱衝撃性が向上すると期待される。しかしながら、Sm-Fe-N系粒子とポリアミドエラストマーとの間の密着力は低い。したがって、ポリアミドエラストマーとSm-Fe-N系粒子のみからなる系では、衝撃が加わった際に、Sm-Fe-N系粒子とポリアミドエラストマーとの界面で分離が生じ、ボンド磁石全体の機械的強度が低下する。そのため、実際には耐熱熱衝撃性向上を図ることができない。
【0047】
これに対して、ポリアミド樹脂はSm-Fe-N系粒子とポリアミドエラストマーの双方に対する密着力が高い。Sm-Fe-N系粒子とポリアミドエラストマーの間にポリアミド樹脂を介在させることで、界面分離による機械的強度低下をもたらすことなく、ポリアミドエラストマーの応力緩和機能を活かすことができる。そして、その結果、耐冷熱衝撃性が顕著に向上すると考えられる。
【0048】
マトリックス樹脂は応力緩和機能を有する。マトリックス樹脂はポリアミドエラストマーを主成分とする。すなわち、マトリックス樹脂中で最大質量割合を占める成分がポリアミドエラストマーである。マトリックス樹脂はポリアミドエラストマーを主成分とする限り、他の成分、例えばポリアミド樹脂の含有を排除するものでない。しかしながら、応力緩和機能を十分に発揮させる上で、マトリックス樹脂に含まれるポリアミドエラストマーの割合は高い方が好ましい。
【0049】
これに対して、樹脂層は、Sm-Fe-N系粒子とマトリックス樹脂(ポリアミドエラストマーを主成分とする樹脂)とをつなぐ界面結合層として働く。樹脂層はポリアミド樹脂を主成分とする。すなわち、樹脂層中で最大質量割合を占める成分がポリアミド樹脂である。樹脂層はポリアミド樹脂を主成分とする限り、他の成分、例えばポリアミドエラストマーの含有を排除するものではない。しかしながら、界面結合層としての機能を十分に発揮させる上で、樹脂層に含まれるポリアミド樹脂の割合は高い方が好ましい。
【0050】
なお、複数のSm-Fe-N系粒子のうち少なくとも一部の粒子が樹脂層で取り囲まれていればよい。しかしながら、樹脂層による界面結合層としての働きを活かす観点から、樹脂層で取り囲まれる粒子の割合は高いほど好ましい。樹脂層で取り囲まれる粒子の割合は50個数%以上が好ましく、70個数%以上がより好ましく、90個数%以上がさらに好ましい。
【0051】
本実施形態のボンド磁石用組成物は、熱可塑性樹脂バインダに含まれるポリアミドエラストマー及びポリアミド樹脂の合計量に対するポリアミドエラストマーの比率(エラストマー比)が50質量%以上80質量%以下である。エラストマー比をこのような範囲内に限定することで、上述した微細構造(海島構造)の形成を促すことができる。エラストマー比が50質量%未満であると、マトリックス樹脂(海部)の割合が小さすぎるため、被覆粒子(島部)同士の連結が進む。そのため、マトリックス樹脂に基づく応力緩和機能が十分に働かず、耐冷熱衝撃性が低下する。また、組成物の流動性が低下して、成形性が損なわれる恐れもある。一方で、エラストマー比が80質量%超であると、樹脂層の割合が小さすぎるため、Sm-Fe-N系粒子とマトリックス樹脂との密着不良の問題が起こり、やはり耐冷熱衝撃性が低下する。優れた耐冷熱衝撃性を維持しつつ流動性向上を図る観点から、エラストマー比は60質量%以上80質量%以下が好ましく、70質量%以上80質量%以下がより好ましい。
【0052】
熱可塑性樹脂バインダは、ポリアミドエラストマー及びポリアミド樹脂のみで構成されてもよく、あるいは他の樹脂成分を含んでもよい。しかしながら、ポリアミドエラストマー及びポリアミド樹脂のもつ応力緩和機能及び界面結合層の機能を十分に活かすため、ポリアミドエラストマー及びポリアミド樹脂の割合は高いほど好ましい。熱可塑性樹脂バインダ中のポリアミドエラストマー及びポリアミド樹脂の割合は、50質量%以上が好ましく、70質量%以上がより好ましく、90質量%以上がさらに好ましい。
