(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024143280
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】CO2吸収固定方法、及び断面修復工法
(51)【国際特許分類】
C04B 40/02 20060101AFI20241003BHJP
C04B 28/02 20060101ALI20241003BHJP
C04B 41/72 20060101ALI20241003BHJP
C04B 41/65 20060101ALI20241003BHJP
E04G 23/02 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
C04B40/02
C04B28/02 ZAB
C04B41/72
C04B41/65
E04G23/02 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023055867
(22)【出願日】2023-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000183266
【氏名又は名称】住友大阪セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002734
【氏名又は名称】弁理士法人藤本パートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】西山 沙友里
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 大樹
(72)【発明者】
【氏名】小田部 裕一
【テーマコード(参考)】
2E176
4G028
4G112
【Fターム(参考)】
2E176AA01
2E176BB04
2E176BB36
4G028DA01
4G028DB01
4G028GA03
4G112PA02
4G112PE05
4G112RA02
(57)【要約】
【課題】効率的にCO2の吸収固定を行うことができるCO2吸収固定方法、及び断面修復工法を提供できる。
【解決手段】本発明に係るCO2吸収固定方法は、CO2を吸収固定させるCO2吸収固定方法であって、下記工程(1)~(4)を有し、水硬性組成物が、セメントと、水と、を含み、水硬性組成物の水セメント比が40%以上60%以下である。
(1)既設コンクリートのCO2が吸収固定された中性化深さに基づき、既設コンクリートのはつり厚さを決定する工程
(2)既設コンクリートを、工程(1)で決定されたはつり厚さで、はつる工程
(3)工程(2)において、はつり取った部分に、水硬性組成物を用いて、第1吸収固定層を形成する工程
(4)第1吸収固定層を大気中に曝し、第1吸収固定層にCO2を吸収固定させる工程
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
CO2を吸収固定させるCO2吸収固定方法であって、
下記工程(1)~(4)を有し、
水硬性組成物が、セメントと、水と、を含み、
水硬性組成物の水セメント比が40%以上60%以下である、CO2吸収固定方法。
(1)既設コンクリートのCO2が吸収固定された中性化深さに基づき、既設コンクリートのはつり厚さを決定する工程
(2)既設コンクリートを、工程(1)で決定されたはつり厚さで、はつる工程
(3)工程(2)において、はつり取った部分に、水硬性組成物を用いて、第1吸収固定層を形成する工程
(4)第1吸収固定層を大気中に曝し、第1吸収固定層にCO2を吸収固定させる工程
【請求項2】
第n吸収固定層(nは、自然数のいずれかで、第n吸収固定層は、n回目に形成された吸収固定層である。)を大気中に曝す期間が、1年以上15年以下であり、
さらに、下記工程(5)~(7)を有する、請求項1に記載のCO2吸収固定方法。
(5)第n吸収固定層が形成された既設コンクリートの少なくとも第n吸収固定層を含む部分を、1mm以上15mm以下の厚さで、はつる工程
(6)工程(5)において、はつり取った部分に、水硬性組成物を用いて、第n+1吸収固定層を形成する工程
(7)第n+1吸収固定層を大気中に曝し、第n+1吸収固定層にCO2を吸収固定させる工程
【請求項3】
第n吸収固定層を大気中に曝す期間が、1年以上8年以下である、請求項2に記載のCO2吸収固定方法。
