(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024014315
(43)【公開日】2024-02-01
(54)【発明の名称】表面処理フィラー、表面処理フィラーの製造方法及び熱伝導組成物
(51)【国際特許分類】
C09C 1/62 20060101AFI20240125BHJP
C08L 101/00 20060101ALI20240125BHJP
C08K 9/06 20060101ALI20240125BHJP
C09C 1/46 20060101ALI20240125BHJP
C09C 3/12 20060101ALI20240125BHJP
【FI】
C09C1/62
C08L101/00
C08K9/06
C09C1/46
C09C3/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022117041
(22)【出願日】2022-07-22
(71)【出願人】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】株式会社レゾナック
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】舟橋 一
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 光
(72)【発明者】
【氏名】行武 初
(72)【発明者】
【氏名】小林 郁恵
【テーマコード(参考)】
4J002
4J037
【Fターム(参考)】
4J002CP031
4J002CP141
4J002DA026
4J002DA076
4J002DA096
4J002DE096
4J002DE146
4J002DF016
4J002DJ006
4J002FD206
4J002GQ00
4J002GQ05
4J037AA01
4J037AA04
4J037CC28
4J037EE16
4J037FF15
(57)【要約】
【課題】ポリマー成分に高充填しても粘度が低い組成物とすることができ、かつ、高熱伝導率を有し、適度な硬さを有する硬化物が得られる組成物とすることができる表面処理フィラー、及び当該表面処理フィラーのより簡便な製造方法、並びに当該表面処理フィラーを含む熱伝導組成物を提供する。
【解決手段】フィラーの表面を重量平均分子量が500~5,000であるα-ブチル-ω-(2-トリメトキシシリルエチル)ポリジメチルシロキサンで表面処理されてなる表面処理フィラーであって、
前記α-ブチル-ω-(2-トリメトキシシリルエチル)ポリジメチルシロキサンの前記フィラーへの固着率が20.0~50.0質量%である表面処理フィラー。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィラーの表面を重量平均分子量が500~5,000であるα-ブチル-ω-(2-トリメトキシシリルエチル)ポリジメチルシロキサンで表面処理されてなる表面処理フィラーであって、
前記α-ブチル-ω-(2-トリメトキシシリルエチル)ポリジメチルシロキサンの前記フィラーへの固着率が20.0~50.0質量%である表面処理フィラー。
【請求項2】
前記フィラーが、銀、銅、アルミニウム、及び黒鉛からなる群より選ばれる少なくとも1種の金属、ケイ素、金属酸化物、窒化物、並びに複合酸化物からなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項1に記載の表面処理フィラー。
【請求項3】
前記フィラーの積算体積50%粒径が、0.1~30μmである、請求項1に記載の表面処理フィラー。
【請求項4】
重量平均分子量が500~5,000であるα-ブチル-ω-(2-トリメトキシシリルエチル)ポリジメチルシロキサン、アルコール、及び水を含む処理液を製造する処理液製造工程と、
フィラーと、前記処理液とを混合する前処理工程と、
前記前処理工程で得られた混合物を温度140~180℃で熱処理する熱処理工程と、を有する表面処理フィラーの製造方法。
【請求項5】
前記前処理工程で得られた混合物を前記熱処理工程前に乾燥する乾燥工程を有する、請求項4に記載の表面処理フィラーの製造方法。
【請求項6】
前記熱処理を行う時間が、2~6時間である、請求項4に記載の表面処理フィラーの製造方法。
【請求項7】
ポリマー成分、及びフィラーを含む熱伝導組成物であって、
前記フィラーが請求項1~3のいずれか1項に記載の表面処理フィラーを含み、
前記熱伝導組成物全量に対して、前記ポリマー成分の含有量が2~15質量%であり、前記フィラーの含有量が85~98質量%である、熱伝導組成物。
【請求項8】
前記フィラー中に含まれる前記表面処理フィラーの含有量が40~60質量%である、請求項7に記載の熱伝導組成物。
【請求項9】
前記ポリマー成分が、熱硬化性樹脂、エラストマー、及びオイルからなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項7に記載の熱伝導組成物。
【請求項10】
請求項7に記載の熱伝導組成物の硬化物。
【請求項11】
熱伝導率が4.0W/m・K以上である請求項10に記載の熱伝導組成物の硬化物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面処理フィラー及び当該表面処理フィラーの製造方法並びに当該表面処理フィラーを含む熱伝導組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
電子機器及び自動車には半導体が必須となっている。これら半導体は温度が上昇するにつれてその部品が誤動作を起すなど、故障の要因にもなる。そのため色々な放熱材料が熱対策として使われている。近年、半導体の能力増大に伴い、当該半導体の発熱はますます増大する傾向にあり、その熱を素早く系外に移動させるには高熱伝導率の材料が必要となる。放熱材料の熱伝導率を高くするには、フィラーの充填量を増やすことが簡単で効果も絶大である。ところが、フィラーの充填量を増やすには極力、粘度の低いエラストマーを使う、比表面積の小さいフィラーを使うなどの工夫が必要であり、製品のラインナップ、価格などからこれらを使うことに躊躇いがある。そこでフィラーを充填しやすくする方法として、フィラーの表面処理が行われている。代表的な表面処理剤にはシランカップリング剤があり、充填性が向上するとともに諸物性の向上などに活用されている。特に、長鎖アルキルシランはシランカップリング剤としては充填性向上の観点から比較的優れている。ところが、長鎖アルキルシランをもってしても目標となる熱伝導率となるフィラーの高充填ができない場合が多くなってきている。
【0003】
