(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024143461
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】多層構造体、積層体及び多層構造体の製造方法
(51)【国際特許分類】
B32B 7/023 20190101AFI20241003BHJP
【FI】
B32B7/023
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023056161
(22)【出願日】2023-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000006747
【氏名又は名称】株式会社リコー
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100107515
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 浩一
(72)【発明者】
【氏名】小林 俊介
(72)【発明者】
【氏名】後藤 大輔
(72)【発明者】
【氏名】上本 菜央
(72)【発明者】
【氏名】川村 怜
(72)【発明者】
【氏名】朝比奈 大輔
【テーマコード(参考)】
4F100
【Fターム(参考)】
4F100AB01
4F100AK04
4F100AK07
4F100AK12
4F100AK12A
4F100AK12B
4F100AK25
4F100AK25A
4F100AK25B
4F100AK29
4F100AK29A
4F100AK29B
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4F100AL02A
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4F100AT00
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4F100GB07
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4F100HB00
4F100JA20
4F100JA20A
4F100JA20B
4F100JL10
4F100JN06
4F100JN18
4F100YY00A
4F100YY00B
(57)【要約】
【課題】半値幅を低く維持しつつ視野角依存性を低くすることができる多層構造体を提供する。
【解決手段】本発明に係る多層構造体は、第一の層と第二の層とを有し、選択反射を示す多層構造体であって、前記第一の層は、前記多層構造体の断面から見て、前記多層構造体の基準面に対して5.0°未満の角度で配列した多層膜構造を有し、前記第二の層は、前記多層構造体の断面から見て、前記基準面に対して5.0°以上の角度で少なくとも一方向に傾いて配列した多層膜構造を有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一の層と第二の層とを有し、選択反射を示す多層構造体であって、
前記第一の層は、前記多層構造体の断面から見て、前記多層構造体の基準面に対して5.0°未満の角度で配列した多層膜構造を有し、
前記第二の層は、前記多層構造体の断面から見て、前記基準面に対して5.0°以上の角度で少なくとも一方向に傾いて配列した多層膜構造を有する多層構造体。
【請求項2】
前記多層構造体が、可視光を発色する請求項1に記載の多層構造体。
【請求項3】
前記第一の層及び前記第二の層が、ラメラ構造を有する請求項1に記載の多層構造体。
【請求項4】
前記ラメラ構造の厚さが、50nm~400nmである請求項3に記載の多層構造体。
【請求項5】
前記第一の層の厚さをX、前記第二の層の厚さをYとした時、下記式(1)を満たす請求項1に記載の多層構造体。
Y/X<1.0・・・(1)
【請求項6】
前記第一の層及び前記第二の層が、それぞれ、少なくとも1種のブロックコポリマーを含む請求項1に記載の多層構造体。
【請求項7】
前記多層構造体の断面から見て、前記基準面に対して5.0°未満の角度で配列した多層膜構造は、前記基準面に平行に配列されている請求項1に記載の多層構造体。
【請求項8】
基材と、
前記基材の上に設けられた請求項1の多層構造体と、
を有する積層体。
【請求項9】
第一の層と第二の層とを有し、選択反射を示す多層構造体の製造方法であって、
基材の上に、前記基材の断面から見て、前記基材に対して5.0°未満の角度で配列した多層膜構造を有する第一の層を形成する工程と、
前記第一の層の上に、前記基材の断面から見て、前記基材に対して5.0°以上の角度で少なくとも一方向に傾いて配列した多層膜構造を有する第二の層を形成する工程と、
を含む多層構造体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多層構造体、積層体及び多層構造体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
物体の微細な構造における光学現象に起因して構造色を発現する多層構造体がある。構造色は、光の波長程度の微細構造において、光の、回折、干渉又は散乱等により生じる反射光であるため、顔料及び染料のような色素を用いた発色と異なり、光による退色が発生しないという利点を有する。
【0003】
微細な凹凸構造を有する薄膜が多層積層されることにより生じる、多層膜干渉による構造色は、多層膜層において相互に隣り合う薄膜の界面で反射した光が干渉することによって生じ、例えば、モルフォ蝶等の自然界の生物の色として多く観察される。
