(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024143131
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】ホルムアルデヒドの回収方法
(51)【国際特許分類】
C07C 45/51 20060101AFI20241003BHJP
C08J 11/22 20060101ALI20241003BHJP
C07C 47/04 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
C07C45/51
C08J11/22 ZAB
C07C47/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023055645
(22)【出願日】2023-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】390006323
【氏名又は名称】ポリプラスチックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】阿久津 裕明
(72)【発明者】
【氏名】川口 邦明
【テーマコード(参考)】
4F401
4H006
【Fターム(参考)】
4F401AA25
4F401AA40
4F401BA06
4F401CA67
4F401CA68
4F401CA75
4F401CB01
4F401CB14
4F401EA62
4F401FA01Z
4F401FA07Z
4H006AA02
4H006AC13
4H006BA67
4H006BC10
4H006BD84
4H006BQ10
(57)【要約】
【課題】ポリアセタール樹脂またはその成形品を短時間で分解し、ホルムアルデヒドを容易に回収することができる、ホルムアルデヒドの回収方法を提供すること。
【解決手段】本発明のホルムアルデヒドの回収方法は、ルイス酸を5~100質量%の濃度で含む疎水性溶媒中で、ポリアセタール樹脂またはその成形品を熱分解して発生させたホルムアルデヒドを回収するための方法である。上記ルイス酸は、三フッ化ホウ素ジブチルエーテル錯体である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ルイス酸を5~100質量%の濃度で含む疎水性溶媒中で、ポリアセタール樹脂またはその成形品を熱分解して発生させたホルムアルデヒドを回収するための、ホルムアルデヒドの回収方法。
【請求項2】
前記ルイス酸は、三フッ化ホウ素ジブチルエーテル錯体である、請求項1に記載のホルムアルデヒドの回収方法。
【請求項3】
前記ルイス酸の濃度は、10~100質量%である、請求項1に記載のホルムアルデヒドの回収方法。
【請求項4】
前記熱分解するための加熱温度は、80℃以上である、請求項1に記載のホルムアルデヒドの回収方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホルムアルデヒドの回収方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリアセタール樹脂は、機械的特性、熱的特性、電気的特性、摺動性、成形性等において優れた特性を持っており、主に構造材料や機構部品等として電気機器、自動車部品、精密機械部品等に広く使用されている。これにより、廃棄されるポリアセタール樹脂、およびそれからなる成形品等の廃棄量も多くなる傾向にある。そのため、エネルギー、環境の保護、および資源循環(廃棄量の削減)の観点から、ポリアセタール樹脂、およびそれからなる成型品等を化学的に分解してホルムアルデヒドとして再利用するの方法が検討されている。
【0003】
たとえば、特許文献1では、加圧下で、ポリアセタール樹脂、水および硫酸などの酸分解触媒を含むスラリーを加熱して、ホルムアルデヒドモノマー溶液にするためのリサイクル方法が開示されている。特許文献1によると、当該方法により、高いホルムアルデヒド回収率を達成することができるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、酸分解触媒存在下、水溶液中でポリアセタール樹脂またはその成形品を加熱する方法は、高温で長時間加熱する必要があるだけでなく、反応後の水溶液は強酸性を示すため、ホルムアルデヒド水溶液として広く使用するためには水溶液を中和する必要があった。また、反応後の水溶液中のホルムアルデヒドをガスとして回収するためには、ガスを回収するための装置や、ガスを回収するためのエネルギーをさらに要してしまうという不具合もあった。
