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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024014313
(43)【公開日】2024-02-01
(54)【発明の名称】熱伝導組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 101/00 20060101AFI20240125BHJP
   C08K 9/06 20060101ALI20240125BHJP
【FI】
C08L101/00
C08K9/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022117039
(22)【出願日】2022-07-22
(71)【出願人】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】株式会社レゾナック
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】舟橋 一
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 光
(72)【発明者】
【氏名】行武 初
(72)【発明者】
【氏名】小林 郁恵
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002CP031
4J002CP141
4J002DA066
4J002DE046
4J002DF016
4J002DJ006
4J002FB096
4J002FD206
4J002GQ00
4J002GQ05
(57)【要約】
【課題】フィラーをポリマー成分に高充填しても粘度が低く、かつ、高熱伝導率及び適度な硬さを有する硬化物が得られる熱伝導組成物を提供する。
【解決手段】ポリマー成分(A)、
フィラーの表面を重量平均分子量が500~5,000であるα-ブチル-ω-(2-トリメトキシシリルエチル)ポリジメチルシロキサンで表面処理されてなり、前記α-ブチル-ω-(2-トリメトキシシリルエチル)ポリジメチルシロキサンの前記フィラーへの固着率が20.0~50.0質量%である表面処理フィラー(B)、及び
窒化物と、前記窒化物を被覆する珪素含有酸化物被膜とを有する珪素含有酸化物被覆窒化物(C)を含む、熱伝導組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリマー成分(A)、
フィラーの表面を重量平均分子量が500~5,000であるα-ブチル-ω-(2-トリメトキシシリルエチル)ポリジメチルシロキサンで表面処理されてなり、前記α-ブチル-ω-(2-トリメトキシシリルエチル)ポリジメチルシロキサンの前記フィラーへの固着率が20.0~50.0質量%である表面処理フィラー(B)、及び
窒化物と、前記窒化物を被覆する珪素含有酸化物被膜とを有する珪素含有酸化物被覆窒化物(C)を含む、熱伝導組成物。
【請求項2】
前記窒化物が窒化アルミニウムである、請求項1に記載の熱伝導組成物。
【請求項3】
前記フィラーの積算体積50%粒径が0.1~30μmであり、前記窒化物の積算体積50%粒径が10~150μmである、請求項1に記載の熱伝導組成物。
【請求項4】
前記フィラーが、金属、ケイ素、金属酸化物、窒化物、及び複合酸化物からなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項1に記載の熱伝導組成物。
【請求項5】
前記ポリマー成分(A)が、熱硬化性樹脂、エラストマー、及びオイルからなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項1に記載の熱伝導組成物。
【請求項6】
前記ポリマー成分(A)は、25℃における粘度が30~4,000,000mPa・sである、請求項1に記載の熱伝導組成物。
【請求項7】
熱伝導組成物全量に対して、前記ポリマー成分(A)の含有量が1.0~15.0質量%であり、前記表面処理フィラー(B)の含有量が30.0~96.0質量%であり、前記珪素含有酸化物被覆窒化物(C)の含有量が3.0~55.0質量%である、請求項1に記載の熱伝導組成物。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載の熱伝導組成物の硬化物。
【請求項9】
熱伝導率が3.0W/m・K以上である請求項8に記載の熱伝導組成物の硬化物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱伝導組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
電子機器及び自動車には半導体が必須となっている。これら半導体は温度が上昇するにつれてその部品が誤動作を起すなど、故障の要因にもなる。そのため色々な放熱材料が熱対策として使われている。近年、半導体の能力増大に伴い、当該半導体の発熱はますます増大する傾向にあり、その熱を素早く系外に移動させるには高熱伝導率の材料が必要となる。放熱材料の熱伝導率を高くするには、フィラーの充填量を増やすことが簡単で効果も絶大である。ところが、フィラーの充填量を増やすには極力、粘度の低いエラストマーを使う、比表面積の小さいフィラーを使うなどの工夫が必要であり、製品のラインナップ、価格などからこれらを使うことに躊躇いがある。そこでフィラーを充填しやすくする方法として、フィラーの表面処理が行われている。代表的な表面処理剤にはシランカップリング剤があり、充填性が向上するとともに諸物性の向上などに活用されている。特に、長鎖アルキルシランはシランカップリング剤としては充填性向上の観点から比較的優れている。ところが、長鎖アルキルシランをもってしても目標となる熱伝導率となるフィラーの高充填ができない場合が多くなってきている。
【0003】
また、長鎖アルキルシランが有する疎水性基の炭素数を大きくすることで、エラストマーと相溶しやすくなる。疎水性基の炭素数が18程度のものまで入手できるが、炭素数が大きくなるとアルコキシ基が加水分解しにくくなり、フィラーに分散させる溶液の作製が困難であったり、シランカップリング剤同士の高分子化、高分子膜化が遅い、あるいは高分子化、高分子膜化しないことがあり、未反応のシランカップリング剤が高分子系内に大量に残るという問題があった。また、未反応のシランカップリング剤が揮発し、装置を汚染したり、放熱材の耐熱性を低下させるなどの問題も引き起こしていた。
【0004】
これら問題を解決するために、フィラーの表面処理として従来からさまざまな手法が提案されてきた。
例えば、特許文献1には、熱伝導性充填材を分子鎖片末端がトリアルコキシシリル基で封鎖されたジメチルポリシロキサンを用いてインテグラル法により表面処理する方法が提案されている。特許文献2には、充填材を分子鎖片末端がトリアルコキシシリル基で封鎖されたジメチルポリシロキサン及び分子鎖両末端がトリアルコキシシリル基で封鎖されたジメチルポリシロキサンを用いてインテグラル法により表面処理する方法が提案されている。また、特許文献3には、充填材を分子鎖片末端がジアルコキシシリル基で封鎖されたジメチルポリシロキサンを用いてインテグラル法により表面処理する方法が提案されている。特許文献4には、充填材を分子鎖片末端がトリアルコキシシリル基で封鎖されたジメチルポリシロキサンを用いてインテグラル法により表面処理する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2020-180200号公報
【特許文献2】特表2021-502426号公報
【特許文献3】中国特許第112694757号
【特許文献4】米国特許第10604658号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の方法では、表面処理剤として分子鎖片末端がトリアルコキシシリル基で封鎖されたジメチルポリシロキサンを用いているため、当該ジメチルポリシロキサンで表面処理されたフィラーは、シリコーンとの相溶性に優れる。しかし、分子鎖片末端がトリアルコキシシリル基で封鎖されたジメチルポリシロキサンは、長鎖アルキルシラン同様に加水分解が遅いなど反応性に乏しく、インテグラルブレンド法でフィラーの表面処理をするには長時間、高温で撹拌する必要がある。また、分子鎖片末端がトリアルコキシシリル基で封鎖されたジメチルポリシロキサンの合成は意外と困難であり、シリコーンゴムメーカーあるいは有機珪素化学を扱う研究所のみが入手可能な材料であった。また、前記ジメチルポリシロキサンはトリアルコキシ基を有するため、縮合シリコーンの系では、当該ジメチルポリシロキサンは架橋剤として振る舞い、組成物の硬度調整が難しいという問題があった。
【0007】
特許文献2の方法では、表面処理剤として分子鎖片末端又は分子鎖両末端がトリアルコキシシリル基で封鎖されたジメチルポリシロキサンを用いている。当該ジメチルポリシロキサンは、分子鎖末端のトリアルコキシシシリル基と分子鎖のポリシロキサン基とが直接結合せず、炭化水素基を介し結合している。このようなジメチルポリシロキサンは、片末端にSiH基を有するポリシロキサンとビニル基を有するシランカップリング剤とを白金触媒存在下で合成される。数十年前までは片末端にSiH基を有するポリシロキサンもシリコーンゴムメーカーあるいは有機珪素化学を扱う研究所のみが入手可能な材料であったが、今や販売され市場から入手できるため、前記ジメチルポリシロキサンの合成がしやすくなってきている。しかし、前記ジメチルポリシロキサンは、一部に炭化水素基を介する結合があるため高温で劣化しやすいことがある。また、前記ジメチルポリシロキサンを合成する際、原料の片末端にSiH基を有するポリシロキサンの純度が低いなどの問題があった。
