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特開2024-143436歯科用組成物、及び歯科用組成物の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024143436
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】歯科用組成物、及び歯科用組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 6/77 20200101AFI20241003BHJP
【FI】
A61K6/77
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023056115
(22)【出願日】2023-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(71)【出願人】
【識別番号】515279946
【氏名又は名称】株式会社ジーシー
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】今里 聡
(72)【発明者】
【氏名】北川 晴朗
(72)【発明者】
【氏名】山下 美樹
(72)【発明者】
【氏名】庄司 拓未
(72)【発明者】
【氏名】秋山(藤本) 絢香
(72)【発明者】
【氏名】神野 友樹
【テーマコード(参考)】
4C089
【Fターム(参考)】
4C089AA06
4C089AA10
4C089BA14
4C089BA16
(57)【要約】
【課題】口腔内の環境に応じてイオンを徐放する歯科用組成物を提供すること。
【解決手段】ガラス粉末複合体を含有する歯科用組成物であって、前記ガラス粉末複合体は、第1のガラス粉末と、前記第1のガラス粉末とはpHによって溶解性が異なる第2のガラス粉末と、を含有し、前記第1のガラス粉末及び前記第2のガラス粉末は、何れもイオン徐放性を有する、歯科用組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス粉末複合体を含有する歯科用組成物であって、
前記ガラス粉末複合体は、
第1のガラス粉末と、
前記第1のガラス粉末とはpHによって溶解性が異なる第2のガラス粉末と、を含有し、
前記第1のガラス粉末及び前記第2のガラス粉末は、何れもイオン徐放性を有する、
歯科用組成物。
【請求項2】
前記第1のガラス粉末がケイ酸塩ガラスの粉末であり、
前記第2のガラス粉末がリン酸塩ガラスである、
請求項1に記載の歯科用組成物。
【請求項3】
前記第1のガラス粉末、及び前記第2のガラス粉末は、何れもLi、Ca、Sr、Cu、Ag、Zn、B、Ga、Fから選ばれる少なくとも1つの元素を含有する、
請求項1に記載の歯科用組成物。
【請求項4】
前記第1のガラス粉末に含まれる元素の少なくとも1つが、前記第2のガラス粉末に含まれる元素の少なくとも1つと同一である、
請求項1に記載の、歯科用組成物。
【請求項5】
前記第1のガラス粉末に含まれる元素の少なくとも1つが、前記第2のガラス粉末に含まれる元素と異なり、かつ、
前記第2のガラス粉末に含まれる元素の少なくとも1つが、前記第1のガラス粉末に含まれる元素と異なる、
請求項1乃至4の何れか1項に記載の、歯科用組成物。
【請求項6】
前記第2のガラス粉末は、中性域における溶解率が酸性域における溶解率より大きい、
請求項5に記載の、歯科用組成物。
【請求項7】
ガラス粉末複合体を含有する歯科用組成物の製造方法であって、
第1のガラス粉末と、前記第1のガラス粉末とはpHによって溶解性が異なる第2のガラス粉末と、を混合する工程を有し、
前記第1のガラス粉末及び前記第2のガラス粉末は、何れもイオン徐放性を有する、
歯科用組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯科用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
歯科分野において、機能性イオンを徐放するイオン徐放性ガラスを用いる技術が知られている。例えば、特許文献1には、イオン徐放性ガラスを用いる歯科用組成物が開示されている。また、特許文献2には、フッ化物イオンを徐放するイオン徐放性ガラスを用いる歯科用水硬性仮封材組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2019/189851号
【特許文献2】特開2018-95573号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
イオン徐放性ガラスを用いた歯科用組成物は、酸性度(pH)が一定でない口腔内の環境で用いられるため、口腔内で酸性度が変化するとイオンを徐放する機能が得られない場合がある。
【0005】
本願発明の課題は、口腔内の環境に応じてイオンを徐放する歯科用組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様に係る歯科用組成物は、ガラス粉末複合体を含有する歯科用組成物であって、前記ガラス粉末複合体は、第1のガラス粉末と、前記第1のガラス粉末とはpHによって溶解性が異なる第2のガラス粉末と、を含有し、前記第1のガラス粉末及び前記第2のガラス粉末は、何れもイオン徐放性を有する。
