(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024143002
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】水硬性組成物、硬化体、及び水硬性組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
C04B 28/02 20060101AFI20241003BHJP
C04B 14/10 20060101ALI20241003BHJP
C04B 22/10 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
C04B28/02
C04B14/10 B
C04B22/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023055450
(22)【出願日】2023-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】521297587
【氏名又は名称】UBE三菱セメント株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】304027279
【氏名又は名称】国立大学法人 新潟大学
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100145012
【弁理士】
【氏名又は名称】石坂 泰紀
(72)【発明者】
【氏名】福島 悠太
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 貴康
(72)【発明者】
【氏名】大崎 雅史
(72)【発明者】
【氏名】斎藤 豪
【テーマコード(参考)】
4G112
【Fターム(参考)】
4G112MB06
4G112PA06
4G112PB08
(57)【要約】
【課題】カオリン以外の無機鉱物を用いて製造され、かつ十分な圧縮強度発現性を有する、低炭素型の水硬性組成物を提供すること。
【解決手段】吸光光度法により測定される二価の鉄イオンに対する三価の鉄イオンの質量比(Fe3+/Fe2+)が2.0~6.0である無機鉱物のか焼物であり、且つAl2O3の質量に対するSiO2の質量比(SiO2/Al2O3)が0.5~3.0であるか焼無機鉱物を、か焼無機鉱物及びアルカリ刺激材の合計量を基準として10~90質量%、及びアルカリ刺激材を、か焼無機鉱物及びアルカリ刺激材の合計量を基準として90~10質量%含む、水硬性組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸光光度法により測定される二価の鉄イオンに対する三価の鉄イオンの質量比(Fe3+/Fe2+)が2.0~6.0である無機鉱物のか焼物であり、且つAl2O3の質量に対するSiO2の質量比(SiO2/Al2O3)が0.5~3.0であるか焼無機鉱物を、か焼無機鉱物及びアルカリ刺激材の合計量を基準として10~90質量%、及びアルカリ刺激材を、か焼無機鉱物及びアルカリ刺激材の合計量を基準として90~10質量%含む、水硬性組成物。
【請求項2】
前記水硬性組成物が炭酸塩をさらに含み、前記か焼無機鉱物の質量に対する前記炭酸塩の質量比(炭酸塩/か焼無機鉱物)が2.0以下である、請求項1に記載の水硬性組成物。
【請求項3】
前記か焼無機鉱物が、500~950℃でか焼した粘土鉱物である、請求項1又は2に記載の水硬性組成物。
【請求項4】
前記アルカリ刺激材が、ポルトランドセメントを含む、請求項1又は2に記載の水硬性組成物。
【請求項5】
前記か焼無機鉱物が、か焼アロフェン又はか焼ハロイサイトを含む、請求項1又は2に記載の水硬性組成物。
【請求項6】
前記か焼無機鉱物における、前記か焼アロフェン又は前記か焼ハロイサイトの含有量が60質量%以上である、請求項5に記載の水硬性組成物。
【請求項7】
請求項1又は2に記載の水硬性組成物及び水を含むペーストを硬化させてなる、硬化体。
【請求項8】
