(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024143156
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】炭化タンタル被覆材料及び化合物半導体成長装置
(51)【国際特許分類】
C30B 29/36 20060101AFI20241003BHJP
C04B 41/87 20060101ALI20241003BHJP
C23C 16/32 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
C30B29/36
C04B41/87 U
C04B41/87 G
C23C16/32
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023055682
(22)【出願日】2023-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100207756
【弁理士】
【氏名又は名称】田口 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100135758
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 高志
(74)【代理人】
【識別番号】100154391
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 康義
(72)【発明者】
【氏名】宮島 直哉
(72)【発明者】
【氏名】平手 暁大
(72)【発明者】
【氏名】山村 和市
【テーマコード(参考)】
4G077
4K030
【Fターム(参考)】
4G077AA03
4G077AB10
4G077BE07
4G077DB05
4G077DB07
4G077ED06
4G077HA20
4K030AA03
4K030AA10
4K030BA17
4K030BA36
4K030CA05
4K030FA10
4K030GA02
(57)【要約】
【課題】高温腐食環境下における炭化タンタル被覆膜の剥離を抑制できる炭化タンタル被覆材料及びその炭化タンタル被覆材料を使用した化合物半導体成長装置を提供する。
【解決手段】本発明は、基材12と、基材12の少なくとも一部を被覆する炭化タンタル被覆膜11とを含む炭化タンタル被覆材料1であって、炭化タンタル被覆膜11の表面に存在するクラックの交点の単位面積あたりの数が25個/cm
2以下である。本発明の化合物半導体成長装置は、本発明の炭化タンタル被覆材料を使用する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、前記基材の少なくとも一部を被覆する炭化タンタル被覆膜とを含む炭化タンタル被覆材料であって、
前記炭化タンタル被覆膜の表面に存在するクラックの交点の単位面積あたりの数が25個/cm2以下である炭化タンタル被覆材料。
【請求項2】
前記炭化タンタル被覆膜の表面の粗さ曲線要素の平均長さRsmが10μm以下である請求項1に記載の炭化タンタル被覆材料。
【請求項3】
前記基材と前記炭化タンタル被覆膜との間の界面における粗さ曲線要素の平均長さRsmが0.1mm以上5.0mm以下である請求項1に記載の炭化タンタル被覆材料。
【請求項4】
前記基材が炭素を主成分とする炭素基材である請求項1に記載の炭化タンタル被覆材料。
【請求項5】
前記炭化タンタル被覆膜と前記基材との間の密着強度が5MPa以上である請求項1に記載の炭化タンタル被覆材料。
【請求項6】
前記基材の線形熱膨張率が3.5×10-6/℃以上7.5×10-6/℃以下である請求項1に記載の炭化タンタル被覆材料。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載の炭化タンタル被覆材料を使用した化合物半導体成長装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基材表面に炭化タンタル被覆膜を被覆した炭化タンタル被覆材料及びその炭化タンタル被覆材料を用いた化合物半導体成長装置に関する。
