(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024143251
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】粉末床溶融結合法用樹脂組成物、成形体および成形体の製造方法
(51)【国際特許分類】
B29C 64/314 20170101AFI20241003BHJP
C08L 23/10 20060101ALI20241003BHJP
C08L 21/00 20060101ALI20241003BHJP
C08L 23/12 20060101ALI20241003BHJP
C08K 3/013 20180101ALI20241003BHJP
B33Y 70/00 20200101ALI20241003BHJP
B33Y 80/00 20150101ALI20241003BHJP
B29C 64/153 20170101ALI20241003BHJP
【FI】
B29C64/314
C08L23/10
C08L21/00
C08L23/12
C08K3/013
B33Y70/00
B33Y80/00
B29C64/153
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023055828
(22)【出願日】2023-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】596133485
【氏名又は名称】日本ポリプロ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100144967
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 隆之
(72)【発明者】
【氏名】山末 奈央
(72)【発明者】
【氏名】北浦 快人
(72)【発明者】
【氏名】坂下 和毅
【テーマコード(参考)】
4F213
4J002
【Fターム(参考)】
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(57)【要約】
【課題】剛性と耐衝撃性のバランスに優れた成形体を得ることができ、粉砕性、散布性に優れた粉末床溶融結合法用樹脂組成物を提供する。
【解決手段】下記の要件(A-i)~(A-iii)を満たすプロピレン系重合体(A)100重量部に対して熱可塑性エラストマー(B)を10~250重量部およびフィラー(C)を10~150重量部含有する粉末床溶融結合法用樹脂組成物。
要件(A-i):230℃のメルトフローレート(230℃、2.16kg荷重)が0.1~30g/10分である。
要件(A-ii):プロピレン単独重合体部(a1)50~95重量%とプロピレン・α-オレフィン共重合体部(a2)5~50重量%とからなる。
要件(A-iii):前記共重合体部(a2)が、プロピレン単位含有率30~80重量%とα-オレフィン単位含有率20~70重量%との共重合体部である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の要件(A-i)~(A-iii)を満たすプロピレン系重合体(A)100重量部に対して熱可塑性エラストマー(B)を10~250重量部およびフィラー(C)を10~150重量部含有することを特徴とする粉末床溶融結合法用樹脂組成物。
要件(A-i):230℃のメルトフローレート(230℃、2.16kg荷重)が0.1~30g/10分である。
要件(A-ii):プロピレン単独重合体部(a1)50~95重量%とプロピレン・α-オレフィン共重合体部(a2)5~50重量%とからなる。
要件(A-iii):前記共重合体部(a2)が、プロピレン単位含有率30~80重量%とα-オレフィン単位含有率20~70重量%との共重合体部である。
【請求項2】
下記の要件(I)を満たすことを特徴とする、請求項1に記載の粉末床溶融結合法用樹脂組成物。
要件(I):示差走査型熱量測定において、1次昇温において観測される融解ピーク温度(Tm)が150~170℃、かつ、1次降温において観測される結晶化熱量の総量(ΔH)が30~80J/gである。ただし、示差走査型熱量測定は、23℃から10℃/分の速度で200℃まで昇温し、これを1次昇温とし、次いで200℃で5分間保持し、その後10℃/分の速度で40℃まで降温し、これを1次降温とするものとする。
【請求項3】
前記粉末床溶融結合法用樹脂組成物を、下記の要件(II)を満たす粉末として含むことを特徴とする、請求項1に記載の粉末床溶融結合法用樹脂組成物。
要件(II):該粉末のメディアン径D50が、レーザー回折により測定して、5~250μmである。
【請求項4】
前記熱可塑性エラストマー(B)が、下記の要件(B-i)および(B-ii)を満たすことを特徴とする、請求項1に記載の粉末床溶融結合法用樹脂組成物。
要件(B-i):230℃のメルトフローレート(230℃、2.16kg荷重)が0.1~20g/10分である。
要件(B-ii):密度が0.855~0.905g/cm3である。
【請求項5】
前記フィラー(C)が、下記の要件(C-i)を満たすことを特徴とする、請求項1に記載の粉末床溶融結合法用樹脂組成物。
要件(C-i):メディアン径D50が、JIS R1629に従ってレーザー回折法により測定して、1~160μmである。
【請求項6】
前記プロピレン系重合体(A)100重量部に対してさらに造核剤(D)を0.01~2.50重量部含有することを特徴とする、請求項1に記載の粉末床溶融結合法用樹脂組成物。
【請求項7】
前記プロピレン系重合体(A)、前記熱可塑性エラストマー(B)および前記フィラー(C)の溶融混練樹脂組成物であることを特徴とする、請求項1に記載の粉末床溶融結合用樹脂組成物。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載の粉末床溶融結合法用樹脂組成物を用いて粉末床溶融結合法によって得られる成形体。
【請求項9】
下記の要件(A-i)~(A-iii)を満たすプロピレン系重合体(A)100重量部に対して熱可塑性エラストマー(B)を10~250重量部およびフィラー(C)を10~150重量部含有する粉末床溶融結合法用樹脂組成物を用いて、粉末床溶融結合法により3次元に造形する工程を含むことを特徴とする成形体の製造方法。
要件(A-i):230℃のメルトフローレート(230℃、2.16kg荷重)が0.1~30g/10分である。
要件(A-ii):プロピレン単独重合体部(a1)50~95重量%とプロピレン・α-オレフィン共重合体部(a2)5~50重量%とからなる。
要件(A-iii):前記共重合体部(a2)が、プロピレン単位含有率30~80重量%とα-オレフィン単位含有率20~70重量%との共重合体部である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は粉末床溶融結合法用樹脂組成物に関し、詳しくは、特定のプロピレン系重合体(A)と熱可塑性エラストマー(B)とフィラー(C)とを含有する粉末床溶融結合法用樹脂組成物に関する。本発明はまた、この粉末床溶融結合法用樹脂組成物を用いた成形体とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、樹脂の成形加工法として、射出成形、フィルム成形、ブロー成形、シート成形、熱成形などが行われてきたが、近年、より複雑な形状の立体造形物の成形加工法として3Dプリンターが注目されている。3Dプリンターには種々の方式が存在しており、例えば、樹脂フィラメントを熱溶融して堆積させる材料押出(MEX:Material Extrusion)法、インクジェットヘッドから吐出した樹脂を紫外線により硬化させるマテリアルジェッティング法、レーザーによる光硬化性樹脂溶液の硬化層を積層させる液槽光重合(VP:Vat PhotoPolymerization)法および粉体材料の堆積層をレーザーにより焼結する粉末床溶融結合(PBF:Powder Bed Fusion)法があるが、いずれの方式でも射出成形と比べると得られる成形体の剛性と耐衝撃性が低いことが知られている。
【0003】
従来、この問題を解決するものとして、特許文献1には、二酸化ケイ素を主成分に含む充填材を含むことで立体造形物の強度を向上させることができる立体造形用粉末が提案されている。
また、特許文献2には、オレフィン熱可塑性エラストマーを含むことで高い耐衝撃性を有する3D印刷可能な粉末が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2020-93515号公報
