(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024143301
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】ケーブル及びケーブルの製造方法
(51)【国際特許分類】
H01B 11/18 20060101AFI20241003BHJP
H01B 13/24 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
H01B11/18 D
H01B13/24 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023055904
(22)【出願日】2023-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】株式会社プロテリアル
(74)【代理人】
【識別番号】110002583
【氏名又は名称】弁理士法人平田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】矢口 敦郎
(72)【発明者】
【氏名】黄 得天
(72)【発明者】
【氏名】渡部 考信
(72)【発明者】
【氏名】工藤 紀美香
【テーマコード(参考)】
5G319
【Fターム(参考)】
5G319FC08
5G319FC21
5G319FC26
(57)【要約】
【課題】横巻シールドの複数の素線に沿った絶縁体のくぼみの形成を容易にするケーブル及びケーブルの製造方法を提供する。
【解決手段】ケーブル1は、導体2と、導体2を覆う熱可塑性の絶縁体3と、絶縁体3に螺旋状に巻き付けられた複数の素線41を有する横巻シールド4と、横巻シールド4を覆う熱可塑性のシース5とを備える。絶縁体3の外周面31には、複数の素線41に沿った複数のくぼみ311が形成されている。素線41の直径は、0.020mm以下である。絶縁体3の軟化点は、シース5の融点に20℃加えた温度以下である。絶縁体3のメルトフローレートは、60g/10min以上である。ケーブル1の製造方法は、シース5を形成する工程において、シース5を構成する溶融樹脂の熱が複数の素線41を介して絶縁体3に伝熱することで絶縁体3が軟化し、絶縁体3の外周面31に複数の素線41に沿った複数のくぼみ311が形成される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
導体と、
前記導体を覆う熱可塑性の絶縁体と、
前記絶縁体に螺旋状に巻き付けられた複数の素線を有する横巻シールドと、
前記横巻シールドを覆う熱可塑性のシースと、を備え、
前記絶縁体の外周面には、前記複数の素線に沿った複数のくぼみが形成されており、
前記素線の直径は、0.020mm以下であり、
前記絶縁体の軟化点は、前記シースの融点に20℃加えた温度以下であり、
前記絶縁体のメルトフローレートは、60g/10min以上である、
ケーブル。
【請求項2】
ケーブル長手方向に直交する断面において、前記素線は円形である、
請求項1に記載のケーブル。
【請求項3】
前記シースの外径は、0.150mm以下である、
請求項1又は2に記載のケーブル。
【請求項4】
前記絶縁体と前記シースとは、同材料からなる、
請求項1又は2に記載のケーブル。
【請求項5】
前記絶縁体は、PFAからなる、
請求項1又は2に記載のケーブル。
【請求項6】
前記絶縁体は、非発泡の樹脂からなる、
請求項1又は2に記載のケーブル。
【請求項7】
ケーブル長手方向に直交する断面において、前記素線は、その周長の1/5以上の長さ範囲が前記くぼみと対向している、
請求項1又は2に記載のケーブル。
【請求項8】
導体と、
前記導体を覆う熱可塑性の絶縁体と、
前記絶縁体に螺旋状に巻き付けられた複数の素線を有する横巻シールドと、
前記横巻シールドを覆う熱可塑性のシースと、を備えるケーブルの製造方法であって、
前記導体を覆うよう押出成形にて前記絶縁体を形成する工程と、
前記絶縁体に前記複数の素線を螺旋状に巻き付ける工程と、
前記複数の素線を覆うよう押出成形にて前記シースを形成する工程と、を備え、
前記シースを形成する工程においては、前記シースを構成する溶融樹脂の熱が前記複数の素線を介して前記絶縁体に伝熱することで前記絶縁体が軟化し、前記絶縁体の外周面に、前記複数の素線に沿った複数のくぼみが形成される、
