(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024143369
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】エッチング方法及びエッチング装置
(51)【国際特許分類】
H01L 21/3065 20060101AFI20241003BHJP
H01L 21/302 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
H01L21/302 104Z
H01L21/302 201A
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023056011
(22)【出願日】2023-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000219967
【氏名又は名称】東京エレクトロン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002756
【氏名又は名称】弁理士法人弥生特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高橋 信博
(72)【発明者】
【氏名】萩原 彩乃
(72)【発明者】
【氏名】福田 智朗
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 健斗
(72)【発明者】
【氏名】今井 佑輔
【テーマコード(参考)】
5F004
【Fターム(参考)】
5F004AA05
5F004AA09
5F004BA19
5F004BB18
5F004BB26
5F004BB28
5F004CA01
5F004CA04
5F004DA00
5F004DA17
5F004DA20
5F004DA23
5F004DA25
5F004DB00
5F004EA28
5F004EA34
(57)【要約】
【課題】シリコンゲルマニウム膜をエッチングするにあたり、シリコンゲルマニウム膜に隣接する膜がエッチングされることを抑えつつ、エッチング後の残渣を低減させること。
【解決手段】本開示のエッチング方法は、基板に形成されたシリコンゲルマニウム膜をエッチングする方法において、前記基板にフッ素含有ガスである第1エッチングガスを、第1の時間供給する第1工程と、前記第1工程後、前記基板に前記第1エッチングガスとは種類が異なるフッ素含有ガスである第2エッチングガスを、前記第1の時間よりも短い第2の時間供給する第2工程と、を含む。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板に形成されたシリコンゲルマニウム膜をエッチングする方法において、
前記基板にフッ素含有ガスである第1エッチングガスを、第1の時間供給する第1工程と、
前記第1工程後、前記基板に前記第1エッチングガスとは種類が異なるフッ素含有ガスである第2エッチングガスを、前記第1の時間よりも短い第2の時間供給する第2工程と、
を含むエッチング方法。
【請求項2】
前記第1工程は、前記基板の表面に各々露出する前記シリコンゲルマニウム膜と、シリコン膜とのうち、前記シリコンゲルマニウム膜を選択的にエッチングする工程であり、
前記第2工程は、前記シリコンゲルマニウム膜の残部をエッチングする工程である請求項1記載のエッチング方法。
【請求項3】
前記第2エッチングガスは、三フッ化塩素ガスである請求項2記載のエッチング方法。
【請求項4】
前記基板には、
シリコン含有膜と、
前記シリコン含有膜と前記シリコンゲルマニウム膜との間に介在する多孔質膜と、
が設けられる請求項3記載のエッチング方法。
【請求項5】
前記第1工程、前記第2工程は、処理容器内に格納された前記基板に対して、前記第1エッチングガス、前記第2エッチングガスを夫々供給する工程であり、
前記第2工程における前記処理容器内の圧力を、前記第1工程における前記処理容器内の圧力よりも低い圧力とする工程を含む請求項1記載のエッチング方法。
【請求項6】
基板に形成されたシリコンゲルマニウム膜をエッチングする装置において、
前記基板を格納する処理容器と、
前記処理容器内にフッ素含有ガスである第1エッチングガスを、第1の時間供給する第1
ガス供給部と、
前記第1エッチングガスの供給後、前記処理容器内に前記第1エッチングガスとは種類が異なるフッ素含有ガスである第2エッチングガスを、前記第1の時間よりも短い第2の時間供給する第2ガス供給部と、
