(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024143438
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】多波長光源装置および光路長差計測装置
(51)【国際特許分類】
G02F 1/37 20060101AFI20241003BHJP
H01S 5/0239 20210101ALI20241003BHJP
H01S 5/40 20060101ALI20241003BHJP
H01S 5/50 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
G02F1/37
H01S5/0239
H01S5/40
H01S5/50 610
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023056117
(22)【出願日】2023-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】堀川 浩二
【テーマコード(参考)】
2K102
5F173
【Fターム(参考)】
2K102AA09
2K102BA18
2K102BB02
2K102BC01
2K102BD09
2K102DD03
2K102EA25
2K102EB06
2K102EB20
2K102EB22
2K102EB28
5F173MA07
5F173MA10
5F173ME44
5F173MF03
5F173MF12
5F173MF26
5F173MF40
5F173SA06
(57)【要約】
【課題】出力する複数のレーザ光の間の波長差の安定性が高く、光路長差計測に適する多波長光源装置およびこれを用いた光路長差計測装置を提供すること。
【解決手段】多波長光源装置は、互いに周波数および周波数間隔が異なるレーザ光を出力する少なくとも3つの半導体レーザ素子が一体集積されており、各半導体レーザ素子から出力された少なくとも3つのレーザ光を含むレーザ光群を出力する集積素子と、入力された前記レーザ光群の一部から、非線形光学効果によって、前記レーザ光群に含まれる前記少なくとも3つの前記レーザ光とは周波数が異なる少なくとも一つの新成レーザ光を生成する非線形光学媒質と、前記レーザ光群の一部と前記新成レーザ光の少なくとも一つとを同時に出力する出力部と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに周波数および周波数間隔が異なるレーザ光を出力する少なくとも3つの半導体レーザ素子が一体集積されており、各半導体レーザ素子から出力された少なくとも3つのレーザ光を含むレーザ光群を出力する集積素子と、
入力された前記レーザ光群の一部から、非線形光学効果によって、前記レーザ光群に含まれる前記少なくとも3つの前記レーザ光とは周波数が異なる少なくとも一つの新成レーザ光を生成する非線形光学媒質と、
前記レーザ光群の一部と前記新成レーザ光の少なくとも一つとを同時に出力する出力部と、
を備える
多波長光源装置。
【請求項2】
前記非線形光学媒質は、前記入力された前記レーザ光群の一部から、四光波混合によって前記新成レーザ光を生成する
請求項1に記載の多波長光源装置。
【請求項3】
前記レーザ光群に含まれる3つのレーザ光の周波数をf1、f2、f3とすると、前記新成レーザ光の少なくとも一つの周波数は、f1+f2-f3、f1-f2+f3、およびf2-f1+f3のいずれか一つである
請求項2に記載の多波長光源装置。
【請求項4】
入力された前記レーザ光群を第1レーザ光群と第2レーザ光群とに2分岐して出力する分岐部と、
前記非線形光学媒質から出力されたレーザ光のうち、前記新成レーザ光の一つを選択的に出力するフィルタと、
をさらに備え、
前記非線形光学媒質には、前記レーザ光群の一部として前記第1レーザ光群が入力され、
前記出力部は、前記レーザ光群の一部としての前記第2レーザ光群と、前記フィルタから出力された前記新成レーザ光の一つとを合波して同時に出力する
請求項1に記載の多波長光源装置。
【請求項5】
前記フィルタは波長可変フィルタであり、
前記集積素子の温度を変化させる温度調節器と、前記温度調節器と前記波長可変フィルタとを制御する制御部と、をさらに備える
請求項4に記載の多波長光源装置。
【請求項6】
前記フィルタから出力された前記新成レーザ光を光増幅する光増幅器をさらに備える
請求項4に記載の多波長光源装置。
【請求項7】
被測定物に関する光路長差を計測する光路長差計測装置であって、