ケーブルの製造方法。
【請求項9】
前記素線の直径は、0.020mm以下であり、
前記絶縁体の軟化点は、前記シースの融点に20℃加えた温度以下であり、
前記絶縁体のメルトフローレートは、60g/10min以上である、
請求項8に記載のケーブルの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ケーブル及びケーブルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、導体と、導体を覆う絶縁体と、絶縁体に螺旋状に巻き付けられた複数の素線を有する横巻シールドと、横巻シールドを覆うシースとを備える同軸ケーブルが開示されている。特許文献1に記載の同軸ケーブルにおいては、絶縁体の表面にくぼみが形成されており、当該くぼみに横巻シールドの複数の素線が嵌合されている。
【0003】
また、特許文献1には、前述のような同軸ケーブルの製造方法として次の方法が記載されている。まず、導体を覆うよう押出成形にて絶縁体が形成され、これにより導体及び絶縁体からなるコア部が得られる。次いで、コア部に、横巻シールドを構成する複数の素線が巻き付けられる。次いで、複数の素線が巻き付けられたコア部が加熱されることで絶縁体が軟化する。次いで、複数の素線が巻き付けられたコア部がダイスに通されることで複数の素線がコア部側へ圧縮される。これにより、複数の素線が軟化している絶縁体の表面部に食い込み、絶縁体にくぼみが形成される。次いで、横巻シールドが加熱され、これにより、横巻シールドの圧縮による横巻シールドの複数の素線の歪みが緩和される。そして、横巻シールドを覆うよう押出成形にてシースが形成される。以上のようにして、特許文献1に記載の同軸ケーブルが得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、横巻シールドの複数の素線に沿った絶縁体のくぼみの形成を容易にする観点から改善の余地がある。
【0006】
本発明は、前述の事情に鑑みてなされたものであり、横巻シールドの複数の素線に沿った絶縁体のくぼみの形成を容易にするケーブル及びケーブルの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、前記の目的を達成するため、導体と、前記導体を覆う熱可塑性の絶縁体と、前記絶縁体に螺旋状に巻き付けられた複数の素線を有する横巻シールドと、前記横巻シールドを覆う熱可塑性のシースと、を備え、前記絶縁体の外周面には、前記複数の素線に沿った複数のくぼみが形成されており、前記素線の直径は、0.020mm以下であり、前記絶縁体の軟化点は、前記シースの融点に20℃加えた温度以下であり、前記絶縁体のメルトフローレートは、60g/10min以上である、ケーブルを提供する。
【0008】
また、本発明は、前記の目的を達成するため、導体と、前記導体を覆う熱可塑性の絶縁体と、前記絶縁体に螺旋状に巻き付けられた複数の素線を有する横巻シールドと、前記横巻シールドを覆う熱可塑性のシースと、を備えるケーブルの製造方法であって、前記導体を覆うよう押出成形にて前記絶縁体を形成する工程と、前記絶縁体に前記複数の素線を螺旋状に巻き付ける工程と、前記複数の素線を覆うよう押出成形にて前記シースを形成する工程と、を備え、前記シースを形成する工程においては、前記シースを構成する溶融樹脂の熱が前記複数の素線を介して前記絶縁体に伝熱することで前記絶縁体が軟化し、前記絶縁体の外周面に、前記複数の素線に沿った複数のくぼみが形成される、ケーブルの製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、横巻シールドの複数の素線に沿った絶縁体のくぼみの形成を容易にするケーブル及びケーブルの製造方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】第1の実施の形態における、ケーブルの長手方向に直交する断面を示す断面図である。
【
図3】第1の実施の形態における、ケーブルの製造方法のフローチャートを示す図である。
【
図4】第1の実施の形態における、絶縁体形成工程にて得られる導体及び絶縁体の断面図である。
【
図5】第1の実施の形態における、素線巻き付け工程にて得られる導体、絶縁体及び横巻シールドの断面図である。
