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特開2024-143341液晶ポリマー繊維およびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024143341
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】液晶ポリマー繊維およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   D01F 6/62 20060101AFI20241003BHJP
   D01F 6/84 20060101ALI20241003BHJP
   D06M 11/79 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
D01F6/62 308
D01F6/84 311
D06M11/79
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023055964
(22)【出願日】2023-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000001085
【氏名又は名称】株式会社クラレ
(74)【代理人】
【識別番号】100087941
【弁理士】
【氏名又は名称】杉本 修司
(74)【代理人】
【識別番号】100112829
【弁理士】
【氏名又は名称】堤 健郎
(74)【代理人】
【識別番号】100142608
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 由佳
(74)【代理人】
【識別番号】100213470
【弁理士】
【氏名又は名称】中尾 真二
(72)【発明者】
【氏名】中尾 颯太
(72)【発明者】
【氏名】研井 孝太
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 俊一
(72)【発明者】
【氏名】荻野 祐二
(72)【発明者】
【氏名】小林 利章
【テーマコード(参考)】
4L031
4L035
【Fターム(参考)】
4L031AA19
4L031AA21
4L031AB01
4L031BA20
4L031DA11
4L035AA05
4L035BB31
4L035BB60
4L035BB61
4L035EE08
4L035EE20
4L035JJ08
4L035KK01
4L035KK05
(57)【要約】
【課題】耐摩耗性に優れる液晶ポリマー繊維およびその製造方法を提供する。
【解決手段】前記液晶ポリマー繊維は、繊維表面の算術平均粗さRaが0.20~0.50μmである。前記製造方法は、層間距離が1.0nm以上である層状ケイ酸塩鉱物を含有した油剤水性液を撹拌機で周速6m/s以上で撹拌し、粘度が6mPa・s以上である分散液を調製する工程と、前記層状ケイ酸塩鉱物の単位表面積当たりの付着量が0.20~1.20μg/cmになるように前記分散液を液晶ポリマー繊維に付与する工程と、を備えていてもよい。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維表面の算術平均粗さRaが0.20~0.50μmである、液晶ポリマー繊維。
【請求項2】
請求項1に記載の液晶ポリマー繊維であって、繊維表面の算術平均粗さRaの変動係数が0.45以下である、液晶ポリマー繊維。
【請求項3】
請求項1または2に記載の液晶ポリマー繊維であって、下記式(I)~(III)で示す構成単位からなる群から選択される少なくとも一種の構成単位を含む液晶ポリマーを含む、液晶ポリマー繊維。
-O-Ar-CO- (I)
-CO-Ar-CO- (II)
-X-Ar-Y- (III)
(式中、Arは、フェニレン基、ナフチレン基またはビフェニリレン基であり、ArおよびArは、それぞれ独立して、フェニレン基、ナフチレン基、ビフェニリレン基、ジフェニルエーテルジイル基、ジフェニルメチルジイル基またはジフェニルスルホンジイル基であり、Ar、ArおよびArの芳香環の水素原子は、それぞれ独立して、ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、アラルキル基、アリールオキシ基またはアラルキルオキシ基で置換されていてもよく、XおよびYはそれぞれ独立して、酸素原子または第2級アミノ基(-NH-)である)
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載の液晶ポリマー繊維であって、スメクタイト、バーミキュライト、およびクロライトからなる群から選択される少なくとも一種の層状ケイ酸塩鉱物が繊維表面に付着している、液晶ポリマー繊維。
【請求項5】
請求項1~3のいずれか一項に記載の液晶ポリマー繊維であって、層間距離が1.0nm以上である層状ケイ酸塩鉱物が繊維表面に付着している、液晶ポリマー繊維。
【請求項6】
請求項4または5に記載の液晶ポリマー繊維であって、前記層状ケイ酸塩鉱物の単位表面積当たりの付着量が0.20~1.20μg/cmである、液晶ポリマー繊維。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載の液晶ポリマー繊維を少なくとも一部に含んで構成された繊維構造体。
【請求項8】
層間距離が1.0nm以上である層状ケイ酸塩鉱物を含有した油剤水性液を撹拌機で周速6m/s以上で撹拌し、粘度が6.0mPa・s以上である分散液を調製する工程と、
繊維表面における前記層状ケイ酸塩鉱物の単位表面積当たりの付着量が0.20~1.20μg/cmになるように前記分散液を液晶ポリマー繊維に付与する工程と、を備える、液晶ポリマー繊維の製造方法。
【請求項9】
請求項8に記載の製造方法であって、前記分散液の付与工程後、液晶ポリマー繊維に熱処理および/または熱延伸を行う、液晶ポリマー繊維の製造方法。
【請求項10】
請求項8または9に記載の製造方法であって、前記油剤水性液が前記層状ケイ酸塩鉱物を0.1~10wt%含有する、液晶ポリマー繊維の製造方法。
【請求項11】
請求項8~10のいずれか一項に記載の製造方法であって、前記分散液の調製工程において、撹拌時間が30分間以上である、液晶ポリマー繊維の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶ポリマー繊維およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
溶融異方性芳香族ポリエステル繊維やアラミド繊維等の液晶ポリマー繊維は、剛直な分子構造を有するポリマーで構成され、分子鎖が高配向していることに由来して、高強度、高弾性率であり、さらに耐熱性や寸法安定性に優れている。そのため、一般産業用資材、土木・建築資材、各種補強材料、電気・電子部品材料、各種繊維製品等の各種用途に使用されている。
【0003】
しかしながら、液晶ポリマー繊維は、繊維軸方向に分子鎖が高配向している一方、繊維軸に垂直な方向への分子鎖間の相互作用が低いため、繊維軸垂直方向からの応力に対しては弱く、摩耗によりフィブリル化しやすい。例えば、溶融異方性芳香族ポリエステル繊維は、溶融紡糸において得られた紡糸原糸に熱処理を施すことによって、固相重合反応が進行し、高強度、高弾性率が発現するが、この熱処理は高温での処理を必要とするため、繊維の表面が軟化して繊維同士が膠着し、後加工において膠着部分を起点として摩耗によりフィブリル化しやすい。このように、液晶ポリマー繊維は、耐摩耗性に劣っているという課題があった。
【0004】
そのため、耐摩耗性を改善する方法が検討されている。例えば、特許文献1(特開2006-336147号公報)には、平均粒径0.001~1μmの無機微粒子が単繊維表面に0.05~2質量%付着されてなり、単糸繊度が0.01~1.5dtex、熱処理後の強度が15cN/dtex以上である溶融異方性芳香族ポリエステル繊維が開示されている。特許文献1では、無機微粒子として膨潤性層状粘土鉱物を用い、繊維表面に付着させることで単糸間の膠着を防止している。
【0005】