【0053】
[3]強化剤
ボンド磁石用組成物は、強化剤として炭素繊維を含んでもよい。一般的にはカーボンフレークやガラス繊維等の種々の強化剤が知られている。しかしながら、炭素繊維を用いることで、得られるボンド磁石の引っ張り強度を効果的に高めることができる。本実施形態のボンド磁石用組成物において、繊維径が5μm以上12μm以下の炭素繊維を用いることが好ましい。このような繊維径を有する炭素繊維を含有させることで、ボンド磁石の強度を高めるとともに、組成物の流動性を高め、成形性向上を図ることが可能となる。強度を高める観点から、炭素繊維の繊維径は5μm以上8μm以下がより好ましい。
【0054】
ボンド磁石用組成物における炭素繊維(強化剤)の含有割合は0.5質量%以上2.0質量%以下が好ましい。含有割合を0.5質量%以上と多くすることで、ボンド磁石の強度が高くなり、耐冷熱衝撃性をより一層高めることが可能となる。耐冷熱衝撃性を高める観点から、含有割合は0.7質量%以上がより好ましい。一方で含有割合を2.0質量%以下に抑えることで、ボンド磁石用組成物の流動性がより一層高くなる。流動性向上を図る観点から、含有割合は1.5質量%以下がより好ましい。
【0055】
[4]添加剤
ボンド磁石用組成物は、添加剤としてカルボン酸エステルを含んでもよい。カルボン酸エステルとして、例えば、セバシン酸エステル及び/又はアジビン酸エステル等を挙げることができる。成形時の流動性を高めるため、一般的には炭化水素系や脂肪酸系に代表される滑材や各種エステルといった可塑剤などの添加剤が使用される。しかしながら、これらの添加剤を用いると、得られるボンド磁石と金属部品を、例えばエポキシ系接着剤等の接着剤を介して接着させた場合に、高い接着強度を得ることが困難になる場合がある。これに対して、セバシン酸エステルやアジビン酸エステルといったカルボン酸エステルを用いると、高い接着強度を確保することができる。
【0056】
ボンド磁石用組成物におけるカルボン酸エステル(添加剤)の含有割合は0.3質量%以上1.0質量%以下が好ましい。含有割合を0.3質量%以上に多くすることで、そのメカニズムは定かではないが、ボンド磁石と金属部品等との間の接着強度を十分に高めることが可能となる。接着強度向上の観点から、カルボン酸エステルの含有割合は0.5質量%以上がより好ましい。一方で含有割合を1.0質量%以下に抑えることで、耐冷熱衝撃性をより一層高めることが可能となる。耐冷熱衝撃性生を高める観点から、カルボン酸エステルの含有割合は0.8質量%以下がより好ましい。
【0057】
[5]その他の成分
本実施形態のボンド磁石用組成物は、磁石粉末、熱可塑性樹脂バインダ(ポリアミドエラストマー及びポリアミド樹脂)、炭素繊維、及びカルボン酸エステルのみを含んでもよく、あるいは他の成分を含んでもよい。他の成分として、酸化防止剤、安定剤、顔料、及び/又は相溶化剤等が挙げられる。ボンド磁石用組成物は、その効果を損なわない範囲で、これらの成分を必要に応じて含んでもよい。
【0058】
[6]流動性
本実施形態のボンド磁石用組成物の流動性(Q値)は1.5cm3/秒以上が好ましい。ここで、流動性(Q値)は、フローテスターを用い、キャピラリー温度250℃、荷重588N、オリフィス直径1mm、オリフィス長さ1mm、及び予熱時間300℃の条件で測定した値である。ボンド磁石用組成物の流動性を高めることで、成形加工性が向上する。そのため、薄型形状や複雑形状のボンド磁石を、後加工の必要無く容易に作製することが可能となる。また高分散状態を維持しながら組成物中の磁石粉末量を高めることができ、さらに含有量が同じであっても、磁石粉末の配向性を高めることができる。その上、流動性を高めるために高温で成形を行う必要がない。低温成形が可能になるため、磁石粉末の磁気特性劣化を抑えることができる。これらが複合的に作用する結果、優れた磁気特性を有するボンド磁石、特に異方性ボンド磁石の製造が可能となる。流動性は高い方が望ましく、2.0cm3/秒以上がより好ましい。一方で流動性が過度に高い組成物は、これを製造することが困難である。流動性は、典型的には4.0cm3/秒以下である。
