(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024143539
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】サツマイモ種植物の品種の判別方法、品種特異的なDNAマーカー、および判別用キット
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/6895 20180101AFI20241003BHJP
C12Q 1/6844 20180101ALN20241003BHJP
【FI】
C12Q1/6895 Z ZNA
C12Q1/6844 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023056269
(22)【出願日】2023-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】501203344
【氏名又は名称】国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】田中 勝
(72)【発明者】
【氏名】小林 晃
(72)【発明者】
【氏名】川田 ゆかり
【テーマコード(参考)】
4B063
【Fターム(参考)】
4B063QA18
4B063QQ04
4B063QQ09
4B063QQ42
4B063QQ52
4B063QR08
4B063QR32
4B063QR35
4B063QR62
4B063QS24
(57)【要約】 (修正有)
【課題】新たなサツマイモ種植物の品種判別方法を実現する。
【解決手段】判別方法は下記DNAマーカー、すなわち(a)特定の配列からなる塩基配列における、133番目から166番目の塩基の、TAで示される塩基配列への置換、および(b)特定の配列からなる塩基配列における、132番目の塩基から137番目の塩基の、特定の配列からなる塩基配列への置換、の少なくとも一方を検出することを含む。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
サツマイモ種植物の品種の判別方法であって、
下記(a)で示される第1のDNAマーカー、および下記(b)で示される第2のDNAマーカーの少なくとも一方のDNAマーカーを検出することを含む、判別方法:
(a)配列番号1に示される塩基配列における、133番目から166番目の塩基配列の、TAへの置換、
(b)配列番号2に示される塩基配列における、132番目から137番目の塩基配列の、TTGTGACTTGTGA(配列番号3)への置換。
【請求項2】
前記第1のDNAマーカーの検出は、配列番号4に示される塩基配列の中の連続する20以上の塩基からなり、132番目から137番目の塩基配列またはその相補配列を含むプライマーを用いて、核酸断片を増幅することを含む、請求項1に記載の判別方法。
【請求項3】
前記第1のDNAマーカーの検出は、配列番号4に示される塩基配列の中の連続する20以上の塩基からなる塩基配列またはその相補配列を含むプライマーであって、132番目から137番目の塩基配列および138番目以降の塩基配列部分の1塩基以上12塩基未満、または132番目から137番目の塩基配列および131番目以前の塩基配列部分の1塩基以上12塩基未満の相補配列、を3’末端に含むプライマーを用いて、核酸断片を増幅することを含む、請求項1に記載の判別方法。
【請求項4】
前記第2のDNAマーカーの検出は、配列番号5に示される塩基配列の中の連続する20以上の塩基からなり、132番目から144番目の塩基配列を8塩基以上含む塩基配列またはその相補配列を含むプライマーを用いて、核酸断片を増幅することを含む、請求項1に記載の判別方法。
【請求項5】
前記第2のDNAマーカーの検出は、配列番号5に示される塩基配列の中の連続する20以上の塩基からなる塩基配列またはその相補配列を含むプライマーであって、132番目から144番目の塩基配列の8塩基以上またはその相補配列を3’末端に含むプライマーを用いて、核酸断片を増幅することを含む、請求項1に記載の判別方法。
【請求項6】
前記第1のDNAマーカーの検出は、配列番号6に示される塩基配列からなるプライマー、および配列番号7に示される塩基配列からなるプライマーの組を用いて、核酸断片を増幅することを含む、請求項1に記載の判別方法。
【請求項7】
前記第2のDNAマーカーの検出は、配列番号8に示される塩基配列からなるプライマー、および配列番号9に示される塩基配列からなるプライマーの組を用いて、核酸断片を増幅することを含む、請求項1に記載の判別方法。
【請求項8】
品種べにはるかに由来するDNAマーカーを検出することをさらに含む、請求項1に記載の判別方法。
【請求項9】
加工食品から、該加工食品に含まれる原料植物のDNAを抽出することを含み、
抽出したDNAを用いて前記DNAマーカーを検出することを含む、請求項1~6の何れか1項に記載の判別方法。
