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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024142988
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】移動式レーザ表面処理装置
(51)【国際特許分類】
   B23K 26/36 20140101AFI20241003BHJP
   B23K 26/082 20140101ALI20241003BHJP
【FI】
B23K26/36
B23K26/082
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023055423
(22)【出願日】2023-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】柵山 慶太
(72)【発明者】
【氏名】佐川 正彦
(72)【発明者】
【氏名】梅野 和行
(72)【発明者】
【氏名】西潟 由博
(72)【発明者】
【氏名】西井 諒介
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 愛実
【テーマコード(参考)】
4E168
【Fターム(参考)】
4E168AD18
4E168CB03
4E168CB04
4E168DA02
4E168DA03
4E168DA32
4E168EA15
4E168EA17
(57)【要約】
【課題】例えば、より小型にあるいはより軽量に構成することが可能となるような、改善された新規な移動式レーザ表面処理装置を得る。
【解決手段】移動式レーザ表面処理装置は、例えば、レーザ光を出力するレーザ装置と、レーザ装置が出力したレーザ光を物体の表面に照射する光学ヘッドと、光学ヘッドに含まれレーザ光を表面上で走査可能なレーザスキャナと、物体に対する光学ヘッドの位置を変更可能な移動機構と、を備え、表面にレーザ光を照射して当該表面の処理を行う移動式レーザ表面処理装置であって、レーザスキャナは、光学ヘッドから出力されたレーザ光のビームが、表面と交差した仮想平面内のみで往復移動するよう構成される。移動機構は、仮想平面と交差した第一方向における光学ヘッドの位置を変更可能に構成されてもよい。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ光を出力するレーザ装置と、
前記レーザ装置が出力した前記レーザ光を物体の表面に照射する光学ヘッドと、
前記光学ヘッドに含まれ前記レーザ光を前記表面上で走査可能なレーザスキャナと、
前記物体に対する前記光学ヘッドの位置を変更可能な移動機構と、
を備え、前記表面にレーザ光を照射して当該表面の処理を行う移動式レーザ表面処理装置であって、
前記レーザスキャナは、前記光学ヘッドから出力された前記レーザ光のビームが、前記表面と交差した仮想平面内のみで往復移動するよう構成された、移動式レーザ表面処理装置。
【請求項2】
前記移動機構は、前記仮想平面と交差した第一方向における前記光学ヘッドの位置を変更可能に構成された、請求項1に記載の移動式レーザ表面処理装置。
【請求項3】
前記移動機構は、前記表面に略沿い前記第一方向と交差した第二方向における前記光学ヘッドの位置を変更可能に構成された、請求項2に記載の移動式レーザ表面処理装置。
【請求項4】
前記移動機構は、前記表面と交差した第三方向における前記光学ヘッドの位置を変更可能に構成された、請求項1~3のうちいずれか一つに記載の移動式レーザ表面処理装置。
【請求項5】
前記移動機構は、前記光学ヘッドを空中で移動可能かつホバリング可能とする飛翔機構である、請求項1~3のうちいずれか一つに記載の移動式レーザ表面処理装置。
【請求項6】
前記仮想平面が鉛直方向と交差するよう構成された、請求項5に記載の移動式レーザ表面処理装置。
【請求項7】
前記移動機構は、前記表面に略沿って延びて前記光学ヘッドを移動可能に支持する長尺部を有し、当該長尺部の長手方向における前記光学ヘッドの位置を変更可能に構成された、請求項1~3のうちいずれか一つに記載の移動式レーザ表面処理装置。
【請求項8】
前記移動機構は、前記長尺部の軸の周方向における前記光学ヘッドの位置を変更可能に構成された、請求項7に記載の移動式レーザ表面処理装置。
【請求項9】
前記長尺部は、レールであり、
前記移動機構は、前記光学ヘッドの前記レールの長手方向に沿う位置を変更可能に構成された、請求項7に記載の移動式レーザ表面処理装置。