【0008】
特許文献3の方法では、表面処理剤として分子鎖片末端がジアルコキシシリル基で封鎖されたジメチルポリシロキサンを用いている。当該ジメチルポリシロキサンは、分子鎖片末端のジアルコキシシシリル基と分子鎖のポリシロキサン基とが直接結合せず、炭化水素基を介し結合している。当該ジメチルポリシロキサンの合成方法は特許文献2と同じである。ジアルコキシシリル基はトリアルコキシシリル基よりも加水分解しやすいことは知られているが、ジアルコキシシリル基の分子量が大きいと、トリアルコキシシリル基の加水分解性との差はほぼなくなる。そのため、前記ジメチルポリシロキサンを用いてインテグラルブレンド法でフィラーの表面処理をするには長時間、高温で撹拌する必要がある。
【0009】
特許文献4の方法では、表面処理剤として分子鎖片末端が複数のトリアルコキシシリル基を有する(3官能レジン構造を含む)ジメチルポリシロキサンを用いている。当該ジメチルポリシロキサンは、トリアルコキシシリル基を複数有するためフィラーとの結合は確率的に高いと考えられるが、シロキサン部分の分子量が大きいと加水分解性の差がほぼなくなる。そのため、前記ジメチルポリシロキサンを用いてインテグラルブレンド法でフィラーの表面処理をするには長時間、高温で撹拌する必要がある。また、表面処理剤自体の合成も困難であるという問題がある。
【0010】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、フィラーをポリマー成分に高充填しても粘度が低く、かつ、高熱伝導率及び適度な硬さを有する硬化物が得られる熱伝導組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、前記課題を解決するべく鋭意検討した結果、下記の発明により前記課題を解決できることを見出した。
【0012】
すなわち、本願発明は、以下に関する。
[1]ポリマー成分(A)、フィラーの表面を重量平均分子量が500~5,000であるα-ブチル-ω-(2-トリメトキシシリルエチル)ポリジメチルシロキサンで表面処理されてなり、前記α-ブチル-ω-(2-トリメトキシシリルエチル)ポリジメチルシロキサンの前記フィラーへの固着率が20.0~50.0質量%である表面処理フィラー(B)、及び窒化物と、前記窒化物を被覆する珪素含有酸化物被膜とを有する珪素含有酸化物被覆窒化物(C)を含む、熱伝導組成物。
[2]前記窒化物が窒化アルミニウムである、上記[1]に記載の熱伝導組成物。
[3]前記フィラーの積算体積50%粒径が0.1~30μmであり、前記窒化物の積算体積50%粒径が10~150μmである、上記[1]又は[2]に記載の熱伝導組成物。[4]前記フィラーが、金属、ケイ素、金属酸化物、窒化物、及び複合酸化物からなる群より選ばれる少なくとも1種である、上記[1]~[3]のいずれかに記載の熱伝導組成物。
[5]前記ポリマー成分(A)が、熱硬化性樹脂、エラストマー、及びオイルからなる群より選ばれる少なくとも1種である、上記[1]~[4]のいずれかに記載の熱伝導組成物。
[6]前記ポリマー成分(A)は、25℃における粘度が30~4,000,000mPa・sである、上記[1]~[5]のいずれかに記載の熱伝導組成物。
[7]熱伝導組成物全量に対して、前記ポリマー成分(A)の含有量が1.0~15.0質量%であり、前記表面処理フィラー(B)の含有量が30.0~96.0質量%であり、前記珪素含有酸化物被覆窒化物(C)の含有量が3.0~55.0質量%である、上記[1]~[6]のいずれかに記載の熱伝導組成物。
[8]上記[1]~[7]のいずれかに記載の熱伝導組成物の硬化物。
[9]熱伝導率が3.0W/m・K以上である上記[8]に記載の熱伝導組成物の硬化物。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、フィラーをポリマー成分に高充填しても粘度が低く、かつ、高熱伝導率及び適度な硬さを有する硬化物が得られる熱伝導組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明について、一実施形態を参照しながら詳細に説明する。
【0015】
<熱伝導組成物>
本実施形態の熱伝導組成物は、ポリマー成分(A)、フィラーの表面を重量平均分子量が500~5,000であるα-ブチル-ω-(2-トリメトキシシリルエチル)ポリジメチルシロキサンで表面処理されてなり、前記α-ブチル-ω-(2-トリメトキシシリルエチル)ポリジメチルシロキサンの前記フィラーへの固着率が20.0~50.0質量%である表面処理フィラー(B)、及び窒化物と、前記窒化物を被覆する珪素含有酸化物被膜とを有する珪素含有酸化物被覆窒化物(C)を含む。
本実施形態の熱伝導組成物は、前記表面処理フィラー(B)及び前記珪素含有酸化物被覆窒化物(C)を含むことにより、ポリマー成分(A)に高充填しても粘度が低く、かつ、高熱伝導率及び適度な硬さを有する硬化物が得られる。
以下、各成分について詳細に説明する。
【0016】
〔ポリマー成分(A)〕
本実施形態で用いられるポリマー成分(A)は、特に限定されず、例えば、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂、エラストマー、オイルなどが挙げられる。これらは単独で、または2種以上を混合して使用してもよい。
ポリマー成分(A)としては、本発明の効果を得る観点から、熱硬化性樹脂、エラストマー、及びオイルからなる群より選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。なお、熱硬化性樹脂は硬化前の状態の物を意味し、本明細書では、加熱硬化タイプに限られず、常温硬化タイプも包含するものとする。
【0017】
熱硬化性樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、ポリイミド、ポリウレタン等が挙げられる。
熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン;ポリエステル、ナイロン、ABS樹脂、メタクリル樹脂、アクリル樹脂、ポリフェニレンスルフィド、フッ素樹脂、ポリスルホン、ポリエーテルイミド、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルケトン、液晶ポリエステル、熱可塑性ポリイミド、ポリ乳酸、ポリカーボネート等が挙げられる。
熱硬化性樹脂および熱可塑性樹脂は、シリコーン変性されていてもよく、フッ素樹脂変性されていてもよい。変性された樹脂の具体例としては、シリコーン変性アクリル樹脂、フッ素樹脂変性ポリウレタンなどが挙げられる。
エラストマーとしては、例えば、天然ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、1,2-ポリブタジエン、スチレン-ブタジエン、クロロプレンゴム、ニトリルゴム、ブチルゴム、エチレン-プロピレンゴム(EPM、EPDM)、クロロスルホン化ポリエチレン、アクリルゴム、エピクロルヒドリンゴム、多硫化ゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴム、ポリウレタンゴム等が挙げられる。
オイルとしては、例えば、低分子量ポリ-α-オレフィン、低分子量ポリブテン、シリコーンオイル、フッ素オイル等が挙げられる。
これらは単独で、または2種以上を混合して使用してもよい。
【0018】
ポリマー成分(A)は、低粘度品の入手性の観点から、ポリウレタン、シリコーンゴム、シリコーンオイルが好ましく、シリコーンゴムがより好ましい。シリコーンゴムは、付加型シリコーンゴムであってもよく、過酸化物型シリコーンゴムであってもよい。
【0019】
ポリマー成分(A)としては、25℃における粘度が30~4,000,000mPa・sのものを用いることが好ましく、50~3,500,000mPa・sのものを用いることがより好ましく、100~3,000,000mPa・sのものを用いることが更に好ましい。前記粘度が30mPa・s以上であると熱安定性に優れ、4,000,000mPa・s以下であると熱伝導組成物の粘度を低くすることができる。
なお、ポリマー成分(A)の25℃における粘度は、JIS Z8803:2011の「液体の粘度測定方法」に基づき、回転粘度計を用いて測定することができ、具体的には実施例に記載の方法により測定することができる。
【0020】
ポリマー成分(A)の含有量は、本実施形態の熱伝導組成物全量に対して、1.0~15.0質量%であり、好ましくは1.2~14.0質量%、より好ましくは1.4~12.0質量%、更に好ましくは1.5~10.0質量%である。前記ポリマー成分の含有量が1.0質量%以上であると熱伝導性を付与することができ、15.0質量%以下であると組成物の粘度及び硬化物の硬度を適切にすることができる。
【0021】