また、長鎖アルキルシランが有する疎水性基の炭素数を大きくすることで、エラストマーと相溶しやすくなる。疎水性基の炭素数が18程度のものまで入手できるが、炭素数が大きくなるとアルコキシ基が加水分解しにくくなり、フィラーに分散させる溶液の作製が困難であったり、シランカップリング剤同士の高分子化、高分子膜化が遅い、あるいは高分子化、高分子膜化しないことがあり、未反応のシランカップリング剤が高分子系内に大量に残るという問題があった。また、未反応のシランカップリング剤が揮発し、装置を汚染したり、放熱材の耐熱性を低下させるなどの問題も引き起こしていた。
【0004】
これら問題を解決するために、フィラーの表面処理として従来からさまざまな手法が提案されてきた。
例えば、特許文献1には、熱伝導性充填材を分子鎖片末端がトリアルコキシシリル基で封鎖されたジメチルポリシロキサンを用いてインテグラル法により表面処理する方法が提案されている。特許文献2には、充填材を分子鎖片末端がトリアルコキシシリル基で封鎖されたジメチルポリシロキサン及び分子鎖両末端がトリアルコキシシリル基で封鎖されたジメチルポリシロキサンを用いてインテグラル法により表面処理する方法が提案されている。また、特許文献3には、充填材を分子鎖片末端がジアルコキシシリル基で封鎖されたジメチルポリシロキサンを用いてインテグラル法により表面処理する方法が提案されている。特許文献4には、充填材を分子鎖片末端がトリアルコキシシリル基で封鎖されたジメチルポリシロキサンを用いてインテグラル法により表面処理する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2020-180200号公報
【特許文献2】特表2021-502426号公報
【特許文献3】中国特許第112694757号
【特許文献4】米国特許第10604658号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の方法では、表面処理剤として分子鎖片末端がトリアルコキシシリル基で封鎖されたジメチルポリシロキサンを用いているため、当該ジメチルポリシロキサンで表面処理されたフィラーは、シリコーンとの相溶性に優れる。しかし、分子鎖片末端がトリアルコキシシリル基で封鎖されたジメチルポリシロキサンは、長鎖アルキルシラン同様に加水分解が遅いなど反応性に乏しく、インテグラルブレンド法でフィラーの表面処理をするには長時間、高温で撹拌する必要がある。また、分子鎖片末端がトリアルコキシシリル基で封鎖されたジメチルポリシロキサンの合成は意外と困難であり、シリコーンゴムメーカーあるいは有機珪素化学を扱う研究所のみが入手可能な材料であった。また、前記ジメチルポリシロキサンはトリアルコキシ基を有するため、縮合シリコーンの系では、当該ジメチルポリシロキサンは架橋剤として振る舞い、組成物の硬度調整が難しいという問題があった。
【0007】
特許文献2の方法では、表面処理剤として分子鎖片末端又は分子鎖両末端がトリアルコキシシリル基で封鎖されたジメチルポリシロキサンを用いている。当該ジメチルポリシロキサンは、分子鎖末端のトリアルコキシシシリル基と分子鎖のポリシロキサン基とが直接結合せず、炭化水素基を介し結合している。このようなジメチルポリシロキサンは、片末端にSiH基を有するポリシロキサンとビニル基を有するシランカップリング剤とを白金触媒存在下で合成される。数十年前までは片末端にSiH基を有するポリシロキサンもシリコーンゴムメーカーあるいは有機珪素化学を扱う研究所のみが入手可能な材料であったが、今や販売され市場から入手できるため、前記ジメチルポリシロキサンの合成がしやすくなってきている。しかし、前記ジメチルポリシロキサンは、一部に炭化水素基を介する結合があるため高温で劣化しやすいことがある。また、前記ジメチルポリシロキサンを合成する際、原料の片末端にSiH基を有するポリシロキサンの純度が低いなどの問題があった。
【0008】
特許文献3の方法では、表面処理剤として分子鎖片末端がジアルコキシシリル基で封鎖されたジメチルポリシロキサンを用いている。当該ジメチルポリシロキサンは、分子鎖片末端のジアルコキシシシリル基と分子鎖のポリシロキサン基とが直接結合せず、炭化水素基を介し結合している。当該ジメチルポリシロキサンの合成方法は特許文献2と同じである。ジアルコキシシリル基はトリアルコキシシリル基よりも加水分解しやすいことは知られているが、ジアルコキシシリル基の分子量が大きいと、トリアルコキシシリル基の加水分解性との差はほぼなくなる。そのため、前記ジメチルポリシロキサンを用いてインテグラルブレンド法でフィラーの表面処理をするには長時間、高温で撹拌する必要がある。
【0009】
特許文献4の方法では、表面処理剤として分子鎖片末端が複数のトリアルコキシシリル基を有する(3官能レジン構造を含む)ジメチルポリシロキサンを用いている。当該ジメチルポリシロキサンは、トリアルコキシシリル基を複数有するためフィラーとの結合は確率的に高いと考えられるが、シロキサン部分の分子量が大きいと加水分解性の差がほぼなくなる。そのため、前記ジメチルポリシロキサンを用いてインテグラルブレンド法でフィラーの表面処理をするには長時間、高温で撹拌する必要がある。また、表面処理剤自体の合成も困難であるという問題がある。
【0010】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、ポリマー成分に高充填しても粘度が低い組成物とすることができ、かつ、高熱伝導率を有し、適度な硬さを有する硬化物が得られる組成物とすることができる表面処理フィラー、及び当該表面処理フィラーのより簡便な製造方法、並びに当該表面処理フィラーを含む熱伝導組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、前記課題を解決するべく鋭意検討した結果、下記の発明により前記課題を解決できることを見出した。
【0012】
すなわち、本願発明は、以下に関する。
[1] フィラーの表面を重量平均分子量が500~5,000であるα-ブチル-ω-(2-トリメトキシシリルエチル)ポリジメチルシロキサンで表面処理されてなる表面処理フィラーであって、前記α-ブチル-ω-(2-トリメトキシシリルエチル)ポリジメチルシロキサンの前記フィラーへの固着率が20.0~50.0質量%である表面処理フィラー。
[2] 前記フィラーが、銀、銅、アルミニウム、及び黒鉛からなる群より選ばれる少なくとも1種の金属、ケイ素、金属酸化物、窒化物、並びに複合酸化物からなる群より選ばれる少なくとも1種である、上記[1]に記載の表面処理フィラー。
[3] 前記フィラーの積算体積50%粒径が、0.1~30μmである、上記[1]又は[2]に記載の表面処理フィラー。
[4] 重量平均分子量が500~5,000であるα-ブチル-ω-(2-トリメトキシシリルエチル)ポリジメチルシロキサン、アルコール、及び水を含む処理液を製造する処理液製造工程と、
フィラーと、前記処理液とを混合する前処理工程と、
前記前処理工程で得られた混合物を温度140~180℃で熱処理する熱処理工程と、を有する表面処理フィラーの製造方法。
