(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024143483
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】射出成形機の制御方法及び射出成形品の製造方法
(51)【国際特許分類】
B29C 45/77 20060101AFI20241003BHJP
【FI】
B29C45/77
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023056196
(22)【出願日】2023-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】390006323
【氏名又は名称】ポリプラスチックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100111235
【弁理士】
【氏名又は名称】原 裕子
(74)【代理人】
【識別番号】100170575
【弁理士】
【氏名又は名称】森 太士
(72)【発明者】
【氏名】望月 章弘
【テーマコード(参考)】
4F206
【Fターム(参考)】
4F206AP03
4F206AP05
4F206AP10
4F206AR03
4F206AR06
4F206AR11
4F206JA07
4F206JL02
4F206JM04
4F206JM05
4F206JN11
4F206JN21
4F206JP13
4F206JQ88
4F206JQ90
(57)【要約】
【課題】温度変動が生じた場合であっても、樹脂材料の品質に起因する射出成形品のバラツキを調整可能な射出成形機の制御方法を提供する。
【解決手段】シリンダー内で溶融した樹脂を金型内に射出して射出成形品を成形する射出成形機の制御方法であって、予め、適正品と評価される射出成形品を基準品とし、基準品の1回の射出成形において、金型内のピーク圧と、射出開始時点から金型内の圧力がゼロになる時点までの降圧時間又は射出開始時点から金型内の圧力がゼロになる時点までの圧力積分値とを取得し、製造対象品の射出成形において、金型内のピーク圧が、基準品における金型内のピーク圧となるようにシリンダー温度を調整し、かつ、降圧時間又は圧力積分値が基準品における降圧時間又は圧力積分値となるように金型内の温度を調整する射出成形機の制御方法である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダー内で溶融した樹脂を金型内に射出して射出成形品を成形する射出成形機の制御方法であって、
予め、適正品と評価される射出成形品を基準品とし、前記基準品の1回の射出成形において、前記金型内のピーク圧と、射出開始時点から前記金型内の圧力がゼロになる時点までの降圧時間又は射出開始時点から前記金型内の圧力がゼロになる時点までの圧力積分値とを取得し、
製造対象品の射出成形において、前記金型内のピーク圧が、前記基準品における金型内のピーク圧となるようにシリンダー温度を調整し、かつ、前記降圧時間又は前記圧力積分値が前記基準品における降圧時間又は圧力積分値となるように前記金型内の温度を調整する、射出成形機の制御方法。
【請求項2】
前記製造対象品の射出成形において、前記金型内のピーク圧が、前記基準品における金型内のピーク圧よりも大きい場合、シリンダー温度を低下させ、前記基準品における金型内のピーク圧よりも小さい場合、シリンダー温度を上昇させる、請求項1に記載の射出成形機の制御方法。
【請求項3】
前記製造対象品の射出成形において、前記金型内の降圧時間が、前記基準品における金型内の降圧時間よりも長い場合、金型温度を低下させ、前記基準品における金型内の降圧時間よりも短い場合、金型温度を上昇させる、請求項1又は2に記載の射出成形機の制御方法。
【請求項4】
前記製造対象品の射出成形において、前記金型内の圧力積分値が、前記基準品における金型内の圧力積分値よりも大きい場合、金型温度を低下させ、前記基準品における金型内の圧力積分値よりも小さい場合、金型温度を上昇させる、請求項1又は2に記載の射出成形機の制御方法。
【請求項5】