【
図6】第1の実施の形態における、シースを構成する溶融樹脂が横巻シールドの外周側に配された状態を示す断面図である。
【
図7】第1の実施の形態における、シース形成工程後のケーブルの一部拡大断面図である。
【
図9】第2の実施の形態における、ケーブルの長手方向に直交する断面を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[第1の実施の形態]
本発明の第1の実施の形態について、
図1乃至
図7を参照して説明する。なお、以下に説明する実施の形態は、本発明を実施する上での好適な具体例として示すものであり、技術的に好ましい種々の技術的事項を具体的に例示している部分もあるが、本発明の技術的範囲は、この具体的態様に限定されるものではない。
【0012】
図1は、本形態における、ケーブル1の長手方向に直交する断面を示す断面図である。
図2は、
図1の一部を拡大した図である。以後、ケーブル1の断面といったときは、特に断らない限りはケーブル1の長手方向に直交する断面を意味するものとする。
【0013】
図1に示すごとく、本形態においては、ケーブル1が同軸ケーブルである例につき説明する。ケーブル1は、導体2と、導体2を覆う熱可塑性の絶縁体3と、絶縁体3に螺旋状に巻き付けられた複数の素線41を有する横巻シールド4と、横巻シールド4を覆う熱可塑性のシース5とを備える。
【0014】
本形態において、導体2は、単線からなる。導体2は、例えば、錫(Sn)、銀(Ag)、インジウム(In)、チタン(Ti)、マグネシウム(Mg)、鉄(Fe)等を含む銅合金線とすることができる。また、導体2は、銀、錫又は金等からなるめっき層にて被覆されていてもよい。また、導体2は、単線に限られず、撚線等にて構成してもよい。導体2を覆うよう絶縁体3が形成されている。
【0015】
絶縁体3は、非発泡(すなわちソリッド)の熱可塑性樹脂からなる。絶縁体3は、例えばPFA(テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体)、FEP(テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体)等のフッ素樹脂等からなる。本形態において、絶縁体3は、耐熱性確保等の観点から、PFAからなる。絶縁体3は、例えばチューブ押出にて導体2を覆うよう形成されている。
【0016】
図1及び
図2に示すごとく、絶縁体3の外周面31には、横巻シールド4を構成する複数の素線41に沿った複数のくぼみ311が形成されている。複数のくぼみ311は、複数の素線41に沿った螺旋状に形成されている。複数のくぼみ311は、ケーブル内周側に向かって凹んだ湾曲面であればよく、ケーブル1の断面を見たとき、くぼみ311の曲率半径と当該くぼみ311内に配されている素線41の半径とが同じであっても異なっていてもよい。
【0017】
絶縁体3のメルトフローレート(MFR)は、60g/10min以上である。絶縁体3のメルトフローレートは、絶縁体3を構成する材料の溶融状態における流動性を表すものである。例えば、PFAのメルトフローレートは、ASTM D3307に準拠して測定され、FEPのメルトフローレートは、ASTM D2116に準拠して測定される。詳細は後述するが、本形態においては、絶縁体3のメルトフローレートが比較的高いため、くぼみ311の形成が容易になる。一方、絶縁体3のメルトフローレートが、60g/10min未満となると、絶縁体3にくぼみ311を形成し難くなる。
【0018】
横巻シールド4は、絶縁体3に複数の素線41が横巻きされてなる。ケーブル1の断面において、素線41は円形である。すなわち、素線41は、断面形状が意図的に円形から変形されたものではなく、隣り合う素線41同士は面接触しておらず、線接触又は点接触している。ケーブル1の断面において素線41が円形とは、例えば、素線41の断面形状の真円度が0.85以上とすることができる。素線41の断面形状の真円度は、例えば、素線41の長径に対する短径の比率(すなわち短径/長径)にて算出される。真円度は、1に近いほど真円に近いことを意味する。複数の素線41のそれぞれは、直径が0.020mm以下と極めて細く形成されている。また、素線41の直径は0.020mm以下であれば特に限られないが、製造の容易性や抵抗低減の観点から0.010mm以上を満たしてもよい。