【発明の効果】
【0007】
本発明の一態様によれば、口腔内の環境に応じてイオンを徐放する歯科用組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。本実施形態に係る歯科用組成物は、ガラス粉末複合体を含有する。本明細書において、歯科用組成物とは、歯科材料に用いられる組成物を示す。ガラス粉末複合体は、少なくとも2種類のガラスを含む組成物を示す。
【0009】
歯科用組成物に含まれるガラス粉末複合体は、第1のガラス粉末と、該第1のガラス粉末とはpHによって溶解性が異なる第2のガラス粉末とを含有し、第1のガラス粉末及び第2のガラス粉末は、何れもイオン徐放性を有する。
【0010】
本明細書において、「ガラス」には、非結晶質のものの他、結晶質のものも含まれ、その一部にガラスを含む、ガラスセラミックも含まれる。ガラス粉末は、粉末状のガラスを示す。なお、粉末のサイズは、メジアン径で0.02μm以上100μm以下であることが好ましく、0.02μm以上30μm以下であることがより好ましい。
【0011】
本明細書において、pHによって溶解性が異なるガラスは、酸性度によって水に対する溶けやすさが、第1のガラス粉末と第2のガラス粉末とで異なることを示す。イオン徐放性は、ガラスに含まれる成分が溶解してイオンの状態で徐々に放出される性質を示す。
【0012】
第1のガラス粉末の成分は、特に限定されない。第1のガラス粉末としては、好ましくはケイ酸塩ガラスの粉末が用いられる。ケイ酸塩ガラスは、中性(pH6.5超pH8未満)よりも酸性(pH6.5以下)で溶解しやすく、イオンを徐放しやすいガラスである。
【0013】
ケイ酸塩ガラスは、ケイ素(Si)を含有し、さらにナトリウム(Na)及び/又はカリウム(K)を含有する。ここで、ケイ素は、歯科用組成物に含まれるガラス中で網目形成の役割を果たす。
【0014】
ケイ酸塩ガラス中のケイ素の含有量は、特に限定されないが、酸化ケイ素(SiO)に換算した量で15質量%以上70質量%以下であることが好ましく、15質量%以上50質量%以下であることがさらに好ましい。ケイ酸塩ガラス中の酸化ケイ素の含有量が15質量%以上であることにより、歯科用組成物に含まれるガラスが得られやすくなり、70質量%以下であることにより、熔融温度が高くなりすぎないガラスを含む歯科用組成物が得られやすくなる。
【0015】
ケイ酸塩ガラス中のナトリウム及び/又はカリウムの含有量は、特に限定されないが、酸化ナトリウム(NaO)及び/又は酸化カリウム(KO)に換算した量で0質量%以上15質量%以下であることが好ましく、1質量%以上10質量%以下であることがさらに好ましい。
【0016】
ケイ酸塩ガラスがナトリウム及び/又はカリウムを含有することにより、歯科用組成物に含まれるガラスの熔融温度を下げ、さらにガラスの溶解性を高めることができる。また、ケイ酸塩ガラス中の酸化ナトリウム及び/又は酸化カリウムの含有量が15質量%以下であることにより、歯科用組成物が含まれるガラスとして水への溶解性が高すぎないガラスが得られやすくなる。
【0017】
ケイ酸塩ガラスの具体例としては、ソーダ石灰ガラス、アルミノケイ酸塩ガラス、ホウケイ酸ガラス、鉛ガラス等が挙げられる。これらの中でも、イオン徐放性が高い点で、ソーダ石灰ガラス、アルミノケイ酸塩ガラスが好ましい。
【0018】
ケイ酸塩ガラスの粉末である第1のガラス粉末は、ケイ素(Si)、ナトリウム(Na)、及びカリウム(K)以外の元素を少なくとも1種含有する。このガラスに含まれる元素は、ガラスから徐放されるイオン(以下、徐放性イオンという)を形成する元素である。
【0019】
第1のガラス粉末に含まれる元素は、特に限定されないが、例えば、Li、Ca、Sr、Ba、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Ti、Zr、Ta、Cu、Ag、Zn、B、Al、Ga、Si、Sn、P、Fなどが挙げられる。これらの元素は、1種又は2種以上含有し得る。これらの中でも、Li、Ca、Sr、Cu、Ag、Zn、B、Ga、Fが好ましい。
【0020】
また、第1のガラス粉末に含まれる元素は、徐放性イオンが耐酸性を向上させる点で、Ca、Srが好ましく、酸の生成を抑制する点で、Znが好ましい。また、徐放性イオンが歯質の脱灰抑制効果を有する点で、Ca、Zn、Fが好ましく、骨形成を促進する点で、Ca、Srが好ましい。さらに、徐放性イオンが抗菌効果を有する点で、Cu、Ag、Zn、B、Ga、Fが好ましく、徐放性イオンが抗炎症性作用を有する点で、Liが好ましい。
【0021】
第1のガラス粉末に含まれる元素の含有量は、Liの含有量は、特に限定されないが、酸化リチウム(LiO)に換算した量で0質量%以上10質量%以下であることが好ましく、1質量%以上8質量%以下であることがさらに好ましい。第1のガラス粉末がLiを含有することにより抗炎症作用を付与することができ、10質量%以下であることにより、歯科用組成物が含まれるガラスとして水への溶解性が高すぎないガラスが得られやすくなる。
【0022】