【特許文献2】国際公開第2022/023195号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、従来の技術の現状に鑑み、剛性と耐衝撃性のバランスに優れた成形体を得ることができ、さらに、粉末状に加工しやすいといった粉砕性に優れ、粉末加工後は粉末床溶融結合法により成形体を造形する際の粉末の散布性に優れる粉末床溶融結合法用樹脂組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記の課題を解決するため鋭意研究を重ねた結果、特定のプロピレン系重合体(A)と熱可塑性エラストマー(B)とフィラー(C)とを所定の割合で含有する樹脂組成物が、上記の課題を解決できることを見出し、これらの知見に基づき、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明の要旨は以下のとおりである。
【0008】
[1] 下記の要件(A-i)~(A-iii)を満たすプロピレン系重合体(A)100重量部に対して熱可塑性エラストマー(B)を10~250重量部およびフィラー(C)を10~150重量部含有することを特徴とする粉末床溶融結合法用樹脂組成物。
要件(A-i):230℃のメルトフローレート(230℃、2.16kg荷重)が0.1~30g/10分である。
要件(A-ii):プロピレン単独重合体部(a1)50~95重量%とプロピレン・α-オレフィン共重合体部(a2)5~50重量%とからなる。
要件(A-iii):前記共重合体部(a2)が、プロピレン単位含有率30~80重量%とα-オレフィン単位含有率20~70重量%との共重合体部である。
【0009】
[2] 下記の要件(I)を満たすことを特徴とする、[1]に記載の粉末床溶融結合法用樹脂組成物。
要件(I):示差走査型熱量測定において、1次昇温において観測される融解ピーク温度(Tm)が150~170℃、かつ、1次降温において観測される結晶化熱量の総量(ΔH)が30~80J/gである。ただし、示差走査型熱量測定は、23℃から10℃/分の速度で200℃まで昇温し、これを1次昇温とし、次いで200℃で5分間保持し、その後10℃/分の速度で40℃まで降温し、これを1次降温とするものとする。
【0010】
[3] 前記粉末床溶融結合法用樹脂組成物を、下記の要件(II)を満たす粉末として含むことを特徴とする、[1]又は[2]に記載の粉末床溶融結合法用樹脂組成物。
要件(II):該粉末のメディアン径D50が、レーザー回折により測定して、5~250μmである。
【0011】
[4] 前記熱可塑性エラストマー(B)が、下記の要件(B-i)および(B-ii)を満たすことを特徴とする、[1]~[3]のいずれかに記載の粉末床溶融結合法用樹脂組成物。
要件(B-i):230℃のメルトフローレート(230℃、2.16kg荷重)が0.1~20g/10分である。
要件(B-ii):密度が0.855~0.905g/cm3である。
【0012】
[5] 前記フィラー(C)が、下記の要件(C-i)を満たすことを特徴とする、[1]~[4]のいずれかに記載の粉末床溶融結合法用樹脂組成物。
要件(C-i):メディアン径D50が、JIS R1629に従ってレーザー回折法により測定して、1~160μmである。
【0013】
[6] 前記プロピレン系重合体(A)100重量部に対してさらに造核剤(D)を0.01~2.50重量部含有することを特徴とする、[1]~[5]のいずれかに記載の粉末床溶融結合法用樹脂組成物。
【0014】
[7] 前記プロピレン系重合体(A)、前記熱可塑性エラストマー(B)および前記フィラー(C)の溶融混練樹脂組成物であることを特徴とする、[1]~[6]のいずれかに記載の粉末床溶融結合用樹脂組成物。
【0015】
[8] [1]~[7]のいずれかに記載の粉末床溶融結合法用樹脂組成物を用いて粉末床溶融結合法によって得られる成形体。
【0016】
[9] 下記の要件(A-i)~(A-iii)を満たすプロピレン系重合体(A)100重量部に対して熱可塑性エラストマー(B)を10~250重量部およびフィラー(C)を10~150重量部含有する粉末床溶融結合法用樹脂組成物を用いて、粉末床溶融結合法により3次元に造形する工程を含むことを特徴とする成形体の製造方法。
要件(A-i):230℃のメルトフローレート(230℃、2.16kg荷重)が0.1~30g/10分である。
要件(A-ii):プロピレン単独重合体部(a1)50~95重量%とプロピレン・α-オレフィン共重合体部(a2)5~50重量%とからなる。
要件(A-iii):前記共重合体部(a2)が、プロピレン単位含有率30~80重量%とα-オレフィン単位含有率20~70重量%との共重合体部である。
【発明の効果】
【0017】
本発明の粉末床溶融結合法用樹脂組成物によれば、剛性と耐衝撃性のバランスに優れた成形体を製造することができる。このため、本発明の粉末床溶融結合法用樹脂組成物は、その用途として、特に制限はなく目的に応じて適宜選択することができ、例えば食品容器、化粧品容器、医療部品、自動車部品、搬送用トレー、家具などの立体造形等、幅広い用途に用いることができる。
さらに、本発明の粉末床溶融結合法用樹脂組成物は、粉末状に加工しやすく、粉末加工後は粉末床溶融結合法により成形体を造形する際の、粉末の散布性に優れ、粉末床溶融結合法による成形体の造形に好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「本実施形態」という。)について詳細に説明する。以下の本実施形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明を以下の内容に限定する趣旨ではない。本発明は、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0019】
[粉末床溶融結合法用樹脂組成物]
本発明の粉末床溶融結合法用樹脂組成物(以下、「本発明の樹脂組成物」と称す場合がある。)は、下記の要件(A-i)~(A-iii)を満たすプロピレン系重合体(A)100重量部に対して熱可塑性エラストマー(B)を10~250重量部およびフィラー(C)を10~150重量部含有することを特徴とする。
要件(A-i):230℃のメルトフローレート(230℃、2.16kg荷重)が0.1~30g/10分である。
要件(A-ii):プロピレン単独重合体部(a1)50~95重量%とプロピレン・α-オレフィン共重合体部(a2)5~50重量%とからなる。
要件(A-iii):前記共重合体部(a2)が、プロピレン単位含有率30~80重量%とα-オレフィン単位含有率20~70重量%との共重合体部である。
【0020】
<樹脂組成物の物性>
本発明の樹脂組成物は、好ましくは下記の要件(I)を満たすものである。
要件(I):示差走査型熱量測定において、1次昇温において観測される融解ピーク温度(Tm)が150~170℃、かつ、1次降温において観測される結晶化熱量の総量(ΔH)が30~80J/gである。ただし、示差走査熱量測定は、23℃から10℃/分の速度で200℃まで昇温し、これを1次昇温とし、次いで200℃で5分間保持し、その後10℃/分の速度で40℃まで降温し、これを1次降温とするものとする。
【0021】
上記融解ピーク温度(Tm)は150~170℃が好ましく、より好ましくは152~168℃、さらに好ましくは155~165℃である。
融解ピーク温度(Tm)が150℃未満であると、当該樹脂組成物の剛性が十分得られない恐れがある。また、融解ピーク温度(Tm)が170℃より高いと、該樹脂組成物を用いて造形される成形体の耐衝撃性が十分得られない恐れがある。
また、上記結晶化熱量の総量(ΔH)は30~80J/gが好ましく、より好ましくは40~75J/g、さらに好ましくは50~70J/gである。
結晶化熱量の総量(ΔH)が30J/g未満であると、当該樹脂組成物を用いた粉末床溶融結合法による成形体の剛性が十分得られない恐れがある。また、結晶化熱量の総量(ΔH)が80J/gより大きいと、当該樹脂組成物を用いて、粉末床溶融結合法により3次元に成形体を造形する工程において、成形体に反りなどの変形を生じる恐れがある。
【0022】
また、本発明の樹脂組成物のメルトフローレート(以下MFRと略記することがある)(230℃、2.16kg荷重)は該樹脂組成物を用いて造形される成形体の強度や、密度や寸法精度といった造形性の観点から0.1~30g/10分であることが好ましく、1~15g/10分であることがより好ましく、3~8g/10分であることがさらに好ましい。
MFRが0.1g/10分未満であると、樹脂組成物製造時の溶融混練の際、混練装置への負荷が高くなる恐れがある。また、MFRが30g/10分より大きいと、粉末床溶融結合法により成形体を造形する際に形状が崩れる恐れがある。
