(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024143155
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】炭化金属被覆炭素材料
(51)【国際特許分類】
C23C 16/32 20060101AFI20241003BHJP
H01L 21/31 20060101ALI20241003BHJP
C30B 29/36 20060101ALN20241003BHJP
C30B 25/12 20060101ALN20241003BHJP
C30B 25/08 20060101ALN20241003BHJP
【FI】
C23C16/32
H01L21/31 B
C30B29/36 A
C30B25/12
C30B25/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023055681
(22)【出願日】2023-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100207756
【弁理士】
【氏名又は名称】田口 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100135758
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 高志
(74)【代理人】
【識別番号】100154391
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 康義
(72)【発明者】
【氏名】平手 暁大
(72)【発明者】
【氏名】宮島 直哉
(72)【発明者】
【氏名】山村 和市
【テーマコード(参考)】
4G077
4K030
5F045
【Fターム(参考)】
4G077AA03
4G077BE08
4G077DB04
4G077DB07
4G077EA02
4G077EA04
4G077EA06
4G077ED06
4G077EG04
4G077EG25
4G077HA12
4K030AA03
4K030AA09
4K030AA17
4K030BA10
4K030BA13
4K030BA17
4K030BA20
4K030BA22
4K030BA36
4K030CA01
4K030FA10
4K030JA01
5F045AA03
5F045AA08
5F045AB02
5F045AB06
5F045AB14
5F045AC08
5F045AC16
5F045AD12
5F045AD13
5F045AD14
5F045AD15
5F045AD16
5F045AD17
5F045AD18
5F045AE17
5F045AE19
5F045AE21
5F045AF02
5F045DP03
5F045DP05
5F045EK06
(57)【要約】
【課題】半導体単結晶の結晶成長およびエピタキシャル成長時の結晶多形の発生を抑制して半導体単結晶の歩留まりを向上させることができる炭化金属被覆炭素材料を提供する。
【解決手段】本発明は、炭素を主成分とする炭素基材と、炭素基材の少なくとも一部を被覆する炭化金属被覆膜とを含む炭化金属被覆炭素材料であり、炭化金属被覆膜を構成する金属炭化物は、炭化タンタル、炭化ニオブ、炭化ジルコニウム、炭化ハフニウム及び炭化タングステンからなる群から選択される少なくとも1種の金属炭化物であり、炭化金属被覆膜中の塩素濃度が25000ppm・μm以下である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素を主成分とする炭素基材と、前記炭素基材の少なくとも一部を被覆する炭化金属被覆膜とを含む炭化金属被覆炭素材料であって、
前記炭化金属被覆膜を構成する金属炭化物は、炭化タンタル、炭化ニオブ、炭化ジルコニウム、炭化ハフニウム及び炭化タングステンからなる群から選択される少なくとも1種の金属炭化物であり、
前記炭化金属被覆膜中の塩素濃度が25000ppm・μm以下である炭化金属被覆炭素材料。
【請求項2】
前記炭化金属被覆膜の膜厚が10μm以上、100μm以下である請求項1に記載の炭化金属被覆炭素材料。
【請求項3】
前記炭化金属被覆膜の表面の算術平均粗さRaが0.1μm以上、9.5μm以下である請求項1に記載の炭化金属被覆炭素材料。
【請求項4】
前記炭素基材の表面の算術平均粗さRaが0.1μm以上、10.0μm以下である請求項1に記載の炭化金属被覆炭素材料。
【請求項5】
前記炭素基材の線形熱膨張係数が3.5×10-6/℃以上、8.2×10-6/℃以下である請求項1に記載の炭化金属被覆炭素材料。
【請求項6】
前記炭化金属被覆膜の少なくとも表面を構成する金属炭化物が炭化タンタルである請求項1に記載の炭化金属被覆炭素材料。
【請求項7】
前記炭化金属被覆膜を構成する金属炭化物が炭化タンタルである請求項1に記載の炭化金属被覆炭素材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素基材表面に炭化金属被覆膜を被覆した炭化金属被覆炭素材料に関する。