第1のガラス粉末に含まれるCaの含有量は、特に限定されないが、酸化カルシウム(CaO)に換算した量で0質量%以上40質量%以下であることが好ましく、1質量%以上35質量%以下であることがさらに好ましい。第1のガラス粉末がCaを含有することにより、耐酸性効果、歯質の脱灰抑制効果、骨形成促進作用を付与することができ、40質量%以下であることにより、歯科用組成物が含まれるガラスが得られやすくなる。
【0023】
第1のガラス粉末に含まれるSrの含有量は、特に限定されないが、酸化ストロンチウム(SrO)に換算した量で0質量%以上40質量%以下であることが好ましく、1質量%以上35質量%以下であることがさらに好ましい。第1のガラス粉末がSrを含有することにより、耐酸性効果、骨形成促進作用を付与することができ、40質量%以下であることにより、熔融温度が高くなりすぎないガラスを含む歯科用組成物が得られやすくなる。
【0024】
第1のガラス粉末に含まれるCuの含有量は、特に限定されないが、酸化銅(CuO)に換算した量で0質量%以上10質量%以下であることが好ましく、0.1質量%以上5質量%以下であることがさらに好ましい。第1のガラス粉末がCuを含有することにより、抗菌効果を付与することができ、10質量%以下であることにより、歯科用組成物に含まれるガラスが得られやすくなる。
【0025】
第1のガラス粉末に含まれるAgの含有量は、特に限定されないが、酸化銀(AgO)に換算した量で0質量%以上5質量%以下であることが好ましく、0.1質量%以上3質量%以下であることがさらに好ましい。第1のガラス粉末がAgを含有することにより、抗菌効果を付与することができ、5質量%以下とすることで、歯科用組成物に含まれるガラスが得られやすくなる。
【0026】
第1のガラス粉末に含まれるZnの含有量は、特に限定されないが、酸化亜鉛(ZnO)に換算した量で0質量%以上40質量%以下であることが好ましく、1質量%以上35質量%以下であることがさらに好ましい。第1のガラス粉末がZnを含有することにより、酸生成抑制効果、歯質の脱灰抑制効果、抗菌効果を付与することができ、40質量%以下であることにより、歯科用組成物に含まれるガラスが得られやすくなる。
【0027】
第1のガラス粉末に含まれるBの含有量は、酸化ホウ素(B)に換算した量で0質量%以上10質量%以下であることが好ましく、1質量%以上8質量%以下であることがさらに好ましい。第1のガラス粉末がBを含有することにより、抗菌効果を付与することができ、10質量%以下であることにより、分相が抑制されたガラスを含む歯科用組成物が得られやすくなる。
【0028】
第1のガラス粉末に含まれるGaの含有量は、特に限定されないが、酸化ガリウム(Ga)に換算した量で0質量%以上40質量%以下であることが好ましく、1質量%以上35質量%以下であることがさらに好ましい。第1のガラス粉末がGaを含有することにより、抗菌効果を付与することができ、40質量%以下であることにより、歯科用組成物に含まれるガラスが得られやすくなる。
【0029】
第1のガラス粉末に含まれるFの含有量は、特に限定されないが、0質量%以上25質量%以下であることが好ましく、1質量%以上22質量%以下であることがさらに好ましい。第1のガラス粉末がFを含有することにより、歯質の脱灰抑制効果、抗菌効果を付与することができ、25質量%以下であることにより、歯科用組成物に含まれるガラスが得られやすくなる。
【0030】
第2のガラス粉末の成分は、特に限定されない。第2のガラス粉末としては、好ましくは、リン酸塩ガラスの粉末が用いられる。リン酸塩ガラスの粉末は、中性(pH6.5超pH8未満)よりも酸性(pH6.5以下)で溶解しやすくイオンを徐放しやすいガラスの場合、及び酸性(pH6.5以下)よりも中性(pH6.5超pH8未満)で溶解しやすくイオンを徐放しやすいガラスの場合がある。
【0031】
リン酸塩ガラスは、リン酸(P)を含有し、ナトリウム(Na)及び/又はカリウム(K)を含有する。ここで、リン酸は、歯科用組成物に含まれるガラス中で網目形成の役割を果たす。
【0032】
リン酸塩ガラス中のリン酸の含有量は、特に限定されないが、40質量%以上80質量%以下であることが好ましく、40質量%以上70質量%以下であることがさらに好ましい。リン酸塩ガラス中のリン酸の含有量が40質量%以上であることにより、歯科用組成物に含まれるガラスが得られやすくなり、80質量%以下であることにより、水への溶解性が高すぎないガラスを含む歯科用組成物が得られやすくなる。
【0033】
リン酸塩ガラス中のナトリウム及び/又はカリウムの含有量は、特に限定されないが、酸化ナトリウム(NaO)及び酸化カリウム(KO)に換算した量で5質量%以上30質量%以下であることが好ましく、5質量%以上20質量%以下であることがさらに好ましい。
【0034】
リン酸塩ガラス中のナトリウム及び/又はカリウムの含有量が5質量%以上であることにより、歯科用組成物に含まれるガラスの熔融温度を下げ、さらにガラスの溶解性を高めることができる。また、リン酸塩ガラス中のナトリウム及び/又はカリウムの含有量が30質量%以下であることにより、歯科用組成物が含まれるガラスとして水への溶解性が高すぎないガラスが得られやすくなる。
【0035】