請求項1又は2に記載の射出成形機の制御方法により射出成形機を制御して射出成形品を製造する、射出成形品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、射出成形機の制御方法及び射出成形品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性樹脂を用いた射出成形において、成形品の寸法や品質を安定させるために保圧や保圧時間を調整するが、樹脂材料の品質により粘度や固化速度等が変動すると、射出成形時の金型内の圧力(型内圧)が変動する。そのため、物性や寸法、外観などのバラツキがある成形品となり、製品の品質に問題が生じる。そのような樹脂材料の品質のバラツキ(粘度、固化速度等)によって生じる型内圧の変化に対する対策として、従来技術として金型内の圧力をフィードバックし、スクリュー前進圧力に反映させる手法が採用されている。すなわち、型内圧センサーから型内ピーク圧を検出し、誤差をスクリュー前進圧力に反映させて補正することより、型内ピーク圧の制御が可能となる。
【0003】
また、特許文献1には、射出保持圧の制御モードを前期工程と後期工程とに分け、前記を金型内圧による圧力制御とし、後期を射出シリンダー内油圧による圧力制御に制御対象を切換えて、しかも圧力制御を継続できる様な機能としてなる射出保持圧制御装置が記載されている。特許文献2には、射出成形用の金型の樹脂の通路、或いはキャビティの近傍に金型の歪みを検出するための歪計と、この金型の歪みを金型内の樹脂圧に変換し、樹脂圧の制御を行う金型内圧制御ユニットとを設け、溶融樹脂のキャビティ内への射出より、冷却され固化される迄の金型の歪みを計測し、予め設定された必要、且つ十分な金型内樹脂圧の範囲内において、金型内圧制御ユニットにより金型内樹脂圧を制御して射出成形を行う射出成形機の型内樹脂圧制御方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭62-261419号公報
【特許文献2】特開平8-112842号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述した従来の型内圧の補正による制御法では、温度変動がないことが前提であり、温度変動が生じた際には射出成形品の品質にバラツキが生じるという問題があった。
【0006】
本発明は、上記従来の問題点に鑑みなされたものであり、その課題は、温度変動が生じた場合であっても、樹脂材料の品質に起因する射出成形品のバラツキを調整可能な射出成形機の制御方法、及び当該射出成形品の制御方法を利用して射出成形品を得る、樹脂成形品の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決する本発明の一態様は以下の通りである。(1)シリンダー内で溶融した樹脂を金型内に射出して射出成形品を成形する射出成形機の制御方法であって、
予め、適正品と評価される射出成形品を基準品とし、前記基準品の1回の射出成形において、前記金型内のピーク圧と、射出開始時点から前記金型内の圧力がゼロになる時点までの降圧時間又は射出開始時点から前記金型内の圧力がゼロになる時点までの圧力積分値とを取得し、
製造対象品の射出成形において、前記金型内のピーク圧が、前記基準品における金型内のピーク圧となるようにシリンダー温度を調整し、かつ、前記降圧時間又は前記圧力積分値が前記基準品における降圧時間又は圧力積分値となるように前記金型内の温度を調整する、射出成形機の制御方法。
【0008】
(2)前記製造対象品の射出成形において、前記金型内のピーク圧が、前記基準品における金型内のピーク圧よりも大きい場合、シリンダー温度を低下させ、前記基準品における金型内のピーク圧よりも小さい場合、シリンダー温度を上昇させる、前記(1)に記載の射出成形機の制御方法。
【0009】
(3)前記製造対象品の射出成形において、前記金型内の降圧時間が、前記基準品における金型内の降圧時間よりも長い場合、金型温度を低下させ、前記基準品における金型内の降圧時間よりも短い場合、金型温度を上昇させる、前記(1)又は(2)に記載の射出成形機の制御方法。
【0010】
(4)前記製造対象品の射出成形において、前記金型内の圧力積分値が、前記基準品における金型内の圧力積分値よりも大きい場合、金型温度を低下させ、前記基準品における金型内の圧力積分値よりも小さい場合、金型温度を上昇させる、前記(1)~(3)のいずれかに記載の射出成形機の制御方法。