【背景技術】
【0002】
炭化タンタル、炭化ニオブ、炭化ジルコニウム、炭化ハフニウム、炭化タングステンなどの炭化物は、融点が高く、化学的安定性、強度、靭性および耐食性に優れている。このため、炭化物で炭素基材をコーティングすることにより、炭素基材の耐熱性、化学的安定性、強度、靭性、耐食性などの特性を改善することができる。炭素基材表面に炭化物膜を被覆した炭化物被覆炭素材料、特に炭化タンタル被覆炭素材料は、Si(シリコン)、SiC(炭化ケイ素)、GaN(窒化ガリウム)などの半導体単結晶製造装置の部材として用いられている。
【0003】
SiCのバルク単結晶を製造する方法としては、昇華再結晶法(改良レーリー法)が広く知られている。昇華再結晶法では、ルツボ内部にSiC原料を充填し、その上部にSiC種結晶が配置される。また、SiC種結晶の周囲には筒状のガイド部材が設置される。SiC原料の加熱によって発生した昇華ガスは、ガイド部材の内壁に沿って上昇し、SiC種結晶でSiC単結晶が成長していく。
【0004】
また、半導体デバイスなどで用いられるSiC単結晶基板は、バルク単結晶から成るSiC基板上に、SiC単結晶をエピタキシャル成長させることによって、製造されている。SiC単結晶をエピタキシャル成長させる方法は、液相エピタキシー(LPE)法、気相エピタキシー(VPE)法、化学気相堆積(CVD)法などが知られている。通常、SiC単結晶をエピタキシャル成長させる方法は、CVD法である。CVD法によるエピタキシャル成長方法は、装置内のサセプタ上にSiC基板を載置し、1500℃以上の高温下で原料ガスを供給することで、SiC単結晶へ成長させている。
【0005】
このようなSiC単結晶の製造方法において、より高品質な結晶を得るために、特許文献1には、黒鉛基材の内面を炭化タンタルで被覆したルツボを用いる方法が開示されている。また、特許文献2には、内壁を炭化タンタルで被覆したガイド部材を用いる方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2019-99453号公報
【特許文献2】特開2019-108611号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
炭化金属被覆炭素材料を坩堝やガイド部材として使用して結晶成長させたSiC単結晶は、何も被覆していない炭素材料を使用した場合と比較して、結晶成長の歩留まりが向上することが知られている。しかしながら、炭化金属被覆炭素材料を使用した場合であっても、さらなる歩留り改善が求められている。歩留り低下の主な原因は、点欠陥、拡張欠陥(転位、積層欠陥)、結晶多形(ポリタイプ)などが挙げられる。その中でも、本発明は結晶多形の抑制に焦点を当てて半導体単結晶の歩留りの向上を試みた。
【0008】
そこで、本発明は、炭化金属被覆炭素材料を使用することによる半導体単結晶の結晶多形の抑制および歩留まり向上を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、鋭意検討の結果、炭化金属被覆炭素材料の炭化金属被覆膜中の塩素濃度を25000ppm・μm以下にすることで、半導体単結晶の結晶多形を抑制して、半導体単結晶の歩留まりを向上ができることを見出し、本発明を完成させた。本発明の要旨は、以下のとおりである。
[1]炭素を主成分とする炭素基材と、前記炭素基材の少なくとも一部を被覆する炭化金属被覆膜とを含む炭化金属被覆炭素材料であって、前記炭化金属被覆膜を構成する金属炭化物は、炭化タンタル、炭化ニオブ、炭化ジルコニウム、炭化ハフニウム及び炭化タングステンからなる群から選択される少なくとも1種の金属炭化物であり、前記炭化金属被覆膜中の塩素濃度が25000ppm・μm以下である炭化金属被覆炭素材料。
[2]前記炭化金属被覆膜の膜厚が10μm以上、100μm以下である上記[1]に記載の炭化金属被覆炭素材料。
[3]前記炭化金属被覆膜の表面の算術平均粗さRaが0.1μm以上、9.5μm以下である上記[1]又は[2]に記載の炭化金属被覆炭素材料。
[4]前記炭素基材の表面の算術平均粗さRaが0.1μm以上、10.0μm以下である上記[1]~[3]のいずれか1つに記載の炭化金属被覆炭素材料。
[5]前記炭素基材の線形熱膨張係数が3.5×10-6/℃以上、8.2×10-6/℃以下である上記[1]~[4]のいずれか1つに記載の炭化金属被覆炭素材料。
[6]前記炭化金属被覆膜の少なくとも表面を構成する金属炭化物が炭化タンタルである上記[1]~[5]のいずれか1つに記載の炭化金属被覆炭素材料。
[7]前記炭化金属被覆膜を構成する金属炭化物が炭化タンタルである上記[1]~[6]のいずれか1つに記載の炭化金属被覆炭素材料。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、半導体単結晶の結晶成長およびエピタキシャル成長時の結晶多形の発生を抑制して半導体単結晶の歩留まりを向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本実施形態に係る外熱型減圧CVD装置の概略図である。
