(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024143111
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】アセト酢酸エステル基含有ポリビニルアルコール系樹脂の製造方法
(51)【国際特許分類】
C08F 8/14 20060101AFI20241003BHJP
C08F 16/06 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
C08F8/14
C08F16/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023055617
(22)【出願日】2023-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079382
【弁理士】
【氏名又は名称】西藤 征彦
(74)【代理人】
【識別番号】100123928
【弁理士】
【氏名又は名称】井▲崎▼ 愛佳
(74)【代理人】
【識別番号】100136308
【弁理士】
【氏名又は名称】西藤 優子
(74)【代理人】
【識別番号】100207295
【弁理士】
【氏名又は名称】寺尾 茂泰
(72)【発明者】
【氏名】辻本 尊行
(72)【発明者】
【氏名】石原 千津子
【テーマコード(参考)】
4J100
【Fターム(参考)】
4J100AA02Q
4J100AA03Q
4J100AA06Q
4J100AA15Q
4J100AA19Q
4J100AD02P
4J100AG02P
4J100AG03P
4J100AG04P
4J100AG05P
4J100AM15Q
4J100BA11H
4J100BA15H
4J100CA31
4J100DA01
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4J100EA09
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4J100FA21
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4J100HA11
4J100HC25
4J100HC33
4J100JA01
4J100JA03
4J100JA05
4J100JA11
4J100JA15
4J100JA67
(57)【要約】
【課題】溶解性に優れると共に着色が抑制された、アセト酢酸エステル基含有ポリビニルアルコール系樹脂を得られる製造方法を提供する。
【解決手段】ポリビニルアルコール系樹脂(A)とアセト酢酸エステル(B)とを、アミド化合物(c1)及び脂肪族カルボン酸(c2)を含有する溶媒(C)の存在下において反応させることを特徴とする、アセト酢酸エステル基含有ポリビニルアルコール系樹脂の製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリビニルアルコール系樹脂(A)とアセト酢酸エステル(B)とを、アミド化合物(c1)及び脂肪族カルボン酸(c2)を含有する溶媒(C)の存在下において反応させることを特徴とする、アセト酢酸エステル基含有ポリビニルアルコール系樹脂の製造方法。
【請求項2】
前記アミド化合物(c1)と前記脂肪族カルボン酸(c2)との質量比(c1:c2)が、50:50~99:1である、請求項1記載のアセト酢酸エステル基含有ポリビニルアルコール系樹脂の製造方法。
【請求項3】
前記ポリビニルアルコール系樹脂(A)に対する前記溶媒(C)の質量比(C/A)が、1~10である、請求項1又は2記載のアセト酢酸エステル基含有ポリビニルアルコール系樹脂の製造方法。
【請求項4】
前記ポリビニルアルコール系樹脂(A)に対する前記溶媒(C)の質量比(C/A)が、2.5~8である、請求項1又は2記載のアセト酢酸エステル基含有ポリビニルアルコール系樹脂の製造方法。
【請求項5】
前記ポリビニルアルコール系樹脂(A)100質量部に対するアセト酢酸エステル(B)の配合量が50~250質量部である、請求項1又は2記載のアセト酢酸エステル基含有ポリビニルアルコール系樹脂の製造方法。
【請求項6】
前記ポリビニルアルコール系樹脂(A)が、脂肪酸金属塩を含有するポリビニルアルコール系樹脂であり、前記脂肪酸金属塩の含有量が1.0質量%以下である、請求項1又は2記載のアセト酢酸エステル基含有ポリビニルアルコール系樹脂の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アセト酢酸エステル基含有ポリビニルアルコール系樹脂の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アセトアセチル基含有ポリビニルアルコール系樹脂(以下、「AA化PVA」と表記する場合がある)は、各種架橋剤との高い反応性によって優れた耐水性を得られること等が知られており、各種の分野において広く活用されている。
【0003】
従来、AA化PVAの製造方法として各種の方法が提案されている。例えば、ポリビニルアルコール系樹脂を酢酸で膨潤させて、膨潤させたポリビニルアルコール系樹脂とジケテンとを反応させることによって所望のAA化PVAを製造する方法が提案されている(特許文献1)。
【0004】
かかる特許文献1の製造方法は、ジケテン固有の急性毒性に懸念があるため、近年では、他の製造方法として、ポリビニルアルコール系樹脂と、アセト酢酸エステルとを反応させる製造方法が注目されている。
【0005】