〔表面処理フィラー(B)〕
本実施形態で用いられる表面処理フィラー(B)は、フィラーの表面を重量平均分子量が500~5,000であるα-ブチル-ω-(2-トリメトキシシリルエチル)ポリジメチルシロキサンで表面処理されてなり、前記α-ブチル-ω-(2-トリメトキシシリルエチル)ポリジメチルシロキサンの前記フィラーへの固着率が20.0~50.0質量%である。
【0022】
前記フィラーとしては、金属;ケイ素;金属、ケイ素、又はホウ素の、酸化物、窒化物、炭化物、水酸化物、フッ化物、及び炭酸塩;カーボンなどが挙げられる。
前記金属としては、例えば、銀、金、銅、鉄、タングステン、ステンレス鋼、アルミニウム、カルボニル鉄などが挙げられ、空気中での取り扱いが容易なものが好ましく用いられる。
前記酸化物としては、例えば、酸化亜鉛、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化ケイ素、酸化チタン、酸化鉄、酸化カルシウム、酸化セリウムなどが挙げられる。また、複合酸化物も用いられる。特に、酸化ケイ素には、天然物、合成物があり、具体的には、無煙シリカ、湿式シリカ、乾式シリカ、溶融シリカ、石英粉末、珪砂、珪石、無水珪酸などが挙げられる。複合酸化物としては、例えば、スピネル、灰チタン石、チタン酸バリウム、金緑石、フェライトなどが挙げられる。
前記窒化物としては、例えば、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、窒化ケイ素などが挙げられる。
前記炭化物としては、例えば、炭化ケイ素、炭化ホウ素などが挙げられる。
前記水酸化物としては、例えば、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化鉄、水酸化セリウム、水酸化銅などが挙げられる。
前記フッ化物としては、例えば、フッ化マグネシウム、フッ化カルシウムなどが挙げられる。
前記炭酸塩としては、例えば、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウムなどが挙げられ、ドロマイトなどの炭酸複合塩も用いられる。
前記カーボンとしては、例えば、グラファイト、カーボンブラックなどが挙げられる。
これらは、1種を用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0023】
前記フィラーは、多様な粒径、多様な形状、価格、及び入手の観点から、金属、ケイ素、金属酸化物、窒化物、及び複合酸化物からなる群より選ばれる少なくとも1種であることが好ましく、金属酸化物がより好ましい。
【0024】
また、熱伝導率とコストのバランスを考慮すると酸化アルミニウム(アルミナ)が好ましく、特にα-アルミナが、熱伝導性が高く好ましい。高熱伝導性の観点からは窒化アルミニウム、窒化ホウ素が好適に用いられ、低コストの観点からはシリカ、石英粉末、水酸化アルミニウムが好適に用いられる。
【0025】
前記フィラーの熱伝導率は、熱伝導性付与の観点から、0.5W/m・K以上であることが好ましく、1.0W/m・K以上であることがより好ましい。
【0026】
前記フィラーの形状は、粒子であれば特に限定されないが、真球状、球状、丸み状、鱗片状、破砕状、繊維状などが挙げられる。これらは組み合わせて用いてもよい。
【0027】
前記フィラーの積算体積50%粒径は、ポリマー成分(A)への高充填性の観点から、好ましくは0.1~30μm、より好ましくは0.2~28μm、更に好ましくは0.3~25μm、より更に好ましくは0.3~20μmである。
なお、本明細書において、積算体積50%粒径(以下、D50と表記することがある)は、レーザー回折式粒度分布測定装置を用いて測定した粒度分布において積算体積が50%となる粒径から求めることができる。
【0028】
前記フィラーは、BET法により求めた比表面積が好ましくは0.05~10.0m/g、より好ましくは0.08~9.0m/g、更に好ましくは0.10~8.0m/gである。前記比表面積が、前記範囲内であるとポリマー成分(A)に高充填でき、硬化物の熱伝導率を高めることができる。
前記フィラーの比表面積は、比表面積測定装置を用いて、窒素吸着によるBET 1点法により測定することができ、具体的には実施例に記載の方法により測定することができる。
【0029】
前記フィラーは、耐水処理、流動性改善などの他の表面処理が事前に施されたものでもよい。耐水処理、流動性改善などの表面処理は、フィラーの表面全体に施してもよく、一部に施してもよい。前記表面処理を施したフィラーとしては、例えば、グラフェンなどのナノ粒子を窒化アルミニウムに均一に塗布したフィラー、シリカをセラミックスフィラーに均一に塗布したフィラー、窒化アルミニウムなどの表面にゾルゲル法あるいは水ガラスなどで酸化ケイ素膜を作製し、耐水性、絶縁性を施した成膜フィラーなどが挙げられる。
【0030】
前記フィラーの表面処理に用いられるα-ブチル-ω-(2-トリメトキシシリルエチル)ポリジメチルシロキサンは、重量平均分子量(Mw)が500~5,000であり、好ましくは600~4,500、より好ましくは800~4,200である。前記Mwが前記範囲内であるとα-ブチル-ω-(2-トリメトキシシリルエチル)ポリジメチルシロキサンのフィラーへの固着率を本発明で規定する範囲内とすることができる。
α-ブチル-ω-(2-トリメトキシシリルエチル)ポリジメチルシロキサンは、Mwの異なる2種以上を混合して用いてもよい。
前記Mwは、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)を使用し、分子量が既知の標準ポリスチレン試料を用いて検量線を作成して測定したポリスチレン換算分子量である。
【0031】
α-ブチル-ω-(2-トリメトキシシリルエチル)ポリジメチルシロキサンは、ジメチルシロキサンの繰り返し単位が、好ましくは4~64の整数であり、より好ましくは8~60、更に好ましくは10~56である。ジメチルシロキサンの繰り返し単位が前記範囲内であるとα-ブチル-ω-(2-トリメトキシシリルエチル)ポリジメチルシロキサンのフィラーへの固着率を本発明で規定する範囲内とすることができる。
【0032】
フィラー表面には水酸基などの官能基があり、当該官能基と、α-ブチル-ω-(2-トリメトキシシリルエチル)ポリジメチルシロキサンが有するトリメトキシシリル基とが化学結合することで、フィラー表面にα-ブチル-ω-(2-トリメトキシシリルエチル)ポリジメチルシロキサンの加水分解物が固定される。
【0033】
α-ブチル-ω-(2-トリメトキシシリルエチル)ポリジメチルシロキサンのフィラーへの固着率は、20.0~50.0質量%であり、好ましくは22.0~48.0質量%、より好ましくは24.0~46.0質量%、更に好ましくは25.0~45.0質量%である。前記固着率が20.0質量%以上であると、熱伝導組成物の硬化性が良好となり、50.0質量%以下であるとポリマー成分(A)に高充填しても粘度が低い熱伝導組成物とすることができ、また、その硬化物を適度な硬さとすることができる。
なお、固着率は、JIS R1675:2007の「燃焼(高周波加熱)-赤外線吸収法」に準拠した方法により測定することができ、具体的には実施例に記載の方法により測定することができる。
【0034】
前記表面処理フィラー(B)の含有量は、本実施形態の熱伝導組成物全量に対して、30.0~96.0質量%であり、好ましくは35.0~90.0質量%、より好ましくは38.0~80.0質量%、更に好ましくは40.0~70.0質量%であり、より更に好ましくは45.0~65.0質量%である。表面処理フィラー(B)の含有量が30.0質量%以上であるとフィラーをポリマー成分(A)に高充填しても粘度が低い熱伝導組成物とすることができ、また、その硬化物を適度な硬さとすることができる。また、表面処理フィラー(B)の含有量が96.0質量%以下であると熱伝導組成物の硬化物を適度な硬さとすることができる。
【0035】
(表面処理フィラー(B)の製造方法)
表面処理フィラー(B)の製造方法としては、例えば、フィラーを重量平均分子量が500~5,000であるα-ブチル-ω-(2-トリメトキシシリルエチル)ポリジメチルシロキサン、アルコール、及び水を含む処理液で前処理した後、温度140~180℃で熱処理する方法が挙げられる。
前記フィラー及び前記α-ブチル-ω-(2-トリメトキシシリルエチル)ポリジメチルシロキサンは、それぞれ前述したものを用いることができる。
【0036】
まず、重量平均分子量が500~5,000であるα-ブチル-ω-(2-トリメトキシシリルエチル)ポリジメチルシロキサン、アルコール、及び水を含む処理液を調製する。
アルコールとしては、例えば、エタノール、イソプロパノール、ブタノール等が挙げられる。これらは、1種を用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
前記処理液中に含まれるアルコール濃度は、入手性の観点から、好ましくは99.5~99.9質量%である。
水は、イオン交換水であってもよく、蒸留水であってもよい。
前記処理液は、前記α-ブチル-ω-(2-トリメトキシシリルエチル)ポリジメチルシロキサン、アルコール、及び水以外に、必要に応じて、塩酸、酢酸等の酸;アセトン、メチルエチルケトンなどの有機溶剤(アルコールを除く)を含んでもよい。
