(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024143073
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】化合物、その化合物を含む組成物、及びそれらの製造方法
(51)【国際特許分類】
C07C 205/53 20060101AFI20241003BHJP
C08J 3/24 20060101ALI20241003BHJP
C08L 101/00 20060101ALI20241003BHJP
C08K 5/32 20060101ALI20241003BHJP
C08F 8/00 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
C07C205/53 CSP
C08J3/24 Z
C08L101/00
C08K5/32
C08F8/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023055559
(22)【出願日】2023-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100142309
【弁理士】
【氏名又は名称】君塚 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】山賀 英臣
【テーマコード(参考)】
4F070
4H006
4J002
4J100
【Fターム(参考)】
4F070AA15
4F070AA16
4F070AB09
4F070AB10
4F070AB11
4F070AB16
4F070AC37
4F070AC45
4F070AC55
4F070AE03
4F070AE08
4F070GA10
4F070GB08
4F070GC02
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4F070GC07
4H006AA01
4H006AA03
4H006AB48
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4J002AA001
4J002BB151
4J002ES006
4J002FD146
4J002GN00
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4J100AA03Q
4J100AS15R
4J100CA05
4J100CA31
4J100HA53
4J100HE17
4J100JA28
4J100JA43
4J100JA67
(57)【要約】
【課題】取り扱い性、安全性、及び製造コストにおいて優れるマスクドニトリルオキシドとして使用できる化合物、その化合物を含む組成物、及びそれらの製造方法を提供すること。
【解決手段】下記一般式(1)で表される化合物;一般式(1)中、複数のR
aは、それぞれ独立して置換基を有していてもよい炭素数1~6の炭化水素基であり;Yは、置換基を有していてもよく、酸素原子、窒素原子、又は硫黄原子を含んでいてもよい、炭素数1~29のn価の有機基であり;nは2~10の整数である。
[化1]
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される化合物。
【化1】
一般式(1)中、複数のR
aは、それぞれ独立して置換基を有していてもよい炭素数1~6の炭化水素基であり;Yは、置換基を有していてもよく、酸素原子、窒素原子、又は硫黄原子を含んでいてもよい、炭素数1~29のn価の有機基であり;nは2~10の整数である。
【請求項2】
請求項1に記載の化合物を含む組成物。
【請求項3】
請求項2に記載の組成物を動的架橋してなる熱可塑性エラストマー組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化合物、その化合物を含む組成物、及びそれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリプロピレン系樹脂にオレフィン系やスチレン系の共重合ゴムをブレンドした組成物は、車両用部材、家電製品用部材、OA機器用部材、医療用部材、雑貨等の分野で広く用いられている。これらの圧縮永久歪みや耐油性は、分散相である共重合ゴムの架橋密度に大きく依存しているため、これらの特性を向上させるためには、架橋密度を高くする必要がある。
近年では、樹脂組成物の架橋密度を向上させる方法として、分子内に少なくとも1つのニトリルオキシド基を有するニトリルオキシド化合物を架橋剤として用いることが提案されている(特許文献1)。
【0003】
ニトリルオキシド基は無触媒で多重結合への付加を起こすという特異な性質を持つ官能基である。そのためクリックケミストリーのツールとして簡便に多重結合に対して機能基を導入するために広く使われている。一方でその不安定さからニトリルオキシド化合物の単離は一般に困難であることはよく知られており、これを克服するため大きな立体障害や芳香環などの安定化基によりニトリルオキシド基を共役安定化させた化合物が知られている。しかし安定化のために立体障害を持つ基や芳香環を含む基などの安定化基を導入することは合成上の大きな制約であり、また、嵩高い安定化基によりニトリルオキシド基の反応性を弱めてしまう可能性がある。
これに対して、加熱などの操作により系中でニトリルオキシド基を発生する化合物として、マスクドニトリルオキシド化合物が存在する(非特許文献1)。マスクドニトリルオキシド化合物は安定な化合物でありニトリルオキシド基を安定化するための安定化基を必要としないため、簡便に合成することができる。また、加熱によりニトリルオキシドを発生する化合物となるように設計することができれば、樹脂混練時の高温条件下に活性種であるニトリルオキシド基を生じこれが樹脂と反応するため、樹脂の変性(架橋)に適している。
【0004】
マスクドニトリルオキシドの製造例として、特許文献2では、ニトロマロン酸アミド骨格を有する化合物について、下記反応式(I)に示すように、ニトロ酢酸エチルのカリウム塩化(工程I-1)、得られたカリウム塩とイソシアニドとのグリム中での反応(工程I-2)、続くイオン交換樹脂による中性化(工程I-3)により、マスクドニトリルオキシドの合成を行っている。
【0005】
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2019/107450号