請求項1~6のいずれか一つに記載の多波長光源装置と、
前記多波長光源装置が出力する前記レーザ光群の一部および前記新成レーザ光のそれぞれから生成された、前記光路長差に対応した位相の干渉成分を含む干渉光を出力する干渉計と、
前記干渉光を前記レーザ光群の一部および前記新成レーザ光の少なくとも一つの波長に応じて分光する分光部と、
前記分光された前記干渉光のそれぞれから前記位相を検出する位相検出部と、
前記位相検出部が検出した前記位相に基づいて前記光路長差を算出する処理部と、
を備える光路長差計測装置。
【請求項8】
前記処理部は、前記多波長光源装置が出力する前記レーザ光群の一部および前記新成レーザ光の波長から求められる合成波長と、前記位相から求められる合成位相とに基づいて、前記光路長差を計測する
請求項7に記載の光路長差計測装置。
【請求項9】
前記処理部は、前記合成波長および前記合成位相として、互いに異なる複数の合成波長および合成位相に基づいて、前記光路長差を計測する
請求項8に記載の光路長差計測装置。
【請求項10】
前記光路長差計測装置は、前記光路長差に基づいて前記被測定物までの距離を計測する測距装置として構成されている
請求項7に記載の光路長差計測装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多波長光源装置および光路長差計測装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
光の干渉を利用して光路長差を計測し、これにより被測定物までの距離を計測する測距技術として、合成波長を用いる技術が知られている(特許文献1~3)。特許文献2では、周波数掃引レーザからの第1のビームと、固定周波数レーザからの第2のビームを非線形光学人工物に入力させて第3のビームを生成し、第1のビームと第3のビームとを用いて距離を計測する。
【0003】
一方、特許文献4には、出力する2つのレーザ光の間の波長差(周波数差)の安定性が高い半導体発光素子が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10-281738号公報
【特許文献2】特表2017-523403号公報
【特許文献3】特開2014-174120号公報
【特許文献4】特開2004-186301号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、レーザ光の周波数(波長)を掃引させる技術の場合、掃引に時間が掛かるので、測定に時間が掛かるという問題がある。また、合成波長を用いる技術においては、出力する複数のレーザ光の間の波長差の安定性が高い多波長光源装置を用いることが有効である。
【0006】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、出力する複数のレーザ光の間の波長差の安定性が高く、光路長差計測に適する多波長光源装置およびこれを用いた光路長差計測装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明の一態様は、互いに周波数および周波数間隔が異なるレーザ光を出力する少なくとも3つの半導体レーザ素子が一体集積されており、各半導体レーザ素子から出力された少なくとも3つのレーザ光を含むレーザ光群を出力する集積素子と、入力された前記レーザ光群の一部から、非線形光学効果によって、前記レーザ光群に含まれる前記少なくとも3つの前記レーザ光とは周波数が異なる少なくとも一つの新成レーザ光を生成する非線形光学媒質と、前記レーザ光群の一部と前記新成レーザ光の少なくとも一つとを同時に出力する出力部と、を備える多波長光源装置である。
【0008】
前記非線形光学媒質は、前記入力された前記レーザ光群の一部から、四光波混合によって前記新成レーザ光を生成してもよい。
【0009】
前記レーザ光群に含まれる3つのレーザ光の周波数をf1、f2、f3とすると、前記新成レーザ光の少なくとも一つの周波数は、f1+f2-f3、f1-f2+f3、およびf2-f1+f3のいずれか一つであってもよい。
【0010】
前記多波長光源装置は、入力された前記レーザ光群を第1レーザ光群と第2レーザ光群とに2分岐して出力する分岐部と、前記非線形光学媒質から出力されたレーザ光のうち、前記新成レーザ光の一つを選択的に出力するフィルタと、をさらに備え、前記非線形光学媒質には、前記レーザ光群の一部として前記第1レーザ光群が入力され、前記出力部は、前記レーザ光群の一部としての前記第2レーザ光群と、前記フィルタから出力された前記新成レーザ光の一つとを合波して同時に出力してもよい。