【請求項10】
サツマイモ種植物における、品種特異的なDNAマーカーであって、
下記(a)または(b)を含む連続したポリヌクレオチド;
(a)配列番号1に示される塩基配列における、133番目から166番目の塩基配列の、TAへの置換;
(b)配列番号2に示される塩基配列における、132番目から137番目の塩基配列の、TTGTGACTTGTGA(配列番号3)への置換;
である、DNAマーカー。
【請求項11】
下記(a)で示される第1のDNAマーカー、または下記(b)で示される第2のDNAマーカーを検出するプライマーの組;
(a)配列番号1に示される塩基配列における、133番目から166番目の塩基配列の、TAへの置換;
(b)配列番号2に示される塩基配列における、132番目から137番目の塩基配列の、TTGTGACTTGTGA(配列番号3)への置換;
を含む、サツマイモ種植物の品種の判別に用いられる判別用キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はサツマイモ種植物の品種の判別方法、品種特異的なDNAマーカー、および判別用キットに関する。
【背景技術】
【0002】
植物種の優良品種が無断で国外に流出し、またその生産物および加工品が違法に国内に逆輸入される例が近年頻発している。特にサツマイモ種植物は栄養繁殖植物であり、その生産物である塊根を基に苗を作製して増殖させることが容易であるため、品種の海外流出が起こりやすい。用途が同じサツマイモ品種は塊根の外観が類似しているため、目視による品種の識別は困難である。また輸入される場合は加工品として輸入されることが多く、当該加工品の外観から特定品種の使用の有無は容易に判断できない。これらのことから、遺伝情報に基づいた品種の識別に関する技術の開発が進められている。
【0003】
植物品種の識別方法の例として、例えば非特許文献1には、増幅断片制限断片長多型(Cleaved Amplified Polymorphic Sequence;CAPS)を利用したDNA多型分析が報告されている。また非特許文献2には、べにはるかとサツマイモの主要品種との判別に利用可能なDNAマーカーとして、レトロトランスポゾンRtsp-1の挿入多型由来のマーカーが3種報告されている。また特許文献1では、サツマイモ加工食品からレトロトランスポゾンRtsp-1由来のDNAマーカーを検出することを含む、サツマイモ加工食品に使用されている品種の判別方法が報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】「サツマイモの品種識別に利用可能なDNAマーカー」、国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構 九州沖縄農業研究センター 2006年研究成果情報[online]、インターネット<URL:https://www.naro.go.jp/project/results/laboratory/karc/2006/konarc06-17.html>
【非特許文献2】田中 勝、他5名、「日作九支報」、2015年、81巻、p.43-45,2015
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年、既存の優良品種を親とする後代品種が開発されており、その判別に利用可能な技術が求められている。その例として、例えば非特許文献1に記載のCAPSを応用する方法が挙げられるが、この方法においては多数のマーカーを組み合わせて利用する必要が考えられること、および品種によってCAPSマーカーのシグナルが不明瞭になる可能性があること等の問題がある。また、開発された後代品種が品種べにはるかを親とする場合、例えば非特許文献2に記載の、べにはるかの判別に利用されるレトロトランスポゾン由来のマーカーは利用できない等の問題がある。
【0007】
本発明は、上記課題に鑑み、新たなサツマイモ種植物の品種判別方法を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、本発明の第一の態様に係る判別方法は、サツマイモ種植物の品種の判別方法であって、下記(a)で示される第1のDNAマーカー、および下記(b)で示される第2のDNAマーカーの少なくとも一方のDNAマーカーを検出することを含む、判別方法である:
(a)配列番号1に示される塩基配列における、133番目から166番目の塩基配列の、TAへの置換、
(b)配列番号2に示される塩基配列における、132番目から137番目の塩基配列の、TTGTGACTTGTGA(配列番号3)への置換。
【0009】
上記第一の態様に係る判別方法では、前記第1のDNAマーカーの検出は、配列番号4に示される塩基配列の中の連続する20以上の塩基からなり、132番目から137番目の塩基配列またはその相補配列を含むプライマーを用いて、核酸断片を増幅することを含むことが好ましい。