【特許文献2】米国特許第6355838号明細書
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Nature Chemical Biology Vol.16,2020,497-506
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献2の合成方法では、不安定なジイソシアニド化合物を原料とするため取り扱い性において問題がある。また、爆発危険性の高いニトロ酢酸エチルを原料として、より反応性の高い金属塩に変換する必要があり、これをさらに高温グリム中で長時間反応させる必要があるため安全性においても問題がある。さらに、これに続く中性化において高価なイオン交換樹脂による処理を要するため製造コストにおいても問題がある。
本発明は、上記実状に鑑みなされたものであり、その目的は、取り扱い性、安全性、及び製造コストにおいて優れるマスクドニトリルオキシドとして使用できる化合物、その化合物を含む組成物、及びそれらの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記の目的を達成すべく鋭意検討を重ねた結果、取り扱い性、安全性、及び製造コストにおいて優れるマスクドニトリルオキシドとして使用できる化合物、その化合物を含む組成物、及びそれらの製造方法を見出し、本発明に到達した。即ち、本発明は以下の態様を有する。
【0010】
[1] 下記一般式(1)で表される化合物。
【0011】
【0012】
一般式(1)中、複数のRaは、それぞれ独立して置換基を有していてもよい炭素数1~6の炭化水素基であり;Yは、置換基を有していてもよく、酸素原子、窒素原子、又は硫黄原子を含んでいてもよい、炭素数1~29のn価の有機基であり;nは2~10の整数である。
[2] [1]に記載の化合物を含む組成物。
[3] [2]に記載の組成物を動的架橋してなる熱可塑性エラストマー組成物。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、取り扱い性、安全性、及び製造コストにおいて優れるマスクドニトリルオキシドとして使用できる化合物、その化合物を含む組成物、及びそれらの製造方法を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明の実施の形態について詳細に説明するが、以下の説明は、本発明の実施態様の代表例であり、これらの内容に本発明は限定されるものではない。尚、本発明において「~」とはその前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味で使用される。
【0015】
以下の用語の定義は、本明細書および特許請求の範囲にわたって適用される。
「ポリエチレン」は、エチレン単位の割合が50mol%超のエチレンホモポリマーまたはエチレン-α-オレフィンコポリマーである。ポリエチレンは、1mol%以下のジエン化合物単位を有してもよい。
「ポリプロピレン」は、プロピレン単位の割合が50mol%超のプロピレンホモポリマーまたはプロピレン-α-オレフィンコポリマーである。ポリプロピレンは、1mol%以下のジエン化合物単位を有してもよい。
「実質的に溶媒を加えない」とは、製造上不可避的に混入した溶媒以外の溶媒を加えないことをいう。
「実質的に溶媒を含まない」とは、製造上不可避的に混入した溶媒以外の溶媒を含まないことをいう。「実質的に溶媒を含まない」とは、溶媒の割合が、固形分(不揮発分)の合計100質量部に対し、1質量部以下であることを意味する。
なお、ここでいう「溶媒」とは、具体的にはヘキサン、ヘプタン、オクタン、トルエン、キシレン等の炭化水素溶媒、アセトン、メタノール、エタノール、酢酸エチル等の極性溶媒を挙げることができる。
「ポリマーの重量平均分子量および数平均分子量」は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)によって求めた分子量である。
「ポリマー1分子あたりの炭素-炭素二重結合の数」は、下記式から求める。
ポリマー1分子あたりの炭素-炭素二重結合の数[個/本]=ポリマー1gあたりの炭素-炭素二重結合の数[mol/g]/ポリマーの数平均分子量[g/mol]
ポリマー1gあたりの炭素-炭素二重結合の数は、1H-NMRおよび13C-NMRから求めた値である。
【0016】
本発明の第一の態様は、マスクドニトリルオキシド化合物として使用できる化合物及びその製造方法に関する。
本発明の第二の態様は、本発明の第一の態様の化合物を含む組成物及びその製造方法に関する。
以下、本発明の各態様について、順に説明する。
【0017】
≪化合物(マスクドニトリルオキシド化合物)≫
本発明の化合物(以下、「マスクドニトリルオキシド化合物」ともいう。)は、加熱等の操作により系中でニトリルオキシド基を有する化合物(以下、「マスクドニトリルオキシド」ともいう。)に変換される化合物であり、下記一般式(1)で表される化合物(以下、「化合物(1)」ともいう。)である。
【0018】
【0019】
一般式(1)中、複数のRaは、それぞれ独立して置換基を有していてもよい炭素数1~6の炭化水素基であり;Yは、置換基を有していてもよく、酸素原子、窒素原子、又は硫黄原子を含んでいてもよい、炭素数1~29の直鎖又は分岐鎖のn価の有機基であり;nは2~10の整数である。
【0020】
Raは、置換基を有していてもよい炭素数1~6の炭化水素基である。炭素数1~6の炭化水素基としては、炭素数1~6の直鎖、分岐鎖、又は環状の炭化水素基が挙げられ、例えば、炭素数1~6の飽和炭化水素基、炭素数3~6の不飽和炭化水素基、又は炭素数4~6の芳香族炭化水素基が挙げられる。
炭素数1~6の飽和炭化水素基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基等が挙げられる。
炭素数3~6の不飽和炭化水素基としては、アリル基等が挙げられる。
炭素数4~6の芳香族炭化水素基としては、フェニル基、フリル基等が挙げられる。
置換基としては、F、Cl、Br、I等のハロゲン原子;炭素数1~10のアルキル基;炭素数1~10のアルコキシ基;水酸基;アミノ基;シアノ基;カルボキシ基等が挙げられる。
なかでも、入手容易性、及び取り扱い性の観点から、炭素数1~6の飽和炭化水素基が好ましく、炭素数1~3の飽和炭化水素基がより好ましく、メチル基、エチル基がさらに好ましい。