【0006】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、ポリアセタール樹脂またはその成形品を短時間で分解し、ホルムアルデヒドを容易に回収することができる、ホルムアルデヒドの回収方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意検討の結果、以下の(1)~(4)に係る発明を完成させた。
【0008】
(1) ルイス酸を5~100質量%の濃度で含む疎水性溶媒中で、ポリアセタール樹脂またはその成形品を熱分解して発生させたホルムアルデヒドを回収するための、ホルムアルデヒドの回収方法。
【0009】
(2) 前記ルイス酸は、三フッ化ホウ素ジブチルエーテル錯体である、(1)に記載のホルムアルデヒドの回収方法。
【0010】
(3) 前記ルイス酸の濃度は、10~100質量%である、(1)または(2)に記載のホルムアルデヒドの回収方法。
【0011】
(4) 前記熱分解するための加熱温度は、80℃以上である、(1)~(3)のいずれかに記載のホルムアルデヒドの回収方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ポリアセタール樹脂またはその成形品を短時間で分解し、ホルムアルデヒドを容易に回収することができる、ホルムアルデヒドの回収方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、本発明で用いることができる装置の一例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明の具体的な実施形態について詳細に説明する。なお、本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲で適宜変更が可能である。
【0015】
[ホルムアルデヒドの回収方法]
本発明の一実施形態に係るホルムアルデヒドの回収方法は、ルイス酸を5~100質量%の濃度で含む疎水性溶媒中で、ポリアセタール樹脂またはその成形品を熱分解するための熱分解工程と、熱分解工程において発生したホルムアルデヒドを回収するための回収工程と、を有する。
【0016】
以下に、各工程について説明する。
【0017】
[熱分解工程]
熱分解工程は、ルイス酸を5~100質量%の濃度で含む疎水性溶媒中、所定条件下でポリアセタール樹脂またはその成形品を熱分解するための工程である。
【0018】
(ポリアセタール樹脂)
ポリアセタール樹脂は、ホモポリマーまたはコポリマーのことをいう。
【0019】
<ホモポリマー>
ホモポリマーとは、単一のモノマーから構成される重合体のことをいう。また、ポリアセタール重合体におけるホモポリマーとは、繰り返し単位としてオキシメチレン基(-OCH2-)のみを主鎖に有する重合体のことをいう。
【0020】
ホモポリマーは、ホルムアルデヒドを、重合触媒存在下で、アニオン重合することにより得ることができる。なお、重合工程で得られる粗ポリオキシメチレンの末端を、エーテル化剤、エステル化剤などを用いて安定化させることを要する。
【0021】
本発明の一実施形態において、ホモポリマーは、上述の方法で重合したホモポリマーを用いてもよいし、市販品を用いてもよい。上記市販品の例には、デルリン(デュポン(米国)社製、「デルリン」は同社の登録商標)、テナック(旭化成株式会社製、「テナック」は同社の登録商標)などが含まれる。
【0022】
<コポリマー>
コポリマーとは、2以上のモノマーから構成される共重合体のことをいう。また、ポリアセタール重合体におけるコポリマーとは、オキシメチレン基(-OCH2-)を主鎖に有し、かつ、分子中に炭素数が2以上のオキシアルキレン基等の他の基も有する共重合体のことをいう。
【0023】
コポリマーは、重合触媒存在下で、トリオキサンと、トリオキサンと共重合可能なコモノマーと、を共重合させることにより得ることができる。
【0024】
≪トリオキサン≫
トリオキサンは、ホルムアルデヒドの環状三量体である。なお、トリオキサンは、一般的には酸性触媒の存在下で、ホルムアルデヒド水溶液を反応させることによって得られ、これを蒸留などの方法により精製されている。
【0025】
≪コモノマー≫
コモノマーは、少なくとも1つの炭素-炭素結合を有する環状エーテルおよび環状ホルマールからなる群から選択されることが好ましい。
【0026】