吸光光度法により測定される二価の鉄イオンに対する三価の鉄イオンの質量比(Fe3+/Fe2+)が2.0~6.0である無機鉱物のか焼物であり、且つAl2O3の質量に対するSiO2の質量比(SiO2/Al2O3)が0.5~3.0であるか焼無機鉱物と、アルカリ刺激材とを混合し、前記か焼無機鉱物を、か焼無機鉱物及びアルカリ刺激材の合計量を基準として10~90質量%、及び前記アルカリ刺激材を、か焼無機鉱物及びアルカリ刺激材の合計量を基準として90~10質量%含む水硬性組成物を調製する調製工程を備える、水硬性組成物の製造方法。
【請求項9】
前記調製工程に先立ち、前記無機鉱物を500~950℃でか焼して前記か焼無機鉱物を得るか焼工程を更に備える、請求項8に記載の製造方法。
【請求項10】
前記無機鉱物が粘土鉱物である、請求項9に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水硬性組成物、硬化体、及び水硬性組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
無機鉱物をか焼して反応性を高め、それを高炉スラグ、フライアッシュ等のセメント混合材の代わりに利用する技術として、LC3(Limestone Calcined Clay Cement)が知られている(例えば、非特許文献1)。このセメントは低炭素セメントと言うことができ、通常のポルトランドセメントと比較して、製造に関連する二酸化炭素排出量(CO2)を削減することができる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Karen Scrivener et al.: Calcined clay limestone cements (LC3), Cement and Concrete Research,Vol.114,pp.49-56 (2018)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記技術に関しては、無機鉱物としてカオリンをか焼したメタカオリンを含む材料について、良好な強度発現性が達成されることが示されている。しかしながらカオリンの産出される地域及び国は限定されるため、カオリンに代わる材料の探索が課題となっている。
【0005】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、カオリン以外の無機鉱物を用いて製造され、かつ十分な圧縮強度発現性を有する、低炭素型の水硬性組成物を提供することを目的とする。本発明はまた、当該水硬性組成物から得られる硬化体、及び当該水硬性組成物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
発明者らは、カオリン以外の材料として、通常はセメントの反応を阻害すると言われるアロフェンといった鉱物に着目をした。そして、そのような鉱物を含む水硬性組成物がカオリンを含む場合と同等又はそれ以上の特性を有する可能性があること、また水硬性組成物を調製する際のアルカリ刺激材としてのセメント配合量を低減できる可能性があることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
本発明の一態様は、以下の[1]~[10]のとおりである。
[1]
吸光光度法により測定される二価の鉄イオンに対する三価の鉄イオンの質量比(Fe3+/Fe2+)が2.0~6.0である無機鉱物のか焼物であり、且つAl2O3の質量に対するSiO2の質量比(SiO2/Al2O3)が0.5~3.0であるか焼無機鉱物を、か焼無機鉱物及びアルカリ刺激材の合計量を基準として10~90質量%、及びアルカリ刺激材を、か焼無機鉱物及びアルカリ刺激材の合計量を基準として90~10質量%含む、水硬性組成物。
[2]
前記水硬性組成物が炭酸塩をさらに含み、前記か焼無機鉱物の質量に対する前記炭酸塩の質量比(炭酸塩/か焼無機鉱物)が2.0以下である、[1]に記載の水硬性組成物。
[3]
前記か焼無機鉱物が、500~950℃でか焼した粘土鉱物である、[1]又は[2]に記載の水硬性組成物。
[4]
前記アルカリ刺激材が、ポルトランドセメントを含む、[1]~[3]のいずれか一に記載の水硬性組成物。
[5]
前記か焼無機鉱物が、か焼アロフェン又はか焼ハロイサイトを含む、[1]~[4]のいずれか一に記載の水硬性組成物。