【0021】
Yは、置換基を有していてもよく、酸素原子、窒素原子、又は硫黄原子を含んでいてもよい、炭素数1~29のn価の有機基である。炭素数1~29のn価の有機基としては、炭素数1~29の2~8価の有機基が好ましく、2~6価の有機基がより好ましく、2~3価の有機基がさらに好ましく、2価の有機基が特に好ましい。炭素数1~29の2価の有機基としては、例えば、炭素数1~29の直鎖、分岐鎖、又は環状のアルキレン基、炭素数2~29の直鎖、分岐鎖、又は環状のアルケニレン基、炭素数4~29のアリレン基が挙げられる。
炭素数1~29の直鎖、分岐鎖、又は環状のアルキレン基としては、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ペンチレン基、へキシレン基、ヘプチレン基、オクチレン基、ノニレン基、デシレン基、ウンデシレン基、ドデシレン基、トリデシレン基、テトラデシレン基、ペンタデシレン基、ヘキサデシレン基、ヘプタデシレン基、オクタデシレン基、ノナデシレン基、及びイコシレン基等が挙げられる。
炭素数2~29の直鎖、分岐鎖、又は環状のアルケニレン基としては、エテニレン基、プロぺニレン基、ブテニレン基、ペンテニレン基、ヘキセニレン基、ヘプテニレン基、オクテニレン基、ノネニレン基、デセニレン基、ウンデセニレン基、ドデセニレン基、トリデセニレン基、テトラデセニレン基、ペンタデセニレン基、ヘキサデセニレン基、ヘプタデセニレン基、オクタデセニレン基、ノナデセニレン基、及びイコセニレン基等が挙げられる。
炭素数4~29のアリレン基としては、フェニレン基、ナフチレン基、ビフェニリレン基や、フリレン基、チエニレン基、ピリジンジイル等、芳香環の炭素が酸素原子、窒素原子、又は硫黄原子に置換されたヘテロアリーレン基等が挙げられる。
なかでも、入手容易性、及び取り扱い性の観点から、炭素数1~29の直鎖又は分岐鎖のアルキレン基、及び炭素数4~29のアリレン基が好ましく、炭素数1~20の直鎖又は分岐鎖のアルキレン基、及び炭素数6~20のアリレン基がより好ましく、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、フェニレン基、ナフチレン基がさらに好ましい。
【0022】
nは、2~10の整数であり、2~8が好ましく、2~6がより好ましく、2~3がさらに好ましく、2が特に好ましい。
【0023】
≪化合物の製造方法(マスクドニトリルオキシド化合物の製造方法)≫
本発明の化合物の製造方法(以下、「マスクドニトリルオキシド化合物の製造方法」ともいう。)は、前記化合物(1)の製造方法であって、下記反応式(II)で表される通り、2-ニトロ酢酸アルキルに塩基を作用させた後、脱離基Xを2つ以上有する化合物と反応させること(工程II-1)を含む。
【0024】
【0025】
反応式(II)中、複数のRaは、それぞれ独立して置換基を有していてもよい炭素数1~6の炭化水素基であり;Yは、置換基を有していてもよく、酸素原子、窒素原子、又は硫黄原子を含んでいてもよい、炭素数1~29の直鎖又は分岐鎖のn価の有機基であり;複数のXは、それぞれ独立して脱離基であり;nは、一般式(1)におけるnと同じである。
【0026】
反応式(II)中、Raとしては、一般式(1)におけるRaについて述べたものと同様のものが挙げられる。
反応式(II)中、Yとしては、一般式(1)におけるYについて述べたものと同様のものが挙げられる。
反応式(II)中、Xは脱離基である。Xとしては、塩素、臭素、ヨウ素等のハロゲン原子;メタンスルホン酸エステル(OMs)、p-トルエンスルホン酸エステル(OTf)等のスルホン酸エステル等が挙げられる。
反応式(II)中、nとしては、一般式(1)におけるnと同様である。
【0027】
上記工程II-1において、2-ニトロ酢酸アルキルの仕込み量は、脱離基Xを2つ以上有する化合物の仕込み量1モルに対し、2~10モルが好ましく、2~5モルがより好ましい。2-ニトロ酢酸アルキルの仕込み量が上記下限値以上であると、未反応の脱離基Xを2つ以上有する化合物を生成物中に残存させにくくなる。2-ニトロ酢酸アルキルの仕込み量が上記上限値以下であると、未反応の2-ニトロ酢酸アルキルを生成物中に残存させにくくなる。
2-ニトロ酢酸アルキルの融点は200℃以下が好ましく、-65~100℃がより好ましく、-60~80℃がより好ましい。2-ニトロ酢酸アルキルの融点が上記下限値以上であると、室温で取り扱いやすくなる。2-ニトロ酢酸アルキルの融点が上記上限値以下であると、反応中に液体となるため溶媒を加えることなく反応を進めやすくなる。
脱離基Xを2つ以上有する化合物の融点は200℃以下が好ましく、0~100℃がより好ましく、5~80℃がより好ましい。ジアミンの融点が上記下限値以上であると、室温で取り扱いやすくなる。脱離基Xを2つ以上有する化合物の融点が上記上限値以下であると、反応中に液体となるため溶媒を加えることなく反応を進めやすくなる。
【0028】
塩基としては、カリウムt-ブトキシド、カリウムt-ブトキシド、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド等の金属アルコキシド;水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化セシウム等のアルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物等が挙げられる。
塩基の使用量は、2-ニトロ酢酸エチルの仕込み量1モルに対し、1.0~2.0モルが好ましく、1.0~1.5モルがより好ましく、1.0~1.2モルがさらに好ましい。
溶媒を使用してもよい。溶媒としては、反応温度と材料の溶解性に基づき選択すればよく、例えば、テトラヒドロフラン等の有機溶媒が挙げられる。
金属キレート剤を使用してもよい。金属キレート剤としては、使用する塩基に含まれる金属イオンの種類に基づき選択すればよく、例えば、12-クラウン-4-エーテル、15-クラウン-5-エーテル、18-クラウン-6-エーテル等が挙げられる。
【0029】
上記反応は、加熱することにより行われることが好ましい。
加熱温度は、80~200℃が好ましく、90~170℃がより好ましく、100~150℃がさらに好ましい。加熱温度が上記下限値以上であると、反応の進行に伴い副生するアルコールを留去しやすくなるため、未反応の原料を残存させることなく目的物を高収率で得られやすくなる。加熱温度が上記上限値以下であると、原料や生成物が熱により分解するのを防ぎやすくなるとともに、反応の進行のために必要最小限の熱を加えることにより無駄なエネルギー供給を抑制しやすくなる。
