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特開2024-143519粘着フィルム、及び該粘着フィルムを用いる半導体装置の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024143519
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】粘着フィルム、及び該粘着フィルムを用いる半導体装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C09J 7/38 20180101AFI20241003BHJP
   C09J 133/00 20060101ALI20241003BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20241003BHJP
   B32B 27/30 20060101ALI20241003BHJP
   B32B 7/022 20190101ALI20241003BHJP
   H01L 21/301 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
C09J7/38
C09J133/00
B32B27/00 M
B32B27/30 A
B32B27/30 D
B32B7/022
H01L21/78 M
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023056244
(22)【出願日】2023-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100179969
【弁理士】
【氏名又は名称】駒井 慎二
(74)【代理人】
【識別番号】100176692
【弁理士】
【氏名又は名称】岡崎 ▲廣▼志
(72)【発明者】
【氏名】藤岡 蔵
【テーマコード(参考)】
4F100
4J004
4J040
5F063
【Fターム(参考)】
4F100AK18A
4F100AK25A
4F100AK25B
4F100AK41A
4F100AK49A
4F100AR00C
4F100BA02
4F100BA03
4F100BA07
4F100BA10A
4F100BA10B
4F100CA02B
4F100CB05B
4F100EJ05B
4F100EJ64A
4F100EJ65C
4F100GB41
4F100JK07A
4F100JL13B
4F100YY00A
4J004AA10
4J004AB01
4J004CA05
4J004CE01
4J004FA08
4J040DF021
4J040JB09
4J040KA16
4J040NA20
5F063AA16
5F063AA18
5F063AA33
5F063DD59
5F063DD85
5F063EE02
5F063EE04
5F063EE07
5F063EE22
5F063EE27
5F063EE43
5F063EE44
5F063FF33
(57)【要約】
【課題】極性溶媒への耐性を有し、粘着性、及び基材層と粘着剤層との密着性に優れる粘着フィルムを提供する。
【解決手段】50℃における貯蔵弾性率が400~800MPaでありかつ50℃から100℃の温度領域における貯蔵弾性率の減少率が20~75%の範囲であるテトラフルオロエチレン系ポリマーを含む基材層と、(メタ)アクリレート系ポリマーを含む粘着剤層とをこの順に備え、前記温度領域における、極性溶媒に対する膨潤量が1質量%未満である、粘着フィルム。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
50℃における貯蔵弾性率が400~800MPaでありかつ50℃から100℃の温度領域における貯蔵弾性率の減少率が20~75%の範囲であるテトラフルオロエチレン系ポリマーを含む基材層と、(メタ)アクリレート系ポリマーを含む粘着剤層とをこの順に備え、前記温度領域における、極性溶媒に対する膨潤量が1質量%未満である、粘着フィルム。
【請求項2】
前記テトラフルオロエチレン系ポリマーが、融点が180~320℃である熱溶融性のテトラフルオロエチレン系ポリマーである、請求項1に記載の粘着フィルム。
【請求項3】
前記基材層が、前記テトラフルオロエチレン系ポリマーのフィルムからなる、請求項1に記載の粘着フィルム。
【請求項4】
前記基材層が、前記テトラフルオロエチレン系ポリマーの平均粒子径が10μm未満の粒子の溶融焼結体である、請求項1に記載の粘着フィルム。
【請求項5】
前記基材層が、さらに(メタ)アクリレート系ポリマー、ポリイミド系ポリマー又はポリエステル系ポリマーを含有する、請求項1に記載の粘着フィルム。
【請求項6】
前記(メタ)アクリレート系ポリマーが、アルキル(メタ)アクリレートに基づく単位を50質量%以上含有し、前記アルキル(メタ)アクレート100質量部中、アルキル基の炭素数が8~12のアルキル(メタ)アクリレートが95質量部以上を占める、請求項1に記載の粘着フィルム。
【請求項7】
さらに、前記アルキル(メタ)アクリレート100質量部中、イソオクチル(メタ)アクリレート又はラウリル(メタ)アクリレートが50質量部超を占める、請求項1に記載の粘着フィルム。
【請求項8】
前記粘着剤層が、さらに架橋剤を含有する、請求項1に記載の粘着フィルム。
【請求項9】
前記粘着剤層の、シリコンミラーウエハを被着体とした粘着力が、前記基材層に対する粘着力よりも低い、請求項1に記載の粘着フィルム。
【請求項10】
前記基材層の一方の表面が表面処理され、該表面処理された面上に前記粘着剤層が形成されている、請求項1に記載の粘着フィルム。
【請求項11】
前記基材層と前記粘着剤層との間にプライマー層を有する、請求項1に記載の粘着フィルム。
【請求項12】
