(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024143418
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物及びその製造方法並びに樹脂成形品
(51)【国際特許分類】
C08L 67/02 20060101AFI20241003BHJP
C08K 7/04 20060101ALI20241003BHJP
C08K 9/04 20060101ALI20241003BHJP
C08L 25/04 20060101ALI20241003BHJP
C08L 69/00 20060101ALI20241003BHJP
C08L 63/00 20060101ALI20241003BHJP
C08L 79/00 20060101ALI20241003BHJP
C08J 3/20 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
C08L67/02
C08K7/04
C08K9/04
C08L25/04
C08L69/00
C08L63/00 Z
C08L79/00 Z
C08J3/20 Z CFD
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023056086
(22)【出願日】2023-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】390006323
【氏名又は名称】ポリプラスチックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100111235
【弁理士】
【氏名又は名称】原 裕子
(74)【代理人】
【識別番号】100170575
【弁理士】
【氏名又は名称】森 太士
(72)【発明者】
【氏名】斎藤 樹
(72)【発明者】
【氏名】五島 一也
(72)【発明者】
【氏名】深津 博樹
【テーマコード(参考)】
4F070
4J002
【Fターム(参考)】
4F070AA18
4F070AA34
4F070AA47
4F070AA50
4F070AB11
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4J002BC02X
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4J002FD016
4J002GN00
4J002GQ00
(57)【要約】
【課題】寸法精度及び耐加水分解性の双方ともに優れる樹脂成形品を成形することが可能なポリブチレンテレフタレート樹脂組成物を提供する。
【解決手段】固有粘度が0.70dL/g以上、1.10dL/g以下であり、かつ、カルボン酸末端基量が18meq/kg以下であるポリブチレンテレフタレート樹脂(A)100質量部に対して、ポリスチレン系樹脂及び/又はポリカーボネート系樹脂を含む非晶性樹脂(B)を20~100質量部、及びカルボン酸及び/又はカルボン酸無水物を由来とする構成単位を含む重合物とエポキシ樹脂とを含有する集束剤で表面処理された無機充填材(C)を20~100質量部含むポリブチレンテレフタレート樹脂組成物である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
固有粘度が0.70dL/g以上、1.10dL/g以下であり、かつ、カルボン酸末端基量が18meq/kg以下であるポリブチレンテレフタレート樹脂(A)100質量部に対して、
ポリスチレン系樹脂及び/又はポリカーボネート系樹脂を含む非晶性樹脂(B)を20~100質量部、及び
カルボン酸及び/又はカルボン酸無水物を由来とする構成単位を含む重合物とエポキシ樹脂とを含有する集束剤で表面処理された無機充填材(C)を20~100質量部含む、ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
【請求項2】
さらに、前記ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)100質量部に対して、耐加水分解向上剤(D)として芳香族カルボジイミド及び/又はエポキシ化合物を0.5~3.0質量部含む、請求項1記載のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
【請求項3】
前記無機充填材(C)が繊維状、かつ、平均繊維径が3~50μmであり、前記無機充填材(C)100質量部に対する前記集束剤の含有量が0.1~3.0質量部である、請求項1又は2に記載のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1又は2に記載のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物からなる樹脂成形品。
【請求項5】
請求項1又は2に記載のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物の製造方法であって、
ケミカルリサイクルにより得られる1,4-ブタンジオール及び/又はテレフタル酸を用いて、固有粘度が0.70dL/g以上、1.10dL/g以下、かつ、カルボン酸末端基量が18meq/kg以下であるポリブチレンテレフタレート樹脂(A)を得る工程、及び
前記ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)100質量部に対して、非晶性樹脂(B)を20~100質量部、及びカルボン酸及び/又はカルボン酸無水物を由来とする構成単位を含む重合物とエポキシ樹脂とを含有する集束剤で表面処理された無機充填材(C)を20~100質量部、を混合する工程を含む、ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物の製造方法。
【請求項6】
請求項1又は2に記載のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物の製造方法であって、
マテリアルリサイクルにより得られる、固有粘度が0.70dL/g以上、1.10dL/g以下、かつ、カルボン酸末端基量が18meq/kg以下であるポリブチレンテレフタレート樹脂(A)を得る工程、及び