具体的には、ポリビニルアルコール系樹脂を酢酸で膨潤させて、膨潤させたポリビニルアルコール系樹脂とアセト酢酸エステルとを反応させることによって、所望のAA化PVAを製造する方法が提案されている(特許文献2)。また、例えば、ポリビニルアルコール系樹脂をN-メチル-2-ピロリドン(NMP)で膨潤させて、膨潤させたポリビニルアルコール系樹脂とアセト酢酸エステルとを反応させることによって、所望のAA化PVAを製造する方法も提案されている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平9-110925号公報
【特許文献2】米国特許第5719231号公報
【特許文献3】国際公開第2022/065358号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献2の製造方法では、ポリビニルアルコール系樹脂の膨潤度が低く、反応中にアセトアセチル基の自己架橋が進行する傾向があるため、AA化PVAの溶解性が低いという点において、未だ改善の余地がある。また、特許文献3の製造方法においても、AA化PVAの溶解性が不十分になる場合があると共に、得られるAA化PVAが着色してしまうため、別途着色防止剤を用いる必要があるという点において、未だ改善の余地がある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、かかる事情を背景として鋭意検討を重ねる過程において、AA化PVAの製造方法において用いる溶媒の組成と、得られるAA化PVAの溶解性及び着色との技術的関連性に着目した。本発明者は、かかる観点から更なる研究を重ねた結果、意外にも、特定の溶媒を組み合わせた混合溶媒の存在下において、ポリビニルアルコール系樹脂とアセト酢酸エステルとを反応させることにより、溶解性に優れると共に、着色が抑制されたAA化PVAが得られることを見出した。
【0009】
すなわち、本発明は、下記[1]~[6]を提供する。
[1]
ポリビニルアルコール系樹脂(A)とアセト酢酸エステル(B)とを、アミド化合物(c1)及び脂肪族カルボン酸(c2)を含有する溶媒(C)の存在下において反応させることを特徴とする、アセト酢酸エステル基含有ポリビニルアルコール系樹脂の製造方法。
[2]
前記アミド化合物(c1)と前記脂肪族カルボン酸(c2)との質量比(c1:c2)が、50:50~99:1である、[1]記載のアセト酢酸エステル基含有ポリビニルアルコール系樹脂の製造方法。
[3]
前記ポリビニルアルコール系樹脂(A)に対する前記溶媒(C)の質量比(C/A)が、1~10である、[1]又は[2]記載のアセト酢酸エステル基含有ポリビニルアルコール系樹脂の製造方法。
[4]
前記ポリビニルアルコール系樹脂(A)に対する前記溶媒(C)の質量比(C/A)が、2.5~8である、[1]~[3]のいずれかに記載のアセト酢酸エステル基含有ポリビニルアルコール系樹脂の製造方法。
[5]
前記ポリビニルアルコール系樹脂(A)100質量部に対するアセト酢酸エステル(B)の配合量が50~250質量部である、[1]~[4]のいずれかに記載のアセト酢酸エステル基含有ポリビニルアルコール系樹脂の製造方法。
[6]
前記ポリビニルアルコール系樹脂(A)が、脂肪酸金属塩を含有するポリビニルアルコール系樹脂であり、前記脂肪酸金属塩の含有量が1.0質量%以下である、[1]~[5]のいずれかに記載のアセト酢酸エステル基含有ポリビニルアルコール系樹脂の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明の製造方法によれば、溶解性に優れると共に着色が抑制された、アセト酢酸エステル基含有ポリビニルアルコール系樹脂を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明するが、以下の説明は、本発明の実施形態の一例であり、本発明はその要旨を越えない限り、以下の記載内容に限定されるものではない。
【0012】
本発明の一実施形態にかかるAA化PVAの製造方法(以下、「本製造方法」という場合がある)は、ポリビニルアルコール系樹脂(A)(以下、「PVA(A)」という場合がある)とアセト酢酸エステル(B)とを、アミド化合物(c1)及び脂肪族カルボン酸(c2)を含有する溶媒(C)の存在下において反応させることを特徴とする。
本製造方法によれば、アミド化合物(c1)及び脂肪族カルボン酸(c2)を含有する溶媒(C)の存在下において反応させるため、溶解度の高いAA化PVAを得ることができ、更に、着色を抑制することができる。
【0013】
本製造方法によって、前記の優れた効果が得られる理由は必ずしも明らかではないが、本発明者らは、前述の特定の混合溶媒によって膨潤させたPVA(A)とアセト酢酸エステル(B)とを反応させることにより、PVA(A)を最適な膨潤度で反応させることができるため、前記の優れた効果が得られるものと推察している。
【0014】
以下、本製造方法の原料として用いるPVA(A)、アセト酢酸エステル(B)、及び溶媒(C)について説明すると共に、本製造方法について詳細に説明する。
【0015】
(PVA(A))
本製造方法において用いられるPVA(A)は特に限定されず、各種のPVAを用いることができる。PVA(A)は、ビニルエステル系モノマーの重合体のケン化物又はその誘導体であり、前記ビニルエステル系モノマーとしては、例えば、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バレリン酸ビニル、酪酸ビニル、イソ酪酸ビニル、ピバリン酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、安息香酸ビニル、バーサチック酸ビニル等が挙げられるが、経済性の点から酢酸ビニルが好ましく用いられる。