【0011】
前記フィルタは波長可変フィルタであり、前記集積素子の温度を変化させる温度調節器と、前記温度調節器と前記波長可変フィルタとを制御する制御部と、をさらに備えてもよい。
【0012】
前記多波長光源装置は、前記フィルタから出力された前記新成レーザ光を光増幅する光増幅器をさらに備えてもよい。
【0013】
本発明の一態様は、被測定物に関する光路長差を計測する光路長差計測装置であって、前記多波長光源装置と、前記多波長光源装置が出力する前記レーザ光群の一部および前記新成レーザ光のそれぞれから生成された、前記光路長差に対応した位相の干渉成分を含む干渉光を出力する干渉計と、前記干渉光を前記レーザ光群の一部および前記新成レーザ光の少なくとも一つの波長に応じて分光する分光部と、前記分光された前記干渉光のそれぞれから前記位相を検出する位相検出部と、前記位相検出部が検出した前記位相に基づいて前記光路長差を算出する処理部と、を備える光路長差計測装置である。
【0014】
前記処理部は、前記多波長光源装置が出力する前記レーザ光群の一部および前記新成レーザ光の波長から求められる合成波長と、前記位相から求められる合成位相とに基づいて、前記光路長差を計測してもよい。
【0015】
前記処理部は、前記合成波長および前記合成位相として、互いに異なる複数の合成波長および合成位相に基づいて、前記光路長差を計測してもよい。
【0016】
前記光路長差計測装置は、前記光路長差に基づいて前記被測定物までの距離を計測する測距装置として構成されてもよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、出力する複数のレーザ光の間の波長差の安定性が高く、光路長差計測に適する多波長光源装置およびこれを用いた光路長差計測装置を実現できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】
図1は、実施形態1に係る多波長光源装置の模式的な構成図である。
【
図2】
図2は、
図1に示す多波長光源の模式的な構成図である。
【
図3】
図3は、四光波混合によって生成する新成レーザ光について説明する図である。
【
図4】
図4は、四光波混合によって生成する新成レーザ光について説明する図である。
【
図5】
図5は、実施形態2に係る多波長光源装置の模式的な構成図である。
【
図6】
図6は、実施形態3に係る光路長差計測装置の模式的な構成図である。
【
図7】
図7は、一次光路長差および二次光路長差の算出を説明する図である。
【
図8】
図8は、光路長差の計測の別の一例を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に、図面を参照して実施形態について説明する。なお、この実施形態によりこの発明が限定されるものではない。また、図面の記載において、同一または対応する要素には適宜同一の符号を付し、重複する説明を適宜省略している。また、図面は模式的なものであり、各要素の寸法の関係、各要素の比率などは、現実と異なる場合があることに留意する必要がある。図面の相互間においても、互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれている場合がある。
【0020】
(実施形態1)
図1は、実施形態1に係る多波長光源装置100の模式的な構成図である。多波長光源装置100は、多波長光源10と、分岐部20と、非線形光学媒質30と、フィルタ40と、合成部50と、制御部60と、を備えている。
【0021】
図2は、
図1に示す多波長光源10の模式的な構成図である。多波長光源10は、半導体レーザ素子1、2、3と合成部4とが一体集積された集積素子5と、温度調節器6とを備えている。
【0022】
半導体レーザ素子1、2、3は、少なくとも3つの半導体レーザ素子の一例である。半導体レーザ素子1、2、3は、それぞれシングルモード発振し、レーザ光L1、L2、L3を合成部4へ出力する。半導体レーザ素子1、2、3は、たとえばDFB(Distributed FeedBack)レーザとして構成されている。さらに、半導体レーザ素子1、2、3は、DR(Distributed Reflector)構造を有していてもよい。DR構造は、たとえば、DFB構造とDBR(Distributed Bragg Reflector)構造とを組み合わせて構成できる。
【0023】