【0004】
多層膜干渉による構造色を発現する多層構造体として、例えば、光学屈折率の異なる2種の高分子物質を連続して交互に積層した構造を有し、自然光の反射、干渉作用によって可視光線領域の波長の色を発色する、反射、干渉作用を有する発色構造体が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の、反射、干渉作用を有する発色構造体は、異なる角度から視認した場合には異なる色が視認される、すなわち視野角依存性が高いという問題があった。
【0006】
本発明の一態様は、半値幅を低く維持しつつ視野角依存性を低くすることができる多層構造体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様は、
第一の層と第二の層とを有し、選択反射を示す多層構造体であって、
前記第一の層は、前記多層構造体の断面から見て、前記多層構造体の基準面に対して5.0°未満の角度で配列した多層膜構造を有し、
前記第二の層は、前記多層構造体の断面から見て、前記基準面に対して5.0°以上の角度で少なくとも一方向に傾いて配列した多層膜構造を有する多層構造体である。
【発明の効果】
【0008】
本発明の一態様は、半値幅を低く維持しつつ視野角依存性を低くすることができる多層構造体を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】一実施形態に係る多層構造体の構成を模式的に示す断面図である。
【
図2】ミクロ相分離構造を模式的に示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。なお、説明の理解を容易にするため、各図面において同一の構成要素に対しては同一の符号を付して、重複する説明は省略する。また、図面における各部材の縮尺は実際とは異なる場合がある。明細書において数値範囲を示す「~」は、別段の断わりがない限り、その前後に記載された数値を下限値及び上限値として含むことを意味する。
【0011】
<多層構造体>
本発明の一実施形態に係る多層構造体について説明する。一実施形態に係る多層構造体は、第一の層及び第二の層を有し、選択反射を示す。一実施形態に係る多層構造体は、第一の層及び第二の層の他に、さらに必要に応じて他の層を有していてもよいし、第一の層及び第二の層から構成されてよい。
【0012】
なお、選択反射とは、入射した光の一部を反射し、所定の波長を有する光(入射光)を選択的に反射することをいう。選択反射による反射光は、多層構造体の反射スペクトルを分光光度計(例えば、日本分光社製の紫外可視赤外分光光度計(自動絶対反射率測定システム))等で測定できる。一実施形態に係る多層構造体は、選択反射することで、可視光域の波長(380nm~780nm)を有する光である可視光を発色してよい。
【0013】
図1は、一実施形態に係る多層構造体の構成を模式的に示す断面図である。
図1に示すように、一実施形態に係る多層構造体1は、第一の層11及び第二の層12を有し、さらに必要に応じて他の層を有してもよい。多層構造体1は、第一の層11及び第二の層12をこの順に積層して備えてよい。
【0014】
[第一の層]
図1に示すように、第一の層11は、多層構造体1の下方に位置することが好ましい。第一の層11は、ブロックコポリマーを主成分として含む層であり、目的に応じて適宜、添加剤及び色素等の任意成分をさらに含んでよい。
【0015】
(ブロックコポリマー)
第一の層11を形成するブロックコポリマーは、複数種類のポリマーブロックを含み、複数種類のポリマーブロックから構成されてよい。ブロックコポリマーは、いずれのブロックコポリマーを使用でき、目的とする構造が形成されるものであれば、特に制限はなく、適宜選択してよく、ラメラ構造(平板構造)を形成するジブロックコポリマーであることが好ましい。
【0016】
ジブロックコポリマーとしては、例えば、ポリスチレン-b-ポリイソプレン、ポリスチレン-b-ポリtert-ブチルメタクリレート、ポリスチレン-b-ポリ(2-ビニルピリジン)、ポリスチレン-b-ポリメチルアクリレート、ポリブタジエン-b-ポリイソプレン、ポリブタジエン-b-ポリ(2-ビニルピリジン)、ポリブタジエン-b-ポリ(tert-ブチルメタクリレート)、ポリイソプレン-b-ポリ(tert-ブチルメタクリレート)等が挙げられる。
【0017】
ブロックコポリマーがラメラ構造を形成するには、ブロックコポリマーを形成する2つのポリマーブロックの体積分率が0.35~0.65であることが好ましい。2つのポリマーブロックの体積分率が0.35~0.65であれば、ブロックコポリマーが形成するミクロ相分離構造は、ラメラ構造を形成し、スフィア構造(球構造)及びシリンダ構造(円筒構造)等の異なる形状が形成されることを抑えるため、第一の層11は規則的な微細構造を有することができる。第一の層11は、ブロックコポリマーを含むことで、後述する基材等の基準面に対して所定の角度を有する、規則的な積層構造を有することができる。ブロックコポリマーの分子量等に応じてラメラ構造のドメイン幅は変更できるため、第一の層11で生じる反射光の波長を制御できる。
【0018】
ラメラ構造の厚さ(ドメイン幅)は、紫外領域又は赤外領域の波長を有する入射光でも反射させる点から、50nm~400nmであることが好ましく、70nm~380nmであることがより好ましく、100nm~350nmであることがさらに好ましい。ラメラ構造の厚さが薄すぎると、反射光の波長の領域はUV領域となる。また、ラメラ構造の厚さが厚すぎると、反射光の波長の領域は赤外領域になるため、利用し難かったり、好適な選択反射が得られ難くなる。