前記極性溶媒が、酢酸エチル、アセトン、メチルエチルケトン又はN-メチルピロリドンである、請求項1に記載の粘着フィルム。
【請求項13】
電子部品加工用粘着シートである、請求項1~12のいずれか1項に記載の粘着フィルム。
【請求項14】
請求項1~13のいずれか1項に記載の粘着フィルム上に半導体ウエハ又は半導体チップを保持した状態で、前記粘着フィルムと前記半導体ウエハ又は前記半導体チップとの積層物を極性溶媒に接触させる工程を含む、半導体装置の製造方法。
【請求項15】
前記極性溶媒が酢酸エチル、アセトン、メチルエチルケトン又はN-メチルピロリドンであり、前記工程が前記半導体ウエハ又は前記半導体チップの洗浄工程である、請求項14に記載の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は粘着フィルム、及び該粘着フィルムを用いる半導体装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体ウエハ又は半導体チップの加工工程において、半導体ウエハを固定するダイシングシートや、半導体チップをピックアップする際のピックアップシートとして、テトラフルオロエチレン系ポリマー等の各種樹脂のフィルム基材上に粘着層を備えた粘着フィルムが用いられている。
また、特許文献1には、半導体素子、回路基板、微小電気機械システム(MEMS)等の各製造工程(ハンダリフロー、ダイシング、ボンディング、実装)における中間製造物の保護カバー部材を配置するため、突き上げによって半導体素子をピックアップする装置を応用した装置に供給する、テトラフルオロエチレン系ポリマーからなる保護膜と粘着剤層からなる保護カバー部材及び基材シートを備える部材供給シートが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2021/141124号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ダイシングシート上に固定された半導体ウエハや、ピックアップシート上に転写された半導体チップは、製造工程において、例えば極性溶媒に浸漬したり、極性溶媒の蒸気を噴霧する等の手段により洗浄される。
かかる洗浄に際して、半導体ウエハ又は半導体チップのみならず、ダイシングシート又はピックアップシートである粘着フィルムにも極性溶媒が接触する。基材としてのテトラフルオロエチレン系ポリマーのフィルムは耐溶剤性に優れるが、極性溶媒により粘着剤層が膨潤したり、粘着剤層と基材層間の界面もしくは粘着剤層と被着体間の界面に極性溶媒が浸入することにより、粘着剤層の凝集破壊が生じ、または界面破壊が発生し、被着体が粘着フィルムから脱落する場合がある。
また、粘着フィルムを半導体ウエハ又は半導体チップから剥離する際の剥離角度や剥離速度が制限され、半導体製造工程における生産性に影響が生じる場合がある。
【0005】
本発明者らは、特定の貯蔵弾性率を備えるテトラフルオロエチレン系ポリマーを含むポリマー層を基材層として、また好適には特定の(メタ)アクリレート系ポリマーを含む粘着剤層とを有する粘着フィルムは、テトラフルオロエチレン系ポリマーに基づく耐熱性、電気絶縁性等の物性に優れ、有機溶媒、特に極性溶媒への耐性に優れ、粘着性及び基材層と粘着剤層との密着性に優れることを知見した。また、かかる粘着フィルムは半導体装置の製造方法に有効に適用できることを見出し、本発明に至った。
本発明の目的は、極性溶媒への耐性を有し、粘着性、及び基材層と粘着剤層との密着性に優れる粘着フィルムの提供である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、下記の態様を有する。
[1] 50℃における貯蔵弾性率が400~800MPaでありかつ50℃から100℃の温度領域における貯蔵弾性率の減少率が20~75%の範囲であるテトラフルオロエチレン系ポリマーを含む基材層と、(メタ)アクリレート系ポリマーを含む粘着剤層とをこの順に備え、前記温度領域における、極性溶媒に対する膨潤量が1質量%未満である、粘着フィルム。
[2] 前記テトラフルオロエチレン系ポリマーが、融点が180~320℃である熱溶融性のテトラフルオロエチレン系ポリマーである、[1]の粘着フィルム。
[3] 前記基材層が、前記テトラフルオロエチレン系ポリマーのフィルムからなる、[1]又は[2]の粘着フィルム。
[4] 前記基材層が、前記テトラフルオロエチレン系ポリマーの平均粒子径が10μm未満の粒子の溶融焼結体である、[1]~[3]のいずれかの粘着フィルム。
[5] 前記基材層が、さらに(メタ)アクリレート系ポリマー、ポリイミド系ポリマー又はポリエステル系ポリマーを含有する、[1]~[4]のいずれかの粘着フィルム。
[6] 前記(メタ)アクリレート系ポリマーが、アルキル(メタ)アクリレートに基づく単位を50質量%以上含有し、前記アルキル(メタ)アクレート100質量部中、アルキル基の炭素数が8~12のアルキル(メタ)アクリレートが95質量部以上を占める、[1]~[5]のいずれかの粘着フィルム。
[7] さらに、前記アルキル(メタ)アクリレート100質量部中、イソオクチル(メタ)アクリレート又はラウリル(メタ)アクリレートが50質量部超を占める、[1]~[6]のいずれかの粘着フィルム。
[8] 前記粘着剤層が、さらに架橋剤を含有する、[1]~[7]のいずれかの粘着フィルム。
[9] 前記粘着剤層の、シリコンミラーウエハを被着体とした粘着力が、前記基材層に対する粘着力よりも低い、[1]~[8]のいずれかの粘着フィルム。
[10] 前記基材層の一方の表面が表面処理され、該表面処理された面上に前記粘着剤層が形成されている、[1]~[9]のいずれかの粘着フィルム。
[11] 前記基材層と前記粘着剤層との間にプライマー層を有する、[1]~[10]のいずれかの粘着フィルム。