【背景技術】
【0002】
炭化タンタル、炭化ニオブ、炭化ジルコニウム、炭化ハフニウム、炭化タングステンなどの炭化物は、融点が高く、化学的安定性、強度、靭性および耐食性に優れている。このため、炭化物で炭素基材をコーティングすることにより、炭素基材の耐熱性、化学的安定性、強度、靭性、耐食性などの特性を改善することができる。炭素基材表面に炭化物膜を被覆した炭化物被覆炭素材料、特に炭化タンタル被覆炭素材料は、SiC(炭化ケイ素)、GaN(窒化ガリウム)、AlN(窒化アルミニウム)などの化合物半導体の化合物半導体成長装置の部材として用いられている。例えば、SiC単結晶の製造装置において、より高品質な結晶を得るために、特許文献1には、黒鉛基材の内面を炭化タンタルで被覆したルツボを用いることが開示されている。また、特許文献2には、SiC単結晶の製造装置において、内壁を炭化タンタルで被覆したガイド部材を用いることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2019-99453号公報
【特許文献2】特開2019-108611号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、化合物半導体には、従来のSi半導体に比べて製造コストが高いという課題である。この製造コストをより低減するためには、さらに耐食性を高めた高耐熱部材が求められている。例えば、SiC単結晶の製造環境は2000℃の温度を超える過酷な環境である。炭化タンタル被覆材料には、このような高温腐食環境下においても、炭化タンタル被覆膜の剥離が発生せず、炭化タンタル被覆材料の耐久性が高いことが求められている。
【0005】
そこで、本発明は、高温腐食環境下における炭化タンタル被覆膜の剥離を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、鋭意検討の結果、炭化タンタル被覆膜の表面に存在するクラックの交点の数が少ないほど、SiC単結晶製造において使用後の炭化タンタル被覆膜の剥離が発生しにくくなることを見出し、本発明を完成させた。本発明の要旨は、以下のとおりである。
[1]基材と、前記基材の少なくとも一部を被覆する炭化タンタル被覆膜とを含む炭化タンタル被覆材料であって、前記炭化タンタル被覆膜の表面に存在するクラックの交点の単位面積あたりの数が25個/cm2以下である炭化タンタル被覆材料。
[2]前記炭化タンタル被覆膜の表面の粗さ曲線要素の平均長さRsmが10μm以下である上記[1]又は[2]に記載の炭化タンタル被覆材料。
[3]前記基材と前記炭化タンタル被覆膜との間の界面における粗さ曲線要素の平均長さRsmが0.1mm以上5.0mm以下である上記[1]又は[2]に記載の炭化タンタル被覆材料。
[4]前記基材が炭素を主成分とする炭素基材である上記[1]~[3]のいずれか1つに記載の炭化タンタル被覆材料。
[5]前記炭化タンタル被覆膜と前記基材との間の密着強度が5MPa以上である上記[1]~[4]のいずれか1つに記載の炭化タンタル被覆材料。
[6]前記基材の線形熱膨張率が3.5×10-6/℃以上7.5×10-6/℃以下である上記[1]~[5]のいずれか1つに記載の炭化タンタル被覆材料。
[7]上記[1]~[6]のいずれか1つに記載の炭化タンタル被覆材料を使用した化合物半導体成長装置。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、高温腐食環境下における炭化タンタル被覆膜の剥離を抑制できる炭化タンタル被覆材料及びその炭化タンタル被覆材料を使用した化合物半導体成長装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、本実施形態に係る炭化タンタル被覆材料を例示する模式断面図である。
【
図2】
図2は、外熱型減圧CVD装置の概略図である。
【
図3】
図3(a)は、単位面積あたりに2本のクラックがあり、それらのクラックが交点をもつ場合の膜表面のイメージ図であり、
図3(b)は、
図3(a)のa-a’断面のイメージ図である。
【
図4】