を備えるエッチング装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、エッチング方法及びエッチング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体装置を製造するにあたり、基板である半導体ウエハ(以下、ウエハと記載する)の表面に形成されたSiGe膜をエッチングする場合が有る。特許文献1では、Si膜及びSiGe膜からなる積層膜がウエハ上に形成されており、この積層膜のSiGe膜を選択的にエッチングするにあたり、HFガス及びClF3ガスを同時に供給することが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本開示は、シリコンゲルマニウム膜をエッチングするにあたり、シリコンゲルマニウム膜に隣接する膜がエッチングされることを抑えつつ、エッチング後の残渣を低減させることができる技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示のエッチング方法は、基板に形成されたシリコンゲルマニウム膜をエッチングする方法において、
前記基板にフッ素含有ガスである第1エッチングガスを、第1の時間供給する第1工程と、
前記第1工程後、前記基板に前記第1エッチングガスとは種類が異なるフッ素含有ガスである第2エッチングガスを、前記第1の時間よりも短い第2の時間供給する第2工程と、
を含む。
【発明の効果】
【0006】
本開示は、シリコンゲルマニウム膜をエッチングするにあたり、シリコンゲルマニウム膜に隣接する膜がエッチングされることを抑えつつ、エッチング後の残渣を低減させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】本開示の一実施形態に係るエッチング処理がなされるウエハの縦断側面図である。
【
図2】前記エッチング処理を示すフローを示すチャート図である。
【
図3】前記エッチング処理に用いるガスの給断及び処理容器の圧力の変化のタイミングを示すチャート図である。
【
図4】前記エッチング処理後のウエハの縦断側面図である。
【
図5】前記エッチング処理を行う装置の一実施形態に係る縦断側面図である。
【
図7】評価試験で得られた基板のチップの画像及び各種の試験結果を示す説明図である。
【
図10】評価試験で得られた基板のチップの画像及び各種の試験結果を示す説明図である。
【
図11】評価試験で得られた基板のチップの画像及び各種の試験結果を示す説明図である。
【
図12】評価試験で用いた基板の縦断側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本開示のエッチング方法の一実施形態について説明するにあたり、エッチングを行う対象の基板であるウエハW上に形成された膜構造について説明する。
図1は、その膜構造についての縦断正面図である。図中では、ウエハWの面方向における互いに直交する2つの方向をX方向、Y方向として示すと共に、ウエハWの厚さ方向であって、X方向及びY方向の各々に直交する方向をZ方向として示している。以下の説明では、ウエハWが水平に載置されているものとして、X方向を左右方向、Y方向を前後方向、Z方向を鉛直方向として夫々記載する場合が有る。
【0009】
ウエハWに形成される下地膜11上に、Si(シリコン)膜12、SiGe(シリコンゲルマニウム)膜13及び多孔質膜14によって構成される積層体15が多数設けられている。この積層体15中のSiGe膜13が、エッチング対象の膜である。積層体15は前後方向、左右方向の夫々に互いに間隔を空けて複数設けられ、平面視では行列状に配置されている。多孔質膜14は例えば絶縁膜であり、より具体的には例えばSiOC(炭素添加シリコンオキサイド)やSiCOHやSiOCN(Si、酸素、窒素及び炭素により構成される膜)などからなるlow-k膜である。
【0010】
上記の積層体15の構造について、さらに述べる。SiGe膜13の左側、右側に各々隣接して、多孔質膜14が形成されている。従って、SiGe膜13及びSi膜12が並ぶ方向と、SiGe膜13と多孔質膜14とが並ぶ方向とは、互いに交差する。SiGe膜13と、左右に隣接する多孔質膜14と、を隣接体と呼ぶことにすると、積層体15は、複数の隣接体と複数のSi膜12とが積層されることで構成され、隣接体とSi膜12とが鉛直方向(Z方向)に見て交互に位置している。積層体15の上端部は、隣接体とSi膜12のうち、Si膜12によって構成されている。そして、左右に並ぶ積層体15間には半導体膜16が設けられており、積層体15と半導体膜16とは、互いに隣接している。半導体膜16は、ウエハWから製造される半導体製品におけるソースまたはドレインを形成する膜であり、例えばSiまたはSiGeによって構成されている。
【0011】