[12] 前記極性溶媒が、酢酸エチル、アセトン、メチルエチルケトン又はN-メチルピロリドンである、[1]~[11]のいずれかの粘着フィルム。
[13] 電子部品加工用粘着シートである、[1]~[12]のいずれかの粘着フィルム。
[14] [1]~[13]のいずれかの粘着フィルム上に半導体ウエハ又は半導体チップを保持した状態で、前記粘着フィルムと前記半導体ウエハ又は前記半導体チップとの積層物を極性溶媒に接触させる工程を含む、半導体装置の製造方法。
[15] 前記極性溶媒が酢酸エチル、アセトン、メチルエチルケトン又はN-メチルピロリドンであり、前記工程が前記半導体ウエハ又は前記半導体チップの洗浄工程である、[14]の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、極性溶媒への耐性を有し、粘着性、及び基材層と粘着剤層との密着性に優れる粘着フィルムを提供できる。かかる粘着フィルムは、電子部品加工用粘着シートとして、半導体装置の製造方法に有効に使用できる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下の用語は、以下の意味を有する。
テトラフルオロエチレン系ポリマーの「50℃から100℃の温度領域における貯蔵弾性率の減少率」は、動的粘弾性測定装置(アイティー計測制御社製「DVA-200」)を用い、テトラフルオロエチレン系ポリマーの層又はフィルムの試料(5mm×3cm×厚さ100μm)を、標線間長2cmで試料変形モードを引張として、50℃から100℃の間で2℃/分で昇温しながら1Hzにて貯蔵弾性率を求めた際の、100℃における貯蔵弾性率を50℃における貯蔵弾性率で除した値のパーセンテージ値として求められる値である。
粘着フィルムの膨潤量は、粘着フィルムの複数枚を積層した厚さ1mm、1cm四方のフィルムの質量(質量A)と、それを85℃/85%RH環境下に静置しておいた極性溶媒に1時間浸漬させてから乾燥して得られるフィルムの質量(質量B)とから、以下の式を用いて算出される値である。
膨潤量[%]=(質量B-質量A)/質量A × 100
「平均粒子径(D50)」は、レーザー回折・散乱法によって求められる、粒子の体積基準累積50%径である。すなわち、レーザー回折・散乱法によって粒度分布を測定し、粒子の集団の全体積を100%として累積カーブを求め、その累積カーブ上で累積体積が50%となる点の粒子径である。
粒子のD50は、粒子を水中に分散させ、レーザー回折・散乱式の粒度分布測定装置(堀場製作所社製、LA-920測定器)を用いたレーザー回折・散乱法により分析して求められる。
「融点」は、示差走査熱量測定(DSC)法で測定したポリマーの融解ピークの最大値に対応する温度である。
「ガラス転移点(Tg)」は、動的粘弾性測定(DMA)法でポリマーを分析して測定される値である。
「粘度」は、B型粘度計を用いて、25℃で回転数が30rpmの条件下で液状組成物を測定して求められる。測定を3回繰り返し、3回分の測定値の平均値とする。
ポリマーにおける「単位」とは、モノマーの重合により形成された前記モノマーに基づく原子団を意味する。単位は、重合反応によって直接形成された単位であってもよく、ポリマーを処理することによって前記単位の一部が別の構造に変換された単位であってもよい。以下、モノマーaに基づく単位を、単に「モノマーa単位」とも記す。
【0009】
本発明の粘着フィルム(以下、「本粘着フィルム」とも記す。)は、50℃における貯蔵弾性率が400~800MPaでありかつ50℃から100℃の温度領域における貯蔵弾性率の減少率が20~75%の範囲であるテトラフルオロエチレン系ポリマー(以下、「Fポリマー」とも記す。)を含む基材層と、(メタ)アクリレート系ポリマーを含む粘着剤層とをこの順に備え、前記温度領域における、極性溶媒に対する膨潤量が1質量%未満である。
本粘着フィルムは極性溶媒に対する耐性に優れ、粘着性、及び基材層と粘着剤層との密着性にも優れる。かかる理由は必ずしも明確ではないが、以下の様に考えられる。
【0010】
本粘着フィルムを構成する基材層は、50℃以下でのいわゆる常温領域においては一定の剛性を有する反面、本粘着フィルムが使用される、例えば半導体製造工程において極性溶媒と接触させる際の50~100℃の温度領域では、基材層が含有するFポリマーの貯蔵弾性率が所定の減少率であることで基材層の柔軟性が増すことで、粘着剤層との剥離を抑制する作用を奏していると考えられる。また、好適にはアルキル(メタ)アクリレートの含有量が所定範囲である、後述する特定の(メタ)アクリレート系ポリマーを主剤とする粘着剤層は、極性溶媒に対する濡れ性が低くなるため、Fポリマーに基づく耐溶剤性を有する基材層と共に、極性溶媒による粘着フィルムの膨潤が抑制され、極性溶媒に対する耐性を協奏的に向上させているとも考えられる。
その結果、本粘着フィルムは、極性溶媒に接触しても、粘着剤層の膨潤や溶解、さらには基材層との剥離が抑制され、粘着力が維持される。したがって、本粘着フィルムを電子部品加工用粘着シートとして半導体装置の製造方法に適用すると、半導体製造の洗浄工程における半導体ウエハ又は半導体チップ(被着体)の脱落や破損を防止でき、その生産効率の向上に寄与できる。
【0011】
本粘着フィルムにおける粘着剤層が含有する(メタ)アクリレート系ポリマーは、アルキル(メタ)アクリレートに基づく単位を50質量%以上含有し、前記アルキル(メタ)アクレート100質量部中、アルキル基の炭素数が8~12のアルキル(メタ)アクリレートが95質量部以上を占めるのが好ましい。
アルキル(メタ)アクリレートに基づく単位の含有量は65質量%以上が好ましく、75質量%以上がより好ましい。アルキル(メタ)アクリレートに基づく単位の含有量は90質量%以下が好ましい。
また、アルキル(メタ)アクレート100質量部中の、アルキル基の炭素数が8~12のアルキル(メタ)アクリレートは97質量部以上がより好ましい。
