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特開2024-143372ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物及びその製造方法、並びに樹脂成形品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024143372
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物及びその製造方法、並びに樹脂成形品
(51)【国際特許分類】
   C08L 67/02 20060101AFI20241003BHJP
   C08K 7/04 20060101ALI20241003BHJP
   C08K 9/04 20060101ALI20241003BHJP
   C08L 63/00 20060101ALI20241003BHJP
   C08L 33/16 20060101ALI20241003BHJP
   C08L 79/00 20060101ALI20241003BHJP
   C08J 3/20 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
C08L67/02
C08K7/04
C08K9/04
C08L63/00 Z
C08L33/16
C08L79/00 Z
C08J3/20 Z CFD
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023056015
(22)【出願日】2023-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】390006323
【氏名又は名称】ポリプラスチックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100111235
【弁理士】
【氏名又は名称】原 裕子
(74)【代理人】
【識別番号】100170575
【弁理士】
【氏名又は名称】森 太士
(72)【発明者】
【氏名】斎藤 樹
(72)【発明者】
【氏名】五島 一也
(72)【発明者】
【氏名】深津 博樹
【テーマコード(参考)】
4F070
4J002
【Fターム(参考)】
4F070AA47
4F070AB24
4F070AB26
4F070AC13
4F070AC28
4F070AC55
4F070AC87
4F070AD02
4F070AD06
4F070AE07
4F070DA55
4F070FA03
4F070FA17
4F070FB06
4F070FC06
4J002BG082
4J002CD00Y
4J002CD05Y
4J002CD06Y
4J002CD122
4J002CF071
4J002CM05Y
4J002DD047
4J002DE127
4J002DE166
4J002DE187
4J002DJ016
4J002DL006
4J002FA046
4J002FB086
4J002FB136
4J002FB236
4J002FD016
4J002FD132
4J002FD137
4J002GN00
4J002GQ00
(57)【要約】
【課題】難燃性及び耐加水分解性の双方ともに優れる樹脂成形品を成形することが可能なポリブチレンテレフタレート樹脂組成物を提供する。
【解決手段】固有粘度が0.70dL/g以上、1.10dL/g以下、かつ、カルボン酸末端基量が18meq/kg以下であるポリブチレンテレフタレート樹脂(A)と、臭素系難燃剤(B)と、アンチモン系難燃助剤(C)と、カルボン酸及び/又はカルボン酸無水物を由来とする構成単位を含む重合物とエポキシ樹脂とを含有する集束剤で表面処理された無機充填材(D)とを含み、臭素系難燃剤が、臭素化エポキシ系難燃剤及び/又は臭素化アクリレート系難燃剤を含み、ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)100質量部に対して、無機充填材(D)を10~100質量部含むポリブチレンテレフタレート樹脂組成物である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
固有粘度が0.70dL/g以上、1.10dL/g以下、かつ、カルボン酸末端基量が18meq/kg以下であるポリブチレンテレフタレート樹脂(A)と、臭素系難燃剤(B)と、アンチモン系難燃助剤(C)と、カルボン酸及び/又はカルボン酸無水物を由来とする構成単位を含む重合物とエポキシ樹脂とを含有する集束剤で表面処理された無機充填材(D)とを含み、
前記臭素系難燃剤が、臭素化エポキシ系難燃剤及び/又は臭素化アクリレート系難燃剤を含み、
前記ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)100質量部に対して、前記無機充填材(D)を10~100質量部含む、ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
【請求項2】
さらに、前記ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)100質量部に対し、芳香族カルボジイミド及び/又はエポキシ化合物を0.5~3.0質量部含む、請求項1に記載のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
【請求項3】
前記無機充填材(D)が繊維状、かつ、平均繊維径が3~50μmであり、前記無機充填材(D)100質量部に対する前記集束剤の含有量が0.1~3.0質量部である、請求項1又は2に記載のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1又は2に記載のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物からなる樹脂成形品。
【請求項5】
請求項1又は2に記載のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物の製造方法であって、
ケミカルリサイクルにより得られる1,4-ブタンジオール及び/又はテレフタル酸を用いて、固有粘度が0.70dL/g以上、1.10dL/g以下、かつ、カルボン酸末端基量が18meq/kg以下であるポリブチレンテレフタレート樹脂(A)を得る工程A、及び
前記ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)と、臭素系難燃剤(B)と、アンチモン系難燃助剤(C)と、カルボン酸及び/又はカルボン酸無水物を由来とする構成単位を含む重合物とエポキシ樹脂とを含有する集束剤で表面処理された無機充填材(D)とを混合する工程B、を含み、
前記臭素系難燃剤(B)が、臭素化エポキシ系難燃剤及び/又は臭素化アクリレート系難燃剤を含み、
前記工程Bにおいて、前記ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)100質量部に対して、前記無機充填材(D)を10~100質量部混合する、ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物の製造方法。
【請求項6】
請求項1又は2に記載のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物の製造方法であって、
マテリアルリサイクルにより得られる、固有粘度が0.70dL/g以上、1.10dL/g以下、かつ、カルボン酸末端基量が18meq/kg以下であるポリブチレンテレフタレート樹脂(A)を得る工程、及び
前記ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)と、臭素系難燃剤(B)と、アンチモン系難燃助剤(C)と、カルボン酸及び/又はカルボン酸無水物を由来とする構成単位を含む重合物とエポキシ樹脂とを含有する集束剤で表面処理された無機充填材(D)とを混合する工程B、を含み、