前記処理液が酸を含む場合、当該処理液の水素イオン濃度は、加水分解速度とシラノールの安定性の観点から、好ましくは2~10質量%である。
【0037】
フィラーへのα-ブチル-ω-(2-トリメトキシシリルエチル)ポリジメチルシロキサン(以下、単に「ポリジメチルシロキサン」ともいう)の添加量は、ポリジメチルシロキサンの最小被覆面積から決めることができる。
ポリジメチルシロキサンの最小被覆面積は下記式(I)より算出できる。なお、ポリジメチルシロキサン中のトリメトキシシリル基の占有面積は13×10-20である。
【0038】
【数1】
【0039】
α-ブチル-ω-(2-トリメトキシシリルエチル)ポリジメチルシロキサンの添加量は、下記式(II)より算出できる。
【0040】
【数2】
【0041】
式(II)中、被覆率はポリジメチルシロキサンがフィラーを被覆する理論量であり、充填しやすさの観点から、好ましくは10~100%、より好ましくは20~100%である。被覆率が20%以上であると表面処理フィラーを含む組成物の発泡を抑制できる。
【0042】
アルコールの含有量は、α-ブチル-ω-(2-トリメトキシシリルエチル)ポリジメチルシロキサン100質量部に対して、好ましくは150~400質量部、より好ましくは200~350質量部、更に好ましくは200~300質量部である。アルコールの含有量が150質量部以上であると処理液を均一化(相溶化)でき、400質量部以下であるとフィラーに処理液を投入後、スラリー化することができる。
【0043】
水の含有量は、α-ブチル-ω-(2-トリメトキシシリルエチル)ポリジメチルシロキサン100質量部に対して、好ましくは0.5~10質量部、より好ましくは0.8~8質量部、更に好ましくは1~6質量部である。水の含有量が0.5質量部以上であると、トリメトキシ基の加水分解が進み、10質量部以下であると処理液を均一化(相溶化)できる。
【0044】
前記処理液が有機溶剤(アルコールを除く)を含む場合、その含有量は、α-ブチル-ω-(2-トリメトキシシリルエチル)ポリジメチルシロキサン100質量部に対して、好ましくは50~300質量部、より好ましくは100~250質量部、更に好ましくは100~200質量部である。有機溶剤の含有量が50質量部以上であると処理液を均一化(相溶化)でき、300質量部以下であるとフィラーに処理液を投入後、スラリー化することができる。
【0045】
密閉できる容器に、α-ブチル-ω-(2-トリメトキシシリルエチル)ポリジメチルシロキサン、アルコール、及び水、さらに必要に応じで含有される酸、有機溶剤(アルコールを除く)を混合する。これらの化合物を混合する順番は特に限定されず、前記化合物をどのような順番で混合しても構わない。
混合は、撹拌翼を取り付けたモーター、マグネットスターラーの撹拌子で撹拌を行ったり、または各成分を容器に配合してから容器ごとミックスロータで回転させたりして行うことができる。
混合は、23~80℃で4~100時間行うことが好ましく、23~50℃で4~72時間行うことがより好ましい。
【0046】
次に、前記処理液をフィラーに添加し撹拌することで前処理を行う。
撹拌装置としては、自転公転撹拌装置、ナウター、高速ミキサー、ヘンシェルミキサー、プラネタリーミキサー等が挙げられる。
撹拌は、20~70℃で1~120分間行うことが好ましく、23~50℃で1~30分間行うことがより好ましい。
撹拌後、風乾を4~24時間行ってもよい。風乾は、単に室温(25℃)下に放置してもよく、必要に応じて熱風循環式オーブンで温度50~80℃で行ってもよい。
【0047】
前処理した後、温度140~180℃で熱処理し、処理液の焼き付けを行う。
熱処理温度が140℃以上であるとα-ブチル-ω-(2-トリメトキシシリルエチル)ポリジメチルシロキサンのフィラーへの固着率を高めることができ、180℃以下であるとα-ブチル-ω-(2-トリメトキシシリルエチル)ポリジメチルシロキサンの劣化を防ぐことができる。熱処理温度は好ましくは145~175℃、より好ましくは150~170℃である。
また、熱処理時間は、好ましくは2~6時間、より好ましくは2~5時間である。熱処理時間が2時間以上であるとα-ブチル-ω-(2-トリメトキシシリルエチル)ポリジメチルシロキサンによるフィラーの表面処理が十分に行うことができ、6時間以内であると表面処理フィラーの熱劣化による着色が抑制できる。
【0048】
このようにして得られる表面処理フィラー(B)は、水又はアルコールで洗浄してもよい。洗浄に用いるアルコールとしては、例えば、エタノール、プロパノール等が挙げられる。
【0049】
〔珪素含有酸化物被覆窒化物(C)〕
本実施形態で用いられる珪素含有酸化物被覆窒化物(C)は、窒化物と、当該窒化物を被覆する珪素含有酸化物被膜とを有するフィラーである。
珪素含有酸化物被覆窒化物(C)を構成する窒化物としては、金属窒化物が挙げられる。金属窒化物としては、窒化アルミニウムが挙げられ、市販品など公知のものを使用することができる。窒化アルミニウムは、どのような製法で得られたものでもよく、例えば、金属アルミニウム粉と窒素又はアンモニアとを直接反応させる直接窒化法、アルミナを炭素還元しながら窒素又はアンモニア雰囲気下で加熱して同時に窒化反応を行う還元窒化法で得られたものでもよい。
以下、窒化物として、窒化アルミニウムを例示して説明する。
【0050】
窒化アルミニウムの形状は、特に限定されず、例えば、無定形(破砕状)、球形、楕円状、板状(鱗片状)などが挙げられる。
また、窒化アルミニウムの積算体積50%粒径は、好ましくは10~150μmであり、より好ましくは12~100μmであり、更に好ましくは15~80μmである。
【0051】
窒化アルミニウムのBET法から求めた比表面積は、ポリマー成分(A)への充填性の観点から、好ましく0.03~3.5m/gであり、より好ましくは0.04~3.2m/gであり、更に好ましくは0.05~3.0m/gである。
窒化アルミニウムの比表面積は、比表面積測定装置を用いて、窒素吸着によるBET 1点法により測定することができ、具体的には実施例に記載の方法により測定することができる。
【0052】
窒化アルミニウムは、その表面を被覆する珪素含有酸化物被膜を有することが耐湿性向上の観点から好ましい。また、窒化アルミニウムがその表面を被覆する珪素含有酸化物被膜を有することで、耐水性が向上し、加水分解で生じるアンモニアの生成を抑えることにより、ポリマー成分(A)の硬化阻害要因となりにくくなる。珪素含有酸化物被膜は、窒化アルミニウムの表面の一部を覆っていてもよく、全部を覆っていてもよいが、窒化アルミニウムの表面の全部を覆っていることが好ましい。
窒化アルミニウムは熱伝導性に優れるため、表面に珪素含有酸化物被膜を有する窒化アルミニウム(以下、珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウムともいう)も熱伝導性に優れる。
珪素含有酸化物被膜および珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子の「珪素含有酸化物」としては、シリカや、珪素およびアルミニウムを含む酸化物が挙げられる。
【0053】
珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウムは、耐水性及び熱伝導性の観点から、窒化アルミニウムの表面を覆う珪素含有酸化物被膜のLEIS分析による被覆率が、好ましくは15~100%であり、より好ましくは15~95%であり、更に好ましくは15~90%であり、特に好ましくは15~85%である。
【0054】
窒化アルミニウムの表面を覆う珪素含有酸化物被膜(SiO)のLEIS(Low Energy Ion Scattering)分析による被覆率(%)は、下記式で求めることができる。
(SAl(AlN)-SAl(AlN+SiO))/SAl(AlN)×100
上記式中、SAl(AlN)は、窒化アルミニウムのAlピークの面積であり、SAl(AlN+SiO)は、珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウムのAlピークの面積である。Alピークの面積は、イオン源と希ガスとをプローブにする測定方法である低エネルギーイオン散乱(LEIS)による分析から求めることができる。LEISは、数keVの希ガスを入射イオンとする分析手法で、最表面の組成分析を可能とする評価手法である(参考文献:The TRC News 201610-04(October2016))。
なお、窒化アルミニウムの一例であるFAN-f80-A1の表面を覆う珪素含有酸化物被膜のLEIS分析による被覆率は84%であった。
【0055】
窒化アルミニウムの表面に珪素含有酸化物被膜を形成する方法としては、例えば、窒化アルミニウムの表面を、下記式(1)で表される構造を含むシロキサン化合物により覆う第1工程と、シロキサン化合物により覆われた窒化アルミニウムを300℃以上900℃以下の温度で加熱する第2工程とを有する方法が挙げられる。
【0056】
【化1】
【0057】
式(1)中、Rは炭素数が4以下のアルキル基である。
【0058】