また、積層体15及び半導体膜16上には上層膜17が設けられている。この上層膜17には前後方向に伸びる溝18が左右に間隔を空けて複数形成されることで、当該上層膜17は左右に分割されており、各溝18は、鉛直方向(Z方向)においてSiGe膜13に重なる位置に設けられている。そして上層膜17の下部側は、前後方向に並ぶ積層体15間に向けて伸びることで、陥入部(図示せず)として構成されている。陥入部と、積層体15におけるSi膜12及びSiGe膜13と、が側壁をなす凹部10が形成されており、この凹部10は溝18に接続されている。つまり、この凹部10は左右方向(X方向)においては各上層膜17間に開口しており、Z方向に伸びる。従って、Si膜12及びSiGe膜13は凹部10の側壁としてウエハWの表面に露出しており、ウエハWの上方に供給されたエッチングガスに曝される。なお、半導体膜16については上層膜17に被覆され、ウエハWの表面には露出していない。
【0012】
なお、詳細な構成の記載を省略しているが、上記の上層膜17は、酸化シリコン(SiO2)膜や、SiOCNにより構成される絶縁膜などの複数の種類の膜により構成されている。なお、上層膜17は後述のエッチングガスに対する耐性を有しており、当該エッチングガスによる上方からの半導体膜16のエッチングが防止される。
【0013】
上記した膜構造であるため、ウエハWの上方に供給されたエッチングガスが溝18を介して凹部10内に流入し、SiGe膜13を側方に向けてエッチングすることができる。より具体的には、そのように凹部10に流入したガスが
図1の紙面の表裏方向(Y方向)へと流れることで、各段のSiGe膜13をエッチングする。ところでSi膜12及びSiGe膜13は互いに隣接するが、これらのSi膜12及びSiGe膜13のうち、SiGe膜13を選択的にエッチングし、且つエッチング終了後のSi膜12のラフネス(表面粗さ)を抑えることが求められている。さらにエッチング終了後においてSi膜12の表面に、SiGe膜13に由来するGe(ゲルマニウム)の残渣が残らないようにすることも求められている。
【0014】
また、SiGe膜13は多孔質膜14を介して半導体膜16に隣接しており、SiGe膜13のエッチング進行中においても、半導体膜16は上記の上層膜17と多孔質膜14とに被覆され、ウエハWの表面には露出しない。しかしこのエッチングの進行中に、エッチングガスはこの多孔質膜14の孔を通過して、半導体膜16に供給され得る。この半導体膜16のエッチングが抑制されるように、SiGe膜13をエッチングすることについても求められている。本実施形態におけるエッチングは、それらの要請に応えることができる。
【0015】
以下、本実施形態のエッチング処理について、
図2のフローチャート及び
図3のタイミングチャートを参照して具体的に説明する。このエッチング処理は、
図1で説明したウエハWを真空雰囲気が形成される処理容器内に格納した状態で、2種類のフッ素含有ガスであるエッチングガスを供給することで行われる。タイミングチャートは、その処理容器内への各エッチングガスの給断のタイミングと、当該処理容器内における圧力が変更されるタイミングと、を示している。
【0016】
先ず、
図1で説明したウエハWを処理容器内に搬入する。そして、処理容器内の排気を行うことによって、当該処理容器内に所定の第1の圧力の真空雰囲気を形成する。そして第1エッチングガスとして例えばF
2(フッ素)ガスを処理容器内に供給する(時刻t1、ステップS1)。それによりSi膜12及びSiGe膜13のうち、SiGe膜13の選択的なエッチングを行う。時刻t1から予め設定された第1の時間が経過して時刻t2となると、処理容器内へのF
2ガスの供給が停止される一方で、第2エッチングガスであるClF
3(三フッ化塩素)ガスの処理容器内の供給を開始する。さらに処理容器内の排気流量を調整することで当該処理容器内の圧力を低下させ、第1の圧力よりも低い第2の圧力とする(ステップS2)。供給されたClF
3ガスによって、処理容器内に残留するF
2ガスが処理容器内からパージされると共に、SiGe膜13のうちの残部がエッチングされる。
【0017】
時刻t2から予め設定された第2の時間が経過して時刻t3になると、ClF
3ガスの処理容器内への供給が停止する。この第2の時間(時刻t2~t3の時間)は、第1の時間(時刻t1~t2の時間)よりも短い時間である。
図4は、エッチング処理の終了後のウエハWの縦断正面を示している。処理容器内には不活性ガスが供給されることでClF
3ガスが処理容器内からパージされてエッチング処理が終了し、ウエハWは処理容器内から搬出される。
【0018】
このように本実施形態のエッチング処理ではガスの種類を変更して、二段階のエッチングを行う。この理由を説明すると、Si膜及びSiGe膜が隣接する構造体のSiGe膜をエッチングするにあたっては、後述の評価試験で示すようにClF3ガスを用いる場合はF2ガスを用いる場合に比べると、エッチング後におけるSi膜へのGeの残渣の付着及びSi膜のラフネスを抑えることができる。しかし、このClF3ガスはSi膜に対するエッチング性が高く、Si膜がエッチングされやすい。つまりSiGe膜を選択的にエッチングすることが難しい。
【0019】
そこで
図1のウエハWに対して、先ずF