[5] 前記前処理工程で得られた混合物を前記熱処理工程前に乾燥する乾燥工程を有する、上記[4]に記載の表面処理フィラーの製造方法。
[6] 前記熱処理を行う時間が、2~6時間である、上記[4]又は[5]に記載の表面処理フィラーの製造方法。
[7] ポリマー成分、及びフィラーを含む熱伝導組成物であって、前記フィラーが上記[1]~[3]のいずれかに記載の表面処理フィラーを含み、前記熱伝導組成物全量に対して、前記ポリマー成分の含有量が2~15質量%であり、前記フィラーの含有量が85~98質量%である、熱伝導組成物。
[8] 前記フィラー中に含まれる前記表面処理フィラーの含有量が40~60質量%である、上記[7]に記載の熱伝導組成物。
[9] 前記ポリマー成分が、熱硬化性樹脂、エラストマー、及びオイルからなる群より選ばれる少なくとも1種である、上記[7]又は[8]に記載の熱伝導組成物。
[10] 上記[7]~[9]のいずれかに記載の熱伝導組成物の硬化物。
[11] 熱伝導率が4.0W/m・K以上である上記[10]に記載の熱伝導組成物の硬化物。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、ポリマー成分に高充填しても粘度が低い組成物とすることができ、かつ、高熱伝導率を有し、適度な硬さを有する硬化物が得られる組成物とすることができる表面処理フィラー、及び当該表面処理フィラーのより簡便な製造方法、並びに当該表面処理フィラーを含む熱伝導組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明について、一実施形態を参照しながら詳細に説明する。
<表面処理フィラー>
本実施形態の表面処理フィラーは、フィラーの表面を重量平均分子量が500~5,000であるα-ブチル-ω-(2-トリメトキシシリルエチル)ポリジメチルシロキサンで表面処理されてなる表面処理フィラーであって、前記α-ブチル-ω-(2-トリメトキシシリルエチル)ポリジメチルシロキサンの前記フィラーへの固着率が20.0~50.0質量%である。
本実施形態の表面処理フィラーは、ポリマー成分に高充填しても粘度が低い組成物とすることができ、かつ、高熱伝導率を有し、適度な硬さを有する硬化物が得られる組成物とすることができる。
【0015】
本実施形態で用いられるフィラーとしては、銀、金、銅、鉄、タングステン、ステンレス鋼、アルミニウム、カルボニル鉄、黒鉛などの金属;ケイ素;金属、ケイ素、又はホウ素の、酸化物、窒化物、炭化物、水酸化物、フッ化物、及び炭酸塩;カーボンなどが挙げられる。
前記酸化物としては、例えば、酸化亜鉛、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化ケイ素、酸化チタン、酸化鉄、酸化カルシウム、酸化セリウムなどが挙げられる。また、複合酸化物も用いられる。特に、酸化ケイ素には、天然物、合成物があり、具体的には、無煙シリカ、湿式シリカ、乾式シリカ、溶融シリカ、石英粉末、珪砂、珪石、無水珪酸などが挙げられる。複合酸化物としては、例えば、スピネル、灰チタン石、チタン酸バリウム、金緑石、フェライトなどが挙げられる。
前記窒化物としては、例えば、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、窒化ケイ素などが挙げられる。
前記炭化物としては、例えば、炭化ケイ素、炭化ホウ素などが挙げられる。
前記水酸化物としては、例えば、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化鉄、水酸化セリウム、水酸化銅などが挙げられる。
前記フッ化物としては、例えば、フッ化マグネシウム、フッ化カルシウムなどが挙げられる。
前記炭酸塩としては、例えば、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウムなどが挙げられ、ドロマイトなどの炭酸複合塩も用いられる。
前記カーボンとしては、例えば、グラファイト、カーボンブラックなどが挙げられる。
これらは、1種を用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0016】
前記フィラーは、多様な粒径、多様な形状、価格、及び入手の観点から、銀、銅、アルミニウム、及び黒鉛からなる群より選ばれる少なくとも1種の金属、ケイ素、金属酸化物、窒化物、並びに複合酸化物からなる群より選ばれる少なくとも1種であることが好ましく、金属酸化物がより好ましい。
【0017】
また、熱伝導率とコストのバランスを考慮すると酸化アルミニウム(アルミナ)が好ましく、特にα-アルミナが、熱伝導性が高く好ましい。高熱伝導性の観点からは窒化アルミニウム、窒化ホウ素が好適に用いられ、低コストの観点からはシリカ、石英粉末、水酸化アルミニウムが好適に用いられる。
【0018】
前記フィラーの熱伝導率は、熱伝導性付与の観点から、0.5W/m・K以上であることが好ましく、1.0W/m・K以上であることがより好ましい。
【0019】
前記フィラーの形状は、粒子であれば特に限定されないが、真球状、球状、丸み状、鱗片状、破砕状、繊維状などが挙げられる。これらは組み合わせて用いてもよい。
【0020】
前記フィラーの積算体積50%粒径は、ポリマー成分への高充填性の観点から、好ましくは0.1~30μm、より好ましくは0.1~20μm、より好ましくは0.2~18μm、更に好ましくは0.3~15μm、より更に好ましくは0.3~10μmである。
なお、本明細書において、積算体積50%粒径(以下、D50と表記することがある)は、レーザー回折式粒度分布測定装置を用いて測定した粒度分布において積算体積が50%となる粒径から求めることができる。
【0021】
前記フィラーは、BET法により求めた比表面積が好ましくは0.05~10.0m2/g、より好ましくは0.08~9.0m2/g、更に好ましくは0.10~8.0m2/gである。前記比表面積が、前記範囲内であるとポリマー成分に高充填でき、熱伝導性を向上させることができる。
前記フィラーの比表面積は、比表面積測定装置を用いて、窒素吸着によるBET 1点法により測定することができ、具体的には実施例に記載の方法により測定することができる。
【0022】
前記フィラーは、耐水処理、流動性改善などの他の表面処理が事前に施されたものでもよい。耐水処理、流動性改善などの表面処理は、フィラーの表面全体に施してもよく、一部に施してもよい。前記表面処理を施したフィラーとしては、例えば、グラフェンなどのナノ粒子を窒化アルミニウムに均一に塗布したフィラー、シリカをセラミックスフィラーに均一に塗布したフィラー、窒化アルミニウムなどの表面にゾルゲル法あるいは水ガラスなどで酸化ケイ素膜を作製し、耐水性、絶縁性を施した成膜フィラーなどが挙げられる。
【0023】