式(1)で表される構造は、Si-H結合を有するハイドロジェンシロキサン構造単位である。式(1)中、Rは炭素数が4以下のアルキル基、すなわち、メチル基、エチル基、プロピル基又はブチル基であり、好ましくはメチル基、エチル基、イソプロピル基又はt-ブチル基であり、より好ましくはメチル基である。
【0059】
前記シロキサン化合物としては、式(1)で表される構造を繰り返し単位として含むオリゴマー又はポリマーが好ましい。また、前記シロキサン化合物は、直鎖状、分岐鎖状又は環状のいずれであってもよい。前記シロキサン化合物の重量平均分子量は、均一な膜厚の珪素含有酸化物被膜の形成容易性の観点から、好ましくは100~2,000であり、より好ましくは150~1,000であり、さらに好ましくは180~500である。なお、前記重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)によるポリスチレン換算値とする。
【0060】
前記シロキサン化合物としては、下記式(2)で表される化合物及び/又は下記式(3)で表される化合物が好適に用いられる。
【0061】
【化2】
【0062】
式(2)中、R及びRは、それぞれ独立に、水素原子又はメチル基であり、R及びRの少なくともいずれかは水素原子である。mは0~10の整数であり、市場からの入手性および沸点の観点から、好ましくは1~5、より好ましくは1である。
【0063】
【化3】
【0064】
式(3)中、nは3~6の整数であり、好ましくは3~5、より好ましくは4である。
【0065】
前記シロキサン化合物としては、良好な珪素含有酸化物被膜の形成容易性の観点から、特に、式(3)においてnが4である環状ハイドロジェンシロキサンオリゴマーが好ましい。
【0066】
第1工程では、前記窒化アルミニウムの表面を、前記式(1)で示される構造を含むシロキサン化合物により覆う。
第1工程では、前記窒化アルミニウムの表面を、前記式(1)で示される構造を含むシロキサン化合物により覆うことができれば、特に方法は限定されない。第1工程の方法としては、一般的な粉体混合装置を用いて、原料の窒化アルミニウムを撹拌しながら前記シロキサン化合物を噴霧などで添加して、乾式混合することで被覆する乾式混合法などが挙げられる。
前記粉体混合装置としては、例えば、ヘンシェルミキサー(日本コークス工業(株)製)、容器回転型のVブレンダー、ダブルコーン型ブレンダーなど、混合羽根を有するリボンブレンダー、スクリュー型ブレンダー、密閉型ロータリーキルン、マグネットカップリングを用いた密閉容器の撹拌子による撹拌などが挙げられる。温度条件は、特に限定されないが、好ましくは10~200℃であり、より好ましくは20~150℃であり、更に好ましくは40~100℃の範囲である。
【0067】
また、前記シロキサン化合物の蒸気単独もしくは窒素ガスなどの不活性ガスとの混合ガスを、静置した窒化アルミニウム表面に付着又は蒸着させる気相吸着法を用いることもできる。温度条件は、特に限定されないが、好ましくは10~200℃であり、より好ましくは20~150℃であり、更に好ましくは40~100℃の範囲である。さらに必要な場合には、系内を加圧あるいは減圧させることもできる。この場合に使用できる装置としては、密閉系、且つ、系内の気体を容易に置換できる装置が好ましく、例えば、ガラス容器、デシケーター、CVD装置などを使用できる。
【0068】
前記シロキサン化合物の第1工程での使用量は、特に限定されない。第1工程で得られる、前記シロキサン化合物により覆われた窒化アルミニウムにおいて、前記シロキサン化合物の被覆量が、窒化アルミニウムのBET法から求めた比表面積(m/g)から算出した表面積1m当たり0.1mg以上1.0mg以下であることが好ましく、より好ましくは0.2mg以上0.8mg以下の範囲であり、さらに好ましくは0.3mg以上0.6mg以下の範囲である。前記シロキサン化合物の被覆量が前記範囲内であると均一な膜厚の珪素含有酸化物被膜を有する窒化アルミニウムを得ることができる。
なお、前記窒化アルミニウムのBET法から求めた比表面積(m/g)から算出した表面積1m当たりの、前記シロキサン化合物の被覆量は、シロキサン化合物で被覆する前後の窒化アルミニウムの質量差を、窒化アルミニウムのBET法から求めた比表面積(m/g)から算出した表面積(m)で除すことで求めることができる。
【0069】
第2工程では、第1工程で得られたシロキサン化合物により覆われた窒化アルミニウムを、300℃以上800℃以下の温度で加熱する。これにより、窒化アルミニウム表面に珪素含有酸化物被膜を形成することができる。加熱温度は、より好ましくは400℃以上であり、更に好ましくは500℃以上である。
【0070】
加熱時間は、十分な反応時間を確保し、また、良好な珪素含有酸化物被膜の形成を効率的に行う観点から、30分以上6時間以下が好ましく、より好ましくは45分以上4時間以下であり、更に好ましくは1時間以上2時間以下の範囲である。前記加熱処理時の雰囲気は、酸素ガスを含む雰囲気下、例えば大気中(空気中)で行うことが好ましい。
【0071】
第2工程の熱処理後に、珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子同士が、部分的に融着することがあるが、このような場合には、例えば、ローラーミル、ハンマーミル、ジェットミル、ボールミル等の一般的な粉砕機を用いて解砕し、固着や凝集のない珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウムを得ることができる。
【0072】
また、第2工程終了後に、さらに、第1工程及び第2工程を順に行ってもよい。すなわち、第1工程及び第2工程を順に行う工程を、繰り返し実行してもよい。
【0073】
前記珪素含有酸化物被覆窒化物(C)の含有量は、本実施形態の熱伝導組成物全量に対して、3.0~55.0質量%であり、好ましくは5.0~54.0質量%、より好ましくは10.0~52.0質量%、更に好ましくは20.0~50.0質量%であり、より更に好ましくは30.0~50.0質量%である。珪素含有酸化物被覆窒化物(C)の含有量が3.0質量%以上であるとフィラーをポリマー成分(A)に高充填しても粘度が低い熱伝導組成物とすることができ、また、その硬化物を適度な硬さとすることができる。また、珪素含有酸化物被覆窒化物(C)の含有量が55.0質量%以下であると熱伝導組成物の硬化物を適度な硬さとすることができる。
【0074】
〔その他のフィラー〕
本実施形態の熱伝導組成物は、熱伝導率向上の観点から、上述の表面処理フィラー(B)以外のその他のフィラー(以下、単にその他のフィラーともいう)を含むことが好ましい。その他のフィラーは表面処理されていてもよく、表面処理されていなくてもよい。
その他のフィラーとしては、金属酸化物、金属窒化物、金属水酸化物等が挙げられる。
金属酸化物としては、酸化亜鉛、アルミナ、酸化マグネシウム、二酸化ケイ素、酸化鉄等が挙げられる。金属窒化物としては、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、窒化ケイ素等が挙げられる。金属水酸化物としては、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム等が挙げられる。
熱伝導率とコストのバランスを考慮すると酸化アルミニウム(アルミナ)が好ましく、特にα-アルミナが、熱伝導性が高く好ましい。高熱伝導性の観点からは窒化アルミニウム、窒化ホウ素が好適に用いられ、低コストの観点からはシリカ、石英粉末、水酸化アルミニウムが好適に用いられる。
【0075】
その他のフィラーの積算体積50%粒径は、熱伝導率向上と高充填率化の観点から、好ましくは30μm超100μm以下であり、より好ましくは35~90μm、更に好ましくは40~85μm、より更に好ましくは45~80μmである。
【0076】
本実施形態の熱伝導組成物がその他のフィラーを含む場合、その含有量は当該熱伝導組成物全量に対して、好ましくは30~50質量%、より好ましくは34~48質量%、更に好ましくは38~46質量%である。その他のフィラーの含有量が30質量%以上であると熱伝導率をより高めることができ、50質量%以下であると硬化物の硬度を低くし、適度な硬さにすることができる。
【0077】
本実施形態の熱伝導組成物は、以上の各成分の他に、硬化形態、物性に影響がなく、本発明の効果を妨げない範囲で、耐熱剤、難燃剤、可塑剤、加硫剤、シランカップリング剤、分散剤、反応促進剤などの添加剤を必要に応じて配合することができる。
前記添加剤を用いる場合、その添加量は、いずれも熱伝導組成物全量に対して、好ましくは0.05~10.0質量%、より好ましくは0.10~8.0質量%、更に好ましくは0.15~5.0質量%である。
【0078】
本実施形態の熱伝導組成物中、ポリマー成分(A)、表面処理フィラー(B)、及び珪素含有酸化物被覆窒化物(C)の合計含有量は、好ましくは90~100質量%、より好ましくは92~100質量%、更に好ましくは95~100質量%である。
【0079】
本実施形態の熱伝導組成物は、撹拌装置に、ポリマー成分(A)、表面処理フィラー(B)、珪素含有酸化物被覆窒化物(C)、並びに必要に応じて配合されるその他のフィラー、及び添加剤を投入して撹拌し、混練することで得ることができる。撹拌装置は、特に限定されず、例えば、二本ロール、ニーダー、プラネタリーミキサー、高速ミキサー、自転・公転撹拌機などが挙げられる。
【0080】