ここで、樹脂組成物のMFRは、JIS K7210:1999「プラスチック-熱可塑性プラスチックのメルトマスフローレイト(MFR)およびメルトボリュームフローレイト(MVR)の試験方法」のA法、条件M(230℃、2.16kg荷重)に準拠して測定した値である。
【0023】
<樹脂組成物の形状>
本発明の樹脂組成物は、好ましくは下記の要件(II)を満たす粉末であることが好ましい。
要件(II):該粉末のメディアン径D50が、レーザー回折により測定して、5~250μmである。
該粉末メディアン径D50は、レーザー回折により測定して、5~250μmが好ましく、より好ましくは30~250μm、さらに好ましくは40~150μm、特に好ましくは50~100μmである。
メディアン径D50が5μm未満であると、粉末の製造時間が長くなり、本発明の樹脂組成物の粉末の生産性が低下する恐れがある。また、メディアン径D50が250μmより大きいと、粉末床溶融結合法により成形体を造形する際に、微細な構造の成形体の作製、および/又は、散布性などの造形時の粉末の取り扱いが困難となる恐れがある。
【0024】
上記D50は、後述する手法にて、レーザー回折・散乱技術を用いた粒子径測定装置により検出された粒度分布のうち、粉末の度数分布50%に位置する粒径を、D50としている。具体的な測定方法は後掲の実施例の項に記載の通りである。
【0025】
<粉末の製造方法>
本発明の樹脂組成物の粉末を製造するための粉末化手段としては、融点付近で溶融させた本発明の樹脂組成物を繊維状にした後切断する溶融造粒や、本発明の樹脂組成物に衝撃やせん断を加えることにより切断または破壊する粉砕がある。粉末床溶融結合法における粉末の塗布性向上のため、10μm前後の微粉末を含まないことや一定の粒子径および粒度分布を有することが好ましいことから、このような好適形状の粉末が得られるように、好適な粉末化手段を選択することが好ましい。
【0026】
粉砕手段としては、例えばスタンプミル、リングミル、石臼、乳鉢、ローラーミル、ジェットミル、高速回転ミル、ハンマーミル、ピンミル、容器駆動型ミル、ディスクミル、媒体撹拌ミル等の手段を採用することができる。
【0027】
また、粉砕時のせん断発熱による樹脂材料の延伸を防ぐことを目的に、液体窒素などを使用して粉砕系内を冷却することにより粉砕時の樹脂温度を下げ、延性破壊でなく脆性破壊により粉末を作製する手法がある。これは低温粉砕または凍結粉砕などと呼ばれる。なかでも、粉砕には、粉末積層造形に適した粒度分布および形状を有する粉末を得ることが可能な高速回転ミルを採用することによって、流動性や造形時の粉末塗布性がより良好となるため、好ましい。あわせて、粉砕による樹脂材料の物性や色味の変化を抑制することからも、液体窒素を使用し、樹脂材料の脆性破壊によって粉末を作製することが好ましい。
【0028】
また、粉砕された粉末の中から延伸された粉末を除去して円形度を拡大する観点および微粉末を除去し取扱い時の粉末の舞い上りを防ぐ観点から、粉砕後に分級工程を行うことが好ましい。この場合、分級方法としては、風力分級、篩分級等が挙げられる。あわせて、必要に応じて得られた本発明の樹脂組成物の粉末に後述の流動助剤としての無機粒子や補強材を添加混合してもよい。
【0029】
<プロピレン系重合体(A)>
本発明に用いられるプロピレン系重合体(A)は、下記の要件(A-i)~(A-iii)を満たすものである。
要件(A-i):230℃のメルトフローレート(230℃、2.16kg荷重)が0.1~30g/10分である。
要件(A-ii):プロピレン単独重合体部(a1)50~95重量%とプロピレン・α-オレフィン共重合体部(a2)5~50重量%とからなる。
要件(A-iii):前記共重合体部(a2)が、プロピレン単位含有率30~80重量%とα-オレフィン単位含有率20~70重量%との共重合体部である。
以下、各要件について順に詳説する。
なお、プロピレン系重合体(A)中のプロピレン単独重合体部(a1)およびプロピレン・α-オレフィン共重合体部(a2)の含有率、プロピレン・α-オレフィン共重合体部(a2)中のプロピレン単位含有率およびα-オレフィン単位含有率は、後掲の実施例の項に記載の方法で測定される。
【0030】
要件(A-i):
本発明に用いられるプロピレン系重合体(A)のメルトフローレート(以下MFRと略記することがある)(230℃、2.16kg荷重)は、JIS K7210:1999「プラスチック-熱可塑性プラスチックのメルトマスフローレイト(MFR)およびメルトボリュームフローレイト(MVR)の試験方法」のA法、条件M(230℃、2.16kg荷重)に準拠して測定した値である。
【0031】
MFRは、ポリプロピレンの成形加工において最も基本的な因子である。そのため、本発明に用いられるプロピレン系重合体(A)のMFRは0.1~30g/10分の範囲であり、好ましくは0.5~25g/10分、さらに好ましくは1.0~20g/10分である。
MFRが0.1g/10分未満であると、プロピレン系重合体(A)と熱可塑性エラストマー(B)およびフィラー(C)を溶融混練する時の混練装置への負荷が高くなる恐れがある。また、MFRが30g/10分より大きいと粉末床溶融結合法により成形体を造形する際に形状が崩れる恐れがある。
【0032】
要件(A-ii):
本発明に用いられるプロピレン系重合体(A)は、プロピレン単独重合体部(a1)が50~95重量%、好ましくは70~92重量%、より好ましくは80~90重量%で、プロピレン・α-オレフィン共重合体部(a2)が5~50重量%、好ましくは8~30重量%、より好ましくは10~20重量%からなる。
プロピレン単独重合体部(a1)が50重量%未満であると樹脂組成物の粉砕性が悪くなるおそれがあり、プロピレン単独重合体部(a1)が95重量%より多いと本発明の樹脂組成物から造形される成形体に十分な耐衝撃性が得られない恐れがある。
また、プロピレン・α-オレフィン共重合体部(a2)が5重量%未満であると本発明の樹脂組成物から造形される成形体に
十分な耐衝撃性が得られない恐れがあり、プロピレン・α-オレフィン共重合体部(a2)が50重量%より多いと樹脂組成物の粉砕性が悪くなる恐れがある。
【0033】
要件(A-iii):
本発明に用いられるプロピレン系重合体(A)のプロピレン・α-オレフィン共重合体部(a2)は、プロピレン単位含有率が30~80重量%、好ましくは40~75重量%、より好ましくは50~70重量%であり、α-オレフィン単位含有率が20~70重量%、好ましくは25~60重量%、より好ましくは30~50重量%の共重合体部である。
ここで「単位」とは、プロピレン系重合体(A)の原料化合物に由来してプロピレン系重合体(A)内に形成された構造単位をさす。
該プロピレン単位含有率およびα-オレフィン単位含有率が上記範囲外であると、本発明の樹脂組成物から造形される成形体に十分な耐衝撃性が得られない恐れがあり好ましくない。
【0034】
本発明に用いられるプロピレン系重合体(A)のプロピレン・α-オレフィン共重合体部(a2)のα-オレフィンとしては、例えば、エチレン、1-ブテン、2-メチル-1-プロペン、1-ペンテン、2-メチル-1-ブテン、3-メチル-1-ブテン、1-ヘキセン、2-エチル-1-ブテン、2,3-ジメチル-1-ブテン、2-メチル-1-ペンテン、3-メチル-1-ペンテン、4-メチル-1-ペンテン、3,3-ジメチル-1-ブテン、1-ヘプテン、メチル-1-ヘキセン、ジメチル-1-ペンテン、エチル-1-ペンテン、トリメチル-1-ブテン、1-オクテン等を挙げることができる。これらは、1種を用いてプロピレンと共重合してもよく、また、2種以上を組み合わせてプロピレンと共重合してもよい。中でも、得られる成形体の耐衝撃強度の向上という観点からは、その効果が大きいエチレン又は1-ブテンであるのが好ましく、最も好ましいのはエチレンである。
【0035】
本発明に用いられるプロピレン系重合体(A)としては、前記した要件(A-i)~(A-iii)を満たす限り、特に限定するものではなく、例えば、プロピレン単独重合体ブロック50~95重量%と、プロピレン・α-オレフィン共重合体ブロック5~50重量%からなるプロピレン系ブロック共重合体が挙げられる。
【0036】
プロピレン系重合体(A)は、前記した要件(A-i)~(A-iii)を満たすように、2種類以上を混合して使用することも可能であり、さらに必要に応じて、本発明の効果を著しく損なわない範囲でプロピレン単独重合体を混合してもよい。
【0037】
<プロピレン系重合体(A)の製造方法>
以下、本発明の樹脂組成物に用いられるプロピレン系重合体(A)の製造方法について説明する。
【0038】