また、特許文献2(特開2016-169464号公報)には、液晶ポリエステルからなるモノフィラメントであって、繊維表面に微細凹凸を有し、繊維表面の微細凹凸の表面粗さ(Ra)が0.015μm以上0.100μm以下であり、最細径化率8.0%以下であることを特徴とする液晶ポリエステルモノフィラメントが開示されている。特許文献2では、液晶ポリエステルモノフィラメントに無機粒子(A)およびリン酸系化合物(B)を塗布した後に固相重合反応を行うことにより、多量に付着させたリン酸系化合物(B)によって繊維のごく表面に存在する液晶ポリエステルの分子鎖の切断が促進され低分子量化し、繊維表面に微細凹凸を形成することで、耐摩耗性を改善している。
【0006】
特許文献3(特開2018-3219号公報)には、液晶ポリエステルに無機粒子(A)を0.001~0.50重量%添加した後に溶融紡糸した液晶ポリエステル紡糸繊維にリン酸系化合物(B)を0.1~4.0重量%塗布し、次いで固相重合することを特徴とする液晶ポリエステル繊維の製造方法が開示されている。特許文献3では、固相重合時にリン酸系化合物(B)による繊維表面の液晶ポリエステルの分解に伴い、液晶ポリエステル繊維中に分散していた無機粒子(A)が繊維表面に隆起することで表面に微細凹凸を生じさせ、繊維と摩擦対象物との接触面積を低下させ、摩擦を低減させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006-336147号公報
【特許文献2】特開2016-169464号公報
【特許文献3】特開2018-3219号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1では、膨潤性層状粘土鉱物を紡糸油剤に分散させて繊維に付着させているが、分散性が不十分であり、後述の比較例で示すように、分散性が不十分な分散液で繊維表面に付着させた場合、溶融異方性芳香族ポリエステル繊維の表面粗さは小さく、耐摩耗性が不十分であった。
【0009】
特許文献2および3では、リン酸系化合物(B)による繊維表面の液晶ポリエステルの分子鎖の切断により微細凹凸を形成しているが、このような方法では繊維の表面粗さを大きくするには限界があり、耐摩耗性にさらなる改善の余地があった。
【0010】
したがって、本発明は上記課題を解決するものであり、耐摩耗性に優れる液晶ポリマー繊維およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の発明者らは、耐摩耗性に優れる液晶ポリマー繊維について検討した結果、繊維表面の算術平均粗さRaが従来より大きく、特定の範囲にある液晶ポリマー繊維は、驚くべきことに、耐摩耗性に優れることを見出し、本発明の完成に至った。
【0012】
すなわち、本発明は、以下の態様で構成されうる。
〔態様1〕
繊維表面の算術平均粗さRaが0.20~0.50μm(好ましくは0.23~0.48μm、より好ましくは0.25~0.45μm)である、液晶ポリマー繊維。
〔態様2〕
態様1に記載の液晶ポリマー繊維であって、繊維表面の算術平均粗さRaの変動係数が0.45以下(好ましくは0.40以下、より好ましくは0.35以下、さらに好ましくは0.30以下、特に好ましくは0.25以下)である、液晶ポリマー繊維。
〔態様3〕
態様1または2に記載の液晶ポリマー繊維であって、下記式(I)~(III)で示す構成単位からなる群から選択される少なくとも一種の構成単位を含む液晶ポリマーを含む、液晶ポリマー繊維。
-O-Ar-CO- (I)
-CO-Ar-CO- (II)
-X-Ar-Y- (III)
(式中、Arは、フェニレン基、ナフチレン基またはビフェニリレン基であり、ArおよびArは、それぞれ独立して、フェニレン基、ナフチレン基、ビフェニリレン基、ジフェニルエーテルジイル基、ジフェニルメチルジイル基またはジフェニルスルホンジイル基であり、Ar、ArおよびArの芳香環の水素原子は、それぞれ独立して、ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、アラルキル基、アリールオキシ基またはアラルキルオキシ基で置換されていてもよく、XおよびYはそれぞれ独立して、酸素原子または第2級アミノ基(-NH-)である)
〔態様4〕
態様1~3のいずれか一態様に記載の液晶ポリマー繊維であって、スメクタイト、バーミキュライト、およびクロライトからなる群から選択される少なくとも一種の層状ケイ酸塩鉱物が繊維表面に付着している、液晶ポリマー繊維。
〔態様5〕
態様1~3のいずれか一態様に記載の液晶ポリマー繊維であって、層間距離が1.0nm以上(好ましくは1.1nm以上、より好ましくは1.2nm以上)である層状ケイ酸塩鉱物が繊維表面に付着している、液晶ポリマー繊維。
〔態様6〕
態様4または5に記載の液晶ポリマー繊維であって、前記層状ケイ酸塩鉱物の単位表面積当たりの付着量が0.20~1.20μg/cm(好ましくは0.20~1.00μg/cm、より好ましくは0.20~0.90μg/cm)である、液晶ポリマー繊維。
〔態様7〕
態様1~6のいずれか一態様に記載の液晶ポリマー繊維を少なくとも一部に含んで構成された繊維構造体。
〔態様8〕
層間距離が1.0nm以上(好ましくは1.1nm以上、より好ましくは1.2nm以上)である層状ケイ酸塩鉱物を含有した油剤水性液を撹拌機で周速6m/s以上(好ましくは10~30m/s、より好ましくは10~20m/s)で撹拌し、粘度が6.0mPa・s以上(好ましくは6.0~15mPa・s、より好ましくは6.0~10mPa・s)である分散液を調製する工程と、
繊維表面における前記層状ケイ酸塩鉱物の単位表面積当たりの付着量が0.20~1.20μg/cm(好ましくは0.20~1.00μg/cm、より好ましくは0.20~0.90μg/cm)になるように前記分散液を液晶ポリマー繊維に付与する工程と、を備える、液晶ポリマー繊維の製造方法。
〔態様9〕
態様8に記載の製造方法であって、前記分散液の付与工程後、液晶ポリマー繊維に熱処理および/または熱延伸を行う、液晶ポリマー繊維の製造方法。
〔態様10〕
態様8または9に記載の製造方法であって、前記油剤水性液が前記層状ケイ酸塩鉱物を0.1~10wt%(好ましくは0.3~8wt%、より好ましくは0.5~5wt%)含有する、液晶ポリマー繊維の製造方法。
〔態様11〕
態様8~10のいずれか一態様に記載の製造方法であって、前記分散液の調製工程において、撹拌時間が30分間以上(好ましくは2時間以上、より好ましくは8時間以上、さらに好ましくは12時間以上)である、液晶ポリマー繊維の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明の液晶ポリマー繊維は、耐摩耗性に優れている。また、本発明の製造方法では、液晶ポリマー繊維の液晶ポリマーで構成される部分を変えることなく、表面の算術平均粗さRaを特定の範囲に大きくすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
[液晶ポリマー繊維]
液晶ポリマー繊維は、液晶ポリマーを含む。液晶ポリマーとしては、溶融状態で液晶性を示すサーモトロピック液晶ポリマーおよび溶液状態で液晶性を示すリオトロピック液晶ポリマーが挙げられる。サーモトロピック液晶ポリマーとしては、溶融異方性芳香族ポリエステル等が挙げられる。リオトロピック液晶ポリマーとしては、全芳香族ポリアミド、ポリベンズアゾール等が挙げられる。
【0015】
溶融異方性芳香族ポリエステルとしては、例えば、芳香族ジオール、芳香族ジカルボン酸、芳香族ヒドロキシカルボン酸等に由来する構成単位からなり、本発明の効果を損なわない限り、芳香族ジオール、芳香族ジカルボン酸、芳香族ヒドロキシカルボン酸に由来する構成単位は、その化学的構成については特に限定されるものではない。また、本発明の効果を阻害しない範囲で、溶融異方性芳香族ポリエステルは、芳香族ジアミン、芳香族ヒドロキシアミンまたは芳香族アミノカルボン酸に由来する構成単位を含む溶融異方性芳香族ポリエステルアミドであってもよい。例えば、好ましい構成単位としては、表1に示す例が挙げられる。
【0016】
【表1】
【0017】