レーザ光L1、L2、L3は、互いに周波数および周波数間隔が異なる。レーザ光L1、L2、L3の周波数をそれぞれf1、f2、f3とすると、f1、f2、f3は互いに異なる値である。f1<f2<f3とすると、(f2-f1)≠(f3-f2)である。なお、レーザ光の波長は、レーザ光の周波数と反比例の関係にある。したがって、レーザ光L1、L2、L3の波長をそれぞれλ1、λ2、λ3とすると、f1<f2<f3の場合はλ1>λ2>λ3であり、かつ(1/λ2-1/λ1)≠(1/λ3-1/λ2)である。
【0024】
合成部4は、入力されたレーザ光L1、L2、L3を合波して、レーザ光L1、L2、L3を含むレーザ光群L10として出力する。レーザ光群L10は、少なくとも3つのレーザ光を含むレーザ光群の一例である。合成部4は、たとえばMMI(多モード干渉)型の光カプラやAWG(Arrayed Waveguide Gratings)を有する。
【0025】
温度調節器6は、集積素子5を載置しており、集積素子5の温度を変化させる。温度調節器6は、後述する制御部60から供給される駆動電流によって制御され、集積素子5の温度を変化させる。温度調節器6は、たとえばペルチェ素子のような電熱素子を有している。集積素子5の温度が温度調節器6によって変化を受けることによって、レーザ光L1、L2、L3の周波数が一括して変化する。すなわち、半導体レーザ素子1、2、3は波長可変レーザ素子として機能する。
【0026】
図1に戻って、分岐部20は、多波長光源10から入力されたレーザ光群L10を第1レーザ光群L11と第2レーザ光群L12とに2分岐して出力する。分岐部20は、たとえばMMI型や光ファイバ型やフィルタ型などの光カプラを有する。第1レーザ光群L11および第2レーザ光群L12は、レーザ光群L10の一部の一例である。
【0027】
非線形光学媒質30には、第1レーザ光群L11が入力される。非線形光学媒質30は、入力された第1レーザ光群L11から、非線形光学効果によって、少なくとも一つの新成レーザ光を生成する。非線形光学媒質30は、たとえば四光波混合によって新成レーザ光を生成する。この新成レーザ光は、レーザ光群L10に含まれるレーザ光L1、L2、L3とは周波数が異なるものである。非線形光学媒質30は、第1レーザ光群L11と新成レーザ光とをレーザ光群L13として出力する。非線形光学媒質30は、たとえばバイアス電流を流している半導体光増幅器の活性層であるが、特に限定はされない。
【0028】
四光波混合によって生成する新成レーザ光について、
図3、4を参照して説明する。
【0029】
図3に示すように、上述したレーザ光L1、L2、L3の3つのレーザ光からは、四光波混合によって12個の新成レーザ光が生成する。ただし、12個の新成レーザ光の中には同じ周波数のものが含まれているので、周波数としては下記の(1)~(9)の9種類の新成レーザ光が生成する。
【0030】
(1)2*f1-f2、(2)2*f1-f3、(3)f1+f2-f3、(4)f1-f2+f3、(5)2*f2-f1、(6)2*f2-f3、(3)f2+f1-f3、(7)f2-f1+f3、(8)2*f3-f1、(9)2*f3-f2、(4)f3+f1-f2、(7)f3-f1+f2。
【0031】
ここで、f2=f1+a、f3=f2+a+b=f1+2a+b、ただしa>b、a≠b≠0とすると、新成レーザ光の周波数は以下の(11)~(19)のように表される。なお、aは特に限定されないが、たとえば25GHz~200GHzである。また、bも特に限定されないが、たとえば1GHz~10GHzである。
【0032】
(11)f1-a、(12)f1-2*a-b、(13)f1-a-b、(14)f1+a+b、(15)f1+2*a、(16)f1-b、(13)f1-a-b、(17)f1+3*a+b、(18)f1+4*a+2*b、(19)f1+3*a+2*b、(14)f1+a+b、(17)f1+3*a+b。
【0033】
以上のように、(3)f1+f2-f3、(4)f1-f2+f3、(7)f2-f1+f3、(13)f1-a-b、(14)f1+a+b、(17)f1+3*a+bの周波数を有する新成レーザ光は、同じ周波数の新成レーザ光が2つ重なっているものなので、パワーが比較的大きい。
【0034】
たとえば、周波数がf2のレーザ光L2と、周波数が(14)のレーザ光との関係は、
図4に示されるように、周波数差がb[GHz]である。たとえばa[GHz]を100GHz、b[GHz]を1GHzとすると、周波数がf1[GHz]、f1[GHz]+100GHz、f1[GHz]+201GHzのような3つのレーザ光から、周波数がf1[GHz]+101GHzの新成レーザ光が生成され、この新成レーザ光は、周波数がf1[GHz]+100GHzのレーザ光との周波数差b[GHz]が1GHzときわめて小さい。