リン酸塩ガラスの粉末である第2のガラス粉末は、リン(P)、ナトリウム(Na)、及びカリウム(K)以外の元素を少なくとも1種含有する。このガラスに含まれる元素は、徐放性イオンを形成する元素である。
【0036】
第2のガラス粉末に含まれる元素は、特に限定されないが、例えば、Li、Ca、Sr、Ba、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Ti、Zr、Ta、Cu、Ag、Zn、B、Al、Ga、Si、Sn、P、Fなどが挙げられる。これらの元素は、1種又は2種以上含有し得る。これらの中でも、Li、Ca、Sr、Cu、Ag、Zn、B、Ga、Fが好ましい。
【0037】
また、第2のガラス粉末に含まれる元素は、徐放性イオンが耐酸性を向上させる点で、Ca、Srが好ましく、酸の生成を抑制する点で、Znが好ましい。また、徐放性イオンが歯質の脱灰抑制効果を有する点で、Ca、Zn、Fが好ましく、骨形成を促進する点で、Ca、Srが好ましい。さらに、徐放性イオンが抗菌効果を有する点で、Cu、Ag、Zn、B、Ga、Fが好ましく、徐放性イオンが抗炎症性作用を有する点で、Liが好ましい。
【0038】
第2のガラス粉末に含まれるLiの含有量は、特に限定されないが、酸化リチウム(LiO)に換算した量で0質量%以上20質量%以下であることが好ましく、1質量%以上15質量%以下であることがさらに好ましい。第2のガラス粉末がLiを含有することにより抗炎症作用を付与することができ、20質量%以下であることにより、歯科用組成物が含まれるガラスとして水への溶解性が高すぎないガラスが得られやすくなる。
【0039】
第2のガラス粉末に含まれるCaの含有量は、特に限定されないが、酸化カルシウム(CaO)に換算した量で0質量%以上40質量%以下であることが好ましく、1質量%以上35質量%以下であることがさらに好ましい。第2のガラス粉末がCaを含有することにより、耐酸性効果、歯質の脱灰抑制効果、骨形成促進作用を付与することができ、40質量%以下であることにより、歯科用組成物が含まれるガラスが得られやすくなる。
【0040】
第2のガラス粉末に含まれるSrの含有量は、特に限定されないが、酸化ストロンチウム(SrO)に換算した量で0質量%以上40質量%以下であることが好ましく、1質量%以上35質量%以下であることがさらに好ましい。第2のガラス粉末がSrを含有することにより、耐酸性効果、骨形成促進作用を付与することができ、40質量%以下であることにより、熔融温度が高くなりすぎないガラスを含む歯科用組成物が得られやすくなる。
【0041】
第2のガラス粉末に含まれるCuの含有量は、特に限定されないが、酸化銅(CuO)に換算した量で0質量%以上10質量%以下であることが好ましく、0.1質量%以上5質量%以下であることがさらに好ましい。第2のガラス粉末がCuを含有することにより、抗菌効果を付与することができ、10質量%以下であることにより、歯科用組成物に含まれるガラスが得られやすくなる。
【0042】
第2のガラス粉末に含まれるAgの含有量は、特に限定されないが、酸化銀(AgO)に換算した量で0質量%以上5質量%以下であることが好ましく、0.1質量%以上3質量%以下であることがさらに好ましい。第2のガラス粉末がAgを含有することにより、抗菌効果を付与することができ、5質量%以下とすることで、歯科用組成物に含まれるガラスが得られやすくなる。
【0043】
第2のガラス粉末に含まれるZnの含有量は、特に限定されないが、酸化亜鉛(ZnO)に換算した量で0質量%以上20質量%以下であることが好ましく、1質量%以上15質量%以下であることがさらに好ましい。第2のガラス粉末がZnを含有することにより、酸生成抑制効果、歯質の脱灰抑制効果、抗菌効果を付与することができ、20質量%以下であることにより、歯科用組成物に含まれるガラスが得られやすくなる。
【0044】
第2のガラス粉末に含まれるBの含有量は、特に限定されないが、酸化ホウ素(B)に換算した量で0質量%以上10質量%以下であることが好ましく、1質量%以上8質量%以下であることがさらに好ましい。第2のガラス粉末がBを含有することにより、抗菌効果を付与することができ、10質量%以下であることにより、分相が抑制されたガラスを含む歯科用組成物が得られやすくなる。
【0045】
第2のガラス粉末に含まれるGaの含有量は、特に限定されないが、酸化ガリウム(Ga)に換算した量で0質量%以上25質量%以下であることが好ましく、1質量%以上20質量%以下であることがさらに好ましい。第2のガラス粉末がGaを含有することにより、抗菌効果を付与することができ、25質量%以下であることにより、歯科用組成物に含まれるガラスが得られやすくなる。
【0046】
第2のガラス粉末に含まれるFの含有量は、特に限定されないが、0質量%以上20質量%以下であることが好ましく、1質量%以上15質量%以下であることがさらに好ましい。第2のガラス粉末がFを含有することにより、歯質の脱灰抑制効果、抗菌効果を付与することができ、20質量%以下であることにより、歯科用組成物に含まれるガラスが得られやすくなる。
【0047】
ガラス粉末複合体に配合される第1のガラス粉末と第2のガラス粉末との質量比は、特に限定されないが、例えば、10:1~1:10であり、好ましくは7:1~1:7であり、より好ましくは5:1~1:5である。