前記ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)100質量部に対して、非晶性樹脂(B)を20~100質量部、及びカルボン酸及び/又はカルボン酸無水物を由来とする構成単位を含む重合物とエポキシ樹脂とを含有する集束剤で表面処理された無機充填材(C)を20~100質量部、を混合する工程を含む、ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物及びその製造方法並びに樹脂成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリブチレンテレフタレート樹脂(以下、「PBT樹脂」とも呼ぶ。)は、耐熱性、耐薬品性、電気特性、機械的特性、成形加工性などの種々の特性に優れるため、多くの用途に利用されている。例えば自動車分野ではコネクタ、センサー、アクチュエータ、ECUの筐体、ワイパーアーム部品、電気電子分野ではリレー、スイッチ、コイル部品、ギヤ、キャリアケース等にPBT樹脂が使用されている。
このような分野では、各種基板や、モーター等の熱を発生する内装部品の筐体内への設置又は他の部品との嵌合に寸法精度が必要とされている。また、自動車分野においては長期間室外で使用されるため高い耐久性も必要とされている。
【0003】
しかし、PBT樹脂は、分子内にエステル基を有しているため、高温高湿環境下では加水分解により物性が低下しやすい傾向がある。そのため、エポキシ系樹脂等による改良も行われている。特許文献1には、PBT樹脂の耐加水分解性と寸法精度を改善するため、寸法精度向上剤、エポキシ系樹脂、及び第4級アンモニウム塩を含むPBT樹脂組成物が提案されている。
【0004】
一方、ガラス繊維自体も集束剤にエポキシ樹脂を用いることで耐加水分解性を改善できることが知られている(特許文献2~3参照)。特許文献2には、不飽和カルボン酸及び/又は不飽和カルボン酸の無水物と不飽和単量体との共重合物及びエポキシ樹脂を必須成分とする集束剤で表面処理されたガラス繊維を用いることが示されている。また特許文献3には、ノボラック型エポキシ樹脂を含有する表面処理ガラス繊維が長期耐熱性に優れることが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2022-070452号公報
【特許文献2】特開2003-201671号公報
【特許文献3】特開2015-129073号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記の通り、PBT樹脂の寸法精度や耐加水分解性は、製品寿命の長期化に伴い更なる向上が求められていた。
【0007】
本発明は、上記従来の問題点に鑑みなされたものであり、その課題は、寸法精度及び耐加水分解性の双方ともに優れる樹脂成形品を成形することが可能なポリブチレンテレフタレート樹脂組成物及びその製造方法並びに当該樹脂組成物を成形してなる樹脂成形品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意検討した結果、固有粘度が0.70dL/g以上、1.10dL/g以下、かつ、カルボン酸末端基量が18meq/kg以下のPBT樹脂と、所定の非晶性樹脂と、カルボン酸等を由来とする構成単位を含む重合物とエポキシ樹脂とを含有する集束剤により表面処理されたガラス繊維とを含むPBT樹脂組成物を用いることで、従来に比べ、寸法精度と耐加水分解性が大幅に向上されることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
前記課題を解決する本発明の一態様は以下の通りである。(1)固有粘度が0.70dL/g以上、1.10dL/g以下であり、かつ、カルボン酸末端基量が18meq/kg以下であるポリブチレンテレフタレート樹脂(A)100質量部に対して、
ポリスチレン系樹脂及び/又はポリカーボネート系樹脂を含む非晶性樹脂(B)を20~100質量部、及び
カルボン酸及び/又はカルボン酸無水物を由来とする構成単位を含む重合物とエポキシ樹脂とを含有する集束剤で表面処理された無機充填材(C)を20~100質量部含む、ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
【0010】
(2)さらに、前記ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)100質量部に対して、耐加水分解向上剤(D)として芳香族カルボジイミド及び/又はエポキシ化合物を0.5~3.0質量部含む、前記(1)記載のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
【0011】
(3)前記無機充填材(C)が繊維状、かつ、平均繊維径が3~50μmであり、前記無機充填材(C)100質量部に対する前記集束剤の含有量が0.1~3.0質量部である、前記(1)又は(2)に記載のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
【0012】
(4)前記(1)又は(2)に記載のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物からなる樹脂成形品。
【0013】
(5)前記(1)又は(2)に記載のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物の製造方法であって、
ケミカルリサイクルにより得られる1,4-ブタンジオール及び/又はテレフタル酸を用いて、固有粘度が0.70dL/g以上、1.10dL/g以下、かつ、カルボン酸末端基量が18meq/kg以下であるポリブチレンテレフタレート樹脂(A)を得る工程、及び
前記ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)100質量部に対して、非晶性樹脂(B)を20~100質量部、及びカルボン酸及び/又はカルボン酸無水物を由来とする構成単位を含む重合物とエポキシ樹脂とを含有する集束剤で表面処理された無機充填材(C)を20~100質量部、を混合する工程を含む、ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物の製造方法。
【0014】
(6)前記(1)又は(2)に記載のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物の製造方法であって、