2ガスを比較的長時間供給する。後述の評価試験で示すように、F
2ガスによってSi膜12はエッチングされ難い。つまり、Si膜12に対して高い選択性をもってSiGe膜13をエッチングすることができる。
そして、F
2ガスによってSiGe膜13を概ね除去した後に、ClF
3ガスを比較的短時間供給する。それにより、Si膜12のエッチングを抑えつつ、Si膜12のラフネスの低減及びSi膜12に付着するGeの残渣の低減を図ることができる。
【0020】
ところでClF3ガスについては、上記したようにSi膜に対するエッチング性が比較的高いが、後述の評価試験で示すように、SiGe膜に対するエッチング性も比較的高い。従って、ウエハWに形成される半導体膜16は既述したようにSiまたはSiGeにより構成されるが、Si、SiGeのいずれによって構成されていても、このClF3ガスに対しての被エッチング性が高いことになる。しかし、本実施形態におけるClF3ガスの供給時間は比較的短いため、当該ClF3ガスが多孔質膜14の孔を通過して半導体膜16に供給されることが抑制される。そのため半導体膜16のエッチングについても抑制することができる。
【0021】
また、処理容器内の排気によって、F2ガスを供給する時刻t1~t2における第1の圧力に対して、ClF3ガスを供給する時刻t2~t3における第2の圧力は低い。ClF3ガスについては、そのように処理容器内が比較的低い圧力とされることで処理容器内に長時間留まることが防止される。従ってSi膜12及び半導体膜16のエッチングについて、より確実に抑制される。反対にF2ガスについては処理容器内が比較的高い圧力とされることで、処理容器内に比較的長く留まってSiGe膜13に作用する。そのため、エッチングレートの低下が防止される。
【0022】
続いて、
図2、
図3で述べたエッチング処理を行うことが可能なエッチング装置の一例であるエッチング装置2について説明する。
図5は、エッチング装置2の縦断側面図である。図中21は既述した処理容器であって、エッチング装置2を構成する。図中22は、処理容器21の側壁に開口するウエハWの搬送口であり、ゲートバルブ23により開閉される。処理容器21内にはウエハWを載置するステージ31が設けられており、当該ステージ31には図示しない昇降ピンが設けられる。その昇降ピンを介して処理容器21の外に配置された基板搬送機構とステージ31との間で、ウエハWの受け渡しが行われる。
【0023】
ステージ31には温度調整部22が埋設されており、ステージ31に載置されたウエハWが温度調整される。この温度調整部22は、例えば水などの温度調整用の流体が流通する循環路の一部をなす流路として構成されており、当該流体との熱交換によりウエハWの温度が調整される。ただし温度調整部22としては、そのような流体の流路であることに限られず、例えば抵抗加熱を行うためのヒーターにより構成されていてもよい。
【0024】
また、処理容器21内には排気管24の一端が開口しており、当該排気管24の他端は圧力変更機構であるバルブ25を介して、例えば真空ポンプにより構成される排気機構26に接続されている。バルブ25の開度が調整されることによって、処理容器21内の排気流量が調整されて、処理容器21内の圧力が所望の真空圧力とされる。つまり、既述したように第1の圧力と第2の圧力との切替えを、バルブ25の開度の変更によって行うことができる。
【0025】
処理容器21内の上部側には、ステージ31に対向するようにシャワープレート32が設けられている。シャワープレート32には、ガス供給路41~44の下流側が接続されており、ガス供給路41~44の上流側は、流量調整部40を各々介して、ガス供給源51~54に接続されている。各流量調整部40は、バルブ及びマスフローコントローラを備えている。ガス供給源51~54から供給される各ガスについては、当該流量調整部40に含まれるバルブの開閉によって下流側への給断が行われる。また当該各ガスについて、各流量調整部40により、下流側へ供給される流量が調整される。シャワープレート32に設けられるガス流路に供給された各ガスが、シャワープレート32の下面に設けられる多数の吐出口から下方に吐出される。
【0026】
ガス供給源51、52、53、54からは、F2ガス、ClF3ガス、N2ガス、Arガスが夫々供給され、これらの各ガスはシャワープレート32を介して処理容器21内に供給される。各流量調整部40により、これらの各ガスの供給は互いに独立して行うことができる。不活性ガスであるN2ガスはエッチングの処理中に、キャリアガスとして、エッチングガス(F2ガス及びClF3ガス)と共にシャワープレート32を介して処理容器21内に供給される。また、エッチングガスの供給終了後にも処理容器内に供給され、処理容器内をパージするパージガスとしても作用する。また、不活性ガスであるArガスについては各エッチングガスの分圧の調整用のガスであり、エッチングガスと共に処理容器内に供給される。F2ガスが通流するガス供給路41、ガス供給路41に介設される流量調整部40及びシャワープレート32によって第1ガス供給部が構成され、ClF3ガスが通流するガス供給路42、ガス供給路42に介設される流量調整部40及びシャワープレート32によって第2ガス供給部が構成される。