本発明に用いられるプロピレン系重合体(A)の製造方法としては、高立体規則性触媒を用いて重合する方法が好ましく用いられる。プロピレン系重合体(A)は、プロピレン単独重合体部(a1)とプロピレン・α-オレフィン共重合体部(a2)との反応混合物である。これは、結晶性プロピレン重合体部分であるプロピレン単独重合体部(a1)の重合(前段)と、この後に続く、プロピレン・α-オレフィン共重合体部(a2)の重合(後段)の製造工程により得られる。
【0039】
上記の重合に用いられる触媒としては、高立体規則性触媒であれば特に限定されるものではなく、公知の触媒が使用可能である。例えば、チタン化合物と有機アルミニウムを組み合わせた、いわゆるチーグラー・ナッタ触媒(例えば、ポリプロピレンハンドブック(1998年5月15日初版第1刷発行)等に記載)、あるいは、メタロセン触媒(例えば、特開平5-295022号公報参照)が使用できる。
【0040】
チーグラー・ナッタ触媒には、チタン化合物として有機アルミニウム等で還元して得られた三塩化チタンまたは三塩化チタン組成物を電子供与性化合物で処理し更に活性化したもの(例えば、特開昭47-34478号公報、特開昭58-23806号公報、特開昭63-146906号公報参照)、塩化マグネシウム等の担体に四塩化チタンを担持させることにより得られるいわゆる担持型触媒(例えば、特開昭58-157808号公報、特開昭58-83006号公報、特開昭58-5310号公報、特開昭61-218606号公報参照)等が含まれる。
【0041】
また、助触媒として使用される有機アルミニウム化合物としては、例えば、トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウムなどのトリアルキルアルミニウム、ジエチルアルミニウムクロライド、ジイソブチルアルミニウムクロライドなどのアルキルアルミニウムハライド、ジエチルアルミニウムハイドライドなどのアルキルアルミニウムハイドライド、ジエチルアルミニウムエトキシドなどのアルキルアルミニウムアルコキシド、メチルアルモキサン、テトラブチルアルモキサンなどのアルモキサン、メチルボロン酸ジブチル、リチウムアルミニウムテトラエチルなどの複合有機アルミニウム化合物などが挙げられる。また、これらを2種類以上混合して使用することも可能である。
【0042】
上述の触媒には、立体規則性改良や粒子性状制御、可溶性成分の制御、分子量分布の制御等を目的とする各種重合添加剤を使用することができる。重合添加剤としては、例えば、ジフェニルジメトキシシラン、tert-ブチルメチルジメトキシシランなどの有機ケイ素化合物、酢酸エチル、安息香酸ブチル、p-トルイル酸メチル、ジブチルフタレートなどのエステル類、アセトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン類、ジエチルエーテルなどのエーテル類、安息香酸、プロピオン酸などの有機酸類、エタノール、ブタノールなどのアルコール類等の電子供与性化合物を挙げることができる。
【0043】
重合形式としては、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ベンゼン若しくはトルエン等の不活性炭化水素を重合溶媒として用いるスラリー重合、プロピレン自体を重合溶媒とするバルク重合、また、原料のプロピレンを気相状態下で重合する気相重合が可能である。また、これらの重合形式を組み合わせて行うことも可能である。例えば、プロピレン単独重合体部(a1)をバルク重合で行い、プロピレン・α-オレフィン共重合体部(a2)を気相重合で行う方法や、プロピレン単独重合体部(a1)をバルク重合、続いて気相重合で行い、プロピレン・α-オレフィン共重合体部(a2)は、気相重合で行う方法などが挙げられる。
【0044】
また、重合形式として、回分式、連続式、半回分式のいずれによってもよく、所望により、二段および三段等の複数段の連続重合法を用いてもよい。
さらに、重合用の反応器としては、特に形状、構造を問わないが、スラリー重合、バルク重合で一般に用いられる攪拌機付き反応槽や、チューブ型反応器、気相重合に一般に用いられる流動床反応器、攪拌羽根を有する横型反応器などが挙げられる。
【0045】
気相重合においては、プロピレン単独重合体部(a1)の重合工程は、プロピレンと、連鎖移動剤として水素を供給して、前記触媒の存在下に、温度0~100℃、好ましくは30~90℃、特に好ましくは40~80℃、プロピレンの分圧0.6~4.2MPa、好ましくは1.0~3.5MPa、特に好ましくは1.5~3.0MPa、滞留時間は0.5~10時間の条件で実施される。プロピレン単独重合体部(a1)には、本発明の効果を損なわない範囲で、プロピレン以外のα-オレフィン、例えば0.5重量%未満の割合でエチレンが共重合されていても構わない。
【0046】
本発明に用いられるプロピレン系重合体(A)のプロピレン単独重合体部(a1)のMFR(230℃、2.16kg荷重)は、通常1~350g/10分の範囲である。プロピレン系重合体(A)のプロピレン単独重合体部(a1)をこのような範囲とするためには、触媒の種類にもよるが、連鎖移動剤の水素を、水素/プロピレンのモル比で1×10-2~0.75の範囲で用いることにより、所望のMFRに調節することが可能である。
【0047】
上記のプロピレン単独重合体部(a1)の製造に引き続いて、即ち前段重合工程で製造されたプロピレン単独重合体部(a1)の存在下、後段重合工程で、プロピレン、α-オレフィンと水素を供給して、前記触媒(前記プロピレン単独重合体部(a1)の製造に使用した当該触媒)の存在下に0~100℃、好ましくは30~90℃、特に好ましくは40~80℃、プロピレンおよびα-オレフィンの分圧各0.1~2.0MPa、好ましくは0.1~1.5MPa、滞留時間0.5~10時間の条件で、プロピレンとα-オレフィンの共重合を行い、プロピレン・α-オレフィン共重合体部(a2)を製造し、最終的な生成物として、プロピレン系重合体(A)を得る。
プロピレン・α-オレフィン共重合体部(a2)には、本発明の効果を損なわない範囲でプロピレンと2種類以上のα-オレフィンが共重合されていても構わない。
【0048】
本発明に用いられるプロピレン系重合体(A)のMFRを、0.1~30g/10分の範囲とするためには、前記のように、プロピレン単独重合体部(a1)のMFRが、通常、1~350g/10分の範囲なので、プロピレン・α-オレフィン共重合体部(a2)のMFR(230℃、2.16kg荷重)は、1×10-3~100g/10分とするのが好ましい。
プロピレン・α-オレフィン共重合体部(a2)のMFRを1×10-3~100g/10分にコントロールする場合、触媒の種類にもよるが、水素/(プロピレン+α-オレフィン)モル比を、1×10-4~0.2の範囲で行うことにより、所望のMFRに調節することが可能である。
また、プロピレン・α-オレフィン共重合体部(a2)中のα-オレフィン単位含有率を特定の範囲内に維持するためには、後段のプロピレン濃度に対するα-オレフィン濃度を調整すればよい。
【0049】
さらに、ゲル発生やベタツキを抑えるために、プロピレン・α-オレフィン共重合体部(a2)の反応中あるいは反応前に、エタノールなどのアルコール類を添加することが望ましい。具体的には、アルコール類/有機アルミニウム化合物の比で、0.5~3.0モル比の条件で行うことができる。また、このアルコール類の添加量で、プロピレン系重合体(A)のプロピレン・α-オレフィン共重合体部(a2)の割合も、コントロールすることができる。
【0050】
また、本発明に用いられるプロピレン系重合体(A)の示差走査型熱量測定の2次昇温(2度目の昇温)において観測される融解ピーク温度(Tm2nd)は150~170℃が好ましく、より好ましくは152~168℃、さらに好ましくは155~165℃である。融解ピーク温度(Tm2nd)が150℃未満であると、本発明の樹脂組成物の剛性が十分得られない恐れがある。また、融解ピーク温度(Tm2nd)が170℃より高いと、本発明の樹脂組成物を用いて造形される成形体の耐衝撃性が十分得られない恐れがある。
【0051】
さらに、本発明に用いられるプロピレン系重合体(A)の示差走査型熱量測定の1次降温(1度目の降温)において観測される結晶化熱量の総量(ΔH)は40~110J/gが好ましく、より好ましくは60~105J/g、さらに好ましくは80~103J/gである。結晶化熱量の総量(ΔH)が40J/g未満であると、本発明の樹脂組成物を用いた粉末床溶融結合法による成形体の剛性が十分得られない恐れがある。また、結晶化熱量の総量(ΔH)が110J/gより大きいと、本発明の樹脂組成物を用いて、粉末床溶融結合法により3次元に成形体を造形する工程において、成形体に反りなどの変形を生じる恐れがある。
【0052】