【0059】
本実施形態のボンド磁石用組成物は、これを成形して得られるボンド磁石に優れた耐冷熱衝撃性を付与することができる。そのため、ボンド磁石製造用組成物として極めて有用である。このボンド磁石用組成物により得られるボンド磁石は、電子部品機器用モーター部品をはじめとする小型で扁平な複雑形状品に用いることができる。また、このボンド磁石は大量生産が可能で、後加工が不要であり、インサート成形が可能といった特徴を有している。そのため、特に、金属部品と組み合わせた一体成形部品製造に好適に用いられる。
【0060】
<<2.ボンド磁石用組成物の製造方法>>
本実施形態のボンド磁石用組成物の製造方法では、Sm-Fe-N系磁石粉末、熱可塑性樹脂バインダとしてポリアミドエラストマー及びポリアミド樹脂、並びに必要に応じて、炭素繊維、カルボン酸エステル、酸化防止剤等の成分を所定量秤量して、これら各成分を撹拌混合機等の混合機で混合した後、混練装置を用いて混練する。磁石粉末、熱可塑性樹脂バインダ及びその他成分の詳細については先述したとおりである。
【0061】
原料配合の際、熱可塑性樹脂バインダ中のポリアミドエラストマーとポリアミド樹脂の合計量に対するポリアミドエラストマーの配合比率を50質量%以上80質量%以下とする。また、原料中の磁石粉末の配合割合を、好ましくは88.0質量%以上91.0質量%以下とする。
【0062】
混合及び混練時に加える熱可塑性樹脂バインダ(ポリアミドエラストマー、及びポリアミド樹脂)の形状は、特に限定されない。例えば、パウダー状、ビーズ状、ペレット状等の種々の形状のものを用いることができる。その中でも、磁石粉末と均一に混合させる観点から、パウダー状が好ましい。
【0063】
原料の混合及び混練は公知の手法で行えばよい。混練装置として、特に限定されず、例えばバッチ式のニーダーや連続式の押出機を用いることができる。混練に際して、混練装置内で混練中の組成物に加わるせん断力をコントロールすることが好ましい。例えばニーダーを用いる場合には、温度、原料の混合槽への投入量、ニーディングブレード回転数、あるいは混練時間等の条件を調整することで、せん断力をコントロールできる。また、連続押出機を用いる場合には、温度分布、原料投入速度、スクリューセグメント形状、スクリュー回転数、ダイ穴径等の条件を調整することで、せん断力をコントロールできる。
【0064】
混合及び混練は、磁石粉末、熱可塑性樹脂バインダ、及び添加剤などの原料が適度に均一分散されるように行うことが望ましい。バッチ式で混合及び混練を行う場合には、目視で分散状態を確認することができる。また、著しく長時間混練すると組成物が過度に増粘する恐れがある。したがって、増粘が過度に進行しない範囲で混練を完了することが望ましい。
【0065】
混練は、熱可塑性樹脂バインダの融点以上250℃以下の温度で行うのが好ましい。混練温度が融点未満であると、組成物の流動性が低下して原料の均一分散を図ることが困難になる。また、混練温度が過度に高いと、ポリアミドエラストマーとポリアミド樹脂が相溶して所望の微細構造を得ることが困難になる。さらに、磁石粉末が酸化して磁気特性低下につながるという問題も生じる。混練温度は180℃以上220℃以下がより好ましい。
【0066】