【0019】
複数の素線41は、絶縁体3の複数のくぼみ311に嵌っている。すなわち、複数の素線41におけるケーブル内周側の部位は、絶縁体3の外周部に埋め込まれるよう形成されている。これにより、例えばケーブル1の屈曲時等において、複数の素線41のそれぞれが自由に動くことが抑制され、その結果、隣り合う素線41同士が擦れることに起因した横巻シールド4の耐屈曲性の低下が抑制される。前述のごとく、本形態においては素線41が極めて細く、横巻シールド4の耐屈曲性の低下が特に懸念されるところ、横巻シールド4の耐屈曲性を向上できることが特に望まれる。また、ケーブル1の屈曲時において複数の素線41の動きが制限されることで、複数の素線41間に隙間が形成されることが抑制され、ノイズ特性の低下が抑制される。さらに、ケーブル1の端末加工時、ケーブル1の端末部においてシース5を除去して横巻シールド4を露出させた際に、横巻シールド4が解け難くなることで端末加工が容易になる。
【0020】
前述の横巻シールド4の耐屈曲性の低下の抑制、ノイズ特性の低下の抑制、及び端末加工の容易性の観点から、ケーブル1の断面において、素線41は、その周長の1/5以上の長さ範囲Lがくぼみ311と対向していることが好ましい。製造の容易性の観点から、素線41は、その周長の1/2以下の長さ範囲Lがくぼみ311と対向していることが好ましいが、これに限られない。ケーブル1の断面において、素線41は、中心角が72度以上となる範囲がくぼみ311と対向しているとよい。製造の容易性の観点から、素線41は、中心角が180度以下となる範囲がくぼみ311と対向していることが好ましいが、これに限られない。長さ範囲Lは、例えば、光学顕微鏡又は電子顕微鏡を用いてケーブル1の断面を観察して求めることができる。このとき、例えば、倍率を1000倍等としてケーブル1の断面を観察するとよい。
【0021】
素線41は、くぼみ311に接触していてもよい。また、複数の素線41のうちの少なくとも1つは、くぼみ311との間に僅かな隙間が形成されていてもよい。素線41は、後述するシース5の成形時においてはシース5を構成する溶融樹脂(後述する
図6の符号50参照)と絶縁体3とに接触しており、溶融樹脂と絶縁体3との間の熱伝達を促進させるが、溶融樹脂を硬化した後、素線41とくぼみ311との間には隙間が形成されることもあり得る。素線41は、例えばケーブル1の屈曲時等において、くぼみ311に対して素線41の長手方向に移動できるよう構成されている。
図2に示すごとく、隣り合う素線41間には、絶縁体3の隣り合うくぼみ311間の凸部312が入り込んでいる。
【0022】
素線41は、例えば、錫(Sn)、銀(Ag)、インジウム(In)、チタン(Ti)、マグネシウム(Mg)、鉄(Fe)等を含む銅合金線とすることができる。また、素線41は、その表面が、銀、錫又は金等からなるめっき層にて覆われていてもよい。
図1に示すごとく、横巻シールド4は、シース5にて覆われている。
【0023】
シース5は、非発泡の熱可塑性樹脂(すなわちソリッド)からなる。絶縁体3の軟化点は、シース5の融点に20℃加えた温度以下となるよう構成されている。すなわち、絶縁体3の軟化点をT1[℃]とし、シース5の融点をT2[℃]としたとき、T1≦T2+20の関係を満たす。詳細は後述するが、T1とT2とが前述の関係を満たすことで、絶縁体3へのくぼみ311の形成が容易になる。
【0024】
シース5は、例えばPFA、FEP等のフッ素樹脂等からなる。シース5は、耐熱性確保の観点から、PFAからなることが好ましい。シース5は、絶縁体3と同じ材料にて構成されることが好ましい。すなわち、本形態において、シース5はPFAからなる。シース5は、例えばチューブ押出にて横巻シールド4を覆うよう形成される。ケーブル1の端末加工をしやすくする観点からも、シース5はチューブ押出にて成形されることが好ましい。
【0025】
シース5は、円筒状を呈しており、その外形は0.150mm以下が好ましい。シース5はケーブル1の最外層を構成しているため、シース5の直径はケーブル1の直径である。また、シース5の外径は、製造の容易性の観点から、0.100mm以上をさらに満たしてもよい。
【0026】