【0035】
図1に戻って、フィルタ40は、非線形光学媒質30から出力されたレーザ光群L13のうち、新成レーザ光の一つを選択的に出力する。本実施形態では、新成レーザ光の一つである周波数が(14)の新成レーザ光L14を選択的に出力する。フィルタ40はバンドパスフィルタを有している。また、フィルタ40は制御部60によって選択的に出力する光の波長を電気的に制御できる波長可変フィルタである。
【0036】
合成部50は、フィルタ40から出力された新成レーザ光L14と、分岐部20から出力された第2レーザ光群L12とを合成して、レーザ光群L15として同時に出力する。合成部50は、たとえばMMI型や光ファイバ型やフィルタ型などの光カプラ、またはAWGを有する。合成部50は出力部の一例である。
【0037】
制御部60は、たとえばマイクロコンピュータを主体として構成されており、温度調節器6に駆動電流を供給して温度調節器6の動作を制御したり、フィルタ40に電気信号を供給してそのパスバンド波長を制御したりする。
【0038】
以上のように構成された多波長光源装置100では、半導体レーザ素子1、2、3が集積素子5に集積されているので、お互いが熱的に接続されており、かつお互いの温度環境が略等しい。その結果、レーザ光L1、L2、L3の互いの周波数差(波長差)も温度環境の変化に対して安定している。また、温度調節器6によって集積素子5の温度を変化させた場合には、半導体レーザ素子1、2、3が一括して同じように温度変化するので、レーザ光L1、L2、L3の周波数も互いに同じように変化する。また、新成レーザは、レーザ光L1、L2、L3から発生するので、レーザ光L1、L2、L3に対する周波数差が安定している。また、多波長光源装置100を光路長差計測に使用する場合に、上記で例示したように周波数差がきわめて小さいレーザ光を得ることができるので、きわめて長い合成波長を容易に得ることができる。また、多波長光源装置100を光路長差計測に使用する場合、レーザ光L1、L2、L3の周波数を掃引しなくてもよい。このように、多波長光源装置100は様々な観点から光路長差計測に適する。
【0039】
(実施形態2)
図5は、実施形態2に係る多波長光源装置200の模式的な構成図である。多波長光源装置200は、実施形態1に係る多波長光源装置100に光増幅器70と光カプラ80とモニタ部90とを追加した構成を有する。
【0040】
光増幅器70は、フィルタ40から出力された新成レーザ光L14を光増幅する。光増幅器70は、たとえば光ファイバ増幅器や半導体光増幅器である。光カプラ80は、光増幅された新成レーザ光L14の一部(たとえば新成レーザ光L14の強度の1%~5%)を分岐して、モニタ光L16としてモニタ部90に出力し、残部を合成部50に出力する。光カプラ80は、たとえば光ファイバ型やフィルタ型などの光カプラである。モニタ部90は、モニタ光L16を受光してその受光強度に応じた電気信号を制御部60に出力する。モニタ部90は、たとえばフォトダイオードなどの受光素子を有する。制御部60は、モニタ部90からの電気信号に基づいて、光増幅された新成レーザ光L14の強度が所定の強度になるように光増幅器70を制御する。
【0041】
以上のように構成された多波長光源装置200では、実施形態1に係る多波長光源装置100と同様の効果が得られる。さらに、多波長光源装置200は、光増幅器70で、レーザ光L1、L2、L3よりも強度が低い新成レーザ光L14を光増幅するので、強度がより高い新成レーザ光L14を含み、光路長差計測により適するレーザ光群L15を出力することができる。
【0042】
なお、上記実施形態1、2では、フィルタ40は、周波数が(14)の新成レーザ光L14を選択的に出力するが、制御部60によってパスバンド波長を調整して、他の周波数の新成レーザ光を選択的に出力してもよい。たとえば、周波数がf1のレーザ光L1と周波数が(16)f1-bの新成レーザ光とを組み合わせれば、周波数差はbとなる。
【0043】
(実施形態3)
図6は、実施形態3に係る光路長差計測装置1000の模式的な構成図である。光路長差計測装置1000は、測距装置として構成されている光路長差計測装置の一例であって、被測定物Oに関する光路長差を計測するとともに、当該光路長差に基づいて被測定物Oまでの距離を計測する。光路長差計測装置1000は、実施形態1に係る多波長光源装置100と、干渉計1001と、分光部1002と、位相検出部1003と、処理部1004と、を備えている。