表1の構成単位において、mは0~2の整数であり、式中のYは、1~置換可能な最大数の範囲において、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子(例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子など)、アルキル基(例えば、メチル基、エチル基、イソプロピル基、t-ブチル基などの炭素数1から4のアルキル基など)、アルコキシ基(例えば、メトキシ基、エトキシ基、イソプロポキシ基、n-ブトキシ基など)、アリール基(例えば、フェニル基、ナフチル基など)、アラルキル基(例えば、ベンジル基(フェニルメチル基)、フェネチル基(フェニルエチル基)など)、アリールオキシ基(例えば、フェノキシ基など)、アラルキルオキシ基(例えば、ベンジルオキシ基など)などが挙げられる。
【0018】
より好ましい構成単位としては、下記表2、表3および表4に示す例(1)~(20)に記載される構成単位が挙げられる。なお、式中の構成単位が、複数の構造を示しうる構成単位である場合、そのような構成単位を二種以上組み合わせて、ポリマーを構成する構成単位として使用してもよい。
【0019】
【表2】
【0020】
【表3】
【0021】
【表4】
【0022】
表2、表3および表4の構成単位において、nは1または2の整数で、それぞれの構成単位n=1、n=2は、単独でまたは組み合わせて存在してもよく、YおよびYは、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子(例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子など)、アルキル基(例えば、メチル基、エチル基、イソプロピル基、t-ブチル基などの炭素数1から4のアルキル基など)、アルコキシ基(例えば、メトキシ基、エトキシ基、イソプロポキシ基、n-ブトキシ基など)、アリール基(例えば、フェニル基、ナフチル基など)、アラルキル基(例えば、ベンジル基(フェニルメチル基)、フェネチル基(フェニルエチル基)など)、アリールオキシ基(例えば、フェノキシ基など)、アラルキルオキシ基(例えば、ベンジルオキシ基など)などであってもよい。これらのうち、水素原子、塩素原子、臭素原子、またはメチル基が好ましい。
【0023】
また、Zとしては、下記式で表される置換基が挙げられる。
【0024】
【化1】
【0025】
溶融異方性芳香族ポリエステルは、ヒドロキシ安息香酸に由来する構成単位(A)および/またはヒドロキシナフトエ酸に由来する構成単位(B)を少なくとも含む共重合体が好ましく、例えば、構成単位(A)としては4-ヒドロキシ安息香酸に由来する構成単位である下記式(A)が挙げられ、構成単位(B)としては6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸に由来する構成単位である下記式(B)が挙げられる。
【0026】
【化2】
【0027】
【化3】
【0028】
溶融異方性芳香族ポリエステルの融点(以下、Mpと称することがある)は250~380℃の範囲であることが好ましく、より好ましくは255~370℃、さらに好ましくは260~360℃、さらにより好ましくは260~330℃であってもよい。本明細書において、融点は、JIS K 7121試験法に準拠し、示差走査熱量計(DSC)で測定し、観察される主吸収ピーク温度である。具体的には、DSC装置に、試料を4~6mgをとりアルミ製パンへ封入した後、キャリヤーガスとして窒素を200mL/分の流量で流し、室温(例えば、25℃)から10℃/分で昇温したときの吸熱ピークを測定する。ポリマーの種類によってDSC測定において1st runで明確なピークが現れない場合は、予想される流れ温度よりも50℃高い温度まで50℃/分で昇温し、その温度で3分間完全に溶融した後、80℃/分の降温速度で50℃まで降温し、しかる後に10℃/分の昇温速度で吸熱ピークを測定するとよい。
【0029】
なお、溶融異方性芳香族ポリエステルには、本発明の効果を損なわない範囲で、ポリエチレンテレフタレート、変性ポリエチレンテレフタレート、ポリオレフィン、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトン、フッ素樹脂等の熱可塑性ポリマーを混合してもよい。また、酸化チタン、カオリン、シリカ、酸化バリウム等の無機物、カーボンブラック、染料や顔料等の着色剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤等の各種添加剤を混合してもよい。
【0030】
全芳香族ポリアミドとしては、例えば、芳香族ジアミン、芳香族ジカルボン酸、芳香族アミノカルボン酸等に由来する構成単位からなり、本発明の効果を損なわない限り、芳香族ジアミン、芳香族ジカルボン酸、芳香族アミノカルボン酸に由来する構成単位は、その化学的構成については特に限定されるものではない。
【0031】
例えば、芳香族ジアミンとしては、p-フェニレンジアミン、m-フェニレンジアミン、3,4’-ジアミノジフェニルエーテル、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、3,4’-ジアミノジフェニルスルホン、4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、3,3’-ジアミノジフェニルスルホン等が挙げられる。また、これらの芳香族ジアミンの芳香環の水素原子がハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、アラルキル基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基等で置換された誘導体、例えば、2-クロロ-p-フェニレンジアミン、2,5-ジクロロ-p-フェニレンジアミン、2,6-ジクロロ-p-フェニレンジアミン、2-クロロ-m-フェニレンジアミン、4-クロロ-m-フェニレンジアミン、2-メチル-p-フェニレンジアミン、2-メチル-m-フェニレンジアミン、4-メチル-m-フェニレンジアミン等が挙げられる。
【0032】
芳香族ジカルボン酸としては、テレフタル酸、イソフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、4,4’-ビフェニルジカルボン酸等が挙げられる。また、これらの芳香族ジカルボン酸の芳香環の水素原子がハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基、フェニル基等で置換された誘導体、例えば、2-クロロテレフタル酸、2,5-ジクロロテレフタル酸、2,6-ジクロロテレフタル酸、3-クロロイソフタル酸、3-メトキシイソフタル酸等が挙げられる。
【0033】
全芳香族ポリアミドとしては、好ましくは、p-フェニレンジアミンに由来する構成単位とテレフタル酸に由来する構成単位とを含むポリp-フェニレンテレフタルアミド;m-フェニレンジアミンに由来する構成単位とイソフタル酸に由来する構成単位とを含むポリm-フェニレンイソフタルアミド;芳香族ジアミンとしてp-フェニレンジアミンに由来する構成単位および3,4’-ジアミノジフェニルエーテルに由来する構成単位と、芳香族ジカルボン酸としてテレフタル酸に由来する構成単位とを含むコポリp-フェニレン・3,4’-オキシジフェニレンテレフタルアミドであってもよい。
【0034】
ポリベンズアゾールは、ベンズアゾール系複素芳香環を主鎖に有するポリマーであり、ベンゾオキサゾール環を有するポリベンゾオキサゾール、ベンゾチアゾール環を有するポリベンゾチアゾール、ベンズイミダゾール環を有するポリベンズイミダゾール等が挙げられる。ポリベンズアゾールは、ベンズアゾール系複素芳香環と芳香族基とが結合した構成単位を有することが好ましく、芳香族基としては、フェニレン基、ビフェニレン基、ナフチレン基等が挙げられる。また、ベンズアゾール系複素芳香環のアゾール系複素環に結合する芳香環としては、ベンゼン環、ピリジン環、ナフタレン環等が挙げられ、これらの芳香環の水素原子は、ハロゲン原子、アルキル基等で置換されていてもよい。
【0035】
ポリベンズアゾールとしては、好ましくは、ポリp-フェニレンベンゾビスオキサゾール、ポリp-フェニレンベンゾビスチアゾールであってもよい。
【0036】
これらの液晶ポリマーのうち、溶融異方性芳香族ポリエステル、全芳香族ポリアミドが好ましい。例えば、液晶ポリマーは、下記式(I)~(III)で示す構成単位(構成単位(I)~(III))からなる群から選択される少なくとも一種の構成単位を含んでいてもよい。
-O-Ar-CO- (I)
-CO-Ar-CO- (II)
-X-Ar-Y- (III)