【0016】
PVA(A)は、前記ビニルエステル系モノマーの重合体のケン化物であるPVAの他、ビニルエステルモノマーと共重合可能なモノマーが一部分子鎖内に含有された変性PVAであってもよい。共重合可能なモノマーとしては、例えば、エチレンやプロピレン、イソブチレン、α-オクテン、α-ドデセン、α-オクタデセン等のオレフィン類、3-ブテン-1-オール、4-ペンテン-1-オール、5-ヘキセン-1-オール、3,4-ジヒドロキシ-1-ブテン等のヒドロキシ基含有α-オレフィン類及びそのアシル化物等の誘導体、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸、ウンデシレン酸等の不飽和酸類、その塩、そのモノエステル、あるいはジアルキルエステル、アクリロニトリル、メタアクリロニトリル等のニトリル類、ジアセトンアクリルアミド、アクリルアミド、メタクリルアミド等のアミド類、エチレンスルホン酸、アリルスルホン酸、メタアリルスルホン酸等のオレフィンスルホン酸類あるいはその塩、アルキルビニルエーテル類、ジメチルアリルビニルケトン、N-ビニルピロリドン、塩化ビニル、ビニルエチレンカーボネート、2,2-ジアルキル-4-ビニル-1,3-ジオキソラン、グリセリンモノアリルエーテル等のビニル化合物、酢酸イソプロペニル、1-メトキシビニルアセテート等の置換酢酸ビニル類、塩化ビニリデン、1,4-ジアセトキシ-2-ブテン、1,4-ジヒドロキシ-2-ブテン、ビニレンカーボネート等が挙げられる。
【0017】
更に、前記共重合可能なモノマーとしては、例えば、ポリオキシエチレン(メタ)アクリルエーテル、ポリオキシエチレン(メタ)アクリルアミド、ポリオキシプロピレン(メタ)アクリルアミド、ポリオキシエチレン(メタ)アクリレート、ポリオキシプロピレン(メタ)アクリレート、ポリオキシエチレン(1-(メタ)アクリルアミド-1,1-ジメチルプロピル)エステル、ポリオキシエチレンビニルエーテル、ポリオキシプロピレンビニルエーテル、ポリオキシエチレンアリルアミン、ポリオキシプロピレンアリルアミン、ポリオキシエチレンビニルアミン、ポリオキシプロピレンビニルアミン等のポリオキシアルキレン基含有モノマー、N-アクリルアミドメチルトリメチルアンモニウムクロライド、N-アクリルアミドエチルトリメチルアンモニウムクロライド、N-アクリルアミドプロピルトリメチルアンモニウムクロライド、2-アクリロキシエチルトリメチルアンモニウムクロライド、2-メタクリロキシエチルトリメチルアンモニウムクロライド、2-ヒドロキシ-3-メタクリロイルオキシプロピルトリメチルアンモニウムクロライド、アリルトリメチルアンモニウムクロライド、メタアリルトリメチルアンモニウムクロライド、3-ブテントリメチルアンモニウムクロライド、ジメチルジアリルアンモニウムクロリド、ジエチルジアリルアンモニウムクロライド等のカチオン基含有モノマー等も挙げられる。本発明において、(メタ)アクリルとは、アクリル又はメタクリルをいい、(メタ)アクリレートとはアクリレート又はメタクリレートをいう。
【0018】
なお、前記共重合可能なモノマーの導入量はモノマーの種類によって適宜設定されるが、通常10モル%以下、特には5モル%以下であり、導入量が多すぎると、水溶性や耐薬品性が損なわれる場合があるため好ましくない。
【0019】
また、通常のポリビニルアルコール系樹脂の場合、主鎖の結合様式は1,3-ジオール結合が主であり、1,2-ジオール結合の含有量は1.5~1.7モル%程度であるが、ビニルエステル系モノマーを重合する際の重合温度を高温にすることによって、その含有量を1.7~3.5モル%としたものを使用することも可能である。
【0020】
前記PVA(A)の製造方法としては、常法に従って製造することができる。例えば、溶液重合法、乳化重合法、懸濁重合法等、公知の重合方法を任意に用いることができる。また、PVA(A)は、常法に従い、湿式粉砕機等を用いて粉砕及び乾燥することによって粉末状に形成されていることが好ましい。
【0021】
粉末状のPVA(A)の平均粒子径は、以下に限定されないが、特定の溶媒組成によって膨潤度を制御する観点から、例えば、100~800μmであることが好ましく、より好ましくは200~700μmであり、更により好ましくは300~600μmである。なお、平均粒子径は、篩分けにより行い、粒度分布の累積値が50質量%となる粒子径を意味する。
【0022】
PVA(A)のケン化度(JIS K6726に準拠)は、通常75~99.9モル%、更に好ましくは80~99.5モル%、特に好ましくは85~99.3モル%である。ケン化度が低すぎると、水に対する溶解性が低下する傾向がみられ好ましくない。
【0023】
PVA(A)の平均重合度(JIS K6726に準拠)は、好ましくは200~4000であり、より好ましくは400~3500であり、更に好ましくは500~3000である。平均重合度が小さすぎると、耐水性が低下する傾向がみられ、高すぎると、粘度が上昇し、扱いにくくなる傾向がみられる。
【0024】
PVA(A)の20℃における4質量%水溶液の粘度(JIS K6726に準拠)は、通常1.5~100mPa・sであり、好ましくは4~80mPa・sであり、より好ましくは5~70mPa・sである。4質量%水溶液の粘度が大きすぎると、粘度が上昇し、扱いにくくなる傾向があり、4質量%水溶液の粘度が小さすぎると、耐水性が低下する傾向がみられる。
【0025】
本製造方法に用いられるPVA(A)は、1種類のみを単独で、又は2種類以上を任意の組み合せて用いることがきる。
【0026】
(アセト酢酸エステル(B))