【0012】
アルキル基の炭素数が8~12のアルキル(メタ)アクリレートとしては、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ウンデシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらのアルキル(メタ)アクリレートに基づく単位の含有量が前記した範囲内であると、粘着剤層の極性溶媒への耐性、及び粘着性の双方に優れやすい。
さらに、より長鎖なアルキル基が高密度で粘着剤層に存在し、極性溶媒への耐性を向上させやすい観点から、アルキル(メタ)アクリレート100質量部中、イソオクチル(メタ)アクリレートまたはラウリル(メタ)アクリレートが50質量部超を占めることが好ましく、65質量部以上であることがより好ましく、80質量部以上であることがさらに好ましい。
上記以外のアルキル(メタ)アクリレートとしては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0013】
(メタ)アクリレート系ポリマーは、アルキル(メタ)アクリレート以外の他の重合性モノマーに基づく単位をさらに含有していてもよい。
他の重合性モノマーとしては、酢酸ビニル等のビニルエステル;エチレン、プロピレン、ブテン等のα-オレフィン;スチレン等の不飽和芳香族炭化水素;ジアルキル(メタ)アクリルアミド;重合性の二重結合と、ヒドロキシル基、カルボキシル基、アミノ基、置換アミノ基、エポキシ基等の官能基を分子内に有する官能基含有モノマーが挙げられる。中でも、官能基含有モノマーが好ましく、ヒドロキシル基又はカルボキシル基を分子内に含有する官能基含有モノマーがより好ましい。
このような官能基含有モノマーとしては、2-ヒドロキシメチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等のヒドロキシル基含有(メタ)アクリレート;アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸等のカルボキシル基含有モノマーが挙げられる。これらは1種類を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
(メタ)アクリレート系ポリマーは、官能基含有モノマーに基づく単位を、15~50質量%、好ましくは15~35質量%の割合で含むことが好ましい。
(メタ)アクリレート系ポリマーの製造方法は特に限定されず、溶液重合法、乳化重合法等の公知の方法を適用できる。
【0014】
また、上述した(メタ)アクリレート系ポリマー中の官能基含有モノマーに基づく単位が有する官能基と、該官能基と反応する置換基及び(メタ)アクリロイル基等の活性エネルギー線重合性基を有する重合性基含有化合物を反応させると、(メタ)アクリレートポリマーの側鎖に活性エネルギー線重合性基を導入でき、紫外線や電子線等の活性エネルギー線により硬化し得る活性エネルギー線硬化性の重合体が得られる。かかる活性エネルギー線硬化性の重合体を含有する粘着剤層の場合、活性エネルギー線の照射により粘着剤層を硬化させることで、その粘着性を用途に応じて制御できる。
重合性基含有化合物が有する置換基としては、イソシアネート基、エポキシ基等が好ましい。重合性基含有化合物としては、(メタ)アクリロイルオキシエチルイソシアネート、3-イソプロペニル-α,α-ジメチルベンジルイソシアネート、(メタ)アクリロイルイソシアネート、アリルイソシアネート、グリシジル(メタ)アクリレート;(メタ)アクリル酸;ジイソシアネート化合物又はポリイソシアネート化合物と、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートとの反応により得られる(メタ)アクリロイルモノイソシアネート化合物;ジイソシアネート化合物又はポリイソシアネート化合物と、ポリオール化合物と、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートとの反応により得られるアクリロイルモノイソシアネート化合物等が挙げられる。
【0015】
(メタ)アクリレート系ポリマーを重合性基含有化合物と反応させる場合、その量は、(メタ)アクリレート系ポリマーが有する官能基含有モノマーの含有量に対して50~100モル%の範囲が好ましく、65~95モル%の範囲がより好ましい。(メタ)アクリレート系ポリマー中の官能基の一部を未反応の状態で残すと、後述する架橋剤により架橋構造を形成できるため、粘着剤層の粘着性を制御できる。
活性エネルギー線硬化性の重合体の重量平均分子量は、10万以上150万以下が好ましい。
なお、本明細書中において「(メタ)アクリレート」はアクリレート、メタクリレート及びそれらの双方を総称する用語である。「(メタ)アクリロイル」は、アクリロイル、メタクリロイル及びそれらの双方を総称する用語である。
【0016】
本粘着フィルムにおける粘着剤層は、架橋剤をさらに含有していてもよい。粘着剤層が架橋剤の作用により架橋構造を有する場合、本粘着フィルムの粘着性が過度に低下せず、極性溶媒への粘着剤層の耐性が維持されやすい。
架橋剤としては、イソシアネート系架橋剤、エポキシ系架橋剤、イミン系架橋剤等が挙げられる。中でも、イソシアネート系架橋剤が好ましい。
架橋剤をさらに含有する場合、その量は、本粘着フィルムの粘着剤層の極性溶媒への耐性及び粘着性を確保する観点から、(メタ)アクリレート系ポリマー100質量部に対して0.8質量部以下であるのが好ましく、0.005~0.3質量部の範囲がより好ましい。
【0017】