前記臭素系難燃剤(B)が、臭素化エポキシ系難燃剤及び/又は臭素化アクリレート系難燃剤を含み、
前記工程Bにおいて、前記ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)100質量部に対して、前記無機充填材(D)を10~100質量部混合する、ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物及びその製造方法、並びに樹脂成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリブチレンテレフタレート樹脂(以下、「PBT樹脂」とも呼ぶ。)は、耐熱性、耐薬品性、電気特性、機械的特性、成形加工性などの種々の特性に優れるため、多くの用途に利用されている。具体的な用途としては、各種自動車用電装部品(各種コントロールユニット、各種センサー、イグニッションコイルなど)、各種電気電子部品(コネクター類、スイッチ部品、リレー部品、コイル部品など)、その他、家電等各種電機・電器の部品(筐体、絶縁部材など)等が挙げられる。これらの用途においては漏電等による火災を防止するため、使用する材料に難燃性が要求されることから、各種の難燃剤を添加した難燃性PBT樹脂組成物として用いられている。また近年、自動車のEV化に伴い、モーターやバッテリー関連の樹脂部品には難燃性の要求が増えている。
【0003】
PBT樹脂組成物を難燃化する手法としては、ハロゲン化エポキシ系難燃剤等のハロゲン系難燃剤や非ハロゲン系難燃剤を添加する手法が一般的に知られている。特許文献1には、ハロゲン化エポキシ系難燃剤を用いるポリブチレンテレフタレート樹脂組成物が記載されている。
【0004】
一方、PBT樹脂は、分子内にエステル基を有しているため、高温高湿環境下では加水分解により物性が低下しやすい傾向がある。そのため、エポキシ系樹脂又はカルボジイミド化合物等による改良も行われている。特許文献2には耐加水分解性と流動性に優れる難燃性PBT樹脂組成物として、末端カルボキシル基量が1~9meq/kg以下のPBT樹脂とカルボジイミド化合物とハロゲン化難燃剤を用いることが記載されている。
【0005】
また、ガラス繊維自体も集束剤にエポキシ樹脂を用いることで耐加水分解性を改善できることが知られている(特許文献3~4参照)。特許文献3には、不飽和カルボン酸及び/又は不飽和カルボン酸の無水物と不飽和単量体との共重合物及びエポキシ樹脂を必須成分とする集束剤で表面処理されたガラス繊維を用いることが示されている。また特許文献4には、ノボラック型エポキシ樹脂を含有する表面処理ガラス繊維が長期耐熱性に優れることが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2021-024880号公報
【特許文献2】特開2022-066647号公報
【特許文献3】特開2003-201671号公報
【特許文献4】特開2015-129073号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記の通り、PBT樹脂組成物の難燃性や耐加水分解性は、自動車のEV化や電気・電子製品の長寿命化に伴い、更なる向上が求められていた。
【0008】
本発明は、上記従来の問題点に鑑みなされたものであり、その課題は、難燃性及び耐加水分解性の双方ともに優れる樹脂成形品を成形することが可能なポリブチレンテレフタレート樹脂組成物及びその製造方法並びに当該樹脂組成物を成形してなる樹脂成形品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意検討した結果、固有粘度が0.70dL/g以上、1.10dL/g以下、かつ、カルボン酸末端基量が18meq/kg以下のPBT樹脂と、臭素化エポキシ系難燃剤及び/又は臭素化アクリレート系難燃剤と、アンチモン系難燃助剤と、カルボン酸等を由来とする構成単位を含む重合物とエポキシ樹脂とを含有する集束剤により表面処理されたガラス繊維とを含むPBT樹脂組成物を用いることで従来に比べ、難燃性と耐加水分解性とが大幅に向上されることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
前記課題を解決する本発明の一態様は以下の通りである。(1)固有粘度が0.70dL/g以上、1.10dL/g以下、かつ、カルボン酸末端基量が18meq/kg以下であるポリブチレンテレフタレート樹脂(A)と、臭素系難燃剤(B)と、アンチモン系難燃助剤(C)と、カルボン酸及び/又はカルボン酸無水物を由来とする構成単位を含む重合物とエポキシ樹脂とを含有する集束剤で表面処理された無機充填材(D)とを含み、
前記臭素系難燃剤が、臭素化エポキシ系難燃剤及び/又は臭素化アクリレート系難燃剤を含み、
前記ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)100質量部に対して、前記無機充填材(D)を10~100質量部含む、ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
【0011】
(2)さらに、前記ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)100質量部に対し、芳香族カルボジイミド及び/又はエポキシ化合物を0.5~3.0質量部含む、前記(1)に記載のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
【0012】
(3)前記無機充填材(D)が繊維状、かつ、平均繊維径が3~50μmであり、前記無機充填材(D)100質量部に対する前記集束剤の含有量が0.1~3.0質量部である、前記(1)又は(2)に記載のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
【0013】
(4)前記(1)又は(2)に記載のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物からなる樹脂成形品。
【0014】
(5)前記(1)又は(2)に記載のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物の製造方法であって、
ケミカルリサイクルにより得られる1,4-ブタンジオール及び/又はテレフタル酸を用いて、固有粘度が0.70dL/g以上、1.10dL/g以下、かつ、カルボン酸末端基量が18meq/kg以下であるポリブチレンテレフタレート樹脂(A)を得る工程A、及び
前記ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)と、臭素系難燃剤(B)と、アンチモン系難燃助剤(C)と、カルボン酸及び/又はカルボン酸無水物を由来とする構成単位を含む重合物とエポキシ樹脂とを含有する集束剤で表面処理された無機充填材(D)とを混合する工程B、を含み、
前記臭素系難燃剤(B)が、臭素化エポキシ系難燃剤及び/又は臭素化アクリレート系難燃剤を含み、
前記工程Bにおいて、前記ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)100質量部に対して、前記無機充填材(D)を10~100質量部混合する、ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物の製造方法。
【0015】
(6)前記(1)又は(2)に記載のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物の製造方法であって、
マテリアルリサイクルにより得られる、固有粘度が0.70dL/g以上、1.10dL/g以下、かつ、カルボン酸末端基量が18meq/kg以下であるポリブチレンテレフタレート樹脂(A)を得る工程、及び