アセト酢酸エステル(B)としては、例えば、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル、アセト酢酸n-プロピル、アセト酢酸イソプロピル、アセト酢酸n-ブチル、アセト酢酸s-ブチル、アセト酢酸t-ブチル、アセト酢酸オクチル、アセト酢酸オレイル、アセト酢酸ラウリル、アセト酢酸ステアリル、アセト酢酸ベンジル、アセト酢酸フェニル等が挙げられる。アセト酢酸エステルのアルキル基の炭素数は1~10が好ましく、より好ましくは1~5のアセト酢酸エステルである。これらのなかでも特にアセト酢酸メチル、アセト酢酸t-ブチルが好ましい。これらは、1種類のみを単独で、又は2種類以上を任意の組み合せ及び比率で用いることがきる。
【0027】
本製造方法において、アセト酢酸エステル(B)の配合量は、AA化PVAの溶解性を高めると共に着色を効果的に抑制する観点から、PVA(A)100質量部に対して、50~250質量部が好ましく、より好ましくは65~200質量部であり、更により好ましくは80~150質量部である。アセト酢酸エステルの配合量が多すぎた場合、膨潤度が下がる傾向がみられ、AA化PVAの水への不溶化の原因となる。また、少なすぎた場合、反応速度が下がる傾向がみられ、反応時間の長滞化の原因となる。
【0028】
本製造方法において、PVA(A)中のビニルアルコールユニットに対するアセト酢酸エステル(B)のモル比(アセト酢酸エステル(B)のモル数/PVA(A)中のビニルアルコールユニットのモル数×100)は、10~50が好ましく、より好ましくは15~45、更により好ましくは20~40である。
【0029】
(溶媒(C))
本製造方法は、溶媒として、アミド化合物(c1)及び脂肪族カルボン酸(c2)を含有する溶媒(C)を用いることが重要である。アミド化合物(c1)及び脂肪族カルボン酸(c2)を含有する溶媒(C)を用いることにより、不溶解分の発生を抑制することができるため、溶解度の高いAA化PVAを得ることができ、更に、得られるAA化PVAの着色も抑制することができる。
溶媒(C)中に含まれるアミド化合物(c1)と脂肪族カルボン酸(c2)との質量比(アミド化合物(c1):脂肪族カルボン酸(c2))としては、AA化PVAの溶解性を高めると共に着色を効果的に抑制する観点から、50:50~99:1が好ましく、より好ましくは60:40~98.5:1.5、更により好ましくは70:30~98:2、特に好ましくは80:20~97.5:2.5、殊に好ましくは87.5:12.5~97:3である。アミド化合物(c1)が少なすぎたり、脂肪族カルボン酸(c2)が多すぎたりすると、膨潤度が低くなる傾向がみられ、製品の水への不溶化の原因となる。
【0030】
また、溶媒(C)は、前記(c1)及び(c2)以外に、本発明の効果を阻害しない範囲で、水等の他の溶媒を含んでいてもよいが、溶媒(C)全量(100質量%)中におけるアミド化合物(c1)及び脂肪族カルボン酸(c2)の合計含有量は、80質量%以上が好ましく、より好ましくは90質量%以上、更により好ましくは95質量%以上、特に好ましくは98~100質量%である。
【0031】
PVA(A)に対する溶媒(C)の質量比(C/A)(以下、当該質量比を「浴比」という場合がある)は、撹拌効率の観点から、1~10が好ましく、より好ましくは2~9、更により好ましくは3~8であり、特に好ましくは4~6である。
【0032】
アミド化合物(c1)としては、少なくとも一つのアミド基を有する化合物(アミド基を有する溶媒)が挙げられる。具体的には、2-ピロリドン、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、N-メチル-2-ピペリドン、N-メチルカプロラクタム、N-アセチルピロリジン、N-エチル-2-ピロリドン等のラクタム化合物;1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン(DMI)、テトラメチル尿素、N,N-ジメチルエチレン尿素、N,N'-ジメチルプロピレン尿素(DMPU)等の尿素誘導体;その他、ヘキサメチルホスホルアミド、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)、N,N,N',N'-テトラメチルマロン酸アミド、N,N-ジエチルアセトアミド、N,N-ジメチルプロピオン酸アミド、N,N-ジメチルイソブチルアミド、N-メチルホルムアミド等のアミド化合物が挙げられる。これらは、1種類のみを単独で、又は2種類以上を任意の組み合せ及び比率で用いることがきる。
【0033】
脂肪族カルボン酸(c2)としては、少なくとも一つのカルボキシ基を有する有機酸、具体的には、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸等のカルボン酸が挙げられる。これらは、1種類のみを単独で、又は2種類以上を任意の組み合せ及び比率で用いることがきる。
【0034】
これらのなかでも、2-ピロリドン、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、N-メチル-2-ピペリドン、N-メチルカプロラクタム、N-アセチルピロリジン、N-エチル-2-ピロリドンからなる群より選ばれる少なくとも1種と、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸からなる群より選ばれる少なくとも1種との組み合わせが好ましく、より好ましくは、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)と酢酸との組み合わせである。
【0035】