【請求項10】
前記長尺部は、シャフトであり、
前記移動機構は、前記光学ヘッドの前記シャフトの軸方向に沿う位置および前記シャフトの周方向に沿う位置を変更可能に構成された、請求項8に記載の移動式レーザ表面処理装置。
【請求項11】
前記移動機構は、前記仮想平面と交差した第一方向における前記光学ヘッドの位置が、前記レーザスキャナの一往復あたり、前記表面における前記レーザ光のスポット径と略同じ距離だけ変化するよう、前記光学ヘッドを移動する、請求項1~3のうちいずれか一つに記載の移動式レーザ表面処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、移動式レーザ表面処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、レーザ光の照射によって構造物の表面の塗膜や付着物を除去する方法が知られている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第5574354号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1には、表面にレーザ光を照射して当該表面の塗膜を除去する、可搬型のレーザ表面処理装置が開示されている。
【0005】
可搬型のレーザ表面処理装置によって表面処理を行う場合、作業者は、処理対象となる表面の比較的近くに位置する必要があるため、作業者が表面に近づき難いような状況では、可搬型のレーザ表面処理装置は使用できない虞がある。
【0006】
そのような場合、電気的な制御により移動する移動式レーザ表面処理装置を用いれば良いが、その場合、装置のサイズや重量が大きいと、適用する場面が制限される虞がある。
【0007】
そこで、本発明の課題の一つは、例えば、より小型にあるいはより軽量に構成することが可能となるような、改善された新規な移動式レーザ表面処理装置を得ること、である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の移動式レーザ表面処理装置は、例えば、レーザ光を出力するレーザ装置と、前記レーザ装置が出力した前記レーザ光を物体の表面に照射する光学ヘッドと、前記光学ヘッドに含まれ前記レーザ光を前記表面上で走査可能なレーザスキャナと、前記物体に対する前記光学ヘッドの位置を変更可能な移動機構と、を備え、前記表面にレーザ光を照射して当該表面の処理を行う移動式レーザ表面処理装置であって、前記レーザスキャナは、前記光学ヘッドから出力された前記レーザ光のビームが、前記表面と交差した仮想平面内のみで往復移動するよう構成される。
【0009】
前記移動式レーザ表面処理装置では、前記移動機構は、前記仮想平面と交差した第一方向における前記光学ヘッドの位置を変更可能に構成されてもよい。
【0010】
前記移動式レーザ表面処理装置では、前記移動機構は、前記表面に略沿い前記第一方向と交差した第二方向における前記光学ヘッドの位置を変更可能に構成されてもよい。
【0011】
前記移動式レーザ表面処理装置では、前記移動機構は、前記表面と交差した第三方向における前記光学ヘッドの位置を変更可能に構成されてもよい。
【0012】
前記移動式レーザ表面処理装置では、前記移動機構は、前記光学ヘッドを空中で移動可能かつホバリング可能とする飛翔機構であってもよい。
【0013】
前記移動式レーザ表面処理装置では、前記仮想平面が鉛直方向と交差するよう構成されてもよい。
【0014】
前記移動式レーザ表面処理装置では、前記移動機構は、前記表面に略沿って延びて前記光学ヘッドを移動可能に支持する長尺部を有し、当該長尺部の長手方向における前記光学ヘッドの位置を変更可能に構成されてもよい。
【0015】
前記移動式レーザ表面処理装置では、前記移動機構は、前記長尺部の軸の周方向における前記光学ヘッドの位置を変更可能に構成されてもよい。
【0016】
前記移動式レーザ表面処理装置では、前記長尺部は、レールであり、前記移動機構は、前記光学ヘッドの前記レールの長手方向に沿う位置を変更可能に構成されてもよい。
【0017】
前記移動式レーザ表面処理装置では、前記長尺部は、シャフトであり、前記移動機構は、前記光学ヘッドの前記シャフトの軸方向に沿う位置および前記シャフトの周方向に沿う位置を変更可能に構成されてもよい。
【0018】