前記ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)と、臭素系難燃剤(B)と、アンチモン系難燃助剤(C)と、カルボン酸及び/又はカルボン酸無水物を由来とする構成単位を含む重合物とエポキシ樹脂とを含有する集束剤で表面処理された無機充填材(D)とを混合する工程B、を含み、
前記臭素系難燃剤(B)が、臭素化エポキシ系難燃剤及び/又は臭素化アクリレート系難燃剤を含み、
前記工程Bにおいて、前記ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)100質量部に対して、前記無機充填材(D)を10~100質量部混合する、ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、難燃性及び耐加水分解性の双方ともに優れる樹脂成形品を成形することが可能なポリブチレンテレフタレート樹脂組成物及びその製造方法並びに当該樹脂組成物を成形してなる樹脂成形品を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
<ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物>
本実施形態のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物は、固有粘度が0.70dL/g以上、1.10dL/g以下、かつ、カルボン酸末端基量が18meq/kg以下であるポリブチレンテレフタレート樹脂(A)と、臭素系難燃剤(B)と、アンチモン系難燃助剤(C)と、カルボン酸及び/又はカルボン酸無水物を由来とする構成単位を含む重合物とエポキシ樹脂とを含有する集束剤で表面処理された無機充填材(D)とを含む。そして、臭素系難燃剤が、臭素化エポキシ系難燃剤及び/又は臭素化アクリレート系難燃剤を含む。また、ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)100質量部に対して、無機充填材(D)を10~100質量部含む。
【0018】
本実施形態のPBT樹脂組成物においては、臭素系難燃剤(B)と、アンチモン系難燃助剤(C)とを含むことで難燃性に優れる。また、固有粘度が0.70dL/g以上、1.10dL/g以下であり、かつ、カルボン酸末端基量が18meq/kg以下であるPBT樹脂を用いること、及び無機充填材(C)の集束剤にカルボン酸及び/又はカルボン酸無水物を由来とする構成単位を含む重合物を含有することで、耐加水分解性に優れる。なお、リン系難燃剤や金属水酸化物など難燃剤によっては耐加水分解性に悪影響を及ぼすものがあるが、本実施形態のPBT樹脂組成物に含まれる臭素系難燃剤(B)は、耐加水分解性を低下させることなく難燃性を付与することができる。
以下に、本実施形態のPBT樹脂組成物の各成分について説明する。
【0019】
[ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)]
PBT樹脂(A)は、少なくともテレフタル酸又はそのエステル形成性誘導体(C1-6のアルキルエステルや酸ハロゲン化物等)を含むジカルボン酸成分と、少なくとも炭素原子数4のアルキレングリコール(1,4-ブタンジオール)又はそのエステル形成性誘導体(アセチル化物等)を含むグリコール成分とを重縮合して得られる樹脂である。PBT樹脂(A)はホモポリブチレンテレフタレート樹脂に限らず、ブチレンテレフタレート単位を60モル%以上(特に75モル%以上95モル%以下)含有する共重合体であってもよい。
また本実施形態において、PBT樹脂の原料である1,4-ブタンジオール及びテレフタル酸又はテレフタル酸アルキルエステルは化石資源由来又はバイオマス資源由来のいずれでもよい。
【0020】
PBT樹脂(A)のカルボン酸末端基量は、18meq/kg以下であり、2meq/kg以上18meq/kg以下が好ましく、5meq/kg以上13meq/kg以下がより好ましい。かかる範囲の末端カルボキシル基量のPBT脂を用いることで、得られるPBT樹脂組成物が湿熱環境下での加水分解による強度低下を受けにくくなる。集束剤で表面処理された無機充填材との密着性を確保するため、カルボン酸末端基量は2meq/kg以上が好ましく、カルボン酸末端基量が2meq/kg未満の場合、ガラス繊維との密着性が低下し、強度低下が生じる。
【0021】
PBT樹脂の固有粘度(IV)は0.70dL/g以上、1.10dL/g以下であることが好ましく、より好ましくは0.80dL/g以上0.95dL/g以下であり、さらに好ましくは0.83dL/g以上0.90dL/g以下である。かかる範囲の固有粘度のPBT樹脂を用いる場合には、得られるPBT樹脂組成物の耐加水分解性と成形性に優れたものとなる。また、異なる固有粘度を有するPBT樹脂をブレンドして、固有粘度を調整することもできる。例えば、固有粘度1.00dL/gのPBT樹脂と固有粘度0.80dL/gのPBT樹脂とをブレンドすることにより、固有粘度0.85dL/gのPBT樹脂を調製することができる。PBT樹脂(A)の固有粘度(IV)は、例えば、o-クロロフェノール中で温度35℃の条件で測定することができる。
【0022】
PBT樹脂(A)において、テレフタル酸及びそのエステル形成性誘導体以外のジカルボン酸成分(コモノマー成分)としては、例えば、イソフタル酸、フタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、4,4’-ジカルボキシジフェニルエーテル等のC8-14の芳香族ジカルボン酸;コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸等のC4-16のアルカンジカルボン酸;シクロヘキサンジカルボン酸等のC5-10のシクロアルカンジカルボン酸;これらのジカルボン酸成分のエステル形成性誘導体(C1-6のアルキルエステル誘導体や酸ハロゲン化物等)が挙げられる。これらのジカルボン酸成分は、単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0023】
これらのジカルボン酸成分の中では、イソフタル酸等のC8-12の芳香族ジカルボン酸、及び、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸等のC6-12のアルカンジカルボン酸がより好ましい。
【0024】
PBT樹脂(A)において、1,4-ブタンジオール以外のグリコール成分(コモノマー成分)としては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、1,3-ブチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,3-オクタンジオール等のC2-10のアルキレングリコール;ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール等のポリオキシアルキレングリコール;シクロヘキサンジメタノール、水素化ビスフェノールA等の脂環式ジオール;ビスフェノールA、4,4’-ジヒドロキシビフェニル等の芳香族ジオール;ビスフェノールAのエチレンオキサイド2モル付加体、ビスフェノールAのプロピレンオキサイド3モル付加体等の、ビスフェノールAのC2-4のアルキレンオキサイド付加体;又はこれらのグリコールのエステル形成性誘導体(アセチル化物等)が挙げられる。これらのグリコール成分は、単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0025】