前記の「他の溶媒」としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジアセトンアルコールなどのケトン系溶媒、プロパンニトリル、アセトニトリルなどのニトリル系溶媒等が挙げられる。
【0036】
本製造方法は、溶媒(C)及び触媒の存在下において、PVA(A)とアセト酢酸エステル(B)とをエステル交換反応させる工程を備える。
【0037】
前記触媒としては、例えば、ブレンステッド有機酸、ブレンステッド無機酸、ルイス無機酸、ルイス有機塩基及びこれらの組合せが使用できる。具体的には、例えばブレンステッド有機酸としては、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、安息香酸、フタル酸、没食子酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、リンゴ酸、クエン酸、アコニット酸;ブレンステッド無機酸としては、硫酸、硝酸、リン酸、ホウ酸、フッ化水素酸、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、及びこれらの部分エステル化物;ルイス無機酸としては、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、酢酸マグネシウム、酢酸カルシウム、酢酸亜鉛等の脂肪酸金属塩、リチウムトリフラート、マグネシウムトリフラート、亜鉛トリフラート、イッテルビウムトリフラート、ビスアセチルアセトナト亜鉛、テトラキスアセチルアセトナトジルコニウム、ジオクチル酸スズ、テトラブトキシチタン;ルイス有機塩基としては、第一アミン、第二アミン、第三アミンピリジン、第一級ホスフィン、第二級ホスフィン、第三級ホスフィン等が挙げられる。これらは、1種類のみを単独で、又は2種類以上を任意の組み合せ及び比率で用いることがきる。
【0038】
前記触媒としては、反応率等の観点から、PVA(A)中に含まれている脂肪酸金属塩であることが好ましく、PVA(A)中に含まれている酢酸ナトリウムであることがより好ましい。PVA(A)中に含まれている脂肪酸金属塩(例えば、酢酸ナトリウム)の含有量は、例えば、PVA(A)(全量)の1.0質量%以下であり、好ましくは0.01~1.0質量%、より好ましくは0.05~0.5質量%、更により好ましくは0.1~0.3質量%である。
なお、PVA(A)中に含まれている脂肪酸金属塩の含有量は、公知の方法により測定することができ、例えば、JIS K 6726(1994年)の3.6.1、滴定法に準じて測定することができる。
【0039】
また、前記触媒を別途配合する場合の配合量は、PVA(A)100質量部に対して通常0.01~10質量部、好ましくは0.05~5質量部、更に好ましくは0.1~3質量部である。触媒の配合量が多すぎると、経済的に不利であり、触媒除去も困難な傾向となるため好ましくない。
【0040】
本製造方法におけるエステル交換反応は、常法に従って行うことができるが、PVA(A)を膨潤させて反応効率を高める観点や、反応後の生成物の分離・洗浄等が容易である観点からは、固体状(粉末状)のPVA(A)を溶媒(C)中に投入して分散又は撹拌しながら、アセト酢酸エステル(B)を添加する不均一系反応によって行うことが好ましい。
【0041】
本製造方法におけるエステル交換反応に際して使用される反応装置としては、混合及び加熱が可能な公知の反応装置であればよく、縦型の反応器であってもよく、横型の反応器であってもよい。具体的には、ニーダー、ヘンシェルミキサー、リボンブレンダー、その他各種ブレンダーを用いることができる。
【0042】
また、前記反応装置において、PVA(A)とアセト酢酸エステル(B)とを反応させる温度は、特に制限されないが、下限として好ましくは60℃以上であり、更に好ましくは70℃以上、特に好ましくは80℃以上である。60℃以上であると、反応速度が速くなる傾向にあり、生産性の観点から好ましい。また、上限として好ましくは120℃以下であり、更に好ましくは100℃以下であり、特に好ましくは95℃以下である。120℃以下であると、アセトアセチル基同士の自己架橋が抑制されやすくなる傾向がみられるため、好ましい。
【0043】
また、エステル交換反応工程における反応時間は、特に制限されないが、下限として好ましくは1時間以上であり、更に好ましくは2時間以上である。また、上限として好ましくは10時間以下であり、更に好ましくは9時間以下である。
【0044】
なお、本製造方法において、PVA(A)とアセト酢酸エステル(B)とを反応させる工程において、アセト酢酸エステル(B)を添加する際には一括して添加してもよいし、滴下して加えてもよい。なお、アセト酢酸エステル(B)の滴下時間は任意であり、反応スケールや冷却設備の能力にも寄るが、下限として好ましくは0.5時間以上であり、更に好ましくは1時間以上、特に好ましくは2時間以上である。また、上限として好ましくは8時間以下であり、更に好ましくは6時間以下であり、特に好ましくは5時間以下である。8時間以下であると生産性の観点から好ましい。
【0045】
エステル交換反応後、炭素数1~3のアルコールの洗浄溶媒で洗浄を行う洗浄工程、更に、乾燥工程を経て溶媒を除去する。洗浄工程にて使用される炭素数1~3のアルコールとしては、具体的には、エタノール、メタノール、n-ブチルアルコールが挙げられる。これらは、1種類のみを単独で、又は2種類以上を任意の組み合せ及び比率で用いることができる。これらの中でも、沸点が低く、除去に要するエネルギーが少ないという点から、メタノールが好ましく用いられる。