(メタ)アクリレート系ポリマー又は活性エネルギー線硬化性の重合体は、それ自体が粘着性を有する。粘着剤層は、(メタ)アクリレート系ポリマー又は活性エネルギー線硬化性の重合体と、必要に応じ光重合開始剤等を含有する粘着剤組成物より形成されるのが好ましい。ここで、粘着剤組成物は、粘着剤層が極性溶媒に対する耐性を維持できる範囲で、他の重合体、活性エネルギー線重合性化合物、染料、顔料、劣化防止剤、帯電防止剤、難燃剤、シリコーン化合物、連鎖移動剤等を含有していてもよい。
【0018】
光重合開始剤としては、ベンゾイン化合物、アセトフェノン化合物、アシルホスフィンオキシド化合物、チタノセン化合物、チオキサントン化合物、パーオキシド化合物等が挙げられる。光重合開始剤を含有させる場合、その量は、活性エネルギー線硬化性の重合体100質量部に対し、0.1~10質量部が好ましい。
【0019】
本粘着フィルムの基材層を構成するFポリマーは、融点が180℃以上である、テトラフルオロエチレン(以下、「TFE」とも記す。)に基づく単位(以下、「TFE単位」とも記す。)を含むポリマーである。Fポリマーの融点は、260以上がより好ましく、280℃以上がさらに好ましい。Fポリマーの融点は、320℃以下が好ましい。この場合、本粘着フィルムの基材層が耐熱性に優れやすい。
Fポリマーのガラス転移点は、50℃以上が好ましく、75℃以上がより好ましい。Fポリマーのガラス転移点は、150℃以下が好ましく、125℃以下がより好ましい。
Fポリマーのフッ素含有量は、60質量%以上が好ましく、70質量%以上がより好ましい。Fポリマーのフッ素含有量は、76質量%以下が好ましい。
【0020】
Fポリマーの50℃における貯蔵弾性率は、400~800MPaである。かかる貯蔵弾性率は、450MPa以上であるのがより好ましい。また、かかる貯蔵弾性率は、700MPa以下であるのがより好ましい。
さらに、Fポリマーの50℃における貯蔵弾性率が前記範囲であると共に、50℃から100℃の温度領域における貯蔵弾性率の減少率は20~75%の範囲である。かかる減少率は40%以上がより好ましい。また、かかる減少率は65%以下がより好ましい。
Fポリマーの貯蔵弾性率が前記範囲を満たすと、上述した作用機構がより発現されやすく、本粘着フィルムの基材層の粘着剤層との密着性及び極性溶媒への耐性が向上する。
【0021】
Fポリマーは、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、TFE単位とエチレンに基づく単位とを含むポリマー(ETFE)、TFE単位とプロピレンに基づく単位とを含むポリマー、TFE単位とペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)(PAVE)に基づく単位(PAVE単位)とを含むポリマー(PFA)、TFE単位とヘキサフルオロプロピレンに基づく単位とを含むポリマー(FEP)が好ましい。これらのポリマーは、さらに他のコモノマーに基づく単位を含んでいてもよい。
PTFEとしては、低分子量PTFE、変性PTFEが挙げられる。
PAVEは、CF=CFOCF、CF=CFOCFCF及びCF=CFOCFCFCF(以下、「PPVE」とも記す。)が好ましく、PPVEがより好ましい。
【0022】
Fポリマーは、酸素含有極性基を有するのが好ましく、水酸基含有基又はカルボニル基含有基を有するのがより好ましく、カルボニル基含有基を有するのがさらに好ましい。
この場合、本粘着フィルムにおける基材層と粘着剤層との密着性に優れやすい。
水酸基含有基は、アルコール性水酸基を含有する基が好ましく、-CFCHOH及び-C(CFOHがより好ましい。
カルボニル基含有基は、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基、アミド基、イソシアネート基、カルバメート基(-OC(O)NH)、酸無水物残基(-C(O)OC(O)-)、イミド残基(-C(O)NHC(O)-等)及びカーボネート基(-OC(O)O-)が好ましく、酸無水物残基がより好ましい。
Fポリマーが酸素含有極性基を有する場合、Fポリマーにおける酸素含有極性基の数は、主鎖の炭素数1×10個あたり、10~5000個が好ましく、100~3000個がより好ましい。なお、Fポリマーにおける酸素含有極性基の数は、ポリマーの組成又は国際公開第2020/145133号に記載の方法によって定量できる。
【0023】
酸素含有極性基は、Fポリマー中のモノマーに基づく単位に含まれていてもよく、Fポリマーの主鎖の末端基に含まれていてもよく、前者が好ましい。後者の態様としては、重合開始剤、連鎖移動剤等に由来する末端基として酸素含有極性基を有するFポリマー、Fポリマーをプラズマ処理や電離線処理して得られるFポリマーが挙げられる。
【0024】
Fポリマーは、TFE単位及びPAVE単位を含む、カルボニル基含有基を有するポリマーであるのが好ましく、TFE単位、PAVE単位及びカルボニル基含有基を有するモノマーに基づく単位を含み、全単位に対して、これらの単位をこの順に、90~99モル%、0.99~9.97モル%、0.01~3モル%含むポリマーであるのがさらに好ましい。かかるFポリマーの具体例としては、国際公開第2018/16644号に記載されるポリマーが挙げられる。
カルボニル基含有基を有するモノマーは、無水イタコン酸、無水シトラコン酸及び5-ノルボルネン-2,3-ジカルボン酸無水物(以下、「NAH」とも記す。)が好ましく、NAHがより好ましい。
【0025】
基材層におけるFポリマーの含有量は、80質量%以上が好ましく、90質量%以上がより好ましい。上記含有量は100質量%であってもよく、100質量%未満であってもよい。
【0026】
基材層は、Fポリマーに加えて、さらに(メタ)アクリレート系ポリマー、ポリイミド系ポリマー又はポリエステル系ポリマーから選択される他のポリマーを含有していてもよい。
(メタ)アクリレート系ポリマーとしては、粘着剤層の説明において上述した(メタ)アクリレート系ポリマーと同様のポリマーが挙げられる。