マテリアルリサイクルにより得られる、固有粘度が0.70dL/g以上、1.10dL/g以下、かつ、カルボン酸末端基量が18meq/kg以下であるポリブチレンテレフタレート樹脂(A)を得る工程、及び
前記ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)100質量部に対して、非晶性樹脂(B)を20~100質量部、及びカルボン酸及び/又はカルボン酸無水物を由来とする構成単位を含む重合物とエポキシ樹脂とを含有する集束剤で表面処理された無機充填材(C)を20~100質量部、を混合する工程を含む、ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、寸法精度及び耐加水分解性の双方ともに優れる樹脂成形品を成形することが可能なポリブチレンテレフタレート樹脂組成物及びその製造方法並びに当該樹脂組成物を成形してなる樹脂成形品を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】実施例において、平面度の測定に用いた試験片を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
<ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物>
本実施形態のPBT樹脂組成物は、固有粘度が0.70dL/g以上、1.10dL/g以下であり、かつ、カルボン酸末端基量が18meq/kg以下であるポリブチレンテレフタレート樹脂(A)100質量部に対して、ポリスチレン系樹脂及び/又はポリカーボネート系樹脂を含む非晶性樹脂(B)を20~100質量部、及びカルボン酸及び/又はカルボン酸無水物を由来とする構成単位を含む重合物とエポキシ樹脂とを含有する集束剤で表面処理された無機充填材(C)を20~100質量部含む。
【0018】
本実施形態のPBT樹脂組成物においては、非晶性樹脂(B)を所定量含むことで寸法精度に優れる。また、固有粘度が0.70dL/g以上、1.10dL/g以下であり、かつ、カルボン酸末端基量が18meq/kg以下であるPBT樹脂を用いること、及び無機充填材(C)の集束剤にカルボン酸及び/又はカルボン酸無水物を由来とする構成単位を含む重合物を含有することで、耐加水分解性に優れる。
以下に、本実施形態のPBT樹脂組成物の各成分について説明する。
【0019】
[ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)]
PBT樹脂(A)は、少なくともテレフタル酸又はそのエステル形成性誘導体(C1-6のアルキルエステルや酸ハロゲン化物等)を含むジカルボン酸成分と、少なくとも炭素原子数4のアルキレングリコール(1,4-ブタンジオール)又はそのエステル形成性誘導体(アセチル化物等)を含むグリコール成分とを重縮合して得られる樹脂である。PBT樹脂(A)はホモポリブチレンテレフタレート樹脂に限らず、ブチレンテレフタレート単位を60モル%以上(特に75モル%以上95モル%以下)含有する共重合体であってもよい。
また、本実施形態において、PBT樹脂の原料である1,4-ブタンジオール及びテレフタル酸又はテレフタル酸アルキルエステルは、化石資源由来又はバイオマス資源由来のいずれでもよい。
【0020】
PBT樹脂(A)のカルボン酸末端基量は、18meq/kg以下であり、2meq/kg以上18meq/kg以下が好ましく、5meq/kg以上13meq/kg以下がより好ましい。かかる範囲の末端カルボキルシル基量のPBT樹脂を用いることで、得られるPBT樹脂組成物が湿熱環境下での加水分解による強度低下を受けにくくなる。集束剤で表面処理された無機充填材との密着性を確保するため、カルボン酸末端基量は2meq/kg以上が好ましく、カルボン酸末端基量が2meq/kg未満の場合、ガラス繊維との密着性が低下し、強度低下が生じる。
【0021】
PBT樹脂(A)の固有粘度(IV)は0.70dL/g以上、1.10dL/g以下であり、好ましくは0.80dL/g以上0.95dL/g以下であり、より好ましくは0.83dL/g以上0.90dL/g以下である。かかる範囲の固有粘度のPBT樹脂を用いる場合には、得られるPBT樹脂組成物の耐加水分解性と成形性に優れたものとなる。また、異なる固有粘度を有するPBT樹脂をブレンドして、固有粘度を調整することもできる。例えば、固有粘度1.00dL/gのPBT脂と固有粘度0.80dL/gのPBT樹脂とをブレンドすることにより、固有粘度0.85dL/gのPBT樹脂を調製することができる。PBT樹脂(A)の固有粘度(IV)は、例えば、o-クロロフェノール中で温度35℃の条件で測定することができる。
【0022】
PBT樹脂(A)において、テレフタル酸及びそのエステル形成性誘導体以外のジカルボン酸成分(コモノマー成分)としては、例えば、イソフタル酸、フタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、4,4’-ジカルボキシジフェニルエーテル等のC8-14の芳香族ジカルボン酸;コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸等のC4-16のアルカンジカルボン酸;シクロヘキサンジカルボン酸等のC5-10のシクロアルカンジカルボン酸;これらのジカルボン酸成分のエステル形成性誘導体(C1-6のアルキルエステル誘導体や酸ハロゲン化物等)が挙げられる。これらのジカルボン酸成分は、単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0023】
これらのジカルボン酸成分の中では、イソフタル酸等のC8-12の芳香族ジカルボン酸、及び、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸等のC6-12のアルカンジカルボン酸がより好ましい。
【0024】
PBT樹脂(A)において、1,4-ブタンジオール以外のグリコール成分(コモノマー成分)としては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、1,3-ブチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,3-オクタンジオール等のC2-10のアルキレングリコール;ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール等のポリオキシアルキレングリコール;シクロヘキサンジメタノール、水素化ビスフェノールA等の脂環式ジオール;ビスフェノールA、4,4’-ジヒドロキシビフェニル等の芳香族ジオール;ビスフェノールAのエチレンオキサイド2モル付加体、ビスフェノールAのプロピレンオキサイド3モル付加体等の、ビスフェノールAのC2-4のアルキレンオキサイド付加体;又はこれらのグリコールのエステル形成性誘導体(アセチル化物等)が挙げられる。これらのグリコール成分は、単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0025】