また、乾燥工程における乾燥時間は、前記温度及び圧力条件、更には処理対象物の質量等を考慮して適宜選択されるものであるが、通常0.5~10時間の範囲内にて設定することが好ましい。また、前記乾燥処理の温度も適宜選択されるものであるが、通常20~80℃の範囲内にて設定することが好ましい。
【0046】
(AA化PVA)
前記のようにして、PVA(A)にアセトアセチル基を側鎖に導入したAA化PVAが得られる。例えば、AA化PVAは、下記の式(1)で表される構造単位を有するものであり、式(1)で表されるアセトアセチル基を有する構造単位以外に、ビニルアルコール構造単位、更には未ケン化部分である酢酸ビニル構造単位を有している。
【0047】
【0048】
本製造方法によれば、着色がなく、白色の粉末状のAA化PVAが得られる。また、本製造方法によれば、溶解性に優れるAA化PVAが得られる。
従って、本製造方法によれば、例えば、AA化PVAの水溶液等を作製した場合に、不溶解分の発生や透明度の低下等を抑制することができる。
【0049】
また、本製造方法は、AA化効率を高めることができ、かかるAA化効率としては、例えば5~20モル%であり、7.5~17.5モル%が好ましく、より好ましくは10~15モル%である。なお、AA化効率とは、下記式により求められるものである。
(式)
[AA化PVAのAA化度(モル%)/アセト酢酸エステルの仕込量(モル%)]×100
【0050】
とりわけ、本製造方法は、PVA(A)に対してアセト酢酸エステル(B)を少量用いることによって(例えば、PVA(A)100質量部に対して200質量部以下)、高浴比(例えば浴比=4~7)かつ不均一系でのアセトアセチル化を行うことができるため、得られるAA化PVAのAA化効率を高くすることができる。
【0051】
また、本製造方法により得られるAA化PVAのAA化度は、用途等に応じて適宜設定できるが、例えば、1~10モル%であり、2~8モル%が好ましく、より好ましくは3~6モル%である。なお、AA化度は、後記実施例に記載の方法により求めることができる。
【0052】
また、従来のAA化PVAの製造方法として、溶媒として、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)のみを単独で用いた場合や、酢酸のみを単独で用いた場合、溶媒とPVAとの浴比を低く抑えなければならず(例えば、浴比=1程度)、スラリー濃度が50質量%程度となるため、汎用的な縦型反応器では撹拌効率が上がらず反応が進行しないことや、反応位置によって反応の進行ムラができてしまうため、ニーダーのような横型反応器での反応を行うことを余儀なくされるという問題があった。
本製造方法のように、アミド化合物(c1)及び脂肪族カルボン酸(c2)を含有する溶媒(C)を用いた場合には、浴比を例えば3~7に高めることができ、スラリー濃度を例えば25質量%以下にすることができるため、設備面での制限が小さい汎用的な縦型反応器を用いて、反応をムラなく進行させることができる点でも有用である。
【0053】
本製造方法において、前記のスラリー濃度としては、5~30質量%が好ましく、7.5~25質量%がより好ましく、10~20質量%が特に好ましい。なお、スラリー濃度は、各成分の配合質量に基づいて下記式により求められるものである。
(式)スラリー濃度(%)=PVA(A)/(溶媒(C)+アセト酢酸エステル(B))×100
【0054】
また、本製造方法によれば、ジケテンを使用する必要がないことから、安全にAA化PVAを製造することも可能である。
【0055】
本製造方法により得られるAA化PVAの用途としては、例えば、以下の(1)~(10)に示す用途が挙げられる。
(1)成形物関係:繊維、フィルム、シート、パイプ、チューブ、防漏膜、暫定皮膜、ケミカルレース用、水溶性繊維等。
(2)接着剤関係:木材、紙、アルミ箔、プラスチック等の接着剤、粘着剤、再湿剤、不織布用バインダー、石膏ボードや繊維板等の各種建材用バインダー、各種粉体造粒用バインダー、セメントやモルタル用添加剤、ホットメルト型接着剤、感圧接着剤、アニオン性塗料の固着剤等。
(3)被覆剤関係:紙のクリアーコーティング剤、紙の顔料コーティング剤、紙の内添サイズ剤、繊維製品用サイズ剤、経糸糊剤、繊維加工剤、皮革仕上げ剤、塗料、防曇剤、金属腐食防止剤、亜鉛メッキ用光沢剤、帯電防止剤、導電剤、暫定塗料等。
(4)疎水性樹脂用ブレンド剤関係:疎水性樹脂の帯電防止剤、及び親水性付与剤、複合繊維、フィルムその他の成形物用添加剤等。
(5)懸濁分散安定剤関係:塗料、墨汁、水性カラー、接着剤等の顔料分散安定剤、塩化ビニル、塩化ビニリデン、スチレン、(メタ)アクリレート、酢酸ビニル等の各種ビニル化合物の懸濁重合用分散安定剤等。
(6)乳化分散安定剤関係:各種アクリルモノマー、エチレン性不飽和化合物、ブタジエン性化合物の乳化重合用乳化剤、ポリオレフィン、ポリエステル樹脂等疎水性樹脂、エポキシ樹脂、パラフィン、ビチューメン等の後乳化剤等。
(7)増粘剤関係:各種水溶液やエマルジョンや石油掘削流体の増粘剤等。
(8)凝集剤関係:水中懸濁物及び溶存物の凝集剤、パルプ、スラリーの濾水性等。
(9)交換樹脂等関係:イオン交換樹脂、キレート交換樹脂、イオン交換膜等。
(10)その他:土壌改良剤、感光剤、感光性レジスト樹脂等。
【実施例0056】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明を更に詳細に説明する。なお、以下の実施例は本発明を詳細に説明するために示すものであり、本発明はその趣旨に反しない限り以下の実施例に限定されるものではない。なお、例中、「部」は、質量基準を意味する。
【0057】
(実施例1)