【0010】
上記第一の態様に係る判別方法では、前記第1のDNAマーカーの検出は、配列番号4に示される塩基配列の中の連続する20以上の塩基からなる塩基配列またはその相補配列を含むプライマーであって、132番目から137番目の塩基配列および138番目以降の塩基配列部分の1塩基以上12塩基未満、または132番目から137番目の塩基配列および131番目以前の塩基配列部分の1塩基以上12塩基未満の相補配列、を3’末端に含むプライマーを用いて、核酸断片を増幅することを含むことが好ましい。
【0011】
上記第一の態様に係る判別方法では、前記第2のDNAマーカーの検出は、配列番号5に示される塩基配列の中の連続する20以上の塩基からなり、132番目から144番目の塩基配列を8塩基以上含む塩基配列またはその相補配列を含むプライマーを用いて、核酸断片を増幅することを含むことが好ましい。
【0012】
上記第一の態様に係る判別方法では、前記第2のDNAマーカーの検出は、配列番号5に示される塩基配列の中の連続する20以上の塩基からなる塩基配列またはその相補配列を含むプライマーであって、132番目から144番目の塩基配列の8塩基以上またはその相補配列を3’末端に含むプライマーを用いて、核酸断片を増幅することを含むことが好ましい。
【0013】
上記第一の態様に係る判別方法では、前記第1のDNAマーカーの検出は、配列番号6に示される塩基配列からなるプライマー、および配列番号7に示される塩基配列からなるプライマーの組を用いて、核酸断片を増幅することを含むことが好ましい。
【0014】
上記第一の態様に係る判別方法では、前記第2のDNAマーカーの検出は、配列番号8に示される塩基配列からなるプライマー、および配列番号9に示される塩基配列からなるプライマーの組を用いて、核酸断片を増幅することを含むことが好ましい。
【0015】
上記第一の態様に係る判別方法では、品種べにはるかに由来するDNAマーカーを検出することをさらに含むことが好ましい。
【0016】
上記第一の態様に係る判別方法では、加工食品から、該加工食品に含まれる原料植物のDNAを抽出することを含み、抽出したDNAを用いて前記DNAマーカーを検出することを含むことが好ましい。
【0017】
上記の課題を解決するために、本発明の第二の態様に係るDNAマーカーは、サツマイモ種植物における、品種特異的なDNAマーカーであって、下記(a)または(b)を含む連続したポリヌクレオチドである;
(a)配列番号1に示される塩基配列における、133番目から166番目の塩基配列の、TAへの置換;
(b)配列番号2に示される塩基配列における、132番目から137番目の塩基配列の、TTGTGACTTGTGA(配列番号3)への置換。
【0018】
上記の課題を解決するために、本発明の第三の態様に係る判別用キットは、下記(a)で示される第1のDNAマーカー、または下記(b)で示される第2のDNAマーカーを検出するプライマーの組を含む、サツマイモ種植物の品種の判別に用いられる判別用キットである;
(a)配列番号1に示される塩基配列における、133番目から166番目の塩基配列の、TAへの置換;
(b)配列番号2に示される塩基配列における、132番目から137番目の塩基配列の、TTGTGACTTGTGA(配列番号3)への置換。
【発明の効果】
【0019】
本発明の一態様によれば、新たなサツマイモ種植物の品種判別方法を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の実施例に係る、第1のDNAマーカーを検出した図である。
【
図2】本発明の実施例に係る、第2のDNAマーカーを検出した図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を詳細に説明する。なお、本明細書中に記載された文献の全てが、本明細書中において参考として援用される。
【0022】
本明細書中で使用される場合、用語「ポリヌクレオチド」は、「核酸」又は「核酸分子」と交換可能に使用され、ヌクレオチドの重合体が意図される。本明細書において使用される場合、塩基の表記は、適宜IUPAC及びIUBの定める1文字表記を使用する。
【0023】
本発明の一態様において、サツマイモ種植物とは、サツマイモ(Ipomoea batatas)を指す。
【0024】
本発明の一態様に係るDNAマーカーの検出方法としては、当該マーカーのDNA配列をPCR等の核酸増幅技術によって増幅後に、(i)市販のシーケンサー等を利用して、DNA塩基配列を直接解読する方法、または(ii)挿入または欠失を含む産物と含まない産物を、電気泳動の移動度の差から識別する方法、等が好ましい方法として挙げられるが、これに限定されない。
【0025】
本実施形態に係るサツマイモ品種の判別方法の一態様として、植物体としてのサツマイモまたは加工食品に含まれる原料植物としてのサツマイモの品種を判別する方法であり得る。本実施形態における判別方法では、品種特異的なDNAマーカーの検出を行うことにより、当該サツマイモ品種であるか否かを精度よく判別する。