なお、本実施形態のボンド磁石用組成物は、限定される訳ではないが、原料を一度に混合及び混練して製造することが可能である。すなわち、磁石粉末と熱可塑性樹脂バインダ(ポリアミドエラストマー、ポリアミド樹脂)を一括混合及び混練して製造できる。そのため、例えば、磁石粉末とポリアミドエラストマーを混練した後にポリアミド樹脂を加えて再混練するといった複数回混練を行う必要はない。一括混合及び混練しても、流動性及び耐冷熱衝撃性に優れる組成物を得ることができる。ただし、製造操作上の必要性の観点から、複数回混練してもよい。
【0067】
<<3.ボンド磁石>>
本実施形態のボンド磁石は、上述したボンド磁石用組成物の成形体を備える。すなわち、ボンド磁石用組成物を成形してボンド磁石が作製される。具体的には、ボンド磁石用組成物を、その構成成分である樹脂バインダの融点以上の温度で加熱溶融した後に、得られた溶融物を成形することでボンド磁石が作製される。成形は、射出成形法、押出成形法、又は圧縮成形法等の公知の手法で行えばよい。磁場中で成形すれば異方性ボンド磁石を得ることができ、無磁場中で成形すれば等方性ボンド磁石を得ることができる。ポリアミド12樹脂を用いた場合には、加熱溶融温度は、好ましくは180℃以上250℃以下、より好ましくは200℃以上220℃以下の範囲内である。
【0068】
上述した成形法の中でも、特に射出成形法でボンド磁石を成形することが好ましい。射出成形法では、成形体であるボンド磁石の形状自由度が大きく、しかもボンド磁石の表面性状及び磁気特性が優れたものになる。そのため、得られたボンド磁石をそのまま電子部品の一部品として組み込むことができる。上述したボンド磁石用組成物は、流動性が良好であり射出成形での成形性に優れるため、容易にボンド磁石を成形することができる。また射出成形に際してウェルド等の外観不良の発生を効果的に防ぐことができる。
【0069】
本実施形態のボンド磁石は、組成物由来の微細構造を有している。すなわち、ボンド磁石に含まれるサマリウム-鉄-窒素系磁石粉末を構成する複数の粒子の少なくとも一部は、ポリアミド樹脂を主成分とする樹脂層により取り囲まれ、この樹脂層により取り囲まれる複数の粒子の間隙にポリアミドエラストマーを主成分とするマトリックス樹脂が存在する。このような特有の微細構造(海島構造)を有するボンド磁石は、その構造に依拠して、特に耐冷熱衝撃性に優れるという特徴がある。
【0070】
本実施形態のボンド磁石は、磁気特性に優れるとともに、耐冷熱衝撃性に優れ、割れが発生しにくい。そのため機械的強度に優れている。このボンド磁石は、例えば電子機器用モーター部品等の小型で扁平な複雑形状品に用いられる。また大量生産が可能で、後加工が不要となり、さらにインサート成形可能といった特徴を有している。このようなボンド磁石は、特に金属材料との一体成形部品に好適に用いられる。
【0071】
得られたボンド磁石は、使用する前に着磁することが望ましい。着磁には、静磁場を発生する電磁石やパルス磁場を発生するコンデンサー着磁機等が用いられる。着磁磁場、すなわち着磁時の磁場強度は、磁石粉末の種類によって若干異なるため、これを一概に決めることはできない。例えば1200kA/m(15kOe)以上とし、好ましくは2400kA/m(30kOe)以上とする。
【0072】
また、ボンド磁石は、ボンド磁石用組成物の成形体のみで構成されてもよく、あるいは表面層などの他の部材を備えてもよい。
【0073】
<<4.一体成形部品>>
本実施形態の一体成形部品は、上述したボンド磁石と金属部品とを備える。上述したボンド磁石は、接着剤等を介した接着やインサート成形等の手法で金属部品と組み合わせて一体化でき、それにより一体成形部品を作製することができる。一体成形部品は公知の方法で作製することができる。例えば、ボンド磁石と金属部品の接着面に所定の接着剤を塗布した後に圧着し、常温で12~24時間保持することによって作製できる。
【0074】