【0011】
(5)前記(1)~(4)のいずれかに記載の射出成形機の制御方法により射出成形機を制御して射出成形品を製造する、射出成形品の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、温度変動が生じた場合であっても、樹脂材料の品質に起因する射出成形品のバラツキを調整可能な射出成形機の制御方法、及び当該射出成形品の制御方法を利用して射出成形品を得る、樹脂成形品の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】射出成形時の金型内における、経時時間に対する圧力変化を示す図(マスターカーブ)である。
【
図2】実施例において、射出成形により成形したダンベル試験片の寸法測定位置を示す図である。
【
図3】溶融粘度が異なる2種の樹脂を用い、いずれも同じ条件で射出成形して得られたダンベル試験片の位置a、b、cにおける寸法を示すグラフである。
【
図4】実施例1-1で得られたダンベル試験片の位置a、b、cにおける寸法を示すグラフである。
【
図5】実施例1-2で得られたダンベル試験片の位置a、b、cにおける寸法を示すグラフである。
【
図6】比較例1-1で得られたダンベル試験片の位置a、b、cにおける寸法を示すグラフである。
【
図7】比較例1-2で得られたダンベル試験片の位置a、b、cにおける寸法を示すグラフである。
【
図8】比較例3で得られたダンベル試験片の位置a、b、cにおける寸法を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
<射出成形品の制御方法>
本実施形態の射出成形品の制御方法は、シリンダー内で溶融した樹脂を金型内に射出して射出成形品を成形する射出成形機の制御方法である。そして、予め、適正品と評価される射出成形品を基準品とし、基準品の1回の射出成形において、金型内のピーク圧と、射出開始時点から前記金型内の圧力がゼロになる時点までの降圧時間又は射出開始時点から金型内の圧力がゼロになる時点までの圧力積分値とを取得する。次いで、製造対象品の射出成形において、金型内のピーク圧が、基準品における金型内のピーク圧となるようにシリンダー温度を調整し、かつ、降圧時間又は圧力積分値が基準品における降圧時間又は圧力積分値となるように金型内の温度を調整する。
【0015】
本実施形態の射出成形品の制御方法においては、予め、寸法変化及び外観不良等が少なく、良好であると評価される射出成形品を適正品とし、当該適正品を基準品として定める。そして、基準品を射出成形した場合において、1回の射出成形における金型内のピーク圧と、射出開始時点から金型内の圧力がゼロになる時点までの降圧時間又は射出開始時点から圧力がゼロになる時点までの圧力積分値とを取得する。当該基準品の射出成形における金型内のピーク圧と、降圧時間又は圧力積分値とを、製造対象品の射出成形において設定することで適正品が得られると考えられる。そこで、製造対象品の射出成形において、金型内のピーク圧が、基準品のピーク圧となるようにシリンダー温度を調整し、かつ、降圧時間又は圧力積分値が基準品の降圧時間又は圧力積分値となるように金型温度を調整する。このように射出成形機の制御を行うことで、温度変動が生じた場合であっても、射出成形品の品質のバラツキ、特に寸法変化及び外観不良を抑制することができる。
【0016】
本実施形態の射出成形機の制御方法においては、まず、適正品と評価される射出成形品を基準品として定める。ここで、「適正品」とは、寸法変化及び外観不良等が少ないなど、所望の性質を有する射出成形品を意味する。適正品については、事前に射出成形を単回又は好ましくは複数回行い、最も品質が良好な射出成形品又は所望の品質が得られた成形品として決定することができる。
【0017】
次いで、基準品の1回の射出成形において、金型内のピーク圧と、射出開始時点から金型内の圧力がゼロになる時点までの降圧時間又は射出開始時点から金型内の圧力がゼロになる時点までの圧力積分値とを取得する。これについて、
図1に示すマスターカーブを参照して説明する。
図1は、1回の射出成形において、経時時間に対する金型内の圧力変化を示している。実線が基準品についてのマスターカーブであり、破線が基準品よりも溶融粘度が高い樹脂材料を用いて射出成形した場合のマスターカーブである。また、横軸が経時時間を示し、縦軸が金型内の圧力を示す。