前述のような極細のケーブル1の用途としては、例えば内視鏡又はカテーテル等のように体内に挿入される医療用ケーブルとすることが好ましい。医療用ケーブルにおいては、人体への負担軽減等のために特にケーブル1の細径化が要求される。一方、ケーブル1を直径0.150mm以下等の極細にした場合において、特に工夫しない場合には、例えば横巻シールド4を構成する複数の素線41の機械耐性(例えば耐屈曲性等)の低下が懸念される。そこで、本形態のように複数の素線41が絶縁体3に設けられた複数のくぼみ311内に配された構成とすることで、ケーブル1の屈曲時等に複数の素線41のそれぞれが自由に動くことを抑制し、隣り合う素線41間の摩耗を抑制できる。なお、本形態のケーブル1は、その他の用途に使用してもよい。
【0027】
(ケーブルの製造方法)
次に、
図3乃至
図7を参照しつつ、ケーブル1を製造する方法の一例につき説明する。
図3は、ケーブル1の製造方法のフローチャートを示す図である。
【0028】
本形態のケーブル1の製造方法は、絶縁体形成工程S1と、素線巻き付け工程S2と、シース形成工程S3とをこの順に実施する。
【0029】
絶縁体形成工程S1は、導体2を覆うよう押出成形にて絶縁体3を形成する工程である。
図4に、絶縁体形成工程S1にて得られる導体及び絶縁体の断面図を示している。端末加工時に絶縁体3を剥がしやすくするために、絶縁体3は、チューブ押出により形成することが好ましい。絶縁体形成工程S1の後、素線巻き付け工程S2が実施される。
【0030】
素線巻き付け工程S2は、絶縁体3に複数の素線41を螺旋状に巻き付ける工程である。
図5に、素線巻き付け工程S2にて得られる導体2、絶縁体3及び横巻シールド4の断面図を示している。ここで、各素線41が隣り合う素線41に接触するよう複数の素線41を絶縁体3に密に巻き付けると、シース形成工程S3にて複数の素線41がケーブル内周側に変位し難くなる。そのため、素線巻き付け工程S2においては、少なくとも一部の素線41が、隣り合う素線41と離れるよう複数の素線41が絶縁体3に巻き付けられる。換言すると、後述のシース形成工程S3前の状態の絶縁体3の外径は、複数の素線41を巻き付けても少なくとも一部の素線41が隣り合う素線41と離れる程度の直径となるよう形成される。素線巻き付け工程S2の後、シース形成工程S3が実施される。
【0031】
シース形成工程S3は、複数の素線41を覆うよう押出成形にてシース5を形成する工程である。端末加工時にシース5を剥しやすくするために、シース5は、チューブ押出により形成することが好ましい。
【0032】
図6は、シースを構成する溶融樹脂50が横巻シールド4の外周側に配された状態を示す断面図である。
図7は、シース形成工程後のケーブル1の一部拡大断面図である。
図7においては、シース形成工程前の絶縁体3、複数の素線41及び溶融樹脂の輪郭位置を二点鎖線にて表している。
【0033】
シース形成工程S3においては、
図6にて矢印にて示しているように溶融樹脂50の熱が複数の素線41を介して絶縁体3に伝熱し、これによって絶縁体3が軟化し、絶縁体3の外周面31に前記複数の素線41に沿った複数のくぼみ311が形成される。このことにつき、以下詳説する。
【0034】
シース形成工程S3においては、まず、溶融樹脂50が押出成形用のダイスから円筒状に押し出され、絶縁体3に巻き付けられた複数の素線41をケーブル外周側から覆う。そして、この溶融樹脂50が複数の素線41に接触することで、溶融樹脂50の熱が複数の素線41を通じて絶縁体3の外周部に伝熱されて絶縁体3の外周部が軟化する。さらに、溶融樹脂50の樹脂圧にて複数の素線41が軟化している絶縁体3の外周部に押し付けられ、
図7に示すごとく複数の素線41がケーブル内周側に向かって変位し、絶縁体3の外周部が複数の素線41に沿った形状に変形する。これにより、複数の素線41が、絶縁体3の外周部に食い込んだ形となり、絶縁体3の外周部に複数の素線41に沿った複数のくぼみ311が形成される。さらに、複数のくぼみ311が形成される際の絶縁体3の流動によって、隣り合う素線41間に絶縁体3が食い込み、凸部312が形成される。
【0035】