原料PVA(ケン化度99.1モル%、20℃における4質量%水溶液の粘度13.3mPa・s、平均重合度1200、酢酸ナトリウム含有量0.1質量%)100部、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)270部、酢酸30部、アセト酢酸t-ブチル(t-BAA)107部を含む混合物を入れた試験管を、90℃に設定した恒温槽(アルミブロックバス、東京理化器械社製、ケミステーション)に装填し、同試験管内に回転子(マグネットスターラ)を投入して加熱撹拌した(回転数200rpm)。試験管の内温87℃に達した時点から7時間経過後に恒温槽から試験管を取り出し、水冷して反応を終了させた。得られたスラリーを固液分離し、メタノールで洗浄した後、真空下、40℃で3時間乾燥し、粉末状のAA化PVA(平均重合度1200、AA化度2.41モル%、AA化効率8.02モル%)を得た。
【0058】
[着色評価]
得られたAA化PVAの外観を目視にて観察し、下記基準より評価した。その結果を表1に示す。
(評価基準)
〇:着色がなく、白色の粉末状。
×:着色があり、黄色い粉末状、又は餅状。
【0059】
[溶解性評価]
DMSO-d6(ジメチルスルホキシド-D6)1mLが入った試験管にAA化PVA30mgを入れ、同試験管を、60℃に設定した恒温槽(アルミブロックバス、東京理化器械社製、ケミステーション)に装填し、同試験管内に回転子(マグネットスターラ)を投入して、1時間加熱撹拌して(回転数200rpm)、溶解液を得た。
得られた溶解液を目視にて観察し、下記基準より評価した。その結果を表1に示す。
(評価基準)
〇:溶解液がゲル化していない。
×:溶解液がゲル化した。
【0060】
なお、得られたAA化PVAのAA化度(モル%)、及びAA化効率(モル%)の測定方法等は下記のとおりである。
【0061】
[AA化度の測定]
各AA化PVAのAA化度を、Bruker社製の核磁気共鳴装置「Ascend 400(400MHz),AVANCE III 400,Cryo-probe」を用いて測定した。具体的には、各AA化PVAをDMSO-d6(ジメチルスルホキシド-D6)に溶解し(濃度4%)、積算回数16回、50℃の条件下で測定した。1H-NMRにおいて2.2ppmに現れるアセトアセチル基由来のピーク面積と、PVAのCH2ユニット由来のピーク面積比から、AA化度(モル%)を算出した。
【0062】
[AA化効率の算出]
AA化PVAのAA化度(モル%)と、アセト酢酸エステルの仕込量(モル%)に基づいて、下記式により、AA化効率(モル%)を算出した。
(式)[AA化PVAのAA化度(モル%)/アセト酢酸エステルの仕込量(モル%)]×100
【0063】
(実施例2)
N-メチル-2-ピロリドン(NMP)を450部、酢酸50部とした以外は実施例1と同様にして、粉末状のAA化PVA(平均重合度1200、AA化度3.1モル%、AA化効率10.33モル%)を得た。前記と同様の方法により着色及び溶解性を評価した。その結果を表1に示す。
【0064】
(実施例3)
N-メチル-2-ピロリドン(NMP)を630部、酢酸70部とした以外は実施例1と同様にして、粉末状のAA化PVA(平均重合度1200、AA化度2.53モル%、AA化効率8.42モル%)を得た。前記と同様の方法により着色及び溶解性を評価した。その結果を表1に示す。
【0065】
(実施例4)
N-メチル-2-ピロリドン(NMP)を270部、酢酸30部、アセト酢酸t-ブチル(t-BAA)を160.5部とした以外は実施例1と同様にして、粉末状のAA化PVA(平均重合度1200、AA化度2.47モル%、AA化効率5.48モル%)を得た。前記と同様の方法により着色及び溶解性を評価した。その結果を表1に示す。
【0066】
(実施例5)
N-メチル-2-ピロリドン(NMP)を450部、酢酸50部、アセト酢酸t-ブチル(t-BAA)を160.5部とした以外は実施例1と同様にして、粉末状のAA化PVA(平均重合度1200、AA化度4.06モル%、AA化効率9.03モル%)を得た。前記と同様の方法により着色及び溶解性を評価した。その結果を表1に示す。
【0067】
(実施例6)
N-メチル-2-ピロリドン(NMP)を630部、酢酸70部、アセト酢酸t-ブチル(t-BAA)を160.5部とした以外は実施例1と同様にして、粉末状のAA化PVA(平均重合度1200、AA化度2.87モル%、AA化効率6.37モル%)を得た。前記と同様の方法により着色及び溶解性を評価した。その結果を表1に示す。
【0068】
(実施例7)
N-メチル-2-ピロリドン(NMP)を450部、酢酸50部、アセト酢酸t-ブチル(t-BAA)を214部とした以外は実施例1と同様にして、粉末状のAA化PVA(平均重合度1200、AA化度4.24モル%、AA化効率7.06モル%)を得た。前記と同様の方法により着色及び溶解性を評価した。その結果を表1に示す。
【0069】
(実施例8)
N-メチル-2-ピロリドン(NMP)を475部、酢酸25部、アセト酢酸t-ブチル(t-BAA)を107部とした以外は実施例1と同様にして、粉末状のAA化PVA(平均重合度1200、AA化度4.09モル%、AA化効率13.64モル%)を得た。前記と同様の方法により着色及び溶解性を評価した。その結果を表1に示す。
【0070】
(実施例9)
N-メチル-2-ピロリドン(NMP)を475部、酢酸25部、アセト酢酸t-ブチル(t-BAA)を160.5部とした以外は実施例1と同様にして、粉末状のAA化PVA(平均重合度1200、AA化度5.58モル%、AA化効率12.4モル%)を得た。前記と同様の方法により着色及び溶解性を評価した。その結果を表1に示す。