【
図2】本実施形態に係る半導体単結晶成長用減圧加熱炉の概略図である
【
図3】本実施形態に係る半導体単結晶エピタキシャル成長装置の概略図である。
【
図4】実施例1の炭化タンタル被覆炭素材料のGDMS分析の結果である。
【
図5】実施例1の炭化タンタル被覆炭素材料の断面SEM観察の結果である。
【
図6】実施例1の炭化タンタル被覆炭素材料の表面SEM観察の結果である。
【
図7】炭化タンタル被覆膜の密着強度の測定方法を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
炭化タンタル被覆炭素材料を例に挙げて、本発明の炭化金属被覆炭素材料を説明する。
【0013】
[炭化タンタル被覆炭素材料]
本発明の一実施形態の炭化タンタル被覆炭素材料は、炭素を主成分とする炭素基材と、炭素基材の少なくとも一部を被覆する炭化タンタル被覆膜とを含み、炭化タンタル被覆膜中の塩素濃度が25000ppm・μm以下である。
【0014】
(炭素基材)
本発明の一実施形態の炭化タンタル被覆炭素材料における炭素基材は炭素を主成分とする基材である。炭素基材は塩素をさらに含んでもよい。炭素基材の材料には、例えば、等方性黒鉛、押出成形黒鉛、熱分解黒鉛、炭素繊維強化炭素複合材料(C/Cコンポジット)などが挙げられる。炭素基材の形状や特性は特に限定されず、用途などに応じて任意形状に加工したものを用いることができる。
【0015】
<算術表面粗さRa>
炭素基材の表面の算術平均粗さRaは、半導体単結晶成長およびエピタキシャル成長に影響を与える。炭素基材の表面の算術平均粗さRaは、その値が大きいほど、炭素基材と炭化タンタル被覆膜との間の剥離強度が、大きくなる傾向があるので、炭素基材の表面の算術平均粗さRaは、0.1μm以上であることが好ましい。一方で、炭素基材の表面の算術平均粗さRaが大きすぎると炭素基材の比表面積が増加し、炭化タンタル被覆膜にクラックや剥離が発生しやすくなる。その結果、半導体単結晶成長もしくはエピタキシャル成長に用いる部材として炭化タンタル被覆炭素材料を使用としたとき、部材の製品寿命が短くなる場合がある。したがって、炭化タンタル被覆炭素材料の製品寿命の観点から、炭素基材の表面の算術平均粗さRaは10.0μm以下であることが好ましい。
【0016】
炭化タンタル被覆膜のクラック及び剥離の発生率を考慮すると、炭素基材の表面の算術平均粗さRaは、0.1μm以上、10.0μm以下であることが好ましく、2.0μm以上、6.0μm以下であることがより好ましい。炭素基材の表面の算術平均粗さRaを上記範囲内とすることにより、炭素基材と炭化タンタル被覆膜との間の剥離強度を10MPa以上とすることができ、半導体単結晶成長およびエピタキシャル成長の部材として炭化タンタル被覆炭素材料を使用としたときの部材の製品寿命を延ばすことが可能である。なお、炭素基材の表面の算術平均粗さRaは、JIS B 0633:2001(ISO 4288:1996)に基づいて測定した値である。
【0017】
<線形熱膨張係数>
炭素基材の線形熱膨張係数は、好ましくは3.5×10-6/℃以上、8.2×10-6/℃以下である。炭素基材の線形熱膨張係数が3.5×10-6/℃以上、8.2×10-6/℃以下であると、炭化タンタル被覆膜にマイクロクラックが発生することをさらに抑制することができる。このような観点から、炭素基材の線形熱膨張係数は、より好ましくは.5.0×10-6~7.5×10-6/℃である。なお、炭化タンタル被覆膜の線形熱膨張率はおよそ6.3×10-6/℃である。炭素基材の線形熱膨張率は、JIS R 1618に準拠して測定することができる。
【0018】
(炭化タンタル被覆膜)
炭化タンタル被覆膜は、炭化タンタルを主成分とし、炭化タンタル被覆膜中の塩素濃度が25000ppm・μm以下である。なお、炭化タンタル被覆膜は炭素基材の一部を被覆してもよいし、炭素基材の全部を被覆してもよい。また、本明細書において塩素濃度は質量基準である。
【0019】
<塩素濃度>
本発明の一実施形態における炭化タンタル被覆炭素材料の炭化タンタル被覆膜中の塩素濃度が25000ppm・μm以下である。炭化タンタル被覆膜中の塩素濃度が25000ppm・μmよりも大きいと、半導体単結晶の結晶成長時及びエピタキシャル成長時に半導体単結晶に結晶多形が発生して、半導体単結晶の歩留まりが低下する。このような観点から、炭化タンタル被覆膜中の塩素濃度は、好ましくは10000ppm・μm以下であり、より好ましくは5000ppm・μm以下であり、さらに好ましくは4000ppm・μm以下であり、よりさらに好ましくは3000ppm・μm以下であり、よりさらに好ましくは1000ppm・μm以下であり、よりさらに好ましくは300ppm・μm以下であり、よりさらに好ましくは200ppm・μm以下であり、よりさらに好ましくは150ppm・μm以下であり、よりさらに好ましくは100ppm・μm以下であり、よりさらに好ましくは50ppm・μm以下であり、特に好ましくは30ppm・μm以下である。また、炭化タンタル被覆膜中の塩素濃度の範囲の下限値は、特に限定されないが、通常、0.1ppm・μm以上、又は1ppm・μmである。なお、炭化タンタル被覆膜中の塩素濃度は、後述の実施例に記載の方法により測定することができる。