ここで、前述のごとく、絶縁体3の軟化点は、前記シース5の融点に20℃加えた温度以下である。これは、シース5の押出成形時の成形温度がシース5を構成する材料(本形態においてはPFA)の融点よりも少なくとも数十度以上高い温度に設定されること、素線41の径が0.020mm以下と極めて小さいため複数の素線41を介した溶融樹脂50から絶縁体3への熱伝達が促進されやすいこと、及び前述のごとく絶縁体3のメルトフローレートが60g/min以上と高いことを考慮したものである。すなわち、本形態においては、素線41の直径が0.020mm以下であり、絶縁体3の軟化点がシース5の融点に20℃加えた温度以下であり、絶縁体のメルトフローレートが60g/10min以上であるため、シース形成工程S3時に十分に絶縁体3の外周部が軟化し、絶縁体3に複数のくぼみ311が形成される。なお、シース5の成形温度は、融点よりも高くし過ぎると成形時に発泡が生じる等の悪影響があるため、適切な範囲に調整される。例えば、シース5の成形温度は、シース5の融点以上、シース5の融点に30℃加えた温度以下とすることができる。
以上のように、ケーブル1が製造される。
【0036】
(第1の実施の形態の作用及び効果)
本形態のケーブル1は、絶縁体3の外周面31に、複数の素線41に沿った複数のくぼみ311が形成されている。また、素線41の直径は、0.020mm以下である。これにより、前述のごとく、シース5の成形時にシース5を構成する溶融樹脂50の熱が複数の素線41を介して絶縁体3に伝わりやすくなる。そして、絶縁体3の軟化点は、シース5の融点に20℃加えた温度以下であり、絶縁体3のメルトフローレートは、60g/10min以上である。それゆえ、前述のごとく、溶融樹脂50から伝わった熱により絶縁体3の外周部が軟化しやすく、これによって絶縁体3に複数の素線41に沿った複数のくぼみ311が形成されやすくなる。また、複数の素線41が絶縁体3の複数のくぼみ311に配される構成とすることで、ケーブル1の屈曲時等において複数の素線41のそれぞれが自由に動くことが抑制され、隣り合う素線41間の摩耗を抑制できる結果、ケーブル1の長寿命化が図られる。特に本形態においては、素線41が直径0.020mm以下と極細であり、素線41の摩耗が懸念されやすいため、前述のように隣り合う素線41間の摩耗を抑制できることが望まれる。
【0037】
また、ケーブル1の断面において、素線41は円形である。素線41の断面形状が非円形である場合は、ケーブル1の屈曲時等において応力集中箇所が生じやすくなるところ、かかる状況は、素線41の直径が0.020mm以下と極めて小さい場合には特に好ましくない。そこで、本形態においては、断面円形の素線41を絶縁体3のくぼみ311内に配する構成とすることで、素線41における応力集中を抑制できる。また、例えば素線41を円形の状態から非円形の状態に変形させる必要がないため、素線41の材料として塑性変形しやすいものを選択する必要性はなく、素線41の材料選択の自由度が向上する。
【0038】
また、シース5の外径は、0.150mm以下である。このようにシース5の外径(すなわちケーブル1の外径)が極めて小さいものは、ケーブル1の急激な屈曲が可能であるため、特に工夫しない場合は隣り合う素線41間の摩耗が懸念される。そこで、本形態のように、外径が0.150mm以下と極めて小さいケーブル1において、くぼみ311内に素線41を配することで、より効果的に素線41の長寿命化を図ることができる。
【0039】
また、絶縁体3とシース5とは、同材料からなる。このように、絶縁体3とシース5とが同材料からなる場合は、特に工夫しない場合は、シース5の成形時にシース5を構成する溶融樹脂50の熱にて絶縁体3を軟化させてくぼみ311を形成することは難しい。そこで本形態のように、素線41の直径を0.020mm以下とし、絶縁体3の軟化点をシース5の融点に20℃加えた温度以下とし、絶縁体3のメルトフローレートを60g/10min以上とすることで、絶縁体3とシース5とが同材料からなる場合であっても、シース5の成形時に絶縁体3を軟化させ、絶縁体3にくぼみ311を形成することが容易となる。
【0040】
また、絶縁体3は、PFAからなる。PFAは耐熱性等が優れている反面、融点が高いため、特に工夫しない場合は絶縁体3にくぼみ311を形成することが難しい。一方、本形態によれば、前述のごとくシース5の成形時において絶縁体3の表面が軟化するため、くぼみ311の形成を容易にしやすい。
【0041】
