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  • 特開-接続電線及び接続電線の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024143133
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】接続電線及び接続電線の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H02G 1/14 20060101AFI20241003BHJP
   H02G 15/08 20060101ALI20241003BHJP
   H02G 15/00 20060101ALI20241003BHJP
   H02G 15/04 20060101ALI20241003BHJP
   H01R 43/00 20060101ALI20241003BHJP
   H01R 4/70 20060101ALI20241003BHJP
   H01B 7/00 20060101ALN20241003BHJP
   B60R 16/02 20060101ALN20241003BHJP
【FI】
H02G1/14
H02G15/08
H02G15/00 030
H02G15/04 030
H01R43/00 A
H01R4/70 K
H01B7/00 301
B60R16/02 621Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023055647
(22)【出願日】2023-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】391045897
【氏名又は名称】古河AS株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002631
【氏名又は名称】弁理士法人クオリオ
(74)【代理人】
【識別番号】100076439
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 敏三
(74)【代理人】
【識別番号】100161469
【弁理士】
【氏名又は名称】赤羽 修一
(72)【発明者】
【氏名】河中 裕文
(72)【発明者】
【氏名】山田 拓郎
(72)【発明者】
【氏名】小澤 正和
【テーマコード(参考)】
5E051
5G309
5G355
5G375
【Fターム(参考)】
5E051AA02
5G309AA06
5G355AA03
5G355BA11
5G355CA06
5G355CA15
5G355CA19
5G355CA26
5G375AA02
5G375BA15
5G375BA26
5G375BB48
5G375BB55
5G375CA02
5G375CA12
5G375CA14
5G375CB03
5G375CB10
5G375DB24
5G375DB35
5G375DB44
5G375EA17
(57)【要約】
【課題】製造工程数ないし製造時間を低減でき生産性に優れ、かつ過酷な環境下においても接続部を十分に封止(保護)することができる接続電線、及びその製造方法を提供する。
【解決手段】複数の絶縁電線の導体同士が接続された接続部が、絶縁性の封止層により封止された接続電線の製造方法であって、前記接続部を第1硬化性樹脂液に浸漬する工程と、前記接続部に付着した第1硬化性樹脂液が未硬化の状態で、第1硬化性樹脂液が付着した接続部を第2硬化性樹脂液に浸漬する工程と、前記接続部に付着した第1硬化性樹脂液と第2硬化性樹脂液とを硬化させる工程と、をこの順に有する、接続電線の製造方法。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の絶縁電線の導体同士が接続された接続部が、絶縁性の封止層により封止された接続電線の製造方法であって、
前記接続部を第1硬化性樹脂液に浸漬する工程と、
前記接続部に付着した第1硬化性樹脂液が未硬化の状態で、第1硬化性樹脂液が付着した接続部を第2硬化性樹脂液に浸漬する工程と、
前記接続部に付着した第1硬化性樹脂液と第2硬化性樹脂液とを硬化させる工程と、をこの順に有する、接続電線の製造方法。
【請求項2】
前記第1硬化性樹脂液の粘度が51~1000mPa・sである、請求項1に記載の接続電線の製造方法。
【請求項3】
前記第2硬化性樹脂液の粘度が、前記第1硬化性樹脂液の粘度より高い、請求項2に記載の接続電線の製造方法。
【請求項4】
前記第1硬化性樹脂液の粘度が1~9mPa・sであり、
前記第2硬化性樹脂液の粘度が前記第1硬化性樹脂液の粘度よりも高い、請求項1に記載の接続電線の製造方法。
【請求項5】
前記第2硬化性樹脂液が光硬化性樹脂を含む、請求項1に記載の接続電線の製造方法。
【請求項6】
前記第1硬化性樹脂液が光硬化性樹脂を含む、請求項5に記載の接続電線の製造方法。
【請求項7】
前記第1硬化性樹脂液が湿気硬化性樹脂を含む、請求項5に記載の接続電線の製造方法。
【請求項8】
前記第2硬化性樹脂液が保護部材に充填されて用いられる、請求項1~7のいずれか1項に記載の接続電線の製造方法。
【請求項9】
前記接続電線がワイヤハーネスである、請求項1~7のいずれか1項に記載の接続電線の製造方法。
【請求項10】
複数の絶縁電線の導体同士が接続された接続部が絶縁性の封止層により封止されている接続電線であって、
前記封止層は、第1硬化樹脂からなる層と、第1硬化樹脂からなる層を覆う第2硬化樹脂からなる層とを有し、第1硬化樹脂からなる層と第2硬化樹脂からなる層との間に、第1硬化樹脂と第2硬化樹脂との混在領域を有する、接続電線。
【請求項11】
前記第2硬化樹脂が光硬化樹脂を含む、請求項10に記載の接続電線。
【請求項12】
前記第1硬化樹脂が光硬化樹脂を含む、請求項11に記載の接続電線。
【請求項13】
前記第1硬化樹脂が湿気硬化樹脂を含む、請求項11に記載の接続電線。
【請求項14】
前記封止層が保護部材で覆われている、請求項10~13のいずれか1項に記載の接続電線。
【請求項15】
前記接続電線がワイヤハーネスである、請求項10~13のいずれか1項に記載の接続電線。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接続電線及び接続電線の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