加熱時間は、1~20時間が好ましく、2~10時間がより好ましく、3~8時間がさらに好ましい。加熱時間が上記下限値以上であると、反応が充分に進行しやすくなるため、未反応の原料を残存させることなく目的物を高収率で得られやすくなる。加熱時間が上記上限値以下であると、原料や生成物が熱により分解するのを防ぎやすくなり、反応の進行のために必要最小限の熱を加えることにより無駄なエネルギー供給を抑制しやすくなる。
加熱することは、溶媒を加えて行ってもよいし、溶媒を加えなくてもよいが、取り扱い易さの改善、生産性の向上、及び環境負荷の低減の観点から、実質的に溶媒を加えずに行うことが好ましい。
【0030】
加熱することの後に、得られた反応物を水等で洗浄してもよい。洗浄することにより、水溶性の反応副生物等を除去しやすくなる。
加熱することの後に、良溶媒と貧溶媒とを用いて再結晶を行ってもよい。良溶媒としては、酢酸エチル、ジエチルエーテル等が挙げられ、取り扱い易さ、安全性、及び製造コストの観点から、酢酸エチルが好ましい。貧溶媒としては、ヘキサン等が挙げられ、取り扱い易さ、安全性、環境負荷、及び製造コストの観点から、ヘキサンが好ましい。
再結晶で得られた粉体は、乾燥してもよい。乾燥は減圧下に加熱して行ってもよい。乾燥する際の加熱温度は、40~100℃が好ましく、50~90℃がより好ましく、60~80℃がさらに好ましい。乾燥する際の加熱温度が上記下限値以上であると、粉体中に残存する溶媒を除去しやすくなる。乾燥する際の加熱温度が上記上限値以下であると、反応生成物が熱により分解するのを防ぎやすくなる。再結晶は、加熱することの直後に行ってもよいし、洗浄することの後に行ってもよい。
【0031】
2-ニトロ酢酸アルキルは、市販品を用いてもよく、市販されている原料から合成したものを用いてもよい。市販品としては、2-ニトロ酢酸メチル、2-ニトロ酢酸エチル等が挙げられる。
脱離基Xを2つ以上有する化合物は、市販品を用いてもよく、市販されている原料から合成したものを用いてもよい。市販品としては、1,4-ビス(ブロモメチル)ベンゼン、1,4-ビス(ヨードメチル)ベンゼン等のビス(ハロアルキル)ベンゼン;1,2-ジブロモブタン、1,3-ジブロモプロパン、1,4-ジブロモブタン等のジハロアルカン等が挙げられる。市販されている原料から合成したものとしては、グリコール、グリセロール、トリメチロールプロパン、1,4-ジ(ヒドロキシメチル)ベンゼン、1,3,5-トリス(ヒドロキシメチル)ベンゼン等を購入し、これらの水酸基をメシル化又はトシル化する等して公知の方法により脱離基に変換したものも用いることができる。
【0032】
≪組成物≫
本発明の組成物は、本発明の第一の態様の化合物(1)を含む。前記化合物(1)は、加熱等の処理により、後述する二重結合を有するポリマー(B)と反応して架橋構造を形成するための、架橋剤(C)として使用されることが好ましい。
前記化合物(1)は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0033】
本発明の組成物は、前記化合物(1)に加えてさらに、ポリオレフィン(A)、二重結合を有するポリマー(B)、前記化合物(1)を含みさらに前記化合物(1)以外の化合物を含んでいてもよい架橋剤(C)、炭化水素系ゴム用軟化剤(D)、及び(A)~(D)成分以外のその他の成分からなる群から選択される少なくとも1種を含んでいてもよい。なかでも、本発明の組成物は、前記化合物(1)に加えてさらに、二重結合を有するポリマー(B)を含むことが好ましく、ポリオレフィン(A)及び二重結合を有するポリマー(B)を含むことがより好ましい。
以下、各成分について説明する。
【0034】
[ポリオレフィン(A)]
ポリオレフィン(A)は、エチレン、プロピレン、ブタジエン、イソプレン等の二重結合を有する脂肪族炭化水素化合物の重合体、又はその水素添加物である。
ポリオレフィン(A)としては、ポリプロピレン系樹脂、ポリエチレン系樹脂、ポリブテン系樹脂等が挙げられる。なかでも、耐熱性の観点からポリプロピレン系樹脂(以下、「ポリプロピレン系樹脂(A1)」ともいう)が好ましい。
【0035】
ポリプロピレン系樹脂(A1)とは、全単量体単位に対するプロピレン単位の含有率が50質量%以上のポリオレフィン樹脂である。本発明の組成物において、ポリプロピレン系樹脂(A1)は成形性に寄与する。
【0036】
ポリプロピレン系樹脂(A1)としては、その種類は特に制限されず、プロピレン単独重合体、プロピレンランダム共重合体、プロピレンブロック共重合体等のいずれも使用することができる。
【0037】
ポリプロピレン系樹脂(A1)がプロピレンランダム共重合体である場合、プロピレンと共重合する単量体としては、エチレン、1-ブテン、2-メチルプロピレン、1-ペンテン、3-メチル-1-ブテン、1-ヘキセン、4-メチル-1-ペンテン、1-オクテンを例示することができる。また、ポリプロピレン系樹脂(A1)がプロピレンブロック共重合体である場合、多段階で重合して得られるプロピレンブロック共重合体が挙げられ、より具体的には、第一段階でポリプロピレンを重合し、第二段階でプロピレン・エチレン共重合体を重合して得られるプロピレンブロック共重合体等が挙げられる。
【0038】
ポリプロピレン系樹脂(A1)におけるプロピレン単位の含有率は、好ましくは60質量%以上であり、より好ましくは75質量%以上であり、更に好ましくは90質量%以上である。プロピレン単位の含有率が上記下限値以上であることにより、耐熱性及び剛性が良好となる傾向にある。一方、ポリプロピレン系樹脂(A1)におけるプロピレン単位の含有率の上限については特に制限されず、通常100質量%である。尚、ポリプロピレン系樹脂(A1)のプロピレン単位の含有率は、赤外分光法により求めることができる。
【0039】
ポリプロピレン系樹脂(A1)の230℃、荷重21.2Nでのメルトフローレート(MFR)は通常0.05g/10分以上であり、流動性の観点から好ましくは0.1g/10分以上、より好ましくは0.5g/10分以上である。一方、ポリプロピレン系樹脂(A1)のMFRは通常100g/10分以下であり、成形性の観点から、好ましくは70g/10分以下であり、より好ましくは50g/10分以下であり、特に易破断性の観点から、更に好ましくは30g/10分以下である。