図4(a)は、単位面積あたりに2本のクラックがあり、それらのクラックが交点をもたない場合の膜表面のイメージ図であり、
図4(b)は、
図4(a)のb-b’断面のイメージ図である。
【
図5】
図5は、SiC単結晶製造にて使用した後の、炭化タンタル被覆炭素材料の表面の走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。
【
図6】
図6は、炭化タンタル被覆膜と基材との間の密着強度の測定方法を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
図1を参照して、本発明の一実施形態の炭化タンタル被覆材料を説明する。
【0010】
[炭化タンタル被覆材料]
本発明の一実施形態の炭化タンタル被覆材料1は、基材12と、基材12の少なくとも一部を被覆する炭化タンタル被覆膜11とを含む。そして、炭化タンタル被覆膜11の表面に存在するクラックの交点の単位面積あたりの数が25個/cm2以下である。
【0011】
(基材)
本発明の一実施形態における炭化タンタル被覆材料1における基材12は、使用用途に適した基材であればその種類を限定しない。基材12には、例えば、等方性黒鉛、押出成形黒鉛、熱分解黒鉛、炭素繊維強化炭素複合材料(C/Cコンポジット)などの炭素材料を使用した、炭素を主成分とする炭素基材、タンタルなどの高融点金属材料を使用した高融点金属基材などが挙げられる。これらの中で、本発明の一実施形態における炭化タンタル被覆材料1における基材12は、炭素を主成分とする炭素基材であることが好ましい。基材の形状や特性は特に限定されず、用途などに応じて任意形状に加工したものを用いることができる。
【0012】
<線形熱膨張率>
基材12の線形熱膨張率は、好ましくは3.5×10-6/℃以上7.5×10-6/℃以下である。炭素基材12の線形熱膨張率が3.5×10-6/℃以上7.5×10-6/℃以下であると、炭化タンタル被覆材料1の表面におけるクラックの発生をさらに抑制することができる。このような観点から、炭素基材12の線形熱膨張率は、より好ましくは3.5×10-6/℃以上7.5×10-6/℃以下であり、さらに好ましくは5.6×10-6/℃以上7.5×10-6/℃以下である。なお、炭化タンタル被覆膜11の線形熱膨張率はおよそ6.3×10-6/℃である。基材の線形熱膨張率は、JIS R 1618に準拠して測定することができる。
【0013】
(炭化タンタル被覆膜)
炭化タンタル被覆膜11は、炭化タンタルを主成分とし、基材12を被覆する。なお、炭化タンタル被覆膜11は基材12の一部を被覆してもよいし、基材12の全部を被覆してもよい。
【0014】
<クラックの交点の数>
炭化タンタル被覆膜11の表面に存在するクラックの交点の単位面積あたりの数は25個/cm2以下である。炭化タンタル被覆膜11の表面に存在するクラックの交点の単位面積あたりの数が25個/cm2よりも多いと、高温腐食環境下において、炭化タンタル被覆膜11の表面に存在するクラックを通して発生する基材12の損傷が大きくなり、炭化タンタル被覆膜11が剥がれてしまう場合がある。このような観点から、炭化タンタル被覆膜11の表面に存在するクラックの交点の単位面積あたりの数は、好ましくは24.9個/cm2以下であり、より好ましくは23個/cm2以下であり、さらにましくは21.3個/cm2以下であり、よりさらに好ましくは13.4個/cm2以下であり、特に好ましくは6.8個/cm2以下である。なお、炭化タンタル被覆膜11の表面に存在するクラックの交点の単位面積あたりの数の範囲の下限値は0個/cm2である。なお、炭化タンタル被覆膜11の表面に存在するクラックの交点の単位面積あたりの数は、基材12の表面の粗さ曲線要素の平均長さRsm及び基材12の線形熱膨張率により調整することができる。
【0015】
炭化タンタル被覆膜11の表面に存在するクラックの交点の単位面積あたりの数が少ないと、炭化タンタル被覆膜11の剥離が抑制できることの理由を以下、説明する。なお、この説明は、本発明の炭化タンタル被覆材料を限定しない。