【請求項4】
CO2を吸収固定させるコンクリート又はモルタルによる断面修復工法であって、
下記工程(1)~(4)を有し、
水硬性組成物が、セメントと、水と、を含み、
水硬性組成物の水セメント比が40%以上60%以下である、断面修復工法。
(1)既設コンクリートのCO2が吸収固定された中性化深さに基づき、既設コンクリートのはつり厚さを決定する工程
(2)既設コンクリートを、工程(1)で決定されたはつり厚さで、はつる工程
(3)工程(2)において、はつり取った部分に、水硬性組成物を用いて、第1吸収固定層を形成する工程
(4)第1吸収固定層を大気中に曝し、第1吸収固定層にCO2を吸収固定させる工程
【請求項5】
第n吸収固定層(nは、自然数のいずれかで、第n吸収固定層は、n回目に形成された吸収固定層である。)を大気中に曝す期間が、1年以上15年以下であり、
さらに、下記工程(5)~(7)を有する、請求項4に記載の断面修復工法。
(5)第n吸収固定層が形成された既設コンクリートの少なくとも第n吸収固定層を含む部分を、1mm以上15mm以下の厚さで、はつる工程
(6)工程(5)において、はつり取った部分に、水硬性組成物を用いて、第n+1吸収固定層を形成する工程
(7)第n+1吸収固定層を大気中に曝し、第n+1吸収固定層にCO2を吸収固定させる工程
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、CO2吸収固定方法、及び断面修復工法に関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリート又はモルタルの構造物の劣化、該構造物の断面の欠損、剥落等の修復を行う修復工法として、断面修復工法が知られている。断面修復工法は、該構造物の劣化部分をはつり、劣化部分を除去して、断面修復材を用い構造物を健全な状態に回復させる工法である。
【0003】
断面修復工法は、例えば、非特許文献1に開示されるように、左官工法、充てん工法、吹付け工法の3つの施工方法がある。左官工法は、型枠の設置が不要であるため、断面修復箇所が小規模や点在している場合に適用される。充てん工法は、型枠を設置し、流動性の高いコンクリート又はモルタルを型枠の中に流し込む方法であり、中規模、大規模な修復に適用される。吹付け工法は、型枠を設置せず、コンクリート又はモルタルを圧縮空気、遠心力等によって施工する工法であり、充てん工法と同様に中規模、大規模な修復に適用される。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】すぐに役立つセメント系補修・補強材料の基礎知識 第2版 セメント協会 2011年8月25日
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、コンクリート又はモルタルの構造物では、大気中の二酸化炭素(CO2)を吸収し、該構造物のアルカリ性を低下させる中性化(炭酸化)という現象が知られている。近年、カーボンニュートラル機運の上昇により、CO2排出量の低減やCO2吸収固定化を目指した技術が注目されている。そこで、コンクリート又はモルタルの構造物にCO2が吸収固定化することを利用して、効率的にCO2の吸収固定を行う方法が求められている。
【0006】
本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであり、コンクリート又はモルタルの構造物の断面修復を行う際に、該構造物をはつった後にCO2を吸収固定させるCO2吸収固定層を形成し、効率的にCO2の吸収固定を行うCO2吸収固定方法及びコンクリート又はモルタルによる断面修復工法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るCO2吸収固定方法は、CO2を吸収固定させるCO2吸収固定方法であって、
下記工程(1)~(4)を有し、
水硬性組成物が、セメントと、水と、を含み、
水硬性組成物の水セメント比が40%以上60%以下である。
(1)既設コンクリートのCO2が吸収固定された中性化深さに基づき、既設コンクリートのはつり厚さを決定する工程
(2)既設コンクリートを、工程(1)で決定されたはつり厚さで、はつる工程
(3)工程(2)において、はつり取った部分に、水硬性組成物を用いて、第1吸収固定層を形成する工程