これらのグリコール成分の中では、エチレングリコール、トリメチレングリコール等のC2-6のアルキレングリコール、ジエチレングリコール等のポリオキシアルキレングリコール、又は、シクロヘキサンジメタノール等の脂環式ジオール等がより好ましい。ジカルボン酸成分及びグリコール成分の他に使用できるコモノマー成分としては、例えば、4-ヒドロキシ安息香酸、3-ヒドロキシ安息香酸、6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸、4-カルボキシ-4’-ヒドロキシビフェニル等の芳香族ヒドロキシカルボン酸;グリコール酸、ヒドロキシカプロン酸等の脂肪族ヒドロキシカルボン酸;プロピオラクトン、ブチロラクトン、バレロラクトン、カプロラクトン(ε-カプロラクトン等)等のC3-12ラクトン;これらのコモノマー成分のエステル形成性誘導体(C1-6のアルキルエステル誘導体、酸ハロゲン化物、アセチル化物等)が挙げられる。
【0026】
以上説明したコモノマー成分を共重合したポリブチレンテレフタレート共重合体は、いずれもPBT樹脂(A)として好適に使用できる。また、PBT樹脂(A)として、ホモポリブチレンテレフタレート重合体とポリブチレンテレフタレート共重合体とを組み合わせて使用してもよい。
【0027】
PBT樹脂(A)は固有粘度とカルボン酸末端基量が上記規定範囲内であれば、市場回収品を使用することができる(マテリアルリサイクル)。また、PBT樹脂廃棄物から1,4-ブタンジオールやテレフタル酸などをモノマーレベルまで分解し(ケミカルリサイクル)、得られた原料を重縮合して製造されたPBT樹脂も使用することができる。当該PBT樹脂を用いる製造方法の形態については後述する。
【0028】
[非晶性樹脂(B)]
本実施形態のPBT樹脂組成物においては、ポリスチレン系樹脂及び/又はポリカーボネート系樹脂を含む非晶性樹脂(B)を含有することにより、PBT樹脂組成物から得られた樹脂成形品の反りや変形を抑制することが可能であり、寸法精度の向上に寄与する。非晶性樹脂(B)は、1種単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0029】
(ポリスチレン系樹脂)
ポリスチレン系樹脂としては、芳香族ビニル化合物から誘導される繰り返し単位を含む重合体及び共重合体が挙げられる。芳香族ビニル化合物としては、スチレン、α-アルキル置換スチレン、核アルキル置換スチレンなどが挙げられる。芳香族ビニル化合物以外のモノマーとしては、アクリロニトリル、メタクリル酸メチルなどが挙げられる。
ポリスチレン系樹脂としては、ゴムで変性されたものでもよく、ゴムとしては、ポリブタジエン、スチレン-ブタジエン共重合体、ポリイソプレン、エチレン-プロピレン共重合体などが挙げられる。また、ポリスチレン系樹脂としては、エポキシで変性されたものでもよい。このようなポリスチレン系樹脂の具体例としては、ポリスチレン、ゴム変性ポリスチレン、ABS樹脂、MBS樹脂、AS樹脂、ESBS樹脂などが挙げられ、好ましくはABS樹脂、AS樹脂、ESBS樹脂及びこれらの混合物である。
ポリスチレン系樹脂は、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0030】
(ポリカーボネート系樹脂)
ポリカーボネート系樹脂は、溶剤法、即ち塩化メチレン等の溶剤中で公知の酸受容体、分子量調整剤の存在下、二価フェノールとホスゲンのようなカーボネート前駆体との反応、又は二価フェノールとジフェニルカーボネートのようなカーボネート前駆体とのエステル交換反応によって製造することができる。ここで好適に使用し得る二価フェノールとしてはビスフェノール類があり、特に2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、即ちビスフェノールAが好ましい。また、ビスフェノールAの一部又は全部を他の二価フェノールで置換したものであってもよい。
【0031】
ビスフェノールA以外の二価フェノールとしては、例えばハイドロキノン、4,4-ジヒドロキシジフェニル、ビス(4-ヒドロキシフェニル)アルカン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロアルカン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルフィド、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルホキシド、ビス(4-ヒドロキシフェニル)エーテルのような化合物、又はビス(3,5-ジブロモ-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、ビス(3,5-ジクロロ-4-ヒドロキシフェニル)プロパンのようなハロゲン化ビスフェノール類を挙げることができる。これらの二価フェノールは、二価フェノールのホモポリマー又は2種以上のコポリマーであってもよい。更にポリカーボネート系樹脂は、多官能性芳香族を二価フェノール及び/又はカーボネート前駆体と反応させた熱可塑性ランダム分岐ポリカーボネートであってもよい。ポリカーボネートは、耐加水分解性の観点から高粘度のものが好ましく、300℃、1000sec-1における溶融粘度が0.20kPa・s以上、さらに好ましくは0.25kPa・s以上、最も好ましくは0.30kPa・s以上が望ましい。ポリカーボネート系樹脂は、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0032】
本実施形態のPBT樹脂組成物に配合される非結晶性樹脂(B)の配合量は、得られた樹脂成形品の十分な寸法安定性及び低そり性の観点から、PBT樹脂100質量部に対して、20~100質量部であり、30~80質量部が好ましく、40~70質量部がより好ましい。非結晶性樹脂の配合量が20質量部未満であると、得られた樹脂成形品の十分な寸法安定性及び低そり性が得られず、100質量部を超えると、耐熱性、離型性、耐加水分解性、及び溶融熱安定性に劣る。