【0027】
また、エッチング装置2は、コンピュータである制御部20を備えており、この制御部20は、プログラム、メモリ、CPUを備えている。プログラムには、既述したウエハWの処理及びウエハWの搬送が行われるように命令(各ステップ)が組み込まれており、このプログラムは、記憶媒体、例えばコンパクトディスク、ハードディスク、光磁気ディスク、DVD等に格納され、制御部20にインストールされる。制御部20は当該プログラムによりエッチング装置2の各部に制御信号を出力し、各部の動作を制御する。具体的には、そのように制御される上記のエッチング装置2の動作としては、例えばステージ31に供給される流体の温度(即ち、ウエハWの処理温度)の調整、シャワープレート32からの各ガスの給断、バルブ25による排気流量の調整(即ち、処理容器21内の圧力の調整)などの各動作が含まれる。
【0028】
エッチング装置2のバルブ25の開度が調整されることで、上記した時刻t1~t2の第1の圧力は、例えば1.33Pa(10mTorr)~133Pa(1000mTorr)とされ、時刻t2~t3の第2の圧力は、例えば0Pa~133Paとされる。また、温度調整部22により、時刻t1~t3においてウエハWの温度は例えば-50℃~150℃とされる。なお各ガスの処理容器内への供給流量としては、F2ガスが1~500sccm、ClF3ガスが0.1~10sccm、N2ガスが50~1000sccm、Arガスが10~1000sccmの各範囲内である。
【0029】
また、上記したようにF2ガス、ClF3ガスと共に不活性ガス(N2ガス及びArガス)が処理容器内に供給される。処理容器内に供給されるF2ガス、ClF3及び不活性ガスの流量の関係としては例えば、ClF3ガスの流量/不活性ガスの流量よりもF2ガスの流量/不活性ガスの流量の方が大きい。つまりF2ガス、ClF3ガスを各々ウエハWに供給するにあたり、ClF3ガスの方が、F2ガスよりも不活性ガスによる高い希釈率をもって供給されるようにしてもよい。このように各ガスの流量が調整されることで、Si膜12及び半導体膜16に対するClF3ガスのエッチング作用がより確実に抑制される。
【0030】
第1エッチングガスとしてF2ガスを用いることを示したが、Si膜12に対してSiGe膜13を選択的にエッチングすることが可能な他のフッ素含有ガスであってもよく、例えばF2ガスの代わりに、HFガスとF2ガスとの混合ガスを用いてもよい。また、SiGe膜13に対するエッチング作用が比較的大きいフッ素含有ガスを、当該ClF3ガスの代わりに第2エッチングガスとして使用することができる。例えばIF7(七フッ化ヨウ素)ガスやNF3(三フッ化窒素)ガスを、第2エッチングガスとして用いてもよい。なお、ここでのフッ素を含有するとはフッ素を構成成分として含む意味であって、不純物として含む意味ではない。
【0031】
図3のチャートで示した処理例では、F
2ガスの供給停止と共にClF
3ガスを供給し、F
2ガスの処理容器21からのパージをClF
3ガスにより行っているが、F
2ガスの供給を停止する時点からClF
3ガスの供給を開始する時点まで、間隔が空いてもよい。そして、その間隔においてN
2ガス等の不活性ガスで処理容器内のF
2ガスがパージされるようにしてもよい。ただし処理時間の短縮化を図るために、
図3で示すようにF
2ガスの供給停止と共にClF
3ガスを供給し、F
2ガスのパージをClF
3ガスによって行うようにすることが好ましい。
【0032】
ところで本実施形態で説明したエッチング手法は、これまでに述べたようにSiGe膜13に隣接するSi膜12のラフネスが抑えられるので、そのようにSiGe膜13、Si膜12が互いに隣接する基板に対して行うことが特に有効である。ただし本エッチング手法によればSiGe膜のエッチング後のGeの残留量を低減させることができるため、Si膜12に隣接していないSiGe膜13をエッチングする場合に用いてもよい。
【0033】
今回開示された実施形態は、全ての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。上記の実施形態は、添付の特許請求の範囲及びその趣旨を逸脱することなく、様々な形態で省略、置換、変更、組み合わせがなされてもよい。
【0034】
[評価試験1]