(4)第1吸収固定層を大気中に曝し、第1吸収固定層にCO2を吸収固定させる工程
【0008】
本発明に係るCO2吸収固定方法は、斯かる構成により、既設コンクリートのCO2を吸収固定した箇所をはつり、はつり取った部分に新たな層を形成して、CO2を吸収固定させるので、効率的にCO2の吸収固定を行うことができる。
【0009】
本発明に係るCO2吸収固定方法は、第n吸収固定層(nは、自然数のいずれかで、第n吸収固定層は、n回目に形成された吸収固定層である。)を大気中に曝す期間が、1年以上15年以下であり、
さらに、下記工程(5)~(7)を有してもよい。
(5)第n吸収固定層が形成された既設コンクリートの少なくとも第n吸収固定層を含む部分を、1mm以上15mm以下の厚さで、はつる工程
(6)工程(5)において、はつり取った部分に、水硬性組成物を用いて、第n+1吸収固定層を形成する工程
(7)第n+1吸収固定層を大気中に曝し、第n+1吸収固定層にCO2を吸収固定させる工程
【0010】
本発明に係るCO2吸収固定方法は、斯かる構成により、既設コンクリートに第n吸収固定層を形成して、CO2を吸収固定させるので、効率的なCO2の吸収固定を継続的に行うことができる。
【0011】
本発明に係るCO2吸収固定方法は、第n吸収固定層を大気中に曝す期間が、1年以上8年以下であってもよい。
【0012】
本発明に係るCO2吸収固定方法は、斯かる構成により、第n吸収固定層が吸収固定するCO2の量が多く、より効率的にCO2の吸収固定を行うことができる。
【0013】
本発明に係る断面修復工法は、CO2を吸収固定させるコンクリート又はモルタルによる断面修復工法であって、
下記工程(1)~(4)を有し、
水硬性組成物が、セメントと、水と、を含み、
水硬性組成物の水セメント比が40%以上60%以下である。
(1)既設コンクリートのCO2が吸収固定された中性化深さに基づき、既設コンクリートのはつり厚さを決定する工程
(2)既設コンクリートを、工程(1)で決定されたはつり厚さで、はつる工程
(3)工程(2)において、はつり取った部分に、水硬性組成物を用いて、第1吸収固定層を形成する工程
(4)第1吸収固定層を大気中に曝し、第1吸収固定層にCO2を吸収固定させる工程
【0014】
本発明に係る断面修復工法は、斯かる構成により、既設コンクリートのCO2を吸収固定した箇所をはつり、はつり取った部分に新たな層を形成して、CO2を吸収固定させるので、効率的にCO2の吸収固定を行うことができる。
【0015】
本発明に係る断面修復工法は、第n吸収固定層(nは、自然数のいずれかで、第n吸収固定層は、n回目に形成された吸収固定層である。)を大気中に曝す期間が、1年以上15年以下であり、
さらに、下記工程(5)~(7)を有してもよい。
(5)第n吸収固定層が形成された既設コンクリートの少なくとも第n吸収固定層を含む部分を、1mm以上15mm以下の厚さで、はつる工程
(6)工程(5)において、はつり取った部分に、水硬性組成物を用いて、第n+1吸収固定層を形成する工程
(7)第n+1吸収固定層を大気中に曝し、第n+1吸収固定層にCO2を吸収固定させる工程
【0016】
本発明に係る断面修復工法は、斯かる構成により、既設コンクリートに第n吸収固定層を形成して、CO2を吸収固定させるので、効率的なCO2の吸収固定を継続的に行うことができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、効率的にCO2の吸収固定を行うことができるCO2吸収固定方法、及び断面修復工法を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本実施形態に係るCO2吸収固定方法、及び断面修復工法について説明する。
【0019】
<CO2吸収固定方法>
本実施形態に係るCO2吸収固定方法は、CO2を吸収固定させるCO2吸収固定方法であって、下記工程(1)~(4)を有し、水硬性組成物が、セメントと、水と、を含み、水硬性組成物の水セメント比が40%以上60%以下である。
(1)既設コンクリートのCO2が吸収固定された中性化深さに基づき、既設コンクリートのはつり厚さを決定する工程
(2)既設コンクリートを、工程(1)で決定されたはつり厚さで、はつる工程
(3)工程(2)において、はつり取った部分に、水硬性組成物を用いて、第1吸収固定層を形成する工程