絶縁電線の配線において、幹線から枝線を分岐させたり、幹線相互間を直列に接続したり、あるいは松葉接続する場合、絶縁電線を被覆する絶縁被覆層が剥離され、剥き出しとなった導体が接続されて接続部が形成される。形成された接続部は、その外周を絶縁テープで巻きつけたり、またはスプライスユニット等の接続部材により覆われたりすることにより保護される。また、特に接続部に止水性等が求められるような場合には、当該接続部を絶縁性の樹脂等で封止して封止層が形成される。
前記封止層の形成において、絶縁電線間ないし導体間まで隙間なく樹脂を充填させるために、2種類の粘度の異なる樹脂液(樹脂材料、樹脂組成物)を用いる方法が提案されている。具体的には、接続部をより低粘度の樹脂液に浸漬し、低粘度の樹脂液により絶縁電線間ないし導体間のわずかな隙間にまで樹脂液を浸透させた後に、当該樹脂液を硬化させ、次いでより高粘度の樹脂液に浸漬させ、当該樹脂液を硬化させて封止層を形成する方法が知られている。
【0003】
例えば特許文献1には、被覆を除去して複数の芯線が露出した電線を複数束ね、前記複数の芯線部分を溶接して形成される溶接部の前記複数の芯線間を止水する技術が提案されている。この止水方法は、前記溶接部を粘度1Pa・sec以下の第1のシール材で止水処理した後、粘度10~70Pa・secの第2のシール材で止水処理するものである。当該方法では、第1のシール材を構成するシリコーンゴムの表面が硬化した後に、第2のシール材を構成するシリコーンゴムに溶接部が浸漬される。
【0004】
また特許文献2には、導線同士が接続されたスプライス部と、当該スプライス部を封止する封止層とを有するワイヤハーネスの製造方法であって、前記導線同士を接続して前記スプライス部を形成する接続工程と、硬化前の状態であり第1の粘度を有する第1の樹脂材料中に前記スプライス部を浸漬した後に取り出す第1樹脂材料付与工程と、前記スプライス部に付与された前記第1の樹脂材料を硬化させる第1硬化工程と、前記第1硬化工程後に、硬化前の状態であり第2の粘度を有する第2の樹脂材料中に前記スプライス部を浸漬した後に取り出す第2樹脂材料付与工程と、前記スプライス部に付与された前記第2の樹脂材料を硬化させる第2硬化工程と、を具備し、前記第1の粘度は10~50mPa・sの範囲とされ、前記第2の粘度は前記第1の粘度よりも高く設定されたことを特徴とするワイヤハーネスの製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003-9334号公報
【特許文献2】特開2022-167488号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1及び2に記載の方法では、いずれも粘度の低い樹脂液に接続部を浸漬した後、続く粘度の高い樹脂液に浸漬させる前に、粘度の低い樹脂液を硬化する工程を有する。当該樹脂液が湿気硬化性樹脂液やシリコーンゴムである場合には、少なくとも当該樹脂液の表面が硬化するまで静置させなくてはならず、保管スペースの確保、及び作業の停滞の問題が生じ、その分製造コストが嵩む。また、当該樹脂液が紫外線硬化性の樹脂液である場合には、粘度の低い樹脂液を硬化させるために紫外線照射工程を新たに設ける必要があり、工程数の増加に伴い製造コストが嵩み、また生産時間が長くなって生産性が低下するという問題があった。
さらに、上記のように粘度の異なる樹脂液や、さらに硬化反応の異なる樹脂液を用いてそれぞれの樹脂液を個別に硬化させて逐次的に封止層を形成する場合には、内側の樹脂と外側の樹脂との密着性の向上には制約があり、特に冷熱衝撃やガソリン浸漬などの過酷な環境下において、内側の樹脂と外側の樹脂とがその界面で剥離しやすく、この剥離面から封止層内部に水等が浸入してしまうという問題もあった。
【0007】
上記問題に鑑み、本発明は、製造工程数ないし製造時間を低減でき生産性に優れ、かつ過酷な環境下においても接続部を十分に封止(保護)することができる接続電線、及びその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、接続部に封止層を形成した接続電線の製造に当たり、前記接続部を第1硬化性樹脂液に浸漬し、前記接続部に付着した第1硬化性樹脂液が未硬化の状態で、第1硬化性樹脂液が付着した接続部を第2硬化性樹脂液に浸漬し、次いで、前記接続部に付着した第1硬化性樹脂液と第2硬化性樹脂液とを硬化させることにより、第1硬化性樹脂液が硬化してなる第1硬化樹脂からなる層と、第2硬化性樹脂液が硬化してなる第2硬化樹脂からなる層との間に、両硬化樹脂の混在領域が形成されて両層の密着性が高まり、過酷な環境下でも接続部を十分に高いレベルで封止、保護できる接続電線を、優れた生産性で得ることができることを見出した。本発明は、これらの知見に基づきさらに検討を重ね、完成されるに至った。
【0009】
すなわち、上記の課題は、以下の手段により解決された。
<1>
複数の絶縁電線の導体同士が接続された接続部が、絶縁性の封止層により封止された接続電線の製造方法であって、
前記接続部を第1硬化性樹脂液に浸漬する工程と、
前記接続部に付着した第1硬化性樹脂液が未硬化の状態で、第1硬化性樹脂液が付着した接続部を第2硬化性樹脂液に浸漬する工程と、
前記接続部に付着した第1硬化性樹脂液と第2硬化性樹脂液とを硬化させる工程と、をこの順に有する、接続電線の製造方法。
<2>
前記第1硬化性樹脂液の粘度が51~1000mPa・sである、前記<1>に記載の接続電線の製造方法。
<3>
前記第2硬化性樹脂液の粘度が、前記第1硬化性樹脂液の粘度より高い、前記<1>又は<2>に記載の接続電線の製造方法。
<4>
前記第1硬化性樹脂液の粘度が1~9mPa・sであり、
前記第2硬化性樹脂液の粘度が前記第1硬化性樹脂液の粘度よりも高い、前記<1>に記載の接続電線の製造方法。
<5>
前記第2硬化性樹脂液が光硬化性樹脂を含む、前記<1>~<4>のいずれかに記載の接続電線の製造方法。
<6>
前記第1硬化性樹脂液が光硬化性樹脂を含む、前記<1>~<5>のいずれかに記載の接続電線の製造方法。
<7>
前記第1硬化性樹脂液が湿気硬化性樹脂を含む、前記<1>~<6>のいずれかに記載の接続電線の製造方法。
<8>