コモノマーの例には、1,3-ジオキソラン、ジエチレングリコールホルマール、1,4-ブタンジオールホルマール、1,3-ジオキサン、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、エピクロルヒドリン等が含まれる。これらの中では、重合安定性の観点から、1,3-ジオキソランが好ましい。
【0027】
また、コモノマーとして、ブタンジオールジグリシジルエーテル等のアルキレングリコールのジグリシジルエーテルやジホルマールのような2個の重合性環状エーテル基、または環状ホルマール基を有する化合物、グリセリントリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールテトラグリシジルエーテル等の3個以上の重合性環状エーテル基または環状ホルマール基を有する化合物を用いることもできる。これらのコモノマーを用いることによって、分岐構造や架橋構造が形成されたポリアセタール樹脂を得ることができる。
【0028】
コポリマーは、重合触媒存在下で、1,3,5-トリオキサンと、上述のコモノマー(例えば、1,3-ジオキソラン)とを共重合させる方法があり、バッチ式、連続式などの公知の方法および重合装置を用いて行うことができる。
【0029】
本発明の一実施形態において、コポリマーは、上述の方法で重合したコポリマーを用いてもよいし、市販品を用いてもよい。上記市販品の例には、ジュラコン(ポリプラスチックス株式会社製、「ジュラコン」は同社の登録商標)などが含まれる。
【0030】
本発明は、ポリアセタール樹脂およびその成形品(ポリアセタール樹脂からなる部品等)だけでなく、粉体状、ペレット状等に加工したポリアセタール樹脂にも適用可能である。
【0031】
(ルイス酸)
ルイス酸の例には、三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体、三フッ化ホウ素ジメチルエーテル錯体、三フッ化ホウ素ジブチルエーテル錯体、三フッ化ホウ素tert-ブチルメチルエーテル錯体、三フッ化ホウ素テトラヒドロフラン錯体、三フッ化ホウ素酢酸錯体、三フッ化ホウ素メチルスルフィド錯体、三フッ化ホウ素リン酸錯体や三フッ化ホウ素フェノール錯体等の三フッ化ホウ素の錯体、四塩化スズ、四塩化チタン、五フッ化リン、五塩化リン、五フッ化アンチモンおよびその錯化合物または塩等が含まれる。
【0032】
これらの中では、三フッ化ホウ素ジブチルエーテル錯体であることが好ましい。
【0033】
また、ルイス酸は、ルイス酸の濃度が5~100質量%の疎水性溶媒として用いられる。
【0034】
(疎水性溶媒)
疎水性溶媒は、ルイス酸が溶解するものであれば、特に限定されない。疎水性溶媒の例には、炭化水素系溶媒、ケトン系溶媒、エステル系溶媒、エーテル系溶媒等が含まれる。
【0035】
炭化水素系溶媒の例には、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカン、ドデカン、テトラデカン等の脂肪族炭化水素溶媒、およびトルエン、キシレン等の芳香族炭化水素溶媒が含まれる。
【0036】
ケトン系溶媒の例には、メチルエチルケトン、ジイソブチルケトン、2-ヘプタノン(メチルアミルケトン)、4-ヘプタノン、1-ヘキサノン、2-ヘキサノン、1-オクタノン、2-オクタノン、1-ノナノン、2-ノナノン、シクロヘキサノン、メチルシクロヘキサノン、フェニルアセトン、メチルイソブチルケトン等が含まれる。
【0037】
エステル系溶媒の例には、酢酸エチル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチル、酢酸ペンチル、酢酸イソペンチル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチル-3-エトキシプロピオネート、3-メトキシブチルアセテート、3-メチル-3-メトキシブチルアセテート等が含まれる。
【0038】
エーテル系溶媒の例には、ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、ジブチルエーテル、ジイソアミルエーテル等のジアルキルエーテル溶媒、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン等の環状エーテル溶媒、およびジフェニルエーテル、アニソール等の芳香環含有エーテル溶媒が含まれる。
【0039】
これらの中では、ジブチルエーテルであることが好ましい。
【0040】