(式中、Arは、フェニレン基、ナフチレン基またはビフェニリレン基であり、ArおよびArは、それぞれ独立して、フェニレン基、ナフチレン基、ビフェニリレン基、ジフェニルエーテルジイル基、ジフェニルメチルジイル基またはジフェニルスルホンジイル基であり、Ar、ArおよびArの芳香環の水素原子は、それぞれ独立して、ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、アラルキル基、アリールオキシ基またはアラルキルオキシ基で置換されていてもよく、XおよびYはそれぞれ独立して、酸素原子または第2級アミノ基(-NH-)である。)
【0037】
構成単位(I)は、芳香族ヒドロキシカルボン酸に由来する構成単位であり、構成単位(II)は、芳香族ジカルボン酸に由来する構成単位であり、構成単位(III)は、芳香族ジオール(XおよびYが酸素原子である)、芳香族ジアミン(XおよびYが第2級アミノ基である)または芳香族ヒドロキシアミン(XおよびYのうち一方が酸素原子であり、もう一方が第2級アミノ基である)に由来する構成単位である。
【0038】
液晶ポリマー中、構成単位(I)~(III)は、それぞれ一種が含まれていてもよく、二種以上が含まれていてもよい。液晶ポリマーは、構成単位(I)~(III)の合計含有量が、全構成単位の合計量に対して、例えば、90モル%以上であってもよく、好ましくは95モル%以上、より好ましくは99モル%以上、さらに好ましくは100モル%であってもよい。
【0039】
液晶ポリマーは、構成単位(I)を主成分として有する溶融異方性芳香族ポリエステル、構成単位(I)~(III)を有する溶融異方性芳香族ポリエステル、または構成単位(II)および(III)を有する全芳香族ポリアミドであってもよい。
【0040】
例えば、液晶ポリマーは、構成単位(I)を二種以上有する溶融異方性芳香族ポリエステルであってもよい。構成単位(I)としては、Arが、1,4-フェニレン基である構成単位(4-ヒドロキシ安息香酸に由来する構成単位(A))、および2,6-ナフチレン基である構成単位(6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸に由来する構成単位(B))が挙げられる。好ましくは、構成単位(A)と構成単位(B)とを含む共重合体であってもよい。例えば、溶融成形性を向上する観点から、構成単位(A)と構成単位(B)との比率(A)/(B)は、好ましくは9/1~1/1、より好ましくは7/1~1/1、さらに好ましくは5/1~1/1の範囲であってもよい。
【0041】
また、構成単位(A)と構成単位(B)の合計は、例えば、全構成単位に対して65モル%以上であってもよく、より好ましくは70モル%以上、さらに好ましくは80モル%以上であってもよい。溶融異方性芳香族ポリエステルは、構成単位(B)を、全構成単位に対して4~45モル%含んでいてもよい。
【0042】
また、溶融異方性芳香族ポリエステルは、構成単位(A)を、全構成単位に対して、好ましくは50モル%以上、より好ましくは53モル%以上、さらに好ましくは60モル%以上、さらにより好ましくは65モル%以上、特に好ましくは70モル%以上含んでいてもよい。溶融異方性芳香族ポリエステル中の構成単位(A)の含有量の上限は特に限定されないが、例えば、90モル%以下であってもよく、好ましくは88モル%以下、より好ましくは85モル%以下であってもよい。
【0043】
液晶ポリマーは、構成単位(I)~(III)を有する溶融異方性芳香族ポリエステルであってもよく、例えば、4-ヒドロキシ安息香酸由来の構成単位(A)および/または6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸由来の構成単位(B)の芳香族ヒドロキシカルボン酸に由来する構成単位(I)と、少なくとも一種の芳香族ジカルボン酸に由来する構成単位(II)と、少なくとも一種の芳香族ジオールおよび/または芳香族ヒドロキシアミンに由来する構成単位(III)とを含む共重合体が好ましい。
【0044】
構成単位(II)は、Arが、1,4-フェニレン基である構成単位(テレフタル酸に由来する構成単位)、1,3-フェニレン基である構成単位(イソフタル酸に由来する構成単位)、2,6-ナフチレン基である構成単位(2,6-ナフタレンジカルボン酸に由来する構成単位)、4,4’-ビフェニリレン基である構成単位(4,4’-ビフェニルジカルボン酸に由来する構成単位)、およびジフェニルエーテル-4,4’-ジイル基である構成単位(ジフェニルエーテル-4,4’-ジカルボン酸に由来する構成単位)が好ましい。
【0045】
芳香族ジオールとしての構成単位(III)は、Arが、1,4-フェニレン基である構成単位(ヒドロキノンに由来する構成単位)、4,4’-ビフェニリレン基である構成単位(4,4’-ジヒドロキシビフェニルに由来する構成単位)、フェニル-1,4-フェニレン基である構成単位(フェニルヒドロキノンに由来する構成単位)、およびジフェニルエーテル-4,4’-ジイル基である構成単位(4,4’-ジヒドロキシジフェニルエーテルに由来する構成単位)が好ましい。
【0046】
芳香族ヒドロキシアミンとしての構成単位(III)は、Arが、1,4-フェニレン基である構成単位(4-アミノフェノールに由来する構成単位)、および4,4’-ビフェニリレン基である構成単位(4-アミノ-4’-ヒドロキシビフェニルに由来する構成単位)が好ましい。
【0047】
溶融異方性芳香族ポリエステルにおける構成単位(I)の含有量は、全構成単位の合計量に対して、20~80モル%であってもよく、好ましくは30~75モル%、より好ましくは40~70モル%であってもよい。
【0048】
溶融異方性芳香族ポリエステルにおける構成単位(II)の含有量は、全構成単位の合計量に対して、10~40モル%であってもよく、好ましくは12.5~35モル%、より好ましくは15~30モル%であってもよい。
【0049】
溶融異方性芳香族ポリエステルにおける構成単位(III)の含有量は、全構成単位の合計量に対して、10~40モル%であってもよく、好ましくは12.5~35モル%、より好ましくは15~30モル%であってもよい。
【0050】
構成単位(II)の含有量と構成単位(III)の含有量とのモル比は、溶融異方性芳香族ポリエステルの分子量を高くしやすくして力学物性を向上させる観点からは、(II)/(III)として、90/100~100/90であってもよく、好ましくは95/100~100/95、より好ましくは98/100~100/98、さらに好ましくは100/100であってもよい。
【0051】
液晶ポリマーは、構成単位(II)および(III)を有する全芳香族ポリアミドであってもよく、例えば、テレフタル酸由来の構成単位および/またはイソフタル酸由来の構成単位の芳香族ジカルボン酸に由来する構成単位(II)と、少なくとも一種の芳香族ジアミンに由来する構成単位(III)とを含む共重合体が好ましい。
【0052】
芳香族ジアミンとしての構成単位(III)は、Arが、1,4-フェニレン基である構成単位(p-フェニレンジアミンに由来する構成単位)、1,3-フェニレン基である構成単位(m-フェニレンジアミンに由来する構成単位)、ジフェニルエーテル-3,4’-ジイル基である構成単位(3,4’-ジアミノジフェニルエーテルに由来する構成単位)、ジフェニルエーテル-4,4’-ジイル基である構成単位(4,4’-ジアミノジフェニルエーテルに由来する構成単位)、ジフェニルメチル-4,4’-ジイル基である構成単位(4,4’-ジアミノジフェニルメタンに由来する構成単位)、ジフェニルスルホン-3,4’-ジイル基である構成単位(3,4’-ジアミノジフェニルスルホンに由来する構成単位)が好ましい。
【0053】
液晶ポリマー繊維は、液晶ポリマーを50重量%以上含有していてもよく、好ましくは80重量%以上、より好ましくは90重量%以上、さらに好ましくは95重量%以上、さらにより好ましくは98重量%以上含有していてもよい。
【0054】