【0040】
ポリプロピレン系樹脂(A1)の製造方法としては、公知のオレフィン重合用触媒を用いた公知の重合方法が用いられる。例えば、チーグラー・ナッタ系触媒を用いた多段重合法が挙げられる。この多段重合法には、スラリー重合法、溶液重合法、塊状重合法、気相重合法等を用いることができ、これらを2種以上組み合わせて製造してもよい。
【0041】
また、ポリプロピレン系樹脂(A1)は市販の該当品を用いることも可能である。市販のポリプロピレン系樹脂としては下記に挙げる製造者等から調達可能であり、適宜選択することができる。
入手可能な市販品としては、日本ポリプロ社のノバテック(登録商標)PP、プライムポリマー社のPrim Polypro(登録商標)、住友化学社の住友ノーブレン(登録商標)、サンアロマー社のポリプロピレンブロックコポリマー、LyondellBasell社のMoplen(登録商標)、ExxonMobil社のExxonMobil PP、Formosa Plastics社のFormolene(登録商標)、Borealis社のBorealis PP、LG Chemical社のSEETEC PP、A.Schulman社のASI POLYPROPYLENE、INEOS Olefins&Polymers社のINEOS PP、Braskem社のBraskem PP、SAMSUNG TOTAL PETROCHEMICALS社のSumsung Total、Sabic社のSabic(登録商標)PP、TOTAL PETROCHEMICALS社のTOTAL PETROCHEMICALS Polypropylene、SK社のYUPLENE(登録商標)等がある。
【0042】
ポリオレフィン(A)は、1種のみを用いてもよく、プロピレン単位の含有率や含まれる単量体単位の種類、物性等の異なるものの2種以上を用いてもよい。
【0043】
[二重結合を有するポリマー(B)]
二重結合を有するポリマー(B)とは、分子内に少なくとも1つの二重結合を有するポリマーである。尚、ポリオレフィン(A)のうち、二重結合を有するものは、二重結合を有するポリマー(B)に分類するものとする。ここで、二重結合とは、炭素-炭素二重結合、炭素-窒素二重結合、炭素-酸素二重結合等が挙げられるが、なかでも炭素-炭素二重結合が好ましい。
二重結合を有するポリマー(B)としては、ポリオレフィン、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂等のうち、分子内に少なくとも1つの二重結合を有するポリマーが挙げられる。なかでも、分子内に少なくとも1つの二重結合を有するポリオレフィンが好ましく、ポリオレフィン(A)との相溶性及びゴム弾性の観点からエチレン・α-オレフィン・非共役ジエン共重合体(以下、「エチレン・α-オレフィン・非共役ジエン共重合体(B1)」ともいう)がより好ましい。
【0044】
エチレン・α-オレフィン・非共役ジエン共重合体(B1)におけるエチレン単位の含有率は、エチレン・α-オレフィン・非共役ジエン共重合体(B1)を構成する単量体単位の合計量に対し、好ましくは50質量%以上であり、より好ましくは55質量%以上であり、一方、好ましくは90質量%以下であり、より好ましくは80質量%以下である。エチレン単位の含有率が上記範囲であると適度な柔軟性を与えるために好ましい。
【0045】
エチレン・α-オレフィン・非共役ジエン共重合体(B1)におけるα-オレフィン単位としては、プロピレン単位、1-ブテン単位、3-メチル-1-ブテン単位、1-ペンテン単位、4-メチル-1-ペンテン単位、1-ヘキセン単位、4-メチル-1-ヘキセン単位、1-ヘプテン単位、1-オクテン単位、1-デセン単位等が挙げられる。これらの中でもプロピレン単位、1-ブテン単位、1-ヘキセン単位が好ましい。エチレン・α-オレフィン・非共役ジエン共重合体(B1)には、これらのα-オレフィン単位の1種のみが含まれていても2種以上が含まれていてもよい。
【0046】
エチレン・α-オレフィン・非共役ジエン共重合体(B1)におけるα-オレフィン単位の含有率は、エチレン・α-オレフィン・非共役ジエン共重合体(B1)を構成する単量体単位の合計量に対し、好ましくは10質量%以上であり、より好ましくは20質量%以上であり、一方、好ましくは45質量%以下であり、より好ましくは35質量%以下である。α-オレフィン単位の含有率が上記範囲であると適度な柔軟性を与えるために好ましい。
【0047】
エチレン・α-オレフィン・非共役ジエン共重合体(B1)における非共役ジエン単位としては、ジシクロペンタジエン単位、1,4-ヘキサジエン単位、シクロオクタジエン単位、メチレンノルボルネン単位、エチリデンノルボルネン単位、ビニリデンノルボルネン単位等が挙げられる。これらの中でもエチリデンノルボルネン単位及び/又はビニリデンノルボルネン単位が含まれているとエチレン・α-オレフィン・非共役ジエン共重合体(B1)に適度な架橋構造を与えることができるために好ましい。エチレン・α-オレフィン・非共役ジエン共重合体(B1)には、これらの非共役ジエン単位の1種のみが含まれていても2種以上が含まれていてもよい。
【0048】
エチレン・α-オレフィン・非共役ジエン共重合体(B1)における非共役ジエン単位の含有率は、エチレン・α-オレフィン・非共役ジエン共重合体(B1)を構成する単量体単位の合計量に対し、好ましくは1質量%以上であり、より好ましくは3質量%以上であり、一方、好ましくは10質量%以下であり、より好ましくは8質量%以下である。非共役ジエン単位の含有率が上記下限値以上であると組成物の架橋度を高める観点から好ましく、また、上記上限値以下であると成形性の観点から好ましい。
【0049】
尚、エチレン・α-オレフィン・非共役ジエン共重合体(B1)における各構成単位の含有率は赤外分光法により求めることができる。
【0050】
エチレン・α-オレフィン・非共役ジエン共重合体(B1)のゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー法(GPC法)によるポリプロピレン換算の重量平均分子量(Mw)は、好ましくは300,000以上であり、より好ましくは350,000以上であり、更に好ましくは400,000以上である。また、エチレン・α-オレフィン・非共役ジエン共重合体(B1)のMwは、好ましくは1,000,000以下であり、より好ましくは900,000以下であり、更に好ましくは800,000以下である。エチレン・α-オレフィン・非共役ジエン共重合体(B1)のMwが上記上限値以下であると外観の観点から好ましく、上記下限値以上であるとブリードアウト防止の観点から好ましい。