ポリイミド系ポリマーとしてはポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂が挙げられる。中でも、芳香族ポリイミド、芳香族ポリアミック酸、芳香族ポリアミドイミド及び芳香族ポリアミドイミドの前駆体からなる群から選ばれる少なくとも1種の芳香族イミドポリマーが好ましい。
ポリエステル系ポリマーとしては、ポリエチレンテレフタレート等の半芳香族ポリエステル、液晶性の芳香族ポリエステル等が挙げられる。
これらの他のポリマーは、1種又は2種以上を含有していてもよい。基材層がこれらの他のポリマーをさらに含有する場合、粘着剤層と基材層との親和性が高まり、層間の接着力が向上しやすい。
他のポリマーをさらに含有する場合、その含有量は、Fポリマーに対し1~20質量%が好ましい。
【0027】
本粘着フィルムにおいては、基材層の一方の表面が表面処理され、該表面処理された面上に前記粘着剤層が形成されていてもよい。表面処理の方法としては、コロナ放電処理、プラズマ処理、UVオゾン処理、エキシマ処理、ケミカルエッチング、シランカップリング処理等が挙げられる。かかる表面処理により、基材層の粘着剤層と接する側の表面には酸素含有極性基が導入され、密着性が増大し、基材層と粘着剤層との接着強度を向上できる。
本粘着フィルムは、基材層と粘着剤層との間にプライマー層を有していてもよい。プライマー層は、シランカップリング剤等を基材の表面に塗布して形成できる。
【0028】
本粘着フィルムにおける基材層は、Fポリマーを含む樹脂フィルムから形成されるのが好ましい。
また、基材層は、Fポリマーの平均粒子径が10μm未満の粒子(以下、「F粒子」とも記す。)の溶融焼結体であることが好ましい。具体的には、F粒子と分散媒とを含む液状組成物(以下、「本液状組成物」とも記す。)をベースフィルムの表面に塗布し、加熱して溶融焼結体を形成する方法により、本粘着フィルムの基材層を製造できる。
【0029】
F粒子は、平均粒子径(D50)が0.3μm以上10μm未満であるのが好ましい。
F粒子のD50は、0.5μm以上が好ましく、1.0μm以上がより好ましい。F粒子のD50は、10μm未満が好ましく、8μm以下がより好ましい。この場合、本液状組成物が分散性と加工性に優れやすく、表面外観に優れやすい。
F粒子は、Fポリマーを含む粒子であり、Fポリマーからなるのが好ましい。
F粒子は、1種を用いてもよく、2種以上を用いてもよい。
【0030】
本液状組成物が含む分散媒は、水、アミド、ケトン及びエステルからなる群から選ばれる少なくとも1種であるのが好ましい。
アミドとしては、N-メチル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルプロパンアミド、3-メトキシ-N,N-ジメチルプロパンアミド、3-ブトキシ-N,N-ジメチルプロパンアミド、N,N-ジエチルホルムアミド、ヘキサメチルホスホリックトリアミド、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノンが挙げられる。
ケトンとしては、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソプロピルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルn-ペンチルケトン、メチルイソペンチルケトン、2-へプタノン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、シクロヘプタノンが挙げられる。
エステルとしては、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、乳酸メチル、乳酸エチル、ピルビン酸メチル、ピルビン酸エチル、メトキシプロピオン酸メチル、エトキシプロピオン酸エチル、3-エトキシプロピオン酸エチル、γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトンが挙げられる。
【0031】
本液状組成物は、さらに界面活性剤を含んでいてもよい。界面活性剤としてはノニオン性界面活性剤が好ましい。ノニオン性界面活性剤としては、グリコール系界面活性剤、アセチレン系界面活性剤、シリコーン系界面活性剤又はフッ素系界面活性剤が挙げられる。
【0032】
本液状組成物は、Fポリマーとは異なる、(メタ)アクリレート系ポリマー、ポリイミド系ポリマー又はポリエステル系ポリマーから選択される他のポリマーをさらに含有していてもよい。かかる他のポリマーは、本液状組成物に非中空状の粒子として含まれていてもよく、本液状組成物を構成する分散媒に溶解又は分散して含まれていてもよい。かかる他のポリマーを有する液状組成物を用いると、Fポリマー及び他のポリマーを含有する基材層を製造できる。
(メタ)アクリレート系ポリマー、ポリイミド系ポリマー又はポリエステル系ポリマーから選択される他のポリマーの詳細は、基材層が含有していてもよい他のポリマーと同様である。中でも、芳香族イミドポリマーは、本液状組成物中で、分散媒に溶解したワニスとして含まれるのが好ましい。
本液状組成物が他のポリマーをさらに含む場合、F粒子に対する他のポリマーの含有量は、1~20質量%が好ましい。
【0033】
本液状組成物は、さらに、チキソ性付与剤、粘度調節剤、消泡剤、脱水剤、可塑剤、耐候剤、酸化防止剤、熱安定剤、滑剤、帯電防止剤、増白剤、着色剤、導電剤、離型剤、難燃剤等の添加剤を含有してもよい。
【0034】
本液状組成物におけるF粒子の含有量は、25質量%以上であるのが好ましく、30質量%以上であるのがより好ましい。F粒子の含有量は、75質量%以下であるのが好ましく、60質量%以下であるのがより好ましい。