【0020】
<炭化タンタル被覆膜中の塩素濃度減少による結晶多形発生率減少のメカニズム説明>
次に、炭化タンタル被覆膜中の塩素濃度減少による結晶多形発生率減少のメカニズムについて説明するが、この説明は本発明を何ら限定するものではない。
半導体単結晶の成長やエピタキシャル成長は高温環境で行われる。その部材として利用される炭化タンタル被覆炭素材料も高温環境に晒される。そのため、炭化タンタル被覆膜中に含まれる塩素成分が、熱により単独で炭化タンタル被覆膜から離脱、もしくは炭化タンタル被覆膜および炭素基材に含まれる不純物原子と反応してハロゲン化物となり炭素タンタル被覆膜から離脱する。単結晶の成長環境において原料ガスの過飽和度が高い場合に、塩素成分もしくはハロゲン化物が、成長中の半導体単結晶のファセットに付着または吸着する。その付着した地点もしくは吸着した地点を起点として結晶の核が形成される場合、その核の配向性はランダムに選択されることとなる。したがって、ステップから成長する結晶面とは異なる結晶面を有する結晶多形が発生する確率が高まると考えられる。
【0021】
<炭化タンタル被覆膜中の塩素濃度の測定方法>
炭化タンタル被覆膜中の塩素濃度は、例えば、グロー放電質量分析法(GDMS法)により、VG Elemental社製のグロー放電質量分析装置(商品名「VG9000」)を使用して、以下の測定条件で、測定することができる。
(測定条件)
・Discharge Gas:Ar(7N)
・Insulator:Ceramic
・Secondary Electrode:In Orifice
・Cell:Flat Cell Assembly
・Nomakization:1kV、1.6mA
・Ion Current:Ta ~1.2×E-11 A
・Detectors:Faraday cup:160msec
・Daly-multiplier:500msec
【0022】
測定データはイオン強度比(IBR(Ion Beam Ratio))を相対感度係数(RSF)で補正した値である。ここで用いたRSFは、ソフトウェアに組み込まれている標準的な値である。RSFは測定条件や放電セルの形状によって変化するが、ソフトウェア内蔵のRSFで補正した値(RSF補正値)は、IBRより質量濃度に近いと考えられている。測定データの一例として後述の実施例1の結果を
図4に示す。縦軸は濃度(weight ppm)、横軸は深さ(μm)を示す。深さは、分析後のクレータ深さの実測値をもとに、分析中のスパッタ速度が一定であると仮定して換算している。なお、分析後のクレータ底には数μm程度の凹凸が存在するため、深さ方向分解能には10数%程度の誤差があると考えられる。
【0023】
「炭化金属被覆膜中」の定義については、走査型顕微鏡(SEM)などによる断面観察によって得られた膜厚の実測値と相関が取れる範囲において、GDMS分析における炭素濃度の変動があった部分を炭化タンタル被覆膜と炭素基材の界面とする。例えば、後述の実施例1では、SEMの断面観察により、膜厚が30μmとわかっており、例えば
図4に示す測定データでは、30μm付近で炭素濃度の増加が見られている。そのため、例えば、
図4に示す測定データでは、深さ0μmからから炭素濃度が急激に増加する深さ30μmまでを「炭化金属被覆膜中」と定義する。
【0024】
塩素濃度の算出方法については、「炭化金属被覆膜中」の範囲の塩素濃度の積分値とする。例えば、
図4に示す測定データでは、深さ0μmから深さ30μmまでの塩素濃度の積分値を「塩素濃度」と定義する。
図4に示す測定データでは、塩素濃度の値は27.5ppm・μmとなる。
【0025】
<その他の原子>
炭化タンタル被覆膜は、炭化タンタルを主成分とし、25000ppm・μm以下の濃度の塩素を含むが、本発明の効果を阻害しない範囲で、炭素、タンタルおよび塩素以外の原子を微少量含有していてもよい。例えば、炭化タンタル被覆膜は、炭素、タンタルおよび塩素以外の不純物元素やドーピング元素を10000ppm・μm以下の濃度で含有してもよい。
【0026】
<炭化タンタル被覆炭素材料の製造方法>
本発明の一実施形態の炭化タンタル被覆炭素材料は、炭素基材の表面に炭化タンタル層を形成することによって、作製することができる。炭化タンタル被覆膜は、例えば、化学気相堆積(CVD)法、焼結法、炭化法などの方法により炭素基材の表面に形成することができる。なかでも、CVD法は均一で緻密な炭化タンタル被覆膜を形成することができるため、炭化タンタル被覆膜の形成方法として好ましい。
【0027】