【0051】
エチレン・α-オレフィン・非共役ジエン共重合体(B1)のGPC法の測定条件は以下の通りである。
機器 :Waters 150C
カラム :Shodex AD806MS×3 (8.0mm内径×300mm長さ)
検出器 :IR(分散型、3.42μm)
溶媒 :o-ジクロロベンゼン
温度 :140℃
流速 :1.0mL/分
注入量 :200μL
較正試料:多分散標準ポリエチレン
較正法 :Mark-Houwink式を用いてポリプロピレン換算
【0052】
二重結合を有するポリマー(B)は1種のみを用いてもよく、含まれる単量体単位やその含有率、物性等の異なる2種以上を用いてもよい。
【0053】
[架橋剤(C)]
前記化合物(1)は、加熱等の処理により、二重結合を有するポリマー(B)と反応して架橋構造を形成するための、架橋剤(C)として使用される。
架橋剤(C)は、前記化合物(1)を含み、さらに前記化合物(1)以外の化合物を含んでいてもよい。前記化合物(1)以外の化合物としては、例えば、前記化合物(1)以外のマスクドニトリルオキシド化合物、及びニトリルオキシド化合物等が挙げられる。
【0054】
(化合物(1)以外のマスクドニトリルオキシド化合物)
化合物(1)以外のマスクドニトリルオキシド化合物としては、例えば、前記一般式(1)で表される化合物であって、Raは、前記化合物(1)におけるカルボニル基のα位の炭素原子とβ位の炭素原子との間に2価の有機基を有する化合物等が挙げられる。
【0055】
[炭化水素系ゴム用軟化剤(D)]
本発明の組成物及びその製造方法には、得られる組成物を軟化させ、柔軟性と弾性を増加させるとともに、得られる組成物の加工性、流動性を向上させるために、炭化水素系ゴム用軟化剤(D)を用いることが好ましい。
【0056】
炭化水素系ゴム用軟化剤(D)としては、鉱物油系軟化剤、合成樹脂系軟化剤等が挙げられるが、他の成分との親和性の観点から鉱物油系軟化剤が好ましい。鉱物油系軟化剤は、一般的に、芳香族炭化水素、ナフテン系炭化水素及びパラフィン系炭化水素の混合物であり、全炭素原子の50%以上がパラフィン系炭化水素であるものがパラフィン系オイル、全炭素原子の30~45%がナフテン系炭化水素であるものがナフテン系オイル、全炭素原子の35%以上が芳香族系炭化水素であるものが芳香族系オイルと各々呼ばれている。
これらの中でも、パラフィン系オイルを用いることが好ましい。
尚、炭化水素系ゴム用軟化剤(D)は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0057】
炭化水素系ゴム用軟化剤(D)の40℃における動粘度は、20センチストークス(cSt)以上であることが好ましく、50cSt以上であることがより好ましい。また、800cSt以下であることが好ましく、600cSt以下であることがより好ましい。
尚、動粘度はJIS K2283の方法で測定できる。
【0058】
また、炭化水素系ゴム用軟化剤(D)の引火点(COC法)は、200℃以上であることが好ましく、250℃以上であることがより好ましい。尚、引火点はJIS K2265の方法で測定できる。
【0059】
尚、炭化水素系ゴム用軟化剤(D)を用いる場合、ポリオレフィン(A)と二重結合を有するポリマー(B)とを混合する前に、炭化水素系ゴム用軟化剤(D)と二重結合を有するポリマー(B)とを予め混合して油展ゴムとして用いてもよい。
【0060】
油展ゴムを製造する方法(油展方法)としては公知の方法を用いることができる。油展方法としては、例えば、ミキシングロールやバンバリーミキサーを用い、二重結合を有するポリマー(B)と炭化水素系ゴム用軟化剤(D)を機械的に混練して油展する方法、二重結合を有するポリマー(B)に所定量の炭化水素系ゴム用軟化剤(D)を添加し、その後スチームストリッピング等の方法により脱溶媒する方法、クラム状の二重結合を有するポリマー(B)と炭化水素系ゴム用軟化剤(D)の混合物をヘンシェルミキサー等で撹拌して含浸させる方法が挙げられる。
【0061】
油展ゴムは市販品として入手することが可能である。例えば、JSR社製JSR EPR、三井化学社製三井EPT(登録商標)、住友化学社製エスプレン(登録商標)、LANXESS社製Keltan(登録商標)、KUMHO POLYCHEM社製KEP(登録商標)、DOW社製NODEL(登録商標)から該当品を選択して使用することができる。
【0062】
[その他の成分]
本発明の組成物には、ポリオレフィン(A)、二重結合を有するポリマー(B)、前記化合物(1)を含む架橋剤(C)、炭化水素系ゴム用軟化剤(D)以外に、本発明の効果を損なわない範囲で、目的に応じてその他の成分を使用することができる。
【0063】
その他の成分としては例えば、充填材、酸化防止剤、熱安定剤、光安定剤、紫外線吸収剤、中和剤、滑剤、防曇剤、アンチブロッキング剤、分散剤、着色剤、難燃剤、帯電防止剤、導電性付与剤、金属不活性化剤、分子量調整剤、防菌剤、防黴材、蛍光増白剤等の各種添加物、ポリオレフィン(A)及び二重結合を有するポリマー(B)以外の熱可塑性樹脂やエラストマー、界面活性剤が挙げられる。
これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
組成物の総質量に対する各成分の合計含有量は、100質量%を超えない。
【0064】
充填材としては、ガラス繊維、中空ガラス球、炭素繊維、タルク、炭酸カルシウム、マイカ、チタン酸カリウム繊維、シリカ、二酸化チタン、カーボンブラック等が挙げられる。充填剤を用いる場合、(A)~(D)成分の合計100質量部に対して通常0.1~50質量部で用いられる。
【0065】
酸化防止剤としては、フェノール系酸化防止剤、フォスファイト系酸化防止剤、チオエーテル系酸化防止剤等が挙げられる。酸化防止剤を用いる場合には、(A)~(D)成分の合計100質量部に対して通常0.01~3.0質量部の範囲で用いられる。
【0066】