【0033】
[無機充填材(C)]
本実施形態のPBT樹脂組成物においては、無機充填材(C)は、カルボン酸及び/又はカルボン酸無水物を由来とする構成単位を含む重合物とエポキシ樹脂とを含有する集束剤で表面処理されている。
無機充填材(C)を含有することにより、樹脂成形品の機械強度の向上の効果が得られ、更に、所定の集束剤による表面処理により耐加水分解性に優れる。
【0034】
無機充填材(D)の形状は、繊維状無機充填材及び非繊維状無機充填材のいずれも用いることができるが、繊維状無機充填材が好ましい。
【0035】
(繊維状無機充填材)
繊維状無機充填材としては、ガラス繊維、炭素繊維、シリカ繊維、シリカ・アルミナ繊維、ジルコニア繊維、窒化硼素繊維、窒化珪素繊維、硼素繊維、チタン酸カリウム繊維、金属繊維(例えば、ステンレス、アルミニウム、チタン、銅、真鍮等)等が挙げられる。代表的な繊維状無機充填材としては、ガラス繊維及びカーボン繊維が挙げられ、入手の容易性やコスト面からガラス繊維が好ましく用いられる。ガラス繊維の原料となるガラスの種類は特に限定されないが、品質上、Eガラスや、組成中にジルコニウム元素を含む耐腐食ガラスが好ましく用いられる。
【0036】
繊維状無機充填材の平均繊維径は、機械特性と射出成形時のゲート詰まり防止等の観点から、3~50μmであることが好ましく、6~15μmであることがより好ましい。繊維状無機充填材の平均繊維長は特に制限されず、例えば0.1~20mmとすることができる。なお、繊維状充填剤の平均繊維径及び平均繊維長とは、樹脂組成物に配合される前の繊維状充填材について、CCDカメラで撮影した画像を解析し、加重平均により算出した値である。例えば、株式会社セイシン企業製、動的画像解析法/粒子(状態)分析計PITA-3等を用いて算出することができる。
【0037】
繊維状無機充填材としては、円形断面を有するもの及び非円形断面を有するもののいずれも用いることができる。非円形断面としては、長円形、楕円形、繭形等が挙げられる。非円形断面の異形比(長軸径:短軸径)は、特に限定されないが、1.5:1~6:1であることが好ましく、2:1~5:1であることがより好ましく、2.5:1~4:1であることが更に好ましい。異形比が1.5:1~6:1の範囲であると、断面を扁平にしたことによる寸法安定性、反り低減等の効果が得られ易く、また、扁平になり過ぎ割れやすくなることによる強度の低下も抑制し易い。
【0038】
(非繊維状無機充填材)
非繊維状無機充填材の形状は特に限定されず、粒状、楕円体状、紡錘体状、板状、鱗片状、不定形状等が挙げられる。非繊維状無機充填材としては、具体的には、マイカ、タルク、石英、珪酸カルシウム、珪酸アルミニウム、カオリン、クレー、珪藻土、ベントナイト等のケイ酸塩類;カーボンブラック、黒鉛等の炭素系材料;炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム等の金属の炭酸塩;硫酸亜鉛、硫酸カルシウム、硫酸バリウムの如き金属の硫酸塩;酸化亜鉛、酸化鉄、酸化チタン、三酸化アンチモン、アルミナの如き金属の酸化物;ガラスフレーク、ガラスビーズ、ミルドガラスファイバー、ガラスバルーン、ガラス粉等;その他、水酸化マグネシウム、ベーマイト、球状シリカ、フェライト、炭化珪素、窒化珪素、窒化硼素、各種金属粉末等が挙げられるがこれらに限定されない。低反り性向上の観点から、マイカ、ガラスフレーク、タルク等の板状、鱗片状の無機充填材を含むことが好ましく、少なくともマイカ、タルク等の板状の無機充填材を含有することがより好ましい。
【0039】
無機充填材(C)は1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0040】
また、繊維状無機充填材と非繊維状無機充填材とを組み合わせて用いてもよい。繊維状無機充填材と非繊維状無機充填材とを組み合わせて用いることにより、低反り性と、引張り強度等の機械的特性とを両立させることができる。繊維状無機充填材と非繊維状無機充填材との比率は特に限定されるものではないが、繊維状無機充填材/非繊維状無機充填材(質量比)=80/20~45/55であることが好ましく、75/25~55/45であることがより好ましく、70/30~60/40であることが更に好ましい。非繊維状無機充填材の含有量が無機充填材の20質量%以上であるとより優れた低反り性が得られ易く、55質量%以下であるとより優れた引張り強度が得られ易い。繊維状無機充填材と非繊維状無機充填材の組み合わせとしては、特に限定されるものではないが、ガラス繊維、炭素繊維等の繊維状無機充填材と、ガラスフレーク、マイカ、タルク等の非繊維状無機充填材との組み合わせが挙げられ、ガラス繊維とマイカを少なくとも含むことが好ましい。
【0041】
次いで、無機充填材(C)において、表面処理に用いられる集束剤に含まれる、カルボン酸及び/又はカルボン酸無水物を由来とする構成単位を有する重合物及びエポキシ樹脂について以下に説明する。
【0042】
(カルボン酸及び/又はカルボン酸無水物を由来とする構成単位を有する重合物)
カルボン酸及び/又はカルボン酸無水物を由来とする構成単位を有する重合物(以下、単に「重合物」とも呼ぶ。)において、カルボン酸としては、アクリル酸、メタクリル酸、フマル酸、マレイン酸、コハク酸、ケイ皮酸、イタコン酸、メサコン酸、シトラコン酸、等の不飽和カルボン酸等が挙げられる。これらは置換基を有してもよい。中でも、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、が好ましい。また、カルボン酸無水物としては、無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水コハク酸、無水フタル酸、無水グルタル酸、無水ドデセニルコハク酸、無水クロレンディック酸等の不飽和カルボン酸の無水物が挙げられる。
以上の重合物は、それぞれのカルボン酸又はカルボン酸無水物が単独で重合した単独重合体でもよいし、2以上のカルボン酸又はカルボン酸無水物が共重合した共重合体でもよい。
【0043】
本実施形態において、以上の重合物の重量平均分子量は特に限定はないが、10,000~1,000,000が特に好ましい。当該重量平均分子量が10,000~1,000,000の範囲内であると、十分な耐加水分解性が得られるとともに、無機充填材の表面への付着が十分となる。