前記フィラーの表面処理に用いられるα-ブチル-ω-(2-トリメトキシシリルエチル)ポリジメチルシロキサンは、重量平均分子量(Mw)が500~5,000であり、好ましくは600~4,500、より好ましくは800~4,200である。前記Mwが前記範囲内であるとα-ブチル-ω-(2-トリメトキシシリルエチル)ポリジメチルシロキサンのフィラーへの固着率を本発明で規定する範囲内とすることができる。
α-ブチル-ω-(2-トリメトキシシリルエチル)ポリジメチルシロキサンは、Mwの異なる2種以上を混合して用いてもよい。
前記Mwは、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)を使用し、分子量が既知の標準ポリスチレン試料を用いて検量線を作成して測定したポリスチレン換算分子量である。
【0024】
α-ブチル-ω-(2-トリメトキシシリルエチル)ポリジメチルシロキサンは、ジメチルシロキサンの繰り返し単位が、好ましくは4~64の整数であり、より好ましくは8~60、更に好ましくは10~56である。ジメチルシロキサンの繰り返し単位が前記範囲内であるとα-ブチル-ω-(2-トリメトキシシリルエチル)ポリジメチルシロキサンのフィラーへの固着率を本発明で規定する範囲内とすることができる。
【0025】
フィラー表面には水酸基などの官能基があり、当該官能基と、α-ブチル-ω-(2-トリメトキシシリルエチル)ポリジメチルシロキサンが有するトリメトキシシリル基とが化学結合することで、フィラー表面にα-ブチル-ω-(2-トリメトキシシリルエチル)ポリジメチルシロキサンの加水分解物が固定される。
【0026】
α-ブチル-ω-(2-トリメトキシシリルエチル)ポリジメチルシロキサンのフィラーへの固着率は、20.0~50.0質量%であり、好ましくは22.0~48.0質量%、より好ましくは24.0~46.0質量%、更に好ましくは25.0~45.0質量%である。前記固着率が20.0質量%以上であると、表面処理フィラーを含む組成物の硬化性が良好となり、50.0質量%以下であるとポリマー成分に高充填しても粘度が低い組成物とすることができ、また、その硬化物を適度な硬さとすることができる。
なお、固着率は、JIS R1675:2007の「燃焼(高周波加熱)-赤外線吸収法」に準拠した方法により測定することができ、具体的には実施例に記載の方法により測定することができる。
【0027】
<表面処理フィラーの製造方法>
本実施形態の表面処理フィラーの製造方法は、重量平均分子量が500~5,000であるα-ブチル-ω-(2-トリメトキシシリルエチル)ポリジメチルシロキサン、アルコール、及び水を含む処理液を製造する処理液製造工程と、
フィラーと、前記処理液とを混合する前処理工程と、
前記前処理工程で得られた混合物を温度140~180℃で熱処理する熱処理工程と、を有する。
【0028】
〔処理液製造工程〕
本工程は、重量平均分子量が500~5,000であるα-ブチル-ω-(2-トリメトキシシリルエチル)ポリジメチルシロキサン、アルコール、及び水を含む処理液を製造する工程である。
前記α-ブチル-ω-(2-トリメトキシシリルエチル)ポリジメチルシロキサンは、<表面処理フィラー>の項で説明したものを用いることができる。
【0029】
重量平均分子量が500~5,000であるα-ブチル-ω-(2-トリメトキシシリルエチル)ポリジメチルシロキサン、アルコール、及び水を含む処理液を調製する。
アルコールとしては、例えば、エタノール、イソプロパノール、ブタノール等が挙げられる。これらは、1種を用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
前記処理液中に含まれるアルコール濃度は、入手性の観点から、好ましくは99.5~99.9質量%である。
水は、イオン交換水であってもよく、蒸留水であってもよい。
前記処理液は、前記α-ブチル-ω-(2-トリメトキシシリルエチル)ポリジメチルシロキサン、アルコール、及び水以外に、必要に応じて、塩酸、酢酸等の酸;アセトン、メチルエチルケトンなどの有機溶剤(アルコールを除く)を含んでもよい。
前記処理液が酸を含む場合、当該処理液の水素イオン濃度は、加水分解速度とシラノールの安定性の観点から、好ましくは2~10質量%である。
【0030】
アルコールの含有量は、α-ブチル-ω-(2-トリメトキシシリルエチル)ポリジメチルシロキサン100質量部に対して、好ましくは150~400質量部、より好ましくは200~350質量部、更に好ましくは200~300質量部である。アルコールの含有量が150質量部以上であると処理液を均一化(相溶化)でき、400質量部以下であるとフィラーに処理液を投入後、スラリー化することができる。
【0031】
水の含有量は、α-ブチル-ω-(2-トリメトキシシリルエチル)ポリジメチルシロキサン100質量部に対して、好ましくは0.5~10質量部、より好ましくは0.8~8質量部、更に好ましくは1~6質量部である。水の含有量が0.5質量部以上であると、トリメトキシ基の加水分解が進み、10質量部以下であると処理液を均一化(相溶化)できる。
【0032】
前記処理液が有機溶剤(アルコールを除く)を含む場合、その含有量は、α-ブチル-ω-(2-トリメトキシシリルエチル)ポリジメチルシロキサン100質量部に対して、好ましくは50~300質量部、より好ましくは100~250質量部、更に好ましくは100~200質量部である。有機溶剤の含有量が50質量部以上であると処理液を均一化(相溶化)でき、300質量部以下であるとフィラーに処理液を投入後、スラリー化することができる。
【0033】
密閉できる容器に、α-ブチル-ω-(2-トリメトキシシリルエチル)ポリジメチルシロキサン、アルコール、及び水、さらに必要に応じで含有される酸、有機溶剤(アルコールを除く)を混合する。これらの化合物を混合する順番は特に限定されず、前記化合物をどのような順番で混合しても構わない。
混合は、撹拌翼を取り付けたモーター、マグネットスターラーの撹拌子で撹拌を行ったり、または各成分を容器に配合してから容器ごとミックスロータで回転させて行うことができる。
混合は、23~80℃で4~100時間行うことが好ましく、23~50℃で4~72時間行うことがより好ましい。
【0034】
〔前処理工程〕
本工程は、フィラーと、前記処理液製造工程で得られた処理液とを混合し、フィラーの前処理を行う工程である。
前記フィラーは、<表面処理フィラー>の項で説明したものを用いることができる。
前記前処理は、撹拌装置にフィラー及び処理液を加え、撹拌、混合することで行う。
撹拌装置としては、自転公転撹拌装置、ナウター、高速ミキサー、ヘンシェルミキサー、プラネタリーミキサー等が挙げられる。
撹拌は、20~70℃で1~120分間行うことが好ましく、23~50℃で1~30分間行うことがより好ましい。
【0035】
フィラーへのα-ブチル-ω-(2-トリメトキシシリルエチル)ポリジメチルシロキサン(以下、単に「ポリジメチルシロキサン」ともいう)の添加量は、ポリジメチルシロキサンの最小被覆面積から決めることができる。