図1に示すように、丸囲みの領域Aにおいて圧力が最大となる。すなわち、当該最大圧力がピーク圧である。その後、圧力が降下して最終的にゼロとなる。「降圧時間」は、射出開始時点から金型内の圧力がゼロになる時点までの時間であり、
図1においては、射出開始時点(0秒)から始まり、約3秒でピーク圧に到達し、約25秒で圧力がゼロになっているため、降圧時間は約25秒となる。
一方、「圧力積分値」は、射出開始時点から金型内の圧力がゼロになる時点までの圧力の時間積分値であり、
図1においては、マスターカーブと横軸(圧力=0MPaの直線)とで囲まれた領域の面積となる。
なお、降圧時間及び圧力積分値における「射出開始時点」とは、射出成形機において、金型内に樹脂材料の射出が開始される時点である。
以上のように、本実施形態においては、予め、基準品について金型内のピーク圧と、降圧時間又は圧力積分値とを取得する。
【0018】
製造対象品の射出成形は、上記のように取得した基準品の金型内のピーク圧と、降圧時間又は圧力積分値とを利用して行う。具体的には、金型内のピーク圧が、基準品における金型内のピーク圧となるようにシリンダー温度を調整し、かつ、降圧時間又は圧力積分値が基準品における降圧時間又は圧力積分値となるように金型内の温度を調整する。すなわち、樹脂材料のバラツキに起因する金型内の圧力の変化を、シリンダー温度及び金型内の温度により、基準品と同等になるように補正をする。より詳細には、(1)樹脂材料の溶融粘度変動に起因する金型内のピーク圧の変動はシリンダー温度により補正し、(2)樹脂材料の固化速度変動に起因する金型内の降圧時間又は圧力積分値の変動は金型温度により補正する。以下、当該(1)及び(2)について説明する。
【0019】
(1)樹脂材料の溶融粘度変動に起因する金型内のピーク圧の変動
金型内の圧力が変化する要因としては、樹脂材料の品質バラツキや外乱(金型内の温度、シリンダー温度など)が考えられる。そして、樹脂材料の特性の1つである「溶融粘度」については「シリンダー温度」により補正する。すなわち、金型内のピーク圧が、適正な品質である基準品と同じピーク圧となるように射出成形機のセンサーより得られた圧力値をフィードバックし、シリンダー温度を調整する。
例えば、製造対象品の射出成形における金型内のピーク圧が、基準品における金型内のピーク圧よりも大きい場合、シリンダー温度を低下させる。逆に、基準品における金型内のピーク圧よりも小さい場合、シリンダー温度を上昇させる。そして、シリンダー温度の調整は、後記の実施例に記載の温度調整、PID制御等により行うことができる。
【0020】
(2)樹脂材料の固化速度変動に起因する金型内の降圧時間又は圧力積分値の変動
上記の通り、金型内の圧力が変化する要因としては、樹脂材料の品質バラツキや外乱が考えられ、樹脂材料の特性の1つである「固化速度」については「金型温度」により補正する。すなわち、金型内の降圧時間又は圧力積分値が、適正な品質である基準品と同じ降圧時間又は圧力積分値となるよう金型温度を調整する。
例えば、製造対象品の射出成形における金型内の降圧時間が、基準品における金型内の降圧時間よりも長い場合、金型温度を低下させる。逆に、基準品における金型内の降圧時間よりも短い場合、金型温度を上昇させる。
同様に、製造対象品の射出成形における金型内の圧力積分値が、基準品における金型内の圧力積分値よりも大きい場合、金型温度を低下させる。逆に、基準品における金型内の圧力積分値よりも小さい場合、金型温度を上昇させる。そして、金型温度の調整は、後記の実施例に記載の温度調整、PID制御等により行うことができる。
【0021】
製造対象品の射出成形において、金型内のピーク圧と、降圧時間又は圧力積分値とを、基準品の数値となるように設定するタイミングは、任意のショット毎に行うことができる。例えば、5ショット毎の数値で設定したり、10ショット毎の数値で設定したりすることができる。
【0022】
以上の金型温度及びシリンダー温度の調整は、射出成形機内では以下のように制御される。まず、金型内に設置した圧力センサーが検出した出力値(ピーク圧及び降下時間又は圧力積分値)と、予め取得した基準品の基準値(ピーク圧及び降下時間又は圧力積分値)との偏差を求める。次に、実測した出力値(ピーク圧及び降下時間又は圧力積分値)と、基準品のマスターカーブの基準値(目標値)との偏差が小さくなるように、金型温度及びシリンダー温度を調整する。