ポリオレフィン(A)及び二重結合を有するポリマー(B)以外の熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリフェニレンエーテル系樹脂;ナイロン6、ナイロン66等のポリアミド系樹脂;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル系樹脂;ポリオキシメチレンホモポリマー、ポリオキシメチレンコポリマー等のポリオキシメチレン系樹脂;ポリメチルメタクリレート系樹脂、ポリオレフィン樹脂(但し、ポリオレフィン(A)、二重結合を有するポリマー(B)に該当するものを除く。)が挙げられる。
また、ポリオレフィン(A)、二重結合を有するポリマー(B)、及びマスクドニトリルオキシド化合物を含む混合物が架橋されて得られるエラストマー以外のエラストマーとしては、例えば、スチレン・ブタジエン共重合体ゴム、スチレン・イソプレン共重合体ゴム等のスチレン系エラストマー;ポリエステル系エラストマー;ポリブタジエンが挙げられる。
【0067】
界面活性剤としては、アニオン界面活性剤、ノニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤が挙げられる。
【0068】
その他の成分は、以下の動的熱処理前に原料混合物に混合して用いてもよく、動的熱処理後の組成物に混合してもよい。
【0069】
[各成分の含有量]
本発明の組成物の各成分の含有量について以下に説明する。
化合物(1)の含有量は、組成物の総量の0.1~20質量%が好ましく、0.1~5質量%がより好ましく、0.1~2質量%がさらに好ましい。
本発明の組成物がポリオレフィン(A)を含む場合、ポリオレフィン(A)の含有量は、組成物の総量の1~70質量%が好ましく、10~50質量%がより好ましく、20~40質量%がさらに好ましい。
本発明の組成物が二重結合を有するポリマー(B)を含む場合、二重結合を有するポリマー(B)の含有量は、組成物の総量の10~90質量%が好ましく、30~90質量%がより好ましく、50~90質量%がさらに好ましい。
本発明の組成物の架橋剤(C)の含有量は、組成物の総量の0.1~30質量%が好ましく、0.1~10質量%がより好ましく、0.1~5質量%がさらに好ましい。
本発明の組成物が架橋剤(C)として化合物(1)以外の架橋剤を含む場合、化合物(1)以外の架橋剤の含有量は、組成物の総量の0.1~20質量%が好ましく、0.1~5質量%がより好ましく、0.1~2質量%がさらに好ましい。
本発明の組成物が炭化水素系ゴム用軟化剤(D)を含む場合、炭化水素系ゴム用軟化剤(D)の含有量は、組成物の総量の0.1~50質量%が好ましく、1~40質量%がより好ましく、10~40質量%がさらに好ましい。
本発明の組成物が(A)~(D)成分以外のその他の成分を含む場合、任意成分の含有量は、組成物の総量の0.1~50質量%が好ましく、0.1~40質量%がより好ましく、0.1~20質量%がさらに好ましい。
本発明の組成物は、実質的に溶媒を含まないことが好ましい。
【0070】
化合物(1)の使用量は、二重結合を有するポリマー(B)100質量部に対し、架橋反応を十分に進行させるために、0.05質量部以上が好ましく、0.2質量部以上がより好ましい。一方、架橋反応を制御する観点から、10質量部以下が好ましく、8質量部以下がより好ましく、6質量部以下が更に好ましい。具体的には、0.05~10質量部が好ましく、0.2~8質量部がより好ましく、0.2~6質量部が更に好ましい。
【0071】
ポリオレフィン(A)及び二重結合を有するポリマー(B)を用いる場合、二重結合を有するポリマー(B)の使用量は、ポリオレフィン(A)と二重結合を有するポリマー(B)の合計100質量%に対し、柔軟性の観点から55質量%以上が好ましく、60質量%以上がより好ましく、65質量%以上が更に好ましい。また、成形加工性の観点から、95質量%以下が好ましく、90質量%以下がより好ましく、85質量%以下が更に好ましい。具体的には、55~95質量%が好ましく、60~90質量%がより好ましく、65~85質量%が更に好ましい。
【0072】
ポリオレフィン(A)及び二重結合を有するポリマー(B)を用いる場合、[ポリオレフィン(A)の配合量]/[二重結合を有するポリマー(B)の配合量]で表される質量比は、架橋特性及びゴム弾性の観点から、5/95~45/55が好ましく、10/90~40/60がより好ましい。
【0073】
炭化水素系ゴム用軟化剤(D)及び二重結合を有するポリマー(B)を用いる場合、炭化水素系ゴム用軟化剤(D)の使用量は、二重結合を有するポリマー(B)100質量部に対し、柔軟性の観点から、1質量部以上が好ましく、10質量部以上がより好ましく、20質量部以上が更に好ましく、30質量部以上が特に好ましい。一方、製造安定性の観点から、350質量部以下が好ましく、300質量部以下がより好ましい。具体的には、1~350質量部が好ましく、10~300質量部がより好ましく、20~300質量部が更に好ましい。
【0074】
化合物(1)以外の架橋剤(C)及び二重結合を有するポリマー(B)を用いる場合、化合物(1)以外の架橋剤(C)の使用量は、二重結合を有するポリマー(B)100質量部に対し、架橋反応を十分に進行させるために、0.05質量部以上が好ましく、0.2質量部以上がより好ましい。一方、架橋反応を制御する観点から、10質量部以下が好ましく、8質量部以下がより好ましく、6質量部以下が更に好ましい。具体的には、0.05~10質量部が好ましく、0.2~8質量部がより好ましく、0.2~6質量部が更に好ましい。
【0075】
本発明の組成物において、二重結合を有するポリマー(B)のゲル分率は、0~50%が好ましく、0~30%がより好ましく、0~10%が更に好ましい。二重結合を有するポリマー(B)のゲル分率が上記範囲内であると、組成物の取り扱い性を向上しやすくなる。
なお、ゲル分率は、実施例に記載の方法で測定することができる。
【0076】
≪組成物の製造方法≫
本発明の組成物の製造方法は、本発明の第一の態様の化合物(1)と、必要に応じてポリオレフィン(A)、二重結合を有するポリマー(B)、架橋剤(C)として前記化合物(1)以外の化合物、炭化水素系ゴム用軟化剤(D)、及びその他の成分からなる群から選択される少なくとも1種とを混合させることを含む。
【0077】
≪熱可塑性エラストマー組成物≫
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、本発明の第二の態様の組成物を、動的熱処理して動的架橋させたものである。
熱可塑性エラストマー組成物中の架橋構造は、前記化合物(1)と二重結合を有するポリマー(B)との反応により形成され、ポリオレフィン(A)のマトリックス中に前記架橋構造を有するゴム粒子が分散した海島構造を形成していることが好ましい。