前記第2硬化性樹脂液が保護部材に充填されて用いられる、前記<1>~<7>のいずれかに記載の接続電線の製造方法。
<9>
前記接続電線がワイヤハーネスである、前記<1>~<8>のいずれかに記載の接続電線の製造方法。
<10>
複数の絶縁電線の導体同士が接続された接続部が絶縁性の封止層により封止されている接続電線であって、
前記封止層は、第1硬化樹脂からなる層と、第1硬化樹脂からなる層を覆う第2硬化樹脂からなる層とを有し、第1硬化樹脂からなる層と第2硬化樹脂からなる層との間に、第1硬化樹脂と第2硬化樹脂との混在領域を有する、接続電線。
<11>
前記第2硬化樹脂が光硬化樹脂を含む、前記<10>に記載の接続電線。
<12>
前記第1硬化樹脂が光硬化樹脂を含む、前記<10>又は<11>に記載の接続電線。
<13>
前記第1硬化樹脂が湿気硬化樹脂を含む、前記<10>~<12>のいずれかに記載の接続電線。
<14>
前記封止層が保護部材で覆われている、前記<10>~<13>のいずれかに記載の接続電線。
<15>
前記接続電線がワイヤハーネスである、前記<10>~<14>のいずれかに記載の接続電線。
【0010】
本発明において、「~」を用いて表される数値範囲は、その前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の接続電線の製造方法によれば、過酷な環境下でも接続部を十分に高いレベルで封止、保護できる接続電線を、優れた生産性で得ることができる。本発明の接続電線は、過酷な環境下でも接続部を十分に高いレベルで封止、保護でき、生産性にも優れる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の接続電線の一実施形態を示す模式図である。
図2】本発明の接続電線の製造方法の一実施形態を模式的に示す説明図である。
図3】本発明の製造方法ではない接続電線の製造方法の一例を模式的に示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の好ましい実施形態を以下に説明するが、本発明は、本発明で規定すること以外は下記の実施形態に限定されるものではない。
【0014】
[接続電線]
本発明の接続電線は、複数の絶縁電線の導体同士が接続部(スプライス部)で接続され、当該接続部が絶縁性の封止層で封止されており、当該封止層は、第1硬化樹脂からなる層と、第1硬化樹脂からなる層を覆う第2硬化樹脂からなる層とを有し、第1硬化樹脂からなる層と第2硬化樹脂からなる層との間に、第1硬化樹脂と第2硬化樹脂との混在領域を有する。
【0015】
以下、図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態を説明する。なお、本発明は、本発明で規定すること以外は、以下に示す実施形態に限定されるものではない。また、下記の図面を参照して説明する接続電線等の説明は、下記の図面に示された形態に限らず、本発明の構成ないし発明特定事項の説明として適用されるものである。
【0016】
図1は、本発明の接続電線の一実施形態を示す模式図である。本発明の接続電線1は、複数の絶縁電線10の末端の被覆部12(絶縁被覆層)が剥離され、露出した導体部11同士が接続されて接続部13を形成している。また、当該接続部13が、絶縁性の封止層20によって封止されている。なお、本明細書において、前記接続部から、接続部が形成されていない導体部、及び被覆部にかけての領域を、まとめて「接続部等」とも称す。また、前記接続部等において、絶縁被覆層が剥離された部分の導体のすべてが接続部を形成していてもよい(接続部が形成されていない導体部を有しなくてもよい)。本発明において、「複数の絶縁電線の導体同士が接続された接続部が、絶縁性の封止層により封止された」とは、当該接続部を含む領域が絶縁性の封止層により封止されていることを意味する。換言すれば、上記の接続部等が絶縁性の封止層により封止されていることを意味する。
なお、図1は、導体部11同士が圧着端子14を用いて接続されて接続部13が形成されている様子を示しているが、本発明において導体部11同士の接続方法は特に限定されない。
【0017】
以下、本発明の接続電線の構成要素について詳細を説明する。
【0018】
<絶縁電線>
本発明の接続電線に用いる絶縁電線は特に限定されず、例えば自動車用のワイヤハーネス等について通常用いられる絶縁電線を使用することができる。前記絶縁電線は、導体と、当該導体の外周を覆う絶縁被覆層とを有する。
【0019】
(導体)
前記絶縁電線の導体の形状や材質は導体として機能すれば特に限定されない。例えば自動車用のワイヤハーネス等に用いる絶縁電線で用いられている形状、材質の導体であってもよい。導体としては、単線でも撚線でもよく、また裸線でもよく、メッキ若しくはエナメル被覆したものでもよい。導体を形成する金属材料としては軟銅、銅合金、アルミニウム等が挙げられる。
【0020】
(絶縁被覆層)
また、前記絶縁電線の絶縁被覆層の種類も、所望の絶縁性を有すれば特に限定されない。例えば自動車用のワイヤハーネス等に用いられている絶縁性の樹脂を適用することができる。絶縁被覆層は、絶縁性の熱可塑性樹脂ないし当該樹脂を含む組成物を押出被覆することにより形成される押出被覆層であることが好ましい。前記絶縁被覆層の厚さは特に制限されず、通常は0.15~5mm程度である。
【0021】
(接続部)
本発明の接続電線の一実施形態では、図1及び図2に示すように、前記複数の絶縁電線の先端の絶縁被覆層(被覆部)が剥離されて導体が露出し、当該導体同士が接続されて接続部を形成している。当該接続部の形成方法については特に限定されず、導体同士が電気的に接続されていればよい。例えば、アーク溶接、レーザ溶接や超音波接合などであってもよく、P型スリーブやB型スリーブ等の圧着端子を用いた圧着接続であってもよい。
なお、図1~3は、複数本の絶縁電線を松葉接続している様子を示しているが、本発明の接続電線において前記複数本の絶縁電線の接続方法は特に限定されず、直線接続や分岐接続であってもよい。
【0022】
<封止層>
本発明の接続電線は、前記接続部を封止する封止層を有する。当該封止層は、第1硬化樹脂からなる層、この層を覆う第2硬化樹脂からなる層、及び第1硬化樹脂と第2硬化樹脂との混在領域を有する。
【0023】
(第1硬化樹脂)