前記移動式レーザ表面処理装置では、前記移動機構は、前記仮想平面と交差した第一方向における前記光学ヘッドの位置が、前記レーザスキャナの一往復あたり、前記表面における前記レーザ光のスポット径と略同じ距離だけ変化するよう、前記光学ヘッドを移動してもよい。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、例えば、より小型にあるいはより軽量に構成することが可能となるような、改善された新規な移動式レーザ表面処理装置を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1図1は、第1実施形態の移動式レーザ表面処理装置の例示的かつ模式的な側面図である。
図2図2は、第1実施形態の移動式レーザ表面処理装置に含まれるレーザスキャナの例示的かつ模式的な側面図である。
図3図3は、第1実施形態の移動式レーザ表面処理装置に含まれるレーザスキャナの例示的かつ模式的な平面図である。
図4図4は、実施形態の移動式レーザ表面処理装置による物体の表面におけるレーザ光の照射範囲を示す例示的かつ模式的な平面図である。
図5図5は、第2実施形態の移動式レーザ表面処理装置の例示的かつ模式的な背面図である。
図6図6は、第2実施形態の移動式レーザ表面処理装置の例示的かつ模式的な側面図である。
図7図7は、第3実施形態の移動式レーザ表面処理装置の例示的かつ模式的な背面図である。
図8図8は、第3実施形態の移動式レーザ表面処理装置の例示的かつ模式的な平面図である。
図9図9は、第3実施形態の変形例の移動式レーザ表面処理装置の一部の例示的かつ模式的な平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の例示的な実施形態および変形例が開示される。以下に示される実施形態および変形例の構成、ならびに当該構成によってもたらされる作用および結果(効果)は、一例である。本発明は、以下の実施形態および変形例に開示される構成以外によっても実現可能である。また、本発明によれば、構成によって得られる種々の効果(派生的な効果も含む)のうち少なくとも一つを得ることが可能である。
【0022】
以下の実施形態および変形例は、同様の構成要素を有している。以下では、それら同様の構成要素については、共通の符号を付与するとともに、重複する説明を省略する場合がある。
【0023】
また、本明細書において、序数は、方向や、部位、部材等を区別するために便宜上付与されうるものである。また、序数は、優先順位や順番を示すものではないし、数を特定するものでもない。
【0024】
[第1実施形態]
図1は、第1実施形態の移動式レーザ表面処理装置100A(100)の側面図である。本実施形態の移動式レーザ表面処理装置100Aは、ドローンとして構成されている。また、本実施形態では、例えば、対象物200は、上下方向に略沿って延びた壁であり、表面200aは、壁面であるが、これには限定されない。
【0025】
移動式レーザ表面処理装置100は、対象物200の表面200aにレーザ光Lを照射して、表層を除去する。適切な条件下でレーザ光Lを照射することにより、表面200a上の、レーザ光Lが照射された場所およびその近傍において、当該レーザ光Lのエネルギによってレーザアブレーションが生じ、表層が薄く除去される。この際、対象物200の表面200aを含む母材を構成する材料とともに、当該表面200a上の汚れや錆、塗膜、塗料等の塗布物等が除去される。
【0026】
対象物200は、例えば、建物や、建造物、建築物、建材、製品、部品、物体等、多岐に亘る。また、対象物200を構成する材料は、例えば、金属や、コンクリート、モルタル等であるが、これらには限定されない。対象物200は、物体の一例である。
【0027】
移動式レーザ表面処理装置100は、筐体10と、レーザ装置20と、光学ヘッド30と、移動機構40A(40)と、を備えている。
【0028】
筐体10は、レーザ装置20や、光学ヘッド30の他、移動機構40の電源や駆動回路等を収容している。
【0029】
レーザ装置20は、レーザ発振器を備えており、一例としては、6000[W]のパワーのレーザ光を出力できるよう構成されている。レーザ発振器は、レーザ装置の一例である。レーザ発振器が出力するレーザ光の波長は、例えば、400[nm]以上かつ1200[nm]以下である。
【0030】