[6]
前記か焼無機鉱物における、前記か焼アロフェン又は前記か焼ハロイサイトの含有量が60質量%以上である、[5]に記載の水硬性組成物。
[7]
[1]~[6]のいずれか一に記載の水硬性組成物及び水を含むペーストを硬化させてなる、硬化体。
[8]
吸光光度法により測定される二価の鉄イオンに対する三価の鉄イオンの質量比(Fe3+/Fe2+)が2.0~6.0である無機鉱物のか焼物であり、且つAl2O3の質量に対するSiO2の質量比(SiO2/Al2O3)が0.5~3.0であるか焼無機鉱物と、アルカリ刺激材とを混合し、前記か焼無機鉱物を、か焼無機鉱物及びアルカリ刺激材の合計量を基準として10~90質量%、及び前記アルカリ刺激材を、か焼無機鉱物及びアルカリ刺激材の合計量を基準として90~10質量%含む水硬性組成物を調製する調製工程を備える、水硬性組成物の製造方法。
[9]
前記調製工程に先立ち、前記無機鉱物を500~950℃でか焼して前記か焼無機鉱物を得るか焼工程を更に備える、[8]に記載の製造方法。
[10]
前記無機鉱物が粘土鉱物である、[9]に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、カオリン以外の無機鉱物を用いて製造され、かつ十分な圧縮強度発現性を有する、低炭素型の水硬性組成物を提供することができる。また、本発明によれば、当該水硬性組成物から得られる硬化体、及び当該水硬性組成物の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本開示の好適な実施形態について詳細に説明する。ただし、本開示は以下の実施形態に限定されない。
なお、以下の説明では、「X~Y」(X、Yは任意の数字)と記載した場合、特に断らない限り「X以上Y以下」を意味する。
本明細書において例示する材料は特に断らない限り、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。組成物中の各成分の含有量は、組成物中の各成分に該当する物質が複数存在する場合には、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数の物質の合計量を意味する。
【0010】
<水硬性組成物>
水硬性組成物は、吸光光度法により測定される二価の鉄イオンに対する三価の鉄イオンの質量比(Fe3+/Fe2+)が2.0~6.0である無機鉱物のか焼物であり、且つAl2O3の質量に対するSiO2の質量比(SiO2/Al2O3)が0.5~3.0以下であるか焼無機鉱物、及びアルカリ刺激材を含む。
か焼無機鉱物及びアルカリ刺激材の合計量を基準(100質量%)として、か焼無機鉱物の含有量は10~90質量%であり、アルカリ刺激材の含有量は90~10質量%である。
【0011】
(か焼無機鉱物)
か焼無機鉱物とは、無機鉱物を所定温度にてか焼して得られるものである。か焼することで無機鉱物の圧縮強度が増加するが、か焼は無機鉱物のSiO2及びAl2O3含有量、質量比SiO2/Al2O3等に実質的な変化を生じさせるものではない。
【0012】
質量比SiO2/Al2O3が0.5~3.0である無機鉱物(但し、カオリンを除く)としては、アロフェン、ハロイサイト、イモゴライト、イライト、モンモリロナイト、パイロフィライト等が挙げられる。これらのうち、アルカリ刺激材との反応性の観点から、無機鉱物はアロフェン又はハロイサイトを含むことが好ましく、アロフェンを含むことがより好ましい。すなわち、か焼無機鉱物(但し、メタカオリンを除く)はか焼アロフェン又はか焼ハロイサイトを含むことが好ましく、か焼アロフェンを含むことがより好ましい。
【0013】
十分な圧縮強度を発現し易い観点から、か焼無機鉱物における、か焼アロフェン又はか焼ハロイサイトの含有量(無機鉱物における、アロフェン又はハロイサイトの含有量とも言える)は60質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましく、100質量%(実質的にか焼アロフェン又はか焼ハロイサイトからなるか焼無機鉱物)であってもよい。