本開示の技術に関連して行われた各評価試験について説明する。評価試験1では、2つのチップが表面に固定されたウエハWを複数用意した。そして、実施形態で示したエッチング装置2を用い、エッチングガスの種類やエッチング時間をウエハW毎に変更して処理を行った。2つのチップのうちの一方のチップは、Si膜である下層膜の上側に、SiGe膜を上層膜として積層したものである。このSiGe膜の厚さは50nmであり、膜中のGeの含有率は25%である。他方のチップは、ポリシリコン膜である。SiGe膜が形成されたチップについてはエッチング後に、XPS(X線光電子分光法)によるGeの量の測定、AFM(原子間力顕微鏡)によるRMS(二乗平均平方根粗さ)の測定、SEM(走査電子顕微鏡)による画像の取得、SiGe膜のエッチング量の測定を行った。ポリシリコン膜のチップについても、エッチング量の測定を行った。
【0035】
エッチングガスとして、F2ガス、ClF3ガス、F2ガス及びClF3ガスを夫々ウエハWに供給してエッチングを行った。F2ガス、ClF3ガス、F2ガス及びClF3ガスを用いた試験を夫々、評価試験1-1、1-2、1-3とする。なお、評価試験1-3ではF2ガス、ClF3ガス間で供給開始のタイミング及び供給終了のタイミングを揃えて、同時に供給している。評価試験1-1~1-3の各々において、エッチングガスの供給時間(エッチング時間)をウエハW毎に変更して処理を行った。なお、エッチングを行うにあたり、ウエハWの温度、処理容器21内の圧力、各ガスの処理容器内へ供給する流量としては、実施形態で示した範囲内の値に夫々設定した。
【0036】
試験結果を説明するにあたり、上記のチップのSiGe膜のエッチング量が、当該SiGe膜の膜厚と同じ50nmとなる(即ち、当該SiGe膜がちょうど除去される)ように設定したエッチング時間について、JE(ジャストエッチング)を行う時間として表す場合がある。そこからさらにエッチング時間を延ばして50nmのSiGe膜に対して余剰にエッチングをする時間について、OE(オーバーエッチング)を行う時間として表す場合が有る。具体的には、チップのSiGe膜の膜厚が仮に100nm、150nm、300nm、550nmであったとした場合に、SiGe膜のエッチング量がその膜厚と同じ大きさとなる時間を夫々100%、200%、500%、1000%のOEを行う時間として表す。なお各OEを行う時間については、50nm以下のSiGe膜のエッチング量と、このエッチング量に対応するエッチング時間との関係を取得し(
図6のグラフ参照)、取得した関係に基づいて算出している。
【0037】
図7は評価試験1-1~1-3毎に、JE及び各OEの処理で取得されたSEM画像、Ge検出量、RMS及びポリシリコン膜のエッチング量を示したものである。既述したようにSEM画像、Ge検出量、RMSについてはSiGe膜が形成されていたチップ(即ち、SiGe膜が除去されることで表面がSiによって形成されたチップ)から取得している。なお、実際にはGe検出量は百分率の値、RMS及びポリシリコン膜のエッチング量としてはnmを単位とする値として取得されているが、表中に示す各値は、そのように取得された値を所定の係数で除して規格化したものである。Ge検出量については図中の値が大きいほどSi膜上に残留している量が多く、RMSについては図中の値が大きいほどラフネスが大きく、ポリシリコン膜のエッチング量については図中の値が大きいほどエッチング量が大きい。なお
図7では、比較のためにエッチングを行う前のSiGe膜が形成されたチップの表面についての画像及び規格化したRMSについても、図の右下に示している。
【0038】
図8には評価試験1-2を行う上でのベースとなった、ClF
3ガスによるエッチング時間と、SiGe膜及びポリシリコン膜のエッチング量との関係を示すグラフを表している。また、
図9には評価試験1-3を行う上でのベースとなった、F
2ガス及びClF
3ガスによるエッチング時間と、SiGe膜及びポリシリコン膜のエッチング量との関係を示すグラフを表している。評価試験1-1と同様に、SiGe膜のエッチング量とエッチング時間との対応からJE及びOEの時間を決定して、評価試験1-2、1-3を実施している。各グラフの縦軸には各膜のエッチング量を示しているが、取得された値を所定の係数で除すことで規格化した値を示している。なお、この所定の係数は、
図6でポリシリコン膜のエッチング量を規格化して表すために用いた係数と同じである。
【0039】
F
2ガスを用いた評価試験1-1の結果について説明する。
図7に示しているこの評価試験1-1でのJE、OE100%、OE200%、OE500%、OE1000%は、具体的なエッチング時間としては夫々82秒、145秒、208秒、397秒、712秒である。
図6に示すように、F
2ガスによるエッチング時間が長くなるにつれてSiGe膜のエッチング量は大きくなる。その一方で、
図7に示すようにJE及び各OEのエッチング時間で、ポリシリコン膜のエッチング量は概ね一定且つ、比較的低い値である。そのため実施形態で述べたように、F
2ガスを用いてSi膜及びSiGe膜をエッチングするにあたり、高い選択性をもってSiGe膜をエッチングすることができることが分かる。