また、このようなプロピレン系重合体(A)は、各社から種々の市販品が上市されているので、これら市販品の物性を測定して、前記条件(A-i)~(A-iii)を満たすものを用いることもできる。
【0053】
<熱可塑性エラストマー(B)>
本発明の樹脂組成物は、前記のプロピレン系重合体(A)のほかに、可塑性エラストマー(B)、好ましくは、下記の要件(B-i)および(B-ii)を満たす熱可塑性エラストマー(B)を含有する。
要件(B-i):230℃のメルトフローレート(230℃、2.16kg荷重)が0.1~20g/10分である。
要件(B-ii):密度が0.855~0.905g/cm3である。
【0054】
要件(B-i):
本発明に用いられる熱可塑性エラストマー(B)は、本発明の樹脂組成物の耐衝撃性の向上と粉砕性、粉末の散布性の観点から、MFRが0.1~20g/10分であることが好ましく、より好ましくは0.3~15g/10分、さらに好ましくは0.5~10g/10分である。
MFRが0.1g/10分未満であると、粉砕性が低下し、樹脂組成物の粉末の生産性が低下する恐れがある。また、MFRが20g/10分より大きいと、樹脂組成物を用いて造形される成形体の耐衝撃性が十分得られない、または、粉末床溶融結合法により成形体を造形する際に粉末同士が凝集し散布性が低下する恐れがある。
【0055】
要件(B-ii):
本発明に用いられる熱可塑性エラストマー(B)は、本発明の樹脂組成物を用いて得られる成形体の耐衝撃性の向上と粉砕性の観点から、密度が0.855~0.905g/cm3であることが好ましく、より好ましくは0.870~0.900g/cm3、さらに好ましくは0.880~0.895g/cm3分である。
密度が0.855g/cm3未満であると、粉砕性が低下し、樹脂組成物の粉末の生産性が低下する、または、粉末床溶融結合法により成形体を造形する際に粉末同士が凝集し散布性が低下する恐れがある。また、密度が0.905g/cm3より大きいと、樹脂組成物を用いて造形される成形体の耐衝撃性が十分得られない恐れがある。
ここで、熱可塑性エラストマー(B)の密度は、JIS K7112に準拠して23℃で測定された値である。
【0056】
熱可塑性エラストマー(B)としては、例えば、オレフィン系エラストマーおよびスチレン系エラストマーからなる群より選ばれる少なくとも1種が挙げられる。
【0057】
オレフィン系エラストマーとしては、例えば、エチレン・プロピレン共重合体エラストマー(EPR)、エチレン・ブテン共重合体エラストマー(EBR)、エチレン・ヘキセン共重合体エラストマー(EHR)、エチレン・オクテン共重合体エラストマー(EOR)などのエチレン・α-オレフィン共重合体エラストマー;エチレン・プロピレン・エチリデンノルボルネン共重合体、エチレン・プロピレン・ブタジエン共重合体、エチレン・プロピレン・イソプレン共重合体などのエチレン・α-オレフィン・ジエン三元共重合体エラストマーなどを挙げることができる。
オレフィン系エラストマーの具体例としては、JSR株式会社から商品名DYNARON(ダイナロン)(登録商標)として、三井化学株式会社から商品名タフマー(登録商標)として、ダウケミカル株式会社から商品名ENGAGE(エンゲージ)(登録商標)、AFFINITY(アフィニティー)(登録商標)、VERSIFY(バーシファイ)(登録商標)として、日本ポリエチレン株式会社から商品名カーネルとして、エクソンモービルケミカル株式会社から商品名Vistamaxx(ヴィスタマックス)(登録商標)として市販されているものが挙げられる。
【0058】
また、スチレン系エラストマーとしては、例えば、スチレン・ブタジエン・スチレントリブロック共重合体エラストマー(SBS)、スチレン・イソプレン・スチレントリブロック共重合体エラストマー(SIS)、スチレン・エチレン・ブチレン共重合体エラストマー(SEB)、スチレン・エチレン・プロピレン共重合体エラストマー(SEP)、スチレン・エチレン・ブチレン・スチレン共重合体エラストマー(SEBS)、スチレン・エチレン・ブチレン・エチレン共重合体エラストマー(SEBC)、水添スチレン・ブタジエンエラストマー(HSBR)、スチレン・エチレン・プロピレン・スチレン共重合体エラストマー(SEPS)、スチレン・エチレン・エチレン・プロピレン・スチレン共重合体エラストマー(SEEPS)、スチレン・ブタジエン・ブチレン・スチレン共重合体エラストマー(SBBS)、部分水添スチレン・イソプレン・スチレン共重合体エラストマー、部分水添スチレン・イソプレン・ブタジエン・スチレン共重合体エラストマーなどのスチレン系エラストマー、さらにエチレン・エチレン・ブチレン・エチレン共重合体エラストマー(CEBC)などの水添ポリマー系エラストマーなどを挙げることができる。
スチレン系エラストマーの具体例としては、JSR株式会社から商品名:ダイナロン(登録商標)、JSR SIS(登録商標)として、株式会社クラレから商品名:ハイブラー(登録商標)、セプトン(登録商標)、旭化成株式会社から商品名:タフテック(登録商標)として、株式会社カネカから商品名:シブスター(登録商標)として、またはシェル株式会社から商品名:クレイトン(登録商標)、クレイトンD(登録商標)として市販されているものなどが挙げられる。
【0059】
これらの熱可塑性エラストマー(B)は1種を用いてもよく、また、2種以上を混合してもよい。これらの熱可塑性エラストマー(B)は種々の製品が多くの会社から市販されているので、それらの中から所望の製品を購入し、使用することができる。
【0060】
<熱可塑性エラストマー(B)の配合割合>
本発明の樹脂組成物は、プロピレン系重合体(A)100重量部に対して、熱可塑性エラストマー(B)を10~250重量部含有する。可塑性エラストマー(B)含有量は好ましくは12~100重量部、より好ましくは15~50重量部である。
熱可塑性エラストマー(B)が10重量部未満であると、樹脂組成物を用いて造形される成形体の耐衝撃性が十分得られない恐れがある。また、熱可塑性エラストマー(B)が250重量部より多いと粉砕性が低下し、樹脂組成物の粉末の生産性が低下する、または、粉末床溶融結合法により成形体を造形する際に粉末同士が凝集し散布性が低下する恐れがある。
【0061】
<フィラー(C)>
本発明の樹脂組成物には、前記のプロピレン系重合体(A)および熱可塑性エラストマー(B)のほかに、フィラー(C)、好ましくは下記の要件(C-i)を有するフィラー(C)を含む。
要件(C-i):メディアン径D50が、JIS R1629に従ってレーザー回折法により測定して、1~160μmである。
【0062】
要件(C-i):
本発明に用いられるフィラー(C)は、本発明の樹脂組成物の剛性と耐衝撃性のバランス、粉砕性の観点から、JIS R1629に従ってレーザー回折法により測定されるメディアン径D50が、1~160μmであることが好ましく、より好ましくは2~50μm、さらに好ましくは3~10μmである。
メディアン径D50が1μm未満であると、樹脂組成物を用いて造形される成形体の剛性が十分得られない恐れがある。また、メディアン径D50が160μmより大きいと、樹脂組成物を用いて造形される成形体の耐衝撃性が十分得られない、または、160μm以下のサイズへの粉砕が困難となる恐れがある。
【0063】
上記メディアン径D50は、JIS R1629に従ってレーザー回折法により測定される値であり、レーザー法粒度分布測定機を用いて、JIS R1629に準拠して測定した粒度累積分布曲線から読みとった累積量50重量%の粒径値から求められる。レーザー法粒度分布測定機としては、例えば、株式会社堀場製作所製「LA960」、株式会社島津製作所製「SALD-2000J」等を用いることができる。
【0064】
フィラー(C)としては、例えば、シリカ、ケイ藻土、バリウムフェライト、酸化ベリリウム、軽石、軽石バルンなどの酸化物、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、塩基性炭酸マグネシウムなどの水酸化物、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ドロマイト、ドーソナイトなどの炭酸塩、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、硫酸アンモニウム、亜硫酸カルシウムなどの硫酸塩または亜硫酸塩、タルク、クレー、マイカ、ガラス繊維、炭素繊維、ガラスバルーン、ガラスビーズ、ケイ酸カルシウム、ワラストナイト、モンモリロナイト、ベントナイトなどのケイ酸塩、硫化モリブデン、ボロン繊維、ホウ酸亜鉛、メタホウ酸バリウム、ホウ酸カルシウム、ホウ酸ナトリウム、塩基性硫酸マグネシウム繊維、チタン酸カリウム繊維、ホウ酸アルミニウム繊維、ケイ酸カルシウム繊維、炭酸カルシウム繊維などが挙げられる。