【0048】
なお、本実施形態の歯科用組成物は、本発明の目的を損なわない限り、その他の成分を任意に含有してもよい。その他の成分としては、例えば、ポリアクリル酸等の高分子、塩酸塩、硫酸塩等の硬化促進剤、炭化水素類、高級脂肪酸類、エステル類等の油性成分、各種の無機あるいは有機の着色剤、抗菌材、香料等を含有してもよい。
【0049】
本実施形態の歯科用組成物では、第1のガラス粉末に含まれる元素の少なくとも1つが、第2のガラス粉末に含まれる元素の少なくとも1つと同一であってもよい。例えば、第1のガラス粉末に亜鉛(Zn)が含まれている場合は、第2のガラス粉末にも亜鉛(Zn)が含まれている。
【0050】
本実施形態の歯科用組成物では、第1のガラス粉末に含まれる元素の少なくとも1つが、第2のガラス粉末に含まれる元素と異なり、かつ、第2のガラス粉末に含まれる元素の少なくとも1つが、第1のガラス粉末に含まれる元素と異なっていてもよい。例えば、第1のガラス粉末に亜鉛(Zn)が含まれている場合は、第2のガラス粉末にも亜鉛(Zn)が含まれていない。
【0051】
本実施形態の歯科用組成物では、第2のガラス粉末の中性域における溶解率が酸性域における溶解率より大きいものであることが好ましい。
【0052】
溶解率は、ガラスを酢酸-酢酸ナトリウム緩衝液に溶解させ、下記の式に従って算出する。
溶解率(%)=[(液浸漬前の重量)-(液浸漬後の重量)]×100/液浸漬前の重量
【0053】
本実施形態では、上述のように、歯科用組成物に含まれるガラス粉末複合体が、pHによって溶解性が異なる第1のガラス粉末と第2のガラス粉末とを含有し、第1のガラス粉末及び第2のガラス粉末が何れもイオン徐放性を有する。これにより、口腔内での酸性度の変化に応じて徐放性イオンの徐放量を変化させることができる。
【0054】
また、ガラス粉末複合体に配合される第1のガラス粉末と第2のガラス粉末との質量比が10:1~1:10であると、酸性度の変化に応じて徐放性イオンの徐放量の変化を制御することができる。
【0055】
例えば、歯科用組成物は、ガラス粉末複合体として、第1のガラス粉末が亜鉛イオン(Zn2+)を徐放するケイ酸塩ガラスの粉末であり、第2のガラス粉末が亜鉛イオン(Zn2+)を徐放するリン酸塩ガラスの粉末であるガラス粉末複合体を含有する。この場合、口腔内の酸性度が変化しても、その変化に応じて歯科用組成物から放出される徐放性イオンの量を維持又は制御することができる。
【0056】
具体的には、この歯科用組成物では、口腔内の酸性度が酸性(例えば、pH4.5)の場合は、ガラス粉末複合体に含まれる第1のガラス粉末から亜鉛イオン(Zn2+)が徐放されやすいが、中性(例えば、pH7.5)の場合は亜鉛イオン(Zn2+)が徐放されにくい。一方、口腔内の酸性度が酸性域(例えば、pH4.5)の場合及び中性域(例えば、pH7.5)の場合の何れでも、ガラス粉末複合体に含まれる第2のガラス粉末から亜鉛イオン(Zn2+)が徐放されやすい。
【0057】
その結果、口腔内の酸性度が酸性又は中性の何れの場合も、歯科用組成物から徐放性イオンとして亜鉛イオン(Zn2+)が放出され、口腔内の徐放性イオンの徐放量が維持される。そのため、口腔内の酸性度が変化しても、口腔内では亜鉛イオン(Zn2+)による抗菌効果、酸の生成抑制効果、歯質の脱灰抑制効果を維持することができる。
【0058】
本実施形態では、このような酸性度の変化に応じて徐放性イオンの徐放量を変化させる効果は、歯科用組成物に含まれるガラス粉末複合体において、第1のガラス粉末にケイ酸塩ガラスの粉末を用い、第2のガラス粉末にリン酸塩ガラスの粉末を用いることで、顕著に得られる。
【0059】
本実施形態では、上述のように、第1のガラス粉末及び第2のガラス粉末は、何れもLi、Ca、Sr、Ga、Cu、Zn、B、Fから選ばれる少なくとも1つの元素を含有する。これにより、本実施形態では、Liの場合、徐放性イオンが抗炎症性作用を有することができる。Caの場合、歯質の脱灰を抑制する効果が得られ、耐酸性を向上させ、骨形成を促進することができる。Srの場合、耐酸性を向上させ、骨形成を促進することができる。
【0060】
また、本実施形態では、Cu、Agの場合、歯科用組成物に抗菌効果を付与することができる。Znの場合、抗菌効果、酸の生成を抑制する効果、歯質の脱灰を抑制する効果を歯科用組成物に付与することができる。B、Gaの場合、抗菌効果が得られ、Fの場合、抗菌効果、歯質の脱灰を抑制する効果が得られる。
【0061】
本実施形態の歯科用組成物では、上述のように、第1のガラス粉末に含まれる元素の少なくとも1つが、第2のガラス粉末に含まれる元素の少なくとも1つと同一であることで、口腔内の酸性度が変化しても、口腔内で同一の徐放性イオンを徐放することができる、その徐放量を維持することができる。
【0062】
例えば、第1のガラス粉末及び第2のガラス粉末の何れにも亜鉛(Zn)が含まれている場合に、亜鉛イオン(Zn2+)が徐放される環境が酸性域から中性域に変化しても亜鉛イオン(Zn2+)の徐放量を維持又は増減させることができる。
【0063】