第1硬化樹脂からなる層は、前記接続部を、絶縁性の樹脂で封止(被覆)してなる層である。第1硬化樹脂の種類は特に制限されず、例えば光(紫外線)硬化樹脂、湿気硬化樹脂、嫌気硬化樹脂、熱硬化樹脂等の樹脂を含むことが好ましい。
【0024】
前記光(紫外線)硬化樹脂としては、例えば光ラジカル重合開始剤と、当該光ラジカル重合開始剤の作用によりラジカル重合可能な化合物(ラジカル重合性化合物)とを有する組成物を光硬化させて得られる樹脂、及び光カチオン重合開始剤と、当該光カチオン重合開始剤の作用によりカチオン重合可能な化合物(カチオン重合性化合物)とを有する組成物を光硬化させて得られる樹脂が挙げられる。
【0025】
また、前記光(紫外線)硬化樹脂は、光が直接当たらない部分まで硬化する暗部硬化性樹脂の硬化物を有することがより好ましい。具体的には、光照射(紫外線照射)により長寿命の活性化合物が生成され、当該活性化合物が硬化性樹脂液中に拡散し、光を直接受けていないラジカル重合開始剤に働きかけることでラジカルを生成させて硬化性樹脂液を硬化させてなる、暗部硬化樹脂であることが好ましい。
【0026】
また、前記熱硬化樹脂としては、例えば熱ラジカル重合開始剤とラジカル重合性化合物とを有する組成物を熱硬化させて得られる樹脂、及び熱カチオン重合開始剤とカチオン重合性化合物とを有する組成物を熱硬化させて得られる樹脂が挙げられる。また、熱硬化性のフェノール樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、尿素樹脂、アルキド樹脂等の硬化物であってもよい。
【0027】
嫌気硬化樹脂としては、空気中では安定しており、酸素を遮断されて金属イオンと接触することにより硬化する樹脂が挙げられる。
また湿気硬化樹脂としては、空気中等の水分と接触することにより硬化させて得られる樹脂が挙げられる。
【0028】
第1硬化樹脂の具体例として、シアノアクリレート樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、ウレタン樹脂、ポリアミド樹脂、フッ素樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、フェノール樹脂、ポリイミド樹脂、アクリルゴム、ポリエステル樹脂、変成ポリオレフィン樹脂などが挙げられ、これらの1種又は2種以上で構成された硬化樹脂とすることができる。
第1硬化樹脂はなかでも、前記光(紫外線)硬化樹脂又は湿気硬化樹脂を含むことが好ましい。前記光(紫外線)硬化樹脂としては、アクリル樹脂が好ましい。また、前記湿気硬化樹脂としては、シアノアクリレート樹脂やシリコーン樹脂が好ましく、シアノアクリレート樹脂であることがより好ましい。
【0029】
(第2硬化樹脂)
第2硬化樹脂からなる層は、前記接続部等を封止する第1硬化樹脂からなる層を覆う、絶縁性の硬化樹脂層である。
第2硬化樹脂に用いる樹脂は、第1硬化樹脂と同様の樹脂を使用することができ、その好ましい形態も同様である。さらに、第2硬化樹脂としては、例えば熱硬化樹脂や、熱溶融(ホットメルト)樹脂を用いることも好ましい。当該熱溶融樹脂としては、絶縁電線の被覆絶縁層に対する熱影響の観点から、その軟化点が50~180℃程度の範囲である樹脂を用いることが好ましく、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン系樹脂の他、エチレン・酢酸ビニル共重合体、エチレン・エチルアクリレート共重合体、マレイン酸などの酸変性されたポリオレフィン等を好適に用いることが出来る。なお、本発明ないし本明細書において、前記「熱溶融樹脂」とは、熱溶融性樹脂が熱溶融後に降温により固化した状態の樹脂であることを意味する。
【0030】
第1硬化樹脂と第2硬化樹脂の種類は、それぞれ同一の樹脂とすることもでき、またそれぞれ違う種類の樹脂とすることもできる。
例えば、第1硬化樹脂が光(紫外線)硬化樹脂である場合、第2硬化樹脂も光(紫外線)硬化樹脂とすることにより、第1硬化樹脂と第2硬化樹脂を光(紫外線)照射により同時に硬化させることができる。
また、例えば第1硬化樹脂が光(紫外線)硬化樹脂や湿気硬化樹脂である場合には、第2硬化樹脂として例えば熱溶融樹脂を用いることができる。第1硬化樹脂との密着性の観点から、熱溶融樹脂は変成ポリオレフィン、ポリウレタン、ポリエステル、ポリアミドなどの極性基を持つ熱溶融樹脂が好ましく、耐熱性の観点から、変成ポリプロピレン、ポリエステル、ポリアミド等の熱溶融樹脂がさらに好ましい。
【0031】
前記封止層は、その最外層に絶縁性の保護部材(絶縁キャップ等)を有し、封止層が保護部材で覆われていてもよい。封止層が保護部材を有することにより、接続部等をより効果的に保護することができる。
保護部材の構成材料は特に限定されず、封止層の形成において一般的に用いられている材料を使用することができる。また、市場に流通している保護部材を用いることもできる。例えば(架橋)ポリエチレン、ポリプロピレン、塩化ビニル、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネートなどの保護材が好ましい。保護部材として、架橋ポリエチレンを使用する場合には、ホットドライヤー等で加熱することで収縮させることができるため、接続電線の導体部を架橋ポリエチレン保護部材に挿入後、加熱収縮することで、保護部材の外径を小さくすることができ、車載性が向上する他、保護部材に充填される樹脂量を減量させることができる。
また、当該保護部材の内側に第2硬化性樹脂液を充填させ、そのまま封止層の形成に用いて硬化させる場合があるため、例えば第2硬化樹脂が光(紫外線)硬化樹脂である場合には、光透過性の高いポリエチレン、ポリプロピレンなどの材料を用いることが好ましい。また第2硬化樹脂が熱溶融樹脂である場合には、架橋ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート等の耐熱性の高い材料を用いることが好ましい。
【0032】
(混在領域)
本発明の接続電線は、前記封止層において、第1硬化樹脂からなる層と第2硬化樹脂からなる層との間に、第1硬化樹脂と第2硬化樹脂が混在した混在領域を有する。本発明の接続電線において、前記封止層を形成する第1硬化樹脂からなる層と第2硬化樹脂からなる層は、当該層間に明確な界面を有しない。すなわち、第1硬化樹脂と第2硬化樹脂は、それぞれの樹脂がグラデーション状に相手側の層に拡散している。