炭化タンタル被覆膜11の表面にクラックが存在する炭化タンタル被覆材料1を2000℃以上の高温腐食環境に曝すと、クラックを中心に基材12が損傷することが知られている(例えば、特開2022-87846号公報参照)。基材12の損傷した部分が大きくなると、基材12は、炭化タンタル被覆膜11を支持できなくなり、その結果、炭化タンタル被覆膜11は剥離することになる。クラックの交点の近傍では、2つのクラックにより基材12の損傷が大きくなるので、基材12の損傷が急激に大きくなる。その結果、炭化タンタル被覆膜11の剥離がさらに発生しやすくなる。なお、炭化タンタル被覆膜11の剥離が発生すると、基材12における炭化タンタル被覆膜11が剥離した部分の損傷が進行する。その結果、炭化タンタル被覆膜11の剥離がさらに進む。そして、炭化タンタル被覆材料は、炭化タンタル被覆膜11の剥離及び基材12の損傷という悪循環に陥ることになる。
したがって、炭化タンタル被覆膜11の表面に存在するクラックの交点の単位面積あたりの数が少ないと、2つのクラックによる基材の損傷の促進が抑制されるので、炭化タンタル被覆膜11の剥離が抑制される。
【0016】
ここで、炭化タンタル被覆膜11の表面に単位面積あたりに2本のクラックが存在する場合について、2本のクラックが交点を持つ場合(
図3参照)と交点を持たない場合(
図4参照)とを考える。それぞれの炭化タンタル被覆材料1を高温腐食環境下に曝した場合、クラック31付近から基材12が損傷するが、クラック31の交点がない場合に比べて、クラック31の交点30がある場合は、交点30付近で損傷32のサイズが大きくなることが予想される(
図3(b)及び
図4(b)参照)。このため、クラック交点30付近では、通常のクラック31付近よりも炭化タンタル被覆膜の剥離が起きやすくなる。
【0017】
図5は、実際、SiC単結晶成長環境にて使用した後の炭化タンタル被覆炭素材料表面を走査型電子顕微鏡(SEM)観察した画像であり、クラックの交点部分にて炭化タンタル被覆膜の剥離が起きていることを確認できる。したがって、炭化タンタル被覆膜11の表面に存在するクラックの交点の単位面積あたりの数が少ないと、すなわち、炭化タンタル被覆膜11の表面に存在するクラックの交点の単位面積あたりの数が25個/cm
2以下であると、炭化タンタル被覆材料を高温腐食環境に曝した際の炭化タンタル被覆膜の剥離が発生しにくくなる。
【0018】
炭化タンタル被覆膜11の表面に存在するクラックの交点の単位面積あたりの数は以下のようにして測定することができる。
炭化タンタル被覆材料に発生しているクラックは、肉眼で確認できるサイズではないため、次の2つの手法のいずれか、または両方によって、炭化タンタル被覆膜11の表面に存在するクラックの交点の単位面積あたりの数を測定する。
【0019】
(1)走査型電子顕微鏡(SEM)による測定
試料をSEMにて観察可能なサイズに加工し、その表面を観察する。この場合、1枚の画像から得られる情報は最大で約6mm2(=2mm×3mm)程度のため、1cm2分の範囲を観察するためには、約17枚の画像を取得する必要がある。また、局所的な観察による偏りを避けるため、十分に距離を置いた別の箇所において約17枚の画像を取得する必要がある。この作業を10回繰り返し、合計170枚以上の画像を取得し、この合計170枚以上の画像から、クラックの交点の数を数え、クラックの交点の数を、取得した合計170枚以上の画像により観察した部分の面積で割り算して得られた値が、炭化タンタル被覆膜11の表面に存在するクラックの交点の単位面積あたりの数(個/cm2)となる。
【0020】
(2)探傷剤を用いた測定
試料の形状によってはSEM観察のために加工が必要で、この加工の際に炭化タンタル被覆膜の表面にクラックが入ってしまう可能性がある。この可能性を排除するため、μmオーダーのクラックを検知可能な大きさとする探傷剤によってクラックを可視化させ、目視もしくは光学顕微鏡を使用して、1cm2当たりのクラックの交点の数を測定してもよい。
【0021】
<粗さ曲線要素の平均長さRsm>