さらに、CVD法には、熱CVD法や、光CVD法、プラズマCVD法などがあり、炭化タンタル層の形成に、例えば、熱CVD法を用いることができる。熱CVD法は、装置構成が比較的簡易で、プラズマによる損傷が炭素基材にないなどの利点がある。熱CVD法による炭化タンタル被覆膜の形成には、例えば、
図1に示すような外熱型減圧CVD装置10を用いることができる。外熱型減圧CVD装置10では、ヒーター13、原料供給部16、排気部17などを備えた反応室12内で、炭素基材14は支持手段15によって支持される。
【0028】
本発明の一実施形態に係る炭化タンタル被覆炭素材料の製造方法を、
図1を参照して説明する。
先ず、炭素基材14を外熱型減圧CVD装置10の反応室12内に載置する。炭素基材14は、先端が尖った形状の支持部を3つ有する支持手段15によって支持される。
【0029】
次に、反応室12の加熱を行う。例えば、気圧10~1000Paおよび温度800~2200℃の条件で反応室12を加熱する。
【0030】
次に、炭素基材14の表面に炭化タンタル被覆膜を形成する。原料ガスとして、原料供給部16からメタン(CH4)等の炭素原子を含む化合物のガスと、水素(H2)ガスと、五塩化タンタル(TaCl5)等のハロゲン化タンタルガスとを反応室12へ供給する。ハロゲン化タンタルガスは、例えば、ハロゲン化タンタルを加熱気化させる方法、タンタル金属とハロゲンガスとを反応させる方法などにより発生させることができる。続いて、原料供給部16から供給される原料ガスを800~2200℃の温度および1~1000Paの圧力の高温減圧下で熱CVD反応させ、炭素基材14上に炭化タンタル被覆膜を形成する。
【0031】
<炭化タンタル被覆膜中の塩素濃度の制御方法>
原料ガスを供給する際に、水素(H2)ガスを供給することで、ハロゲン化タンタルガスから塩素が脱離する反応が促進され、これにより、炭化タンタル層中の塩素濃度を25000ppm・μm以下にすることができる。
また、原料ガス中のハロゲン化タンタルガスに含まれるタンタル原子及び水素ガスに含まれる水素原子のモル比が次の式を満たすことが好ましい。
タンタル原子(Ta):水素原子(H)=1:x(4≦x<16)
なお、xの値が16以上になる場合、ハロゲン化タンタルガスにおける塩素の離脱が促進されるが、Ta2CまたはTa金属のようなTa:Cのモル比が1:1ではない、Taが過剰量含まれる炭化タンタル被覆膜が形成される。ここで、原料ガス中のハロゲン化タンタルガスに含まれるタンタル原子及び水素ガスに含まれる水素原子のモル比はハロゲン化タンタルガス及び水素ガスのそれぞれの標準状態の体積流量から算出できる。例えば、ハロゲン化タンタルガスとして五塩化タンタルを用いる場合、1モルのハロゲン化タンタルガスには、1モルのタンタル原子が含まれる。一方、1モルの水素ガスには、2モルの水素原子が含まれる。
【0032】
以上の本発明の一実施形態の炭化タンタル被覆炭素材料は、本発明の炭化金属被覆炭素材料の一例であり、本発明の炭化金属被覆炭素材料は本発明の一実施形態の炭化タンタル被覆炭素材料に限定されない。本発明の炭化金属被覆炭素材料において、炭素基材を被覆する炭化金属被覆膜を構成する金属炭化物は、炭化タンタルに限定されない。例えば、炭素基材を被覆する炭化金属被覆膜を構成する金属炭化物として、炭化ニオブ、炭化ジルコニウム、炭化ハフニウム及び炭化タングステン等の炭化物を使用することができる。また、炭化タンタル、炭化ニオブ、炭化ジルコニウム、炭化ハフニウム及び炭化タングステンからなる群から選択される2種以上の金属炭化物を組み合わせたものを、炭素基材を被覆する炭化金属被覆膜を構成する金属炭化物として使用してもよい。なお、炭化タンタル、炭化ニオブ、炭化ジルコニウム、炭化ハフニウム及び炭化タングステンの中で、融点が最も高く、化学的安定性、強度および耐食性も優れていることから、炭化タンタルが好ましい。
【0033】
炭化金属被覆膜に炭化タンタルを使用する場合、炭化金属被覆膜全体が炭化タンタルで構成される必要はなく、炭化金属被覆膜の少なくとも表面が炭化タンタルで構成されればよい。
【実施例0034】
以下、実施例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0035】
以下のようにして実施例1~21および比較例1の炭化金属被覆炭素材料を作製した。
(実施例1)
まず、
図2及び
図3に示すように、等方性黒鉛を、有底円筒形状(ルツボ21)、円錐台筒形状(ガイド部材22)、円盤形状(サセプタ31)、及び円筒形状(内壁部材38)に加工し、それらを炭素基材(
図1の符号14参照)とした。炭素基材14の表面の算術平均粗さRaは6.0μmであり、炭素基材14の線形熱膨張率は7.0×10
-6/℃であった。なお、炭素基材の線形熱膨張率については、ヤマト科学株式会社の熱機械的分析装置(TMA7300)を使用し、200℃から1200℃までの温度範囲の熱膨張率の値を用いている。
【0036】
次に、炭素基材14を