【0026】
(DNAマーカー)
本実施形態におけるサツマイモ品種の判別方法では、第1のDNAマーカーおよび第2のDNAマーカーの少なくとも一方を検出することを含む。
【0027】
ここで、第1のDNAマーカーおよび第2のDNAマーカーは、本発明者らが作出した「九系09178-1」と名付けた系統、およびその育種後代系統にのみ検出されるDNAマーカーである。なお、「九系09178-1」は市場に流通していない非公開の系統である。より具体的には、第1のDNAマーカーおよび第2のDNAマーカーは、「九系09178-1」系統の作出に使用した2つの親系統のいずれにも検出されないDNAマーカーであり、「九系09178-1」作出時に、「九系09178-1」のゲノムの塩基配列に新たに生じたと推定される変異に基づくDNAマーカーである。
【0028】
本実施形態において、第1のDNAマーカーおよび第2のDNAマーカーは、具体的にはそれぞれ以下の(a)および(b)を含む連続したポリヌクレオチドである:
(a)配列番号1に示される塩基配列における、133番目から166番目の塩基配列の、TAへの置換、
(b)配列番号2に示される塩基配列における、132番目から137番目の塩基配列の、TTGTGACTTGTGA(配列番号3)への置換。
【0029】
ここで、配列番号1および2に示される塩基配列は、いずれもサツマイモのゲノム上に存在する配列である。なお、(a)で示す置換は、配列番号1に示される塩基配列の、(a-1)133番目から164番目の間の塩基配列の欠失、(a-2)134番目から165番目の間の塩基配列の欠失、または(a-3)135番目から166番目の間の塩基配列の欠失、とも表現され得る。同様に、(b)で示す置換は、配列番号2に示される塩基配列における、131番目と132番目の塩基の間への、TTGTGACで示される塩基配列の挿入、とも表現され得る。
【0030】
本発明者らは、先述した系統「九系09178-1」、および「九系09178-1」と品種べにはるかとをかけ合わせて作出した育種後代系統である「九州201号」と名付けた系統について全ゲノム情報を取得するとともに、品種べにはるか、および「九系09178-1」の2つの親系統の全ゲノム情報を取得した。そして、これら合計5つの品種および系統の全ゲノム配列を比較することで、「九系09178-1」で新たに生じ、「九州201号」に遺伝したと考えられる挿入欠失変異候補を抽出した。次いで、他のサツマイモ種植物の主要な流通品種を含む品種および系統も含めて、PCRによりその特異性を確認した。その結果、調査したサツマイモ種植物の主要な流通品種を含む品種および系統の中で、「九系09178-1」およびその育種後代系統である「九州201号」にのみ、上記(a)および(b)の変異が検出されることが確認された。また、ゲノム中の同一箇所に独立に同じ変異が生じることは極めて考えにくいため、同結果から、上記(a)および(b)の変異は、他の品種および系統には存在しない変異であるとの結論を導くにいたった。すなわち(a)および(b)を指標としたDNAマーカーは、市場に流通する主要なサツマイモ品種には存在しない変異に基づくものであり、品種特異的なDNAマーカーである。発明者らのこれまでの研究の結果、「九州201号」は、サツマイモ基腐病に抵抗性を有する有望系統であり、今後品種として流通することが見込まれる。また、「九系09178-1」の別の育種後代系統が品種として流通する可能性も考えられる。当該DNAマーカーのいずれかの検出は、「九州201号」を含む「九系09178-1」の育種後代系統の判別の根拠として非常に有用であり、また「九系09178-1」の別の育種後代系統が品種として流通していない場合においては、当該DNAマーカーのいずれかの検出のみによって、「九州201号」を判別することができる。
【0031】
〔DNAマーカーの検出〕
DNAマーカーを検出する方法としては特に限定されるものではなく、公知の方法を適宜選択して用いればよい。中でも、核酸増幅反応を用いることが好ましい。
【0032】
核酸増幅反応を用いる方法の例として、当該DNAマーカーを含む配列を増幅しシーケンス反応を用いて配列を直接解読する方法、当該DNAマーカーを含む配列を増幅し、増幅産物が挿入または欠失を含むか否かを、電気泳動の移動度の差から識別する方法などがある。より好適な方法として、目的とする欠失変異を含む塩基配列に基づいて設計されるプライマー、または目的とする挿入変異を部分的に含む塩基配列に基づいて設計されるプライマーを含むプライマーセットを用いて、検査対象から調製したDNAを鋳型として核酸増幅反応を行い、増幅産物の有無を確認する方法を挙げることができる。
【0033】
また、増幅産物の有無を確認する方法としては、電気泳動による確認、クロマトPAS法による確認、およびリアルタイムPCR等が挙げられる。
【0034】