液晶ポリマー繊維は、繊維表面の算術平均粗さRaが0.20~0.50μmである。液晶ポリマー繊維の表面には細かい凹凸が形成され、特定の表面粗さを有しているため、摩擦対象物との接触面積を減らすことができ、耐摩耗性に優れる。表面の算術平均粗さRaが小さすぎると、摩擦対象物との接触面積が増え、摩耗量が大きくなるため、耐摩耗性が十分でない。一方、表面の算術平均粗さRaが大きすぎると、摩擦の抵抗が繊維表面の凸部に集中し、摩耗しやすくなるため、耐摩耗性が十分でない。繊維表面の算術平均粗さRaは、好ましくは0.23~0.48μm、より好ましくは0.25~0.45μmであってもよい。算術平均粗さRaは、JIS B 0601:2001に準じて測定される高さ方向の粗さの指標であり、基準長さの粗さ曲線において、その区間の凹凸状態を平均線から粗さ曲線までの偏差の絶対値の平均値で表したものである。本明細書において、算術平均粗さRaは、単繊維の繊維軸方向の表面の輪郭曲線から測定され、後述の実施例に記載した方法により測定される値である。
【0055】
液晶ポリマー繊維は、繊維表面の算術平均粗さRaの変動係数が0.45以下であってもよい。液晶ポリマー繊維表面の凹凸の程度がより均一であることによって、繊維全体として耐摩耗性を向上させることができ、製織等の加工時にガイド等と接触する際の摩耗を抑制でき、工程通過性を向上させることができる。繊維表面の算術平均粗さRaの変動係数は、好ましくは0.40以下、より好ましくは0.35以下、さらに好ましくは0.30以下、特に好ましくは0.25以下であってもよい。繊維表面の算術平均粗さRaの変動係数は、算術平均粗さRaの標準偏差/算術平均粗さRa(平均値)で算出でき、後述の実施例に記載した方法により測定される値である。
【0056】
液晶ポリマー繊維は、スメクタイト、バーミキュライトおよびクロライト(緑泥石)からなる群から選択される少なくとも一種の層状ケイ酸塩鉱物が繊維表面に付着していることが好ましい。この場合、液晶ポリマー繊維は、液晶ポリマーから主に構成される繊維本体部と、その繊維本体部を覆うように形成され、層状ケイ酸塩鉱物を含む表面付着部とで構成され、繊維表面の算術平均粗さRaは表面付着部の状態に影響を受ける。これらの層状ケイ酸塩鉱物は、層間距離が大きいためか、高度にへき開させることができるため、そのような層状ケイ酸塩鉱物を繊維表面に付着させることによって、より細かい凹凸を形成することができ、上記算術平均粗さRaを大きくすることが可能である。スメクタイト、バーミキュライトおよびクロライトは、それぞれ層状ケイ酸塩鉱物のグループ名(スメクタイト族、バーミキュライト族およびクロライト族)を示しており、これらのグループに属する層状ケイ酸塩鉱物であれば特に限定されない。これらのうち、膨潤性を有し、よりへき開しやすい観点から、スメクタイトが好ましい。
【0057】
液晶ポリマー繊維は、層間距離が1.0nm以上である層状ケイ酸塩鉱物が繊維表面に付着していることが好ましい。層状ケイ酸塩鉱物は、ケイ素イオンを中心とする(アルミニウムイオン等に置換されている場合もある)酸素四面体が二次元的に結合した四面体シートと、アルミニウムやマグネシウム等の金属イオンを中心とする酸素八面体が二次元的に網状につながった八面体シートとの組み合わせによる基本層を有し、そのような基本層が積み重なった層状構造を有する。層状ケイ酸塩鉱物の層間距離は、基本層間の平均距離であり、小角X線散乱法(SAXS)による(001)面の回折ピークから層間距離d(001)として測定することができる。層間距離が1.0nm以上である層状ケイ酸塩鉱物は、高度にへき開させることができるため好ましい。層状ケイ酸塩鉱物の層間距離は、好ましくは1.1nm以上、より好ましくは1.2nm以上であってもよく、上限値については、例えば、10nm以下であってもよい。
【0058】
層間距離が1.0nm以上である層状ケイ酸塩鉱物としては、スメクタイト、バーミキュライト、クロライト、および複数種の結晶構造が混じり合った混合層鉱物等が挙げられる。
【0059】
液晶ポリマー繊維においては、繊維表面の単位表面積当たりの層状ケイ酸塩鉱物の付着量は0.20~1.20μg/cmであってもよい。特定の層状ケイ酸塩鉱物の繊維表面への付着量を調整することによって算術平均粗さRaを調整することができる。繊維表面の単位表面積当たりの層状ケイ酸塩鉱物の付着量は、好ましくは0.20~1.00μg/cm、より好ましくは0.20~0.90μg/cmであってもよい。本明細書において、繊維表面の単位表面積当たりの層状ケイ酸塩鉱物の付着量は、繊維表面が凹凸のない平坦な形状であり、繊維断面が真円であるとみなし、繊度から算出される繊維の表面積を基準とした、層状ケイ酸塩鉱物の付着量を示し、後述の実施例に記載した方法により測定される値である。
【0060】
層状ケイ酸塩鉱物は、繊維自体を構成する繊維本体部に分散しているわけではなく、表面付着部として繊維本体部を被覆するように固着していることが好ましい。繊維表面に固着している場合、界面活性剤を含む水溶液での超音波洗浄を施したとしても層状ケイ酸塩鉱物の脱落を抑制することができる。
【0061】
液晶ポリマー繊維は、非複合繊維であってもよく、複合繊維であってもよい。特に、繊維本体部表面に液晶ポリマーが存在していることが好ましい。
【0062】
液晶ポリマー繊維は、用途等により単繊維繊度を適宜選択することができ、例えば、単繊維繊度が50dtex以下であってもよく、好ましくは15dtex以下、より好ましくは10dtex以下であってもよい。また、単繊維繊度の下限は特に限定されないが、例えば、0.01dtex程度であってもよい。単繊維繊度は、後述の実施例に記載した方法により測定される値である。
【0063】
液晶ポリマー繊維は、モノフィラメントであってもよく、マルチフィラメントであってもよい。マルチフィラメントの場合、そのフィラメント本数は用途等により適宜選択することができ、例えば、フィラメント本数は2~5000本であってもよく、好ましくは3~4000本、より好ましくは5~3000本であってもよい。
【0064】
液晶ポリマー繊維は、用途等により総繊度を適宜選択することができ、例えば、総繊度が50000dtex以下であってもよく、好ましくは10000dtex以下、より好ましくは5000dtex以下、さらに好ましくは2000dtex以下であってもよい。また、総繊度の下限は特に限定されないが、例えば、1dtex程度であってもよい。
【0065】
[液晶ポリマー繊維の製造方法]
液晶ポリマー繊維の製造方法は、層間距離が1.0nm以上である層状ケイ酸塩鉱物を油剤水性液に含有させ、撹拌機で周速6m/s以上で撹拌し、粘度が6.0mPa・s以上である分散液を調製する工程と、前記分散液を液晶ポリマー繊維に付与する工程と、を備えていてもよい。
【0066】
層状ケイ酸塩鉱物の分散液を液晶ポリマー繊維に付与することによって繊維表面に凹凸を形成できるが、本発明の発明者らは、特定の層状ケイ酸塩鉱物を用いる場合、分散液の層状ケイ酸塩鉱物の分散状態に応じて、付与された繊維表面の算術平均粗さRaに違いが生じることを見出した。層状ケイ酸塩鉱物は油剤水性液を分散媒とすると凝集しやすく分散しにくいが、非常に速い周速で撹拌して高せん断をかけることによって層状ケイ酸塩鉱物を高度にへき開させることができ、良好な分散性の分散液を得ることができることを見出した。このような層状ケイ酸塩鉱物を油剤水性液に特定量分散させて調製した分散液を用いることによって、液晶ポリマー繊維の繊維表面の算術平均粗さRaを調整できることを可能としている。
【0067】
分散液の調製工程では、層状ケイ酸塩鉱物を油剤水性液に添加し、撹拌機で周速6m/s以上で撹拌してもよい。このように非常に速い周速で撹拌できる撹拌機を用いることによって、層状ケイ酸塩鉱物を高度にへき開させることができ、油剤水性液中での分散性を良好にすることができる。撹拌機の周速は、好ましくは10~30m/s、より好ましくは10~20m/sであってもよい。撹拌機としては、上記周速で撹拌することができれば特に限定されず、例えば、ホモジナイザー、ホモミキサー等の高速回転せん断型撹拌機等を使用することができる。
【0068】
また、撹拌時間は、分散状態の保持性を向上させ、繊維表面により均一に付与する観点から、30分間以上であってもよく、好ましくは2時間以上、より好ましくは8時間以上、さらに好ましくは12時間以上であってもよい。撹拌時間の上限は特に限定されないが、例えば、生産性向上の観点から、24時間以下であってもよい。
【0069】