【0019】
なお、本明細書において、ラメラ構造の厚さとは、第一の層11の主面に垂直な方向の長さをいう。ラメラ構造の厚さは、例えば、第一の層11の断面において、任意の場所を測定した時の厚さとしてもよいし、任意の場所で数カ所測定し、これらの測定値の平均値としてもよい。以下、厚さの定義は、他の部材でも同様に定義する。
【0020】
第一の層11は、多層構造体1の断面から見て、多層構造体1が設置される基材等の主面である基準面に対して5.0°未満の角度で配列した多層膜構造110を有する。多層膜構造110は、ミクロ相分離構造を含むことが好ましい。ミクロ相分離構造は、異なる屈折率を有するユニットが積層した多層膜構造である。ミクロ相分離構造は、ラメラ構造(平板構造)であることが好ましい。多層膜構造110は、ミクロ相分離構造から構成されてもよい。
【0021】
なお、多層膜構造110が基準面に対して5.0°未満の角度で配列していることは、例えば、多層構造体1の断面を、走査型電子顕微鏡(SEM)により観察して得られる画像より、多層膜構造110を構成する層の傾斜角を算出して求めてよい。傾斜角は、多層膜構造110を構成する層の傾きを算出できれば、傾斜角の算出方法は特に限定されないが、例えば、以下の通り算出してよい。即ち、第一の層11の断面内の数箇所(例えば、3か所)をSEMにより画像を得る。得られた画像から得られるパターンを全方位に所定角度(例えば、5°)ずつ扇形に分割して、極座標変換を行う。極座標変換した結果を方位成分ごとに集計して配向の傾斜角の分布を得る。数箇所の測定点の分布を平均したものより、第一の層11の断面中の傾斜角の割合を算出する。
【0022】
上述の傾斜角の算出は、一般的な画像処理方法で実施することができ、例えば、Python、C++等を用いてもよいし、ImageJ等の画像処理ソフトを用いてもよい。
【0023】
ブロックコポリマーを形成しているポリマーブロックの屈折率が異なる場合、ブロックコポリマーが自己組織化することで形成されるミクロ相分離構造は、異なる屈折率を有するユニットが積層した多層膜を形成する。
【0024】
例えば、
図2に示すように、ブロックコポリマーが屈折率が異なる2種類のユニットA及びBを有し、2種類のユニットA及びBの屈折率を、それぞれ、n1及びn2、厚さ(ドメイン幅)を、それぞれ、d1及びd2とする。この場合、第一の層11は、2種類のユニットA及びBを有するブロックコポリマーが積層することで形成されたミクロ相分離構造を有する多層膜となる。この時、第一の層11の波長λは、下記式(I)より求められる。
λ[nm]=2(n1×d1+n2×d2) ・・・(I)
【0025】
多層膜構造110は、基準面に対して5.0°未満の角度で配列していればよく、基準面に対して略平行に配列させていることが好ましい。
【0026】
なお、「基準面」とは、多層構造体1が設置される基材等の主面である。基準面は、例えば、紙又はプラスチックフィルム等の基材の表面(基材面)、建築物の表面、道路の表面等であり、第一の層11又は第二の層12を形成する際に用いられる層形成液体組成物の塗布面も含む。
【0027】
第一の層11の厚さは、1μm~50μmであることが好ましく、3μm~40μmであることがより好ましく、5μm~30μmであることがさらに好ましい。第一の層11の厚さが1μm以上であれば、入射光を反射する積層構造が十分に得られるため、反射率の低下が抑えられる。第一の層11の厚さが50μm以下であれば、入射光を反射する積層構造が十分に得られるため、反射率の低下を抑えることができる。また、乾燥までに要する時間が長くなることが抑えられるため、生産性の低下を抑制できると共に、塗装膜の表層と内部の乾燥時間が異なることで、異なる積層構造が形成されることを抑えることができるため、規則的な積層構造を形成できる。
【0028】
第一の層11の幅は、特に限定されず、多層構造体1が所望の波長を有する可視光を選択して、構造色として発色できるように設定されていればよい。
【0029】
[第二の層]
図1に示すように、第二の層12は、第一の層11の上面に積層され、多層構造体1の上方に位置することが好ましい。第二の層が上方に位置すると、多層構造体1の視野角依存性を一層低くすることができる。
【0030】
第二の層12は、ブロックコポリマーを主成分として含み、膜形成のために、目的に応じて適宜、添加剤及び色素等の任意成分をさらに含んでよい。第二の層12に含まれるブロックコポリマーは、第一の層11に含まれるブロックコポリマーを用いることができる。ブロックコポリマーは、第一の層11に含まれるブロックコポリマーと同様であるため、詳細は省略する。
【0031】
第二の層12は、多層構造体1の断面から見て、多層構造体1の基準面に対して5.0°以上の角度で少なくとも一方向に傾いて配列した多層膜構造120を有する。
【0032】
多層膜構造120は、多層構造体1の断面から見て、多層構造体1の基準面に対して5.0°以上90°未満の角度で傾いて配列した多層膜構造と、多層構造体1の断面から見て、多層構造体1の基準面に対して90°超え175°以下の角度で傾いて配列した多層膜構造との何れか一方又は両方を有してよい。
【0033】
即ち、多層膜構造120は、例えば、多層構造体1の断面から見て、多層構造体1の基準面に対して5.0°以上の角度で右上がりとなるように傾いて配列した多層膜構造120Aと、多層構造体1の断面から見て、多層構造体1の基準面に対して5.0°以上の角度で左上がりとなるように傾いて配列した多層膜構造120Bとを有してよい。