ポリジメチルシロキサンの最小被覆面積は下記式(I)より算出できる。なお、ポリジメチルシロキサン中のトリメトキシシリル基の占有面積は13×10-20m2である。
【0036】
【0037】
α-ブチル-ω-(2-トリメトキシシリルエチル)ポリジメチルシロキサンの添加量は、下記式(II)より算出できる。
【0038】
【0039】
式(II)中、被覆率はポリジメチルシロキサンがフィラーを被覆する理論量であり、好ましくは10~100%、より好ましくは20~100%である。被覆率が20%以上であると表面処理フィラーを含む組成物の発泡を抑制できる。
【0040】
このようにして得られる混合物は、後述する熱処理工程の前に当該混合物を乾燥する乾燥工程を行ってもよい。乾燥方法は特に限定されず、例えば、前記撹拌、混合後、風乾を4~24時間行ってもよい。風乾は、単に室温(25℃)下に放置してもよく、必要に応じて熱風循環式オーブンで温度50~80℃で行ってもよい。
【0041】
〔熱処理工程〕
本工程は、前記前処理工程で得られた混合物を温度140~180℃で熱処理する工程である。
前記前処理工程後、得られた混合物を温度140~180℃で熱処理し、処理液の焼き付けを行う。
熱処理温度が140℃以上であるとα-ブチル-ω-(2-トリメトキシシリルエチル)ポリジメチルシロキサンのフィラーへの固着率を高めることができ、180℃以下であるとα-ブチル-ω-(2-トリメトキシシリルエチル)ポリジメチルシロキサンの劣化を防ぐことができる。熱処理温度は好ましくは145~175℃、より好ましくは150~170℃である。
また、熱処理時間は、好ましくは2~6時間、より好ましくは2~5時間である。熱処理時間が2時間以上であるとα-ブチル-ω-(2-トリメトキシシリルエチル)ポリジメチルシロキサンによるフィラーの表面処理が十分に行うことができ、6時間以内であると表面処理フィラーの熱劣化による着色が抑制できる。
【0042】
このようにして得られる表面処理フィラーは、水又はアルコールで洗浄してもよい。洗浄に用いるアルコールとしては、例えば、エタノール、プロパノール等が挙げられる。
【0043】
<熱伝導組成物>
本実施形態の熱伝導組成物は、ポリマー成分、及びフィラーを含む熱伝導組成物であって、前記フィラーが上述の表面処理フィラーを含み、前記熱伝導組成物全量に対して、前記ポリマー成分の含有量が2~15質量%であり、前記フィラーの含有量が85~98質量%である。
【0044】
〔ポリマー成分〕
本実施形態で用いられるポリマー成分は、特に限定されず、例えば、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂、エラストマー、オイルなどが挙げられる。これらは単独で、または2種以上を混合して使用してもよい。
前記ポリマー成分としては、本発明の効果を得る観点から、熱硬化性樹脂、エラストマー、及びオイルからなる群より選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。なお、熱硬化性樹脂は硬化前の状態の物を意味し、本明細書では、加熱硬化タイプに限られず、常温硬化タイプも包含するものとする。
【0045】
熱硬化性樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、ポリイミド、ポリウレタン等が挙げられる。
熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン;ポリエステル、ナイロン、ABS樹脂、メタクリル樹脂、アクリル樹脂、ポリフェニレンスルフィド、フッ素樹脂、ポリスルホン、ポリエーテルイミド、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルケトン、液晶ポリエステル、熱可塑性ポリイミド、ポリ乳酸、ポリカーボネート等が挙げられる。
前記熱硬化性樹脂および熱可塑性樹脂は、シリコーン変性されていてもよく、フッ素樹脂変性されていてもよい。変性された樹脂の具体例としては、シリコーン変性アクリル樹脂、フッ素樹脂変性ポリウレタンなどが挙げられる。
エラストマーとしては、例えば、天然ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、1,2-ポリブタジエン、スチレン-ブタジエン、クロロプレンゴム、ニトリルゴム、ブチルゴム、エチレン-プロピレンゴム(EPM、EPDM)、クロロスルホン化ポリエチレン、アクリルゴム、エピクロルヒドリンゴム、多硫化ゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴム、ポリウレタンゴム等が挙げられる。
オイルとしては、例えば、低分子量ポリ-α-オレフィン、低分子量ポリブテン、シリコーンオイル、フッ素オイル等が挙げられる。
これらは単独で、または2種以上を混合して使用してもよい。
【0046】
前記ポリマー成分は、低粘度品の入手性の観点から、ポリウレタン、シリコーンゴム、シリコーンオイルが好ましい。
【0047】
前記ポリマー成分としては、25℃における粘度が30~3000mPa・sのものを用いることが好ましく、50~2000mPa・sのものを用いることがより好ましく、100~1000mPa・sのものを用いることが更に好ましい。前記粘度が30mPa・s以上であると熱安定性に優れ、3000mPa・s以下であると組成物の粘度を低くすることができる。
なお、ポリマー成分の25℃における粘度は、JIS Z8803:2011の「液体の粘度測定方法」に基づき、回転粘度計を用いて測定することができ、具体的には実施例に記載の方法により測定することができる。
【0048】
前記ポリマー成分の含有量は、本実施形態の熱伝導組成物全量に対して、2~15質量%であり、好ましくは2~12質量%、より好ましくは2~10質量%、更に好ましくは2~8質量%である。前記ポリマー成分の含有量が2質量%以上であると熱伝導性を付与することができ、15質量%以下であると組成物の粘度及び硬化物の硬度を適切にすることができる。
【0049】
〔フィラー〕
本実施形態で用いられるフィラーは、上述の表面処理フィラーを含む。表面処理フィラーとしては、前記<表面処理フィラー>の項で説明したものを用いることができる。
前記フィラー中に含まれる前記表面処理フィラーの含有量は、好ましくは40~60質量%、より好ましくは42~56質量%、更に好ましくは45~52質量%である。前記表面処理フィラーの含有量が40質量%以上であると、フィラーをポリマー成分に高充填しても粘度が低い熱伝導組成物とすることができ、また、その硬化物を適度な硬さとすることができ、60質量%以下であると、その硬化物を適度な硬さとすることができる。
【0050】