無機鉱物中のアロフェンやか焼無機鉱物中のか焼アロフェンの含有量は、酸-アルカリ交互溶解法により測定することができ、無機鉱物中のハロイサイトやか焼無機鉱物中のか焼ハロイサイトの含有量は、XRDリートベルト解析により測定することができる。
【0014】
無機鉱物は、火山噴出物の風化により生成された鉱物、すなわち火山噴出物に由来する鉱物であってよい。火山噴出物としては火山灰、火山礫、軽石、火砕流堆積物等を挙げることができる。また、無機鉱物は火成岩の風化により生成された鉱物であってよい。火成岩としては、花崗岩等を挙げることができる。一般に、火山噴出物あるいは火成岩が風化することによりアロフェンが生成し、アロフェンがさらに風化することによりハロイサイトが生成し、ハロイサイトがさらに風化することによりカオリンが生成する。これらカオリン、アロフェン及びハロイサイトは粘土鉱物である。
【0015】
アロフェンは非晶質の無機鉱物である。アロフェンは一般に0.05~0.2μmの粒子径を有し、250~600m2/gのBET比表面積を有する。
ハロイサイトは結晶質の無機鉱物である。ハロイサイトは一般に、0.1~0.3μmの粒子径を有し、40~100m2/gのBET比表面積を有する。
【0016】
上記質量比SiO2/Al2O3が上記範囲であることで、か焼無機鉱物とアルカリ刺激材との反応性が向上し易い。この観点から、質量比SiO2/Al2O3は0.5以上であるが、0.6以上であることが好ましく、0.7以上であることがより好ましい。また、質量比SiO2/Al2O3は3.0以下であるが、2.5以下であることが好ましく、2.3以下であることがより好ましい。
【0017】
無機鉱物におけるSiO2含有量は、アルカリ刺激材との反応性の観点から、30質量%以上であることが好ましく、55質量%以下であることが好ましい。
無機鉱物におけるAl2O3含有量は、アルカリ刺激材との反応性の観点から、20質量%以上であることが好ましく、60質量%以下であることが好ましい。
【0018】
無機鉱物における、吸光光度法により測定される二価の鉄イオンに対する三価の鉄イオンの質量比Fe3+/Fe2+が上記範囲であることで、そのか焼物たるか焼無機鉱物とアルカリ刺激材とが反応し易い。この観点から、質量比Fe3+/Fe2+は2.0以上である。また、質量比Fe3+/Fe2+は6.0以下であるが、5.7以下であることが好ましく、5.5以下であることがより好ましい。
【0019】
無機鉱物における、吸光光度法により測定される三価の鉄イオンFe3+の含有量は、無機鉱物に含まれる粘土鉱物の含有量の観点から、0.5質量%以上とすることができ、0.55質量%以上であることが好ましく、0.6質量%以上であることがより好ましい。また、Fe3+の含有量は、粘土鉱物表面に吸着したFe化合物量が増加することで無機鉱物に含まれる粘土鉱物の含有量が低下する観点から、2.0質量%以下とすることができ、1.9質量%以下であることが好ましく、1.8質量%以下であることがより好ましい。
【0020】
無機鉱物における、吸光光度法により測定される二価の鉄イオンFe2+の含有量は、無機鉱物に含まれる粘土鉱物の含有量の観点から、0.13質量%以上とすることができ、0.14質量%以上であることが好ましく、0.15質量%以上であることがより好ましい。また、Fe2+の含有量は、粘土鉱物表面に吸着したFe化合物量が増加することで無機鉱物に含まれる粘土鉱物の含有量が低下する観点から、0.8質量%以下とすることができ、0.7質量%以下であることが好ましく、0.6質量%以下であることがより好ましい。
【0021】
質量比Fe3+/Fe2+は、吸光光度法により測定した、無機化合物の全量を基準とするの三価の鉄イオンFe3+の量(質量%)を二価の鉄イオンFe2+の量(質量%)で除することで算出される。
【0022】
か焼無機鉱物及びアルカリ刺激材の合計量を基準として、か焼無機鉱物の含有量が上記下限値以上であることで、良好な圧縮強さを得ることができ、上記上限値以下であることで、良好な流動性を維持することができる。これらの観点から、当該含有量は10質量%以上であるが、20質量%以上であることが好ましく、30質量%以上であることがより好ましい。また、当該含有量は90質量%以下であるが、80質量%以下であることが好ましく、70質量%以下であることがより好ましい。