(4)第1吸収固定層を大気中に曝し、第1吸収固定層にCO2を吸収固定させる工程
【0020】
本実施形態に係るCO2吸収固定方法において、CO2を吸収固定する吸収固定層の形成に用いられる水硬性組成物は、セメントと、水とを含む。
【0021】
セメントとしては、特に限定されるものではなく、例えば、JIS R 5210:2019で規定される普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、超早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、耐硫酸塩ポルトランドセメント、白色ポルトランドセメント等のポルトランドセメント;高炉セメント、フライアッシュセメント、シリカセメント等の混合セメント;超速硬セメント、アルミナセメント等の公知のセメントを用いることができる。なお、セメントは、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0022】
水としては、特に限定されるものではなく、例えば、水道水、工業用水、回収水、地下水、河川水、雨水等を使用することができる。水には、コンクリート組成物の水和反応及び舗装コンクリートに悪影響を及ぼす有機物、塩化物イオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン等が含まれないか、含まれていても極めて微量であることが好ましい。水としては、品質の安定した水道水又は工業用水であることがより好ましい。
【0023】
また、水硬性組成物は、骨材を含んでもよい。骨材としては、細骨材及び/又は粗骨材を用いることができる。なお、細骨材とは、10mm網ふるいを全部通過し、5mm網ふるいを質量で85%以上通過する骨材のことをいい、粗骨材とは、5mm網ふるいに質量で85%以上とどまる骨材のことをいう(JIS A 0203:2019)。
【0024】
細骨材としては、例えば、JIS A 5308:2019附属書Aレディーミクストコンクリート用骨材で規定される川砂、陸砂、山砂、海砂、砕砂、石灰石砕砂等の天然物由来の砂、高炉スラグ等が挙げられる。また、珪石を粉砕、分級して製造された珪砂等を用いてもよい。なお、細骨材は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0025】
粗骨材としては、例えば、JIS A 5308:2019附属書Aレディーミクストコンクリート用骨材で規定される川砂利、山砂利、海砂利等の天然骨材、砂岩、硬質石灰岩、玄武岩、安山岩等の砕石等の人工骨材、再生骨材等が挙げられる。なお、粗骨材は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0026】
また、水硬性組成物は、混和材を含んでもよい。混和材としては、例えば、フライアッシュ、シリカフューム、セメントキルンダスト、高炉フューム、高炉水砕スラグ微粉末、高炉除冷スラグ微粉末、転炉スラグ微粉末、半水石膏、膨張材、石灰石微粉末、生石灰微粉末、ドロマイト微粉末等の無機質微粉末、ナトリウム型ベントナイト、カルシウム型ベントナイト、アタパルジャイト、セピオライト、活性白土、酸性白土、アロフェン、イモゴライト、シラス(火山灰)、シラスバルーン、カオリナイト、メタカオリン(焼成粘土)、合成ゼオライト、人造ゼオライト、人工ゼオライト、モルデナイト、クリノプチロライト等の無機物系フィラーが挙げられる。なお、混和材は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0027】
また、水硬性組成物は、混和剤を含んでもよい。混和剤としては、例えば、AE剤、AE減水剤、高性能減水剤、高性能AE減水剤、流動化剤、分離低減剤、凝結遅延剤(例えば、酒石酸等)、凝結促進剤(例えば、硫酸アルミニウム等)、急結剤、収縮低減剤、起泡剤、発泡剤、防水剤等が挙げられる。なお、混和剤は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0028】
水硬性組成物の水セメント比は、40%以上60%以下である。なお、水セメント比とは、セメントに対する水の質量百分率である。水セメント比としては、後述する吸収固定層のCO2吸収固定量を向上させる観点から、40%以上であり、好ましくは45%以上である。また、水セメント比としては、吸収固定層の強度を向上させる観点から、60%以下であり、好ましくは55%以下である。