層状ケイ酸塩鉱物は油剤水性液に0.1~10wt%含有するように添加してもよい。層状ケイ酸塩鉱物の含有率は、油剤水性液および層状ケイ酸塩鉱物の合計量に対する層状ケイ酸塩鉱物の量の割合をいう。層状ケイ酸塩鉱物の含有率を調整することによって、分散液の粘度を調整できるとともに、繊維表面への付着量を調整することができる。層状ケイ酸塩鉱物は、好ましくは0.3~8wt%、より好ましくは0.5~5wt%含有するように油剤水性液に添加してもよい。
【0070】
油剤水性液に添加する層状ケイ酸塩鉱物の層間距離は、好ましくは1.1nm以上であってもよく、より好ましくは1.2nm以上であってもよい。
【0071】
油剤水性液に添加する層状ケイ酸塩鉱物は、スメクタイト、バーミキュライトおよびクロライトからなる群から選択される少なくとも一種の層状ケイ酸塩鉱物であってもよい。
【0072】
油剤水性液に添加する層状ケイ酸塩鉱物は、メジアン径が0.01~30μmであってもよく、好ましくは0.1~30μm、より好ましくは1~25μm、さらに好ましくは3~25μmであってもよい。メジアン径は、粒子径分布において累積容積が50%となる粒子径である。
【0073】
調製後の分散液は、粘度が6.0mPa・s以上であってもよい。上記の方法で分散させ、このような粘度を有していると、へき開した層状ケイ酸塩鉱物は凝集しにくく、分散状態を長時間保つことができるため、液晶ポリマー繊維へ安定的に付与することができる。また、層状ケイ酸塩鉱物をより均一に付着させる観点から、分散液の粘度は、好ましくは6.0~15mPa・s、より好ましくは6.0~10mPa・sであってもよい。
【0074】
分散液は、チキソトロピー性を有していることが好ましい。チキソトロピー性とは、応力を加えない静置状態では粘度が比較的高い状態であり、せん断応力を加えると粘度が低下し、せん断応力の印加をやめると時間経過とともに粘度が高くなり元に戻る性質である。分散液がチキソトロピー性を有している場合、液晶ポリマー繊維を走行させながら付与すると、せん断応力により粘度が低くなるためより均一に繊維表面に付着させることができ、付着させた後は粘度が高くなり繊維表面に定着させることができる。分散液のチキソトロピー性は、調製工程の撹拌に伴う分散液の粘度挙動を確認することにより判断してもよい。すなわち、撹拌中は分散液の粘度が下がり、撹拌を停止した後では、分散液の粘度が増加するという粘度挙動を確認することにより判断できる。調製後の分散液は、安定的に繊維表面に付着させる観点から、チキソトロピー性の安定性を有することが好ましく、チキソトロピー性の安定性が高いと調製後の分散液の粘度は高くなるため、分散状態の保持性を向上させることができる。例えば、調製後の分散液を静置させて8時間以上層状ケイ酸塩鉱物が分散状態にあることが好ましく、24時間以上層状ケイ酸塩鉱物が分散状態にあることがより好ましい。
【0075】
層状ケイ酸塩鉱物を分散させる油剤水性液に含まれる油剤は、繊維に使用される公知の油剤を使用することができ、例えば、リン酸系化合物等が挙げられる。油剤水性液は、水性媒体に油剤が溶解した油剤水性溶液であってもよく、水性媒体に油剤が分散した油剤水性分散液であってもよい。また、水性媒体としては水や親水性有機溶媒等が挙げられ、親水性有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、プロピレングリコール等のアルコール類が挙げられる。また、油剤水性液は、油剤が0.1~10wt%含まれていてもよく、好ましくは0.3~5wt%、より好ましくは0.5~3wt%含まれていてもよい。
【0076】
分散液の付与工程では、上記で調製した分散液を液晶ポリマー繊維に付与する。付与方法は特に限定されず、例えば、含浸処理、吐出処理、塗布処理、浸漬搾液処理等の公知の付与方法が挙げられ、オイリングローラーやカラス口等のオイリングガイドを用いて走行中の液晶ポリマー繊維に付与することが好ましい。
【0077】
分散液の付与は、紡糸された紡糸原糸を巻き取る間に行ってもよいし、紡糸して一旦巻き取られた紡糸原糸を巻き返す際に行ってもよい。また、分散剤の付与は、1回で行ってもよく、複数回に分けて行ってもよい。液晶ポリマー繊維の紡糸方法は、その種類に応じて公知の液晶紡糸により行うことができ、例えば、溶融異方性芳香族ポリエステル繊維は溶融紡糸により得ることができ、全芳香族ポリアミド繊維やポリベンズアゾール繊維は、乾式紡糸、湿式紡糸、乾湿式紡糸等の溶液紡糸により得ることができる。
【0078】
分散液を付与した後、液晶ポリマー繊維に熱処理および/または熱延伸を行ってもよい。分散液の付与は、熱処理または熱延伸の前に行うのが好ましく、液晶ポリマー繊維は、紡糸原糸に対して熱処理や熱延伸を行うことで力学物性を向上させることができるが、熱処理や熱延伸では高温にさらす必要があり、その際に単繊維同士が膠着してしまうため、熱処理または熱延伸の前に層状ケイ酸塩鉱物を繊維表面に付着させることによって、膠着抑制することができる。そして、層状ケイ酸塩鉱物を繊維表面に付着させた状態で熱処理や熱延伸を行うことによって、層状ケイ酸塩鉱物を繊維表面に固着させることができる。熱処理および/または熱延伸は、液晶ポリマー繊維の種類に応じて公知の方法により行うことができる。
【0079】
例えば、溶融異方性芳香族ポリエステル繊維の紡糸原糸に対しては、熱処理を施すことにより、固相重合を進行させ、繊維の強度および弾性率を向上させることが可能である。熱処理の方法は特に限定されず、例えば、バッチ式での熱処理であってもよく、搬送による連続熱処理であってもよい。バッチ式での熱処理では、例えば、ボビンにパッケージ状に巻き付けた状態や、カセ状、トウ状で熱処理を行ってもよく、設備が簡素化でき、生産性も向上する点からパッケージ状で行うことが好ましい。搬送による連続熱処理の場合、その搬送方法として、接触搬送(例えば、コンベア方式、サポートロール方式、加熱されたローラー状での熱処理方式)、非接触搬送(ロール・トゥ・ロール方式)のいずれで行ってもよい。
【0080】
熱処理は、公知の方法を用いることができ、例えば、雰囲気加熱、接触加熱等の手段が挙げられる。雰囲気としては空気、不活性ガス(例えば、窒素、アルゴン)またはそれらを組み合わせた雰囲気等が好適に用いられる。また、熱処理を減圧下で行っても何等差し支えない。
【0081】
熱処理温度は230℃以上であってもよく、効率的な強度向上の観点から、好ましくは240℃以上、より好ましくは250℃以上であってもよい。また、熱処理温度は、融解を防ぐために紡糸原糸の融点未満であってもよい。固相重合の進行と共に溶融異方性芳香族ポリエステル繊維の融点は上昇するため、最初の熱処理温度を紡糸原糸の融点未満にすればよく、効率的な強度向上の観点から、熱処理温度を固相重合の進行状態に応じて段階的に高め、熱処理に供する時点の融点(紡糸原糸の融点)を超えた温度で熱処理してもよい。
【0082】
熱処理の方法や熱処理温度に応じて熱処理時間を適宜設定することができる。例えば、15分~30時間の範囲から設定することができ、好ましくは2~24時間、より好ましくは3~20時間であってもよく、ここでの熱処理時間とは、所定の熱処理温度における保持時間を示す。
【0083】
例えば、全芳香族ポリアミド繊維の紡糸原糸に対して、熱延伸および必要に応じて熱処理を施してもよい。熱延伸は、加熱浴、加熱蒸気吹き付け、ローラーヒーター、接触プレートヒーター、非接触プレートヒーター等を使用して行ってもよい。熱処理は、搬送による連続熱処理で行ってもよい。
【0084】
[繊維構造体]
液晶ポリマー繊維は、これを少なくとも一部に含む繊維構造体として各種用途に使用することができる。液晶ポリマー繊維を含む繊維構造体は、ステープルファイバー、ショートカットファイバー、フィラメントヤーン、紡績糸、紐状物、ロープなどのあらゆる繊維形態として使用することができる。また、液晶ポリマー繊維を用いた不織布、織物、編物などの各種布類として使用することもできる。このような繊維や布類は、公知の方法により液晶ポリマー繊維を用いて製造することができる。
【0085】
繊維構造体は、本発明の効果を損なわない限り、液晶ポリマー繊維と他の繊維とを組み合わせてもよい。例えば、液晶ポリマー繊維と他の繊維とを使用した複合繊維(例えば、液晶ポリマー繊維と他の繊維とを混繊した混繊糸等)を用いることができる。また、液晶ポリマー繊維と他の繊維とを使用した複合布類(例えば、液晶ポリマー繊維と他の繊維とを混繊した混繊布類や、液晶ポリマー繊維からなる布類と他の繊維からなる布類との積層物等)を用いることができる。
【0086】