一般的なボンド磁石材料は、その線膨張係数が金属部品とは異なる。そのためこのボンド磁石材料を用いて一体成形部品を作製して冷熱衝撃試験に供すると、ボンド磁石に割れが発生しやすい。これに対して、本実施形態のボンド磁石は、機械的強度が高いとともに耐冷熱衝撃性に優れるため、一体成形部品においてボンド磁石の割れ発生を効果的に防ぐことができる。また本実施形態のボンド磁石は、例えばエポキシ系接着剤等の接着剤を介して接着させて一体成形部品としたときに、接着力を弱めることなく、金属部品に対する優れた接着力を付与することができる。
【実施例0075】
本発明を、以下の実施例及び比較例を用いて更に詳細に説明する。しかしながら、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0076】
(1)ボンド磁石用組成物及びボンド磁石の作製
[実施例1]
磁石粉末として平均粒径が2.3μmのサマリウム-鉄-窒素(Sm-Fe-N;SFN)系磁石粉末(住友金属鉱山株式会社製)を90.0質量%、ポリアミドエラストマーとポリアミド12樹脂とで構成される樹脂バインダを8.2質量%、強化剤として繊維径11μmの炭素繊維(Cファイバー)を1.0質量%、及び添加剤としてセバシン酸エステルを0.8質量%の割合となるよう秤量した後に撹拌混合機で混合し、さらに連続押出機を使用して200℃で混練を行って、ボンド磁石用組成物を作製した。ポリアミドエラストマーは、その引っ張り破断伸びが530%であり且つ曲げ弾性率が130MPaであった。ポリアミド12樹脂は、その重量平均分子量Mwが5300であった。また、樹脂バインダ中のポリアミドエラストマーの比率(エラストマー比)は65質量%であった。
【0077】
なお磁石粉末の平均粒径は次のようにして測定した。まず磁石粉末を走査型電子顕微鏡(日本電子株式会社、JSM-IT200;SEM)を用いて観察してSEM像を得た。観察は2000倍以上の倍率で行った。次いで、得られたSEM像において1000個の粒子について画像解析を行って体積基準の粒度分布を求めた。そして、得られた粒度分布から累積50%径(xd50)を平均粒径として求めた。
【0078】
ポリアミドエラストマーの引っ張り破断伸びはISO527で定められた方法により測定し、曲げ弾性率はISO178で定められた方法により測定した。またポリアミド12樹脂の重量平均分子量Mwは、分析装置:GPC-104(昭光サイエンティフィック株式会社製)RI検出器を用いて測定した。具体的には、ヘキサフルオロイソプロパノールを溶離液とし、分析装置を用いて計測された値を、ポリメチルメタクリレートで換算した値を重量平均分子量として求めた。
【0079】
次いで、ボンド磁石用組成物を射出成形してリング形状のボンド磁石を作製した。射出成形は、成形温度220℃、ピンポイントゲート4点の条件で行った。得られたボンド磁石は、外径が32mm及び内径が30mmで高さが20mmの寸法を有していた。
【0080】
[実施例2]
樹脂バインダ(ポリアミドエラストマー及びポリアミド12樹脂)の配合割合を7.2質量%に、強化剤(遷移径11μmの炭素繊維)の配合割合を2.0質量%にそれぞれ変更した。それ以外は実施例1と同様の手順でボンド磁石用組成物及びボンド磁石を作製した。
【0081】
[実施例3]
樹脂バインダ(ポリアミドエラストマー及びポリアミド12樹脂)の配合割合を8.7質量%に、強化剤(遷移径11μmの炭素繊維)の配合割合を0.5質量%にそれぞれ変更した。それ以外は実施例1と同様の手順でボンド磁石用組成物及びボンド磁石を作製した。
【0082】
[実施例4]
樹脂バインダ(ポリアミドエラストマー及びポリアミド12樹脂)の配合割合を8.0質量%に、添加剤(セバシン酸エステル)の配合割合を1.0質量%にそれぞれ変更した。それ以外は実施例1と同様の手順でボンド磁石用組成物及びボンド磁石を作製した。