【0034】
多層膜構造120は、第一の層11と同様、ミクロ相分離構造を含むことが好ましい。ミクロ相分離構造は、第一の層11に含まれるミクロ相分離構造と同様、ラメラ構造であることが好ましい。多層膜構造120は、多層膜構造110と同様、ミクロ相分離構造から構成されてもよい。
【0035】
多層膜構造120は、基準面に対して5.0°以上の角度で少なくとも一方向に傾いて配列していればよく、基準面に対して略傾斜方向に配列させた多層膜構造であることが好ましい。
【0036】
なお、多層膜構造120が基準面に対して5.0°以上の角度で少なくとも一方向に傾いて配列していることは、上述の多層膜構造110と同様に、多層膜構造120を構成する層の傾斜角を算出して求めてよい。傾斜角は、多層膜構造110を構成する層の傾きを算出する場合と同様の方法を用いて算出してよい。即ち、第二の層12の断面内の数箇所(例えば、3か所)をSEMにより画像を得る。得られた画像から得られるパターンを全方位に所定角度(例えば、5°)ずつ扇形に分割して、極座標変換を行い、得られる極座標変換した結果を方位成分ごとに集計して配向の傾斜角の分布を得る。数箇所の測定点の分布の平均値を算出することにより、第二の層12の断面中の、多層膜構造120を構成する層の傾斜角を算出する。
【0037】
第二の層12は、多層膜構造120を、第二の層12の断面の80%以上有していることが好ましく、90%以上有していることがより好ましく、95%以上有していることがさらに好ましく、100%有していることが最も好ましい。多層膜構造120が第二の層12の断面の80%以上で存在していれば、第二の層12は、入射光の反射率の低下を抑える共に、視野角依存性を低く抑えることができる。
【0038】
なお、多層膜構造120が第二の層12の断面の80%以上で存在するとは、多層膜構造120を構成する層の傾斜角を算出する際に、極座標変換を行って得られる全ての方位成分に対して5°以上傾いた成分が層内に80%以上あることを意味する。
【0039】
第二の層12の厚さは、1μm~30μmであることが好ましく、3μm~25μmであることがより好ましく、5μm~20μmであることがさらに好ましい。第二の層12の厚さが1μm以上であれば、入射光を反射する積層構造が十分に得られるため、反射率の低下が抑えられる。第二の層12の厚さが30μm以下であれば、樹脂が基準面に対して乱雑に配列する層が多く形成されることを抑制できるため、多層構造を形成していても、視野角依存性を低く抑えることができる。
【0040】
第二の層12の幅は、第一の層11と同様、特に限定されず、多層構造体1が所望の波長を有する可視光を選択して、構造色として発色できるように設定されていればよい。
【0041】
第一の層11の厚さをX、第二の層12の厚さをYとしたとき、多層構造体1から反射する反射光の半値幅を狭くし、視野角依存性を低くする点から、以下の関係式(1)を満たすことが好ましい。
Y/X<1.0・・・(1)
【0042】
多層構造体1は、光の干渉等の光学作用により、反射光の強度が強めて選択反射する。なお、選択反射とは、上述の通り、多層構造体1に入射した光の一部を反射し、所定の波長を有する光を選択的に反射することをいい、選択反射による反射光の測定方法の説明は省略する。
【0043】
多層構造体1は、所定の波長を有する光を選択反射することで、可視光(波長380nm~780nm)を発色できる。多層構造体1を構成する第一の層11及び第二の層12の幅、屈折率等を設定することで、所望の波長を有する可視光を選択して、構造色として発色できる。多層構造体1が可視光を発色する場合、例えば、第一の層11は、幅を150nmとし、屈折率を1.5とし、第二の層12は、幅を150nmとし、屈折率を1.4としてよい。
【0044】
多層構造体1の屈折率は、多層構造体1に含まれる第一の層11及び第二の層12を構成するブロックコポリマーのユニットに依存して決定される。例えば、ブロックコポリマーが、ポリ(スチレン-b-イソプレン)(PS-b-PI)の場合、ポリスチレンの屈折率は1.59であり、ポリイソプレンの屈折率は1.52である。第一の層11及び第二の層12を構成するブロックコポリマーの各ユニットの屈折率は、1.35~1.90となる。
【0045】
多層構造体1で選択反射される光(反射光)は、多層構造体1に含まれる第一の層11の多層膜構造110及び120の厚さ(ドメイン幅)によって異なる。多層膜構造110及び120は、上述の通り、ブロックコポリマーにより形成されているため、多層膜構造110及び120の厚さは、ブロックコポリマーの分子鎖長により変化する。多層構造体1が選択反射した光(反射光)を得るには、例えば、ブロックコポリマーの分子鎖長は、40nm~500nmであることが好ましく、45nm~450nmであることがより好ましく、50nm~400nmであることがより好ましい。分子鎖長が40nm~500nmであれば、多層構造体1は可視光域の波長を有する光を反射でき、構造色を発色できる。ブロックコポリマーの分子鎖長が長すぎると、自己組織化によるポリマーの運動を厳密に制御する必要があり、ラメラ構造が形成し難くなる。
【0046】
多層構造体1の選択反射した光(反射光)の半値幅は、200nm以下であることが好ましく、150nm以下であることがより好ましく、100nm以下であることがさらに好ましい。
【0047】
また、多層構造体1は、その表面側(