炭化タンタル被覆膜11の表面の粗さ曲線要素の平均長さRsmは、好ましくは10μm以下である。炭化タンタル被覆膜11の表面の粗さ曲線要素の平均長さRsmが10μm以下であると、炭化タンタル被覆膜11の表面に、大気中の粉塵などが付着することを抑制することができる。このような観点から、炭化タンタル被覆膜11の表面の粗さ曲線要素の平均長さRsmは、より好ましくは9.8μm以下であり、さらに好ましくは6.5μm以下である。炭化タンタル被覆膜11の表面の粗さ曲線要素の平均長さRsmの範囲の下限値は、特に限定されないが、通常1.1μmである。
【0022】
基材12と炭化タンタル被覆膜11との間の界面における粗さ曲線要素の平均長さRsmは、好ましくは0.1mm以上5.0mm以下である。基材12と炭化タンタル被覆膜11と間の界面における粗さ曲線要素の平均長さRsmが0.1mm以上5.0mm以下であると、基材12と炭化タンタル被覆膜11と間の密着強度をさらに高くすることができる。また、基材12と炭化タンタル被覆膜11との間の界面における粗さ曲線要素の平均長さRsmが0.1mm以上5.0mm以下であると、炭化タンタル被覆膜11の表面に存在するクラックの交点の単位面積あたりの数をさらに少なくすることができる。このような観点から、基材12と炭化タンタル被覆膜11との間の界面における粗さ曲線要素の平均長さRsmは、より好ましくは0.5mm以上5.0mm以下であり、さらに好ましくは1.0mm以上5.0mm以下であり、よりさらに好ましくは2.0mm以上5.0mm以下である。なお、基材12と炭化タンタル被覆膜11との間の界面における粗さ曲線要素の平均長さRsmは、基材12の表面の粗さ曲線要素の平均長さRsmと同じ値である。したがって、基材12の表面の粗さ曲線要素の平均長さRsmを上記範囲内にすることにより、基材12と炭化タンタル被覆膜11との間の界面における粗さ曲線要素の平均長さRsmを上記範囲内にすることができる。基材12の表面の粗さ曲線要素の平均長さRsmは、意図的に生み出すパターンに起因するものでもよく、機械加工時の切削工具の跡に起因するものでもよい。
【0023】
粗さ曲線要素の平均長さRSmは、市販の表面粗さ計による測定や破壊断面の顕微鏡画像によって測定することができ、JIS B0601:2013およびISO 4287:1997に規定されている粗さ曲線要素の平均長さである。粗さ曲線要素の平均長さRSmは、断面輪郭曲線のうち、i番目の山部からi+1番目の山部までの距離xiと、山の間隔数mを使って、下記の式で表される。
Rsm=(1/m)×Σxi (i=1~m)
また、山と判断する最小高さは、断面輪郭曲線の平均高さRzの10%である。
粗さ曲線要素の平均長さRsmの値が大きいほど周期間隔の大きい粗さが形成しているといえ、粗さ曲線要素の平均長さRsmの値が小さいほど周期間隔の小さい粗さが形成しているといえる。
【0024】
炭化タンタル被覆膜11と基材12との間の密着強度は、好ましくは5MPa以上である。炭化タンタル被覆膜11と基材12との間の密着強度が5MPa以上であると、高温腐食環境下における炭化タンタル被覆膜の剥離をさらに抑制することができる。このような観点から、炭化タンタル被覆膜11と基材12との間の密着強度は、より好ましくは5.1MPa以上であり、さらに好ましくは6.5MPa以上である。炭化タンタル被覆膜11と基材12との間の密着強度の範囲の上限値は、特に限定されないが、通常18.5MPaである。
【0025】
炭化タンタル被覆膜11と基材12との間の密着強度は、例えば、薄膜密着強度測定機(Quad Group社製、商品名「Romulus」)を用いて、
図6に示すように、炭化タンタル被覆膜11とピン46とを接着剤45で接着し、押さえ治具44で押さえつけてピン46を引っ張って、炭化タンタル被覆膜41が剥がれたときの応力を測定した。5回の測定を行い、5回の算出平均値を密着強度とする。
【0026】
<炭化タンタル被覆材料の製造方法>
本発明の一実施形態の炭化タンタル被覆材料は、基材の表面に炭化タンタル被覆膜を形成することによって、作製することができる。炭化タンタル被覆膜は、例えば、化学気相堆積(CVD)法、焼結法、炭化法などの方法により基材の表面に形成することができる。なかでも、CVD法は均一で緻密な膜を形成することができるため、炭化タンタル層の形成方法として好ましい。
【0027】