本実施形態の熱伝導組成物は、30℃における粘度が好ましくは100~1500Pa・s、より好ましくは100~1000Pa・s、更に好ましくは100~800Pa・sである。
前記粘度は、フロー粘度計を用いてJIS K7210:2014に準拠した方法で測定することができ、具体的には実施例に記載の方法により測定することができる。
【0081】
本実施形態の熱伝導組成物は、低粘度で、かつ、高熱伝導率及び適度な硬さを有する硬化物を得ることができるため、電子機器、パソコン、自動車用のECUや電池など、発熱性の電子部品に好適に用いることができる。
【0082】
<熱伝導組成物の硬化物>
本実施形態の熱伝導組成物は、例えば、熱伝導性組成物を、室温(23℃)又は加熱により反応させることで硬化物を得ることができる。ポリマー成分(A)が常温硬化型の場合には、20~25℃の温度で1日~10日程度放置して硬化させてもよい。
【0083】
ポリマー成分(A)が付加型シリコーンゴムの場合、例えば、室温(23℃)又は加熱により反応させることで硬化物を得ることができる。ポリマー成分(A)として付加型シリコーンゴムを含む熱伝導性組成物を加熱により硬化させる場合、当該加熱は、無加圧で、温度50℃以上150℃以下、5分間以上20時間以下の条件で行うことが好ましく、温度60℃以上120℃以下、10分間以上10時間以下の条件で行うことがより好ましい。
ポリマー成分(A)が過酸化物型シリコーンゴムの場合、例えば、室温(23℃)又は加熱により反応させることで硬化物を得ることができる。ポリマー成分(A)として過酸化物型シリコーンゴムを含む熱伝導性組成物を加熱により硬化させる場合、圧力0.1~1.0MPaで、温度50℃以上150℃以下、5分間以上2時間以下の条件で一次加硫し、続いて、無加圧で、温度100℃以上250℃以下、1時間以上10時間以下の条件で二次加硫して行うことが好ましく、圧力0.1~0.6MPaで、温度60℃以上120℃以下、10分間以上1時間以下の条件で一次加硫し、続いて、無加圧で、温度150℃以上230℃以下、2時間以上6時間以下の条件で二次加硫して行うことがより好ましい。
【0084】
本実施形態の熱伝導組成物の硬化物は、熱伝導率が好ましくは3.0W/m・K以上、より好ましくは3.2W/m・K以上である。
前記熱伝導率は、ISO22007-2:2008に準拠した方法で測定することができ、具体的には実施例に記載の方法により測定することができる。
【0085】
本実施形態の熱伝導組成物の硬化物は、ASTM D2240の硬さ試験(Shore00)に準拠して測定した硬度が、好ましくは20~80、より好ましくは22~70、更に好ましくは25~60である。前記Shore00硬度が前記範囲内であると適度な硬さを有する硬化物とすることができる。
前記Shore00硬度は、具体的には実施例に記載の方法により測定することができる。
【0086】
本実施形態の熱伝導性組成物の硬化物は、 JIS K7312:1996の硬さ試験(タイプA)に準拠して測定したA硬度が、好ましくは60~90であり、より好ましくは65~90であり、更に好ましくは70~85である。前記A硬度が前記範囲内であると適度な硬さを有する硬化物とすることができる。
前記A硬度は、具体的には実施例に記載の方法により測定することができる。
【実施例0087】
次に実施例により、本発明を具体的に説明するが、本発明は、これらの例によってなんら限定されるものではない。
【0088】
(原料化合物)
実施例1~9及び比較例1~8で使用した原料化合物の詳細は、以下のとおりである。
〔フィラー〕
・AES-12:アルミナ、住友化学株式会社製、D50=0.5μm、比表面積(BET法)=5.8m/g、熱伝導率=25W/m・K、比重=3.98g/cm
・BAK-5:アルミナ、上海百図株式会社製、D50=5μm、比表面積(BET法)=0.4m/g、熱伝導率=25W/m・K、比重=3.98g/cm
・AKP30:アルミナ、住友化学株式会社製、D50=0.32μm、比表面積(BET法)=7.0m/g、熱伝導率=25W/m・K、比重=3.98g/cm
・AA-3:アルミナ、住友化学株式会社製、D50=3.0μm、比表面積(BET法)=0.54m/g、熱伝導率=25W/m・K、比重=3.98g/cm
・AA-18:アルミナ、住友化学株式会社製、D50=20μm、比表面積(BET法)=0.15m/g、熱伝導率=25W/m・K、比重=3.98g/cm
・TFZ-S60X:窒化アルミニウム、東洋アルミニウム株式会社製、D50=55μm、比表面積(BET法)=0.1m/g、熱伝導率=170W/m・K、比重=3.26g/cm
・TFZ-S30P:窒化アルミニウム、東洋アルミニウム株式会社製、D50=30μm、比表面積(BET法)=0.2m/g、熱伝導率=170W/m・K、比重=3.26g/cm
・TFZ-N15P:窒化アルミニウム、東洋アルミニウム株式会社、D50=15μm、比表面積(BET法)=0.9m/g、熱伝導率=170W/m・K、比重=3.26g/cm
・FAN-f80-A1:窒化アルミニウム、古河電子株式会社製、D50=76μm、比表面積(BET法)=0.05m/g、熱伝導率=170W/m・K、比重=3.26g/cm
【0089】
フィラーのD50、比表面積、及び熱伝導率は、下記の測定方法により測定した。
(1)D50
レーザー回折式粒度分布測定装置(マイクロトラック・ベル株式会社製、商品名:MT3300EXII)を用いて測定した粒度分布において積算体積が50%となる粒径(50%粒径D50)から求めた。
【0090】
(2)比表面積
比表面積測定装置(株式会社マウンテック製、商品名:Macsorb MS30)を用いて、窒素吸着によるBET 1点法により測定した。
【0091】
(3)熱伝導率
フィラー50gを粉砕し、次にパラフィンをフィラーの5質量%添加し練り、得られた混練物を直径25mm、厚み8mmの金型に入れ、冷間プレスによって成形した。次に電気炉にて室温(20℃)から200℃まで1時間かけて昇温し、200℃を保持しながら2時間脱脂をおこなった。引き続き、昇温速度400℃/時間で昇温し、温度1580℃で4時間焼成し、4時間以上自然放冷にて冷却し、焼結体を得た。得られた焼結体の熱伝導率をホットディスク法 熱物性測定装置(京都電子工業株式会社製 商品名 TPS 2500 S)を用いて、ISO22007-2:2008に準拠して測定した。
【0092】
〔ポリマー成分(A)〕
・DOWSILTM CY52-276:A液(ビニル基含有ジメチルシリコーンゴムと白金触媒との混合物)及びB液(ビニル基含有ジメチルシリコーンゴムと架橋剤との混合物)、ダウ・東レ株式会社製、25℃における粘度=780mPa・s、熱伝導率=0.2W/m・K、比重=0.97g/cm
・DOWSILTM EG-3100:シリコーンゴム、ダウ・東レ株式会社製、25℃における粘度=320mPa・s、熱伝導率=0.2W/m・K、比重=0.97g/cm
・TSE201:ビニル基含有ジメチルシリコーンゴム、モメンティブ社製、25℃における粘度:1,000,000~3,000,000mPa・s、熱伝導率=0.20W/m・K、比重=0.97g/cm
【0093】
〔その他の成分〕
・KN320:難燃剤、戸田工業株式会社製
・TC-1:加硫剤、モメンティブ社製
【0094】
ポリマー成分(A)の粘度、及び熱伝導率は、下記の測定方法により測定した。なお、DOWSILTM CY52-276の測定では、前記A液及び前記B液の質量比1:1の混合物を用いた。
(1)粘度
DOWSILTM CY52-276およびDOWSILTM EG-3100の粘度は、JIS Z8803:2011の「液体の粘度測定方法」に基づき、回転粘度計(東機産業株式会社製、商品名:TVB-10、ロータNo.3)を用いて、25℃で回転速度20rpmの条件で測定した。
また、TSE201の粘度は、JIS K7210:2014に準拠して、フロー粘度計(GFT-100EX、株式会社島津製作所製)を用いて、温度30℃、ダイ穴径(直径)1.0mm、試験力10(重り1.8kg)の条件で測定した。
(2)熱伝導率
ポリマー成分(A)の熱伝導率は、ホットディスク法 熱物性測定装置(京都電子工業株式会社製 商品名 TPS 2500 S)を用いて、ISO22007-2:2008に準拠して測定した。
【0095】
〔α-ブチル-ω-(2-トリメトキシシリルエチル)ポリジメチルシロキサン〕
・表面処理剤-1:α-ブチル-ω-(2-トリメトキシシリルエチル)ポリジメチルシロキサン、重量平均分子量=3,000、ジメチルシロキサンの繰り返し単位数=37、25℃における粘度=25mPa・s、最小被覆面積=26.1m/g、比重=0.97g/cm
・表面処理剤-2:α-ブチル-ω-(2-トリメトキシシリルエチル)ポリジメチルシロキサン、重量平均分子量=1,400、ジメチルシロキサンの繰り返し単位数=15.3、25℃における粘度=16mPa・s、最小被覆面積=55.9m/g、比重=0.97g/cm
・表面処理剤-3:α-ブチル-ω-(2-トリメトキシシリルエチル)ポリジメチルシロキサン、重量平均分子量=4,000、ジメチルシロキサンの繰り返し単位数=50、25℃における粘度=40mPa・s、最小被覆面積=19.6m/g、比重=0.97g/cm
【0096】
〔シランカップリング剤〕