また、疎水性溶媒中のルイス酸の濃度は、5質量%以上であり、10質量%以上であることが好ましく、50質量%以上であることがより好ましい。また、ルイス酸の濃度の上限値は、特に限定されないが、100質量%以下であり、50質量%以下であることがより好ましい。ルイス酸の濃度を5質量%以上100質量%以下とすることにより、短時間でポリアセタール樹脂またはその成形品を容易に熱分解することができる。
【0041】
(熱分解)
熱分解は、上述のポリアセタール樹脂またはその成形品を上述のルイス酸を含む疎水性溶媒が投入されている反応容器(例えば、バイアル等のガラス製容器)に投入し、上記反応容器を加熱装置(例えば、オイルバスなど)に配置し、80℃以上で加熱することにより行うことができる。加熱温度は、80~120℃であることが好ましく、80~100℃であることがより好ましい。なお、上記加熱温度は、疎水性溶媒の沸点の20℃以下を上限とすることが好ましい。疎水性溶媒を用いることにより、比較的温和な条件下で加熱しても、短時間でポリアセタール樹脂またはその成形品を容易に熱分解することができる。
【0042】
熱分解工程では、ポリアセタール樹脂またはその成形品が分解され、ホルムアルデヒドが発生しているかを確認することができる。ホルムアルデヒドの発生は、例えば、熱分解を開始してから所定時間経過後に、ポリアセタール樹脂またはその成形品を投入した疎水性溶媒から放出された分解物(ガス)を含む気体をホルムアルデヒド検知管(例えば、「ホルムアルデヒド91M」株式会社ガステック製)に通気することで確認することができる。
【0043】
[回収工程]
回収工程は、熱分解工程で発生したホルムアルデヒドを回収する工程である。ホルムアルデヒドの回収は、以下に示す回収方法で行うことができる。
【0044】
(回収方法1)
回収方法1は、熱分解により発生したホルムアルデヒドを、例えば、回収容器内の溶媒に溶解している活性水素を有する化合物と反応させて回収する方法である。なお、上記溶媒は活性水素を有していてもよいし、有していなくてもよい。回収方法1は、
図1で示される装置10を用いて行うことができる。
【0045】
装置10は、反応装置20と捕集装置30とを備える。反応装置20は、加熱装置21および反応容器22を備え、捕集装置30は、回収容器31を備える。なお、
図1中の加熱装置はオイルバスを、反応容器は二口フラスコを、捕集装置はガラス製容器を示す。
【0046】
図1に示されるように、反応容器22の一方の開口部23には反応容器22内に窒素ガスを入れるためのガラス管24が取り付けられている。ガラス管24はその端部(容器内に挿入される側)が、反応容器22に投入された反応液(ルイス酸を含む疎水性溶媒)25の液面に窒素ガスを吹き付けることができる位置に配置される。
【0047】
また、反応容器22の他方の開口部26には、反応容器22と回収容器31とを接続するための略逆U字状のガラス管40の一方の端部41が反応容器22の内部に挿入されている。ガラス管40には、ガラス管40を加熱するためのバンドヒーター(不図示)が取り付けられていてもよい。
【0048】
回収容器31は、熱分解により発生したホルムアルデヒドを捕捉するための溶液(回収液)を収容するための容器である。
【0049】
回収容器31の開口部32には、先に説明した反応容器22に取り付けられた略逆U字状のガラス管40の他方の端部42が回収容器31の内部に挿入されている。これにより、反応容器22と回収容器31とが接続されるので、熱分解により発生したホルムアルデヒドを反応容器22からガラス管40を通って回収容器31に到達させることができる。なお、回収容器31は、窒素ガス等を系内から抜くための弁(不図示)を有している。
【0050】
加熱中に発生したホルムアルデヒドは、反応容器22内に吹き込まれた窒素ガスがキャリアガスとなり、回収容器31内の溶媒(回収液)内に移動する。回収容器31には、溶媒33が収容されており、回収容器31に到達したホルムアルデヒドは、容器内の溶媒(回収液)に溶解している活性水素を有する化合物と反応し、回収液内に留まる。
【0051】
なお、
図1に示される加熱装置は、オイルバス以外にも、所望する温度で加熱することができる装置であれば、特に制限されず用いることができる。
図1に示される反応容器は、二口フラスコ以外にも、処理する容量および処理条件に適応可能な容器であれば、特に制限されず用いることができる。
【0052】
(回収方法2)
回収方法2は、熱分解により発生したホルムアルデヒドを、固体のパラホルムとして回収する方法である。
【0053】
回収方法2では、反応容器(例えば、数十mLのバイアル)内に、ルイス酸含む疎水性溶媒およびポリアセタール樹脂またはその成形品を投入し、反応容器の底部のみを加熱することで、開口部付近の内壁面(加熱されにくい部分)に生成したパラホルムを回収することができる。