【0083】
[実施例5]
樹脂バインダ(ポリアミドエラストマー及びポリアミド12樹脂)の配合割合を8.7質量%に、添加剤(セバシン酸エステル)の配合割合を0.3質量%にそれぞれ変更した。それ以外は実施例1と同様の手順でボンド磁石用組成物及びボンド磁石を作製した。
【0084】
[実施例6]
磁石粉末(平均粒径が2.3μmのSFN系磁石粉末)の配合割合を91.0質量%に、樹脂バインダ(ポリアミドエラストマー及びポリアミド12樹脂)の配合割合を7.2質量%にそれぞれ変更した。それ以外は実施例1と同様の手順でボンド磁石用組成物及びボンド磁石を作製した。
【0085】
[実施例7]
磁石粉末(平均粒径が2.3μmのSFN系磁石粉末)の配合割合を88.0質量%に、樹脂バインダ(ポリアミドエラストマー及びポリアミド12樹脂)の配合割合を10.2質量%にそれぞれ変更した。それ以外は実施例1と同様の手順でボンド磁石用組成物及びボンド磁石を作製した。
【0086】
[実施例8]
磁石粉末として、平均粒径が1.8μmのSFN系磁石粉末(住友金属鉱山株式会社製)を使用した。それ以外は実施例1と同様の手順でボンド磁石用組成物及びボンド磁石を作製した。
【0087】
[実施例9]
磁石粉末として、平均粒径が3.3μmのSFN系磁石粉末(住友金属鉱山株式会社製)を使用した。それ以外は実施例1と同様の手順でボンド磁石用組成物及びボンド磁石を作製した。
【0088】
[実施例10]
樹脂バインダ(ポリアミドエラストマー及びポリアミド12樹脂)中のポリアミドエラストマーの比率(エラストマー比)を57質量%に変更した。それ以外は実施例1と同様の手順でボンド磁石用組成物及びボンド磁石を作製した。
【0089】
[実施例11]
樹脂バインダ(ポリアミドエラストマー及びポリアミド12樹脂)中のポリアミドエラストマーの比率(エラストマー比)を74質量%に変更した。それ以外は実施例1と同様の手順でボンド磁石用組成物及びボンド磁石を作製した。
【0090】
[比較例1]
樹脂バインダをポリアミドエラストマーのみで構成した。すなわち、樹脂バインダ(ポリアミドエラストマー及びポリアミド12樹脂)中のポリアミドエラストマーの比率(エラストマー比)を100質量%に変更した。それ以外は実施例1と同様の手順でボンド磁石用組成物及びボンド磁石を作製した。
【0091】
[比較例2]
樹脂バインダ(ポリアミドエラストマー及びポリアミド12樹脂)中のポリアミドエラストマーの比率(エラストマー比)を85質量%に変更した。それ以外は実施例1と同様の手順でボンド磁石用組成物及びボンド磁石を作製した。
【0092】
[比較例3]
樹脂バインダ(ポリアミドエラストマー及びポリアミド12樹脂)中のポリアミドエラストマーの比率(エラストマー比)を25質量%に変更した。それ以外は実施例1と同様の手順でボンド磁石用組成物及びボンド磁石を作製した。
[比較例4]
樹脂バインダをポリアミド12樹脂のみで構成した。すなわち、樹脂バインダ(ポリアミドエラストマー及びポリアミド12樹脂)中のポリアミドエラストマーの比率(エラストマー比)を0質量%に変更した。それ以外は実施例1と同様の手順でボンド磁石用組成物及びボンド磁石を作製した。
【0093】
(2)評価
実施例1~11及び比較例1~4で得られたボンド磁石用組成物について、各種特性の評価を以下のとおり行った。
【0094】
<流動性>
ボンド磁石用組成物の流動性(Q値)を、メルトインデクサーフローテスター(株式会社島津製作所、CTF-100D)を用いて測定した。測定は、キャピラリー温度250℃、荷重588N、オリフィス直径1mm、オリフィス長さ1mm、予熱時間300秒の条件で行った。
【0095】
<AFM観察>