また、以上の制御は、射出成形機の外部に設けられるPLC(プログラマブル・ロジック・コントローラ)によるシーケンス制御により実行することができる。すなわち、PLCから射出成形機へ信号を送ることでシリンダー温度及び金型温度による補正を行う。PLCから射出成形機への信号送信において、例えば、実測した出力値のピーク圧と、基準値との差異に基づき、シリンダー温度及び金型温度を調整するプログラムにより実行することができる。
【0023】
本実施形態の射出成形機の制御方法において、射出成形に使用する樹脂材料としては、熱可塑性樹脂であれば特に限定はなく、種々のものを使用することができる。
【0024】
<射出成形品の製造方法>
本実施形態の射出成形品の製造方法は、以上の射出成形機の制御方法により射出成形機を制御して射出成形品を製造する。従って、温度変動が生じた場合であっても、樹脂材料の品質に起因する射出成形品のバラツキを調整可能であり、品質のバラツキが少ない射出成形品を製造することができる。
【実施例0025】
以下に、実施例により本実施形態をさらに具体的に説明するが、本実施形態は以下の実施例に限定されるものではない。
【0026】
《射出成形品の作製》
溶融粘度が異なる下記樹脂材料1、2を用い、いずれも以下の成形条件にて射出成形し、ダンベル試験片(試験片タイプ:1A)を得た。
樹脂材料1:ポリプラスチックス(株)製、ポリアセタール樹脂(ジュラコン(登録商標)(基準品(MI=9g/10分))
樹脂材料2:ポリプラスチックス(株)製、ポリアセタール樹脂(ジュラコン(登録商標)(高流動品(MI=14g/10分))
(成形条件)
シリンダー温度:200℃
金型温度:80℃
射出速度:17mm/sec
保圧力:80MPa
射出保圧時間:30sec
冷却時間:10sec
サンプリング周期:1/1000sec
なお、射出成形時において、圧力センサー(双葉電子工業(株)製、圧力センサーSSE(φ3))を用い、金型内の圧力をモニタリングした。
【0027】
射出成形時における、金型とダンベル試験片の状態を
図2に示す。
図2に示すように、溶融樹脂はゲート12から金型10内部に流入し、他端部に到達してダンベル試験片14の形状に成形される。金型10内部において、位置a、b及びcのいずれの幅も10mmであり、位置a、b及びcのピッチは30mmである。
【0028】
樹脂材料1を用いて成形したダンベル試験片(以下、「基準品」と呼ぶ。)及び樹脂材料2を用いて成形したダンベル試験片(以下、「高流動品」と呼ぶ。)の位置a、b及びcにおける幅を測定した。測定結果を
図3に示す。
図3において、破線が基準品についての測定結果であり、実線が高流動品についての測定結果である(
図4~8においても同様である。)。
【0029】
一方、基準品については、射出成形時の圧力変化について、
図1と同様のマスターカーブを作成し、金型内のピーク圧、及び射出開始時点から金型内の圧力がゼロになる時点までの圧力積分値を求めた。
【0030】
図3に示すように、基準品と高流動品とで、位置a、b及びcにおける幅に乖離が生じている。これは、基準品に比べて高流動品は溶融粘度が低いため圧力が大きくなり、そのため寸法が大きくなると考えられる。
以上の通り、溶融粘度が異なる2種の樹脂を用い、同じように射出成形すると幅の寸法に乖離が生じる。そこで、そのような寸法の乖離を低減するべく、以下の実施例においては、射出成形機を制御して射出成形を行った。具体的には、高流動品を基準品の寸法に近づけるべく射出成形機を制御した。すなわち、基準品を適正品と評価し、基準品の1回の射出成形における金型内のピーク圧と、射出開始時点から圧力がゼロになる時点までの圧力積分値を取得して、それらの数値に基づき制御し、高流動品を基準品に近づけるようにした。
【0031】
[実施例1-1]
上記《射出成形品の作製》と同様にしてダンベル試験片を得た。ただし、高流動品の射出成形においては、基準品の射出成形時における金型内のピーク圧となるようにシリンダー温度を調整した。併せて、基準品の射出成形時における射出開始時点から圧力がゼロになる時点までの圧力積分値となるように金型温度を調整した。そして、基準品及び高流動品それぞれのダンベル試験片の位置a、b及びcにおける幅を測定した。測定結果を