さらに、CVD法には、熱CVD法や、光CVD法、プラズマCVD法などがあり、炭化タンタル被覆膜の形成に、例えば熱CVD法を用いることができる。熱CVD法は、装置構成が比較的簡易で、プラズマによる損傷がないなどの利点がある。熱CVD法による炭化タンタル被覆膜の形成は、例えば、
図2に示すような外熱型減圧CVD装置20を用いて行うことができる。外熱型減圧CVD装置20では、ヒーター21、原料供給部22、排気部23などを備えた反応室24内で、基材12は支持手段25によって支持される。
【0028】
本発明の一実施形態に係る炭化タンタル被覆材料の製造方法を、
図1および
図2を参照して説明する。
先ず、基材12を外熱型減圧CVD装置20の反応室24内に載置する。基材12は、先端が尖った形状の支持部を有する支持手段25によって支持される。
次に、ヒーター21の加熱を行う。例えば、減圧下および温度1000~2500℃の条件でヒーター21を加熱する。
次に、基材12の表面で炭化タンタル被覆膜を形成する。原料ガスとして、原料供給部22からメタン(CH
4)のような炭素原子を含む化合物のガスと、五塩化タンタル(TaCl
5)のようなハロゲン化タンタルガスとを反応室24へ供給する。続いて、原料供給部22から供給される原料ガスを1000~2500℃の高温減圧下で熱CVD反応させ、基材12表面上に炭化タンタル被覆膜を形成する。
【0029】
本発明の一実施形態の炭化タンタル被覆材料は、本発明の炭化タンタル被覆材料の一例に過ぎないので、本発明の一実施形態の炭化タンタル被覆材料は、本発明の炭化タンタル被覆材料を限定しない。
【0030】
[化合物半導体成長装置]
本発明の化合物半導体成長装置は、本発明の炭化タンタル被覆材料を使用したものである。本発明の炭化タンタル被覆材料は、SiC(炭化ケイ素)、GaN(窒化ガリウム)、AlN(窒化アルミニウム)などの化合物半導体の化合物半導体成長装置の部材として用いられている。
【実施例0031】
以下、実施例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0032】
以下のようにして実施例1~17および比較例1~6の炭化タンタル被覆炭素材料を作製した。
【0033】
(実施例1)
基材12として、線形熱膨張率が3.5×10
-6/℃であり、表面の粗さ曲線要素の平均長さRsmが4.3mmの等方性炭素材料を2つ用意した。線形熱膨張率は、同種の炭素材料サンプルを熱機械分析装置(株式会社日立ハイテクサイエンス製、商品名「TMA7300」)にて測定した。基材12の表面の粗さ曲線要素の平均長さRsmは、表面粗さ計(株式会社ミツトヨ製、商品名「SJ201」)にて測定した。
次に、
図2に示す外熱型減圧CVD装置20の反応室内に、基材12を載置した。基材12は先端が尖った形状の支持部を3つ有する支持手段25によって支持された。
次に、反応室24を温度1500℃に加熱した後、TaCl
5ガス、CH
4ガスおよびArガスを混合して、得られた混合ガスを反応室24へ供給し、炭素基材12の表面に炭化タンタル被覆膜を形成し、実施例1の炭化タンタル被覆炭素材料を作製した。なお、マスフローコントローラーによりCH
4ガスおよびキャリアガス(Ar)の流量を、それぞれ、1.0SLMおよび1.0SLMになるように制御した。
【0034】
作製した2つの炭化タンタル被覆炭素材料のうち、1つは後述する各種の測定に用い、もう1つはSiC単結晶製造に使用し、炭化タンタル被覆膜の剥離が肉眼にて確認できるまでの使用回数を数えた。
【0035】
作製した1つの炭化タンタル被覆炭素材料の、炭化タンタル被覆膜の表面に存在するクラックの交点の単位面積あたりの数、炭化タンタル被覆膜の表面の粗さ曲線要素の平均長さRsm、及び炭化タンタル被覆膜と基材との間の密着強度を測定した。炭化タンタル被覆膜の表面に存在するクラックの交点の単位面積あたりの数の測定方法は前述の通りで、SEM(株式会社キーエンス製、商品名「VE8800」)、探傷剤(株式会社イチネンケミカルズ製ミクロチェック洗浄液、ミクロチェック浸透液、ミクロチェック現像液)を使用した。炭化タンタル被覆膜の表面粗さは、表面粗さ計(株式会社ミツトヨ製、商品名「SJ201」)にて測定した。基材12―炭化タンタル被覆膜11間の密着強度は、薄膜密着強度測定機(Quad Group社製、商品名「Romulus」)にて測定した。