【0044】
(エポキシ樹脂)
エポキシ樹脂としては、例えば、グリシジルエーテル型エポキシ樹脂、グリシジルエステル型エポキシ樹脂(ジグリシジルフタレート、ジグリシジルテトラヒドロフタレート、ジグリシジルヘキサヒドロフタレート、ジメチルグリシジルフタレート、ジメチルグリシジルヘキサヒドロフタレート、ダイマー酸グリシジルエステル、アロマティックジグリシジルエステル、シクロアリファティックジグリシジルエステルなど)、グリシジルアミン型エポキシ樹脂(テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン、トリグリシジル-パラアミノフェノール、トリグリシジル-メタアミノフェノール、ジグリシジルトルイジン、テトラグリシジルメタキシリレンジアミン、ジグリシジルトリブロムアニリン、テトラグリシジルビスアミノメチルシクロヘキサンなど)、複素環式エポキシ樹脂(トリグリシジルイソシアヌレート(TGIC)、ヒダントイン型エポキシ樹脂など)、環式脂肪族エポキシ樹脂(ビニルシクロヘキセンジオキシド、ジシクロペンタジエンオキシド、アリサイクリックジエポキシアセタール、アリサイクリックジエポキシアジペート、アリサイクリックジエポキシカルボキシレートなど)、エポキシ化ポリブタジエンなどが挙げられる。
【0045】
グリシジルエーテル型エポキシ樹脂には、ポリヒドロキシ化合物のグリシジルエーテル[ビスフェノール型エポキシ樹脂(例えば、ビスフェノールA型、ビスフェノールAD型、又はビスフェノールF型エポキシ樹脂など)、レゾルシン型エポキシ樹脂などの芳香族ポリヒドロキシ化合物のグリシジルエーテル;脂肪族エポキシ樹脂(アルキレングリコールやポリオキシアルキレングリコールのグリシジルエーテルなど)など]、ノボラック型エポキシ樹脂(フェノールノボラック型、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂など)などが含まれる。
【0046】
エポキシ樹脂のうち、芳香族エポキシ樹脂(ビスフェノール型エポキシ樹脂、レゾルシン型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂など)、環式脂肪族エポキシ樹脂が好ましい。中でも、グリシジルエーテル型芳香族エポキシ樹脂、例えば、ビスフェノール型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂などが好ましい。
【0047】
エポキシ樹脂のエポキシ当量は、例えば、100~1600g/eq、好ましくは100~800g/eq、更に好ましくは150~500g/eq程度であってもよい。
【0048】
エポキシ樹脂の数平均分子量は、例えば、200~50,000、好ましくは300~10,000、更に好ましくは400~6,000程度であってもよい。
【0049】
本実施形態において、集束剤中の重合物(X)とエポキシ樹脂(Y)との質量比率(X/Y)は、樹脂成形品の機械強度の向上の観点から、0.001~1.500とすることが好ましい。
【0050】
集束剤は、無機充填材(C)100質量部に対して0.1~3.0質量部含有していることが好ましく、0.3~2.5質量部含有していることがより好ましい。当該集束剤の含有量が0.1~3.0質量部であることで、耐加水分解性の向上を図ることができる。
【0051】
また、集束剤中には、上記成分以外に、ウレタン樹脂、シランカップリング剤、潤滑剤、ノニオン系の界面活性剤、帯電防止剤等の各成分を含むことができ、それぞれの成分の配合比は、必要に応じて決定すればよい。ウレタン樹脂はガラス繊維の結束性や分散性に寄与し、ポリイソシアネートとポリオールなどより得られる。シランカップリング剤としては、アミノシラン、エポキシシラン、クロルシラン、メルカプトシラン、ビニルシラン、アクリルシランなどが使用できる。潤滑剤としては、脂肪酸アミド、第4級アンモニウム塩などが使用できる。また、ノニオン系の界面活性剤としては、合成アルコール系、天然アルコール系、脂肪酸エステル系などが使用できる。
【0052】
本実施形態のPBT樹脂組成物において、無機充填材(C)は、PBT樹脂(A)100質量部に対して、20~100質量部含有し、30~90質量部含有することが好ましく、40~80質量部含有することがさらに好ましい。当該無機充填材(C)の含有量が20質量部未満であると、機械強度向上の効果が得られなくなり、100質量部を超えると、靭性が低下し、ウエルド部からの破壊や湿熱処理後の強度低下が顕著になる。
【0053】
[耐加水分解向上剤(D)]
本実施形態のPBT樹脂組成物においては、耐加水分解性の更なる向上のため、耐加水分解向上剤(D)として、芳香族カルボジイミド及び/又はエポキシ化合物を0.5~3.0質量部含有することが好ましい。
【0054】
(芳香族カルボジイミド化合物)
芳香族カルボジイミド化合物は、分子中にカルボジイミド基(-N=C=N-)を有する、主鎖が芳香族の化合物である。カルボジイミド化合物の中でも、芳香族カルボジイミド化合物は、耐熱性や耐湿熱性が優れる点で好ましい。
【0055】
芳香族カルボジイミド化合物としては、ジフェニルカルボジイミド、ジ-2,6-ジメチルフェニルカルボジイミド、N-トリイル-N’-フェニルカルボジイミド、ジ-p-ニトロフェニルカルボジイミド、ジ-p-アミノフェニルカルボジイミド、ジ-p-ヒドロキシフェニルカルボジイミド、ジ-p-クロルフェニルカルボジイミド、ジ-p-メトキシフェニルカルボジイミド、ジ-3,4-ジクロルフェニルカルボジイミド、ジ-2,5-ジクロルフェニルカルボジイミド、ジ-o-クロルフェニルカルボジイミド、p-フェニレン-ビス-ジ-o-トリイルカルボジイミド、p-フェニレン-ビス-ジシクロヘキシルカルボジイミド、p-フェニレン-ビス-ジ-p-クロルフェニルカルボジイミド、エチレン-ビス-ジフェニルカルボジイミド等のモノ又はジカルボジイミド化合物;及びポリ(4,4’-ジフェニルメタンカルボジイミド)、ポリ(3,5’-ジメチル-4,4’-ビフェニルメタンカルボジイミド)、ポリ(p-フェニレンカルボジイミド)、ポリ(m-フェニレンカルボジイミド)、ポリ(3,5’-ジメチル-4,4’-ジフェ
ニルメタンカルボジイミド)、ポリ(ナフチレンカルボジイミド)、ポリ(1,3-ジイソプロピルフェニレンカルボジイミド)、ポリ(1-メチル-3,5-ジイソプロピルフェニレンカルボジイミド)、ポリ(1,3,5-トリエチルフェニレンカルボジイミド)及びポリ(トリイソプロピルフェニレンカルボジイミド)等のポリカルボジイミド化合物:を挙げることができる。これらは2種以上を併用することもできる。