【0029】
工程(1)は、既設コンクリートのCO2が吸収固定された中性化深さに基づき、既設コンクリートのはつり厚さを決定する。
【0030】
工程(1)における、既設コンクリートのCO2が吸収固定された中性化深さは、測定又は予測によって決定することができる。中性化深さの測定は、例えば、JIS A 1107:2012に規定される方法で既設コンクリートからコアを採取し、採取したコアを用いてJIS A 1152:2018に規定される方法で行うことができる。また、中性化深さの予測は、例えば、下記式(1)を用いて行うことができる。
【0031】
【数1】
(式中、xは中性化深さ(mm)、tは材齢(年)、αは係数を表す。)
【0032】
その後、中性化深さに基づき、既設コンクリートのはつり厚さを決定する。この時、決定されるはつり厚さは、CO2が吸収固定された中性化した箇所を含めばよく、特に限定はない。はつり厚さは、例えば、求めた中性化深さと同じ厚さでもよく、求めた中性化深さよりも小さい厚さでもよく、求めた中性化深さよりも大きい厚さでもよい。はつり厚さとしては、好ましくは中性化深さに対して±50mmであり、より好ましくは中性化深さに対して±20mmである。
【0033】
また、コンクリート又はモルタルの構造物の中性化は、大気に曝された該構造物の表面から内側に向かって進行する。よって、既設コンクリートの材齢に応じて、中性化が進んでいると推測される深さ、すなわち中性化深さに基づいて、はつり厚さを決定してもよい。例えば、既設コンクリートの材齢が1年未満では1mm以下、1年以上2年未満では1mm以上3mm以下、2年以上3年未満では1mm以上4mm以下、3年以上4年未満では1mm以上6mm以下、4年以上5年未満では2mm以上7mm以下、5年以上6年未満では2mm以上8mm以下、6年以上7年未満では2mm以上9mm以下、7年以上8年未満では3mm以上11mm以下、8年以上9年未満では3mm以上11mm以下、9年以上10年未満では3mm以上12mm以下、10年以上11年未満では3mm以上13mm以下、11年以上12年未満では3mm以上13mm以下、12年以上13年未満では3mm以上14mm以下、13年以上14年未満では4mm以上14mm以下、14年以上15年未満では4mm以上15mm以下とはつり厚さを決定してもよい。なお、本明細書において、既設コンクリートは、コンクリートからなるものだけでなく、モルタルからなるものも含まれる。
【0034】
工程(2)は、既設コンクリートを、工程(1)で決定されたはつり厚さで、はつる。既設コンクリートのはつる方法としては、特に限定はなく、公知の道具、例えば、チッピングハンマー、ブレーカ、ウォータジェット等を用いて行うことができる。また、例えば、ディスクグラインダを用いてはつり取った後に露出する表面を滑面としてもよい。なお、既設コンクリートのはつり厚さは、はつる前に露出する既設コンクリートの表面からはつり取った後に露出する表面までの距離をいう。はつり厚さの測定は、レーザー変位計により行うことができる。
【0035】
また、工程(2)で既設コンクリートをはつる際、既設コンクリートの表面及び/又ははつり取った後に露出する表面が粗い場合がある。その場合、はつり厚さは、はつる厚さ方向の断面における既設コンクリート表面の粗さを均一化した平均線から、はつり取った後に露出する表面の粗さを均一化した平均線までの距離とする。なお、本明細書において、平均線は、単位長さあたりの凸となる部分の合計面積と凹となる部分の合計面積が同じになる線をいい、測定は表面粗さ計により行うことができる。
【0036】
工程(1)で決定されたはつり厚さで、既設コンクリートをはつることで、CO2が吸収固定して中性化した箇所が既設コンクリートから取り除かれる。
【0037】
工程(3)は、工程(2)において、はつり取った部分に、水硬性組成物を用いて、第1吸収固定層を形成する。第1吸収固定層は、混練された水硬性組成物をはつり取った部分に打設、塗布等を行い、硬化させることで形成される。
【0038】