【0036】
(実施例2)
基材12として熱膨張率が4.2×10-6/℃であり、表面の粗さ曲線要素の平均長さRsmが4.2mmである等方性炭素材料を2つ用意した。これに対し、実施例1と同様の操作を施した。
【0037】
(実施例3)
基材12として熱膨張率が4.5×10-6/℃であり、表面の粗さ曲線要素の平均長さRsmが4.6mmである等方性炭素材料を2つ用意した。これに対し、実施例1と同様の操作を施した。
【0038】
(実施例4)
基材12として熱膨張率が5.1×10-6/℃であり、表面の粗さ曲線要素の平均長さRsmが4.1mmである等方性炭素材料を2つ用意した。これに対し、実施例1と同様の操作を施した。
【0039】
(実施例5)
基材12として熱膨張率が5.6×10-6/℃であり、表面の粗さ曲線要素の平均長さRsmが4.5mmである等方性炭素材料を2つ用意した。これに対し、実施例1と同様の操作を施した。
【0040】
(実施例6)
基材12として熱膨張率が6.0×10-6/℃であり、表面の粗さ曲線要素の平均長さRsmが4.4mmである等方性炭素材料を2つ用意した。これに対し、実施例1と同様の操作を施した。
【0041】
(実施例7)
基材12として熱膨張率が6.4×10-6/℃であり、表面の粗さ曲線要素の平均長さRsmが4.4mmである等方性炭素材料を2つ用意した。これに対し、実施例1と同様の操作を施した。
【0042】
(実施例8)
基材12として熱膨張率が6.9×10-6/℃であり、表面の粗さ曲線要素の平均長さRsmが4.3mmである等方性炭素材料を2つ用意した。これに対し、実施例1と同様の操作を施した。
【0043】
(実施例9)
基材12として熱膨張率が7.5×10-6/℃であり、表面の粗さ曲線要素の平均長さRsmが4.2mmである等方性炭素材料を2つ用意した。これに対し、実施例1と同様の操作を施した。
【0044】
(実施例10)
基材12として、線形熱膨張率が4.2×10-6/℃であり、表面の粗さ曲線要素の平均長さRsmが0.1mmである等方性炭素材料を2つ用意した。これに対し、実施例1と同様の操作を施した。
【0045】
(実施例11)
基材12として、線形熱膨張率が4.2×10-6/℃であり、表面の粗さ曲線要素の平均長さRsmが0.9mmである等方性炭素材料を2つ用意した。これに対し、実施例1と同様の操作を施した。
【0046】
(実施例12)
基材12として、線形熱膨張率が4.2×10-6/℃であり、表面の粗さ曲線要素の平均長さRsmが2.1mmである等方性炭素材料を2つ用意した。これに対し、実施例1と同様の操作を施した。
【0047】
(実施例13)
基材12として、線形熱膨張率が4.2×10-6/℃であり、表面の粗さ曲線要素の平均長さRsmが3.5mmである等方性炭素材料を2つ用意した。これに対し、実施例1と同様の操作を施した。
【0048】
(実施例14)
基材12として、線形熱膨張率が4.2×10-6/℃であり、表面の粗さ曲線要素の平均長さRsmが5.0mmである等方性炭素材料を2つ用意した。これに対し、実施例1と同様の操作を施した。
【0049】
(実施例15)
基材12として、線形熱膨張率が6.4×10-6/℃であり、表面の粗さ曲線要素の平均長さRsmが0.04mmである等方性炭素材料を2つ用意した。これに対し、実施例1と同様の操作を施した。
【0050】
(実施例16)
基材12として、線形熱膨張率が6.9×10-6/℃であり、表面の粗さ曲線要素の平均長さRsmが0.02mmである等方性炭素材料を2つ用意した。これに対し、実施例1と同様の操作を施した。
【0051】
(実施例17)
基材12として、線形熱膨張率が7.5×10-6/℃であり、表面の粗さ曲線要素の平均長さRsmが0.06mmである等方性炭素材料を2つ用意した。これに対し、実施例1と同様の操作を施した。
【0052】
(比較例1)
基材12として、線形熱膨張率が3.5×10-6/℃であり、表面の粗さ曲線要素の平均長さRsmが0.04mmである等方性炭素材料を2つ用意した。これに対し、実施例1と同様の操作を施した。
【0053】
(比較例2)