本液状組成物の粘度は、10mPa・s以上が好ましく、100mPa・s以上がより好ましい。本液状組成物の粘度は、10000mPa・s以下が好ましく、3000mPa・s以下がより好ましい。この場合、本液状組成物は塗工性に優れ、任意の厚さを有する基材層を形成しやすい。また、かかる範囲の粘度範囲にある本液状組成物は、それから形成される基材層において、Fポリマーの物性が高度に発現しやすい。
【0035】
本液状組成物を例えばシート状に押出す等の成形方法に供すれば、Fポリマーを含む、シート等の成形物を形成できる。押出して得たシートは、さらにプレス成形、カレンダー成形等をして流延してもよい。シートは、さらに加熱して分散媒を除去し、Fポリマーを焼成するのが好ましい。
【0036】
また、本液状組成物をベースフィルムの表面に塗工し加熱して、Fポリマーを含むポリマー層、すなわち基材層を形成すれば、ベースフィルムと基材層をこの順で有する積層体が得られる。ベースフィルムとしては、ポリイミド、ポリアミド、ポリエーテルアミド、ポリフェニレンスルフィド、ポリアリルエーテルケトン、ポリアミドイミド、液晶性ポリエステル、テトラフルオロエチレン系ポリマー等の耐熱性樹脂のフィルムが挙げられる。
基材層は、本液状組成物をベースフィルムの表面に塗工し、加熱して分散媒を除去し、さらに加熱してFポリマーを焼成して形成するのが好ましい。得られた積層体から基材層を分離すれば、F粒子の溶融焼結体であるFポリマーを含む基材層を得られる。
【0037】
本液状組成物の塗工の方法としては、塗布法、液滴吐出法、浸漬法が挙げられ、ロールコート法、ナイフコート法、バーコート法、ダイコート法又はスプレー法が好ましい。
分散媒の除去に際する加熱は、100~200℃にて、0.1~30分間で行うのが好ましい。この際の加熱において分散媒は、完全に除去する必要はなく、F粒子のパッキングにより形成される層が自立膜を維持できる程度まで除去すればよい。また、加熱に際しては、空気を吹き付け、風乾によって分散媒の除去を促してもよい。
【0038】
Fポリマーの焼成に際する加熱は、Fポリマーの融点以上の温度にて行うのが好ましく、具体的には340~400℃にて、0.1~30分間行うのがより好ましい。
それぞれの加熱における加熱装置としては、オーブン、通風乾燥炉が挙げられる。装置における熱源は、接触式の熱源(熱風、熱板等)であってもよく、非接触式の熱源(赤外線等)であってもよい。
それぞれの加熱は、常圧下で行ってもよく、減圧下で行ってもよい。
また、それぞれの加熱における雰囲気は、空気雰囲気、不活性ガス(ヘリウムガス、ネオンガス、アルゴンガス、窒素ガス等)雰囲気のいずれであってもよい。
【0039】
本粘着フィルムの基材層の厚さは、20μm以上200μm以下であるのが好ましい。基材層の厚さは、25μm以上がより好ましく、50μm以上がさらに好ましい。基材層の厚さは、110μm以下がより好ましく、90μm以下がさらに好ましい。この場合、上述した作用効果がより奏され、基材層と粘着剤層との密着性がより向上しやすい。
また、基材の曲げに対抗する力を適切な範囲に制御しやすく、例えば半導体製造工程におけるピックアップ性を確保しやすい。
粘着剤層の厚さは、粘着剤層の極性溶媒への耐性、被着体及び基材層への密着性を確保する観点から、8~30μmの範囲が好ましく、8~25μmがより好ましい。
【0040】
基材層と粘着剤層の粘着力は、剥離強度として、5N/cm以上が好ましく、10N/cm以上がより好ましい。剥離強度の上限は、100N/cmである。この場合、本粘着フィルムを電子部品加工用粘着シートとして好適に使用できる。
また、本粘着フィルムにおいては、粘着剤層の、シリコンミラーウエハを被着体とした粘着力が、基材層に対する粘着力よりも低いのが好ましい。
具体的には、粘着剤層のシリコンミラーウエハを被着体とした粘着力は、剥離強度として、0.1~2N/cmがより好ましい。シリコンミラーウエハを被着体とした粘着力が前記範囲にあると、粘着剤層と被着体表面との界面の密着性が高くなり、極性溶媒への耐性がより高い電子部品加工用粘着シートとして、本粘着フィルムを有効に使用できる。
【0041】
本粘着フィルムは、その使用前に粘着剤層を保護する観点で、粘着剤層の表面に剥離シートがさらに積層されていてもよい。剥離シートとしては、例えばポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン、ポリエチレン等の樹脂からなるフィルム又はそれらの発泡フィルム;シリコーン系、フッ素系、長鎖アルキル基含有カルバメート等の剥離剤がコーティングされたグラシン紙、コート紙、ラミネート紙等の紙が挙げられる。
また、基材層の、粘着剤層を有する面と反対の面には、各種の塗膜を塗工してもよく、極性溶媒への耐性が高い他のフィルムを積層してもよい。
【0042】
本粘着フィルムは、上述した粘着剤組成物を必要に応じ溶媒で希釈して、基材層の一方の表面に、所定の乾燥膜厚になるように塗布、乾燥して粘着剤層を形成して製造できる。また、上述した粘着剤組成物を必要に応じ溶媒で希釈して、剥離シート上に所定の乾燥膜厚になるように塗布、乾燥して粘着剤層を形成し、基材層の表面に転写してもよい。
【0043】
本粘着フィルムは、50℃から100℃の温度領域における、極性溶媒に対する膨潤量が1質量%未満である。かかる膨潤量は、0.1質量%以下であるのが好ましい。また、かかる膨潤量の下限は0質量%である。
ここで、極性溶媒としては、酢酸エチル、アセトン、メチルエチルケトン又はN-メチルピロリドンが挙げられる。これらの極性溶媒に対する膨潤量が前記した範囲であると、基材層及び粘着剤層の変形が少ないため、基材層と粘着剤層の剥離が抑制される。また、粘着性が維持されやすく、半導体ウエハや半導体チップなどの被着体が脱落し難くなる。
【0044】
本粘着フィルムは、電子部品加工用粘着シートとして、本粘着フィルム上に半導体ウエハ(以下、単に「ウエハ」とも記す。)又は半導体チップ(以下、単に「チップ」とも記す。)を保持した状態で、本粘着フィルムと前記ウエハ又は前記チップとの積層物を極性溶媒に接触させる工程を含む、半導体装置の製造方法に有効に使用できる。