【0040】
しかし、Ge検出量としては比較的大きい値を示している。OEのパーセンテージが大きくなるにつれて、このGe検出量は低減されるが、OE1000%であってもGeが残留することが確認された。また、RMSについてOEのパーセンテージが大きくなるにつれて値が低くなるが、このパーセンテージが低い場合及びJEの場合は値が比較的大きい(即ち、ラフネスとしては比較的大きい)ことが確認された。
【0041】
続いて、ClF
3ガスを用いた評価試験1-2の結果について説明する。
図7に示しているこの評価試験1-2でのJE、OE100%、OE200%は、具体的なエッチング時間としては夫々50秒、115秒、179秒である。Ge検出量に関しては、JEの場合には比較的低い値であり、OE100%、OE200%の場合にはGeが検出されなかった。RMSに関しては、JE、OE100%、OE200%のRMSの各値はエッチング前のRMSと同程度の値であり、評価試験1-1におけるJE、OE100%及びOE200%のいずれのRMSの値よりも低い。そしてOE100%、OE200%のRMSは、特に低い値となっていた。
【0042】
しかし
図8に示すようにClF
3ガスを用いる場合は、エッチング時間が長くなるにつれて、SiGe膜のエッチング量だけでなく、ポリシリコン膜のエッチング量も上昇してしまう。そして、評価試験1-2におけるJE、OE100%、OE200%の各ポリシリコン膜のエッチング量は、評価試験1-1におけるJE及び各OEのいずれのポリシリコン膜のエッチング量よりも大きいという結果になった。
【0043】
続いて、F
2ガス+ClF
3ガスを用いた評価試験1-3の結果について説明する。
図7に示しているこの評価試験1-3でのJE、OE100%、OE200%は、具体的なエッチング時間としては夫々24秒、54秒、85秒である。Ge検出量に関しては試験1-2と同様、JEの場合には比較的低い値であり、OE100%、OE200%の場合にはGeが検出されなかった。また、RMSに関しては、OE100%、OE200%の場合は特に低い値となっており、エッチング前のRMSと同程度の値であった。
【0044】
しかし
図9に示すようにF
2ガス+ClF
3ガスを用いる場合でも、エッチング時間が長くなるにつれて、SiGe膜のエッチング量だけでなく、ポリシリコン膜のエッチング量も上昇してしまう。そして、評価試験1-3におけるJE、OE100%、OE200%の各ポリシリコン膜のエッチング量は、評価試験1-1におけるJE及び各OEのいずれのポリシリコン膜のエッチング量よりも大きいという結果になった。
【0045】
以上のように、この評価試験1の結果からは、エッチングガスとしてClF3ガスを用いると、エッチング後のSi膜上に残留するGeの量(残渣量)を低減させることができ、且つ当該Si膜のラフネスを抑えることができることが確認された。しかし、F2ガスを用いる場合に比べて、Si膜のエッチング量も比較的大きくなってしまうことが示された。
【0046】
[評価試験2]
評価試験2として、評価試験1と同じ構成のウエハWに対して、評価試験1-1のOE100%として行った条件と同じ条件でエッチングを行った。即ち、F2ガスによるエッチングを行った。そして、このF2ガスのエッチングに続き、F2ガス及びNH3ガスを処理容器内に供給することで、当該処理容器内におけるF2ガスのパージとエッチングとを行った。なお、処理容器内の圧力について、F2ガス及びNH3ガスのうちF2ガスを単独で供給する期間の圧力よりもF2ガスを単独で供給する期間(パージを行う期間)の圧力を低くした。このようなエッチング後は、評価試験1と同じくSiGe膜が形成されていたチップからSEM画像、Ge検出量、RMSを取得すると共に、ポリシリコン膜のチップからエッチング量を取得した。ウエハW毎にF2ガス及びNH3ガスを供給する時間(パージを行う時間)を変更しており、5秒、10秒、20秒に設定して行った試験を夫々評価試験2-1、2-2、2-3とする。
【0047】
[評価試験3]
評価試験3として、F2ガス及びNH3ガスのうちF2ガスを単独で供給してエッチングを行う期間が設けられないことを除いて、評価試験2と同様の処理条件で試験を行った。従って、この評価試験3ではF2ガス及びNH3ガスの両方を同時にウエハWに供給する期間(評価試験2でのパージに該当する期間)のみを設けて、エッチングを行っている。このようにF2ガス及びNH3ガスを供給する時間については、評価試験2と同じく5秒、10秒、20秒に夫々設定しており、このように時間を設定して行った試験を夫々評価試験3-1、3-2、3-3とする。この評価試験3ではSiGe膜、ポリシリコン膜の各エッチング量を測定した。
【0048】
評価試験2、3の結果を