【0056】
芳香族カルボジイミド化合物の数平均分子量は、3000以上であることが好ましい。数平均分子量を上記範囲にすることで、熱可塑性樹脂の溶融混練時や成形時に滞留時間が長い場合において、ガスや臭気が発生することを防ぐことができる。
【0057】
芳香族カルボジイミド化合物の含有量は、PBT樹脂(A)100質量部に対して、0.5~3.0質量部含有することが好ましい。含有量が0.5質量部以上であると、耐加水分解性の向上を図ることができ、3.0質量部以下であると、流動性の低下の抑制やコンパウンド時(樹脂組成物の製造時)や成形加工時にゲル成分や炭化物の生成が発生しにくくなる。
【0058】
[エポキシ化合物]
本実施形態におけるエポキシ化合物としては、例えば、ビフェニル型エポキシ化合物、ビスフェノールA型エポキシ化合物、フェノールノボラック型エポキシ化合物、クレゾールノボラック型エポキシ化合物等の芳香族エポキシ化合物を挙げることができる。エポキシ化合物は、2種以上の化合物を任意に組み合わせて使用してもよい。エポキシ当量は、200~1500g/当量(g/eq)であることが好ましい。
【0059】
本実施形態におけるエポキシ化合物の添加量はPBT樹脂(A)100質量部に対し0.5~3.0質量部含有することが好ましい。含有量が0.5質量部以上であると、耐加水分解性の向上を図ることができ、5質量部以下であると、成形加工時に炭化物の生成が抑制され、粘度上昇による未充填や、変色を抑えることができる。
【0060】
[他の成分]
本実施形態のPBT樹脂組成物は、必要に応じて、その他の成分を含有することができる。その他の成分としては、例えば、無機充填材(C)以外の無機充填材、酸化防止剤、耐候安定剤、分子量調整剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、染料、顔料、滑剤、結晶化促進剤、結晶核剤、近赤外線吸収剤、難燃剤、難燃助剤、有機充填剤、着色剤等が挙げられるがこれらに限定されない。
【0061】
<樹脂成形品>
本実施形態の樹脂成形品は、以上説明した本実施形態のPBT樹脂組成物を成形してなる。従って、本実施形態のPBT樹脂組成物と同様に、耐加水分解性と寸法精度が従来よりも大幅に向上するという効果を奏する。
【0062】
本実施形態のPBT樹脂組成物を用いて樹脂成形品を作製する方法としては特に限定はなく、公知の方法を採用することができる。例えば、本実施形態のPBT樹脂組成物を押出機に投入して溶融混練してペレット化し、このペレットを所定の金型を装備した射出成形機に投入し、射出成形することで作製することができる。
【0063】
本実施形態の樹脂成形品としては、自動車や電車、航空産業用用途などの高温高湿環境に長期間曝される成形品用の樹脂組成物として好適に用いることができる。この樹脂組成物からなる成形品では、寸法精度に優れ、十分な高温高湿環境下で長期間使用した場合でも、加水分解による劣化が生じることを防ぐことができるため、アクチュエーターケースやセンサー、ECU、ジャンクションボックスなどの筐体、コネクタなどに用いることができる。
【0064】
<ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物の製造方法>
本実施形態のPBT樹脂組成物の製造方法は、第1形態及び第2形態の2つの形態があり、いずれの形態も、以上の本実施形態のPBT樹脂組成物を製造する一形態である。
第1形態においては、ケミカルリサイクルにより得られる1,4-ブタンジオール及び/又はテレフタル酸を用いて、固有粘度が0.70dL/g以上、1.10dL/g以下、かつ、カルボン酸末端基量が18meq/kg以下であるPBT樹脂(A)を得る工程、及びPBT樹脂(A)100質量部に対して、非晶性樹脂(B)を20~100質量部、及びカルボン酸及び/又はカルボン酸無水物を由来とする構成単位を含む重合物とエポキシ樹脂とを含有する集束剤で表面処理された無機充填材(C)を20~100質量部、を混合する工程を含む。
【0065】
また、第2形態においては、マテリアルリサイクルにより得られる、固有粘度が0.70dL/g以上、1.10dL/g以下、かつ、カルボン酸末端基量が18meq/kg以下であるPBT樹脂(A)を得る工程、及びPBT樹脂(A)100質量部に対して、非晶性樹脂(B)を20~100質量部、及びカルボン酸及び/又はカルボン酸無水物を由来とする構成単位を含む重合物とエポキシ樹脂とを含有する集束剤で表面処理された無機充填材(C)を20~100質量部、を混合する工程を含む。
【0066】
以上の第1形態及び第2形態においては、それぞれ、ケミカルリサイクル、マテリアルリサイクルを利用してPBT樹脂(A)を得るが、上述の本実施形態のPBT樹脂組成物の製造は、第1形態及び第2形態に係る製造方法に限定されることはない。すなわち、固有粘度が0.70dL/g以上、1.10dL/g以下であり、かつ、カルボン酸末端基量が18meq/kg以下であるPBT樹脂が得られれば、PBT樹脂(A)を得る方法について限定はない。
【0067】
第1形態及び第2形態においては、PBT樹脂(A)を得る工程において異なる。すなわち、第1形態は、ケミカルリサイクルにより得られる1,4-ブタンジオール及び/又はテレフタル酸を用いてPBT樹脂(A)を得るのに対し、第2形態においては、マテリアルリサイクルによりPBT樹脂(A)を得る。
【0068】
第1形態及び第2形態のいずれにおいても、廃プラスチックたるPBT樹脂を再利用できため、天然資源の節約と環境負荷の軽減に資する。
【0069】
第1形態においては、PBT樹脂(A)を、PBT樹脂廃棄物等から1,4-ブタンジオールやテレフタル酸等をモノマーレベルまで分解し(ケミカルリサイクル)、得られた原料を重縮合して製造する。ケミカルリサイクルは、PBT樹脂とアルコール類を反応容器に充填し加熱してアルコール類を超臨界条件として解重合し、1,4-ブタンジオールやテレフタル酸を回収することができる。
【0070】