これらのグリコール成分の中では、エチレングリコール、トリメチレングリコール等のC2-6のアルキレングリコール、ジエチレングリコール等のポリオキシアルキレングリコール、又は、シクロヘキサンジメタノール等の脂環式ジオール等がより好ましい。ジカルボン酸成分及びグリコール成分の他に使用できるコモノマー成分としては、例えば、4-ヒドロキシ安息香酸、3-ヒドロキシ安息香酸、6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸、4-カルボキシ-4’-ヒドロキシビフェニル等の芳香族ヒドロキシカルボン酸;グリコール酸、ヒドロキシカプロン酸等の脂肪族ヒドロキシカルボン酸;プロピオラクトン、ブチロラクトン、バレロラクトン、カプロラクトン(ε-カプロラクトン等)等のC3-12ラクトン;これらのコモノマー成分のエステル形成性誘導体(C1-6のアルキルエステル誘導体、酸ハロゲン化物、アセチル化物等)が挙げられる。
【0026】
以上説明したコモノマー成分を共重合したポリブチレンテレフタレート共重合体は、いずれもPBT樹脂(A)として好適に使用できる。また、PBT樹脂(A)として、ホモポリブチレンテレフタレート重合体とポリブチレンテレフタレート共重合体とを組み合わせて使用してもよい。
【0027】
PBT樹脂(A)は固有粘度とカルボン酸末端基量が上記規定範囲内であれば、市場回収品を使用することができる(マテリアルリサイクル)。また、PBT樹脂廃棄物から1,4-ブタンジオールやテレフタル酸などをモノマーレベルまで分解し(ケミカルリサイクル)、得られた原料を重縮合して製造されたPBT樹脂も使用することができる。当該PBT樹脂を用いる製造方法の形態については後述する。
【0028】
[臭素系難燃剤(B)]
本実施形態のPBT樹脂組成物において、臭素系難燃剤(B)としては、臭素化エポキシ系難燃剤及び/又は臭素化アクリレート系難燃剤を含む。臭素系難燃剤(B)を含むことで、PBT樹脂組成物に対し、耐加水分解性を低下させることなく、難燃性を付与することができる。
【0029】
(臭素化エポキシ系難燃剤)
臭素化エポキシ系難燃剤としては、例えば、1分子中にエポキシ基を1つ以上含有する芳香族エポキシ化合物(ビフェニル型エポキシ化合物、ビスフェノールA型エポキシ化合物、フェノールノボラック型エポキシ化合物、クレゾールノボラック型エポキシ化合物など)を用いることができる。
【0030】
臭素化エポキシ系難燃剤の数平均分子量は、13000以上が好ましい。臭素化エポキシ系難燃剤としては、例えば、数平均分子量13000以上20000以下であるものを好ましく用いることができる。PBT樹脂組成物の成形性の観点からは、臭素化エポキシ系難燃剤の数平均分子量は、14000以上18000以下であることがより好ましく、15000以上16000以下であることがさらに好ましい。臭素化エポキシ系難燃剤の数平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により、ポリスチレン換算で求めることができる。
【0031】
上記の臭素化エポキシ系難燃剤のエポキシ当量は20,000g/当量(g/eq)以上であることが好ましく、30,000g/eq以上であることがより好ましく、31,000g/eq以上であることがさらに好ましい。エポキシ当量をこの範囲にすることにより、本実施形態のPBT樹脂組成物の成形時に、当該組成物が押出機や成形機のスクリュに付着することを、より効果的に抑制できる傾向がある。
【0032】
また、上記の臭素化エポキシ系難燃剤として、末端をブロモフェノール(トリブロモフェノール等)などで封止したものを使用すれば、PBT樹脂組成物の流動性の低下を抑制できるため好ましい。
【0033】
臭素化エポキシ系難燃剤は、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0034】
(臭素化アクリレート系難燃剤)
臭素化アクリレート系難燃剤としては、重合体が好ましい。例えば、臭素化アクリレート系難燃剤としては、下記式(I)で表されるものが挙げられる。
【0035】
【化1】
【0036】
式(I)中、Xは、それぞれ独立して水素原子又は置換基を表し、Xの少なくとも1つ以上が臭素原子である。Xが表す置換基としては、例えばハロゲン原子等が挙げられる。例えば、Xは、それぞれ独立して水素原子又は臭素原子であってよい。Xの数は、一構成単位中5個であるが、例えば、そのうち、3~5個が置換基であってよい。難燃化の効果から、一構成単位中の5個のXのうちの3~5個が臭素原子であることが好ましい。平均重合度mは10~2000であり、好ましくは15~1000の範囲である。平均重合度mが10以上であると、熱安定性がより良好になる傾向がある。一方、平均重合度mが2000以下であると、これを添加したPBT樹脂組成物の成形加工性がより良好となる傾向がある。また、上記臭素化アクリレート系難燃剤は1種を単独で、又は2種以上を混合して使用してもよい。
【0037】
式(I)で表される臭素化アクリレート系難燃剤は、臭素を含有するベンジルアクリレート(以下「臭素含有ベンジルアクリレート」という場合もある。)を単独で重合することによって得られる。
臭素化アクリレート系難燃剤は、例えば、臭素含有ベンジルアクリレートとともに、これと類似構造のベンジルメタクリレート等を共重合させて得られた構造を有するものであってもよい。
臭素含有ベンジルアクリレートとしては、ペンタブロモベンジルアクリレート、テトラブロモベンジルアクリレート、トリブロモベンジルアクリレート、又はその混合物が挙げられる。中でも、ペンタブロモベンジルアクリレートが好ましい。
臭素含有ベンジルアクリレートと共重合可能なベンジルメタクリレートとしては、例えば、上記したアクリレートに対応するメタクリレートが挙げられる。さらにはビニル系モノマーとの共重合も可能であり、ビニル系モノマーとして、例えば、アクリル酸、メチルアクリレート、エチルアクリレート、ブチルアクリレート、ベンジルアクリレートのようなアクリル酸エステル類、メタクリル酸、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、ブチルメタクリレート、ベンジルメタクリレートのようなメタクリル酸エステル類、スチレン、アクリロニトリル、フマル酸、マレイン酸のような不飽和カルボン酸又はその無水物、酢酸ビニル、塩化ビニルなどが挙げられる。また、架橋性のビニル系モノマー、キシリレンジアクリレート、キシリレンジメタクリレート、テトラブロムキシリレンジアクリレート、テトラブロムキシリレンジメタクリレート、ブタジエン、イソプレン、ジビニルベンゼンも使用できる。これらはベンジルアクリレートやベンジルメタクリレートに対し、好ましくは等モル量以下、より好ましくは0.5倍モル量以下が使用される。
【0038】
上記の臭素化アクリレート系難燃剤の製造法の一例を示すと、臭素含有ベンジルアクリレート等のモノマーを溶液重合又は塊状重合にて所定の重合度に反応させる方法が挙げられる。溶液重合の場合、溶媒としてクロロベンゼンなどのハロゲン化芳香族化合物を用いないことが好ましい。また、溶液重合の際の溶媒としては、エチレングリコールモノメチルエーテルや、メチルエチルケトン、エチレングリコールジメチルエーテルおよびジオキサンなどの非プロトン性溶媒が好ましい。
【0039】
上記の臭素化アクリレート系難燃剤は、残留ポリアクリル酸ナトリウム等の反応副生成物を除去するために、水及び/又はアルカリ(土類)金属イオンを含有する水溶液にて洗浄されることが好ましい。アルカリ(土類)金属イオンを含有する水溶液はアルカリ(土類)金属塩を水に投入することで容易に得られるが、塩化物イオン、リン酸イオン等を含まないアルカリ(土類)金属である水酸化物(例えば水酸化カルシウム)が最適である。アルカリ(土類)金属塩として、例えば水酸化カルシウムを用いる場合、水酸化カルシウムは一般に20℃において100gの水中に0.126g程度可溶であり、水溶液濃度は溶解度までであれば特に規定はない。また、水及び/又はアルカリ(土類)金属イオンを含有する水溶液による洗浄の手法も特に限定されず、臭素化アクリレート系難燃剤を適当な時間、水及び/又はアルカリ(土類)金属イオンを含有する水溶液に浸漬させる等の手法で良い。上記、水及び/又はアルカリ(土類)金属イオンを含有する水溶液による洗浄処理を終えた臭素化アクリレート系難燃剤は、一般的に温水抽出分中の乾固分が100ppm以下のものとなり、このような臭素化アクリレート系難燃剤を用いる場合、その成形品表面に臭素化アクリレート系難燃剤由来の異物を発生させることが殆どなくなる。