図10に示している。表中の各値は、評価試験1と同様に規格化したものである。評価試験2の結果を見ると、評価試験2-1~2-3の各々でGe検出量及びRMSについて比較的大きい。また、評価試験2-1~2-3間では、F
2ガス及びNH
3ガスの供給時間が長いほど、ポリシリコン膜のエッチング量が大きい結果となった。評価試験3の結果を見ると、評価試験3-1~3-3間でSiGe膜のエッチング量に大きな差は無いが、ポリシリコン膜のエッチング量についてはエッチング時間が長いほど大きい結果となった。従って評価試験2、3の結果から、F
2ガス及びNH
3ガスの作用によって、ポリシリコン膜が比較的大きくエッチングされることが分かる。
【0049】
[評価試験4]
評価試験4として、評価試験2のF2ガス及びNH3ガスによるパージの代わりにClF3ガスを供給してパージを行うこと、及びそのパージを行う期間の長さの範囲が評価試験2で設定した範囲である5秒~20秒とは異なることを除いて、評価試験2と同様の条件で処理を行った。従って、この評価試験4では実施形態と同様に、F2ガスの供給後にClF3ガスを供給している。処理容器内の圧力についても、実施形態と同様にF2ガスを供給する期間の圧力よりもClF3ガスを供給する期間の圧力を低くした。ClF3ガスを供給する時間について5秒、20秒、60秒に夫々設定しており、このように時間を設定して行った試験を、夫々評価試験4-1、4-2、4-3とする。
【0050】
[評価試験5]
評価試験5として、F2ガスを供給してエッチングを行う期間が設けられないことを除いて、評価試験4と同様の処理条件で試験を行った。従って、この評価試験5ではClF3ガスのみを用いてエッチングを行っている。そのようにClF3ガスを供給する時間については、評価試験4と同じく5秒、20秒、60秒に夫々設定しており、このように時間を設定して行った試験を夫々評価試験5-1、5-2、5-3とする。この評価試験5では評価試験3と同じく、SiGe膜、ポリシリコン膜の各エッチング量を測定した。
【0051】
評価試験4、5の結果を
図11に示している。表中の各値は、評価試験1と同様に規格化したものである。評価試験4の結果を見ると、Ge検出量については評価試験4-1~4-3の各々で低く抑えられており、評価試験2-1~2-3におけるいずれのGe検出量よりも低い値となった。また、RMSについても評価試験4-1~4-3の各々で低く抑えられており、評価試験2-1~2-3におけるいずれのRMSよりも低い値となった。また、ポリシリコン膜のエッチング量については、評価試験4-1~4-3の各々で比較的低く、評価試験2-1~2-3の各値と同程度であった。
【0052】
以上の評価試験4の結果から、既述した実施形態で示した手法によって
図1で示す膜構造を有するウエハWを処理するにあたり、Si膜12及びSiGe膜13のうちSiGe膜13を選択的にエッチングしてGe残渣が残ることを抑制することができることが分かる。また、エッチング後のSi膜12のラフネスを抑制することができることが分かる。
【0053】
なお、評価試験5の結果を見ると、評価試験1と同様にClF
3ガスの供給時間が長くなるにつれて、SiGe膜及びポリシリコン膜のエッチング量が増加することが示されている。このポリシリコン膜のエッチング量について、評価試験5-2では比較的大きい値となっているが、評価試験5-1では比較的小さい値である。この結果から、
図3に示したClF
3ガスを供給する時刻t2~時刻t3の時間(第2の時間)は、20秒よりも短いことが好ましく、5秒以下であることがより好ましいと考えられる。
【0054】
[評価試験6]
評価試験6-1として、
図12に示す膜構造を有する基板を用意した。この膜構造はSi膜12、SiGe膜13が上方に向けて交互に繰り返し積層され、最も上方のSi膜12上にSiN(窒化シリコン)膜61が形成された積層体62を備える。そして、この積層体62を側方から上方に亘って被覆するように、low-k膜である多孔質膜63が形成されており、多孔質膜63は基板の表面に露出している。つまり、エッチングガスの供給時に、多孔質膜63はエッチングガスに曝される。このように各膜が形成される基板に対して、実施形態の
図2、
図3で説明したようにエッチングガスを供給した後、SiGe膜13の状態を観察した。また、評価試験6-2として多孔質膜63が形成されていないことを除いて概ね同様の膜構造を有する基板に対して、
図2、
図3で説明したようにエッチングガスを供給した後、SiGe膜13の状態を観察した。
【0055】
評価試験6-2ではSiGe膜13が側方からエッチングされていたが、評価試験6-1ではSiGe膜13の側方からのエッチングは観察されなかった。この試験結果から、
図1、
図2の膜構造を有するウエハWに対して
図2、
図3で説明したようにエッチングを行うにあたって、多孔質膜14に隣接する半導体膜16のエッチングは抑制されることが予想される。
【符号の説明】
【0056】
W ウエハ
13 SiGe膜