図1に示す外熱型減圧CVD装置10の反応室12内に載置した。炭素基材14は、先端が尖った形状の支持部を3つ有する支持手段15によって支持された。このとき、支持部の先端は、円錐台筒状の炭素基材14については外側表面、有底円筒形状の炭素基材14については炭素基材14の外側表面、円盤形状の炭素基材14については下側表面、円筒形状の炭素基材14については外側表面に接触していた。
【0037】
続いて、原料供給部16から反応室12内に、メタン(CH4)ガスを0.25SLM、キャリヤーガスとして、アルゴン(Ar)ガスを1.0SLM、水素(H2)ガスを0.125SLM、220℃の温度に加熱して気化させた五塩化タンタル(TaCl5)を0.25SLM供給し、100Paの気圧及び1250℃の温度の条件下で、反応室12内で原料ガス反応させて、炭素基材14の表面全面に炭化タンタル被覆膜を形成した。
【0038】
反応室12から、炭化タンタル被覆膜で被覆された炭素基材14を取出し、炭化タンタル被覆炭素材料からなるルツボ21(
図2参照)、ガイド部材22(
図2参照)、サセプタ31(
図3参照)、及び内壁部材38(
図3参照)を完成させた。
走査型電子顕微鏡(SEM)による炭化タンタル被覆膜の断面観察から、膜厚30μmと算出した。実施例1の炭化タンタル被覆炭素材料における炭化タンタル被覆膜の断面のSEM写真を
図5および
図6に示す。
また、炭化タンタル被覆膜表面について、表面粗さ測定機(株式会社ミツトヨ製、商品名「サーフテストSJ-210」)を用いて、炭化タンタル被覆膜の表面の算術平均粗さRaを測定した。この結果、炭化タンタル被覆膜表面の算術平均粗さRaは、5.5μmであった。
【0039】
さらに、本明細書に記載のグロー放電質量分析法(GDMS法)により、炭化タンタル被覆膜中の塩素濃度を測定した。その測定データを
図4に示す。その結果、炭化タンタル被覆膜中に塩素濃度が27.5ppm・μmであることがわかった。
【0040】
炭化タンタル被覆膜の密着強度を測定したら、19.6MPaであった。なお、炭化タンタル被覆膜の密着強度は、以下の方法で測定した。
炭化タンタル被覆膜の密着強度は、例えば、薄膜密着強度測定機(Quad Group社製、商品名「Romulus」)を用いて、
図7に示すように、炭化タンタル被覆膜41とピン46とを接着剤45で接着し、押さえ治具44で押さえつけてピン46を引っ張って、炭化タンタル被覆膜41が剥がれたときの応力を測定した。5回の測定を行い、5回の算出平均値を炭化タンタル被覆膜の密着強度とした。
【0041】
図2に示すような減圧加熱炉20内に、作製したルツボ21とガイド部材22を設置して、昇華再結晶法によりSiC単結晶を成長させた。ルツボ21内にはSiC原料25を入れ、その上部には直径2インチのSiC種結晶24を設置した。減圧加熱炉20内にアルゴンガスを10~30SLMの流量で流入させ、500~1000Paの気圧及び2000~2500℃の温度の条件下で、SiC原料25を昇華させて、SiC種結晶24上に厚さ5mmのSiC単結晶を成長させた。
【0042】
SiC単結晶の製造を複数回繰り返して、ルツボ21とガイド部材22の繰り返し使用回数を確認した。その結果、24回使用後、ルツボ21に炭化タンタル被覆膜の剥離が確認され、新しい部材に取り換える必要性が生じた。
【0043】
図3に示すようなCVD装置30に、作製したサセプタ31と内壁部材38を設置して、CVD法によりSiC単結晶をエピタキシャル成長させた。サセプタ31上にバルク単結晶から基板形状に加工したSiC単結晶基板34を載置した。CVD装置内にモノシラン(SiH
4)ガスを30sccm、プロパン(C
3H
8)ガスを70sccmで流入させ、気圧45Torr、温度1550℃とし、SiC単結晶基板上にSiC単結晶をエピタキシャル成長させた。
【0044】
SiC単結晶の製造を複数回繰り返して、サセプタ31と内壁部材38の繰り返し使用できる回数を確認した。その結果、96回使用後に炭化タンタル被覆膜の剥離が確認され、新しい部材に取り換える必要性が生じた。
【0045】
また、得られた単結晶について、結晶多形の発生率を調べたところ、昇華再結晶法により作製したSiC単結晶の結晶多形の発生率及びエピタキシャル成長により作製したSiC単結晶の結晶多形の発生率は両方とも0%であった。なお、結晶多形の発生率は、以下のようにして測定した。
成長後のSiC単結晶に紫外線(UV)を照射して、その外観を調査した。少しでも結晶の乱れが観察された場合は、結晶多形の発生とした。
【0046】
(実施例2)
水素(H2)ガスの流量を0.125SLMから0.2SLMに変更した以外は、実施例1と同様の方法でルツボ12、ガイド部材19、サセプタ31、及び内壁部材38を作製し、その評価を行なった。その結果を表2に示す。
【0047】
(実施例3)
水素(H2)ガスの流量を0.125SLMから0.15SLMに変更し、五塩化タンタル(TaCl5)の流量を0.25SLMから0.3SLMに変更した以外は、実施例1と同様の方法でルツボ12、ガイド部材19、サセプタ31、及び内壁部材38を作製し、その評価を行なった。その結果を表2に示す。