図1中の上側)に保護層等を備えてもよい。保護層は、特に限定されず、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、熱硬化性樹脂、紫外線硬化性樹脂等の樹脂を塗工したり、透明な樹脂フィルムを貼付することにより、形成できる。多層構造体1の表面上に保護層を備えることで、耐候性、耐摩耗性及び耐衝撃性等、優れた堅牢性を有することができる。
【0048】
<製造方法>
一実施形態に係る多層構造体の製造方法について説明する。
【0049】
一実施形態に係る多層構造体の製造方法では、沸点が60℃~250℃である溶媒に溶解したブロックコポリマーを含む層形成液体組成物を作製する(層形成液体組成物の作製工程)。
【0050】
層形成液体組成物は、ブロックコポリマー及び有機溶媒を含み、必要に応じて、添加剤、界面活性剤及び色材等を含んでもよい。
【0051】
ブロックコポリマーの層形成液体組成物中での濃度は、5wt%~40wt%であることが好ましく、5wt%~20wt%であることがより好ましい。インク中での濃度が5wt%~40wt%であれば、十分、規則的な積層構造を形成できる。また、溶液の粘度が高くなり過ぎることが抑えられるため、乾燥時の液膜内の分子運動の低下を抑えることができると共に、溶解可能なブロックコポリマーの選択肢が少なくなることを抑制できる。
【0052】
溶媒としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。溶媒の沸点は60℃~250℃であることが好ましい。沸点が60℃以上であれば、以下の溶媒を用いた場合、塗工後すぐに乾燥が始まることが抑えられるため、樹脂材料の自己組織化が十分な状態で乾燥させることができるため、十分な多層膜構造を形成できる。沸点が250℃以下であれば、塗工後の乾燥までに時間がかかり過ぎることが抑えられるため、生産性の低下を抑えると共に、乾燥方法の種類が限定されることを抑えることで乾燥の制御を確実に行える。また、溶媒の乾燥速度を制御することで、乾燥速度を選択することで形成する層構成を制御できる。
【0053】
溶媒として、具体的には、トルエン、キシレン、アニソール、シクロヘキサノン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルポキシド(DMSO)、クメン等が挙げられる。
【0054】
次に、層形成液体組成物を基材の上に塗布して第一の塗装膜を形成し、第一の塗装膜を乾燥させることで、基材の上に、基材の断面から見て、基材に対して5.0°未満の角度で配列した多層膜構造110を有する第一の層11を形成する(第一の層の形成工程)。
【0055】
第一の層11の形成に使用される基材は、特に限定されず、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、紙、糸、繊維、布帛、皮革、金属、プラスチック、ガラス、木材、セラミックス、又はこれらの複合材料等が挙げられる。
【0056】
第一の層を形成方法は、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。例えば、バーコーター法、スピンコート法、キャスト法、インクジェット方式等が挙げられる。これらの中でも、生産性の高さ等の観点より、インクジェット方式が特に好ましい。
【0057】
なお、乾燥とは、層形成液体組成物に含まれる溶媒が完全に揮発させる意味である。
【0058】
乾燥方法は、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。第一の塗装膜は、後述するように、第二の層12の形成に用いられる第二の塗装膜よりも穏やかに乾燥させる。乾燥を緩やかに進行させる方法として、例えば、大気下静置で乾燥させる方法、溶媒の雰囲気下で乾燥させるソルベントアニール法等が挙げられる。
【0059】
次に、層形成用組成物を第一の層11の上に塗布して第二の塗装膜を形成し、第二の塗装膜を乾燥させることで、第一の層11の上に、基材の断面から見て、基材に対して5.0°以上の角度で少なくとも一方向に傾いて配列した多層膜構造120を有する第二の層12を形成する(第二の層の形成工程)。
【0060】
第二の塗装膜の乾燥は、第二の塗装膜を乾燥させるための乾燥時間、又は第二の塗装膜に含まれる溶媒の揮発速度に基づいて調整してよい。
【0061】
なお、乾燥時間と、溶媒の揮発速度とは、層形成液体組成物に含まれる溶媒が完全に揮発させるまでに要する時間である。溶媒の揮発速度は、層形成液体組成物の質量の変化と乾燥時間とから算出できる。
【0062】
乾燥方法は、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。第二の塗装膜は、後述するように、第一の塗装膜よりも早く乾燥させる。乾燥を早く進行させる方法として、例えば、加熱、送風、真空下で乾燥させる方法等が挙げられる。
【0063】
第二の塗装膜を乾燥させるための乾燥時間は、第二の層12が多層膜構造120を有するように形成できれば、特に限定されず、適宜設定してよく、第一の塗装膜を乾燥させるための乾燥時間よりも短くてよいし、例えば、第一の塗装膜を乾燥させるための乾燥時間の1/4~2/3の時間としてもよい。
【0064】
第二の塗装膜に含まれる溶媒の揮発速度は、第二の層12が多層膜構造120を有するように形成できれば、特に限定されず、適宜設定してよく、第一の塗装膜に含まれる溶媒の揮発速度よりも遅くてよいし、例えば、第一の塗装膜に含まれる溶媒の揮発速度の1/4~2/3の速さとしてもよい。
【0065】
第二の層の形成方法は、第一の層の形成方法と同様の方法を用いてよく、生産性の高さ等の観点から、インクジェット方式が特に好ましい。