【0054】
ホルムアルデヒドの回収方法として、上述の回収方法1および2を説明したが、これらに限定されるものではない。たとえば、回収方法1から、溶媒(回収液)を収容していない回収容器31、バンドヒーターが取り付けられていない略逆U字状のガラス管40、および回収容器31を冷却して使用するという点を変更した以外は、回収方法1と同様の構成を有する装置で、ポリアセタール樹脂またはその成形品の熱分解を行うことも可能である。
【0055】
回収方法1におけるホルムアルデヒドの回収率は、回収液の濃度から回収容器内のホルムアルデヒドの量(回収量)と、反応容器に投入したポリアセタール樹脂(例えばペレット状のポリアセタール樹脂)の重量との比率から、例えば、以下の式(1)から求めることができる。
回収率(%)={(回収量)÷(ポリアセタール樹脂の重量=1g)}×100(1)
【0056】
また、回収方法2におけるホルムアルデヒドの回収率は、反応終了後のバイアルの上部に付着した白色固体(パラホルム)を回収し、その白色固体を秤量した値を回収量として、上記回収方法1と同様の式(1)の算出方法で求めることができる。
【0057】
なお、回収方法1の方法で発生したホルムアルデヒドは、任意の方法で回収液から取り出して使用してもよいし、回収液をそのまま使用してもよい。
【実施例0058】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0059】
表1~3に示す条件で、サンプル1~20のペレット状のポリアセタール樹脂(以下、アセタール樹脂という)の熱分解を行った。
【0060】
(サンプル1)
ポリアセタール樹脂(POM-A)1g、および三フッ化ホウ素ジブチルエーテル錯体の濃度が5質量%のジブチルエーテル溶液10mLの反応液を準備し、スターラーチップ入りの100mLの二つ口フラスコ(反応容器)に投入し、オイルバスに配置した。次に、50質量%の2,4-ジニトロフェニルヒドラジン(DNPH)/アセトニトリル溶液300mLを回収液として収容した500mLのガラス製容器(回収容器)を準備した。
【0061】
次に、反応容器の一方の開口部に反応液の液面に窒素ガスを吹き付けるためのガラス管を取り付けるとともに、反応容器の他方の開口部と回収容器の開口部とを略逆U字状のガラス管で接続し、略逆U字状のガラス管にバンドヒーターを取り付けた。
【0062】
発生したホルムアルデヒドガスが、略逆U字状のガラス管(以下、ガラス管ともいう)内で析出しない流速(10~500mL/min)で、窒素ガスを反応液の液面に吹き付け、当該ガラス管を120℃に加熱し、オイルバスの温度が100℃になるように昇温を開始した。昇温完了後から反応液を0.5時間加熱した。
【0063】
加熱中に、反応液から放出されたガスを、反応容器の開口部(略逆U字状のガラス管が接続されている側)から気体採取機に取り付けたホルムアルデヒド検知管(ホルムアルデヒド91M株式会社ガステック製)で採取し、ホルムアルデヒドの発生を確認した。
【0064】
後述する方法で求めたサンプル1のポリアセタール樹脂の分解率は5%であり、ホルムアルデヒドの回収率は5%であった。
【0065】
(サンプル2~14)
サンプル2~14のポリアセタール樹脂の熱分解は、表1および2に示す条件に変更した以外は、サンプル1と同様の方法で行った。また、ポリアセタール樹脂の分解率、およびホルムアルデヒドの回収率についてもサンプル1と同様の方法で求めた。
【0066】
(サンプル15)
ポリアセタール樹脂(POM-A)0.1g、および三フッ化ホウ素ジブチルエーテル錯体の濃度が100質量%のジブチルエーテル溶液1mLの反応液を20mLのヘッドスペースクリンプバイアルに投入し、セプタム付20mmヘッドスペースクリンプキャップで蓋をし、ホットプレート上に配置し、80℃で1時間加熱した。
【0067】
加熱中に、セプタムから注射針を挿入して、反応液から放出されたガスを採取し、ホルムアルデヒド検知管に通気することで、ホルムアルデヒドの発生の確認を行った。
【0068】
サンプル15のポリアセタール樹脂の分解率は100%であり、ホルムアルデヒドの回収率は97%であった。
【0069】
(サンプル16)
ポリアセタール樹脂(POM-A)1g、および硫酸の濃度が10質量%の水溶液10mLを準備し、スターラーチップ入りの100mLの二つ口フラスコに投入し、オイルバスに配置した。次に、50質量%の2,4-ジニトロフェニルヒドラジン(DNPH)/アセトニトリル溶液300mLを回収液として収容した500mLのガラス製容器を準備した。