【0048】
(実施例4)
水素(H2)ガスの流量を0.125SLMから0.2SLMに変更し、五塩化タンタル(TaCl5)の流量を0.25SLMから0.4SLMに変更した以外は、実施例1と同様の方法でルツボ12、ガイド部材19、サセプタ31、及び内壁部材38を作製し、その評価を行なった。その結果を表2に示す。
【0049】
(実施例5)
水素(H2)ガスの流量を0.125SLMから0.25SLMに変更し、五塩化タンタル(TaCl5)の流量を0.25SLMから0.5SLMに変更した以外は、実施例1と同様の方法でルツボ12、ガイド部材19、サセプタ31、及び内壁部材38を作製し、その評価を行なった。その結果を表2に示す。
【0050】
(実施例6)
水素(H2)ガスの流量を0.125SLMから0.15SLMに変更し、五塩化タンタル(TaCl5)の流量を0.25SLMから0.3SLMに変更し、成膜時間を短くして膜厚を30μmから10μmに変更した以外は、実施例1と同様の方法でルツボ12、ガイド部材19、サセプタ31、及び内壁部材38を作製し、その評価を行なった。その結果を表2に示す。
【0051】
(実施例7)
水素(H2)ガスの流量を0.125SLMから0.15SLMに変更し、成膜時間を延ばして膜厚を30μmから50μmに変更した以外は、実施例1と同様の方法でルツボ12、ガイド部材19、サセプタ31、及び内壁部材38を作製し、その評価を行なった。その結果を表2に示す。
【0052】
(実施例8)
炭素基材14の表面の算術平均粗さRaを6.0μmから0.1μmに変更した以外は、実施例1と同様の方法でルツボ12、ガイド部材19、サセプタ31、及び内壁部材38を作製し、その評価を行なった。その結果を表2に示す。
【0053】
(実施例9)
炭素基材14の表面の算術平均粗さRaを6.0μmから10μmに変更した以外は、実施例1と同様の方法でルツボ12、ガイド部材19、サセプタ31、及び内壁部材38を作製し、その評価を行なった。その結果を表2に示す。
【0054】
(実施例10)
炭素基材14の熱膨張率を7.0×10-6/℃から3.5×10-6/℃に変更した以外は、実施例1と同様の方法でルツボ12、ガイド部材19、サセプタ31、及び内壁部材38を作製し、その評価を行なった。その結果を表2に示す。
【0055】
(実施例11)
炭素基材14の熱膨張率を7.0×10-6/℃から8.2×10-6/℃に変更した以外は、実施例1と同様の方法でルツボ12、ガイド部材19、サセプタ31、及び内壁部材38を作製し、その評価を行なった。その結果を表2に示す。
【0056】
(実施例12)
金属塩化物ガスの流量(0.25SLM)を変更しないで、金属塩化物ガスを五塩化タンタル(TaCl5)から五塩化ニオブ(NbCl5)に変更した以外は、実施例1と同様の方法でルツボ12、ガイド部材19、サセプタ31、及び内壁部材38を作製し、その評価を行なった。その結果を表2に示す。
【0057】
(実施例13)
金属塩化物ガスの流量(0.25SLM)を変更しないで、金属塩化物ガスを五塩化タンタル(TaCl5)から四塩化ハフニウム(HfCl4)に変更した以外は、実施例1と同様の方法でルツボ12、ガイド部材19、サセプタ31、及び内壁部材38を作製し、その評価を行なった。その結果を表2に示す。
【0058】
(実施例14)
金属塩化物ガスの流量(0.25SLM)を変更しないで、金属塩化物ガスを五塩化タンタル(TaCl5)から四塩化ジルコニウム(ZrCl4)に変更した以外は、実施例1と同様の方法でルツボ12、ガイド部材19、サセプタ31、及び内壁部材38を作製し、その評価を行なった。その結果を表2に示す。
【0059】
(実施例15)
金属塩化物ガスの流量(0.25SLM)を変更しないで、金属塩化物ガスを五塩化タンタル(TaCl5)から五塩化タングステン(WCl5)に変更した以外は、実施例1と同様の方法でルツボ12、ガイド部材19、サセプタ31、及び内壁部材38を作製し、その評価を行なった。その結果を表2に示す。
【0060】
(実施例16)
金属塩化物ガスの流量(0.25SLM)を変更しないで、金属塩化物ガスを五塩化タンタル(TaCl5)から五塩化タンタル(TaCl5)及び五塩化ニオブ(NbCl5)の混合ガス(TaCl5:NbCl5=100:1)に変更した以外は、実施例1と同様の方法でルツボ12、ガイド部材19、サセプタ31、及び内壁部材38を作製し、その評価を行なった。その結果を表2に示す。
【0061】
(実施例17)
金属塩化物ガスの流量(0.25SLM)を変更しないで、金属塩化物ガスを五塩化タンタル(TaCl5)から五塩化タンタル(TaCl5)及び五塩化タングステン(WCl5)の混合ガス(TaCl5:WCl5=100:1)に変更した以外は、実施例1と同様の方法でルツボ12、ガイド部材19、サセプタ31、及び内壁部材38を作製し、その評価を行なった。その結果を表2に示す。
【0062】
(実施例18)