本実施形態の熱伝導組成物は、熱伝導率向上の観点から、上述の表面処理フィラー以外のその他のフィラーを含むことが好ましい。その他のフィラーは表面処理されていてもよく、表面処理されていなくてもよい。
その他のフィラーとしては、金属酸化物、金属窒化物、金属水酸化物等が挙げられる。
金属酸化物としては、酸化亜鉛、アルミナ、酸化マグネシウム、二酸化ケイ素、酸化鉄等が挙げられる。金属窒化物としては、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、窒化ケイ素等が挙げられる。金属水酸化物としては、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム等が挙げられる。
熱伝導率とコストのバランスを考慮すると酸化アルミニウム(アルミナ)が好ましく、特にα-アルミナが、熱伝導性が高く好ましい。高熱伝導性の観点からは窒化アルミニウム、窒化ホウ素が好適に用いられ、低コストの観点からはシリカ、石英粉末、水酸化アルミニウムが好適に用いられる。
【0051】
その他のフィラーの積算体積50%粒径は、熱伝導率向上と高充填率化の観点から、好ましくは20μm超80μm以下であり、より好ましくは25~70μm、更に好ましくは28~60μm、より更に好ましくは30~50μmである。
【0052】
前記フィラー中に含まれるその他のフィラーの含有量は、充填性の観点から、好ましくは40~60質量%、より好ましくは44~58質量%、更に好ましくは48~55質量%である。
【0053】
前記フィラーの含有量は、本実施形態の熱伝導組成物全量に対して、85~98質量%であり、好ましくは88~98質量%、より好ましくは90~98質量%、更に好ましくは92~98質量%である。前記フィラーの含有量が85質量%以上であると高い熱伝導率を付与することができ、98質量%以下であると硬化物の硬度を低くし、適度な硬さにすることができる。
【0054】
本実施形態の熱伝導組成物は、以上の各成分の他に、硬化形態、物性に影響がなく、本発明の効果を妨げない範囲で、耐熱剤、難燃剤、可塑剤、シランカップリング剤、分散剤、反応促進剤などの添加剤を必要に応じて配合することができる。
前記添加剤を用いる場合、その添加量は、いずれも熱伝導組成物全量に対して、好ましくは0.05~10.0質量%、より好ましくは0.1~8.0質量%、更に好ましくは0.15~5.0質量%である。
【0055】
本実施形態の熱伝導組成物中、前記ポリマー成分、及び前記フィラーの合計含有量は、好ましくは90~100質量%、より好ましくは92~100質量%、更に好ましくは95~100質量%である。
【0056】
本実施形態の熱伝導組成物は、撹拌装置に、前記ポリマー成分、前記フィラー、及び必要に応じで配合されるその他添加剤を投入して撹拌し、混練することで得ることができる。撹拌装置は、特に限定されず、例えば、二本ロール、ニーダー、プラネタリーミキサー、高速ミキサー、自転・公転撹拌機などが挙げられる。
【0057】
本実施形態の熱伝導組成物は、30℃における粘度が好ましくは300~600Pa・s、より好ましくは310~500Pa・s、更に好ましくは320~400Pa・sである。
前記粘度は、フロー粘度計を用いてJIS K7210:2014に準拠した方法で測定することができ、具体的には実施例に記載の方法により測定することができる。
【0058】
本実施形態の熱伝導組成物は、低粘度で高熱伝導率を有し、適度な硬さを有する硬化物を得ることができるため、電子機器、パソコン、自動車用のECUや電池など、発熱性の電子部品に好適に用いることができる。
【0059】
<熱伝導組成物の硬化物>
本実施形態の熱伝導組成物は、例えば、金型等に注入し、必要に応じて乾燥した後、加熱硬化することにより硬化物を得ることができる。また、ポリマー成分が常温硬化型の場合には、20~25℃の温度で5日~10日程度放置して硬化させてもよい。
前記乾燥は、常温下でも自然乾燥でもよい。前記加熱は、温度50℃以上150℃以下で、5分間以上20時間以下の条件で行うことが好ましく、温度60℃以上130℃以下で、10分間以上10時間以下の条件で行うことがより好ましい。
【0060】
本実施形態の熱伝導組成物の硬化物は、熱伝導率が好ましくは4.0W/m・K以上、より好ましくは4.5W/m・K以上、更に好ましくは5.0W/m・K以上である。
前記熱伝導率は、ISO22007-2:2008に準拠した方法で測定することができ、具体的には実施例に記載の方法により測定することができる。
【0061】
本実施形態の熱伝導組成物の硬化物は、ASTM D2240の硬さ試験(Shore00)に準拠して測定した硬度が、好ましくは25~60、より好ましくは30~50、更に好ましくは32~45である。前記硬度が前記範囲内であると適度な硬さを有する硬化物とすることができる。
前記硬度は、具体的には実施例に記載の方法により測定することができる。
【実施例0062】
次に実施例により、本発明を具体的に説明するが、本発明は、これらの例によってなんら限定されるものではない。
【0063】
(原料化合物)
実施例1~22及び比較例1~19で使用した原料化合物の詳細は、以下のとおりである。
〔フィラー〕
・AES-12:アルミナ、住友化学株式会社製、D50=0.5μm、比表面積(BET法)=5.8m2/g、熱伝導率=25W/m・K、比重=3.98g/cm3
・BAK-5:アルミナ、上海百図株式会社製、D50=5μm、比表面積(BET法)=0.4m2/g、熱伝導率=25W/m・K、比重=3.98g/cm3
・AS-10:アルミナ、昭和電工株式会社製、D50=40μm、比表面積(BET法)=0.5m2/g、熱伝導率=25W/m・K、比重=3.98g/cm3
【0064】
フィラーのD50、比表面積、及び熱伝導率は、下記の測定方法により測定した。
(1)D50
レーザー回折式粒度分布測定装置(マイクロトラック・ベル株式会社製、商品名:MT3300EXII)を用いて測定した粒度分布において積算体積が50%となる粒径(50%粒径D50)から求めた。
【0065】
(2)比表面積
比表面積測定装置(株式会社マウンテック製、商品名:Macsorb MS30)を用いて、窒素吸着によるBET 1点法により測定した。
【0066】
(3)熱伝導率
アルミナ50gを粉砕し、次にパラフィンをアルミナの5質量%添加し練り、得られた混練物を直径25mm、厚み8mmの金型に入れ、冷間プレスによって成形した。次に電気炉にて室温(20℃)から200℃まで1時間かけて昇温し、200℃を保持しながら2時間脱脂をおこなった。引き続き、昇温速度400℃/時間で昇温し、温度1580℃で4時間焼成し、4時間以上自然放冷にて冷却し、焼結体を得た。得られた焼結体の熱伝導率をホットディスク法 熱物性測定装置(京都電子工業株式会社製 商品名 TPS 2500 S)を用いて、ISO22007-2:2008に準拠して測定した。
【0067】
〔ポリマー成分〕