光学ヘッド30は、レンズや、ミラー、フィルタのような光学部品を有している。光学ヘッド30には、レーザ装置20が出力したレーザ光が入力される。レーザ装置20と光学ヘッド30との間には図示しない光ファイバが介在してもよい。その場合、レーザ装置20が出力したレーザ光は、光ファイバを経由して光学ヘッド30に入力される。光学ヘッド30に入力されたレーザ光は、光学ヘッド30内の光学部品によって、適宜コリメートされたり、集光されたりして、当該光学ヘッド30から出力される。光学ヘッド30から出力されたレーザ光Lが、表面200aに照射される。
【0031】
なお、レーザ装置20と光学ヘッド30とは、同じ筐体10内に収容されているが、このような構成には限定されず、例えば、レーザ装置20は、光学ヘッド30が収容された筐体に対して離れて設けられてもよい。この場合、レーザ装置20と、光学ヘッド30とは、ケーブル内に収容された光ファイバによって光学的に接続される。
【0032】
移動機構40A(40)は、レーザ光Lを出力する光学ヘッド30を有した筐体10の位置を、変更することができ、ひいては、表面200aにおけるレーザ光Lの照射位置を変更することができる。
【0033】
移動機構40Aは、本実施形態では、当該筐体10を空中で移動可能かつホバリング可能とする飛翔機構である。移動機構40Aは、複数のロータ40aを有している。移動機構40Aは、空中移動機構とも称されうる。
【0034】
また、光学ヘッド30は、例えば、ガルバノスキャナのようなレーザスキャナ31を有している。図2は、レーザスキャナ31の側面図であり、図3は、レーザスキャナ31の平面図である。
【0035】
図2,3に示されるように、レーザスキャナ31は、揺動モータ31aと、シャフト31bと、ミラー31cと、を有している。揺動モータ31aは、図示しない制御装置により電気的に制御され、シャフト31bをZ方向に略沿う軸Axm回りに揺動する。シャフト31bには、ミラー31cが取り付けられており、シャフト31bの軸Axm回りの揺動に伴って、ミラー31cも当該軸Axm回りに揺動する。
【0036】
図2に示されるように、本実施形態では、レーザ装置20から出力され光学部品を経由したレーザ光Lが、ミラー31cに対してZ方向の反対方向に入射する。ミラー31cは、レーザ光Lを、Z方向と交差するとともに直交する方向に反射する。そして、図3に示されるように、ミラー31cの軸Axm回りの揺動により、レーザ光Lは、ミラー31cが位置P1に位置した状態で反射した方向D1と、ミラー31cが位置P2に位置した状態で反射した方向D2との間で、揺動する。レーザ光Lは、仮想平面Pvに沿った略扇形の範囲で、反復的に走査される。すなわち、レーザスキャナ31は、表面200aにおいて、レーザ光Lを走査することができる、言い換えると、レーザ光Lの照射位置を変更することができる。仮想平面Pvは、Z方向と交差する。Z方向は、第一方向の一例である。
【0037】
本実施形態では、レーザスキャナ31は、レーザ光Lを一つの軸Axm回りに揺動する、所謂1軸走査型のスキャナとして構成されている。すなわち、レーザスキャナ31により、レーザ光Lのビームは、仮想平面Pv内のみで往復移動することになる。1軸走査型のレーザスキャナ31は、例えば2軸走査型のようなより揺動軸の多い多軸走査型のレーザスキャナ31に比べて、より小型にかつより軽量に構成することができる。したがって、本実施形態のように、光学ヘッド30を有した筐体10を移動して表面200aにおけるレーザ光Lの照射位置を変更する移動式レーザ表面処理装置100にあっては、例えば、移動式レーザ表面処理装置100を全体的により小さくかつより軽量に構成できたり、それに伴って光学ヘッド30の位置の変更に要するエネルギをより小さくすることができたり、当該光学ヘッド30の移動速度をより速くすることができたり、といった効果が得られる。なお、レーザスキャナ31は、レーザ光Lを一つの軸Axm回りに揺動する、所謂1軸走査型のスキャナとして構成されるものであれば何でもよく、ガルバノスキャナには限定されない。
【0038】
また、図4は、表面200a上でのレーザ光Lのスポットの走査経路Ptを示す当該表面200aの平面図である。表面200a上でレーザ光Lのスポットが揺動、すなわち往復移動するためには、仮想平面Pvが表面200aと交差し、レーザ光Lの揺動方向、すなわち軸Axmの周方向の両端部に位置するレーザ光Lの双方が表面200aに照射されるよう、設定すればよい。さらに、この場合において、移動機構40によって、筐体10すなわち光学ヘッド30の、当該仮想平面Pvと交差する方向すなわちZ方向における位置を変更することにより、表面200a上に、図4に示されるように、2次元的に広がった照射領域A、すなわち処理領域を、確保することができる。