図4に示す。
図4に示すように、基準品及び高流動品それぞれにおいて、ダンベル試験片の位置a、b及びcにおける幅の乖離が抑えられたことが分かる。
【0032】
[実施例1-2]
基準品及び高流動品のいずれも、金型の温度を5℃高い温度に設定したこと以外は、実施例1-1と同様にして、基準品及び高流動品それぞれのダンベル試験片を得た。そして、基準品及び高流動品それぞれのダンベル試験片の位置a、b及びcにおける幅を測定した。測定結果を
図5に示す。
図5に示すように、基準品及び高流動品それぞれにおいて、ダンベル試験片の位置a、b及びcにおける幅の乖離が抑えられている。すなわち、温度変動が生じても、基準品及び高流動品それぞれにおいて、ダンベル試験片の位置a、b及びcにおける幅の乖離が抑えられたことが分かる。なお、実施例1-1及び実施例1-2において、射出成形した成形品の外観は、基準品と高流動品のいずれも同等の外観が得られることが確認できた。
【0033】
[比較例1-1]
上記《射出成形品の作製》と同様にしてダンベル試験片を得た。ただし、高流動品の射出成形においては、基準品の射出成形時における金型内のピーク圧となるように調整した。そして、基準品及び高流動品それぞれのダンベル試験片の位置a、b及びcにおける幅を測定した。測定結果を
図6に示す。
図6に示すように、基準品及び高流動品それぞれにおいて、ダンベル試験片の位置a、b及びcにおける幅の乖離が抑えられている。
【0034】
[比較例1-2]
基準品及び高流動品のいずれも、金型の温度を5℃高い温度に設定したこと以外は、比較例1-1と同様にして、基準品及び高流動品それぞれのダンベル試験片を得た。そして、基準品及び高流動品それぞれのダンベル試験片の位置a、b及びcにおける幅を測定した。測定結果を
図7に示す。
図7に示すように、基準品と高流動品とで、位置a、b及びcにおける幅に乖離が生じている。すなわち、比較例1-1においてはダンベル試験片の幅の寸法の乖離が抑えられたのに対し、比較例1-2においては、金型の温度が上昇したことで、幅の寸法の乖離が抑えられなくなった。すなわち、金型に温度変動が生じた場合、金型内のピーク圧の調整のみでは成形品の品質にバラツキが生じることとなる。
【0035】
[比較例3]
高流動品に対し、基準品の射出成形時における射出開始時点から圧力がゼロになる時点までの圧力積分値となるように金型温度の調整を行わなかったこと以外は、実施例1-2と同様にして、基準品及び高流動品それぞれのダンベル試験片を得た。すなわち、高流動品の射出成形時において、温度制御はシリンダー温度のみ行った。そして、基準品及び高流動品それぞれのダンベル試験片の位置a、b及びcにおける幅を測定した。測定結果を
図8に示す。
図8に示すように、基準品と高流動品とで、位置a、b及びcにおける幅に乖離が生じている。この結果から、温度制御は、金型及びシリンダーの双方に対して行う必要があることが分かる。
【0036】
(1)寸法変化
各実施例・比較例において射出成形したダンベル試験片について、位置a~cにおける寸法を測定し、基準品との差の最大値が0.005mm以下の場合を良好、0.005mm超の場合を不良として評価した。評価結果を表1に示す。
【0037】
【0038】
表1より、実施例1-1~1-2においては、いずれの評価結果も良好であり、金型に温度変化が生じた場合であっても、樹脂材料の品質に起因する射出成形品のバラツキを調整できたことが分かる。これに対して、比較例1-1~1-2においては、温度変化がない場合は良好な評価結果が得られたが、温度変化が生じた場合には不良となった。
一方、金型温度の調整を行わなかった比較例3においては、良好な評価結果が得られなかったことから、樹脂材料の品質に起因する射出成形品のバラツキを調整するには、金型温度及びシリンダー温度の双方を調整する必要があることが分かる。
本発明は、上記従来の問題点に鑑みなされたものであり、その課題は、温度変動が生じた場合であっても、樹脂材料の品質に起因する射出成形品のバラツキを調整可能な射出成形機の制御方法、及び当該射出成形機の制御方法を利用して射出成形品を得る、樹脂成形品の製造方法を提供することにある。