ボンド磁石の断面を原子間力顕微鏡(AFM)で観察して、微細構造を評価した。具体的には、まず、クロスセクションポリシャ―を用いてArイオンエッチングによる断面加工をボンド磁石に施した。その後、得られた断面をAFMで観察して、弾性率像(AFM像)を得た。この際、測定範囲を10μm×10μm、測定点数を512×512とし、ピークフォースタッピングモードで測定を行った。得られた弾性率像から海島構造の有無を確認し、以下の基準にしたがって判定した。
【0096】
〇:海島構造有り
×:海島構造無し
【0097】
<冷熱衝撃試験A(ヒートショック)>
ボンド磁石の冷熱衝撃試験耐久性を評価した。まず、ボンド磁石(外径が32mm及び内径が30mmで高さが20mm)を、外径が34mm及び内径が32mmで高さが22mmの鉄製リングの内側にエポキシ系樹脂を用いて接着して一体成形部品を作製した。
【0098】
次いで、得られた一体成形部品を常温で24時間保持した後、-40℃30分~+100℃30分を1サイクルとした熱衝撃試験を行った。200サイクル後に、一体成形部品のボンド磁石を倍率20倍の光学顕微鏡で観察し、ボンド磁石にひび割れ等の欠陥が発生していないかどうかを確認した。5個の試験サンプルについて評価を行い、以下の基準にしたがって、冷熱衝撃試験耐久性(ヒートショック)を判定した。
【0099】
〇:200サイクル後に欠陥発生数が0個
×:200サイクル後に欠陥発生数が1個以上
【0100】
<冷熱衝撃試験B(ヒートショック)>
冷熱衝撃試験Bでは、冷熱衝撃性Aとは異なる条件で冷熱衝撃試験を行った。具体的には、冷熱衝撃試験Aと同様の手法で一体成型部品を作製した。
【0101】
次いで、得られた一体成形部品を常温で24時間保持した後、-40℃30分~+90℃30分を1サイクルとした熱衝撃試験を行った。600サイクル後に、一体成形部品のボンド磁石を倍率20倍の光学顕微鏡で観察し、ボンド磁石にひび割れ等の欠陥が発生していないかどうかを確認した。5個の試験サンプルについて評価を行い、以下の基準にしたがって、冷熱衝撃試験耐久性(ヒートショック)を判定した。
【0102】
〇:600サイクル後に欠陥発生数が0個
×:600サイクル後に欠陥発生数が1個以上
【0103】
(3)評価結果
実施例1~11及び比較例1~4について得られた評価結果を下記表1及び表2に示す。また、実施例1で得られたAFM像を
図1に示す。
【0104】
エラストマー比を50質量%以上80質量%以下として作製した実施例1~11のサンプルでは、AFM像において、SFN粉末を構成する粒子の表面にポリアミド12樹脂を主成分とする樹脂層が存在し、その周囲にポリアミドエラストマーを主成分とするマトリックス樹脂が存在する構造、つまり海島構造が観察された。また、冷熱衝撃試験A及びBのいずれにおいても、欠陥発生が見られず、耐冷熱衝撃性に優れていた。その上、流動性(Q値)が1.5cm3/g以上と高く、成形性に優れていた。
【0105】
これに対して、エラストマー比を過度に高くして作製した比較例1及び2のサンプルでは海島構造は確認されなかった。また、冷熱衝撃試験Bでは欠陥が発生しなかったものの、より条件の厳しい冷熱衝撃試験Aで欠陥が発生した。一方で、エラストマー比を過度に低くして作製した比較例3及び4のサンプルでも海島構造は確認されなかった。また、冷熱砲撃試験Aで欠陥が発生した。さらに、流動性(Q値)が1.0未満と低かった。
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以上の結果より、本実施形態のボンド磁石用組成物によれば、耐冷熱衝撃性に特に優れたボンド磁石を得ることが可能と分かった。
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