核酸増幅反応は、公知の核酸増幅手段を適宜選択して用いればよく、例えば、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)法、ICAN法、UCAN法、LAMP法、プライマーエクステンション法等を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0035】
DNAマーカーを検出する方法は、増幅反応の手段に依らず、第1のDNAマーカーおよび第2のDNAマーカーのいずれか少なくとも1つの検出を行えばよく、あるいは判別の精度をより高めるため、第1のDNAマーカーおよび第2のDNAマーカー両方の検出を行ってもよい。「九系09178-1」の育種後代で、品種として流通している系統が「九州201号」のみであれば、第1のDNAマーカーおよび第2のDNAマーカーのいずれか少なくとも1つの検出をおこなうことにより、「九州201号」であると判定することができる。
【0036】
また、DNAマーカーを検出する方法は、さらに、品種べにはるかに由来するDNAマーカーを検出することをさらに含んでもよい。この場合においては、例えばPCRによる増幅を行う場合、いわゆるマルチプレックスPCRにより、複数の断片の増幅を同一反応で行い、複数のDNAマーカーを一つの反応で検出するものであってもよい。すなわち、1つのPCR反応液中に、第1のDNAマーカーの検出を行うためのプライマーセットまたは第2のDNAマーカーの検出を行うためのプライマーセットと、品種べにはるかに由来するDNAマーカーの検出を行うためのプライマーセットと、の両方を含ませ、PCRを行ってもよい。
【0037】
第1のDNAマーカーの検出は、配列番号4に示される塩基配列の中の連続する20以上の塩基からなり、132番目から137番目の塩基配列またはその相補配列を含むプライマーを用いて、核酸断片を増幅することを含むことが好ましい。
【0038】
ここで配列番号4に示される塩基配列は、配列番号1に示される塩基配列において、133番目から166番目の塩基配列がTAに置換した塩基配列である。したがって、132番目から137番目の塩基配列は、「九州201号」の有する欠失変異に係る領域である。
【0039】
プライマーの長さは目的の核酸断片を増幅可能であれば上限は特に制限されないが、プライマーダイマーの形成を抑える観点から、例えば、50塩基以下、45塩基以下、40塩基以下、35塩基以下または30塩基以下が好ましい。また、精度よくアニーリングさせるために、20塩基以上、21塩基以上、22塩基以上、23塩基以上または24塩基以上が好ましい。
【0040】
第1のDNAマーカーの検出にあたり、より好適なプライマーとして、配列番号4に示される塩基配列の中の連続する20以上の塩基からなる塩基配列またはその相補配列を含むプライマーであって、132番目から137番目の塩基配列および138番目以降の塩基配列部分の1塩基以上12塩基未満、または132番目から137番目の塩基配列および131番目以前の塩基配列部分の1塩基以上12塩基未満の相補配列を3’末端に含むプライマーが挙げられる。
【0041】
第1のDNAマーカーの検出にあたり、さらに好適なプライマーとして、配列番号6に示される塩基配列からなるプライマー、および配列番号7に示される塩基配列からなるプライマーの組が挙げられる。
【0042】
第2のDNAマーカーの検出は、配列番号5に示される塩基配列の中の連続する20以上の塩基からなり、132番目から144番目の塩基配列を8塩基以上含む塩基配列またはその相補配列を含むプライマーを用いて、核酸断片を増幅することを含む。
【0043】
ここで配列番号5に示される塩基配列は、配列番号2に示される塩基配列において、1132番目から137番目の塩基配列が、TTGTGACTTGTGA(配列番号3)に置換した塩基配列である。したがって、132番目から144番目の塩基配列は、「九州201号」の有する挿入変異に係る領域である。
【0044】
第2のDNAマーカーの検出にあたり、より好適なプライマーとして、配列番号5に示される塩基配列の中の連続する20以上の塩基からなる塩基配列またはその相補配列を含むプライマーであって、132番目から144番目の塩基配列の8塩基以上またはその相補配列を3’末端に含むプライマーが挙げられる。
【0045】
第2のDNAマーカーの検出にあたり、さらに好適なプライマーとして、配列番号8に示される塩基配列からなるプライマー、および配列番号9に示される塩基配列からなるプライマーの組が挙げられる。
【0046】
(判別方法)
本実施形態に係る判別方法は、植物体からDNAを抽出して実施することにより、植物体の品種を判別する方法、または加工食品など、原料としてサツマイモが使用されている加工品からDNAを抽出し、当該加工品に使用されているサツマイモの品種を判別する方法であり得る。
【0047】