【0066】
多層構造体1を製造する上で、第一の層の形成工程及び第二の層の形成工程における乾燥速度が重要である。第一の層11及び第二の層12の形成時において、第一の塗装膜及び第二の塗装膜に含まれるブロックコポリマーがミクロ相分離構造を形成する際の自己組織化において、乾燥方法及び乾燥速度が、多層膜構造110及び120等の積層構造の規則性や配向に大きく影響する。
【0067】
即ち、第一の塗装膜及び第二の塗装膜等の膜を作製する際に、溶媒の乾燥が緩やかに進行させる乾燥方法を用いることで、形成するラメラ構造は基材等の基準面に対して5°未満に配列されるようになり、より規則的な積層構造を有するように層形成を行えるため、半値幅が狭い層が得られる。一方、溶媒の乾燥を急激に進行させる場合、形成するラメラ構造は基材等の基準面に対して5°以上傾斜した方向に配列されるようになり、ラメラ構造は乱雑に複数の方向に配列されるため、どの角度から入射する光に対しても同一の波長の光を反射することが可能な視野角依存性の低い層が得られる。
【0068】
以上のように、第一の層11の上に第二の層12を形成することで、
図1に示す多層構造体1を製造できる。
【0069】
このように、一実施形態に係る多層構造体1は、第一の層11と第二の層12とを有し、第一の層11に多層膜構造110を持たせ、第二の層12に多層膜構造120を持たせる。多層膜構造110は、多層構造体1の断面から見て、多層構造体1の基準面に対して5.0°未満の角度で配列させた構造を有し、多層膜構造120は、多層構造体1の断面から見て、基準面に対して5.0°以上の角度で少なくとも一方向に傾いて配列させた構造を有している。多層構造体は、第一の層11及び第二の層12で、それぞれ異なる積層構造を形成できるため、それぞれの層で機能を分離した積層構造体を形成できる。多層膜構造110は、規則的に配列した積層構造を有するため、反射光は、干渉の作用により強め合うため、高い反射率を有すると共に半値幅を狭くすることができる。しかし、入射光の角度により反射する際の光路長が変わり、反射光の波長が異なるため、視野角依存性は高くなる。一方、多層膜構造120は、規則的な積層構造が乱雑に配列するため、各方向から入る入射光に対して同一の厚さ(ドメイン幅)で反射でき、角度による発色の変化が抑制される。このため、多層膜構造120は、どの角度から入射した光に対しても一定の光路長で光を反射できるので、視野角依存性を低くすることができる。
【0070】
よって、多層構造体1は、第一の層11と第二の層12とで機能を分離することで、視野角依存性と半値幅との両立を図ることができるため、半値幅を低く維持しつつ視野角依存性を低くすることができる。したがって、多層構造体1は、特定の色のみを発色し、かつ観察角度による発色の変化を抑制できる。
【0071】
多層構造体1は、可視光を構造色として発色できる。これにより、一実施形態に係る多層構造体は、入射光のうち、一部の波長を有する光のみを反射し、残りの波長を有する光は吸収せずに透過させることができるので、一部の波長を有する反射光を構造色として視認より確認できる。
【0072】
多層構造体1は、第一の層11及び第二の層12に、ラメラ構造を含むことができる。ラメラ構造は、ブロックコポリマーが形成するミクロ相分離構造であり、第一の層11には規則的な積層構造を持つ多層膜構造110を有し、第二の層12には乱雑に複数の方向に配列される不規則な積層構造を持つ多層膜構造110を有することができる。多層構造体1は、第一の層11及び第二の層12がラメラ構造を含むことで、屈折率の異なる多層構造膜が厚さ方向に形成できるため、面方向への選択反射を行うことができ、構造色をより確実に発現できる。
【0073】
多層構造体1は、第一の層11及び第二の層12に含まれるラメラ構造の厚さを、50nm~400nmとすることができる。これにより、多層構造体1は、UV領域から赤外領域の波長を有する入射光を反射できる。
【0074】
多層構造体1は、第一の層11の厚さをX、第二の層12の厚さをYとした時、下記式(1)を満たすことができる。多層構造体1は、第二の層12を第一の層11の厚さよりも薄い状態とすることにより、第二の層12が第一の層11の反射光を十分に受けることができるため、多層構造体1の半値幅を狭くすることができる。第一の層11は視野角依存性を有するが、規則的な積層構造を有し、秩序高い膜であるため、反射率が高く、半値幅は狭くなる。よって、多層構造体1は、下記式(1)を満たすことで、反射光の半値幅をより確実に狭くし、視野角依存性をより確実に低く抑えることができる。
Y/X<1.0・・・(1)
【0075】
多層構造体1は、第一の層11及び第二の層12を、それぞれ、少なくとも1種のブロックコポリマーを含むことができる。多層構造体1は、ブロックコポリマーの種類を選択することで、任意の構造色を発色させることができる。
【0076】
多層構造体1は、多層膜構造110を、基準面に略平行に配列されることができる。これにより、多層構造体1は、第一の層11の機能をより発揮させることができるので、第一の層11の反射率を向上させ、高い反射率を確実に発揮できると共に、反射光の半値幅をさらに狭くし、視野角依存性をさらに低く抑えることができる。本発明における実施形態にかかる多層構造体1は第一の層11と第二の層12とを交互に繰り返し有してもよい。
【0077】
<積層体>
一実施形態に係る積層体は、基材と、一実施形態に係る多層構造体とを備え、必要に応じて、その他の部材を有してよい。一実施形態に係る積層体は、基材の上に一実施形態に係る多層構造体を積層して備える。
【0078】