前記封止層が第1硬化樹脂と第2硬化樹脂との混在領域を有することにより、第1硬化樹脂からなる層と第2硬化樹脂からなる層との間に明確な界面が存在せず、第1硬化樹脂からなる層と第2硬化樹脂からなる層との密着性が向上する。これにより、例えば本発明の接続電線を自動車用ワイヤハーネスとして用いれば、過酷な車載環境下での冷熱衝撃やガソリン浸漬に対して良好な耐久性を発揮するものとすることができる。
【0033】
<混在領域の分析方法>
前記封止層の有する混在領域の状態は、混在領域を形成し得る部分の薄片断面(例えば接続部の直上における絶縁電線の長手方向と直交する薄片断面)に対して、ラマン分光法や、FT-IRでのマッピング分析により確認することができる。
このような分析法により、第1硬化樹脂からなる層と想定される範囲を超えて、第2硬化樹脂側においても第1硬化樹脂由来のシグナルが検出される場合を「混在領域を有する」と判断する。前記「第1硬化樹脂からなる層と想定される範囲」とは、例えば第1硬化性樹脂液の粘度から導き出すことができ、また接続部等を第1硬化性樹脂液に浸漬させて取り出し、硬化させて得られた第1硬化樹脂の範囲を、前記「第1硬化樹脂からなる層と想定される範囲」とすることもできる。
例えば、第1硬化性樹脂液の粘度から、第1硬化樹脂からなる層と想定される範囲が接続部の最外面(導体表面や圧着端子表面)から20~200μmの範囲である場合に、当該範囲を超えて(例えば当該範囲を5μm以上越えて)第1硬化樹脂由来のシグナル(例えば第1硬化樹脂がシアノアクリレート系樹脂である場合にはシアノ基由来のシグナル)が検出される場合には、第1硬化樹脂と第2硬化樹脂が混在してなる混在領域を有すると判断することができる。
【0034】
なお、前記接続部を第1硬化性樹脂液が充填された容器に浸漬させて引き上げるディップコーティングにより、前記接続部に第1硬化性樹脂液を付着させる場合、当該樹脂液の厚さは、引き上げ速度が充分に遅く、粘度が低い場合は、液体の粘度、及び、気体-液体の界面での表面張力が、樹脂液の厚さの支配的な要素となる。そのため、前記厚さ(h、単位:m)について、以下の関係式が成り立つ。
【0035】
【0036】
上記(式1)中、各パラメータは以下の通りである。

U:引き上げ速度(m/s)
η:硬化性樹脂液の粘度(Pa・s=kg・m/s)
ρ:硬化性樹脂液の密度(kg/m
γ:硬化性樹脂液の表面張力(N/m)
g:重力加速度(m/s
【0037】
そのため、上記(式1)により算出される樹脂液の厚さを、上記の「第1硬化樹脂からなる層と想定される範囲」とすることもできる。
【0038】
本発明の接続電線は、ワイヤハーネス(好ましくは自動車用ワイヤハーネス)の用途に用いられることが好ましい。なお、本発明ないし本明細書において、ワイヤハーネスとは、エンジンルーム、インストルメントパネル、ドアの内部など車両各所に環境性能に応じて配策されている電線束の総称である。
【0039】
[接続電線の製造方法]
本発明の接続電線の製造方法(以下、本発明の製造方法とも称す。)は、前記接続部を第1硬化性樹脂液に浸漬する工程と、前記接続部に付着した第1硬化性樹脂液が未硬化の状態で、第1硬化性樹脂液が付着した接続部を第2硬化性樹脂液に浸漬する工程と、前記接続部に付着した第1硬化性樹脂液と第2硬化性樹脂液とを硬化させる工程と、をこの順に有する。
本発明の製造方法において、用いる絶縁電線や絶縁電線の接続部の詳細は、上記で説明した通りである。
【0040】
図2は、本発明の製造方法の一実施形態を示している。また、図3は、本発明の製造方法ではない接続電線の製造方法の一例を示している。本発明において、接続する絶縁電線の本数は特に制限されない。なお、図2及び図3は、第1硬化性樹脂液及び第2硬化性樹脂液がいずれも光(紫外線)硬化性樹脂である場合を想定したものである。
図2(A)は、絶縁電線10の接続部13等を、第1硬化性樹脂液21に浸漬させる、<第1硬化性樹脂液に浸漬する工程>を示している。図2(B)は、前記接続部13等を第1硬化性樹脂液21に浸漬させた後に第1硬化性樹脂液21から取り出した後の、前記接続部13等に付着した第1硬化性樹脂液21が未硬化な状態を示している。図2(C)は、前記第1硬化性樹脂液21が未硬化な状態のまま、第2硬化性樹脂液23が充填された絶縁キャップ26内に浸漬させる、<第2硬化性樹脂液に浸漬する工程>を示している。図2(D)は、UV照射により第1硬化性樹脂液と第2硬化性樹脂液とを一体に硬化させた後の封止層において、第1硬化樹脂22からなる層と、第2硬化樹脂24からなる層との間に、当該樹脂の混在領域25が形成されている様子を示している。
一方で、本発明の製造方法ではない接続電線の製造方法の一例を示す図3では、図3(A)は図2(A)と同じであるものの、図3(B)で示されるように、第1硬化性樹脂液21は第2硬化性樹脂液23に浸漬する前に、UV照射により硬化される。その後、図3(C)で示されるように、UV照射により硬化した第1硬化樹脂22を第2硬化性樹脂液23が充填された絶縁キャップ26内に浸漬させ、その後第2硬化性樹脂液23は硬化される。そのため、第1硬化樹脂22と第2硬化樹脂24とは混ざり合うことがなく、第1硬化樹脂22からなる層と第2硬化樹脂24からなる層との間には明確な界面が形成され、これらの樹脂の混在領域25は形成されない。
以下、本発明の製造方法の各工程の詳細を説明する。
【0041】
<第1硬化性樹脂液に浸漬する工程>
本発明の製造方法において、得られる接続電線の封止層における第1硬化樹脂からなる層は、接続部等を第1硬化性樹脂液に浸漬することにより形成される。第1硬化性樹脂液に含まれる樹脂としては、硬化して前記第1硬化樹脂を形成する硬化性樹脂(樹脂組成物)が挙げられる。すなわち、例えば光(紫外線)硬化性樹脂、湿気硬化性樹脂、嫌気硬化性樹脂、熱硬化性樹脂等を用いることができる。
前記接続部等の第1硬化性樹脂液への浸漬は、被覆部が、露出した導体部との境目から5mm以上第1硬化性樹脂液に覆われるように浸漬されることが好ましい。
【0042】