・DOWSILTM CY52-276:A液(ビニル基含有ジメチルシリコーンゴムと白金触媒との混合物)及びB液(ビニル基含有ジメチルシリコーンゴムと架橋剤との混合物)、ダウ・東レ株式会社製、25℃における粘度=780mPa・s、熱伝導率=0.2W/m・K、比重=0.97g/cm3
【0068】
ポリマー成分(前記A液及び前記B液の質量比1:1の混合物)の粘度、及び熱伝導率は、下記の測定方法により測定した。
(1)粘度
ポリマー成分の粘度は、JIS Z8803:2011の「液体の粘度測定方法」に基づき、回転粘度計(東機産業株式会社製、商品名:TVB-10、ロータNo.3)を用いて、25℃で回転速度20rpmの条件で測定した。
(2)熱伝導率
ポリマー成分の熱伝導率は、ホットディスク法 熱物性測定装置(京都電子工業株式会社製 商品名 TPS 2500 S)を用いて、ISO22007-2:2008に準拠して測定した。
【0069】
〔α-ブチル-ω-(2-トリメトキシシリルエチル)ポリジメチルシロキサン〕
・表面処理剤-1:α-ブチル-ω-(2-トリメトキシシリルエチル)ポリジメチルシロキサン、重量平均分子量=1,400、25℃における粘度=16mPa・s、最小被覆面積=55.9m2/g、比重=0.97g/cm3
・表面処理剤-2:α-ブチル-ω-(2-トリメトキシシリルエチル)ポリジメチルシロキサン、重量平均分子量=3,000、25℃における粘度=25mPa・s、最小被覆面積=26.1m2/g、比重=0.97g/cm3
・表面処理剤-3:α-ブチル-ω-(2-トリメトキシシリルエチル)ポリジメチルシロキサン、重量平均分子量=4,000、25℃における粘度=40mPa・s、最小被覆面積=19.6m2/g、比重=0.97g/cm3
【0070】
〔シランカップリング剤〕
・表面処理剤-4:KBM-3103C、デシルトリメトキシシラン、信越化学工業株式会社製、分子量=262.5、最小被覆面積=298m2/g、比重=0.89g/cm3
・表面処理剤-5:Dynasylan(登録商標)9116、ヘキサデシルトリメトキシシラン、分子量=346.6、エボニック・ジャパン株式会社製、最小被覆面積=226m2/g、比重=0.89g/cm3
【0071】
表面処理剤の最小被覆面積は、下記式(i)より算出した。
なお、式(i)中、トリメトキシシリル基の占有面積は、α-ブチル-ω-(2-トリメトキシシリルエチル)ポリジメチルシロキサン、デシルトリメトキシシラン、及びヘキサデシルトリメトキシシランいずれも13×10‐20m2である。
【0072】
【0073】
(実施例1:表面処理フィラーの製造)
(1)処理液の調製(処理液製造工程)
表面処理剤-1の使用量は下記式(ii)より算出した。
なお、式(ii)中、フィラーの被覆率は100%とした。
【0074】
【0075】
バイヤル瓶に表面処理剤-1 10.4質量部、イソプロパノール 26質量部、及びイオン交換水 0.4質量部を加え、密閉してミックスロータ(VMR-5A、アズワン株式会社製)を用いて、温度25℃、回転数70rpmで3日間撹拌混合し処理液を得た。
【0076】
(2)フィラーの表面処理(前処理工程、乾燥工程、熱処理工程)
AES-12(アルミナ)100質量部に、前記(1)で得られた処理液をスポイトで40mL加え、自転・公転ミキサー(ARE-310、株式会社シンキー製)を用いて、温度25℃、回転数2000rpmで20秒間の撹拌混合を3回繰り返した後、1日室温(25℃)下で風乾し溶剤を揮発させた。次いで、温度150℃で4時間熱処理し、表面処理剤-1の焼き付けを行った後、室温(25℃)で冷却して表面処理剤-1で表面処理された表面処理フィラー1を得た。
【0077】
(3)表面処理フィラーの洗浄
得られた表面処理フィラー1を下記操作により洗浄した。
表面処理フィラー1 20質量部を遠沈管に入れ、イソプロパノール10質量部を加え、蓋をして30秒間手で上下に振り、その後遠心分離機(CN-2060 アズワン株式会社製)にて回転数3000rpmで10分間の条件で撹拌し表面処理フィラー1を沈降させた。上澄み液を捨て沈殿物をほぐしてからイソプロパノール10質量部を加え、蓋をして30秒間手で上下に振り、その後遠心分離機にて回転数3000rpmで10分間の条件で撹拌し表面処理フィラー1を沈降させた。さらにもう1回同じ手順を行い、上澄み液を捨て沈殿物を遠沈管に入れたまま1日風乾した。その後、温度100℃で1時間乾燥した。
【0078】
(実施例2~19、及び比較例1~11:表面処理フィラーの製造)
表1及び表2に記載の種類及び配合量のフィラー並びに処理液に変更し、表1及び表2に記載の熱処理温度及び熱処理時間に変更したこと以外は実施例1と同様にして実施例2~19及び比較例1~11の表面処理フィラー2~30を得た。
なお、実施例2~16及び比較例1~8、10、11において使用する表面処理剤の量は、前記式(ii)においてフィラーの被覆率を100%として算出した。また、実施例17~19及び比較例9において使用する表面処理剤の量は、前記式(ii)においてフィラーの被覆率を33.3%として算出した。
【0079】
(評価)
得られた表面処理フィラー1~30について、表面処理剤のフィラーへの固着率、及び表面処理フィラーの着色の有無の評価を行った。結果を表1及び表2に示す。
【0080】
〔表面処理剤のフィラーへの固着率〕
表面処理剤の固着率は、JIS R1675:2007の「燃焼(高周波加熱)-赤外線吸収法」に準拠した方法により測定した。表面処理剤の全炭素量、洗浄後の表面処理フィラーの全炭素量をそれぞれ測定し、下記式(iii)より算出した。
なお、表面処理剤-1の炭素含有量は33.13質量%、表面処理剤-2の炭素含有量は32.73質量%、表面処理剤-3の炭素含有量は32.65質量%、表面処理剤-4の炭素含有量は70.91質量%、及び表面処理剤-5の炭素含有量は質量75.79%である。
【0081】
【0082】
〔表面処理フィラーの着色の有無〕
実施例1~16及び比較例1~8で得られた表面処理フィラーを目視で観察し、着色の有無を評価した。
【0083】
【0084】
【0085】
表1及び表2より、本発明の表面処理フィラーの製造方法によれば、表面処理剤〔α-ブチル-ω-(2-トリメトキシシリルエチル)ポリジメチルシロキサン〕がフィラー表面に固着率20.0~50.0質量%の範囲内で固着した表面処理フィラーが得られることがわかる。表面処理剤の重量平均分子量が小さいほど、表面処理剤のフィラーへの固着率が高いことがわかる。また、熱処理温度が高いほど、表面処理剤のフィラーへの固着率が高いことがわかる。一方、熱処理時間が16時間では得られた表面処理フィラーに着色が見られた。これは、熱処理時間が長くなると表面処理剤が劣化するためと考えられる。
【0086】
(実施例20:熱伝導組成物の製造)