【0040】
臭素化アクリレート系難燃剤は、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0041】
本実施形態のPBT樹脂組成物においては、臭素系難燃剤(B)が由来となる臭素原子の含有量は、PBT樹脂(A)100gに対して0.13mol以上であることが好ましい。臭素原子の含有量をPBT樹脂(A)100gに対して0.13mol以上にすることで、燃焼時間を低下させ、ドリッピング(樹脂の溶融物の滴下)による延焼を防ぐことができ、難燃性を高めることができる。PBT樹脂組成物中の臭素原子の含有量は、PBT樹脂(A)100gに対して、好ましくは0.14mol以上であり、より好ましくは0.15mol以上であり、さらに好ましくは0.16mol以上であり、特に好ましくは0.17mol以上である。
【0042】
PBT樹脂組成物中の臭素原子の含有量の上限値は、成形時の耐腐蝕性の観点から、好ましくは0.30mol以下であり、より好ましくは0.28mol以下であり、さらに好ましくは0.25mol以下である。
一実施形態において、 PBT樹脂組成物中の臭素原子の含有量は、0.13~0.30molとすることができ、0.14~0.28molとすることができ、0.15~0.25molとすることもできる。
なお、臭素系難燃剤(B)を2種以上併用する場合、PBT樹脂組成物中の全臭素原子の含有量が上記範囲内となるように各臭素系難燃剤(B)添加することが好ましい。
【0043】
[アンチモン系難燃助剤(C)]
本実施形態のPBT樹脂組成物において、アンチモン系難燃助剤としては特に限定されないが、具体例としては、三酸化アンチモン、四酸化アンチモン、五酸化アンチモン、アンチモン酸ナトリウム、ハロゲン化アンチモン等が挙げられる。中でも供給性やコスト面で三酸化アンチモンを用いることが好ましい。
【0044】
アンチモン系難燃助剤(C)の形態は特に限定されないが、平均粒子径が0.1~10μmの粒子状であるものが好ましく、平均粒子径が0.3~5μmであるものがより好ましく、0.5~2μmであるものがさらに好ましい。アンチモン系難燃助剤の平均粒子径が10μm以下であると、得られるPBT樹脂組成物に機械的な応力が加えられたときに破壊の起点となりにくく、脆さを生じにくい他、難燃性も低下しにくい傾向がある。
前記平均粒子径は、レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置LA-920(堀場製作所製)にて、分散媒として蒸留水を用いて測定し、メジアン径として得ることができる。
【0045】
アンチモン系難燃助剤(C)は、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0046】
PBT樹脂組成物中のアンチモン系難燃助剤(C)の含有量は、PBT樹脂(A)100質量部に対し3~10質量部であることが好ましく、4~9質量部であることがより好ましい。PBT樹脂(A)100質量部に対するアンチモン系難燃助剤(C)の含有量が3質量部以上の場合は、難燃助剤としての効果がより良好に発揮されやすい。一方、PBT樹脂(A)100質量部に対するアンチモン系難燃助剤(C)の含有量が10質量部以下の場合には機械的特性が低下する等の欠点が現れにくい傾向がある。
また、臭素系難燃剤(B)の含有量との関係としては、PBT樹脂組成物中における、臭素系難燃剤(B)中の臭素原子及びアンチモン系難燃助剤(C)中のアンチモン原子の質量の合計量が、PBT樹脂組成物中の有機成分の合計量に対して15~35質量%であってもよく、好ましくは18~33質量%、より好ましくは20~30質量%であってもよい。また、PBT樹脂組成物中における、臭素系難燃剤(B)中の臭素原子の質量と、アンチモン系難燃助剤(C)中のアンチモン原子の質量との比率(臭素原子/アンチモン原子)は、2/1~4/1であってもよい。アンチモン系難燃助剤が上記を満たすように配合されることで、臭素系難燃剤(B)による難燃性付与効果を効果的に高めることができる。
【0047】
[無機充填材(D)]
本実施形態のPBT樹脂組成物においては、無機充填材(D)は、カルボン酸及び/又はカルボン酸無水物を由来とする構成単位を含む重合物とエポキシ樹脂とを含有する集束剤で表面処理されている。
無機充填材(D)を含有することにより、成形品の機械強度の向上の効果が得られ、更に、所定の集束剤による表面処理により耐加水分解性に優れる。
【0048】
無機充填材(D)の形状は、繊維状無機充填材及び非繊維状無機充填材のいずれも用いることができるが、繊維状無機充填材が好ましい。
【0049】
(繊維状無機充填材)
繊維状無機充填材としては、ガラス繊維、炭素繊維、シリカ繊維、シリカ・アルミナ繊維、ジルコニア繊維、窒化硼素繊維、窒化珪素繊維、硼素繊維、チタン酸カリウム繊維、金属繊維(例えば、ステンレス、アルミニウム、チタン、銅、真鍮等)等が挙げられる。代表的な繊維状無機充填材としては、ガラス繊維およびカーボン繊維が挙げられ、入手の容易性やコスト面からガラス繊維が好ましく用いられる。ガラス繊維の原料となるガラスの種類は特に限定されないが、品質上、Eガラスや、組成中にジルコニウム元素を含む耐腐食ガラスが好ましく用いられる。
【0050】
繊維状無機充填材の平均繊維径は、機械特性と射出成形時のゲート詰まり防止等の観点から、3~50μmであることが好ましく、6~15μmであることがより好ましい。繊維状無機充填材の平均繊維長は特に制限されず、例えば0.1~20mmとすることができる。なお、繊維状充填剤の平均繊維径及び平均繊維長とは、樹脂組成物に配合される前の繊維状充填材について、CCDカメラで撮影した画像を解析し、加重平均により算出した値である。例えば、株式会社セイシン企業製、動的画像解析法/粒子(状態)分析計PITA-3等を用いて算出することができる。
【0051】
繊維状無機充填材としては、円形断面を有するもの及び非円形断面を有するもののいずれも用いることができる。非円形断面としては、長円形、楕円形、繭形等が挙げられる。非円形断面の異形比(長軸径:短軸径)は、特に限定されないが、1.5:1~6:1であることが好ましく、2:1~5:1であることがより好ましく、2.5:1~4:1であることが更に好ましい。異形比が1.5:1~6:1の範囲であると、断面を扁平にしたことによる寸法安定性、反り低減等の効果が得られ易く、また、扁平になり過ぎ割れやすくなることによる強度の低下も抑制し易い。
【0052】
(非繊維状無機充填材)
非繊維状無機充填材の形状は特に限定されず、粒状、楕円体状、紡錘体状、板状、鱗片状、不定形状等が挙げられる。非繊維状無機充填材としては、具体的には、マイカ、タルク、石英、珪酸カルシウム、珪酸アルミニウム、カオリン、クレー、珪藻土、ベントナイト等のケイ酸塩類;カーボンブラック、黒鉛等の炭素系材料;炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム等の金属の炭酸塩;硫酸亜鉛、硫酸カルシウム、硫酸バリウムの如き金属の硫酸塩;酸化亜鉛、酸化鉄、酸化チタン、三酸化アンチモン、アルミナの如き金属の酸化物;ガラスフレーク、ガラスビーズ、ミルドガラスファイバー、ガラスバルーン、ガラス粉等;その他、水酸化マグネシウム、ベーマイト、球状シリカ、フェライト、炭化珪素、窒化珪素、窒化硼素、各種金属粉末等が挙げられるがこれらに限定されない。低反り性向上の観点から、マイカ、ガラスフレーク、タルク等の板状、鱗片状の無機充填材を含むことが好ましく、少なくともマイカ、タルク等の板状の無機充填材を含有することがより好ましい。
【0053】
無機充填材(D)は1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0054】