・表面処理剤-4:KBM-3103C、デシルトリメトキシシラン、信越化学工業株式会社製、分子量=262.5、最小被覆面積=298m/g、比重=0.89g/cm
・表面処理剤-5:Dynasylan(登録商標)9116、ヘキサデシルトリメトキシシラン、分子量=346.6、エボニック・ジャパン株式会社製、最小被覆面積=226m/g、比重=0.89g/cm
【0097】
表面処理剤の最小被覆面積は、下記式(i)より算出した。
なお、式(i)中、トリメトキシシリル基の占有面積は、α-ブチル-ω-(2-トリメトキシシリルエチル)ポリジメチルシロキサン、デシルトリメトキシシラン、及びヘキサデシルトリメトキシシランいずれも13×10‐20である。
【0098】
【数3】
【0099】
(合成例1:表面処理フィラー(B1)の製造)
(1)処理液の調製
表面処理剤-1の使用量は下記式(ii)より算出した。
なお、式(ii)中、フィラーの被覆率は33.3%とした。
【0100】
【数4】
【0101】
バイヤル瓶に表面処理剤-1 3.22質量部、イソプロパノール 8.05質量部、及びイオン交換水 0.06質量部を加え、密閉してミックスロータ(VMR-5A、アズワン株式会社製)を用いて、温度25℃、回転数70rpmで3日間撹拌混合し処理液を得た。
【0102】
(2)フィラーの表面処理
フィラーとして、AES-12(アルミナ)40.0質量部及びBAK-5(アルミナ)50.0質量部を自転・公転ミキサー(ARE-310、株式会社シンキー製)を用いて、温度25℃、回転数2000rpmで20秒間、撹拌混合した。得られた混合物に、前記(1)で得られた処理液をスポイトで40mL加え、自転・公転ミキサーを用いて、温度25℃、回転数2000rpmで20秒間の撹拌混合を3回繰り返した後、1日室温(25℃)下で風乾し溶剤を揮発させた。次いで、温度160℃で4時間熱処理し、表面処理剤-1の焼き付けを行った後、室温(25℃)で冷却して表面処理剤-1で表面処理された表面処理フィラー(B1)を得た。
【0103】
(3)表面処理フィラー(B1)の洗浄
得られた表面処理フィラー(B1)を下記操作により洗浄した。
表面処理フィラー(B1) 20質量部を遠沈管に入れ、イソプロパノール10質量部を加え、蓋をして30秒間手で上下に振り、その後遠心分離機(CN-2060 アズワン株式会社製)にて回転数3000rpmで10分間の条件で撹拌し表面処理フィラー(B1)を沈降させた。上澄み液を捨て沈殿物をほぐしてからイソプロパノール10質量部を加え、蓋をして30秒間手で上下に振り、その後遠心分離機にて回転数3000rpmで10分間の条件で撹拌し表面処理フィラー(B1)を沈降させた。さらにもう1回同じ手順を行い、上澄み液を捨て沈殿物を遠沈管に入れたまま1日風乾した。その後、温度100℃で1時間乾燥した。
【0104】
(合成例2~5:表面処理フィラー(B2)、(B3)、及び表面処理フィラー(b1)、(b2)の製造)
表1に記載の種類及び配合量の処理液に変更し、表1に記載の熱処理温度及び熱処理時間に変更したこと以外は合成例1と同様にして合成例2~5の表面処理フィラー(B2)、(B3)、(b1)、(b2)を得た。
なお、合成例2及び3において使用する表面処理剤の量は、前記式(ii)においてフィラーの被覆率を33.3%として算出した。また、合成例4及び5において使用する表面処理剤の量は、前記式(ii)においてフィラーの被覆率を100%として算出した。
【0105】
(合成例6:表面処理フィラー(B4)の製造)
(1)処理液の調製
表面処理剤-1の使用量は上記式(ii)より算出した。なお、式(ii)中、フィラーの被覆率は33.3%とした。
バイヤル瓶に表面処理剤-1 2.76質量部、イソプロパノール 6.90質量部、及びイオン交換水 0.05質量部を加え、密閉してミックスロータ(VMR-5A、アズワン株式会社製)を用いて、温度25℃、回転数70rpmで3日間撹拌混合し処理液を得た。
【0106】
(2)フィラーの表面処理
フィラーとして、AKP30(アルミナ)60質量部、AA-3(アルミナ)60質量部及びAA-18(アルミナ)10質量部を自転・公転ミキサー(ARE-310、株式会社シンキー製)を用いて、温度25℃、回転数2000rpmで20秒間、撹拌混合した。得られた混合物に、前記(1)で得られた処理液をスポイトで40mL加え、自転・公転ミキサーを用いて、温度25℃、回転数2000rpmで20秒間の撹拌混合を3回繰り返した後、1日室温(25℃)下で風乾し溶剤を揮発させた。次いで、温度160℃で4時間熱処理し、表面処理剤-1の焼き付けを行った後、室温(25℃)で冷却して表面処理剤-1で表面処理された表面処理フィラー(B4)を得た。
【0107】
(3)表面処理フィラー(B4)の洗浄
得られた表面処理フィラー(B4)を合成例1の「(3)表面処理フィラー(B1)の洗浄」と同様の手順にしたがって洗浄した。
【0108】
(合成例7:表面処理フィラー(b3)の製造)
表1に記載の種類及び配合量の処理液に変更し、表1に記載の熱処理温度及び熱処理時間に変更したこと以外は合成例6と同様にして合成例7の表面処理フィラー(b3)を得た。
なお、合成例7において使用する表面処理剤の量は、前記式(ii)においてフィラーの被覆率を100%として算出した。
【0109】
(合成例8:表面処理フィラー(B5)の製造)
(1)処理液の調製
表面処理剤-1の使用量は上記式(ii)より算出した。なお、式(ii)中、フィラーの被覆率は33.3%とした。
バイヤル瓶に表面処理剤-1 4.02質量部、イソプロパノール 10.6質量部、及びイオン交換水 0.07質量部を加え、密閉してミックスロータ(VMR-5A、アズワン株式会社製)を用いて、温度25℃、回転数70rpmで3日間撹拌混合し処理液を得た。
【0110】
(2)フィラーの表面処理
フィラーとして、AKP30(アルミナ)40質量部及びAA-3(アルミナ)50質量部を自転・公転ミキサー(ARE-310、株式会社シンキー製)を用いて、温度25℃、回転数2000rpmで20秒間、撹拌混合した。得られた混合物に、前記(1)で得られた処理液をスポイトで40mL加え、自転・公転ミキサーを用いて、温度25℃、回転数2000rpmで20秒間の撹拌混合を3回繰り返した後、1日室温(25℃)下で風乾し溶剤を揮発させた。次いで、温度160℃で4時間熱処理し、表面処理剤-1の焼き付けを行った後、室温(25℃)で冷却して表面処理剤-1で表面処理された表面処理フィラー(B5)を得た。
【0111】
(3)表面処理フィラー(B5)の洗浄
得られた表面処理フィラー(B5)を合成例1の「(3)表面処理フィラー(B1)の洗浄」と同様の手順にしたがって、洗浄した。
【0112】
(合成例9:表面処理フィラー(b4)の製造)
表1に記載の種類及び配合量の処理液に変更し、表1に記載の熱処理温度及び熱処理時間に変更したこと以外は合成例8と同様にして合成例9の表面処理フィラー(b4)を得た。
なお、合成例9において使用する表面処理剤の量は、前記式(ii)においてフィラーの被覆率を100%として算出した。
【0113】
得られた表面処理フィラー(B1)~(B5)、及び表面処理フィラー(b1)~(b4)について、下記評価を行った。結果を表1に示す。
〔表面処理剤のフィラーへの固着率〕
表面処理剤の固着率は、JIS R1675:2007の「燃焼(高周波加熱)-赤外線吸収法」に準拠した方法により測定した。表面処理剤の全炭素量、洗浄後の表面処理フィラーの全炭素量をそれぞれ測定し、下記式(iii)より算出した。
なお、表面処理剤-1の炭素含有量は32.73質量%、表面処理剤-2の炭素含有量は33.13質量%、表面処理剤-3の炭素含有量は32.65質量%、表面処理剤-4の炭素含有量は70.91質量%、及び表面処理剤-5の炭素含有量は質量75.79%である。
【0114】
【数5】
【0115】
【表1】
【0116】
(合成例10:珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム(C1)の製造)
板厚20mmのアクリル樹脂製で内寸法が260mm×260mm×100mmであり、貫通孔を有する仕切りで上下二段に分けられた構造の真空デシケーターを使用して、上段に窒化アルミニウム(TFZ-S60X)100gをステンレストレーに均一に広げて静置し、下段に2,4,6,8-テトラメチルシクロテトラシロキサン(D4H)(東京化成工業(株)製)20gをガラス製シャーレに入れて静置した。その後、真空デシケーターを閉じ、80℃のオーブンで30時間の加熱を行った。なお、反応により発生する水素ガスは、真空デシケーターに付随する開放弁から逃がすなどの安全対策を取って操作を行った。次に、デシケーターから取り出したサンプルをアルミナ製のるつぼに入れ、大気中で、サンプルを700℃、3時間の条件で熱処理を行うことで、珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム(C1)を得た。
【0117】
(合成例11:珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム(C2)の製造)
窒化アルミニウムとして、TFZ-S60Xの代わりにTFZ-S30Pを用いたこと以外は合成例10と同様にして合成例12の珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム(C2)を得た。