【0044】
多波長光源装置100は、レーザ光群L15を出力する。
【0045】
干渉計1001には、多波長光源装置100からレーザ光群L15が入力される。干渉計1001は、レーザ光群L15の一部を測定光Lmとして被測定物Oに出力し、被測定物Oで反射された光である反射光Lrを受け付ける。干渉計1001は、反射光Lrと、レーザ光L1の前記一部とは異なる部分である参照光とを干渉させて干渉光Liを生成する。この干渉光Liは、被測定物Oに関する光路長差(たとえば測定光Lmと参照光との光路長差)に対応した位相の干渉成分を含む。なお、干渉計1001は、たとえばフィゾー干渉計やマイケルソン干渉計である。
【0046】
分光部1002は、干渉計1001から入力された干渉光Liを、レーザ光群L15に含まれるレーザ光L1、L2、L3および新成レーザ光L14の波長に応じて分光する。分光された干渉光Liを、それぞれ干渉光Li1、Li2、Li3、Li4とする。分光部1002は、たとえばAWGやバルク型の回折格子を有している。
【0047】
位相検出部1003は、分光部1002から入力された干渉光Li1、Li2、Li3、Li4のそれぞれから、干渉成分の位相を検出する。位相を検出する際には、たとえば、干渉計1001において測定光または参照光の光路長をアクチュエータ等で、たとえば3または4段階で変更し、変更した光路長に対応する3つまたは4つの位相の値から、3(4)点法(3(4)ステップ法とも呼ばれる)を用いて位相を検出する。そして、位相検出部1003は、各位相の情報を含む位相情報信号を処理部1004に出力する。位相検出部1003は、偏光素子と受光素子アレイとを用いる構成などの公知の構成を有している。
【0048】
処理部1004は、たとえばパーソナルコンピュータおよびその周辺機器を備えている。処理部1004は、位相検出部1003を制御するとともに、位相検出部1003から位相情報信号が入力される。処理部1004は、位相情報信号から得られた、位相検出部1003が検出した位相に基づいて、被測定物Oに関する光路長差を算出する。
【0049】
処理部1004が光路長差を算出する方法は、特に限定されないが、たとえば合成波長および合成位相を用いる方法を用いる。合成波長および合成位相を用いる方法であれば、光路長差の計測可能レンジであるUMR(Unambiguous Measurement Range)を広くすることができる。
【0050】
合成波長は、レーザ光L1、L2、L3および新成レーザ光L14から複数を選択し、選択したレーザ光の波長を組み合わせることによって得られることが知られている。選択するレーザ光の数が2である場合は、合成波長Λijは、以下の式(1)で定義される。なお、二つの光の合成波長は、レーザ光の数が3以上の場合にも、式(1)で定義される。合成波長は、組み合わせる波長よりも長くなる。
Λij=(λi・λj)/(λj-λi) ・・・ (1)
ここで、λi、λjはレーザ光の波長である。ただし、λi<λjであるとする。λiはたとえばレーザ光L2の波長であり、λjはたとえば新成レーザ光L14の波長である。
【0051】
合成位相は、干渉光Li1、Li2、Li3、Li4から複数を選択し、選択したレーザ光の位相を組み合わせることによって得られることが知られている。選択するレーザ光の数が2である場合は、合成位相φijは、以下の式(2)で定義される。なお、二つの光の合成位相は、レーザ光の数が3以上の場合にも、式(2)のように定義される。
φij=φi-φj ・・・ (2)
ここで、φi、φjは干渉光の干渉成分の位相である。φiはたとえばレーザ光L2に対応する干渉光の干渉成分の位相であり、φjはたとえば新成レーザ光L14に対応する干渉光の干渉成分の位相である。
【0052】
処理部1004は、合成波長と合成位相とから光路長差を算出する。光路長差Loは以下の式(3)を用いて算出できる。
Lo=(M+φs/2π)Λs ・・・ (3)
ここで、Mは干渉の次数である。また、Λsは合成波長であり、φsはΛsに対応する合成位相であるが、合成波長が複数ある場合は、Nsがよりゼロに近くなるような合成波長を用いる。なお、Mは数値の丸め処理をして整数としてもよい。処理部1004は、式(3)においてNsをゼロとして、合成波長および合成位相に基づく一次光路長差を算出する。
【0053】
一次光路長差は、合成波長と合成位相とを用いて算出したので、各波長や各位相の誤差を累積的に含む。そこで、処理部1004は、一次光路長差に基づいてより正確な計測値としての二次光路長差を算出する。二次光路長差Lは以下の式(4)を用いて算出できる。