また、繊維状無機充填材と非繊維状無機充填材とを組み合わせて用いてもよい。繊維状無機充填材と非繊維状無機充填材とを組み合わせて用いることにより、低反り性と、引張り強度等の機械的特性とを両立させることができる。繊維状無機充填材と非繊維状無機充填材との比率は特に限定されるものではないが、繊維状無機充填材/非繊維状無機充填材(質量比)=80/20~45/55であることが好ましく、75/25~55/45であることがより好ましく、70/30~60/40であることが更に好ましい。非繊維状無機充填材の含有量が無機充填材の20質量%以上であるとより優れた低反り性が得られ易く、55質量%以下であるとより優れた引張り強度が得られ易い。繊維状無機充填材と非繊維状無機充填材の組み合わせとしては、特に限定されるものではないが、ガラス繊維、炭素繊維等の繊維状無機充填材と、ガラスフレーク、マイカ、タルク等の非繊維状無機充填材との組み合わせが挙げられ、ガラス繊維とマイカを少なくとも含むことが好ましい。
【0055】
次いで、無機充填材(D)において、表面処理に用いられる集束剤に含まれる、カルボン酸及び/又はカルボン酸無水物を由来とする構成単位を有する重合物及びエポキシ樹脂について以下に説明する。
【0056】
(カルボン酸及び/又はカルボン酸無水物を由来とする構成単位を有する重合物)
カルボン酸及び/又はカルボン酸無水物を由来とする構成単位を有する重合物(以下、単に「重合物」とも呼ぶ。)において、カルボン酸としては、アクリル酸、メタクリル酸、フマル酸、マレイン酸、コハク酸、ケイ皮酸、イタコン酸、メサコン酸、シトラコン酸、等の不飽和カルボン酸等が挙げられる。これらは置換基を有してもよい。中でも、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、が好ましい。また、カルボン酸無水物としては、無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水コハク酸、無水フタル酸、無水グルタル酸、無水ドデセニルコハク酸、無水クロレンディック酸等の不飽和カルボン酸の無水物が挙げられる。
以上の重合物は、それぞれのカルボン酸又はカルボン酸無水物が単独で重合した単独重合体でもよいし、2以上のカルボン酸又はカルボン酸無水物が共重合した共重合体でもよい。
【0057】
本実施形態において、以上の重合物の重量平均分子量は特に限定はないが、10,000~1,000,000が特に好ましい。当該重量平均分子量が10,000~1,000,000の範囲内であると、十分な耐加水分解性が得られるとともに、無機充填材の表面への付着が十分となる。
【0058】
(エポキシ樹脂)
エポキシ樹脂としては、例えば、グリシジルエーテル型エポキシ樹脂、グリシジルエステル型エポキシ樹脂(ジグリシジルフタレート、ジグリシジルテトラヒドロフタレート、ジグリシジルヘキサヒドロフタレート、ジメチルグリシジルフタレート、ジメチルグリシジルヘキサヒドロフタレート、ダイマー酸グリシジルエステル、アロマティックジグリシジルエステル、シクロアリファティックジグリシジルエステルなど)、グリシジルアミン型エポキシ樹脂(テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン、トリグリシジル-パラアミノフェノール、トリグリシジル-メタアミノフェノール、ジグリシジルトルイジン、テトラグリシジルメタキシリレンジアミン、ジグリシジルトリブロムアニリン、テトラグリシジルビスアミノメチルシクロヘキサンなど)、複素環式エポキシ樹脂(トリグリシジルイソシアヌレート(TGIC)、ヒダントイン型エポキシ樹脂など)、環式脂肪族エポキシ樹脂(ビニルシクロヘキセンジオキシド、ジシクロペンタジエンオキシド、アリサイクリックジエポキシアセタール、アリサイクリックジエポキシアジペート、アリサイクリックジエポキシカルボキシレートなど)、エポキシ化ポリブタジエンなどが挙げられる。
【0059】
グリシジルエーテル型エポキシ樹脂には、ポリヒドロキシ化合物のグリシジルエーテル[ビスフェノール型エポキシ樹脂(例えば、ビスフェノールA型、ビスフェノールAD型、又はビスフェノールF型エポキシ樹脂など)、レゾルシン型エポキシ樹脂などの芳香族ポリヒドロキシ化合物のグリシジルエーテル;脂肪族エポキシ樹脂(アルキレングリコールやポリオキシアルキレングリコールのグリシジルエーテルなど)など]、ノボラック型エポキシ樹脂(フェノールノボラック型、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂など)などが含まれる。
【0060】
エポキシ樹脂のうち、芳香族エポキシ樹脂(ビスフェノール型エポキシ樹脂、レゾルシン型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂など)、環式脂肪族エポキシ樹脂が好ましい。中でも、グリシジルエーテル型芳香族エポキシ樹脂、例えば、ビスフェノール型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂などが好ましい。
【0061】
エポキシ樹脂のエポキシ当量は、例えば、100~1600g/eq、好ましくは100~800g/eq、更に好ましくは150~500g/eq程度であってもよい。
【0062】
エポキシ樹脂の数平均分子量は、例えば、200~50,000、好ましくは300~10,000、更に好ましくは400~6,000程度であってもよい。
【0063】
本実施形態において、集束剤中の重合物(X)とエポキシ樹脂(Y)との質量比率(X/Y)は、成形品の機械強度の向上の観点から、0.001~1.500とすることが好ましい。
【0064】
集束剤は、無機充填材(D)100質量部に対して0.1~3.0質量部含有していることが好ましく、0.3~2.5質量部含有していることがより好ましい。当該集束剤の含有量が0.1~3.0質量部であることで、耐加水分解性の向上を図ることができる。
【0065】
また、集束剤中には、上記成分以外に、ウレタン樹脂、シランカップリング剤、潤滑剤、ノニオン系の界面活性剤、帯電防止剤等の各成分を含むことができ、それぞれの成分の配合比は、必要に応じて決定すればよい。ウレタン樹脂はガラス繊維の結束性や分散性に寄与し、ポリイソシアネートとポリオールなどより得られる。シランカップリング剤としては、アミノシラン、エポキシシラン、クロルシラン、メルカプトシラン、ビニルシラン、アクリルシランなどが使用できる。潤滑剤としては、脂肪酸アミド、第4級アンモニウム塩などが使用できる。また、ノニオン系の界面活性剤としては、合成アルコール系、天然アルコール系、脂肪酸エステル系などが使用できる。
【0066】
本実施形態のPBT樹脂組成物において、無機充填材(D)は、PBT樹脂(A)100質量部に対して、10~100質量部含有し、20~80質量部含有することが好ましく、30~70質量部含有することがさらに好ましい。当該無機充填材(C)の含有量が10質量部未満であると、機械強度向上の効果が得られなくなり、100質量部を超えると、靭性が低下し、ウエルド部からの破壊や湿熱処理後の強度低下が顕著になる。
【0067】
[滴下防止剤]
PBT樹脂組成物には、さらに、燃焼した樹脂が滴下することによる延焼を防ぐ目的で、ポリテトラフルオロエチレン等の滴下防止剤をあわせて使用することも好ましい。滴下防止剤は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0068】
[耐加水分解向上剤]
本実施形態のPBT樹脂組成物においては、耐加水分解性の更なる向上のため、耐加水分解向上剤(D)として、芳香族カルボジイミド及び/又はエポキシ化合物を0.5~3.0質量部含有することが好ましい。
【0069】
[芳香族カルボジイミド化合物]
芳香族カルボジイミド化合物は、分子中にカルボジイミド基(-N=C=N-)を有する、主鎖が芳香族の化合物である。カルボジイミド化合物の中でも、芳香族カルボジイミド化合物は、耐熱性や耐湿熱性が優れる点で好ましい。
【0070】