第1吸収固定層は、既設コンクリートのはつり取った部分に形成される。この際、第1吸収固定層の厚さとしては、特に限定はなく、既設コンクリートからはつり取ったはつり厚さと同じでもよく、既設コンクリートからはつり取ったはつり厚さよりも小さくてもよく、大きくてもよい。第1吸収固定層の厚さが既設コンクリートからはつり取ったはつり厚さと同じ場合には、はつり取った既設コンクリートの厚さと第1吸収固定層の厚さとを合計した厚さを、はつる前の既設コンクリートの厚さと同じにすることができる。なお、第1吸収固定層の厚さがはつり取ったはつり厚さと同じというのは、はつり取ったはつり厚さに対して±10mmをいう。
【0039】
第1吸収固定層の厚さは、第1吸収固定層の厚さ方向の断面において、はつり取った既設コンクリートの上部から第1吸収固定層の上部までの距離とする。例えば、レーザー変位計を用いて第1吸収固定層の厚さを測定することができる。また、はつり取った既設コンクリートの表面及び/または第1吸収固定層の表面が粗い場合、第1吸収固定層の厚さは、第1吸収固定層の厚さ方向の断面におけるはつり取った既設コンクリートの表面側の粗さを均一化した平均線から第1吸収固定層の表面側の粗さを均一化した平均線までの距離をいう。
【0040】
工程(4)は、第1吸収固定層を大気中に曝し第1吸収固定層にCO2を吸収固定させる。一般に、コンクリート又はモルタルの構造物において、大気に曝された表面から内側に向かってCO2が吸収固定されることから、大気に曝した期間の初期では、単位時間当たりのCO2吸収固定量は大きくなり、曝した期間が長くなるほど、単位時間当たりのCO2吸収固定量は小さくなる。そのため、単位時間当たりのCO2吸収固定量が大きい期間に、第1吸収固定層を大気に曝すのが好ましい。第1吸収固定層を大気に曝す期間としては、CO2吸収固定の効率を向上させる観点から、1年以上15年以下であり、好ましくは1年以上8年以下である。
【0041】
本実施形態に係るCO2吸収固定方法は、既設コンクリートのCO2を吸収固定した箇所をはつり、はつり取った部分に新たな層を形成して、CO2を吸収固定させるので、効率的にCO2の吸収固定を行うことができる。
【0042】
本実施形態に係るCO2吸収固定方法は、第n吸収固定層(nは、自然数のいずれかで、第n吸収固定層は、n回目に形成された吸収固定層である。)を大気中に曝す期間が、1年以上15年以下であり、さらに、下記工程(5)~(7)を有してもよい。
(5)第n吸収固定層が形成された既設コンクリートの少なくとも第n吸収固定層を含む部分を、1mm以上15mm以下の厚さで、はつる工程
(6)工程(5)において、はつり取った部分に、水硬性組成物を用いて、第n+1吸収固定層を形成する工程
(7)第n+1吸収固定層を大気中に曝し、第n+1吸収固定層にCO2を吸収固定させる工程
【0043】
工程(5)は、第n吸収固定層が形成された既設コンクリートの少なくとも第n吸収固定層を含む部分を、1mm以上15mm以下の厚さで、はつる。
【0044】
工程(5)ではつる第n吸収固定層は、既設コンクリートにn回目(nは、自然数のいずれかである。)に形成されたものであり、大気中に曝してCO2を吸収固定させたものである。第n吸収固定層を大気中に曝す期間としては、1年以上15年以下であり、好ましくは1年以上8年以下である。
【0045】
第n吸収固定層をはつる方法としては、上述の既設コンクリートをはつる方法と同様であり、特に限定はなく、公知の道具、例えば、チッピングハンマー、ブレーカ、ウォータジェット等を用いて行うことができる。また、例えば、ディスクグラインダを用いてはつり取った後に露出する表面を滑面としてもよい。
【0046】
第n吸収固定層のはつり厚さは、1mm以上15mm以下である。第n吸収固定層のはつり厚さを1mm以上15mm以下とすることで、第n吸収工程層のCO2が吸収固定された部分を十分に取り除くことができる。また、第n吸収固定層のはつり厚さは、上述の既設コンクリートのはつり厚さと同様であり、はつる前に露出する第n吸収固定層の表面からはつり取った後に露出する表面までの距離をいう。また、工程(5)で第n吸収固定層をはつる際、第n吸収固定層の表面及び/又ははつり取った後に露出する表面が粗い場合がある。その場合、はつり厚さは、上述した既設コンクリートのはつり厚さと同様であり、はつる厚さ方向の断面における第n吸収固定層の表面の粗さを均一化した平均線から、はつり取った後に露出する表面の粗さを均一化した平均線までの距離とする。
【0047】
工程(6)は、工程(5)において、はつり取った部分に、水硬性組成物を用いて、第n+1吸収固定層を形成する。第n+1吸収固定層は、混練された水硬性組成物をはつり取った部分に打設、塗布等を行い、硬化させることで形成される。