電子部品加工用シートとしては、ウエハを個片化する際にウエハ及び生成するチップを保持するために用いられるダイシングシート、また、個片化されたチップ群が転写され、その後にチップをピックアップするために用いられるピックアップシートが挙げられる。
【0045】
本粘着フィルムは特に、本粘着フィルム上に保持された半導体ウエハ又は半導体チップ(被着体)が極性溶媒と接触する工程を含む半導体装置製造プロセスに好ましく適用される。この接触工程は、具体的には、被着体上に残着した接着剤等を除去する洗浄工程を意味する。
詳細には、本粘着フィルムであるダイシングシート上にウエハを転着し回路毎に切断してチップ化した後、ダイシングシートからチップがピックアップされる。ウエハをダイシングシートに転着する際に、ダイシングシートとウエハの積層物を極性溶媒と接触させる。すなわち、本粘着フィルム上にウエハを保持した状態で、極性溶媒により洗浄する工程を含む。
また、ガラス等の硬質支持体上にウエハを保持し、裏面研削や加工工程を経てウエハを個片化してチップとし、本粘着フィルムであるピックアップシートに転写してチップのピックアップを行う。この際も、ピックアップシートとチップとの積層物を極性溶媒と接触させる、すなわち本粘着フィルム上にチップを保持した状態で、極性溶媒により洗浄する工程を含む。
これらの工程を含む半導体装置製造プロセスに、本粘着フィルムは好ましく使用できる。洗浄に用いる極性溶媒としては、酢酸エチル、アセトン、メチルエチルケトン、N-メチルピロリドン等が挙げられる。中でもメチルエチルケトン、N-メチルピロリドンを用いるのが好ましい。
チップはダイシングシートやピックアップシートから剥離された後、常法によって回路基板等に組み込まれ、樹脂封止等を経て半導体装置が得られる。
【0046】
本粘着フィルムは、電子部品加工用粘着シートとして、表面に円柱型電極、球状電極等の突起状電極を有する半導体ウエハ又は半導体チップ、また、いわゆる貫通電極(TSV)を有する半導体ウエハ又は半導体チップを保持し、極性溶媒により洗浄する工程を含む半導体装置の製造方法に好ましく用いられる。
【0047】
以上、本粘着フィルム及び半導体装置の製造方法について説明したが、本発明は、前述した実施形態の構成に限定されない。例えば、本粘着フィルム及び半導体装置の製造方法は、上記実施形態の構成において、他の任意の構成を追加で有してもよいし、同様の作用を生じる任意の構成と置換されていてよい。
【実施例0048】
以下、実施例によって本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されない。粘着フィルムの基材としたフィルムと、粘着剤層に含まれる(メタ)アクリレート系ポリマーとの詳細を以下に示す。
基材1:TFE単位、NAH単位及びPPVE単位を、この順に97.9モル%、0.1モル%、2.0モル%含み、カルボニル基含有基を主鎖炭素数1×10個あたり1000個有するテトラフルオロエチレン系ポリマー(融点:300℃、50℃における貯蔵弾性率:500MPa、50℃~100℃における貯蔵弾性率の減少率:60%)を含む、厚さ25μmのフィルム
基材2:TFE単位、及びエチレン単位を、この順に45モル%、55モル%含むテトラフルオロエチレン系ポリマー(50℃における貯蔵弾性率:710MPa、50℃~100℃における貯蔵弾性率の減少率:22%)を含む、厚さ25μmのフィルム
基材3:TFE単位及びフッ化ビニリデンに基づく単位を含むテトラフルオロエチレン系ポリマー(50℃における貯蔵弾性率:800MPa、50℃~100℃における貯蔵弾性率の減少率:18%)を含む、厚さ25μmのフィルム
(メタ)アクリレート系ポリマー1:ラウリルアクリレートに基づく単位を80質量%、及び2-ヒドロキシエチルアクリレートに基づく単位を20質量%含む(メタ)アクリレート系ポリマーと、メタクリロイルオキシエチルイソシアネートを反応させて得られた、数平均分子量が60万である紫外線硬化性ポリマー
【0049】
[例1~3]
剥離フィルム(リンテック社製「SP-PET3811」)に、(メタ)アクリレート系ポリマー1を含む液状の粘着剤組成物を塗布し、100℃で1分間乾燥して、厚さ10μmの粘着剤層を得た。次いで、粘着剤層と基材1とを貼り合わせ、剥離フィルムを除去して粘着フィルム1をそれぞれ得た。さらに基材1を基材2及び基材3にそれぞれ変更する以外は同様にして、粘着フィルム2及び粘着フィルム3を得た。
それぞれの粘着フィルムをシリコンミラーウエハのミラー面に貼付し、さらに紫外線を照射して固定した後に、75℃としたN-メチルピロリドンに15分間浸漬した。
次に、シリコンウェハから粘着フィルムの剥離を引張速度300mm/分、180°の剥離条件にて試みた結果、粘着フィルム1及び粘着フィルム2ではシリコンミラーウエハに粘着剤層が残存することなく剥離できたが、粘着フィルム3ではできなかった。また、極性溶媒をN-メチルピロリドンとした場合における、粘着フィルム1及び粘着フィルム2の膨潤量は、それぞれ1質量%未満であった。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明の粘着フィルムは極性溶媒への耐性を有し、粘着性、及び基材層と粘着剤層との密着性に優れる。したがって、例えば電子部品加工用の粘着シートとして、半導体装置の製造に好適に使用できる。また、本発明の粘着フィルムは、半導体の樹脂封止工程において使用される離型フィルム、リフロー工程において使用される部品保護テープ、高温塗装において使用されるマスキングテープ、スパッタ工程において使用されるマスキングテープ、蒸着工程において使用されるマスキングテープ、電気絶縁用フィルムとしても使用できる。