【0070】
次いで、反応容器の一方の開口部に水溶液の液面に窒素ガスを吹き付けるためのガラス管を取り付けるとともに、反応容器の他方の開口部と回収容器の開口部とを略逆U字状のガラス管で接続し、上記ガラス管にバンドヒーターを取り付けた。
【0071】
発生したホルムアルデヒドガスが、上記ガラス管内で析出しない流速(10~500mL/min)、反応液の液面に窒素を吹き付け、上記ガラス管を120℃に加熱し、オイルバスの温度が80℃になるように昇温を開始した。昇温完了後から反応液を2時間加熱した。
【0072】
加熱中に、反応液から放出されたガスを、反応容器の開口部(略逆U字状のガラス管が接続されている側)から気体採取機に取り付けたホルムアルデヒド検知管で採取し、ホルムアルデヒドの発生を確認した。
【0073】
サンプル16のポリアセタール樹脂の分解率は10%であり、ホルムアルデヒドの回収量は0%であった。
【0074】
(サンプル17~20)
サンプル17~20のポリアセタール樹脂の熱分解は、表3に示す条件に変更した以外は、サンプル16と同様の方法で行った。また、ポリアセタール樹脂の分解率、およびホルムアルデヒドの回収率についてもサンプル16と同様の方法で求めた。
【0075】
ホルムアルデヒドの発生の有無、ポリアセタール樹脂の分解率およびホルムアルデヒドの回収率の結果を表1~3に示す。
【0076】
(ポリアセタール樹脂の分解率)
ホルムアルデヒドの分解率は、以下の式(2)で求めた。
分解率(%)=100-{(不溶物重量)÷(ポリアセタール樹脂の重量)×100}
・・・(2)
式中の「不溶物重量」とは、表1~3に示す加熱時間経過後の反応容器内に残存する不溶物を回収し、洗浄し、乾燥した後の不溶物の重量のことであり、「ポリアセタール樹脂の重量」とは、加熱分解する前のポリアセタール樹脂の重量のことである。
【0077】
(ホルムアルデヒドの回収率)
ホルムアルデヒドの回収率は、回収方法1の場合には、以下の測定条件で回収液の濃度からホルムアルデヒドの量(回収量)を求め、当該回収量と反応容器に入れたポリアセタール樹脂(ペレット)の重量と、から回収率を、下記式(1)から求めた。
(測定条件)
HPLC装置:LC-20ADvp(株式会社島津製作所製)
測定カラム :Kinetex(径3mm×長さ75mm)
展開溶媒 :水/アセトニトリル(45/55)
流量1ml/min
カラム温度 :40℃
検出器 :紫外線検出器(波長360nm)
検量線 :アルデヒド/ケトン、DNPH誘導体13成分混合溶液(ジーエルサイエンス株式会社製)を用いて作成
【0078】
回収率(%)={(回収量)÷(ポリアセタール樹脂の重量=1g)}×100(1)
なお、「ポリアセタール樹脂の重量」とは、加熱分解する前のポリアセタール樹脂のペレットの重量のことである。
【0079】
回収方法2におけるホルムアルデヒドの分解率は、上述の式(2)で求めた。
【0080】
回収方法2の場合には、回収率は、反応終了後のバイアルの上部に付着した白色固体を回収し秤量した値を回収量とした以外は回収方法1と同様の算出方法で求めた。
【0081】
上記白色固体を、赤外吸収分光法(IR)による構造解析を行ったところ、ホルムアルデヒドの重合体であるパラホルムであることを確認した。
【0082】
表1~3に示される用語は以下のとおりである。
【0083】
(ポリアセタール樹脂(ペレット))
POM-A:DURACON M90-44(ポリプラスチックス株式会社製)
POM-B:Derlin 500P(デュポン(米国)社製)
[触媒]
(ルイス酸)
BF3OBu2:三フッ化ホウ素ジブチルエーテル錯体(東京化成工業株式会社製)
(その他の触媒)
H2SO4:硫酸(富士フイルム和光純薬株式会社製)
[溶媒]
(疎水性溶媒)
Bu2O:ジブチルエーテル
(ホルムアルデヒドの発生の有無)
Det.:検出可
N.D.:検出不可
【0084】
【0085】
【0086】
【0087】
表1~3に示されるように、ルイス酸を所定の濃度で含む疎水性溶液を反応液として用いることにより、ポリアセタール樹脂またはその成形品を短時間で熱分解でき、効率よくホルムアルデヒドを回収することができることを確認できた。
本発明の方法を用いることにより、ポリアセタール樹脂またはその成型品を比較的温和な条件下、短時間で効率的に分解でき、かつ、ホルムアルデヒドの回収率も良好なものであるから、原料の再利用における技術の進展および普及に貢献することが期待される。