【0039】
具体的に、図4の例では、レーザスキャナ31の作動により、レーザ光LのスポットSは、位置Y1と位置Y2との間で往復する。また、移動機構40の作動により、レーザ光のスポットSは、Y方向と交差したZ方向に移動する。そして、レーザスキャナ31の作動によってスポットSが位置Y1と位置Y2との間を1往復する間に、当該スポットSが当該スポットSの直径Dsと同じ距離Dだけ移動するよう、筐体10すなわち光学ヘッド30をZ方向に等速で移動する。これにより、走査経路Ptにおいて、スポットSは、Y方向およびZ方向に対して傾斜して直線状に移動することとなり、表面200a上に、幅Wでジグザグに折り返す走査経路Ptが形成される。
【0040】
このようなレーザスキャナ31および移動機構40の共働により、表面200a上の所定範囲を塗りつぶすように2次元的に広がった照射領域Aを形成することができる。図4の照射領域Aでは、Z方向における両端部を除き、全箇所において、略2回ずつレーザ光Lが照射されることになる。よって、このような作動によれば、表面200aにおける処理状態のばらつきを抑制することができる。なお、表面200aのより広い範囲に対して処理を行う場合、表面200a上で照射領域Aの位置を変更して、同様の処理を実行すればよい。この場合、移動機構40により、筐体10すなわち光学ヘッド30をY方向に移動すればよい。Y方向は、第二方向の一例である。
【0041】
発明者の鋭意研究によれば、一例として、スポットSの直径Dsを、3[mm]とし、スポットSの走査速度を、10[m/s]とし、幅Wを、0.5[m]とし、筐体10のZ方向における移動速度を、30[mm/s]とすることにより、図4に示されるような照射領域Aを形成できることが判明している。
【0042】
また、ドローンは、横方向への位置の制御精度よりも、上下方向すなわち略鉛直方向に沿った位置の制御精度が高いという特性がある。このため、本実施形態のように、移動式レーザ表面処理装置100Aがドローンとして構成される場合、軸Axmが延びるZ方向を上下方向に略沿うように設定すればよい。言い換えると、仮想平面Pvを、鉛直方向と交差するように設定すればよい。その上で、レーザスキャナ31の作動により表面200a上でレーザ光Lのスポットが横方向に往復し、移動機構40Aの制御によりレーザ光Lの照射位置を上下方向に動かすことにより、表面200aにおける処理状態のばらつきをより一層抑制することができる。
【0043】
以上、説明したように、本実施形態によれば、光学ヘッド30が所謂1軸走査型のレーザスキャナ31を有するため、光学ヘッド30、当該光学ヘッド30を有した筐体10、ひいては移動式レーザ表面処理装置100をより小型にあるいはより軽量に構成することができる。また、移動機構40がレーザスキャナ31によってレーザ光Lが揺動する仮想平面Pvと交差する方向に当該光学ヘッド30を移動することができるため、表面200aに、2次元的に広がった照射領域Aを形成することができる。
【0044】
なお、移動機構40は、表面200aと交差するX方向において、筐体10すなわち光学ヘッド30を移動してもよい。これにより、例えば、実際の処理状況等に応じて、表面200a上でのレーザ光LのスポットSのサイズを変更できたり、レーザ光Lによる表面200a上でのエネルギ密度を変更できたり、といった効果が得られる。X方向は、第三方向の一例である。
【0045】
[第2実施形態]
図5は、第2実施形態の移動式レーザ表面処理装置100B(100)の背面図であり、図6は、当該移動式レーザ表面処理装置100B(100)の側面図である。
【0046】
本実施形態では、対象物200は、例えば水道管や、ガス管、電線管のような管であり、表面200aは、管の内面である。すなわち、表面200aは、図5,6中のDa方向に延びた軸Axsを中心軸とする円筒内面である。なお、本実施形態の説明においては、軸Axsの軸方向、単に軸方向あるいはDa方向とし、軸Axsに対する周方向を単に周方向と記す場合がある。なお、対象物200は、トンネルや、煙突、筒等であってもよいし、穴の内面等であってもよい。
【0047】
このような円筒内面状の表面200aに対応するため、本実施形態の移動式レーザ表面処理装置100Bの移動機構40B(40)は、シャフト41と、インナリング42と、アウタリング43と、ガイドシャフト44と、を有している。
【0048】