【0078】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物において、架橋後の二重結合を有するポリマー(B)(即ち、前記ゴム粒子)のゲル分率は、10~100%が好ましく、20~100%がより好ましく、30~100%が更に好ましい。架橋後の二重結合を有するポリマー(B)のゲル分率が上記下限値以上であると、架橋密度を高めやすくなり、圧縮永久歪及び耐油性等に優れる成形品が得られやすくなる。架橋後の二重結合を有するポリマー(B)のゲル分率が上記上限値以下であると、熱可塑性エラストマー組成物の取り扱い性を向上しやすくなる。
なお、ゲル分率は、実施例に記載の方法で測定することができる。
【0079】
≪熱可塑性エラストマー組成物の製造方法≫
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、本発明の第二の態様の組成物を、動的熱処理して動的架橋させ、熱可塑性エラストマーを得ることを含む。
【0080】
本発明において「動的熱処理」とは溶融状態又は半溶融状態で混練することを意味する。この動的熱処理は、溶融混練によって行なうのが好ましく、そのための混合混練装置としては、例えば、非開放型バンバリーミキサー、ミキシングロール、ニーダー、二軸押出機が用いられる。これらの中でも二軸押出機を用いることが好ましい。
二軸押出機を用いた製造方法の好ましい態様としては、複数の原料供給口を有する二軸押出機の原料供給口(ホッパー)に各成分を供給して動的熱処理を行なう方法が挙げられる。
【0081】
動的熱処理を行なう際の温度は、通常160~280℃、好ましくは165~250℃、より好ましくは170~220℃である。また、動的熱処理を行なう時間は通常0.1~30分である。
【0082】
[成形品・用途]
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、通常組成物に用いられる成形方法、例えば、射出成形、押出成形、中空成形、圧縮成形の各種成形方法により、成形品とすることができ、これらの中でも射出成形、押出成形が好適である。
また、これらの成形を行なった後に積層成形、熱成形等の二次加工を行なった成形品とすることもできる。
【0083】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物及びその製造方法は自動車分野(シール、クッション、ブーツ等)、建築分野(ガスケット、パッキン等)、その他各種の雑貨分野、例えば、スポーツ用品(ゴルフクラブやテニスラケットのグリップ類等)、工業用部品(ホースチューブ、ガスケット等)、家電部品(ホース、パッキン類等)、医療用部品(医療用容器、ガスケット、パッキン等)、食品用部品(容器、パッキン等)、医療用機器部品、電線、その他雑貨の広汎な分野で用いることができる。
【実施例0084】
以下、実施例を用いて本発明の内容を更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例によって限定されるものではない。以下の実施例における各種の製造条件や評価結果の値は、本発明の実施態様における上限又は下限の好ましい値としての意味をもつものであり、好ましい範囲は前記した上限又は下限の値と、下記実施例の値又は実施例同士の値との組み合わせで規定される範囲であってもよい。
【0085】
尚、以下の記載において、「部」及び「%」は、それぞれ「質量部」及び「質量%」を示す。
【0086】
以下の実施例で使用した原材料及び評価方法は次のとおりである。
≪原料≫
・ポリオレフィン(A):プロピレン系重合体(日本ポリプロ株式会社製、商品名:ノバテックMA3Q)。
・二重結合を有するポリマー(B):エチレン・α-オレフィン・非共役ジエン共重合体(Dow社製、商品名:NORDEL IP4760P)。
・酸化防止剤(1):ヒンダードフェノール系酸化防止剤(BASFジャパン株式会社製、商品名:Irganox1010)。
・酸化防止剤(2):フォスファイト系酸化防止剤(BASFジャパン株式会社製、商品名:Irgafos168)。
・マスクドニトリルオキシド化合物(C1):下記式(C1)で表されるマスクドニトリルオキシド化合物。
【0087】
【0088】
[製造例1] マスクドニトリルオキシド化合物(C1)の製造
公知の方法(国際公開第2001/07400号)を参考にして、マスクドニトリルオキシド化合物(C1)を得た。
【0089】
化合物(C1)の1H-NMRスペクトル:
1H-NMR(400MHz,CDCl3):δ7.18(d,4H),5.33(m,2H),4.29(m,4H),3.50(m,4H),1.27(m,6H)
【0090】
≪評価方法≫
<ゲル分率>
予め質量を測定した60メッシュの金網中に、得られた熱可塑性エラストマー組成物を量り入れ、ソックスレー抽出器の中に入れ、還流が12分/回になるように温度調節をしながら4時間キシレンで抽出した。抽出後の金網を冷却した後、80℃の真空乾燥機内で4時間乾燥させ、金網の質量を測定した。キシレン抽出前試料に対するキシレン抽出残分の質量百分率を、二重結合を有するポリマー(B)の含有量で換算し、熱可塑性エラストマー組成物中の二重結合を有するポリマー(B)のゲル分率として評価した。
組成物中の二重結合を有するポリマー(B)のゲル分率は大きい程架橋反応が進行していることを意味する。
【0091】
[実施例1]
ポリプロピレン系樹脂(A)22.5部、エチレン・α-オレフィン・非共役ジエン共重合体(B)70部、酸化防止剤(1)0.1部、酸化防止剤(2)0.1部を配合し、卓上混練機MC15HT(Xplore Instruments社製)を用いて225℃にて2分間溶融混練した後、ポリプロピレン系樹脂(A)7.5部、マスクドニトリルオキシド化合物(C1)1部を加えて225℃にて3分間溶融混練するとともに、動的架橋させて、熱可塑性エラストマー組成物を得た。
上記手順に従ってゲル分率を算出した。ゲル分率は43%であった。このことから、本願発明のマスクドニトリルオキシド化合物は、取り扱い性、安全性、及び製造コストにおいて優れるものであることが判った。また、本願発明のマスクドニトリルオキシド化合物は、加熱処理により系中でニトリルオキシド基を有する化合物に変換され、二重結合を有するポリマー(B)との架橋反応が進行したことにより、優れた架橋特性(ゲル分率)を示すことが判った。