L=(m+φk/2π)λk ・・・ (4)
ここで、mは干渉の次数である。λk、φkは、干渉光Li1、Li2、Li3、Li4のいずれかの波長、およびその干渉成分の位相である。ここで、次数mは、Lが一次光路長差に最も近い値になるように一意に決定することができる。
【0054】
一次光路長差および二次光路長差の算出について、
図7を参照して説明する。
図7に示すLoは、式(3)においてM=0としたLoとφsとの関係を表す太い実線と、φsの値とから求められる。しかし、上述したようにλsとが誤差を含んでいるため、求めたLoは矢印で表すように誤差を含んでいる。
図7では、太い実線の太さはλsの誤差を表している。しかし、Loの誤差の範囲には、式(4)中での対応する干渉の次数がmしかないため、式(4)から二次光路長差であるLを一意に決めることができる。なお、λsとφsとが含む誤差は、たとえば予備実験などによって取得することができる。
【0055】
干渉計1001の内部での反射光Lrと参照光との光路長差(内部光路長差)は既知であり、処理部1004の記憶部に記憶されている。そこで、処理部1004は、二次光路長差から内部光路長差を減算して、干渉計1001と被測定物Oとの間の光路長差の計測値として算出する。
【0056】
以上のように構成された光路長差計測装置1000によれば、出力するレーザ光群L15に含まれるレーザ光の間の波長差の安定性が高い多波長光源装置100を備えているので、高精度の光路長差の計測を実現できる。
【0057】
なお、光路長差計測装置1000において、処理部1004は、互いに異なる複数の合成波長および合成位相に基づいて、光路長差を計測してもよい。
【0058】
たとえば、
図8のように、一次光路長差Loの誤差が比較的大きい場合、Loの誤差の範囲には、式(4)中での対応する干渉の次数がmだけでなく、m-2、m-1、m、m+1がある。そのため、式(4)から二次光路長差Lを一意に決めることができない。このような場合、さらに、一次光路長差と二次光路長差との中間的な誤差の中間光路長差Linを、以下の式(5)を用いて算出する。
Lin=(n+φin/2π)Λin ・・・ (5)
ここで、nは干渉の次数である。Λin、φinは、それぞれ合成波長および合成位相であるが、Λinは式(3)のΛsよりも短い合成波長である。たとえば、Λsがレーザ光L2の波長と新成レーザ光L14の波長とに基づく合成波長であるとすると、Λinはレーザ光L1の波長とレーザ光L2の波長とに基づく合成波長である。この場合、Loの誤差の範囲には、式(5)中での対応する干渉の次数がnしかないため、式(5)から中間光路長差Linを一意に決めることができる。さらに、Linの誤差の範囲には、式(4)中での対応する干渉の次数がmしかないため、式(4)から二次光路長差Lを一意に決めることができる。
【0059】
なお、上記実施形態では、温度調節器によって半導体レーザ素子からのレーザ光の周波数(波長)を変化させているが、当該レーザ光の周波数を変化させなくてもよい。また、上記実施形態では、フィルタが波長可変フィルタであるが、波長可変型でなくてもよい。また、半導体レーザ素子の数やレーザ光群に含まれるレーザ光の数は3に限らず、4以上でもよい。
【0060】
また、上記実施形態により本発明が限定されるものではない。上述した各構成要素を適宜組み合わせて構成したものも本発明に含まれる。たとえば、実施形態3に係る光路長差計測装置1000の多波長光源装置100を、実施形態2に係る多波長光源装置200に置き換えてもよい。また、さらなる効果や変形例は、当業者によって容易に導き出すことができる。よって、本発明のより広範な態様は、上記の実施形態に限定されるものではなく、様々な変更が可能である。
【符号の説明】
【0061】
1、2、3:半導体レーザ素子
4、50 :合成部
5 :集積素子
6 :温度調節器
10 :多波長光源
20 :分岐部
30 :非線形光学媒質
40 :フィルタ
60 :制御部
70 :光増幅器
80 :光カプラ
90 :モニタ部
100、200:多波長光源装置
1000 :光路長差計測装置
1001 :干渉計
1002 :分光部
1003 :位相検出部
1004 :処理部
L1、L2、L3:レーザ光
L10、L13、L15 :レーザ光群
L11 :第1レーザ光群
L12 :第2レーザ光群
L14 :新成レーザ光
L16 :モニタ光
Li、Li1、Li2、Li3、Li4:干渉光
O :被測定物