加工食品の対象としては、原料植物にサツマイモが含まれるものであって、当該加工食品から原料植物のDNAを抽出可能なものであれば特に限定されるものではない。また、加工食品に含まれる原料植物は、植物体の一部であり得、例えば、塊根、根、葉、茎、花および種子等が挙げられる。また、加工食品とは、原料植物に対して、加熱、乾燥、冷凍等の加工処理を施して製造されたものである。本明細書においては、最終製品のみではなく、中間加工品も含む意味で使用される。また、加工食品は、単一の品種の原料植物を含む加工食品に限定されるものではなく、複数の品種の原料植物を含む加工食品であってもよい。
【0048】
植物体からのDNAの抽出および加工食品からのDNAの抽出は、従来知られた方法により行えばよい。
【0049】
(判別用キット)
本発明の一実施形態に係る判別用キットは、サツマイモ種植物の品種の判別に用いられる判別用キットであり、下記(a)で示される第1のDNAマーカー、または下記(b)で示される第2のDNAマーカーを検出するプライマーの組を含んでいる:
(a)配列番号1に示される塩基配列における、133番目から166番目の塩基配列の、TAへの置換;
(b)配列番号2に示される塩基配列における、132番目から137番目の塩基配列の、TTGTGACTTGTGA(配列番号3)への置換。
【0050】
判別用キットに含まれるプライマーの好適な例は、上述のプライマーの説明に示した例と同じである。
【0051】
各プライマーは常法の核酸合成法に従って合成することができる。
【0052】
各判別用キットは、必要に応じて、PCRに用いる各種試薬、例えば、ポリメラーゼ、PCRバッファーおよび各dNTP等;PCRに供するDNAを含有する試料を調製するための各種試薬、例えば、バッファー等;PCR増幅断片を解析するための各種試薬、例えば、電気泳動ゲル材料等;ならびに判別用キットの使用説明書等の少なくとも1つを備えていてもよい。
【0053】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例0054】
<1.植物材料>
DNAマーカーの開発および検出に用いた品種および系統を表1に示す。DNA抽出用の葉は育苗用のビニールハウスまたは温室内で育成した植物から採取した。また、塊根は農業・食品産業技術総合研究機構九州沖縄農業研究センターの試験圃場で栽培した植物から得られた塊根を用いた。
【表1】
【0055】
<2.DNAマーカーの検出>
サツマイモの未展開葉から、QIAGEN社のDNeasy Plant Mini Kitまたはニッポンジーン社のISOSPIN Plant DNAを用いて、ゲノムDNAを抽出した。または塊根の内部組織からISOSPIN Plant DNAを用いて、ゲノムDNAを抽出した。抽出操作はキットに付属のマニュアルに従って行った。DNA濃度の測定はThermofisher Scientific社のQubit2.0フルオロメーターを用いて行うか、または分光光度計を用いて260nmの吸光度を測定することによって行った。
【0056】
表2に示す組成の反応液を調製し、94℃2分間の変性、94℃15秒間-60℃30秒間-72℃30秒間を30サイクル、72℃5分間の最終伸長反応のサイクリング条件でPCRを行った。反応後は4℃に冷却した。置換部位に特異的なプライマーは、表3に示すプライマーにおいて当該部位に対応する組合せを使用した。すなわち、Chr2_6080579_F(Forward Primer)とChr2_6080579_R(Reverse Primer)とのプライマーセットを用いたPCR、およびChr3_28723476_F(Forward Primer)とChr3_28723476_R(Reverse Primer)とのプライマーセットを用いたPCR、のいずれかまたは両方を実施した。
【表2】
【表3】
【0057】
PCR産物の検出は、マイクロチップ電気泳動装置MultiNA(島津製作所)またはアガロースゲルを用いた電気泳動により行った。
【0058】
結果を
図1および
図2に示す。
図1は、第1のマーカーに関する欠失変異を検出する特異的プライマー(表3中のChr2_6080579_F、およびChr2_6080579_Rの組)を用いて、マイクロチップ電気泳動によりPCR産物を検出した結果を示している。一方、
図2は、第2のマーカーに関する挿入変異を検出する特異的プライマー(表3中のChr3_28723476_F、およびChr3_28723476_R)を用いて、マイクロチップ電気泳動によりPCR産物を検出した結果を示している。図中、星印で示すバンドが、増幅されたマーカー断片である。
【0059】
なお、図示しないが、DNAの品質確認のためのコントロールとして、上記の挿入変異または欠失変異に特異的プライマーに代えて、II型デンプン合成酵素(SS2)遺伝子を増幅させるためのプライマー(表3中のSS2_FおよびSS2_R)を用いたPCRも実施し、マイクロチップ電気泳動によりPCR産物を問題なく検出できることを確認した。