成膜時間を短くして膜厚を30μmから2μmに変更した以外は、実施例1と同様の方法でルツボ12、ガイド部材19、サセプタ31、及び内壁部材38を作製し、その評価を行なった。その結果を表2に示す。
【0063】
(実施例19)
炭素基材14の表面の算術平均粗さRaを6.0μmから32μmに変更した以外は、実施例1と同様の方法でルツボ12、ガイド部材19、サセプタ31、及び内壁部材38を作製し、その評価を行なった。その結果を表2に示す。
【0064】
(実施例20)
炭素基材14の表面の算術平均粗さRaを6.0μmから0.05μmに変更した以外は、実施例1と同様の方法でルツボ12、ガイド部材19、サセプタ31、及び内壁部材38を作製し、その評価を行なった。その結果を表2に示す。
【0065】
(実施例21)
炭素基材14の熱膨張率を7.0×10-6/℃から1.9×10-6/℃に変更した以外は、実施例1と同様の方法でルツボ12、ガイド部材19、サセプタ31、及び内壁部材38を作製し、その評価を行なった。その結果を表1に示す。
【0066】
(比較例1)
水素(H2)ガスの流量を0.125SLMから0SLMに変更し、五塩化タンタル(TaCl5)の流量を0.25SLMから0.5SLMに変更した以外は、実施例1と同様の方法でルツボ12、ガイド部材19、サセプタ31、及び内壁部材38を作製し、その評価を行なった。その結果を表2に示す。
【0067】
実施例1~21及び比較例1の製造条件を表1に示す。
【表1】
【0068】
実施例1~21及び比較例1の評価結果を表2に示す。
【表2】
【0069】
実施例1から実施例21までの結果および比較例1の結果を比較すると、炭化金属被覆膜中の塩素濃度を25000ppm・μm以下にすることによって、半導体単結晶の結晶成長およびエピタキシャル成長時の結晶多形の発生を抑制できることがわかった。
【0070】
実施例1から実施例5までの結果および比較例1の結果を比較すると、炭化タンタル被覆膜中の塩素濃度が25000ppm・μm以下の範囲である場合、炭化金属被覆炭素材料の製品寿命が長く、かつ半導体単結晶の結晶成長およびエピタキシャル成長時の結晶多形発生の抑制が見られた。なお、比較例1における炭化タンタル被覆炭素材料の繰り返し使用は、結晶多形が発生したため、炭化タンタル被覆炭素材料が炭化タンタル被覆膜の剥離等で使用不可になる前に、使用を中止している。
【0071】
実施例1、実施例6、実施例7の結果および実施例18の結果を比較すると、炭化タンタル被覆膜の膜厚が10μm以上100μm以下の場合、炭化金属被覆炭素材料の製品寿命が長く、かつ半導体単結晶の結晶成長およびエピタキシャル成長時の結晶多形発生の抑制が見られた。炭化タンタル被覆膜の膜厚が、10μm以下の場合、単結晶半導体の結晶成長およびエピタキシャル成長時の結晶多形の発生が確認された。なお、実施例18における炭化タンタル被覆炭素材料の繰り返し使用は、結晶多形が発生したため、炭化タンタル被覆炭素材料が炭化タンタル被覆膜の剥離等で使用不可になる前に、使用を中止している。また、炭化タンタル被覆膜の膜厚が100μmを超える場合、成膜時間が増加して、成膜コストが増えるため好ましくない。したがって、炭化タンタル被覆膜の膜厚は、10μm以上、100μm以下が好ましい。
【0072】
実施例1、実施例8、実施例9の結果および実施例19、実施例20の結果を比較すると、炭化金属被覆膜の表面の算術平均粗さRaが0.1μm以上、9.5μm以下または、炭素基材の表面の算術平均粗さRaが0.1μm以上、10.0μm以下である場合、炭化金属被覆炭素材料の製品寿命が長く、かつ半導体単結晶の結晶成長およびエピタキシャル成長時の結晶多形発生の抑制が見られた。炭素基材の表面の算術平均粗さRaが、10μmよりも大きい場合、炭化金属被覆炭素材料の製品寿命が低下し、半導体単結晶の結晶成長およびエピタキシャル成長時の結晶多形の発生が確認された。炭素基材表面の算術平均粗さRaが、0.1μmよりも小さい場合、炭化金属被覆炭素材料の製品寿命が低下した。
【0073】
実施例1、実施例10、実施例11の結果および実施例21の結果を比較すると、炭素基材の熱膨張係数が3.5×10-6/℃以上、8.2×10-6/℃以下の場合、炭化金属被覆炭素材料の製品寿命が長く、かつ半導体単結晶の結晶成長およびエピタキシャル成長時の結晶多形発生の抑制が見られた。炭素基材の熱膨張係数が3.5×10-6/℃よりも小さい場合、炭化金属被覆炭素材料の製品寿命が低下し、半導体単結晶の結晶成長およびエピタキシャル成長時の結晶多形の発生が確認された。
【0074】
実施例1、実施例12~16の結果を比較すると、炭素を主成分とした基材表面の少なくとも一部を、炭化タンタル、炭化ニオブ、炭化ジルコニウム、炭化ハフニウム、炭化タングステンのいずれか、または2種類以上を組み合わせた炭化金属を主成分とする炭化金属被覆膜で被覆した炭化金属被覆炭素材料であって、炭化金属被覆膜中の塩素濃度を25000ppm・μm以下の範囲である場合、炭化金属被覆炭素材料の製品寿命が長く、かつ半導体単結晶の結晶成長およびエピタキシャル成長時の結晶多形発生の抑制が見られた。