基材は、特に限定されず、一実施形態に係る多層構造体を積層できるものであれば、任意の材料を用いることができ、基材としては、例えば、プラスチック基材、シリコン(Si)基板、金属板、ガラス基材等を用いることができる。
【0079】
プラスチック基材を形成する材料として、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポチエチレンナフタレート(PEN)、ポリカーボネート(PC)、ポリプロピレン(PP)、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、ポリイミド(PI)等を用いることができる。
【0080】
プラスチック基材は、透明でもよいし、半透明又は不透明でもよい。なお、透明とは、基材の内部を外側から視認できる程度に可視光(波長380~780nmの光)に対する透過性を有していることをいい、可視光の光透過率が40%以上のことであり、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上のことである。光透過率は、JIS K 7375:2008に規定される「プラスチック-全光線透過率および全光線反射率の求め方」を用いて測定される。
【0081】
金属板を形成する材料として、例えば、アルミニウム、銅、ステンレス、タンタル等を用いることができる。
【0082】
基材の厚さは、特に限定されず、一実施形態に係る積層体の用途、基材の材料等に応じて適宜任意の厚さとしてよい。
【0083】
その他の部材としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、接着層等が挙げられる。
【0084】
一実施形態に係る積層体は、一実施形態に係る多層構造体を備えることで、半値幅及び視野角依存性を低くし、特定の色のみを観察角度による発色の変化を抑えながら発色できる。このため、一実施形態に係る積層体は、例えば、モルフォ蝶等のように自然界の生物の色として多く観察される、多層膜干渉による構造色を、どの角度から見ても同じ発色で示し、視野角依存性が低い鮮やかな発色を示すことができる。
【0085】
一実施形態に係る積層体は、例えば、ウェアラブルデバイス及びスマートフォン等の電子デバイス、家電製品、オーディオ製品、コンピュータ、ディスプレイ、車載製品、時計、アクセサリー、光学部品、扉、窓ガラス及び建材等に好適に用いることができる。
【0086】
以上の通り、実施形態を説明したが、上記実施形態は、例として提示したものであり、上記実施形態により本発明が限定されるものではない。上記実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の組み合わせ、省略、置き換え、変更等を行うことが可能である。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると共に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【実施例0087】
以下、実施例及び比較例を示して実施形態を更に具体的に説明するが、実施形態はこれらの実施例及び比較例により限定されるものではない。
【0088】
<構造体の作製>
[実施例1]
ポリ(スチレン-b-イソプレン)の10wt%クメン溶液をバーコート法により黒PET基板上に塗布後大気下において十分に乾燥させ、厚さ20μmの塗膜を作製した。続いて、ポリ(スチレン-b-イソプレン)の10wt%ジエチレングリコールジメチルエーテル溶液を同様にバーコート法により塗布し、ホットプレート上で加熱しながら十分に乾燥させ、合計厚さ30μmの多層構造体を作製した。
【0089】
[実施例2]
ポリ(スチレン-b-tert-ブチルメタクリレート)の10wt%クメン溶液をバーコート法により黒PET基板上に塗布後大気下において十分に乾燥させ、厚さ20μmの塗膜を作製した。続いて、ポリ(スチレン-b-tert-ブチルメタクリレート)の10wt%シクロヘキサノン溶液を同様にバーコート法により塗布後、ホットプレート上で加熱しながら十分に乾燥させ、合計厚さ30μmの多層構造体を作製した。
【0090】
[実施例3]
ポリ(スチレン-b-イソプレン)の10wt%クメン溶液をバーコート法により黒PET基板上に塗布後大気下において十分に乾燥させ、厚さ20μmの塗膜を作製した。続いて、ポリ(スチレン-b-イソプレン)の10wt%ジエチレングリコールジメチルエーテル溶液を同様にバーコート法により塗布し、ホットプレート上で加熱しながら十分に乾燥させ、合計厚さ50μmの多層構造体を作製した。
【0091】
[比較例1]
ポリ(スチレン-b-イソプレン)-(Mn=411kDa)の10wt%クメン溶液をバーコート法により黒PET基板上に塗布後、大気下において十分に乾燥し、厚さ20μmの塗膜(単層構造体)を作製した。
【0092】
[比較例2]
ポリ(スチレン-b-イソプレン)-(Mn=411kDa)の10wt%ジエチレングリコールジメチルエーテル溶液をバーコート法により塗布後、ホットプレート上で加熱しながら十分に乾燥させ、厚さ10μmの塗膜(単層構造体)を作製した。
【0093】
[比較例3]
ポリ(スチレン-b-イソプレン)の10wt%クメン溶液をバーコート法により黒PET基板上に塗布後大気下において十分に乾燥させ、厚さ10μmの塗膜を作製した。続いて、ポリ(スチレン-b-イソプレン)の10wt%ジエチレングリコールジメチルエーテル溶液を同様にバーコート法により塗布後大気下において十分に乾燥させ、合計厚さ20μmの多層構造体を作製した。