これらは1種を用いてもよく、また、2種以上を混合してもよいが、樹脂組成物を用いて造形される成形体の剛性をより向上させ得ると共に、経済性などの観点から、タルクを使用するのが好ましい。
これらのフィラー(C)は種々の製品が多くの会社から市販されているので、それらの中から所望の製品を購入し、使用することができる。
【0065】
<フィラー(C)の配合割合>
本発明の樹脂組成物には、プロピレン系重合体(A)100重量部に対して、フィラー(C)を10~150重量部含有する。フィラー(C)の含有量は、より好ましくは12~100重量部、さらに好ましくは15~50重量部である。
フィラー(C)が10重量部未満であると、樹脂組成物の剛性が十分得られない恐れがある。また、フィラー(C)が150重量部より多いと粉砕性が低下し、樹脂組成物を用いて造形される成形体の耐衝撃性が十分得られない恐れがある。
【0066】
<造核剤(D)>
本発明の樹脂組成物には、さらに造核剤(D)をプロピレン系重合体(A)100重量部に対して0.01~2.50重量部含有することができる。
【0067】
造核剤(D)としては一般的な各種の公知の造核剤が使用可能であり、例えば、立体障害性アミド化合物、有機ジカルボン酸金属塩、有機モノカルボン酸金属塩、ソルビトール系若しくはその誘導体、ノニトール系若しくはその誘導体、ジテルペン酸類の金属塩又はポリマー核剤等が挙げられる。具体例としては、株式会社ADEKAから商品名:アデカスタブ NA-11、アデカスタブ NA-21として、ミリケン・アンド・カンパニーから商品名:ミラッド(Millad)NX8000Jとして、ジャパンケムテック株式会社から商品名:AL-PTBBAとして、市販されているものなどが挙げられる。
これらは1種を用いてもよく、また、2種以上を混合してもよい。
【0068】
特に下記式(1)で表される有機リン酸金属塩化合物を、造核剤(D)として含有することは、本発明の樹脂組成物を用いて造形される成形体の剛性の向上において好ましい。
【0069】
【0070】
(式(1)中、R1は、直接結合、硫黄原子、炭素数1~9のアルキレン基又は炭素数2~9のアルキリデン基であり、R2およびR3は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1~8のアルキル基又は炭素数7~9のアルキルアリール基であり、MはLi、Na、K、Mg、Ca、Zn又はAlであり、nはMの価数である。)
【0071】
式(1)で表される有機リン酸金属塩化合物の具体例としては、ナトリウム-2,2’-メチレン-ビス(4,6-ジ-t-ブチルフェニル)フォスフェート、ナトリウム-2,2’-エチリデン-ビス(4,6-ジ-t-ブチルフェニル)フォスフェート、ナトリウム-2,2’-メチレン-ビス(4-キュミル-6-t-ブチルフェニル)フォスフェート、リチウム-2,2’-メチレン-ビス(4,6-ジ-t-ブチルフェニル)フォスフェート、リチウム-2,2’-エチリデン-ビス(4,6-ジ-t-ブチルフェニル)フォスフェート、リチウム-2,2’-メチレン-ビス(4-キュミル-6-t-ブチルフェニル)フォスフェート、ナトリウム-2,2’-エチリデン-ビス(4-i-プロピ
ル-6-t-ブチルフェニル)フォスフェート、リチウム-2,2’-メチレン-ビス(4-メチル-6-t-ブチルフェニル)フォスフェート、リチウム-2,2’-メチレン-ビス(4-エチル-6-t-ブチルフェニル)フォスフェート、ナトリウム-2,2’-ブチリデン-ビス(4,6-ジ-メチルフェニル)フォスフェート、ナトリウム-2,2’-ブチリデン-ビス(4,6-ジ-t-ブチルフェニル)フォスフェート、ナトリウム-2,2’-t-オクチルメチレン-ビス(4,6-ジ-メチルフェニル)フォスフェート、ナトリウム-2,2’-t-オクチルメチレン-ビス(4,6-ジ-t-ブチルフェニル)フォスフェート、ナトリウム-2,2’-メチレン-ビス(4-メチル-6-t-ブチルフェニル)フォスフェート、ナトリウム-2,2’-メチレン-ビス(4-エチル-6-t-ブチルフェニル)フォスフェート、ナトリウム(4,4’-ジメチル-6,6’-ジ-t-ブチル-2,2’-ビフェニル)フォスフェート、ナトリウム-2,2’-エチリデン-ビス(4-s-ブチル-6-t-ブチルフェニル)フォスフェート、ナトリウム-2,2’-メチレン-ビス(4,6-ジ-メチルフェニル)フォスフェート、ナトリウム-2,2’-メチレン-ビス(4,6-ジ-エチルフェニル)フォスフェート、カリウム-2,2’-エチリデン-ビス(4,6-ジ-t-ブチルフェニル)フォスフェート、カルシウム-ビス[2,2’-メチレン-ビス(4,6-ジ-t-ブチルフェニル)フォスフェート]、マグネシウム-ビス[2,2’-メチレン-ビス(4,6-ジ-t-ブチルフェニル)フォスフェート]、ジンク-ビス[2,2’-メチレン-ビス(4,6-ジ-t-ブチルフェニル)フォスフェート]、アルミニウム-トリス[2,2’-メチレン-ビス(4,6-ジ-t-ブチルフェニル)フォスフェート]、カルシウム-ビス[2,2’-メチレン-ビス-(4-メチル-6-t-ブチルフェニル)フォスフェート]、カルシウム-ビス[2,2’-エチリデン-ビス(4,6-ジ-t-ブチルフェニル)フォスフェート]、カルシウム-ビス[2,2’-チオビス(4-メチル-6-t-ブチルフェニル)フォスフェート]、カルシウム-ビス[2,2’-チオビス(4-エチル-6-t-ブチルフェニル)フォスフェート]、カルシウム-ビス[2,2’-チオビス(4,6-ジ-t-ブチルフェニル)フォスフェート]、マグネシウム-ビス[2,2’-チオビス(4,6-ジ-t-ブチルフェニル)フォスフェート]、マグネシウム-ビス[2,2’-チオビス(4-t-オクチルフェニル)フォスフェート]、カルシウム-ビス[(4,4’-ジメチル-6,6’-ジ-t-ブチル-2,2’-ビフェニル)フォスフェート]、マグネシウム-ビス[2,2’-エチリデン-ビス(4,6-ジ-t-ブチルフェニル)フォスフェート]、アルミニウム-トリス[2,2’-エチリデン-ビス(4,6-ジ-t-ブチルフェニル)フォスフェート]およびこれらの2種以上の混合物を例示することができる。これらのうち特に、ナトリウム-2,2’-メチレン-ビス(4,6-ジ-t-ブチルフェニル)フォスフェートが好ましい。
【0072】
本発明の樹脂組成物に含有される造核剤(D)の含有量は、プロピレン系重合体(A)100重量部に対して好ましくは0.01~2.50重量部、より好ましくは0.05~1.50重量部、さらに好ましくは0.1~1.00重量部の範囲である。
造核剤(D)の含有量が0.01重量部未満であると、樹脂組成物を用いて造形される成形体の剛性が十分得られない恐れがある。また、造核剤(D)の含有量が2.50重量部より多くても剛性向上効果が損なわれる場合があり、また、費用対効果(コスト・パフォーマンス)の点から不利となる恐れがある。
【0073】
<任意添加成分>
本発明の樹脂組成物は、前記のプロピレン系重合体(A)、熱可塑性エラストマー(B)、フィラー(C)および造粒剤(D)のほかに、さらに必要に応じて、本発明の効果を著しく損なわない範囲で、例えば、発明の効果を一層向上させたり、他の効果を付与する等の目的のため、任意の添加成分を配合することができる。該任意添加成分としては、粉末床溶融結合法により成形される成形体の造形性、安定性および該成形体の諸物性を改良・調整する目的で添加される、流動助剤としてのシリカやアルミナ、カオリン等の無機粒子、アクリル系樹脂粒子やメラミン系樹脂粒子等の有機粒子、酸化チタン、造形性を向上させるためのレーザー吸収剤としてのカーボンブラックや染料、ナイロン粉末等の添加剤が挙げられる。
流動助剤として、特に好ましくは、硬質で強度向上や流動性改良に寄与できるという点で、シリカとアルミナが挙げられる。また、フィラー(C)は、その粒径によって、また、その一部を、樹脂組成物と添加剤等とを溶融混練せずに、前述の方法で製造された樹脂組成物の粉末に、添加剤等を混合して、即ち、本発明の樹脂組成物に外添して、粉末混合物として配合することによって、流動助剤や補強材としても機能する。
【0074】
これらの任意添加成分は、プロピレン系重合体(A)、可塑性エラストマー(B)およびフィラー(C)を含む本発明の樹脂組成物を溶融混練して粉末化して得られる粉末とは別に配合されてもよい。特に流動助剤として配合されるシリカ、アルミナ等は、本発明の樹脂組成物の粉末100重量部に対して0.01~2重量部の割合で外添されることで、粉末の流動性を高め、造形時の散布性を向上させることができる。
【0075】