本実施形態では、上述のように、第1のガラス粉末に含まれる元素の少なくとも1つが、第2のガラス粉末に含まれる元素と異なり、かつ、第2のガラス粉末に含まれる元素の少なくとも1つが、第1のガラス粉末に含まれる元素と異なることで、口腔内で酸性度の変化に応じて異なる徐放性イオンを徐放することができる。
【0064】
本実施形態の歯科用組成物では、上述のように、第2のガラス粉末の中性域における溶解率が酸性域における溶解率より大きい。これにより、本実施形態では、第1のガラス粉末の中性域における溶解率が酸性域における溶解率より小さい場合でも、中性域で第2のガラス粉末から徐放性イオンが徐放されるため、酸性度が酸性から中性に変化しても徐放性イオンの徐放量を維持することができる。
【0065】
本実施形態の歯科用組成物は、上述した効果が得られることを利用して、各種歯科材料に用いることができる。本実施形態の歯科用組成物の用途は、特に限定されないが、例えば、歯科用セメント、歯科用接着剤(歯科用ボンディング材)、歯科用仮封材、歯科用仮着材、歯科用プライマー、歯科用コート剤、根面被覆材、歯科用コンポジットレジン、歯科用硬質レジン、歯科切削加工用レジン材料、歯科用暫間修復材、歯科用充填剤、歯磨剤などが挙げられる。
【0066】
本実施形態の歯科用組成物は、用途に応じて、その他の成分を含んでいてもよい。その他の成分としては、例えば、高分子、重合開始剤、重合禁止剤等が挙げられる。例えば、ポリアクリル酸等の高分子をガラス粉末複合体と混合することで、アイオノマーセメントを構成することができる。
【0067】
高分子は、重合性単量体で構成されているものを用いることができる。重合性単量体としては、例えば、(メタ)アクリレート化合物の単一重合体又は共重合体が挙げられる。本明細書において、(メタ)アクリレートとは、アクリレート及びメタクリレートから選ばれる少なくとも一方を示す。
【0068】
本明細書において、単一重合体は、ある重合成分の構成単位を主体とする重合体を意味する。共重合体は、ある重合成分構成単位とその他の重合成分の構成単位とを共重合した重合体を意味する。なお、単一重合体及び共重合体は、不可避的に混入する他の重合成分を含んでいてもよい。
【0069】
(メタ)アクリレート化合物としては、例えば、グリセリンジメタクリレート(GDMA)、ビスフェノールAジグリシジルメタクリレート(Bis-GMA)、ウレタンジメタクリレート(UDMA、ジ-2-メタクリロイルオキシエチル-2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジカルバメート)、2,2-ビス(4-メタクリロイルオキシエトキシフェニル)プロパン(Bis-MEPP)、トリシクロデカンジメタノールジメタクリレート(DCP)、トリエチレングリコールジメタクリレート(TEGDMA)、ネオペンチルグリコールジメタクリレート(NPG)等が例示される。これらの(メタ)アクリレート化合物は、1種を用いてもよく、又は2種以上を併用してもよい。
【0070】
本実施形態の歯科用組成物に含まれる(メタ)アクリレート化合物の単一重合体又は共重合体の配合量は、例えば、3質量%以上45質量%以下であることが好ましく、より好ましくは4質量%以上40質量%以下、さらに好ましくは5質量%以上30質量%以下である。
【0071】
重合開始剤としては、特に限定されないが、例えば、カンファーキノン(CQ)、p-ジメチルアミノ安息香酸エチル(EPA)、(2,4,6-トリメチルベンゾイル)ジフェニルホスフィンオキサイド(TPO)、2-(2-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)ベンゾトリアゾール等が挙げられる。
【0072】
歯科用組成物中の重合開始剤の含有量は、特に限定されないが、例えば、0.01以上5質量%以下であり、好ましくは0.03質量%以上2質量%以下、より好ましくは0.05質量%以上2質量%以下である。
【0073】
重合禁止剤としては、特に限定されないが、例えば、6-tert-ブチル-2,4-キシレノール、2、6-ジ-tert-ブチル-p-クレゾール等が挙げられる。
【0074】
歯科用組成物中の重合禁止剤の含有量は、特に限定されないが、例えば、0.005質量%以上5質量%以下であり、好ましくは0.01質量%以上3質量%以下、より好ましくは0.03質量%以上1質量%以下である。
【0075】
本実施形態に係る歯科用組成物の製造方法は、上述のガラス粉末複合体を含有する歯科用組成物を実質的に製造する方法である。具体的には、pHによって溶解性が異なる第1のガラス粉末と第2のガラス粉末とを混合する工程を有し、第1のガラス粉末及び第2のガラス粉末は、何れもイオン徐放性を有する。
【0076】
なお、歯科用組成物に高分子を配合する場合は、高分子を構成する重合性単量体を重合開始剤、重合禁止剤等と混合したモノマー液を調製する。
【0077】
本実施形態に係る歯科用組成物の製造方法における、第1のガラス粉末と第2のガラス粉末とを混合する工程では、上述のガラス粉末複合体に含まれる第1のガラス粉末及び第2のガラス粉末が用いられ。そのため、本実施形態に係る製造方法で得られたガラス粉末複合体は、上述のガラス粉末複合体の効果がそのまま得られる。
【0078】