ポリマー成分として、ビニル基含有ジメチルシリコーンゴム(DOWSILTM CY52-276)75.0質量部、フィラーとして、表面処理フィラー26 900.0質量部をポリエチレン容器に入れ、自転・公転ミキサー((株)シンキー製)で、回転数2000rpm、30秒間の条件で撹拌混合を行った。冷却後、混合物をほぐし、さらにアルミナ(AS-10)943.0質量部を加え、自転・公転ミキサーで回転数2000rpm、30秒間の条件で撹拌混合し実施例20の熱伝導組成物を得た。
【0087】
(実施例21、22及び比較例12~15:熱伝導組成物の製造)
表3に記載の種類及び配合量の各成分に変更したこと以外は実施例20と同様にして各実施例及び比較例の熱伝導組成物を得た。
【0088】
(比較例16:熱伝導組成物の製造)
シリコーン樹脂A液(白金触媒含有)77.3質量部、表面処理剤-2 32.2質量部、AES-12(アルミナ)400質量部、及びBAK-5(アルミナ)500質量部をポリエチレン容器に入れ、自転・公転ミキサー((株)シンキー製)で、回転数2000rpm、30秒間の条件で撹拌混合を行った。冷却後、混合物をほぐし、さらにAS-10(アルミナ)977.0質量部を加え、自転・公転ミキサーで回転数2000rpm、30秒間の条件で撹拌混合し冷却して熱伝導組成物Aを得た。
同様に、シリコーン樹脂B液(架橋剤含有)77.3質量部、表面処理剤-2 32.2質量部、AES-12(アルミナ)400質量部、及びBAK-5(アルミナ)500質量部をポリエチレン容器に入れ、自転・公転ミキサー((株)シンキー製)で、回転数2000rpm、30秒間の条件で撹拌混合を行った。冷却後、混合物をほぐし、さらにAS-10(アルミナ)977.0質量部を加え、自転・公転ミキサーで回転数2000rpm、30秒間の条件で撹拌混合し冷却して熱伝導組成物Bを得た。
熱伝導組成物Aと熱伝導組成物Bとを質量比1:1となるようにポリエチレン容器に量り取り、自転・公転ミキサー(ARE-310、株式会社シンキー製)を用いて、回転数2000rpm、30秒間の条件で真空撹拌混合し比較例16の熱伝導組成物を得た。
【0089】
(比較例17及び18:熱伝導組成物の製造)
表3に記載の種類及び配合量の各成分に変更したこと以外は比較例16と同様にして各比較例の熱伝導組成物を得た。
【0090】
(比較例19:熱伝導組成物の製造)
シリコーン樹脂A液(白金触媒含有)77.3質量部、表面処理剤-2 32.2質量部、AES-12(アルミナ)400質量部、及びBAK-5(アルミナ)500質量部をポリエチレン容器に入れ、自転・公転ミキサー((株)シンキー製)で、回転数2000rpm、30秒間の条件で撹拌混合を行った。冷却後、混合物をほぐし、さらにAS-10(アルミナ)977.0質量部を加え、自転・公転ミキサーで回転数2000rpm、30秒間の条件で撹拌混合し冷却して熱伝導組成物Aを得た。加熱ができるように得られた熱伝導組成物Aを金属容器に移した。160℃に設定した熱風循環式オーブンに熱伝導組成物Aを入れた金属容器を入れ、30分毎に取り出して回転数2000rpm、30秒間の条件で撹拌混合する操作を8回行った後、冷却した。次に、白金触媒40ppmをマイクロシリンジにて添加した。なお、白金触媒を加える理由はシリコーン樹脂A液にはすでに白金触媒が添加されており、加熱によって失活するため追加添加をした。
シリコーン樹脂B液(架橋剤含有)77.3質量部にシリコーン樹脂A液と同様の操作を行い、熱伝導組成物Bを得た。
熱伝導組成物Aと熱伝導組成物Bとを質量比1:1となるようにポリエチレン容器に量り取り、自転・公転ミキサー(ARE-310、株式会社シンキー製)を用いて、回転数2000rpm、30秒間の条件で真空撹拌混合し比較例19の熱伝導組成物を得た。
【0091】
(シートの作製)
フッ素離型処理を施した厚み0.1mmのポリエステルフィルム上に、脱泡した熱伝導組成物を載せ、そのうえから厚み0.1mmのポリエステルフィルムを空気の混入がないように被せ、圧延ロールにて成形し、120℃で60分間硬化させ、さらに一日室温(23℃)で放置し、厚み2.0mmのシート(熱伝導組成物を硬化物)を作製した。なお、比較例15では、ポリマー成分にフィラーが充填できず、シートを作製することができなかった。
また、比較例14及び16~19の熱伝導組成物を硬化して得られたシートは、表面に発泡が見られた。
【0092】
(評価)
以下に示す測定条件により、各実施例及び比較例で得られた熱伝導組成物並びに熱伝導組成物のシートを用いて特性を測定した。結果を表3に示す。
【0093】
(1)フィラーの含有量(体積%)
熱伝導組成物全量に対するフィラーの含有量(体積%)は、下記式(iv)より算出した。
なお、表面処理フィラーの体積は、フィラーを表面処理する前のフィラーの体積を表し、樹脂成分の体積は、ポリマー成分の体積とフィラーの表面処理に用いた表面処理剤の体積との合計とする。
【0094】
【0095】
(2)粘度
JIS K7210:2014に準拠して、フロー粘度計(GFT-100EX、(株)島津製作所製)を用いて、温度30℃、ダイ穴径(直径)1.0mm、試験力10(重り1.8kg)の条件で測定した。
【0096】
(3)硬度(Shore 00 硬度)
得られた厚み2.0mmのシートを幅20mm×長さ30mmの短冊状に切り出し、それを3枚重ねてブロックを作り、測定サンプルとした。アスカーC 硬度計(アスカー Cゴム硬度計、高分子計器(株)製)を用いて、ASTM D2240の硬さ試験(Shore00)に準拠して前記測定サンプルのShore00 硬度を測定した。
なお、Shore00 硬度が20以下では、離型フィルムからシートが剥がれず、硬化不足と判定した。
【0097】
(4)熱伝導率
得られた厚み2.0mmのシートを幅20mm×長さ30mmの短冊状に切り出し、それを3枚重ねてブロックを作り、その表面をラップで覆った測定サンプルを2個作製した。ISO22007-2:2008に準拠するホットディスク法測定装置(京都電子工業(株)製、TPS-2500)のプローブを前記測定サンプルで上下から挟み込む形でセットし、熱伝導率を測定した。
【0098】
【0099】
本発明の表面処理フィラーを含む実施例20~22の熱伝導組成物は、シランカップリング剤により表面処理されたフィラーを含む比較例12及び13の熱伝導組成物と比較して、いずれも粘度が低く、また、低硬度で適度な硬さを有し、高熱伝導率を有する硬化物が得られることがわかる。表面処理フィラー製造時の熱処理温度が低い(120℃)表面処理フィラーを含む熱伝導組成物は、硬化不足のためShore00 硬度が20以下と低すぎ(比較例14)、また、表面処理をしていないフィラーは、ポリマー成分に充填できない(比較例15)。表面処理剤-1~3を用いてインテグラルブレンド法によりフィラーの表面処理をした場合、組成物は硬化しない(比較例16、18)又は硬化が不十分となり(比較例17)、熱をかけると硬化性が若干改善されるものの硬化は不十分である(比較例19)。