【0118】
(合成例12:珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム(C3)の製造)
窒化アルミニウムとして、TFZ-S60Xの代わりにTFZ-N15Pを用いたこと以外は合成例10と同様にして合成例12の珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム(C3)を得た。
【0119】
(合成例13:珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム(C4)の製造)
窒化アルミニウムとして、TFZ-S60Xの代わりにFAN-f80-A1を用い、800℃、3時間の条件で熱処理を行ったこと以外は合成例10と同様にして合成例13の珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム(C4)を得た。
【0120】
(実施例1)
(熱伝導組成物の製造)
ポリマー成分(A)として、ビニル基含有ジメチルシリコーンゴム(DOWSILTM CY52-276、A液及びB液の質量比1:1の混合物)75.0質量部、表面処理フィラーとして、表面処理フィラー(B1)900.0質量部をポリエチレン容器に入れ、自転・公転ミキサー((株)シンキー製)で、回転数2000rpm、30秒間の条件で撹拌混合を行った。冷却後、混合物をほぐし、さらに珪素含有酸化物被覆窒化物として、珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム(C1)772.4質量部を加え、自転・公転ミキサーで回転数2000rpm、30秒間の条件で撹拌混合し実施例1の熱伝導組成物を得た。
【0121】
(シートの作製)
フッ素離型処理を施した厚み0.1mmのポリエステルフィルム上に、脱泡した熱伝導組成物を載せ、そのうえから厚み0.1mmのポリエステルフィルムを空気の混入がないように被せ、圧延ロールにて成形し、120℃で60分間硬化させ、さらに一日室温(23℃)で放置し、厚み2.0mmのシート(熱伝導組成物の硬化物)を得た。
【0122】
(実施例2、3及び比較例1~3:熱伝導組成物、シートの製造)
表2に記載の種類及び配合量の各成分に変更したこと以外は実施例1と同様にして各実施例及び比較例の熱伝導組成物並びにシートを作製した。なお、比較例3は、ポリマー成分(A)にフィラーが充填できず、シートを作製することができなかった。
【0123】
(評価)
以下に示す測定条件により、各実施例及び比較例で得られた熱伝導組成物並びに熱伝導組成物のシートを用いて特性を測定した。結果を表2に示す。
【0124】
(1)フィラーの含有量(体積%)
熱伝導組成物全量に対するフィラーの含有量(体積%)は、下記式(iv)より算出した。
なお、下記式(iv)において、フィラーの体積は、表面処理フィラー(B)の体積、珪素含有酸化物被覆窒化物(C)の体積、表面処理フィラー(B)以外の表面処理フィラーの体積、及びその他のフィラーの体積の合計とする。表面処理フィラー(B)の体積は、フィラーを表面処理する前のフィラーの体積を表し、樹脂成分の体積は、ポリマー成分(A)の体積とフィラーの表面処理に用いた表面処理剤の体積との合計とする。
【0125】
【数6】
【0126】
(2)粘度
JIS K7210:2014に準拠して、フロー粘度計(GFT-100EX、(株)島津製作所製)を用いて、温度30℃、ダイ穴径(直径)1.0mm、試験力10(重り1.8kg)の条件で測定した。
【0127】
(3)硬度(Shore 00 硬度)
得られた厚み2.0mmのシートを幅20mm×長さ30mmの短冊状に切り出し、それを3枚重ねてブロックを作り、測定サンプルとした。アスカーC 硬度計(アスカー Cゴム硬度計、高分子計器(株)製)を用いて、ASTM D2240の硬さ試験(Shore00)に準拠して前記測定サンプルのShore00 硬度を測定した。
【0128】
(4)硬度(A硬度)
得られた厚み6mmでφ45mmのシートを測定サンプルとした。JIS K7312:1996に準拠して、ゴム用硬度計(高分子計器株式会社、商品名:アスカーゴム硬度計A型)を用いて、前記測定サンプルのA硬度を測定した。
【0129】
(5)熱伝導率
得られた厚み2.0mmのシートを幅20mm×長さ30mmの短冊状に切り出し、それを3枚重ねてブロックを作り、その表面をラップで覆った測定サンプルを2個作製した。ISO22007-2:2008に準拠するホットディスク法測定装置(京都電子工業(株)製、TPS-2500)のプローブを前記測定サンプルで上下から挟み込む形でセットし、熱伝導率を測定した。
【0130】
【表2】
【0131】
表面処理フィラー(B)及び珪素含有酸化物被覆窒化物(C)を含む実施例1~3の熱伝導組成物は、シランカップリング剤により表面処理されたフィラーを含む比較例1及び2の熱伝導組成物と比較して、いずれも粘度が低く、かつ、低硬度で適度な硬さを有し、また、高熱伝導率を有する硬化物が得られることがわかる。比較例3から、表面処理をしていないフィラーは、ポリマー成分に充填できないことがわかる。
【0132】
(実施例4:熱伝導組成物、シートの製造)
ポリマー成分(A)として、シリコーンゴム(DOWSILTM EG-3100)100.0質量部、表面処理フィラーとして、表面処理フィラー(B4)1621.0質量部をポリエチレン容器に入れ、自転・公転ミキサー((株)シンキー製)で、回転数2000rpm、30秒間の条件で撹拌混合を行った。冷却後、混合物をほぐし、さらに珪素含有酸化物被覆窒化物として、珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム(C2)224.0質量部、及び珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム(C4)1487.0質量部を加え、自転・公転ミキサーで回転数2000rpm、30秒間の条件で撹拌混合し実施例4の熱伝導組成物を得た。また、実施例1と同様にして実施例4のシートを得た。
【0133】
(実施例5~7及び比較例4:熱伝導組成物、シートの製造)
表3に記載の種類及び配合量の各成分に変更したこと以外は実施例4と同様にして各実施例及び比較例の熱伝導組成物並びにシートを得た。
【0134】
前述の測定条件により、実施例4~7及び比較例4で得られた熱伝導組成物並びに熱伝導組成物のシートを用いて特性を測定した。結果を表3に示す。
【0135】
【表3】
【0136】
表面処理フィラー(B)及び珪素含有酸化物被覆窒化物(C)を含む実施例4~7の熱伝導組成物は、シランカップリング剤により表面処理されたフィラーを含む比較例4の熱伝導組成物と比較して、いずれも粘度が低く、かつ、低硬度で適度な硬さを有し、また、高熱伝導率を有する硬化物が得られることがわかる。
【0137】
(実施例8)
(熱伝導組成物の製造)
ポリマー成分(A)として、ビニル基含有ジメチルシリコーンゴム(TSE201)90.0質量部、表面処理フィラーとして、表面処理フィラー(B5)450.0質量部をポリエチレン容器に入れ、自転・公転ミキサー((株)シンキー製)で、回転数2000rpm、30秒間の条件で撹拌混合を行った。冷却後、混合物をほぐし、さらに珪素含有酸化物被覆窒化物として、珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム(C3)386.0質量部、難燃剤として、KN320 2.0質量部、及び加硫剤として、TC-1 5.0質量部を加え、自転・公転ミキサーで回転数2000rpm、30秒間の条件で撹拌混合し実施例8の熱伝導組成物を得た。
【0138】
(シートの作製)
フッ素離型処理を施した厚み0.1mmのポリエステルフィルム上に、厚み6mmでφ45mmの穴が開いた金型を置き、脱泡した熱伝導組成物を穴に詰めて、そのうえから厚み0.1mmのポリエステルフィルムを空気の混入がないように被せ、0.5MPaの圧力をかけてプレス成型し、120℃で30分間の条件で一次加硫し、さらに熱風循環オーブンで200℃ 4時間の条件で二次加硫し、一日室温(23℃)で放置し、厚み6.0mmのシートを得た。
【0139】
(実施例9及び比較例5~8:熱伝導組成物、シートの製造)
表4に記載の種類及び配合量の各成分に変更したこと以外は実施例8と同様にして各実施例及び比較例の熱伝導組成物並びにシートを作製した。なお、比較例7及び8は、ポリマー成分(A)にフィラーが充填できず、シートを作製することができなかった。
【0140】
前述の測定条件により、実施例8、9及び比較例5、6で得られた熱伝導組成物並びに熱伝導組成物のシートを用いて特性を測定した。結果を表4に示す。
【0141】
【表4】
【0142】
フィラーの含有量(体積%)が同じである、表面処理フィラー(B)及び珪素含有酸化物被覆窒化物(C)を含む実施例と、シランカップリング剤により表面処理されたフィラーを含む比較例とを比較すると、実施例の熱伝導組成物は、粘度が低く、かつ、低硬度で適度な硬さを有し、また、高熱伝導率を有する硬化物が得られることがわかる(実施例8及び比較例5、実施例9及び比較例6を参照)。また、表面処理をしていないフィラーは、ポリマー成分に充填できないことがわかる(比較例7及び8を参照)。