基材12として、線形熱膨張率が4.2×10-6/℃であり、表面の粗さ曲線要素の平均長さRsmが0.06mmである等方性炭素材料を2つ用意した。これに対し、実施例1と同様の操作を施した。
【0054】
(比較例3)
基材12として、線形熱膨張率が4.5×10-6/℃であり、表面の粗さ曲線要素の平均長さRsmが0.03mmの等方性炭素材料を2つ用意した。これに対し、実施例1と同様の操作を施した。
【0055】
(比較例4)
基材12として、線形熱膨張率が5.1×10-6/℃であり、表面の粗さ曲線要素の平均長さRsmが0.03mmである等方性炭素材料を2つ用意した。これに対し、実施例1と同様の操作を施した。
【0056】
(比較例5)
基材12として、線形熱膨張率が5.6×10-6/℃であり、表面の粗さ曲線要素の平均長さRsmが0.06mmである等方性炭素材料を2つ用意した。これに対し、実施例1と同様の操作を施した。
【0057】
(比較例6)
基材12として、線形熱膨張率が6.0×10-6/℃であり、表面の粗さ曲線要素の平均長さRsmが0.07mmである等方性炭素材料を2つ用意した。これに対し、実施例1と同様の操作を施した。
【0058】
実施例1~17及び比較例1~6の評価結果を表1に示す。
【表1】
【0059】
<評価結果1>
実施例1~17および比較例1~6を比較する。炭化タンタル被覆膜の表面に存在するクラックの交点の単位面積あたりの数が25個/cm2以下である場合は、炭化タンタル被覆膜の表面に存在するクラックの交点の単位面積あたりの数が25個/cm2よりも多い場合に比べて、SiC単結晶成長環境において、炭化タンタル被覆材料の炭化タンタル被覆膜が剥離するまでの使用回数が多い。
このことから、炭化タンタル被覆膜の表面に存在するクラックの交点の単位面積あたりの数が25個/cm2以下であると、炭化タンタル被覆膜の剥離が発生しにくくなることが分かる。
【0060】
<評価結果2>
実施例1~14と、実施例15~17及び比較例1~6とを比較すると、炭化タンタル被覆膜の表面の粗さ曲線要素の平均長さRsmが10μm以下である場合は、炭化タンタル被覆膜の表面の粗さ曲線要素の平均長さRsmが10μmより大きい場合に比べて、SiC単結晶成長環境において、炭化タンタル被覆材料の炭化タンタル被覆膜が剥離するまでの使用回数が多い。
このことから、炭化タンタル被覆膜の表面の粗さ曲線要素の平均長さRsmが10μm以下であると、炭化タンタル被覆膜の剥離がさらに発生しにくくなることが分かる。
【0061】
<評価結果3>
実施例2、実施例10~14および比較例2に関して、線形熱膨張率が4.2×10-6/℃の炭素材料を基材12として使用した場合について比較する。基材の表面の粗さ曲線要素の平均長さRsmが0.1mm以上5mm以下である場合(実施例2、実施例10~14)は、基材の表面の粗さ曲線要素の平均長さRsmが0.06mmである場合(比較例2)に比べて、炭化タンタル被覆膜の表面に存在するクラックの交点の単位面積あたりの数が少なく、炭化タンタル被覆膜の剥離が起きるまでの使用回数が多い。
したがって、基材の表面の粗さ曲線要素の平均長さRsmが0.1mm以上5mm以下である場合が好ましいことが分かる。
【0062】
<評価結果4>
実施例1と比較例1、実施例2と比較例2、実施例3と比較例3、実施例4と比較例4、実施例5と比較例5、実施例6と比較例6、実施例7と実施例15、実施例8と実施例16、実施例9と実施例17を比較する。同じ線形熱膨張率である炭素材料を使用した場合、炭素材料の表面の粗さ曲線要素の平均長さRsmが0.1mm以上5mm以下である場合は、炭素材料の表面の粗さ曲線要素の平均長さRsmが0.1mm未満である場合と比べて、炭化タンタル被覆膜の表面に存在するクラックの交点の単位面積あたりの数が少なく、密着強度が5MPa以上と大きく、炭化タンタル被覆膜の剥離が起きるまでの使用回数が多い。
したがって、基材の表面の粗さ曲線要素の平均長さRsmが0.1mm以上5mm以下である場合が好ましいことが分かる。よって、基材と炭化タンタル被覆膜との間の界面における粗さ曲線要素の平均長さRsmが0.1mm以上5.0mm以下である場合が好ましいことが分かる。