【0023】
か焼無機鉱物とは、上記のとおり無機鉱物を所定温度にてか焼して得られるものであるが、無機鉱物がか焼されたものであることは、27Al-NMRで分析することにより確認することができる。具体的には、か焼無機鉱物において、27Al-NMRで分析した4配位Al、5配位Al及び6配位Alのピーク面積の和を100%とした時の、4配位Al及び5配位Alの少なくとも一方のピーク面積の割合が30~50%である。
【0024】
か焼無機鉱物中において、4配位Al及び5配位Alは骨格が不安定であり、アルカリ刺激材との反応性の増加に寄与すると考えられる。4配位Al及び5配位Alの少なくとも一方のピーク面積の割合が30%以上であることで、この作用による効果を充分に享受できる。一方、4配位Al及び5配位Alの割合が多過ぎると、アルカリ刺激材との反応が急速に進行する虞がある。4配位Al及び5配位Alの割合の少なくとも一方のピーク面積の割合が50%以下であることで、そのような現象を抑制し易い。これらの観点から、4配位Al及び5配位Alの少なくとも一方のピーク面積の割合は30~45%であることが好ましく、35~45%であることがより好ましい。
上記作用効果を得易い観点からは、4配位Al及び5配位Alのピーク面積の割合が共に30~50%であってよく、共に30~45%であることが好ましく、35~45%であることがより好ましい。
【0025】
4配位Al及び5配位Alのピーク面積の和は、アルカリ刺激材との反応性の観点から50%以上であることが好ましく、また、アルカリ刺激材との反応速度の観点から90%以下であることが好ましい。これらの観点から、4配位Al及び5配位Alのピーク面積の和は60~90%であることがより好ましく、70~80%であることがさらに好ましい。
以上のことより、6配位Alのピーク面積は、10~50%であることが好ましく、10~40%であることがより好ましく、20~30%であることがさらに好ましい。
【0026】
無機鉱物が、上記所望の4配位Al、5配位Al及び6配位Alのピーク面積を有するためには、無機鉱物を所定温度にてか焼すればよく、より具体的には後述のか焼工程に記載の内容にてか焼すればよい。
【0027】
上記ピーク面積の割合は、以下のようにして測定される。
か焼無機鉱物の核種27Al-NMRの化学シフト及び配位状態を、NMR装置JNM-ECZ800R(日本電子株式会社製)を用いて分析する。
分析手法はMAS(Magic Angle Spinning)法とし、3.2mmの試料管を使用する。分析条件は、磁場強度:18.79T、周波数:20kHz、積算回数:256回、パルス幅:90°(0.6μs)とする。
得られた27Al-NMRスペクトルに対し、ガウス関数及びローレンツ関数の畳み込み関数であるフォークト関数を用いて、各々のピークの波形分離を行う。そして分離した各ピークの積分値を用いて各ピーク面積を算出する。
なお、か焼無機鉱物の27Al-NMRスペクトルでは、化学シフト-10ppm~15ppmの範囲にピークP1が、50ppm~80ppmの範囲にピークP2が、30ppm~40ppmの範囲にピークP3が観察される。ピークP1は6配位のAlに対応し、これは無機鉱物の骨格に由来する。ピークP2及びP3は、無機鉱物の骨格の部分的な崩壊(例えば高温での熱処理による6配位Al構造の分解と脱ヒドロキシル化)等によって生成すると考えられる、それぞれ4配位のAl及び5配位のAlに由来する。
得られたP1~P3の各ピーク面積から、P1+P2+P3の面積の和、及び当該和を基準とするP2及びP3の面積の割合をそれぞれ算出する。
【0028】
(アルカリ刺激材)
アルカリ刺激材としては、ポルトランドセメントクリンカ、ポルトランドセメント、ケイ酸三カルシウム(3CaO・SiO2,C3Sで示す。)、消石灰等が挙げられる。
【0029】
ポルトランドセメントクリンカは、JIS R 5210:2003「ポルトランドセメント」に規定の各種ポルトランドセメントを調製するため使用されるポルトランドセメントクリンカを使用することができる。上記各種ポルトランドセメントとしては、例えば、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、及び低熱ポルトランドセメント等が挙げられる。ポルトランドセメントクリンカとしては、普通ポルトランドセメント及び早強ポルトランドセメントを調製するために使用されるポルトランドセメントクリンカであってよい。