芳香族カルボジイミド化合物としては、ジフェニルカルボジイミド、ジ-2,6-ジメチルフェニルカルボジイミド、N-トリイル-N’-フェニルカルボジイミド、ジ-p-ニトロフェニルカルボジイミド、ジ-p-アミノフェニルカルボジイミド、ジ-p-ヒドロキシフェニルカルボジイミド、ジ-p-クロルフェニルカルボジイミド、ジ-p-メトキシフェニルカルボジイミド、ジ-3,4-ジクロルフェニルカルボジイミド、ジ-2,5-ジクロルフェニルカルボジイミド、ジ-o-クロルフェニルカルボジイミド、p-フェニレン-ビス-ジ-o-トリイルカルボジイミド、p-フェニレン-ビス-ジシクロヘキシルカルボジイミド、p-フェニレン-ビス-ジ-p-クロルフェニルカルボジイミド、エチレン-ビス-ジフェニルカルボジイミド等のモノ又はジカルボジイミド化合物;及びポリ(4,4’-ジフェニルメタンカルボジイミド)、ポリ(3,5’-ジメチル-4,4’-ビフェニルメタンカルボジイミド)、ポリ(p-フェニレンカルボジイミド)、ポリ(m-フェニレンカルボジイミド)、ポリ(3,5’-ジメチル-4,4’-ジフェ
ニルメタンカルボジイミド)、ポリ(ナフチレンカルボジイミド)、ポリ(1,3-ジイソプロピルフェニレンカルボジイミド)、ポリ(1-メチル-3,5-ジイソプロピルフェニレンカルボジイミド)、ポリ(1,3,5-トリエチルフェニレンカルボジイミド)およびポリ(トリイソプロピルフェニレンカルボジイミド)等のポリカルボジイミド化合物:を挙げることができる。これらは2種以上を併用することもできる。
【0071】
芳香族カルボジイミド化合物の数平均分子量は、3000以上であることが好ましい。数平均分子量を上記範囲にすることで、熱可塑性樹脂の溶融混練時や成形時に滞留時間が長い場合において、ガスや臭気が発生することを防ぐことができる。
【0072】
芳香族カルボジイミド化合物の含有量は、PBT樹脂(A)100質量部に対して、0.5~3.0質量部含有することが好ましい。含有量が0.5質量部以上であると、耐加水分解性の向上を図ることができ、3.0質量部以下であると、流動性の低下の抑制やコンパウンド時(樹脂組成物の製造時)や成形加工時にゲル成分や炭化物の生成が発生しにくくなる。
【0073】
[エポキシ化合物]
本実施形態におけるエポキシ化合物としては、例えば、ビフェニル型エポキシ化合物、ビスフェノールA型エポキシ化合物、フェノールノボラック型エポキシ化合物、クレゾールノボラック型エポキシ化合物等の芳香族エポキシ化合物を挙げることができる。エポキシ化合物は、2種以上の化合物を任意に組み合わせて使用してもよい。エポキシ当量は、600~1500g/当量(g/eq)であることが好ましい。
【0074】
本実施形態におけるエポキシ化合物の添加量はPBT樹脂(A)100質量部に対し0.5~3.0質量部含有することが好ましい。含有量が0.5質量部以上であると、耐加水分解性の向上を図ることができ、5質量部以下であると、成形加工時に炭化物の生成が抑制され、粘度上昇による未充填や、変色を抑えることができる。
【0075】
[他の成分]
本実施形態のPBT樹脂組成物は、必要に応じて、その他の成分を含有することができる。その他の成分としては、例えば、無機充填材(D)以外の無機充填材、酸化防止剤、耐候安定剤、分子量調整剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、染料、顔料、滑剤、結晶化促進剤、結晶核剤、近赤外線吸収剤、有機充填剤、着色剤等が挙げられるがこれらに限定されない。
【0076】
<樹脂成形品>
本実施形態の樹脂成形品は、以上説明した本実施形態のPBT樹脂組成物を成形してなる。従って、本実施形態のPBT樹脂組成物と同様に難燃性を有し、耐加水分解性が従来よりも大幅に向上するという効果を奏する。
【0077】
本実施形態のPBT樹脂組成物を用いて樹脂成形品を作製する方法としては特に限定はなく、公知の方法を採用することができる。例えば、本実施形態のPBT樹脂組成物を押出機に投入して溶融混練してペレット化し、このペレットを所定の金型を装備した射出成形機に投入し、射出成形することで作製することができる。
【0078】
本実施形態の樹脂成形品としては、自動車部品用途、電気・電子部品用途において難燃性が必要とされる成形品用の樹脂組成物として好適に用いることができる。この樹脂組成物からなる成形品では、十分な高温高湿環境下で長期間使用した場合でも、加水分解による劣化が生じることを防ぐことができるためリレー、スイッチ、トランスボビン、端子台、カバー、スイッチ、ソケット、コイル、プラグコネクタなどに用いることができる。
【0079】
<ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物の製造方法>
本実施形態のPBT樹脂組成物の製造方法は、第1形態及び第2形態の2つの形態があり、いずれの形態も、以上の本実施形態のPBT樹脂組成物を製造する一形態である。
第1形態においては、ケミカルリサイクルにより得られる1,4-ブタンジオール及び/又はテレフタル酸を用いて、固有粘度が0.70dL/g以上、1.10dL/g以下、かつ、カルボン酸末端基量が18meq/kg以下であるポリブチレンテレフタレート樹脂(A)を得る工程A、及びポリブチレンテレフタレート樹脂(A)と、臭素系難燃剤(B)と、アンチモン系難燃助剤(C)と、カルボン酸及び/又はカルボン酸無水物を由来とする構成単位を含む重合物とエポキシ樹脂とを含有する集束剤で表面処理された無機充填材(D)とを混合する工程B、を含む。そして、臭素系難燃剤(B)が、臭素化エポキシ系難燃剤及び/又は臭素化アクリレート系難燃剤を含む。また、工程Bにおいて、ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)100質量部に対して、無機充填材(D)を10~100質量部混合する。
【0080】
また、第2形態においては、マテリアルリサイクルにより得られる、固有粘度が0.70dL/g以上、1.10dL/g以下、かつ、カルボン酸末端基量が18meq/kg以下であるポリブチレンテレフタレート樹脂(A)を得る工程、及びポリブチレンテレフタレート樹脂(A)と、臭素系難燃剤(B)と、アンチモン系難燃助剤(C)と、カルボン酸及び/又はカルボン酸無水物を由来とする構成単位を含む重合物とエポキシ樹脂とを含有する集束剤で表面処理された無機充填材(D)とを混合する工程B、を含む。そして、臭素系難燃剤(B)が、臭素化エポキシ系難燃剤及び/又は臭素化アクリレート系難燃剤を含む。また、工程Bにおいて、ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)100質量部に対して、無機充填材(D)を10~100質量部混合する。
【0081】
以上の第1形態及び第2形態においては、それぞれ、ケミカルリサイクル、マテリアルリサイクルを利用してPBT樹脂(A)を得るが、上述の本実施形態のPBT樹脂組成物の製造は、第1形態及び第2形態に係る製造方法に限定されることはない。すなわち、固有粘度が0.70dL/g以上、1.10dL/g以下であり、かつ、カルボン酸末端基量が18meq/kg以下であるPBT樹脂が得られれば、PBT樹脂(A)を得る方法について限定はない。
【0082】
第1形態及び第2形態においては、PBT樹脂(A)を得る工程において異なる。すなわち、第1形態は、ケミカルリサイクルにより得られる1,4-ブタンジオール及び/又はテレフタル酸を用いてPBT樹脂(A)を得るのに対し、第2形態においては、マテリアルリサイクルによりPBT樹脂(A)を得る。
【0083】
第1形態及び第2形態のいずれにおいても、廃プラスチックたるPBT樹脂を再利用できため、天然資源の節約と環境負荷の軽減に資する。
【0084】
第1形態においては、PBT樹脂(A)を、PBT樹脂廃棄物等から1,4-ブタンジオールやテレフタル酸等をモノマーレベルまで分解し(ケミカルリサイクル)、得られた原料を重縮合して製造する。ケミカルリサイクルは、PBT樹脂とアルコール類を反応容器に充填し加熱してアルコール類を超臨界条件として解重合し、1,4-ブタンジオールやテレフタル酸を回収することができる。