さらに、本発明の樹脂組成物には、顔料などの着色剤、ヒンダードアミン系などの光安定剤、ベンゾトリアゾール系などの紫外線吸収剤、フェノール系、リン系などの酸化防止剤、非イオン系などの帯電防止剤、アミド系化合物などのβ晶核剤、無機化合物などの中和剤、チアゾール系などの抗菌・防黴剤、ハロゲン化合物などの難燃剤、可塑剤、有機金属塩系などの分散剤、脂肪酸アミド系などの滑剤、窒素化合物などの金属不活性剤、非イオン系などの界面活性剤、耐候性安定剤、耐熱安定剤、溶融粘度改良剤、架橋剤、老化防止剤、防曇剤、アンチブロッキング剤、スリップ剤、補強材、軽量化材、導電材、磁性材や、前記のプロピレン系重合体(A)以外のポリオレフィン樹脂、ポリアミド樹脂やポリエステル樹脂などの熱可塑性樹脂などの任意添加成分を配合することができる。
これらの任意添加成分は、2種以上を併用してもよく、本発明の樹脂組成物にプロピレン系重合体(A)、熱可塑性エラストマー(B)とは別に添加してもよいし、プロピレン系重合体(A)、および、熱可塑性エラストマー(B)などに添加されていてもよく、それぞれの成分においても、2種以上併用することもできる。
【0076】
着色剤として、例えば、無機系や有機系の顔料などは、本発明の樹脂組成物、および、本発明の樹脂組成物を用いて粉末床溶融結合法によって得られる成形体の、着色外観、見映え、風合い、商品価値、耐候性や耐久性などの付与、向上などに有効である。
具体例として、無機系顔料としては、ファーネスカーボン、ケッチェンカーボンなどのカーボンブラック、酸化チタン、酸化鉄(ベンガラ等)、クロム酸(黄鉛など)、モリブデン酸、硫化セレン化物、フェロシアン化物などが挙げられる。有機系顔料としては、難溶性アゾレーキ、可溶性アゾレーキ、不溶性アゾキレート、縮合性アゾキレート、その他のアゾキレートなどのアゾ系顔料、フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーンなどのフタロシアニン系顔料、アントラキノン、ペリノン、ペリレン、チオインジゴなどのスレン系顔料、染料レーキ、キナクリドン系、ジオキサジン系、イソインドリノン系などが挙げられる。また、メタリック調やパール調にするには、アルミフレーク、パール顔料を含有させることができる。また、染料を含有させることもできる。
【0077】
光安定剤や紫外線吸収剤として、例えば、ヒンダードアミン化合物、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系やサリシレート系などは、本発明の樹脂組成物、および、本発明の樹脂組成物を用いて粉末床溶融結合法によって得られる成形体の、耐候性や耐久性などの付与、向上に有効であり、耐候変色性の一層の向上に有効である。
【0078】
これらの具体例としては、以下が挙げられる。
ヒンダードアミン化合物としては、コハク酸ジメチルと1-(2-ヒドロキシエチル)-4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジンとの縮合物;ポリ〔〔6-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)イミノ-1,3,5-トリアジン-2,4-ジイル〕〔(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)イミノ〕ヘキサメチレン〔(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)イミノ〕〕;テトラキス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)1,2,3,4-ブタンテトラカルボキシレート;テトラキス(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)1,2,3,4-ブタンテトラカルボキシレート;ビス(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)セバケート;ビス-2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジルセバケートなどが挙げられる。
ベンゾトリアゾール系としては、2-(2’-ヒドロキシ-3’,5’-ジ-t-ブチルフェニル)-5-クロロベンゾトリアゾール;2-(2’-ヒドロキシ-3’-t-ブチル-5’-メチルフェニル)-5-クロロベンゾトリアゾールなどが挙げられる。
ベンゾフェノン系としては、2-ヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン;2-ヒドロキシ-4-n-オクトキシベンゾフェノンなどが挙げられる。
サリシレート系としては、4-t-ブチルフェニルサリシレート;2,4-ジ-t-ブチルフェニル3’,5’-ジ-t-ブチル-4’-ヒドロキシベンゾエートなどが挙げられる。
ここで、前記光安定剤と紫外線吸収剤とを併用する方法は、耐候性、耐久性、耐候変色性などの向上効果が大きく好ましい。
【0079】
酸化防止剤として、例えば、フェノール系、リン系やイオウ系の酸化防止剤などは、本発明の樹脂組成物を用いて粉末床溶融結合法によって得られる成形体の、耐熱安定性、加工安定性、耐熱老化性などの付与、向上などに有効である。
また、帯電防止剤として、例えば、非イオン系やカチオン系などの帯電防止剤は、本発明の樹脂組成物を用いて粉末床溶融結合法によって得られる成形体の、帯電防止性の付与、向上に有効である。
【0080】
β晶核剤としては、ポリプロピレン樹脂中に添加することでβ晶を選択的に形成させる結晶化核剤であれば、特に限定しないが、種々の顔料系化合物(キナクリドン等)やアミド系化合物を好ましく用いることができる、特にアミド系化合物が高いβ晶形成能を達成するのに好ましい。
【0081】
本発明の樹脂組成物中の上記の任意添加成分の含有量は、特に規定されないが、粉末床溶融結合法により成形体を造形する際の樹脂組成物や成形体の安定性の観点から、本発明の樹脂組成物の合計100重量部に対して、0.01重量部以上であることが好ましく、0.05重量部以上であることがより好ましく、0.08重量部以上であることがさらに好ましく、0.1重量部以上であることが特に好ましい。また、成形体の層間接着性低下を抑制する観点から、任意添加成分の含有量の上限値は、30重量部以下であることが好ましく、28重量部以下であることがより好ましく、25重量部以下であることがさらに好ましい。
【0082】
<樹脂組成物の製造方法>
本発明の樹脂組成物には、特定のプロピレン系重合体(A)、熱可塑性エラストマー(B)およびフィラー(C)と、必要に応じて用いられる造核剤(D)および任意添加成分などを、前記配合割合で、従来公知の方法で混合および/または溶融混練することにより、製造することができる。
【0083】
混合は、通常、タンブラー、Vブレンダー、リボンブレンダー、ヘンシェルミキサーなどの混合機器を用いて行うことができる。また、溶融混練は、通常、一軸押出機、二軸押出機、バンバリーミキサー、ロールミキサー、ブラベンダープラストグラフ、ニーダー、ゲレーションミキサーなどの混練機器を用いて行うことができる。溶融混練し、好ましくは前述の方法で粉末化することで本発明の樹脂組成物を製造することができる。
【0084】
本発明の樹脂組成物を粉末の形状で使用する際は、上記の添加剤、特に流動助剤については、樹脂組成物と添加剤等とを溶融混練せずに、前述の方法で製造された樹脂組成物の粉末に、添加剤等を混合して、即ち、本発明の樹脂組成物に外添して、粉末混合物として配合してもよい。
【0085】
<成形体>
本発明の成形体は、上述の樹脂組成物からなる。成形体の製造方法としては、3次元プリンターにより成形することが好ましい。詳細な製造方法について、以下に記載する。
【0086】
<成形体の製造方法>
本発明の樹脂組成物からなる成形体の製造方法においては、本発明の樹脂組成物を用い、3次元プリンターにより成形することにより樹脂成形体を得る。
3次元プリンターによる成形方法としては、前述の通り、材料押出(MEX:Material Extrusion)法、インクジェットヘッドから吐出した樹脂を紫外線により硬化させるマテリアルジェッティング法、レーザーによる光硬化性樹脂溶液の硬化層を積層させる液槽光重合(VP:Vat PhotoPolymerization)法および粉体材料の堆積層をレーザーにより焼結する粉末床溶融結合(PBF:Powder Bed Fusion)法などが挙げられるが、本発明の樹脂組成物には、粉末の熱可塑性樹脂を溶融させて成形体を製造する粉末床溶融結合法が適用される。
【0087】
粉末床溶融結合法による成形体の製造では、ステージ上に敷き詰めた樹脂組成物の粒子にレーザーや電子線を照射して、該粒子を焼結または融着させ、高さ方向に層を形成し、次いで、樹脂組成物の粒子を上記形成された層に接して敷き詰めてレーザーや電子線を照射することで、次の層を形成する。このように順次積層していくことにより、所望の形状の成形体を得る方法である。