第1硬化性樹脂液の粘度は特に制限されない。好ましくは、51~1000mPa・sとすることができ、また1~9mPa・sとすることもできる。前記粘度が51~1000mPa・sであれば、前記接続部等を第1硬化性樹脂液に浸漬させてから取り出した際に、第1硬化性樹脂液が浸漬した部位に保持され、過度な液だれを抑制することができる。また、前記粘度が1~9mPa・sであれば、前記接続部等に付着した余分な第1硬化性樹脂液が速やかに流れ落ちるため、かえって過度な液だれを抑制することができる。
【0043】
本発明において前記硬化性樹脂液の粘度は、接続部を浸漬する時点の樹脂液の温度における粘度である。当該温度における粘度は、例えば、B型粘度計(例えば、英弘精機社製、品名:デジタル粘度計DVNext)により測定することができる。B型粘度計とは、スピンドル・ローターと呼ばれる回転子を液体に浸し、モーターで回転させて流動抵抗を計測する回転粘度計の一種である。B型粘度計を用いる場合、前記デジタル粘度計DVNext(型番:LV DVNX)に付属のスピンドルを用い、トルクレンジ(%)が10~100%の範囲内となるよう回転速度(0.01~250rpm)を調整して測定することができる。また例えば、前記硬化性樹脂液が市販品である場合には、市販品のパンフレット等に記載の粘度とすることもできる。
また当該温度は、例えば本発明の接続電線の製造における室温とすることもでき、例えば硬化性樹脂液として光(紫外線)硬化性樹脂、湿気硬化性樹脂、嫌気硬化性樹脂を用いる場合は、前記粘度は25℃における粘度とすることもできる。
【0044】
本発明の製造方法は、接続部等を第1硬化性樹脂液に浸漬して取り出した後、第2硬化性樹脂液に浸漬させるまでの間に、第1硬化性樹脂液を硬化させる工程を有しない。そのため、第2硬化性樹脂液に浸漬させる段階で、第1硬化性樹脂液は未硬化な状態である。第1硬化性樹脂液を未硬化なまま第2硬化性樹脂液に浸漬させることにより、第1硬化性樹脂液の一部が第2硬化性樹脂液中に拡散し、また第2硬化性樹脂液の一部が第1硬化性樹脂液中に拡散して(第1硬化性樹脂液の一部と第2硬化性樹脂液の一部とが混ざり合い)、その後硬化させることにより、第1硬化樹脂と第2硬化樹脂とが混在する混在領域を形成させることができる。
また、本発明の製造方法は、第2硬化性樹脂液への浸漬前に第1硬化性樹脂液を硬化させる工程を有しないため、第1硬化性樹脂液に浸漬させてからすぐに第2硬化性樹脂液に浸漬させる工程に移行することができ、保管スペースの確保や作業の停滞といった問題が生じず、生産性を格段に高めることができる。特に、例えば第1硬化樹脂及び第2硬化樹脂が共に光(紫外線)硬化樹脂である場合には、第2硬化性樹脂液に浸漬させた後に、紫外線を照射することにより、一度に第1硬化性樹脂液と第2硬化性樹脂液を硬化させることができる。
【0045】
前記「第1硬化性樹脂液が未硬化な状態」とは、例えば第1硬化性樹脂液が光(紫外線)硬化性樹脂である場合には、光(紫外線)照射を行っていない状態の硬化性樹脂液の状態を意味する。また、例えば第1硬化性樹脂液が湿気硬化性樹脂である場合には、少なくとも表面の硬化が完全に進んでいない状態を意味する。なお、湿気硬化性樹脂は空気中の水と接触することにより硬化反応が進むため、第1硬化性樹脂液が湿気硬化性樹脂である場合には、第1硬化性樹脂液に浸漬させてから第2硬化性樹脂液に浸漬させるまでの時間を作業環境の湿度等に応じて適切に設定することができ、例えば当該時間が5分以内であることが好ましく、3分以内であることがより好ましく、2分以内であることがさらに好ましく、1分以内であることがさらに好ましく、30秒以内であることがさらに好ましく、20秒以内であることがさらに好ましく、10秒以内であることがさらに好ましい。上記の好ましい範囲内であれば、第1硬化性樹脂液を未硬化な状態のままとすることができる。
【0046】
<第2硬化性樹脂液に浸漬する工程>
本発明の製造方法において、得られる接続電線の封止層における第2硬化樹脂からなる層は、第1硬化性樹脂液が付着した接続部等を第1硬化性樹脂液が未硬化の状態で第2硬化性樹脂液に浸漬し、次いで硬化することにより形成される。第2硬化性樹脂液に含まれる樹脂としては、硬化して前記第2硬化樹脂を形成する硬化性樹脂(樹脂組成物)が挙げられる。すなわち、例えば光(紫外線)硬化性樹脂、湿気硬化性樹脂、嫌気硬化性樹脂、熱硬化性樹脂、熱溶融性(ホットメルト)樹脂等を用いることができる。
第2硬化性樹脂液への浸漬は、前記接続部等に付着した第1硬化性樹脂液が完全に覆われる位置まで浸漬することが好ましい。
【0047】
前記第2硬化性樹脂液の粘度は特に限定されず、液だれをより防止する観点から、前記第1硬化性樹脂液の粘度よりも高いことが好ましい。例えば、第1硬化性樹脂液の粘度よりも200mPa・s以上高いことが好ましく、400mPa・s以上高いことがより好ましく、600mPa・s以上高いことも好ましい。前記第2硬化性樹脂液の粘度は400~10000mPa・sが好ましく、500~8000mPa・sがより好ましく、600~7000mPa・sがさらに好ましく、700~6000mPa・sがさらに好ましい。
【0048】
前記第2硬化性樹脂液は、例えば絶縁性の保護部材(絶縁キャップ等)等に充填されて用いられてもよい。これにより、前記保護部材ごと第2硬化性樹脂液を硬化させることができ、さらに保護部材により封止層を効果的に保護することができる。保護部材の構成材料は特に限定されず、例えば上記の保護部材を用いることができる。
【0049】
<第1硬化性樹脂液と第2硬化性樹脂液とを硬化させる工程>
第1硬化性樹脂液と第2硬化性樹脂液とを硬化させる方法は、第1硬化性樹脂液及び第2硬化性樹脂液の種類に応じて適宜設定することができる。
例えば第1硬化性樹脂液と第2硬化性樹脂液が共に光(紫外線)硬化性樹脂である場合、光(紫外線)を照射することにより、第1硬化性樹脂液と第2硬化性樹脂液を一度に硬化させることができるため、製造に要する時間を短縮することができる。また、第1硬化性樹脂液が湿気硬化性樹脂であり、第2硬化性樹脂液が光(紫外線)照射性樹脂である場合、第2硬化性樹脂液に光(紫外線)を照射することで第2硬化性樹脂液を硬化させて封止層の形状を安定化させれば、内部の第1硬化性樹脂は封止層の形状を保ったまま経時的に、自然に硬化していく。また、例えば第1硬化性樹脂液が湿気硬化性樹脂であり、第2硬化性樹脂液が熱溶融性樹脂である場合、第2硬化性樹脂液を冷却することにより第2硬化性樹脂液を硬化させて封止層の形状を安定化させれば、内部の第1硬化性樹脂は封止層の形状を保ったまま経時的に、自然に硬化していく。なお、例えば前記第2硬化性樹脂液を熱溶融性樹脂液とする場合には、前記第1硬化性樹脂液は広い使用可能温度範囲(例えば-40~100℃、-40~120℃、-40℃~150℃、-40℃~200℃等)を有する硬化性樹脂であることが好ましい。