【0048】
第n+1吸収固定層は、第n吸収固定層のはつり取った部分に形成される。この際、第n+1吸収固定層の厚さとしては、特に限定はなく、第n吸収固定層からはつり取ったはつり厚さと同じでもよく、第n吸収固定層からはつり取ったはつり厚さよりも小さくてもよく、大きくてもよい。なお、第n吸収固定層の厚さがはつり取ったはつり厚さと同じというのは、上述の第1吸収固定層と同様である。
【0049】
第n+1吸収固定層の厚さは、上述の第1吸収固定層と同様に、第n+1吸収固定層の厚さ方向の断面において、はつり取った第n吸収固定層の上部から第n+1吸収固定層の上部までの距離とする。また、はつり取った第n吸収固定層の表面及び/または第n+1吸収固定層の表面が粗い場合についても、第1吸収固定層と同様である。
【0050】
工程(7)は、第n+1吸収固定層を大気中に曝し第n+1吸収固定層にCO2を吸収固定させる。第n+1吸収固定層を大気に曝す期間としては、上述の第n吸収固定層を大気に曝す期間と同様である。
【0051】
本実施形態に係るCO2吸収固定方法は、第n吸収固定層を1年以上15年以下の期間大気中に曝し、工程(5)~(7)を有することで、既設コンクリートに第n吸収固定層を形成して、CO2を吸収固定させるので、効率的なCO2の吸収固定を継続的に行うことができる。
【0052】
<断面修復工法>
本実施形態に係る断面修復工法は、CO2を吸収固定させるコンクリート又はモルタルによる断面修復工法であって、下記工程(1)~(4)を有し、水硬性組成物が、セメントと、水と、を含み、水硬性組成物の水セメント比が40%以上60%以下である。
(1)既設コンクリートのCO2が吸収固定された中性化深さに基づき、既設コンクリートのはつり厚さを決定する工程
(2)既設コンクリートを、工程(1)で決定されたはつり厚さで、はつる工程
(3)工程(2)において、はつり取った部分に、水硬性組成物を用いて、第1吸収固定層を形成する工程
(4)第1吸収固定層を大気中に曝し、第1吸収固定層にCO2を吸収固定させる工程
なお、特に説明のない部分については、上述のCO2吸収固定方法と同様である。
【0053】
本実施形態に係る断面修復工法は、上述のCO2吸収固定方法と同様な工程でCO2を吸収固定させるコンクリート又はモルタルにより断面修復を行う。したがって、本実施形態に係る断面修復工法は、既設コンクリートのCO2を吸収固定した箇所をはつり、はつり取った部分に新たな層を形成して、CO2を吸収固定させるので、効率的にCO2の吸収固定を行うことができる。
【0054】
本実施形態に係る断面修復工法は、第n吸収固定層(nは、自然数のいずれかで、第n吸収固定層は、n回目に形成された吸収固定層である。)を大気中に曝す期間が、1年以上15年以下であり、さらに、下記工程(5)~(7)を有してもよい。
(5)第n吸収固定層が形成された既設コンクリートの少なくとも第n吸収固定層を含む部分を、1mm以上15mm以下の厚さで、はつる工程
(6)工程(5)において、はつり取った部分に、水硬性組成物を用いて、第n+1吸収固定層を形成する工程
(7)第n+1吸収固定層を大気中に曝し、第n+1吸収固定層にCO2を吸収固定させる工程
【0055】
本実施形態に係る断面修復工法は、第n吸収固定層を1年以上15年以下の期間大気中に曝し、工程(5)~(7)を有することで、既設コンクリートに第n吸収固定層を形成して、CO2を吸収固定させるので、効率的なCO2の吸収固定を継続的に行うことができる。
【実施例0056】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0057】
(水硬性組成物の作製)
表1に、水硬性組成物1、2に含まれる各成分を示す。表1に示す各成分の詳細を以下に示す。
セメント:普通ポルトランドセメント(住友大阪セメント社製)
細骨材:山砂(静岡県掛川市産)
【0058】
【0059】
(CO2の吸収固定)
<実施例1>
[1]混練された水硬性組成物1を型枠(長さ400mm、幅100mm、高さ100mm)に打込み、長さ400mm、幅100mm、厚さ100mmの供試体(既設コンクリート)を作製した。
[2]供試体をCO2濃度5%の雰囲気中に28日間曝す第1促進中性化試験を行った。この時、供試体の上面のみを開放し、その他の面をアルミテープで密閉して、該上面のみからCO2の吸収固定が行われるようにした。なお、第1促進中性化試験は、JIS A 1153:2012に規定される方法に準拠して行った。