第2形態においては、PBT樹脂(A)を、マテリアルリサイクルにより得る。すなわち、固有粘度とカルボン酸末端基量が上記規定範囲内であれば、市場回収品を使用することができる。市場回収品は単軸粉砕機、二軸粉砕機、三軸粉砕機、カッターミル等の粉砕機を用いて粉砕し、使用することができる。また、粉砕品を単軸押出機、二軸押出機を用いて溶融混練し、造粒化によりペレットとして使用することもできる。また、溶融混練時にブレーカープレート部にステンレス鋼製フィルター類をセットして異物を排除することができる。異物は破壊の起点となるため、異物を排除することで、PBT樹脂組成物からなる成形品の機械特性の維持と外観の改善を行うことができる。
【0071】
いずれの形態においても、PBT樹脂(A)を得る工程において、固有粘度が0.70dL/g以上、1.10dL/g以下であり、かつ、カルボン酸末端基量が18meq/kg以下であるPBT樹脂が得られれば、製法上の制限は特にない。
【0072】
成分(A)~(C)を混合する工程において、各成分を混合する手法としては特に制限はなく、公知の方法を採用することができる。例えば、各成分を押出機に投入して溶融混練してペレット化するといった方法が挙げられる。
【実施例0073】
以下に、実施例により本実施形態をさらに具体的に説明するが、本実施形態は以下の実施例に限定されるものではない。
【0074】
[実施例1~9、比較例1~8]
各実施例・比較例において(A)~(D)成分を表2~3に示す比率(質量部)で、30mmφの2軸押出機((株)日本製鋼所製、TEX30C)を用い、原料供給部とダイ先端部をシリンダー温度260℃、その間を220~260℃とし、吐出量15kg/h、スクリュ回転数130rpmで溶融混練して押出し、PBT樹脂組成物からなるペレットを得た。表2~3に示す各成分の詳細を以下に示す。
【0075】
(1)ポリブチレンテレフタレート樹脂(A);
(A-1):ポリプラスチックス(株)製、PBT樹脂 固有粘度:0.86dL/g、 カルボン酸末端基量 12meq/kg
(A-2):バイオマス由来1, 4-ブタンジオールとテレフタル酸、及び触媒としてチタニウムテトラブトキシドを加え、重縮合したPBT樹脂。固有粘度:0.86dL/g カルボン酸末端基量 12meq/kg
(A-3):ポリプラスチックス(株)製、ジュラネックス500FPを、140℃で3時間乾燥させた後、FANUC社製射出成形機「ROBOSHOT S-2000i 100B」を用いてシリンダー温度260℃、金型温度80℃でISO3167に準拠した1AタイプのISO試験片(幅10mm、厚み4mmt)を作製し、得られたISO試験片を小型粉砕機で粉砕したPBT樹脂(固有粘度:0.89dL/g カルボン酸末端基量 15meq/kg)
(A-4):ポリプラスチックス(株)製、PBT樹脂 固有粘度:0.86dL/g カルボン酸末端基量 20meq/kg
(A-5):ポリプラスチックス(株)製、PBT樹脂 固有粘度:0.69dL/g カルボン酸末端基量 24meq/kg
【0076】
(2)非晶性樹脂(B);
(B-1):アクリロニトリルスチレン樹脂(テクノUMG(株)製、「AP-20」)
(B-2):ポリカーボネート樹脂(帝人(株)製、パンライト「L-1225L」溶融粘度:0.27Pa・s)
【0077】
(4)無機充填材(C);
(C-1):ガラス繊維:Eガラス製ガラス繊維、平均繊維径:13μm(集束剤:フェノールノボラック樹脂0.5質量%、無水マレイン酸とメタクリル酸メチルとアクリル酸メチルの共重合物0.2質量%)
(C-2):ガラス繊維:Eガラス製ガラス繊維 平均繊維径:13μm(集束剤:フェノールノボラック樹脂0.5質量%)
(C-3):ガラス繊維:Eガラス製ガラス繊維 平均繊維径:13μm(集束剤:無水マレイン酸とメタクリル酸メチルとアクリル酸メチルの共重合物0.2質量%)
【0078】
一方、ガラス繊維(C-1)~(C-3)の表面処理に用いた集束剤の成分を下記表1に示す。表1における数値は、それぞれのガラス繊維全体に対する各成分の含有量(質量%)である。なお、ガラス繊維(C-1)において、集束剤は、ガラス繊維(C-1)100質量部に対して0.7質量部含有している。
【0079】
【0080】
(4)耐加水分解向上剤(D);
(D-1):エポキシ化合物:三菱ケミカル(株)製、エピコート1004
(D-2):芳香族カルボジイミド化合物:ランクセス社製、芳香族ポリカルボジイミド Stabaxol P-100
【0081】
[評価]
各実施例・比較例で得られたペレットを用い、以下の評価試験を実施した。
(1)平面度
表2~3の組成で得られた各実施例及び比較例のPBT樹脂組成物ペレットを、140℃で3時間乾燥させた後、シリンダー温度260℃、金型温度60℃、保圧力80MPa、サイドゲートで、120mm×120mm×2mmtの平板(
図1参照)を射出成形して作製した。次いで、23℃×50%RHの空調室で24時間以上調整した後、
図1に示す9点の部位における高さをミツトヨ製画像測定装置により測定し、最高点と最低点の高さの差より平面度を求めた。表2~3に平面度(単位:mm)を示す。平面度は10mm以下のものが優れていると判断した。
【0082】
(2)耐加水分解性
表2~3の組成で得られた各実施例及び比較例のPBT樹脂組成物ペレットを140℃で3時間乾燥した後、シリンダー温度260℃、金型温度80℃で射出成形して、ISO3167に準拠した1Aタイプの引張試験片を作製した。得られた試験片について、ISO527-1,2に準拠し、引張強さの測定をした。測定結果を表2~3に示す。次に、PCT処理装置(高加速寿命試験装置)を用い、試験片を121℃、100%RH下に曝露し、湿熱試験後(50時間後、100時間後)の引張強さを測定し湿熱処理前後での強度保持率を算出した。算出結果を表2~3に示す。
【0083】
【0084】
【0085】
表2~3より、実施例1~9においては、平面度及び耐加水分解性の良好な評価結果が得られたことが分かる。すなわち、実施例1~9により、寸法精度及び耐加水分解性の双方ともに優れる樹脂成形品を成形することが示された。
一方、非晶性樹脂(B)が含まれていない、もしくは少量の比較例1~3及び比較例8は反りが大きく、平面度が不良であった。
また、エポキシ樹脂のみを含む集束剤で表面処理したガラス繊維(C-2)を用いたことのみが実施例3と異なる比較例4は、耐加水分解性に劣っていた。同様に、無水マレイン酸とメタクリル酸メチルとアクリル酸メチルの共重合物の共重合物のみを含む集束剤で表面処理したガラス繊維(C-3)を用いたことのみが実施例3と異なる比較例5も耐加水分解性に劣っていた。
更に、カルボン酸末端基量の高いPBT樹脂(A-4)を用いた比較例6及び、固有粘度が低いPBT樹脂(A-5)を用いた比較例7は耐加水分解性に劣っていた。