すなわち、得られる歯科用組成物は、歯科用組成物に含まれるガラス粉末複合体が、pHによって溶解性が異なる第1のガラス粉末と第2のガラス粉末とを含有し、第1のガラス粉末及び第2のガラス粉末が、何れもイオン徐放性を有する歯科用組成物である。そのため、本実施形態に係る製造方法によれば、口腔内で酸性度の変化に応じて徐放性イオンの徐放量が変化し得る歯科用組成物を得ることができる。
【実施例0079】
以下、本発明について、さらに実施例を用いて説明する。なお、各種の試験及び評価は、下記の方法に従う。
【0080】
<ケイ酸塩ガラス>
ケイ酸塩ガラスの原料を秤量し、乳鉢で10分混合し、白金るつぼに入れ、1350℃で1時間熔融し、融液を水冷してガラス化した。得られたガラスを回収して、110℃で5時間乾燥し、遊星ミル(15mmのアルミナボール、150rpm)で30分~1時間粉砕して、ガラス成分S1~S5を得た。また、市販品の石英ガラスフィラー(以下、QGという)を用いた。
【0081】
<リン酸塩ガラス>
リン酸塩ガラスの原料を秤量し、乳鉢で10分混合し、白金るつぼに入れ、1100℃で1時間熔融し、融液をアイロンプレスにより冷却した。これをボールミルで30分粉砕し(エタノール湿式粉砕、40mmアルミナボール、100rpm)、ボールミルで30分粉砕し(エタノール湿式粉砕、5mmアルミナボール、100rpm)した。その後、遠心分離によりガラス粉末を回収し、残ったエタノールを飛ばすため減圧乾燥して(-0.1MPa、40℃)、ガラス成分PN1、PN2、PA1、PA2を得た。
【0082】
<ガラス組成>
蛍光X線分析装置(リガク社製、ZSX Primus IV)を用いて、ガラス粉末(塩ビリングで成形)を分析し、ガラス粉末の組成を求めた。表1及び表2に、ガラス粉末の組成(単位:質量%)の評価結果を示す。
【0083】
<粒度分布>
レーザー回折/散乱型粒度分布計(堀場製作所社製、Partica LA-960V2)を用いて、ケイ酸塩ガラスは蒸留水中で分散させて測定し、リン酸塩ガラスはエタノール中に分散させて測定した。なお、表1~4に示すガラスは何れもD(50):10±2μmであることを確認した。
【0084】
<溶解量(ガラス単体)>
10mlのpH4.5酢酸-酢酸ナトリウム緩衝液、及びpH7.5のヒドロキシエチルピペラジンエタンスルホン酸(HEPES)緩衝液にガラス粉末0.1gを投入し、
10rpmで攪拌しながら37℃で1日保存した。その後、ガラスろ紙でろ過し残渣の重量から下記式を用いて溶解率を算出した。
溶解率(%)=[(液浸漬前の重量)-(液浸漬後の重量)]×100/液浸漬前の重量
【0085】
表1にケイ酸塩ガラス(ガラス成分S1~S5、QG)のガラス組成と溶解率を示し、表2にリン酸塩ガラス(ガラス成分PN1、PN2、PA1、PA2)のガラス組成と溶解率を示す。
【0086】
【表1】
【0087】
【表2】
【0088】
<ガラス単体のイオン溶出量>
10mlのpH4.5酢酸-酢酸ナトリウム緩衝液、及びpH7.5のHEPES緩衝液にガラス粉末0.1gを投入し、10rpmで攪拌しながら37℃で1日保存した。その後、2000rpmで10分遠心分離を2回繰り返した後、0.2μmのメンブレンフィルターでろ過した液について、誘導結合プラズマ発光分光分析装置(ICP-OES)(Thermo Fisher社製、iCAP 7200 Duo)を用い、Zn2+、Sr2+、Ca2+、Ga3+の各濃度を測定し、フッ素電極を用いてF-の濃度を測定した。表1にケイ酸塩ガラスのイオン溶出量を示し、表2にリン酸塩ガラスのイオン溶出量を示す。
【0089】
<ガラス粉末複合体のイオン溶出量>
10mlのpH4.5酢酸-酢酸ナトリウム緩衝液、及びpH7.5のHEPES緩衝液に2種類のガラス粉末(量は任意)を投入し、10rpmで攪拌しながら37℃で1日保存した。その後、2000rpmで10分遠心分離を2回繰り返した後、0.2μmのメンブレンフィルターでろ過した液について、ICP-OESを用いてZn2+、Sr2+、Ca2+、Ga3+の各濃度を測定し、フッ素電極を用いてF-の濃度を測定した。
【0090】
表3に実施例1~5のガラス粉末複合体の配合とイオン溶出量を示し、表4に比較例1~5のガラス粉末複合体の配合とイオン溶出量を示す。
【0091】
【表3】
【0092】
【表4】
【0093】
<ボンディング材・コンポジットレジン>
本発明に係る歯科用組成物の一例としてボンディング材及びコンポジットレジンを想定したガラス単体及びガラス粉末複合体を、上述した方法により調製した。表5にケイ酸塩ガラス(ガラス成分S6、市販品微粒子シリカRX50)のガラス組成と溶解率を示し、表6にリン酸塩ガラス(ガラス成分PA3、PA4)のガラス組成と溶解率を示す。
【0094】
【表5】
【0095】
【表6】
【0096】
<ボンディング材・コンポジットレジンのイオン溶出量>
ボンディング材及びコンポジットレジンを想定して調製したガラス粉末複合体を、Φ10mm、厚さ2mmのリングに充填し、光照射器(ジーシー社製、G-ライトプリマIIプラス)を用いて、各9点、10秒間ずつ表裏に光照射し、組成物を硬化させた。得られた硬化体について、表面を#1200-SiC耐水研磨紙を用いて試験面を研磨した。硬化体を3mLのpH4.5酢酸-酢酸ナトリウム緩衝液、及びpH7.5のHEPES緩衝液に浸漬させ、10rpmで撹拌しながら37℃で1日保存した。0.2μmのメンブレンフィルターでろ過した液について、ICP-OESを用いてZn2+、Sr2+、Ca2+、Ga3+の各濃度を測定し、フッ素電極を用いてF-の濃度を測定した。