[3]第1促進中性化試験後の供試体の一部をカットし、カットした供試体を用いて中性化深さの測定、及び供試体が吸収固定したCO2量を測定した。中性化深さの測定方法は、JIS A 1152:2018に規定される方法に準拠して行った。また、供試体が吸収固定したCO2量の測定は、供試体の厚さ方向において上面から10mmをカットし、粉砕後、STA 2500(TG-DTA同時測定装置)(NETZSCH Japan製)を用いて熱重量-示差熱同時分析法により行った。さらに、中性化深さの測定結果から、供試体が大気に曝された際、何年に相当するかを日本建築学会 鉄筋コンクリート造建築物の耐久設計施工指針・同解説に記載の方法で計算した。結果を表2に示す。
[4]上記[3]で測定した中性化深さの測定の結果に基づきCO2が吸収固定された中性化した箇所を含む厚さ20mmをはつり厚さとした。
[5]供試体の上面から20mmの厚さを電動ハンマ(マキタ製)及びディスクグラインダ(マキタ製)ではつった。なお、はつり厚さは、はつる前後の供試体厚さをノギス(ミツトヨ製)で測定し、はつり前の厚さからはつり後の厚さを引いた値とした。
[6]供試体のはつり取った部分に、水硬性組成物1を厚さが20mmとなるように打設し、積層体を形成し、28日間気中養生した。
[7]積層体をCO2濃度5%の雰囲気中に28日間曝す第2促進中性化試験を行った。この時、積層体の上面のみを開放し、その他の面をアルミテープで密閉して、該上面のみからCO2の吸収固定が行われるようにした。なお、第2促進中性化試験は、上記第1促進中性化試験と同様の方法で行った。
[8]積層体の一部をカットし、カットした積層体を用いて積層体が吸収固定したCO2量を測定した。CO2量の測定は、積層体の厚さ方向において上面から10mmをカットして、粉砕したものを用い、上記と同様な方法で行った。結果を表2に示す。
【0060】
<比較例1>
[1]混練された水硬性組成物1を型枠(長さ400mm、幅100mm、高さ100mm)に打込み、長さ400mm、幅100mm、厚さ100mmの供試体を作製した。
[2]供試体をCO2濃度5%の雰囲気中に28日間曝す第1促進中性化試験を行った。この時、供試体の上面のみを開放し、その他の面をアルミテープで密閉して、該上面のみからCO2の吸収固定が行われるようにした。なお、第1促進中性化試験は、上記と同様の方法で行った。
[3]第1促進中性化試験後の供試体の一部をカットし、カットした供試体を用いて中性化深さの測定、及び供試体が吸収固定したCO2量を測定した。中性化深さの測定は上記と同様の方法で行った。また、CO2量の測定は、供試体の厚さ方向において上面から10mmをカットして、粉砕したものを用い、上記と同様な方法で行った。さらに、中性化深さの測定結果から、供試体が大気に曝された際、何年に相当するかを上記と同様の方法で計算した。結果を表2に示す。
[4]供試体を28日間気中養生した。
[5]気中養生した供試体をCO2濃度5%の雰囲気中に28日間曝す第2促進中性化試験を行った。この時、供試体の上面のみを開放し、その他の面をアルミテープで密閉して、該上面のみからCO2の吸収固定が行われるようにした。なお、第2促進中性化試験は、上記と同様の方法で行った。
[6]供試体の一部をカットし、カットした供試体を用いて供試体が吸収固定したCO2量を測定した。CO2量の測定は、供試体の厚さ方向において上面から10mmをカットして、粉砕したものを用い、上記と同様な方法で行った。結果を表2に示す。
【0061】
<比較例2>
水硬性組成物1に代えて、水硬性組成物2を用いたこと以外は、比較例1と同様である。
【0062】
【0063】
表2中、合計CO2吸収固定量は、それぞれの促進中性化試験後の値を加えたものとなる。実施例1では、比較例1、比較例2と比べると合計CO2吸収固定量が高くなっている。このことから、はつり取った部分に新たな層を形成して、CO2を吸収固定させるので、効率的にCO2の吸収固定を行うことが可能であることが示された。さらに、実施例1において、第1促進中性化試験後の供試体は、大気濃度中に曝した場合、7.7年に相当することが示された。このことから、供試体が大気に曝された期間に応じて、供試体のはつり厚さを決定できることが示された。