【0085】
第2形態においては、PBT樹脂(A)を、マテリアルリサイクルにより得る。すなわち、固有粘度とカルボン酸末端基量が上記規定範囲内であれば、市場回収品を使用することができる。市場回収品は単軸粉砕機、二軸粉砕機、三軸粉砕機、カッターミル等の粉砕機を用いて粉砕し、使用することができる。また、粉砕品を単軸押出機、二軸押出機を用いて溶融混練し、造粒化によりペレットとして使用することもできる。また、溶融混練時にブレーカープレート部にステンレス鋼製フィルター類をセットして異物を排除することができる。異物は破壊の起点となるため、異物を排除することで、PBT樹脂組成物からなる成形品の機械特性の維持と外観の改善を行うことができる。
【0086】
いずれの形態においても、PBT樹脂(A)を得る工程において、固有粘度が0.70dL/g以上、1.10dL/g以下であり、かつ、カルボン酸末端基量が18meq/kg以下であるPBT樹脂が得られれば、製法上の制限は特にない。
【0087】
成分(A)~(D)を混合する工程において、各成分を混合する手法としては特に制限はなく、公知の方法を採用することができる。例えば、各成分を押出機に投入して溶融混練してペレット化するといった方法が挙げられる。
【実施例0088】
以下に、実施例により本実施形態をさらに具体的に説明するが、本実施形態は以下の実施例に限定されるものではない。
【0089】
[実施例1~8、比較例1~7]
各実施例・比較例において(A)~(D)成分を表2~3に示す比率(質量部)で、30mmφの2軸押出機((株)日本製鋼所製、TEX30C)を用い、原料供給部とダイ先端部をシリンダー温度260℃、その間を220~260℃とし、吐出量15kg/h、スクリュ回転数130rpmで溶融混練して押出し、PBT樹脂組成物からなるペレットを得た。表2~3に示す各成分の詳細を以下に示す。
【0090】
(1)PBT樹脂(A);
(A-1):ポリプラスチックス(株)製、PBT樹脂 固有粘度:0.86dL/g、 カルボン酸末端基量:12meq/kg
(A-2):バイオマス由来1, 4-ブタンジオールとテレフタル酸、および触媒としてチタニウムテトラブトキシドを加え、重縮合したPBT樹脂。固有粘度:0.86dL/g、カルボン酸末端基量:12meq/kg
(A-3):ポリプラスチックス(株)製ジュラネックス500FPを、140℃で3時間乾燥させた後、FANUC社製射出成形機「ROBOSHOT S-2000i 100B」を用いてシリンダー温度260℃、金型温度80℃でISO3167に準拠した1AタイプのISO試験片(幅10mm、厚み4mmt)を作製し、得られたISO試験片を小型粉砕機で粉砕したPBT樹脂。固有粘度:0.89dL/g、カルボン酸末端基量:15meq/kg
(A-4):ポリプラスチックス(株)製、PBT樹脂、固有粘度:0.86dL/g、 カルボン酸末端基量:20meq/kg
(A-5):ポリプラスチックス(株)製、PBT樹脂、固有粘度:0.69dL/g、カルボン酸末端基量:24meq/kg
【0091】
(2)難燃剤(B);
(B-1)臭素系難燃剤:宇進高分子社製、臭素化エポキシ系難燃剤「CXB-1500C」(数平均分子量:15000、エポキシ当量:31000g/eq))
(B-2)臭素系難燃剤:阪本薬品工業(株)製、臭素化エポキシ系難燃剤「SRT5000S」(数平均分子量:10000、エポキシ当量:5000g/eq)
(B-3)臭素系難燃剤:ICL Japan(株)製、臭素化ベンジルアクリレート系難燃剤「FR-1025」
(B-4)リン系難燃剤:クラリアントジャパン(株)製、ジエチルホスフィン酸アルミニウム EXOLIT OP1240
【0092】
(3)難燃助剤(C);
(C-1)アンチモン系難燃助剤:日本精鉱(株)製、三酸化アンチモン
(C-2)アンチモン系難燃助剤:山中産業(株)製、五酸化アンチモン、HY1030
(C-3)窒素系難燃助剤:BASFジャパン(株)製、メラミンシアヌレート MELAPUR MC50
【0093】
(4)無機充填材(D);
(D-1)ガラス繊維:Eガラス製ガラス繊維、平均繊維径:13μm(集束剤:フェノールノボラック樹脂0.5質量%、無水マレイン酸とメタクリル酸メチルとアクリル酸メチルの共重合物0.2質量%)
(D-2)ガラス繊維:Eガラス製ガラス繊維、平均繊維径:13μm(集束剤:フェノールノボラック樹脂0.5質量%)
(D-3)ガラス繊維:Eガラス製ガラス繊維、平均繊維径:13μm(集束剤:無水マレイン酸とメタクリル酸メチルとアクリル酸メチルの共重合物(0.2質量%)
【0094】
一方、ガラス繊維(D-1)~(D-3)の表面処理に用いた集束剤の成分を表1に示す。表1における数値は、それぞれのガラス繊維全体に対する各成分の含有量(質量%)である。なお、ガラス繊維(D-1)において、集束剤は、ガラス繊維(D-1)100質量部に対して0.7質量部含有している。
【0095】
【表1】
【0096】
(5)滴下防止剤
・ダイキン工業(株)製、「ポリフロンPTFE M-392」(四フッ化エチレン樹脂)
(6)エポキシ化合物:三菱ケミカル(株)製、エピコート1004
(7)芳香族カルボジイミド化合物:ランクセス社製、芳香族ポリカルボジイミド Stabaxol P-100
【0097】
[評価]
各実施例・比較例で得られたペレットを用い、以下の評価試験を実施した。
(1)難燃性
表2~3の組成で作製したペレットを140℃で3時間乾燥した後、シリンダー温度260℃、金型温度80℃にて射出成形し、UL94に準拠し、125mm×13mm×厚さ1/16インチの短冊状試験片を作製して燃焼性を評価した。V-0を満たすものをV-0、満たさないものを不合格とした。評価結果を表2~3に示す。
【0098】
(2)耐加水分解性
表2~3の組成で作製したペレットを140℃で3時間乾燥した後、シリンダー温度260℃、金型温度80℃で射出成形して、ISO3167に準拠した1Aタイプの引張試験片を作製した。得られた試験片について、ISO527-1,2に準拠し、引張強さの測定をした。測定結果を表2~3に示す。次に、PCT処理装置(高加速寿命試験装置)を用い、試験片を121℃、100%RH下に曝露し、湿熱試験後(50時間後、100時間後)の引張強さを測定し湿熱処理前後での強度保持率を算出した。算出結果を表2~3に示す。
【0099】
【表2】
【0100】
【表3】
【0101】
表2~3より、実施例1~7においては、難燃性及び耐加水分解性のいずれも良好な評価結果が得られたことが分かる。すなわち、実施例1~7により、難燃性及び耐加水分解性の双方ともに優れる樹脂成形品を成形することが示された。
一方、エポキシ樹脂のみを含む集束剤で表面処理したガラス繊維(D-2)を用いたことのみが実施例1と異なる比較例1は耐加水分解性に劣っていた。同様に、無水マレイン酸とメタクリル酸メチルとアクリル酸メチルの共重合物の共重合物のみを含む集束剤で表面処理したガラス繊維(D-3)を用いたことのみが実施例1と異なる比較例2は耐加水分解性に劣っていた。
また、エポキシ樹脂のみを含む集束剤で表面処理したガラス繊維(D-2)を用いたことのみが実施例4と異なる比較例3は耐加水分解性に劣っていた。同様に、無水マレイン酸とメタクリル酸メチルとアクリル酸メチルの共重合物の共重合物のみを含む集束剤で表面処理したガラス繊維(D-3)を用いたことのみが実施例4と異なる比較例4は耐加水分解性に劣っていた。
また、末端カルボキシル基が高いPBT樹脂(A-4)を用いたことのみが実施例1と異なる比較例5と、固有粘度が低く、末端カルボキシル基が高いPBT樹脂(A-5)を用いたことのみが実施例1と異なる比較例6は耐加水分解性が劣っていた。
また、アンチモン系難燃助剤(C)が含まれていない比較例7は難燃性が不良であった。
また、難燃剤としてリン系難燃剤を、難燃助剤として窒素系難燃助剤を用いた比較例8及び9は、難燃性は良好であったものの、耐加水分解性に劣っていた。