【0071】
(実施例10)
N-メチル-2-ピロリドン(NMP)を425部、酢酸75部、アセト酢酸t-ブチル(t-BAA)を160.5部とした以外は実施例1と同様にして、粉末状のAA化PVA(平均重合度1200、AA化度2.08モル%、AA化効率4.62モル%)を得た。前記と同様の方法により着色及び溶解性を評価した。その結果を表1に示す。
【0072】
(比較例1)
原料PVA(ケン化度 99.1モル%、4質量%水溶液の粘度13.3mPa・s、平均重合度1200、酢酸ナトリウム含有量0.4質量%)100部、を90℃に昇温したニーダーに仕込み、ここにN-メチル-2-ピロリドン(NMP)100部を1時間かけて滴下した後、膨潤させた。その後アセト酢酸t-ブチル(t-BAA)71部を3時間かけて滴下し、更に4時間反応をさせた。反応終了後、メタノールで洗浄した後、真空下、40℃で乾燥し、粉末状のAA化PVA(平均重合度1200、AA化度4.7モル%、AA化効率28.5モル%)を得た。前記と同様の方法により着色及び溶解性を評価した。その結果を表1に示す。
【0073】
(比較例2)
N-メチル-2-ピロリドン(NMP)を560部、アセト酢酸t-ブチル(t-BAA)を240部、試験管の内温90℃に達した時点で原料PVA(ケン化度 99.1モル%、4質量%水溶液の粘度13.3mPa・s、平均重合度1200、酢酸ナトリウム含有量0.4質量%)100部を仕込んだ。その後4時間経過後に恒温槽から試験管を取り出した以外は実施例1と同様にして、粉末状のAA化PVA(平均重合度1200、AA化度6.6モル%、AA化効率9.8モル%)を得た。前記と同様の方法により着色及び溶解性を評価した。その結果を表1に示す。
【0074】
(比較例3)
原料PVA(ケン化度 99.1モル%、4質量%水溶液の粘度13.3mPa・s、平均重合度1200、酢酸ナトリウム含有量0.4質量%)100部、を90℃に昇温したニーダーに仕込み、ここに酢酸100部を1時間かけて滴下した後、膨潤させた。その後アセト酢酸t-ブチル(t-BAA)71部を3時間かけて滴下し、更に7時間反応をさせた。反応終了後、メタノールで洗浄した後、真空下、40℃で乾燥し、粉末状のAA化PVA(AA化度2.7モル%、AA化効率13.5モル%)を得た。前記と同様の方法により着色及び溶解性を評価した。その結果を表1に示す。
【0075】
(比較例4)
原料PVA(ケン化度99.1モル%、20℃における4質量%水溶液の粘度13.3mPa・s、平均重合度1200、酢酸ナトリウム含有量0.1質量%)100部、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)500部、アセト酢酸t-ブチル(t-BAA)107部、を含む混合物を入れた試験管を、90℃に設定した恒温槽(アルミブロックバス、東京理化器械社製、ケミステーション)に装填し、同試験管内に回転子(マグネットスターラ)を投入して、加熱撹拌した(回転数200rpm)。試験管の内温87℃に達した時点から7時間経過後に恒温槽から試験管を取り出し、水冷で冷却して反応を終了させた。得られたゲル状溶液にメタノールを加え、固形分を析出させて固液分離し、メタノールで洗浄した後、真空下、40℃で3時間乾燥し、餅状のAA化PVA(平均重合度1200、AA化度10.17モル%、AA化効率33.9モル%)を得た。前記と同様の方法により着色及び溶解性を評価した。その結果を表1に示す。
【0076】
(比較例5)
原料PVA(ケン化度99.1モル%、20℃における4質量%水溶液の粘度13.3mPa・s、平均重合度1200、酢酸ナトリウム含有量0.1質量%)100部、酢酸500部、アセト酢酸t-ブチル(t-BAA)107部、を含む混合物を入れた試験管を、90℃に設定した恒温槽(アルミブロックバス、東京理化器械社製、ケミステーション)に装填し、同試験管内に回転子(マグネットスターラ)を投入して、加熱撹拌した(回転数200rpm)。試験管の内温87℃に達した時点から7時間経過後に恒温槽から試験管を取り出し、水冷で冷却して反応を終了させた。得られたスラリーを固液分離し、メタノールで洗浄した後、真空下、40℃で3時間乾燥し、粉体状のAA化PVA(平均重合度1200、AA化度2.84モル%、AA化効率9.5モル%)を得た。前記と同様の方法により着色及び溶解性を評価した。その結果を表1に示す。
【0077】
【0078】
表1のとおり、アミド化合物(c1)及び脂肪族カルボン酸(c2)を含有する混合溶媒を用いた実施例1~10では、溶解性に優れると共に、着色が抑制されたAA化PVAが得られることが確認された。
他方、アミド化合物(c1)又は脂肪族カルボン酸(c2)のいずれか一方を溶媒として用いた比較例1~5では、溶解性に劣るものであるか、又は、着色が発生するものであることが確認された。
【0079】
また、実施例1~10は、溶解性に優れると共に、着色が抑制された粉末状のAA化PVAが得られた。他方、比較例4では、着色が発生するものであり、餅状のAA化PVAが得られた。餅状のAA化PVAは、製造工程に析出工程を追加する必要となる場合や、かさ密度が下がり、例えば包装袋が必要以上に大きくなる等の懸念もあるが、実施例1~10によれば、そのような懸念がない点でも優れているといえる。
【0080】
以上の結果から、本発明の製造方法によれば、溶解性に優れると共に着色が抑制されたAA化PVAが得られることが確認された。
本発明の製造方法により得られるAA化PVAは、高品質なものであり、例えば、各種成形材料、各種接着剤材料、被覆剤材料、疎水性樹脂用ブレンド剤、懸濁分散安定剤、乳化分散安定剤、増粘剤、凝集剤、交換樹脂等の各種用途に好適に用いられる。