シャフト41は、Da方向に延びている。シャフト41の外周には、雄ねじが設けられている。なお、シャフト41の中心軸と表面200aの中心軸とは略一致しているが、必ずしも一致していなくてもよい。シャフト41は、Da方向の片側の端部に設けられたモータ(不図示)によって軸Axs回りに回転する。シャフト41は、図5の軸Axs回りの時計回り方向および反時計回り方向の両方に回転することができ、かつ任意の位置で静止することができるよう構成されている。シャフト41は、長尺部の一例である。
【0049】
インナリング42は、軸Axsと交差するとともに当該軸Axsを中心軸として広がる円盤状の形状を有している。シャフト41は、インナリング42の中央を軸方向に貫通している。インナリング42のシャフト41が貫通する貫通孔の内面には、シャフト41の雄ねじとかみ合う雌ねじが設けられている。シャフト41の雄ねじとインナリング42の雌ねじとは、ねじ構造45を構成している。
【0050】
アウタリング43は、インナリング42の外周に沿って移動可能に、当該インナリング42に支持されている。アウタリング43は、モータや駆動ローラ等を有した不図示の駆動機構を有しており、当該駆動機構の作動により、インナリング42の外周に沿って、図5の軸Axs回りの時計回り方向および反時計回り方向の両方に回転することができ、かつ周方向における任意の位置で静止することができるよう、構成されている。
【0051】
ガイドシャフト44は、シャフト41と略平行に延びており、軸Axsから外れた位置で、インナリング42に設けられた貫通孔42aを、軸方向にスライド可能な状態で貫通している。ガイドシャフト44は、軸方向の両側の端部あるいは片側の端部に設けられた支持部材(不図示)によって、周方向に回転不能な状態に支持されている。
【0052】
シャフト41を軸Axs回りに回転すると、ガイドシャフト44によってインナリング42の軸Axs回りの回転が妨げられているため、ねじ構造45においてシャフト41とインナリング42との間で相対回転が生じ、これにより、インナリング42は、軸方向に移動することになる。シャフト41の軸Axs回りの回転方向を切り換えることにより、インナリング42がDa方向に移動するかDa方向の反対方向に移動するかを切り換えることができ、シャフト41を停止することによりインナリング42を停止することができる。
【0053】
レーザ装置20や光学ヘッド30を有した筐体10は、アウタリング43に固定されている。したがって、移動機構40Bは、シャフト41の軸Axs回りの回転によって軸方向における光学ヘッド30の位置を変更することができるとともに、アウタリング43の軸Axs回りの回転によって周方向における光学ヘッド30の位置を変更することができる。
【0054】
このような移動機構40Bを備えた移動式レーザ表面処理装置100Bにおいて、筐体10は、図5に示されるように、レーザ光Lの仮想平面Pvが周方向に対して交差する姿勢で、アウタリング43と固定されている。この場合、周方向は、第一方向の一例であり、Da方向は、第二方向の一例であり、軸Axsの径方向外方は、第三方向の一例である。
【0055】
したがって、本実施形態の移動式レーザ表面処理装置100Bによれば、制御装置(不図示)によって、筐体10から仮想平面Pv上で揺動するレーザ光Lを出力しながらアウタリング43をインナリング42の周りを周方向における所定の角速度で1周以上回転するように動かすことにより、円筒内面として構成された表面200aにおいて、幅W(図6参照)で軸Axsの周方向に延びた円環状の照射領域Aを形成することができる。なお、アウタリング43は、インナリング42の周りを1周以下の範囲で移動してもよい。
【0056】
また、本実施形態の移動式レーザ表面処理装置100Bによれば、制御装置によって、シャフト41を回転しインナリング42を軸Axsの軸方向に動かすことにより、照射領域Aを軸方向に移動することができ、これにより、円筒内面として構成された表面200aの、広い範囲、一例としては略全域に、レーザ光Lを照射し、表層を除去する処理を行うことができる。
【0057】
[第3実施形態]
図7は、第3実施形態の移動式レーザ表面処理装置100C(100)の背面図であり、図8は、当該移動式レーザ表面処理装置100C(100)の平面図である。
【0058】
本実施形態では、対象物200の表面200aは、Y方向およびZ方向に延びた平面である。
【0059】
このような対象物200の表面200aに対応するため、本実施形態の移動式レーザ表面処理装置100Bの移動機構40C(40)は、レール46と、スライダ47と、を有している。
【0060】