【0030】
ポルトランドセメントクリンカの鉱物組成はBogue式によって算出することができる。ここで、Bogue式とは、化学組成の含有比率からポルトランドセメントクリンカ中の主要鉱物の含有率を算定する式として広く用いられる式である。以下に示すBogue式を用いることによって、ポルトランドセメントクリンカ中のケイ酸三カルシウム(3CaO・SiO2,C3Sで示す。)、ケイ酸二カルシウム(2CaO・SiO2,C2Sで示す。)、及びアルミン酸三カルシウム(3CaO・Al2O3,C3Aで示す。)の含有量を算出することができる。なお、下記式中の「%」は「質量%」を意味する。
化学式は、JIS R 5204:2019「セメントの蛍光X線分析方法」による化学分析値が示す各化合物の含有比率(質量%)を表す。
【0031】
<Bogue式>
C3S[%]=(4.07×CaO[%])-(7.60×SiO2[%])-(6.72×Al2O3[%])-(1.43×Fe2O3[%])-(2.85×SO3[%])
C2S[%]=(2.87×SiO2[%])-(0.754×C3S[%])
C3A[%]=(2.65×Al2O3[%])-(1.69×Fe2O3[%])
C4AF[%]=3.04×Fe2O3[%]
【0032】
ポルトランドセメントは、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、超早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント、耐硫酸塩ポルトランドセメントであってよい。
【0033】
か焼無機鉱物及びアルカリ刺激材の合計量を基準として、アルカリ刺激材の含有量が上記下限値以上であることで、良好な圧縮強さを得ることができ、上記上限値以下であることで、CO2排出量の削減を図ることができる。これらの観点から、当該含有量は10質量%以上であるが、20質量%以上であることが好ましく、30質量%以上であることがより好ましい。また、当該含有量は90質量%以下であるが、80質量%以下であることが好ましく、70質量%以下であることがより好ましい。
【0034】
水硬性組成物におけるか焼無機鉱物及びアルカリ刺激材の合計量(含有量)は、圧縮強さの観点から、水硬性組成物の全量を基準として、75質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることが好ましく、85質量%以上であることがより好ましく、100質量%(実質的にか焼無機鉱物及びアルカリ刺激材からなる水硬性組成物)であってもよい。
【0035】
(炭酸塩)
水硬性組成物は炭酸塩を含んでいてもよい。
炭酸塩としては、アルカリ刺激材と、か焼無機鉱物との水和反応の促進を目的として水硬性組成物に添加される、アルカリ土類金属の炭酸塩が挙げられ、例えば、炭酸カルシウム(石灰石)、炭酸マグネシウム等が挙げられる。
また、炭酸塩としては、アルカリ刺激材として無機鉱物と反応する、炭酸ナトリウム10水和物(Na2CO3・10H2O)、炭酸ナトリウム(Na2CO3)、炭酸カリウム(K2CO3)、セスキ炭酸ナトリウム2水和物(Na3H(CO3)2・NaHCO3・2H2O)等のアルカリ金属の炭酸塩を用いることもできる。
【0036】
石灰石としては、例えば、一般に販売されている石灰石粉、及び寒水石粉等の炭酸カルシウムを主成分とする粉末を使用することができる。石灰石は、好ましくは、JIS R 5210:2009「ポルトランドセメント」に記載の少量混合成分に適合するものを含む。
【0037】
水硬性組成物における炭酸塩の含有量は、流動性の観点から、水硬性組成物の全量を基準として、0質量%以上であり、0質量%超であることが好ましく、10質量%以上であってもよく、一方圧縮強さの観点から25質量%以下であることが好ましく、20質量%以下であってもよく、15質量%以下であってもよい。