液晶ポリマー繊維は、各種繊維構造体の形態で一般産業用資材、土木・建築資材、各種補強材料、電気・電子部品材料、各種繊維製品等の各種用途に使用することができる。例えば、テンションメンバー(電線、光ファイバー、アンビリカルケーブル、ヒーター線芯糸、イヤホンコード等の各種電気製品のコード等)、セールクロス、ロープ(海洋、登山、クレーン、ヨット、タグ等)、ザイル、陸上ネット、スリング、命綱、釣糸、縫い糸、網戸コード、漁網、延縄、ジオグリッド、防護手袋、防護衣・アウトドア衣料のリップストップ、ライダースーツ、スポーツ用ラケット、ガット、医療用カテーテル補強材、縫合糸、スクリーン紗、フィルター、プリント基板用基布、メッシュ状搬送ベルト、抄紙用ベルト、ドライヤーカンバス、飛行船、気球、エアーバッグ、スピーカーコーン、各種ホース・パイプ用の補強材、タイヤ・コンベアベルト等のゴム・プラスチック等の補強材等の高次加工製品等に使用することができる。
【実施例0087】
以下に、実施例に基づき本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらにより何ら制限を受けるものではない。なお、以下の実施例及び比較例においては、下記の方法により各種物性を測定した。
【0088】
(樹脂チップ(粒状成型体)の融点)
JIS K 7121に準拠し、示差走査熱量計(DSC;株式会社島津製作所製「DSC60A Plus」)を用いて測定し、観察される主吸収ピーク温度を融点とした。具体的には、前記DSC装置に、試料を4~6mgをとりアルミ製パンへ封入した後、キャリヤーガスとして窒素を200mL/分の流量で流し、25℃から10℃/分で昇温したときの溶融異方性芳香族ポリエステル由来の吸熱ピークを測定した。
【0089】
(層状ケイ酸塩鉱物の層間距離)
小角X線散乱装置(株式会社リガク製「NANO-VIEWER」)を用いて層状ケイ酸塩鉱物の層間距離を測定した。X線源には200kV、30mAのCuKα線源を用い、検出器には2次元のCCD検出器を用いた。サンプル-検出器間の距離(カメラ長)は700mmとした。サンプルは、層状ケイ酸塩鉱物を7.0wt%含有するように水に分散させた水分散液を使用し、ポリアセテート膜またはカプトン膜を窓材とする光路長2mmの組立型セル(金属製)に封入して、サンプルホルダ部分に設置した。測定時間は標準的には30分とした。得られたデータは検出器の暗信号、分散媒および窓材からの散乱、並びX線の透過率を考慮して補正し、(001)面の回折ピークの位置(2θ)から層間距離を算出した。
【0090】
(層状ケイ酸塩鉱物のメジアン径)
レーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置(株式会社堀場製作所製「LA-950V2」)を使用して、アクセサリに乾式ユニットを使用し、層状ケイ酸塩鉱物が圧縮空気で分散された状態で粒子径分布を測定した。試料屈折率を1.700-0.000i、分散媒(空気)屈折率を1.000とした。得られた粒子径分布から層状ケイ酸塩鉱物のメジアン径を測定した。
【0091】
(分散液の粘度)
粘度計(レオシス社製「PN200100」)を用い、粘度に応じた回転部を取り付け、実施例および比較例で調製した分散液の粘度を測定した。分散液12mL(回転部が完全に浸漬するまで)を入れ、回転数1000/s、温度20±0.1℃で、50秒間一定回転数で運転した後10秒間における測定値の平均値を1点の粘度データとして測定した(1分間毎に1点)。この測定を10分間継続し、10点の粘度データを測定し、この平均値を分散液の粘度とした。
【0092】
(分散液のチキソトロピー性の安定性)
実施例および比較例で調製した分散液のチキソトロピー性の有無は、撹拌後の分散液を静置すると、撹拌中の分散液より流動性が低下しているか否かを目視により確認することにより行った。撹拌後の分散液を静置させて所定時間経過後に、レーザー光線を照射して目視により分散媒と層状ケイ酸塩鉱物とが分離しているか否かを確認し、分離していない場合に層状ケイ酸塩鉱物が沈降しておらず、分散状態を保持していると判断した。分散液のチキソトロピー性の安定性は、以下の基準により評価した。
◎:24時間経過後も分散状態を保持していた。
〇:8時間以上24時間未満で層状ケイ酸塩鉱物と分散媒が分離した。
△:8時間未満で層状ケイ酸塩鉱物と分散媒が分離した。
【0093】
(算術平均粗さRa)
JIS B 0601:2001に準拠し、株式会社キーエンス製レーザーマイクロスコープ(コントローラ部「VK-X200」、測定部「VK-X210」)を用いて、倍率3000倍(対物150倍×20)にて、以下の方法で液晶ポリマー繊維の繊維表面の算術平均粗さRaを測定した。
【0094】
長さ1m以上の液晶ポリマー繊維糸条を採取し、その糸条から長さ7cmのサンプルを一方の端部から3cm間隔で計10本採取した。サンプルの繊維表面の異物を除去するために、純水にドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムを2.0重量%添加した水溶液に、採取したサンプルを浸漬させ、室温にて20分間超音波洗浄した。洗浄後のサンプルを水洗し、風乾させた。風乾後のサンプルをスライドガラス(縦2.6cm×横7.6cm)の上にサンプル同士が重ならないように置き、サンプルの両端をセロハンテープで固定した。サンプルを固定したスライドガラスをレーザーマイクロスコープのステージにセットして、各サンプルの中央部(サンプル中心から±5mmの範囲)を観察した。
【0095】
パソコン上で観察アプリケーション(VK-H1XV)を起動し、「画像観察モード」にて、まず低倍率の対物レンズで対象サンプル1本の中央部に焦点を合わせた後に、対物レンズを150倍に変更して再度焦点を合わせた。この際、観察視野の横軸方向と繊維軸方向が平行となるようにスライドガラスまたはステージを調整した。その後、観察アプリケーション(VK-H1XV)の「形状測定モード」にて、「エキスパート」を選択し、レーザー画像を表示させた状態でレーザーの明るさを調節した後、観察視野内の対象サンプルの上端と両側面が含まれるように測定範囲(高さ方向)の上限および下限を設定した。測定モードを「表面形状」、測定サイズを「高精細」、測定品質を「高精度」にそれぞれ設定し、RPD(Real Peak Detection)のチェックボックスをONにした状態で「測定開始」を選択し、得られた測定結果(画像ファイル)を保存した。この際、測定ピッチは0.080μmとした。その後、パソコン上で解析アプリケーション(VK-H1XA)を起動し、得られた画像ファイルを開き、表示桁数を小数点以下2桁に設定し、「計測解析」メニューから「線粗さ」を選択し、線粗さ計測ウィンドウを表示させた。計測ラインの中から「平行線」を選択し、計測ラインが画像上の繊維軸方向と平行となるように繊維の中央部に計測ラインを引いた。傾き補正(直線(自動))を実施し、計測結果に表示された算術平均粗さRaを記録した。10本のサンプルについて得られた算術平均粗さRaの平均値を、液晶ポリマー繊維の繊維表面の算術平均粗さRa(μm)として算出した。
【0096】
また、10本のサンプルの算術平均粗さRaのデータから標準偏差を算出し、以下の式より算術平均粗さRaの変動係数を算出した。
算術平均粗さRaの変動係数=標準偏差/平均値
【0097】
(層状ケイ酸塩鉱物の付着量)
液晶ポリマー繊維に付着した層状ケイ酸塩鉱物の付着量はソックスレー抽出法により測定した。具体的には、層状ケイ酸塩鉱物および油剤を含む分散液を付与した液晶ポリマー繊維5gをソックスレー抽出器に入れ、抽出溶媒のn-ヘキサンと沸石を平底フラスコに入れ、10Lのウォーターバス(100℃)で2.5時間抽出した。その後、n-ヘキサンを蒸発させ、抽出後の油剤の重量を秤量し、抽出前の液晶ポリマー繊維の重量から重量法により、油剤付着率を算出した。得られた油剤付着率と、分散液中の油剤と層状ケイ酸塩鉱物との割合から、層状ケイ酸塩鉱物の繊維付着量を計算にて求めた。得られた層状ケイ酸塩鉱物の付着量を繊維の表面積で除することにより、単位表面積当たりの付着量(μg/cm)を算出した。繊維の表面積は、繊維表面が凹凸のない平坦な形状であり、繊維断面が真円であると仮定し、後述で測定した単繊維繊度から単繊維の直径に換算し、単繊維の表面積を算出し、これにフィラメント本数を掛けることにより算出した。
【0098】
(総繊度、単繊維繊度)