【0050】
本発明の製造方法により、本発明の接続電線を得ることができる。得られる接続電線の構造、特性ないし物性は、上記で説明した通りである。
【実施例0051】
本発明を以下の実施例および比較例に基づき、さらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0052】
本実施例に用いた樹脂の詳細は以下の通りであった。

<第1硬化性樹脂液>
・シアノアクリレート接着剤(湿気硬化性、耐衝撃・耐熱用瞬間接着剤、商品名:ThreeBond 1782(下記表において「1782」と表記)、粘度:80.0mPa・s、スリーボンド社製)
・シアノアクリレート接着剤(湿気硬化性、耐衝撃・耐熱用瞬間接着剤、商品名:ThreeBond 1783(下記表において「1783」と表記)、粘度:800mPa・s、スリーボンド社製)
・シアノアクリレート接着剤(光硬化機能付与タイプ瞬間接着剤、商品名:ThreeBond 1771E(下記表において「1771E」と表記)、粘度:2.0mPa・s、スリーボンド社製)
・シアノアクリレート接着剤(光硬化機能付与タイプ瞬間接着剤、商品名:ThreeBond 1773E(下記表において「1773E」と表記)、粘度:150mPa・s、スリーボンド社製)
・アクリレート接着剤(紫外線硬化性樹脂、商品名:ThreeBond 3042(下記表において「3042」と表記)、粘度:20mPa・s、スリーボンド社製)
・アクリレート接着剤(紫外線硬化性樹脂、商品名:ThreeBond 3094B(下記表において「3094B」と表記)、粘度:150mPa・s、スリーボンド社製)
・アクリレート接着剤(紫外線硬化性樹脂、商品名:ThreeBond 3042B(下記表において「3042B」と表記)、粘度:500mPa・s、スリーボンド社製)
・アクリレート接着剤(紫外線硬化性樹脂、商品名:ThreeBond 3013B(下記表において「3013B」と表記)、粘度:1.0Pa・s、スリーボンド社製)
・アクリレート接着剤(紫外線硬化性樹脂、商品名:ThreeBond 3051E(下記表において「3051E」と表記)、粘度:1.5Pa・s、スリーボンド社製)
・シアノアクリレート接着剤(湿気硬化性、金属接着用瞬間接着剤、商品名:ThreeBond 1702B(下記表において「1702B」と表記)、粘度:35.0mPa・s、スリーボンド社製)

なお、上記の粘度はいずれも室温(25℃)における粘度である。

<第2硬化性樹脂液>
・アクリレート接着剤(紫外線硬化性樹脂、商品名:ThreeBond 3006D(下記表において「3006D」と表記)、粘度:2.0Pa・s、スリーボンド社製)
・アクリレート接着剤(光硬化性接着剤 (湿気硬化性付与タイフ゜)、商品名:ThreeBond 3177(下記表において「3177」と表記)、粘度:1200mPa・s、スリーボンド社製)
・アクリレート接着剤(紫外線硬化性樹脂、商品名:ThreeBond 3042B(下記表において「3042B」と表記)、粘度:500mPa・s、スリーボンド社製)
・ホットメルト接着剤(主成分:ポリアミド樹脂、品番:TEC7785-12(下記表において「7785-12」と表記)、軟化点:155℃、粘度(180℃):5500mPa・s、三洋ライフマテリアル社製)
・アクリレート接着剤(紫外線硬化性樹脂、商品名:ThreeBond 3042(下記表において「3042」と表記)、粘度:20mPa・s、スリーボンド社製)

なお、アクリレート接着剤の粘度は室温(25℃)における粘度であり、ホットメルト接着剤の粘度は180℃における粘度である。
【0053】
(実施例1)
全長200mmの0.75sq銅電線(絶縁電線)3本、及び全長200mmの0.75sqアルミ電線(絶縁電線)3本を用い、各電線の片側の末端から15mmの範囲でポリ塩化ビニル(PVC)の絶縁被覆層を除去して導体部を露出させた。次いで、超音波接合機(日本アビオニクス社製)により当該導体部同士を接合して接続部を形成した。
第1硬化性樹脂液として、下記表1に記載のシアノアクリレート接着剤(商品名:ThreeBond 1782)を用いた。また第2硬化性樹脂液として、下記表1に記載のアクリレート接着剤(商品名:ThreeBond 3006D)を用い、予めポリプロピレン製容器(絶縁キャップ)中に充填した。図2に示すように、前記接続部を、第1硬化性樹脂液に被覆部が約5mm浸かる位置まで浸漬させて直ちに取り出した。取り出してから10秒以内に、当該接続部に第1硬化性樹脂液を付着させたまま、第2硬化性樹脂液に同様にして浸漬させ、前記ポリプロピレン製容器ごと、紫外線強度1000mW/cmで30秒間紫外線照射して第2硬化性樹脂液を硬化させた。こうして、前記接続部が樹脂で封止された複数の絶縁電線からなる接続電線を得た。なお、第1硬化性樹脂液は、得られた接続電線を室温で放置している間に自然に硬化する。したがって、前記接続部に接して第1硬化樹脂からなる層が形成され、またその外側に第2硬化樹脂からなる層が形成され、さらにその間に第1硬化樹脂と第2硬化樹脂とが混在する混在領域が形成された本発明の接続電線が得られる。
【0054】
(実施例2~11)
第1硬化性樹脂液及び第2硬化性樹脂液を、それぞれ下記表1に記載の硬化性樹脂液とした以外は、上記実施例1と同様にして第1硬化性樹脂液及び第2硬化性樹脂液を硬化させた接続電線を作製した。
なお、実施例2及び3の第1硬化性樹脂液は、得られた接続電線を室温で放置している間に自然に硬化する。また実施例4~11の第1硬化性樹脂液は第2硬化性樹脂液と共に紫外線照射により硬化する。
【0055】
(実施例12)
実施例1と同様にして、前記銅電線3本と前記アルミ電線3本の導体部の一部範囲を超音波接合して接続部を形成した。