また、水硬性組成物における、か焼無機鉱物の質量に対する炭酸塩の質量比(炭酸塩/か焼無機鉱物)は、圧縮強さの観点から2.0以下であることが好ましく、1.0以下であることがより好ましい。また、当該質量比の下限は特に限定されないが、0とすることができる。
【0038】
(他の成分)
水硬性組成物は、か焼無機鉱物、アルカリ刺激材及び炭酸塩の他に、無機質微粉末、石膏等を含んでいてもよい。水硬性組成物が炭酸塩に加えこれら他の成分を含む場合、炭酸塩及び他の成分の合計量(含有量)は、水硬性組成物の全量を基準として25質量%以下とすることができ、20質量%以下であってもよく、15質量%以下であってもよい。
【0039】
無機質微粉末は圧縮強さの向上を目的として水硬性組成物に添加される。無機質微粉末としては、例えば、珪石、砕石等の粉末状の材料が挙げられる。
水硬性組成物における無機質微粉末の含有量は、流動性の観点から、水硬性組成物の全量を基準として、0質量%以上であり、0質量%超であることが好ましく、一方圧縮強さの観点から15質量%以下であることが好ましい。
【0040】
石膏は水和反応速度の調整を目的として水硬性組成物に添加される。石膏としては、例えば、二水石膏、半水石膏、無水石膏等が挙げられる。
水硬性組成物における石膏の含有量は、一般的なポルトランドセメントにおける石膏量と同等とすることができ、水硬性組成物の全量を基準として、0質量%以上であり、0質量%超であることが好ましく、一方良好な水和反応速度を維持し易い観点から5質量%以下であることが好ましい。
【0041】
<硬化体>
硬化体は、上記の水硬性組成物及び水を含むペーストを硬化させてなるものである。硬化条件は特に制限されない。硬化体は、JIS R 5201:2015「セメントの物理試験方法」に記載の方法に準拠して調製することができる。
【0042】
ペーストにおける水の量は、流動性の観点から、水硬性組成物の全量100質量部に対し、35質量部以上であることが好ましく、一方硬化体の空隙構造を密にし易い観点から80質量部以下であることが好ましい。これらの観点から、当該水の量は、35~80質量部であることが好ましく、50~70質量部であることがより好ましい。
【0043】
<水硬性組成物の製造方法>
水硬性組成物の製造方法は、吸光光度法により測定される二価の鉄イオンに対する三価の鉄イオンの質量比(Fe3+/Fe2+)が2.0~6.0である無機鉱物のか焼物であり、且つAl2O3の質量に対するSiO2の質量比(SiO2/Al2O3)が0.5~3.0であるか焼無機鉱物と、アルカリ刺激材とを混合し、か焼無機鉱物を、か焼無機鉱物及びアルカリ刺激材の合計量を基準として10~90質量%、及びアルカリ刺激材を、か焼無機鉱物及びアルカリ刺激材の合計量を基準として90~10質量%含む水硬性組成物を調製する調製工程を備える。
【0044】
水硬性組成物の製造方法は、調製工程に先立ち、無機鉱物を500~950℃でか焼してか焼無機鉱物を得るか焼工程を更に備えていてもよい。その際、上記のとおり無機鉱物は粘土鉱物であってよい。
【0045】
(調製工程)
調製工程では、か焼無機鉱物及びアルカリ刺激材を混合する。両者の混合時に、炭酸塩や上記他の成分を共に混合してもよい。各原料の配合量は上記のとおりである。
【0046】
調製工程においては、各原料を粉砕してもよい。破砕を行う場合、混合及び破砕の順序は特に限定されるものではない。すなわち、各原料を混合した後に破砕を行ってもよく、各原料を個別に破砕した後に混合してもよく、また各原料の混合及び破砕を同時に行ってもよい。混合は、例えば、パン型ミキサー、傾胴式ミキサー、リボンミキサー等の混合機を用いて行ってよく、ボールミル、竪型ローラーミル、ローラープレス等の粉砕機を用いて混合粉砕してもよく、各原料のそれぞれを粉砕した後に機械混合機等の混合機で混合してもよい。
【0047】
(か焼工程)
か焼工程におけるか焼温度は、無機鉱物の圧縮強さを増加させる観点から、500℃以上であることが好ましく、一方、他の鉱物の生成(例えばアロフェンであればムライトの生成)を抑制する観点から、950℃以下であることが好ましい。これらの観点から、か焼温度は600~900℃であることがより好ましい。
か焼時間は特に制限されないが、結晶構造への影響の観点から0.5~5時間とすることができ、1~4時間であってもよい。