レール46は、Z方向に離れた二箇所で、Y方向に延びている。レール46は、長尺部の一例である。
【0061】
スライダ47は、二つのレール46間で掛け渡されている。スライダ47は、モータや駆動ローラ等を有した不図示の駆動機構を有しており、当該駆動機構の作動により、レール46に沿って、Y方向およびY方向の反対方向に移動することができ、かつY方向における任意の位置で静止することができるよう、構成されている。
【0062】
また、スライダ47は、二つのレール46間で延びたサブレール47aを有している。筐体10は、モータや駆動ローラ等を有した不図示の駆動機構を有しており、当該駆動機構の作動により、サブレール47aに沿って、Z方向およびZ方向の反対方向に移動することができ、かつZ方向における任意の位置で静止することができるよう、構成されている。サブレール47aは、レールの一例であり、長尺部の一例である。
【0063】
このような移動機構40Cを備えた移動式レーザ表面処理装置100Cにおいて、光学ヘッド30を有した筐体10は、図7に示されるように、レーザ光Lの仮想平面PvがZ方向と交差する姿勢で、サブレール47aに支持されている。この場合、Z方向は、第一方向の一例であり、Y方向は、第二方向の一例であり、X方向は、第三方向の一例である。
【0064】
したがって、本実施形態の移動式レーザ表面処理装置100Cによれば、制御装置(不図示)によって、仮想平面Pv上で揺動するレーザ光Lを出力しながら筐体10をサブレール47aに沿って所定速度でZ方向に動かすことにより、図8に示されるように、表面200aにおいて、幅WでZ方向に延びた帯状の照射領域Aを形成することができる。
【0065】
また、本実施形態の移動式レーザ表面処理装置100Bによれば、制御装置によって、スライダ47をレール46に沿ってY方向に移動することにより、照射領域AをY方向に移動することができ、これにより、表面200aのより広い範囲にレーザ光Lを照射し、表層を除去する処理を行うことができる。
【0066】
[第3実施形態の変形例]
図9は、第3実施形態の変形例の移動式レーザ表面処理装置100D(100)の平面図である。図9に示される変形例では、サブレール47aが曲がっている。筐体10がサブレール47aに沿って移動可能であれば、サブレール47aは曲がっていてもよい。また、同様に、スライダ47が移動可能であれば、レール46も曲がっていてもよい。また、サブレール47a、レール46ともに、X方向に沿って曲がっていてもよいし、フレキシブルジョイントを介して連結された複数のレールセグメントを有し任意に変形した形状に設定可能なフレキシブルレールであってもよい。
【0067】
以上、本発明の実施形態および変形例が例示されたが、上記実施形態および変形例は一例であって、発明の範囲を限定することは意図していない。上記実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、組み合わせ、変更を行うことができる。また、各構成や、形状、等のスペック(構造や、種類、方向、型式、大きさ、長さ、幅、厚さ、高さ、数、配置、位置、材質等)は、適宜に変更して実施することができる。
【0068】
例えば、対象物の移動式レーザ表面処理装置の形状、配置、姿勢(方向)等は、上記実施形態には限定されず、適宜に変更して実施することができる。
【0069】
また、レーザスキャナは、ガルバノスキャナには限定されず、例えば、MEMSスキャナのような別のスキャナであってもよい。
【符号の説明】
【0070】
10…筐体
20…レーザ装置
30…光学ヘッド
31…レーザスキャナ
31a…揺動モータ
31b…シャフト
31c…ミラー
40,40A~40C…移動機構
40a…ロータ
41…シャフト(長尺部)
42…インナリング
42a…貫通孔
43…アウタリング
44…ガイドシャフト
45…ねじ構造
46…レール(長尺部)
47…スライダ
47a…サブレール(長尺部)
100,100A~100D…移動式レーザ表面処理装置
200…対象物
200a…表面
A…照射領域
Axm…軸
Axs…軸
D…距離
D1…方向
D2…方向
Da…方向(軸方向、第二方向)
Ds…直径(スポット径)
L…レーザ光
P1,P2…位置
Pt…走査経路
Pv…仮想平面
S…スポット
W…幅
X…方向(第三方向)
Y…方向(第二方向)
Y1,Y2…位置
Z…方向(第一方向)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9