【0097】
表7にボンディング材の配合(実施例1-1、1-2、比較例1-1、1-2)とイオン溶出量を示し、表8にコンポジットレジンの配合(実施例2-1~2-4、比較例2-1)とイオン溶出量を示す。
【0098】
【表7】
【0099】
【表8】
【0100】
なお、表5、表7、8における略号は、以下の通りである。
【0101】
Bis-GMA:ビスフェノールAジグリシジルメタクリレート
UDMA:ウレタンジメタクリレート〔ジ-2-メタクリロイルオキシエチル-2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジカルバメート〕
Bis-MEPP:2,2-ビス(4-メタクリロイルオキシエトキシフェニル)プロパン
DCP:トリシクロデカンジメタノールジメタクリレート
TEGDMA:トリエチレングリコールジメタクリレート
NPG:ネオペンチルグリコールジメタクリレート
CQ:カンファーキノン
EPA:p-ジメチルアミノ安息香酸エチル
TPO:(2,4,6-トリメチルベンゾイル)ジフェニルホスフィンオキサイド
チヌビンP:2-(2-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)ベンゾトリアゾール(BASF製、Tinuvin(登録商標)P)
IA:6-tert-ブチル-2,4-キシレノール
BHT:2,6-ジ-tert-ブチル-p-クレゾール
SO-C2:シリカ(アドマテックス社製、アドマファイン(登録商標)SO-C2)
RX50:ヘキサメチルジシラザンで表面処理された微粒子シリカ(日本アエロジル社製、アエロジル(登録商標)RX50)
【0102】
表1、表2、表3より、実施例1~5では、少なくとも1種以上のイオン溶出量の大小が酸性と中性で異なり、酸性度(pH)応答性を示す。これに対して、表1、表2、表4より、比較例1~5では、全てのイオンの溶出量が酸性より中性で大きいか、酸性より中性で小さくなり、酸性度(pH)応答性を示さない。
【0103】
また、表5~表8より、ボンディング材の実施例(実施例1-1、1-2)及びコンポジットレジンの実施例(実施例2-1~2-4)では、少なくとも1種以上のイオン溶出量の大小が酸性と中性で異なり、酸性度(pH)応答性を示す。これに対して、ボンディング材の比較例(比較例1-1~1-3)及びコンポジットレジンの比較例(比較例2-1)では、全てのイオンの溶出量が酸性より中性で大きいか、酸性より中性で小さくなり、酸性度(pH)応答性を示さない。
【0104】
これらの結果から、歯科用組成物に含まれるガラス粉末複合体が、pHによって溶解性が異なる第1のガラス粉末と第2のガラス粉末とを含有し、第1のガラス粉末及び第2のガラス粉末が何れもイオン徐放性を有することで、口腔内における酸性度の変化に応じて徐放性イオンの徐放量を変化させることができることが判った。
【0105】
以上に開示された実施形態は、例えば、以下の態様を含む。
【0106】
(付記1)
ガラス粉末複合体を含有する歯科用組成物であって、
前記ガラス粉末複合体は、
第1のガラス粉末と、
前記第1のガラス粉末とはpHによって溶解性が異なる第2のガラス粉末と、を含有し、
前記第1のガラス粉末及び前記第2のガラス粉末は、何れもイオン徐放性を有する、
歯科用組成物。
【0107】
(付記2)
前記第1のガラス粉末がケイ酸塩ガラスの粉末であり、
前記第2のガラス粉末がリン酸塩ガラスである、
付記1に記載の歯科用組成物。
【0108】
(付記3)
前記第1のガラス粉末、及び前記第2のガラス粉末は、何れもLi、Ca、Sr、Cu、Ag、Zn、B、Ga、Fから選ばれる少なくとも1つの元素を含有する、
付記1又は2に記載の歯科用組成物。
【0109】
(付記4)
前記第1のガラス粉末に含まれる元素の少なくとも1つが、前記第2のガラス粉末に含まれる元素の少なくとも1つと同一である、
付記1乃至3の何れか一項に記載の、歯科用組成物。
【0110】
(付記5)
前記第1のガラス粉末に含まれる元素の少なくとも1つが、前記第2のガラス粉末に含まれる元素と異なり、かつ、
前記第2のガラス粉末に含まれる元素の少なくとも1つが、前記第1のガラス粉末に含まれる元素と異なる、
付記1乃至4の何れか1項に記載の、歯科用組成物。
【0111】
(付記6)
前記第2のガラス粉末は、中性域における溶解率が酸性域における溶解率より大きい、
付記5に記載の、歯科用組成物。
【0112】
(付記7)
ガラス粉末複合体を含有する歯科用組成物の製造方法であって、
第1のガラス粉末と、前記第1のガラス粉末とはpHによって溶解性が異なる第2のガラス粉末と、を混合する工程を有し、
前記第1のガラス粉末及び前記第2のガラス粉末は、何れもイオン徐放性を有する、
歯科用組成物の製造方法。
【0113】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された発明の範囲内において、種々の変形、変更が可能である。