【0048】
か焼工程は、27Al-NMRで分析した4配位Al、5配位Al及び6配位Alのピーク面積の和を100%とした時の、4配位Al及び5配位Alの少なくとも一方のピーク面積の割合が30~50%となるように、無機鉱物をか焼する工程であると言うことができる。無機鉱物の骨格に由来する6配位AlのピークP1の面積が大きすぎると、十分な圧縮強さが得られない。か焼工程は、無機鉱物の骨格の部分的な崩壊を生じさせ、圧縮強度の向上に寄与する4配位Al及び5配位Alに由来するピークP2及びP3を生じさせる工程であるということができる。
【実施例0049】
本発明を以下の実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。
【0050】
<水硬性組成物の原料>
(無機鉱物)
使用した無機鉱物(粘土鉱物)試料の種類を表1に示す。無機鉱物がメタカオリン又はハロイサイトである場合の無機鉱物含有量は、XRDによるリートベルト解析にて測定し、無機鉱物がアロフェンである場合の無機鉱物含有量は、酸-アルカリ交互溶解法にて測定した。
無機鉱物中のFe2+量、Fe3+量、及びそれらの質量比Fe3+/Fe2+は、紫外可視分光光度計(日立ハイテクサイエンス社製、製品名:U-2900型)を用いてJIS K0120:2016「工場排水試験方法」に準拠してフェナントロリン吸光光度法により測定・算出した。
【0051】
【0052】
(アルカリ刺激材)
アルカリ刺激材として普通ポルトランドセメント(OPC、UBE三菱セメント社製)を使用した。
【0053】
(炭酸塩)
炭酸塩として炭酸カルシウム(宇部マテリアルズ社製(石灰石微粉末325メッシュ品))を使用した。
【0054】
<水硬性組成物の調製>
各種無機鉱物に対し900℃にて1時間か焼を行い、か焼無機鉱物を得た。
次に、表2に示す配合に従って、か焼無機鉱物、アルカリ刺激材、及び場合により炭酸塩を混合し、水硬性組成物を調製した。
【0055】
(化学成分の測定)
か焼無機鉱物の化学成分は、蛍光X線分析装置(Rigaku社製:ZSX100e)にて測定した。結果を表1に示す。
【0056】
(ピーク面積比の計算)
か焼無機鉱物の核種27Al-NMRの化学シフト及び配位状態を、NMR装置JNM-ECZ800R(日本電子株式会社製)を用いて分析した。
分析手法はMAS(Magic Angle Spinning)法とし、3.2mmの試料管を使用した。分析条件は、磁場強度:18.79T、周波数:20kHz、積算回数:256回、パルス幅:90°(0.6μs)とした。
得られた27Al-NMRスペクトルに対し、ガウス関数及びローレンツ関数の畳み込み関数であるフォークト関数を用いて、各々のピークの波形分離を行った。27Al-NMRスペクトルにおいて、化学シフト-10ppm~15ppmの範囲のピークP1が6配位Alに、50ppm~80ppmの範囲のピークP2が4配位Alに、30ppm~40ppmの範囲のピークP3が5配位Alに、それぞれ対応する。
そして分離した各ピークの積分値を用いて各ピーク面積を算出した。
得られた各ピーク面積から、P1+P2+P3の面積の和、及び当該和を基準とするP1~P3の面積の割合(%)をそれぞれ算出した。結果を表1に示す。
【0057】
<硬化体の調製>
調製した水硬性組成物に、細骨材として一般社団法人セメント協会のセメント強さ試験用標準砂、および水を配合し、JIS R 5201:2015「セメントの物理試験方法」に記載の方法に準拠して硬化体を調製した。調製した硬化体は材齢7及び28日まで20℃の恒温室で水中養生を行った。
【0058】
<活性度指数測定>
JIS R 5201:2015「セメントの物理試験方法」の記載に準拠して、上述の硬化体の材齢7及び28日の圧縮強さを測定した。なお、活性度指数とは、基準硬化体の圧縮強さに対する測定対象の硬化体の圧縮強さ比を百分率で表したものをいう。基準の硬化体は、普通ポルトランドセメントに細骨材として一般社団法人セメント協会のセメント強さ試験用標準砂、および水を配合し、JIS R 5201:2015「セメントの物理試験方法」に記載の方法に準拠して調製した。
【0059】