JIS L 1013:2010 8.3.1 A法に基づき、株式会社大栄科学精器製作所製検尺器「Wrap Reel by Motor Driven」を用いて液晶ポリマー繊維を10mカセ取りし、その重量(g)を1000倍して1水準当たり3回の測定を行い、3回の測定値の平均値を、得られた液晶ポリマー繊維の総繊度(dtex)とした。また、この値をフィラメント本数で除した商を単繊維繊度(dtex)とした。
【0099】
(耐摩耗性)
株式会社大栄科学精器製作所製高速型糸摩擦抱合力試験機「TM-200」を用い、120°の角度で摩擦体(サファイヤ)に試験対象の液晶ポリマー繊維を接触させ、繊維に0.4g/dtexの荷重をかけ、ストローク長3cm、速度95回/分で往復運動を行い、往復回数100回毎にカメラで20倍に拡大して毛羽の有無を確認した。毛羽の発生が確認された回数を測定値とし、試験を5回行い、その平均値(回)を算出した。ここで、長さ1mm以上の毛羽を確認した場合に毛羽が発生していると判定した。
【0100】
[実施例1]
メジアン径18μm、層間距離1.2nmのスメクタイトを、紡糸油剤水溶液に1.07wt%の含有率となるように添加し、高分散ホモジナイザーを用いて周速15m/sで12時間撹拌した。得られた分散液の粘度は7.2mPa・sであり、チキソトロピー性を有しており、分散状態の保持性にも優れていた。
【0101】
4-ヒドロキシ安息香酸由来の構成単位と、6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸由来の構成単位とが73/27(mol%)で構成される溶融異方性芳香族ポリエステル(α)(Mp:278℃)のチップ(粒状成型体)を120℃で4時間以上熱風乾燥させた。その後、単軸押出機にて溶融押出しを行い、ギアポンプで計量しつつ紡糸頭に溶融混練物を供給した。紡糸頭では、金属不織布フィルタで溶融混練物を濾過し、孔径0.10mmφ、ランド長0.14mm、孔数300個の紡糸口金から吐出量135.4g/minで溶融混練物を吐出した。吐出された糸状物に対して、紡糸口金直下に配置したオイリングガイドから上記分散液を付与し、第1ゴデットロールに引き取り、第2ゴデットロールを介した後、ダンサーローラを介しワインダーにて800m/minでチーズ状に巻き取り、1670dtex/300フィラメントの紡糸原糸を得た。
【0102】
得られた紡糸原糸を、リワインダーを用いて、縦方向(繊維周回方向に対し垂直方向)に解舒し、ステンレス製の穴あきボビンに不織布を巻いたものに巻き返し、熱処理用ボビンパッケージを得た。得られたパッケージを窒素雰囲気下、275℃で16時間熱処理を行い、溶融異方性芳香族ポリエステル繊維の熱処理糸を得た。その後、熱処理糸を、リワインダーを用いて、横方向(繊維周回方向に対し水平方向)に解舒して巻き返しを行い、その際に仕上げ油剤を付与した。得られた溶融異方性芳香族ポリエステル繊維の分析結果を表5に示す。
【0103】
[実施例2]
実施例1に記載の溶融異方性芳香族ポリエステル(α)ではなく、6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸由来の構成単位と、2,6-ナフタレンジカルボン酸に由来する構成単位と、ヒドロキノンに由来する構成単位と、4,4’-ジヒドロキシビフェニルに由来する構成単位とが60/20/15/5(mol%)で構成される溶融異方性芳香族ポリエステル(β)(Mp:309℃)を使用し、孔径0.06mmφ、ランド長0.084mm、孔数100個の紡糸口金を使用し、紡糸時の吐出量を10.13g/min、巻取速度を900m/minにしたこと以外は実施例1と同様にして紡糸原糸を得た。その後、紡糸原糸の熱処理温度を295℃とした以外は、実施例1と同様にして熱処理糸を得た。
【0104】
[実施例3]
孔径0.06mmφ、ランド長0.084mm、孔数100個の紡糸口金を使用し、紡糸時の吐出量を11.25g/min、巻取速度を1000m/minにしたこと以外は実施例1と同様にして熱処理糸を得た。
【0105】
[実施例4]
撹拌時間を30分に変更した以外は実施例1と同様にして分散液を得た。得られた分散液の粘度は6.2mPa・sであり、チキソトロピー性を有しており、分散状態を保持できていた。上記分散液を用いた以外は実施例1と同様にして熱処理糸を得た。
【0106】
[比較例1]
メジアン径2μm、層間距離0.9nmの雲母を、紡糸油剤水溶液に1.07wt%の含有率となるように添加し、低分散プロペラ翼撹拌機を用いて周速1.2m/sで12時間撹拌した。得られた分散液の粘度は5.5mPa・sであり、チキソトロピー性を有していたが、分散状態を保持できなかった。上記分散液を用いた以外は実施例1と同様にして熱処理糸を得た。
【0107】
[比較例2]
メジアン径2μm、層間距離0.9nmの雲母を、紡糸油剤水溶液に1.07wt%の含有率となるように添加し、高分散ホモジナイザーを用いて周速15m/sで12時間撹拌した。得られた分散液の粘度は5.7mPa・sであり、チキソトロピー性を有していたが、分散状態を保持できなかった。上記分散液を用いた以外は実施例1と同様にして熱処理糸を得た。
【0108】
[比較例3]
メジアン径18μm、層間距離1.2nmのスメクタイトを、紡糸油剤水溶液に1.07wt%の含有率となるように添加し、低分散プロペラ翼撹拌機を用いて周速1.2m/sで12時間撹拌した。得られた分散液の粘度は5.8mPa・sであり、チキソトロピー性を有していたが、分散状態を保持できなかった。上記分散液を用いた以外は実施例1と同様にして熱処理糸を得た。
【0109】
[比較例4]
低分散プロペラ翼撹拌機での撹拌時間を24時間に変更した以外は比較例3と同様にして分散液を得た。得られた分散液の粘度は5.8mPa・sであり、チキソトロピー性を有していたが、分散状態を保持できなかった。上記分散液を用いた以外は実施例1と同様にして熱処理糸を得た。
【0110】
[比較例5]
紡糸口金直下に配置したオイリングガイドに接続されたギヤポンプの回転数を調整し、分散液の付与量を変更した以外は実施例1と同様にして熱処理糸を得た。熱処理糸のスメクタイトの付着量は2.00μg/cmであった。
【0111】
[比較例6]
紡糸口金直下に配置したオイリングガイドに接続されたギヤポンプの回転数を調整し、分散液の付与量を変更した以外は実施例3と同様にして熱処理糸を得た。熱処理糸のスメクタイトの付着量は1.30μg/cmであった。
【0112】
[比較例7]
層状ケイ酸塩鉱物を添加せずに紡糸油剤水溶液を使用したこと以外は実施例1と同様にして熱処理糸を得た。
【0113】
[比較例8]
紡糸口金直下に配置したオイリングガイドに接続されたギヤポンプの回転数を調整し、分散液の付与量を変更した以外は実施例2と同様にして熱処理糸を得た。熱処理糸のスメクタイトの付着量が1.30μg/cmであった。
【0114】
【表5】
【0115】
表5に示すように、実施例1~4の液晶ポリマー繊維の繊維表面の算術平均粗さRaが特定の範囲にあり、優れた耐摩耗性を示している。耐摩耗性は、繊維を構成する液晶ポリマーの種類および単繊維繊度やフィラメント本数等の繊維構成に影響を受けるが、実施例1および4の液晶ポリマー繊維は、同様の液晶ポリマーの種類および繊維構成を有し、繊維表面の算術平均粗さRaの小さい比較例1~4および7、ならびに繊維表面の算術平均粗さRaの大きい比較例5の液晶ポリマー繊維と比較して、耐摩耗性に優れている。
【0116】
実施例2の液晶ポリマー繊維は、同様の液晶ポリマーの種類および繊維構成を有し、繊維表面の算術平均粗さRaの大きい比較例8の液晶ポリマー繊維と比較して、耐摩耗性に優れている。
【0117】
実施例3の液晶ポリマー繊維は、同様の液晶ポリマーの種類および繊維構成を有し、繊維表面の算術平均粗さRaの大きい比較例6の液晶ポリマー繊維と比較して、耐摩耗性に優れている。
【産業上の利用可能性】
【0118】
液晶ポリマー繊維は、一般産業用資材、土木・建築資材、各種補強材料、電気・電子部品材料、各種繊維製品等の各種用途に使用することができる。
【0119】
以上のとおり、本発明の好適な実施形態を説明したが、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、種々の追加、変更または削除が可能であり、そのようなものも本発明の範囲内に含まれる。