【0094】
[比較例4]
ポリ(スチレン-b-イソプレン)-(Mn=411kDa)の10wt%クメン溶液をバーコート法により塗布後、ホットプレート上で加熱しながら十分に乾燥させ、厚さ19μmの多層構造体を作製した。続いて、ポリ(スチレン-b-イソプレン)-(Mn=411kDa)の10wt%ポリエチレングリコールジメチルエーテル溶液を同様にバーコート法により塗布後、ホットプレート上で加熱しながら十分に乾燥させ、合計厚さ42μmの多層構造体を作製した。
【0095】
<評価>
作製した各実施例及び比較例の構造体(多層構造体又は単層構造体)の断面をSEMにより観察し、画像を得た。得られる画像より、構成する層の傾斜角を下記の通り算出した。また、作製した各実施例及び比較例の構造体について、下記の通りに視野角依存性及び半値幅を測定し、評価した。
【0096】
(傾斜角の算出)
樹脂包埋法により構造体(多層構造体又は単層構造体)の断面出しを行い、それぞれ断面内の3か所をSEMにより観察し、観測画像を得た。得られた断面SEM画像に見られる、構造体を構成する層の傾斜角は、画像処理ソフト(Python)を用いて算出した。具体的には、得られた断面SEM画像のコントラストを調整し、2次元FFT処理することによって画像から得られたパターンを全方位5度ずつ扇形に分割して、極座標変換を行った。その結果を方位成分ごとに集計して配向の傾斜角の分布を得た。測定点3点の分布の平均値を算出することにより、断面中の傾斜角を算出した。なお、第二の層の配列の傾きが層内の80%以上とは、全ての方位成分に対して5°以上傾いた成分が層内に80%以上あることを意味する。
【0097】
[視野角依存性]
得られる多層構造体を、株式会社村上色彩技術研究所製の変革分光測色システムGCMS-11を用いて、入射角を、5°、15°、30°、45°とし、受光角を、-75°から75°まで15°刻みで測色し、Lch(明度(L)、彩度(c)及び色相(h))色空間を算出した。各角度における色相(h)の標準偏差ΔHを用いて、下記評価基準に基づいて、視野角依存性を評価した。
(評価基準)
A:ΔH≦10
B:10<ΔH
【0098】
[半値幅]
得られる多層構造体を、JASCO社製の紫外可視赤外分光光度計(自動絶対反射率測定システム)により、入射角90°、検出角0°、偏光子45°、測定範囲300nm~780nm、走査速度1000nm/minの条件で反射率を測定した。得られた反射率スペクトルより、ピーク波長λ_maxと、ピークトップに対する半値幅FWHMを算出し、半値幅FWHMを波長λで割った比率Xとし、下記評価基準に基づいて、評価した。
(評価基準)
A:X≦10
B:10<X≦20
C:X>20
【0099】
作製した各実施例及び比較例の構造体のブロックコポリマーの種類と、第一の層11の厚さX及び角度と、第二の層12の厚さY及び角度と、厚さY/厚さXと、多層構造体の形成の有無と、構造体の評価結果として視野角依存性及び半値幅の評価結果を、表1に示す。
【0100】
【0101】
表1より、各実施例では、視野角依存性及び半値幅は何れも低いことが確認された。これに対して、各比較例では、視野角依存性又は半値幅が高いことが確認された。
【0102】
よって、各実施例の構造積層体は、第一の層を、多層構造体の断面から見て、多層構造体の基準面に対して5.0°未満の角度で配列した多層膜構造で形成し、第二の層を、多層構造体の断面から見て、基準面に対して5.0°以上の角度で少なくとも一方向に傾いて配列した多層膜構造で形成すれば、低い半値幅及び視野角依存性を有することができる。したがって各実施例の多層構造体は、特定の色のみを異なる角度から見ても視認できる発色構造体等として提供できるといえる。
【0103】
なお、本発明の実施形態の態様は、例えば、以下の通りである。
<1> 第一の層と第二の層とを有し、選択反射を示す多層構造体であって、
前記第一の層は、前記多層構造体の断面から見て、前記多層構造体の基準面に対して5.0°未満の角度で配列した多層膜構造を有し、
前記第二の層は、前記多層構造体の断面から見て、前記基準面に対して5.0°以上の角度で少なくとも一方向に傾いて配列した多層膜構造を有する多層構造体。
<2> 前記多層構造体が、可視光を発色する<1>に記載の多層構造体。
<3> 前記第一の層及び前記第二の層が、ラメラ構造を有する<1>又は<2>に記載の多層構造体。
<4> 前記ラメラ構造の厚さが、50nm~400nmである<3>に記載の多層構造体。
<5> 前記第一の層の厚さをX、前記第二の層の厚さをYとした時、下記式(1)を満たす<1>~<4>の何れか一つに記載の多層構造体。
Y/X<1.0・・・(1)
<6> 前記第一の層及び前記第二の層が、それぞれ、少なくとも1種のブロックコポリマーを含む<1>~<5>の何れか一つに記載の多層構造体。
<7> 前記多層構造体の断面から見て、前記基準面に対して5.0°未満の角度で配列した多層膜構造は、前記基準面に平行に配列されている<1>~<6>の何れか一つに記載の多層構造体。
<8> 基材と、
前記基材の上に設けられた<1>~<7>の何れか一つに記載の多層構造体と、
を有する積層体。
<9> 第一の層と第二の層とを有し、選択反射を示す多層構造体の製造方法であって、
基材の上に、前記基材の断面から見て、前記基材に対して5.0°未満の角度で配列した多層膜構造を有する第一の層を形成する工程と、
前記第一の層の上に、前記基材の断面から見て、前記基材に対して5.0°以上の角度で少なくとも一方向に傾いて配列した多層膜構造を有する第二の層を形成する工程と、
を含む多層構造体の製造方法。