また、絶縁体3は、非発泡の樹脂からなる。前述のごとく、素線41の直径は0.020mm以下と極めて小さいところ、絶縁体3を発泡樹脂から形成した場合は、素線41の比較的高い割合の部位が気泡内に露出し、絶縁体3の絶縁性が低下するおそれがある。一方、本形態においては絶縁体3が非発泡の樹脂からなるため、素線41の直径が極めて小さい場合であっても絶縁体3の絶縁性低下を抑制できる。
【0042】
また、ケーブル1の断面において、素線41は、その周長の1/5以上の長さ範囲がくぼみ311と対向している。それゆえ、複数の素線41が自由に動くことに起因する隣り合う素線41間の摩耗を抑制でき、ケーブル1の長寿命化を図ることができる。
【0043】
また、本形態のケーブル1の製造方法においては、シース5を形成する工程では、シース5を構成する溶融樹脂50の熱が複数の素線41を介して絶縁体3に伝熱することで絶縁体3が軟化し、絶縁体3の外周面31に、複数の素線41に沿った複数のくぼみ311が形成される。これにより、絶縁体3の外周面31に複数の素線41に沿った複数のくぼみ311を容易に形成することができる。
【0044】
以上のごとく、本形態によれば、横巻シールドの複数の素線に沿った絶縁体のくぼみの形成を容易にするケーブル及びケーブルの製造方法を提供することができる。
【0045】
(屈曲試験)
ここで、
図8を参照しつつ、第1の実施の形態と同様の構成を有する実施例に係るケーブル1を用いた屈曲試験の結果につき説明する。実施例に係るケーブル1は、導体2の直径が0.021mmであり、絶縁体3の厚みが0.019mmであり、横巻シールド4の素線41の直径が0.013mmであり、シース5の厚みが0.015mmであり、シース5の直径(すなわちケーブル1の直径)が0.114mmである。ここで、絶縁体3の外周面31には複数のくぼみ311があるところ、前述の絶縁体3の厚みは、絶縁体3のくぼみ311の底位置における絶縁体3の厚みである。また、実施例に係るケーブル1において、導体2は、表面が銀からなるめっき層にて覆われた銅合金線からなり、絶縁体3はPFAからなり、横巻シールド4の素線41は、表面が銀からなるめっき層にて覆われた銅合金線からなり、シース5はPFAからなる。
【0046】
屈曲試験では、
図8に示すように、試験対象となる実施例にかかるケーブル1の下端に荷重W=50gfの錘を吊り下げ、ケーブル1を左右に曲げるための曲げ治具11の間にケーブル1を通した状態で、曲げ治具11に沿って左右方向に向けて左右±90°の曲げを加えるようにケーブル1を動かした。曲げ半径Rは5mmとし、屈曲速度は30回/分とした。そして、左右方向への1往復を1回としてケーブル1の屈曲を繰り返し、適宜回ごとにケーブル1の両端間での横巻シールド4の抵抗値を測定した。屈曲試験中に測定した抵抗値が屈曲試験前に測定した抵抗値(初期の抵抗値)に対して15%増加したときに横巻シールド4が破断したものとみなし、そのときの屈曲回数を寿命屈曲回数とした。
【0047】
本屈曲試験の結果、本実施例に係るケーブル1においては、屈曲回数30万回に到達しても横巻シールド4の抵抗値の増加が15%未満となった。この結果から、第1の実施の形態に準拠した本実施例に係るケーブル1においては、高い耐屈曲性が得られることが分かる。
【0048】
[第2の実施の形態]
本発明の第2の実施の形態について、
図9を参照して説明する。
図9は、本形態におけるケーブル1の長手方向に直交する断面を示す断面図である。
【0049】
本形態は、ケーブル1を多心ケーブルとした形態である。本形態のケーブル1は、複数本(本形態においては4本)の絶縁電線6と、複数本の絶縁電線6を覆う絶縁体3と、絶縁体3に螺旋状に巻き付けられた複数の素線41を有する横巻シールド4と、横巻シールド4を覆うシース5とを備える。
【0050】
絶縁電線6は、導体61と導体61を覆う電気的絶縁性を有する被覆62とを備える。複数の絶縁電線6は、撚り合わされた撚線の状態でケーブル1内に配されている。撚り合わされた4本の絶縁電線6をケーブル外周側から覆うように絶縁体3が形成されている。絶縁体3、横巻シールド4及びシース5の構成は、第1の実施の形態と同様である。
【0051】
本形態のその他の構成は、第1の実施の形態の構成と同様である。
なお、第2の実施の形態以降において用いた符号のうち、既出の形態において用いた符号と同一のものは、特に示さない限り、既出の形態におけるものと同様の構成要素等を表す。
【0052】