第1硬化性樹脂液として、下記表1に記載のシアノアクリレート接着剤(商品名:ThreeBond 1783)を用いた。また第2硬化性樹脂液として、下記表1に記載のホットメルト接着剤(商品名:TEC7785-12)を予め180℃で溶解させ、ポリエチレンテレフタレート製容器(絶縁キャップ)中に充填した。前記接続部を、第1硬化性樹脂液に被覆部が約5mm浸かる位置まで浸漬させて直ちに取り出した。取り出してから10秒以内に、当該接続部に第1硬化性樹脂液が付着したまま、第2硬化性樹脂液に同様に浸漬させ、前記ポリエチレンテレフタレート製容器中に浸漬させたまま室温で5分間静置して冷却した。こうして第1硬化性樹脂液及び第2硬化性樹脂液を硬化させ、前記接続部に接して第1硬化樹脂からなる層が形成され、またその外側に第2硬化樹脂からなる層が形成され、さらにその間に第1硬化樹脂と第2硬化樹脂とが混在する混在領域が形成された本発明の接続電線を得た。
【0056】
(比較例1)
第1硬化性樹脂液及び第2硬化性樹脂液を、それぞれ下記表1に記載の硬化性樹脂液とした。前記接続部を第1硬化性樹脂液に浸漬させて直ちに取り出した後に、温度23℃、湿度50%環境下で4時間静置して第1硬化性樹脂液を硬化させてから第2硬化性樹脂液に浸漬した以外は、上記実施例1と同様にして接続電線を得た。
なお、第1硬化性樹脂液の硬化は、3時間の静置では硬化が完了せず、4時間静置させることにより硬化が完了した。
【0057】
(比較例2、3)
第1硬化性樹脂液及び第2硬化性樹脂液を、それぞれ下記表1に記載の硬化性樹脂液とした。前記接続部を第1硬化性樹脂液に浸漬させて直ちに取り出した後に、紫外線強度1000mW/cmで30秒間照射して第1硬化性樹脂液を硬化させてから第2硬化性樹脂液に浸漬した以外は、上記実施例4と同様にして接続電線を得た。
【0058】
(混在領域の分析)
実施例1~5、12及び比較例1の接続電線について、形成された封止層内の第1硬化樹脂と第2硬化樹脂との混在領域を分析した。
絶縁被覆層が除去された導体部分と、絶縁被覆層のある部分との境界付近を電線の径方向に切断し、切断面を研磨後、超音波洗浄機で切断面を洗浄し、切断面の顕微ラマン分光光度計によるマッピング測定により、第1硬化樹脂と第2硬化樹脂の樹脂成分の分布を可視化(ラマンイメージング)した。第1硬化樹脂中のシアノ基に起因する2240cm-1付近におけるラマン散乱強度の分布を分析することにより、第1硬化樹脂と第2硬化樹脂との混在領域の有無を判定した。
実施例1~5、12の接続電線はいずれも、導体表面から封止層の外側表面に向けて1000μm離れた位置にも第1硬化樹脂のシアノ基由来のラマン散乱強度の分布が見られた。一方で、比較例1の接続電線は、導体表面から封止層の外側表面に向けて23μm離れた範囲までしか第1硬化樹脂のシアノ基由来のラマン散乱強度の分布が見られず、また当該距離は導体表面からの第1硬化樹脂の厚さとほぼ同じであった。このことから、実施例1~5及び12の接続電線は第1硬化樹脂と第2硬化樹脂の混在領域が形成されており、また比較例1の接続電線は当該混在領域が形成されていないことが示された。
【0059】
得られた各接続電線について、下記の評価試験を実施した。結果を下記表1に示す。
【0060】
(冷熱衝撃試験)
得られた各接続電線を、125℃で30分間加熱し、次いで-40℃で30分間冷却させる工程を1サイクルとし、このサイクルを計500サイクル繰り返した。その後、各接続電線の絶縁キャップを固定し、引張試験機(島津製作所製)を用いて、速度100mm/min、80Nで6本の絶縁電線を引っ張った際に、封止層内で剥離が生じて絶縁電線が引き抜けるか否かを試験した。この試験を計5回行い、引き抜けた回数を下記評価基準に当てはめ、冷熱衝撃耐性を評価した。

-評価基準-
○:5回全ての試験で絶縁電線が引き抜けなかった。
△:5回の試験のうち絶縁電線が引き抜けた回数が1~3回であった。
×:5回の試験のうち絶縁電線が引き抜けた回数が4~5回であった。
【0061】
(ガソリン浸漬試験)
得られた各接続電線を、自動車ガソリン2号(JIS K 2202の2号)に60分間浸漬させ、ガソリンから引き抜いた後にさらに常温(25℃)大気中で24時間静置させた。その後、各接続電線の絶縁キャップを固定し、引張試験機(島津製作所製)を用いて、速度100mm/min、80Nで6本の絶縁電線を引っ張った際に、封止層内で剥離が生じて絶縁電線が引き抜けるか否かを試験した。この試験を計5回行い、引き抜けた回数を下記評価基準に当てはめ、ガソリン浸漬耐性を評価した。

-評価基準-
○:5回全ての試験で絶縁電線が引き抜けなかった。
△:5回の試験のうち絶縁電線が引き抜けた回数が1~3回であった。
×:5回の試験のうち絶縁電線が引き抜けた回数が4~5回であった。
【0062】
(止水性試験)
製造直後の接続電線、上記の冷熱500サイクル後の接続電線(引張試験前の接続電線)、及び上記のガソリン浸漬後の接続電線(引張試験前の接続電線)について、接続電線を構成する6本の絶縁電線のうち1本を選択し、レギュレータによって空気を送り込み、水槽内の水に浸漬させた他の5本の電線からの空気の漏れ(エアリーク)がないかを評価した。空気圧は0kPaから200kPaまで徐々に上昇させ、エアリークした際の空気圧を記録し、下記評価基準により評価した。表中「初期止水性」は製造直後の接続電線の評価結果、「冷熱サイクル後止水性」は冷熱500サイクル後の接続電線の評価結果、「ガソリン浸漬後止水性」はガソリン浸漬後の接続電線の評価結果である。

-評価基準-
×:空気圧が50kPaに到達するまでの間にエアリークした。
△:空気圧が50kPaではエアリークしないが、空気圧が200kPaに到達するまでの間にエアリークした。
○:空気圧が200kPaに到達してもエアリークしなかった。
【0063】
【表1】
【0064】
第1硬化性樹脂液を硬化させた後に第2硬化性樹脂液に浸漬して得られた比較例1~3の接続電線は、冷熱衝撃サイクルやガソリン浸漬により封止層の密着性が損なわれることがわかる。
これに対し、第1硬化性樹脂液の硬化工程を有さず、第1硬化性樹脂液が未硬化の状態で第2硬化性樹脂液に浸漬し、硬化して得られた実施例1~12の接続電線は、冷熱衝撃サイクルやガソリン浸漬によっても封止層の密着性を十分に維持していた。
【符号の説明】
【0065】
1 接続電線
10 絶縁電線
11 導体部
12 被覆部
13 接続部
14 圧着端子
20 封止層
21 第1硬化性樹脂液
22 第1硬化樹脂
23 第2硬化性樹脂液
24 第2硬化樹脂
25 混在領域
26 絶縁キャップ(保護部材)
図1
図2
図3