【実施例0088】
本発明を実施例により、さらに詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
なお、実施例で用いた評価法、分析の各法および材料は、以下の通りである。
【0089】
1.評価方法、分析方法
(1)MFR(単位:g/10分)
プロピレン系重合体(A)、熱可塑性エラストマー(B)および樹脂組成物のMFR(230℃、2.16kg荷重)では、JIS K7210に準拠して測定した。樹脂組成物は、後述する溶融混練にて得られたペレットを測定に使用した。
【0090】
(2)プロピレン系重合体(A)中における、プロピレン単独重合体部(a1)、プロピレン・α-オレフィン共重合体部(a2)、およびプロピレン・α-オレフィン共重合体部(a2)中のα-オレフィンの含有率(重量%)
特開2017-031359号公報中に記載のクロス分別法とFT-IR法の組み合わせの手法により決定した。
【0091】
(3)曲げ弾性率(単位:MPa)
厚さ4.0mm、幅10.0mm、長さ80mmの射出成形試験片を用い、JIS K7171に準拠し、測定雰囲気温度23℃にて測定した(単位はMPa)。
試験片の成形は、後述する溶融混練にて得られたペレットを東芝社製射出成形機IS80Gに投入し、成形温度200℃、金型温度40℃、射出速度200mm/秒、全サイクル時間60秒の条件で行った。
【0092】
(4)シャルピー衝撃値(kJ/m2)
厚さ4.0mm、幅10.0mm、長さ80mmのノッチ付き(ノッチ半径0.25mm)射出成形試験片を用い、ISO179(ノッチ付)に準拠して、測定雰囲気温度23℃にてシャルピー衝撃試験を実施した。
試験片の成形は、前記曲げ弾性率の試験片の成形と同様に行った。
【0093】
(5)融解ピーク温度(Tm)、結晶化熱量の総量(ΔH)
後述する粉末化にて得られた粉末を、示差走査型熱量測定(DSC、TAインスツルメント社製、Q2000)にて、23℃から10℃/分の速度で200℃まで1次昇温時において観測される吸熱ピークトップの温度を融解ピーク温度(Tm)、次いで200℃で5分間保持し、その後10℃/分の速度で40℃まで降温時において観測される発熱ピークの熱量の総量を結晶化熱量の総量(ΔH)とした。
また、プロピレン系重合体(A)の融解ピーク温度(融点)(Tm2nd)は、示差走査熱量計(DSC、TAインスツルメント社製、Q2000)を用い、一旦200℃まで上げて5分間静置した後、10℃/分の降温速度で40℃まで温度を降下させ、再び昇温速度10℃/分にて測定した際の、吸熱ピークトップの温度を2度目の昇温時において観測される融解ピーク温度(Tm2nd)とした。
結晶化熱量の総量(ΔH)は、JIS K7122(1987)に準拠して200℃から40℃までの降温で観測される発熱ピークの面積より算出した。
【0094】
(6)粉末の粒径
後述する粉末化にて得られた粉末の粒径は、レーザー回折法により測定した。MicrotracBEL製スプレー粒径分布測定装置Aerotrac3500A型を用い、レーザー光を分散した測定試料に照射し、回折散乱光を検出、フラウンホーファ回折理論に基づき解析し、体積基準の粒径分布を演算した。解析して得られる微粒子の総体積を100%として累積カーブを求め、その累積カーブが50%となる点の粒径(メディアン径:D50)を該粉末の平均粒径とした。
【0095】
(7)散布性
後述する粉末化にて得られた粉末を100重量部とし、これに対し、流動助剤としてシリカ粒子(AEROSIL RX200、日本アエロジル社製、平均一次粒径12nm)を0.3重量部加えて、散布性評価試料を作製した。
大きさ25mm×30mm、深さ0.2mmの凹部を有するテーブルの該凹部内に上記粉末試料0.3gを置いた後、該テーブル上でローラーを約64mm/秒の速度で転がすことにより該凹部内の粉末をならしたときに、該凹部測定部位に充填された粉末の面積から、該凹部面積に対する粉末が占める面積の値を当該粉末の散布率として算出した。テーブルの温度は、上記で測定した粉末の融点より15℃低い温度に設定した。
また、以下の基準で散布時の外観を評価した。
○:散布性評価にて、粉末が均一に散布されている。
×:散布性評価にて、粉末が均一に散布されていない、または、粉体同士の凝集が確認される。
【0096】
2.使用材料
2-1.プロピレン系重合体(A)
以下のプロピレン系重合体である成分A1~成分A2を用意した。これら樹脂の性状を表1にまとめた。(以下いずれも酸化防止剤、中和剤を添加済みのペレットである。)
成分A1:日本ポリプロ(株)社製、商品名「ノバテックPP」の下記組成のグレードを用いた。
該材料は、チーグラー・ナッタ触媒で重合されたプロピレン・α-オレフィンブロック共重合体であり、α-オレフィンがエチレンである。共重合体全体のMFR(230℃、2.16kg荷重)が8.5g/10分、プロピレン・α-オレフィン共重合体部(a2))の含有率が16重量%、プロピレン・α-オレフィン共重合体部分(a2)のα-オレフィン含有率が49重量%、2度目の昇温時において観測される融解ピーク温度(Tm2nd)が163℃、1度目の降温時において観測される結晶化熱量(ΔH)が94J/gである。
成分A2:日本ポリプロ(株)社製、商品名「ノバテックPP」の下記組成のグレードを用いた。
該材料は、チーグラー・ナッタ触媒で重合されたプロピレン・α-オレフィンランダム共重合体であり、α-オレフィンがエチレンである。共重合体全体のMFR(230℃、2.16kg荷重)が8.0g/10分、プロピレン・α-オレフィン共重合体部(a2))の含有率が0重量%、2度目の昇温時において観測される融解ピーク温度(Tm2nd)が141℃、1度目の降温時において観測される結晶化熱量(ΔH)が74J/gである。
【0097】
【0098】
2-2.熱可塑性エラストマー(B)
以下の市販の熱可塑性エラストマー(B)である成分B1を用意した。
成分B1:三井化学(株)社製、商品名「タフマーA4090S」。
成分B1のMFR(230℃、2.16kg荷重)は6.7g/10分、密度は0.893g/cm3である。
【0099】
2-3.フィラー(C)
成分C1:日本タルク(株)社製、商品名「PC25RC」。
成分C1について、前述する手法で測定した、該材料のメディアン径D50は5.8
μmである。
【0100】
3.実施例1~2および比較例1~3
3-1.混合および溶融混練
表2に示すプロピレン系重合体(A)、熱可塑性エラストマー(B)およびフィラー(C)を表2に示す割合で配合し、プロピレン系重合体(A)、熱可塑性エラストマー(B)およびフィラー(C)を合わせた該組成物全体100重量部当たり、フェノール系酸化防止剤(BASF社制:IRGANOX1010)0.5重量部、リン系酸化防止剤(BASF社制:Irgafos168)0.5重量部を加えてスーパーミキサーを用いて混合した後、押出温度230℃、吐出量20kg/hの条件で二軸押出機(日本製鋼所製、TEX30)を用いて溶融混練する方法で、樹脂組成物のペレットを得た。
【0101】
3-2.粉末の製造
上記の溶融混練で得られた樹脂組成物のペレットを、液体窒素を使用した凍結粉砕および高速回転粉砕により粉末化した。
【0102】
3-3.評価
得られた樹脂組成物、および、その粉末は、前記評価方法に示した要領で、性能評価を行った。結果を表2に示す。
【0103】
【0104】
表2に示す結果から、本発明の樹脂組成物の発明特定事項を満たしている実施例1~2においては、曲げ弾性率が1500MPa以上で剛性が高く、シャルピー衝撃値が20kJ/m2以上で耐衝撃性も良好であり、しかも粉末の結晶化熱量の総量が80J/g以下と小さく、散布率および外観共にバランスよく優れる。
一方、表2に示す結果から本発明の発明特定事項を満たさない比較例1~3は、これらの性能バランスが不良で見劣りしている。例えば、熱可塑性エラストマー(B)を含有しない比較例1~2はシャルピー衝撃値が10kJ/m2以下で、かつ、粉末の結晶化熱量の総量が80J/gより大きく、見劣りしている。また、比較例3は、融解ピーク温度(Tm)が150℃未満であるために樹脂組成物の剛性が十分得られにくく、シャルピー衝撃値が10kJ/m2以下で、かつ、散布性評価にて、見劣りしている。
本発明の粉末床溶融結合法用樹脂組成物によれば、剛性と耐衝撃性のバランスに優れた成形体を製造することができることから、その用途として、特に制限はなく目的に応じて適宜選択することができ、例えば食品容器、化粧品容器、医療部品、自動車部品、搬送用トレー、家具などの立体造形等、幅広い用途に用いることができる。