(第2の実施の形態の作用及び効果)
本形態においても、第1の実施の形態と同様の作用及び効果を有する。
【0053】
[その他の実施の形態]
例えば、第1の実施の形態のケーブルを複数本束ね、その周囲を一括して覆うようにジャケットを設けて多心ケーブルを構成することも可能である。また、第1の実施の形態におけるケーブルと、他の種類の電線とを束ね、それらの周囲を一括して覆うようにジャケットを設けて多心ケーブルを構成することも可能である。
【0054】
(実施の形態のまとめ)
次に、以上説明した実施の形態から把握される技術思想について、実施の形態における符号等を援用して記載する。ただし、以下の記載における各符号等は、特許請求の範囲における構成要素を実施の形態に具体的に示した部材等に限定するものではない。
【0055】
[1]導体(2)と、前記導体(2)を覆う熱可塑性の絶縁体(3)と、前記絶縁体(3)に螺旋状に巻き付けられた複数の素線(41)を有する横巻シールド(4)と、前記横巻シールド(4)を覆う熱可塑性のシース(5)と、を備え、前記絶縁体(3)の外周面(31)には、前記複数の素線(41)に沿った複数のくぼみ(311)が形成されており、前記素線(41)の直径は、0.020mm以下であり、前記絶縁体(3)の軟化点は、前記シース(5)の融点に20℃加えた温度以下であり、前記絶縁体(3)のメルトフローレートは、60g/10min以上である、ケーブル(1)。
【0056】
[2]ケーブル長手方向に直交する断面において、前記素線(41)は円形である、[1]に記載のケーブル(1)。
【0057】
[3]前記シース(5)の外径は、0.150mm以下である、[1]又は[2]に記載のケーブル(1)。
【0058】
[4]前記絶縁体(3)と前記シース(5)とは、同材料からなる、[1]乃至[3]のいずれか1つに記載のケーブル(1)。
【0059】
[5]前記絶縁体(3)は、PFAからなる、[1]乃至[4]のいずれか1つに記載のケーブル(1)。
【0060】
[6]前記絶縁体(3)は、非発泡の樹脂からなる、[1]乃至[5]のいずれか1つに記載のケーブル(1)。
【0061】
[7]ケーブル長手方向に直交する断面において、前記素線(41)は、その周長の1/5以上の長さ範囲(L)が前記くぼみ(311)と対向している、[1]乃至[6]のいずれか1つに記載のケーブル(1)。
【0062】
[8]導体(2)と、前記導体(2)を覆う熱可塑性の絶縁体(3)と、前記絶縁体(3)に螺旋状に巻き付けられた複数の素線(41)を有する横巻シールド(4)と、前記横巻シールド(4)を覆う熱可塑性のシース(5)と、を備えるケーブル(1)の製造方法であって、前記導体(2)を覆うよう押出成形にて前記絶縁体(3)を形成する工程と、前記絶縁体(3)に前記複数の素線(41)を螺旋状に巻き付ける工程と、前記複数の素線(41)を覆うよう押出成形にて前記シース(5)を形成する工程と、を備え、前記シース(5)を形成する工程においては、前記シース(5)を構成する溶融樹脂(50)の熱が前記複数の素線(41)を介して前記絶縁体(3)に伝熱することで前記絶縁体(3)が軟化し、前記絶縁体(3)の外周面(31)に、前記複数の素線(41)に沿った複数のくぼみ(311)が形成される、ケーブル(1)の製造方法。
【0063】
[9]前記素線(41)の直径は、0.020mm以下であり、前記絶縁体(3)の軟化点は、前記シース(5)の融点に20℃加えた温度以下であり、前記絶縁体(3)のメルトフローレートは、60g/10min以上である、[8]に記載のケーブル(1)の製造方法。
【0064】
(付記)
以上、本発明の実施の形態を説明したが、前述した実施の形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施の形態の中で説明した特徴の組合せの全てが発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない点に留意すべきである。また、本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変形して実施することが可能である。
【符号の説明】
【0065】
1…ケーブル
2…導体
3…絶縁体
31…外周面
311…くぼみ
4…横巻シールド
41…素線
5…シース
50…溶融樹脂
L…長さ範囲